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特許7628051RuO4ガスの発生抑制剤及びRuO4ガスの発生抑制方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-30
(45)【発行日】2025-02-07
(54)【発明の名称】RuO4ガスの発生抑制剤及びRuO4ガスの発生抑制方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/304 20060101AFI20250131BHJP
   H01L 21/306 20060101ALI20250131BHJP
   C23F 1/40 20060101ALI20250131BHJP
【FI】
H01L21/304 647Z
H01L21/304 647A
H01L21/306 F
C23F1/40
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2021067587
(22)【出願日】2021-04-13
(62)【分割の表示】P 2020569922の分割
【原出願日】2020-09-23
(65)【公開番号】P2022008046
(43)【公開日】2022-01-13
【審査請求日】2023-09-22
(31)【優先権主張番号】P 2019176727
(32)【優先日】2019-09-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2019193081
(32)【優先日】2019-10-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2019211875
(32)【優先日】2019-11-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2020045869
(32)【優先日】2020-03-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2020117652
(32)【優先日】2020-07-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003182
【氏名又は名称】株式会社トクヤマ
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 伴光
(72)【発明者】
【氏名】吉川 由樹
(72)【発明者】
【氏名】下田 享史
(72)【発明者】
【氏名】根岸 貴幸
【審査官】小▲高▼ 孔頌
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-193340(JP,A)
【文献】特開2009-006469(JP,A)
【文献】特開2002-161381(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/0329279(US,A1)
【文献】国際公開第2011/074601(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/068183(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/304
H01L 21/306
C23F 1/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
オニウムイオンと臭素含有イオンから成るオニウム塩を含む、RuOガスの発生抑制剤を含む、ルテニウム処理液であって、
前記オニウム塩が、式(1)で示される第四級オニウム塩、式(2)で示される第三級オニウム塩、式(3)で示されるオニウム塩、または式(4)で示されるオニウム塩である、RuOガスの発生抑制剤を含む、ルテニウム処理液。
【化1】

【化2】

【化3】

【化4】

(式(1)中、Aはアンモニウムイオン、又はホスホニウムイオンであり、R、R、R、Rは独立して、炭素数1~12のアルキル基、アリル基、炭素数1~25のアルキル基を有するアラルキル基、又はアリール基である。ただし、R、R、R、Rがアルキル基である場合、R、R、R、Rのうち少なくとも1つのアルキル基の炭素数が2以上である。また、アラルキル基中のアリール基及びアリール基の環において少なくとも1つの水素原子は、フッ素原子、塩素原子、炭素数1~10のアルキル基、炭素数2~10のアルケニル基、炭素数1~9のアルコキシ基、又は炭素数2~9のアルケニルオキシ基で置き換えられてもよく、これらの基において、少なくとも1つの水素原子は、フッ素原子又は塩素原子で置き換えられてもよい。
式(2)中、Aはスルホニウムイオンであり、R、R、Rは独立して、アリール基である
式(3)中、Zは、窒素原子、硫黄原子、酸素原子を含んでもよい脂環式基であり、該脂環式基において、炭素原子又は窒素原子に結合している水素原子は、塩素原子、臭素原子、フッ素原子、ヨウ素原子、少なくとも1つの炭素数1~15のアルキル基、少なくとも1つの炭素数2~9のアルケニルオキシ基、少なくとも1つの炭素数1~15のアルキル基で置換されてもよい芳香族基、又は、少なくとも1つの炭素数1~15のアルキル基で置換されてもよい脂環式基を有していてもよい。Aは、アンモニウムイオン又はスルホニウムイオンである。Rは塩素原子、臭素原子、フッ素原子、ヨウ素原子、炭素数1~15のアルキル基、アリル基、少なくとも1つの炭素数1~15のアルキル基で置換されてもよい芳香族基、又は少なくとも1つの炭素数1~15のアルキル基で置換されてもよい脂環式基である。nは1又は2の整数であり、Rの数を示す。nが2の場合、Rは同一又は異なっていてもよく、環を形成してもよい。
式(4)中、Aは独立して、アンモニウムイオン、又はホスホニウムイオンであり、R、R、R、R、R、Rは独立して、炭素数1~のアルキル基であるaは1~10の整数である。
式(1)~(4)中、Xは臭素含有イオンである。)
【請求項2】
前記第四級オニウム塩が、テトラエチルアンモニウムイオン、テトラプロピルアンモニウムイオン、テトラブチルアンモニウムイオン、テトラペンチルアンモニウムイオンおよびテトラへキシルアンモニウムイオンの群から選ばれる少なくとも一種のアンモニウムイオンから成る塩である、請求項1に記載のルテニウム処理液。
【請求項3】
前記臭素含有イオンが、亜臭素酸イオン、臭素酸イオン、過臭素酸イオン、次亜臭素酸イオン、または臭化物イオンである、請求項1または2に記載のルテニウム処理液。
【請求項4】
前記RuOガスの発生抑制剤が、臭素含有イオンとは異なる酸化剤を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載のルテニウム処理液。
【請求項5】
