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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-06
(45)【発行日】2025-02-17
(54)【発明の名称】超高弾性率タンパク質繊維の製造方法
(51)【国際特許分類】
   D01F 4/00 20060101AFI20250207BHJP
   A61L 27/24 20060101ALI20250207BHJP
   D01D 5/06 20060101ALI20250207BHJP
【FI】
D01F4/00 A
A61L27/24
D01D5/06 102Z
D01F4/00 Z
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2020083180
(22)【出願日】2020-05-11
(65)【公開番号】P2021179019
(43)【公開日】2021-11-18
【審査請求日】2023-04-26
(73)【特許権者】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】TOPPANホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100122301
【弁理士】
【氏名又は名称】冨田 憲史
(72)【発明者】
【氏名】松▲崎▼ 典弥
(72)【発明者】
【氏名】カン・ドンヒ
【審査官】斎藤 克也
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-256488(JP,A)
【文献】特表2019-529735(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第109137116(CN,A)
【文献】国際公開第2019/151429(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2002/0055143(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D01F1/00-6/96;9/00-9/04
D01D1/00-13/02
A61L27/00-27/60
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機溶媒を含む水溶液中に繊維性タンパク質溶液を吐出し、得られた繊維を乾燥することを含む、タンパク質繊維の製造方法であって、
(a)有機溶媒がアセトニトリルであり、水溶液中のアセトニトリル濃度が50~80vol%であるか、または
(b)有機溶媒がアセトンであり、水溶液中のアセトン濃度が60~80vol%であり、
繊維性タンパク質がI型コラーゲン、II型コラーゲン、III型コラーゲン、V型コラーゲン、XI型コラーゲン、ケラチン、エラスチンからなる群より選択されるものである、
方法。
【請求項2】
繊維性タンパク質がI型コラーゲンである、請求項記載の方法。
【請求項3】
乾燥が減圧乾燥によって行われる、請求項1または2記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、極めて高い弾性率を有するタンパク質繊維の製造方法およびそれにより得られるタンパク質繊維に関する。
【背景技術】
【0002】
再生医療において、生体類似の複雑な三次元構造と機能を有する組織・臓器を生体外で構築することは、未だ大きな課題である。そこで、動物の組織・臓器を界面活性剤や超高圧で処理し、細胞成分を除去して得られる脱細胞化組織が注目されている。脱細胞化組織は主に細胞外マトリックス(ECM)成分で構成され、生体組織の複雑な組織構造を保持しているため、ヒト細胞を充填することで再生医療の移植臓器として有用と期待されている(非特許文献1)。しかし、脱細胞化臓器は、免疫原性やヒト臓器とのサイズ不一致などの課題を有する。そこで、脱細胞化臓器を人工的に作製できれば、これらの課題を解決できると期待される。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【文献】K. Uygun et al., Nat. Med. 2008, 16, 814
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
脱細胞化臓器を人工的に作製するためには、まず生体コラーゲン繊維などの生体繊維と同様の高弾性率を有し、かつ生体適合性を有する繊維を作製する必要がある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ね、特定の範囲の極性度を有する有機溶媒を含む水溶液中に繊維性タンパク質溶液を吐出し、得られた繊維を乾燥することで、極めて高い弾性率を有するタンパク質繊維が得られることを見出し、本発明を完成させるに至った。すなわち、本発明は以下のものを提供する。
【0006】
