(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-03
(45)【発行日】2025-02-12
(54)【発明の名称】プラズマ処理装置
(51)【国際特許分類】
H01L 21/3065 20060101AFI20250204BHJP
【FI】
H01L21/302 101D
H01L21/302 101C
(21)【出願番号】P 2023535535
(86)(22)【出願日】2022-06-07
(86)【国際出願番号】 JP2022022955
(87)【国際公開番号】W WO2023238235
(87)【国際公開日】2023-12-14
【審査請求日】2023-06-09
(73)【特許権者】
【識別番号】501387839
【氏名又は名称】株式会社日立ハイテク
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】黄 海翔
(72)【発明者】
【氏名】桑原 謙一
【審査官】加藤 芳健
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-017565(JP,A)
【文献】特表2013-535074(JP,A)
【文献】特開2018-022599(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/3065
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料がプラズマ処理される処理室と、プラズマを生成するための高周波電力を供給する高周波電源と、前記試料が載置される試料台とを備えるプラズマ処理装置において、
有限値の振幅を有する第一の期間と有限値の振幅を有する第二の期間と振幅がゼロである第三の期間を有するパルスにより前記高周波電力が変調される場合、プラズマ処理におけるエッチングレート分布が所望のエッチングレート分布となるように前記第一の期間の時間または前記第二の期間の時間が制御される制御装置をさらに備え、
前記第一の期間の前記高周波電力は、エッチングレート分布が第一のエッチングレート分布となる電力であり、
前記第二の期間の前記高周波電力は、エッチングレート分布が第二のエッチングレート分布となる電力であ
り、
前記第一のエッチングレート分布は、凹分布であり、
前記第二のエッチングレート分布は、凸分布であることを特徴とするプラズマ処理装置。
【請求項2】
請求項1に記載のプラズマ処理装置において、
前記制御装置により、前記第一の期間の時間と前記第二の期間の時間が独立に制御されることを特徴とするプラズマ処理装置。
【請求項3】
請求項1に記載のプラズマ処理装置において、
前記第一のエッチングレート分布が所望のエッチングレート分布である場合、前記第一の期間の時間が前記第二の期間の時間より長くなるように前記第一の期間の時間または前記第二の期間の時間が前記制御装置により制御されることを特徴とするプラズマ処理装置。
【請求項4】
請求項2に記載のプラズマ処理装置において、
前記第一のエッチングレート分布が所望のエッチングレート分布である場合、前記第一の期間の時間が前記第二の期間の時間より長くなるように前記第一の期間の時間または前記第二の期間の時間が前記制御装置により制御されることを特徴とするプラズマ処理装置。
【請求項5】
請求項3に記載のプラズマ処理装置において、
前記第二のエッチングレート分布が所望のエッチングレート分布である場合、前記第一の期間の時間が前記第二の期間の時間より短くなるように前記第一の期間の時間または前記第二の期間の時間が前記制御装置により制御されることを特徴とするプラズマ処理装置。
【請求項6】
請求項4に記載のプラズマ処理装置において、
前記第二のエッチングレート分布が所望のエッチングレート分布である場合、前記第一の期間の時間が前記第二の期間の時間より短くなるように前記第一の期間の時間または前記第二の期間の時間が前記制御装置により制御されることを特徴とするプラズマ処理装置。
【請求項7】
請求項1に記載のプラズマ処理装置において、
前記第一の期間の振幅は、前記第二の期間の振幅より大きいことを特徴とするプラズマ処理装置。
【請求項8】
請求項1に記載のプラズマ処理装置において、
前記第三の期間は、前記第一の期間と前記第二の期間の間の期間であることを特徴とするプラズマ処理装置。
【請求項9】
請求項7に記載のプラズマ処理装置において、
前記第三の期間は、前記第一の期間と前記第二の期間の間の期間であることを特徴とするプラズマ処理装置。
【請求項10】
請求項5に記載のプラズマ処理装置において、