前記酸化剤が、次亜塩素酸イオンまたはオゾンを含む酸化剤である、請求項4に記載のルテニウム処理液。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体素子の製造工程において、ルテニウムを含む半導体ウェハと処理液を接触させた際に発生するルテニウム含有ガス(RuOガス)を抑制するための新規なRuOガスの発生抑制剤及びRuOガスの発生抑制方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体素子のデザインルールの微細化が進んでおり、配線抵抗が増大する傾向にある。配線抵抗が増大した結果、半導体素子の高速動作が阻害されることが顕著になっており、対策が必要となっている。そこで、配線材料としては、従来の配線材料よりも、エレクトロマイグレーション耐性や抵抗値の低減された配線材料が所望されている。
【0003】
従来の配線材料であるアルミニウム、銅と比較して、ルテニウムは、エレクトロマイグレーション耐性が高く、配線の抵抗値を低減可能という理由で、特に、半導体素子のデザインルールが10nm以下の配線材料として、注目されている。その他、配線材料だけでなく、ルテニウムは、配線材料に銅を使用した場合でも、エレクトロマイグレーションを防止することが可能なため、銅配線用のバリアメタルとして、ルテニウムを使用することも検討されている。
【0004】
ところで、半導体素子の配線形成工程において、ルテニウムを配線材料として選択した場合でも、従来の配線材材料と同様に、ドライ又はウェットのエッチングによって配線が形成される。しかしながら、ルテニウムはエッチングガスによるドライでのエッチングやCMP研磨によるエッチング、除去が難しいため、より精密なエッチングが所望されており、具体的には、ウェットエッチングが注目されている。
【0005】
ルテニウムをアルカリ性条件下でウェットエッチングする場合、ルテニウムは、例えばRuO やRuO 2-として処理液中に溶解する。RuO やRuO 2-は、処理液中でRuOへと変化し、その一部がガス化して気相へ放出される。RuOは強酸化性であるため人体に有害であるばかりでなく、容易に還元されてRuOパーティクルを生じる。一般的に、パーティクルは歩留まり低下を招くため半導体形成工程において大きな問題となる。このような背景から、RuOガスの発生を抑制する事は非常に重要となる。
【0006】
特許文献1には、ルテニウム膜のエッチング液として、pHが12以上、かつ酸化還元電位が300mV vs.SHE以上である薬液が示されている。さらに、次亜塩素酸塩、亜塩素酸塩、又は臭素酸塩のようなハロゲンの酸素酸塩溶液を用いてルテニウム膜をエッチングする方法が提示されている。
【0007】
また、特許文献2には、オルト過ヨウ素酸を含むpH11以上の水溶液により、ルテニウムを酸化、溶解、除去する方法が提案されている。
【0008】
特許文献3には、ルテニウムの化学機械研磨(CMP)において、RuOガスを発生しないようなルテニウム配位酸化窒素配位子(N-O配位子)を含むCMPスラリーが示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2002-161381号公報
【文献】国際公開第2016/068183号
【文献】特開平5-314019号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、本発明者の検討によれば、先行技術文献1~3に記載された従来のエッチング液では、以下の点で改善の余地があることが分かった。
【0011】
例えば、特許文献1に記載のルテニウムをエッチングする方法は、半導体基板の裏面やベベルに付着したルテニウム残渣の除去を目的としており、ルテニウムを溶解、除去することは可能である。しかしながら、特許文献1ではRuOガスの抑制について何ら言及されておらず、実際に特許文献1に記載の方法ではRuOガス発生を抑制する事は出来なかった。
【0012】
また、特許文献2では、オルト過ヨウ素酸を含むルテニウム除去組成物が開示されており、ルテニウムが含まれるエッチング残渣をエッチング可能であることが示されている。しかしながら、特許文献2ではRuOガスの抑制について何ら言及されておらず、エッチング処理中に発生するRuOガスを抑制することは出来なかった。
【0013】
その他、特許文献3には、CMPにおいてルテニウム配位酸化窒素配位子(N-O配位子)を含むCMPスラリーを使用する事で、毒性のあるRuOガスを抑制可能である事が示されている。しかし、特許文献3で示されているCMPスラリーは酸性であり、ルテニウムの溶解機構が異なるアルカリ性条件下では、特許文献3に示されるCMPスラリー組成によるRuOガスの抑制は難しい。事実、次亜塩素酸を含むアルカリ性のルテニウムエッチング液に、特許文献3に記載のルテニウムN-O配位子を添加したところ、RuOガスが発生し、RuOガス抑制効果が無いことが確認された。
【0014】
したがって、本発明の目的は、ルテニウムを含む半導体ウェハと処理液をアルカリ性条件下において接触させる際に発生する、RuOガスを抑制可能なRuOガスの発生抑制剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは、上記の課題を解決するために鋭意検討を行った。そして、ルテニウムを含む半導体ウェハ用処理液に、種々のオニウム塩を添加することを検討した。単にルテニウムを含む半導体ウェハ用処理液だけでは、RuOガスを抑制することが出来ないため、様々な添加成分を組み合せた。その結果、特定のオニウム塩を添加することにより、RuOガスの発生を抑制することが可能になることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0016】
すなわち、本発明の構成は以下の通りである。
項1 オニウムイオンと臭素含有イオンから成るオニウム塩を含む、RuOガスの発生抑制剤。
項2 前記オニウム塩が、式(1)で示される第四級オニウム塩、式(2)で示される第三級オニウム塩、式(3)で示されるオニウム塩、または式(4)で示されるオニウム塩である、項1に記載のRuOガスの発生抑制剤。
【0017】
【化1】
【0018】
【化2】
【0019】
【化3】
【0020】
【化4】
(式(1)中、Aはアンモニウムイオン、又はホスホニウムイオンであり、R、R、R、Rは独立して、炭素数1~25のアルキル基、アリル基、炭素数1~25のアルキル基を有するアラルキル基、又はアリール基である。ただし、R、R、R、Rがアルキル基である場合、R、R、R、Rのうち少なくとも1つのアルキル基の炭素数が2以上である。また、アラルキル基中のアリール基及びアリール基の環において少なくとも1つの水素原子は、フッ素原子、塩素原子、炭素数1~10のアルキル基、炭素数2~10のアルケニル基、炭素数1~9のアルコキシ基、又は炭素数2~9のアルケニルオキシ基で置き換えられてもよく、これらの基において、少なくとも1つの水素原子は、フッ素原子又は塩素原子で置き換えられてもよい。
式(2)中、Aはスルホニウムイオンであり、R、R、Rは独立して、炭素数1~25のアルキル基、アリル基、炭素数1~25のアルキル基を有するアラルキル基、又はアリール基である。ただし、R、R、Rがアルキル基である場合、R、R、Rのうち少なくとも1つのアルキル基の炭素数が2以上である。また、アラルキル基中のアリール基及びアリール基の環において少なくとも1つの水素原子は、フッ素原子、塩素原子、炭素数1~10のアルキル基、炭素数2~10のアルケニル基、炭素数1~9のアルコキシ基、又は炭素数2~9のアルケニルオキシ基で置き換えられてもよく、これらの基において、少なくとも1つの水素原子は、フッ素原子又は塩素原子で置き換えられてもよい。
