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特許7630327電気・電子部品用材料及び電気・電子部品用材料の製造方法
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  • 特許-電気・電子部品用材料及び電気・電子部品用材料の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-06
(45)【発行日】2025-02-17
(54)【発明の名称】電気・電子部品用材料及び電気・電子部品用材料の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22C 9/00 20060101AFI20250207BHJP
   C22F 1/08 20060101ALI20250207BHJP
   C22C 5/06 20060101ALI20250207BHJP
   C22F 1/00 20060101ALN20250207BHJP
【FI】
C22C9/00
C22F1/08 B
C22C5/06 C
C22F1/00 682
C22F1/00 683
C22F1/00 685Z
C22F1/00 613
C22F1/00 691B
C22F1/00 691C
C22F1/00 694B
C22F1/00 692A
C22F1/00 694A
C22F1/00 692B
C22F1/00 661A
C22F1/00 660Z
C22F1/00 630A
C22F1/00 602
C22F1/00 630F
C22F1/00 623
C22F1/00 624
C22F1/00 625
C22F1/00 627
C22F1/00 686A
C22F1/00 691A
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2021053055
(22)【出願日】2021-03-26
(65)【公開番号】P2022150452
(43)【公開日】2022-10-07
【審査請求日】2023-12-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000005290
【氏名又は名称】古河電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114292
【弁理士】
【氏名又は名称】来間 清志
(74)【代理人】
【識別番号】100205659
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 拓也
(72)【発明者】
【氏名】北河 秀一
(72)【発明者】
【氏名】川田 紳悟
(72)【発明者】
【氏名】葛原 颯己
(72)【発明者】
【氏名】秋谷 俊太
(72)【発明者】
【氏名】松尾 亮佑
【審査官】河野 一夫
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-173043(JP,A)
【文献】特開2015-224354(JP,A)
【文献】特開2020-111789(JP,A)
【文献】国際公開第2013/031841(WO,A1)
【文献】特開昭63-109130(JP,A)
【文献】特開昭63-093835(JP,A)
【文献】特開昭63-125628(JP,A)
【文献】特開平01-165735(JP,A)
【文献】特開2006-002233(JP,A)
【文献】特開2007-039804(JP,A)
【文献】特開2013-067848(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 9/00
C22F 1/08
C22F 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
0.10~0.50質量%のCrおよび0.01~0.50質量%のMgを含有し、残部がCuおよび不可避不純物からなるCu系基材と、
前記Cu系基材の表面の少なくとも一部に形成され、導電材料からなる被膜と
を有し、
前記被膜は少なくとも1層以上から構成され、80質量%以上のAgを含有するAg系材料からなる電気・電子部品用材料であって、
前記Cu系基材は、前記電気・電子部品用材料の断面における、断面表層領域に位置する結晶粒の平均粒径(Ds)に対する断面中央領域に位置する結晶粒の平均粒径(Dc)の比(Dc/Ds)が0.9~1.1の範囲である、電気・電子部品用材料。
【請求項2】
前記Cu系基材が、0.01~0.50質量%のSiをさらに含有する、請求項1に記載の電気・電子部品用材料。
【請求項3】
前記Cu系基材が、さらにZn、Fe、Sn、AgおよびNiからなる群から選択される少なくとも1種を合計で0.05~0.50質量%含有する、請求項1又は2に記載の電気・電子部品用材料。
【請求項4】
前記Cu系基材の前記断面表層領域に位置する結晶粒の平均粒径(Ds)が、1μm以上である、請求項1~3のいずれか1項に記載の電気・電子部品用材料。
【請求項5】
前記被膜の厚さが、0.1μm以上20μm以下である、請求項1~4のいずれか1項に記載の電気・電子部品用材料。
【請求項6】
前記表層と前記Cu系基材との間に、Ni系材料からなる下地層を有する、請求項1~5のいずれか1項に記載の電気・電子部品用材料。
【請求項7】
前記表層と前記下地層との間に、Cu系材料からなる中間層を有する、請求項6に記載の電気・電子部品用材料。
【請求項8】
20℃における導電率が65%IACS以上、
20℃における引張強さが400MPa以上、および、
表面への初期負荷応力を0.2%耐力の80%とし、150℃で1000時間保持する条件で試験したときの応力緩和率が25%以下である、請求項1~7のいずれか1項に記載の電気・電子部品用材料。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか1項に記載の電気・電子部品用材料の製造方法であって、
