(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-28
(45)【発行日】2025-02-05
(54)【発明の名称】合成木材の焼却処理方法及びリサイクル方法
(51)【国際特許分類】
C08J 11/12 20060101AFI20250129BHJP
B29B 17/00 20060101ALI20250129BHJP
F23G 5/033 20060101ALI20250129BHJP
F23J 1/00 20060101ALI20250129BHJP
F23B 60/00 20060101ALI20250129BHJP
【FI】
C08J11/12 ZAB
B29B17/00
F23G5/033 B
F23J1/00 B
F23B60/00
(21)【出願番号】P 2022032140
(22)【出願日】2022-03-02
【審査請求日】2023-07-11
(73)【特許権者】
【識別番号】502362758
【氏名又は名称】JX金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】平松 優毅
(72)【発明者】
【氏名】水野 拓也
(72)【発明者】
【氏名】小野瀬 裕
(72)【発明者】
【氏名】米田 亮一
【審査官】大光 太朗
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-085515(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 11/12
B29B 17/00
F23G 5/033
F23J 1/00
F23B 60/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス繊維材料を含む繊維強化プラスチックからなる、最大寸法が1.5mを超える合成木材の焼却処理方法であって、
前記合成木材を最大寸法1.5m以下の切片に切断する第1工程と、
前記切片を600℃~1200℃の温度で2時間~6時間焼却し、ガラス繊維材料を含む焼却残渣を得る第2工程と
を含み、
前記合成木材が合成枕木であり、前記焼却残渣の熱灼減量が10%未満であることを特徴とする焼却処理方法。
【請求項2】
前記第2工程により、前記ガラス繊維材料の少なくとも一部が溶融固化することで、一体化したガラス繊維束を形成することを特徴とする、請求項1に記載の焼却処理方法。
【請求項3】
前記焼却残渣は、酸化物換算で40質量%以上の二酸化ケイ素を含む、請求項1又は2に記載の焼却処理方法。
【請求項4】
前記第2工程において、焼却炉内に複数の前記切片を櫓状に組んで載置した状態で前記切片を焼却することを特徴とする、請求項
1に記載の焼却処理方法。
【請求項5】
前記合成枕木の寸法は、長さが2.5m~5.0m、幅が0.1m~0.4m、厚さが0.1m~0.4mである、請求項
1又は
4に記載の焼却処理方法。
【請求項6】
ガラス繊維材料を含む繊維強化プラスチックからなる、最大寸法が1.5mを超える合成木材のリサイクル方法であって、
前記方法は、
前記合成木材を最大寸法1.5m以下の切片に切断する第1工程と、
前記切片を600℃~1200℃の温度で2時間~6時間焼却し、ガラス繊維材料を含む焼却残渣を得る第2工程とを含み、
前記焼却残渣の少なくとも一部をスラグの溶剤として用い、
前記焼却残渣は、酸化物換算で40質量%以上の二酸化ケイ素を含むことを特徴とするリサイクル方法。
【請求項7】
ガラス繊維材料を含む繊維強化プラスチックからなる、最大寸法が1.5mを超える合成木材のリサイクル方法であって、
前記方法は、
前記合成木材を最大寸法1.5m以下の切片に切断する第1工程と、
前記切片を600℃~1200℃の温度で2時間~6時間焼却し、ガラス繊維材料を含む焼却残渣を得る第2工程とを含み、
前記焼却残渣の少なくとも一部をセメントの原材料として用い、
前記焼却残渣は、酸化物換算で40質量%以上の二酸化ケイ素を含むことを特徴とするリサイクル方法。
【請求項8】
前記第2工程により、前記ガラス繊維材料の少なくとも一部が溶融固化することで、一体化したガラス繊維束を形成することを特徴とする、請求項
6又は
7に記載のリサイクル方法。
【請求項9】
前記合成木材が合成枕木である、請求項
6~8のいずれか1項に記載のリサイクル方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、合成木材の焼却処理方法及びリサイクル方法に関する。
