(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-28
(45)【発行日】2025-02-05
(54)【発明の名称】加熱野菜の製造方法
(51)【国際特許分類】
A23L 19/00 20160101AFI20250129BHJP
【FI】
A23L19/00 A
(21)【出願番号】P 2021004556
(22)【出願日】2021-01-14
【審査請求日】2023-06-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000226998
【氏名又は名称】株式会社日清製粉グループ本社
(74)【代理人】
【識別番号】110002170
【氏名又は名称】弁理士法人翔和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】石田 一晃
(72)【発明者】
【氏名】仲西 由美子
(72)【発明者】
【氏名】篠崎 純子
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 俊之
【審査官】千葉 直紀
(56)【参考文献】
【文献】特開平08-080173(JP,A)
【文献】特開2001-112411(JP,A)
【文献】特開2006-158293(JP,A)
【文献】特表2000-501947(JP,A)
【文献】特開2017-112855(JP,A)
【文献】特開2016-21933(JP,A)
【文献】特開2020-162590(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
野菜を、カルシウム塩を0.01質量%以上含む50℃以上100℃以下の水溶液と接触させて加熱する加熱工程、及び、該加熱工程を経た野菜を、LMペクチンを
0.5質量%以上含み且つ酸化防止剤を含む水性液に浸漬させる浸漬工程、を有する加熱野菜の製造方法。
【請求項2】
前記加熱工程において、前記水溶液を1秒間以上10分間以下、野菜と接触させる、請求項1に記載の加熱野菜の製造方法。
【請求項3】
前記加熱工程において、80℃以上の前記水溶液を野菜と接触させる、請求項1又は2に記載の加熱野菜の製造方法。
【請求項4】
前記加熱工程において、カルシウム塩の濃度が1質量%以下である前記水溶液を野菜と接触させる、請求項1から3の何れか1項に記載の加熱野菜の製造方法。
【請求項5】
前記カルシウム塩は、塩化カルシウム、炭酸カルシウム、水酸化カルシウム、乳酸カルシウム、硫酸カルシウム、ケイ酸カルシウム、及び酸化カルシウムから選ばれる少なくとも一種である、請求項1から4の何れか1項に記載の加熱野菜の製造方法。
【請求項6】
前記浸漬工程において、前記水性液として、5℃以上50℃以下の液を用いる、請求項1から5の何れか1項に記載の加熱野菜の製造方法。
【請求項7】
前記浸漬工程において、前記水性液として、pH3.0以上9.0以下の液を用いる、請求項1から6の何れか1項に記載の加熱野菜の製造方法。
【請求項8】
前記浸漬工程において、前記水性液が更に静菌剤を含有する、請求項1から
7の何れか1項に加熱野菜の製造方法。
【請求項9】
前記野菜が緑色野菜である、請求項1から
8の何れか1項に記載の加熱野菜の製造方法。
【請求項10】
前記水性液が調味液であり、
加熱野菜として惣菜を製造する、請求項1から
9の何れか1項に記載の加熱野菜の製造方法。
【請求項11】
惣菜が、おひたしである、請求項
10に記載の加熱野菜の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カルシウム塩とペクチンを用いた加熱野菜の製造方法に関する。
【0002】
従来、ペクチン等の増粘剤を用いた加熱野菜の製造方法としては、種々のものが知られている。
特許文献1には、果物及び/又は野菜とペクチン、砂糖を加熱した後、Mgイオン、Caイオン又は乳製品を添加する半完成又は完成デザートの製造方法が記載されている。
また特許文献2には、増粘剤及び静菌剤を含む加熱水溶液に生鮮野菜を浸漬させることで、微生物増殖を抑制しながら食感を維持する生鮮野菜の鮮度保持方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開昭63-071155号公報
