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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-05
(45)【発行日】2025-02-14
(54)【発明の名称】抗菌剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 36/185 20060101AFI20250206BHJP
   A61P 31/04 20060101ALI20250206BHJP
   A61P 31/00 20060101ALN20250206BHJP
   A61P 11/00 20060101ALN20250206BHJP
   A61P 29/00 20060101ALN20250206BHJP
   A61P 1/02 20060101ALN20250206BHJP
   A61P 17/00 20060101ALN20250206BHJP
【FI】
A61K36/185
A61P31/04
A61P31/00
A61P11/00
A61P29/00
A61P1/02
A61P17/00
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020079552
(22)【出願日】2020-04-28
(65)【公開番号】P2021172627
(43)【公開日】2021-11-01
【審査請求日】2022-12-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000186588
【氏名又は名称】小林製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100124431
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 順也
(74)【代理人】
【識別番号】100174160
【弁理士】
【氏名又は名称】水谷 馨也
(74)【代理人】
【識別番号】100175651
【弁理士】
【氏名又は名称】迫田 恭子
(72)【発明者】
【氏名】赤木 淳二
(72)【発明者】
【氏名】大森 公貴
【審査官】川合 理恵
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-047106(JP,A)
【文献】特表2010-538998(JP,A)
【文献】特表2000-516243(JP,A)
【文献】チクナインa(R)添付文書,日本,小林製薬株式会社,2018年,2018年2月改訂版,https://www.kobayashi.co.jp/seihin/tkn/pdf/tkn.pdf,「効能・効果」「成分・分量」
【文献】荊芥連翹湯エキス錠Fクラシエ添付文書,日本,クラシエ薬品株式会社,2018年,2018年2月改訂版,https://www.kracie.co.jp/products/pdf/4987045109362.pdf
【文献】「クラシエ」漢方葛根湯加川きゅう辛夷エキス錠添付文書,日本,クラシエ薬品株式会社,2014年,2014年12月改訂版,https://www.kracie.co.jp/products/pdf/4987045049040.pdf
【文献】「クラシエ」漢方小青竜湯エキス錠添付文書,日本,クラシエ薬品株式会社,2011年,2011年11月改訂版,https://www.kracie.co.jp/products/pdf/4987045108297.pdf
【文献】James Liao et al.,Effects of Japanese traditional herbal medicines (Kampo) on growth and virulence properties of Porphyromonas gingivalis and viability of oral epithelial cells,PHARMACEUTICAL BIOLOGY,2013年,Vol.51, No.12,Pages 1538-1544
【文献】Masaaki Minami et al.,Effect of shin'iseihaito on lung colonization of pneumococcus in murine model,African Journal of Traditional, Complementary and Alternative Medicines,2015年,Vol.12, No.6,Pages 131-139
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 36/00
A61P 31/04
A61P 31/00
A61P 1/02
A61P 11/00
A61P 17/00
A61P 29/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
辛夷清肺湯のエキスを含有し、
成人に対し、前記エキスの原生薬換算量での用量が8.4g/日以上21g/日以下で、1日に3回に分けて服用され
ミュータンス菌、フゾバクテリウム菌、ソブリヌス菌、アクネ菌、及びインフルエンザ菌からなる群より選択される細菌を標的とし、且つ、黄色ブドウ球菌を標的としない用途で用いられる、抗菌剤。
