(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-05
(45)【発行日】2025-02-14
(54)【発明の名称】黒ずみ形成方法
(51)【国際特許分類】
C12Q 1/02 20060101AFI20250206BHJP
G01N 33/50 20060101ALI20250206BHJP
G01N 33/15 20060101ALI20250206BHJP
【FI】
C12Q1/02
G01N33/50 Z
G01N33/15 Z
(21)【出願番号】P 2020111840
(22)【出願日】2020-06-29
【審査請求日】2023-05-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000186588
【氏名又は名称】小林製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100124431
【氏名又は名称】田中 順也
(74)【代理人】
【識別番号】100174160
【氏名又は名称】水谷 馨也
(74)【代理人】
【識別番号】100175651
【氏名又は名称】迫田 恭子
(72)【発明者】
【氏名】小矢野 大知
(72)【発明者】
【氏名】五味 満裕
【審査官】斉藤 貴子
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-096542(JP,A)
【文献】村松道敬ほか,実験室内黒ずみ形成モデルの構築,環境バイオテクノロジー学会 2018年度大会 プログラム講演要旨集,2018年06月25日,P41, P-04
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12Q
G01N
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の工程を含む、黒ずみの形成方法:
バイオフィルム形成細菌及び黒色真菌を含む培養液に基材を浸漬させて培養を行うことにより基材上にバイオフィルムを形成させる
工程であって、前記培養液としてマンニトール及び/又はウシ血清アルブミンを含むものを使用する工程A、及び
基材上に形成されたバイオフィルム中の黒色真菌を増殖させることにより黒ずみを発生させる工程C。
【請求項2】
以下の工程を含む、黒ずみの形成方法:
バイオフィルム形成細菌及び黒色真菌を含む培養液に基材を浸漬させて培養を行うことにより基材上にバイオフィルムを形成させる工程A、
工程Aで形成されたバイオフィルム中のバイオフィルム形成細菌の増殖活性又は生菌数を低下させるストレス処理を行う工程であって、前記ストレス処理が、バイオフィルム中のバイオフィルム形成細菌の生菌数が、ストレス処理前に比べて90%以下になるように行われる工程B、及び
基材上に形成されたバイオフィルム中の黒色真菌を増殖させることにより黒ずみを発生させる工程C。
【請求項3】
前記工程C前に、工程Aで形成されたバイオフィルム中のバイオフィルム形成細菌の増殖活性又は生菌数を低下させるストレス処理を行う
工程であって、前記ストレス処理が、バイオフィルム中のバイオフィルム形成細菌の生菌数が、ストレス処理前に比べて90%以下になるように行われる工程Bを含む、請求項1に記載の黒ずみの形成方法。
【請求項4】
前記工程Bにおけるストレス処理が、乾燥処理、紫外線処理、又は加温処理である、請求項
2又は3に記載の黒ずみの形成方法。
【請求項5】
前記工程Aで使用する培養液が、マンニトール
及びウシ血清アルブミンを含む、請求項1~
4のいずれかに記載の黒ずみの形成方法。
【請求項6】
前記工程Aで使用する培養液が、マンニトール及び/又はウシ血清アルブミンを含む、請求項2に記載の黒ずみの形成方法。
【請求項7】
前記工程A後、工程Aで形成されたバイオフィルムに培養液を含浸させる、請求項1~
6のいずれかに記載の黒ずみの形成方法。
【請求項8】
被験試料の抗黒ずみ効果を評価する方法であって、
バイオフィルム形成細菌及び黒色真菌を含む培養液に基材を浸漬させて培養を行うことにより基材上にバイオフィルムを形成させる
工程であって、前記培養液としてマンニトール及び/又はウシ血清アルブミンを含むものを使用する工程A、及び
基材上に形成されたバイオフィルム中の黒色真菌を増殖させることにより黒ずみを発生させる工程Cを含み、
前記工程A中、前記工程A後且つ工程C前、前記工程C中、及び前記工程C後よりなる群から選択される少なくとも1つの段階において、被験試料を添加し、被験試料を添加した条件と被験試料を添加していない条件で黒ずみの状態を対比する、評価方法。
【請求項9】
抗黒ずみ効果を有する物質のスクリーニング方法であって、
バイオフィルム形成細菌及び黒色真菌を含む培養液に基材を浸漬させて培養を行うことにより基材上にバイオフィルムを形成させる
工程であって、前記培養液としてマンニトール及び/又はウシ血清アルブミンを含むものを使用する工程A、及び
基材上に形成されたバイオフィルム中の黒色真菌を増殖させることにより黒ずみを発生させる工程Cを含み、