【文献】特開2004-215544号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来、野菜はその色彩などを好まれて惣菜や料理のトッピングなどに使用されている。野菜は保存温度や湿度等を調整すれば数日間、食味や食感が維持される。しかしながら、光照射下で店頭での陳列がなされると、色素の光分解などに起因して、野菜の色味、特に緑色は、陳列中又は家庭での保存中等に退色してしまう場合があった。また光照射下での店頭での陳列は野菜の表面が乾燥しやすいこともあり、野菜の外観が劣化しやすい。
しかしながら、本発明者が検討した結果、特許文献1のように、果物及び/又は野菜をカルシウムイオン及びペクチンを含む液で処理した場合、光照射下での退色抑制及び表面の乾燥抑制の効果が得られないことがわかっている。また特許文献2も、光照射下での退色抑制の課題について検討したものではない。
【0005】
従って本発明の課題は、光照射下における野菜の緑色の退色を抑制できるとともに表面の乾燥を抑制できる加熱野菜の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、緑色野菜に耐光性を付与する方法を鋭意検討した。その結果、熱したカルシウム塩の水溶液に予め接触させた野菜を、ペクチンを含む浸漬液に浸漬することで、驚くべきことに野菜の緑色の退色が効果的に抑制され、更に野菜表面の乾燥を抑制できることを知見した。
【0007】
本発明は上記知見に基づくものであり、野菜を、カルシウム塩を含む50℃以上100℃以下の水溶液と接触させて加熱する加熱工程、及び、該加熱工程を経た野菜を、ペクチンを含む水性液に浸漬させる浸漬工程、を有する加熱野菜の製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明により、光照射下での退色が効果的に抑制され、更に野菜表面の乾燥が抑制された加熱野菜を製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明をその好ましい実施形態に基づき説明する。
【0010】
本発明は、野菜を、カルシウム塩を含む50℃以上100℃以下の水溶液と接触させて加熱する加熱工程、及び、該加熱工程を経た野菜を、ペクチンを含む水性液に浸漬させる浸漬工程、を有する加熱野菜の製造方法を提供する。本発明は本方法により野菜の光照射による退色を抑制させるとともに野菜表面の乾燥を抑制することができる。本製造方法において退色抑制及び野菜表面の乾燥抑制の両立効果が得られる理由は明確ではないが、本発明者は、加熱工程により表層部に付着したカルシウムイオンと、浸漬工程における水性液中のペクチンとにより野菜表面がゲル状の層で被覆され、当該ゲル状の層が効果的な水分の蒸発抑制、退色抑制に適している可能性があると考えている。
【0011】
まず加熱工程について説明する。
【0012】
加熱工程に供する野菜は、緑色野菜であることが好ましい。緑色野菜としては、クロロフィルを有する緑色の野菜であればよく、オクラ、インゲン、エンドウ、アスパラ、ピーマン、ほうれん草、とうがらし(緑色のもの)、菜の花、小松菜、水菜、春菊、豆苗、ブロッコリー、レタス、キャベツ、セロリ、モロヘイヤ、クレソン、ケール、バジル、パクチー、大葉、チンゲン菜、ねぎ、等が挙げられる。中でも本発明では、オクラ、インゲン、エンドウ、アスパラ、ピーマン、ほうれん草、とうがらし、菜の花、小松菜、水菜、春菊、豆苗、ブロッコリー、ねぎ等であることが、本発明の加熱野菜の製造方法によりお浸し等の惣菜を得る際に好適である点で好ましい。
【0013】
加熱工程に供する野菜は、未加熱の状態であることが、退色抑制及び表面乾燥抑制に係る本発明の効果に優れる点、製造工程が少ないことによる製造コスト低減の点や加熱による野菜の変色が少ない点で好ましい。しかしながら本発明の退色抑制及び表面乾燥抑制の効果が得られる限度において加熱工程に供する野菜は予め加熱されることに差し支えはない。なお、予め加熱処理を施されている場合、その加熱時間は求める食感等に応じて適宜定めればよいが例えば60℃以上の加熱の場合、その温度での加熱時間が10分以下であると得られる野菜の食感等に影響が生じにくい。
【0014】
加熱工程に供する野菜は、切断や手で裂く等の処理が予め施されていてもよく、施されていなくてもよい。予め切断や手で裂く等の処理がなされている場合、本製造方法により得られる加熱野菜をそのまま喫食しやすい等の点から好ましい。
