(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-06
(45)【発行日】2025-02-17
(54)【発明の名称】粗さ解析のための方法及び情報処理システム
(51)【国際特許分類】
H01L 21/66 20060101AFI20250207BHJP
G01B 15/04 20060101ALI20250207BHJP
【FI】
H01L21/66 J
G01B15/04 K
(21)【出願番号】P 2021112800
(22)【出願日】2021-07-07
【審査請求日】2024-04-10
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 1.Metrology, Inspection, and Process Control for Semiconductor Manufacturing XXXV,Vol.11611,p1161117 2.オンライン集会 SPIE Advanced Lithography 2021
(73)【特許権者】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(72)【発明者】
【氏名】木津 良祐
【審査官】庄司 一隆
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-248810(JP,A)
【文献】特表2012-529765(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0264016(US,A1)
【文献】特開2006-215020(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/66
G01B 15/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
特定の1のラインパターンの測定結果から、粗さ解析の対象となる1のプロファイルを生成するステップと、
前記プロファイルから、複数のラグrの各々について、HHCF(Height Height Correlation Function)の値を算出するステップと、
ラグrが閾値以下の領域において、各ラグrと当該ラグrに対するHHCFの値とを、前記プロファイルの標準偏差に含まれるノイズ起因の成分σ
noise、正の定数A及びノイズ分が補正された粗さ指数α
unbiasedとで規定される、ノイズ込みHHCFのモデル式にフィッティングすることで、前記プロファイルの標準偏差に含まれるノイズ起因の成分σ
noise、前記正の整数A及び前記ノイズ分が補正された粗さ指数α
unbiasedを算出するステップと、
前記プロファイルの標準偏差に含まれるノイズ起因の成分σ
noiseと前記HHCFの値とから、ノイズ分が補正されたHHCFの値を算出するステップと、
を含む方法。
【請求項2】
前記ノイズ分が補正されたHHCFの値と前記正の定数Aと前記ノイズ分が補正された粗さ指数α
unbiasedとに基づき、ノイズ分の補正の精度が許容範囲に入っているか否かを判断するステップ
をさらに含む請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記ノイズ分の補正の精度が許容範囲に入っていない場合、前記特定の1のラインパターンの再測定を行うように促す出力又は再測定を行うように指示する出力を行うステップ
をさらに含む請求項2記載の方法。
【請求項4】
前記プロファイルから、前記プロファイルの標準偏差を算出するステップと、
前記プロファイルの標準偏差と前記プロファイルの標準偏差に含まれるノイズ起因の成分σ
noiseとから、ノイズ分が補正された前記プロファイルの標準偏差を算出するステップと、
をさらに含む請求項1又は2記載の方法。
【請求項5】
ノイズ分が補正された前記プロファイルの標準偏差と、ノイズ分が補正された前記HHCFの値とから、ノイズ分が補正された相関長ξ
unbiasedを算出するステップ
をさらに含む請求項4記載の方法。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか1つ記載の方法を、コンピュータに実行させるためのプログラム。
【請求項7】
特定の1のラインパターンの測定結果から、粗さ解析の対象となる1のプロファイルを生成する手段と、
前記プロファイルから、複数のラグrの各々について、HHCF(Height Height Correlation Function)の値を算出する手段と、
ラグrが閾値以下の領域において、各ラグrと当該ラグrに対するHHCFの値とを、前記プロファイルの標準偏差に含まれるノイズ起因の成分σ
noise、正の定数A及びノイズ分が補正された粗さ指数α
unbiasedとで規定される、ノイズ込みHHCFのモデル式にフィッティングすることで、前記プロファイルの標準偏差に含まれるノイズ起因の成分σ
noise、前記正の整数A及び前記ノイズ分が補正された粗さ指数α
