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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-28
(45)【発行日】2025-02-05
(54)【発明の名称】組換えタンパク質及び抗癌治療薬
(51)【国際特許分類】
   C07K 14/42 20060101AFI20250129BHJP
   A61K 38/16 20060101ALI20250129BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20250129BHJP
   C12N 15/29 20060101ALN20250129BHJP
【FI】
C07K14/42 ZNA
A61K38/16
A61P35/00
C12N15/29
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2023212079
(22)【出願日】2023-12-15
【審査請求日】2023-12-15
(73)【特許権者】
【識別番号】391003598
【氏名又は名称】富士化学株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000578
【氏名又は名称】名古屋国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】大野 直樹
(72)【発明者】
【氏名】須永 基男
(72)【発明者】
【氏名】河野 亜紀子
(72)【発明者】
【氏名】井上 高康
(72)【発明者】
【氏名】山本 一夫
【審査官】西 賢二
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/061449(WO,A1)
【文献】特表2023-524151(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2005/0084903(US,A1)
【文献】特開2009-039006(JP,A)
【文献】特開2009-057295(JP,A)
【文献】国際公開第2015/120058(WO,A2)
【文献】Chandran T., Sharma A., Vijayan M.,Structural studies on a non-toxic homologue of type II RIPs from bitter gourd: Molecular basis of non-toxicity, conformational selection and glycan structure,J. Biosci.,40(5),2015年,pp.929-941
【文献】Sur S., Ray R. B.,Emerging Potential of Momordica’s Bioactive Phytochemicals in Cancer Prevention and Therapy,Biomed. Pharmacol. J.,16(4),2023年11月15日,pp.1867-1884
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N15/00-15/90
C07K14/00-14/825
A61K38/00-38/58
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
UniProt/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
レクチン部位と、細胞障害活性部位と、を備え
前記細胞障害活性部位は、以下の(a)又は(b)である組換えタンパク質。
(a)ゴーヤレクチンに含まれるRIP部位の、配列番号9で表されるアミノ酸配列において、111番目のフェニルアラニンをチロシンに置換し、163番目のリシンをアルギニンに置換したアミノ酸配列からなるタンパク質
(b)前記(a)において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、且つ細胞障害活性を有するタンパク質
【請求項2】
