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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-30
(45)【発行日】2025-02-07
(54)【発明の名称】キャピラリ電気泳動装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 21/64 20060101AFI20250131BHJP
【FI】
G01N21/64 Z
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2023531263
(86)(22)【出願日】2021-06-30
(86)【国際出願番号】 JP2021024859
(87)【国際公開番号】W WO2023276078
(87)【国際公開日】2023-01-05
【審査請求日】2023-11-17
(73)【特許権者】
【識別番号】501387839
【氏名又は名称】株式会社日立ハイテク
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大澤 賢太郎
(72)【発明者】
【氏名】穴沢 隆
【審査官】吉田 将志
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-264293(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2007/0014692(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2003/0152308(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2011/0176130(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/64
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光源と、
複数のキャピラリと、
光検出部と、
一方の端面が前記キャピラリのいずれかに関連して配置され、他方の端面が前記光検出部に接続された複数の検出用光ファイバと、
を有し、
前記光検出部は前記検出用光ファイバの中心部の光を選択的に検出する
ことを特徴とするキャピラリ電気泳動装置。
【請求項2】
前記光検出部は、少なくとも光検出器と選択的遮光素子とを備える
ことを特徴とする請求項1に記載のキャピラリ電気泳動装置。
【請求項3】
前記光検出部は、少なくとも光検出器と接続用光ファイバとを備える
ことを特徴とする請求項1に記載のキャピラリ電気泳動装置。
【請求項4】
前記光検出部は、少なくとも撮像素子と信号処理部とを備え、
前記信号処理部は、前記撮像素子で検出された光のうち前記検出用光ファイバの中心部の光を選択的に処理する
ことを特徴とする請求項1に記載のキャピラリ電気泳動装置。
【請求項5】
前記光検出部は、前記検出用光ファイバの光出射端から出射された光を前記選択的遮光素子の位置に結像する結像光学系をさらに備える
ことを特徴とする請求項2に記載のキャピラリ電気泳動装置。
【請求項6】
前記光検出部は、前記検出用光ファイバの光出射端から出射された光を前記接続用光ファイバの入射端に結像する結像光学系をさらに備える
ことを特徴とする請求項3に記載のキャピラリ電気泳動装置。
【請求項7】
前記接続用光ファイバのコア径は、前記検出用光ファイバのコア径よりも小さい
ことを特徴とする請求項3に記載のキャピラリ電気泳動装置。
【請求項8】
前記光検出部は、前記検出用光ファイバの光出射端から出射された光を前記撮像素子に結像する結像光学系をさらに備える
ことを特徴とする請求項4に記載のキャピラリ電気泳動装置。
【請求項9】
前記光検出部は、前記検出用光ファイバの光出射端において、中心から半径r以下の領域の光のみを選択的に検出し、
ただしrは以下の式によって与えられ、
【数1】
ここで、NAは前記検出用光ファイバの開口数であり、
cは前記検出用光ファイバのコア径であり、
pは前記複数のキャピラリ間の間隔であり、
outは前記キャピラリの外径であり、
dは前記キャピラリの表面から対応する前記検出用光ファイバの光入射端までの距離である、
ことを特徴とする請求項1に記載のキャピラリ電気泳動装置。
【請求項10】
前記光検出部は、選択的に検出する前記検出用光ファイバの領域の面積および形状の少なくとも一方を変更可能である