前記工程A中、前記工程A後且つ工程C前、前記工程C中、及び前記工程C後よりなる群から選択される少なくとも1つの段階において、候補物質を添加し、候補物質を添加した条件と候補物質を添加していない条件で形成された黒ずみの状態を対比する、スクリーニング方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基材上に黒ずみを効率的に形成できる黒ずみ形成方法に関する。また、本発明は、当該黒ずみ形成方法を利用した、抗黒ずみ効果の評価方法、及び抗黒ずみ効果を有する物質のスクリーニング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
黒ずみは、トイレ、浴室、台所、洗面所等の水廻りで発生し易く、特に、トイレ便器内の水面付近ではリング状の黒ずみが発生し易いことが知られている。黒ずみの発生機序については解明が進んでおり、先ず、細菌が付着して増殖することによりバイオフィルを形成して黒色真菌が付着し易い環境を作り、その後、バイオフィルムに黒色真菌が付着して増殖することにより発生すると考えられている。
【0003】
生活空間で発生する黒ずみは、視覚的な不快感を与えるだけでなく、異臭を発散したり、感染症の感染源にもなったりすることもある。そこで、従来、黒ずみ対策用の洗浄剤として、抗菌成分を配合した洗浄組成物が開発されている。
【0004】
一方、黒ずみ対策用の洗浄剤を開発する上で、黒ずみの抑制効果を評価することは不可欠であるが、前述の通り、黒ずみは、バイオフィルムと黒色真菌の複雑な集合体であるため、洗浄剤の抗菌活性を測定するだけでは、黒ずみの抑制効果を正しく評価できない。そのため、従来、洗浄剤の黒ずみの抑制効果を評価するには、実際の家庭において洗浄剤を使用し、黒ずみの発生を観察するフィールドテストが必要であった。しかしながら、フィールドテストでは、長い期間を要し、N数を確保するためにコストも高くなるという問題点がある。
【0005】
そこで、近年、基材上にバイオフィルムを形成した後に、当該バイオフィルムに黒色真菌を付着させて増殖することにより、人工的に黒ずみを形成させる手法が開発され、黒ずみの抑制効果を評価できるラボ試験系が構築されている(非特許文献1参照)。しかしながら、従来の黒ずみの形成手法では、バイオフィルム中の細菌の種類によっては黒色真菌の増殖が進行しない、形成される黒ずみが小さい、黒ずみの形成に長期間要する、等の欠点があり、効率的に黒ずみを形成することはできない。
【0006】
このような従来技術を背景として、基材上に黒ずみを効率的に形成できる手法を確立し、抗黒ずみ効果を評価できるラボ試験系を構築することが切望されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【文献】村松道敬ら、「実験室内黒ずみ形成モデルの構築」、環境バイオテクノロジー学会2018年度大会講演要旨、環境バイオテクノロジー学会発行、2018年6月25日、41頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、基材上に黒ずみを効率的に形成できる黒ずみ形成方法を提供することである。また、本発明の他の目的は、当該黒ずみ形成方法を利用した、抗黒ずみ効果の評価方法、及び抗黒ずみ効果を有する物質のスクリーニング方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、前記課題を解決すべく鋭意検討を行ったところ、バイオフィルム形成細菌及び黒色真菌を含む培養液に基材を浸漬させて培養を行うバイオフィルム形成工程を行った後に、基材上に形成されたバイオフィルム中の黒色真菌を増殖させる黒ずみ形成工程を行うことにより、黒ずみが効率的に形成できることを見出した。また、本発明者は、前記バイオフィルム形成工程と黒ずみ形成工程の間に、バイオフィルム中のバイオフィルム形成細菌の増殖活性又は生菌数を低下させるストレス処理工程を行うことにより、より一層効率的に黒ずみを形成できることを見出した。更に、本発明者は、前記黒ずみ形成方法を利用することにより、抗黒ずみ効果の評価、及び抗黒ずみ効果を有する物質のスクリーニングが可能になることを見出した。本発明は、これらの知見に基づいて更に検討を重ねることにより完成したものである。
【0010】
即ち、本発明は、下記に掲げる態様の発明を提供する。
項1. 以下の工程を含む、黒ずみの形成方法:
バイオフィルム形成細菌及び黒色真菌を含む培養液に基材を浸漬させて培養を行うことにより基材上にバイオフィルムを形成させる工程A、及び
基材上に形成されたバイオフィルム中の黒色真菌を増殖させることにより黒ずみを発生させる工程C。
項2. 前記工程C前に、工程Aで形成されたバイオフィルム中のバイオフィルム形成細菌の増殖活性又は生菌数を低下させるストレス処理を行う工程Bを含む、項1に記載の黒ずみの形成方法。
項3. 前記工程Bにおけるストレス処理が、乾燥処理、紫外線処理、又は加温処理である、項2に記載の黒ずみの形成方法。
項4. 前記工程Aで使用する培養液が、マンニトール及び/又はウシ血清アルブミンを含む、項1~3のいずれかに記載の黒ずみの形成方法。
項5. 前記工程A後、工程Aで形成されたバイオフィルムに培養液を含浸させる、項1~4のいずれかに記載の黒ずみの形成方法。
項6. 被験試料の抗黒ずみ効果を評価する方法であって、
