IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日鉄住金マイクロメタル株式会社の特許一覧 ▶ 新日鉄住金化学株式会社の特許一覧

特許7629468半導体装置用Ag合金ボンディングワイヤ
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-04
(45)【発行日】2025-02-13
(54)【発明の名称】半導体装置用Ag合金ボンディングワイヤ
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/60 20060101AFI20250205BHJP
   C22C 5/06 20060101ALI20250205BHJP
   C22F 1/00 20060101ALN20250205BHJP
   C22F 1/14 20060101ALN20250205BHJP
【FI】
H01L21/60 301F
C22C5/06 Z
C22F1/00 625
C22F1/00 661A
C22F1/00 630M
C22F1/00 685Z
C22F1/00 691A
C22F1/00 691B
C22F1/00 691C
C22F1/00 686A
C22F1/00 681
C22F1/00 694A
C22F1/00 694Z
C22F1/00 630K
C22F1/00 650A
C22F1/14
【請求項の数】 17
(21)【出願番号】P 2022557326
(86)(22)【出願日】2021-09-24
(86)【国際出願番号】 JP2021035095
(87)【国際公開番号】W WO2022085365
(87)【国際公開日】2022-04-28
【審査請求日】2023-01-04
(31)【優先権主張番号】P 2020175760
(32)【優先日】2020-10-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】595179228
【氏名又は名称】日鉄マイクロメタル株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000006644
【氏名又は名称】日鉄ケミカル&マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】荒木 典俊
(72)【発明者】
【氏名】大壁 巧
(72)【発明者】
【氏名】小田 大造
(72)【発明者】
【氏名】宇野 智裕
(72)【発明者】
【氏名】小山田 哲哉
【審査官】今井 聖和
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-186248(JP,A)
【文献】特開2016-025114(JP,A)
【文献】特開2012-049198(JP,A)
【文献】国際公開第2021/065036(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/006326(WO,A1)
【文献】特開2014-201797(JP,A)
【文献】特開昭60-162741(JP,A)
【文献】特開2014-222725(JP,A)
【文献】国際公開第2020/208839(WO,A1)
【文献】特開昭64-017436(JP,A)
【文献】特開平01-110741(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/60
C22C 5/06
C22F 1/00
C22F 1/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Te、Bi及びSbからなる群から選択される1種以上の元素(以下、「第1元素」という。)、並びに、Pd、Pt、In及びGaからなる群から選択される1種以上の元素(以下、「第2元素」という。)を含有し、
第2元素として、少なくともGaを含有し、
第2元素の総計濃度が0.05~3at.%であり、
以下の条件(1)~(3)の少なくとも一つを満たすAg合金からなる、半導体装置用Ag合金ボンディングワイヤ。
(1)Teの濃度が5~500at.ppm
(2)Biの濃度が5~500at.ppm
(3)Sbの濃度が5~1500at.ppm
【請求項2】
Te、Bi及びSbからなる群から選択される1種以上の元素(以下、「第1元素」という。)、並びに、Pd、Pt、In及びGaからなる群から選択される1種以上の元素(以下、「第2元素」という。)を含有し、
第2元素として、少なくともInを含有し、
第2元素の総計濃度が0.05~3at.%であり、
以下の条件(1)~(3)の少なくとも一つを満たすAg合金からなAg以外の金属を主成分とする被覆を有していない半導体装置用Ag合金ボンディングワイヤ。
(1)Teの濃度が5~500at.ppm
(2)Biの濃度が5~500at.ppm
(3)Sbの濃度が5~1500at.ppm
【請求項3】
Te、Bi及びSbからなる群から選択される1種以上の元素(以下、「第1元素」という。)、並びに、Pd、Pt、In及びGaからなる群から選択される1種以上の元素(以下、「第2元素」という。)を含有し、
第2元素の総計濃度が0.05~3at.%であり、
第2元素として、少なくともPt0.1at.%以下の濃度で含有し
以下の条件(1)~(3)の少なくとも一つを満たすAg合金からなる、半導体装置用Ag合金ボンディングワイヤ。