前記第三の期間は、前記第一の期間と前記第二の期間の間の期間であることを特徴とするプラズマ処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体素子加工に関わるプラズマエッチング装置に関し、エッチングレートの分布を精密に制御できるプラズマ処理装置を提供する。
【背景技術】
【0002】
半導体素子の加工に関わる装置及び方法として、半導体素子をプラズマでエッチングする装置及び方法が知られている。ここでは、公知の電子サイクロトロン共鳴(Electron Cyclotron Resonance:ECR)方式のプラズマエッチング装置を例に、従来技術を説明する。このECR方式プラズマエッチング装置でプラズマに磁場を印加してマイクロ波の周波数と電子のサイクロトロン周波数とが共振するように磁場強度を設定することで高密度のプラズマを発生できる特徴がある。
【0003】
この方式では、半導体素子加工する際、試料(試料の一例としてウェハ)に対し、高周波電力を、正弦波での連続波形で印加している。ここで、試料に印加する高周波電力のことをRFバイアスと称する。上記の装置においてマイクロ波電源で発するマイクロ波により生成されたイオンやラジカルが試料の被エッチング材と反応し、エッチングが進む。
【0004】
近年の半導体素子の微細化に伴い、高アスペクト比構造の素子の加工ニーズが増加し、エッチング深さの面内分布の制御性に対する要求は厳しくなった。そのため、高精度にプラズマエッチング加工を制御する必要がある。エッチングを高精度に制御するためには、上記のイオンやラジカルの量と空間分布を制御する必要がある。
【0005】
これらの高精度なプラズマエッチングを実現する従来技術Iとして、特許文献1の特開平2-105413号公報には、パルス放電を用いたプラズマエッチング方法が開示されている。時間変調されたパルスプラズマのマイクロ波とRFバイアスを同期してONし、Duty比(マイクロ波とRFバイアスが試料に印加する時間がパルス周期に占める比率)でそれぞれマイクロ波とRFバイアスのON時間と出力パワーを制御することでイオン/ラジカルの密度とそのバランスを制御し、高精度な異方性エッチングを達成している。
【0006】
また、従来技術IIとして、特許文献2の特開2014-22482号公報には、RFバイアスのオン(ON)するタイミングをプラズマの着火期間(不安定期間)を避け、プラズマが安定した期間にRFバイアスをONすることで、エッチングレート分布を改善する方法が開示されている。しかし、この方法ではラジカルによる等方性エッチング期間が発生するので、素子など加工する際、サイドエッチングが過剰になる恐れがある。
【0007】
また、従来技術IIIとして、特許文献3の特開2020-17565号公報には、過剰のサイドエッチングを抑えるために、RFバイアスをONする前の段階に、マイクロ波を元のマイクロ波パワーより低いマイクロ波パワーのONステップを一つ、または複数個を設け、RFバイアスをONする前に、安定したプラズマを作り、低いマイクロ波出力よりラジカル解離を抑え、過剰なサイドエッチを抑えながら、均一なエッチングレート分布を得る方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開平2-105413号公報
【文献】特開2014-22482号公報
【文献】特開2020-17565号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
半導体ウェハのより外周部まで良品半導体デバイスを製造できるプラズマ処理装置が求められている。
【0010】
半導体素子加工のエッチング処理工程において、試料台に載置されるウェハの外周部が中央部と比べ、プラズマの密度差、シース電圧、反応生成物、排気速度等のファクタが異なる。そのため、ウェハの外周部のエッチングレートが、中央部のエッチングレートと比較して、低下する課題がある。また、この問題はECR型プラズマエッチング装置だけの問題ではなく、ICP(Inductively Coupled Plasma)、CCP(Capacitively Coupled Plasma)などのエッチング装置に共通するものである。
【0011】
また、上記のファクタに加え、デバイスの微細化に伴い、高アスペクト比構造のエッチング処理のニーズが増え、アスペクト比が高くなるにつれ、ウェハの外周部のエッチングレートがさらに低下する。
【0012】
そのため、半導体素子を加工する際、ウェハ面内において所望のエッチングレートの分布になるように、ウェハの外周部においてエッチングレートの制御が要求される。