unbiasedを算出する手段と、
前記プロファイルの標準偏差に含まれるノイズ起因の成分σ
noiseと前記HHCFの値とから、ノイズ分が補正されたHHCFの値を算出する手段と、
を有する情報処理システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ノイズ補正を伴う粗さ解析技術に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイス製造におけるライン&スペース(Line & Space)パターンの形状は、走査電子顕微鏡(SEM:Scanning Electron Microscope)等で測定される。ラインパターンを観察することで得られるSEM像から、エッジ検出によりラインエッジプロファイルが形成され、それを基にしてラインエッジラフネス(LER:Line Edge Roughness)もしくは線幅ラフネス(LWR:Line Width Roughness)と呼ばれる粗さ評価が行われる。一般に、SEM像にはノイズが含まれ、それによりラインエッジプロファイルにもノイズが含まれるため、粗さ評価結果にもノイズ起因の誤差が含まれる。
【0003】
ある従来技術(例えば非特許文献1)では、ラインパターンの粗さ解析のために、半導体ウエハ上に形成されたラインパターンを多数本にわたって測定し、それぞれのPSD(Power spectral density)解析を行い、平均化することでスペクトル中に誤差起因と推定される特徴を見出し、それをPSDから差し引くことでノイズ補正を行っている。
【0004】
このPSD解析では、多数本のラインパターン測定とそれらのPSDの平均化を行う処理を行うことになる。この処理の目的は2つあると考えられ、一つはラインエッジプロファイルに含まれるランダムノイズのばらつきを平均化により収束させて、ノイズ量を比較的高精度に推定することである。もう一つは、それぞれのラインエッジプロファイル特有の形状に起因したPSDのばらつきを収束又は抑制させることで、平均化されたPSDが理論式と一致するようにして、その一致度合いから粗さパラメータを推定可能にすることである。
【0005】
このような従来技術では、通常数百本以上のラインパターンの測定が必要となるため、測定スループットの問題が生じ得る。また、得られる一組の粗さパラメータが示すものは、測定した多数本のラインパターンの平均的な粗さパラメータであり、それら多数本の異なるラインパターン間の粗さパラメータの分布を知ることができない。また、得られた粗さパラメータの信頼性の評価は行われない。
【0006】
PSDとは異なる粗さ解析手法として、HHCF(Height-Height Correlation Function)と呼ばれる解析手法がある。HHCFを用いる場合は、PSDと異なりラインエッジプロファイル特有の形状に起因したPSDのばらつきを収束又は抑制させることに相当する処理はなく、一本のラインエッジプロファイルに対して粗さパラメータの算出が可能である。一方で、HHCFを用いる場合においても、ラインエッジプロファイルにノイズが含まれている場合は、HHCFの形状が変形しているため、粗さパラメータ算出の際に大きな誤差要因となる。よって、上記PSDを用いる手法同様に、多数本の異なるラインパターンの測定とそれぞれのHHCFの平均化によって、ノイズ量を比較的高精度に推定して補正する手法(例えば非特許文献2)が提案されている。しかし、この手法では、PSDによる解析同様に、多数本の測定を要し、得られる粗さパラメータも、PSDによる解析同様に多数本のラインパターンの平均的な粗さパラメータとなる。
【0007】
上で述べたような従来技術では、特定の1本のラインパターン、また1本のラインパターンの片方のラインエッジプロファイルについてノイズ分の補正がなされたHHCFや粗さパラメータを高精度で得ることが出来るわけではない。また、多数本のラインパターンについて測定するということは、測定回数も多くなる。また、これらの従来技術で得られた粗さパラメータの信頼性の評価は行われない。
【0008】
特定の1本のラインパターンに対して粗さパラメータを解析する従来技術もある(例えば非特許文献3及び4)。しかし、非特許文献3では、式の一部に誤りがあってノイズ補正は正確でない。また、非特許文献4では、同一のラインパターンを複数回測定して、それぞれのラインエッジプロファイルの測定結果を重ね合わせて平均化する方法によるノイズ低減を行っているが、ノイズを十分に低減するために必要な測定回数が非常に多くなることが予測される。また、これらの従来技術で得られた粗さパラメータの信頼性の評価は行われない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】米国特許出願公開公報US2020/0211813A1
【非特許文献】
【0010】
【文献】G.F. Lorusso, et al, "Unbiased roughness measurements: Subtracting out SEM effects", Microelectron. Eng. 190, 33-37, (2018)