【0015】
加熱工程は、野菜を、カルシウム塩を含む50℃以上100℃以下の水溶液と接触させて加熱する。カルシウム塩としては、塩化カルシウム、炭酸カルシウム、水酸化カルシウム、乳酸カルシウム、硫酸カルシウム、ケイ酸カルシウム及び酸化カルシウムから選ばれる少なくとも一種であることが、本発明の退色抑制及び表面乾燥抑制の効果に優れる点及び食味の影響が少ない点で好ましい。とりわけ、カルシウム塩としては、塩化カルシウム、炭酸カルシウム、水酸化カルシウム及び乳酸カルシウムから選ばれる少なくとも一種であることが、製造適性の点で好ましい。
【0016】
カルシウム塩を含む水溶液において、カルシウム塩の濃度は0.01質量%以上であることが、本発明の退色抑制及び乾燥抑制の効果が得やすい点及びコーティングを行う点から好ましく、1質量%以下であることが、食味への影響が少ない点から好ましい。これらの点から、カルシウム塩の濃度は0.02質量%以上0.8質量%以下がより好ましく、0.03質量%以上0.6質量%以下が特に好ましい。なお、本発明においてカルシウム塩を含む水溶液とは、カルシウム塩の少なくとも一部が水に溶解されている液であればよく、カルシウム塩が溶け残っていてもよく、カルシウム塩以外の別の溶質が溶解されていてもよく、カルシウム塩以外の分散質が分散されていてもよい。ここでの水溶液におけるカルシウム塩の濃度とは、水溶液中の溶質としてのカルシウム塩の割合をいう。カルシウム塩の濃度は、野菜と接触させる直前の加熱した水溶液における濃度を指す。
【0017】
カルシウム塩を含む水溶液は、水及びカルシウム塩以外の成分を含有していてもよい。カルシウム塩を含む水溶液における水及びカルシウム塩以外の成分としては、静菌剤、増粘剤、pH調整剤、食塩等の塩、糖類、醤油などの塩や糖類以外の調味料が挙げられる。
【0018】
カルシウム塩を含む水溶液において、水及びカルシウム塩以外の成分の量は、本発明の退色抑制及び表面乾燥抑制の効果が得られる限度において特に制限はない。好ましくは、カルシウム塩を含む水溶液において、水及びカルシウム塩以外の成分の量は当該水溶液中、10質量%以下であることが、本発明による加熱野菜の退色抑制及び表面乾燥抑制の効果が一層確実に得やすい点で好ましく、5質量%以下であることが特に好ましい。
【0019】
加熱工程では、野菜を、カルシウム塩を含む50℃以上100℃以下の水溶液と接触させて加熱する。水溶液の温度は、50℃以上であることで野菜の軟化効果の利点がある。また水溶液の最高温度は100℃である。加熱工程に用いる水溶液温度は65℃以上100℃以下であることがより好ましい。また、水溶液の温度が80℃以上であることが野菜の軟化効果の利点がある点や食品衛生等の点でより好ましく、90℃以上であることが最も好ましい。
【0020】
野菜を水溶液と接触させる方法としては、加熱した水溶液中に野菜を浸漬させる、或いは、加熱した水溶液中で野菜を茹でる、野菜に加熱した水溶液を掛ける、野菜と加熱した水溶液を混ぜる等の方法がある。野菜表面における水溶液との接触割合を簡便に高められる点や加熱殺菌が容易である点等からは、加熱した水溶液中に野菜を浸漬させる、或いは、加熱した水溶液中で野菜を茹でる処理が好ましい。
【0021】
野菜を水溶液と接触させる時間は1秒間以上であることが、加熱野菜の退色を抑制するとともに表面乾燥を抑制しやすい点、及び野菜の軟化効果の点で好ましく、10分間以下であることが、野菜の変色防止の点で好ましい。この観点から、野菜を水溶液と接触させる時間は2秒間以上9分間以下が好ましく、5秒間以上5分間以下がより好ましい。
【0022】
野菜と水溶液との接触は、連続的であってもよく、不連続的であってもよい。不連続的とは例えば野菜に水溶液を間欠的に野菜にかける場合や、水溶液への野菜の浸漬を間欠的に行う場合が挙げられる。不連続的に接触を行う場合、前記の野菜を水溶液と接触させる時間は、各回の接触の間の間隙時間を含まない、各回の接触時間を全て足した時間とする。
【0023】