【0013】
前記の従来技術ではRFバイアスが印加する期間をプラズマの安定した期間にずらしたり、プラズマ着火ステップを設けたりすることで、より均一なプラズマ密度分布が得られ、ウェハのエッチングレート分布の改善に繋がった。
【0014】
しかし、これらの従来技術ではプラズマ密度分布以外のウェハの外周部のエッチングレートの低下に関わる前記のファクタや加工素子の構造などの要素を考慮していないため、ウェハの外周部のエッチングレートが低下している課題が依然として存在する。
【0015】
このため、本発明では、前記したウェハの外周部のエッチングレートの分布の制御ニーズに対し、ウェハ面内において所望のエッチングレート分布になるように、ウェハの外周部のエッチングレートの分布を制御することができるプラズマ処理装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明は、パルス変調された高周波電力によって生成されたプラズマによりプラズマ処理が行われるプラズマ処理装置において、
前記パルス変調の一周期は、マイクロ波出力の第一の出力の期間と、マイクロ波出力の前記第一の出力より小さい有限値の第二の出力の期間と、マイクロ波出力のオフされたオフ期間と、を有し、
前記第一の出力の期間と前記第二の出力の期間において、高周波(RF)バイアスを印加し、
前記第一の出力は、エッチングレート分布が凹分布となる出力であり、
前記第二の出力は、エッチングレート分布が凸分布となる出力であり、
エッチングレート分布を凹分布とする場合、前記第一の出力の期間の長さが前記第二の出力の期間の長さより長くなり、
エッチングレート分布を凸分布とする場合、前記第一の出力の期間の長さが前記第二の出力の期間の長さより短くなるように前記パルス変調を生成するパルス発生器を制御する制御装置を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
上記マイクロ波出力の第一の出力と第二の出力を用いたエッチングレート分布の制御はウェハの外周部のエッチングレート分布(以下、ER分布とする)を所望の分布に制御することができるプラズマ処理装置を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の実施形態にかかる、ECR方式のマイクロ波プラズマエッチング装置の縦断面の概略構成図である。
【
図2】MW電力に対応するウェハER分布の特徴とその特徴なER分布を持つ2値MW電力を組み合わせた際のER分布を示す。
【
図3】前記した2値MW電力によるウェハ外周部ER分布制御パターンAである。
【
図4】第一出力を1~4msに変化させた時のPoly-SiウェハER分布の結果を示す。
【
図5】第一出力期間と第二出力期間の比率に対し、ウェハ中央部のERを100%とした時、外周部ER(ウェハ中央から145mmを離れたところを測定した値)の増減率を示す。
【
図6】2値MWによるウェハ外周ER分布制御パターンBである。
【
図7】2値MWによるウェハ外周ER分布制御パターンCである。
【
図8】全ての実施例に使われたガスと流量を示す表1である。
【
図9】(A)の方法の制御を実施するためのマイクロ波電源とRFバイアス電源の制御パラメータ設定値例を示す表2である。
【
図10】前記パラメータ設定値例で制御した結果を示す表3である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を用いてプラズマ処理装置の形態を説明する。
【0020】
図1は、本発明の実施形態にかかる、ECR(Electron Cyclotron Resonance)方式のマイクロ波プラズマエッチング装置(以下、プラズマ処理装置1とする)の縦断面の概略構成図である。プラズマ処理装置1における、処理室121、試料台114、試料115等の各部は概略的に円筒や円柱や円板等の軸対称形状を有する。
【0021】
図1で、プラズマ処理装置1の真空容器101内部の処理室121の下部には、真空排気装置113が接続されている。また、処理室121の内部上部には、シャワープレート102及び石英天板103が配置されている。シャワープレート102は、複数の孔を有している。ガス供給装置119から供給されるプラズマエッチング処理用のガスを、シャワープレート102の 孔を通じて処理室121内に導入する。シャワープレート102の上には、 石英天板103が配置され、石英天板103との間にガス供給用の間隙106が設けられている。石英天板103は、上方からの電磁波を透過させ、処理室121の上方を気密に封止する。
【0022】