バイオフィルム形成細菌及び黒色真菌を含む培養液に基材を浸漬させて培養を行うことにより基材上にバイオフィルムを形成させる工程A、及び
基材上に形成されたバイオフィルム中の黒色真菌を増殖させることにより黒ずみを発生させる工程Cを含み、
前記工程A中、前記工程A後且つ工程C前、前記工程C中、及び前記工程C後よりなる群から選択される少なくとも1つの段階において、被験試料を添加し、被験試料を添加した条件と被験試料を添加していない条件で黒ずみの状態を対比する、評価方法。
項7. 抗黒ずみ効果を有する物質のスクリーニング方法であって、
バイオフィルム形成細菌及び黒色真菌を含む培養液に基材を浸漬させて培養を行うことにより基材上にバイオフィルムを形成させる工程A、及び
基材上に形成されたバイオフィルム中の黒色真菌を増殖させることにより黒ずみを発生させる工程Cを含み、
前記工程A中、前記工程A後且つ工程C前、前記工程C中、及び前記工程C後よりなる群から選択される少なくとも1つの段階において、候補物質を添加し、候補物質を添加した条件と候補物質を添加していない条件で形成された黒ずみの状態を対比する、スクリーニング方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、基材上に黒ずみを効率的に形成できるので、抗黒ずみ効果(黒ずみ形成を抑制する効果、及び形成された黒ずみを除去する効果)を評価するための試験材料を提供でき、黒ずみ対策用の洗浄剤等の開発を効率的に行うことが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】試験例1において、基材上に形成された黒ずみを観察した写真である。
【
図2】試験例2において、基材上に形成された黒ずみを観察した写真である。
【
図3】試験例3において、基材上に形成された黒ずみを観察した写真である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
1.黒ずみ形成方法
本発明の黒ずみ形成方法は、バイオフィルム形成細菌及び黒色真菌を含む培養液に基材を浸漬させて培養を行うことにより基材上にバイオフィルムを形成させる工程A、及び基材上に形成されたバイオフィルム中の黒色真菌を増殖させることにより黒ずみを発生させる工程Cを含むことを特徴とする。以下、本発明の黒ずみ形成方法について詳述する。
【0014】
[工程A(バイオフィルム形成工程)]
工程Aでは、バイオフィルム形成細菌及び黒色真菌を含む培養液に基材を接触させて培養を行うことにより基材上にバイオフィルムを形成させる。
【0015】
基材は、最終的に黒ずみの足場としての役割を果たす基材の素材については、試験目的等に応じて適宜設定すればよいが、例えば、陶磁器、ガラス、ステンレス、セラミックス、プラスチック等の硬質素材、繊維質素材等が挙げられる。これらの中でも、好ましくは、陶磁器、ガラス、ステンレス、セラミックス、プラスチック等の硬質素材が挙げられる。
【0016】
基材の形状については、試験目的等に応じて適宜設定すればよいが、例えば、シート状、ブロック状、紐状、粒状等が挙げられる。これらの中でも、操作簡便性等の観点から、好ましくはシート状、ブロック状、更に好ましくはシート状が挙げられる。また、工程Aで使用する基材の大きさについては、試験目的等に応じて適宜設定すればよい。
【0017】
また、基材には、必要に応じて、ミネラル、ケイ素等を付着させるコーティング処理等が施されていてもよい。
【0018】
バイオフィルム形成細菌とは、バイオフィルム形成能を有する細菌である。工程Aで使用されるバイオフィルム形成細菌の種類については、特に制限されないが、例えば、リゾビウム属(Rhizobium)、シュードモナス属(Pseudomonas)、スフィンゴモナス属(Sphingomonas)、スフィンゴピキシス属(Sphingopyxis)、スフィンゴビウム属(Sphingobium)、ブレバンディモナス属(Brevundimonas)、ブラストモナス属(Blastomonas)、ステノトロフォモナス属(Stenotrophomonas)、ポルフィロモナス属(Porphyromonas)、エロモナス属(Aeromonas)、クレブシェラ属(Klebsiella)、フラボバクテリウム属(Flavobacterium)、オクロバクテリウム属(Ochrobactrum)、メチロバクテリウム属(Methylobacterium)、フゾバクテリウム属(Fusobacterium)、ブレビバクテリウム属(Brevibacterium)、バークホリデリア属(Burkholderia)、エンテロバクター属(Enterbacter)、アシネトバクター属(Acinetobacter)、シトロバクター属(Citrobacter)、アグリゲイティバクター属(Aggregatibacter)、ロドバクター属(Rhodobacter)、エルウィニア属(Erwinia)、エスケリキア属(Escherichia)、ラルストニア属(Ralstonia)、サルモネラ属(Salmonella)、セラチア属(Serratia)、エルシニア属(Yersinia)、アシドヴォラックス属(Acidovorax)、プレボテラ属(Prevotella)、タネレラ属(Tannerella)、アルカリゲネス属(Alcaligenes)等のグラム陰性細菌;スタフィロコッカス属(Staphylococcus)、ストレプトコッカス属(Streptococcus)、エンテロコッカス属(Enterococcus)、バチルス属(Bacillus)、ラクトバチルス属(Lactobacillus)、デイノコッカス属(Deinococcus)等のグラム陽性細菌が挙げられる。これらの細菌は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0019】