ことを特徴とする請求項1に記載のキャピラリ電気泳動装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、キャピラリ電気泳動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
バイオ医薬は糖鎖で修飾された抗体分子ががんや希少難病等の特定標的に対して効果を発現するという低分子医薬品にない優れた作用をもっている。低分子薬が化学反応によって合成されるのに対し、バイオ医薬品は細胞の生体機能を利用して生成されるためわずかな培養条件の変化によって生産物の分子構造は影響を受ける。代表的なバイオ医薬品である免疫グロブリンG(IgG)は複雑な構造を持つ分子量15万程度の大きな分子で、構造の不均一性を防ぐことはほぼ不可能である。従って、バイオ医薬品において製剤の安全性・有効性を確認するための品質検査技術はより一層重要な役割を果たす。
【0003】
目的物質の構造が複雑であるためバイオ医薬品の検査項目は多岐にわたるが、検査対象物に含まれる主要成分が目的物質であることを確認する確認試験や、不純物の含量を評価する純度試験などにはキャピラリ電気泳動が用いられる。キャピラリ電気泳動装置では、キャピラリに抗体を例とするサンプルを注入して電気泳動することで、サンプルは分子量や電荷量に応じて分離され、キャピラリ終端付近に設けられた検出部にて検出される。検出方式としては,紫外線(Ultraviolet;UV)吸収,自家蛍光(Native Fluorescence;NF),レーザー誘起蛍光(Laser Induced Fluorescence;LIF)などの光学方式が広く用いられる。
【0004】
キャピラリ電気泳動装置の例は、特許文献1に開示される。
【0005】
LIF計測はその中で最も高感度な検出方式であり、UV吸収やNFでは検出困難な抗体医薬の糖鎖などの検出や、DNAなどの核酸の検出に古くから用いられている。LIF計測では光源としてレーザーが用いられ、レーザーの指向性とキャピラリのレンズ効果を利用することで複数のキャピラリに対して一括でレーザーを照射することが可能である。これにより、一度に複数のサンプルを分析することができるため、ハイスループットな分析が可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2016-133373号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
LIF計測では一度に複数のキャピラリを分析することが可能であるが、複数のキャピラリから発生する蛍光を検出するためには、複数のレンズや複数のキャピラリに対応できるだけの大きなレンズを配置する必要があり、装置が大型化しやすい。そこで発明者らは、それぞれのキャピラリにファイバを近接して配置することで蛍光を回収する光学系を考案した。そのような光学系では、レンズをキャピラリ近傍に配置せずに蛍光を検出することができ、かつキャピラリと検出器の間の位置関係の制約が無くなり設計の自由度が向上するため、装置小型化することができる。
【0008】
しかしながら、このような検出光学系においては、特定のキャピラリから発生した蛍光が隣接するキャピラリに対応するファイバに入射することで、大きなクロストークが発生するという課題が発生する。
【0009】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、小型でかつ低クロストークなキャピラリ電気泳動装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係るキャピラリ電気泳動装置の一例は、
光源と、
複数のキャピラリと、
光検出部と、
一方の端面が前記キャピラリのいずれかに関連して配置され、他方の端面が前記光検出部に接続された複数の検出用光ファイバと、
を有し、
前記光検出部は前記検出用光ファイバの中心部の光を選択的に検出する
ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、従来よりも小型でかつクロストークの小さなキャピラリ電気泳動装置を提供することができる。また、場合によってはさらに、従来よりも安価なキャピラリ電気泳動装置を提供することができる。
【0012】
上記した以外の課題、構成、および効果は、以下の実施形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の実施例1に係るキャピラリ電気泳動装置の構成例を示す摸式図。
