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特許7630158ポリマー-環状分子構造体及びその製造方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-06
(45)【発行日】2025-02-17
(54)【発明の名称】ポリマー-環状分子構造体及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08G 65/331 20060101AFI20250207BHJP
   C08L 71/02 20060101ALI20250207BHJP
   C08B 37/16 20060101ALI20250207BHJP
   C07D 323/00 20060101ALI20250207BHJP
   A61K 47/61 20170101ALI20250207BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20250207BHJP
   A61K 47/69 20170101ALI20250207BHJP
   A61K 47/54 20170101ALI20250207BHJP
   C09K 11/06 20060101ALI20250207BHJP
【FI】
C08G65/331
C08L71/02
C08B37/16
C07D323/00
A61K47/61
A61K45/00
A61K47/69
A61K47/54
C09K11/06
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2021023787
(22)【出願日】2021-02-17
(65)【公開番号】P2021130814
(43)【公開日】2021-09-09
【審査請求日】2023-12-27
(31)【優先権主張番号】P 2020027578
(32)【優先日】2020-02-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 (その1) 掲載年月日 令和1年7月30日 掲載アドレスhttps://doi.org/10.1016/j.polymer.2019.121689(その2) 掲載年月日 令和1年8月1日 掲載アドレス http://www.pharm.kobegakuin.ac.jp/▲~▼cds36/program/program.html(その3) 開催日 令和1年9月12日~令和1年9月13日 公開日 令和1年9月12日 集会名、開催場所 第36回シクロデキストリンシンポジウム 神戸学院大学ポートアイランドキャンパス(兵庫県神戸市中央区港島1-1-3)(その4) 刊行物名 第28回ポリマー材料フォーラム予稿集 発行日 令和1年11月6日 発行者名 公益社団法人 高分子学会(その5) 開催日 令和1年11月21日~令和1年11月22日 公開日 令和1年11月21日 集会名、開催場所 第28回ポリマー材料フォーラム ウインクあいち(愛知県名古屋市中村区名駅4丁目4-38)(その6) 掲載年月日 令和1年11月20日掲載アドレス https://www.mrs-j.org/meeting2019/jp/(その7) 開催日 令和1年11月27日~令和1年11月29日 公開日 令和1年11月27日 集会名、開催場所 第29回日本MRS年次学会 横浜市開港記念会館(横浜市中区本町1丁目6番地)
(73)【特許権者】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 耕三
(72)【発明者】
【氏名】前田 利菜
(72)【発明者】
【氏名】上沼 駿太郎
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 季美香
【審査官】櫛引 智子
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-261134(JP,A)
【文献】国際公開第2020/013215(WO,A1)
【文献】特開2018-016671(JP,A)
【文献】Christophe TRAVELET et al.,Temperature-Dependent Structure of α-CD/PEO-Based Polyrotaxanes in Concentrated Solution in DMSO: Kinetics and Multiblock Copolymer Behavior,Macromolecules,2010年01月29日,Vol. 43,No. 4,p.1915-1921
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G,C08L,C08B
C07D,A61K,C09K
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
環状分子の開口部に串刺し状に包接される鎖状ポリマーを備えた擬ポリロタキサン及び/又はポリロタキサンを複数有してなる構造体であって、
前記鎖状ポリマーの両端が、複数の環状分子からなるカラムに収容されており、
複数の擬ポリロタキサン及び/又はポリロタキサンのうちの少なくとも一部が、互いに直列に並んでおり、相互作用し、かつ
複数の擬ポリロタキサン及び/又はポリロタキサンのうちの少なくとも一部が、互いに並列に並んでいる、構造体。
【請求項2】
前記鎖状ポリマーが一本鎖である請求項1に記載の構造体。
【請求項3】
前記鎖状ポリマーが、1つの鎖状ポリマー当たり3つ以上の環状分子の開口部に串刺し状に包接される請求項1又は2に記載の構造体。
【請求項4】
鎖状ポリマーに結合されるか、環状分子に結合されるか、複数の擬ポリロタキサン及び/又はポリロタキサンの間の空間、1つの環状分子により区画形成される開口部、複数の環状分子により区画形成される空間の内部に保持される物質をさらに含む請求項1~のいずれかに記載の構造体。
【請求項5】
前記物質は薬剤、蛍光物質、及び発色酵素からなる群から選択される少なくとも一つである請求項に記載の構造体。
【請求項6】
前記鎖状ポリマーの長さが1nm~2000nmである請求項1~のいずれかに記載の構造体。
【請求項7】
前記鎖状ポリマーがポリエチレングリコール(PEG)又はポリプロピレングリコール(PPG)からなる部分を含む請求項1~のいずれかに記載の構造体。
【請求項8】
前記環状分子が、シクロデキストリン、クラウンエーテル、ピラーアレン、カリックスアレン、シクロファン、及びこれらの誘導体からなる群から選択される少なくとも一つである請求項1~のいずれかに記載の構造体。
【請求項9】
前記構造体を貫通し、1つの擬ポリロタキサン及び/又はポリロタキサンが占める体積よりも大きい空間を占める前記1又は複数の貫通孔が設けられている請求項1~のいずれかに記載の構造体。
【請求項10】
環状分子の開口部に串刺し状に包接される鎖状ポリマーを備えた擬ポリロタキサン及び/又はポリロタキサンを複数有してなる構造体であって、
複数の擬ポリロタキサン及び/又はポリロタキサンのうちの少なくとも一部が、互いに直列に並んでおり、
複数の擬ポリロタキサン及び/又はポリロタキサンのうちの少なくとも一部が、互いに並列に並んでおり、かつ
前記構造体を貫通し、1つの擬ポリロタキサン及び/又はポリロタキサンが占める体積よりも大きい空間を占める前記1又は複数の貫通孔が設けられている構造体。
【請求項11】
前記構造体は、以下の(a)~(c)のいずれかである請求項1~10のいずれかに記載の構造体。
(a)鎖状ポリマーの重量平均分子量は200~10000であるロッド状の構造体。(b)鎖状ポリマーの重量平均分子量が1000~20000であるキューブ状の構造体。(c)鎖状ポリマー10の重量平均分子量が2000~200000であるシート状の構造体。
【請求項12】
環状分子の開口部に串刺し状に包接される鎖状ポリマーを備えた擬ポリロタキサン及び/又はポリロタキサンを複数有してなる構造体の製造方法であって、
鎖状ポリマーの両端が複数の環状分子からなるカラムに収容された複数の擬ポリロタキサン及び/又はポリロタキサンを相互作用させて、前記複数の擬ポリロタキサン及び/又はポリロタキサンのうちの少なくとも一部を互いに直列に配置させるとともに、互いに並列に配置させる工程を含む方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、環状分子の開口部を串刺し状に包接する鎖状ポリマーを備えた擬ポリロタキサン及び/又はポリロタキサンを複数有してなる構造体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
厚みが100nm以下のナノシートは、近年、薬剤、触媒、光学材料、電極、生体材料などへの応用開発が進んでいる。特許文献1には、シクロデキストリン等の環状分子の開口部が直鎖状分子によって串刺し状に包接されてなる擬ポリロタキサン及び/又はポリロタキサンを複数有して成る単離ナノシートであって、前記直鎖状分子は、その一部が、水又は水溶液中で電離する電離基を有する第1の直鎖状分子を有する、単離ナノシートが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】WO2020/013215
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載されているような、厚み方向に1つの擬ポリロタキサン及び/又はポリロタキサン分子が並ぶ単層のナノシートは薄いため、シートの中に薬剤等の物質を多量に含有することができない。このため、環状分子の開口部鎖状ポリマー串刺し状に包接されてなる擬ポリロタキサン及び/又はポリロタキサンが、並列に延びるだけでなく、直列にも延びる構造体が設計できれば有利である。
【0005】
鎖状ポリマーの長さを長くすればシートの厚みを増大させることもできるが、一本の鎖状ポリマー多数の環状分子包接しなければならず、そのような擬ポリロタキサン及び/又はポリロタキサンの製造は反応に要するエネルギーが大きく、コスト、及び時間がかかる。
【0006】
本発明が解決すべき課題は、従来のナノシートよりも厚みのある擬ポリロタキサン及び/又はポリロタキサンを複数有してなる構造体及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記の課題解決のため鋭意検討した結果、擬ポリロタキサン及び/又はポリロタキサンを構成する鎖状ポリマーの両端が複数の環状分子からなる柱状構造すなわちカラムよりも突出せずに収容されるよう鎖状ポリマーの構造を設計したところ、隣り合う擬ポリロタキサン及び/又はポリロタキサンの隣り合う環状分子の非共有結合相互作用により複数の擬ポリロタキサン及び/又はポリロタキサンを直列に積み重ねられることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
本発明は、以下に記載の実施形態を包含する。
項1.環状分子の開口部串刺し状に包接される鎖状ポリマーを備えた擬ポリロタキサン及び/又はポリロタキサンを複数有してなる構造体であって、
複数の擬ポリロタキサン及び/又はポリロタキサンのうちの少なくとも一部が、互いに直列に並んでいる構造体。
項2.前記鎖状ポリマーが一本鎖である項1に記載の構造体。
項3.前記鎖状ポリマーが、1つの鎖状ポリマー当たり3つ以上の環状分子の開口部串刺し状に包接される項1又は2に記載の構造体。
項4.複数の擬ポリロタキサン及び/又はポリロタキサンのうちの少なくとも一部が、互いに並列に並んでいる項1~3のいずれかに記載の構造体。
項5.鎖状ポリマーに結合されるか、環状分子に結合されるか、複数の擬ポリロタキサン及び/又はポリロタキサンの間の空間、1つの環状分子により区画形成される開口部、複数の環状分子により区画形成される空間の内部に保持される物質をさらに含む項1~4のいずれかに記載の構造体。
項6.前記物質は薬剤、蛍光物質、及び発色酵素からなる群から選択される少なくとも一つである項5に記載の構造体。
項7.前記鎖状ポリマーの長さが1nm~2000nmである項1~6のいずれかに記載の構造体。
項8.前記鎖状ポリマーがポリエチレングリコール(PEG)又はポリプロピレングリコール(PPG)からなる部分を含む項1~7のいずれかに記載の構造体。
項9.前記環状分子が、シクロデキストリン、クラウンエーテル、ピラーアレン、カリックスアレン、シクロファン、及びこれらの誘導体からなる群から選択される少なくとも一つである項1~8のいずれかに記載の構造体。
項10.前記構造体を貫通し、1つの擬ポリロタキサン及び/又はポリロタキサンが占める体積よりも大きい空間を占める前記1又は複数の貫通孔が設けられている項1~9のいずれかに記載の構造体。
項11.前記構造体は、以下の(a)~(c)のいずれかである項1~10のいずれかに記載の構造体。
(a)鎖状ポリマーの重量平均分子量は200~10000であるロッド状の構造体。(b)鎖状ポリマーの重量平均分子量が1000~20000であるキューブ状の構造体。
(c)鎖状ポリマー10の重量平均分子量が2000~200000であるシート状の構造体。
項12.環状分子の開口部串刺し状に包接される鎖状ポリマーを備えた擬ポリロタキサン及び/又はポリロタキサンを複数有してなる構造体の製造方法であって、
鎖状ポリマーの両端が複数の環状分子からなるカラムに収容された複数の擬ポリロタキサン及び/又はポリロタキサンを相互作用させて、前記複数の擬ポリロタキサン及び/又はポリロタキサンのうちの少なくとも一部を互いに直列に配置させる工程を含む方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、鎖状ポリマーの軸方向(鎖状ポリマー包接する環状分子の軸方向)により厚みのある構造体が提供される。また、そのような構造体の製造方法は、エネルギー、コスト又は製造時間が低減されている点で有利である。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】(A)環状分子と鎖状ポリマーを示す略図。(B)擬ポリロタキサン及び/又はポリロタキサン単位を示す略図。
図2】複数の擬ポリロタキサンが凝集することにより形成された本発明の一実施形態の構造体の略斜視図。