【背景技術】
【0002】
合成木材は、コスト、メンテナンスのしやすさなどの理由から、天然木の代替物として様々な分野で使用されている。例えば、鉄道などの工作物を敷設するためには大量の合成枕木が必要である。枕木として天然木から作られる天然枕木が使用されていたが、昨今では、繊維強化プラスチック(Fiber-Reinforced Plastics、FRP)製のものが、雨やシロアリなどによる腐食の心配がなく、メンテナンスが簡単などの理由から、天然枕木の代替として広く使用されている。
【0003】
ところで、合成枕木を含む様々なFRP製品は、強化材としてガラス繊維を含むため、廃棄物となった場合の処理は天然枕木より困難である。特許文献1(特開平10-085704号公報)は、FRP廃棄物を焼却炉で加熱し有機物を酸化除去した後、直ちにガラス短繊維原料溶融炉あるいはロックウール原料溶融炉に投入するFRP廃棄物の処理方法を提案している。この方法によれば、FRP廃棄物をガラス短繊維あるいはロックウールの原料として使用することができ、産業廃棄物が減少するとの利点が得られると開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1に開示される処理方法は、FRP製品の屑、切れ端、破砕品など、体積の小さいものに適用できるが、合成木材には寸法が大きいものがあり、特に合成枕木は、長さが2.6m以上あるものがほとんどであり、そのままで処理することは困難である。また、合成木材を焼却して有機物を除去しても、長尺状のガラス繊維が残りやすく、これらのガラス繊維は飛散しやすいうえに先端が鋭いため、作業性及び作業安全性が悪いという問題があった。
【0006】
本発明は上記問題点に鑑み完成されたものであり、一実施形態において、合成木材を効率的に焼却することができる焼却処理方法を提供することを目的の一つとする。また、本発明は別の実施形態において、合成木材を効率的に焼却したうえ、焼却残渣の組成に適したリサイクル方法を提供することを目的の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は鋭意検討の結果、合成木材を所定の寸法以下に切断したうえ、所定の条件で焼却することにより、合成木材を効率的に焼却することができ、上記課題を解決できることを見出した。本発明は上記知見に基づき完成されたものであり、以下に例示される。
【0008】
[1]
ガラス繊維材料を含む繊維強化プラスチックからなる、最大寸法が1.5mを超える合成木材の焼却処理方法であって、
前記合成木材を最大寸法1.5m以下の切片に切断する第1工程と、
前記切片を600℃~1200℃の温度で2時間~6時間焼却し、ガラス繊維材料を含む焼却残渣を得る第2工程と
を含み、前記焼却残渣の熱灼減量が10%未満であることを特徴とする焼却処理方法。
[2]
前記第2工程により、前記ガラス繊維材料の少なくとも一部が溶融固化することで、一体化したガラス繊維束を形成することを特徴とする、[1]に記載の焼却処理方法。
[3]
前記焼却残渣は、酸化物換算で40質量%以上の二酸化ケイ素を含む、[1]又は[2]に記載の焼却処理方法。
[4]
前記合成木材が合成枕木である、[1]~[3]のいずれか1項に記載の焼却処理方法。
[5]
前記第2工程において、焼却炉内に複数の前記切片を櫓状に組んで載置した状態で前記切片を焼却することを特徴とする、[4]に記載の焼却処理方法。
[6]
前記合成枕木の寸法は、長さが2.5m~5.0m、幅が0.1m~0.4m、厚さが0.1m~0.4mである、[4]又は[5]に記載の焼却処理方法。
[7]
ガラス繊維材料を含む繊維強化プラスチックからなる、最大寸法が1.5mを超える合成木材のリサイクル方法であって、
前記方法は、
前記合成木材を最大寸法1.5m以下の切片に切断する第1工程と、
前記切片を600℃~1200℃の温度で2時間~6時間焼却し、ガラス繊維材料を含む焼却残渣を得る第2工程とを含み、
前記焼却残渣の少なくとも一部をスラグの溶剤として用い、
前記焼却残渣は、酸化物換算で40質量%以上の二酸化ケイ素を含むことを特徴とするリサイクル方法。
[8]
ガラス繊維材料を含む繊維強化プラスチックからなる、最大寸法が1.5mを超える合成木材のリサイクル方法であって、
前記方法は、
前記合成木材を最大寸法1.5m以下の切片に切断する第1工程と、
前記切片を600℃~1200℃の温度で2時間~6時間焼却し、ガラス繊維材料を含む焼却残渣を得る第2工程とを含み、