図2図1のキャピラリ電気泳動装置の成分検出部の構成例を説明する摸式図。
図3】クロストークの発生機構を説明する模式図。
図4】検出用光ファイバの光出射端における光強度分布の例。
図5】実施例1における信号強度とクロストークのシミュレーション結果の一例。
図6】光ファイバの伝搬効率および光出射端における光強度分布の入射角依存性に関するシミュレーション結果。
図7】光ファイバに入射した光線の光路を説明する図。
図8】光ファイバの伝搬効率の入射角依存性の計算結果。
図9】光ファイバを伝搬する光線の光路図の模式図。
図10】光ファイバ伝搬後に光強度分布がゼロとなる領域の半径の計算結果。
図11】本発明の実施例2に係るキャピラリ電気泳動装置の成分検出部の構成例を説明する摸式図。
図12】本発明の実施例3に係るキャピラリ電気泳動装置の成分検出部の構成例を説明する摸式図。
図13】本発明の実施例4に係るキャピラリ電気泳動装置の成分検出部の構成例を説明する摸式図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。
【0015】
[実施例1]
<基本構成>
(電気泳動装置全体の説明)
図1は、本実施例に係るキャピラリ電気泳動装置1の構成例を示す模式図である。電気泳動媒体容器2と複数のサンプル容器3にはそれぞれ電気泳動媒体とサンプルが格納されている。計測の前にキャピラリアレイ11に含まれる複数のキャピラリ5がこれらの容器に接続され、電気的手段や圧力などにより電気泳動媒体とサンプルが順に複数のキャピラリ5に注入される。複数の注入側電極槽4と排出側電極槽7にはバッファー液が満たされており、電気泳動時にはキャピラリ5と電極9が浸されている。
【0016】
高圧電源8により電圧が印加されると、サンプル内の分子が電気泳動により分子量や電荷量などの性質に応じて分離されながらキャピラリ5を注入側から排出側に向かって移動する。移動した各分子は成分検出部6に到達すると、光学的手段によって検出される。図示はしていないが、キャピラリ電気泳動装置1はその他に圧力調整部、制御部、信号処理部、表示部、記録部などを有する。
【0017】
(成分検出部の説明)
図2は電気泳動装置1の成分検出部6の構成例である。光源101から出射された励起光は複数のキャピラリ102に対して、キャピラリアレイ103の配列方向に沿って照射される。これにより、単一の光源101を用いて複数のキャピラリ102に対して励起光を一括照射することが可能である。
【0018】
成分検出部6は、複数の検出用光ファイバ104を備える。検出用光ファイバ104はそれぞれ、キャピラリ102の1つに対応する。各検出用光ファイバ104の一方の端面は、対応するキャピラリ102に関連して配置され、たとえば対応するキャピラリ102の近傍に配置される。「近傍」の具体的範囲は、図5に関連して後述する事項等を考慮して当業者が適宜決定可能であり、たとえば図5に示す範囲(ただし0より大きい。例として0.1mm以下、0.2mm以下、0.3mm以下、0.4mm以下または0.5mm以下)とすることができる。各検出用光ファイバ104の他方の端面は、光検出部108に接続される。
【0019】
キャピラリ102の中のサンプルに励起光が照射されると、サンプルから蛍光(自家蛍光あるいは蛍光色素からの蛍光)が発生し、その一部が各々のキャピラリ102に対応して設けられた検出用光ファイバ104に結合する。蛍光は検出用光ファイバ104を伝搬して、ピンホール105、ロングパスフィルタ106、光検出器107を備える光検出部108に導かれる。
【0020】
蛍光が検出用光ファイバ104から空間に出射する際、それぞれの検出用光ファイバ104の出射端に設けられたピンホール105によって、検出用光ファイバ104の周辺部の蛍光は遮光され、中心部近傍の蛍光だけが空間に出射される。その後、蛍光はロングパスフィルタ106を透過したのち、光検出器107によって検出される。
【0021】
このように、ピンホール105は選択的遮光素子として機能し、これによって、光検出部108は、検出用光ファイバ104の中心部の光を選択的に検出する。ここで、「検出用光ファイバ104の中心部」とは、たとえば検出用光ファイバの中心軸に直交する断面において中心軸を含む領域を意味し、具体例としては中心軸を中心とする円盤領域を意味する。円盤領域の半径は、図5に関連して後述する事項等を考慮して当業者が適宜決定可能である。
【0022】
ロングパスフィルタ106は、キャピラリ102によって散乱されて検出用光ファイバ104に結合した励起光が検出されることを防ぐために設置されている。
【0023】