【文献】V. Constantoudis, et al, "Line edge roughness metrology: recent challenges and advances toward more complete and accurate measurements", J. Micro/Nanolith. MEMS MOEMS 17, 041014, (2018)
【文献】V. Constantoudis, et al, "Noise-free estimation of spatial Line Edge/Width Roughness parameters", Proc. of SPIE Vol.7272, 72724B, (2009)
【文献】L. Azarnouche, et al, "Unbiased line width roughness measurements with critical dimension scanning electron microscopy and critical dimension atomic force microscopy", Journal of Applied Physics 111, 084318 (2012)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
従って、本発明の目的は、一側面によれば、特定の1本のラインパターンについて高精度な粗さ解析を可能にするための新規な技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明に係る方法は、(A)特定の1のラインパターンの測定結果から、粗さ解析の対象となる1のプロファイルを生成するステップと、(B)上記プロファイルから、複数のラグrの各々について、HHCF(Height Height Correlation Function)の値を算出するステップと、(C)ラグrが閾値以下の領域において、各ラグrと当該ラグrに対するHHCFの値とを、プロファイルの標準偏差に含まれるノイズ起因の成分σnoise、正の定数A及びノイズ分が補正された粗さ指数αunbiasedとで規定される、ノイズ込みHHCFのモデル式にフィッティングすることで、プロファイルの標準偏差に含まれるノイズ起因の成分σnoise、正の整数A及びノイズ分が補正された粗さ指数αunbiasedを算出するステップと、(D)プロファイルの標準偏差に含まれるノイズ起因の成分σnoiseとHHCFの値とから、ノイズ分が補正されたHHCFの値を算出するステップとを含む。
【発明の効果】
【0013】
一側面によれば、特定の1本のラインパターンについて高精度な粗さ解析が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1は、実施の形態に係るシステム構成例を示す図である。
【
図2】
図2は、実施の形態に係る処理フローを示す図である。
【
図3】
図3は、ラインエッジプロファイルを説明するための図である。
【
図4】
図4は、ラインエッジプロファイルの平均化について説明するための図である。
【
図7】
図7は、低r域におけるf(r)へのフィッティングを説明するための図である。
【
図8】
図8は、ノイズ分が補正されたHHCFの値の例を示す図である。
【
図9】
図9は、実施の形態に係る処理フローを示す図である。
【
図10】
図10(a)乃至(c)は、ノイズ補正精度の判定例を示す図である。
【
図12】
図12は、実施の形態の効果を説明するための図である。
【
図13】
図13は、情報処理装置であるコンピュータの機能構成例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
図1に、本発明の実施の形態に係るシステムの一例を示す。
SEM100には、本実施の形態に係る情報処理装置1000が接続されている。SEM100の測定結果は情報処理装置1000に出力される。情報処理装置1000は、測定結果格納部1010と、プロファイル生成部1030と、第1データ格納部1040と、HHCF算出部1050と、粗さパラメータ算出部1060と、補正精度評価部1070と、第2データ格納部1080と、SEM制御部1020と、入力部1090と、出力部1100とを有する。なお、SEM100は、測定装置の一例であって、他の測定装置であってもよい。
【0016】
情報処理装置1000の測定結果格納部1010は、SEM100の測定結果を格納する。プロファイル生成部1030は、測定結果格納部1010に格納された測定結果から低ノイズ化したラインエッジプロファイルなどのデータを生成し、第1データ格納部1040に格納する。HHCF算出部1050は、第1データ格納部に格納されているラインエッジなどのデータからHHCFの値を算出して、第2データ格納部1080に格納する。粗さパラメータ算出部1060は、第1データ格納部1040及び第2データ格納部1080に格納されているデータを用いて各粗さパラメータを第2データ格納部1080に格納する。補正精度評価部1070は、ノイズ分が補正されたHHCFの値が十分な精度で補正されたか否かを評価する処理を実行する。出力部1100は、情報処理装置1000における処理結果を表示装置その他の出力装置(ネットワークに接続された他の情報処理装置であっても良い)に出力する。入力部1090は、ユーザからの指示入力や閾値その他の入力を受け付ける。SEM制御部1020は、入力部1090からの指示入力等に応じてSEM100に所定の測定を実施させるなどの制御処理を実行する。