前記Cu系基材と同様な組成を有するCu系素材の溶解鋳造を行う工程(工程(1))と、均質加熱処理を行う工程(工程(2))と、熱間加工後に冷却する工程(工程(3))と、冷間加工を行う工程(工程(4))と、熱処理を行う工程(工程(5))と、仕上げ冷間加工を行う工程(工程(6))と、歪取り焼鈍を行う工程(工程(7))と、アルカリ溶液による脱脂を行う工程(工程(8))と、酸による表面溶解を伴う加工変質層の溶解除去を行う工程(工程(9))と、前記被膜をめっきで形成する工程(工程(10))と、を含む、電気・電子部品用材料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気・電子部品用材料及び電気・電子部品用材料の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電気・電子機器接続部品であるコネクタの端子には、黄銅やリン青銅、コルソン合金の表面にNiやCuの下地めっきを施し、さらにその上にSnまたはSn合金めっきを施した材料を使用していた。しかし、近年、自動車等の駆動方式として、ガソリンに対して省燃費化達成のため電動化が進行し、例えば、電池-インバータ-モータ間の配線の通電量が飛躍的に増加している。また、自動車等の電気・電子機器にける配線・接続部品には、高電圧であり、かつ、大電流に耐える導電性を有する電気・電子部品用材料が求められている。
【0003】
さらに、電気・電子機器接続部品の小型軽量化のため、通電部材における電気・電子部品用材料の断面積が小さくなる傾向にある。しかし、断面積が小さくなることで電気抵抗が大きくなり通電時の発熱が大きくなるとともに、強度が低下するという問題がある。したがって、高電圧・大電流化、小型化に対応して高い導電性と引張強度とが求められている。
【0004】
これまでは、高電圧であり、かつ、大電流で用いる電気・電子部品用材料は、導電率が高いばね材料として銅合金が用いられ、さらに導電率の高いAg又はAg合金めっきによる被膜を有することが多い。
しかしながら、高温下で長時間保持すると引張強度の低下によってばね圧が低下し、接点での接触抵抗が増大し、さらなる発熱を招くという問題が生じている。そこで電気・電子部品用材料には、高い導電率と、高い引張強度と、さらに高温状態での引張強度を維持できる耐応力緩和特性、その上に、電気・電子部品用材料とめっき被膜との間で間隙(ボイド)が生じない強い電気的接続を維持できる良好なめっき密着性が求められている。
【0005】
特許文献1ではCu-Cr系銅合金に合金元素を添加することで、また、特許文献2ではCu-Cr-Mg系銅合金に合金元素を添加する端子材に用いることで、高い導電率、引張強さ、耐応力緩和特性を兼ね備えている銅合金材料が開示されている。
また、特許文献3では、端子、コネクタに用いる銅合金板を母材とし、その表面に加工変質層を有し、表面から母材にかけて、Sn相、Sn-Cu合金相、Cu相の順で構成されためっき被膜層を有するCu-Mg-P系銅合金Snめっき板が開示されている。
【0006】
しかし、特許文献1及び2では、高い耐応力緩和特性の発現には、最終加工工程後の熱処理工程が必要であるが、十分な熱処理を行うと引張強さと0.2%耐力の低下が生じてしまうとともに、めっき加工時の前処理方法によってはめっき被膜が剥離しやすい問題点がある。さらに、特許文献3では、加工変質層の存在により、製造時の加工工程の中で、また、応力がかかる使用によって、めっき被膜が剥離しやすいという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特許第5307305号公報
【文献】特許第6301734号公報
【文献】特許第6055242号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで、本発明は上記問題点に鑑みてなされたものであり、その課題は、導電率および引張強さが高く、耐応力緩和特性およびめっき密着性に優れた電気・電子部品用材料及び電気・電子部品用材料の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上述した目的を達成するため、鋭意検討を重ねた結果、電気・電子部品用材料の表面には圧延加工および熱処理によって結晶粒が微細な加工変質層があるが、この加工変質層を除去して、基材とめっき被膜との剥離を起こりにくくし、さらに、電気・電子部品用材料を構成するCu系基材を、電気・電子部品用材料の圧延・延伸方向に直交する厚さ方向断面で見て、断面表層領域に位置する結晶粒の平均粒径(Ds)に対する断面中央領域に位置する結晶粒の平均粒径(Dc)の比(Dc/Ds)が0.9~1.1の範囲とすることで高温状態での長時間の使用も可能な優れた耐応力緩和特性を備える電気・電子部品用材料及び電気・電子部品用材料の製造方法を見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明の要旨構成は以下ととおりである。
(1)0.10~0.50質量%のCrおよび0.01~0.50質量%のMgを含有し、残部がCuおよび不可避不純物からなるCu系基材と、前記Cu系基材の表面の少なくとも一部に形成され、導電材料からなる被膜とを有し、前記被膜は少なくとも1層以上から構成され、80質量%以上のAgを含有するAg系材料からなる電気・電子部品用材料であって、前記Cu系基材は、前記電気・電子部品用材料の断面における、断面表層領域に位置する結晶粒の平均粒径(Ds)に対する断面中央領域に位置する結晶粒の平均粒径(Dc)の比(Dc/Ds)が0.9~1.1の範囲である、電気・電子部品用材料。
(2)前記Cu系基材が、0.01~0.50質量%のSiをさらに含有する、上記(1)に記載の電気・電子部品用材料。
(3)前記Cu系基材が、さらにZn、Fe、Sn、AgおよびNiからなる群から選択される少なくとも1種を合計で0.05~0.50質量%含有する、上記(1)又は(2)に記載の電気・電子部品用材料。
(4)前記Cu系基材の前記断面表層領域に位置する結晶粒の平均粒径(Ds)が、1μm以上である、上記(1)~(3)のいずれか1項に記載の電気・電子部品用材料。
(5)前記被膜の厚さが、0.1μm以上20μm以下である、上記(1)~(4)のいずれか1項に記載の電気・電子部品用材料。
(6)前記表層と前記Cu系基材との間に、Ni系材料からなる下地層を有する、上記(1)~(5)のいずれか1項に記載の電気・電子部品用材料。