処理室121の下方には、石英天板103に対向して試料台114が配置されている。試料台114は、試料であるウェハ115を載置した状態で保持する。
【0023】
石英天板103の上には、空洞共振部104が配置されている。空洞共振部104の上部は開口しており、垂直方向に延在する垂直導波管と電磁波の方向を90度曲げる屈曲部を兼ねた導波管変換器からなる導波管105が接続されている。導波管105等は、電磁波を伝播する発振導波管であり、導波管105の端部には、チューナー108を経て、プラズマ生成用のマイクロ波電源107が接続されている。
【0024】
マイクロ波電源107はプラズマ生成用の電源であり、制御部122からの制御に基づいて電磁波を発振する。本実施形態のマイクロ波電源107は、2.45GHzのマイクロ波発振が可能である。マイクロ波電源107から発振されたマイクロ波は、導波管105を伝播し、空洞共振部104、石英天板103、シャワープレート102を経由して処理室121内に伝播する。処理室121の外周には、磁場発生コイル110、111、112が配置されている。磁場発生コイルは複数のコイルからなっており、処理室121に磁場を形成する。マイクロ波電源107から発振された高周波電力は、磁場発生コイル110~112により形成された磁場とECRとの相互作用により、処理室121内に高密度プラズマ120を生成する。
【0025】
マイクロ波電源107にはマイクロ波パルスユニット109が接続されている。マイクロ波パルスユニット109からのパルスのオン信号により、マイクロ波電源107がマイクロ波を設定された繰り返し周波数でパルス変調することができる。マイクロ波電源107から出力される高周波電力を、マイクロ波電力(以下、MW電力)という。マイクロ波パルスユニットは、パルス変調を生成するためのパルスのオン信号およびパルスのオフ信号を生成する第1パルス発生器と見なすことができる。
【0026】
制御部122はプラズマエッチング装置1の制御装置であり、マイクロ波電源107、RFバイアス電源(Radio Frequency(高周波)バイアス電源)116に接続されて、MW電力及びRFバイアス電力の出力を制御する。
【0027】
RFバイアス電源116は、イオン引込み用の高周波電力を発生し、試料台114へ供給する。RFバイアス電源116にはマッチングボックス(整合器)117が接続され、これによりRFバイアスの整合がとられている。プラズマ密度がマイクロ波のパルス状の発振により変わり、プラズマインピーダンスが高速に変動してもRFバイアスの整合がなされるように、マッチングボックス117は機能する。RFバイアス電源116もRFバイアスパルスユニット118からのパルスのオン信号に基づいて、パルス変調されたRFバイアスを発生する。RFバイアスパルスユニット118は、パルス変調されたRFバイアスを発生するためのパルスのオン信号およびパルスのオフ信号を生成する第2パルス発生器と見なすことができる。
【0028】
制御部122は、図示しない入力手段による入力設定(レシピともいう)に基づいて、マイクロ波電源107の第一出力、マイクロ波電源107の第二出力、RFバイアス電源116の第一出力、RFバイアス電源116の第二出力、マイクロ波パルスユニット109でのパルスのオンのタイミングおよびオフのタイミング、マイクロ波電源107の周波数やデューティー比、およびマイクロ波電源107の遅延時間、を制御することができる。制御部122は、さらに、レシピに基づいて、RFバイアスパルスユニット118でのパルスのオンのタイミングおよびオフのタイミング、RFバイアス電源116のオンおよびオフの繰り返し周波数やデューティー比、RFバイアス電源116の遅延時間等、マイクロ波電源107やRFバイアス電源116のパラメータ、を制御することができる。制御部122は、第1パルス発生器とされるマイクロ波パルスユニット109および第2パルス発生器とされるRFバイアスパルスユニット118を制御する制御装置と見なすことができる。
【0029】
またこれ以外にも、制御部122は、エッチングを実施するためのガスの流量、処理圧力、コイル電流、試料台温度、エッチング時間等、エッチングパラメータを制御する。
【0030】
本発明の実施形態にかかるプラズマエッチング装置によって、実施例に挙げるすべての2値マイクロ波の制御パターン(
図3、
図6、
図7参照)の制御ができる。また、RFバイアスは本発明ではMW電力と同期してONする設定としたが、マイクロ波とRFバイアスのON(オン)タイミングを同期することは必要不可欠条件ではない。
【0031】