(1)Teの濃度が5~500at.ppm
(2)Biの濃度が5~500at.ppm
(3)Sbの濃度が5~1500at.ppm
【請求項4】
Te、Bi及びSbからなる群から選択される1種以上の元素(以下、「第1元素」という。)、並びに、Pd、Pt、In及びGaからなる群から選択される1種以上の元素(以下、「第2元素」という。)を含有し、
第2元素の総計濃度が0.05~3at.%であり、
第2元素として、少なくともPt0.1質量%未満の濃度で含有し
以下の条件(1)~(3)の少なくとも一つを満たすAg合金からなる、半導体装置用Ag合金ボンディングワイヤ。
(1)Teの濃度が5~500at.ppm
(2)Biの濃度が5~500at.ppm
(3)Sbの濃度が5~1500at.ppm
【請求項5】
Te、Bi及びSbからなる群から選択される1種以上の元素(以下、「第1元素」という。)、並びに、Pd、Pt、In及びGaからなる群から選択される1種以上の元素(以下、「第2元素」という。)を含有し、
第2元素の総計濃度が0.05~1at.%であり、
第1元素、第2元素及びAgのいずれにも該当しない元素の総計濃度が0at.%以上0.5at.%以下であり、
Caと希土類元素の総計濃度が0at.ppm以上20at.ppm未満であり、
以下の条件(1)~(3)の少なくとも一つを満たすAg合金からなる、半導体装置用Ag合金ボンディングワイヤ。
(1)Teの濃度が5~500at.ppm
(2)Biの濃度が5~500at.ppm
(3)Sbの濃度が5~1500at.ppm
【請求項6】
Te、Bi及びSbからなる群から選択される1種以上の元素(以下、「第1元素」という。)、並びに、Pd、Pt、In及びGaからなる群から選択される1種以上の元素(以下、「第2元素」という。)を含有し、
第1元素を2種以上含有し、
第2元素の総計濃度が0.05~3at.%であり、
以下の条件(1)~(3)の少なくとも一つを満たすAg合金からなる、半導体装置用Ag合金ボンディングワイヤ。
(1)Teの濃度が5~500at.ppm
(2)Biの濃度が5~500at.ppm
(3)Sbの濃度が5~1500at.ppm
【請求項7】
Te、Bi及びSbからなる群から選択される1種以上の元素(以下、「第1元素」という。)、並びに、Pd、Pt、In及びGaからなる群から選択される1種以上の元素(以下、「第2元素」という。)を含有し、
第2元素の総計濃度が0.05~3at.%であり、
第2元素のうち、Pd、Pt、In及びGaの何れか1種の元素のみを実質的に含有し、
第1元素、第2元素及びAgのいずれにも該当しない元素の総計濃度が0at.%以上0.5at.%以下であり、
Caと希土類元素の総計濃度が0at.ppm以上20at.ppm未満であり、
以下の条件(1)~(3)の少なくとも一つを満たすAg合金からなAg以外の金属を主成分とする被覆を有していない半導体装置用Ag合金ボンディングワイヤ。
(1)Teの濃度が5~500at.ppm
(2)Biの濃度が5~500at.ppm
(3)Sbの濃度が5~1500at.ppm
【請求項8】
Ptの濃度が0.06at.%以下である、請求項1~のいずれか1項に記載のAg合金ボンディングワイヤ。
【請求項9】
Ptを含有しない、請求項1、2、5のいずれか1項に記載のAg合金ボンディングワイヤ。
【請求項10】
Caと希土類元素の総計濃度が0質量ppm以上20質量ppm未満である、請求項1~9のいずれか1項に記載のAg合金ボンディングワイヤ。
【請求項11】
Caと希土類元素の総計濃度が0at.ppm以上12at.ppm未満である、請求項1~10のいずれか1項に記載のAg合金ボンディングワイヤ。
【請求項12】
条件(1)~(3)の少なくとも二つを満たす、請求項1~11のいずれか1項に記載のAg合金ボンディングワイヤ。
【請求項13】
第1元素、第2元素及びAgのいずれにも該当しない元素の総計濃度が0.1at.%以下である、請求項1~12のいずれか1項に記載のAg合金ボンディングワイヤ。
【請求項14】
Ag合金の残部が、Ag及び不可避不純物からなる、請求項1~13の何れか1項に記載のAg合金ボンディングワイヤ。
【請求項15】
条件(3)について、Sbの濃度が900~1500at.ppmである、請求項1~14の何れか1項に記載のAg合金ボンディングワイヤ。
【請求項16】
各元素の濃度が、ICP発光分光分析又はICP質量分析により測定した濃度である、請求項1~15の何れか1項に記載のAg合金ボンディングワイヤ。
【請求項17】
請求項1~16の何れか1項に記載のAg合金ボンディングワイヤを含む半導体装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体装置用Ag合金ボンディングワイヤに関する。さらには、該Ag合金ボンディングワイヤを含む半導体装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体装置では、半導体素子上に形成された電極と、リードフレームや基板上の外部電極との間をボンディングワイヤによって接続している。ボンディングワイヤの接続プロセスは、ワイヤ先端をアーク入熱で加熱溶融し、表面張力によりボール(FAB:Free Air Ball)を形成した後に、該ボール部を半導体素子上の電極に圧着接合(以下、ボール接合)し、次にループを形成した後、リードフレームや基板上の外部電極にワイヤ部を圧着接合(以下、ウェッジ接合)することで完了する。
