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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-04
(45)【発行日】2025-02-13
(54)【発明の名称】光センサカバー
(51)【国際特許分類】
   G01J 1/04 20060101AFI20250205BHJP
   G01J 1/02 20060101ALI20250205BHJP
   H01J 43/00 20060101ALI20250205BHJP
   G01T 1/22 20060101ALI20250205BHJP
【FI】
G01J1/04 Z
G01J1/02 D
H01J43/00
G01T1/22
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021035037
(22)【出願日】2021-03-05
(65)【公開番号】P2022135303
(43)【公開日】2022-09-15
【審査請求日】2023-12-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000001085
【氏名又は名称】株式会社クラレ
(74)【代理人】
【識別番号】100103894
【弁理士】
【氏名又は名称】家入 健
(72)【発明者】
【氏名】古澤 真吾
(72)【発明者】
【氏名】高橋 活栄
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 正大
【審査官】井上 徹
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-060867(JP,A)
【文献】特開2011-180069(JP,A)
【文献】特開2006-077080(JP,A)
【文献】特開2001-080005(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01J 1/00- 1/60
G01J 11/00
H01J 43/00
G01N 23/00-23/2276
B32B 1/00-43/00
G01T 1/22
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光電子増倍管の受光面より後方部分を保護する光センサカバーであって、
架橋メタクリル系樹脂を含み、紫外線吸収剤および光安定剤を含まない樹脂成形体と、当該樹脂成形体の外面上に積層された強化繊維を含む遮光層とを含む樹脂構造体からなり、
前記樹脂構造体は、略円錐状の本体部を含み、厚みが6~15mmであり、
前記本体部のJIS K7361-1に準拠して測定される全光線透過率が5%以下であり、
前記本体部の外面全体を3MPaの圧力で加圧した際に破断しない耐圧性を有し、
放射線で発光する、および/または、紫外線を吸収する性質を有する化合物の、JIS K6904に準拠して測定される含有量が300ppm以下である、光センサカバー。
【請求項2】
前記樹脂構造体はさらに、前記本体部の外方に形成され、前記本体部の中心軸に対して垂直方向に伸びる平坦な周縁部を有する、請求項1に記載の光センサカバー。
【請求項3】
前記樹脂成形体中の前記架橋メタクリル系樹脂の含有量が60~95質量%である、請求項1または2に記載の光センサカバー。
【請求項4】
前記遮光層はさらに熱硬化性樹脂の硬化物と着色剤とを含む、請求項1~3のいずれか1項に記載の光センサカバー。
【請求項5】
前記熱硬化性樹脂は不飽和ポリエステル樹脂を含む、請求項4に記載の光センサカバー。
【請求項6】
前記化合物がスチレンである、請求項1~5のいずれか1項に記載の光センサカバー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光電子増倍管の受光面より後方を保護する光センサカバーに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、宇宙の成り立ちおよび物質の起源等を明らかにする目的で、数々な素粒子実験が行われている。素粒子の多くは、自然界に単独で安定的に存在しているわけではなく、宇宙線の観測および加速器による生成反応等により発見または生成されている。
素粒子の例として電荷を帯びた素粒子である荷電粒子が挙げられる。例えば、核崩壊によって生じるα線およびβ線等は、荷電粒子からなる放射線である。荷電粒子が物質中を運動する時、荷電粒子の速度がその物質中の光速度よりも速い場合に出る光をチェレンコフ光と言う。この光を観測することで、荷電粒子のエネルギー、進行方向、位置、および粒子の種類を知ることができる。光電子増倍管はこの微弱な光子エネルギーからなるチェレンコフ光を増幅させて信号電流として外部に取り出せる。
チェレンコフ光の波長域は紫外光域から赤外光域まで広く、紫外光が可視光および赤外光に比べ相対的に強くなっている。チェレンコフ光の観測に用いられる光電子増倍管の分光感度は紫外光域から可視光域にあり、特に紫外光域の感度が重要である。
【0003】
このような光電子増倍管を使用した例として、巨大な水槽の中で発生するチェレンコフ光を観測する水-チェレンコフ型宇宙素粒子観測装置が挙げられる。この装置では、純水を満たした水槽の壁面に耐水圧性を備えた光電子増倍管を受光面が水槽の内側に向くように配置し、水中の核子または電子とニュートリノ粒子が衝突した際に叩き出される荷電粒子によって発生するチェレンコフ光を光電子増倍管で捉える。この装置で使用される光電子増倍管は、高真空のガラス容器中に、光電陰極、ダイノード、陽極、およびその他の電極を封入した構造を有する。
【0004】