請求項1記載の組換えタンパク質を含む抗癌治療薬。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は組換えタンパク質及び抗癌治療薬に関する。
【背景技術】
【0002】
ゴーヤレクチンは、レクチン部位と、RIP(Ribosome inactivating protein)部位とを備える。レクチン部位と、RIP部位とは、ジスルフィド結合により連結されている。レクチン部位は、H抗原結合特性を有し、特定の細胞に結合する。特許文献1に記載されているように、ゴーヤレクチンは様々な用途に用いられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第3849945号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
癌細胞に特有の糖鎖を認識し、癌細胞に結合するレクチン部位と、癌細胞に対する細胞障害活性を有する細胞障害活性部位とを備えるタンパク質は、癌治療に用いることができる。しかしながら、ゴーヤレクチンが備えるRIP部位は細胞障害活性を有さないので、ゴーヤレクチンは、そのままでは、癌治療に用いることができない。
【0005】
本開示の1つの局面では、癌治療に用いることができる組換えタンパク質及び抗癌治療薬を提供することが好ましい。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の1つの局面は、レクチン部位と、細胞障害活性部位と、を備える組換えタンパク質である。本開示の1つの局面である組換えタンパク質は、癌治療に用いることができる。
【0007】
本開示の別の局面は、レクチン部位と、細胞障害活性部位と、を備える組換えタンパク質を含む抗癌治療薬である。本開示の別の局面である抗癌治療薬は、癌治療に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1Aは、ワイルドタイプのゴーヤレクチンの構成を表す説明図である。図1Bは、組換えゴーヤレクチンG72Yの構成を表す説明図である。図1Cは、組換えゴーヤレクチンF111Yの構成を表す説明図である。図1Dは、組換えゴーヤレクチンK163Rの構成を表す説明図である。図1Eは、組換えゴーヤレクチンG72Y/F111Yの構成を表す説明図である。図1Fは、組換えゴーヤレクチンG72Y/K163Rの構成を表す説明図である。図1Gは、組換えゴーヤレクチンF111Y/K163Rの構成を表す説明図である。図1Hは、組換えゴーヤレクチンG72Y/F111Y/K163Rの構成を表す説明図である。
図2図2Aは、ワイルドタイプのゴーヤレクチンについての銀染色の結果を示す写真である。図2Bは、ワイルドタイプのゴーヤレクチンについてのウエスタンブロッティングの結果を示す写真である。
図3図3Aは、各組換えゴーヤレクチン及びワイルドタイプのゴーヤレクチンについての銀染色の結果を示す写真である。図3Bは、各組換えゴーヤレクチン及びワイルドタイプのゴーヤレクチンについてのウエスタンブロッティングの結果を示す写真である。
図4】各組換えゴーヤレクチン及びワイルドタイプのゴーヤレクチンについて、波長吸光度を測定した結果を表すグラフである。
図5】配列番号1~8の塩基配列を表す説明図である。
図6】配列番号9のアミノ酸配列を表す説明図である。
図7】配列番号10のアミノ酸配列を表す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本開示の例示的な実施形態について図面を参照しながら説明する。
1.組換えタンパク質の構成
本開示の組換えタンパク質は、レクチン部位と、細胞障害活性部位と、を備える。 レクチン部位と、細胞障害活性部位とは、例えば、ジスルフィド結合により連結されている。
【0010】
細胞障害活性部位は、例えば、以下の(a)又は(b)である。
(a)ゴーヤレクチンに含まれるRIP部位のアミノ酸配列において、111番目のフェニルアラニンをチロシンに置換し、163番目のリシンをアルギニンに置換したアミノ酸配列からなるタンパク質。
【0011】
(b)前記(a)において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、且つ細胞障害活性を有するタンパク質。