【請求項2】
荊芥連翹湯、葛根湯加川きゅう辛夷、及び小青竜湯からなる群より選択される漢方のエキスを含有し、
成人に対し、前記エキスの原生薬換算量での用量が荊芥連翹湯で14.2g/日以上21.38g/日以下、葛根湯加川きゅう辛夷で12g/日以上18g/日以下、小青竜湯で8.1g/日以上20.3g/日以下で、1日に3回に分けて服用され
肺炎球菌を標的とし、且つ、黄色ブドウ球菌を標的としない用途で用いられる、抗菌剤。
【請求項3】
黄色ブドウ球菌に対する抗菌性を有する抗菌薬を過去1年以内に服用した経験のある対象に適用される、請求項1又は2に記載の抗菌剤。
【請求項4】
ミュータンス菌、フゾバクテリウム菌、ソブリヌス菌、アクネ菌、及びインフルエンザ菌からなる群より選択される細菌を原因菌とする上気道感染症及びそれによる炎症に対して用いるための、請求項1に記載の抗菌剤。
【請求項5】
ミュータンス菌、フゾバクテリウム菌、ソブリヌス菌、アクネ菌、及びインフルエンザ菌からなる群より選択される細菌を原因菌とする、口腔感染症、皮膚感染症、及び下気道感染症、並びにそれらによる炎症の少なくともいずれかに対して用いるための、請求項1に記載の抗菌剤。
【請求項6】
肺炎球菌を原因菌とする上気道感染症及びそれによる炎症に対して用いるための、請求項2に記載の抗菌剤。
【請求項7】
肺炎球菌を原因菌とする、口腔感染症、皮膚感染症、及び下気道感染症、並びにそれらによる炎症の少なくともいずれかに対して用いるための、請求項2に記載の抗菌剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、常在状態の黄色ブドウ球菌に対する抗菌性を示さず、標的の菌に対する選択的抗菌性を示す抗菌剤に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒトの身体には常在菌と呼ばれる共生微生物が集団(菌叢)を形成しており、外部からの病原菌の進入を防ぐ防御機能を発揮している。一方、病気や精神的ストレス等によって身体の抵抗力が低下すると、適正な菌叢バランスが崩れることで、一部の常在菌の過剰増殖や、他の病原菌の進入及び増殖を招来し、その結果、様々な感染症症状が発生する。
【0003】
菌由来の感染症に対する処置としては、菌の増殖抑制、静菌、又は殺菌の作用を有する抗菌薬を用いた治療が一般的である。例えば、ペニシリン系に代表される抗細菌薬、カビなどに対する抗真菌薬等の様々な抗菌薬が用いられている。
【0004】
ここで、ヒトの皮膚や鼻腔等において高頻度に検出される常在菌として、グラム陽性球菌である黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)が知られている。黄色ブドウ球菌も他の常在菌同様に、異常増殖に伴って炎症を引き起こすことがあるが、標準的な成人であれば、通常は軽度の化膿性症状や食中毒症状で治まり、重篤な感染症を起こす頻度は低い。
【0005】
一方、高齢者、入院患者、疾病罹患者等の抵抗力や体力の低い人においては、黄色ブドウ球菌の異常増殖による発熱、下痢などの症状とともに炎症が重篤化しやすく、肺炎、敗血症、感染性心内膜炎、骨髄炎、腹膜炎、髄膜炎等の重症感染症を引き起こすことが知られている。そのような場合、黄色ブドウ球菌に対する適切な抗菌薬を使用することで更なる重症化の防止又は治療が行われる。
【0006】
ここで、黄色ブドウ球菌は抗菌薬に対して耐性を獲得しやすい特性を有する。このため、感染症に対して抗菌薬を投与することで症状を改善できたとしても、黄色ブドウ球菌が当該抗菌薬による難生育環境に晒されたことを奇貨として耐性を獲得することがある。黄色ブドウ球菌がこのような抗菌薬耐性を一旦獲得すると、その異常増殖による感染症がその後に起こった場合に、抗菌薬が効かなくなり治療を困難にする。
【0007】
抗菌薬耐性を獲得した黄色ブドウ球菌の代表例がメシチリン耐性黄色ブドウ球菌である。この耐性菌は、メシチリンに対する耐性をもった黄色ブドウ球菌として発見されたものであるが、実際はメシチリンに限らず多くの抗菌薬に耐性を獲得していることが分かっている。メシチリン耐性黄色ブドウ球菌は抗菌薬が頻用される病院において出現しやすく、集団感染を引き起こす原因菌となることが知られている。
【0008】
他方、いくつかの生薬及び漢方薬について、抗菌性を発揮するものが報告されている。例えば、辛夷清肺湯については、グラム陽性菌である肺炎球菌に対する増殖抑制効果があること(非特許文献1)が報告されている。このほかにも、辛夷清肺湯には黄色ブドウ球菌及びメチシリン耐性黄色ブドウ球菌に対する強い生育阻害効果も確認され、これらの菌に対する感染症の治療薬としての有用性が報告されている(非特許文献2、3)。また、小青竜湯についても黄色ブドウ球菌に対する抗菌作用が報告されている(非特許文献4)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0009】
【文献】Pharmacogenet. J., 8, 20-23(2016).
【文献】Traditional & Kampo Medicine, 4(2), 111-115(2017).
【文献】第33回和漢医薬学会学術大会予稿集、61頁