図3】鎖状ポリマーの分子量と構造体の形状の関係を示す略図。(A)PEOが短鎖の場合のロッド状の構造体の製造例、(B)PEOが(A)より長い場合のキューブ状の構造体の製造例、(C)PEOが(B)よりさらに長い場合のシート状の構造体の製造例、(D)PEOが(C)よりさらに長い場合の単層ナノシート状の構造体の製造例。
図4】(A)分岐したPEO、(B)(A)の分岐PEOを用いた構造体のシートの模式図、(C)(B)のシートの連結状態を示す模式図。
図5】(A)-(F)鎖状ポリマー中の異なる組成の部分(セグメント)に対するγ-CDの化学結合の順序と構造体の形状の関係を示す図。(A)中央の部分がPPOでその両端が0.2KのPEOである3つのセグメントを有するトリポリマー、(B)中央の部分がPPOでその両端が1.1KのPEOである3つのセグメントを有するトリポリマー、(C)中央の部分がPPOでその両端が6.5KのPEOである3つのセグメントを有するトリポリマー、(D)図5(A)の鎖状ポリマーを用いて形成される構造体の模式図(左)と、丸で囲んだ部分の拡大図(右)、(E)図5(B)の鎖状ポリマーを用いて形成される構造体の模式図(左)と、丸で囲んだ部分の拡大図(右)、(F)図5(C)の鎖状ポリマーを用いて形成される構造体の模式図(左)と、丸で囲んだ部分の拡大図(右)。
図6】(A)鎖状ポリマーがポリプロピレンオキシド(PPO)である擬ポリロタキサンの略正面図、(B)鎖状ポリマーがポリエチレンオキシド(PEO)である擬ポリロタキサンの略正面図、(C)鎖状ポリマーが一連の環状分子からなるカラムの端から端まで伸びている擬ポリロタキサンの略正面図、(D)鎖状ポリマーが6つの環状分子からなるカラムの下端を超えて伸びているが上端までは伸びていない擬ポリロタキサンの略正面図、(E)鎖状ポリマーが6つの環状分子からなるカラムの上端にも下端にも達していない擬ポリロタキサンの略正面図、(F)鎖状ポリマーを有しない一連の環状分子を示す略正面図。
図7】貫通孔を備えた構造体の特定の実施形態の略斜視図。
図8】(A)PPR_EO400の形成における肉眼観察時の写真、(B)光学顕微鏡観察の写真、(C)SEM観察の写真。
図9】(A)PPR_EO400(重量分子量が400のPEO)の構造体のSEM像、(B)PPR_EO4k(重量分子量が4000のPEO)の構造体のSEM像、(C)PPR_EO6k(重量分子量が6000のPEO)の構造体のSEM像、(D)PPR_EO20k(重量分子量が20000のPEO)の構造体のSEM像。
図10】PPR_EO400、PPR_EO2k、PPR_EO4k、PPR_EO6k、及びPPR_EO20kのそれぞれのWAXSプロファイル。
図11】(A)PPR_PO400(重量分子量が400のPPO)の構造体のSEM像、(B)PPR_PO2k(重量分子量が2000のPPO)の構造体のSEM像、(C)PPR_PO4k(重量分子量が4000のPPO)の構造体のSEM像、
図12】(A)PPR_EO4PO56EO4のSEM像、(B)PPR_EO25PO56EO25のSEM像(C)PPR_EO147PO56EO147のSEM像、(D)PPR_EO147PO56でのWAXSプロファイル、(E)PPR_EO147PO56のAFM像と高さプロファイル
図13】貫通孔を有するナノシートの顕微鏡写真。
図14】実施例6のマイクロ構造体の顕微鏡写真。
図15】実施例7のマイクロ構造体の顕微鏡写真。
図16】(A)~(D)実施例8のマイクロ構造体の顕微鏡写真。
図17】実施例9の構造体の顕微鏡写真。
図18】実施例10のマイクロ構造体の顕微鏡写真。
図19】実施例11のマイクロ構造体の顕微鏡写真。(A)低倍率、(B)高倍率。スケールバーはそれぞれ長さを示す。
図20】実施例12の構造体の顕微鏡写真。(A)低倍率、(B)中倍率(図20Aの点線で囲んだ部分を拡大)、(C)高倍率(図20Bの点線で囲んだ部分を拡大)。スケールバーはそれぞれ長さを示す。
図21】実施例13の構造体の顕微鏡写真。右上の挿入図は拡大写真である。
図22】実施例14のマイクロ構造体の顕微鏡写真。(A)位相差顕微鏡、(B)蛍光顕微鏡。スケールバーはそれぞれ長さを示す。
図23】実施例15のSkin_β-CD/EO75PO30EO75構造体の顕微鏡写真。(A)付着前、(B)付着後。
図24】実施例15のhair_β-CD/EO75PO30EO75構造体の顕微鏡写真。(A)付着前、(B)付着後。
図25】実施例15のlens_β-CD/EO75PO30EO75構造体の顕微鏡写真。(A)付着前、(B)付着後。
図26】実施例15のeye_PPR_EO147PO56EO147構造体の顕微鏡写真。
図27】実施例16のβ-CD/EO75PO30EO75の構造体の入射光の波長に対する吸光度。
図28】(A)多孔膜、(B)pоre-β-CD/EO75PO30EO75(5mL)及び(C)pоre-β-CD/EO75PO30EO75(20mL)のSEM像。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態を図面を参照しながら説明する。
【0012】
本明細書において、ポリマーとは、単量体であるモノマーに由来する繰り返し構造を有する分子からなる化合物を指す。鎖状ポリマーは一本鎖ポリマーであることが好ましいが、環状分子が鎖状ポリマーの上を移動又は回転可能である場合、鎖状ポリマーは主鎖から分岐を有するポリマーであってもよい。
【0013】
本明細書において、構造体の厚み方向とは、擬ポリロタキサン及び/又はポリロタキサン単位の長手方向、換言すると、擬ポリロタキサン及び/又はポリロタキサンを構成する鎖状ポリマーの長手方向に沿った方向及び/又は環状分子の軸方向に沿った方向を指す。
【0014】
本明細書において、構造体の形成の確認は、小角X線散乱測定、位相差光学顕微鏡観察、原子間力顕微鏡観察、走査型電子顕微鏡観察により行うことができる。
【0015】
本明細書において、「ポリロタキサン」とは、環状分子と、環状分子の開口部串刺し状に包接される鎖状ポリマーとからなる分子集合体であって、鎖状ポリマーの両末端に環状分子が鎖状ポリマーから脱離するのを防止する封鎖基を有する分子集合体を指す。「擬ポリロタキサン」とは、環状分子と、環状分子の開口部を串刺し状に包接する鎖状ポリマーとからなる分子集合体であって、鎖状ポリマーの一方の末端だけに上記封鎖基を有するか、又は鎖状ポリマーのいずれの末端にも上記封鎖基を有しない分子集合体を指す。
【0016】
本明細書において、「シクロデキストリン」とは、D-グルコースがα-1,4グリコシド結合して環状構造をとる環状オリゴ糖を指す。
【0017】
本明細書において、ポリエチレンオキシド(PEO)のうち重量平均分子量が20000以下のものを互換的にポリエチレングリコール(PEG)と称する場合がある。
【0018】
本明細書において、ポリプロピレンオキシド(PPO)のうち重量平均分子量が20000以下のものを互換的にポリプロピレングリコール(PPG)と称する場合がある。
【0019】
図1(A)に環状分子20と鎖状ポリマー10を示す。環状分子20は中空略円錐台形の本体22と、本体22により区画形成される開口部24とを備えている。鎖状ポリマー10はポリマー本体12を有し、この例ではポリマー本体12の片方の端部に電離基又は非電離基からなる修飾基18を備えている。図1(B)に、環状分子20の開口部24串刺し状に包接される鎖状ポリマー10を備えた擬ポリロタキサン及び/又はポリロタキサン2を示す。この図では、鎖状ポリマー10は、3つのいずれの環状分子20の開口部24の内部にも延びているが、鎖状ポリマー10の両端14,16は開口部6の両端には達しておらず、3つの連なった環状分子20により区画形成される開口部6に鎖状ポリマー10の全体が収容された状態にある。
【0020】
理論に束縛されることを望まないが、図1(B)に示される擬ポリロタキサン及び/又はポリロタキサン2において、その中央部分に存在する環状分子20はカラム状すなわち柱状に凝集し、カラム化して外表面が疎水性になる。このため、複数の擬ポリロタキサン及び/又はポリロタキサン21が、疎水性のカラム化した環状分子20を介して互いに自己組織的に集合し、図2の一実施形態に示すような、構造体1を形成する。このとき、一つの鎖状ポリマー10に対して複数の環状分子20が凝集しているため、鎖状ポリマー10は略直線状に引き伸ばされており、鎖状ポリマー10上に環状分子20が存在しない場合に比べて鎖状ポリマー10間の立体障害が少ない。このため、構造体1内で鎖状ポリマー24はより高密度に並ぶことができる。構造体1の構成については後で詳しく説明する。
【0021】
本発明者は、以前に環状分子の開口部串刺し状に包接される鎖状ポリマーを備えた擬ポリロタキサン及び/又はポリロタキサンを複数有してなる単離ナノシートを製造したが、ナノシートの厚み方向に1つの擬ポリロタキサン及び/又はポリロタキサンが並ぶ単層のナノシートは薄いため、シートの中に薬剤等の物質を多量に含有することができない等の問題があった。
【0022】
そこで今回、本発明者は、擬ポリロタキサン及び/又はポリロタキサンを構成する鎖状ポリマーの両端が複数の環状分子からなる柱状構造すなわちカラムに収容されるよう鎖状ポリマーの構造を設計したところ、驚くべきことに、隣り合う擬ポリロタキサン及び/又はポリロタキサンの隣り合う環状分子の非共有結合相互作用により、複数の擬ポリロタキサン及び/又はポリロタキサンを直列に積み重ねられることを見出した。非共有結合相互作用としてはイオン結合、水素結合、ファンデルワールス力等が挙げられるがこれらに限定されない。
【0023】
さらに、鎖状ポリマーの構造を種々の条件で設計することにより、複数の擬ポリロタキサン及び/又はポリロタキサンから構成される構造体の構造の制御を試みた。その結果、鎖状ポリマーの分子量、親水性及び疎水性、トポロジー、ポリマーブロックを変更することにより、構造体の形状を制御することを見出した。
【0024】
例えば環状分子20がγ-シクロデキストリン(以下、γ-CD)、鎖状ポリマー10がポリエチレンオキシド(PEO)である構造体を用いて説明する。
【0025】
まず、鎖状ポリマーの分子量の効果に関し、PEO軸の長さに対する構造体の結晶成長の依存性を図3(A)-(C)に要約する。鎖状ポリマー10がPEOの場合、環状分子20は鎖状ポリマー10と二本鎖複合体を形成する。
【0026】
図3(A)に示すように、鎖状ポリマー10の分子量が小さく短軸であると、擬ポリロタキサン及び/又はポリロタキサン2がc軸方向すなわち鎖状ポリマー10の主軸に平行な方向に長く積み重なったロッド状の構造体が形成される。つまり、c軸方向の環状分子20の結晶成長が、c軸に垂直なa軸及びb軸方向の結晶成長よりも早いことを示している。これに対して、鎖状ポリマー10の軸が長くなるにつれて、構造体のc軸方向の側面長さはより短くなる。これはより長い鎖状ポリマー10ではc軸と比較してa軸及びb軸に沿って環状分子20の結晶成長が速いことを示している。擬ポリロタキサン及び/又はポリロタキサン2の長さが短いと、より長い擬ポリロタキサン及び/又はポリロタキサン2よりも横方向の相互作用が弱く、c軸方向に擬ポリロタキサン及び/又はポリロタキサン2が延びていくと考えられる。
【0027】
図3(B)に示す例では、鎖状ポリマー10の長さを図3(A)より長くすると、図3(A)よりも横方向の相互作用が大きくなり、c軸方向の長さとa軸及びb軸方向の長さが等しいキューブ状の構造体が形成される。
【0028】
図3(C)に示す例では、鎖状ポリマー10の長さを図3(B)よりさらに長くすると、c軸方向よりもa軸及びb軸方向に長いシート状の構造体が形成される。
【0029】
鎖状ポリマー10の長さを図3(C)よりさらに長くすると、図3(D)に示すように、鎖状ポリマー10が折れ曲がるようになり、鎖状ポリマー10の屈曲箇所が環状分子20のc軸に沿った結晶成長を妨げ、シート状の構造体が形成される。環状分子20から鎖状ポリマー10の屈曲箇所を含む部分が突出する。このように、鎖状ポリマー10の長さ又は分子量を変更することにより、環状分子20により形成される構造体の結晶の挙動を制御することができる。
【0030】
次に、鎖状ポリマー10の親水性及び疎水性の効果について説明する。環状分子20をγ-CD、鎖状ポリマー10をPEOとしたときは、上述のように分子量の変化に伴い種々の形状の構造体が形成される。これに対し、親水性のPEOの代わりに鎖状ポリマー10を疎水性のポリプロピレンオキシド(PPO)とすると、鎖状ポリマー10が長くなるにつれてc軸方向の長さがa,b軸方向の長さより大きいロッド状、c軸方向の長さがa,b軸方向の長さとほぼ等しいキューブ状、c軸方向の長さがa,b軸方向の長さより小さいシート状、そしてランダム(無秩序)形状へと変化する。このように、鎖状ポリマー10の親水性及び疎水性も構造体の結晶の挙動に影響を及ぼし得る。
【0031】
理論に束縛されることを望まないが、上記の現象は、鎖状ポリマー10が親水性である場合には構造体の表面で水和が起こり構造が安定化するのに対し、鎖状ポリマー10が疎水性である場合には疎水性凝集がγ-CDの結晶化と競合し、無秩序になると考えられる。
【0032】
次に、鎖状ポリマー10のトポロジーの効果について説明する。鎖状ポリマー10が一本鎖のPEOの場合は、上述のように分子量の変化に伴い種々の形状の構造体が形成される。これに対し、図4(A)分岐部Pを有するPEOを鎖状ポリマー10'として用いると、図4(B)に示すように、分岐点Pが結晶成長を抑制し、均一な厚さのシート状の構造体が形成されるものの、図4(C)に示すように鎖状ポリマー10'が橋掛けとなりシート同士が連結するこのように、鎖状ポリマー10のトポロジーは構造体の結晶の挙動に影響を及ぼし得る。
【0033】
次に、ポリマーブロックの構成の変更の効果について説明する。例えば図5(A)-(C)に示す、中央のブロックが分子量3.3k(「k」はキロを指す、以下同様)のPPO及びその両側のブロックが分子量それぞれ0.2k、1.1k、6.5kのPEOであるブロックトリブロックポリマーを鎖状ポリマー10として使用する。この場合、図5(D)-(F)に示すブロック構造体がそれぞれ形成される。いずれの場合も、γ-CDに対する相互作用の強度は、γ-CDとPPOの相互作用の方がγ-CDとPEOの相互作用よりも強く、鎖状ポリマー10の軸方向の中央にγ-CDが局在化する。これを利用すると、鎖状ポリマーの中央に疎水性のPPOブロックを配置し、両端に親水性のPEOブロックを配置し、PEOブロックの長さを十分に長くすることで、鎖状ポリマー10の両端のPEOブロックは複数のγ-CDからなるカラムから突出し、単一の厚さを有する単層シート、つまり厚さ方向に1つの擬ポリロタキサン及び/又はポリロタキサン分子が並ぶシートを製造することができる。