(1)有機溶媒を含む水溶液中に繊維性タンパク質溶液を吐出し、得られた繊維を乾燥することを含む、タンパク質繊維の製造方法。
(2)有機溶媒の極性度が5~6である、(1)記載の方法。
(3)水溶液中の有機溶媒の濃度が50~80vol%である、(1)または(2)記載の方法。
(4)水溶液中の有機溶媒の濃度が60~80vol%である、(1)または(2)記載の方法。
(5)有機溶媒がアセトニトリル、アセトンおよびメタノールからなる群より選択されるものである、(1)~(4)のいずれか記載の方法。
(6)有機溶媒がアセトニトリルであり、水溶液中のアセトニトリル濃度が60~70vol%である、(1)~(4)のいずれか記載の方法。
(7)有機溶媒がアセトンであり、水溶液中のアセトン濃度が60~80vol%である、(1)~(4)のいずれか記載の方法。
(8)有機溶媒がメタノールであり、水溶液中のメタノール濃度が60vol%である、(1)~(4)のいずれか記載の方法。
(9)繊維性タンパク質がI型コラーゲン、II型コラーゲン、III型コラーゲン、V型コラーゲン、XI型コラーゲン、ケラチン、ミオシン、エラスチンからなる群より選択されるものである、(1)~(8)のいずれか記載の方法。
(10)繊維性タンパク質がI型コラーゲンである(9)記載の方法。
(11)乾燥が減圧乾燥によって行われる、(1)~(10)のいずれか記載の方法。
(12)得られるタンパク質繊維の弾性率が3GPa以上である、(1)~(11)のいずれか記載の方法。
(13)得られるタンパク質繊維の弾性率が10GPa以上である、(11)記載の方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、非常に弾性率の高いタンパク質繊維を簡単に得ることができる。例えばコラーゲン繊維を作製する場合には、クモの糸に匹敵またはそれを超える高弾性率タンパク質繊維が得られる。本発明の方法を液中プリント法に適用して、強度の高い脱細胞化臓器や血管を作成することもできる。繊維性タンパク質の多くは生体由来であるので、本発明により得られるタンパク質繊維は生体適合性にも優れている。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、有機溶媒の濃度がコラーゲン繊維の弾性率に及ぼす影響を調べた結果を示す。カッコ内の数値は各溶媒の極性度である。
図2図2は、有機溶媒の水溶液を用いて得られたコラーゲン繊維の弾性率の最高値と有機溶媒の極性度の関係を示す。カッコ内の数値は各溶媒の極性度である。
図3図3の上パネルは60%アセトニトリル水溶液を用いて得られたコラーゲン繊維のX線回折測定結果を示す。図3の下パネルは100%アセトニトリル水溶液を用いて得られたコラーゲン繊維のX線回折測定結果を示す。
図4図4上パネルは、凍結乾燥後に得られたコラーゲン繊維の写真(左)および60%アセトニトリル水溶液中で膨潤したコラーゲン繊維の写真(右)を示す。図4下パネルは1wt%コラーゲン水溶液および2wt%コラーゲン水溶液を60%アセトニトリル水溶液中に吐出し、風乾後減圧乾燥して得られた繊維の弾性率を示す。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本明細書において、特に断らない限り、有機溶媒の濃度は体積%(vol%)である。また本明細書において、濃度や強度表す数値は、特に断らない限り、その数値±5%またはその数値±10%の範囲を含み得る。
【0010】
本発明は、有機溶媒を含む水溶液中に繊維性タンパク質溶液を吐出し、得られた繊維を乾燥することを含む、タンパク質繊維の製造方法を提供する。
【0011】
本発明において得られるタンパク質繊維の弾性率は、有機溶媒の極性度および濃度、ならびに繊維性タンパク質の種類および濃度により変化する。高弾性率タンパク質繊維を得るためには、使用する有機溶媒の極性度が4.5~6.5であることが好ましく、5~6であることがさらに好ましい。本発明で使用する有機溶媒は極性有機溶媒である。本発明において好ましく用いられる有機溶媒の例としては、アセトニトリル、アセトンおよびメタノールなどが挙げられるが、これらに限定されない。多くの有機溶媒の極性度は当該技術分野において公知である。なお、本明細書において、有機溶媒の極性度はSnyderのpolarity index(Snyder, L. R. Classification of the Solvent Properties of Common Liquids. Journal of Chromatographic Science 16, 223-234 (1978))である。
【0012】
高弾性率タンパク質繊維を得るための、有機溶媒の好ましい濃度は、有機溶媒の種類、ならびに繊維性タンパク質の種類および濃度により異なる。通常は、有機溶媒の好ましい濃度は50%~90%、より好ましくは50%~80%、さらに好ましくは60~80%である。例えば、アセトニトリル水溶液の場合、好ましいアセトニトリル濃度は50~80%、より好ましくは60~70%である。アセトン水溶液の場合、好ましいアセトン濃度は50~90%、より好ましくは60~80%である。メタノール水溶液の場合、好ましいメタノール濃度は50~70%、より好ましくは60%である。上記の好ましい有機溶媒および有機溶媒の濃度は例示であり、これらに限定されない。