【0017】
次に、
図1のシステムの処理内容について
図2乃至
図12を用いて説明する。
まず、情報処理装置1000のSEM制御部1020は、SEM100を制御して、例えば半導体ウエハ上のラインパターンを測定し、測定結果を測定結果格納部1010に格納する(
図2:ステップS1)。この際、測定条件を調整して、より低ノイズな測定を行うようにする。測定条件の調整だけでは低ノイズ化が困難であれば、同一箇所で複数回の測定を行う。なお、低ノイズ化が十分か否かについては、後の処理で評価されるので、過度に測定回数を増加させたり、過度にSEMの加速電圧を上げなくても良い。例えば、
図3の左側に模式的に示すように、半導体ウエハ上に形成されたラインパターンを、SEM100にて撮影して、
図3の中央に模式的に示すように、SEM像を得る。
【0018】
プロファイル生成部1030は、測定結果からラインエッジプロファイルを生成し、第1データ格納部1040に格納する(ステップS2)。より具体的には、測定結果であるSEM像からラインエッジプロファイルを、エッジ検出により抽出する。例えば、
図3の右側に模式的に示すように、ラインエッジプロファイルを抽出する。なお、複数回測定した場合には、抽出された複数のラインエッジプロファイルを平均する。また、SEM測定中のドリフトが原因で水平方向に関して少しずつずれているため、それらを最大限一致させるような処理(例えばIterative Closest Pointアルゴリズム等の位置合わせ手法を使った処理)を行ってから、ラインエッジプロファイルの平均化を行う。このような処理の結果を、第1データ格納部1040に格納する。
【0019】
本実施の形態においては、
図3の中央に示すようなSEM像であれば、
図3の右側に示すように2本のラインエッジプロファイルが抽出されるが、それらのうちのいずれか1本に着目して処理をする。但し、2本のラインエッジプロファイルの各々について別々に以下の処理を行うようにしても良い。さらに、SEM像に複数のラインパターンが含まれていれば、各ラインパターン、そして2本のラインエッジプロファイルの各々について別々に処理しても良い。さらに、ラインエッジプロファイルではなく、2本のラインエッジプロファイル間の線幅をラインパターン長手方向について算出した線幅ラフネスプロファイルを、本ステップにおいて抽出するようにしても良い。すなわち、本実施の形態に係るプロファイルは、ラインエッジプロファイルの場合もあれば、線幅ラフネスプロファイルのこともある。
【0020】
ステップS1及びS2により低ノイズ化されたラインエッジプロファイルを生成するが、これは以下の式におけるランダムノイズεを小さくすることに相当する。
pi=pt+b+εi
(i=1,2,...,n)
ここで、piは、ノイズ込みのラインエッジプロファイルのエッジ点位置を表し、ptは、真のラインエッジプロファイルのエッジ点位置を表し、bは、オフセットを表し、εiはランダムノイズを表す。
【0021】
また、後の処理で算出されるHHCFの二乗(G
2(r))に、ノイズが含まれてしまっている場合には、HHCFの二乗は、以下のような式で表される。
【数1】
rは、2つのデータ点間のずらし量であるラグ(lag)と呼ばれる。nは、ラインエッジプロファイルに含まれるエッジ点の数を表す。
【0022】
このようにノイズ込みHHCFの二乗(G2(r))には、誤差第2項及び誤差第3項が含まれており、低ノイズ化によってランダムノイズεを小さくすることは、誤差第2項及び誤差第3項を小さくすることに相当する。特に誤差第2項は、大きさも符号もランダムであって補正できない誤差であるため、これをSEM像の低ノイズ化によって低減する。誤差第3項については、ステップS5以降で推定及び補正を行う。
【0023】
なお、測定条件の一例として、加速電圧5kV、測定倍率5万倍、画像サイズ1920×2560ピクセル、1測定あたりのフレーム数は32としてSEM像を撮影して、着目するラインパターンを、112回測定した。このようにして得られた112枚のSEM像に対してエッジ検出を行ってラインエッジプロファイルを抽出し、それらを平均化すると、
図4におけるカーブaのようになる。
図4では、横軸は、ラインパターンの長手方向の位置x(nm)を表し、縦軸は、ラインパターンの長手方向とは直交する方向の位置y(nm)を表す。
図4に示す平均化無しのラインエッジプロファイルと比較すると、平均化によるノイズの低減が分かる。但し、カーブaでもまだノイズは含まれている。