近年、研究の大規模化による水槽の大型化に伴い、光電子増倍管の大口径化と耐圧向上が必要になっている。高水圧のかかる水深で高真空のガラス容器が何らかの理由で破損した場合、その衝撃で周囲の光電子増倍管が連鎖的に爆縮する恐れがある。しかしながら、研究の目的に合う大口径の光電子増倍管用のガラス容器の強度を上げるのは容易ではないため、光電子増倍管に高水圧に耐える保護ケースを装着することが好ましい。
保護ケースは、光電子増倍管の交換を可能とするため、光電子増倍管の受光面を保護する略半球状の前部カバーと、この前部カバーに着脱自在に取り付けられ、受光面より後方を保護する後部カバーとからなる開閉自在な構成を有することが好ましい。
【0005】
保護カバーには、光電子増倍管を収容し、水圧および爆縮等の衝撃波から光電子増倍管を保護する機能が求められる。光電子増倍管の保護は、光電子増倍管の内部に封入された重要な電子部品(例えば、電子増倍部および陽極等の電極)の保護に繋がり、重要である。上記理由から、前部カバーおよび後部カバーには、高い耐圧性および防爆性が要求される。
前部カバーおよび後部カバーの主素材としては、強度と加工性に優れ、軽量化が容易な樹脂が好ましい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2019-060867号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前部カバーは、チェレンコフ光の透過を妨げないよう、紫外線透過性を有する素材で構成する必要がある。
特許文献1には、光電子増倍管保護ケースの前部カバーとして好適な光センサカバーとして、紫外線透過性を有する透明樹脂成形体からなる略半球状の光センサカバーが開示されている(請求項1)。
前部カバーに好適な透明樹脂として、高い紫外線透過率が実現できることから、ポリメチルメタクリレート(PMMA)等のメタクリル系樹脂が挙げられている(請求項4、段落0017)。
【0008】
一方、後部カバーは、発光、光吸収、および光反射が生じず、チェレンコフ光の観測を妨げない素材で構成する必要がある。チェレンコフ光の観測を妨げないよう、後部カバーは、高い遮光性を有するように構成することが好ましい。
後部カバーの主素材としては、前部カバーと同様、アクリル系樹脂等の透明樹脂を用いることができる。ただし、この場合、遮光および光反射防止の工夫が必要である。
保護カバー全体の軽量化およびこれによる装置全体の簡略化の観点から、後部カバーの厚みはなるべく薄くすることが好ましい。
後部カバーは、チェレンコフ光の測定を妨げる化合物を溶出するものであってはならない。具体的には、後部カバーには、α線、β線、およびγ線等の放射線で発光する、および/または、紫外線を吸収する化合物を溶出しないことが要求される。後部カバーは、放射線で発光する、および/または、紫外線を吸収する化合物の含有量が無視できる程度の微量またはゼロであることが好ましい。
【0009】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、光電子増倍管保護ケースの後部カバーとして好適な耐圧性と遮光性を有し、放射線で発光する、および/または、紫外線を吸収する化合物を溶出する恐れのない光センサカバーを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、以下の[1]~[9]の光センサカバーを提供する。
[1] 光電子増倍管の受光面より後方部分を保護する光センサカバーであって、
透明樹脂を含む樹脂成形体を含む樹脂構造体からなり、
前記樹脂構造体は、略円錐状の本体部を含み、厚みが6~15mmであり、
前記本体部のJIS K7361-1に準拠して測定される全光線透過率が20%以下であり、
前記本体部の外面全体を3MPaの圧力で加圧した際に破断しない耐圧性を有し、
放射線で発光する、および/または、紫外線を吸収する性質を有する化合物の、JIS K6904に準拠して測定される含有量が300ppm以下である、光センサカバー。
【0011】
[2] 前記樹脂構造体はさらに、前記本体部の外方に形成され、前記本体部の中心軸に対して垂直方向に伸びる平坦な周縁部を有する、[1]の光センサカバー。
[3] 前記樹脂成形体はアクリル系樹脂を含む、[1]または[2]の光センサカバー。
[4] 前記樹脂構造体は、前記樹脂成形体と、当該樹脂成形体の外面上に積層された補強層とを含む積層体である、[1]~[3]のいずれかの光センサカバー。
[5] 前記補強層は熱硬化性樹脂の硬化物と強化繊維とを含む、[4]の光センサカバー。
[6] 前記熱硬化性樹脂は不飽和ポリエステル樹脂を含む、[5]の光センサカバー。
[7] 前記補強層は遮光層である、[4]~[6]のいずれかの光センサカバー。
[8] 前記樹脂構造体は、前記樹脂成形体と、当該樹脂成形体の外面上に積層され、1種以上の着色剤を含む遮光層とを含む積層体である、[1]~[3]のいずれかの光センサカバー。
[9] 前記化合物がスチレンである、[1]~[8]のいずれかの光センサカバー。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、光電子増倍管保護ケースの後部カバーとして好適な耐圧性と遮光性を有し、放射線で発光する、および/または、紫外線を吸収する化合物を溶出する恐れのない光センサカバーを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明に係る一実施形態の光センサカバーの模式斜視図である。
図2】本発明に係る一実施形態の光センサカバーの模式断面図である。
図3】光センサカバーの設計変更例を示す模式断面図である。
図4】本発明に係る一実施形態のケース付き光電子増倍管の模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明について詳細に説明する。
光電子増倍管保護ケースは、光電子増倍管の交換を可能とするため、光電子増倍管の受光面を保護する略半球状の前部カバーと、この前部カバーに着脱自在に取り付けられ、受光面より後方部分(後部とも言う。)を保護する後部カバーとからなる開閉自在な構成を有することができる。