【0003】
ボンディングワイヤの材料は、金(Au)が主流であったが、近年では、Au価格の高騰を背景にAuの代替として比較的安価な材料を用いたボンディングワイヤの開発が盛んに行われている。Auに代わる低コストのワイヤ素材として、例えば、銅(Cu)や銀(Ag)が検討されており、中でも、Auと同等以上の電気伝導性を有し、Cuよりも低い硬度をもたらす(ひいては電極等への接続時に問題が生じ難い傾向にある)ことから、ワイヤ素材としてAgが期待されている。例えば、特許文献1、2には、Pt、Pd、Au等の元素を添加したAg合金ワイヤが開示されており、斯かるAg合金ワイヤが良好な接合信頼性を呈することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平11-288962号公報
【文献】特開2012-169374号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、半導体装置の更なる高性能化、小型化が進められており、ボンディングワイヤの開発にあたって高密度実装化への対応が強く求められている。高密度実装で要求される狭ピッチ接続では、細線化、小ボール形成性もさることながら、ボール接合時のボールの圧着形状を制御する技術が求められている。ボールの圧着形状について課題となるのが、ボール接合時にボールが花弁状に変形したり超音波の印加方向に優先的にボールが変形したりしてボール変形に異方性が生じること(以下、「異形不良」ともいう。)である。こうした異形不良は、ボール接合時の超音波の伝達不足による接合強度低下、隣接するボール同士の接触にともなう短絡等の不良の発生原因となる。したがって、ボールの圧着形状は、ボールを電極の直上から観察した際に、真円に近い形状であることが好ましい。この点、Agワイヤは、AuワイヤやCuワイヤに比し、ボールの圧着形状に劣る傾向にあり、特許文献1、2に記載されるAg合金ワイヤによっても、圧着形状が不良となる場合があった。
【0006】
本発明は、高密度実装で要求される、ボール接合時のボールの圧着形状に優れる新規な半導体装置用Ag合金ボンディングワイヤを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題につき鋭意検討した結果、下記構成を有するボンディングワイヤによって上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は以下の内容を含む。
[1] Te、Bi及びSbからなる群から選択される1種以上の元素(以下、「第1元素」という。)を含有し、以下の条件(1)~(3)の少なくとも一つを満たすAg合金からなる、半導体装置用Ag合金ボンディングワイヤ。
(1)Teの濃度が5~500at.ppm
(2)Biの濃度が5~500at.ppm
(3)Sbの濃度が5~1500at.ppm
[2] さらにPd、Pt、In及びGaからなる群から選択される1種以上の元素(以下、「第2元素」という。)を含有し、第2元素の総計濃度が0.05~3at.%である、[1]に記載のAg合金ボンディングワイヤ。
[3] 第1元素の総計濃度をx[at.%]、Pd、Pt、In及びGaからなる群から選択される1種以上の元素(第2元素)の総計濃度をx[at.%]、Agの濃度をxAg[at.%]としたとき、下記式(1)で求められる、その他の元素の総計濃度が0.1at%以下である、[1]又は[2]に記載のAg合金ボンディングワイヤ。
式(1):100-(x+x+xAg)[at.%]
[4] Ag合金の残部が、Ag及び不可避不純物からなる、[1]~[3]の何れかに記載のAg合金ボンディングワイヤ。
[5] 条件(3)について、Sbの濃度が900~1500at.ppmである、[1]~[4]の何れかに記載のAg合金ボンディングワイヤ。
[6] 各元素の濃度が、ICP発光分光分析又はICP質量分析により測定した濃度である、[1]~[5]の何れかに記載のAg合金ボンディングワイヤ。
[7] [1]~[6]の何れかに記載のAg合金ボンディングワイヤを含む半導体装置。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、高密度実装で要求される、ボール接合時のボールの圧着形状に優れる新規な半導体装置用Ag合金ボンディングワイヤを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明をその好適な実施形態に即して詳細に説明する。
【0010】
[半導体装置用Ag合金ボンディングワイヤ]
本発明の半導体装置用Ag合金ボンディングワイヤ(以下、単に「本発明のワイヤ」、「ワイヤ」ともいう。)は、Te、Bi及びSbからなる群から選択される1種以上の元素(以下、「第1元素」ともいう。)を含有し、以下の条件(1)~(3)の少なくとも一つを満たすAg合金からなることを特徴とする。
(1)Teの濃度が5~500at.ppm
(2)Biの濃度が5~500at.ppm
(3)Sbの濃度が5~1500at.ppm
【0011】
-Te、Bi、Sb(第1元素)-