【0034】
ここで、本発明の一実施形態の構造体の構造について説明する。
【0035】
図2に示すように、本発明の一実施形態の構造体1は、擬ポリロタキサン及び/又はポリロタキサン2を複数有し、各擬ポリロタキサン及び/又はポリロタキサン2は、環状分子20の開口部串刺し状に包接される鎖状ポリマー10を備え、複数の擬ポリロタキサン及び/又はポリロタキサン2のうちの少なくとも一部が、互いに直列に並んでいる。また、複数の擬ポリロタキサン及び/又はポリロタキサン2のうちの別の一部が、互いに並列に並んでいる。構造体1のシートの厚み方向、該シートの厚み方向に垂直な2つの方向のそれぞれに、複数の擬ポリロタキサン及び/又はポリロタキサン2が並んでいる。具体的には、この図では2個の擬ポリロタキサン及び/又はポリロタキサンが直列に並び、17個×10個の2個1組の擬ポリロタキサン及び/又はポリロタキサン2が並列に並んでいる。
【0036】
「擬ポリロタキサン及び/又はポリロタキサンを複数有する」とは、擬ポリロタキサンを複数有するか、ポリロタキサンを複数有するか、擬ポリロタキサン及び/又はポリロタキサンを少なくとも一つずつ有することを指す。
【0037】
「複数の擬ポリロタキサン及び/又はポリロタキサンが互いに直列に並んでいる」とは、複数の擬ポリロタキサン及び/又はポリロタキサンが、それらの環状分子の軸方向に積み重なって並んでいることを指す。互いに直列に並ぶ擬ポリロタキサン及び/又はポリロタキサンと、別の擬ポリロタキサン及び/又はポリロタキサンとは、それらの軸方向が略一致し、それらの環状分子がほぼ一列に並ぶ関係にあることが好ましいが、環状分子の軸方向に環状分子が積み重なって並んでいれば、軸方向と垂直な方向に個々の環状分子の位置が多少ずれていてもよい。
【0038】
「複数の擬ポリロタキサン及び/又はポリロタキサンが互いに並列に並んでいる」とは、複数の擬ポリロタキサン及び/又はポリロタキサンが、互いに略平行に並んでいることを指す。互いに並列に並ぶ擬ポリロタキサン及び/又はポリロタキサンと、別の擬ポリロタキサン及び/又はポリロタキサンとは、それらの軸方向が略平行にあることが好ましい。
【0039】
構造体1のサイズは特に限定されないが、構造体1の結晶のa軸、b軸、及びc軸方向の寸法が、通常、ナノメートル(1nm以上、1000nm未満)又はマイクロメートル(1μm以上、1000μm未満)のオーダーである。構造体1の粒子サイズにより体内での薬物動態挙動が異なる。例えば、≧2mmで肝臓細胞に取り込まれ、≧300~400nmでマクロファージにより捕捉・排出され、≧200nm脾臓にて処理され、≧100nm血管内皮細胞間を通過する。このため、目的に応じて構造体1のサイズを選択し、構造体1を設計することができる。なお、a軸、b軸、及びc軸のうちの少なくとも一つに沿った寸法が1μm以上である構造体1を本明細書では「マイクロ構造体」と称する場合がある。
【0040】
構造体1は、c軸方向の長さがa,b軸方向の長さより大きいロッド状、c軸方向の長さがa,b軸方向の長さとほぼ等しいキューブ状、c軸方向の長さがa,b軸方向の長さより小さいシート状の形状をとり得る。また、構造体1がシート状の場合、平面視したときのシートの形は略正方形、略直方形、ひし形、多角形(辺の数は3、4、5、6、又はそれ以上)であり得る。さらに、構造体1は、テント状すなわち中空の角錐状、多面体状、柱状(角柱状又は円柱状;中実又は中空であるものを含む)、球状(中実又は中空であるものを含む)の形状をとり得る。図2はシート状の構造体1の例である。
【0041】
構造体1がロッド状の場合、厚み(c軸方向の長さ)は好ましくは100nm以上、より好ましくは100nm~1000μm、さらに好ましくは200nm~100μmであり、a軸及びb軸方向のそれぞれの長さは好ましくは50nm以上、より好ましくは50nm~100μm、さらに好ましくは100nm~10μmである。
【0042】
構造体1がキューブ状の場合、厚み(c軸方向の長さ)及びa軸並びにb軸方向のそれぞれの長さは好ましくは50nm以上、より好ましくは50nm~1000μm、さらに好ましくは100nm~100μmである。
【0043】
構造体1がシート状の場合、厚み(c軸方向の長さ)は好ましくは50nm以上、より好ましくは50nm~100μm、さらに好ましくは100nm~10μmであり、a軸及びb軸方向のそれぞれの長さは好ましくは100nm以上、より好ましくは100nm~1000μm、さらに好ましくは200nm~100μmである。
【0044】
各擬ポリロタキサン及び/又はポリロタキサン2の複数の環状分子20の中には、1本の鎖状ポリマー10が収容されてもよいし、複数(例えば2本)の鎖状ポリマー10が収容されてもよい。
【0045】
鎖状ポリマー10が直鎖であっても分岐を有していてもよいが、構造体の構造を制御し、構造体1同士の連結を防止するために、鎖状ポリマー10は一本鎖であることが好ましい。一つの好ましい実施形態では、構造体1の各擬ポリロタキサン及び/又はポリロタキサン2を構成する複数の鎖状ポリマー10はすべて一本鎖である。別の好ましい実施形態では、構造体1の各擬ポリロタキサン及び/又はポリロタキサン2を構成する複数の鎖状ポリマー10の一部は一本鎖であり、残りの一部は分岐鎖である。
【0046】
擬ポリロタキサン及び/又はポリロタキサン2が封鎖基を有する場合、封鎖基としてはジニトロフェニル基、シクロデキストリン、アダマンタン基、トリチル基、フルオレセイン、ピレン等が挙げられるがこれらに限定されない。封鎖基を鎖状ポリマーに導入する方法は公知であり、例えばHarada et al., Nature, 1992, 356, 325-327の記載の方法を参照することができる。
【0047】
鎖状ポリマー10は、モノマーに由来する繰り返し構造を有し、かかる繰り返し構造を形成する骨格として、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリ(メタ)アクリル酸;セルロース;カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース等の改変セルロース;ポリアクリルアミド、ポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシド、ポリテトラヒドロフラン、ポリビニルアセタール、ポリビニルメチルエーテル、ポリアミン、ポリエチレンイミン、カゼイン、ゼラチン、でんぷん;ポリエチレン及びポリプロピレン等のポリオレフィン、エチレン又はプロピレン等のオレフィンとその他のオレフィンとの共重合体、ポリエステル、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、アクリロニトリル-スチレン共重合体、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体、ポリメチルメタクリレート、(メタ)アクリル酸エステル共重合体、アクリルニトリル-メチルアクリレート共重合体、ポリカーボネート、ポリウレタン、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体、ポリビニルブチラール、ポリイソブチレン、ポリアニリン、ナイロン等のポリアミド、ポリイミド;ポリイソプレン、ポリブタジエン等のポリジエン;ポリシロキサン、ポリスルホン、ポリイミン、ポリ無水酢酸、ポリ尿素、ポリスルフィド、ポリフォスファゼン、ポリケトン、ポリフェニレン、並びにこれらの誘導体からなる群から選ばれることができる。
【0048】
環状分子20との相互作用の点で、鎖状ポリマー10の繰り返し構造は、例えばポリエチレングリコール、ポリイソプレン、ポリイソブチレン、ポリブタジエン、ポリプロピレングリコール、ポリテトラヒドロフラン、ポリジメチルシロキサン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリビニルアルコール、及びポリビニルメチルエーテルからなる群から選ばれる少なくとも1種であることが好ましく、ポリエチレンオキシド及びポリプロピレンオキシドからなる群から選ばれる少なくとも1種であることがより好ましい。
【0049】
鎖状ポリマー10の重量平均分子量は限定されないが、200~200000であることが好ましく、200~50000であることが好ましく、200~20000であることがさらに好ましい。
【0050】
構造体1がロッド状の場合、鎖状ポリマー10の重量平均分子量は200~10000であることが好ましく、200~2000であることが好ましく、200~1000であることがさらに好ましい。
【0051】
構造体1がキューブ状の場合、鎖状ポリマー10の重量平均分子量は1000~20000であることが好ましく、2000~10000であることが好ましく、2000~6000であることがさらに好ましい。
【0052】
構造体1がシートの場合、鎖状ポリマー10の重量平均分子量は2000~200000であることが好ましく、4000~100000であることが好ましく、6000~50000であることがさらに好ましい。
【0053】
一つの好ましい実施形態では、鎖状ポリマー10は水溶性であり、そのような例として、ポリエチレンオキシド(ポリエチレングリコール)、ポリプロピレンオキシド(ポリプロピレングリコール)、ポリビニルアルコール、ポリエチレンイミン、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリアクリルアミド、ヒドロキシプロピルセルロース等のセルロース誘導体、及びポリビニルピロリドンからなる群から選ばれる少なくとも1種が挙げられ、ポリエチレングリコール及びポリプロピレングリコールからなる群から選ばれる少なくとも1種であることがより好ましい。
【0054】
水溶性の鎖状ポリマー10の重量平均分子量は200~200000であることが好ましく、200~50000であることが好ましく、200~20000であることがさらに好ましい。
【0055】
鎖状ポリマー10は1種類のモノマーの重合により形成された部位を有するか、かかる部位のみからなるポリマーでもよいし、2種類のモノマーの重合により形成されたコポリマーを有するか、かかるコポリマーの部位のみからなるポリマーでもよいし、3種類のモノマーの重合により形成されたターポリマーを有するか、かかるターポリマーの部位のみからなるポリマーでもよい。これらの部位の例としては繰り返し構造を形成する骨格として上述した例が挙げられる。特に、これらの部位の例として、ポリエチレングリコール、ポリイソプレン、ポリイソブチレン、ポリブタジエン、ポリプロピレングリコール、ポリテトラヒドロフラン、ポリジメチルシロキサン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリビニルアルコール、及びポリビニルメチルエーテルからなる群から選ばれる少なくとも1種が挙げられるが、これらに限定されない。
【0056】
鎖状ポリマー10は、2つのブロックを備えるブロックコポリマーとすることができる。また、鎖状ポリマー10は、3つのブロックを備えるブロックコポリマーとすることができる。鎖状ポリマー10の両端が複数の環状分子20からなるカラムに収容されている場合、隣り合う擬ポリロタキサン及び/又はポリロタキサンの隣り合う環状分子20が非共有結合相互作用により直列に並ぶことが出来る。鎖状ポリマー10の両端が複数の環状分子20からなるカラムに収容されるためには、鎖状ポリマー10の両端に親水性のPEOブロックを配置しないか、あるいは親水性のPEOブロックを配置したとしてもその長さが0.20nm以下であることが好ましい。
【0057】
鎖状ポリマー10の好ましい例としては、ポリエチレンオキシド(PEO)からなる単一ブロックのポリマー、ポリエチレンオキシド(PEO)からなるブロックと、ポリプロピレンオキシド(PPO)からなるブロックとからなるジブロックのポリエチレンオキシド(PEO)からなるブロックと、ポリプロピレンオキシド(PPO)からなるブロックと、ポリエチレンオキシド(PEO)からなるブロックとをこの順に有するトリブロックコポリマー等が挙げられるがこれらに限定されない。PEO-PPO-PEOからなるトリブロックポリマーは、PPOの方がPEOよりも疎水性が高く、PPO上に環状分子がより選択的に整列して包接される点で好ましい。
【0058】
ブロックポリマーの各ブロックは、1つのモノマー由来の繰り返し単位のみからなることが好ましいが、ある繰り返しと単位と次の繰り返し単位との間に第1のスペーサ基を有してもよい。また、隣接するブロック間に、第1のスペーサ基と同じであっても異なっていてもよい第2のスペーサ基を有していてもよい。
【0059】
第1及び/又は第2のスペーサ基としては、例えば炭素数1~20の直鎖又は分岐鎖のアルキル基、炭素数1~20の直鎖又は分岐鎖のエーテル基、炭素数1~20の直鎖又は分岐鎖のエーテル、炭素数1~20の直鎖又は分岐鎖のエステル、炭素数6~24の芳香族基、例えばフェニル基等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0060】
環状分子20の開口部が鎖状ポリマー10に貫通された状態で保持されている場合、環状分子20は鎖状ポリマー10のどの部位包接てもよく、1種類のモノマーの重合により形成された鎖状ポリマー10包接てもよいし、ブロックコポリマーの2つの部位のうちの1つの部位包接てもよいし、ブロックコポリマーの3つの部位のうちの1つの部位、特に3つの部位のうちの中間の部位包接てもよい。
【0061】
鎖状ポリマー10がブロックコポリマーである場合、環状分子20が鎖状ポリマー10を包接する部位は、その鎖長が環状分子20の厚さよりも長いことが好ましい。ここで、環状分子20の厚さとは、図1(A)及び(B)に模式的に示すと、環状分子20の厚さとは、環状分子20の中心軸Axに沿った厚さTを指す。環状分子20が鎖状ポリマー10を包接する部位は、1種類のモノマーの重合体からなる部位、ブロックコポリマーの2部位のうちの1つの部位、又はブロックコポリマーの3つの部位のうちの1つの部位である。