本発明の光センサカバーは、光電子増倍管の受光面より後方部分(後部)を保護する後部カバーである。
【0015】
保護カバーには、光電子増倍管を収容し、水圧および爆縮等の衝撃波から光電子増倍管を保護する機能が求められる。光電子増倍管の保護は、光電子増倍管の内部に封入された重要な電子部品(例えば、電子増倍部および陽極等の電極)の保護に繋がり、重要である。上記理由から、前部カバーおよび後部カバーには、高い耐圧性および防爆性が要求される。
前部カバーおよび後部カバーの主素材としては、強度と加工性に優れ、軽量化が容易な樹脂が好ましい。
後部カバーは、発光、光吸収、および光反射が生じず、チェレンコフ光の観測を妨げない素材で構成する必要がある。チェレンコフ光の観測を妨げないよう、後部カバーは、遮光性と光反射防止性を有するように構成することが好ましい。
【0016】
本発明の光センサカバーは、透明樹脂を含む樹脂成形体を含む樹脂構造体からなる。
樹脂成形体は、単層構造でも積層構造でもよい。
樹脂構造体は、略円錐状の本体部を含み、厚みが6~15mmである。
本明細書において、「略円錐状」は、完全な円錐状および当業者が考え得る円錐の変形形状を意味する。変形形状としては、円錐の尖端部を面取りした形状、円錐の側面の少なくとも一部を内方または外方に向けて湾曲させた形状、円錐の側面の一部を中心軸に対して平行方向に直立させた形状、円錐の尖端部を切り落とした形状、およびこれらの組合せ等が挙げられる。本体部は、配線等を通すための開口部を有するものであってもよい。
図3は、変形形状の一例を示す模式断面図である。
【0017】
本発明の光センサカバーは、本体部の全光線透過率が20%以下であり、本体部の外面全体を外側から3MPaの圧力で加圧した際に破断しない耐圧性を有する。
本発明の光センサカバーは、放射線で発光する、および/または、紫外線を吸収する性質を有する化合物の含有量が300ppm以下である。
本明細書において、特に明記しない限り、「全光線透過率」はJIS K7361-1に準拠して測定される値であり、「放射線で発光する、および/または、紫外線を吸収する性質を有する化合物の含有量」は、JIS K6904に準拠して測定される値である。
【0018】
樹脂構造体はさらに、本体部の外方に形成され、本体部の中心軸に対して垂直方向に伸びる平坦な周縁部を含むことが好ましい。
【0019】
上記したように、樹脂構造体の本体部は、全光線透過率が20%以下であり、遮光性に優れる。樹脂構造体は、全光線透過率が20%以下となるよう、1種以上の着色剤および/または1種以上の強化繊維を含むことができる。
着色剤としては特に制限されず、公知の顔料および/または公知の染料を用いることができる。
強化繊維としては特に制限されず、ガラス繊維、シリカ繊維、および炭素繊維等の無機繊維;アラミド繊維およびポリエステル繊維等の有機繊維;これらの組合せ等が挙げられる。ガラス繊維および炭素繊維等が好ましい。
強化繊維は、クロス、ペーパー、およびマット等の繊維基材の形態で使用することができる。
1種以上の着色剤および/または1種以上の強化繊維、特に1種以上の強化繊維を用いて全光線透過率を20%以下に調整した樹脂構造体の本体部は、光反射防止性にも優れる。
樹脂構造体の本体部の全光線透過率は、好ましくは10%以下、より好ましくは5%以下、特に好ましくは3%以下である。
【0020】
全光線透過率が20%以下である樹脂構造体の第1の態様は、透明樹脂と1種以上の着色剤とを含む樹脂成形体である。
第1の態様において、1種以上の着色剤は、樹脂構造体の本体部の全光線透過率が20%以下となるよう、種類および添加量が設計される。本体部の厚みによっても、樹脂構造体の本体部の全光線透過率を調整できる。
【0021】
全光線透過率が20%以下である樹脂構造体の第2の態様は、透明樹脂を含む樹脂成形体と、この樹脂成形体の外面上に積層された1種以上の着色剤を含む遮光層とを含む積層体である。遮光層は、1種以上の熱硬化性樹脂の硬化物と1種以上の着色剤とを含むことができる。
第2の態様において、1種以上の着色剤は、樹脂構造体の本体部の全光線透過率が20%以下となるよう、種類および添加量が設計される。遮光層の厚みによっても、樹脂構造体の本体部の全光線透過率を調整できる。
【0022】
全光線透過率が20%以下である樹脂構造体の第3の態様は、透明樹脂を含む樹脂成形体と、この樹脂成形体の外面上に積層された補強層とを含む積層体である。
第3の態様において、補強層は、1種以上の強化繊維を含み、1種以上の熱硬化性樹脂の硬化物と1種以上の強化繊維とを含むことが好ましい。この態様において、樹脂成形体および/または補強層は必要に応じて、1種以上の着色剤を含むことができる。
第3の態様では、1種以上の強化繊維および必要に応じて用いられる1種以上の着色剤は、樹脂構造体の本体部の全光線透過率が20%以下となるよう、種類および添加量が設計される。補強層の厚みによっても、樹脂構造体の本体部の全光線透過率を調整できる。
【0023】
第3の態様では、補強層によって、樹脂成形体単体よりも強度を高められる。そのため、樹脂構造体の厚みを比較的薄くしても、充分な強度を確保でき、樹脂構造体の軽量化を図ることができる。樹脂構造体の厚みを比較的薄くすることで、保護カバー全体の軽量化、およびそれによる光電子増倍管を含む装置の簡略化とコスト低減を図ることができる。光電子増倍管を含む装置としては、水-チェレンコフ型宇宙素粒子観測装置等が挙げられる。
【0024】
第2、第3の態様において、熱硬化性樹脂としては特に制限されず、不飽和ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、およびこれらの組合せ等が挙げられる。中でも、不飽和ポリエステル樹脂等が好ましい。
【0025】
