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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-31
(45)【発行日】2025-02-10
(54)【発明の名称】研磨液
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/304 20060101AFI20250203BHJP
   B24B 57/02 20060101ALI20250203BHJP
   B24B 7/00 20060101ALI20250203BHJP
【FI】
H01L21/304 622C
B24B57/02
B24B7/00 Z
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2020114784
(22)【出願日】2020-07-02
(65)【公開番号】P2022012737
(43)【公開日】2022-01-17
【審査請求日】2023-05-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000134051
【氏名又は名称】株式会社ディスコ
(74)【代理人】
【識別番号】100075384
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 昂
(74)【代理人】
【識別番号】100172281
【弁理士】
【氏名又は名称】岡本 知広
(74)【代理人】
【識別番号】100206553
【弁理士】
【氏名又は名称】笠原 崇廣
(74)【代理人】
【識別番号】100189773
【弁理士】
【氏名又は名称】岡本 英哲
(74)【代理人】
【識別番号】100184055
【弁理士】
【氏名又は名称】岡野 貴之
(72)【発明者】
【氏名】酒井 歩
(72)【発明者】
【氏名】有福 法久
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 武志
【審査官】鈴木 孝章
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-222847(JP,A)
【文献】特表2009-514219(JP,A)
【文献】特開2013-045909(JP,A)
【文献】特表2004-529488(JP,A)
【文献】国際公開第2016/181888(WO,A1)
【文献】特開2006-287244(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/304
B24B 57/02
B24B 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
パッド中に砥粒が固定された固定砥粒研磨パッドを使用して、ウェーハの一方の面を研磨する際に使用される研磨液であって、
加水分解によりアルカリ性を示す無機塩と、プロパンジアミンと、が溶解しており、砥粒が含有されていないことを特徴とする研磨液。
【請求項2】
該無機塩は、強アルカリの陽イオンと弱酸の陰イオンとからなことを特徴とする請求項1記載の研磨液。
【請求項3】
該無機塩の濃度は、0.50wt%以上であり、
プロパンジアミンの濃度は、0.025wt%以上であることを特徴とする請求項1又は2記載の研磨液。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウェーハを研磨する際に使用される研磨液に関する。
【背景技術】
【0002】
携帯電話、パソコン等の電子機器には、デバイスチップが搭載されている。デバイスチップは、例えば、表面側にIC(Integrated Circuit)、LSI(Large Scale Integration)等のデバイスが形成されているシリコン製のウェーハを加工することで製造される。
【0003】
具体的には、まず、研削装置を用いて、ウェーハの裏面側を粗研削し、次いで、同裏面側を仕上げ研削することで、ウェーハを所定の厚さまで薄化する(例えば、特許文献1参照)。通常、研削工程では、被研削面には研削痕(ソーマーク)が残るので、研削工程の後、CMP(Chemical Mechanical Polishing:化学機械研磨)装置を用いて、ウェーハの裏面側を研磨してソーマークを除去する(例えば、特許文献2参照)。研磨工程の後、切削装置を用いて、ウェーハを複数のデバイスチップに分割する。