(7)前記表層と前記下地層との間に、Cu系材料からなる中間層を有する、上記(6)に記載の電気・電子部品用材料。
(8)20℃における導電率が65%IACS以上、20℃における引張強さが400MPa以上、および、表面への初期負荷応力を0.2%耐力の80%とし、150℃で1000時間保持する条件で試験したときの応力緩和率が25%以下である、上記(1)~(7)のいずれか1項に記載の電気・電子部品用材料。
(9)上記(1)~(8)のいずれか1項に記載の電気・電子部品用材料の製造方法であって、前記Cu系基材と同様な組成を有するCu系素材の溶解鋳造を行う工程(工程(1))と、均質加熱処理を行う工程(工程(2))と、熱間加工後に冷却する工程(工程(3))と、冷間加工を行う工程(工程(4))と、熱処理を行う工程(工程(5))と、仕上げ冷間加工を行う工程(工程(6))と、歪取り焼鈍を行う工程(工程(7))と、アルカリ溶液による脱脂を行う工程(工程(8))と、酸による表面溶解を伴う加工変質層の溶解除去を行う工程(工程(9))と、前記被膜をめっきで形成する工程(工程(10))と、を含む、電気・電子部品用材料の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によって、導電率および引張強さが高く、耐応力緩和特性(小さな応力緩和率)およびめっき密着性に優れた被膜を有する電気・電子部品用材料及び電気・電子部品用材料の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、本発明の一つの実施形態である電気・電子部品用材料の断面を模式的に表わす図である。
図2図2は、本発明の他の実施形態である電気・電子部品用材料の断面を模式的に表わす図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の好ましい実施形態について詳細に説明する。
[電気・電子部品用材料]
本発明の実施形態の電気・電子部品用材料は、0.10~0.50質量%のCrおよび0.01~0.50質量%のMgを含有し、残部がCuおよび不可避不純物からなるCu系基材と、Cu系基材の少なくとも一部に形成された、少なくとも1層以上から構成された導電材料からなる被膜とを有し、前記被膜は少なくとも1層以上から構成され、80質量%以上のAgを含有するAg系材料からなる電気・電子部品用材料であって、前記Cu系基材は、前記電気・電子部品用材料の断面における、断面表層領域に位置する結晶粒の平均粒径(Ds)に対する断面中央領域に位置する結晶粒の平均粒径(Dc)の比(Dc/Ds)が0.9~1.1の範囲である。なお、以下、元素はすべて周期表に示す記号を用いる。また、本発明において「M系」(Mは一種類の金属元素の場合)とは、含まれる全金属元素に占める金属元素Mを主成分として(好ましくは80質量%以上)として含有されていることをいう。
【0014】
以下、本発明の電気・電子部品用材料の各部について詳細に説明する。
図1は、本発明の一つの実施形態である電気・電子部品用材料の断面を模式的に表わす図である。図1に示す電気・電子部品用材料10は、Cuを主成分として含有するCu系基材11の片面又は両面の表面であって、相手となる端子に対するCu系基材11の接点部の少なくとも一部に形成される導電材料からなる被膜15として、Agを主成分として含有する表層12のみを積層形成している場合を示している。
【0015】
<Cu系基材>
Cu系基材11は、Cuを主成分として、Crを0.10~0.50質量%と、Mgを0.01~0.50質量%とを含み、残部がCuと不可避不純物からなる。さらに、Cu系基材11が、Siを0.01~0.50質量%含有することが好ましい。さらに、Zn、Fe、Sn、Ag及びNiからなる群から選択される少なくとも1種類を合計で0.05~0.50質量%含有することが好ましい。これらの成分組成を規定の含有量にすることで、高い導電率を備えながら引張強度を高めるとともに、耐応力緩和特性を向上させることができる。
【0016】
なお、Cu系基材11の形状としては、用途に応じて適宜選択すればよく、条材、板材棒材もしくは線材とすることもできる。板状におけるCu系基材11の厚さとしては、特に限定されないが、0.02~2.0mmであることが好ましく、さらに、0.15~0.5mmであることが好ましい。
【0017】
(Cr:0.10~0.50質量%)
Crは、Cu合金母相(マトリックス)中に析出させることで、導電性の低下を招くことなく、引張強度、耐応力緩和特性を向上させることができる。本発明では、Crは0.10~0.50質量%、好ましくは0.15~0.40質量%、さらに好ましくは0.20~0.35質量%含有する。Cr含有量が0.10質量%未満になると、Cu母相中のCrまたはCrを含む化合物の量が少なくなるため、引張強度、耐応力緩和特性の改善効果が十分に得られない。また0.50質量%より大きくなると、導電性の低下、Cu母相中における粗大な化合物の発生による引張強度の低下、耐応力緩和特性への悪影響といった問題が生じる。
【0018】
(Mg:0.01~0.50質量%)
Mgは、Cu母相中に固溶元素として作用することで、引張強度、耐応力緩和特性を向上させることができる。本発明では、Mgを0.01~0.50質量%、好ましくは0.05~0.40質量%、さらに好ましくは0.10~0.30質量%含有させても良い。Mg含有量が0.01質量%未満では、引張強度、応力緩和特性の改善効果が十分に得られず、0.50質量%より大きくなると、導電性の低下、耐応力緩和特性への悪影響といった問題が生じる。
【0019】
(Si:0.01~0.50質量%)
Siは、Cu母相中に固溶元素として作用することで、引張強度、耐応力緩和特性を向上させることができる成分であるため、Cu系基材は、0.01~0.50質量%のSiをさらに含有することが好ましく、より好ましくは0.05~0.40質量%、さらに好ましくは0.10~0.30質量%である。Si含有量が0.01質量%未満では特性改善効果が十分に得られず、0.50質量%より多くなると、導電性の低下、耐応力緩和特性への悪影響といった問題が生じる。
【0020】