【0024】
次に、HHCF算出部1050は、第1データ格納部1040に格納されているラインエッジプロファイルのデータを用いて、ラインエッジプロファイルのHHCFの値G
meas(r)を算出し、第2データ格納部1080に格納する(ステップS3)。このステップでは、以下の式に従ってG
meas(r)を算出する。
【数2】
ここでdは、隣り合うエッジ点の間隔を表す。mは、ラグrを定めるdの倍数である。すなわち、mを変化させることでrを変化させて、各rについてG(r)を算出する。
【0025】
図5に、例えば112回測定の平均化ラインエッジプロファイルについてのHHCFの値G
measと、平均化無しの場合のHHCFの値とを示す。このように、平均化ラインエッジプロファイルのHHCFの値G
measは、平均化無しの場合のHHCFの値よりもラグrの全範囲において小さな値となる。特に、低r域では、その差が顕著になる。
【0026】
その後、出力部1100からGmeasを出力するなどして、低r域を定める閾値rtを、ユーザに設定させる。閾値rtは、以下でも説明する相関長ξよりも小さい値が好ましい。入力部1090は、ユーザから閾値rtの入力を受け付け、粗さパラメータ算出部1060に当該閾値rtを設定する(ステップS5)。
【0027】
図5に示す例であれば、
図6に示すように、例えば閾値r
t=10と設定して、低r域を閾値r
t以下の領域とする。なお、閾値r
tをユーザに設定させるのではなく、確実に相関長ξより小さな固定値を設定しておき、それを用いるようにしても良い。また、仮にノイズ込みのHHCFの値から相関長ξを算出して、それよりも一定値または一定割合以上小さい値を、閾値r
tに設定しても良い。
【0028】
そして、粗さパラメータ算出部1060は、低r域のG
meas(r)の点に対して、ノイズ込みHHCFのモデル式でフィッティングを行い、ラインエッジプロファイルの標準偏差に含まれるノイズ起因の成分σ
noiseと、正の定数Aと、ノイズ分が補正された粗さ指数α
unbiasedを算出し、第2データ格納部1080に格納する(ステップS7)。ノイズ込みのHHCFのモデル式は、以下のように表される。
【数3】
なお、σ
noiseは、ノイズ込みのラインエッジプロファイルの標準偏差をσ
measと、真の標準偏差をσ
trueとしたときに、σ
meas
2=σ
true
2+σ
noise
2となる、ラインエッジプロファイルの標準偏差に含まれるノイズ起因の成分である。フィッティングは、周知の最小自乗法などを用いる。なお、LER計測に関しては慣例的にラインエッジプロファイルの標準偏差のことをRMS(Root Mean Square)と呼ぶことがある(例えば非特許文献2)。
【0029】
図7に、(3)式(f(r))とG
meas(r)との関係を表す。低r域において、HHCFの値は、理論的には(Ar
2αunbiased)
1/2に沿った値になるが、ノイズのため√2σ
noise分だけ大きな値として観測される。このため、G
meas(r)に対して(3)式でフィッティングすれば、σ
noise、A及びα
unbiasedが得られるようになる。
【0030】
そして、HHCF算出部1050は、第2データ格納部1080に格納されているG
meas(r)及びσ
noiseから、ノイズ分が補正されたHHCFの値G
unbiased(r)を算出し、第2データ格納部1080に格納する(ステップS9)。このステップにおいては、以下の式に従ってG
unbiased(r)を算出する。
【数4】
【0031】
なお、
図7の例では、σ
noise=0.19nm、α
unbiased=0.90、A=0.0053という数値が得られる。
【0032】
このようにして、粗さ解析の1つの結果として、ノイズ分が補正されたG
unbaised(r)が得られる。この結果を出力部1100によって出力するようにしても良い。
図8に、ノイズ込みのG
meas(r)とノイズ分が補正されたG
unbiased(r)とを示す。全体的に、ノイズ分が補正されたG
unbiased(r)の方が低い値となるが、低r域ほど両者の差が大きい。
【0033】
また、粗さパラメータの1つである粗さ指数αunbiasedも得られており、この結果も出力部1100によって出力するようにしても良い。
【0034】
処理は端子Aを介して、
図9の処理に移行して、補正精度評価部1070は、低r域のG
unbiased(r)の各点を、ノイズ補正精度を評価する評価式で評価する(ステップS11)。評価式は、例えば以下のように表される。
【数5】
(5)式は、ノイズ分が補正されたG
unbiased(r)と、フィッティングで得たパラメータによる低r域の理論値(Ar
2αunbiased)
1/2との差の絶対値の、理論値に対する割合を表す。G
unbiased(r)に含まれるノイズ誤差が十分に小さければ、評価値E(r)は小さな値となる。
【0035】
ステップS11では、r≦rtを満たすデータ点のrを代入することで、各rについて、E(r)を算出する。
【0036】
