(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-31
(45)【発行日】2025-02-10
(54)【発明の名称】歯間清掃具
(51)【国際特許分類】
A61C 15/04 20060101AFI20250203BHJP
【FI】
A61C15/04 501
(21)【出願番号】P 2020217492
(22)【出願日】2020-12-25
【審査請求日】2023-11-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000186588
【氏名又は名称】小林製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100186015
【氏名又は名称】小松 靖之
(72)【発明者】
【氏名】石川 悠湖
【審査官】胡谷 佳津志
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第04155216(US,A)
【文献】特開2010-099268(JP,A)
【文献】特開昭52-037857(JP,A)
【文献】実開平02-006016(JP,U)
【文献】特公昭59-041736(JP,B2)
【文献】特開2016-171821(JP,A)
【文献】米国特許第04142538(US,A)
【文献】米国特許第04265258(US,A)
【文献】米国特許第08132579(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61C 15/00-15/04
D02G 1/00-3/48
D02J 1/00-13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1本のマルチフィラメントを含むフロス部を備え、
前記フロス部は、長さ方向で捲縮度合いを異ならせることにより太さが異なる部分を有
し、
前記フロス部は、撚り合わされずに並列に配置されている複数のマルチフィラメントからなり、
前記複数のマルチフィラメントそれぞれは、前記長さ方向で前記捲縮度合いを異ならせることにより太さが異なる部分を有し、
前記複数のマルチフィラメントそれぞれの最大径と最小径との差は、0.05mm~0.15mmであり、
前記複数のマルチフィラメントそれぞれの太さは、1.7mm~2.0mmである、歯間清掃具。
【請求項2】
前記少なくとも1本のマルチフィラメントでは、前記長さ方向において前記捲縮度合いの大小が繰り返されることにより、太い部分と細い部分とが交互に形成されている、請求項1に記載の歯間清掃具。
【請求項3】
相互間に前記フロス部が架設されている2つの支持部を含む清掃具本体を備える、請求項1
又は2に記載の歯間清掃具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は歯間清掃具に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、歯間に挿入される歯間清掃具が知られている。特許文献1には、芯材の外周面に線材を巻回して被覆した清掃部を備える歯間清掃具が開示されている。特許文献1には、線材間に段差や隙間を設けて清掃部による清掃性を向上させることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載の歯間清掃具では、上述した段差や隙間などの凹凸の形成容易性の観点では、依然として改善の余地がある。
【0005】
本発明は、容易に形成可能な太さの異なる部分を有するフロス部を備える、歯間清掃具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1の態様としての歯間清掃具は、少なくとも1本のマルチフィラメントを含むフロス部を備え、前記フロス部は、長さ方向で捲縮度合いを異ならせることにより太さが異なる部分を有する。
【0007】
本発明の1つの実施形態として、前記少なくとも1本のマルチフィラメントでは、前記長さ方向において前記捲縮度合いの大小が繰り返されることにより、太い部分と細い部分とが交互に形成されている。
【0008】
本発明の1つの実施形態として、前記フロス部は、撚り合わされずに並列に配置されている複数のマルチフィラメントからなり、前記複数のマルチフィラメントそれぞれは、前記長さ方向で前記捲縮度合いを異ならせることにより太さが異なる部分を有し、前記複数のマルチフィラメントそれぞれの最大径と最小径との差は、0.15mm以下である。