前記焼却残渣の少なくとも一部をセメントの原材料として用い、
前記焼却残渣は、酸化物換算で40質量%以上の二酸化ケイ素を含むことを特徴とするリサイクル方法。
[9]
前記第2工程により、前記ガラス繊維材料の少なくとも一部が溶融固化することで、一体化したガラス繊維束を形成することを特徴とする、[7]又は[8]に記載のリサイクル方法。
[10]
前記合成木材が合成枕木である、[7]~[9]のいずれか1項に記載のリサイクル方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明の一実施形態によれば、合成木材を効率的に焼却することができる焼却処理方法を提供することができる。また、本発明は別の実施形態によれば、合成木材を効率的に焼却したうえ、焼却残渣の組成に適したリサイクル方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、合成枕木の複数の切片を櫓状に組んで載置した状態を示す写真である。
【
図2】
図2は、合成枕木の複数の切片を櫓状に組んで載置した状態で焼却処理した後の一部の焼却残渣の状態を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
次に、本発明の実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。本発明は以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、当業者の通常の知識に基づいて、適宜設計の変更、改良等が加えられることが理解されるべきである。
【0012】
(1.合成木材)
本発明の焼却処理方法及びリサイクル方法の対象である合成木材は、ガラス繊維材料を含む繊維強化プラスチックからなる、最大寸法が1.5mを超えるものである。最大寸法とは、あらゆる方向の寸法のうち最も長い寸法をいう。典型的に、合成木材は、鉄道用の合成枕木である。合成枕木の寸法は用途によってさまざまであるが、典型的な合成枕木の寸法は、長さが2.5m~5.0m、幅が0.1m~0.4m、厚さが0.1m~0.4mの範囲内である。後述のように、合成枕木は長尺状であるため、十分に焼却するためには長さ方向において1回以上切断する必要があるが、幅方向と厚さ方向では切断しないで焼却することも可能である。
【0013】
合成木材は、合成樹脂とガラス繊維材料とを含む。合成木材は、例えば40%以上の合成樹脂を含む。合成樹脂として、例えば、ポリメチレンポリフェニルポリイソシアネート・ポリオール化合物などの硬質発泡ウレタン樹脂を挙げることができる。合成木材中のガラス繊維材料は酸化物換算で40質量%以上の二酸化ケイ素を含むことが好ましい。合成木材中のガラス繊維材料に含まれるケイ素の量の上限は特にないが、例えば酸化物換算で60質量%以下の二酸化ケイ素を含むことができる。なお、ガラス繊維材料に含まれる二酸化ケイ素の量は、後述のように、本発明の焼却処理方法により焼却して得られた焼却残渣から測定されるものである。合成木材の用途に適したガラス繊維材料として、例えば、無アルカリガラス(Eガラス、Sガラス)、含アルカリガラス(Cガラス、Dガラス)などの長繊維ガラスを挙げることができる。
【0014】
(2.合成木材の焼却処理方法)
本発明の合成木材の焼却処理方法は、一実施形態において、まず合成木材を最大寸法1.5m以下の切片に切断する第1工程を含む。合成枕木の場合、前述のように、長さ2.5m~5.0mのような長尺状のものであるため、そのまま焼却すると、合成樹脂である有機物成分の完全燃焼が実現しにくく、特に長さ方向中央部付近では焼却が不十分になりやすい。また、焼却後のガラス繊維を含む焼却残渣が長くなりすぎて、作業性が悪いという問題点がある。したがって、合成木材を最大寸法1.5m以下の切片に切断する必要があり、好ましくは1.4m以下、より好ましくは1.3m以下の切片に切断する。合成枕木の場合、長尺状であるため、その長さを短く切断することになる。
【0015】
合成樹脂の有機物成分を十分に燃焼させる観点からは、より短い長さの切片に切断することが好ましいが、過度に短い長さの切片に切断すると第1工程での合成木材の切断回数が増え、作業効率上好ましくない。したがって、合成木材を最大寸法0.3m以上、好ましくは0.5m以上の切片に切断してもよい。
【0016】