ピンホール105は、特定のキャピラリ102から発生した蛍光が、対応する検出用光ファイバ104以外の検出用光ファイバ104に結合することで生じる、キャピラリ間のクロストークを抑制する役割を果たしている。
【0024】
図2の吹き出しに示すように、ピンホール105の開口(すなわち、選択的に検出する検出用光ファイバ104の領域)について、面積および形状の少なくとも一方は変更可能であってもよい。たとえば図2の(a)(b)(c)のように開口寸法または形状が異なる複数のピンホールを切り替えて使用してもよく、1つのピンホールが(a)(b)(c)のように変形して開口寸法または形状を変更できるように構成されていてもよい。このような構成により、後述するように、信号成分の損失抑制とクロストーク遮断とのバランスを調整することができる。なお、このように選択的に検出する検出用光ファイバ104の領域を変更することは、後述の他の実施例においても可能である。
【0025】
図3はクロストークの発生機構の例を説明する図である。キャピラリ201から発生した蛍光は対応する検出用光ファイバ203に入射(実線矢印)して信号成分として検出される。一方で、隣接するキャピラリ202に対応する検出用光ファイバ204にも直接的あるいはキャピラリ202を反射して間接的に入射し(破線矢印)、クロストーク成分として検出される。図に示されているように、クロストーク成分は信号成分と比べてファイバに高い入射角で入射する傾向がある。
【0026】
図4はキャピラリ201の内部で発生した蛍光が検出用光ファイバ203,204に結合し、伝搬したのちのファイバ出射端における強度分布の光線追跡シミュレーション結果である。シミュレーション条件は、キャピラリ内径が50μm、キャピラリ外径が150μm、キャピラリ間距離が500μm、キャピラリ表面から対応する検出用光ファイバの入射端までの距離が300μmとした。検出用光ファイバ203,204はマルチモードで、コア径が400μm、クラッド径が420μm、開口数が0.5、長さが100mmである。また、キャピラリ201内の蛍光発光領域は直径50μm、高さ50μmの円柱状とした。
【0027】
信号成分に対応する、検出用光ファイバ203の出射端での光強度はファイバ中心に局在する傾向があるのに対し、クロストーク成分である検出用光ファイバ204の出射端の光強度はファイバ周辺部に局在する傾向があることが分かる。これは、ファイバに低い角度で入射した光はファイバ中心に、高い角度で入射した光はファイバ周辺に局在するというマルチモードファイバの性質を反映している。本実施例は、ファイバの当該性質を利用し、ピンホール105によって検出用光ファイバ104の中心部からの光を選択的に検出することで、クロストークを抑制することを可能にしている。
【0028】
図5は本実施例のクロストーク抑制効果をシミュレーションにより評価した結果である。参照例として検出用光ファイバのコア径cが400μmの場合および200μmの場合、ならびに本実施例の一具体的構成としてコア径400μmのファイバの出射端に穴径PHが200μmのピンホールを設置した場合の信号強度およびクロストークの、キャピラリ/ファイバ間距離に対する依存性を示した。
【0029】
その他のシミュレーション条件は、図4の場合と同じである。コア径cは大きいほど信号強度は大きくなる一方で、クロストークも大きくなる。
【0030】
キャピラリ/ファイバ間距離は小さいほど信号強度が大きく、かつクロストークが小さいため、可能な限り小さくすることが望ましい。しかし、小さくしすぎるとファイバとキャピラリが接触してしまい、破損するリスクが大きくなる。そのため、実際にはファイバとキャピラリは数百ミクロン以上は離して設置すると好適である。
【0031】
例えばキャピラリ・ファイバ間距離を200μm以上とすると、コア径400μmの場合には約2.2%以上の大きなクロストークが生じる。コア径を200μmにすると、コア径400μmの場合よりも信号強度は低下するがクロストークはそれ以上に小さくなり、ファイバ・キャピラリ間距離が0.3mm以下ではクロストーク0.5%以下となる。
【0032】
一方で、本実施例の一具体的構成であるコア径400μmのファイバの出射端に200μmピンホールを設置する場合、ファイバ・キャピラリ間距離が200μm以上においては、コア径200μmの場合よりも信号強度が大きく、かつクロストークが同等かそれ以下となっている。この結果は、キャピラリ・ファイバ間距離がある程度離れた条件においては、単にコア径の小さなファイバを使用するよりも、本実施例のようにコア径の大きなファイバの出射端にピンホールを設ける方が、信号強度の観点でもクロストークの観点でも有利になることがあることを意味している。