【0004】
研磨装置の一例(ウェーハの下面側を研磨するフェイスダウン方式)について説明すると、研磨装置は、鉛直方向に略平行な回転軸の周りに回転可能な円形の定盤を有する。定盤の上面には、円盤状の研磨パッドが固定されている。研磨パッドとしては、例えば、砥粒を含有している固定砥粒研磨パッドが用いられる。また、固定砥粒研磨パッドの上方には、研磨液を供給するためのノズルが配置されている。
【0005】
固定砥粒研磨パッドの上方のうちノズルとは異なる領域には、鉛直方向に略平行な回転軸の周りに回転可能であり、ウェーハを吸引保持可能な円盤状のキャリアが配置されている。ウェーハを研磨する際には、まず、キャリアの保持面でウェーハの上面側を保持する。
【0006】
そして、回転している固定砥粒研磨パッドの上面に研磨液を供給すると共に、ウェーハを回転させながら、ウェーハの下面側を固定砥粒研磨パッドの上面に押し付ける。ウェーハの下面側と、研磨液を含んだ固定砥粒研磨パッドの上面側と、の化学的作用及び機械的作用により、ウェーハの下面側は研磨される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2000-288881号公報
【文献】特開平8-99265号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
研磨液としては、例えば、加水分解によりアルカリ性を示す無機塩が溶解した水溶液が使用される。しかし、当該無機塩のみが溶解した水溶液を研磨液として用いた場合、研磨レート(即ち、単位時間当たりに除去されるウェーハの厚さ)が比較的低いという問題がある。
【0009】
本発明は係る問題点に鑑みてなされたものであり、加水分解によりアルカリ性を示す無機塩のみが溶解した水溶液を研磨液として用いた場合に比べて、研磨レートを向上させることができる研磨液を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一態様によれば、パッド中に砥粒が固定された固定砥粒研磨パッドを使用して、ウェーハの一方の面を研磨する際に使用される研磨液であって、加水分解によりアルカリ性を示す無機塩と、プロパンジアミンと、が溶解しており、砥粒が含有されていない研磨液が提供される。
【0011】
好ましくは、該無機塩は、強アルカリの陽イオンと弱酸の陰イオンとからな
【0012】
また、好ましくは、該無機塩の濃度は、0.50wt%以上であり、該プロパンジアミンの濃度は、0.025wt%以上である
【発明の効果】
【0013】
本発明の一態様に係る研磨液には、加水分解によりアルカリ性を示す無機塩と、有機アルカリと、が溶解している。無機塩及び有機アルカリの作用により、加水分解によりアルカリ性を示す無機塩のみが溶解した水溶液を研磨液として用いた場合に比べて、研磨レートを向上させることができる。更に、当該研磨液には砥粒が含有されていないので、遊離砥粒を使用する場合の様に、装置内部や被加工物が砥粒で汚れないという利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】研磨装置の概要を示す断面図である。
図2】研磨レートと、ウェーハの被研磨面の面粗さと、を示すグラフである。
図3】無機塩に対して有機アルカリの重量比を変えた場合の研磨レートを示すグラフである。
図4】5分間研磨を10回繰り返したときの研磨レートの推移を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
添付図面を参照して、本発明の一態様に係る実施形態について説明する。まず、本実施形態で使用する研磨液について説明する。なお、本実施形態においては、研磨パッド中に砥粒が固定された固定砥粒研磨パッドを用いることを前提とする。
【0016】
従来、固定砥粒研磨パッド用の研磨液としては、砥粒が含有されておらず、加水分解によりアルカリ性を示す無機塩のみが溶解したものが用いられていた。当該研磨液を用いた場合、研磨屑による固定砥粒研磨パッドの目詰まりが起き難いので、研磨レート(単位時間当たりに除去されるウェーハの厚さ)の経時的な低下が生じ難いという利点がある。
【0017】
しかし、当該研磨液には、そもそも研磨レートが比較的低いという短所がある。そこで、無機塩のみが溶解した研磨液に比べてケミカルエッチング効果高くするために、当該無機塩に代えて、有機アルカリが溶解した研磨液を用いることが考えられる。