(Zn、Fe、Sn、Ag、Ni:少なくとも1種を合計で0.05~0.50質量%)
Cu系基材は、さらにZn、Fe、Sn、AgおよびNiからなる群から選択される少なくとも1種を合計で0.05~0.50質量%含有することが好ましい。これらの成分の少なくとも1種を含有することで、結晶粒のピン止め効果により引張強度が高められるとともに耐応力緩和特性が向上し、さらに、導電率を向上させることができる。また、めっき密着性といった材料特性を向上させることができる。Zn、Fe、Sn、Ag、Niの合計含有量が0.05質量%未満では、金属元素の添加の効果が十分でなく、また、Zn、Fe、Sn、Ag、Niの合計含有量が0.50質量%より多すぎると、導電性の低下、耐応力緩和特性への悪影響、原料費の増加といった問題が生じる。このため、Zn、Fe、Sn、AgおよびNiからなる群から選択される少なくとも1種の合計含有量は、0.05~0.50質量%とすることが好ましく、より好ましくは、0.05~0.40質量%、さらに好ましくは0.10~0.30質量%である。
【0021】
(残部:Cuおよび不可避不純物)
Cu系基材11は、残部がCuおよび不可避不純物からなる。なお、不可避不純物とは、原料中に存在するものや、製造工程において不可避的に混入するもので、本来は不要なものであるが、微量であり、材料の特性に影響を及ぼさないため許容されている不純物である。その他の残部がCuとなる。
【0022】
(Cu系基材の構成)
本発明の電気・電子部品用材料10は、Cu系基材11に導電性の高いCu系合金を用いることで、大電流を通電しても発熱を低く抑えることができる。また、引張強度の高いCu系基材11の電気・電子部品用材料10を用いることで、相手端子との間に間隙ができ、また、間隙が広がるのを防止することができる。さらに、本発明の電気・電子部品用材料10は、優れた耐応力緩和特性と曲げ加工性を有している。以下に、説明する。
【0023】
(Cu系基材の粒径の比)
Cu系基材11は、電気・電子部品用材料10の厚さ方向かつ、圧延または延伸方向に直行する断面における断面表層領域に位置する結晶粒の平均粒径(Ds)に対する断面中央領域に位置する結晶粒の平均粒径(Dc)の比(Dc/Ds)(以下、単に粒径の比と記す、)が0.9~1.1の範囲にする。断面表層領域は、加工変質層を除去したCu系基材11の表面から断面深さ方向に、Cu系基材11の厚さに対して表面~1/10までの深さ領域をいう。また、断面中央領域は、Cu系基材11の表面から断面深さ方向の1/2付近の中央領域をいう。Cu系基材11が、変形応力を受けた場合に、粒径の比が大きいと、表層領域と中央領域の変形状態が異なり、Cu系基材11と被膜15の剥離が生ずることがある。そこで、断面表層領域における除去する量を制御することで粒径比を0.9~1.1の範囲にする。この粒径の比にすることで、端子用基材10が曲げ加工による変形量、発熱による膨張量に大きな差が生ずることを抑制することができ、被膜15の剥離、被膜15の曲げ割れの発生を防止することができる。
【0024】
(Cu系基材表層の平均結晶粒径)
また、Cu系基材11の断面表層領域に位置する結晶粒の平均粒径(Ds)が、1μm以上にする。結晶粒の平均粒径(Ds)を1μm以上とすることで、Cu系基材11の変形が、表面の場所によらず一様であって、部分的な変形量の差が生ずるのを防止する。さらに、Cu系基材の表層の平均結晶粒径を1μm以上にすることで、応力又は熱を受けた場合の耐応力緩和特性を向上させることができる。また、曲げ加工および発熱による被膜15の剥離、被膜15のまげ割れの発生を防止することができる。
【0025】
<被膜>
本発明の電気・電子部品用材料10は、図1に示すように、Cu系基材11の表面の少なくとも一部に形成され、導電材料からなる被膜15を有している。
図1に示す実施形態では、被膜15を、80質量%以上のAgを含有するAg系材料からなる表層12のみの単層で構成する場合を示している。
【0026】
(表層)
表層12は、Ag系材料として、金属Ag又は80質量%以上のAgを含有するAg合金により形成される。Agは金属中で導電性が高く、電流を流した際に発熱量が少ない。また、常温付近では酸化され難く、導電性が低下しづらいため、高電圧・大電流通電用の表層12として用いられる。Ag系材料による表層12は、表面の一部であっても動摩擦係数を低下させ、接触による電気抵抗を低くし導電性を高くすることができる。
【0027】
表層12のAg系材料は、合金成分として特に限定されないが、Snが最も好ましい。Ag-Sn合金は、導電性に優れるとともに硬度が高いため、表層12として形成することにより、動摩擦係数を低下させることができる。さらに、Ag-Sn合金は、加熱しても中間層14やCu系基材11に存在するCuがその内部に拡散しにくいため、Cuが最表層12の表面まで拡散し、外気と接触して酸化することにより生じる導電性の低下を抑制することができる。
【0028】
表層12の厚さは、0.1μm以上20.0μm以下であることが好ましい。0.1μm以上あれば導電性が安定し、20μm以下であれば、効果が飽和しており、コストの低減を図ることができる。0.5~7.0μmであることがより好ましく、1.0~5.0μmであることがさらに好ましい。表層12がこのような厚さを有することにより、優れた導電性を有し、また、曲げ加工による表面の割れの発生を抑制することができる。
【0029】
図2は、本発明の他の実施形態である電気・電子部品用材料10の断面を模式的に表わす図である。図2に示す実施形態の電気・電子部品用材料10は、Cu系基材11上の被膜15として、表層12とCu系基材11との間にNi系材料からなる下地層13をさらに有するとともに、表層12と下地層13との間にCu系材料からなる中間層14をさらに有する。すなわち、かかる被膜15は、Cu系基材11上に、下地層13、中間層14および表層12を順次積層した3層で形成されている。
【0030】
(下地層)
下地層13は、金属Ni又はNi系合金のNi系材料で構成されている。Ni系合金として、合金元素は特に限定されないが、例えばNi-P系、Ni-Fe系などが挙げられる。NiめっきはCu系基材11からのCu拡散を抑制し、表面でのCu酸化による導電性の低下を防止することができる。下地層13の厚さとしては、特に限定されないが、例えば0.1~3.0μmであることが好ましく、0.3~2.0μmであることがより好ましい。0.1μm未満では、Cuの拡散を防止することができず、3.0μmを越えるとCuの拡散防止効果が過剰になり、また、導電性が低下する。