黒色真菌とは、メラニン色素の産生により暗色を呈する真菌である。工程Aで使用される黒色真菌の種類については、特に制限されないが、例えば、クラドスポリウム属(Cladosporium)、アスペルギルス属(Aspergillus)、オーレオバシディウム属(Aureobasidium)、アルタナリア属(Alternaria)、ビポラリス属(Bipolaris)、クラドフィアロフォラ属(Cladophialophora)、エクソフィアラ属(Exophiala)、フォンセセア属(Fonsecaea)、フィアロフォラ属(Phialophora)、リノクラジエア属(Rhinocladiella)、フォーマ属(Phoma)、スコレコバシディウム属(Scolecobasidium)、ウロクラディウム属(Ulocladium)、エピコッカム属(Epicoccum)、カルバラリア属(Curvularia)、ケトミウム属(Chaetomium)等の真菌が挙げられる。これらの黒色真菌は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0020】
工程Aにおいて、培養液に播種する黒色真菌は、菌糸の状態であってもよいが、胞子の状態であることが好ましい。
【0021】
培養液の組成について、バイオフィルム形成細菌が増殖可能であることを限度として特に制限されないが、例えば、炭素源、窒素源、硫黄源、リン源、ビタミン源、及びミネラル源等を含んでいればよく、使用するバイオフィルム形成細菌の種類に応じて設定すればよい。
【0022】
工程Aで使用する培養液がマンニトールを含む場合、形成されるバイオフィルムは、細胞外タンパク質の産生量が多く粘性も高くなり、実際の環境で形成されるバイオフィルムと同様の特性を具備でき、最終的に形成される黒ずみが実際の環境で形成されるものに近似させることが可能になる。従って、培養液の好適な一例として、マンニトールを含んでいることが挙げられる。培養液にマンニトールを含有させる場合、その含有量としては、例えば、5~20g/l、好ましくは5~15g/l、より好ましくは7.5~12.5g/lが挙げられる。
【0023】
更に、工程Aで使用する培養液地がマンニトールを含み、且つトリプトン等のタンパク質加水分解物を含まない場合には、形成されるバイオフィルムが、実際の環境で形成されるバイオフィルムの特性により一層近似させることができる。従って、培養液の好適な一例として、マンニトールを含み、且つタンパク質加水分解物を含まないことが挙げられる。
【0024】
また、工程Aで使用する培養液がウシ血清アルブミン(BSA)を含む場合、最終的に形成される黒ずみに濃い黒色を呈させることが可能になる。従って、培養液の好適な一例として、BSAを含んでいることが挙げられる。培養液にBSAを含有させる場合、その含有量としては、例えば、1~10g/l、好ましくは2~8g/l、より好ましくは3~6g/lが挙げられる。
【0025】
また、工程Aで使用する培養液は、酵母エキスを含んでいることが好ましい。培養液に酵母エキスを含有させる場合、その含有量としては、例えば、2.0~6.0g/l、好ましくは2.0~5.0g/l、更に好ましくは2.5~3.5g/lが挙げられる。
【0026】
工程Aにおいて、培養液におけるバイオフィルム形成細菌の播種量(培養液におけるバイオフィルム形成細菌の初期濃度)については、使用するバイオフィルム形成細菌の種類、培養液の組成、培養時間等に応じて適宜設定すればよいが、例えば、1.0×103~1.0×108cfu/ml、好ましくは1.0×105~1.0×108cfu/ml、より好ましくは1.0×106~1.0×107cfu/mlが挙げられる。
【0027】
また、工程Aにおいて、培養液における黒色真菌の播種量(培養液における黒色真菌の初期濃度)については、使用する黒色真菌の種類、培養液の組成、培養時間等に応じて適宜設定すればよいが、例えば、1×102~1×104 cfu/ml、好ましくは3×102~5×103 cfu/ml、より好ましくは5×102~2×103 cfu/mlが挙げられる。
【0028】
工程Aにおいて、バイオフィルム形成細菌及び黒色真菌を含む培養液に基材を接触させて培養するには、例えば、当該培養液に基材を浸漬してインキュベートする方法;当該培養液を基材上に貯留させてインキュベートする方法等が挙げられる。
【0029】
工程Aにおける培養条件については、基材、バイオフィルム形成細菌、黒色真菌、及び培養液の種類等に応じて、基材上にバイオフィルムを形成できる条件に適宜設定すればよいが、例えば、22~32℃、好ましくは25~30℃、より好ましくは28~30℃の温度条件で、60~100時間、好ましくは65~96時間、より好ましくは72~84時間が挙げられる。