【0033】
コア径400μmの参照例と比べると、コア径400μmの出射端に200μmピンホールを設けた本実施例では、信号強度が約半分に低下する一方で、クロストークが4.13%から0.16%の約1/26に抑制されている。これは、ピンホールが信号成分よりもクロストーク成分をより多く遮光していることの効果である。
【0034】
ファイバのコア径と開口数を最適化することでもクロストークを抑制することは可能であるが、多くの場合入手可能なファイバのコア径および開口数は限定されており、最適化の自由度は極めて低い。一方で、ピンホールの穴径は自由に設定することが可能であるため、本実施例の最適化の自由度は高い。
【0035】
次に、本実施例の動作原理および適切な遮光領域の広さに関して、シミュレーションや数式に基づいて詳細に説明する。図6(a)はファイバの光伝搬効率(入射した光がファイバ出射端まで到達する割合)の光入射角依存性のシミュレーション結果である。
【0036】
シミュレーションは、ファイバはマルチモードとし、コア径200μm、クラッド径220μm、開口数0.5、長さ100mmの条件で実施した。光伝搬効率は、入射角がファイバの開口数に相当する30度まではほぼ1であり、30度を超えると急速に減少する。これは入射角30度を超えるとファイバ内での全反射条件を満たさない成分が増加するためである。
【0037】
図6(b)は入射角ごとのファイバ出射端における光強度分布である。入射角30度まではコア内でおおむね均一な強度分布となっているのに対して、入射角30度を超えると光が周辺部分に局在することが分かる。すなわち、ファイバの開口数に相当する角度よりも大きな角度で入射した光の強度は、ファイバ周辺に局在する傾向がある。
【0038】
以下ではこのような性質が生じる原理について図を用いて説明する。図7に示すようにファイバ入射端の中心を原点とした座標系を考える。z軸はファイバの中心軸である。x軸およびy軸はファイバの径方向において互いに直交する軸である。
【0039】
ファイバに対して入射角θinで入射する光線について考える。入射光線の単位方向ベクトルkinおよびファイバ表面で屈折した直後の光線の単位方向ベクトルkcoreをそれぞれ以下の式で表す。
【数1】
【数2】
このとき、θinとθcoreはスネルの法則より以下の関係を満たす。
【数3】
ここで、ncoreはファイバのコアの屈折率である。入射光線のファイバ入射端における光線入射位置のx座標を、-1<u<1を満たす実数uとファイバのコア径cを用いてuc/2で表す。このとき、当該入射光線のコア/クラッド界面への入射位置における、コア/クラッド界面の法線ベクトルnは以下の式で表される。
【数4】
コア/クラッド界面に対する光線の入射角αは、以下の式によって決定される。
【数5】
コア/クラッド界面において光線が全反射するための条件は、
【数6】
である。式3と式5を用いると、式6は
【数7】
と表すことができる。さらに、ファイバの開口数NAは
【数8】
で与えられることを用いると、最終的に当該光線の全反射条件は以下の式で表される。
【数9】
式9は、光線の入射x位置がファイバ周辺部に近い(uの絶対値が大きい)ほど、全反射条件を満たす光線の角度範囲が広いことを表している。
【0040】
u=0の位置に入射した光線が全反射条件を満たすための入射角の上限θc0(ファイバのNAに相当する入射角)は以下の式で定義される。
【数10】
θc0以下の角度で入射した光線は入射x位置に依らずに全反射条件を満たすが、θc0以上の角度で入射した光線は、中心よりもある一定量離れた位置に入射する場合に全反射条件を満たす。式8をuに関して解くと、以下の式が得られる。
【数11】
ここで、
【数12】
である。θc0以上の角度で入射した光線は、ファイバへの入射x位置の絶対値がuc/2以上の場合にのみ全反射条件を満たす。入射角θc0以上の光線のファイバの伝搬効率Pは、全反射条件を満たすファイバの入射位置の面積によって決まり、以下の式で与えられる。
【数13】
式13の積分を実行することで以下の式が得られる。
【数14】
式12を式14に代入し、入射角θc0以下ではすべての光線が全反射条件を満たすことを考慮すると、入射角θinに対する伝搬効率Pは以下の式で表すことができる。
【数15】
【0041】
図8図6に示した光線追跡シミュレーションの結果と、式13で表される伝搬効率を比較したものである。両者は定性的に一致しており、上述したファイバの伝搬効率の入射角依存性に関する理論が妥当であることが分かる。