本発明のワイヤは、第1元素として、Te、Bi及びSbからなる群から選択される1種以上の元素を含有し、条件(1):Teの濃度が5~500at.ppm、条件(2):Biの濃度が5~500at.ppm、条件(3):Sbの濃度が5~1500at.ppmのうち少なくとも一つの条件を満たすAg合金からなる。これにより本発明のワイヤは、ボール接合においてボール変形の異方性を低減し、真円に近い圧着形状を実現できる。詳細なメカニズムは不明であるが、これら特定の第1元素が粒界等に偏析することにより結晶粒の粗大化を抑制することで良好な圧着形状を達成し得るものと考えられる。
【0012】
--条件(1)--
条件(1)は、ワイヤ中のTeの濃度に関する。ボール接合時に良好な圧着形状を実現する観点から、ワイヤ中のTeの濃度は、5at.ppm以上であり、好ましくは10at.ppm以上、20at.ppm以上、30at.ppm以上、40at.ppm以上又は50at.ppm以上である。特にワイヤ中のTeの濃度が50at.ppm以上であると、小ボール接合時において一際良好な圧着形状を実現できるため好適である。ワイヤ中のTeの濃度は、より好ましくは60at.ppm以上、70at.ppm以上又は80at.ppm以上である。
【0013】
ワイヤ中のTeの濃度の上限は、良好なFAB形状、ひいては良好な圧着形状を実現する観点から、500at.ppm以下であり、好ましくは480at.ppm以下、460at.ppm以下、450at.ppm以下、440at.ppm以下、420at.ppm以下又は400at.ppm以下である。
【0014】
--条件(2)--
条件(2)は、ワイヤ中のBiの濃度に関する。ボール接合時に良好な圧着形状を実現する観点から、ワイヤ中のBiの濃度は、5at.ppm以上であり、好ましくは10at.ppm以上、20at.ppm以上、30at.ppm以上、40at.ppm以上又は50at.ppm以上である。特にワイヤ中のBiの濃度が50at.ppm以上であると、小ボール接合時において一際良好な圧着形状を実現できるため好適である。ワイヤ中のBiの濃度は、より好ましくは60at.ppm以上、70at.ppm以上又は80at.ppm以上である。
【0015】
ワイヤ中のBiの濃度の上限は、良好なFAB形状、ひいては良好な圧着形状を実現する観点から、500at.ppm以下であり、好ましくは480at.ppm以下、460at.ppm以下、450at.ppm以下、440at.ppm以下、420at.ppm以下又は400at.ppm以下である。
【0016】
--条件(3)--
条件(3)は、ワイヤ中のSbの濃度に関する。ボール接合時に良好な圧着形状を実現する観点から、ワイヤ中のSbの濃度は、5at.ppm以上であり、好ましくは10at.ppm以上、20at.ppm以上、30at.ppm以上、40at.ppm以上又は50at.ppm以上である。特にワイヤ中のSbの濃度が50at.ppm以上であると、小ボール接合時において一際良好な圧着形状を実現できるため好適である。ワイヤ中のSbの濃度は、より好ましくは60at.ppm以上、70at.ppm以上、80at.ppm以上又は90at.ppm以上である。また、ワイヤ中のSbの濃度は、より高く設定してもよい。例えば、ワイヤ中のSbの濃度は、900at.ppm以上、920at.ppm以上、940at.ppm以上、950at.ppm以上、960at.ppm以上、980at.ppm以上、又は1000at.ppm以上であってもよい。良好なFAB形状、ひいては良好な圧着形状を実現する観点から、TeやBiに関しては、その濃度の上限は500at.ppm以下とすることが好適であるが、Sbに関してはより高濃度に含んでいても良好なFAB形状を維持し得ることを見出したものである。したがって一実施形態において、条件(3)について、Sbの濃度は900~1500at.ppmである。
【0017】
ワイヤ中のSbの濃度の上限は、良好なFAB形状、ひいては良好な圧着形状を実現する観点から、1500at.ppm以下であり、好ましくは1450at.ppm以下、1400at.ppm以下、1380at.ppm以下、1360at.ppm以下又は1350at.ppm以下である。
【0018】
先述のとおり、本発明のワイヤは、条件(1)~(3)の少なくとも一つを満たす。条件(1)~(3)の何れか一つのみを満たしてよく、条件(1)~(3)の何れか二つを満たしてよく、条件(1)~(3)の全てを満たしてもよい。
【0019】
本発明のワイヤにおいて、第1元素の総計濃度は、良好なFAB形状、ひいては良好な圧着形状を実現する観点から、好ましくは2000at.ppm以下、より好ましくは1800at.ppm以下、さらに好ましくは1700at.ppm以下又は1600at.ppm以下である。該総計濃度の下限は、上記の条件(1)~(3)の少なくとも一つを満たす限りにおいて特に限定されない。
【0020】
-Pd、Pt、In、Ga(第2元素)-
本発明のワイヤは、第2元素として、Pd、Pt、In及びGaからなる群から選択される1種以上の元素をさらに含有することが好ましい。これにより、第1元素を所定量含むことによるボール接合時の圧着形状の改善効果と相俟って、以下のとおり、高密度実装において要求される接合信頼性を顕著に向上させ得ることを本発明者らは見出した。
【0021】