【0030】
斯くして工程Aを行うことにより、黒色真菌を含むバイオフィルムが基材上に形成される。基材上にバイオフィルムが形成されていることは、例えば、クリスタルバイオレット等の染色液を用いて染色することにより確認できる。
【0031】
工程Aにより形成されたバイオフィルムは、必要に応じて水洗等の洗浄処理を行った後に、次の工程B又はCに供される。
【0032】
[工程B(ストレス処理工程)]
工程Bは、必要に応じて設けられる工程であり、バイオフィルム中のバイオフィルム形成細菌の増殖活性又は生菌数を低下させるストレス処理を行う。工程Cに先立って、バイオフィルム中のバイオフィルム形成細菌の増殖活性又は生菌数を低下させるストレス処理(工程B)を行うことにより、より一層効率的に黒ずみを発生させることが可能になる。
【0033】
「バイオフィルム中のバイオフィルム形成細菌の増殖活性又は生菌数を低下させるストレス処理」とは、バイオフィルム中のバイオフィルム形成細菌の増殖活性を低下、及び/又はバイオフィルム中のバイオフィルム形成細菌の生菌数を低下させるために、バイオフィルムに対して負荷されるストレス処理である。工程Bにおけるストレス処理では、バイオフィルム中に存在する黒色真菌を死滅させない条件で行う必要がある。
【0034】
工程におけるストレス処理によってバイオフィルムに負荷されるストレスは、バイオフィルム中のバイオフィルム形成細菌の増殖活性又は細菌数を低下でき、且つ黒色真菌を死滅させない範囲であればよいが、例えば、バイオフィルム中のバイオフィルム形成細菌の生菌数が、ストレス処理前に比べて90%程度以下、好ましくは50%程度以下、更に好ましくは25%程度以下、特に好ましくは10%程度以下になるように設定すればよい。
【0035】
工程Bにおけるストレス処理は、黒色真菌を死滅させず、且つバイオフィルム形成細菌の増殖活性を低下、及び/又はバイオフィルム中のBF形成菌の生菌数を低下できることを限度として、特に制限されないが、具体的には、乾燥処理、紫外線処理、加温処理、電磁放射線処理、薬剤処理、ガス処理等が挙げられる。
【0036】
乾燥処理とは、バイオフィルムから水分を蒸散させ乾燥した状態にすることにより、バイオフィルムにストレスを負荷する処理である。乾燥処理の温度条件としては、例えば、15~80℃、好ましくは15~50℃、より好ましくは22.5~27.5℃、更に好ましくは24.5~25.5℃が挙げられる。また、乾燥処理の時間としては、例えば、0.5~2.5時間、好ましくは0.75~2時間、より好ましくは1~1.5時間が挙げられる。
【0037】
紫外線処理とは、バイオフィルムに対して紫外線を暴露することにより、バイオフィルムにストレスを負荷する処理である。紫外線処理における紫外線照射量としては、例えば、150mJ/cm2以上、好ましくは170mJ/cm2以上、より好ましくは180~300mJ/cm2が挙げられる。
【0038】
加熱処理とは、バイオフィルムを加熱することにより、バイオフィルムにストレスを負荷する処理である。加熱処理の温度条件としては、例えば40℃以上、好ましくは40~50℃、より好ましくは45~50℃が挙げられる。また、加熱処理の時間としては、例えば、30分間以上、好ましくは45~120分間、更に好ましくは45~60分間が挙げられる。
【0039】
電磁放射線処理とは、バイオフィルムに対して赤外線、可視光線、紫外線、X線、γ線等の電磁放射線を暴露することにより、バイオフィルムにストレスを負荷する処理である。薬剤処理とは、バイオフィルムに対して、ハーブ、香辛料などの天然物系抗菌剤やアルコール類、第4級アンモニウム塩類などの有機系化学合成抗菌剤等を添加し、バイオフィルムにストレスを負荷する処理である。ガス処理とは、バイオフィルムに対して、ガス状にした酸化エンチレンオキサイド、過酸化水素等を暴露することにより、バイオフィルムにストレスを負荷する処理である。
【0040】
これらのストレス処置の中でも、操作簡便性、黒色真菌へのダメージの抑制等の観点から、好ましくは、乾燥処理、紫外線処理、低温処理が挙げられる。
【0041】
工程B後のバイオフィルム形成基材は、必要に応じて、水洗等の洗浄処理を行った後に、工程Cに供される。
【0042】
[工程C(黒ずみ発生工程)]
工程Cでは、基材上に形成されたバイオフィルム中の黒色真菌を増殖させることにより黒ずみを発生させる。
【0043】
工程Cでは、黒色真菌を増殖させるのに先立って、基材上に形成されたバイオフィルムに黒色真菌の生育に必要となる培養液をバイオフィルムに含浸させてもよい。このように培養液をバイオフィルムに含浸させた後に、色真菌を増殖させることにより、黒ずみをより一層効率的に発生させることが可能になる。バイオフィルムに含浸させる培養液については、黒色真菌の生育に必要となる成分(炭素源、窒素源、硫黄源、リン源、ビタミン源、及びミネラル源等)が含まれていればよい。当該培養液の好適な一例として、ポテトデキストロースブロスが挙げられる。バイオフィルムに培養液を含浸させるには、例えば、基材フィルム上のバイオフィルムに培養液を滴下又は塗布したり、バイオフィルムが形成された基材を培養液に含浸させたりすることによって行うことができる。