【0062】
鎖状ポリマー10は、水又は水溶液中で電離する電離基を有してもよい。一つの好ましい実施形態では、鎖状ポリマー10の少なくとも一方の末端又はその近傍に電離基を有する。別の好ましい実施形態では、鎖状ポリマー10の少なくとも一方の末端に電離基を有する。別の好ましい実施形態では、鎖状ポリマー10の両方の末端に電離基を有する。
【0063】
電離基の例としては、カルボキシル基(電離すると-COO-になる)、アミノ基(電離すると-NH3+になる)、スルホ基、リン酸基、塩化トリメチルアミノ基、塩化トリエチルアミノ基、ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基、メチルアミノ基、エチルアミノ基、ピロリジン基、ピロール基、エチレンイミン基、ピぺリジン基、ピリジン基、ピリリウムイオン基、チオピリリウムイオン基、ヘキサメチレンイミン基、アザトロピリレン基、イミダゾール基、ピラゾール基、オキサゾール基、チアゾール基、イミダゾリン基、モルホリン基、チアジン基、トリアゾール基、テトラゾール基、ピリダジン基、ピリミジン基、ピラジン基、インドール基、ベンゾイミダゾール基、プリン基、ベンゾトリアゾール基、キノリン基、キナゾリン基、キノキサリン基、プテリジン基、カルバゾール基、ポルフィリン基、クロリン基、コリン基、アデニン基、グアニン基、シトシン基、チミン基、ウラシル基、解離したチオール基、解離したヒドロキシ基、アジ基、ピリジン基、カルバミン酸、グアニジン、スルフェン、尿素、チオ尿素、過酸、これらの誘導体、及びこれらの類似体から成る群から選ばれる少なくとも1種が挙げられるがこれらに限定されない。
【0064】
電離基は好ましくはカルボキシル基、アミノ基、スルホ基、リン酸基、塩化トリメチルアミノ基、及びジメチルアミノ基から成る群から選ばれる少なくとも1種であり、より好ましくはカルボキシル基、アミノ基、塩化トリメチルアミノ基、及びジメチルアミノ基から成る群から選ばれる少なくとも1種である。
【0065】
電離基の代わりに、鎖状ポリマー10は、非電離基を有してもよい。鎖状ポリマーへの電離基又は非電離基の導入には従来公知の方法を用いることができる。
【0066】
非電離基の例としては、イソプロピル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、ネオペンチル基、イソペンチル基、sec-ペンチル基、3-ペンチル基、tert-ペンチル基、シクロペンチル基、ペンテン基、ヘキシル基、ヘキセン基、ヘプチル基、ヘプテン基、オクチル基、オクテン基、ノニル基、ノネン基、デシル基、デセン基、ウンデシル基、ウンデセン基、ドデシル基、ドデセン基、トリデシル基、トリデセン基、テトラデシル基、テトラデセン基、ペンタデシル基、ペンタデセン基、ヘキサデシル基、ヘキサデセン基、ヘプタデシル基、ヘプタデセン基、オクタデシル基、オクタデセン基、ノナデシル基、ノナデセン基、エイコシル基、エイコセン基、テトラコシル基、テトラコセン基、トリアコンチル基、トリアコンテン基、及びそれらの異性体;4-tert-ブチルベンゼンスルホニル基、2-メシチレンスルホニル基、メタンスルホニル基、2-ニトロベンゼンスルホニル基、4-ニトロベンゼンスルホニル基、ペンタフルオロベンゼンスルホニル基、2,4,6-トリイソプロピルベンゼンスルホニル基、p-トルエンスルホニル基、電離していないヒドロキシ基、ヘプタフルオロブチロイル基、ピバロイル基、パーフルオロベンゾイル基、電離していないアミノ基(-NH2)、電離していないカルボキシル基(-COOH)、及びイソバレリル基から成る群から選ばれる少なくとも1種が挙げられるがこれらに限定されない。
【0067】
非電離基は好ましくは電離していないヒドロキシ基、ヘプタフルオロブチロイル基、パーフルオロベンゾイル基、及びイソバレリル基から成る群から選ばれる少なくとも1種であり、より好ましくはパーフルオロベンゾイル基及びイソバレリル基から成る群から選ばれる少なくとも1種である。
【0068】
環状分子20としては、シクロデキストリン(例えばα-シクロデキストリン、β-シクロデキストリン、γ-シクロデキストリン)、クラウンエーテル、ピラーアレン、カリックスアレン、シクロファン、ククルビットウリル、及びこれらの誘導体等が挙げられるが、これらに限定されない。誘導体としてはメチル化α-シクロデキストリン、メチル化β-シクロデキストリン、メチル化γ-シクロデキストリン、ヒドロキシプロピル化α-シクロデキストリン、ヒドロキシプロピル化β-シクロデキストリン、ヒドロキシプロピル化γ-シクロデキストリン等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0069】
構造体1は一種類の環状分子20を備えてもよいし、二種以上の環状分子20を備えてもよい。例えば構造体1が二種以上の環状分子20を備える場合、上記に列挙された化合物のうちの一つである第1の環状分子と、上記に列挙された化合物のうちの一つであって、第1の環状分子とは異なる第2の環状分子とを備え得る。
【0070】
本明細書において、擬ポリロタキサン及び/又はポリロタキサン2に含まれる環状分子20の割合を包接率という。
【0071】
規定包接率とは、擬ポリロタキサン及び/又はポリロタキサン2に含まれる鎖状ポリマー10及び環状分子20から算術的に規定される包接率を指し、具体的には鎖状ポリマー10の長さと環状分子20の厚みTから規定される。
【0072】
規定包接率の計算方法を、鎖状ポリマー10としてポリエチレングリコールを用い、環状分子としてα-シクロデキストリンを使用した場合で説明する。
【0073】
ポリエチレングリコールの繰り返し単位2つ分がα-シクロデキストリンの厚さと同じであることが分子モデル計算から知られている。従って、α-シクロデキストリンのモルと、ポリエチレングリコールの繰り返し単位との比を1:2にしたときの規定包接率を100%とする。
【0074】
擬ポリロタキサン及び/又はポリロタキサン2に含まれる環状分子24の割合である包接率は、得られた構造体の分散液の小角X線散乱(SAXS)測定により求めることができる。
【0075】
擬ポリロタキサン及び/又はポリロタキサン2の包接率は、規定包接率を100%とするとき、1~100%であることが好ましく、5~100%であることがより好ましく、10~100%であることがさらに好ましく、20~100%であることが最も好ましい。
【0076】
一つの好ましい実施形態では、構造体における環状分子20の高い占有率を確保するために、鎖状ポリマー10は、1つの鎖状ポリマー当たり3つ以上の環状分子20の開口部串刺し状に包接される。
【0077】
図2に戻ると、本発明の実施形態の構造体1を形成できる限り、構造体1は擬ポリロタキサン及び/又はポリロタキサン2以外の成分、すなわち上記環状分子20及び該環状分子20の開口部24串刺し状に包接される上記鎖状ポリマー10以外の追加の物質30(図6(F)参照)をさらに有してもよい。そのような物質30としては、環状分子20に包接される第1の物質、環状分子20に包接されない第2の物質、又はそれらの両方が挙げられる。
【0078】
第1の物質の例としては、薬剤、蛍光物質、発色酵素等が挙げられる。
【0079】
上記薬剤としては、抗腫瘍剤、抗高血圧剤、抗低血圧剤、抗精神病剤、鎮痛剤、抗鬱剤、抗躁剤、抗不安剤、鎮静剤、抗認知症薬、催眠剤、抗癲癇剤、喘息治療剤、麻酔剤、抗不整脈剤、関節炎治療剤、鎮痙剤、ACEインヒビター、鬱血除去剤、抗生物質、抗狭心症剤、利尿剤、抗パーキンソン病剤、気管支拡張剤、抗利尿剤、利尿剤、抗高脂血症剤、免疫抑制剤、免疫調節剤、制吐剤、抗感染症剤、抗新生物剤、抗真菌剤、抗ウイルス剤、抗糖尿病剤、抗アレルギー剤、解熱剤、抗痛風剤、抗ヒスタミン剤、止痒剤、骨調節剤、心血管剤、コレステロール低下剤、抗マラリア剤、鎮咳剤、去痰剤、粘液溶解剤、ドーパミン作動剤、消化管用薬剤、筋弛緩剤、神経筋遮断剤、副交感神経作動剤、興奮薬、食欲抑制剤、甲状腺剤又は抗甲状腺剤、ホルモン、抗偏頭痛剤、抗肥満剤、抗炎症剤、腎疾患用剤、泌尿器剤、眼科用剤、皮膚科用剤、歯科・口腔用剤などが挙げられるがこれらに限定されない。
環状分子20への包接の容易さの点で好ましい薬剤としては、例えばステロイド(特にはシクロペンタヒドロフェナントレンの基本骨格を有する化合物)、アントラサイクリン、含フッ素ヌクレオシドが挙げられる。
上記薬剤としては、ヒドロコルチゾン、スピロノラクトン、クロフィブラート、ナプロキセン、アデニンアラビノシド、アデノシン、イブプロフェン、ヒドロクロロチアジド、アセチルサリチル酸、サリチル酸メチル、アダマンタン、アゾベンゼン、アントラセン、ピレン、ポリフェニレンビニレン、ポリアニリン、ローダミン、ナイルレッド、エテンザミド、酢酸プレドニゾロン、レバミピド、サルブタモール、フルルビプロフェン、ベクロメタゾン、ピロキシカム、ケトプロフェン、チモプトール、ドルゾラミド、ドキソルビシン、イソプロピルウノプロストン、ジフェニルヒドラミン、ジフェニルヒドラミン、ヒドロキシジン、セチリジン、クロロフェニラミン、エピナスチン、レボカバスチン、レボフロキサシン、ラタノプロスト、ビマトプロスト、タフルプロスト、チモロール、bFGF(塩基性線維芽細胞成長因子:basic fibroblast growth factor)、カルボプラチン、シスプラチン、テガフール、ネダプラチン、パクリタキセル、ピラルビシン、5-フルオロウラシル、ブレオマイシン、マイトマイシン、サリチル酸、フルビプロフェン、デキサメタゾン、シタラビン、ニムスチン、ダカルバジン、ドセタキセル、アンフォテリシン、ピロキシカム、パンクラチスタチン、フェニトイン、アデニンアラビノシド、アデノシン、ジアゼパム、ハイドロクロロチアジド、ダウノルビシン、アステミゾール、ベクロメタゾン、ベクロメタゾン、ベタメタゾン、ベンダザック、ブロマゼパム、セレコキシブ、クロロジアゼポキシド、クロバゼム、クロナゼパム、コエンザイムQ10、コルチゾン、クルクミン、シプロテロンアセテート、フルオシノロンアセテート、フルラゼパム、フルタミド、インドメタシン、ケトチフェン、ロラタジン、ロラゼパム、メダゼパム、メロキシパム、ナタマイシン、ニメスリド、ニメタゼパム、ニトラゼパム、ナイスタチン、プレドニゾロン、プロゲストロン、リスペリドン、サルブタモール、シルデナフィル、テルミサルタン、テストステロン、トリアムシノロン、フェルビナク、副腎エキス・ヘパリン類似物質、ロキソプロフェンナトリウム水和物、ジクロフェナクナトリウム、ケトプロフェン、プレドニゾロン酢酸エステル、フルオシノロン、ロテプレデノール、ジフルプレドナート、トリアムシノロン、リメキソロン、デキサメタゾン、フルオロメトロン、メタスルホ安息香酸エステルナトリウム、ベタメタゾンリン酸エステルナトリウム、デキサメタゾンリン酸エステルナトリウム、セフメノキシム、オフロキサシン、クロラムフェニコール、ドネペジル;上記化合物のいずれかの医薬として許容される塩(例えばサルブタモール硫酸塩、ドキソルビシン塩酸塩、ニムスチン塩酸塩、ドルゾラミド塩酸塩、ニルヒドラミン塩酸塩、ヒドロキシジン塩酸塩、セチリジン塩酸塩、クロロフェニラミンマレイン酸塩、エピナスチン塩酸塩、レボカバスチン塩酸塩、チモロールマレイン酸塩、ベクロメタゾン塩酸塩、セフメノキシム塩酸塩、ドネペジル塩酸塩)等が挙げられるがこれらに限定されない。
【0080】
上記蛍光物質としては、ローダミン、ナイルレッド、ポリL-リジン-フルオレセインイソチオシアネート(FITC)、ウラニン、クマリン、Cy2、Cy3、Cy5等が挙げられるがこれらに限定されない。
【0081】
上記発色酵素としては、ホースラディッシュペルオキシダーゼ(HRP)、アルカリホスファターゼ、β-ガラクトシダーゼ、グルコースオキシダーゼ、ルシフェラーゼ等が挙げられるがこれらに限定されない。
【0082】
第2の物質の例としては、環状分子20に包接されない高分子が挙げられる。
【0083】
上記環状分子20に包接されない高分子としては、ポリスチレン、ポリビニルピリジン、ポリピリジン、ポリフェニレン、ポリアクリルアミド、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリビニルアルコール、ポリアミド、ポリエステル、ポリイミド、ポリベンゾオキサゾール、ポリ塩化ビニル、ポリオレフィン(ポリエチレン、ポリプロピレン等)、ポリシラン、ポリシロキサン等のポリマー;DNA、50個以上のアミノ酸が結合したタンパク質等の生体高分子;50個未満のアミノ酸が結合したペプチド等の生体分子;シリカナノ粒子、酸化チタンナノ粒子、シリコンナノ粒子などの無機ナノ材料;フラーレン、カーボンナノチューブ、グラフェン、グラファイト、カーボン量子ドットなどのカーボン材料;金ナノ粒子、ペロブスカイト量子ドット、CdSeS/ZnS量子ドット、酸化鉄ナノ粒子、ナノダイヤモンドなどの金属・無機ナノ粒子;フィブロネクチン、コラーゲン、カドヘリン、インテグリン、ラミニン、フィブリノゲン、ポリリジンなどの細胞接着分子が挙げられるがこれらに限定されない。
【0084】
物質30は、鎖状ポリマー10に結合されるか、環状分子20に結合されるか、複数の擬ポリロタキサン及び/又はポリロタキサン2の間(すなわち擬ポリロタキサン及び/又はポリロタキサンからなる柱状構造であるカラムが複数、特には2つ、3つ、又は4つある場合に、それらの間)の空間4に保持されるか(図2に図示)、1つの環状分子20により区画形成される開口部24に収容されるか(図1(B)に図示)、又は複数の環状分子20が区画形成する空間6(図1(B)、図2に図示)に収容され得る。上記物質30が鎖状ポリマー10に結合される場合、鎖状ポリマー10の両端又は一端又はその付近に結合されることが好ましいが、鎖状ポリマー10の別の部位に結合されてもよい。また、複数の環状分子20が区画形成する空間6には、物質30を収容する点では鎖状ポリマー10が収容されていないことが好ましいが、鎖状ポリマー10を始めとする物質30以外の分子が収容されていてもよい。
【0085】