【0009】
本発明の1つの実施形態として、前記フロス部は、撚り合わされずに並列に配置されている複数のマルチフィラメントからなり、前記複数のマルチフィラメントそれぞれは、前記長さ方向で前記捲縮度合いを異ならせることにより太さが異なる部分を有し、前記複数のマルチフィラメントそれぞれの最大径と最小径との差は、0.05mm以上である。
【0010】
本発明の1つの実施形態として、前記フロス部は、撚り合わされている複数のマルチフィラメントからなり、前記フロス部の最大径と最小径との差は、0.15mm以下である。
【0011】
本発明の1つの実施形態として、前記フロス部は、撚り合わされている複数のマルチフィラメントからなり、前記フロス部の最大径と最小径との差は、0.05mm以上である。
【0012】
本発明の1つの実施形態として、相互間に前記フロス部が架設されている2つの支持部を含む清掃具本体を備える。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、容易に形成可能な太さの異なる部分を有するフロス部を備える、歯間清掃具を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の一実施形態としての歯間清掃具を示す図である。
【
図3】
図1のフロス部のうち2つの支持部の間に架設されている部分の一部を拡大して示す図である。
【
図4】
図1のフロス部のうち第1支持部に固定されている部分を拡大して示す図である。
【
図5】
図1の歯間清掃具を製造する成形型の概略を示す図である。
【
図6】
図1の歯間清掃具の製造方法の一部を示す図である。
【
図7】
図1に示す歯間清掃具の変形例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明に係る歯間清掃具の実施形態について図面を参照して例示説明する。各図において共通する構成には同一の符号を付している。
【0016】
図1は、本発明に係る歯間清掃具の一実施形態としての歯間清掃具1を示す図である。
図1に示すように、歯間清掃具1は、清掃具本体10と、フロス部20と、を備える。フロス部20は、歯間に挿入され、歯間の歯垢を除去する糸状体である。清掃具本体10は、フロス部20を保持している。
【0017】
<清掃具本体10>
本実施形態の清掃具本体10は、使用者が把持可能な棒状のハンドル部11と、このハンドル部11から突設されている棒状の2つの支持部12、13と、を備える。本実施形態の歯間清掃具1において、フロス部20は、清掃具本体10の2つの支持部12、13の相互間に架設されている。換言すれば、フロス部20の両端部は、2つの支持部12、13に固定されている。
【0018】
本実施形態のハンドル部11は、略直線状に延在する部分と、その部分に連なり、湾曲しつつ先細りとなる部分と、を備えるが、ハンドル部11の形状は特に限定されない。
【0019】
本実施形態の2つの支持部12、13は、棒状のハンドル部11の長手方向の一端側で、ハンドル部11の長手方向と略直交する方向に、ハンドル部11から突設されている。また、本実施形態の2つの支持部12、13は、ハンドル部11の長手方向の異なる位置から、互いに平行に突設されている。更に、本実施形態の2つの支持部12、13は、ハンドル部11の長手方向で互いに対向して配置されている。以下、説明の便宜上、ハンドル部11の長手方向の端部側に位置する1つの支持部12を、「第1支持部12」と記載し、ハンドル部11の長手方向の中央側に位置する1つの支持部13を、「第2支持部13」と記載する。また、第1支持部12及び第2支持部13を特に区別しない場合は、単に「支持部12、13」と記載する。
【0020】
図2は、
図1のI-I線に沿う断面図である。
図1、
図2に示すように、本実施形態の第1支持部12は、第2支持部13と対向する方向が幅方向(
図1の左右方向、
図2の紙面と直交する方向)となり、第1支持部12の延在方向(
図1、
図2の上下方向)及び幅方向と直交する方向が厚み方向(
図1の紙面と直交する方向、
図2の左右方向)となる板形状を有している。
図2に示すように、本実施形態の第1支持部12の厚み方向の厚みは、延在方向でハンドル部11と連なる基端側から反対側の先端側に向かって漸次薄くなっている。但し、第1支持部12の厚み方向の厚みは、延在方向で一様であってもよく、その構成は特に限定されない。また、本実施形態の第1支持部12は、延在方向と直交する断面視で、矩形状の断面形状を有するが、この構成に限られない。第1支持部12の延在方向と直交する断面視での断面形状は、例えば円形など、他の形状であってもよい。