一方、合成枕木の場合、幅方向と厚さ方向の寸法は比較的に小さいため、切断しないで焼却することが可能である。もっとも、合成枕木の有機物成分を十分に燃焼させる観点から、より小さい切片が好ましい。このことから、合成枕木の切片をさらに幅方向又は厚さ方向を半分に切断することもできる。
【0017】
次に、切断により得られた切片を、600℃~1200℃の温度で2時間~6時間焼却する第2工程を実施する。焼却温度が600℃を下回ると、合成木材の有機物成分を十分に燃焼させることができず、後述の熱灼減量を達成することができない。また、後述のように、焼却により得られる焼却残渣中のガラス繊維材料を溶融固化させて一体化したガラス繊維束を形成するために、600℃以上の高い焼却温度が必要である。この観点から、焼却の温度は700℃以上であることが好ましく、800℃以上であることがより好ましい。一方、焼却温度が1200℃を超えても、効果が頭打ちになるので、生産性とコストの観点から上限を1200℃とする。焼却温度の上限は、1100℃以下、又は1000℃以下とすることもできる。
【0018】
焼却の時間が2時間を下回ると、合成木材の有機物成分を十分に燃焼させることができず、後述の熱灼減量を達成することができない。一方、焼却時間が6時間を超えても、効果が頭打ちになるので、生産性とコストの観点から上限を6時間とする。焼却時間の上限は、5時間以下とすることもできる。
【0019】
第2工程の焼却には、火炎により対象物を焼却する焼却炉、例えば固定床炉を用いることができる。合成枕木の場合、第2工程において、焼却炉内に複数の合成枕木の切片を平らに広げた状態で焼却してもよいが、焼却炉の炉内空間を節約する観点から、複数の切片を櫓状に組んで載置した状態で焼却してもよい。立体的に組み上げることで、床面に接して載置した場合に比較して空気の通り道を確保することができ、より効率的に焼却することができる。切片を積み上げる層数又は高さは、切片の寸法及び焼却炉の寸法に従って適宜設定することができる。
【0020】
また、第2工程において複数の切片を櫓状に組む場合、櫓状に積まれた切片が焼却時に倒れないよう、櫓の側面を囲む支持体を設けてもよい。この支持体として、例えば、櫓の側面を囲む面が網状に設けられた金属かごを用いてもよい。網状にすることで、焼却炉の炎が網を通して切片に直接触れ、より効率的に焼却することができる。
【0021】
第2工程により、ガラス繊維材料を含む焼却残渣が得られる。焼却残渣は、産業廃棄物として廃棄するか、後述のように例えばスラグの溶剤として再利用することができるが、産業廃棄物として廃棄するには、焼却残渣の熱灼減量が10%未満である必要がある。熱灼減量の下限は特に設けなくてもよいが、実際の操業上適切な下限を設定してもよく、例えば4.0%以上とすることができる。
【0022】
熱灼減量(又は熱しゃく減量)は、昭和52年11月4日公布の「一般廃棄物処理事業に対する指導に伴う留意事項について」(環整95号)の別紙2に記載される方法に従って測定される。具体的には、焼却残渣を乾燥機等により105℃±5℃で十分乾燥させた後、電気炉を用いて600℃±25℃で3時間強熱する。これらの操作による焼却残渣の重量減量率を熱灼減量と定義する。
【0023】
また、焼却残渣の取り扱いの便宜上の観点から、第2工程により、合成木材のガラス繊維材料の少なくとも一部が溶融固化することで、複数本のガラス繊維が一体化したガラス繊維束を形成することが好ましい。ガラス繊維の一本一本は細い繊維状のものであるため、通常は飛散しやすいが、ガラス繊維束を形成することで飛散しにくくなり、作業性及び作業安全性が向上する。ガラス繊維は自然に固着して束になることはないため、ガラス繊維束の形成が確認できれば、ガラス繊維の溶融固化が発生したものと考えてよい。
【0024】
(3.合成木材のリサイクル方法)
本発明の合成木材のリサイクル方法の一つの実施形態は、本発明の合成木材の焼却処理方法のいずれかの実施形態により得られた焼却残渣の少なくとも一部をスラグの溶剤として用いることを含む。
【0025】
スラグとは、産業廃棄物や鉱石などを溶解・精錬する際に、溶剤の作用によって生じる混合物を指す。例えば、金属鉄を含む焼却灰等、汚泥、鉱滓、プリント基板、パット屑、廃触媒、金属屑、廃ショット、研削屑、ダスト等の産業廃棄物を処理する際に、産業廃棄物を反射炉型リサイクル炉の溶融部炉床に投入し、生成した溶融物を湯溜りに流出させてスラグ及びマットに分離する産業廃棄物の溶融処理法が存在する。
【0026】