【文献】日気食会報, 48(5), 401-407(1997)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
黄色ブドウ球菌の抗菌剤耐性化を有効に抑制するためには、抗菌剤の使用下であっても、黄色ブドウ球菌を、抗菌耐性を獲得させるような難生育環境に晒さないことが肝要である。つまり、標的の菌に対しては必要な抗菌作用を発揮しながら、同時に、常在状態の黄色ブドウ球菌に対しては抗菌剤耐性を獲得させないよう抗菌作用を発揮させないこと、要すれば選択的抗菌が肝要である。
【0011】
この点、辛夷清肺湯に関しては、肺炎球菌に対する抗菌性を有することから肺炎球菌を標的とする抗菌剤としての有用性はあるが、黄色ブドウ球菌に対する強い抗菌性も併せ持っていることに鑑みると、選択的抗菌という目的の下で使用できるものではなかった。
【0012】
そこで、本発明は、常在状態の黄色ブドウ球菌に対する抗菌性を示さず、標的の菌に対する選択的抗菌性を示す抗菌剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者は、鋭意検討の結果、辛夷清肺湯を含む特定の漢方エキスを所定の低用量で用いることで、標的の細菌に対する必要な抗菌性を発揮しながら、同時に、黄色ブドウ球菌に対する抗菌性を示さない選択的抗菌が可能となることを見出した。本発明は、かかる知見に基づいて、更に検討を重ねることにより完成したものである。
【0014】
即ち、本発明は、下記に掲げる態様の発明を提供する。
項1. 辛夷清肺湯、荊芥連翹湯、葛根湯加川きゅう辛夷、及び小青竜湯からなる群より選択される漢方のエキスを含有し、
前記エキスの原生薬換算量での用量が、辛夷清肺湯で21g/日以下、荊芥連翹湯で21.38g/日以下、葛根湯加川きゅう辛夷で18g/日以下、小青竜湯で20.3g/日以下であり、且つ、
常在状態の黄色ブドウ球菌を標的としない、抗菌剤。
項2. 黄色ブドウ球菌に対する抗菌性を有する抗菌薬を過去1年以内に服用した経験のある対象に適用される、項1に記載の抗菌剤。
項3. 上気道感染症及びそれによる炎症に対して用いられる、項1又は2に記載の抗菌剤。
項4. 口腔感染症、皮膚感染症、及び下気道感染症、並びにそれらによる炎症に対して用いられる、項1又は2に記載の抗菌剤。
項5. ミュータンス菌、ジンジバリス菌、フゾバクテリウム菌、ソブリヌス菌、及びアクネ菌からなる群より選択される細菌を標的とする、項1~4のいずれかに記載の抗菌剤。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、常在状態の黄色ブドウ球菌に対する抗菌性を示さず、標的の菌に対する選択的抗菌性を示す抗菌剤が提供される。このため、黄色ブドウ球菌の抗菌剤耐性の獲得を抑制することが期待できる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の抗菌剤は、辛夷清肺湯、荊芥連翹湯、葛根湯加川きゅう辛夷、及び小青竜湯からなる群より選択される漢方のエキスを含有し、所定の用量で用いられ、且つ黄色ブドウ球菌を標的としないことを特徴とする。
【0017】
有効成分
辛夷清肺湯としては、「新 一般用漢方処方の手引き」(合田 幸広・袴塚 高志監修、日本漢方生薬製剤協会編集、株式会社じほう発行)又は「一般用漢方製剤製造販売承認基準(別添)」(厚生労働省医薬・生活衛生局、平成29年4月1日)に記載されている漢方処方が好ましく、シンイ、チモ、ビャクゴウ、オウゴン、サンシシ、バクモンドウ、セッコウ、ショウマ、及びビワヨウからなる混合生薬が挙げられる。
【0018】
辛夷清肺湯を構成する混合生薬のより具体的な例として、シンイ、チモ、ビャクゴウ、オウゴン、サンシシ、バクモンドウ、セッコウ、ショウマ、及びビワヨウの重量混合比が、例えば、シンイ2.0~3.0重量部、チモ3.0重量部、ビャクゴウ3.0重量部、オウゴン3.0重量部、サンシシ1.5~3.0重量部、バクモンドウ5.0~6.0重量部、セッコウ5.0~6.0重量部、ショウマ1.0~1.5重量部、ビワヨウ1.0~3.0重量部であるものが挙げられ、好ましくは、シンイ3.0重量部、チモ3.0重量部、ビャクゴウ3.0重量部、オウゴン3.0重量部、サンシシ1.5重量部、バクモンドウ6.0重量部、セッコウ6.0重量部、ショウマ1.5重量部、ビワヨウ1.0重量部であるものが挙げられる。
【0019】
荊芥連翹湯としては、「新 一般用漢方処方の手引き」(合田 幸広・袴塚 高志監修、日本漢方生薬製剤協会編集、株式会社じほう発行)又は「一般用漢方製剤製造販売承認基準(別添)」(厚生労働省医薬・生活衛生局、平成29年4月1日)に記載されている漢方処方が好ましく、トウキ、シャクヤク、センキュウ、ジオウ、オウレン、オウゴン、オウバク、サンシシ、レンギョウ、ケイガイ、ボウフウ、ハッカ、キジツ、カンゾウ、サイコ、ビャクシ、及びキキョウからなる混合生薬が挙げられる。書簡によっては、ジオウ、オウレン、オウバク、及び/又はハッカのないものもある。
【0020】