工程Cにおいて、バイオフィルムに黒色真菌を付着後に黒色真菌を増殖させて黒ずみを形成させるには、気相中で黒色真菌が生育する条件で培養を行えばよい。
【0044】
黒色真菌を増殖させて黒ずみを発生させる培養条件としては、使用する黒色真菌の種類に応じて適宜設定すればよいが、例えば、20~30℃、好ましくは22.5~27.5℃、更に好ましくは22.5~25℃の温度条件で、70~200時間、好ましくは75~150時間、更に好ましくは80~100時間が挙げられる。
【0045】
斯くして工程Cを行うことにより、基材上に黒ずみが発生し、基材上に黒ずみが形成している試験材料が得られる。
【0046】
2.抗黒ずみ効果の評価方法
本発明の抗黒ずみ効果の評価方法は、バイオフィルム形成細菌及び黒色真菌を含む培養液に基材を浸漬させて培養を行うことにより基材上にバイオフィルムを形成させる工程A、及び基材上に形成されたバイオフィルム中の黒色真菌を増殖させることにより黒ずみを発生させる工程Cを含み、前記工程A中、前記工程A後且つ工程C前、前記工程C中、及び前記工程C後よりなる群から選択される少なくとも1つの段階において、被験試料を添加し、被験試料を添加した条件と被験試料を添加していない条件で黒ずみの状態を対比することを特徴とする。
【0047】
本発明の抗黒ずみ効果の評価方法は、被験試料が有する抗黒ずみ効果を評価する方法である。抗黒ずみ効果とは、黒ずみ形成を抑制する効果、及び形成された黒ずみを除去する効果を指しており、本発明の抗黒ずみ効果の評価方法では、被験試料が有する抗黒ずみ効果の有無及び強弱を判定することができる。
【0048】
被験試料とは、抗黒ずみ効果の有無及び強弱の評価対象となる試料であり、単一化合物であってもよく、また、2以上の成分が含まれる組成物(例えば、トイレ便器用の洗浄剤組成物)であってもよい。
【0049】
本発明の抗黒ずみ効果の評価方法において、工程A及び工程Cの具体的態様は、前記黒ずみ形成方法の場合と同様である。
【0050】
また、本発明の抗黒ずみ効果の評価方法において、工程Aと工程Cの間に、バイオフィルム中のバイオフィルム形成細菌の増殖活性又は生菌数を低下させるストレス処理を行う工程Bを実施してもよい。当該工程Bの具体的態様は、前記黒ずみ形成方法の場合と同様である。工程Aと工程Cの間に工程Bを行う場合、前記工程A中、前記工程A後且つ工程B前、前記工程B後且つ工程C前、前記工程C中、及び前記工程C後よりなる群から選択される少なくとも1つの段階で、被験試料を添加すればよい。
【0051】
前記工程A中に被験試料を添加する場合、バイオフィルム形成細菌、黒色真菌、及び被験試料を含む培養液を基材に接触させてインキュベートしてもよく、また、バイオフィルム形成細菌、及び黒色真菌を含む培養液と基材を接触させた状態でインキュベートしている段階で、前記培養液中に被験試料を添加してもよい。前記工程A後且つ工程B前に被験試料を添加する場合、前記工程A後に形成されたバイオフィルムに被験試料を添加すればよい。前記工程B中に被験試料を添加する場合、前記工程Bにおけるストレス処理中にバイオフィルムに被験試料を添加すればよい。前記工程B後且つ工程C前に被験試料を添加する場合、前記工程Bのストレス処理後のバイオフィルムに被験試料を添加すればよい。前記工程C中に被験試料を添加する場合、バイオフィルム中の黒色真菌の増殖を行う前の段階、又は黒色真菌の増殖を行っている段階のいずれかで、バイオフィルムに被験試料を添加すればよい。前記工程C後に被験試料を添加する場合、工程C後に形成された黒ずみに対して被験試料を添加すればよい。
【0052】
前記工程A中、前記工程A後且つ工程B前、前記工程B後且つ工程C前、及び前記工程C中に被験試料を添加した場合、工程C後に形成された黒ずみの状態(大きさ、数等)を観察し、被験試料を添加していない条件での黒ずみに比べて、黒ずみの数が少ない、又は黒ずみが小さい場合には、当該被験試料は、黒ずみ形成を抑制する効果があると判定される。
【0053】
また、前記工程C後に被験試料を添加した場合、被験試料添加後に黒ずみの状態(大きさ、数等)を経時的に観察し、被験試料を添加していない条件での黒ずみに比べて、黒ずみの数が減っている、又は黒ずみが小さくなっている場合には、当該被験試料は、黒ずみを除去する効果があると判定される。
【0054】
3.抗黒ずみ効果を有する物質のスクリーニング方法
本発明のスクリーニング方法は、バイオフィルム形成細菌及び黒色真菌を含む培養液に基材を浸漬させて培養を行うことにより基材上にバイオフィルムを形成させる工程A、及び基材上に形成されたバイオフィルム中の黒色真菌を増殖させることにより黒ずみを発生させる工程Cを含み、前記工程A中、前記工程A後且つ工程C前、前記工程C中、及び前記工程C後よりなる群から選択される少なくとも1つの段階において、候補物質を添加し、候補物質を添加した条件と候補物質を添加していない条件で形成された黒ずみの状態を対比することを特徴とする。
【0055】
抗黒ずみ効果とは、黒ずみの形成を抑制する効果、及び形成された黒ずみを除去する効果を指しており、本発明のスクリーニング方法では、候補物質の中から抗黒ずみ効果を有するものを選択することができる。
【0056】
候補物質は、抗黒ずみ効果の有無が判定される試料であり、単一化合物であってもよく、また、2以上の成分が含まれる組成物(例えば、トイレ便器用の洗浄剤組成物)であってもよい。