上記溶融処理法により得られるスラグ及びマットを効率的に分離するためには、高融点溶融物を低融点のスラグに溶融し、低融点のスラグとする必要がある。例えば、酸化鉄(Fe3+)含有率が高いスラグは次の反応により金属鉄をスラグ化できる。
Fe+Fe2O3→3FeO
2FeO+SiO2→2FeO・SiO2
【0027】
したがって、リサイクル炉において、スラグの融点を下げるために、溶剤として、SiO2源が必要である。
【0028】
上記リサイクル炉による産業廃棄物の処理のほか、非鉄製錬炉においても、スラグの溶剤としてSiO2源が必要である。例えば、銅製錬炉では、銅精鉱を酸化反応させて銅品位65%程度の銅マットと、FeやSiが主成分のスラグを製造する自溶炉や、銅マットを酸化反応させて、銅品位99%程度の粗銅を製造する転炉などがある。自溶炉や転炉では酸化反応熱により原料を溶融状態にして保持し、銅マットとスラグ、または粗銅とスラグの2相に分離してそれぞれ回収するが、適切なスラグ組成にして溶融時の融点を下げる目的で溶剤が添加される。
【0029】
銅製錬の溶剤にはさまざまな種類があるが、SiO2を主成分とするケイ酸鉱を用いるのが一般的である。珪酸鉱を溶剤として用いる場合、自溶炉や転炉では以下の反応が発生する。
自溶炉:CuFeS2+SiO2+O2→Cu2S・FeS+2FeO・SiO2+SO2
転炉:Cu2S・FeS+SiO2+O2→Cu+2FeO・SiO2+SO2
【0030】
合成木材に含まれるガラス繊維にはさまざまな種類があるが、ケイ素系酸化物を主成分とするガラス繊維が一般的である。ケイ素系酸化物とは、ケイ素を含む無機酸化物を意味する。そのため、合成木材の焼却残渣は、リサイクル炉や銅製錬炉のスラグの溶剤のSiO2源として用いることが可能である。また、銅製錬炉の中でも、銅精鉱の処理量が大きく、より多くのSiO2源を必要とする自溶炉に、合成木材の焼却残渣を供給することで、より多くの処理量を期待できる。
【0031】
ただし、合成木材に含まれるガラス繊維には、アルミナの形でAlが添加されることがあるため、スラグのSiO2源として不要な成分も含まれる。そのため、合成木材の焼却残渣は、他のSiO2源と混合してから、リサイクル炉や非鉄製錬炉に供給することが好ましい。合成木材の焼却残渣と他のSiO2源を十分に混合させることで、成分の急激な変動を回避することができ、安定したスラグの形成が可能である。もっとも、合成木材の焼却残渣の体積が小さく、リサイクル炉や非鉄製錬炉内の溶剤の成分に対する影響が小さい場合、焼却残渣をそのまま供給することも可能である。
【0032】
また、珪酸鉱を自溶炉などの非鉄製錬炉のSiO2源として使用する場合、珪酸鉱を粉砕装置により粉砕してから非鉄製錬炉に投入することが通常であるが、合成木材の焼却残渣も、投入する前に粉砕することが好ましい。これにより、さらに成分の均一化を図ることが可能である。
【0033】
そして、本発明の合成木材のリサイクル方法のもう一つの実施形態は、本発明の合成木材の焼却処理方法のいずれかの実施形態により得られた焼却残渣の少なくとも一部をセメントの原材料として用いることを含む。
【0034】
セメントの原材料には、炭酸カルシウムを主成分とする石灰石原料と、二酸化ケイ素と酸化アルミニウム(アルミナ)を主成分とする粘土原料と、二酸化ケイ素を主成分とする珪石原料と、酸化鉄原料などがある。セメントの原材料に含まれ得る不純物としては、塩素やクロム、その他重金属(銅・鉛など)があるが、これらの不純物が少ないことが好ましい。セメントの原材料は一般に、キルンなどの焼成窯で最高1450℃で焼成されてクリンカーとなり、冷却、粉砕等の仕上げによりセメントとなる。
【0035】
一方、後述のように、合成木材の焼却残渣には、カルシウム、ケイ素、及びアルミニウムが豊富に含まれているが、上記不純物元素の量は少ないか、ほとんどない。そのため、焼却残渣を他の従来のセメントの原材料と混合するなどして焼成すれば、所定の組成のクリンカーを得ることが可能である。したがって、合成木材の焼却残渣をセメントの原材料として好適に用いることができる。
【実施例】
【0036】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0037】
(実施例1)
寸法が長さ2,600mm×幅200mm×厚さ200mmの合成枕木を用意した。合成枕木の組成は、アルミナ硼ケイ酸ガラス(Eガラス)が50質量%、ポリメチレンポリフェニルポリイソシアネート・ポリオール化合物が50質量%のガラス繊維強化発泡ウレタンであった。
【0038】