浸漬工程では、加熱工程を経た野菜を、ペクチンを含む水性液に浸漬させる。本発明の製造方法は、加熱工程と浸漬工程との間に、別工程を有していてもよい。そのような別工程としては、静置工程や調味工程、食品添加物の添加工程、重量調整工程等が挙げられる。加熱工程と浸漬工程との間には、ペクチンを含まない液体と加熱工程を経た野菜の表面全体を接触させる工程を有しないことが、得られる加熱野菜の退色の抑制及び乾燥抑制効果が一層得やすい点から好ましく、ペクチンを含まない液体と加熱工程を経た野菜の表面の5割以上とを接触させる工程を有しないことが更に好ましい。
【0024】
浸漬工程で用いるペクチンを含む水性液としては、水を溶媒として、ペクチンの少なくとも一部が水に溶解したものであることが、退色抑制及び乾燥抑制の効果に優れた加熱野菜を得やすい点で好ましい。水性液は、ペクチンが一部ゲル化したものであってもよいし、また、ペクチンに加えて更に他の溶質が溶解された水溶液又は分散液であってもよく、ペクチンが水に溶解されている水溶液又は分散液において更に他の分散質が分散された分散液であってもよい。ペクチンを含む水性液における水の量は例えば70質量%以上であることが好ましく、80質量%以上であることがより好ましく、85質量%以上であることが特に好ましい。ここでいう水の量には後述する水に混合される水以外の成分(例えば調味料等)に含まれる水の量が含まれる。
【0025】
浸漬工程で用いるペクチンは、大きく分けてHMペクチン、LMペクチンに二分類される。本発明では、カルシウムと反応しゲル化する点から、LMペクチンを用いることが好ましい。LMペクチンとは、エステル化度(DE値)が50%以下のペクチンをいう。
【0026】
水性液中に、ペクチンの量は0.1質量%以上であることが、本製造方法による退色防止及び乾燥抑制の効果が高い点で好ましく、10質量%以下であることが、食味への影響が少ない点で好ましい。これらの観点から、水性液中に、ペクチンの量は0.5質量%以上5質量%以下であることがより好ましい。特に、野菜を浸漬させる温度における水性液中に、上記の量のペクチンが溶解していることが好ましい。
【0027】
浸漬工程に用いるペクチンを含有する水性液は、酸化防止剤を含有していることが、一層退色防止効果を高めることができるため好ましい。酸化防止剤としては、クエン酸、ロスマリン油、ビタミンC(アスコルビン酸又はその塩)、ビタミンE、ビタミンホスファート、トコフェロール、ジ-α-トコフェロールホスファート、トコトリエノール、αリポ酸、ジヒドロリポ酸、キサントフィル、βクリプトキサンチン、リコピン、ルテイン、ゼアキサンチン、アスタキサンチン、β-カロチン、カロチン、混合カロチノイド、ポリフェノール、フラボノイドアスコルビン酸、アスコルビン酸エステル等が知られているが、食味に影響が少なく、酸化防止効果が高い点から、アスコルビン酸若しくはそのエステル又はそれらの塩が好ましい。アスコルビン酸若しくはそのエステル又はそれらの塩とは、アスコルビン酸、L-アスコルビン酸Na、L-アスコルビン酸K、L-アスコルビン酸リン酸エステル、L-アスコルビン酸硫酸エステル、L-アスコルビン酸硫酸エステル2ナトリウム塩のほか、L-アスコルビン酸ステアリン酸エステル等のアスコルビン酸の脂肪酸エステル類等を挙げることができる。
【0028】
水性液が酸化防止剤を含有する場合、その量は、水性液中0.01質量%以上であることが、本製造方法による退色防止効果が高い点で好ましく、6質量%以下であることが、食味への影響が少ない点で好ましい。これらの観点から、水性液中に酸化防止剤の量は0.02質量%以上4質量%以下であることがより好ましい。
【0029】
水性液は、更に、静菌剤を含有していてもよい。静菌剤を含有することで、雑菌の繁殖を抑制し、野菜を鮮度の良い状態でより長く維持することができる。静菌剤としては、例えば、しらこ蛋白、ポリリジン、乳酸菌発酵物、ホップ抽出物、唐辛子抽出物、カンゾウ油性抽出物、卵白リゾチーム、酢酸ナトリウム、乳酸ナトリウム、グリシン、グリセリン脂肪酸エステル、チアミンラウリル硫酸塩を挙げることができ、食味への影響が少ない観点から、卵白リゾチームや酢酸ナトリウム、乳酸ナトリウム、グリシンが好ましい。
【0030】
水性液が静菌剤を含有する場合、その量は、水性液中0.01質量%以上であることが、本製造方法による鮮度維持効果が高い点で好ましく、6質量%以下であることが、味への影響が少ない点で好ましい。これらの観点から、水性液中に静菌剤の量は0.02質量%以上3質量%以下であることがより好ましい。
【0031】