【0042】
図9はファイバ内で伝搬する光線の軌跡をファイバ入射端側から見た模式図であり、図9(a)は光線のファイバへの入射x位置が中心(u=0)の場合を示し、図9(b)はは光線のファイバへの入射x位置が周辺(u>0)の場合を示す。図9(a)のように中心に入射した光線は同じ位置を繰り返し反射し、毎回ファイバ中心部を通過する。それに対して、図9(b)のようにファイバ周辺部に入射した光線はコア/クラッド界面への入射角が大きくなるため、ファイバ中心部を通過することなく、ファイバ周辺部のみを伝搬する。
【0043】
以上の結果より、ファイバのNAに相当する角度(θc0)以上でファイバに入射する光線は、ファイバ周辺部に入射する場合にのみ全反射条件を満足し、ファイバ周辺部に入射した光線は、ファイバ周辺部に局在することが分かる。結果としてファイバのNA以上の角度でファイバに入射した光線は、ファイバを伝搬したのちにファイバの周辺部に局在する。
【0044】
次に、本実施例におけるピンホール径について説明する。図6に示したシミュレーション結果から、入射角がθc0以上の場合のファイバ出射端の光強度分布において、光強度がゼロとなる中心領域の半径を入射角ごとに求めた。図10は、ファイバ出射端において強度分布がゼロとなる領域の半径をファイバコアの半径c/2で規格化した値vと、式11で表されるuの入射角依存性を比較した結果である。両者は概ね一致していることが分かる。
【0045】
これより、θc0以上で入射した光は、ファイバ出射端において概ね半径cu/2以上の領域に局在すると言える。従って、排除すべきクロストーク成分のファイバへの入射角をφ(>θc0)としたとき、ピンホールの半径r
【数16】
と設定することで、当該クロストーク成分を排除することが可能となる。
【0046】
クロストークには、図3に破線で示したように隣接するファイバに直接入射する成分(以下、直接成分と称する)と、隣接するキャピラリに反射したのちに隣接するファイバに入射する成分の2つが存在する。後者の成分は反射時に強度が減衰するため、直接成分が存在する場合、直接成分が支配的となる。図3に示した直接成分のファイバへの最小入射角φminは近似的に下記の式で表される。
【数17】
ここで、図3に示したようにpはキャピラリ間の間隔(キャピラリ中心間の距離)、dはキャピラリの表面からファイバの光入射端までの距離、Doutはキャピラリの外径である。また、簡単のため蛍光はキャピラリの中心から発生するものとした。
【0047】
例えばp=500μm、d=300μm、Dout=150μm、c=400μmの場合(図5のc=400μmの参照例のシミュレーション条件)、φmin≒53度であり、この入射角に対応するピンホール半径rは、式16において等号の場合を想定すると約156μmとなる。すなわち、ピンホール半径を約156μmに設定することで、信号成分の損失を最小に抑えつつ、原理的にはクロストークの直接成分を全て遮断することが可能になる。
【0048】
[実施例2](結像光学系を設ける)
図11は、本実施例によるキャピラリ電気泳動装置1における成分検出部6の構成例を示す模式図である。なお、図2に示した部品と同じものには同一の符号を付し、その説明を省略する。本実施例は、光検出部108にレンズ301、302を備える結像光学系303がさらに設けられている点において実施例1と異なる。
【0049】
実施例1と同様に、光源101から出射された励起光は複数のキャピラリ102に対して、キャピラリアレイ103の配列方向に沿って照射され、キャピラリ102の中のサンプルから発生した蛍光の一部が各々のキャピラリ102に対応して設けられた検出用光ファイバ104に結合する。蛍光は検出用光ファイバ104を伝搬したのち空間に出射され、レンズ301によって平行光に変換され、ロングパスフィルタ106を通過したのちにレンズ302によってピンホール105の位置に集光される。ピンホール105は検出用光ファイバ104の出射端の周辺部から出射された光を遮断し、結果として検出用光ファイバ104の出射端の中心部から出射された光が光検出器107によって検出される。
【0050】
このように、本実施例に係る光検出部108は、検出用光ファイバ104の光出射端から出射された光をピンホール105の位置に結像する結像光学系303を備える。
【0051】
本実施例においては、結像光学系303を設けることで検出用光ファイバ104から出射された光が平行光に変換されるため、ロングパスフィルタ106に対して光をほぼ垂直に入射することができ、ロングパスフィルタ106へ光の入射角が垂直からずれることで生じる性能低下(たとえば励起光に対する透過率の増加や蛍光に対する透過率の減少)を抑制することができる。