【0021】
図1、
図2に示すように、フロス部20の長さ方向の端部は、第1支持部12を幅方向に貫通する貫通孔12bに挿通された状態で、第1支持部12に固定されている。この詳細は後述する(
図4参照)。
【0022】
なお、本実施形態の第2支持部13の構成は、第1支持部12の構成と同様である。そのため、本実施形態では、第1支持部12の構成の詳細のみ説明し、第2支持部13の構成の詳細については説明を省略する。
【0023】
本実施形態の清掃具本体10は、例えば、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリエチレン、ABS、ポリカーボネート、ポリブチレンテレフタレート等の合成樹脂から形成可能である。
【0024】
<フロス部20>
図1、
図2に示すように、フロス部20は、少なくとも1本のマルチフィラメント21を含む。つまり、フロス部20は、1本以上のマルチフィラメント21を束ねた糸状体である。
図2に示すように、本実施形態のフロス部20は、4本のマルチフィラメント21により構成されているが、その数は特に限定されない。したがって、フロス部20を構成するマルチフィラメント21の数は、1本のみであってもよい。但し、フロス部20は、本実施形態のように、複数のマルチフィラメント21により構成されることが好ましい。このようにすることで、歯垢の掻き取り効果を高めることができる。また、複数のマルチフィラメント21が相互に作用するように束ねられることで、各支持部12、13から抜け落ち難くなり、各支持部12、13からの離脱が抑制される。但し、マルチフィラメント21の数が多すぎると、フロス部20の歯間への挿入性が悪化する。したがって、フロス部20を構成するマルチフィラメント21は、例えば7本以下とすることが好ましい。
【0025】
また、本実施形態のフロス部20は、複数(本実施形態では4本)のマルチフィラメント21が撚り合わされずに並列に配置されている。より具体的に、本実施形態のフロス部20を構成する複数のマルチフィラメント21は、フロス部20の長さ方向Aと直交する断面視(
図2参照)で、支持部12、13の延在方向(
図1、
図2の上下方向)に直線状に一列に並ぶように、並列に配置されている。但し、フロス部20の構成は、この構成に限られない。フロス部20は、複数のマルチフィラメント21が撚り合わされている構成であってもよい。
【0026】
各マルチフィラメント21の太さは、特に限定されないが、本実施形態のように撚り合わされずに並列に配置される場合、各マルチフィラメント21の太さは、例えば1.7mm~2.0mmとされることが好ましい。また、各マルチフィラメント21の太さは、1300デシテックス~1450デシテックスとすることが好ましく、1330デシテックス~1400デシテックスとすることがより好ましい。詳細は後述するが、フロス部20を構成する少なくとも1本のマルチフィラメント21は、長さ方向で捲縮度合いを異ならせることにより太さが異なる部分を有している(
図3、
図4参照)。なお、フロス部20が、複数のマルチフィラメント21が撚り合わされて構成される場合は、フロス部20全体の太さが例えば1.7mm~2.0mmとなるように、各マルチフィラメント21の太さを設定すればよい。
【0027】
更に、各マルチフィラメント21は、例えばポリエチレンにより形成されている複数のモノフィラメントを撚り合わせたものとしてよい。マルチフィラメント21を構成するモノフィラメントの形成材料は、ポリエチレンに限られず、例えば、ナイロン、テフロン(登録商標)、ビニロン、ポリエチレンテレフタラート、ポリブチレンテレフタレート、ポリアクリロニトリル、ポリスチレン、ポリプロピレン等であってもよい。また、1本のマルチフィラメント21を構成する複数のモノフィラメントが、異なる形成材料から形成されていてもよい。更に、マルチフィラメント21は、複数のモノフィラメントが撚り合わされている構成に限られず、複数のモノフィラメントを撚らずに束にした構成であってもよい。
【0028】
各マルチフィラメント21を構成するモノフィラメントの数は、15本~120本であることが好ましく、30本~100本であることがより好ましく、50本~100本であることが特に好ましい。モノフィラメントの数が少なすぎると、射出成形される清掃具本体10の合成樹脂材料と、モノフィラメントとが絡み難く、フロス部20が各支持部12、13から抜け落ち易くなる。また、モノフィラメントの数が少なすぎると、フロス部20が切れ易くなる。その一方で、モノフィラメントの数が多すぎると、射出成形される清掃具本体10の合成樹脂材料が、モノフィラメントの間に十分に入り込まず、フロス部20が各支持部12、13から抜け落ち易くなる。そのため、各マルチフィラメント21を構成するモノフィラメントの数は、上記範囲とすることが好ましい。