補正精度評価部1070は、評価値E(r)から、ノイズ補正精度は許容範囲内であるか否かであるかを判断する(ステップS13)。例えば、評価値E(r)に対する閾値Et(例えば10%)を設定し、Et<E(r)となるデータ点の数が、閾値nt(例えば0)以下であるか否かを判断する。Et及びntの数値は一例であり、他の適切な値を実験結果などから設定しても良い。
【0037】
図10にE(r)の計算例を示す。
図10(c)は、5回測定したラインエッジプロファイルを平均化した場合に算出されるE(r)(r=3乃至10)の値を示している。E
t=10とすると、r=3、r=7、r=9において、E(r)>10となっている。一方、
図10(b)は、25回測定したラインエッジプロファイルを平均化した場合に算出されるE(r)の値を示している。この場合には、E
t=10<E(r)となるrは存在しなくなる。同様に、
図10(a)は、112回測定したラインエッジプロファイルを平均化した場合に算出されるE(r)の値を示している。25回測定した場合と比較して112回測定すると全体的にE(r)の値は小さくなっている。この例では、5回測定しただけでは、ノイズ補正精度は許容範囲外であり、25回以上測定すればノイズ補正精度が許容範囲内であると判断できる。
【0038】
このような判断基準で、ノイズ補正精度が許容範囲外であると判断されると、補正精度評価部1070は、出力部1100を介して、ノイズ補正精度が許容範囲外であるため、ユーザに対して再測定を促す出力を行う(ステップS15)。ユーザは、入力部1090を介して測定条件を入力して、SEM制御部1020に、入力された測定条件の下、低ノイズ化のためSEM100によりラインパターンを再測定させる(ステップS16)。そして処理は端子Bを介して
図2のS2に戻る。ステップS16では、ステップS1における測定条件と同じ測定条件で回数を増加させるような再測定を行う場合もあれば、例えばステップS1の測定条件に含まれる加速電圧を上げて再測定を行う場合がある。前者の場合には、ステップS1の測定結果と再測定の結果とを合わせて平均化することで低ノイズ化される。後者の場合には、ステップS1の測定結果とは別に低ノイズ化された測定結果が得られるので、ステップS16の測定結果を用いてラインエッジプロファイルを生成する。
【0039】
なお、ステップS15でユーザに対して再測定を促す出力を出力部1100を介して行うのではなく、予め設定されている測定条件(測定回数などを含む)に従って、すぐさまSEM制御部1020に、再測定を指示する出力を行うようにしても良い。
【0040】
一方、ノイズ補正精度が許容範囲内であると判断されると、粗さパラメータ算出部1060は、第1データ格納部1040に格納されているラインエッジプロファイルのデータから、ラインエッジプロファイルの標準偏差の値σmeasを算出し、第2データ格納部1080に格納する(ステップS17)。標準偏差の算出方法については、周知であるからここでは説明を省略する。
【0041】
さらに、粗さパラメータ算出部1060は、第2データ格納部1080に格納されている標準偏差の値σ
measとノイズ起因の成分σ
noiseとから、ノイズ分が補正された標準偏差の値σ
unbiasedを算出し、第2データ格納部1080に格納する(ステップS19)。上でも述べたように、σ
meas
2=σ
true
2+σ
noise
2という関係があるので、以下の式に従ってσ
unbiasedを算出する。
【数6】
【0042】
また、粗さパラメータ算出部1060は、第2データ格納部1080に格納されている、ノイズ分が補正された標準偏差の値σ
unbiased及びノイズ分が補正されたHHCFの値G
unbiased(r)から、相関長ξ
unbiasedを算出し、第2データ格納部1080に格納する(ステップS21)。
図11に示すように、ノイズ分が補正されたHHCFの値G
unbiased(r)の高r域における飽和値が√2×σ
unbiasedであり、そこから(2(1-1/e))
1/2×σ
unbiasedまで減衰した場合におけるr値が、相関長ξ
unbiasedとなる。なお、G
unbiased(r)は離散データであるため、G
unbiased(r)の線形補間式と(2(1-1/e))
1/2との交点から、ξ
unbiasedを算出する。なお、
図12の例では、ξ
unbiased=42.0nmである。
【0043】
そして、出力部1100は、ノイズ分が補正されたHHCFの値Gunbiased(r)及び粗さパラメータを、ユーザに対して出力する(ステップS23)。
【0044】
σunbiasedは、例えば各種半導体プロセスの評価値として用いられる。ξunbiasedは、異なるラインパターン間の線幅のばらつきと関連するため、例えば、線幅ばらつきを小さくするためのプロセスの開発や線幅ばらつきとデバイス性能の関係を調べる場合に用いられる。αunbiasedについても、半導体プロセスの開発指標として用いられることが期待される。
【0045】