本発明は、時間変調(パルス変調)されたMW電力によって生成されたプラズマによりプラズマ処理が行われる際、被エッチング試料、例えばPoly-Siが表面に形成されたウェハ(以下、Poly-Siウェハという)のエッチングレート分布(以下、エッチングレートをER、エッチングレート分布をER分布とする)はMW電力に応じて、変化する。
図2はMW電力に対応するウェハER分布の特徴とその特徴的なER分布を持つ2値MW電力を組み合わせた際のER分布を示す。
図2において、縦軸はエッチング速度ER(Etching Rate)、横軸はウェハ中心からの距離Lwc(mm)を示している。
【0032】
ここで、2値MW電力とは、低MW電力と、高MW電力の2つのMW電力ことを意味しており、一周期分のパルス変調のパルス波形において、MW電力が低MW電力の状態と、高MW電力の状態の2つのMW電力の状態を有すことを意味する。
【0033】
図2の(a)の低MW電力により生成されたプラズマがウェハの中央部に集中するため、ER分布はウェハの外周部のERが低下する凸分布(第二のエッチングレート分布という)である。また、プラズマのON時間(低MW電力のON時間)が短いほどウェハの外周部のERはさらに低下する。
【0034】
図2の(b)の高MW電力では、低MW電力よりもプラズマの解離度が大きく、ウェハの中央部にて電子密度が急速に立ち上がる。また電子が軽いため、電子が瞬時にウェハの外周部へと拡散し、ウェハの外周部の電子密度が高くなる。そこで電子がガスとの衝突によって、イオンやラジカルの外周部の密度が高くなる。また、プラズマのON時間(高MW電力のON時間)が長くなると、さらにウェハの外周部のイオンやラジカルの密度が増幅し、ER分布はウェハの外周部のERが高い凹分布(第一のエッチングレート分布という)となる。
【0035】
本発明では前記
図2の(b)および(a)の特徴的なER分布に対応する高MW電力と低MW電力を用い、それぞれのON(オン)時間を調整し、そのON時間比率を制御することで
図2の(c)に示したような所望のウェハのER分布の制御性を得られるかを調べた。
【0036】
また、全ての実施例で前記
図2の(b)の特徴的な高MW電力を第一出力(第一の出力)とし、前記
図2の(a)の特徴的な低MW電力を第二出力(第二の出力)とする。第一出力と第二出力は前述した通り、それぞれの出力期間(第一の出力の期間、第二の出力の期間)の変化に対応し、ウェハの外周部のプラズマ密度が比例して増減する2値MW電力に設定する。
【実施例1】
【0037】
図3は前記の2値MW電力によるウェハの外周部のER分布の制御パターンAである。以下はER分布の制御パターンA(Pattern A)で外周部のER分布を制御する詳細について説明する。
【0038】
図3の前記制御パターンAは一周期分のパルス変調のパルス波形を示している。制御パターンAが所定の回数だけ繰り返されて、プラズマによりプラズマ処理が行われる。
【0039】
前記制御パターンAの一周期T1cycはMW電力(PMW)の第一出力期間(第一の出力PMW1の期間:第一の期間)TMW1、第二出力期間(第二の出力PMW2の期間:第二の期間)TMW2とMW電力(PMW)のオフとされたOFF期間(オフ期間:第三の期間)TMW0を含む。つまり、パルス変調の一周期は、マイクロ波出力PMWの第一の出力PMW1の期間Tmw1と、第一の出力PMW1より小さい有限値のマイクロ波出力PMWの第二の出力PMW2(<PMW1)の期間Tmw2と、マイクロ波出力のオフ(OFF)されたオフ期間Tmw0と、を有する。言い換えると、パルス変調の一周期は、有限値の振幅(PMW1)を有する第一の期間(Tmw1)と有限値の振幅(PMW2)を有する第二の期間(Tmw2)と振幅がゼロである第三の期間(Tmw0)を有するパルスである。第一の期間(Tmw1)の振幅(PMW1)は、第二の期間(Tmw2)の振幅(PMW2)より、大きい(PMW1>PMW2)。ここで、第一の期間(Tmw1)の高周波電力は、エッチングレート分布(凹分布、または、凸分布)が第一のエッチングレート分布(凹分布)となる電力であり、第二の期間(Tmw2)の高周波電力は、エッチングレート分布(凹分布、または、凸分布)が第二のエッチングレート分布(凸分布)となる電力である。
【0040】
RFバイアス電源116の出力PRFもMW出力電源107同様、第一出力期間Trf1、第二出力期間Trf2とOFF期間Trf0を有する。RFバイアス電源116の出力PRFは、この例では、第一出力期間Trf1と第二出力期間Trf2とにおいて同一の第1出力PRF1とされている。RFバイアス電源116の出力PRFは、この例では、MW電源出力(PMW1,PMW2)と同期してON(第1出力PRF1が印加される)およびOFF(第1出力PRF1が印加されない)する。