【0029】
また、各マルチフィラメント21を複数のモノフィラメントを撚り合わせた構成とする場合、各マルチフィラメント21の1m当たりの撚り数は、500回以下とすることが好ましい。具体的には、300回以下であることが好ましく、200回以下であることがより好ましく、170回以下であることが特に好ましい。マルチフィラメント21の撚り数が多すぎると、射出成形される清掃具本体10の合成樹脂材料が、モノフィラメントの間に十分に入り込まず、フロス部20が各支持部12、13から抜け落ち易くなる。したがって、各マルチフィラメント21の1m当たりの撚り数は、上記範囲とすることが好ましい。
【0030】
なお、各マルチフィラメント21の1m当たりの撚り数の下限値は特に限定されない。上述したように、各マルチフィラメント21は、複数のモノフィラメントを撚らずに束ねられていてもよい。
【0031】
さらに、マルチフィラメント21には、強化材を含有させることができる。強化剤としては、例えば、ガラス繊維、アミド繊維などの繊維状強化材、タルクなどの顆粒状強化材、板状ガラス、マイカ等の板状強化材などが挙げられる。
【0032】
次に、
図3を参照して、フロス部20の詳細について説明する。
図3は、
図1のフロス部20のうち支持部12、13の間に架設されている部分の一部を拡大して示す図である。
【0033】
図3に示すように、フロス部20は、長さ方向Aで捲縮度合いを異ならせることにより太さが異なる部分を有する。より具体的に、フロス部20は、長さ方向Aの異なる位置に、捲縮度合いが小さく細くなっている部分と、捲縮度合いが大きく太くなっている部分と、の両方を備える。「捲縮度合い」の相違は、例えば、細い部分及び太い部分それぞれにおいて、長さ方向Aでの単位長さ当たりに含まれるモノフィラメントの延在長さを比較することにより確認可能である。長さ方向Aでの単位長さ当たりに含まれるモノフィラメントの延在長さは、捲縮度合いが小さく細い部分では相対的に短くなり、捲縮度合いが大きく太い部分では相対的に長くなる。
【0034】
フロス部20が太さの異なる部分を有することにより、歯間への挿入性と、歯間での清掃性と、を共に向上させることができる。具体的に、フロス部20が、相対的に細い部分を備えることで、歯間への挿入性を高めることができる。また、フロス部20が、相対的に太い部分を備えることで、歯間で歯の側面に密着し易くなり、清掃性を高めることができる。また、太い部分と細い部分とにより形成される段差や凹部には、歯垢を捕集され易い。そのため、この点においても、フロス部20の清掃性を高めることができる。
【0035】
ここで、フロス部20では、太さの異なる部分が、捲縮度合いを異ならせることにより実現されている。このように、捲縮度合いを利用して太さを異ならせることで、フロス部20の太さの異なる部分を容易に実現することができる。
【0036】
より具体的に、本実施形態のフロス部20は、複数のマルチフィラメント21により構成されている。そして、本実施形態のフロス部20は、長さ方向Aで捲縮度合いを異ならせることにより太さが異なる部分を有する複数のマルチフィラメント21が、並列に配置されて構成されている。つまり、本実施形態では、フロス部20を構成する各マルチフィラメント21が、長さ方向Aで捲縮度合いが異なるように構成されている。そして、本実施形態では、長さ方向Aで捲縮度合いが異なる複数のマルチフィラメント21が並列に配置されることで、フロス部20全体としても、長さ方向Aで捲縮度合いを異ならせることにより太さが異なる部分が形成されている。
【0037】
但し、上述したように、フロス部20は、長さ方向Aで捲縮度合いを異なる複数のマルチフィラメント21が撚り合わされて形成されていてもよい。つまり、長さ方向Aで捲縮度合いが異なる複数のマルチフィラメント21が撚り合わされることで、フロス部20全体としても、長さ方向Aで捲縮度合いを異ならせることにより太さが異なる部分が形成されていてもよい。
【0038】