【0031】
なお、下地層13には、Ni系材料の代わりに、金属Co又はCo系合金、または、金属Fe又はFe系合金を用いても、Ni系材料と同様の効果が得られる。Co系合金又はFe系合金は、合金元素は特に限定されない。
【0032】
(中間層)
中間層14は、金属Cu又はCu合金のCu系材料で構成されている。Cu合金としては、特に限定されないが、例えばCu-Zn系などが挙げられる。中間層14は、下地層13と表層12の間の密着性をより向上させ、電気・電子部品用材料10の長時間の継続的使用時の発熱を抑えることができる。中間層14の厚さとしては、特に限定されないが、例えば0.01~1.0μmであることが好ましく、0.03~0.5μmであることがより好ましい。0.03μm未満では、Ag系合金とNi系合金との間の密着性を向上させることができず、3.0μmを越えると効果が飽和してしまう。
【0033】
(電気・電子部品用材料の導電率)
さらに、電気・電子部品用材料10は、20℃における導電率が65%IACS以上にする。これにより、優れた導電性を有することができる。ここで、導電率(IACS;International Annealed Copper Standard)は、四端子法を用いて、20℃(±1℃)に管理された恒温槽中で測定することにより求めることができる。導電率が高いと、通電による発熱を減少させることができ、Cu系基材11と被膜15との剥離を防ぐことができる。さらに、好ましくは、電気・電子部品用材料10は、20℃における導電率が70%IACS以上で、150℃における導電率が40%IACS以上にする。特に、高温における導電率が高いことが好ましい。これにより、高電圧・大電流の継続的使用であっても発熱量を抑えることができ、Cu系基材11と被膜15との剥離を防ぐことができる。
【0034】
(電気・電子部品用材料の引張強度)
さらに、電気・電子部品用材料10は、20℃における引張強さが400MPa以上である。好ましくは、電気・電子部品用材料10は、150℃における引張強さが350MPa以上である。電気・電子部品用材料10は、継続的な使用によって温度が上昇する。特に、自動車等のコネクタに使用される場合に電気・電子部品用材料10は、150℃の環境でも安定して使用できることが求められる。150℃における引張強さが350MPa以上であれば高温の環境下でも安定して使用することができる。引張強度が高いことで、電気・電子部品用材料10の断面積を小さくしても強い強度が得られることから、電気・電子部品用材料の小型化を可能にする。さらに、高温で引張強度が高いことから、高電圧・大電流であっても、発熱量を抑えることができ、安定して使用することができる。
【0035】
(電気・電子部品用材料の耐応力緩和特性)
耐応力緩和特性とは、ある材料に対して、ばね性を発揮する弾性範囲内の負荷(0.2%耐力に対して80%の負荷)をかけて150℃の高温環境下で1000時間保持した後に、どれだけばね性が弱るかを示す指標であり、表面への初期負荷応力が150℃中で1000時間静置した時の応力緩和率で表している。この応力緩和率が25%以下であり、20%以下であることがより好ましい。これにより、高温における長時間の使用による引張強度の低下を防止し、端子間の接触圧の低下による接触抵抗の増大を防止することができる。
【0036】
(電気・電子部品用材料の接触抵抗)
また、本発明の電気・電子部品用材料10は、高電圧・大電流における使用で高温環境がおかれて、相手方端子と篏合して接触する。したがって、電気・電子部品用材料10は、高温環境で相手端子と接触する場合に接触抵抗を低くする。さらに、本発明の電気・電子部品用材料10は、応力緩和率が大きくなる高温環境下でも引張強度が高く、高温における応力緩和率を低くすることが好ましい。
【0037】
(電気・電子部品用材料の抵抗温度係数)
また、本発明の電気・電子部品用材料10の抵抗温度係数は、20℃から150℃の範囲内で3700ppm/℃以下にする。抵抗温度係数とは、温度による電気抵抗値の変化の大きさを1℃当たりの百万分率で表したものである。電気・電子部品用材料10としては、環境温度が変化した際にも抵抗温度係数が小さいことが要求される。特に、本発明の電気・電子部品用材料10は、室温から高温までの広い温度範囲で用いられることから、3700ppm/℃以下にすることで、環境温度が変化しても安定して使用することができる。
【0038】
(抵抗温度係数の測定方法)
以下に、抵抗温度係数の測定方法について説明する。
JIS C2525およびJIS C2526に規定された方法に準じる方法(四端子法)により、20℃~50℃の範囲の抵抗温度係数(TCR)を測定した。そのうえで、下記式(1)を用いて計算する。
式(1):TCR(×10-6/K)=(R-R)/R×1/(T-T)×10
ここで、式(1)中のTは試験温度(℃)、Tは基準温度(℃)、Rは試験温度Tにおける抵抗値(Ω)、Rは試験温度Tにおける抵抗値(Ω)を示している。
【0039】
(電気・電子部品用材料のめっき密着性)
また、本発明の電気・電子部品用材料10の表層は、加工変質層を溶解除去することで滑らかな平坦な状態になっていて、この上に表層12等の被膜15を積層形成することで、めっき密着性に優れている。高電圧・大電流を伴う高温状態で使用されることで生ずる熱膨張、また、相手端子との篏合時には曲げ変形等の応力を受けることで生ずる表層の変化が少ないことにより、電気・電子部品用材料10の表層と被覆15とのめっき密着性が優れている。これによって、高電圧・大電流を流しても、発熱を抑えることができる。
【0040】
(電気・電子部品用材料のめっき曲げ割れ)
さらに、本発明の電気・電子部品用材料10では、加工変質層を溶解除去することで滑らかな平坦な状態になっていて、この上に表層12等の被膜15を積層形成することで、曲げ加工を受けても、曲げ部分とその他の部分との変形の差が生ずるのを抑えることができ、積層形成されている被膜15がCu系基材11から剥離し、または、被膜15が割れることを防止することができる。