水性液は、調味料を含有していてもよい。水性液が調味料を含有する場合、水性液は調味液となる。水性液が調味液である場合、本製造方法は、例えばお浸し等の惣菜又は惣菜の原料を容易に製造できるため好ましい。調味料としては味付けを目的とした、食することができるものを意味する。例えば、甘味料、うま味調味料、香辛料などがある。具体的には、糖類(グルコース、ショ糖等の糖やトレハロース等の糖アルコール等)、ステビア等の人工甘味料、塩類、酢、ポン酢、醤油、味噌類、胡椒、ゆず胡椒、醤類(豆板醤、XO醤、芝麻醤、甜麺醤、コチュジャン等)、めんつゆ、白だし、割り下、酒類、みりん、ソース類(中濃ソース、濃厚ソース、オイスターソース等)、ケチャップ、サルサソース、チリソース、香辛料、ハーブ、カレー粉などが挙げられる。水性液が調味料を含有する場合、その量としては、所望の惣菜や原料の種類によって定められるが、それらを含有する場合、例えば水性液中、固形分として0.01~10質量%である。なおここでいう固形分とは水以外の成分の合計量を指す。
【0032】
水性液は、水、ペクチン、酸化防止剤、静菌剤、調味料以外の他の成分を含有していてもよい。そのような他の成分としては、増粘剤、デンプン、加工デンプン、ゴマや粗砕トウガラシなどの食品が挙げられる。水性液における、水、ペクチン、酸化防止剤、静菌剤、調味料以外の他の成分の量は、水性液中、固形分として合計で20質量%以下であることが、ペクチン、酸化防止剤及び静菌剤などの量を確保する点や野菜への水性液の付着の点で好ましく、10質量%以下であることがより好ましい。
【0033】
浸漬工程に供する水性液は、25℃でのpHが3.0以上9.0以下であることが、得られる加熱野菜の食味や色の点で好ましい。この観点から、浸漬工程に供する水性液は25℃でのpHが3.5以上8.5以下であることがより好ましく、4以上8以下であることが特に好ましい。
【0034】
上記の浸漬工程に供する水性液の温度は、5℃以上であることが、製造適性の点で好ましく、50℃以下であることが、水性液に野菜を浸漬させたときの表面のゲル化がスムーズに起こりやすい点、及び野菜への熱負荷が少ない点で好ましい。これらの観点から、浸漬工程に供する水性液の温度は、6℃以上40℃以下がより好ましい。
【0035】
水性液に野菜を浸漬する時間は特に限定がなく、例えば1分間以上が好適に挙げられる。
【0036】
水性液への野菜の浸漬は、少なくとも野菜の表面の50%以上が水性液に接触するように行うことが好ましく、70%以上が水性液に接触するように行うことがより好ましく、80%以上が水性液に接触するように行うことが特に好ましい。
【0037】
以上の浸漬工程を経た加熱野菜は、惣菜の製造に用いることができる。惣菜の種類としては、煮物類、焼き物類、茹で物類、蒸し物類、炒め物類、揚げ物類、汁物類、丼もの類、丼もの以外の飯類、麺類、サラダ類等が挙げられる。本発明の製造方法においては、野菜が既に加熱済みであることから、そのまま野菜を盛り付けに使用したり、他具材や調味液等と混合する等、簡便な工程により、惣菜類を完成させることが可能である。
また、浸漬工程の水性液を調味液とした場合に、浸漬工程を経た加熱野菜をそのまま惣菜としてもよい。そのような惣菜の例としては、お浸しや和え物、浅漬け、煮物等が挙げられる。お浸しを製造する場合には、水性液を浸漬させた状態のまま製造方法を完了させてもよい。
【実施例】
【0038】
以下、実施例に基づき本発明を説明するが、本発明は下記実施例に限定されるものではない。下記の%は特に異ならないかぎり、質量%を意味する。各実施例・比較例において浸漬はオクラ表面のほぼ全体が浸漬液と接触する状態で行った。
【0039】
(製造例1)
食塩3g、トレハロース36g、ミツカン社製白だし(地鶏昆布)60g、及び、LMペクチン6gを水495gに溶解させた。95℃まで加熱し、冷蔵庫で30分冷やし、蒸発した分の水を加えた。その後、アスコルビン酸ナトリウム4g及び静菌剤として酢酸ナトリウムを17g添加し、混合して、製造例1の浸漬液(お浸し用調味液、25℃のpH:5.7)を得た。
【0040】
(製造例2)
アスコルビン酸ナトリウムを添加しない以外は、製造例1と同様にして、製造例2の浸漬液(25℃のpH:5.6)を得た。
【0041】
(比較製造例1)
LMペクチンを添加しない以外は、製造例1と同様にして、比較製造例1の浸漬液(25℃のpH:5.7)を得た。