【0041】
プラズマ処理装置1の制御部122を用いて、前記の第一出力期間Tmw1の時間、第二出力期間Tmw2の時間を独立で制御することができる。前記第一出力期間Tmw1、第二出力期間Tmw2間の期間の制御は各期間がパルス周期に占める比率(以下Duty比という)と遅延比率(Delay)で制御する。前記の比率(Duty比)は
図3に示したように1周期T1cycを100%とした時の比率である。制御部122は、第一の出力PMW1、第二の出力PMW2に対応する任意のマイクロ波出力の組み合わせを行うことができる。
【0042】
ウェハの外周部のER分布を制御するため、前記外周部のERの高いER凹分布に対応する第一出力期間Tmw1を調整するケース1、外周部のERの低下したER凸分布に対応する第二出力期間Tmw2を調整するケース2、第一出力期間Tmw1と第二出力期間Tmw2を同時に調整するケース3、3つの方法が考えられる。
【0043】
まず、一つ目として、(A):有限値の第一出力期間Tmw1を変化させ、有限値の第二出力期間Tmw2とOFF期間Tmw0を固定する方法を説明する。
【0044】
図8は全ての実施例1-3に使われたガス種類GASとガス流量GFR(ml/min)を示す表1(TAB1)である。
図9は(A)の方法の制御を実施するためのマイクロ波電源107とRFバイアス電源116の制御パラメータCPAの設定値の例を示す表2(TAB2)である。表2(TAB2)には、電源出力パルス周波数POPF(Hz)と、第一出力PMW1のDuty(%)、第二出力PMW2のDuty(%)と、第二出力PMW2のONタイミングの遅延(Delay(%))が示されている。第一出力PMW1のDuty、第二出力PMW2のDuty、第二出力PMW2のONタイミングの遅延(Delay)の設定によって第一出力期間Tmw1と第二出力期間Tmw2、OFF期間Tmw0、ONタイミングとOFFタイミングとを設定する。
図10は前記パラメータの設定値の例で制御した結果(第一出力期間Tmw1と第二出力期間Tmw2、OFF期間Tmw0)を示す表3(TAB3)である。
【0045】
図8から
図10に示す表1-表3(TAB1,TAB2,TAB3)において、小数点以下は四捨五入で記載している。
【0046】
表3(TAB3)は第一出力期間Tmw1を1~4msの間に変化させ、第二出力期間Tmw2とOFF期間Tmw0が3msに固定された制御例である。また、記載してないが、RFバイアス電源116の出力PRFはMW電源出力(PMW1,PMW2)と同期してONおよびOFFする。
【0047】
図4は第一出力期間Tmw1を1~4msに変化させた時のPoly-SiウェハのER分布の結果を示す。
図4において、縦軸はPoly-Siウェハのエッチング速度ER(Etching Rate)(nm/min)、横軸はウェハ中心からの距離Lwc(mm)を示している。
【0048】
第一出力期間Tmw1が短い時(例えば1msの時)は、ウェハのER分布はウェハの外周部のERが低下したER凸分布である。前記第一出力期間Tmw1を長くすると(例えば、2msの時)、ウェハの外周部と中央部のERは同レベルになる。さらに、前記第一出力期間Tmw1を延長すると(例えば、3ms、4msの時)、ウェハ外周高のER凸分布となった。つまり、第一出力期間Tmw1が第二出力期間Tmw2より短い場合はER分布が凸分布(第二のエッチングレート分布)となり、第一出力期間Tmw1が第二出力期間Tmw2より長い場合はER分布が凹分布(第一のエッチングレート分布)となる。
【0049】
ウェハの外周部のER分布の変化と、第一出力期間Tmw1と第二出力期間Tmw2の比率の相関は以下に説明する。
【0050】
図5は第一出力期間Tmw1と第二出力期間Tmw2の比率RA(RA=第一出力期間Tmw1/第二出力期間Tmw2)に対し、ウェハの中央部のER(Center)を100%とした時、外周部のER(Edge:例えば、ウェハ中央から145mmを離れたところを測定した値)の増減率(ΔER(%))を示す。ΔER(%)は下式で得られる。
【0051】
ΔER(%)=((ER(Edge)-ER(Center))/(ER(Center))×100%
前記増減率(ΔER(%))が負の場合は外周部のERが中央部のERより低いことを意味し、前記増減率(ΔER(%))が正の場合は外周部のERが中央部のERより高いことを意味する。また、