荊芥連翹湯を構成する混合生薬のより具体的な例として、トウキ、シャクヤク、センキュウ、ジオウ、オウレン、オウゴン、オウバク、サンシシ、レンギョウ、ケイガイ、ボウフウ、ハッカ、キジツ、カンゾウ、サイコ、ビャクシ、及びキキョウの重量比が、トウキ1.5重量部、シャクヤク1.5重量部、センキュウ1.5重量部、ジオウ1.5重量部、オウレン1.5重量部、オウゴン1.5重量部、オウバク1.5重量部、サンシシ1.5重量部、レンギョウ1.5重量部、ケイガイ1.5重量部、ボウフウ1.5重量部、ハッカ1.5重量部、キジツ1.5重量部、カンゾウ1.0~1.5重量部、サイコ1.5~2.5重量部、ビャクシ1.5~2.5重量部、キキョウ1.5~2.5重量部であるものが挙げられ、好ましくは、トウキ1.5重量部、シャクヤク1.5重量部、センキュウ1.5重量部、ジオウ1.5重量部、オウレン1.5重量部、オウゴン1.5重量部、オウバク1.5重量部、サンシシ1.5重量部、レンギョウ1.5重量部、ケイガイ1.5重量部、ボウフウ1.5重量部、ハッカ1.5重量部、キジツ1.5重量部、カンゾウ1.5重量部、サイコ2.5重量部、ビャクシ2.5重量部、キキョウ2.5重量部であるものが挙げられる。
【0021】
葛根湯加川きゅう辛夷としては、「新 一般用漢方処方の手引き」(合田 幸広・袴塚 高志監修、日本漢方生薬製剤協会編集、株式会社じほう発行)又は「一般用漢方製剤製造販売承認基準(別添)」(厚生労働省医薬・生活衛生局、平成29年4月1日)に記載されている漢方処方が好ましく、カッコン、マオウ、タイソウ、ケイヒ、シャクヤク、カンゾウ、ショウキョウ、センキュウ、及びシンイからなる混合生薬が挙げられる。
【0022】
葛根湯加川きゅう辛夷を構成する混合生薬のより具体的な例として、カッコン、マオウ、タイソウ、ケイヒ、シャクヤク、カンゾウ、ショウキョウ、センキュウ、及びシンイの重量比が、カッコン4.0~8.0重量部、マオウ3.0~4.0重量部、タイソウ3.0~4.0重量部、ケイヒ2.0~3.0重量部、シャクヤク2.0~3.0重量部、カンゾウ2.0重量部、ショウキョウ1.0~1.5重量部、センキュウ2.0~3.0重量部、シンイ2.0~3.0重量部であるものが挙げられ、好ましくは、カッコン4.0重量部、マオウ4.0重量部、タイソウ3.0重量部、ケイヒ2.0重量部、シャクヤク2.0重量部、カンゾウ2.0重量部、ショウキョウ1.0重量部、センキュウ3.0重量部、シンイ3.0重量部であるものが挙げられる。
【0023】
小青竜湯としては、「新 一般用漢方処方の手引き」(合田 幸広・袴塚 高志監修、日本漢方生薬製剤協会編集、株式会社じほう発行)又は「一般用漢方製剤製造販売承認基準(別添)」(厚生労働省医薬・生活衛生局、平成29年4月1日)に記載されている漢方処方が好ましく、マオウ、シャクヤク、カンキョウ、カンゾウ、ケイヒ、サイシン、ゴミシ、及びハンゲからなる混合生薬が挙げられる。
【0024】
小青竜湯を構成する混合生薬のより具体的な例として、マオウ2.0~3.5重量部、シャクヤク2.0~3.5重量部、カンキョウ2.0~3.5重量部、カンゾウ2.0~3.5重量部、ケイヒ2.0~3.5重量部、サイシン2.0~3.5重量部、ゴミシ1.0~3.0重量部、ハンゲ3.0~8.0重量部であるものが挙げられ、好ましくは、マオウ3.0重量部、シャクヤク3.0重量部、カンキョウ3.0重量部、カンゾウ3.0重量部、ケイヒ3.0重量部、サイシン3.0重量部、ゴミシ3.0重量部、ハンゲ6.0重量部であるものが挙げられる。
【0025】
辛夷清肺湯のエキス、荊芥連翹湯のエキス、葛根湯加川きゅう辛夷のエキス、及び小青竜湯のエキスは、それぞれ上記の混合生薬を抽出処理し、得られた抽出液を必要に応じて濃縮することでエキス液として得てもよいし、エキス液を乾燥処理することでエキス末として得てもよい。
【0026】
辛夷清肺湯のエキス、荊芥連翹湯のエキス、葛根湯加川きゅう辛夷のエキス、及び小青竜湯のエキスの製造において、抽出処理に使用される抽出溶媒としては、特に限定されないものの、一例として水又は含水エタノール、好ましくは水が挙げられる。また、乾燥処理としても、特に限定されず、公知の方法、例えば、スプレードライ法、エキス液の濃度を高めた軟エキスに対して適当な吸着剤(例えば無水ケイ酸、デンプン等)を加えて吸着末とする方法等が挙げられる。
【0027】
本発明において用いられる辛夷清肺湯のエキス、荊芥連翹湯のエキス、葛根湯加川きゅう辛夷のエキス、及び小青竜湯のエキスとしては、前述の方法で調製したエキスを使用してもよいし、市販されるものを使用してもよい。
【0028】
本発明の抗菌剤において、上記の漢方エキスは、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0029】
本発明の抗菌剤において、辛夷清肺湯、荊芥連翹湯、葛根湯加川きゅう辛夷、及び小青竜湯からなる群より選択される漢方のエキスの含有量としては、本発明の効果を奏する限り特に限定されないが、乾燥エキス量換算で、例えば1~100重量%が挙げられる。乾燥エキス量換算とは、乾燥エキス(エキス末)を使用する場合にはそれ自体の量でありエキス液や軟エキスを使用する場合には、溶媒を除去した残量に換算した量である。また、乾燥エキス末が、製造時に添加される吸着剤等の添加剤を含む場合は、当該添加剤を除いた量である。
【0030】
他の含有成分