【0041】
本発明の電気・電子部品用材料10は、導電率と引張強度とが高く、耐応力緩和特性とめっき密着性が優れていて、接点部に用いた際には、初期に高い接圧を担保できることと、通電時の発熱量が小さく、かつ発熱したとしてもばね圧の低下が小さいために高い接触圧を維持できるだけでなく、自動車等の高温環境下でも導電率が高く、めっき密着性に優れるために発熱を抑制できる。このため、EV、HEV等の大電流を通電する車載部品の端子、周辺インフラや太陽光発電システム等のコネクタ、リードフレーム、リレー、スイッチ、ソケット等に好適である。
【0042】
[電気・電子部品用材料の製造方法]
次に、本発明の端子用材料の製造方法の好ましい一例を以下に示している。本発明の端子用材料は、前記Cu系基材と同様な組成を有するCu系素材の溶解鋳造を行う工程(工程(1))と、均質加熱処理を行う工程(工程(2))と、熱間加工後に冷却する工程(工程(3))と、冷間加工を行う工程(工程(4))と、熱処理を行う工程(工程(5))と、仕上げ冷間加工を行う工程(工程(6))と、歪取り焼鈍を行う工程(工程(7))と、アルカリ溶液による脱脂を行う工程(工程(8))と、酸による表面溶解を伴う加工変質層の溶解除去を行う工程(工程(9))と、前記被膜をめっきで形成する工程(工程(10))を順に行なうことで製造される。冷間加工を行う工程(工程(4))、熱処理を行う工程(工程(5))は、複数回実施しても良い。
以下に、製造方法について説明する。
【0043】
(工程(1):溶解鋳造)
電気・電子部品用材料のCu組成を与えるCu合金を真空又は不活性ガス雰囲気で溶解炉により溶解鋳造を実施し、冷却して所定の成分を持つ鋳塊を得る。溶解鋳造は、公知の方法で行うことができる。
【0044】
(工程(2):均質化熱処理)
均質化熱処理は、鋳塊に含まれる化合物をCu母相中に固溶させ、鋳塊の成分を均質化する。これにより、添加した成分の効果が十分に得られるようになり、Cu系基材中の導電率・引張強度等の変動を小さくすることができる。本発明の製造方法は、800~1000℃の温度で0.5~12時間、より好ましくは900~1050℃、さらに好ましくは950~1050℃での均質化熱処理を行う。
【0045】
(工程(3):熱間加工)
均質化熱処理した直後の鋳塊を熱間加工で、好ましくは700~950℃の熱間圧延して板厚を薄くし、その後冷却する。冷却は、例えば水冷で行う。冷却速度が遅すぎると冷却中に金属元素の一部が析出し、目標とする最終特性が得られないことになる。
【0046】
(工程(4):冷間加工)
熱間加工後の材料を、冷間加工(冷間圧延など)して板材を所望の厚さに加工する。加工は、ロール加工等で実施する。
【0047】
(工程(5):熱処理)
冷間加工後の材料に対して、好ましくは350~650℃で、10分~24時間、より
好ましくは400~650℃で1~10時間の時効析出熱処理を行なう。この熱処理により、Cu母相中に微細な析出物が析出し、導電性、引張強度、耐応力緩和特性が向上する。低温で短時間処理する場合、析出量が少なく、また析出する化合物の粒子径が微細すぎるため、導電性、引張強度、耐応力緩和特性の向上は望めない。また高温で長時間処理する場合、析出する化合物が粗大化し、導電性は向上するものの、引張強度、耐応力緩和特性の向上は望めない。また、時効熱処理後の300℃までの冷却速度は、好ましくは2℃/分以下とする。300℃までの冷却速度をこの範囲とすることで、導電性、引張強度、耐応力緩和特性をより向上させることができる。
【0048】
(工程(6):仕上げ冷間加工)
熱処理後の材料に、好ましくは10~50%、より好ましくは10~40%の加工率で、仕上げ冷間加工(冷間圧延など)を行なう。また、冷間加工率の上限を50%以下とすることで、応力緩和特性等の機械的性質を所望の範囲にすることができる。仕上げ加工により、引張強度が向上し、また引張強度と0.2%耐力の差が小さくすることができる。仕上げ加工率が10%より小さい場合、十分な強度の向上は望めず、また引張強度と0.2%耐力の差が大きくなる。総加工率が50%より大きい場合、導電性、耐応力緩和特性、曲げ加工性が著しく低下し、後の歪取り焼鈍工程で、これらの特性の回復と強度の維持を両立することが困難となる。
【0049】
(工程(7):歪取り焼鈍)
仕上げ加工後の材料に歪取り焼鈍を行なうことで、引張強度が低下し、引張強度と0.2%耐力の差が大きくなる。しかし導電性、耐応力緩和特性、曲げ加工性が改善される。本発明では、300~550℃の温度で、2~60sの歪取り焼鈍を行う。温度は、350~500℃の範囲であることがより好ましい。時間は、3~20sの範囲であることがより好ましい。この際、昇温速度と冷却速度は50℃/s以上であることが好ましく、100℃/s以上であることがより好ましい。低温で短時間処理した場合、引張強度、導電性、耐応力緩和特性、曲げ加工性の変化はほとんど起こらない。また高温で長時間処理すると、引張強度が著しく低下し、引張強度と0.2%耐力の差も大きくなる。昇温速度と冷却速度が規定の範囲を満たさない場合、引張強度、導電性、応力緩和率で狙いの値が得られたとしても、引張強度と0.2%耐力の差が大きくなる。
また、工程(6)の冷間加工および工程(7)の歪取りのための焼鈍を規定の範囲で実施することで、残存する歪と析出物の量が制御することができる。
【0050】
(工程(8):脱脂)
歪取り焼鈍後に、脱脂をする。熱間加工、冷間加工で加工装置と電気・電子部品用材料との間に潤滑剤を供給して加工を行うことから、これらを、電気・電子部品用材料から取り除き次の工程に入る。脱脂しないと、次工程の溶解で加工変質層を一様に除去することができなくなる。潤滑剤は、鉱油、合成油等が用いられている。また、脱脂は、溶剤脱脂、電解脱脂等を挙げることができる。またアルカリ脱脂は、無機成分としては水酸化ナトリウム(NaCl)や、炭酸ナトリウム(NaCO)、炭酸水素ナトリウム(NaHCO)、リン酸ナトリウム(NaPO4)、オルトケイ酸ナトリウム(NaSiO)等によるアルカリ溶液を用いることが好ましい。
【0051】
(工程(9):加工変質層の除去)