レクチン部位は、例えば、ゴーヤレクチンに含まれるレクチン部位である。レクチン部位は、H抗原を認識し、癌細胞と特異的に結合する。レクチン部位は、例えば、ヒト膵癌細胞株Capan-1(以下ではCapan-1細胞とする)と特異的に結合する。レクチン部位は、例えば、Capan-1細胞の特異的糖鎖に結合する。
【0012】
2.組換えタンパク質が奏する効果
本開示の組換えタンパク質は、レクチン部位を備える。レクチン部位はH抗原を認識し、癌細胞に特異的に結合する。本開示の組換えタンパク質は、細胞障害活性部位を備える。そのため、本開示の組換えタンパク質は、レクチン部位が結合する癌細胞に対し、細胞障害活性を有する。本開示の組換えタンパク質は、レクチン部位が結合しない細胞に対しては、細胞障害活性が低い。
【0013】
レクチン部位が特異的に結合する癌細胞は、例えば、Capan-1細胞である。その場合、本開示の組換えタンパク質は、Capan-1細胞に対し、細胞障害活性を有する。
【0014】
本開示の組換えタンパク質は、例えば、癌治療に用いることができる。本開示の抗癌治療薬は、本開示の組換えタンパク質を含む。本開示の組換えタンパク質は、例えば、膵癌治療に用いることができる。本開示の抗癌治療薬は、例えば、抗膵癌治療薬である。
【0015】
3.実施例
(1)ゴーヤレクチンcDNAの単離
(1a)市販のゴーヤ種子を、水を含ませた不織布の上で発芽させた。次に、発芽した芽を採取した。次に、採取した芽を液体窒素で凍らせた。次に、凍らせた芽を乳鉢ですりつぶした。
【0016】
(1b)前記(1a)ですりつぶした芽から、RNeasy mini kit(Qiagen)を用い、そのプロトコルに従ってRNAを抽出した。
(1c)前記(1b)で抽出したRNAから、RT kit(Takara)を用い、そのプロトコルに従って、cDNAを合成した。合成したcDNAを、配列番号1のフォワードプライマー(Forward primer)と、配列番号2のリバースプライマー(Reverse primer)とを用い、PCR法により増幅した。なお、図5に配列番号1~2の塩基配列を示す。
【0017】
(1d)前記(1c)で増幅したcDNAに対し、アガロースゲル電気泳動を行った。次に、Gel extraction kit(Qiagen)用い、そのプロトコルに従って、50μLの超純水でcDNAを回収した。超純水は、超純水製造装置であるMilliQ(登録商標)により製造されたものであった。次に、回収したcDNAを、制限酵素XhoI及びBamHIで消化した。消化は、37℃の下で15時間行った。次に、cDNAに対し、再度、アガロース電気泳動を行った。次に、Gel extraction kit(Qiagen)用い、そのプロトコルに従って、50μLの超純水でcDNAを回収した。超純水はMilliQにより製造されたものであった。その結果、cDNAを含む産物50μLを得た。
【0018】
(1e)前記(1d)で得られた産物を、pCAG-Hyg vector(富士フイルム和光純薬)のXhoI/BamHIサイトに挿入してライゲーション反応を生じさせた。
(2)大腸菌への形質転換
(2a)10μLの大腸菌DH5α株に、前記(1e)におけるライゲーション反応後の溶液0.5μLを加えた。次に、氷上で20分間静置した。次に、42℃のウォーターバスで90秒間ヒートショックを加えることで、形質転換を行った。
【0019】
(2b)前記(2a)の形質転換の後、大腸菌に200μLのSOB培地を添加した。次に、大腸菌を、37℃にて10分間培養した。次に、大腸菌を含む培地のうちの20μLをLB寒天培地に塗布した。LB寒天培地は、50μg/Lのハイグロマイシン(Hygromycin)を含んでいた。次に、大腸菌を、37℃にて一晩培養した。
【0020】
(3)プラスミド抽出
(3a)50μg/mLのハイグロマイシンを含むLB培地3mLに、前記(2b)で培養した大腸菌のコロニーを植菌した。次に、37℃、300rpmの条件下で、8時間振盪培養を行った。
【0021】
(3b)前記(3a)の振盪培養の後、Fast Gene plasmid mini kit(日本ジェネティクス)を用い、そのプロトコルに従って、大腸菌からプラスミドを抽出した。その結果、50μLのプラスミド溶液を得た。
【0022】