【0013】
有機溶媒水溶液中の有機溶媒は1種類であってもよく、複数種類であってもよい。
【0014】
有機溶媒の極性とタンパク質繊維の弾性率の関係は以下のように考えられる。有機溶媒が適度な極性を有する場合は有機溶媒が繊維内部に侵入して水分子と容易に相互作用し、乾燥過程で水分子とともに揮発される。有機溶媒が適度な極性を有する場合は、繊維からの水分子の除去が促進されるので、繊維中のタンパク質の配向性が高くなり、繊維の弾性率が増加する。有機溶媒の極性が低すぎる場合はタンパク質繊維内部に有機溶媒が浸透しにくいので、繊維内部の水分子が除去されにくい。有機溶媒の極性が高すぎると有機溶媒が繊維内にとどまり、水分子とともに繊維を膨潤させる。有機溶媒の極性が低すぎる場合も、高すぎる場合も、繊維中のタンパク質の配向性が高くならず、繊維の弾性率が増加しない。
【0015】
当業者は、繊維性タンパク質溶液をノズル等から有機溶媒水溶液中に吐出し、得られたタンパク質繊維の強度を公知の引張試験により測定することにより、繊維性タンパク質の種類に応じた溶媒の種類および濃度を選択することができる。
【0016】
繊維性タンパク質は、長い繊維状の構造をとるタンパク質で、多くの繊維性タンパク質は生体の結合組織、腱、骨、骨格筋を構成している。繊維性タンパク質としては、コラーゲン、ケラチン、ミオシン、エラスチン、レジリン、シルクタンパク質、アミロイドなどが例示されるが、これらに限定されない。繊維性タンパク質のファミリーも含まれる。例えば、コラーゲンという場合、I型、II型、III型、V型、XI型コラーゲン、アテロコラーゲンなどが含まれる。繊維性タンパク質はいかなる動物のいかなる部位に由来するものであってもよい。生体からの繊維性タンパク質の取得、精製方法は公知である。繊維性タンパク質は野生型タンパク質であってもよく、変異型タンパク質であってもよく、修飾されたものであってもよい。繊維性タンパク質は、生体組織から抽出されたものであってもよく、ペプチドの化学合成法や遺伝子組換え法などの方法により人工的に製造されたものであってもよい。望まれるタンパク質繊維の強度、形状などの物理的性質、および化学的、生物学的性質に応じて、繊維性タンパク質の種類を選択し、あるいは公知の方法にて変異や修飾を加えることができる。
【0017】
繊維性タンパク質溶液は、繊維性タンパク質を溶媒に溶解することにより調製することができる。繊維性タンパク質を溶解する溶媒の種類は特に限定されず、繊維性タンパク質の種類、濃度、必要とされる繊維の強度などに応じて適宜選択することができる。溶媒の例としては、水、イオン液体、リン酸緩衝食塩水、培養液、およびこれらの混合物などが挙げられる。繊維性タンパク質溶液中の繊維性タンパク質の濃度は、繊維性タンパク質の種類、溶媒の種類、必要とされる繊維の強度などに応じて適宜選択することができる。繊維性タンパク質の濃度は、例えば0.5~20重量%、1~10重量%、2~7重量%などであってもよい。溶媒はバッファー、塩類、イオン液体電解質などを含んでいてもよい。
【0018】
有機溶媒の水溶液中への繊維性タンパク質溶液の吐出は公知の方法で行うことができ、例えばノズルや注射針などを用いて行われ得る。通常は、繊維性タンパク質を水溶液として吐出する。吐出口のサイズや形状、および吐出速度などの条件は、望まれるタンパク質繊維の形状や強度に応じて変更することができる。繊維性タンパク質溶液の吐出を、公知の湿式紡糸法に準じて行ってもよい。公知の液中プリント法と3Dプリンタを組み合わせて用いて繊維性タンパク質を吐出して、血管や臓器の形態に合わせて造形してもよい。
【0019】
有機溶媒の水溶液の温度は特に限定されないが、得られる繊維の強度を低下させない温度であることが望ましい。有機溶媒の水溶液の温度は、繊維性タンパク質の種類、有機溶媒の種類および濃度などに応じて適宜選択することができる。そのような温度としては、0℃~10℃、10℃~20℃、20℃~30℃、30℃~40℃、40℃~50℃、および室温などが例示されるが、これらの温度に限定されない。
【0020】
有機溶媒の水溶液は、有機溶媒および水のほか、例えば無機塩類、有機塩類、タンパク質、増殖因子、有機低分子化合物、無機物などを含んでいてもよい。ただし、これらの物質は、使用する有機溶媒の水溶液に溶解しうる、または分散しうるものである。
【0021】
有機溶媒の水溶液中に吐出された繊維性タンパク質の繊維を乾燥させる前に延伸してもよい。延伸は公知の方法にて行うことができる。延伸は、有機溶媒の水溶液中で繊維形成中に、あるいは繊維乾燥中に行うことが好ましい。
【0022】
繊維性タンパク質の繊維を架橋してもよい。架橋方法は公知であり、例えばホルムアルデヒド、グルタルアルデヒド、カルボジイミドなどの架橋剤を用いる架橋、トランスグルタミナーゼを用いる架橋などが挙げられるが、これらの架橋法に限定されない。繊維を架橋することにより、繊維の強度を増加させることができるだけでなく、繊維の水溶液中での再溶解を防止することもできる。