なお、フロス部20を構成する複数のマルチフィラメント21それぞれは、長さ方向Aで捲縮度合いが異なる部分を有していればよく、捲縮度合いが大きい部分や小さい部分の長さ方向Aの位置が、複数のマルチフィラメント21の相互で異なっていてもよく、同じであってもよい。つまり、一のマルチフィラメント21の長さ方向Aにおける捲縮度合いが大きい部分が、別のマルチフィラメント21の長さ方向Aにおける捲縮度合いが小さい部分と、隣接して配置(
図3参照)、又は、相互に撚り合わされていてもよい。
【0039】
本実施形態における各マルチフィラメント21は、長さ方向Aにおいて部分的に、例えば仮撚加工等の嵩高加工が施される。これにより、各マルチフィラメント21には、長さ方向Aで捲縮度合いが異なる部分が形成される。その結果、各マルチフィラメント21には、長さ方向Aで太さの異なる部分が形成される。
【0040】
なお、各マルチフィラメント21に対して施す嵩高加工は、上述した仮撚加工以外に、例えば、加撚、熱固定、解撚法、擦過法、押込法、賦型法、空気噴射法、複合捲縮法などの加工法を利用してもよい。
【0041】
また、本実施形態のフロス部20は、長さ方向Aで予め捲縮度合いを異ならせた複数のマルチフィラメント21が並列に配置されて構成されているが、上述したように、フロス部20は、長さ方向Aで予め捲縮度合いを異ならせた複数のマルチフィラメント21を撚り合わせることにより形成されていてもよい。また、長さ方向Aで捲縮度合いが一様な複数のマルチフィラメント21を並列に配置又は撚り合わせた後に、フロス部20の長さ方向Aにおける捲縮度合いを異ならせてもよい。
【0042】
図3に示すように、本実施形態のフロス部20の各マルチフィラメント21では、長さ方向Aにおいて捲縮度合いの大小が繰り返されることにより、太い部分と細い部分とが交互に形成されている。このような構成とすることで、歯間への挿入性と、歯間での清掃性と、を更に向上させることができる。以下、説明の便宜上、長さ方向Aにおいて交互に形成される太い部分及び細い部分のうち、細い部分を「細径部31」と記載し、太い部分を「太径部32」と記載する。
【0043】
図3に示すように、フロス部20の各マルチフィラメント21は、長さ方向Aで異なる位置に、複数の太径部32を備える。
図3に示すように、各マルチフィラメント21において、各太径部32の長さ方向Aにおける長さは一様であってもよく、異なっていてもよい。また、
図3に示すように、各マルチフィラメント21において、各太径部32における最大径についても、一様であってもよく、異なっていてもよい。なお、各太径部32の最大径とは、長さ方向Aと直交する断面視における外縁上の2点間の直線距離の最大値を意味する。例えば太径部32の長さ方向Aと直交する断面視での断面形状が略円形状の場合、その太径部32の最大径は、その円の直径となる。更に、
図3に示すように、各マルチフィラメント21において、長さ方向Aの位置によって、隣接する2つの太径部32同士の離間距離は異なっていてもよい。
【0044】
ここで、本実施形態のように、フロス部20が、撚り合わされずに並列に配置されている複数のマルチフィラメント21からなる場合、長さ方向Aで捲縮度合いが異なる部分を有する各マルチフィラメント21の最大径Dmaxと最小径Dminとの差は、0.15mm以下であることが好ましく、0.11mm以下であることがより好ましい。各マルチフィラメント21の最大径Dmaxと最小径Dminとの差が0.15mmより大きいと、挿入性及び清掃性の少なくともいずれか一方の性能が低下し易い。挿入性を維持するため最小径Dminを所望の範囲に設定すると、歯間に対して大きすぎる最大径Dmaxとなり易く、清掃性が低下し易い。その一方で、清掃性を維持するため最大径Dmaxを所望の範囲に設定すると、挿入時に切れ易い最小径Dminとなり易く、挿入性が低下し易い。以上の理由で、各マルチフィラメント21の最大径Dmaxと最小径Dminとの差は、上記範囲とすることが好ましい。
【0045】
また、本実施形態のように、フロス部20が、撚り合わされずに並列に配置されている複数のマルチフィラメント21からなる場合、長さ方向Aで捲縮度合いが異なる部分を有する各マルチフィラメント21の最大径Dmaxと最小径Dminとの差は、0.05mm以上であることが好ましく、0.09mm以上であることがより好ましい。各マルチフィラメント21の最大径Dmaxと最小径Dminとの差が0.05mmより小さいと、挿入性及び清掃性の少なくともいずれか一方の性能が低下し易い。挿入性を維持するため最小径Dminを所望の範囲に設定すると、歯間に対して小さすぎる最大径Dmaxとなり易く、清掃性が低下し易い。その一方で、清掃性を維持するため最大径Dmaxを所望の範囲に設定すると、太すぎる最小径Dminとなり易く、挿入性が低下し易い。以上の理由で、各マルチフィラメント21の最大径Dmaxと最小径Dminとの差は、上記範囲とすることが好ましい。