(4)トランスフェクション
(4a)前記(3b)で得たプラスミド溶液のうちの7μLと、247μLのOpti-MEM(Gibco)とを混合し、室温で5分間放置することで第1溶液を調製した。前記(3b)で得たプラスミド溶液のうちの7μLは、約4μgのプラスミドを含んでいた。
【0023】
(4b)10μLのLipofectamine2000Transfection Regent(Thermo Fisher)と、240μLのOpti-MEMとを混合し、室温で5分間放置することで、第2溶液を調製した。
(4c)第1溶液と第2溶液とを混合し、室温で15分間静置することで、トランスフェクション混合液を調製した。
【0024】
(4d)D10培地を用い、6ウェルプレート(Iwaki)にて、37℃の下で、HEK293細胞を一晩培養した。次に、6ウェルプレートから、アスピレーターを用いてD10培地を除去した。次に、6ウェルプレートに、新しいD10培地1.5mLと、前記(4c)で調製したトランスフェクション混合液500μLとを加えた。次に、37℃の下で、5%CO存在下にて、HEK293細胞を48時間培養した。
【0025】
(4e)HEK293細胞にトリプシン(tryprin)-エチレンジアミン四酢酸(EDTA)溶液を加えて5分間処理した。次に、ピペッティングにより、6ウェルプレートからHEK293細胞を剥がした。次に、HEK293細胞を含む細胞懸濁液を回収した。
【0026】
(4f)前記(4e)で回収した細胞懸濁液を、4℃、1000rpmの条件で5分間遠心した。次に、上清を捨てた。次に、HEK293細胞のペレットを、50μg/mLのハイグロマイシンを含むD10培地10mLに懸濁した。その結果、懸濁液が得られた。
【0027】
(4g)前記(4f)で得られた懸濁液を、10cmディッシュに播種した。次に、懸濁液に含まれていたHEK293細胞を、37℃の下で2週間培養した。培養において、継代は2回であった。
【0028】
(4h)前記(4g)の培養後、HEK293細胞を15cmディッシュ3枚に播種した。次に、播種したHEK293細胞について、1週間拡大培養を行った。次に、4℃、1300rpmの条件で5分間遠心する工程と、培養上清を回収する工程とを交互に繰り返し、培養上清300mLを回収した。
【0029】
(5)ワイルドタイプのゴーヤレクチンwild-typeの回収
(5a)前記(4h)で回収した培養上清のうち100mLを、カラムに一晩吸着させた。カラムには、10mMのリン酸緩衝液(PBS)で平衡化した5mLのラクトース(Lactose)-セファロース(Sepharose)4Bが充填されていた。10mMのPBSのpHは7.4であった。10mMのPBSは0.15MのNaClを含んでいた。次に、カラムを、50mLのPBSで8時間かけて洗浄した。
【0030】
(5b)前記(5a)におけるカラムの洗浄後、0.5Mのラクトース(Lactose)-PBSをカラムに注入し、素早く溶出を行った。このとき、1mLずつ溶出液を回収した。その結果、10の溶出画分を得た。10の溶出画分の総量は10mLであった。10の溶出画分のそれぞれに、1~10の画分番号を付した。画分番号は、溶出する順番が早いほど小さい。例えば、最初に溶出した溶出画分の画分番号は1であり、2番目に溶出した溶出画分の画分番号は2である。
【0031】
溶出液には、ワイルドタイプのゴーヤレクチンwild-typeが含まれる。図1Aに示すように、ワイルドタイプのゴーヤレクチンwild-typeは、RIP部位3Aと、レクチン部位5とを備える。RIP部位3Aと、レクチン部位5とは、ジスルフィド結合7により連結されている。RIP部位3Aは、シグナルシークエンス9と、PAタグ11とを含む。RIP部位3Aのアミノ酸配列は、配列番号9及び図6に示すとおりである。
【0032】
(6)組換えゴーヤレクチンG72Yの作製
(6a)ワイルドタイプのゴーヤレクチンwild-typeにおいて、RIP部位3Aでの72番目のグリシンをチロシンに置換した組換えゴーヤレクチンを、組換えゴーヤレクチンG72Yとする。組換えゴーヤレクチンG72Yを、部位特異的変異導入法により、以下のように作製した。
【0033】