【0052】
また、結像光学系303の結像倍率を1以上とする、すなわち検出用光ファイバ104の出射端から出射された光をピンホール位置に拡大結像することで、要求されるピンホール105の穴径の製造精度、あるいは位置精度を緩和することができる。
【0053】
[実施例3](接続用光ファイバを使用)
図12は、本実施例によるキャピラリ電気泳動装置1における成分検出部6の構成例を示す模式図である。なお、図2に示した部品と同じものには同一の符号を付し、その説明を省略する。本実施例は、光検出部108がファイバコネクタ401、接続用光ファイバ402、ロングパスフィルタ106、光検出器107を備える点において実施例1と異なる。
【0054】
実施例1と同様に、光源101から出射された励起光は複数のキャピラリ102に対して、キャピラリアレイ103の配列方向に沿って照射され、キャピラリ102の中のサンプルから発生した蛍光の一部が各々のキャピラリ102に対応して設けられた検出用光ファイバ104に結合する。蛍光は検出用光ファイバ104を伝搬したのち、ファイバコネクタ401を介して検出用光ファイバ104に接続された接続用光ファイバ402に結合する。
【0055】
接続用光ファイバ402のコア径は、検出用光ファイバ104のコア径よりも小さく設定されており、検出用光ファイバ104の出射端における中心近傍の光のみが接続用光ファイバ402に結合し、伝搬したのち光検出器107に導かれる。すなわち、接続用光ファイバ402は実施例1におけるピンホール105と同じ役割を果たしている。ここで、検出用光ファイバ104と接続用光ファイバ402の中心軸は、汎用部品であるファイバコネクタ401によって互いに一致するように位置決めされる。これにより、本実施例においては、実施例1で必要となる検出用光ファイバ104とピンホール105の中心軸合わせが不要となり、より容易に実施例1と同等の性能を達成することが可能となる。
【0056】
実施例2の結像光学系303(図11)と、実施例3の接続用光ファイバ402(図12)とを組み合わせてもよい。たとえば、図12において、ファイバコネクタ401に代えて結像光学系303を用いてもよい。この場合、結像光学系303は、検出用光ファイバ104の光出射端から出射された光を接続用光ファイバ402の入射端に結像する。
【0057】
このような組み合わせにおいて、結像光学系303の結像倍率を1以上とする、すなわち拡大結像することで、接続用光ファイバ402のコア径の自由度が高まる。たとえば、接続用光ファイバ402のコア径を検出用光ファイバ104のコア径と等しく、またはこれよりも大きく設定することができる。
【0058】
[実施例4](撮像素子を使用)
図13は、本実施例によるキャピラリ電気泳動装置1における成分検出部6の構成例を示す模式図である。なお、図2に示した部品と同じものには同一の符号を付し、その説明を省略する。本実施例は、光検出部108が、結像光学系303(マイクロレンズアレイ501,502を備える)、ロングパスフィルタ106、撮像素子503、信号処理部504を備える点において実施例1と異なる。
【0059】
実施例1と同様に、光源101から出射された励起光は複数のキャピラリ102に対して、キャピラリアレイ103の配列方向に沿って照射され、キャピラリ102の中のサンプルから発生した蛍光の一部が各々のキャピラリ102に対応して設けられた検出用光ファイバ104に結合する。結像光学系303は、すべての検出用光ファイバ104の出射端から出射された光を撮像素子503に(より厳密には、たとえばその受光部に)結像する役割を果たしており、これにより検出用光ファイバ104から出射された蛍光の2次元光強度分布が撮像素子503によって検出され、信号処理部504に転送される。
【0060】
信号処理部504は、撮像素子503で検出された光のうち、検出用光ファイバ104の中心部の光を選択的に処理する。たとえば、中心部の光の強度だけを信号として取得して加算し、他の光の強度を無視する。すなわち、本実施例においては、信号処理部504が実施例1におけるピンホール105の役割を果たしている。
【0061】
本実施例においては、ピンホールや接続用光ファイバを設けることなく、信号処理のみでクロストークの抑制が可能である。また、検出領域の大きさは信号処理部504によって自由に設定可能であるため、用途に応じて信号強度とクロストークの大小関係を最適化することが容易である。