【0046】
なお、フロス部20が、撚り合わされている複数のマルチフィラメント21からなる場合は、上記同様の理由で、フロス部20全体の最大径と最小径との差を、上記数値範囲とすればよい。
【0047】
次に、
図4を参照して、フロス部20のうち第1支持部12に固定されている部分の詳細について説明する。
図4は、
図1のフロス部20のうち第1支持部12に固定されている部分を拡大して示す図である。
図4では、説明の便宜上、第1支持部12の位置を二点鎖線により示している。また、
図4では、第1支持部12に設けられる貫通孔12bの位置についても二点鎖線により示している。但し、本実施形態の第1支持部12は、フロス部20の一端部の周囲を覆うように樹脂が充填されることで射出成形されたものである。そのため、本実施形態の貫通孔12bは、実際は、フロス部20の外形に沿う孔となる。つまり、
図4では、貫通孔12bの位置を二点鎖線により便宜的に示しているが、
図4に示す貫通孔12bは、実際の形状と相違するものである。
【0048】
図4に示すように、フロス部20は、長さ方向Aの両端部それぞれに、第1支持部12を貫通し、長さ方向Aで太さが異なる部分を備える。より具体的に、本実施形態のフロス部20は、長さ方向Aの両端部それぞれに、細径部31及び太径部32を備える。フロス部20の長さ方向Aの両端部それぞれは、細径部31と、この細径部31より長さ方向Aの外側に位置し、細径部31より太い太径部32と、を備える。
【0049】
なお、フロス部20の長さ方向Aの両端部それぞれは、上述の位置関係で特定される細径部31及び太径部32を少なくとも一組備えればよいが、複数組備えてもよい。具体的に、
図4に示すフロス部20の長さ方向Aの一端部は、上述の位置関係で特定される細径部31及び太径部32を複数組備える。
【0050】
図4に示すように、第1支持部12は、フロス部20の各マルチフィラメント21の細径部31と太径部32との間の段差部又はテーパー部(本実施形態では段差部40)に当接し、フロス部20の長さ方向Aの内側への引き抜きを規制する引き抜き規制部12aを備える。換言すれば、第1支持部12の引き抜き規制部12aは、長さ方向Aにおいて、フロス部20の各マルチフィラメント21の太径部32と干渉する部位である。本実施形態の清掃具本体10は、後述するように、フロス部20と一体成形される。かかる場合に、本実施形態の引き抜き規制部12aは、フロス部20の各マルチフィラメント21の長さ方向Aの端部の段差部40に対して、長さ方向Aの内側に位置する、第1支持部12の一部により構成されている。
【0051】
このように、本実施形態の引き抜き規制部12aは、射出成型品の第1支持部12の一部により構成されているが、この構成に限られない。引き抜き規制部12aは、フロス部20の細径部31と太径部32との間の段差部又はテーパー部と干渉し、フロス部20の長さ方向Aの内側への引き抜きを規制するものであれば、その構成は特に限定されない。
【0052】
歯間清掃具1は、フロス部20を歯間に挿入し、長さ方向Aで往復移動させることにより使用される。そのため、第1支持部12が引き抜き規制部12aを備えることで、使用者が歯間清掃具1を使用する際に、フロス部20が第1支持部12から引き抜かれることを抑制できる。
【0053】
なお、本実施形態の引き抜き規制部12aは、細径部31及び太径部32の間の段差部40と当接して干渉する構成であるが、この構成に限られない。例えば、太径部32の最大径の位置から細径部31の最小径の位置まで長さ方向Aの外側から内側に向かって外径が漸次縮径する場合、引き抜き規制部12aは、太径部32の最大径の位置から細径部31の最小径の位置までの間のテーパー部と当接して干渉する構成であってもよい。但し、本実施形態のように、フロス部20に段差部40を設け、引き抜き規制部12aを段差部40と当接する構成とすることが好ましい。このようにすることで、フロス部20の引き抜き強度を、より高めることができる。
【0054】
また、