前記(3)で抽出したプラスミドを鋳型とし、配列番号3のフォワードプライマー(Forward primer)と、配列番号4のリバースプライマー(Reverse primer)とを用いて、インバースPCR法を行った。なお、図5に配列番号3~4の塩基配列を示す。
【0034】
(6b)前記(6a)で得られたPCR反応液25μLにDpnII(9U/μL)1μLを添加した。次に、37℃の下で、2時間制限酵素処理を行った。
(6c)前記(6b)の処理後の産物2μLを用い、16℃の下で、1時間セルフライゲーションを行った。
【0035】
(6d)前記(6c)の処理後の産物を、前記(2)と同様の方法にて、大腸菌DH5α株に形質転換した。次に、50μg/mLのハイグロマイシン(Hygromicine)添加LB培地にて、大腸菌を一晩培養した。
【0036】
(6e)前記(6d)の培養後、培養コロニーから、前記(3)と同様の方法でプラスミドを抽出した。次に、抽出したプラスミドに対しシーケンス解析を行うことで、変異導入を確認した。次に、前記(4)~(5)と同様の方法で、組換えゴーヤレクチンG72Yを回収した。
【0037】
図1Bに示すように、組換えゴーヤレクチンG72Yは、RIP部位3Bと、レクチン部位5とを備える。RIP部位3Bと、レクチン部位5とは、ジスルフィド結合7により連結されている。RIP部位3Bは、シグナルシークエンス9と、PAタグ11とを含む。RIP部位3Bは、RIP部位3Aと比べたとき、72番目のグリシンがチロシンに置換されている。
【0038】
(7)組換えゴーヤレクチンF111Yの作製
ワイルドタイプのゴーヤレクチンwild-typeにおいて、RIP部位3Aでの111番目のフェニルアラニンをチロシンに置換した組換えゴーヤレクチンを、組換えゴーヤレクチンF111Yとした。
【0039】
組換えゴーヤレクチンF111Yは、基本的には、組換えゴーヤレクチンG72Yと同様の方法で作製することができた。ただし、インバースPCR法を行うとき、配列番号5のフォワードプライマー(Forward primer)と、配列番号6のリバースプライマー(Reverse primer)とを用いた。なお、図5に配列番号5~6の塩基配列を示す。
【0040】
図1Cに示すように、組換えゴーヤレクチンF111Yは、RIP部位3Cと、レクチン部位5とを備える。RIP部位3Cと、レクチン部位5とは、ジスルフィド結合7により連結されている。RIP部位3Cは、シグナルシークエンス9と、PAタグ11とを含む。RIP部位3Cは、RIP部位3Aと比べたとき、111番目のフェニルアラニンがチロシンに置換されている。
【0041】
(8)組換えゴーヤレクチンK163Rの作製
ワイルドタイプのゴーヤレクチンwild-typeにおいて、RIP部位3Aでの163番目のリシンをアルギニンに置換した組換えゴーヤレクチンを、組換えゴーヤレクチンK163Rとした。
【0042】
組換えゴーヤレクチンK163Rは、基本的には、組換えゴーヤレクチンG72Yと同様の方法で作製することができた。ただし、インバースPCR法を行うとき、配列番号7のフォワードプライマー(Forward primer)と、配列番号8のリバースプライマー(Reverse primer)とを用いた。
【0043】
図1Dに示すように、組換えゴーヤレクチンK163Rは、RIP部位3Dと、レクチン部位5とを備える。RIP部位3Dと、レクチン部位5とは、ジスルフィド結合7により連結されている。RIP部位3Dは、シグナルシークエンス9と、PAタグ11とを含む。RIP部位3Dは、RIP部位3Aと比べたとき、163番目のリシンがアルギニンに置換されている。
【0044】
(9)組換えゴーヤレクチンG72Y/F111Yの作製
ワイルドタイプのゴーヤレクチンwild-typeにおいて、RIP部位3Aでの72番目のグリシンをチロシンに置換し、111番目のフェニルアラニンをチロシンに置換した組換えゴーヤレクチンを、組換えゴーヤレクチンG72Y/F111Yとした。
【0045】
組換えゴーヤレクチンG72Y/F111Yは、基本的には、組換えゴーヤレクチンG72Yと同様の方法で作製することができた。ただし、インバースPCR法を行うとき、組換えゴーヤレクチンG72Yの作製で使用したプラスミドを鋳型とした。また、インバースPCR法を行うとき、配列番号5のフォワードプライマー(Forward primer)と、配列番号6のリバースプライマー(Reverse primer)とを用いた。