【0023】
本発明の方法において、繊維性タンパク質溶液を有機溶媒水溶液中に吐出することにより得られた繊維を乾燥させる。乾燥は公知の方法にて行うことができる。風乾、通気乾燥、減圧乾燥、凍結乾燥などを用いることができるが、乾燥方法はこれらに限定されない。
【0024】
本発明の方法により製造されるタンパク質繊維の形状は、繊維の用途等に応じて様々なものとすることができる。糸状のほか、棒状、針状、柱状、板状、フィルム状、球状、ブロック状などにタンパク質繊維を成形してもよい。繊維をより合わせる、あるいは織るなどして強度を増強してもよい。
【0025】
本発明の方法により、高弾性率を有するタンパク質繊維を得ることができる。乾燥工程において減圧乾燥を用いることにより、さらに弾性率の高いタンパク質繊維を得ることができる。本発明の方法において得られるタンパク質繊維の弾性率は2GPa~3GPaまたはそれ以上であり得る。本発明の方法において、減圧乾燥等を用いてタンパク質繊維を十分に乾燥させることにより、より弾性率の高い繊維を得ることができる。本発明の方法において、乾燥を減圧乾燥にて行った場合のタンパク質繊維の弾性率は5GPa~10GPaまたはそれ以上であり得る。また、本発明の方法において、乾燥を減圧乾燥にて行った場合のタンパク質繊維の引張強度は1GPa~2GPaまたはそれ以上であり得る。引張強度や弾性率は引張強度試験装置を用いて測定および算出することができる。様々な引張強度試験装置が考案され、市販されており、適宜使用することができる。
【実施例1】
【0026】
1.有機溶媒の種類および濃度の検討
繊維性タンパク質としてブタ皮膚由来I型アテロコラーゲン(日本ハム(株)から提供)を用い、その水溶液(1重量%(wt%))を調製した。0.5mLのI型アテロコラーゲン水溶液を50mLの各有機溶媒水溶液中へシリンジポンプを用いて吐出し、繊維を得た。試験した有機溶媒は2-プロパノール、エタノール、メタノール、アセトン、アセトニトリル、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、およびジメチルスルホキシド(DMSO)であった。有機溶媒濃度は50%、60%、70%、80%、90%、100%とした。得られた繊維を5分間風乾し、引張弾性率を測定した。結果を図1に示す。繊維の弾性率は、アセトニトリル、アセトンおよびメタノールを用いた場合に高くなった。アセトニトリルの場合、濃度50~80%で繊維の弾性率が比較的高くなり、濃度60~70%でさらに繊維の弾性率が高くなり、濃度60%で繊維の弾性率が最高となった(約3GPa)。アセトンの場合、濃度50~90%で繊維の弾性率が比較的高くなり、濃度60~80%でさらに繊維の弾性率が高くなり、濃度80%で繊維の弾性率が最高となった(約2.7GPa)。メタノールの場合、濃度50~70%で繊維の弾性率が比較的高くなり、濃度60%で繊維の弾性率が最高となった(約2.7GPa)。各有機溶媒の水溶液を用いて得られたコラーゲン繊維の弾性率の最高値と有機溶媒の極性度の関係を図2にまとめた。これらの結果から、有機溶媒の極性度が5~6である場合に、コラーゲン繊維の弾性率が高くなる傾向が示された。一方、有機溶媒の極性率が5~6よりも低い、あるいは高い場合は、コラーゲン繊維の弾性率が低くなる傾向が示された。
【0027】
2.繊維中のタンパク質の配向性の検討
60%アセトニトリルを用いて作製したI型コラーゲン繊維、および100%アセトニトリルを用いて作製したI型コラーゲン繊維のX線回折測定を行った。繊維は風乾したものを用いた。結果を図3に示す。60%アセトニトリルを用いて作製したI型コラーゲン繊維では、矢印で示す3ヘリックスコラーゲン分子の左巻らせん鎖に特徴的なピークが見られ、繊維中のコラーゲン分子の配向性が高いことが示された。一方、100%アセトニトリルを用いて作製したI型コラーゲン繊維では、これらのピークが消失し、繊維の変性が示された。これらの結果から、弾性率が高い繊維では配向性が高いことがわかった。
【0028】
3.コラーゲン濃度および乾燥方法の検討
ブタ皮膚由来I型アテロコラーゲンの水溶液(2wt%)を調製し、上記と同様にして60%アセトニトリル水溶液中に吐出し、得られた繊維を5分間風乾した後、一晩減圧乾燥し、引張弾性率を測定した。その結果、約10GPaという超高弾性率繊維が得られた(図4グラフ)。この弾性率はクモの糸に匹敵するか、それを上回るものであった。図4の左上の写真は減圧乾燥後の繊維、右上の写真は60%アセトニトリル水溶液中で膨潤した繊維を示す。本実験により得られたタンパク質繊維の弾性率および引張応力を、既存の繊維や骨、腱と比較して表1に示す。
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明により得られるタンパク質繊維は極めて高い弾性率を示し、生体適合性に優れているため、再生医療や生分解性高強度材料に応用することができる。
図1
図2
図3
図4