図4に示すように、本実施形態のフロス部20の各マルチフィラメント21における長さ方向Aの一端部は、第1支持部12の貫通孔12b内を延在しており、上述の引き抜き規制部12aは、この貫通孔12bの内面により構成されている。本実施形態の清掃具本体10は、後述するように、フロス部20と一体成形される。より具体的に、フロス部20の両端部の周囲に形成樹脂が充填され、固化することで、第1支持部12が形成されている。そのため、完成品の歯間清掃具1においては、本実施形態のフロス部20の各マルチフィラメント21における長さ方向Aの一端部は、第1支持部12に形成されている貫通孔12b内を延在する状態となる。そして、上述した本実施形態の引き抜き規制部12aは、フロス部20の各マルチフィラメント21の長さ方向Aの端部の段差部40に対して、長さ方向Aの内側に位置し、長さ方向Aの外側に向いて段差部40と対向する、貫通孔12bの内面に形成された規制壁12b1により構成されている。規制壁12b1は、段差部40と当接することで、フロス部20の長さ方向Aの内側への引き抜けを規制する。
【0055】
なお、フロス部20の第1支持部12からの引き抜け抑制の観点では、細径部31及び太径部32は、段差部又はテーパー部を形成するような太さが異なる関係であればよく、捲縮度合いを利用して太さを異ならせる必要はない。但し、フロス部20の長さ方向Aの両端部についても、フロス部20のうち2つの支持部12、13の間に架設される部分と共に、捲縮度合いを利用して太さを異ならせることで、容易に細径部31及び太径部32を形成することができる。
【0056】
また、
図4に示すように、本実施形態のフロス部20は、撚り合わされずに並列に配置されてる複数のマルチフィラメント21からなる。そして、フロス部20の両端部の細径部31及び太径部32は、複数のマルチフィラメント21のうち少なくとも1本のマルチフィラメント21(本実施形態では全てのマルチフィラメント21)の長さ方向Aの両端部により構成されている。特に、本実施形態のように、全てのマルチフィラメント21の両端部が細径部31及び太径部32を備える構成とすることで、各マルチフィラメント21の第1支持部12からの引き抜き強度が高められ、フロス部20全体の第1支持部12からの引き抜き強度を、より高めることができる。
【0057】
なお、上述したように、フロス部20は、撚り合わされている複数のマルチフィラメント21から構成されてもよい。かかる場合に、フロス部20の両端部の細径部31及び太径部32は、複数のマルチフィラメント21が撚り合わされたフロス部20全体の長さ方向Aの両端部により構成されていればよい。
【0058】
また、
図4に示すように、本実施形態のフロス部20は、第1支持部12の貫通孔12bを貫通しており、その端部に、貫通孔12bに入り込まない抜け止め部20aが形成されている。このような抜け止め部20aを設けることで、フロス部20の引き抜けを、より一層抑制できる。
【0059】
また、本実施形態では、
図4を参照して、フロス部20の長さ方向Aの一端部と、第1支持部12と、の関係を説明したが、フロス部20の長さ方向Aの他端部と、第2支持部13と、の関係も同様である。
【0060】
次に、
図5、
図6を参照して、本実施形態の歯間清掃具1の製造方法について説明する。
【0061】
まず、
図5に示すような射出成形用の成形型100を準備する。この成形型100には、複数の清掃具本体10を成形するために、複数のキャビティ101が設けられている。この成形型において、樹脂を注入するためのゲート102は、ハンドル部11に設けられている。なお、図示を省略するが、成形型100は、樹脂を吐出するノズルから分岐する複数の樹脂の通路(ランナー)を備えている。樹脂は、ノズルから各ランナーを介して各ゲート102へと供給される。また、キャビティ101の数及びそれに伴うランナーの数は特に限定されない。ランナーの長さはキャビティ101の配置によって適宜変更可能である。そして、射出成形を行う際には、成形型にフロス部20となる複数の線材103を配置する。このとき、複数の線材103は、複数のキャビティ101に亘って、各キャビティ101の両支持部12、13に対応する部分の間で延びるように配置される。
【0062】
次に、キャビティ101に清掃具本体10用の樹脂を注入する。上記のように、まず、樹脂は、射出されるとランナーを介してゲート102に到達し、当該ゲート102より、キャビティ101内に注入される。
【0063】
樹脂の注入が完了すると、所定時間経過後に、成形型100から複数の清掃具本体10を取り出す。このとき、各清掃具本体10においては、フロス部20となる複数の線材103が両支持部12、13に埋め込まれた状態で一体化されている。つまり、2つの支持部12、13は、フロス部20の両端部が埋め込まれた状態で射出成形された射出成型品である。また、複数の清掃具本体10は、複数の線材103によって連結された状態となっている。そのため、次の工程として、