【0046】
図1Eに示すように、組換えゴーヤレクチンG72Y/F111Yは、RIP部位3Eと、レクチン部位5とを備える。RIP部位3Eと、レクチン部位5とは、ジスルフィド結合7により連結されている。RIP部位3Eは、シグナルシークエンス9と、PAタグ11とを含む。RIP部位3Eは、RIP部位3Aと比べたとき、72番目のグリシンがチロシンに置換され、111番目のフェニルアラニンがチロシンに置換されている。
【0047】
(10)組換えゴーヤレクチンG72Y/K163Rの作製
ワイルドタイプのゴーヤレクチンwild-typeにおいて、RIP部位3Aでの72番目のグリシンをチロシンに置換し、163番目のリシンをアルギニンに置換した組換えゴーヤレクチンを、組換えゴーヤレクチンG72Y/K163Rとした。
【0048】
組換えゴーヤレクチンG72Y/K163Rは、基本的には、組換えゴーヤレクチンG72Yと同様の方法で作製することができた。ただし、インバースPCR法を行うとき、組換えゴーヤレクチンG72Yの作製で使用したプラスミドを鋳型とした。また、インバースPCR法を行うとき、配列番号7のフォワードプライマー(Forward primer)と、配列番号8のリバースプライマー(Reverse primer)とを用いた。
【0049】
図1Fに示すように、組換えゴーヤレクチンG72Y/K163Rは、RIP部位3Fと、レクチン部位5とを備える。RIP部位3Fと、レクチン部位5とは、ジスルフィド結合7により連結されている。RIP部位3Fは、シグナルシークエンス9と、PAタグ11とを含む。RIP部位3Fは、RIP部位3Aと比べたとき、72番目のグリシンがチロシンに置換され、163番目のリシンがアルギニンに置換されている。
【0050】
(11)組換えゴーヤレクチンF111Y/K163Rの作製
ワイルドタイプのゴーヤレクチンwild-typeにおいて、RIP部位3Aでの111番目のフェニルアラニンをチロシンに置換し、163番目のリシンをアルギニンに置換した組換えゴーヤレクチンを、組換えゴーヤレクチンF111Y/K163Rとした。
【0051】
組換えゴーヤレクチンF111Y/K163Rは、基本的には、組換えゴーヤレクチンG72Yと同様の方法で作製することができた。ただし、インバースPCR法を行うとき、組換えゴーヤレクチンF111Yの作製で使用したプラスミドを鋳型とした。また、インバースPCR法を行うとき、配列番号7のフォワードプライマー(Forward primer)と、配列番号8のリバースプライマー(Reverse primer)とを用いた。
【0052】
図1Gに示すように、組換えゴーヤレクチンF111Y/K163Rは、RIP部位3Gと、レクチン部位5とを備える。RIP部位3Gと、レクチン部位5とは、ジスルフィド結合7により連結されている。RIP部位3Gは、シグナルシークエンス9と、PAタグ11とを含む。RIP部位3Gは、RIP部位3Aと比べたとき、111番目のフェニルアラニンがチロシンに置換され、163番目のリシンがアルギニンに置換されている。RIP部位3Gは、障害活性部位に対応する。RIP部位3Gのアミノ酸配列は、配列番号10及び図7に示すとおりである。
【0053】
(12)組換えゴーヤレクチンG72Y/F111Y/K163Rの作製
ワイルドタイプのゴーヤレクチンwild-typeにおいて、RIP部位3Aでの72番目のグリシンをチロシンに置換し、111番目のフェニルアラニンをチロシンに置換し、163番目のリシンをアルギニンに置換した組換えゴーヤレクチンを、組換えゴーヤレクチンG72Y/F111Y/K163Rとした。
【0054】
組換えゴーヤレクチンG72Y/F111Y/K163Rは、基本的には、組換えゴーヤレクチンG72Yと同様の方法で作製することができた。ただし、インバースPCR法を行うとき、組換えゴーヤレクチンF111Y/K163Rの作製で使用したプラスミドを鋳型とした。また、インバースPCR法を行うとき、配列番号3のフォワードプライマー(Forward primer)と、配列番号4のリバースプライマー(Reverse primer)とを用いた。
【0055】