Agを用いた従前のボンディングワイヤに関しては、Auボンディングワイヤに比し、接合信頼性に劣る場合のあることが知見されていた。詳細には、実際の半導体装置の使用環境における接合部寿命を評価する目的で、高温放置試験や高温高湿試験などの接合信頼性評価が行われるが、Agボンディングワイヤは、Auボンディングワイヤに比し、接合信頼性評価(特に高温高湿試験)におけるボール接合部の寿命が劣ることが知見されていた。また、高温高湿試験(HAST;Highly Accelerated Temperature and Humidity Stress Test)には、バイアス電圧を印加するbHASTと、バイアス電圧を印加しないuHASTがあるが、バイアス電圧を印加すると腐食が加速されることから、bHASTはuHASTに比し厳しい試験である。
【0022】
先に示した特許文献1、2の技術では、Pd等のドーパントを添加してAgボンディングワイヤの接合信頼性の改善を図るものであるが、小ボール接合が行われる高密度実装においては、斯かる技術によっても十分な接合信頼性が得られない場合があることを見出した。この点、ワイヤ線径がφ15~25μmのワイヤを用いた場合、通常の接合では、ワイヤ線径に対してボール径が1.7~2.0倍のボールを形成して接合が行われるのに対し、高密度実装用途では、狭ピッチ化に対応するため、ワイヤ線径に対してボール径が1.5~1.6倍と通常よりも小さなボールを形成して接合することが多い。高密度実装では、このように小ボール接合が行われることから接合に寄与する面積が小さくなり、その結果、ボール接合部の接合寿命を確保することがより一層困難となる。
【0023】
これに対し、第1元素を所定量含むAg合金からなる本発明のワイヤでは、ボール接合においてボール変形の異方性を低減し、真円に近い圧着形状を実現できる。これにより、小ボール接合時であっても、隣接するボール同士の接触にともなう短絡を防止しつつ、接合に寄与する面積を最大限に確保できる。本発明のワイヤがさらに上記第2元素を含む場合、第1元素を所定量含むことにより奏される斯かる効果と第2元素を含むことによる接合信頼性の向上効果とが相乗的に発現することにより、真円に近い圧着形状を安定して実現しつつ、高密度実装において要求される接合信頼性を顕著に向上させることができる。
【0024】
第1元素との組み合わせにおいて、高密度実装において要求される接合信頼性を顕著に向上させ得る観点から、本発明のワイヤは、先述のとおり、第2元素として、Pd、Pt、In及びGaからなる群から選択される1種以上の元素を含有することが好ましい。第1元素との組み合わせにおいて、上記特定の第2元素を含有することにより、安定した圧着形状を実現しつつ、接合信頼性を向上させることができることを本発明者らは見出したものである。詳細なメカニズムは不明であるが、これら特定の第2元素が、ボール接合部の接合界面において、腐食の原因となるAgと電極金属(Al等)の金属間化合物の成長を抑制するため、接合信頼性を向上させ得るものと考えられる。
【0025】
第1元素との組み合わせにおいて、高密度実装において要求される接合信頼性を顕著に向上させ得る観点から、ワイヤ中の第2元素の総計濃度は、好ましくは0.05at.%以上、より好ましくは0.1at.%以上、0.2at.%以上、0.3at.%以上、0.4at.%以上、0.5at.%以上、0.6at.%以上、0.8at.%以上又は1at.%以上である。特に第2元素の総計濃度が0.3at.%以上であると、より良好な接合信頼性を実現でき、0.5at.%以上であると、一際良好な接合信頼性を実現できるため好適である。
【0026】
ワイヤ中の第2元素の総計濃度の上限は、ワイヤの硬質化を抑えてチップダメージを抑制する観点から、好ましくは3at.%以下、より好ましくは2.9at.%以下、2.8at.%以下、2.7at.%以下、2.6at.%以下又は2.5at.%以下である。第1元素と組み合わせて第2元素を含有することにより、本発明のワイヤでは、第2元素の添加量を過度に高めることなく、高密度実装において要求される接合信頼性を向上させることができる。
【0027】
したがって好適な一実施形態において、本発明のワイヤは、さらにPd、Pt、In及びGaからなる群から選択される1種以上の元素(「第2元素」)を含有し、第2元素の総計濃度が0.05~3at.%である。
【0028】
本発明のワイヤにおいて、第2元素は、Pd、Pt、In及びGaのうち1種以上の元素が含有されていればよく、4種全ての元素が含有されてもよいし、何れか3種又は2種の元素が含有されてもよいし、何れか1種の元素のみが含有されてもよい。
【0029】
一実施形態において、本発明のワイヤは、第2元素のうち、Pd、Pt、In及びGaの何れか1種の元素のみを実質的に含有する。ここで、「Pd、Pt、In及びGaの何れか1種の元素のみを実質的に含有する」とは、Pd、Pt、In及びGaの何れか1種の元素を含有し、他の3種の元素の濃度がそれぞれ50at.ppm以下である場合を意味する。このとき、他の3種の元素の濃度はそれぞれ40at.ppm以下であってもよく、30at.ppm以下であってもよく、20at.ppm以下であってもよく、10at.ppm以下であってもよい。
【0030】
第2元素として、Pdを含有する場合、ワイヤ中のPdの濃度は、Pt、In及びGaの濃度との関連で上記総計濃度の好適値を満たす限り特に限定されないが、例えば、1at.%以下、1at.%未満、0.8at.%以下、0.8at.%未満、0.75at.%以下又は0.7at.%以下であってもよい。
【0031】
第2元素として、Ptを含有する場合、ワイヤ中のPtの濃度は、Pd、In及びGaの濃度との関連で上記総計濃度の好適値を満たす限り特に限定されないが、例えば、0.4at.%以上、0.45at.%以上、0.5at.%以上、0.55at.%以上又は0.6at.%以上であってよい。