複数の擬ポリロタキサン及び/又はポリロタキサン2の間の空間4の大きさ、1つの環状分子20により区画形成される開口部24の大きさ、及び複数の環状分子20が区画形成する空間6の大きさは、鎖状ポリマー10の長さ、鎖状ポリマー10の親水性及び疎水性、環状分子20の種類等を変更することにより適宜変更することができるため、収容したい物質30のサイズに応じて、空間4の大きさ、開口部24の大きさ、及び/又は空間6の大きさを適宜変更すればよい。
【0086】
本発明の実施形態の構造体1は、従来の単層ナノシートよりも厚みがあるため、一つの構造体により大量の薬剤等の物質30を取り込むことができる。このため、本発明の実施形態の構造体1は、薬剤のビヒクルとして機能し、薬剤の徐放時間の長期化を可能とし得る。
【0087】
さらに、本発明の実施形態の構造体1は、生体安全性の高い分子から構成されているため、生体内で利用するのに適している。
【0088】
また、本発明の実施形態の構造体1は、短い鎖状ポリマー10を原料として製造することにより、より速く製造することができ、エネルギー、コストも低減することができる。
【0089】
なお、図6(A)-(F)に示すように、構造体1中の鎖状ポリマー10及び環状分子20は、構造体1の集合体としての構造を維持している限り構造体1の意図される機能を発揮できる範囲で種々の構成をとり得る。
例えば、図6(A)では複数(図では6つ)の環状分子20がカラムを構成し、環状分子20の開口部24が連なって形成される空間6の内部に一本の鎖状ポリマー10が収容されており、一本の鎖状ポリマー10は複数の環状分子20の開口部24にわたって延びてはいるが、鎖状ポリマー10の両端が複数の環状分子20からなるカラムの両端に届かず、空間6に収容されている。なお、複数の環状分子20からなるカラムは、複数の環状分子20からなる積み重ね即ちスタックと称することもできる。環状分子20の開口部24又は複数の環状分子20により形成された空間6には、物質30が収容されていてもよいし、収容されていなくてもよい。
【0090】
図6(B)では空間6の内部に二本の鎖状ポリマー10が収容されており、二本の鎖状ポリマー10は複数の環状分子20の開口部24に跨って延び、鎖状ポリマー10の両端が複数の環状分子20からなるカラムの両端に届き、一つの擬ポリロタキサン及び/又はポリロタキサン2を構成する複数の環状分子20の合計の高さが、ポリマー10の全長にほぼ対応している。
【0091】
図6(C)では鎖状ポリマー10の両端が、環状分子20から外へわずかに出ている。鎖状ポリマー10の本体12の一端には修飾基18を備えている。
【0092】
図6(D)では鎖状ポリマー10の一端14が空間6に収容され、もう一端16が、環状分子20から外へわずかに出ている。
【0093】
図6(E)では空間6に一本の鎖状ポリマー10が収容されており、かかる鎖状ポリマー10は4つの環状分子20の開口部24に延びてはいるが、一番上と一番下の環状分子20の環状分子20の開口部24には伸びていない。つまり、鎖状ポリマー10の長さが短く、空間6の長さ(つまり複数の環状分子20の合計高さ)の半分又はそれ以下である。
【0094】
図6(F)は複数の環状分子20からなるカラムのみで、鎖状ポリマー10を有しない。この実施形態では、複数の環状分子20により形成された空間6に物質30が収容されている。
【0095】
一つの好ましい実施形態では、構造体1中の複数の環状分子20からなるカラムの各々は、すべて鎖状ポリマー10を備えている。別の好ましい実施形態では、構造体1中の複数の環状分子20のカラムのうち、一部のカラムは鎖状ポリマー10を備え、残りの一部のカラムは鎖状ポリマー10を備えていない。
【0096】
上述したように、空間4の大きさ、開口部24の大きさ、及び/又は空間6の大きさは、収容したい物質30のサイズに応じて適宜設計し、調整することができる。また、構造体1中のこれらの空間4、開口部24の大きさ、及び/又は空間6の大きさの占有率も適宜設計し、調整することができる。このため、例えば物質30が薬剤の場合に、薬剤を構造体1の空間4、開口部24、及び/又は空間6に所望の量で収容し、構造体1を薬物封入体又は薬物放出制御担体として機能させることができる。
構造体1中の物質30の量は、吸光度測定により測定することができる。例えば、既知の濃度の物質30の溶媒に溶解した溶液の、所定波長における物質濃度-吸光度の検量線を予め測定しておく。所定量の構造体1を同じ溶媒に溶解させ、吸光度を測定し、所定波長の吸光度値を求める。求めた吸光度値と検量線から物質の濃度を算出し、構造体1中の物質30の量を算出する。ある実施形態では、構造体1中の物質30の量が0.0001質量%以上であり、より特定的には0.001~11質量%であり得るが、これに限定されない。構造体1中の物質30或いは構造体1に封入される物質30という場合、物質30は、環状分子20により区画形成される空間内6に収容される物質、環状分子20に包接されず、複数の環状分子20の間に存在する物質30、環状分子20に包接されず、複数の環状分子20の間ではなく構造体1の外表面に付着する物質30を包含する。
【0097】
本発明の好ましい構造体1は、固体基材への接着性に優れている。固体基材は非生物の固体基材であってもよいし、生物体であってもよい。基材のうち板状のものを基板と称する。非生物の固体基材の例としては、無機材料からなる固体基材と有機材料からなる固体基材が挙げられる。無機材料からなる固体基材としてはガラス、金属、金属酸化物、シリコン、石英、ジルコニア等が挙げられるがこれらに限定されない。有機材料からなる固体基材の例としては合成樹脂、生体高分子等が挙げられるがこれに限定されない。
生物体としては生物組織の一部等が挙げられる。
【0098】
また、構造体1を物質30の封入体又は放出制御担体として、医薬のみならず、生体イメージング、食品、化粧品、工業化学等の分野で広く使用することができる。本発明の実施形態の構造体1は、薬物送達材料、生体イメージングの試薬、食品分子(特に匂い分子等の揮発性分子)のマスキング材料、ヘアケア材、コーティング材料、塗料、接着剤、創傷治癒材料、人工生体代替材料、パッケージ材料、ゴム材料、マウスウォッシュなどの口腔ケア材料、サプリメント用基剤、高機能飲料、細胞や藻類などの凝集制御材料等として広範な分野に応用される。
【0099】
図7に示すように、一つの特定の実施形態では、構造体1は、図2に示した実施形態の基本構造を備えるとともに、構造体1を貫通する1又は複数の貫通孔8(図では1つ)をさらに有する。各貫通孔8の大きさは限定されないが、1つの擬ポリロタキサン及び/又はポリロタキサン2が占める体積よりも大きな空間を占めることが好ましい。当該1つの擬ポリロタキサン及び/又はポリロタキサン2は、構造体1中のどの擬ポリロタキサン及び/又はポリロタキサン2であってもよいが、例えば最も体積が大きい擬ポリロタキサン及び/又はポリロタキサンである。貫通孔1は、本発明の実施形態の構造体1を基板に付着させ、一定温度の水又は水溶液で一定時間で洗浄することにより形成することが出来る。洗浄温度は限定されないが例えば5~45℃であり、好ましくは15~30℃である。洗浄時間は限定されないが、例えば10~60秒である。
【0100】
次に構造体1の製造方法について説明する。
【0101】
発明の実施形態の構造体の製造方法I及びIIを提供する。
<製造方法I>
該製造方法Iは、
a)鎖状ポリマー10を準備する工程;
b)環状分子20を準備する工程;及び
c)前記鎖状ポリマー10と前記環状分子20とを水又は水溶液中で混合させる工程;を含み、かかる製造方法により、環状分子20の開口部鎖状ポリマー10串刺し状に包接されてなる擬ポリロタキサンを複数有して成り、複数の擬ポリロタキサン及び/又はポリロタキサンのうちの少なくとも一部が、互いに直列に並んでいる構造体を得ることができる。
【0102】
工程c)において、鎖状ポリマーの両端が複数の環状分子からなるカラムに収容された複数の擬ポリロタキサン及び/又はポリロタキサンが相互作用して、複数の擬ポリロタキサン及び/又はポリロタキサンのうちの少なくとも一部が互いに直列に並べられる。
【0103】
なお、「鎖状ポリマー10」、「環状分子20」は上述したとおりである。
【0104】
<工程a)>
工程a)は、鎖状ポリマー10を有する鎖状ポリマー10を準備する工程である。
【0105】
ここで、鎖状ポリマー10は、市販のものを購入しても、調製してもよい。「鎖状ポリマー10」を調製する場合、以下の文献1~4などに記載されている方法により得ることができる。
文献1:Hillmyer,M. A. et al.,Macromolecules 1996,29(22) 6994-7002.文献2:Ding,J. F. et al.,Eur Polym J 1991,27(9),901-905.文献3:Allegaier, J. et al., Macromolecules 2007, 40(3), 518-525.文献4:Malik, M. I. et al., Eur Po.ym J 2009,45(3), 899-910.
【0106】
<工程b)>
工程b)は、環状分子20を準備する工程である。
【0107】
この工程は、市販の環状分子を購入しても、調製してもよい。誘導体を調製する場合、例えば文献5: Khan, A. R. et al., Chem Rev 1998, 98(5), 1977-1996などに記載されている方法により得ることができる。
【0108】
なお、工程b)は、工程c)よりも前に設ければよい。即ち、工程b)は、工程a)の後に設ける必要はなく、工程a)とb)とは別途に行うことができる。
【0109】
<工程c)>
工程c)は、鎖状ポリマー10と環状分子20とを水又は水溶液中で混合させる工程である。水又は水溶液として、環状分子20、鎖状ポリマー10の少なくともどちらか一方が溶解する溶媒であれば、特に限定されない。
【0110】
工程c)で用いる水又は水溶液として、具体的には、純水、アルコール水溶液、酸水溶液、アルカリ水溶液、緩衝液、培養液、血柴などを挙げることができるが、これらに限定されない。
【0111】
上記工程a)~c)を有することにより、上述の構造体を得ることができる。
【0112】
なお、上述の製造方法において、上記工程a)~c)以外の工程を有してもよい。例えば、上記工程a)~c)以外の工程として、工程a)前に設ける、上述した「鎖状ポリマー10」の調製工程、工程d)後の設ける構造体の精製工程、工程a)前に設けてもよい環状分子と第1の物質との包接や擬ポリロタキサンまたはポリロタキサンの合成を挙げることができるが、これらに限定されない。
また、構造体が、上述の物質30を有する場合、本発明の製造方法は、該物質30を構造体1へ導入するための工程を有してもよい。
物質30を構造体1へ導入するためには、まず鎖状ポリマー10と薬剤などの物質30とを水又は水溶液中で混合し、溶解又は分散させる。物質30が水に難溶な物質を含む場合、混合液に超音波をかけ得る。その後、混合溶液に環状分子20を入れ、十分に溶解又は分散するまで振とうさせ、物質30を取り込んだ構造体1を得る。その後、構造体1を含む懸濁液を遠心して構造体1を沈殿させ、沈殿物を環状分子20を含有する水溶液又は水で洗浄、遠心を数回行い、上清を除去し、物質30を取り込んだ構造体1を得る。
【0113】
さらに、c)工程後に、得られた構造体の一部の擬ポリロタキサンを修飾する工程;をさらに有するのがよい。
【0114】
該修飾工程は、鎖状ポリマー10に、例えば鎖状ポリマー10の末端に、第1の置換基を導入する工程であってもよい。なお、第1の置換基は、構造体が得られる限り、環状分子20が脱離しないように封鎖する作用を有する封鎖基であっても、その他の作用を有してもよい。第1の置換基は、それらの作用のいかなる組合せを有していてもよく、全ての作用を奏するものであってもよい。
【0115】
例えば、封鎖する作用を有する基として、アダマンタン基、ネオベンチル基、イソペンチル基、sec-ペンチル基、3-ペンチル基、tertーベンチル基、シクロペンチル基、ペンテン基、ヘキシル基、ヘキセン基、へプチル基、へプテン基、オクチル基、オクテン基、ノニル基、ノネン基、デシル基、デセン基、ワンデシル基、ウンデセン基、ドデシル基、ドデセン基、トリデシル基、トリデセン基、テトラデシル基、テトラデセン基、ペンタデシル基、ペンタデセン基、ヘキサデシル基、ヘキサデセン基、へプタデシル基、へプタデセン基、オクタデシル基、オクタデセン基、ノナデシル基、ノナデセン基、エイコシル基、エイコセン基、へンイコシル基、へンイコセン基、テトラコシル基、テトラコセン基、トリアコンチル基、トリアコンテン基とそれらの異性体を挙げることができるがこれらに限定されない。
【0116】
その他の作用として、たとえば電離基の作用を有する基として、葉酸、ピオチン、フルオレセイン、RGD、GRGDSなどのオリゴペプチド、リツキシマブ、ベパシズマブ、トシリズマブ、インブリキシマブなどのモノクローナル抗体由来の基を導入してもよい。例えば葉酸由来の基を導入する場合、得られた単離シート及び葉酸を、縮合剤、例えばDMT/MM (4-(4,6-ジメトキシ-1,3,5-トリアジン-2-イル)-4-メチルモルホリニワムクロリド)、DCC (N,N'-ジシクロヘキシルカルボジイミド)、EDC (1- (3-ジメチルアミノプロピル)-3-エチルカルボジイミド)、BOP (ベンゾトリアゾール-1-イルオキシートリスジメチルアミノホスホニウム塩)、PyBOP ((ベンゾトリアゾール-1-イルオキシ)トリピロリジノホスホニウムヘキサフルオロホスブアート)、HATU (0-(7-アザベンゾトリアゾールー1-イル)-N,N,N',N'-テトラメチルウロニウムヘキサフルオロホスフアート)の存在下で反応させることにより、行うことができる。
【0117】
該修飾工程は、構造体が得られる限り、環状分子20に第2の置換基を導入する工程であってもよい。
【0118】
<製造方法II>
製造方法IIは、
a')鎖状ポリマー10を準備する工程;
b)環状分子20を準備する工程;
c')前記鎖状ポリマー10と前記環状分子20とを水又は水溶液中で混合させて、擬ポリロタキサンを得る工程;
d)前記鎖状ポリマー10の少なくとも一部の両末端に、置換基を導入し、鎖状ポリマー10とする工程;
e)前記擬ポリロタキサンの鎖状ポリマー10及び/又は前記鎖状ポリマー10の少なくとも一部の両末端に、封鎖基を導入する工程;
f)得られた擬ポリロタキサン及び/又はポリロタキサンを水又は水溶液中で混合させる工程;