図1Hに示すように、組換えゴーヤレクチンG72Y/F111Y/K163Rは、RIP部位3Hと、レクチン部位5とを備える。RIP部位3Hと、レクチン部位5とは、ジスルフィド結合7により連結されている。RIP部位3Hは、シグナルシークエンス9と、PAタグ11とを含む。RIP部位3Hは、RIP部位3Aと比べたとき、72番目のグリシンがチロシンに置換され、111番目のフェニルアラニンがチロシンに置換され、163番目のリシンがアルギニンに置換されている。
【0056】
(13)発現確認
(13a)ワイルドタイプのゴーヤレクチンwild-typeの発現確認
前記(5)で回収したワイルドタイプのゴーヤレクチンwild-typeの溶出液を用いて、還元条件下にて、10%ポリアクリルアミドゲルによるSDS-PAGEを行った。SDS-PAGEとは、ドデシル硫酸ナトリウム-ポリアクリルアミドゲル電気泳動である。銀染色と抗PA-tag抗体(NZ-1、Wako)染色とによるウエスタンブロッティングにて、ワイルドタイプのゴーヤレクチンwild-typeの溶出確認を行った。
【0057】
図2A及び図2BにSDS-PAGEの結果を示す。図2Aは銀染色の結果を示す。図2Bはウエスタンブロッティングの結果を示す。図2A及び図2Bにおいて、レーンMは分子量マーカーを示す。図2A及び図2Bにおいて、横方向に並んだ1~10は、溶出画分の画分番号を示す。画分番号が3~4の溶出画分にピークがあることが確認できた。
【0058】
(13b)各組換えゴーヤレクチンの発現確認
組換えゴーヤレクチンG72Y、F111Y、K163R、G72Y/F111Y、G72Y/K163R、F111Y/K163R、G72Y/F111Y/K163R(以下では各組換えゴーヤレクチンとする)のそれぞれについて、前記(13a)と同様にして、発現確認を行った。また、ワイルドタイプのゴーヤレクチンwild-typeについても発現確認を行った。発現確認には、画分番号が4である溶出画分を使用した。その結果を図3A及び図3Bに示す。
【0059】
各組換えゴーヤレクチン、及びワイルドタイプのゴーヤレクチンwild-typeにおいて、約80kDa付近にバンドがあることを確認できた。
(14)ゴーヤレクチンの濃縮
(14a)ワイルドタイプのゴーヤレクチンwild-typeの濃縮
前記(5)で回収した溶出画分のうち、画分番号が3~6であるものを、amicon Ultra-4 centrifugal(Merck)に移した。次に、(i)3000rpmで30分間遠心した。次に、(ii)PBS溶液を2mL加えて遠心した。さらに、前記(i)と前記(ii)の処理を交互に繰り返すことにより、最終的に300μLの濃縮液を得た。この濃縮液は、ワイルドタイプのゴーヤレクチンwild-typeの濃縮液である。
【0060】
(14b)各組換えゴーヤレクチンの濃縮
各組換えゴーヤレクチンについても、前記(14a)と同様にして、濃縮液を得た。
(15)細胞障害活性の測定
(15a)ワイルドタイプのゴーヤレクチンwild-typeの細胞障害活性の測定
前記(14a)で得たワイルドタイプのゴーヤレクチンwild-typeの濃縮液を用い、MTTアッセイ法により、Capan-1細胞に対する細胞障害活性を測定した。具体的には、以下の操作を行った。
【0061】
(イ)第1のコラーゲンコート96ウェルプレート(Iwaki)に、PBSを用いて、ワイルドタイプのゴーヤレクチンwild-typeの希釈列を作製した。希釈列は、ワイルドタイプのゴーヤレクチンwild-typeの濃縮液を1/10に希釈した溶液と、1/40に希釈した溶液と、1/160に希釈した溶液とにより構成される。
【0062】
(ロ)第2のコラーゲンコート96ウェルプレート(Iwaki)に、Capan-1細胞を含む溶液を、1ウェルあたり100μL播種した。Capan-1細胞を含む溶液は、牛胎児血清(FBS)を20%含むイスコフ改変培地で、Capan-1細胞の濃度が5.0×10細胞/mLとなるように調製した溶液であった。次に、37℃の下で12時間培養することで、Capan-1細胞をウェルに接着させた。
【0063】
(ハ)前記(ロ)の翌日、前記(ロ)で培養したCapan-1細胞を含む培地90μLと、ワイルドタイプのゴーヤレクチンwild-typeの希釈列のうちの1つの溶液10μLとを、第3のコラーゲンコート96ウェルプレートのウェルに添加した。次に、37℃、5%CO存在下で5日間培養した。次に、ウェルから、ワイルドタイプのゴーヤレクチンwild-typeを含む培地をアスピレーターにより除去した。