脱脂した電気・電子部品用材料を、酸による加工変質層、具体的には、Cu系基材に対して溶解性を示す酸(例えばフッ酸、混酸、王水、硫酸と過酸化水素の混合液等)を用いて表面溶解を伴う加工変質層の溶解除去を行う工程である。表面の溶解する深さは、加工変質層の厚さに応じて適宜実施することができる。少なくとも、表面を2μm以上溶解して、除去することが好ましい。溶解除去する方法としては、化学研摩、電解研摩のいずれでも、Cu系基材に歪を与えることなく、加工変質層を除去することができる。また、Cu系基材表層を溶解除去することで、粒径の比(Dc/Ds)を0.9~1.1の範囲にすることができる。また、除去した後のCu系基材表面を滑らかな表面を形成することができる。これによって、次工程(9)におけるめっきで、めっき密着性、曲げめっき割れ性に優れた被膜15を得ることができる。
【0052】
(Cu系基材の加工変質層)
Cu系基材11を製造する際には、Cu系材料を熱及び圧力をかけて溶融及び成形するために、必ず基材表面には結晶粒が微細な加工変質層が形成される。結晶粒が微細になっていることは、加工によって印加された圧力による歪が大きいことを示している。そこで、歪を与えない方法で、酸により、Cu系基材11の表面の溶解を伴いながら、加工変質層の溶解除去を行う。加工変質層の酸による溶解は、2μm以上を除去することが好ましい。溶解する量は、粒径の比(Dc/Ds)を考慮して適宜決定する。このように、加工変質層を除去することでCu系基材11の表面と内部とを同質にすることで、電気・電子部品用材料10の曲げ加工性がよく、Cu系基材11と表層12等の被膜15との剥離を起こりにくくすることができる。また、同様に、高電圧・大電流の場合は、電気・電子部品用材料10の抵抗温度係数を改善することができる。
【0053】
(工程(10):めっき)
めっき工程は、Cu系基材11上に、Ni系によるめっき層の下地層13、Cu系材料のめっき層による中間層14、Ag-Sn合金等の表層12の順に、複層構造のめっき層を形成する。各層を形成する方法は、特に限定されないが、例えば電解めっきや無電解めっきのような湿式めっき、蒸着やスパッタのような乾式めっき等が挙げられる。中でも、湿式めっきが好ましく、特に電解めっきがより好ましい。特に、シアン化銅浴はシアン化銅錯イオンと、過剰の遊離シアン化アルカリを含む液から電着することで、酸性浴に比べ高い過電圧のもとでめっきされるため緻密で、均一な被膜が得られる。
【実施例
【0054】
次に、本発明の効果をさらに明確にするために、実施例および比較例について説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0055】
原料のCu合金材を溶解鋳造して鋳塊を作成し、これを均質化熱処理した後に熱間加工を行い、水冷した。水冷後、面削により材料の酸化被膜を除去してから冷間加工を行い、350~650℃で10分から24時間熱処理し、300℃までの冷却速度を2℃/分として冷却した。冷却後、仕上げ圧延、ひずみ取り焼鈍を続けて行った後、更にアルカリ溶液による脱脂、酸によるスマット除去を行った後にアルカリシアン浴にてAgめっきを施し、所望の電気・電子部品用材料を得た。各工程の条件を規定の範囲内に収めることで、目標とする材料を有する試料を得た。また比較例として成分、製法の異なる材料を作製した。
【0056】
表1に、発明例1~13、比較例1~12のCu系基材の成分組成を示している。
表1の含有量は、すべて質量%であり、残部はCu及び不可避的不純物である。また、(-)は添加していないことを、下線は本発明の範囲外の成分組成であることを示している。
【表1】
【0057】
表2は、発明例1~13、比較例1~12の電気・電子部品用材料の構成として、本発明の電気・電子部品用材料の表面溶解量、Cu系基材の表層と中心部の粒径比と表層の平均粒径、表層の種類と厚さ(μm)、下地層の種類と厚さ(μm)、中間層の種類と厚さ(μm)を示している。また、電気・電子部品用材料は板状であり、板厚は0.3mmを用いている。なお、本発明において板厚は限定されるものではない。なお、下線は、本発明の範囲外であることを示している。また、以下に膜厚の測定方法を説明する。
【0058】
(表層の厚さの測定方法)
断面より任意の倍率にてSEM観察およびEDXによって表層と厚さを算出する。各層の厚さの確認のため、断面について画像解析法によっても厚さの測定を行った。画像解析法はJIS H8501:1999の走査型電子顕微鏡試験方法にしたがい行った。
【0059】
【表2】
【0060】
発明例1~13は、本発明の電気・電子部品用材料の成分組成の範囲内にあり、かつ、本発明の製造方法に従っている。
また、比較例1、2、4~8は、成分組成が本発明の電気・電子部品用材料の範囲外にある。比較例9~11は発明例1と同じ成分組成であるが、表2に示す加工変質層の除去量が本発明の電気・電子部品用材料の範囲外にある。比較例12は、加工変質層除去量が0μmで、加工変質層が除去されていない。また、比較例3は、製造に際して熱間割れが発生し、性能評価ができなかった。
【0061】
発明例1~13、比較例1~12の電気・電子部品用材料の性能評価について説明する。表3は、性能評価として、20℃と150℃の導電率、20℃と150℃の引張強度と150℃/1000hの応力緩和率、接触抵抗、めっき密着性、めっき曲げ割れを示している。
【0062】
以下、評価項目の測定方法について詳述する。
【0063】
(平均結晶粒径及び粒径の比の測定方法)
上記電気、電子部品用材料における圧延方向に垂直な断面を湿式研磨、電解研磨により鏡面に仕上げたものを試験片とし、高分解能走査型分析電子顕微鏡(日本電子株式会社製、JSM-7001FA)に付属するEBSD検出器を用いて連続して測定した結晶方位データから解析ソフト(TSL社製、OIM Analysis)を用いて得られるIPF画像上でJIS H 0501(1986)に準じた切断法によって平均結晶粒径を算出する。測定は、各領域においてステップサイズ0.1μmで行い、15°以上の方位差を結晶粒界とし、2ピクセル以上からなる結晶粒を解析の対象とする。粒径の比に関しては、それぞれの領域における平均粒径を切断法によって求め、その比を算出する。
【0064】
(導電率の測定方法)