【0062】
以上説明するように、本発明に係る様々な実施例について、以下の説明が当てはまる。
本発明の一例は、
光源と、
複数のキャピラリと、
光検出部と、
一方の端面が前記キャピラリのいずれかに関連して配置され、他方の端面が前記光検出部に接続された複数の検出用光ファイバと、
を有し、
前記光検出部は前記検出用光ファイバの中心部の光を選択的に検出する
ことを特徴とするキャピラリ電気泳動装置である。
【0063】
このような構成とすることにより、クロストークを抑制することができる。
【0064】
一例として、前記光検出部は、少なくとも光検出器と選択的遮光素子とを備えてもよい。
【0065】
このような構成とすることで、安価かつ簡素な構成でクロストークを抑制することができる。
【0066】
一例として、前記光検出部は、少なくとも光検出器と接続用光ファイバとを備えてもよい。
【0067】
このような構成とすることで、安定的に構成でクロストークを抑制することができる。
【0068】
一例として、前記光検出部は、少なくとも撮像素子と信号処理部とを備え、前記信号処理部は、前記撮像素子で検出された光のうち前記検出用光ファイバの中心部の光を選択的に処理してもよい。
【0069】
このような構成とすることで、遮光用部品を用いることなく信号処理部のみでクロストークを抑制することができる。
【0070】
一例として、前記光検出部は、前記検出用光ファイバの光出射端から出射された光を前記選択的遮光素子の位置に結像する結像光学系をさらに備えてもよい。
【0071】
このような構成とすることで、光学フィルタ等の部品の配置が容易になるとともに、結像倍率を適切に設定することで選択的遮光素子の位置ずれに対するロバスト性を向上させることができる。
【0072】
一例として、前記光検出部は、前記検出用光ファイバの光出射端から出射された光を前記接続用光ファイバの入射端に結像する結像光学系をさらに備えてもよい。
【0073】
このような構成とすることで、光学フィルタ等の部品の配置が容易になるとともに、結像倍率を適切に設定することで接続用光ファイバの位置ずれに対するロバスト性を向上させることができる。
【0074】
一例として、前記接続用光ファイバのコア径は、前記検出用光ファイバのコア径よりも小さく構成されてもよい。
【0075】
このような構成とすることで、ピンホールが不要となる。
【0076】
一例として、前記光検出部は、前記検出用光ファイバの光出射端から出射された光を前記撮像素子に結像する結像光学系をさらに備えてもよい。
【0077】
このような構成とすることで、光学フィルタ等の部品の配置が容易になるとともに、結像倍率を適切に設定することでより、信号処理によるクロストーク抑制効果を向上させることができる。
【0078】
一例として、前記光検出部は、前記検出用光ファイバの光出射端において、中心から半径r以下の領域の光のみを選択的に検出し、
ただしrは以下の式によって与えられ、
【数18】
ここで、NAは前記検出用光ファイバの開口数であり、
cは前記検出用光ファイバのコア径であり、
pは前記複数のキャピラリ間の間隔であり、
outは前記キャピラリの外径であり、
dは前記キャピラリの表面から対応する前記検出用光ファイバの光入射端までの距離である、
ように構成されてもよい。
【0079】
このような構成とすることで、信号成分の損失を最小限に抑えつつ、クロストークを抑制することが可能である。
【0080】
一例として、前記光検出部は、選択的に検出する前記検出用光ファイバの領域の面積および形状の少なくとも一方を変更可能であってもよい。
【0081】
このような構成とすることで、検出感度とクロストークをアプリケーションに応じて適切に調整することが可能になる。
【符号の説明】
【0082】
1:キャピラリ電気泳動装置
2:電気泳動媒体容器
3:サンプル容器
4:注入側電極槽
5:キャピラリ
6:成分検出部
7:排出側電極槽
8:高圧電源
9:電極
11:キャピラリアレイ
101:光源
102:キャピラリ
103:キャピラリアレイ
104:検出用光ファイバ
105:ピンホール(選択的遮光素子)
106:ロングパスフィルタ
107:光検出器
108:光検出部
201,202:キャピラリ
203,204:検出用光ファイバ
301,302:レンズ
303:結像光学系
401:ファイバコネクタ
402:接続用光ファイバ
501:マイクロレンズアレイ
503:撮像素子
504:信号処理部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13