式(3)中、Zは、窒素原子、硫黄原子、酸素原子を含んでもよい芳香族基又は脂環式基であり、該芳香族基又は該脂環式基において、炭素原子又は窒素原子に結合している水素原子は、塩素原子、臭素原子、フッ素原子、ヨウ素原子、少なくとも1つの炭素数1~15のアルキル基、少なくとも1つの炭素数2~9のアルケニルオキシ基、少なくとも1つの炭素数1~15のアルキル基で置換されてもよい芳香族基、又は、少なくとも1つの炭素数1~15のアルキル基で置換されてもよい脂環式基を有していてもよい。Aは、アンモニウムイオン又はスルホニウムイオンである。Rは塩素原子、臭素原子、フッ素原子、ヨウ素原子、炭素数1~15のアルキル基、アリル基、少なくとも1つの炭素数1~15のアルキル基で置換されてもよい芳香族基、又は少なくとも1つの炭素数1~15のアルキル基で置換されてもよい脂環式基である。nは1又は2の整数であり、Rの数を示す。nが2の場合、Rは同一又は異なっていてもよく、環を形成してもよい。
式(4)中、Aは独立して、アンモニウムイオン、又はホスホニウムイオンであり、R、R、R、R、R、Rは独立して、炭素数1~25のアルキル基、アリル基、炭素数1~25のアルキル基を有するアラルキル基、又はアリール基である。アラルキル基中のアリール基及びアリール基の環において少なくとも1つの水素原子は、フッ素原子、塩素原子、炭素数1~10のアルキル基、炭素数2~10のアルケニル基、炭素数1~9のアルコキシ基、又は炭素数2~9のアルケニルオキシ基で置き換えられてもよく、これらの基において、少なくとも1つの水素原子は、フッ素原子又は塩素原子で置き換えられてもよい。aは1~10の整数である。
式(1)~(4)中、Xは臭素含有イオンである。)
項3 前記第四級オニウム塩が、テトラエチルアンモニウムイオン、テトラプロピルアン
モニウムイオン、テトラブチルアンモニウムイオン、テトラペンチルアンモニウムイオン、およびテトラへキシルアンモニウムイオンの群から選ばれる少なくとも一種のアンモニウムイオンから成る塩である、項2に記載のRuOガスの発生抑制剤。
項4 前記オニウム塩のRuOガスの発生抑制剤中における濃度が、0.0001~50質量%である、項1~3のいずれか一項に記載のRuOガスの発生抑制剤。
項5 前記臭素含有イオンが、亜臭素酸イオン、臭素酸イオン、過臭素酸イオン、次亜臭素酸イオン、または臭化物イオンである、項1~4のいずれか一項に記載のRuOガスの発生抑制剤。
項6 前記RuOガスの発生抑制剤中における次亜臭素酸イオン濃度が0.001mol/L以上0.20mol/L以下である、項1~5のいずれか一項に記載のRuOガスの発生抑制剤。
項7 前記RuOガスの発生抑制剤中における次亜臭素酸イオン濃度が0.01mol/L以上0.10mol/L以下である、項1~6のいずれか一項に記載のRuOガスの発生抑制剤。
項8 前記RuOガスの発生抑制剤の25℃におけるpHが8以上14以下である、項1~7のいずれか一項に記載のRuOガスの発生抑制剤。
項9 前記RuOガスの発生抑制剤の25℃におけるpHが12以上13以下である、項1~8のいずれか一項に記載のRuOガスの発生抑制剤。
項10 前記RuOガスの発生抑制剤が、臭素含有イオンとは異なる酸化剤を含む、項1~9のいずれか一項に記載のRuOガスの発生抑制剤。
項11 前記酸化剤が、次亜塩素酸イオンまたはオゾンを含む酸化剤である、項10に記載のRuOガスの発生抑制剤。
項12 項1~11のいずれか一項に記載のRuOガスの発生抑制剤を用いる工程を含む、RuOガスの発生を抑制する方法。
【発明の効果】
【0021】
本発明のRuOガスの発生抑制剤によれば、オニウム塩の効果により、半導体製造工程においてパーティクル、及び歩留まり低下の原因となるRuOガスの発生を抑制することが出来る。また、選択可能なpH範囲と酸化剤の種類が増えるため、適切な酸化剤を選択する事により安定な処理液の実現が可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
(RuOガスの発生抑制剤)
RuOガスの発生抑制剤とは、ルテニウムを処理するための液(以下、ルテニウム処理液と記す)に添加する事で、RuOガスの発生を抑制する組成物であり、オニウムイオンと臭素含有イオンから成るオニウム塩を含む液を指す。
【0023】
ルテニウム処理液とは、ルテニウムと接触し、該ルテニウムに物理的、化学的変化を与える成分を含む液を指す。例えば、半導体製造工程におけるエッチング工程、残渣除去工程、洗浄工程、CMP工程等のルテニウムを処理する工程において使用する液が挙げられる。これら半導体製造工程に使用した各装置において、チャンバー内壁や配管等に付着したルテニウムを洗浄するための液も含まれる。
【0024】
ルテニウム処理液により処理されたルテニウムは、その全部または一部が該ルテニウム処理液中に溶解、分散、または沈殿し、RuO(ガス)及び/またはRuO(粒子)を生じる原因となる。ルテニウム処理液へ、本発明のRuOガスの発生抑制剤を添加する事で、該ルテニウム処理液中に存在するRuO やRuO 2-のようなアニオン(以下、RuO 等と記すこともある)と、オニウムイオンとが、該ルテニウム処理液に溶解するイオン対を形成することで、RuOガス及び/またはRuOの発生を抑制する事ができる。
【0025】
(オニウム塩)
本発明のRuOガスの発生抑制剤には、RuOガスの発生を抑制するために、オニウム塩が含まれている。該オニウム塩は、オニウムイオンと臭素含有イオンから成る。ここで、臭素含有イオンは、臭素を含有して成るイオンであり、一例として亜臭素酸イオン、臭素酸イオン、過臭素酸イオン、次亜臭素酸イオン、または臭化物イオンなどが挙げられる。
本発明のRuOガスの発生抑制剤に含まれるオニウム塩がRuOガス抑制能を発揮するためには、該オニウム塩がオニウムイオンと臭素含有イオンに解離する必要がある。該オニウム塩の解離により生じたオニウムイオンがRuO 等と相互作用し、RuOガスの発生を抑制するためである。ハロゲン含有イオンを含むオニウム塩は解離しやすく、溶解性に優れ、オニウムイオンを安定に供給できることから、本発明のRuOガスの発生抑制剤に含まれるオニウム塩として用いることができる。中でも、臭素含有イオンを含むオニウム塩は、塩素含有イオンやフッ素含有イオンを含むオニウム塩よりも安定性が高く、合成しやすいため、高純度品が工業的に安価に入手可能である。また、臭素含有イオンを含むオニウム塩は、ヨウ素含有イオンを含むものに比べて、単位重量当たりのオニウムイオンが多いという利点がある。よって、RuOガスの発生抑制剤に含まれるオニウム塩は、臭素含有イオンを含む。
【0026】
上記オニウム塩が含まれる事によって、ルテニウム処理液からのRuOガスの発生が抑制される。すなわち、ルテニウムの溶解により発生したRuO 等が、オニウムイオンとの静電的な相互作用によりルテニウム処理液中にトラップされる。トラップされたRuO 等はイオン対として処理液中で比較的安定に存在するため、容易にRuOへと変化しない。これにより、RuOガスの発生が抑制されると共に、RuOパーティクルの発生も抑えられる。
【0027】