図6に示すように、各清掃具本体10の第1支持部12の左面側、及び第2支持部13の右面側において、複数の線材103を焼き切る。複数の線材103を焼き切る焼き切り手段50は、特に限定されないが、例えば、火炎や加熱した刃物で焼き切ったり、遠赤外線などの熱光線の照射、あるいは電気放電によって焼き切ったりすることができる。このように、複数の線材103が焼き切られると、熱によって複数の線材103を構成する複数のマルチフィラメント21が溶融し、一体化することで塊となり、抜け止め部20aが形成される。このようにして、歯間清掃具1が形成される。
【0064】
次に、本実施形態の歯間清掃具1についての官能試験の概要及び結果について説明する。この官能試験では、捲縮度合いにより太さを異ならせた部分を有する4種のマルチフィラメント21を準備した。これら4種それぞれのマルチフィラメント21を6本並列に配置して作成した4種の歯間清掃具1を、19人のモニターに使用してもらい、挿入性の観点で5段階(挿入しやすい(5)、どちらかといえば挿入しやすい(4)、どちらともいえない(3)、どちらかといえば挿入しにくい(2)、挿入しにくい(1))で評価してもらった。また、清掃性の観点で5段階(高い(5)、どちらかといえば高い(4)、どちらともいえない(3)、どちらかといえば低い(2)、低い(1))で評価してもらった。
【0065】
[表1]は、実施例としての4種の歯間清掃具1それぞれに用いたマルチフィラメント21の直径中心値、直径最大値、直径最小値、を示す。また、[表1]では、実施例としての4種の歯間清掃具1それぞれにおける挿入性及び清掃性の官能試験の結果を示している。
【0066】
なお、[表1]におけるマルチフィラメント21の「直径中心値」とは、25cm糸束に4.9N(500gf)の荷重下で、1回/cmの撚りを加えた状態で、糸束の直径をマイクロメータで10か所測定し、その平均値を意味する。
【0067】
また、[表1]における挿入性及び清掃性の官能試験の結果は、19人のモニターの5階の評価の中で最も多い評価を示している。
【0068】
【0069】
[表1]に示すように、実施例1~4の歯間清掃具1によれば、いずれも高い挿入性及び清掃性を得られることが分かる。特に、歯間清掃具1に用いた各マルチフィラメント21の最大径Dmaxと最小径Dminとの差を、0.05mm~0.15mmとする、更には0.09mm~0.11mmとすることで、挿入性及び清掃性を非常に高いレベルで両立できることがわかる。なお、上記試験は、4種のマルチフィラメント21それぞれを6本並列にした歯間清掃具1を用いたが、並列に配置する本数を変えても同様の結果が得られた。
【0070】
最後に、[表1]と同じ実施例1~4の歯間清掃具1を用いて、支持部12からの引き抜き試験を行った。つまり、細径部31及び太径部32を備える6本のマルチフィラメント21の一端部を支持部12から引き抜く試験を行った。[表2]では、その試験結果を示している。[表2]に示すように、実施例1~4いずれの歯間清掃具1も高い糸抜強度を確保できていることがわかる。特に、実施例2~4では、9kgfを超える糸抜強度を確保できていることがわかる。したがって、歯間清掃具1の各マルチフィラメント21の最大径Dmaxと最小径Dminとの差を0.09mm以上とすることが、特に好ましい。
【0071】
【0072】
本発明に係る歯間清掃具1は、上述した実施形態の構成に限られず、特許請求の範囲を逸脱しない限り、種々の変形・変更が可能である。例えば、上述した実施形態の歯間清掃具1では、フロス部20の長さ方向Aが、ハンドル部11の長手方向と略平行に延びているが、この構成に限られない。
図7に示す変形例としての歯間清掃具201のように、フロス部20の長さ方向Aが、ハンドル部211の長手方向と交差する方向(
図7では略直交する方向)に延びる構成であってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0073】
本発明は歯間清掃具に関する。
【符号の説明】
【0074】
1、201:歯間清掃具
10:清掃具本体
11、211:ハンドル部
12:第1支持部(支持部)
12a:引き抜き規制部
12b:貫通孔
12b1:規制壁
13:第2支持部(支持部)
20:フロス部
20a:抜け止め部
21:マルチフィラメント
31:細径部
32:太径部
40:段差部
50:焼き切り手段
100:成形型
101:キャビティ
102:ゲート
103:線材
A:フロス部の長さ方向
Dmax:フロス部の最大径
Dmin:フロス部の最小径