を含み、かかる製造方法により、環状分子20の開口部鎖状ポリマー10串刺し状に包接されてなる擬ポリロタキサンを複数有して成り、複数の擬ポリロタキサン及び/又はポリロタキサンのうちの少なくとも一部が、互いに直列に並んでいる構造体を得ることができる。
【0119】
工程f)において、鎖状ポリマーの両端が複数の環状分子からなるカラムに収容された複数の擬ポリロタキサン及び/又はポリロタキサンが相互作用して、複数の擬ポリロタキサン及び/又はポリロタキサンのうちの少なくとも一部が互いに直列に並べられる。
【0120】
ここで、工程a')は、上記工程a)で述べた「鎖状ポリマー10」を用いることができる。工程b)工程は、上述の「工程b)」と同じである。
【0121】
工程c')は、上記工程c)と同様に、鎖状ポリマー10と環状分子20とを水又は水溶液中で混合させる工程であり、且つそれにより擬ポリロタキサンを得る工程である。水又は水溶液として、工程c)で述べたとおり、環状分子20、鎖状ポリマー10の少なくともどちらか一方が溶解する溶媒であれば、特に限定されない。
【0122】
工程c)で用いる水又は水溶液として、具体的には、純水、アルコール水溶液、酸水溶液、アルカリ水溶液、緩衝液、培養液、血漿などを挙げることができるが、これらに限定されない。
【0123】
工程d)は、鎖状ポリマー10の少なくとも一部の両末端に置換基を導入し、鎖状ポリマー10とする工程である。
【0124】
上記置換基の導入の非限定的な例としては、次亜塩素酸と、2,2,6,6-テトラメチルピペリジン 1-オキシルを用いた酸化反応によりカルボン酸を導入することができる。1'-カルボニルジイミダゾールとエチレンジアミンを用いたカップリング反応によりアミノ基を導入することができる。1,3-プロパンスルトンを鎖状ポリマー10に反応させることによりスルホ基を導入することができる。
【0125】
その他の置換基の導入の非限定的な例としては、DMT/MM(4-(4,6-ジメトキシ-1,3,5-トリアジン-2-イル)-4-メチルモルホリニウムクロリド)、DCC(N,N'-ジシクロヘキシルカルボジイミド)、EDC(1-(3-ジメチルアミノプロピル)-3-エチルカルボジイミド)、BOP(ベンゾトリアゾール-1-イルオキシ-トリスジメチルアミノホスホニウム塩)、PyBOP((ベンゾトリアゾール-1-イルオキシ)トリピロリジノホスホニウムヘキサフルオロホスファート)、HATU(0-(7-ジベンゾトリアゾール-1-イル)-N,N,N',N'-テトラメチルウロニウムヘキサフルオロホスファート)等の縮合剤を用いたエステル化、アミド化等の縮合反応、求核置換反応、付加反応等が挙げられるがこれらに限定されない。
【0126】
工程e)は、いわゆる封鎖基を導入する工程であり、封鎖基を導入することにより、環状分子20の脱離速度を低下させる工程である。該工程は、従来公知の手法を用いることができ、例えばHarada et al,Nature,1992,356,325-327に記載される工程を挙げることができる。また、封鎖基についても、従来公知のポリロタキサンに用いることができる封鎖基を挙げることができる。例えばM. Okada et. al,J Polym .Sci. A: Polym. Chem, 2000,38,4839-4849に記載される封鎖基を挙げることができる。
【0127】
以下に実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
【実施例
【0128】
実施例1 γ-CDを用いた構造体の形成
γ-CDはCycloChem Co., Ltdより入手した。鎖状ポリマーPEO2k(数字は重量平均分子量)はSigma Aldrich及びWako Pure Chemical Industriesより購入した。
【0129】
擬ポリロタキサン(PPR)の調製は次の通りである。 γ-CDを23±1℃で脱イオン水(pHは約7)に溶解した。γ-CD濃度は0.12gmL-1とした。0.25gのPEO2kを8.4mLのγ-CD水溶液に加えた。混合溶液をボルテックスで1分間撹拌した。次に溶液をシェーカーの上に置き、熟成させた。一日以内に沈殿物と液層が分離し、複合体形成がほぼ完了した。試料をPPR_EO400と名付ける。
【0130】
走査型電子顕微鏡(SEM)のためのサンプルは、ポリロタキサンの水分散液中に酸化シリコン基板を浸漬することにより調整した。SEM観察はJEOL JSM-7800F装置により行った。また、複合体形成により誘導されるIn-situ結晶成長はNikon DS-Fi3カメラを具備したNikon ECLIPSE Ts2R位相差顕微鏡により記録した。
【0131】
PPR_EO400の形成における肉眼観察時の写真を図8(A)に示す。構造体の形成とともに溶液は徐々に白濁した。また、PPR_EO400の光学顕微鏡観察の写真及びSEM観察の写真を図8(B)及び(C)に示す。ロッド状の構造体が形成されたことを確認した。
【0132】
実施例2 鎖状ポリマーの長さに基づく構造体の形状の制御
γ-CDはCycloChem Co., Ltdより入手した。鎖状ポリマーPEO400(数字は重量平均分子量)、PEO2k、PEO4k、PEO6k、PEO20kはSigma Aldrich及びWako Pure Chemical Industriesより購入した。
【0133】
擬ポリロタキサン(PPR)の調製法は実施例1と同じである。作成した試料をそれぞれPPR_EO400、PEO_EO2k、PPR_EO4k、PPR_EO6k、PPR_EO20kと名付けた。
【0134】
SEM観察は実施例1と同じ実験条件で行った。WAXS測定は、ポリロタキサンの水分散液をガラス毛細管(WJM-Glass/Muller GmbH Boro-Silicateキャピラリ:φ=2.0×長さ=80mm)に注入し、サンプルを室温で1日乾燥させた後、ガラス壁に付着した粒子を標的として行った。
【0135】
SEM観察には実施例1と同じ装置を用いた。WAXS実験はHypix-3000検出器を備えたRigaku NANOPIX装置を用いて行った。サンプルから検出器までの距離はベヘン酸銀の回折ピークに対して校正した。
【0136】
PPR_EO400、PPR_EO4k、PPR_EO6k、PPR_EO20kのSEM観察の写真をそれぞれ図9(A)~(D)に示す。PPR_EO400はロッド状の構造体を、PPR_EO4kはキューブ状の構造体を、PPR_EO6k及びPPR_EO20kはシート状の構造体を形成したことを確認した。WAXSにより結晶構造を解析したところ、すべての試料において正方晶を形成していた。ピークに対応する結晶面を図10中に図示した。
【0137】
実施例3 鎖状ポリマーの親水性/疎水性の影響
γ-CDはCycloChem Co., Ltdより入手した。鎖状ポリマーPPO400(数字は重量平均分子量)、PPO2k、PPO4kはSigma Aldrich及びWako Pure Chemical Industriesより購入した。
【0138】
擬ポリロタキサン(PPR)の調製法は実施例1と同じである。作成した試料をそれぞれPPR_PO400、PPR_PO2k、PPR_PO4kと名付けた。
【0139】
実施例1と同じ実験条件でSEM観察を行った。それぞれのSEM像を図11に示した。分子量の増大に伴ってロッド状構造体からシート状構造体に変化していった。しかし、PPR_PO4kにおいて、無定形構造体が形成されていた。線状ポリマーの分子量が大きくなると、線状ポリマーは折れ畳む必要があるが、線状ポリマーが疎水的であると疎水凝集が生じ、無定形構造が形成される。一方で線状ポリマーが親水的であると疎水性凝集は生じないため、整った形状の構造体が形成される。
【0140】
実施例4 鎖状ポリマーとしてトリブロックコポリマーを用いた場合の超薄型構造体の形成
γ-CDはCycloChem Co., Ltdより入手した。鎖状トリブロックポリマーEO4PO56EO4(下付き文字はユニット数)、EO25PO56EO25、EO147PO56EO147はSigma Aldrichから購入した。
【0141】
擬ポリロタキサン(PPR)の調製法は実施例1と同じである。作成した試料をそれぞれPPR_EO4PO56EO4、PPR_EO25PO56EO25、及びPPR_EO147PO56EO147と名付けた。
【0142】
原子間力顕微鏡(AFM)及びSEM観察のためのサンプルは、ポリロタキサンの水分散液中に酸化シリコン基板を浸漬することにより調整した。AFM実験はタッピングモードで動作させたBruker Nano Multimode 8装置を用いて周囲条件で行った。共鳴周波数が約300Hzかつばね常数が40Nm-1のアンチモンでドープしたシリコン片持ち梁チップ(Bruker RTESPA-300)を使用した。SAXS測定は、ポリロタキサンの水分散液をガラス毛細管(WJM-Glass/Muller GmbH Boro-Silicateキャピラリ:φ=2.0×長さ=80mm)に注入して行った。WAXS実験は、実施例2と同じ条件で行った。
【0143】
それぞれのSEM像を図12(A)、(B)及び(C)に示す。PPR_EO4PO56EO4とPPR_EO25PO56EO25、では、比較的厚いシート状構造体が形成されていた。しかしPPR_EO147PO56EO147では超薄型構造体が形成されていた。WAXSプロファイル(図12(D))から、正方晶系の結晶を形成したことがわかった。PPR_EO147PO56EO147の厚さをAFMにより測定したところ、33nmであることが分かった(図12(E))。
【0144】
実施例5 貫通孔を有するナノシートの製造
実施例4で作成したPPR_EO147PO56EO147を酸化シリコン基板に付着させたあと、水で20秒洗浄し、SEM観察を行った(図13)。貫通孔を有するナノシート構造体が形成されたことを確認した。
【0145】
実施例6 α-CDを用いたマイクロ構造体の形成
α-CDは日本食品化工株式会社から購入した。鎖状ポリマーPEO400(数字は重量平均分子量)はSigma Aldrichより購入した。
【0146】
擬ポリロタキサン(PPR)の調製は次の通りである。α-CDを23±1℃で脱イオン水(pHは約7)に溶解した。α-CD濃度は0.12gmL-1とした。0.25gのPEO400を8.4mLのα-CD水溶液に加えた。混合溶液をボルテックスで1分間撹拌した。次に溶液をシェーカーの上に置き、熟成させた。一日以内に沈殿物と液層が分離し、複合体形成がほぼ完了した。
実施例1と同様な手法でSEM観察を行った(図14)。六角柱状のマイクロ構造体が形成されたことを確認した。
【0147】
実施例7 β-CDを用いたマイクロ構造体の形成
β-CDは富士フイルム和光純薬株式会社から購入した。ポリ(プロピレングリコール)ビス(2-アミノプロピルエーテル)2k(数字は重量平均分子量、NH2PPO2k)はSigma Aldrichより購入した。
【0148】
擬ポリロタキサン(PPR)の調製は次の通りである。β-CDを23±1℃で脱イオン水(pHは約7)に溶解した。β-CD濃度は18mgmL-1とした。1mgのNH2PPO2kを1.0mLのβ-CD水溶液に加えた。混合溶液をボルテックスで1分間撹拌した。次に溶液をシェーカーの上に置き、熟成させた。一週間で沈殿物と液層が分離し、複合体形成がほぼ完了した。試料をβCD/NH2PPO2kと名付けた。
【0149】
実施例1と同様な手法でSEM観察を行った(図15)。ひし形状のマイクロ構造体が形成されたことを確認した。
【0150】
実施例8 PEO及びPPO以外の軸分子を用いたマイクロ構造体形成
β-CDは富士フイルム和光純薬株式会社から購入した。γ-CDはCycloChem Co., Ltdより入手した。ポリテトラヒドロフラン1.4k(数字は重量平均分子量、PTHF1.4k)はWako Pure Chemical Industries及びSigma Aldrichより購入した。シラノール末端ポリジメチルシロキサン700-1500(PDMS1.1k)、PDMS2k-3.5k(PDMS2.75k)はアヅマックス株式会社から購入した。PDMS1000-PEO2100ジブロックコポリマー(PDMS1k-PEO2.1)はPolymer Sourceから購入した。
【0151】
β-CDから成るPPRの調製は次の通りである。β-CDを23±1℃で脱イオン水(pHは約7)に溶解した。β-CD濃度は18mgmL-1とした。1mgのPDMS1.1k及びNH2PPO2kを1.0mLのβ-CD水溶液に加えた。混合溶液をボルテックスで1分間撹拌した。次に溶液をシェーカーの上に置き、熟成させた。一週間で沈殿物と液層が分離し、複合体形成がほぼ完了した。試料をβCD/PDMS1.1kと名付けた。
【0152】
γ-CDから成るPPRの調製は次の通りである。 γ-CDを23±1℃で脱イオン水(pHは約7)に溶解した。γ-CD濃度は0.12gmL-1とした。0.25gのPDMS2.75k、PDMS1k-PEO2.1、及びPTHF1.4kを8.4mLのγ-CD水溶液にそれぞれ加えた。混合溶液をボルテックスで1分間撹拌した。次に溶液をシェーカーの上に置き、熟成させた。一日以内に沈殿物と液層が分離し、複合体形成がほぼ完了した。試料をそれぞれγ-CD/PDMS2.75k、γ-CD/PDMS1k-PEO2.1、及びγ-CD/PTHF1.4kと名付ける。
【0153】
実施例1と同様な手法でSEM観察を行った。βCD/PDMS1.1k、γ-CD/PDMS2.75k、γ-CD/PDMS1k-PEO2.1、γ-CD/PTHF1.4kのSEM像を図16(A)~(D)に示す。βCD/PDMS1.1kではひし形状の、γ-CD/PDMS2.75k、γ-CD/PDMS1k-PEO2.1、γ-CD/PTHF1.4kではテトラゴナル状のマイクロ構造体が形成されたことを確認した。
【0154】
実施例9 テント状構造体の形成
γ-CDはCycloChem Co., Ltdより入手した。ペルフルオロヘキサン酸(C511-COOH)は東京化成工業株式会社から購入した。
【0155】
γ-CDから成るPPRの調製は次の通りである。 γ-CDを23±1℃で脱イオン水(pHは約7)に溶解した。γ-CD濃度は0.12gmL-1とした。0.14gのC511-COOHを1.25mLのγ-CD水溶液にそれぞれ加えた。混合溶液をボルテックスで1分間撹拌した。次に溶液をシェーカーの上に置き、熟成させた。一日以内に沈殿物と液層が分離し、複合体形成がほぼ完了した。試料をγ-CD/C511-COOHと名付ける。