RuOガスを抑制する効果のあるオニウム塩としては、下記式(1)~(4)で示されるものが好ましい。
【0028】
【化5】
(式(1)中、Aはアンモニウムイオン、又はホスホニウムイオンであり、R、R、R、Rは独立して、炭素数1~25のアルキル基、アリル基、炭素数1~25のアルキル基を有するアラルキル基、又はアリール基である。ただし、R、R、R、Rがアルキル基である場合、R、R、R、Rのうち少なくとも1つのアルキル基の炭素数が2以上である。また、アラルキル基中のアリール基及びアリール基の環において少なくとも1つの水素原子は、フッ素原子、塩素原子、炭素数1~10のアルキル基、
炭素数2~10のアルケニル基、炭素数1~9のアルコキシ基、又は炭素数2~9のアルケニルオキシ基で置き換えられてもよく、これらの基において、少なくとも1つの水素は、フッ素又は塩素で置き換えられてもよい。Xは臭素含有イオンである。)
【0029】
【化6】
(式(2)中、Aはスルホニウムイオンであり、R、R、Rは独立して、炭素数1~25のアルキル基、アリル基、炭素数1~25のアルキル基を有するアラルキル基、又はアリール基である。ただし、R、R、Rがアルキル基である場合、R、R、Rのうち少なくとも1つのアルキル基の炭素数が2以上である。また、アラルキル基中のアリール基及びアリール基の環において少なくとも1つの水素原子は、フッ素原子、塩素原子、炭素数1~10のアルキル基、炭素数2~10のアルケニル基、炭素数1~9のアルコキシ基、又は炭素数2~9のアルケニルオキシ基で置き換えられてもよく、これらの基において、少なくとも1つの水素原子は、フッ素原子又は塩素原子で置き換えられてもよい。Xは臭素含有イオンである。)
【0030】
上記式(1)又は(2)におけるR、R、R、Rのアルキル基は独立して、1~25であれば特に制限されずに使用することが出来る。炭素数が大きいほど、具体的には炭素数が例えば3以上であると、オニウムイオンがRuO 等とより強く相互作用するため、RuOガスは抑制されやすい。一方、炭素数が大きいほどオニウムイオンが嵩高くなるため、RuO 等と静電的相互作用を生じた際に生じるイオン対がルテニウム処理液に溶けにくくなり、沈殿物が生じる。この沈殿物はパーティクルとなって半導体素子の歩留まり低下を引き起こす原因となる。また、炭素数が大きいものほどルテニウム処理液に対する溶解度は小さく、該処理液中に気泡を生成しやすい。溶解度が高いと、処理液中により多くのオニウム塩を溶解する事が可能となるため、RuOガスの抑制効果が高くなる。逆に、炭素数が小さいと、オニウムイオンとRuO 等との相互作用が弱くなるため、RuOガス抑制効果が弱くなる。よって、式(1)又は(2)におけるアルキル基の炭素数は独立して、1~25であることが好ましく、2~10であることがより好ましく、3~6であることが最も好ましい。ただし、式(1)のR、R、R、Rがアルキル基である場合、R、R、R、Rのうち少なくとも1つのアルキル基の炭素数が2以上であってもよく、式(2)のR、R、Rがアルキル基である場合、R、R、Rのうち少なくとも1つのアルキル基の炭素数が2以上であってもよい。このような炭素数のアルキル基を有するオニウム塩であれば、RuO 等との相互作用によりRuOガスの発生を抑制でき、かつ沈殿物を生成しにくいため、RuOガスの発生抑制剤として好適に使用できる。
【0031】
上記式(1)又は(2)におけるR、R、R、Rのアリール基は独立して、芳香族炭化水素だけでなくヘテロ原子を含むヘテロアリールも含み、特に制限はないが、フェニル基、ナフチル基が好ましい。ヘテロ原子としては、例えば窒素、酸素、硫黄、リン
、塩素、臭素、ヨウ素を挙げることができる。
【0032】
上記式(1)、(2)で示される第四級および第三級オニウム塩は、RuOガスの発生抑制剤またはルテニウム処理液中で安定に存在し得るアンモニウムイオン、ホスホニウムイオンおよびスルホニウムイオンからなる塩である。一般に、これらイオンのアルキル鎖長は容易に制御でき、さらに、アリル基やアリール基を導入することも容易である。これにより、該イオンの大きさ、対称性、親水性、疎水性、安定性、溶解性、電荷密度、界面活性能等を制御することが可能であり、該イオンからなる塩も同様な制御が可能となる。このような塩は、本発明の式(1)、(2)で表されるオニウム塩として用いることができる。
【0033】
【化7】
(式(3)中、Zは、窒素原子、硫黄原子、酸素原子を含んでもよい芳香族基又は脂環式基であり、該芳香族基又は該脂環式基において、炭素原子又は窒素原子に結合している水素原子は、塩素原子、臭素原子、フッ素原子、ヨウ素原子、少なくとも1つの炭素数1~15のアルキル基、少なくとも1つの炭素数2~9のアルケニルオキシ基、少なくとも1つの炭素数1~15のアルキル基で置換されてもよい芳香族基、又は、少なくとも1つの炭素数1~15のアルキル基で置換されてもよい脂環式基を有していてもよい。Aは、アンモニウムイオン又はスルホニウムイオンである。Rは塩素原子、臭素原子、フッ素原子、ヨウ素原子、炭素数1~15のアルキル基、アリル基、少なくとも1つの炭素数1~15のアルキル基で置換されてもよい芳香族基、又は少なくとも1つの炭素数1~15のアルキル基で置換されてもよい脂環式基である。nは1又は2の整数であり、Rの数を示す。nが2の場合、Rは同一又は異なっていてもよく、環を形成してもよい。Xは臭素含有イオンである。)
【0034】
上記の構造を持つオニウム塩は、アルカリ性のRuOガスの発生抑制剤またはルテニウム処理液の中で安定に存在しうる。また、上記式(3)中、Zの該芳香族基又は該脂環式基の炭素原子又は窒素原子に結合している水素原子を、適した炭素数を有する、アルキル基、アルケニルオキシ基で置換した芳香族基、又はアルキル基で置換した脂環式基とすることや、Rのアルキル基、アリル基、アルキル基で置換されてもよい芳香族基、アルキル基で置換されていてもよい脂環式基を適宜、選択することで、該オニウム塩のRuOガスの発生抑制剤またはルテニウム処理液への溶解度、及びオニウムイオンとRuO 等とのイオン対の安定性を制御することが可能である。
【0035】
このようなオニウムイオンとしては、イミダゾリウムイオン、ピロリジニウムイオン、ピリジニウムイオン、ピペリジニウムイオン、アンモニウムイオン、ホスホニウムイオン、フルオロニウムイオン、クロロニウムイオン、ブロモニウムイオン、ヨードニウムイオン、オキソニウムイオン、スルホニウムイオン、セレノニウムイオン、テルロニウムイオン、アルソニムイオン、スチボニウムイオン、ビスムトニウムイオン等の陽イオンであり、イミダゾリウムイオン、ピロリジニウムイオン、ピリジニウムイオン、ピペリジニウム
イオン、オキサゾリウムイオンが好ましい。
【0036】
これらのオニウムイオンから成るオニウム塩の具体例を挙げると、1-ブチル-2,3-ジメチルイミダゾリウムブロミド、1-ヘキシル-3-メチルイミダゾリウムブロミド、1-メチル-3-n-オクチルイミダゾリウムブロミド、1-ブチル-1-メチルピロリジニウムブロミド、1-エチル-1-メチルピロリジニウムブロミド、1-ブチル-1-メチルピペリジニウムブロミド、5-アゾニアスピロ〔4,4〕ノナンブロミド、1-メチルピリジニウムブロミド、1-エチルピリジニウムブロミド、1-プロピルピリジニウムブロミド等が挙げられる。