以上述べたように、本実施の形態によれば、特定の1本のラインエッジプロファイルについて高精度な粗さ解析が可能になる。すなわち、ラインエッジプロファイルが複数本得られれば、その各々について高精度な粗さ解析が可能となる。また、ノイズ補正精度を評価することもできるようになる。さらに、ノイズ補正精度が許容範囲になるように徐々に測定回数を増加させるといった手法も採用できるので、測定効率を向上させることも可能である。なお、特定の1本のラインパターンの両端のラインエッジプロファイルから、1本の線幅ラフネスプロファイルを得る場合もあるので、特定の1本のラインパターンについて高精度な粗さ解析が可能となる、とも言える。
【0046】
このように1本のラインエッジプロファイルについて粗さ解析が可能になると、複数のラインパターン間の粗さパラメータの分布(平均、分散)といったこれまでにない新たな情報が得られるようになる。これまでであれば、測定対象になった多数本のラインパターンに対する平均的な粗さパラメータだけが得られており、さらにその値の推定精度は不明であった。分散がわかるようになると、統計学に基づいた効率的で信頼性の高い計測につながると考えられる。
【0047】
さらに、
図12に模式的に示すように、複数のラインパターンの選び方によっては、隣り合うラインパターン間や、半導体ウエハ面内で一定距離離れたラインパターン間の粗さパラメータの分布の評価が可能になり、高度な半導体プロセス管理につながると期待できる。また、高精度なノイズ補正を行った粗さ解析が可能になると、ラインパターンの加工プロセス条件を変えたときの僅かなLERの変化でも捉えることができる可能性がある。
【0048】
なお、本実施の形態では、ラインエッジプロファイルが、Self-affine fractalsの特性を有すると仮定しており、その自己相関関数(もしくは自己共分散)R(r)は、ラグrと3つの粗さパラメータ(標準偏差(σ)、相関長(ξ)、粗さ指数(α))を用いて、以下の式で表される。
【数7】
【0049】
以上、本発明の実施の形態について説明したが、本発明はこれらに限定されるものではない。各実施の形態についてはその要素を任意に組み合わせてもよい。また、各実施の形態において、任意の要素を除去して実施する場合もある。処理フローについては、処理結果が変わらない限り順番を入れ替えたり、複数のステップを並列に実行する場合もある。また、
図1に示した情報処理装置の機能ブロック構成は、一例に過ぎず、プログラムモジュール構成やファイル構成などと異なる場合もある。
【0050】
なお、
図2及び
図9の処理フローでは、ステップS13の後にステップS17乃至S23を行うようにしているが、ステップS13より前に実行するようにしても良い。また、ステップS13では低r域のみで判断を行うので、ステップS3及びS9についても低r域のみ算出を行って、ノイズ補正精度が許容範囲内であると判断された後に、高r域の算出を行っても良い。
【0051】
また、上では、ステップS13において評価値E(r)、閾値E
t及びn
tに基づき自動的に判断する例を示したが、G
unbiased(r)やE(r)をユーザに提示して、ユーザ自身がノイズ補正精度が許容範囲内であるか否かを判断する場合もある。さらに、
図2及び
図9の処理フローでは、ノイズ補正精度が許容範囲外である場合には、再測定を行うような例を示していたが、低r域の設定を変更することでステップS7のフィッティングを適正化させる場合もある。例えば、閾値r
tに大きすぎる値を設定したり、小さすぎる値を設定すると、フィッティングが適正に行われない場合もあるので、ノイズ補正精度が許容範囲外と判断される場合には、閾値r
tの見直し及び修正を行う場合もある。
【0052】
評価値を算出するための(5)式については一例であり、様々な変形が可能である。単に|Gunbiased(r)-(Ar2αunbiased)1/2|であっても良い。それに併せて閾値を設定する。
【0053】
なお、
図1では、SEM100に情報処理装置1000が接続される例を示したが、SEM100に接続されておらずSEM100とは独立した情報処理装置の場合もある。この場合には、SEM制御部1020は含まれない。また、1台の情報処理装置で情報処理装置1000の機能を実現するのではなく、複数台の情報処理装置が協働して情報処理装置1000の機能を実現する場合もある。いずれの場合も、情報処理装置1000を情報処理システムと呼ぶ場合がある。
【0054】
なお、上で述べた情報処理装置1000は、例えばコンピュータ装置であって、