この合成枕木の長さ方向中央部を切断して、長さ1,300mmの切片にしたうえ、容積25.8m3の固定床炉内に入れて、4時間焼却した。焼却の間の炉内温度は850℃~900℃の範囲内に制御した。焼却後、焼却残渣の一部がガラス繊維束になっていることが確認できた。
【0039】
また、同じ合成枕木を用意して、上記手順を繰り返して試験した。合成枕木の切片は長尺状であるため、焼却残渣も長尺状であった。そこで、それぞれの試験の後、焼却残渣の長さ方向中心付近において、厚さ方向の中心付近及び表面付近から、それぞれ100gのサンプル(1回目の試験はサンプル1及び2、2回目の試験はサンプル3及び4)を採取し、ICP発光分光分析法(ICP-AES)により元素の組成を特定した。また、2つのサンプルを合わせて1サンプルとして前述の用法により熱灼減量を測定し、測定値をそれぞれの試験により得られた焼却残渣全体の熱灼減量とした。結果を表1に示す。
【0040】
【0041】
表1から分かるように、合成枕木を所定の条件で焼却することにより、10%未満の熱灼減量を得ることができた。また、焼却残渣のうち、Si元素の量は酸化物換算で60質量%前後あるので、スラグの溶剤として用いることが可能であることが分かった。Siのほか、Al元素は酸化物換算で14質量%前後あり、Ca元素も酸化物換算で23質量%前後あり、これら3元素の酸化物換算の合計が100質量%に近く、不純物とされるCrの量が非常に少ないので、セメントの原材料として好適に使用することができることが分かった。
【0042】
(実施例2)
合成枕木の厚さを半分にした際の全体の熱灼減量の変化を調査した。具体的には、寸法が長さ2,600mm×幅120mm×厚さ150mmの合成枕木を用意した。合成枕木の組成は、アルミナ硼ケイ酸ガラス(Eガラス)が50質量%、ポリメチレンポリフェニルポリイソシアネート・ポリオール化合物が50質量%のガラス繊維強化発泡ウレタンであった。
【0043】
この合成枕木を長さ250mmの小さい切片に切断し、そのうちの一つの切片を容積25.8m3の固定床炉内に入れて、3時間焼却した。焼却の間の炉内温度は800℃~850℃の範囲内に制御した。次に、もう一つの切片を厚さ方向において半分に切断して、長さ250mm×幅120mm×厚さ75mmの2つの切片とし、この2つの切片を同じ焼却炉の同じ場所に設置して、同じ条件で焼却した。焼却後、焼却残渣の一部がガラス繊維束になっていることが確認できた。
【0044】
2回の試験の焼却後、実施例1と同様の方法によりサンプルを採取し、熱灼減量を測定した。なお、焼却の効率を比較するために、焼却前の枕木の切片の総重量、及び焼却後の焼却残渣の総重量も量った。結果を表2に示す。
【0045】
【0046】
表2から分かるように、合成枕木をより小さい切片に切断してから焼却することで、焼却の効率が向上し、よりよい(低い)熱灼減量が得られた。
【0047】
(実施例3)
合成枕木の切片を櫓状に組んで載置した状態で焼却した場合の熱灼減量の変化を調査した。具体的には、寸法が長さ2,600mm×幅150mm×厚さ150mmの合成枕木を用意した。合成枕木の組成は、アルミナ硼ケイ酸ガラス(Eガラス)が50質量%、ポリメチレンポリフェニルポリイソシアネート・ポリオール化合物が50質量%のガラス繊維強化発泡ウレタンであった。
【0048】
合成枕木から長さ1,200mmの切片を切り出し、寸法が長さ1,200mm×幅150mm×厚さ150mmの切片を複数用意し、
図1に示されるように、4本の切片を間隔をあけて並べて1層とし、6層まで積み上げた状態で、網状の金属かご内に収納した状態で、容積25.8m
3の固定床炉内に入れて、4時間焼却した。焼却の間の炉内温度は850℃~900℃の範囲内に制御した。
【0049】
焼却後、元の枕木の切片の形状に近い形で焼却残渣が堆積していたが、そのうちの一部の焼却残渣を取り出してみると、焼却残渣の一部がガラス繊維束になっていることが確認できた(
図2)。焼却残渣長さ方向中心付近において、厚さ方向の中心付近、表面付近、及び中心と表面の真ん中付近から、それぞれ50gサンプルを採取し、前述の方法により熱灼減量を測定した。なお、焼却の効率を評価するために、焼却前の枕木の切片の総重量、及び焼却後の焼却残渣の総重量も量った。結果を表3に示す。
【0050】
【0051】
表3から分かるように、合成枕木の切片を櫓状に組んで載置した状態で焼却した場合であっても、高い効率の焼却することができ、その結果10%未満の熱灼減量が得られた。