【0018】
しかし、固定砥粒研磨パッド用の研磨液として、砥粒が含有されておらず、有機アルカリのみが溶解したものを用いた場合、研磨屑が固定砥粒研磨パッドの気孔を塞ぐことにより、研磨液をパッド中に保持する固定砥粒研磨パッドの保持性能が低下する。それゆえ、研磨レートの経時的な低下が生じやすい。
【0019】
以上を鑑みて、本件の出願人は、無機塩及び有機アルカリを併用することで、無機塩の短所を有機アルカリの長所で補い、且つ、有機アルカリの短所を無機塩の長所で補うことができるのではないかと考えた。
【0020】
つまり、無機塩及び有機アルカリを併用することで、無機塩のみを用いた場合に比べて研磨レートが高くなり、且つ、有機アルカリのみを用いた場合に比べて研磨レートの経時的な低下が生じ難くなると考えた。
【0021】
(研磨液)本実施形態の研磨液は、純水中で加水分解によりアルカリ性を示す無機塩と、有機アルカリ又はアンモニアとが溶解しており、砥粒が含有されていない。詳しくは、後述するが、無機塩を0.50wt%以上とし、且つ、有機アルカリを0.025wt%以上とすることが好ましい。
【0022】
当該無機塩は、水溶性の塩であり、例えば、一般式:M(OH)(但し、Mは陽イオンMn+となり、nは1以上の整数である)で示される強アルカリの陽イオンと、弱酸の陰イオンと、から成る。
【0023】
強アルカリの陽イオンとしては、カリウムイオン、ナトリウムイオン等のアルカリ金属の陽イオンや、カルシウムイオン、バリウムイオン等のアルカリ土類金属の陽イオンが好ましい。弱酸の陰イオンとしては、炭酸、リン酸、シュウ酸、酢酸、ギ酸、ケイ酸等の陰イオンが好ましい。
【0024】
有機アルカリは、水溶液中においてアルカリ性を示す、アミン(amine)、及び、塩基性アミノ酸のうち1種類以上を含む。塩基性アミノ酸としては、例えば、アルギニン(arginine)、ヒスチジン(histidine)、リシン(lysine)を用いることができる。
【0025】
アミンとしては、例えば、脂肪族アミン、複素環アミン等の水溶性有機化合物が用いられる。脂肪族アミンとしては、エチレンジアミン、プロパンジアミン、ブタンジアミン、ペンタンジアミン、ヘキサンジアミン、ジエチレントリアミン、及び、トリス(2-アミノエチル)アミン等を用いることができる。また、複素環アミンとしては、ピペラジン、イミダゾール等を用いることができる。
【0026】
次いで、研磨に最適な無機塩及び有機アルカリの重量比を特定するための実験について説明する。当該実験では、デバイス等が形成されていないシリコン製のウェーハ(ベアウェーハ:bare wafer)を研磨装置2で研磨した。ここで、実験で使用した研磨装置2の概要について説明する。
【0027】
図1は、ウェーハ11の上面側を研磨するフェイスアップ方式の研磨装置2の概要を示す断面図である。なお、図1に示すZ軸方向は、鉛直方向と略平行である。研磨装置2は、円盤状のチャックテーブル4を有する。
【0028】
チャックテーブル4の下部には、Z軸方向に略平行に配置された円柱状の回転軸(不図示)の上端部が連結されている。回転軸の下端部には、モーター等の回転駆動源(不図示)の出力軸が連結されている。回転駆動源を動作させると、チャックテーブル4は、回転軸の周りで所定方向に回転する。
【0029】
チャックテーブル4は、ステンレス鋼等の金属で形成された円盤状の枠体6を有する。枠体6の上部には、円盤状の凹部が形成されており、この凹部には多孔質セラミックス等で形成された円盤状のポーラス板8が固定されている。
【0030】
ポーラス板8の上面と、枠体6の上面と、は、面一となっており、略平坦な保持面4aを形成している。ポーラス板8の下方には、枠体6の径方向に沿う態様で複数の第1流路6aが形成されている。なお、図1では、1つの第1流路6aを示す。
【0031】
更に、枠体6の径方向の中心部には、Z軸方向に沿う態様で第2流路6bが形成されている。第2流路6bの上端部は、第1流路6aに接続しており、第2流路6bの下端部は、エジェクタ等の吸引源(不図示)に接続されている。吸引源を動作させれば、ポーラス板8の上面には負圧が伝達される。
【0032】
保持面4a上に配置されたウェーハ11は、保持面4aに生じる負圧により、吸引保持される。保持面4aの上方には、研磨ユニット10が配置されている。研磨ユニット10は、円筒状のスピンドルハウジング(不図示)を有する。