本発明の光センサカバー(樹脂構造体)の厚みは6~15mmであり、好ましくは7~15mm、より好ましくは7~12mmである。
本発明では、主素材として、強度に優れるメタクリル系樹脂等の透明樹脂を用いることで、樹脂構造体を上記のように比較的薄く設計しても、外面全体を3MPaの圧力で加圧した際に破断しない耐圧性を有する光センサカバーを提供できる。
樹脂成形体の外面上に強化繊維を含む補強層を形成することで、樹脂構造体を上記のように比較的薄く設計しても、光センサカバーの耐圧性をさらに高めることができる。
【0026】
樹脂成形体において、本体部を構成する略円錐状の部分は、前方(前部カバー側)から後方に向けて厚みが変化してもよく、例えば前方(前部カバー側)から後方に向けて厚みが徐々に薄くなるように設計してもよい。
遮光層および補強層において、本体部を構成する略円錐状の部分は、前方(前部カバー側)から後方に向けて厚みが変化してもよく、例えば前方(前部カバー側)から後方に向けて厚みが徐々に厚くなるように設計してもよい。
【0027】
樹脂成形体用の透明樹脂としては公知のものを用いることができ、アクリル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂(PC)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリスチレン(PS)、シクロオレフィンポリマー、ポリメチルペンテン、およびこれらの組合せ等が挙げられる。透明樹脂は、アクリル系樹脂を含むことが好ましい。
アクリル系樹脂は、(メタ)アクリル酸および/または(メタ)アクリル酸エステルを含む1種以上の単量体の単独重合体または共重合体である。
本明細書において、「(メタ)アクリル」は、アクリルおよびメタクリルの総称であり、(メタ)アクリロニトリルは、アクリロニトリルおよびメタクリロニトリルの総称である。
【0028】
アクリル系樹脂の中でも、既存の水-チェレンコフ型宇宙素粒子観測装置で実績のあるメタクリル系樹脂が好ましい。メタクリル系樹脂としては、メチルメタクリレート(MMA)の単独重合体(ポリメチルメタクリレート、PMMA)、MMAと1種以上の他の単量体との共重合体、およびこれらの組合せ等が挙げられる。メタクリル系樹脂として、非架橋メタクリル系樹脂を用いてもよいし、架橋メタクリル系樹脂を用いてもよい。
【0029】
一般的に、メタクリル系樹脂は紫外線吸収剤および/または光安定剤が添加され、耐光性の向上が図られている。本発明の光センサカバーに用いる透明樹脂は、紫外線吸収剤および光安定剤の含有量が少ないことが好ましく、紫外線吸収剤および光安定剤を含まないことがより好ましい。
一般的に、光電子増倍管が使用される環境では光源が存在しないため、透明樹脂の紫外線劣化の恐れがない。透明樹脂が紫外線吸収剤および/または光安定剤を含む場合、何らかの理由で、これらの成分が浸出および揮散等により保護カバーの外部に漏出すれば、チェレンコフ光観測を妨げる恐れがある。
【0030】
樹脂構造体が透明樹脂を含む樹脂成形体と遮光層とを含む積層体からなる第2の態様では、遮光層は、1種以上の熱硬化性樹脂の硬化物と1種以上の着色剤とを含むことができる。この場合、遮光層は、1種以上の熱硬化性樹脂、1種以上の着色剤、および1種以上の溶剤(単量体および有機溶媒等)を含むコート剤を用いて、形成することができる。この場合、コート剤に含まれる溶剤成分によって樹脂成形体にクレーズおよびクラック等が入らないよう、樹脂成形体は架橋樹脂(好ましくは架橋メタクリル系樹脂)を含むことが好ましい。
【0031】
樹脂構造体が透明樹脂を含む樹脂成形体と補強層とを含む積層体からなる第3の態様では、補強層は、1種以上の熱硬化性樹脂の硬化物と1種以上の強化繊維とを含むことができる。この場合、補強層は、繊維基材と、1種以上の熱硬化性樹脂および1種以上の溶剤(単量体および有機溶媒等)を含むコート剤を用いて、形成することができる。この場合、コート剤に含まれる溶剤成分によって樹脂成形体にクレーズおよびクラック等が入らないよう、樹脂成形体は架橋樹脂(好ましくは架橋メタクリル系樹脂)を含むことが好ましい。
【0032】
樹脂成形体は、公知方法にて製造することができる。
樹脂成形体の第1の製造方法としては、所望の形状の空間を持つ型を用意し、注型重合および射出成形等の公知方法により所望の形状の樹脂成形体を直接成形する方法が挙げられる。この方法では、紫外線吸収剤および光安定剤の含有量が少ない、好ましくは紫外線吸収剤および光安定剤を含まない重合性原料を用いることが好ましい。
【0033】
樹脂成形体の第2の製造方法としては、あらかじめ公知方法にて製造された一次成形品である平坦な樹脂板を、略円錐状の本体部および必要に応じて周縁部を含む所望の形状に二次成形する方法が挙げられる。
この方法では、平坦な樹脂板として、紫外線吸収剤および光安定剤の含有量が少ない、好ましくは紫外線吸収剤および光安定剤を含まない樹脂板を用いることが好ましい。
一次成形品である平坦な樹脂板は、市販品を用いてもよいし、製造して用いてもよい。
紫外線吸収剤および光安定剤を含まず、成形性に優れた市販の架橋樹脂板としては例えば、クラレ製の架橋メタクリル系樹脂板「パラグラス SG」等が挙げられる。
【0034】
PMMA板等のメタクリル系樹脂板の製造方法としては、ガスケットとこれを介して所定の間隔をもって対向配置された一対の型板とからなる鋳型を用意し、この鋳型の内部空間部に重合性原料を注入し、加熱により重合硬化する注型重合法が挙げられる。
【0035】
重合性原料は、MMAを含む1種以上の単量体(M)、必要に応じてMMA単位を含む1種以上の非架橋の直鎖状アルキルメタクリレート系重合体(P)、および重合開始剤を含むことができる。
樹脂構造体が樹脂成形体からなる第1の態様では、得られる樹脂板の全光線透過率が20%以下となるように、重合性原料に1種以上の着色剤を添加する。