図13に示すように、メモリ2501とCPU(Central Processing Unit)2503とハードディスク・ドライブ(HDD:Hard Disk Drive)2505と表示装置2509に接続される表示制御部2507とリムーバブル・ディスク2511用のドライブ装置2513と入力装置2515とネットワークに接続するための通信制御部2517と周辺機器(イメージセンサ100、減衰機構300、冷却機構400などを含む)と接続するための周辺機器接続部2521とがバス2519で接続されている。なお、HDDはソリッドステート・ドライブ(SSD:Solid State Drive)などの記憶装置でもよい。オペレーティング・システム(OS:Operating System)及び本発明の実施の形態における処理を実施するためのアプリケーション・プログラムは、HDD2505に格納されており、CPU2503により実行される際にはHDD2505からメモリ2501に読み出される。CPU2503は、アプリケーション・プログラムの処理内容に応じて表示制御部2507、通信制御部2517、ドライブ装置2513を制御して、所定の動作を行わせる。また、処理途中のデータについては、主としてメモリ2501に格納されるが、HDD2505に格納されるようにしてもよい。例えば、上で述べた処理を実施するためのアプリケーション・プログラムはコンピュータ読み取り可能なリムーバブル・ディスク2511に格納されて頒布され、ドライブ装置2513からHDD2505にインストールされる。インターネットなどのネットワーク及び通信制御部2517を経由して、HDD2505にインストールされる場合もある。このようなコンピュータ装置は、上で述べたCPU2503、メモリ2501などのハードウエアとOS及びアプリケーション・プログラムなどのプログラムとが有機的に協働することにより、上で述べたような各種機能を実現する。
【0055】
以上述べた実施の形態をまとめると以下のようになる。
【0056】
本実施の形態に係る方法は、(A)特定の1のラインパターンの測定結果から、粗さ解析の対象となる1のプロファイルを生成するステップと、(B)上記プロファイルから、複数のラグrの各々について、HHCF(Height Height Correlation Function)の値を算出するステップと、(C)ラグrが閾値以下の領域において、各ラグrと当該ラグrに対するHHCFの値とを、プロファイルの標準偏差に含まれるノイズ起因の成分σnoise、正の定数A及びノイズ分が補正された粗さ指数αunbiasedとで規定される、ノイズ込みHHCFのモデル式にフィッティングすることで、プロファイルの標準偏差に含まれるノイズ起因の成分σnoise、正の整数A及びノイズ分が補正された粗さ指数αunbiasedを算出するステップと、(D)プロファイルの標準偏差に含まれるノイズ起因の成分σnoiseとHHCFの値とから、ノイズ分が補正されたHHCFの値を算出するステップとを含む。
【0057】
このような処理を行うことで、特定の1のラインパターンについて、ノイズ分が高精度で補正された粗さ分析が可能となる。なお、測定結果は、複数回の測定結果の場合もあれば、低ノイズ化が可能な測定条件における1の測定結果である場合もある。また、プロファイルの生成は、例えば複数の測定結果の平均化による1のラインエッジプロファイルの生成や1の線幅ラフネスプロファイルを生成する場合もある。
【0058】
また、上記方法は、(E)ノイズ分が補正されたHHCFの値と正の定数Aとノイズ分が補正された粗さ指数αunbiasedとに基づき、ノイズ分の補正の精度が許容範囲に入っているか否かを判断するステップをさらに含むようにしても良い。このようにして、ノイズ補正精度について評価を行うことが出来るようになる。なお、ラグrが閾値以下の領域について上記の判断を行うようにしても良い。
【0059】
さらに、上記方法は、(F)ノイズ分の補正の精度が許容範囲に入っていない場合、特定の1のラインパターンの再測定を行うように促す出力又は再測定を行うように指示する出力を行うステップをさらに含むようにしても良い。再測定は、測定条件を異なるようにして低ノイズ化を行うようにしても良いし、測定条件を同じにして測定回数を増加させるようにしても良い。
【0060】
また、上記方法は、(G)上記プロファイルから、プロファイルの標準偏差を算出するステップと、(H)プロファイルの標準偏差とプロファイルの標準偏差に含まれるノイズ起因の成分σnoiseとから、ノイズ分が補正されたプロファイルの標準偏差を算出するステップとをさらに含むようにしても良い。これにより粗さパラメータのうち最も重要である、ノイズ分が補正されたプロファイルの標準偏差(σunbiased)を得ることが出来るようになる。なお、これらのステップについては、(E)のステップを行う前に行っても良い。
【0061】
また、上記方法は、(I)ノイズ分が補正されたプロファイルの標準偏差と、ノイズ分が補正されたHHCFの値とから、ノイズ分が補正された相関長ξunbiasedを算出するステップをさらに含むようにしても良い。相関長ξunbiasedも粗さを表す指標としては重要である。
【0062】
以上述べた方法をコンピュータに実行させるためのプログラムを作成することができて、そのプログラムは、様々な記憶媒体に記憶される。
【符号の説明】
【0063】
1000 情報処理装置 1010 測定結果格納部
1020 SEM制御部 1030 プロファイル生成部
1040 第1データ格納部 1050 HHCF算出部
1060 粗さパラメータ算出部 1070 補正精度評価部
1080 第2データ格納部 1090 入力部
1100 出力部