【0033】
スピンドルハウジング内には、円柱状のスピンドル12が回転可能な態様で収容されている。スピンドル12の長手方向は、Z軸方向と略平行に配置されている。スピンドル12の上端部には、スピンドル12を回転させるモータ(不図示)が連結されている。
【0034】
スピンドル12の下端部には、円盤状のマウント14の上面の中心部が連結されている。マウント14は、ウェーハ11の径よりも大きな径を有する。マウント14の下面には、マウント14と略同径の円盤状の研磨ホイール16が装着されている。
【0035】
研磨ホイール16は、マウント14の下面に連結された円盤状のホイール基台18を有する。ホイール基台18は、アルミニウム又はステンレス鋼等の金属で形成されている。ホイール基台18の下面には、ホイール基台18と略同径の研磨パッド20が固定されている。
【0036】
研磨パッド20は、パッド中に砥粒が固定された固定砥粒研磨パッドである。研磨パッド20は、μmオーダーのサイズの砥粒が分散されたウレタン溶液を、ポリエステル製の不織布に含侵させた後、乾燥させることで製造できる。
【0037】
砥粒は、例えば、シリカ(酸化シリコン)、炭化ケイ素、cBN(cubic boron nitride)、ダイヤモンド、金属酸化物微粒子等の材料で形成されている。砥粒に使用される金属酸化物微粒子としては、セリア(酸化セリウム)、ジルコニア(酸化ジルコニウム)、アルミナ(酸化アルミニウム)等が挙げられる。
【0038】
研磨パッド20、ホイール基台18、マウント14及びスピンドル12の径方向の中心位置は、略一致しており、これらの中心位置を貫通するように、円柱状の貫通孔22が形成されている。貫通孔22の上端部には、研磨液供給源(不図示)の配管(不図示)が接続されている。
【0039】
研磨液供給源は、配管、送液ポンプ、研磨液24の貯留槽等を備える。研磨液供給源は、貫通孔22を介して研磨パッド20の貫通開口部へ、研磨液24を供給する。なお、研磨液24は、砥粒を含有しない。
【0040】
砥粒を含有しない研磨液24を使用することで、砥粒(即ち、遊離砥粒)を含有する研磨液を使用する場合と異なり、研磨装置2の内部や、被加工物であるウェーハ11が砥粒で汚れることを防止できるという利点がある。
【0041】
スピンドルハウジングには、Z軸方向移動ユニット(不図示)が連結されている。Z軸方向移動ユニットで研磨ユニット10を下方へ押すことにより、研磨パッド20は、保持面4aで吸引保持されたウェーハ11を、所定圧力で下方に押圧できる。
【0042】
ウェーハ11を研磨する際には、まず、保持面4aでウェーハ11を吸引保持する。そして、チャックテーブル4を所定方向に回転させると共に、スピンドル12を所定方向に回転させる。
【0043】
このとき、研磨液供給源から研磨液24を供給しながら、研磨パッド20を所定の圧力で下方に押圧すると、ウェーハ11の上面(一面)側と、研磨液24を含む研磨パッド20の下面側と、の化学的作用及び機械的作用により、ウェーハ11の上面側は研磨される。
【0044】
次に、実験における無機塩の最適濃度について説明する。図2は、炭酸カリウムの濃度を種々の値(0.10wt%、0.30wt%、0.50wt%、0.70wt%及び1.00wt%)にした場合における、研磨レート(μm/分)と、ウェーハ11の被研磨面の粗さRa(Å)と、を示すグラフである。
【0045】
棒グラフは、図2の縦軸の左側に位置する研磨レート(μm/分)を示す。5分間研磨した場合の研磨レートを斜線付の棒グラフで示し、2分間研磨した場合の研磨レートを白地の棒グラフで示す。
【0046】
折れ線グラフは、図2の縦軸の右側に位置するウェーハ11の被研磨面(即ち、ウェーハ11の上面)の粗さRa(Å)を示す。Raは、算術平均粗さを意味し、単位はオングストロームである。
【0047】
なお、被研磨面の粗さRaは、図1に示すフェイスアップ方式の研磨装置2ではなく、フェイスダウン方式の研磨装置を用いて得られたデータである。しかし、炭酸カリウムの濃度に対する粗さRaの傾向(即ち、炭酸カリウムの濃度が高いほど、粗さRaが大きい)は、フェイスアップ方式でも同様である。
【0048】
研磨パッド20の砥粒には、シリカ製の砥粒を用いた。実験において、スピンドル12の回転数を95rpmとし、チャックテーブル4の回転数を90rpmとした。また、ウェーハ11への押圧力は、29.4kPaとした。