本発明の抗菌剤は、前述の漢方の他に、必要に応じて、他の薬理成分を含んでいてもよい。このような薬理成分の種類については、特に限定されないが、例えば、制酸剤、健胃剤、消化剤、整腸剤、鎮痙剤、粘膜修復剤、抗炎症剤、収れん剤、鎮吐剤、鎮咳剤、去痰剤、消炎酵素剤、鎮静催眠剤、抗ヒスタミン剤、カフェイン類、強心利尿剤、抗菌剤(上記有効成分以外)、血管収縮剤、血管拡張剤、局所麻酔剤、生薬、生薬エキス(上記有効成分以外)、ビタミン類、メントール類等が挙げられる。これらの薬理成分は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。また、これらの薬理成分の含有量については、使用する薬理成分の種類等に応じて公知のものから適宜設定すればよい。
【0031】
本発明の抗菌剤には、所望の剤型に調製するために、必要に応じて、薬学的に許容される基剤や添加剤等が含まれていてもよい。このような基剤及び添加剤としては、例えば、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、等張化剤、可塑剤、分散剤、乳化剤、溶解補助剤、湿潤化剤、安定化剤、懸濁化剤、粘着剤、コーティング剤、光沢化剤、水、油脂類、ロウ類、炭化水素類、脂肪酸類、高級アルコール類、エステル類、水溶性高分子、界面活性剤、金属石鹸、低級アルコール類、多価アルコール、pH調整剤、緩衝剤、酸化防止剤、紫外線防止剤、防腐剤、矯味剤、香料、粉体、増粘剤、色素、キレート剤等が挙げられる。これらの基剤や添加剤は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。また、これらの基剤や添加剤の含有量については、使用する添加成分の種類や剤型等に応じて公知のものから適宜設定すればよい。
【0032】
剤型
本発明の抗菌剤の剤型については、特に制限されず、錠剤、顆粒剤、散剤、丸剤、カプセル剤、フィルム剤、液剤(ドリンク剤、洗口液)等のいずれであってもよい。これらの剤型の中でも、内用の場合、服用簡易性等の観点から、好ましくは錠剤、顆粒剤が挙げられ、外用の場合、適用簡易性の観点から、好ましくは洗口液が挙げられる。これらの剤型は、薬学的に許容される基材や添加剤を用いて調製することができ、当該基材や添加剤の種類や配合量についても、製剤技術の分野で公知である。
【0033】
用途
本発明の抗菌剤は、黄色ブドウ球菌及びメシチリン耐性黄色ブドウ球に対して抗菌性を示さないため、標的の細菌に対する抗菌性を発揮しながら、常在状態の黄色ブドウ球菌を標的としない、選択的抗菌の目的で用いられる。常在状態とは、常在菌が異常増殖していない状態をいい、常在状態の黄色ブドウ球菌とは、黄色ブドウ球菌感染症を発症しないほどに異常増殖していない状態の黄色ブドウ球菌をいう。好ましくは、本発明の抗菌剤は、標的の細菌に対する抗菌性を発揮しながら、常在状態の黄色ブドウ球菌及び常在状態のメシチリン耐性黄色ブドウ球菌を標的としない、選択的抗菌の目的で用いられる。
【0034】
標的の細菌としては、細菌由来の感染症及びそれによる炎症の原因菌であれば特に限定されない。細菌由来の感染症及びそれによる炎症としては、例えば、上気道感染症、口腔感染症、皮膚感染症、循環器感染症、及び/又は下気道感染症、並びに/若しくはそれらによる炎症が挙げられる。口腔感染症及びそれによる炎症としては、歯周病、歯肉炎、虫歯等が挙げられ;上気道感染症及びそれによる炎症としては、耳鼻感染症(副鼻腔炎、鼻炎、鼻前庭湿疹、中耳炎等)、扁桃炎、喉頭蓋炎、咽頭炎等が挙げられ;皮膚感染症及びそれによる炎症としては、湿疹、尋常性ざ瘡等が挙げられ;循環器感染症及びそれによる炎症としては、敗血症等が挙げられ;下気道感染症及びそれによる炎症としては、気管支炎、細菌性肺炎等が挙げられ、好ましくは、上気道感染症、口腔感染症、皮膚感染症、下気道感染症並びにそれらによる炎症が挙げられる。
【0035】
細菌としては、グラム陽性細菌及びグラム陰性細菌等が挙げられる。また、細菌の具体例としては、ミュータンス菌(Streptococcus mutans)、ジンジバリス菌(Porphyromonas gingivalis)、フゾバクテリウム菌(Fusobacterium nucleatum)、ソブリヌス菌(Streptococcus sobrinus)、肺炎球菌(Streptococcus pneumoniae)、インフルエンザ菌(Haemophilus influenzae)、アクネ菌(Propionibacterium acnes)等が挙げられる。
【0036】
本発明の抗菌剤は、上記の細菌の異常増殖状態の改善の目的で用いることができる。
【0037】
例えば、本発明の抗菌剤は、内用する場合、より具体的には、上記の細菌由来の感染症及びそれによる炎症の改善(治療又は進行抑制)の目的で用いることができる。つまり、本発明の抗菌剤は、上記の菌由来の感染症及びそれによる炎症を発症している患者に適用することができる。このように菌由来の感染症及びそれによる炎症を発症している患者は免疫が低下しすでに原因菌が異常増殖した状態にあるため、もはや免疫を高めるような対処療法程度では細菌の排除が困難であり効果的に症状を改善させることができない。本発明の抗菌剤は、原因菌に対して直接的に抗菌効果を示す抗菌剤であるため、上記の患者に対して効果的な症状の改善が見込める。
【0038】
また、本発明の抗菌剤は、外用(特に口腔内外用)する場合、より具体的には、上記の菌(特に口腔感染症の原因菌)由来の異常増殖状態の改善の目的で用いることができる。