樹脂構造体が樹脂成形体と遮光層とを含む積層体からなる第2の態様、および、樹脂構造体が樹脂成形体と補強層とを含む積層体からなる第3の態様においても、重合性原料に1種以上の着色剤を添加してもよい。
【0036】
好ましくは、重合性原料は、MMA単位を含む非架橋の直鎖状アルキルメタクリレート系重合体(P)および1種以上の単量体(M1)を含むシラップ(S)、MMAを含む1種以上の単量体(M2)、必要に応じて1種以上の架橋剤(M3)、1種以上の重合開始剤(A)、および必要に応じて1種以上の任意の添加剤を混合して、調製することができる。
単量体(M)は、シラップ(S)に含まれる1種以上の単量体(M1)、MMAを含む1種以上の単量体(M2)、および必要に応じて用いられる1種以上の架橋剤(M3)を含む。なお、単量体(M2)は、架橋剤として作用しない単官能単量体である。
重合性原料は、紫外線吸収剤および光安定剤の含有量が少ないことが好ましく、紫外線吸収剤および光安定剤を含まないことが好ましい。
【0037】
重合性原料は必要に応じて、1種以上の他の添加剤を含むことができる。他の添加剤としては特に制限なく、種類の異なる他の樹脂、酸化防止剤、分散剤、充填剤、樹脂粒状物および天然石粒状等の模様材、可塑剤、および離型剤等が挙げられる。
【0038】
原料の配合比は特に制限されない。重合開始剤(A)、連鎖移動剤(B)、および他の添加剤以外の原料の合計量を100質量部とする。
シラップ(S)の量は、好ましくは30~98質量部、より好ましくは50~95質量部である。
単量体(M2)の量(複数種の場合は合計量)は、好ましくは2~70質量部、より好ましくは5~50質量部である。
架橋剤(M3)の量(複数種の場合は合計量)は、好ましくは0.01~1.5質量部、より好ましくは0.3~0.8質量部である。架橋剤(M3)の量が1.5質量部超では、二次成形の寸法精度が低下する恐れがある。
連鎖移動剤(B)の量(複数種の場合は合計量)は、重合開始剤(A)、連鎖移動剤(B)、および他の添加剤以外の原料の合計量1kg当たり、好ましくは0~2.0g、より好ましくは0~0.5gである。連鎖移動剤(B)の量が2.0g超では一次成形で得られるメタクリル系樹脂板の耐薬品性等の特性が低下する恐れがある。
重合開始剤(A)の量(複数種の場合は合計量)は、重合開始剤(A)、連鎖移動剤(B)、および他の添加剤以外の原料の合計量1kg当たり、好ましくは0.05~3.0gである。この範囲内で原料の配合比に応じて好適な範囲内に調整することがより好ましい。
【0039】
重合性原料は、温度を変えて2段階以上で重合硬化させることが好ましい。2段階重合は以下のように行うことができる。まず、内部空間部に重合性原料を注入した鋳型を、好ましくは55~85℃程度に温調されたウォーターバスに浸漬させ、1~20時間程度保持して、1段階目の重合硬化を行うことができる。次に、上記鋳型を熱風乾燥炉内に載置し、好ましくは80℃程度の温度で2~15時間程度加熱した後、好ましくは120~130℃程度の温度で3~15時間程度加熱して反応を追い込む2段階目の重合硬化を行うことができる。
【0040】
注型重合法で使用されるガスケットの材料としては、軟質塩化ビニル系樹脂が広く用いられている。軟質塩化ビニル系樹脂は通常、樹脂の軟質化のために、可塑剤として、ジオクチルフタレート(DOP)およびジブチルフタレート(DBP)等のフタル酸エステルを含む。かかるフタル酸エステルは、芳香族環を含み、紫外線吸収化合物である。注型重合法においては、重合硬化中にガスケットから溶出した可塑剤によって、得られるメタクリル系樹脂板中の紫外線吸収化合物の含有量が増加する恐れがある。
【0041】
注型重合法において、重合硬化時の鋳型の配置方向としては、鉛直方向と水平方向がある。
鉛直方向配置では、加熱により重合性原料が鋳型内で対流して低密度の可塑剤が鋳型の上端部(この部分は最終的に切除される)に集まり、実際に製品となる部分には可塑剤がほとんど残らない。そのため、この方法では、得られるメタクリル系樹脂板中の紫外線吸収化合物の含有量を低減でき、紫外線吸収化合物の含有量を300ppm以下とすることができる。
【0042】
水平方向配置では、加熱による重合性原料の対流によって、ガスケットから溶出した可塑剤がガスケット近傍から型板の面方向に拡散し、得られるメタクリル系樹脂板中の紫外線吸収化合物の含有量が増加する恐れがある。そこで、水平方向配置では、重合性原料の25℃における粘度を好ましくは0.1~10Pa・s、より好ましくは0.7~3Pa・sの範囲内とする。このように規定することにより、ガスケットから溶出する可塑剤の拡散範囲を狭い範囲、例えば、ガスケットから5mm程度の範囲内に留めることができる。この場合、鋳型から取り出されたメタクリル系樹脂板の外周部を切除すれば、製品として、可塑剤をほとんど含まないメタクリル系樹脂板を得ることができる。そのため、この方法では、得られるメタクリル系樹脂板中の紫外線吸収化合物の含有量を低減でき、紫外線吸収化合物の含有量を300ppm以下とすることができる。
【0043】
注型重合により得られるメタクリル系樹脂板中の架橋アルキルメタクリレート系重合体の濃度は特に制限されず、好ましくは60~95質量%、より好ましくは75~95質量%である。
メタクリル系樹脂板中の非架橋の直鎖状アルキルメタクリレート系重合体(P)の濃度は特に制限されず、好ましくは40~5質量%、より好ましくは25~5質量%である。
【0044】
二次成形方法は特に制限されず、真空成形および圧空成形等が挙げられる。樹脂板をあらかじめ加熱炉等を用いて適温に加熱軟化させた後、周縁部を水平に固定して真空、圧縮、空気、機械的な圧力、およびこれらの組合せを用いて、型に沿わせたり、型を用いずに圧力で湾曲させたりすることで、所望の形状に加工することができる。二次成形温度は、好ましくは150℃以上、より好ましくは180℃以上である。
【0045】