【0057】
本発明のスクリーニング方法において、工程A及び工程Cの具体的態様は、前記黒ずみ形成方法の場合と同様である。
【0058】
また、スクリーニング方法において、工程Aと工程Cの間に、バイオフィルム中のバイオフィルム形成細菌の増殖活性又は生菌数を低下させるストレス処理を行う工程Bを実施してもよい。当該工程Bの具体的態様は、前記黒ずみ形成方法の場合と同様である。工程Aと工程Cの間に工程Bを行う場合、前記工程A中、前記工程A後且つ工程B前、前記工程B後且つ工程C前、前記工程C中、及び前記工程C後よりなる群から選択される少なくとも1つの段階で、候補物質を添加すればよい。
【0059】
前記工程A中に候補物質を添加する場合、バイオフィルム形成細菌、黒色真菌、及び候補物質を含む培養液を基材に接触させてインキュベートしてもよく、また、バイオフィルム形成細菌、及び黒色真菌を含む培養液と基材を接触させた状態でインキュベートしている段階で、前記培養液中に候補物質を添加してもよい。前記工程A後且つ工程B前に候補物質を添加する場合、前記工程A後に形成されたバイオフィルムに候補物質を添加すればよい。前記工程B中に候補物質を添加する場合、前記工程Bにおけるストレス処理中にバイオフィルムに候補物質を添加すればよい。前記工程B後且つ工程C前に候補物質を添加する場合、前記工程Bのストレス処理後のバイオフィルムに候補物質を添加すればよい。前記工程C中に候補物質を添加する場合、バイオフィルム中の黒色真菌の増殖を行う前の段階、又は黒色真菌の増殖を行っている段階のいずれかで、バイオフィルムに候補物質を添加すればよい。前記工程C後に候補物質を添加する場合、工程C後に形成された黒ずみに対して候補物質を添加すればよい。
【0060】
前記工程A中、前記工程A後且つ工程B前、前記工程B後且つ工程C後、及び前記工程C中に候補物質を添加した場合、工程C後に形成された黒ずみの状態(大きさ、数等)を観察し、候補物質を添加していない条件での黒ずみに比べて、黒ずみの数が少ない、又は黒ずみが小さい場合には、当該候補物質は、黒ずみ形成を抑制する効果を有すると判定される。
【0061】
また、前記工程C後に候補物質を添加した場合、候補物質添加後に黒ずみの状態(大きさ、数等)を経時的に観察し、候補物質を添加していない条件での黒ずみに比べて、黒ずみの数が減っている、又は黒ずみが小さくなっている場合には、当該候補物質は、黒ずみを除去する効果があると判定される。
【0062】
本発明のスクリーニング方法において、抗黒ずみ効果(黒ずみ形成を抑制する効果、及び/又は黒ずみを除去する効果)があると判定された候補物質は、抗黒ずみ効果を有している物質として選択される。
【実施例】
【0063】
以下、実施例に基づいて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。
【0064】
試験例1:黒ずみ形成試験(1)
1.方法
・バイオフィルムの形成工程
バイオフィルム形成細菌(環境分離株、Rhizobium sp.)を前培養し、その前培養液を表1に示す組成の培養液にOD(600nm)が0.01(菌数:4.0×106 cfu/ml)となるよう播種した。更に、バイオフィルム形成細菌を播種した培養液に、黒色真菌(Cladosporium halotolerans (NBRC111839))の胞子を1.0×103 cfu/mlとなるように播種した。次いで、バイオフィルム形成細菌及び黒色真菌を含む培養液2mlを12ウェルプレートの各ウェルに分注し、更に各ウェルにカバーガラス(基材;縦1.8cm、横1.8cm)を立てかけて、ウェル中の培養液にカバーガラスの一部を浸漬させた。その後、12ウェルプレートに蓋をして、更に12ウェルプレートをラップフィルムで覆い、25℃又は30℃のインキュベーター内で3日間静置培養を行った。
【0065】
【0066】
前記で静置培養に供したカバーガラスを取り出して、0.1重量%クリスタルバイオレット液2mlが分注された12ウェルプレートの各ウェルに立てかけて、10分間室温で静置した。その結果、カバーガラスがクリスタルバイオレットにより染色されており、カバーガラス上にバイオフィルムが形成されているのを確認した。
【0067】
・ストレス処理(乾燥処理)工程
バイオフィルムが形成されたカバーガラス(以下、BF形成カバーガラス)(染色操作を行っていないもの)を滅菌精製水で洗浄した後に、水分を濾紙で拭き取った。その後、BF形成カバーガラスを安全キャビネット内に入れて、25℃で1時間乾燥処理を行った。
【0068】
・黒ずみ発生工程
乾燥処理後のBF形成カバーガラスを、培養液[PDB(ポテトデキストロースブロス); Bectone Dickinson社製]中に浸漬させた後に取り出して、濾紙でカバーガラスに付着しているPDBを拭き取ることにより、PDBを含浸させた。また、PDBを含浸させていない乾燥処理後のBF形成カバーガラスも準備した。
【0069】
丸形のシャーレ(直径9cm)に濾紙(直径7cm)を2枚重ねて置き、更に2mlの水をシャーレ内の濾紙に含ませた。更に、濾紙の上にU字型ガラス棒、スライドガラス、及びU字ステープル(ホッチキスの芯)をこの順に積み重ねて、黒色真菌培養セットを組み立てた。作製した黒色真菌培養セットのU字ステープルの上に、前記で得られた各BF形成カバーガラス(バイオフィルムが上になるように配置)を置いて、シャーレに蓋をした後にパラフィンフィルムで巻いて、25℃で7日間培養を行った。