【0042】
(比較製造例2)
LMペクチンを添加しない以外は、製造例2と同様にして、比較製造例2の浸漬液(25℃のpH:5.6)を得た。
【0043】
(比較製造例3)
製造例2において、塩化カルシウムを浸漬液中0.1質量%濃度となるように浸漬液に含有させた。塩化カルシウムは、食塩、トレハロース、ミツカン社製白だし(地鶏昆布)及びLMペクチンを水に溶解させるタイミングで、水に添加して溶解させた。その点以外は、製造例2と同様にして、比較製造例3の浸漬液(25℃のpH:5.6)を得た。
【0044】
(実施例1~4、比較例1~5)
加熱工程として、表1又は表2に記載の温度とした表1又は表2に記載の液体に、生鮮状態のオクラを投入し、表1又は表2に記載の温度で表1又は表2に記載の時間加熱した。加熱後のオクラをザルにあげた。表1及び表2に記載の「0.1%塩化Ca水溶液」は、水に塩化カルシウムを0.1質量%濃度となるように溶解させた水溶液である。得られたオクラを15℃まで真空冷却により冷却した後、浸漬工程として、表1又は表2に記載の浸漬液(10℃)に5分間浸漬させた。次いでオクラをザルにいれて浸漬液を60秒間水切りした後、オクラを透明なトレー(材質PET)に戴置し、1000LUXの蛍光灯照射下に10℃で120時間静置させた。なお、表1及び表2において「95~100℃」とは沸騰した湯にオクラを投入したときの液体温度である。
得られたサンプル(お浸し)について、以下の評価基準にて評価した。
【0045】
(野菜の表面状態)
〇:みずみずしい。
△:やや乾燥している。
×:乾燥している。
【0046】
(野菜の表面の色)
〇:やや緑色。
△:やや褐色。
×:褐色。
【0047】
(総合評価基準)
〇:良好。
△:やや良好。
×:不良。
【0048】
【0049】
【0050】
表1及び表2の評価結果より、実施例1と比較例4を比べると、第1工程である加熱工程にて、カルシウム塩水溶液を野菜と接触させた実施例1は、加熱工程で水を用いた比較例4に比べて、表面の乾燥状態が大きく改善し、退色が抑制されていることが判る。また、実施例2と比較例5の比較においても同様の結果となっている。
一方、比較例1及び3の評価結果の比較が示す通り、浸漬工程で浸漬液がペクチンを含有していない場合、加熱工程でカルシウム塩水溶液を用いることによる表面の乾燥の改善、退色抑制の効果が得られない。また比較例2及び5の評価結果の比較が示す通り、加熱工程でカルシウム塩水溶液を用いない場合、浸漬工程で浸漬液がペクチンを含有していても、表面の乾燥状態の改善、表面の退色抑制の効果が得られない。
以上のことから、前処理として、熱したカルシウム塩水溶液を野菜と接触させた後に、ペクチンを含む浸漬液に浸漬させることで初めて効果的に野菜の表面の乾燥状態の改善及び退色抑制を実現できることが判る。
また、各実施例のオクラを喫食したところ、食感が良好であった。
【0051】
(比較例6)
実施例2の加熱工程と浸漬工程の順序を反対にした。具体的には、浸漬工程として、表3に記載の浸漬液(10℃)に生鮮状態のオクラを5分間浸漬させた後、ザルで水切りした。得られたオクラを、加熱工程にて、沸騰した0.1%塩化カルシウム水溶液に投入し、水溶液の温度95~100℃にて2分間茹でた。得られたオクラをザルにいれて水切りし、真空冷却により10℃まで冷却した後、透明なトレー(材質PET)に戴置し、実施例1と同様にして評価した。結果を表3に示す。
【0052】
【0053】
表3より、先にペクチンを含む浸漬液に野菜を浸漬させた後に、熱したカルシウム塩水溶液と接触させた場合は、各実施例で得られた野菜の表面の乾燥改善及び表面の退色抑制効果が得られないことが判る。
【0054】
(比較例7)
加熱工程及び浸漬工程の代わりに、カルシウム塩を含有する浸漬液による浸漬工程のみ行った。具体的には、浸漬工程として、表4に記載の浸漬液(10℃)に生鮮状態のオクラを5分間浸漬させた。次いでザルにオクラを入れ浸漬液を60秒間水切りした後、オクラを透明なトレー(材質PET)に戴置し、実施例1と同様にして評価した。結果を表4に示す。
【0055】
【0056】
表4より、熱したカルシウム塩水溶液による前処理を行う代わりに、ペクチンとともにカルシウム塩を含む浸漬液に野菜を浸漬させた場合は、上記の効果的な野菜の表面の乾燥状態の改善及び表面の退色抑制効果が得られないことが判る。