【0037】
【化8】
(式(4)中、Aは独立して、アンモニウムイオン、又はホスホニウムイオンであり、R、R、R、R、R、Rは独立して、炭素数1~25のアルキル基、アリル基、炭素数1~25のアルキル基を有するアラルキル基、又はアリール基である。アラルキル基中のアリール基及びアリール基の環において少なくとも1つの水素原子は、フッ素原子、塩素原子、炭素数1~10のアルキル基、炭素数2~10のアルケニル基、炭素数1~9のアルコキシ基、又は炭素数2~9のアルケニルオキシ基で置き換えられてもよく、これらの基において、少なくとも1つの水素原子は、フッ素原子又は塩素原子で置き換えられてもよい。aは1~10の整数である。Xは臭素含有イオンである。)
【0038】
上記式(4)におけるR、R、R、R、R、Rのアルキル基は独立して、1~25であれば特に制限されずに使用することが出来る。上記式(1)に示すオニウム塩の価数は1であったが、式(4)に示すものは価数が2のジカチオンであるため、RuO 等とより強い静電的相互作用により結び付きやすい。このため、式(4)におけるアルキル基の炭素数は、式(1)に比べて小さい場合でも、RuOガスの抑制効果を示す。以上の理由から、式(4)におけるアルキル基の炭素数は独立して、1~25であることが好ましく、1~10であることがより好ましく、1~6であることが最も好ましい。このような炭素数のアルキル基を有するオニウム塩であれば、RuO 等との相互作用によりRuOガス発生を抑制でき、かつ沈殿物を生成しにくいため、RuOガスの発生抑制剤として好適に使用できる。
【0039】
上記式(4)におけるR、R、R、R、R、Rのアリール基は独立して、芳香族炭化水素だけでなくヘテロ原子を含むヘテロアリールも含み、特に制限はないが、フェニル基、ナフチル基が好ましい。ヘテロ原子としては、例えば窒素、酸素、硫黄、リン、塩素、臭素、ヨウ素を挙げることができる。
【0040】
上記式(4)で示されるオニウム塩は、RuOガスの発生抑制剤またはルテニウム処理液内で安定に存在し得るアンモニウムイオン又はホスホニウムイオンから成る。一般に、アンモニウムイオン又はホスホニウムイオンのアルキル鎖長は容易に制御でき、さらに、アリル基やアリール基を導入することも容易である。これにより、アンモニウムイオン
又はホスホニウムイオンの大きさ、対称性、親水性、疎水性、安定性、溶解性、電荷密度、界面活性能等を制御することが可能である。
【0041】
上記式(4)で示される好適に用いる事ができるオニウム塩としては、ヘキサメトニウムブロミド、デカメトニウムブロミドを挙げることができる。これらのオニウム塩を含むRuOガスの発生抑制剤は特に、ルテニウムの処理において、RuOガスおよびRuOパーティクルの発生を抑制する事ができる。
【0042】
本発明のRuOガスの発生抑制剤に含まれる、式(1)に示す第四級オニウム塩としては、安定性が高く、高純度品が工業的に入手しやすく、安価であるといった理由からアンモニウム塩であることが好ましい。中でも、安定性に特に優れ、容易に合成可能という理由から、該オニウム塩としては、テトラアルキルアンモニウム塩であることが好ましい。具体的には、テトラエチルアンモニウムイオン、テトラプロピルアンモニウムイオン、テトラブチルアンモニウムイオン、テトラペンチルアンモニウムイオン、又はテトラヘキシルアンモニウムイオンから成る塩を挙げることができる。該オニウム塩を含む抑制剤は、ルテニウムの処理において、特にRuOガスおよびRuOパーティクルの発生を抑制する事が可能である。
【0043】
また、本発明のRuOガスの発生抑制剤中のオニウム塩の濃度は0.0001~50質量%であることが好ましい。オニウム塩の濃度が小さすぎると、RuO 等との相互作用が弱まりRuOガス抑制効果が低減するだけでなく、ルテニウム処理液中に溶解可能なRuO 等の量が少なくなるため、該ルテニウム処理液の再使用(リユース)回数が少なくなる。一方、添加量が多すぎると、オニウムイオンのルテニウム表面への吸着量が増大し、ルテニウム溶解速度の低下や、ルテニウム表面の不均一なエッチングの原因となる。したがって、本発明のRuOガスの発生抑制剤は、オニウム塩を0.0001~50質量%含むことが好ましく、0.01~35質量%含むことがより好ましく、0.1~20質量%含むことがさらに好ましい。これらの濃度範囲は、RuOガスの発生抑制剤とルテニウム処理液とを混合した液においても、上記の濃度範囲となるように、調整することができる。なお、オニウム塩を添加するに場合には、1種のみを添加してもよいし、2種以上を組み合わせて添加してもよい。2種類以上のオニウム塩を含む場合であっても、オニウム塩の濃度の合計が上記の濃度範囲であれば、RuOガスの発生を効果的に抑制することができる。また、上記のオニウム塩の濃度範囲は、式(1)~(4)で示されるいずれのオニウム塩にも適用可能である。
【0044】
(酸化剤)
本発明のRuOガスの発生抑制剤は、酸化剤を含む事ができる。酸化剤は、半導体ウェハに含まれるルテニウムを実質的に溶解し得る能力を有するものを指す。酸化剤としてはルテニウムを溶解し得る酸化剤として公知の酸化剤を何ら制限なく用いることができる。該酸化剤の一例を挙げれば、ハロゲン酸素酸、過マンガン酸、およびこれらの塩、過酸化水素、オゾン、セリウム(IV)塩等を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。ここで、ハロゲン酸素酸は、次亜塩素酸、亜塩素酸、塩素酸、過塩素酸、次亜臭素酸、亜臭素酸、臭素酸、過臭素酸、次亜ヨウ素酸、亜ヨウ素酸、ヨウ素酸、メタ過ヨウ素酸、オルト過ヨウ素酸またはこれらのイオンを指す。該酸化剤は、ウェハに含まれるルテニウムを溶解することができるため、該酸化剤とオニウム塩を含むRuOガスの発生抑制は、ルテニウムの溶解とRuOガス抑制を同時に行うことができる。また、酸化剤を含有することで、ルテニウムの溶解が促進されると共に、析出したRuOパーティクルの再溶解が促進される。このため、オニウム塩と酸化剤を含有するRuOガスの発生抑制は、RuOガスとRuOパーティクルの発生を抑制しながら、効率的にルテニウム含有ウェハの処理を行うことができる。
【0045】
該酸化剤のうち、アルカリ性で安定して使用でき、濃度範囲を広く選択できることから、ハロゲン酸素酸、ハロゲン酸素酸のイオン、過酸化水素、またはオゾンが酸化剤として好適であり、次亜塩素酸、次亜臭素酸、メタ過ヨウ素酸、オルト過ヨウ素酸、それらのイオン、またはオゾンがより好適であり、次亜塩素酸、次亜臭素酸、次亜塩素酸イオン、次亜臭素酸イオン、またはオゾンがさらに好適であり、次亜臭素酸イオン、次亜塩素酸イオン、またはオゾンがさらに好適であり、次亜臭素酸イオン、または次亜塩素酸イオンが最も好適である。また、これらの酸化剤は塩として処理液中に存在していてもよく、該塩としては、例えば、次亜塩素酸テトラアルキルアンモニウム、または次亜臭素酸テトラアルキルアンモニウムが好適であり、次亜塩素酸テトラメチルアンモニウム、または次亜臭素酸テトラメチルアンモニウムがより好適である。なお、処理液に含まれる酸化剤としては、1種であってもよいし、2種以上が含まれていてもよい。例えば、RuOガスの発生抑制剤に酸化剤として臭素含有イオンが含まれる場合、該RuOガスの発生抑制剤は、臭素含有イオンとは異なる酸化剤をさらに含んでいてもよい。