【0039】
本発明の抗菌剤は、黄色ブドウ球菌及びメシチリン耐性黄色ブドウ球に対して抗菌性を示さないため、黄色ブドウ球菌の薬剤耐性化リスクが高い対象に対して適用される場合に特に有用である。黄色ブドウ球菌の薬剤耐性化リスクが高い対象としては、具体的には、黄色ブドウ球菌に対する抗菌性を有する抗菌薬を過去1年以内に服用した経験のある対象が挙げられる。黄色ブドウ球菌に対する抗菌性を有する抗菌薬とは、黄色ブドウ球菌を標的とする抗菌薬のみならず、黄色ブドウ球菌以外の菌を標的とし、不可避的に非標的菌である黄色ブドウ球菌にも抗菌性を発現してしまう抗菌薬も含む。このような抗菌薬としては、ペニシリン系、セフェム系、カルバペネム系、グリコペプチド系、オキサゾリジノン系、リポペプチド系、アミノグリコシド系、テトラサイクリン系、リンコマイシン系、及び/又はリファマイシン系の抗菌薬が挙げられる。
【0040】
用量・用法
本発明の抗菌剤の投与方法としては特に限定されないが、好ましくは経口投与(内用)及び口腔内投与(口腔外用)が挙げられる。
【0041】
本発明の抗菌剤の投与量は、選択的抗菌効果を発現させるため、原生薬換算量での用量として、辛夷清肺湯エキスで21g/日以下、荊芥連翹湯エキスで21.38g/日以下、葛根湯加川きゅう辛夷エキスで18g/日以下、小青竜湯エキスで20.3g/日以下である。前記原生薬換算量での用量の範囲の下限としては、抗菌性を発現する範囲内で当業者が適宜決定すればよく、例えば、辛夷清肺湯エキスで8.4g/日以上、好ましくは14g/日以上が挙げられ;荊芥連翹湯エキスで14.2g/日以上が挙げられ;葛根湯加川きゅう辛夷エキスで12g/日以上が挙げられ;小青竜湯エキスで8.1g/日以上が挙げられる。
【0042】
本発明の抗菌剤の投与量は、選択的抗菌効果を発現させるため、本発明の抗菌剤の有効成分として辛夷清肺湯エキスが用いられる場合、チモの原生薬換算量が2.25g/日以下となる量;本発明の抗菌剤の有効成分として荊芥連翹湯エキスが用いられる場合、トウキの原生薬換算量が1.13g/日以下となる量;本発明の抗菌剤の有効成分として葛根湯加川きゅう辛夷エキスが用いられる場合、カンゾウの原生薬換算量が1.5g/日以下となる量であってもよい。前記各生薬の原生薬換算量の範囲の下限としては、本発明の抗菌剤が抗菌性を発現する範囲内で当業者が適宜決定すればよく、例えば、本発明の抗菌剤の有効成分として辛夷清肺湯エキスが用いられる場合、チモの原生薬換算量が0.9g/日以上、好ましくは1.5g/日以上となる量が挙げられ;本発明の抗菌剤の有効成分として荊芥連翹湯エキスが用いられる場合、トウキの原生薬換算量が0.75g/日以上となる量が挙げられ;本発明の抗菌剤の有効成分として葛根湯加川きゅう辛夷エキスが用いられる場合、カンゾウの原生薬換算量が1g/日以上となる量が挙げられる。
【0043】
本発明の抗菌剤の投与量は、選択的抗菌効果を発現させるため、乾燥エキス量換算での用量として、辛夷清肺湯エキスで3.38g/日以下、荊芥連翹湯エキスで3.38g/日以下、葛根湯加川きゅう辛夷エキスで3g/日以下、小青竜湯エキスで3.38g/日以下であってもよい。前記乾燥エキス量換算での用量の範囲の下限としては、抗菌性を発現する範囲内で当業者が適宜決定すればよく、例えば、辛夷清肺湯エキスで1.35g/日以上、好ましくは2.25g/日以上が挙げられ;荊芥連翹湯エキスで2.25g/日以上が挙げられ;葛根湯加川きゅう辛夷エキスで2g/日以上が挙げられ;小青竜湯エキスで1.35g/日以上が挙げられる。
【0044】
上記の用量は、大人1人当たりの用量を示し、より具体的には50kg体重当たり用量を示す。
【0045】
本発明の抗菌剤の投与タイミングについては特に制限されず、起床後、食前、食後、食間、就寝前のいずれであってもよいが、内用の場合、好ましくは食前又は食間が挙げられ、外用(特に口腔外用)の場合、好ましくは起床後、食後、食間及び/又は就寝前が挙げられる。また、1日に3回に分けて投与することが好ましいが、乾燥エキス量換算での用量として、辛夷清肺湯エキスで2.5g/日以下、好ましくは2.25g/日以下、荊芥連翹湯エキスで2.25g/日以下、葛根湯加川きゅう辛夷エキスで2g/日以下、小青竜湯エキスで2.25g/日以下となる量;原生薬換算量での用量として、辛夷清肺湯エキスで14g/日以下、荊芥連翹湯エキスで14.25g/日以下、葛根湯加川きゅう辛夷エキスで12g/日以下、小青竜湯エキスで13.5g/日以下となる量;辛夷清肺湯エキスのチモの原生薬換算量が1.5g/日以下、荊芥連翹湯エキスのトウキの原生薬換算量が0.75g/日以下、葛根湯加川きゅう辛夷エキスのカンゾウの原生薬換算量が1g/日以下となる量の場合、1日2回(例えば朝夕の2回)に分けて投与しても良い。さらに、本発明による抗菌効果をより良好に得るために、5日間以上、好ましくは1週間以上、より好ましくは2週間以上連続投与することが好ましい。さらに、選択的抗菌効果をより良好に得るために、連続投与期間は、4週以下であることが好ましい。
【実施例
【0046】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0047】
[試験例1]
1.抗菌剤の調製
1-1.辛夷清肺湯エキス