図5からは第一出力期間Tmw1と第二出力期間Tmw2の比率RAに対し、前記ERの増減率(ΔER(%))はリニアに変化していることが分かった。言い換えると、第一出力期間Tmw1の時間調整に対し、ウェハの外周部のプラズマ密度が比例して増幅し、ウェハの外周部のER分布を外周部のERが低下した凸分布から外周のERが高い凹分布まで制御できるようになった。
【0052】
所望のウェハER分布になるため、前記の(A)の調整方法以外にも、(B):有限値の第二出力期間Tmw2を制御し、有限値の第一出力期間Tmw1と有限値のOFF期間Tmw0を固定する方法や、(C):有限値の第一出力期間Tmw1と有限値の第二出力期間Tmw2を同時に制御し、有限値のOFF期間Tmw0を固定する方法がある。つまり、制御部122は、第一出力期間Tmw1と第二出力期間Tmw2の比率を制御するために、第一出力期間Tmw1と第二出力期間Tmw2の一方を固定し、他方を調整できる((A)または(B))、或いは、第一出力期間Tmw1と第二出力期間Tmw2の両方を同時に調整することができる(C)。
【0053】
(B)の方法は第二出力期間Tmw2を短く設定した時、相対的に固定された第一出力期間Tmw1が長くなり、ER分布は凹分布となる傾向がある。逆では(第二出力期間Tmw2を長く設定した時、相対的に固定された第一出力期間Tmw1が短くなる)、ER分布は外周部のERが低下したER凸分布に制御される。
【0054】
(C)の方法は前記(A)と(B)の方法と同じ、第一出力期間Tmw1と第二出力期間Tmw2の出力期間比率RAの制御で外周部のER分布を調整する。違う点は第一出力期間Tmw1と第二出力期間Tmw2とが同時に変化することである。
【0055】
いずれの方法(方法A,B,C)も
図5に示した第一出力期間Tmw1と第二出力期間Tmw2の比率RAを制御することで所望のウェハの外周部のER分布になった。
【0056】
前記制御パターンA(Pattern A)以外も、以下の制御パターンB(Pattern B),C(Pattern C)が検証され、ウェハの外周部のER分布の制御性を確認した。
【実施例2】
【0057】
図6は2値MWによるウェハ外周ER分布制御パターンBである。制御パターンB(Pattern B)は、一周期分のパルス変調のパルス波形を示している。制御パターンBが所定の回数だけ繰り返されて、プラズマによりプラズマ処理が行われる。
【0058】
前記制御パターンBの一周期T1cycは、MW電力PMWが第二出力PMW2の第二出力期間Tmw2、MW電力PMWが第一出力PMW1の第一出力期間Tmw1とMW電力PMWがオフのOFF期間Tmw0を含む。第二出力期間Tmw2とOFF期間Tmw0との間に第一出力期間Tmw1が設けられる。RFバイアス電源116の出力PRFもMW出力電源107のMW出力PMWと同様、第二出力期間Trf2、第一出力期間Trf1とOFF期間Trf0を有する。第二出力期間Trf2とOFF期間Trf0との間に第一出力期間Trf1が設けられる。プラズマ処理装置1の制御部122を用いて、前記の第二出力期間Tmw2、第一出力期間Tmw1を独立で制御することができる。この制御パターンBを用いて、前記の(A)~(C)の方法で第一出力期間Tmw1と第二出力期間Tmw2の比率RAを制御することで所望のウェハの外周部のER分布を得た。
【実施例3】
【0059】
図7は2値MWによるウェハ外周ER分布制御パターンCである。制御パターンC(Pattern C)は、一周期分のパルス変調のパルス波形を示している。制御パターンCが所定の回数だけ繰り返されて、プラズマによりプラズマ処理が行われる。
【0060】
制御パターンCの一周期T1cycは、MW電力PMWが第一出力PMW1の第一出力期間Tmw1、MW電力PMWがオフの第一OFF期間Tmw01、MW電力PMWが第二出力PMW2の第二出力期間Tmw2とMW電力PMWがオフの第二OFF期間Tmw02を含む。第一出力期間Tmw1と第二出力期間Tmw2との間に第一OFF期間Tmw01が設けられ、第一OFF期間Tmw01と第二OFF期間Tmw02との間に第二出力期間Tmw2が設けられる。RFバイアス電源116の出力PRFも、MW出力電源107のMW出力PMWと同様、第一出力期間Trf1、第一OFF期間Trf01、第二出力期間Trf2と第二OFF期間Trf02を有する。プラズマ処理装置1の制御部122を用いて、前記の第一出力期間Tmw1、第二出力期間Tmw2を独立で制御することができる。この制御パターンCを用いて、前記の(A)~(C)の方法で第一出力期間Tmw1と第二出力期間Tmw2の比率RAを制御することで所望のウェハの外周部のER分布を得た。
【0061】