【0032】
第2元素として、Inを含有する場合、ワイヤ中のInの濃度は、Pd、Pt及びGaの濃度との関連で上記総計濃度の好適値を満たす限り特に限定されないが、例えば、0.03at.%(300at.ppm)以上、0.035at.%以上、0.04at.%以上、0.045at.%以上又は0.05at.%以上であってよい。
【0033】
第2元素として、Gaを含有する場合、ワイヤ中のGaの濃度は、Pd、Pt及びInの濃度との関連で上記総計濃度の好適値を満たす限り特に限定されないが、例えば、0.3at.%以上、0.35at.%以上、0.4at.%以上、0.45at.%以上又は0.5at.%以上であってよい。
【0034】
本発明のワイヤは、第1元素を所定量含み、必要に応じて上記の第2元素を含むAg合金からなる。Ag合金の残部はAgを含む。本発明のワイヤにおいて、ワイヤ全体に対するAgの濃度は、本発明の効果をより享受し得る観点から、好ましくは95at.%以上、より好ましくは96at.%以上、96.5at.%以上、96.6at.%以上、96.7at.%又は96.8at.%以上である。
【0035】
本発明の効果を阻害しない範囲において、本発明のワイヤは、第1元素、第2元素及びAg以外の元素(以下、「その他の元素」ともいう。)をさらに含有してもよい。ワイヤ中のその他の元素の総計濃度は、本発明の効果を阻害しない範囲において特に限定されない。該その他の元素の総計濃度は、例えば、0.5at.%以下であってよい。したがって、第1元素の総計濃度をx[at.%]、第2元素の総計濃度をx[at.%]、Agの濃度をxAg[at.%]としたとき、下記式(1)で求められる、その他の元素の総計濃度は0.5at.%以下であってよい。
式(1):100-(x+x+xAg)[at.%]
【0036】
第1元素、第2元素及びAg以外の元素、すなわち上記その他の元素の総計濃度は、より低くてもよく、例えば、0.4at.%以下、0.3at.%以下、0.2at.%以下、0.15at.%以下、0.1at.%以下、0.08at.%以下、0.06at.%以下、0.05at.%以下、0.04at.%以下、0.02at.%以下、0.011at.%未満又は0.01at.%以下であってもよい。その他の元素の総計濃度の下限は特に限定されず、0at.%であってもよい。
【0037】
例えば、その他の元素として、Caや希土類元素を含有する場合、ワイヤ中のCaと希土類元素の総計濃度は20at.ppm未満であってよい。ワイヤ中のCaと希土類元素の総計濃度はより低くてよく、例えば、18at.ppm以下、16at.ppm以下、15at.ppm以下、14at.ppm以下、12at.ppm以下、10at.ppm以下、8at.ppm以下、6at.ppm以下又は5at.ppm以下であってよい。該総計濃度の下限は特に限定されず、0at.ppmであってよい。
【0038】
好適な一実施形態において、本発明のワイヤは、第1元素と第2元素を組み合わせて含み、残部がAg及び不可避不純物からなるAg合金からなる。
【0039】
本発明のワイヤに含まれる第1元素、第2元素やその他の元素といった元素の濃度は、該ワイヤを強酸で溶解した液をICP発光分光分析装置、ICP質量分析装置を利用して分析し、ワイヤ全体に含まれる元素の濃度として検出することができる。本発明において示す各元素の濃度は、ICP発光分光分析又はICP質量分析により測定した濃度に基づく。
【0040】
本発明のワイヤは、好ましくは、Ag以外の金属を主成分とする被覆を有していない。したがって好適な一実施形態において、本発明のワイヤは、Ag以外の金属を主成分とする被覆を有していない。ここで、「Ag以外の金属を主成分とする被覆」とは、Ag以外の金属の含有量が50at.%以上である被覆をいう。
【0041】
本発明のワイヤの直径は、特に限定されず具体的な目的に応じて適宜決定してよいが、好ましくは15μm以上、18μm以上又は20μm以上などとし得る。該直径の上限は、特に限定されず、例えば100μm以下、90μm以下又は80μm以下などとし得る。
【0042】
<ワイヤの製造方法>
本発明の半導体装置用Ag合金ボンディングワイヤの製造方法の一例について説明する。
【0043】
純度が3N~5N(99.9~99.999質量%)である原料Agを用意する。そして第1元素の濃度(含有する場合、第2元素及びその他の元素の濃度も)が上記特定範囲となるように、原料Agと、第1元素、第2元素及びその他の元素の原料とを出発原料として秤量した後、これを溶融混合することでAg合金を得る。あるいは、第1元素、第2元素、その他の元素の原料としては、それら元素を含む母合金を用いてもよい。このAg合金を連続鋳造により大径に加工し、次いで伸線加工により最終線径まで細線化する。
【0044】
伸線加工は、ダイヤモンドコーティングされたダイスを複数個セットできる連続伸線装置を用いて実施することができる。必要に応じて、伸線加工に先立ち酸洗処理を行ってもよく、また、伸線加工の途中段階で熱処理を施してもよい。
【0045】