【0049】
研磨液としては、砥粒が含有されておらず、且つ、粉末状の炭酸カリウム(KCO)を純水に溶解させた炭酸カリウム水溶液を、研磨液供給源から0.5L/分の流量で供給した。また、研磨時間は、900秒(即ち、15分)とした。
【0050】
図2に示す様に、炭酸カリウムの濃度が0.50wt%以上になると、研磨レートは略一定となった。それゆえ、炭酸カリウムの濃度は、0.50wt%以上とすることが好ましい。但し、炭酸カリウムの濃度が高いほど、粗さRaが大きい。
【0051】
それゆえ、0.10wt%以上1.00wt%以下の範囲では、粗さRaを抑えつつ、且つ、研磨レートを高くするためには、炭酸カリウムの濃度を0.50wt%以上の範囲で0.50wt%に近付ける方が好ましい。
【0052】
この結果を踏まえ、次に、無機塩(炭酸カリウム0.50wt%)と、種々の濃度の有機アルカリ(1,3-プロパンジアミン(以下、単にプロパンジアミンと記す))と、を有する研磨液24を作成し、有機アルカリの濃度に対する研磨レートの違いを調べた。
【0053】
図3は、無機塩(炭酸カリウム)に対して有機アルカリ(プロパンジアミン)の重量%を変えた場合の研磨レートを示すグラフである。横軸は、下記の表1に示す様に研磨液の種類を示し、縦軸は、研磨レート(μm/分)を示す。5分間研磨した場合の研磨レートを斜線付の棒グラフで示し、2分間研磨した場合の研磨レートを白地の棒グラフで示す。
【0054】
研磨パッド20の砥粒には、シリカ製の砥粒を用いた。比較例1及び比較例2並びに実験例1から実験例8では、スピンドル12の回転数を500rpmとし、チャックテーブル4の回転数を505rpmとした。また、ウェーハ11への押圧力は、25kPaとした。
【0055】
比較例1は、砥粒が含有されておらず、且つ、0.50wt%の炭酸カリウムのみが純水に溶解したアルカリ性水溶液を、研磨液供給源から0.15L/分の流量で供給し、ウェーハ11を研磨した場合の実験結果である。
【0056】
比較例2は、砥粒が含有されておらず、且つ、0.10wt%のプロパンジアミンのみが純水に溶解したアルカリ性水溶液を、研磨液供給源から0.15L/分の流量で供給し、ウェーハ11を研磨した場合の実験結果である。
【0057】
これに対して、実験例1から8で使用される研磨液24は、砥粒が含有されておらず、且つ、粉末状の炭酸カリウムと、液体のプロパンジアミンと、が純水に溶解したアルカリ性水溶液である。
【0058】
実験例1から8は、研磨液供給源から0.15L/分の流量で研磨液24を供給し、ウェーハ11を研磨した場合の実験結果である。なお、実験例1から8における研磨液24のpHは、10以上14以下であった。
【0059】
比較例1及び比較例2並びに実験例1から実験例8における、炭酸カリウムの濃度(wt%)と、プロパンジアミンの濃度(wt%)と、5分間研磨した場合の研磨レート(μm/分)と、2分間研磨した場合の研磨レート(μm/分)と、を表1に示す。
【0060】
【表1】
【0061】
5分間研磨及び2分間研磨の両方において、実験例1から実験例8の研磨レートは、比較例1の研磨レートに比べて高い。上述の図2に示す実験では、炭酸カリウムの濃度を0.50wt%以上としても研磨レートが略一定となったことを考慮すれば、無機塩及び有機アルカリの作用により、加水分解によりアルカリ性を示す無機塩のみが溶解した水溶液を研磨液として用いた場合に比べて、研磨レートを向上させることができると言える。
【0062】
また、実験例2から実験例8の研磨レートは、2分間研磨及び5分間研磨の両方において、比較例2の研磨レートよりもが高かった。それゆえ、プロパンジアミンの濃度を、0.025wt%以上とすることが好ましい。
【0063】
但し、プロパンジアミンの濃度上昇に伴い研磨レートは上昇する傾向にあるので、無機塩(炭酸カリウム)を0.50wt%以上とし、且つ、有機アルカリ(プロパンジアミン)を0.050wt%以上としてもよい。
【0064】
また、無機塩を0.50wt%以上とし、且つ、有機アルカリを0.075wt%以上としてもよく、無機塩を0.50wt%以上とし、且つ、有機アルカリを0.10wt%以上としてもよい。
【0065】
プロパンジアミンの濃度上昇に伴い研磨レートは上昇する傾向にあったが、2分間研磨及び5分間研磨のいずれの場合においても、実験例6から実験例8では、研磨レートの明確な上昇傾向が無くなった。