つまり、実施例1~3に示すように、制御部122は、第一出力期間Tmw1のオンタイミングおよびオフタイミングの制御、第二出力期間Tmw2のオンタイミングおよびオフタイミングの制御によって、第一出力期間Tmw1と第二出力期間Tmw2とオフ期間の順番を任意に設定できる。制御部122は、また、オフ期間の個数(実施例3では、第一OFF期間Trf01、第二OFF期間Trf02の2つ)も任意に設定できる。
【0062】
本発明は有限値の第一出力期間Tmw1と有限値の第二出力期間Tmw2を独立で制御し、所望のウェハER分布となるように前記第一出力期間Tmw1の長さと前記第二出力期間Tmw2の長さを制御することを特徴とするプラズマ処理装置である。
【0063】
また、実施例1~3は、ECR方式のマイクロ波プラズマエッチング装置に本発明を適用した例であったが、容量結合方式または誘導結合方式プラズマエッチング装置にも同様に本発明を適用できる。
【0064】
以上、本発明者によってなされた発明を実施例に基づき具体的に説明したが、本発明は、上記実施形態および実施例に限定されるものではなく、種々変更可能であることはいうまでもない。
【0065】
例えば、パルス変調されたパルス波形を所定の回数繰り返して、プラズマによりプラズマ処理を行う場合において、連続するパルス波形は、
図3の制御パターンA、
図6の制御パターンBおよび
図7の制御パターンCから選択された2つの制御パターン(制御パターンAとB、制御パターンAとC、制御パターンBとC)の組み合わせのパルス波形、または、3つの制御パターン(制御パターンA、BとC)の組み合わせのパルス波形を用いてもよい。
【0066】
実施例に係るプラズマ処理装置の特徴は、以下のように纏めることができる。
【0067】
1)試料(115)がプラズマ処理される処理室(121)と、プラズマを生成するための高周波電力を供給する高周波電源(107)と、試料(115)が載置される試料台(114)とを備えるプラズマ処理装置(1)において、
有限値の振幅(PMW1)を有する第一の期間(Tmw1)と有限値の振幅(PMW2)を有する第二の期間(Tmw2)と振幅がゼロである第三の期間(Tmw0)を有するパルスにより前記高周波電力が変調される場合、プラズマ処理におけるエッチングレート分布が所望のエッチングレート分布(凹分布、または、凸分布)となるように前記第一の期間(Tmw1)の時間または前記第二の期間(Tmw2)の時間が制御される制御装置(122)をさらに備え、
前記第一の期間(Tmw1)の前記高周波電力は、エッチングレート分布(凹分布、または、凸分布)が第一のエッチングレート分布(凹分布)となる電力であり、
前記第二の期間(Tmw2)の前記高周波電力は、エッチングレート分布(凹分布、または、凸分布)が第二のエッチングレート分布(凸分布)となる電力である。
【0068】
2)前記制御装置(122)により、前記第一の期間(Tmw1)の時間と前記第二の期間の(Tmw2)時間が独立に制御される。
【0069】
3)前記第一のエッチングレート分布(凹分布)が所望のエッチングレート分布である場合、前記第一の期間(Tmw1)の時間が前記第二の期間(Tmw2)の時間より長くなるように前記第一の期間(Tmw1)の時間または前記第二の期間(Tmw2)の時間が前記制御装置(122)により制御される。
【0070】
4)前記第二のエッチングレート分布(凸分布)が所望のエッチングレート分布である場合、前記第一の期間(Tmw1)の時間が前記第二の期間(Tmw2)の時間より短くなるように前記第一の期間(Tmw1)の時間または前記第二の期間(Tmw2)の時間が前記制御装置(122)により制御される。
【0071】
5)前記第一の期間(Tmw1)の振幅(PMW1)は、前記第二の期間(Tmw2)の振幅(PMW2)より大きい。
【0072】
6)前記第三の期間(Tmw0)は、前記第一の期間(Tmw1)と前記第二の期間(Tmw2)の間の期間である(
図3参照)。
【0073】
7)前記第一のエッチングレート分布は、凹分布であり、前記第二のエッチングレート分布は、凸分布である。
【符号の説明】
【0074】
1 ECR方式のマイクロ波プラズマエッチング装置
101 真空容器
102 シャワープレート
103 石英天板
104 空洞共振部
105 導波管
106 ガス供給用隙間
107 マイクロ波電源
108 チューナー
109 マイクロ波パルスユニット
110 電磁場コイル
111 電磁場コイル
112 電磁場コイル
113 真空排気装置
114 試料台
115 試料
116 RFバイアス電源
117 マッチングボックス(整合器)
118 RFバイアスパルスユニット
119 ガス供給装置
120 高密度プラズマ
121 処理室
122 制御部