伸線加工の後、最終熱処理を行う。最終熱処理の温度条件としては、例えば、送線速度一定で炉内温度のみを変更して熱処理したワイヤの破断伸びを確認し、該破断伸びが所定範囲となるように熱処理温度を決定すればよい。熱処理温度は、例えば、200~700℃の範囲としてよい。熱処理時間は、例えば、10秒間以下(好ましくは5秒間以下、4秒間以下又は3秒間以下)に設定することが好適である。熱処理の雰囲気としては、窒素ガス、アルゴンガス等の不活性ガスや、フォーミングガス(5%H-N)等の水素含有不活性ガスを用いてよい。
【0046】
本発明のワイヤは、半導体装置の製造において、半導体素子上の第1電極と、リードフレーム又は回路基板上の第2電極とを接続するために用いることができる。半導体素子上の第1電極との第1接続(1st接合)はボール接合とし得、リードフレームや回路基板上の電極との第2接続(2nd接合)はウェッジ接合とし得る。ボール接合では、ワイヤ先端をアーク入熱で加熱溶融し、表面張力によりボール(FAB)を形成した後に、加熱した半導体素子の電極上にこのボール部を超音波、圧力を加えることにより接合する。ウェッジ接合では、ボールを形成せずに、ワイヤ部を熱、超音波、圧力を加えることにより電極上に圧着接合する。第1元素を所定量含有するAg合金からなる本発明のワイヤは、ボール接合においてボール変形の異方性を低減し、真円に近い圧着形状を実現できる。これにより、小ボール接合時であっても、隣接するボール同士の接触にともなう短絡を防止しつつ、接合に寄与する面積を最大限に確保できる。さらに第2元素を所定量含有する場合、本発明のワイヤは、第1元素を所定量含むことにより奏される斯かる効果と第2元素を含むことによる接合信頼性の向上効果とが相乗的に発現することにより、高密度実装において要求される接合信頼性を顕著に向上させることができる。したがって、本発明のワイヤは、半導体装置用として好適に使用することができ、高密度実装の半導体装置用として好適に使用することができる。
【0047】
[半導体装置の製造方法]
本発明の半導体装置用Ag合金ボンディングワイヤを用いて、半導体素子上の電極と、リードフレームや回路基板上の電極とを接続することによって、半導体装置を製造することができる。
【0048】
一実施形態において、本発明の半導体装置の製造方法(以下、単に「本発明の方法」ともいう。)は、半導体素子上の第1電極と、リードフレーム又は回路基板上の第2電極とを、本発明のワイヤにより接続する工程を含む。第1電極と本発明のワイヤとの第1接続をボール接合により、また、第2電極と本発明のワイヤとの第2接続をウェッジ接合により実施することができる。
【0049】
第1元素を所定量含有するAg合金からなる本発明のワイヤを用いることにより、ボール接合においてボール変形の異方性を低減し、真円に近い圧着形状を実現できる。これにより、小ボール接合時であっても、隣接するボール同士の接触にともなう短絡を防止しつつ、接合に寄与する面積を最大限に確保できる。本発明のワイヤは、50μm以下の狭ピッチ接続にも十分に適応でき、高密度実装用途におけるAgワイヤの適用促進に著しく寄与するものである。
【0050】
[半導体装置]
本発明の半導体装置用Ag合金ボンディングワイヤを用いて、半導体素子上の電極と、リードフレームや回路基板上の電極とを接続することによって、半導体装置を製造することができる。
【0051】
一実施形態において、本発明の半導体装置は、回路基板、半導体素子、及び回路基板と半導体素子とを導通させるためのボンディングワイヤを含み、該ボンディングワイヤが本発明のワイヤであることを特徴とする。
【0052】
本発明の半導体装置において、回路基板及び半導体素子は特に限定されず、半導体装置を構成するために使用し得る公知の回路基板及び半導体素子を用いてよい。あるいはまた、回路基板に代えてリードフレームを用いてもよい。例えば、特開2020-150116号公報や特開2002-246542号公報に記載される半導体装置のように、リードフレームと、該リードフレームに実装された半導体素子とを含む半導体装置の構成としてよい。
【0053】
半導体装置としては、電気製品(例えば、コンピューター、携帯電話、デジタルカメラ、テレビ、エアコン、太陽光発電システム等)及び乗物(例えば、自動二輪車、自動車、電車、船舶及び航空機等)等に供される各種半導体装置が挙げられ、中でも、小ボール接合時のボール接合部の圧着形状を厳しく制御することが要求される高密度実装の半導体装置が好適である。
【実施例
【0054】
以下、本発明について、実施例を示して具体的に説明する。ただし、本発明は、以下に示す実施例に限定されるものではない。
【0055】
(サンプル)
原材料となるAgは純度が99.9at.%以上で、残部が不可避不純物から構成されるものを用いた。第1元素(Te、Bi及びSb)、第2元素(Pd、Pt、In及びGa)は、純度が99.9at.%以上で残部が不可避不純物から構成されるものを用いた。
【0056】
ボンディングワイヤに用いるAg合金は、円柱型に加工したカーボンるつぼに原料を装填し、高周波炉を用いて、真空中もしくはN、Arガス等の不活性雰囲気で1080~1600℃まで加熱して溶解させた後、連続鋳造にてφ4~6mmのワイヤを製造した。
【0057】
得られたAg合金に対して、ダイスを用いて伸線加工等を行うことによって、φ300~600μmのワイヤを作製した。その後、200~700℃の中間熱処理と伸線加工を繰返し行うことによって最終線径のφ20μmまで加工した。伸線には市販の潤滑液を用い、伸線時のワイヤ送り速度は20~600m/分とした。中間熱処理はワイヤを連続的に掃引しながら、Arガス雰囲気中で行った。中間熱処理時のワイヤの送り速度は20~100m/分とした。