表1に示す組成の生薬混合物を調製し、重量比で10倍量の水を加えて、約100℃で1時間撹拌しながら抽出を行った。その後、遠心分離にて抽出液を回収し、減圧濃縮した後に、スプレードライヤーを用いて乾燥させ、辛夷清肺湯エキス4.5g(満量処方用量に相当)を得た。この辛夷清肺湯エキスを、肺炎球菌を標的菌とする抗菌剤として用いた。
【0048】
1-2.荊芥連翹湯エキス
表1に示す組成の生薬混合物を調製し、重量比で20倍量の水を加えて、約100℃で1時間撹拌しながら抽出を行った。その後、遠心分離にて抽出液を回収し、減圧濃縮した後に、スプレードライヤーを用いて乾燥させ、荊芥連翹湯エキス4.5g(満量処方用量に相当)を得た。この荊芥連翹湯エキスを、肺炎球菌を標的菌とする抗菌剤として用いた。
【0049】
1-3.葛根湯加川きゅう辛夷エキス
表1に示す組成の生薬混合物を調製し、重量比で20倍量の水を加えて、約100℃で1時間撹拌しながら抽出を行った。その後、遠心分離にて抽出液を回収し、減圧濃縮した後に、スプレードライヤーを用いて乾燥させ、葛根湯加川きゅう辛夷エキス4.0g(満量処方用量に相当)を得た。この葛根湯加川きゅう辛夷エキスを、肺炎球菌を標的菌とする抗菌剤として用いた。
【0050】
1-4.小青竜湯エキス
表1に示す組成の生薬混合物を調製し、重量比で10倍量の水を加えて、約100℃で1時間撹拌しながら抽出を行った。その後、遠心分離にて抽出液を回収し、減圧濃縮した後に、スプレードライヤーを用いて乾燥させ、辛夷清肺湯エキス4.0g(満量処方用量に相当)を得た。この小青竜湯エキスを、肺炎球菌を標的菌とする抗菌剤として用いた。
【0051】
【表1】
【0052】
2.抗菌試験
皮膚や粘膜上での菌の増殖に対する抑制効果を評価するために、以下のようにして、寒天培地を用いた抗菌試験を行った。
【0053】
内径90mmの滅菌シャーレに、1×106~107CFU/mLの菌(黄色ブドウ球菌、メシチリン黄色ブドウ球菌、肺炎球菌)を含む菌液1mLを加え、そこに45℃に加温した普通寒天培地15gを加えて十分に混ぜ合わせた後、室温で放置し、余分な水分を蒸発させながら寒天を凝固させた。次に、表2~5の「ろ紙への添加量」に示す量のエキスを含浸させて乾燥させた直径12mmの滅菌ろ紙をシャーレ中央に置き、24~48時間培養した。
【0054】
なお、表2~5に示す「ろ紙への添加量」は、次の事項に基づいて、表2~5に示す「用量」の服用による皮膚や粘膜組織へのエキスの暴露量として導出した。つまり、表2~5に示す「ろ紙への添加量」により確認される抗菌効果は、表2~5に示す「用量」を服用した場合に体内で発現する抗菌効果を示している。
【0055】
例えば、辛夷清肺湯エキスの満量処方による用量(乾燥エキス換算量)は4.5g/日であり、通常1日3回に分割して投与される。一方、ヒトの血液量は体重の13分の1であり、50kgの成人で約4Lである。つまり、辛夷清肺湯エキスが1日3回に分割されて投与されたときの1回服用時のエキスの血中濃度は約0.38mg/mL(=1.5g/4L)である。ここで、鼻粘膜組織1gあたりの血流量は約1.2mL/min(耳鼻と臨床、37巻、p.1180~1186、1991年)であるため、組織15gあたりの血流量は約18mL/minである。皮膚や粘膜組織間の血流量に大きな差はないことから、満量処方の辛夷清肺湯エキスの1回量服用時には、組織15gあたり毎分6.8mg(=0.38mg×18mL)のエキスが暴露している。従って、辛夷清肺湯エキスの場合、用量4.5g/日当たりの寒天培地15gへの添加量(ろ紙への添加量)は6.8mg(比較例1)とした。また、満量処方の75%相当量として添加量5.1mg(実施例1)、満量処方の50%相当量として添加量3.4mg(実施例2)、満量処方の30%相当量として添加量2.0mg(実施例3)とした。荊芥連翹湯エキス(満量処方による用量(乾燥エキス換算量)は4.5g)、葛根湯加川きゅう辛夷エキス(満量処方による用量(乾燥エキス換算量)は4.0g)、及び小青竜湯エキス(満量処方による用量(乾燥エキス換算量)は4.0g)についても同様にしてろ紙への添加量を決定した。
【0056】
培養の結果、ろ紙の周囲にできたハロー(阻止円)の幅を下記計算式に基づき算出し、下記評価基準に基づいて、各細菌に対するエキスの抗菌活性を判定した。結果を表2~5に示す。
【0057】
【数1】
【0058】
(抗菌活性の評価基準)
-:ハローなし
+:ハローの幅が1~2mm
++:ハローの幅が3~4mm
+++:ハローの幅が5~6mm
【0059】
【表2】
【0060】
【表3】
【0061】
【表4】
【0062】
【表5】
【0063】
表2~5から明らかな通り、辛夷清肺湯、荊芥連翹湯、葛根湯加川きゅう辛夷、小青竜湯は、肺炎球菌に対する抗菌剤として作用することが認められた。これらの中で、満量処方の用量による辛夷清肺湯、荊芥連翹湯、葛根湯加川きゅう辛夷、小青竜湯(比較例1~4)は、いずれも、標的菌の肺炎球菌だけでなく、標的菌でない黄色ブドウ球菌及びメシチリン耐性黄色ブドウ球菌に対しても抗菌作用を発現した。つまり、これらの漢方エキスは、抗菌剤として用いる場合、満量処方では、黄色ブドウ球菌及びメシチリン耐性黄色ブドウ球菌が抗菌薬耐性を獲得するリスクを招来する。一方、満量処方よりも少ない所定用量による辛夷清肺湯、荊芥連翹湯、葛根湯加川きゅう辛夷、小青竜湯(実施例1~10)は、いずれも、標的菌の肺炎球菌には抗菌作用を発現しながら、標的菌でない黄色ブドウ球菌及びメシチリン耐性黄色ブドウ球菌に対しては抗菌作用を発現しなかった。