【0156】
実施例1と同様な手法でSEM観察を行った。γ-CD/C511-COOHのSEM像を図17に示す。テント状構造体(裏向き)が形成されたことを確認した。
【0157】
実施例10 多面体状マイクロ構造体の形成
α-CDは日本食品化工株式会社から購入した。ヘキサデシルスルホン酸ナトリウム(C1633SO3Na)は東京化成工業株式会社から購入した。
【0158】
擬ポリロタキサン(PPR)の調製は次の通りである。α-CDを23±1℃で脱イオン水(pHは約7)に溶解した。α-CD濃度は0.12gmL-1とした。0.12gのC1633SO3Naを2.5mLのα-CD水溶液に加えた。混合溶液をボルテックスで1分間撹拌した。次に溶液をシェーカーの上に置き、熟成させた。一日以内に沈殿物と液層が分離し、複合体形成がほぼ完了した。試料をα-CD/C1633SO3Naと名付ける。
【0159】
実施例1と同様な手法でSEM観察を行った。α-CD/C1633SO3NaのSEM像を図18に示す。多面体状のマイクロ構造体の形成を確認した。
【0160】
実施例11 シート状マイクロ構造体構造体の形成
α-CDは日本食品化工株式会社から購入した。1-ノナンスルホン酸ナトリウム(C919SO3Na)は東京化成工業株式会社から購入した。
【0161】
擬ポリロタキサン(PPR)の調製は次の通りである。α-CDを23±1℃で脱イオン水(pHは約7)に溶解した。α-CD濃度は0.12gmL-1とした。86mgのC919SO3Naを2.5mLのα-CD水溶液に加えた。混合溶液をボルテックスで1分間撹拌した。次に溶液をシェーカーの上に置き、熟成させた。一日以内に沈殿物と液層が分離し、複合体形成がほぼ完了した。試料をα-CD/C919SO3Naと名付ける。
【0162】
実施例1と同様な手法で構造解析のための試料を調整した。α-CD/C919SO3NaのSEM観察の結果を図19((A)が低倍率、(B)が高倍率)に示す。シート状のマイクロ構造体構造体の形成を確認した。
【0163】
実施例12 中空球状構造体の形成
α-CDは日本食品化工株式会社から購入した。鎖状トリブロックポリマーEO37PO56EO37(下付き文字はユニット数)はSigma Aldrichから購入した。
【0164】
擬ポリロタキサン(PPR)の調製は次の通りである。α-CDを23±1℃で脱イオン水(pHは約7)に溶解した。α-CD濃度は0.12gmL-1とした。0.25gのEO37PO56EO37を8.4mLのα-CD水溶液に加えた。混合溶液をボルテックスで1分間撹拌した。次に溶液をシェーカーの上に置き、熟成させた。一日以内に沈殿物と液層が分離し、複合体形成がほぼ完了した。試料をα-CD/EO37PO56EO37と名付ける。
【0165】
実施例1と同様な手法で構造解析のための試料を調整した。α-CD/EO37PO56EO37のSEM観察の結果を図20((A)が低倍率、(B)が中倍率、(C)が高倍率)に示す。中空の球状構造体の形成を確認した。
【0166】
実施例13 中空柱状構造体の形成
β-CDは富士フイルム和光純薬株式会社から購入した。ポリエチレングリコールモノオレイルエーテル(n=20、C18EO20)は東京化成工業株式会社から購入した。
【0167】
PPRの調製は次の通りである。β-CDを23±1℃で脱イオン水(pHは約7)に溶解した。β-CD濃度は18mgmL-1とした。81mgのC18EO20を5.0mLのβ-CD水溶液に加えた。混合溶液をボルテックスで1分間撹拌した。次に溶液をシェーカーの上に置き、熟成させた。一日以内に沈殿物と液層が分離し、複合体形成がほぼ完了した。試料をβCD/C18EO20と名付けた。
【0168】
実施例1と同様な手法で光学顕微鏡観察を行った。βCD/C18EO20の光学顕微鏡観察の結果を図21に示す。中空の柱状構造体の形成を確認した。
【0169】
実施例14 マイクロ構造体への抗がん剤の封入
γ-CDはCycloChem Co., Ltdより入手した。ポリエチレンオキシド4.6k(以下PEO4.6k 重量平均分子量4.6k)はSigma Aldrichより購入した。ドキソルビシン塩酸塩は富士フィルム和光純薬から購入した。
【0170】
抗がん剤封入マイクロ構造体の調製は次の通りである。 γ-CDの120mg及びドキソルビシンの45mgを23±1℃で脱イオン水(pHは約7)1mLに溶解させた。γ-CD濃度は120mg/mLとし、ドキソルビシン塩酸塩濃度を4.5mg/mLとした。のPEG4600の30mgを調製したγ-CDとドキソルビシン塩酸塩との水溶液1mLに加えた。混合溶液をボルテックスで1分間撹拌した。次に溶液をシェーカーの上に置き、熟成させた。一日以内に沈殿物と液層が分離し、複合体形成がほぼ完了した。試料をDоx-PPR_EO4.6kと名付ける。
【0171】
顕微鏡観察はNikon DS-Fi3カメラを具備したNikon ECLIPSE Ts2Rを用いて行った。また蛍光観察には470nmの波長の光を励起光として用いた。
【0172】
Dоx-PPR_EO4.6kの位相差顕微鏡観察と蛍光顕微鏡観察の結果を図22(A)及び(B)に示す。位相差顕微鏡観察ではマイクロ構造体が形成されたことを確認できた。また蛍光顕微鏡観察によってドキソルビシン由来の蛍光の強度がマイクロ構造体の存在領域で増加しており、ドキソビルシンがマイクロ構造体に有意に取り込まれたことを確認した。
【0173】
実施例15 シート状ナノ構造体の付着性
β-CDは富士フイルム和光純薬株式会社から購入した。EO75PO30EO75(下付き文字はユニット数)はSigma Aldrichより購入した。
【0174】
シート状ナノ構造体の調製は次の通りである。 β-CDの18mgを23±1℃で脱イオン水(pHは約7)1mLに溶解させた。EO75PO30EO75 4mgを調製したβ-CD水溶液1mLに加えた。混合溶液をボルテックスで1分間撹拌した。次に溶液をシェーカーの上に置き、熟成させた。一週間で沈殿物と液層が分離し、複合体形成がほぼ完了した。試料をβ-CD/EO75PO30EO75と名付ける。
【0175】
作成したシート状ナノ構造体であるβ-CD/EO75PO30EO75の水分散液を3種類の固体基材(豚皮、髪の毛、コンタクトレンズ)に滴下し、水分をろ紙で拭きとってからSEM観察を行った。それぞれSkin_β-CD/EO75PO30EO75、hair_β-CD/EO75PO30EO75、lens_β-CD/EO75PO30EO75、と名付ける。また、実施例4で作成したPPR_EO147PO56EO147を豚眼に滴下し、生理食塩水濃度の食塩水(0.9wt%)の水で洗浄した後、水分を濾紙でふき取ってから光学顕微鏡観察を行った。これをeye_PPR_EO147PO56EO147とする。
【0176】
Skin_β-CD/EO75PO30EO75、hair_β-CD/EO75PO30EO75、lens_β-CD/EO75PO30EO75のSEM像を図23(A)及び(B)、図24(A)及び(B)、図25(A)及び(B)に、eye_PPR_EO147PO56EO147の光学顕微鏡観察の写真を図26に示した。いずれの場合もシート状ナノ構造体が付着している様子を確認することができた。
【0177】
実施例16 シート状ナノ構造体のUVカット機能
β-CDは富士フイルム和光純薬株式会社から購入した。EO75PO30EO75(下付き文字はユニット数)はSigma Aldrichより購入した。
【0178】
シート状ナノ構造体は実施例15と同じ手法で調製した。試料をβ-CD/EO75PO30EO75と名付ける。
【0179】
β-CD/EO75PO30EO75の分散水のUVカット機能を、紫外可視分光光度計(UV3150、株式会社島津製作所)を用いて評価した。入射光の波長は250nmから800nmとし、吸光度を測定した。
【0180】
測定結果を図27に示す。UVA(315から400nm)およびUVB(290から320nm)の波長領域において透過率が低く、可視波長領域(400nmから700nm)において光が透過していることが分かった。
【0181】
実施例17 シート状ナノ構造体からなるコーティングのガスバリア機能
β-CDは富士フイルム和光純薬株式会社から購入した。EO75PO30EO75(下付き文字はユニット数)はSigma Aldrichより購入した。
【0182】
シート状ナノ構造体は実施例15と同じ手法で調製した。試料をβ-CD/EO75PO30EO75と名付ける。
【0183】
β-CD/EO75PO30EO75の分散水5mL及び20mLを多孔膜(PMMA-milipore:TYPE JCWP 10.0μm、親水性、空孔直径約10μm)に通し、β-CD/EO75PO30EO75を張り付けた。その後室温で自然乾燥させた。これらの試料をpоre-β-CD/EO75PO30EO75(5mL)およびpоre-β-CD/EO75PO30EO75(20mL)と名付ける。
【0184】
多孔膜、pоre-β-CD/EO75PO30EO75(5mL)およびpоre-β-CD/EO75PO30EO75(20mL)のSEM像をそれぞれ図28(A)、28(B)、28(C)に示す。多孔膜に多数の空孔があいていることを、pоre-β-CD/EO75PO30EO75(5mL)ではβ-CD/EO75PO30EO75が空孔を通過せず膜にとどまっている様子を確認できた。pоre-β-CD/EO75PO30EO75(20mL)では、空孔が完全に覆われている様子を確認することができた。
【0185】
pоre-β-CD/EO75PO30EO75(20mL)において空孔が完全に覆われている様子を確認できたため、次に、これを用いて酸素透過性を評価するための試料を作成した。作成法は次の通りである。ニトリルゴムの2wt%の濃度で有機溶媒に溶解し、これにpоre-β-CD/EO75PO30EO75(20mL)を浸した。その後、試料を取り出して室温で自然乾燥することで、pоre-β-CD/EO75PO30EO75(20mL)を担持したニトリルゴムフィルムを作成した。
【0186】
pоre-β-CD/EO75PO30EO75(20mL)を担持したニトリルゴムフィルムの酸素透過性を測定したところ、酸素透過係数は18.6 cc・mm/(m2・day・atm)であった。酸素透過係数が、通常のニトリルゴムフィルムの値(18.6 cc・mm/(m2・day・atm))の1/300程度に抑えられていることから、β-CD/EO75PO30EO75が酸素バリア性を有していることがわかった。酸素係数の測定装置と測定条件は以下の通りである:測定装置:MOCON(登録商標)クーロメトリック酸素透過率測定装置(OX-TRAN(登録商標)2/22L)
検出器:自己加湿型クーロメトリックスセンサー
対応規格:JIS K7126-2(プラスチック-フィルム及びシート-ガス透過度試験方法-第2部:等圧法)
(ISO 15105-2)、ASTM D3985・F1927・F1307
測定温度:23℃
相対湿度:0%
有効膜面積:1cm^2
【0187】
実施例18 シート状ナノ構造体への薬物の組み込み
製造例1 マイクロ構造体への抗炎症薬(ベタメタゾン)の封入1
ベタメタゾン封入マイクロ構造体の調製は次の通りである。 PPO4k(重量平均分子量4k:Sigma Aldrich社より入手)の30mg及びベタメタゾン(富士フィルム和光純薬社より入手)の10mgを23±1℃で脱イオン水(pHは約7)1mLに溶解させた。次にγCD(CycloChem Co. Ltdより入手)の120mgをPPO4kとベタメタゾンとの水溶液1mLに加えた。混合溶液をボルテックスで1分間撹拌した。次に溶液を室温で振とう機上に置き、溶液を振とうして熟成させた。振とう30分後には溶液は薄く白濁していき、2時間でより白濁した。そのまま室温で5日間振とうを続けた。
【0188】
次に、得られた白濁液の800μLを1.5mL遠沈管に投入し、遠心分離機(Kenis社製)で12000rpm、5分間遠心分離を実施すると、遠沈管の底に白色の固形物ペーストが沈殿した。遠沈管から透明の上澄液の600μLを除去し、残った白色固形物ペーストに新たにγCD水溶液(γCD濃度30mg/mL)の800μLを添加して白色固形物を懸濁させ、再び遠心分離を実施して上澄液の800μLを除去した。この、γCD水溶液の添加、遠心分離、上澄液の除去の一連の工程を薬剤洗浄工程とし、薬剤洗浄工程を5回繰り返した。
【0189】
薬剤洗浄後の白色固形物ペーストの凍結乾燥を実施し白色固形物の95mgを得た。
得られた白色固形物をマイクロ構造体-1と称す。
【0190】
マイクロ構造体-1に封入されたベタメタゾンの定量は、吸光度測定により算出した。マイクロ構造体-1の25mgを精秤し、DMSO1mLに溶解させ、得られたDMSO溶液について分光光度計による吸光度測定を実施し(光路長1mmの石英セルを使用)、ベタメタゾン濃度を算出した。算出は、あらかじめベタメタゾンのDMSO溶液の所定波長(λ=260nm)における濃度-吸光度検量線を作成しておき、測定した吸光度値および検量線からベタメタゾン濃度を算出した。ベタメタゾン濃度は1.0mg/mLと算出され、マイクロ構造体-1の25mg中にベタメタゾン1.0mg封入されており、ベタメタゾン封入率は4.0質量%であった。
【0191】
製造例2 マイクロ構造体へのベタメタゾン封入2
軸分子としてPPO4kに変え、PEO4k(重量平均分子量4k:Sigma Aldrich社より入手)を用いたこと以外は、製造例1と同様の工程で、マイクロ構造体へのベタメタゾンの封入を実施した。薬剤洗浄5回実施し、白色固形物ペーストの凍結乾燥を実施し白色固形物の88mgを得た。得られた白色固形物をマイクロ構造体-2と称す。マイクロ構造体-2のベタメタゾン封入率は8.8質量%であった。
【0192】
製造例3 マイクロ構造体への利尿薬(スピロノラクトン)封入1
薬剤としてベタメタゾンに変えスピロノラクトン(東京化成工業株式会社より入手)を用いたこと以外は製造例1と同様の工程で、マイクロ構造体へのスピロノラクトンの封入を実施した。薬剤洗浄5回実施し、白色固形物ペーストの凍結乾燥を実施し白色固形物の90mgを得た。得られた白色固形物をマイクロ構造体-3と称す。マイクロ構造体-3のスピロノラクトン封入率は7.4質量%であった。