このような臭素含有イオンとは異なる酸化剤としては、次亜塩素酸イオンまたはオゾンを含む酸化剤であることが好ましく、次亜塩素酸イオンを含む酸化剤がさらに好ましい。以下、臭素含有イオンが次亜臭素酸イオンである場合を例に理由を説明する。次亜臭素酸イオンは、ルテニウム等の酸化、自然分解、紫外線による分解、熱分解、還元剤や酸との接触などによって、Brへと還元される。Brはルテニウムを溶解せず、RuOガス抑制効果が低く、RuOパーティクルを再溶解しないため、次亜臭素酸イオンの減少によりRuO発生抑制能が低下する傾向がある。本発明のRuOガスの発生抑制剤に、次亜臭素酸イオンとは異なる適切な酸化剤、例えば次亜塩素酸イオンやオゾンなど、が含まれることで、還元または分解により生じたBrを次亜臭素酸イオンに再酸化することができ、次亜臭素酸イオンの減少に起因するRuOガスの発生抑制能低下を緩やかにすることが可能となる。すなわち、次亜臭素酸イオンと適切な酸化剤が処理液に含まれることで、RuOガスの発生抑制剤の安定性が向上する。このような酸化剤としては、酸化剤/該酸化剤が還元して生じる化学種間の酸化還元電位が、次亜臭素酸イオン/Br系の酸化還元電位を超えていればよいが、中でも、効率的にBrを次亜臭素酸イオンに酸化できることから、次亜塩素酸イオンまたはオゾンが好ましい。
【0046】
上記次亜塩素酸テトラメチルアンモニウムまたは次亜臭素酸テトラメチルアンモニウムの製造方法は特に制限されず、広く公知の方法により製造したものを用いることができる。例えば、水酸化テトラメチルアンモニウムに塩素または臭素を吹き込む方法や、次亜塩素酸または次亜臭素酸と水酸化テトラメチルアンモニウムを混合する方法、イオン交換樹脂を用いて次亜塩素酸塩または次亜臭素酸塩溶液中のカチオンをテトラメチルイオンに置換する方法、次亜塩素酸塩または次亜臭素酸を含む溶液の蒸留物と水酸化テトラメチルアンモニウムを混合する方法などにより製造された、次亜塩素酸テトラメチルアンモニウムまたは次亜臭素酸テトラメチルアンモニウムを好適に用いることができる。
【0047】
本発明のRuOガスの発生抑制剤に含まれる該次亜臭素酸イオンの濃度は、本発明の目的を逸脱しない限り特に制限されることはないが、好ましくは、次亜臭素酸イオンに含まれる臭素元素量として0.001mol/L以上0.20mol/L以下であることが好ましく、0.005mol/L以上0.20mol/L以下であることがさらに好ましく、0.01mol/L以上0.10mol/L以下であることが最も好ましい。次亜臭素酸イオン濃度が低すぎると、ルテニウムの溶解により発生するRuOパーティクルを溶解できないため、RuOが半導体ウェハに付着する事で素子の歩留まり低下を招く恐れがある。また、次亜臭素酸イオン濃度が高すぎると、オニウムイオンが酸化される事で分解が促進されるため、ガス抑制効果が低下する恐れがある。このような濃度範囲に制御したRuOガスの発生抑制剤は、RuOガスとRuOパーティクルの発生を抑制しながら、効率的にルテニウム含有ウェハの処理を行うことができる。
【0048】
(pH)
本発明のRuOガスの発生抑制剤は、25℃におけるpHが、8以上14以下であることが好ましい。pHが8未満の場合、ルテニウムの溶解はRuO 等のアニオンではなくRuОやRu(ОH)を経由して起こりやすくなるため、オニウム塩によるガス抑制効果は低下しやすい。このRuОはパーティクル源となるし、さらに、pHが8未満では、RuОガスの発生量が多くなるといった問題も生じるようになる。また、pHが14より大きいと、RuOの再溶解が生じにくくなるため、RuOパーティクルの発生が問題となる。したがって、RuОガス発生抑制能を十分に発揮するためには、該抑制剤のpHは8以上14以下が好ましく、12以上13以下がより好ましい。このpH範囲であれば、溶解したルテニウムはRuO 又はRuO 2-のアニオンとして存在するため、該抑制剤に含まれるオニウムイオンとイオン対を形成しやすくなり、効果的にRuОガス発生を抑制し得る。
【0049】
(その他の成分)
本発明のRuOガスの発生抑制剤には、所望により発明の目的を損なわない範囲で、従来から半導体用処理液に使用されているその他の添加剤を配合してもよい。例えば、その他の添加剤として、酸、金属防食剤、水溶性有機溶媒、フッ素化合物、酸化剤、還元剤、錯化剤、キレート剤、界面活性剤、消泡剤、pH調整剤、安定化剤などを加えることができる。これらの添加剤は単独で添加してもよいし、複数を組み合わせて添加してもよい。
【0050】
これらの添加剤に由来して、また、RuOガスの発生抑制剤の製造上の都合などにより、本発明のRuOガスの発生抑制剤には、アルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオン等が含まれていてもよい。例えば、ナトリウムイオン、カリウムイオン、カルシウムイオン等が含まれてもよい。しかし、これらアルカリ金属イオン、及びアルカリ土類金属イオン等は、半導体ウェハ上に残留した場合、半導体素子に悪影響(半導体ウェハの歩留まり低下等の悪影響)を及ぼすことから、その量は少ない方が好ましく、実際には限りなく含まれない方がよい。そのため、例えばpH調整剤としては、水酸化ナトリウム等の水酸化アルカリ金属や水酸化アルカリ土類金属ではなく、アンモニア、アミン、コリン又は水酸化テトラアルキルアンモニウム等の有機アルカリであることが好ましい。
【0051】
具体的には、アルカリ金属イオン及びアルカリ土類金属イオンはその合計量が、1質量%以下であることが好ましく、0.7質量%以下であることがより好ましく、0.3質量%以下であることがさらに好ましく、10ppm以下であることが特に好ましく、500ppb以下であることが最も好ましい。
【0052】
本発明のRuOガスの発生抑制剤において、オニウム塩及びその他の添加剤以外の残分は水である。該抑制剤に含まれる水は、蒸留、イオン交換処理、フィルター処理、各種吸着処理などによって、金属イオンや有機不純物、パーティクル粒子などが除去された水が好ましく、特に純水、超純水が好ましい。このような水は、半導体製造に広く利用されている公知の方法で得ることができる。
【0053】
(RuОガスの発生抑制方法)
RuОガスの発生抑制方法は、本発明のRuOガスの発生抑制剤を、ルテニウム処理液に添加する工程を含む方法である。具体的には、たとえば、半導体製造工程におけるエッチング工程、残渣除去工程、洗浄工程、CMP工程等において用いるルテニウム処理液に対して、本発明のRuOガスの発生抑制剤を添加する事で、RuОガスの発生を抑制する事ができる。また、これら半導体製造工程に使用した各装置において、チャンバー内壁や配管等に付着したルテニウムを洗浄する際にも、本発明のRuOガスの発生抑制剤を用いる事でRuОガスの発生を抑制できる。例えば、物理蒸着(PVD)や化学
蒸着(CVD)、原子層堆積法(ALD)等を用いてRuを形成する装置のメンテナンスにおいて、チャンバーや配管等に付着したRuを除去する際に使用する洗浄液へ、該RuOガスの発生抑制剤を添加する事により、洗浄中に発生するRuОガスの抑制が可能となる。当該方法によれば、上述したメカニズムにより、RuОガスの発生を抑制できる。
【0054】