樹脂構造体が透明樹脂を含む樹脂成形体と遮光層とを含む積層体からなる第2の態様では、上記の第1または第2の製造方法により樹脂成形体を得た後、この樹脂成形体の外面上に、遮光層を形成する。遮光層は、1種以上の熱硬化性樹脂の硬化物と1種以上の着色剤とを含むことができる。この場合、遮光層は例えば、樹脂成形体の外面上に、1種以上の熱硬化性樹脂、1種以上の着色剤、および1種以上の溶剤(単量体および有機溶媒等)を含むコート剤を塗布し、硬化させることで、形成することができる。
【0046】
樹脂構造体が透明樹脂を含む樹脂成形体と補強層とを含む積層体からなる第3の態様では、上記の第1または第2の製造方法により樹脂成形体を得た後、この樹脂成形体の外面上に、補強層を形成する。補強層は、1種以上の熱硬化性樹脂の硬化物と1種以上の強化繊維とを含むことができる。この場合、補強層は、繊維基材と、1種以上の熱硬化性樹脂、必要に応じて1種以上の着色剤、および1種以上の溶剤(単量体および有機溶媒等)を含むコート剤を用いて、形成することができる。
【0047】
補強層の形成は公知方法にて行うことができ、ハンドレイアップ法等が好ましい。
以下、補強層の形成方法の例について、説明する。
<工程(S1)>
はじめに、樹脂成形体の外面上に、1種以上の熱硬化性樹脂、必要に応じて1種以上の着色剤、および1種以上の溶剤(単量体および有機溶媒等)を含むコート剤を塗布して、プライマー層を形成する。
【0048】
<工程(S2)>
次いで、表面にプライマー層を形成した樹脂成形体の外面上に、あらかじめ、1種以上の熱硬化性樹脂、必要に応じて1種以上の着色剤、および1種以上の溶剤(単量体および有機溶媒等)を含むコート剤を含浸させたガラスマット等の1つ以上の繊維基材を、補強層の所望の厚みに応じた厚みで積層する。その上から、ハケおよび専用のローラー等を押し付け、気泡を取り除きながらコート剤を含む1つ以上の繊維基材を樹脂成形体に密着させる。
【0049】
上記工程を行う代わりに、プライマー層を形成した樹脂成形体の外面上にガラスマット等の繊維基材のプリフォームを1つ以上積層し、この上から上記コート剤を吹付けまたは塗布し、その上から、ハケおよび専用のローラー等を押し付け、気泡を取り除きながらコート剤を含む1つ以上の繊維基材を樹脂成形体に密着させる工程を行ってもよい。
【0050】
<工程(S3)>
次いで、プライマー層に用いたコート剤および繊維基材に含浸させたコート剤を硬化する。例えば、20~25℃の常温である程度硬化させた後、熱風乾燥炉等を用いて熱硬化することができる。熱硬化条件はコート剤の組成に応じて設計でき、例えば、60~80℃で3~5時間が好ましい。常温硬化後に残る残留モノマーの重合が完了するように、熱硬化を行う。
スチレン等の芳香族環含有単量体は、紫外線吸収化合物である。
本発明では、熱硬化後に残る残留モノマーの量が無視できる程度の微量またはゼロとなるように、熱硬化を完了させる。これによって、得られる樹脂構造体中の紫外線吸収化合物の含有量を300ppm以下とすることができる。
以上のようにして、補強層を形成できる。
【0051】
本発明の光センサカバーの本体部は、放射線で発光する、および/または、紫外線を吸収する性質を有する化合物の含有量が300ppm以下である。放射線としては、α線、β線、およびγ線等が挙げられる。放射線で発光する、および/または、紫外線を吸収する性質を有する化合物としては、フタル酸エステルおよびスチレン等の芳香族環含有化合物等が挙げられる。
本発明では、上記のように製造方法を工夫することで、得られる樹脂構造体中の、放射線で発光する、および/または、紫外線を吸収する性質を有する化合物の含有量を無視できる程度の微量またはゼロである300ppm以下とすることができる。
【0052】
図面を参照して、本発明に係る一実施形態の光センサカバーおよび本発明に係る一実施形態のケース付き光電子増倍管の構造について、説明する。図1図2はそれぞれ、本実施形態の光センサカバー(後部カバー)の模式斜視図、模式断面図である。図3は、本実施形態の光センサカバー(後部カバー)の設計変更例を示す模式断面図である。図4は、ケース付き光電子増倍管の模式断面図である。
【0053】
図4に示すように、本実施形態のケース付き光電子増倍管3は、保護ケース1内に光電子増倍管2を収納したものである。
本実施形態の光センサカバー20は、光電子増倍管2の後部カバーとして使用することができる。光センサカバー20は、前部カバー10と組み合わせて、光電子増倍管の保護ケース1を構成することができる。保護ケース1内には、公知の固定治具を用いて光電子増倍管2を固定することができる(図示略)。
【0054】
図4に示すように、一実施形態の前部カバー10は、略半球状の本体部11と、この本体部11の外方に形成され、本体部11の中心軸に対して垂直方向に延びる平坦な周縁部13とを含む。
前部カバー10はメタクリル系樹脂等の透明樹脂を含む樹脂成形体からなり、光電子増倍管2の受光面2Sを保護する。前部カバー10は、紫外線透過性を有し、波長300nm以上の紫外線を透過することが好ましい。前部カバー10は、本体部11の外面全体を3MPaの圧力で加圧した際に破断しない耐圧性を有することが好ましい。
前部カバー10は例えば、[背景技術]の項で挙げた特許文献1に記載の製造方法により製造することができる。
【0055】
図1に示すように、本実施形態の光センサカバー20は、略円錐状の本体部21と、本体部21の外方に形成され、本体部21の中心軸に対して垂直方向に伸びる平坦な周縁部23とを含む樹脂構造体からなる。図4に示すように、光センサカバー20は、光電子増倍管2の受光面2Sより後方部分(後部)を保護する。
【0056】
前部カバー10の周縁部13と光センサカバー(後部カバー)20の周縁部23とをいずれも平坦な形状とすることで、これらを面接合により緻密に密着させることができ、好ましい。前部カバー10と光センサカバー(後部カバー)20とをボルト等を用いて着脱自在に固定とすることで、光電子増倍管2を交換可能とすることができ、好ましい。