【0064】
(二)前記(ハ)において培地を除去した後、ウェルに、溶液を100μL加えた。加えた溶液は、5mg/mLの3-(4, 5-ジメチル-チアゾール-2-イル)-2, 5-ジフェニルテトラゾリウムブロマイド(MTT)溶液を、イスコフ改変培地を用いて10倍に希釈した溶液であった。次に、COインキュベーター内にて、37℃、5%CO存在下で4時間反応させた。
【0065】
(ホ)前記(二)の反応終了後、アスピレーターにて培地をウェルから除去した。次に、200μLのPBS溶液にて洗浄を1回行った。次に、ウェルにジメチルスルホキシド(DMSO)溶液を50μL加えてCapan-1細胞を溶解させ、均一な溶液になるまで15分間、室温で振盪した。
【0066】
(へ)次に、マイクロプレートリーダー(サーモバイオアナリシスジャパン)を用い、Capan-1細胞を含む溶液について、570nmの波長吸光度を測定した。測定結果を図4に示す。
(15b)各組換えゴーヤレクチンの細胞障害活性の測定
ワイルドタイプのゴーヤレクチンwild-typeに代えて、前記(14b)で得た各組換えゴーヤレクチンの濃縮液を用い、その他の点では前記(15a)と同様にして、Capan-1細胞に対する細胞障害活性を測定した。測定結果を図4に示す。組換えゴーヤレクチンF111Y/K163Rの希釈列のうち、希釈倍率が1/10である溶液を用いた場合に、吸光度が低下した。吸光度が低下することは、Capan-1細胞に対する傷害活性を有することを意味する。
【0067】
なお、Capan-1細胞に対する傷害活性を有するほど、吸光度が低下する理由は以下のとおりである。Capan-1細胞は、MTTを紫色ホルマザン結晶に還元する酸化還元酵素を含んでいる。紫色ホルマザン結晶は色素である。Capan-1細胞の生存数が少ないほど、MTTは色素へ変換され難く、吸光度は低くなる。よって、Capan-1細胞に対する傷害活性を有するほど、吸光度が低下する。
4.他の実施形態
以上、本開示の実施形態について説明したが、本開示は上述の実施形態に限定されることなく、種々変形して実施することができる。
【0068】
(4-1)上記各実施形態における1つの構成要素が有する機能を複数の構成要素に分担させたり、複数の構成要素が有する機能を1つの構成要素に発揮させたりしてもよい。また、上記各実施形態の構成の一部を省略してもよい。また、上記各実施形態の構成の少なくとも一部を、他の上記実施形態の構成に対して付加、置換等してもよい。
【0069】
(4-2)上述した組換えタンパク質の他、当該組換えタンパク質を構成要素とするシステム、組換えタンパク質の製造方法、組換えタンパク質をコードする遺伝子等、種々の形態で本開示を実現することもできる。
【符号の説明】
【0070】
wild-type…ワイルドタイプのゴーヤレクチン、G72Y、F111Y、K163R、G72Y/F111Y、G72Y/K163R、F111Y/K163R、G72Y/F111Y/K163R…組換えゴーヤレクチン、3A、3B、3C、3D、3E、3F、3G、3H…RIP部位、5…レクチン部位、7…ジスルフィド結合、9…シグナルシークエンス、11…PAタグ
【要約】
【課題】癌治療に用いることができる組換えタンパク質及び抗癌治療薬を提供すること。
【解決手段】組換えタンパク質は、レクチン部位と、細胞障害活性部位と、を備える。前記細胞障害活性部位は、例えば、以下の(a)又は(b)である。(a)ゴーヤレクチンに含まれるRIP部位のアミノ酸配列において、111番目のフェニルアラニンをチロシンに置換し、163番目のリシンをアルギニンに置換したアミノ酸配列からなるタンパク質。(b)前記(a)において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、且つ細胞障害活性を有するタンパク質。
【選択図】図1
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
【配列表】
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