【0066】
それゆえ、無機塩(炭酸カリウム)を0.50wt%以上とし、且つ、有機アルカリ(プロパンジアミン)の濃度を0.15wt%以上とする場合に、薬品コストを下げたり、研磨レートを高めたりするためには、有機アルカリの濃度を、0.15wt%以上の範囲で0.15wt%に近づける方が望ましい。
【0067】
次に、無機塩及び有機アルカリを用いることで、有機アルカリのみを用いた場合に比べて研磨レートの経時的な低下が生じ難くなったかどうかを検討する。図4は、5分間研磨を10回繰り返したときの研磨レートの推移を示す折れ線グラフである。
【0068】
縦軸は研磨レート(μm/分)を示し、横軸は回数(1回から10回)を示す。グラフA1は、炭酸カリウムの濃度を0.50wt%とした場合の10回の研磨における研磨レートの推移を示す。また、グラフA2は、プロパンジアミンの濃度を0.15wt%とした場合の10回の研磨における研磨レートの推移を示す。
【0069】
更に、グラフA3は、炭酸カリウムの濃度を0.50wt%とし、且つ、プロパンジアミンの濃度を0.15wt%とした場合の10回の研磨における研磨レートの推移を示す。なお、1回の研磨時間は5分間とした。
【0070】
各回では、図3の実験と同様の条件(スピンドル12の回転数500rpm、チャックテーブル4の回転数505rpm、ウェーハ11への押圧力25kPa、研磨液の供給量0.15L/分)でウェーハ11を研磨した。図4の情報と重複するが、グラフA1からA3の研磨レートの値を表2に示す。
【0071】
【表2】
【0072】
図4及び表2から明らかな様に、グラフA1(炭酸カリウム0.50wt%)の場合、研磨レートは、グラフA2及びA3に比べて低いものの、10回(即ち、5分間×10回=50分間)の研磨で、研磨レートが低下することは無かった。
【0073】
また、出願人は、炭酸カリウム水溶液を研磨液として用いた場合、使用後の研磨パッド20に付着している研磨屑が非常に少ないことを、使用後の研磨パッド20を観察することで確認している。
【0074】
研磨屑の付着は、研磨レートと密接に関連していると考えられ、グラフA1において研磨レートの経時的な低下が生じていないのは、研磨パッド20の目詰まりが起き難いからであると考えられる。
【0075】
これに対して、グラフA2(プロパンジアミン0.15wt%)の場合、研磨レートは、グラフA1に比べて高いものの、7回目及び8回目の研磨で、研磨レートが略一定となっており、9回目及び10回目では、7回目及び8回目に比べて、研磨レートが低下した。
【0076】
グラフA2に示す研磨レートの経時的な低下は、上述の様に、研磨屑が研磨パッド20の気孔を塞ぐことにより、研磨パッド20が研磨液をパッド中に保持する保持性能が低下することが原因であると考えられる。
【0077】
実際に、出願人は、プロパンジアミン水溶液を研磨液として用いた場合、使用後の研磨パッド20に付着している研磨屑が、炭酸カリウム水溶液を研磨液として用いた場合に比べて、非常に多いことを確認している。
【0078】
グラフA3(炭酸カリウム0.50wt%、及び、プロパンジアミン0.15wt%)の場合、研磨レートはグラフA2に比べて高く、且つ、10回の研磨で、研磨レートが低下することは無かった。
【0079】
この様に、無機塩及び有機アルカリを用いることで、無機塩のみを用いた場合に比べて研磨レートを高くし、且つ、有機アルカリのみを用いた場合に比べて研磨レートの経時的な低下を抑えることができた。
【0080】
なお、図4及び表2に示す実験では、無機塩として炭酸カリウムを用い、有機アルカリとしてプロパンジアミンを用いたが、研磨時に炭酸カリウムと同様の作用を有すると考えられる他の無機塩と、研磨時にプロパンジアミンと同様の作用を有すると考えられる他の有機アルカリと、を用いた場合も、同様の効果が得られると推察される。
【0081】
その他、上記実施形態に係る構造、方法等は、本発明の目的の範囲を逸脱しない限りにおいて適宜変更して実施できる。
【符号の説明】
【0082】
2 :研磨装置
4 :チャックテーブル
4a:保持面
6 :枠体
6a :第1流路
6b :第2流路
8 :ポーラス板
10 :研磨ユニット
11 :ウェーハ
12 :スピンドル
14 :マウント
16 :研磨ホイール
18 :ホイール基台
20 :研磨パッド
22 :貫通孔
24 :研磨液
図1
図2
図3
図4