【0057】
図2に示すように、本実施形態の光センサカバー20は、透明樹脂を含む樹脂成形体20Xと、この樹脂成形体20Xの外面上に積層された補強層20Yとの積層体である。
樹脂成形体20Xは好ましくは、架橋メタクリル系樹脂を含む透明なメタクリル系樹脂成形体である。本実施形態では、樹脂成形体20Xにおいて、本体部21を構成する略円錐状の部分は、前方(前部カバー10側)から後方に向けて、厚みが徐々に薄くなっている。
【0058】
本実施形態において、補強層20Yは、1種以上の熱硬化性樹脂の硬化物と1種以上の強化繊維とを含む。補強層20Yは必要に応じて、1種以上の着色剤を含むことができる。
本実施形態において、補強層20Yに含まれる1種以上の強化繊維および必要に応じて用いられる1種以上の着色剤の種類と添加量、および、補強層20Yの厚みによって、樹脂構造体の本体部21の全光線透過率が20%以下となるよう、調整されている。すなわち、本実施形態では、補強層20Yは遮光層として機能することができる。
【0059】
光センサカバー20の本体部は、例えば図3に示すような円錐状を変形させた形状としてもよい。
図2図4に示す光センサカバー20は、樹脂構造体が、樹脂成形体と補強層とを含み、補強層が遮光層を兼ねる積層体からなる第3の態様の実施形態の例を示したものである。
【0060】
以上説明したように、本発明によれば、光電子増倍管保護ケースの後部カバーとして好適な耐圧性と遮光性を有し、放射線で発光する、および/または、紫外線を吸収する化合物を溶出する恐れのない光センサカバーを提供することができる。
本発明の光センサカバーは耐圧性に優れ、水圧および爆縮等の衝撃波から、光電子増倍管およびその内部に封入された重要な電子部品(例えば、電子増倍部および陽極等の電極)を良好に保護することができる。
本発明の光センサカバーは、主として透明樹脂を含む樹脂成形体からなるため、強度と加工性に優れ、軽量化も可能である。
本発明の光センサカバーは、主として透明樹脂を含む樹脂成形体からなるため、発光、光吸収、および光反射が生じない。本発明の光センサカバーは、全光線透過率が20%以下であり、遮光性に優れる。本発明の光センサカバーはまた、放射線で発光する、および/または、紫外線を吸収する化合物の含有量が300ppm以下である。これら理由により、本発明の光センサカバーは、チェレンコフ光の観測を妨げない。
【実施例
【0061】
本発明に係る実施例および比較例について説明する。
[評価項目および評価方法]
(外観)
メタクリル系樹脂層と補強層との積層構造からなる樹脂構造体を目視観察し、以下の基準で外観を評価した。
○(良):クレーズおよびクラック等の外観不良が見られない。
×(不良):クレーズおよびクラック等の外観不良が見られる。
【0062】
(厚み)
メタクリル系樹脂層からなる単層構造の樹脂成形体、および、メタクリル系樹脂層と補強層との積層構造からなる樹脂構造体について、それぞれ、周縁部(最厚部)および尖端部(最薄部)を含む複数箇所の厚みを、マイクロメーターを用いて、0.1mmの位まで測定した。これによって、樹脂構造体の周縁部(最厚部)および尖端部(最薄部)を含む複数箇所についてそれぞれ、各層の厚みと合計厚みを求めた。
【0063】
(全光線透過率)
メタクリル系樹脂層と補強層との積層構造からなる樹脂構造体の側部の中央部から切り出した縦50mm、横50mmの試験片について、分光色差計(日本電色工業(株)製「SE5000」)を使用し、JIS-K7361に準拠して全光線透過率を測定した。
【0064】
(耐圧性)
メタクリル系樹脂層と補強層との積層構造からなる樹脂構造体について、以下のようにして、耐圧性を評価した。
樹脂構造体の中心軸を通る互いに直交する2つの面で均等に4分割した1/4分割サンプルを解析モデルとした。エムエスシーソフトウェア株式会社製「汎用非線形構造解析ソリューションMARC」を用いて、外力として3MPaの圧力が与えられた場合の破断の有無を解析した。
解析には、上記方法にて測定された厚みデータおよび用いた各樹脂の物性値(ヤング率およびポアソン比)を使用した。周縁部の拘束条件は、全面拘束とした。
【0065】
樹脂構造体の最薄部と同じ積層構造(例えば、実施例1では、0.7mm厚のメタクリル系樹脂層と6.3mm厚の補強層との積層構造)の平板を成形した。これをリファレンスとして、島津製作所製「オートグラフ精密万能試験機AG-10TB」を用い、JIS K7113に準拠して、引張破断強度を測定した。
例えば、実施例1の樹脂構造体の最薄部の、クラレ製「パラグラス SG85」(0.7mm厚)と補強層(6.3mm厚)の積層構造の場合、ヤング率=19.9GPa、ポアソン比=0.22、平板の引張破断強度=150MPaであった。
【0066】
上記解析モデルの光センサカバーの本体部の外面全体に3MPaの圧力を与えたときに各位置にかかる板面方向の引張応力を求めた。歪力が最も大きい部分の引張応力を求め、上記リファレンスの引張破断強度(実測値)と比較し、以下の基準で評価した。
○(良):歪力が最も大きい部分の引張応力が上記リファレンスの引張破断強度より小さく、破断しない。
×(不良):歪力が最も大きい部分の引張応力が上記リファレンスの引張破断強度以上であり、破断する。
【0067】
(残存スチレンモノマー量)
紫外線吸収化合物の定量として、以下の測定を実施した。
メタクリル系樹脂層と補強層との積層構造からなる樹脂構造体の最厚部である周縁部から切り出した試験片について、島津製作所製ガスクロマトグラフィーGC2014(カラム:アジレントテクノロジー製「DB-1」、長さ30m、内径0.25mm、液膜1μm)を使用し、JIS-K6904に準拠して、試験片全体に対する残存スチレンモノマー量(質量%)を求めた。
【0068】
[実施例1]
(樹脂成形体の製造)