【0070】
2.結果
黒ずみ発生工程における培養2日後、4日後、及び7日後にカバーガラスの外観を観察した結果を
図1に示す。この結果、バイオフィルム形成細菌及び黒色真菌を含む培養液に基材を接触させて培養を行うことにより基材上にバイオフィルムを形成させた後に、バイオフィルム中の黒色真菌を気相中で増殖させることによって、黒ずみを効率的に発生でき、抗黒ずみ効果を評価する試験材料として好適なものであることが確認された。また、バイオフィルム形成工程において、BSAを含む培養液を使用することにより、黒ずみの発生効率が高まることも確認された。更に、BF形成カバーガラスに培養液(PDB)を含浸させた後に黒ずみ発生工程に供することにより、黒ずみの発生効率が高まることも明らかとなった。
【0071】
試験例2:黒ずみ形成試験(2)
1.方法
・バイオフィルムの形成工程
表2に示す組成の培養液を使用したこと及び培養温度を25℃に設定したこと以外は、前記試験例1と同条件で、バイオフィルム形成細菌(環境分離株、Rhizobium sp.)及び黒色真菌(Cladosporium halotolerans (NBRC111839))を用いて、BF形成カバーガラスを調製した。
【0072】
【0073】
・ストレス処理(乾燥処理)工程
前記で得られた各BF形成カバーガラスを滅菌精製水で洗浄した後に、水分を濾紙で拭き取った。次いで、BF形成カバーガラスを安全キャビネット内に入れて、25℃で1時間乾燥処理を行った。また、比較のために、乾燥処理を行わなかったBF形成カバーガラスも準備した。
【0074】
・黒ずみ発生工程
前記試験例1と同条件で、PDBを含浸させたストレス処理後及びストレス処理なしのBF形成カバーガラスを準備した。また、PDBを含浸させていないストレス処理後及びストレス処理なしのBF形成カバーガラスも準備した。
【0075】
前記試験例1と同条件で黒色真菌培養セットを作成した。作製した黒色真菌培養セットのU字ステープルの上に、前記で得られた各BF形成カバーガラス(バイオフィルムが上になるように配置)を置いて、シャーレに蓋をした後にパラフィンフィルムで巻いて、25℃で3日間培養を行った。
【0076】
2.結果
黒ずみ発生工程後のカバーガラスの外観を観察した結果を
図2に示す。この結果からも、バイオフィルム形成細菌及び黒色真菌を含む培養液に基材を接触させて培養を行うことにより基材上にバイオフィルムを形成させた後に、バイオフィルム中の黒色真菌を気相中で増殖させることによって、黒ずみを効率的に発生できることが分かった。とりわけ、バイオフィルム形成工程後且つ黒ずみ発生工程前に、バイオフィルム中のバイオフィルム形成細菌に対してストレス処理(乾燥処理)を行うことによって、黒ずみの発生効率が格段に高まることが確認された。また、前記試験例1の結果と同様に、BF形成カバーガラスに培養液(PDB)を含浸させた後に黒ずみ発生工程に供することにより、黒ずみの発生効率が高まることも明らかとなった。更に、バイオフィルム形成工程において、マンニトールを含む培養液を使用することにより、黒ずみの発生効率が高まることも確認された。
【0077】
試験例3:黒ずみ形成試験(3)
1.方法
・バイオフィルムの形成工程
表1に示す組成の培養液Aを使用したこと及び培養温度を25℃に設定したこと以外は、前記試験例1と同条件で、バイオフィルム形成細菌(環境分離株、Rhizobium sp.)及び黒色真菌(Cladosporium halotolerans (NBRC111839))を用いて、BF形成カバーガラスを調製した。
【0078】
・ストレス処理(乾燥処理、紫外線処理、及び加温処理)工程
前記で得られた各BF形成カバーガラスを滅菌精製水で洗浄した後に、水分を濾紙で拭き取った。次いで、BF形成カバーガラスを表3に示す各条件でストレス処理を行った。
【0079】
バイオフィルム形成細菌の生存率を確認するために、ストレス処理後及びストレス処理なしのBF形成カバーガラスを、界面活性剤を含む培地中で撹拌することにより、カバーガラスからバイオフィルムを剥離させて、バイオフィルム形成細菌の生菌数を測定した。測定結果を表3に示す。
【0080】
【0081】
前記試験例1と同条件で、PDBを含浸させたストレス処理後及びストレス処理なしのBF形成カバーガラスを準備した。また、PDBを含浸させていないストレス処理後及びストレス処理なしのBF形成カバーガラスも準備した。
【0082】
前記試験例1と同条件で黒色真菌培養セットを作成した。作製した黒色真菌培養セットのU字ステープルの上に、前記で得られた各BF形成カバーガラス(バイオフィルムが上になるように配置)を置いて、シャーレに蓋をした後にパラフィンフィルムで巻いて、25℃で3日間培養を行った。
【0083】
2.結果
黒ずみ発生工程後のカバーガラスの外観を観察した結果を
図3に示す。この結果、黒ずみ発生工程前に行うバイオフィルムに対するストレス処理は、乾燥処理だけでなく、紫外線処理又は加温処理であっても、黒ずみの発生効率を向上させ得ることが分かった。