【0058】
伸線加工後のワイヤは最終的に破断伸びが約9~25%になるよう最終熱処理を実施した。最終熱処理は中間熱処理と同様の方法で行った。最終熱処理時のワイヤの送り速度は中間熱処理と同様に20~100m/分とした。最終熱処理温度は200~700℃で熱処理時間は0.2~1.0秒とした。
【0059】
ボンディングワイヤ中の第1元素、第2元素の濃度は、ボンディングワイヤを強酸で溶解した液をICP発光分光分析装置、ICP質量分析装置を利用して分析し、ボンディングワイヤ全体に含まれる元素の濃度として検出した。
【0060】
(試験・評価方法)
以下、試験・評価方法について説明する。
【0061】
[圧着形状]
ボール接合部の圧着形状(ボールのつぶれ形状)の評価は、Si基板に厚さ1.0μmのAl膜を成膜した電極に、市販のワイヤボンダー(K&S製 Iconn Plus)を用いてボール接合を行い、直上から光学顕微鏡で観察した(評価数N=100)。なお、ボールはN+5%Hガスを流量0.4~0.6L/minで流しながら形成し、ボール径はワイヤ線径に対して1.5~1.6倍の範囲とした。ボールのつぶれ形状の判定は、つぶれ形状が真円に近い場合に良好と判定し、楕円形や花弁状の形状であれば不良と判定した。そして、以下の基準に従って、評価した。
【0062】
評価基準:
◎:不良なし
○:不良1~4箇所(実用上問題なし)
×:不良5箇所以上
【0063】
[FAB形状]
FAB形状の評価は、リードフレームに、市販のワイヤボンダーを用いてFABを作製し、走査型電子顕微鏡(SEM)で観察した(評価数N=100)。なお、FABはN+5%Hガスを流量0.4~0.6L/minで流しながら形成し、その径はワイヤ線径に対して1.5~1.6倍の範囲とした。FAB形状の判定は、真球状のものを良好と判定し、偏芯、異形があれば不良と判定した。そして、以下の基準に従って、評価した。
【0064】
評価基準:
◎:不良5箇所以下
○:不良6~10箇所(実用上問題なし)
×:不良11箇所以上
【0065】
[接合信頼性の評価]
接合信頼性評価用のサンプルは、一般的な金属フレーム上のSi基板に厚さ1.0μmのAl膜を成膜した電極に、市販のワイヤボンダーを用いてボール接合を行い、市販のエポキシ樹脂によって封止して作製した。なお、ボールはN+5%Hガスを流量0.4~0.6L/minで流しながら形成し、ボール径はワイヤ線径に対して1.5~1.6倍の範囲とした。
【0066】
接合信頼性は、高温高湿試験(bHAST)により評価した。詳細には、作製した接合信頼性評価用のサンプルを、不飽和型プレッシャークッカー試験機を使用し、温度130℃、相対湿度85%の高温高湿環境に暴露し、5Vのバイアスをかけた。ボール接合部の接合寿命は、48時間毎にボール接合部のシェア試験を実施し、シェア強度の値が初期に得られたシェア強度の1/2となる時間とした。シェア試験は、酸処理によって樹脂を除去して、ボール接合部を露出させてから行った。
【0067】
HAST評価のシェア試験機はDAGE社製の試験機を用いた。シェア強度の値は無作為に選択したボール接合部の10箇所の測定値の平均値を用いた。そして、以下の基準に従って、評価した。
【0068】
評価基準:
◎◎:接合寿命288時間以上
◎ :接合寿命144時間以上288時間未満
○ :接合寿命96時間以上144時間未満
× :接合寿命96時間未満
【0069】
[チップダメージ]
チップダメージの評価は、Si基板に厚さ1.0μmのAl膜を成膜した電極に、市販のワイヤボンダーを用いてボール接合を行い、ワイヤ及びAl電極を薬液にて溶解しSi基板を露出し、ボール接合部直下のSi基板を光学顕微鏡で観察することにより行った(評価数N=50)。そして、以下の基準に従って、評価した。
【0070】
評価基準:
○:クラック及びボンディングの痕跡なし
△:クラックは無いもののボンディングの痕跡が確認される箇所あり(3箇所以下)
×:それ以外
【0071】
[試験例1]第1元素の添加効果の検討
第1元素の添加の有無・添加量を変更した実施例及び比較例の評価結果を表1に示す。
【0072】
【表1】
【0073】
実施例1~9のAg合金ボンディングワイヤは、第1元素の濃度が本発明範囲内にあり、ボールの圧着形状に優れることが確認された。
他方、比較例1~10のAg合金ボンディングワイヤは、第1元素の濃度が本発明範囲の下限あるいは上限を外れ、ボールの圧着形状が不良であった。
【0074】
[試験例2]第2元素の添加効果の検討
第1元素の添加量と共に、第2元素の添加の有無・添加量を変更した実施例・比較例の評価結果を表2、表3に示す。
【0075】
【表2】
【0076】
【表3】
【0077】
実施例10~60、65~67のAg合金ボンディングワイヤは、第1元素の濃度が本発明範囲内にあると共に、第2元素の濃度が本発明の好適範囲内にあり、ボールの圧着形状と接合信頼性の双方に優れることが確認された。実施例61~64のAg合金ボンディングワイヤもボールの圧着形状と接合信頼性の双方に優れるものの、第2元素の濃度が本発明の好適範囲の上限を外れ、他の実施例に比しチップダメージの結果がやや劣る傾向にあった。
他方、比較例1~14のAg合金ボンディングワイヤは、第1元素の濃度が本発明範囲を外れ、ボールの圧着形状が不良であることに加え、第2元素を含まない比較例1~6、11~14のワイヤは、接合信頼性も不良であった。