【0193】
製造例4 マイクロ構造体へのスピロノラクトン封入2
軸分子としてPPO4kに変え、PEO4kを用いたこと以外は、製造例3と同様の工程で、マイクロ構造体へのスピロノラクトンの封入を実施した。薬剤洗浄5回実施し、白色固形物ペーストの凍結乾燥を実施し白色固形物の80mgを得た。得られた白色固形物をマイクロ構造体-4と称す。マイクロ構造体-4のスピロノラクトン封入率は10.1質量%であった。
【0194】
製造例5 マイクロ構造体への抗炎症薬(ヒドロコルチゾン)封入1
薬剤としてベタメタゾンに変えヒドロコルチゾン(東京化成工業株式会社より入手)を用いたこと以外は製造例1と同様の工程で、マイクロ構造体へのスピロノラクトンの封入を実施した。薬剤洗浄5回実施し、白色固形物ペーストの凍結乾燥を実施し白色固形物の78mgを得た。得られた白色固形物をマイクロ構造体-5と称す。マイクロ構造体-5のスピロノラクトン封入率は3.6質量%であった。
【0195】
製造例6 マイクロ構造体へのヒドロコルチゾン封入2
軸分子としてPPO4kに変え、PEO4kを用いたこと以外は、製造例5と同様の工程で、マイクロ構造体へのヒドロコルチゾンの封入を実施した。薬剤洗浄5回実施し、白色固形物ペーストの凍結乾燥を実施し白色固形物の83mgを得た。得られた白色固形物をマイクロ構造体-6と称す。マイクロ構造体-6のヒドロコルチゾン封入率は5.8質量%であった
【0196】
製造例7 マイクロ構造体への抗炎症薬(デキサメタゾン)封入1
薬剤としてベタメタゾンに変えデキサメタゾン(東京化成工業株式会社より入手)を用い、薬剤の濃度-吸光度検量線を波長λ=270nmの吸光度値で作成したこと以外は製造例1と同様の工程で、マイクロ構造体へのデキサメタゾンの封入を実施した。薬剤洗浄5回実施し、白色固形物ペーストの凍結乾燥を実施し白色固形物を得た。得られた白色固形物をマイクロ構造体-7と称す。マイクロ構造体-7のデキサメタゾン封入率は2.3質量%であった。
【0197】
製造例8 マイクロ構造体へのデキサメタゾン封入2
軸分子としてPPO4kに変え、PEO4kを用いたこと以外は、製造例7と同様の工程で、マイクロ構造体へのデキサメタゾンの封入を実施した。薬剤洗浄5回実施し、白色固形物ペーストの凍結乾燥を実施し白色固形物の68mgを得た。得られた白色固形物をマイクロ構造体-8と称す。マイクロ構造体-8のデキサメタゾン封入率は8.3質量%であった。
【0198】
製造例9 マイクロ構造体への抗がん剤(ドキソルビシン塩酸塩)封入1
薬剤としてベタメタゾンに変えドキソルビシン塩酸塩(東京化成工業株式会社より入手)を用い、薬剤の濃度-吸光度検量線を波長λ=500nmの吸光度値で作成したこと以外は製造例1と同様の工程で、マイクロ構造体へのドキソルビシン塩酸塩の封入を実施した。薬剤洗浄4回実施し、白色固形物ペーストの凍結乾燥を実施し白色固形物の80mgを得た。得られた白色固形物をマイクロ構造体-9と称す。マイクロ構造体-9のドキソルビシン塩酸塩封入率は0.2質量%であった。
【0199】
製造例10 マイクロ構造体への抗がん剤(ドキソルビシン塩酸塩)封入2
軸分子としてPPO4kに変え、PPO2k(重量平均分子量2k:Sigma Aldrich社より入手)を用いたこと以外は、製造例9と同様の工程で、マイクロ構造体へのドキソルビシン塩酸塩の封入を実施した。薬剤洗浄4回実施し、白色固形物ペーストの凍結乾燥を実施し白色固形物の 75mgを得た。得られた白色固形物をマイクロ構造体-10と称す。マイクロ構造体-10のドキソルビシン塩酸塩封入率は0.2質量%であった。
【0200】
製造例11 マイクロ構造体への抗がん剤(ドキソルビシン塩酸塩)封入3
軸分子としてPPO4kに変え、PPO0.7k(重量平均分子量0.7k:富士フィルム和光純薬より入手)を用いたこと以外は、製造例9と同様の工程で、マイクロ構造体へのドキソルビシン塩酸塩の封入を実施した。薬剤洗浄5回実施し、白色固形物ペーストの凍結乾燥を実施し白色固形物の50mgを得た。得られた白色固形物をマイクロ構造体-11と称す。マイクロ構造体-11のドキソルビシン塩酸塩封入率は0.2質量%であった。
【0201】
製造例12 マイクロ構造体への抗がん剤(ドキソルビシン塩酸塩)封入4
軸分子としてPPO4kに変え、PEO4kを用いたこと以外は、製造例9と同様の工程で、マイクロ構造体へのドキソルビシン塩酸塩の封入を実施した。薬剤洗浄5回実施し、白色固形物ペーストの凍結乾燥を実施し白色固形物の81mgを得た。得られた白色固形物をマイクロ構造体-12と称す。マイクロ構造体-12のドキソルビシン塩酸塩封入率は0.3質量%であった。
【0202】
製造例13 マイクロ構造体への緑内障治療薬(ドルゾラミド塩酸塩)封入
薬剤としてドキソルビシン塩酸塩に変え、ドルゾラミド塩酸塩(東京化成工業株式会社より入手)を用い、薬剤の濃度-吸光度検量線を波長λ=260nmの吸光度値で作成したこと以外は製造例12と同様の工程で、マイクロ構造体へのドルゾラミド塩酸塩の封入を実施した。薬剤洗浄5回実施し、白色固形物ペーストの凍結乾燥を実施し白色固形物の88mgを得た。得られた白色固形物をマイクロ構造体-13と称す。マイクロ構造体-13のドルゾラミド塩酸塩封入率は1.3質量%であった。
【0203】
製造例14 マイクロ構造体への認知症治療薬(ドネペジル塩酸塩)封入
薬剤としてドキソルビシン塩酸塩から変え、ドネペジル塩酸塩(東京化成工業株式会社より入手)を用い、薬剤の濃度-吸光度検量線を波長λ=270nmの吸光度値で作成したこと以外は製造例12と同様の工程で、マイクロ構造体へのドネペジル塩酸塩の封入を実施した。薬剤洗浄4回実施し、白色固形物ペーストの凍結乾燥を実施し白色固形物の70mgを得た。得られた白色固形物をマイクロ構造体-14と称す。マイクロ構造体-14のドネペジル塩酸塩封入率は1.5質量%であった。
【0204】
製造例15 マイクロ構造体へのドネペジル塩酸塩封入2
軸分子としてPPO4kから変え、PEO4kを用いたこと以外は、製造例14と同様の工程で、マイクロ構造体へのドネペジル塩酸塩の封入を実施した。薬剤洗浄5回実施し、白色固形物ペーストの凍結乾燥を実施し白色固形物の 91mgを得た。得られた白色固形物をマイクロ構造体-15と称す。マイクロ構造体-15のドネペジル塩酸塩封入率は 1.0質量%であった。
【0205】
製造例16 マイクロ構造体への抗がん剤(ニムスチン塩酸塩)封入
薬剤としてドキソルビシン塩酸塩から変え、ニムスチン塩酸塩(東京化成工業株式会社より入手)を用い、薬剤の濃度-吸光度検量線を波長λ=270nmの吸光度値で作成したこと以外は製造例12と同様の工程で、マイクロ構造体へのドルゾラミド塩酸塩の封入を実施した。薬剤洗浄5回実施し、白色固形物ペーストの凍結乾燥を実施し白色固形物の58mgを得た。得られた白色固形物をマイクロ構造体-16と称す。マイクロ構造体-13のドルゾラミド塩酸塩封入率は0.2質量%であった。
【0206】
製造例17 マイクロ構造体への抗がん剤(ダカルバジン)封入
薬剤としてドキソルビシン塩酸塩から変え、ダカルバジン(東京化成工業株式会社より入手)を用い、薬剤の濃度-吸光度検量線を波長λ=350nmの吸光度値で作成したこと以外は製造例12と同様の工程で、マイクロ構造体へのダカルバジンの封入を実施した。薬剤洗浄5回実施し、白色固形物ペーストの凍結乾燥を実施し白色固形物の69mgを得た。得られた白色固形物をマイクロ構造体-17と称す。マイクロ構造体-13のダカルバジン封入率は0.5質量%であった。
【0207】
製造例18 マイクロ構造体への抗がん剤(シタラビン)封入
薬剤としてドキソルビシン塩酸塩から変え、シタラビン(東京化成工業株式会社より入手)を用い、薬剤の濃度-吸光度検量線を波長λ=280nmの吸光度値で作成したこと以外は製造例12と同様の工程で、マイクロ構造体へのシタラビンの封入を実施した。薬剤洗浄5回実施し、白色固形物ペーストの凍結乾燥を実施し白色固形物の93mgを得た。得られた白色固形物をマイクロ構造体-18と称す。マイクロ構造体-18のシタラビン封入率は0.1質量%であった。
【0208】
製造例19 マイクロ構造体へのクロフィブラート封入1
薬剤としてベタメタゾンに変えクロフィブラート(東京化成工業株式会社より入手)を用い、薬剤洗浄工程において、洗浄液に(水/エタノール=50vol%/50vol%)混合溶剤のγCD溶液(γCD濃度30mg/mL)を用い、薬剤の濃度-吸光度検量線を波長λ=280nmの吸光度値で作成したこと以外は製造例1と同様の工程で、マイクロ構造体へのクロフィブラートの封入を実施した。薬剤洗浄5回実施し、白色固形物ペーストの凍結乾燥を実施し白色固形物を得た。得られた白色固形物をマイクロ構造体-19と称す。マイクロ構造体-19のクロフィブラート封入率は6.7質量%であった。
【0209】
製造例20 マイクロ構造体へのクロフィブラート封入2
軸分子としてPPO4kに変え、PEO4kを用いたこと以外は、製造例15と同様の工程で、マイクロ構造体へのクロフィブラートの封入を実施した。洗浄5回実施し、白色固形物ペーストの凍結乾燥を実施し白色固形物を得た。得られた白色固形物をマイクロ構造体-20と称す。マイクロ構造体-20のクロフィブラート封入率は2.9%であった。
【0210】
製造例21 マイクロ構造体への抗がん剤(5-フルオロウラシル)封入1
薬剤としてベタメタゾンに変え5-フルオロウラシル(東京化成工業株式会社より入手)を用い、薬剤の濃度-吸光度検量線を波長λ=270nmの吸光度値で作成したこと以外は製造例15と同様の工程で、マイクロ構造体への5-フルオロウラシルの封入を実施した。洗浄5回実施し、白色固形物ペーストの凍結乾燥を実施し白色固形物を得た。得られた白色固形物をマイクロ構造体-21と称す。マイクロ構造体-21の5-フルオロウラシル封入率は0.4質量%であった。
【0211】
製造例22 マイクロ構造体への5-フルオロウラシル封入2
軸分子としてPPO4kに変え、PEO4kを用いたこと以外は、製造例17と同様の工程で、マイクロ構造体への5-フルオロウラシルの封入を実施した。洗浄4回実施し、白色固形物ペーストの凍結乾燥を実施し白色固形物を得た。得られた白色固形物をマイクロ構造体-22と称す。マイクロ構造体-22の5-フルオロウラシル封入率は0.1質量%であった。
【0212】
製造例23 マイクロ構造体への抗がん剤(ドセタキセル)封入1
薬剤としてベタメタゾンに変えドセタキセル(東京化成工業株式会社より入手)を用い、薬剤の濃度-吸光度検量線を波長λ=285nmの吸光度値で作成したこと以外は製造例15と同様の工程で、マイクロ構造体へのドセタキセルの封入を実施した。洗浄5回実施し、白色固形物ペーストの凍結乾燥を実施し白色固形物を得た。得られた白色固形物をマイクロ構造体-23と称す。マイクロ構造体-23のドセタキセル封入率は0.5質量%であった。
【0213】
製造例24 マイクロ構造体へのドセタキセル封入2
軸分子としてPPO4kに変え、PEO4kを用いたこと以外は、製造例19と同様の工程で、マイクロ構造体へのドセタキセルの封入を実施した。洗浄5回実施し、白色固形物ペーストの凍結乾燥を実施し白色固形物を得た。得られた白色固形物をマイクロ構造体-24と称す。マイクロ構造体-24のドセタキセル封入率は2.9質量%であった。
【0214】
【表1】
【0215】
実施例19 シート状ナノ構造体への蛍光分子の組み込み
製造例25 マイクロ構造体への蛍光分子(フルオレセインイソチオシアネート(FITC))封入
薬剤のベタメタゾンに変えて蛍光分子であるFITCを用い、蛍光分子の濃度-吸光度検量線を波長λ=280nmの吸光度値で作成したこと以外は、製造例1と同様の工程でマイクロ構造体へのFITCの封入を実施した。蛍光分子の洗浄を6回実施し、淡黄色固形物ペーストの凍結乾燥を実施し淡黄色固形物の70mgを得た。得られた淡黄色固形物をマイクロ構造体-25と称す。マイクロ構造体-25のFITC封入率は0.2質量%であった。
また、マイクロ構造体-25の10mgを、γCD水溶液(γCD濃度:30mg/mL)の200μLに加え、超音波洗浄機で1分間超音波照射して、マイクロ構造体を分散させた。得られたマイクロ構造体分散液の蛍光顕微鏡観測(Nikon社製:Nikon DS-Fi3 使用)を実施した。蛍光観測には470nmの波長の光を励起光として用い、マイクロ構造体の内部に蛍光発光を観測し、マイクロ構造体内部へのFITC封入を確認した。
【0216】
製造例26 マイクロ構造体へのローダミンB封入
蛍光分子としてFITCから変えてローダミンBを用い、軸分子としてPPO4kから変えてPEO20kを用いたこと以外は、製造例25と同様の工程でマイクロ構造体へのローダミンBの封入を実施した。洗浄6回実施し、赤紫色固形物ペーストの凍結乾燥を実施しピンク色固形物66mgを得た。得られた赤紫色固形物をマイクロ構造体-26と称す。マイクロ構造体-26のローダミンB封入率は0.1質量%であった。
また、実施例25と同様の工程で、蛍光顕微鏡観測を実施し、マイクロ構造体の内部に蛍光発光を観測し、マイクロ構造体内部へのローダミンB封入を確認した。
【0217】
製造例27 マイクロ構造体へのウラニン封入
蛍光分子としてFITCから変えてウラニンを用い、軸分子としてPPO4kから変えてPPO2kを用いたこと以外は、製造例25と同様の工程でマイクロ構造体へのウラニンの封入を実施した。洗浄6回実施し、赤紫色固形物ペーストの凍結乾燥を実施しピンク色固形物75mgを得た。得られたピンク色固形物をマイクロ構造体-27と称す。マイクロ構造体-27のウラニン封入率は0.1質量%であった。
また、実施例25と同様の工程で、蛍光顕微鏡観測を実施し、マイクロ構造体の内部に蛍光発光を観測し、マイクロ構造体内部へのウラニン封入を確認した。
【0218】
【表2】
【符号の説明】
【0219】
1…構造体、2…擬ポリロタキサン及び/又はポリロタキサン、4…複数の擬ポリロタキサン及び/又はポリロタキサンの間の空間、6…複数の環状分子により区画形成される空間、10…鎖状ポリマー、20…環状分子、24…1つの環状分子により区画形成される開口部、30…物質。
図1
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