例えば、ルテニウム配線形成工程において本発明のRuOガスの発生抑制剤を用いる場合は、次のようになる。まず、半導体(例えばSi)からなる基体を用意する。用意した基体に対して、酸化処理を行い、基体上に酸化シリコン膜を形成する。その後、低誘電率(Low-k)膜からなる層間絶縁膜を成膜し、所定の間隔でビアホールを形成する。ビアホール形成後、熱CVDによって、ルテニウムをビアホールに埋め込み、さらにルテニウム膜を成膜する。このルテニウム膜を、該RuOガスの発生抑制剤を添加したルテニウム処理液によりエッチングすることで、RuOガス発生を抑制しながら平坦化を行う。これにより、RuOパーティクルの発生が抑制された、信頼性の高いルテニウム配線を形成できる。その他、該RuOガスの発生抑制剤を添加したルテニウム処理液は、半導体ウェハのベベルに付着したルテニウムを除去する際に、使用する事もできる。
【0055】
本発明のRuOガスの発生抑制剤は、ルテニウム処理液だけでなく、ルテニウムを処理した後の液(以下、ルテニウム含有液と記す)についても、RuOガスの発生を抑制する事ができる。ここで、ルテニウム含有液とは、少量でもルテニウムを含む液体を意味する。該ルテニウム含有液に含まれるルテニウムは、ルテニウム金属に限定されず、ルテニウム元素を含んでいればよく、例えば、Ru、RuO 、RuO 2-、RuO、RuO2、ルテニウム錯体などが挙げられる。ルテニウム含有液としては、例えば、上述した、半導体製造工程やチャンバー洗浄などにより発生した廃液や、RuOガスを捕捉した排ガス処理装置(スクラバー)内の処理液などが挙げられる。ルテニウム含有液に微量でもルテニウムが含まれると、RuOガスを経由してRuO粒子が発生するため、タンクや配管を汚染するし、パーティクルの酸化作用によって装置類の劣化を促進する。また、ルテニウム含有液から発生するRuOガスは低濃度でも人体に強い毒性を示す。このように、ルテニウム含有液は、装置類あるいは人体に対して様々な悪影響を及ぼすため、RuOガスの発生を抑制しながら、安全かつ速やかに処理する必要がある。ルテニウム含有液に本発明のRuOガスの発生抑制剤を添加することで、RuOガスの発生を抑制することができ、ルテニウム含有液を安全に処理できるだけでなく、装置のタンクや配管の汚染や劣化を軽減できる。
【0056】
本発明のRuOガスの発生抑制剤が、ルテニウム処理液、または、ルテニウム含有液と混合される場合、本発明のRuOガスの発生抑制剤に含まれるオニウム塩の濃度は、混合後の液におけるオニウム塩の1種以上の濃度が0.0001~50質量%となるように調整することが好ましい。
【0057】
ルテニウム処理液、または、ルテニウム含有液に対する、本発明のRuOガスの発生抑制剤の添加量は、これらの液中に存在するルテニウム量を考慮して決定すればよい。本発明のRuOガスの発生抑制剤の添加量は特に制限されないが、例えば、ルテニウム処理液、または、ルテニウム含有液に存在するルテニウム量を1としたときに、重量比で10~500000が好ましく、より好ましくは100~100000であり、さらに好ましくは1000~50000である。
また、RuOガスの発生抑制剤と、ルテニウム処理液、または、ルテニウム含有液との混合液の25℃におけるpHは、例えば7~14であることが好ましい。この混合液のpHを調整するために、上記で例示したpH調整剤を添加してもよい。
【実施例
【0058】
以下、実施例によって本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に制限されるものではない。
【0059】
<実施例1~22、比較例1~4>
(ルテニウム処理液とRuOガスの発生抑制剤の混合液の調製)
まず、100mLのフッ素樹脂製容器に、次亜塩素酸ナトリウム(NaClO; 和光純薬製)および超純水を加え、15質量%のHCl水溶液または1.0mol/LのNaOH水溶液を用いて、表1に記載のpHに調整する事で、30mLのルテニウム処理液を得た。次に、100mLのフッ素樹脂製容器に、オニウム塩および超純水を加えた後、上記と同様、表1に記載のpHに調整する事で、30mLのRuOガスの発生抑制剤を得た。なお、実施例21のオニウム塩は、臭素酸ナトリウムと水酸化テトラプロピルアンモニウム水溶液を混合する事で調製した。得られたルテニウム処理液と、RuOガスの発生抑制剤を混合する事で、混合液60mLを得た。なお、比較例1~4では、RuOガスの抑制剤の代わりに、ルテニウム処理液と同じpHに調整した超純水30mLを混合した。上記において、次亜塩素酸ナトリウムを添加したルテニウム処理液については、酸化剤濃度が0.56mоl/L(有効塩素濃度として4.0質量%)となっていることを確認した。
【0060】
(pH測定方法)
各実施例及び各比較例で調製した混合液10mLを、卓上型pHメーター(LAQUAF―73、堀場製作所製)を用いてpH測定した。pH測定は、混合液を調製し、25℃で安定した後に、実施した。
【0061】
(RuOガスの定量評価)
RuOガスの発生量は、ICP-OESを用いて測定した。密閉容器に混合液を5mLとり、膜厚1200Åのルテニウムを成膜した10×20mmのSiウェハ1枚を、25℃または50℃でルテニウムが全て溶解するまで浸漬させた。浸漬中の混合液の温度(処理温度)を表1または表2に示した。その後、密閉容器にAirをフローし、密閉容器内の気相を吸収液(1mol/L NaOH)の入った容器にバブリングして、ウェハ浸漬中に発生したRuOガスを吸収液にトラップした。この吸収液中のルテニウム量をICP-OESにより測定し、発生したRuOガス中のRu量を求めた。なお、表1におけるRuOガス中のRu量は、吸収液中に含まれるルテニウムの重量を、浸漬したウェハの面積で割った値である。混合液に浸漬したSiウェハ上のルテニウムが全て溶解したことは、四探針抵抗測定器(ロレスタ‐GP、三菱ケミカルアナリテック社製)により浸漬前及び浸漬後のシート抵抗をそれぞれ測定し、膜厚に換算することで確認した。
【0062】
<実施例23および比較例5>
酸化剤として0.07mоl/Lのオルト過ヨウ素酸(HIO; 富士フィルム和光純薬製)を用いた以外は実施例1または比較例1と同様にして混合液を調製した。この混合液を用いて、実施例1と同様にpH測定、RuOガスの定量評価を行った。
【0063】
<実施例24~28>
酸化剤として0.002、0.02、0.2、0.4および0.6mоl/Lの次亜臭素酸ナトリウム(NaBrO; 関東化学製)を用いた以外は実施例4と同様にして混合液を調製した。混合液中の次亜臭素酸ナトリウムの濃度は紫外可視分光光度計(UV-2600、島津製作所社製)を用いて確認した。この混合液を用いて、実施例1と同様にpH測定、RuOガスの定量評価を行った。
【0064】
<実施例29>
0.56mоl/Lの次亜塩素酸ナトリウムをさらに含むRuOガスの発生抑制剤を
用いた以外は、実施例4と同様にして混合液を調製した。この混合液を用いて、実施例1と同様にpH測定、RuOガスの定量評価を行った。
【0065】
<実施例30~51>
(ルテニウム含有液とRuOガスの発生抑制剤の混合液の調製)