【0064】
試験例2
黄色ブドウ球菌の薬剤耐性化リスクが高い被験者として、1年以内に黄色ブドウ球菌に対する抗菌性を有する抗菌薬(ペニシリン系、セフェム系、カルバペネム系、グリコペプチド系、オキサゾリジノン系、リポペプチド系、アミノグリコシド系、テトラサイクリン系、リンコマイシン系、リファマイシン系)のうち2種類以上の抗菌薬の服用経験がある副鼻腔炎患者11名(20~40代男女)を選択した。これらの被験者に、試験例1で示した生薬混合物から調製した辛夷清肺湯エキスを、乾燥エキス換算量で2.25g/日(原生薬換算量で14g/日、チモ原生薬換算量で1.5g/日)の用量で、1日3回に分けて7日間服用させた。7日後、膿性鼻漏の粘性及び/又は色の変化、並びに、鼻詰まり及び/又は息苦しさの症状の変化について回答を得た。
【0065】
膿性鼻漏は、粘膜が細菌感染している状態であることを示し、膿性鼻漏の粘性低下及び色の淡色化は、細菌増殖が抑制された状態であることを示す。辛夷清肺湯エキスの服用の結果、11名中7名に、膿性鼻漏の粘性低下及び/又は色の淡色化が確認された。また、11名中8名に鼻詰まりの改善がみられ、11名中7名において息苦しさの改善が見られた。さらに、11名中10名が、膿性鼻漏の粘性低下及び/又は色の淡色化、鼻詰まりの改善、並びに息苦しさの改善の少なくともいずれかが認められたことを回答した。
【0066】
試験例3
成人男性3名を対象に、試験例1で調製した辛夷清肺湯エキスを、乾燥エキス換算量で2.25g/日(原生薬換算量で14g/日、チモ原生薬換算量で1.5g/日)の用量で、1日3回に分けて3日間服用させた。服用前後で、鼻腔内を滅菌綿棒でスワブし、綿球部に付着した菌から、QIAamp DNA Mini Kit(キアゲン社)にてDNAを抽出した。その後、Ion 16S Metagenomics Kit(サーモフィッシャー社)を使用してAmplicon PCRを行い、18srRNA領域の次世代シークエンスにより、菌種の同定と各菌の出現カウント数(服用前の菌数を100とした場合の服用後の相対的菌数)の算出とを行った。結果を表6に示す。
【0067】
【表6】
【0068】
表6から明らかなとおり、黄色ブドウ球菌の菌数は服用前後で変化がないのに対し、肺炎球菌、インフルエンザ菌、ミュータンス菌、ソブリヌス菌、フゾバクテリウム菌、アクネ菌では3名いずれにおいても明らかな菌数の減少が認められた。このことから、辛夷清肺湯エキスが、常在状態の黄色ブドウ球菌を標的としない選択抗菌性を有していることが確認された。
【0069】
試験例4
口腔内のねばつきは、歯周病菌及び虫歯菌等の口腔細菌が唾液中で異常増殖したものであり、口臭や不快感を呈し、歯周病、歯肉炎、虫歯等の口腔感染症又はそれによる炎症の原因ともなる。そこで、口腔内のねばつきが気になる8名(20~30代男女)を対象に、朝食後は水道水50mLで、昼食後は試験例1で調製した辛夷清肺湯エキスを、乾燥エキス換算量で2.25g(原生薬換算量で14g、チモ原生薬換算量で1.5g)を水道水100mLに溶解したものの半量で洗口させ、それぞれ4時間後の口腔内のねばつきの強弱、口臭の強弱、口腔内の快・不快感について評価した。口臭は同一の第三者がその匂いの強弱について-4~4の9段階評価を行い、ねばつきの強弱及び快・不快感については自身が-4~4の9段階評価を行った。-4~4の評点は、0を「どちらでもない」とし、評点が大きいほど、口腔内のねばつき、口臭の強さ、口腔内の不快感が大きく、評点が小さいほど、口腔内のねばつき、口臭の強さ、口腔内の不快感が小さいことを示す。なお、歯周病菌や虫歯菌などの口腔内細菌は、口の中の食べカスをエサにして増殖し、食後4時間でネバネバとした粘液を産生すると言われている。つまり、食後4時間での口腔内のねばつきは、食後に菌が異常増殖したことを示し、その改善は細菌増殖が抑制された状態であることを示す。結果を表7に示す。
【0070】
【表7】
【0071】
表7に示すとおり、辛夷清肺湯エキスを用いた洗口により、ねばつきの顕著な改善が認められ、口臭や不快感も顕著に改善した。つまり、口腔内細菌の増殖が抑制されたことが示された。
【0072】
試験例5
口腔内では就寝中に歯周病菌や虫歯菌が増殖する。そこで、口腔内のねばつきが気になる8名(20~30代男女)を対象に、起床1時間以内に水道水50mLで洗口させた後に、Panasonic 細菌カウンタ(品番:DU-AA01NP-H)の取扱説明書に従い滅菌綿棒で舌上をスワブし、細菌数を測定した。次に、翌日の起床1時間以内に、試験例1で調製した辛夷清肺湯エキスを、乾燥エキス換算量で2.25g(原生薬換算量で14g、チモ原生薬換算量で1.5g)を水道水100mLに溶解したものの半量で洗口させ、かるく口をすすいだ後に、前日と同様にして細菌数を測定した。なお起床後は試験終了まで歯磨きや飲食をせずに試験を実施した。結果を表8に示す。
【0073】
【表8】
【0074】
表8から明らかな通り、辛夷清肺湯エキスを用いた洗口により、口腔内菌数の低減が認められた。つまり、口腔内細菌に対する抗菌作用が示された。