樹脂原板として、サニタリー用途等における深絞り成形および複雑な形状の成形に適したメタクリル系樹脂注型板であるクラレ製「パラグラス SG85」(8mm厚)を用意した。この樹脂原板は、架橋メタクリル系樹脂を含み、紫外線吸収剤および光安定剤を含まない樹脂板である。
上記樹脂原板から、縦800mm、横800mmの大きさの成形用樹脂板を切り出した。切り出した樹脂板を、ネル生地で包んだ繊維強化プラスチック(FRP)上に載せて、210℃に加熱した遠赤外線炉内に載置し、30分間加熱した。加熱した樹脂板を型の上に載置し、周縁部のみを水平に固定した後、直ちにその上に圧空ボックスを載せ、上から3kg/cmの圧空をかけて下方に膨らませるよう湾曲させて賦型し、徐冷した。
【0069】
以上のようにして、図1および図2に示したような形状のメタクリル系樹脂層からなる単層構造の樹脂成形体(20X)を得た。この樹脂成形体は、略円錐状の本体部と、この本体部の外方に形成され、本体部の中心軸に対して垂直方向に伸びる平坦な周縁部とを含み、略円錐状の本体部は、前方(前部カバー側)から後方に向けて、厚みが徐々に薄くなるように設計した。樹脂成形体は、周縁部の外径を680mmφ、中心軸方向の高さを582mmとした。
【0070】
(補強層の形成)
得られた樹脂成形体の外面全体に、熱硬化性樹脂である不飽和ポリエステル樹脂と1種以上の着色剤とを含む、繊維強化プラスチック(FRP)用ゲルコート(TOMATEC製「7S7259PT」)を0.4mmの厚みで塗布し、プライマー層を形成した。
次いで、上記プライマー層上に、ガラスマット(日東紡製「MC380AS104SS」)を積載した。ガラスマットの厚みは、最終的に得られる樹脂構造体の最薄部(具体的には尖端部)の厚みが表1に示す値となるように、設計した。
【0071】
上記ガラスマットに対して、ハンドレイアップ法により、熱硬化性樹脂である不飽和ポリエステル樹脂と1種以上の着色剤とを重合性単量体に溶解させた粘性液体(昭和電工製「リゴラック NS159BQTN」)を含浸させた。具体的には、ガラスマットの上から上記粘性液体を吹き付けた後、表面をローラーでならして泡抜きをした。
次いで、20~25℃の常温で4時間放置してある程度硬化させた後、80℃で3時間熱処理を行って熱硬化させた。
【0072】
以上のようにして、熱硬化性樹脂と強化繊維と1種以上の着色剤とを含む補強層(FRP層とも言う。)を形成して、メタクリル系樹脂層とFRP層との積層構造からなる樹脂構造体を得た。主な製造条件と評価結果を表1に示す。表1に示す例において、表に不記載の条件は共通条件とした。
【0073】
[実施例2、3]
実施例2では、樹脂原板をクラレ製「パラグラス SG95」(10mm厚)に変え、各層の厚み条件を変えた以外は実施例1と同様にして、樹脂成形体および樹脂構造体を得た。
実施例3では、樹脂原板をクラレ製「パラグラス SG85」(6mm厚)に変え、各層の厚み条件を変えた以外は実施例1と同様にして、樹脂成形体および樹脂構造体を得た。
実施例2、3で用いた樹脂原板はいずれも、架橋メタクリル系樹脂を含み、紫外線吸収剤および光安定剤を含まない樹脂板である。
主な製造条件と評価結果を表1に示す。
【0074】
[比較例1]
樹脂原板をクラレ製「パラグラス P」(8mm厚)に変え、各層の厚み条件を変えた以外は実施例1と同様にして、樹脂成形体および樹脂構造体を得た。
比較例1で用いた樹脂原板は、架橋メタクリル系樹脂を含まず、紫外線吸収剤および光安定剤を含まない樹脂板である。
主な製造条件と評価結果を表1に示す。
【0075】
[比較例2、3]
比較例2では、熱硬化工程を実施せず、各層の厚み条件を変えた以外は実施例1と同様にして、樹脂成形体および樹脂構造体を得た。
比較例3では、熱硬化条件を60℃3時間に変え、各層の厚み条件を変えた以外は実施例1と同様にして、樹脂成形体および樹脂構造体を得た。
主な製造条件と評価結果を表1に示す。
【0076】
【表1】
【0077】
[結果のまとめ]
実施例1~3で得られた樹脂構造体はいずれも、クレーズおよびクラック等が見られず、外観が良好であり、全光線透過率が5%以下と遮光性が高く、耐圧性が良好であった。また、これら実施例で得られた樹脂構造体はいずれも、残存スチレンモノマー量が300ppm以下と無視できる程度に少なく、紫外線吸収化合物である残存スチレンモノマーが漏出してチェレンコフ光の測定を妨げる恐れがないものであった。これら実施例で得られた樹脂構造体はいずれも、光電子増倍管の後部カバーとして好適なものであった。
【0078】
比較例1で得られた樹脂構造体は、クレーズが見られ、外観が不良であった。この比較例では、架橋メタクリル系樹脂を含まない樹脂原板を用いたため、補強層の形成工程でスチレンモノマー等の溶剤によって樹脂成形体にクレーズ(溶剤クレーズとも言う。)が生じたと考えられる。この比較例で得られた樹脂構造体は、クレーズが形成されたため、耐圧性が不良であり、光電子増倍管の後部カバーとして不適なものであった。
【0079】
比較例2、3では、補強層の形成工程における硬化が不充分であったため、得られた樹脂構造体は、紫外線吸収化合物である残存スチレンモノマーの含有量が非常に多く、不良であった。これら比較例で得られた樹脂構造体は、残存スチレンモノマーが漏出して、チェレンコフ光の測定を妨げる恐れがあるため、光電子増倍管の後部カバーとして不適なものであった。
【0080】
本発明は上記実施形態及び実施例に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない限りにおいて、適宜設計変更が可能である。
【符号の説明】
【0081】
1 保護ケース
2 光電子増倍管
2S 受光面
3 ケース付き光電子増倍管
10 前部カバー
11 本体部
13 周縁部
20 光センサカバー(後部カバー)
20X 樹脂成形体
20Y 補強層
21 本体部
23 周縁部
図1
図2
図3
図4