100mLのフッ素樹脂製容器に、次亜塩素酸ナトリウム(和光純薬製)および超純水を加え、30mLのルテニウム処理液を得た。なお、ルテニウム処理液のpHは、15質量%のHCl水溶液または1.0mol/LのNaOH水溶液を用いて、表2に記載のルテニウム含有液のpHと同じ値になるように調整した。得られた処理液30mLへ膜厚2400Åのルテニウムを成膜した10×20mmのSiウェハ6枚を25℃にてルテニウムが全て溶解するまで浸漬する事で、表2に記載のルテニウム含有液を得た。ICP-OESにより測定した、ルテニウム含有液に含まれるルテニウムの濃度を表2に示した。
次に、100mLのフッ素樹脂製容器に、オニウム塩および超純水を加えた後、表2に記載のpHに調整する事で、30mLのRuOガスの発生抑制剤を得た。実施例50のオニウム塩は、臭素酸ナトリウムと水酸化テトラプロピルアンモニウム水溶液を混合する事で調製した。
得られたルテニウム含有液と、RuOガスの発生抑制剤を混合した液(混合液)について、実施例1に記載の方法により、混合液のpHを測定した後、混合液から発生するRuOガスの定量評価を行った。ウェハ浸漬中の混合液の温度(処理温度)を表2に示した。ただし、混合液には既にルテニウムが含まれるため、RuOガスの定量評価において、ルテニウムの溶解は行わなかった。
【0066】
<実施例52>
酸化剤として0.035mоl/Lのオルト過ヨウ素酸(富士フィルム和光純薬製)を用いた以外は実施例30と同様にして混合液を調製した。この混合液を用いて、実施例30と同様にRuOガスの定量評価を行った。
【0067】
<実施例53~57>
酸化剤として0.001、0.01、0.1、0.2および0.3mоl/Lの次亜臭素酸ナトリウムを用いた以外は実施例33と同様にして混合液を調製した。混合液中の次亜臭素酸ナトリウムの濃度は紫外可視分光光度計(UV-2600、島津製作所社製)を用いて確認した。この混合液を用いて、実施例30と同様にRuOガスの定量評価を行った。
【0068】
<実施例58>
1.5Lのフッ素樹脂製容器に、0.42gの過酸化ルテニウムテトラプロピルアンモニウムおよび超純水を加え、15質量%のHCl水溶液または1.0mol/LのNaOH水溶液を用いて、表2に記載のpHに調整する事で、1Lのルテニウム含有液を得た。
次に、100mLのフッ素樹脂製容器に、オニウム塩および超純水を加えた後、表2に記載のpHに調整する事で、30mLのRuOガスの発生抑制剤を得た。
得られたルテニウム含有液30mLと、RuOガスの発生抑制剤30mLを混合した液について、実施例30と同様に25℃にてRuOガスの定量評価を行った。
【0069】
<実施例59>
4.8mgのRuO粉末を超純水30mLに分散した液を、ルテニウム含有液とした。ルテニウム含有液は、15質量%のHCl水溶液または1.0mol/LのNaOH水溶液を用いて、pH12.0に調整した。次に、100mLのフッ素樹脂製容器に、表2に記載のオニウム塩および超純水を加えた後、表2に記載のpHに調整する事で、30mLのRuOガスの発生抑制剤を得た。得られたルテニウム含有液と、RuOガスの発生抑制剤を混合して得た混合液を用いて、実施例30と同様にRuOガスの定量評価を
行った。
【0070】
<実施例60>
1.9mgのRu粉末および2.4mgのRuO粉末を超純水に添加し、15質量%のHCl水溶液または1.0mol/LのNaOH水溶液を用いて、表2に記載のpHに調整する事で、6.0×10-4mol/LのRuおよび6.0×10-4mol/LのRuOを含むルテニウム含有液30mLを得た。
次に、100mLのフッ素樹脂製容器に、オニウム塩および超純水を加えた後、表2に記載のpHに調整する事で、30mLのRuOガスの発生抑制剤を得た。
得られたルテニウム含有液30mLと、RuOガスの発生抑制剤30mLを25℃にて混合した液(混合液)について、実施例30と同様にRuOガスの定量評価を行った。
【0071】
<実施例61>
100mLのフッ素樹脂製容器に、次亜塩素酸ナトリウム(和光純薬製)および超純水を加え、15質量%のHCl水溶液または1.0mol/LのNaOH水溶液を用いて、表2に記載のpHに調整した。得られたルテニウム処理液へ、1.9mgのRu粉末および2.4mgのRuO粉末を添加する事で、6.0×10-4mol/LのRuおよび6.0×10-4mol/LのRuOを含むルテニウム含有液30mLを得た。
次に、100mLのフッ素樹脂製容器に、オニウム塩および超純水を加えた後、表2に記載のpHに調整する事で、30mLのRuOガスの発生抑制剤を得た。
得られたルテニウム含有液30mLと、RuOガスの発生抑制剤30mLを混合した液について、実施例30と同様に25℃にてRuOガスの定量評価を行った。
【0072】
<比較例6~10>
100mLのフッ素樹脂製容器に、次亜塩素酸ナトリウム(和光純薬製)またはオルト過ヨウ素酸(富士フイルム和光純薬製)、および超純水を加え、15質量%のHCl水溶液または1.0mol/LのNaOH水溶液を用いて、表2に記載のpHに調整する事で、30mLのルテニウム処理液を得た。得られたルテニウム処理液30mLへ膜厚2400Åのルテニウムを成膜した10×20mmのSiウェハ6枚を25℃にてルテニウムが全て溶解するまで浸漬する事で、表2に記載のルテニウム含有液を得た。次亜塩素酸ナトリウムを添加したルテニウム含有液については、0.28mоl/L(有効塩素濃度として2.0質量%)となっていることを確認した。得られたルテニウム含有液へ、同じpHに調整した30mLの超純水を混合し、実施例30と同様にRuOガスの定量評価を行った。
【0073】
【表1】
【0074】
【表2】
【0075】
実施例1と比較例1(pH8.0)、実施例4と比較例2(pH12.0)、実施例5と比較例3(pH12.5)をそれぞれ比べると、いずれのpHにおいてもオニウム塩の添加によりRuOガスの発生量を抑制できていることが分かる。実施例1~3ではオニウム塩の添加量を変えており、オニウム塩の添加量が多いほどRuOガスの抑制効果が高い事を確認した。
【0076】
実施例8~21では、上述の式(1)~(4)で示した、実施例1~7とは異なる種類のオニウム塩を使用したが、いずれの場合においてもRuOガスの発生抑制効果が得られた。実施例4におけるオニウム塩の濃度は10質量%であったのに対して、実施例9では0.2質量%となっており、オニウム塩の炭素数が大きい実施例9の方が、より少ない添加量で同程度のRuOガスの発生抑制効果が得られている。
【0077】
比較例4と実施例22を比較すると、50℃においても、オニウム塩の添加によりRuOガスの発生を抑制できている事が分かる。
【0078】
比較例2と実施例24~28を比較すると、酸化剤として0.002~0.6mol/LのNaBrOを用いた場合でも、オニウム塩の添加によりRuOガスの発生を抑制できている事が分かる。
【0079】
比較例5と実施例23を比較すると、酸化剤として0.07mоl/Lのオルト過ヨウ素酸を用いた場合においても、オニウム塩の添加によりRuOガスの発生を抑制できている事が分かる。
【0080】
表2の結果から、式(1)~(4)で示されるオニウム塩のいずれかを含有するRuOガスの発生抑制剤を、ルテニウム含有液に添加した場合には、ルテニウム含有ガスの発生が抑制されることが分かった。これにより、本発明のRuOガスの発生抑制剤は、ルテニウム含有液の処理に好適に用いることができることが示された。