導電率は、JIS H0505-1975に基づく四端子法を用いて、20℃(±1℃)に管理された恒温槽中で、複数の板材について導電率を測定し、その平均値(%IACS)で表している。このとき端子間距離は100mmとした。
【0065】
(引張強度の測定方法)
供試材(試験片)の圧延平行方向から切り出したJIS Z2201-13B号の試験片をJIS Z2241:2011に準じて3本測定しその平均値で表している。
【0066】
(応力緩和率の測定方法)
ここで、応力緩和率(SRR:Stress Relaxation Ratio)は、日本伸銅協会 JCBA T309:2004「銅及び銅合金薄板条の曲げによる応力緩和試験方法」に準じ、片持ちはり法(片持ちはりブロック式ジグ使用)により、材料表面への初期負荷応力を0.2%耐力の80%とし、150℃で1000時間保持の条件で測定することができる。試験片は幅10mmの短冊形とし、圧延平行方向と試験片の長さ方向を一致させた。熱処理前、試験台に片持ちで保持した試験片に、耐力の80%の初期応力を付与した時の試験片の先端の位置は、基準位置から距離δの高さにある。これを150℃の恒温槽に1000時間保持(初期応力を付与した状態で試験片を熱処理)し、負荷を除いた後の試験片の先端の位置は、基準位置から距離Hの高さにある。また、応力を負荷しなかった場合の試験片に対して熱処理を行った場合の試験片の先端の位置は、基準位置から距離Hの高さにある。これらの関係から、応力緩和率(%)は(H-H)/(δ-H)×100と算出した。
【0067】
(接触抵抗値の測定)
Ag表面被覆張り出し加工材(被膜に膜厚3μmのAg層を有する無酸素銅C1020、張り出し加工部の曲率半径が5mm)を測定端子として、それを荷重1Nで接触させ、その間に10mAの電流を流して接触抵抗を、四端子法により測定して求めた。DC電流源として株式会社TFF ケースレーインスツルメンツ社製 6220型DC電流ソースを用い、電気抵抗の測定には電流測定器(同社製 2182A型ナノボルトメータ)を用いた。任意の5箇所における接触抵抗値を測定し、各々平均値(n=5)を算出し、以下の基準で評価した。接触抵抗値が10mΩ未満の場合を「◎」、10mΩ以上20mΩ未満の場合を「〇」、20mΩ以上の場合を「×」、めっきが剥離し測定不能の場合を「-」とした。「◎」と「〇」に該当する場合を、実際に使用しても問題が生じない範囲として、合格レベルにあるとして評価した。
【0068】
(めっき密着性の評価方法)
基材に対する表面処理表層の密着性は、上述した方法で作製した供試材(表面処理材)について剥離試験を行い、めっき密着性を評価した。剥離試験は、JIS H 8504:1999に規定される「めっきの密着性試験方法」の「15.1 テープ試験方法」に基づき行った。それは、めっきした表面処理に対し2mm間隔で、カッターナイフ等で素地まで達する傷をつけ、他の地にテープを貼り付け、一気にはがし、めっき剥離有無の確認を行うものである。表3に密着性の評価結果を示している。めっき剥離が見られなかった場合を「〇」、めっき剥離が見られる場合を「×(不可)」とした。「○」に該当する場合を、実際に使用しても問題が生じない範囲として、めっき密着性が合格レベルにあるとして評価した。
【0069】
(めっき曲げ割れの評価方法)
曲げ加工性は、上述した方法で作製した試料について、曲げ加工半径0.5mmにてV曲げ試験を圧延筋(圧延方向)に対して直角方向に、曲げ半径/板厚=1の条件で実施した後、その頂上部をマイクロスコープ(VHX200;キーエンス社製)にて観察倍率200倍で表面観察を行い、評価した結果を表3に示す。表3に示す曲げ加工性は、頂上部の表面に全く割れが認められなかった場合を「○(良)」とし、大きな割れが生じている場合を「×(不可)」とした。また、被膜が剥離してめっき割れを観察できなかった場合を「-」とした。本試験では、「○(良)」に該当する場合を、実際に使用しても問題が生じない範囲として、曲げ加工性が合格レベルにあるとして評価した。
【0070】
【表3】
【0071】
(評価結果)
発明例1、3、5、11は、Cu系合金に、金属元素としてCr、Mg、Siを含有していて、その他の特性として導電率、引張強度、応力緩和率、めっき密着性、めっき曲げ割れでも実用上問題のない結果が得られた。発明例2、4、6は、金属元素としてCr、Mg、Siを含有しているが、中間層がなくとも、実用上問題のない結果が得られた。発明例7は、金属元素としてCr、Mgを含有し、さらに、Znを含有し、導電率等はすべて本発明の規定の範囲内にあることで、実用上問題のない結果が得られた。発明例8、10は、金属元素としてCr、Mgを含有し、さらに、それぞれFe、Agを含有するが、中間層がなくとも、実用上問題のない結果が得られた。発明例9は、金属元素としてCr、Mgを含有し、さらに、Snを含有し、導電率等はすべて本発明の規定の範囲内にあることで、実用上問題のない結果が得られた。発明例12、13は、金属元素としてCr、Mg、Siを含有し、さらに、それぞれNi、Znを含有するが、下地層及び中間層の両方がなく表層だけであっても、導電率等はすべて本発明の規定の範囲内にあることで、実用上問題のない結果が得られた。
【0072】
これに対して、比較例1は、Cr含有量が少ないことで、その他の成分組成はすべて本発明の規定の範囲内にあるが、引張強度が低くなっていた。比較例2は、Mgを含有しないことで、応力緩和率が大きくなっていた。比較例3は、Mg含有量が大きく、これが原因で、製造するときに熱間割れが発生し、評価することができなかった。比較例4は、Zn含有量が多く、加工変質層を除去する溶解量が0.5μmと少なく、粒径比が2.0と大きくなっているため、導電率が低く、まためっきが剥離が発生しめっき密着性を「×」と評価した。比較例5も同様に、Fe含有量が多く、加工変質層を除去する溶解量が0.5μmと少なかったことで、導電率が低く、まためっきが剥離が発生しめっき密着性を「×」と評価した。
【0073】
比較例6、7、8は、それぞれCu系基材のSn、Si、Ni含有量が多く、加工変質層を除去する溶解量が0.5μmと少なかったが、めっき層がCu系基材から剥離することはなかったが、曲げ試験でめっき被膜に割れが発生し、めっき曲げ割れを「×」と評価した。比較例9、10、11、12は、成分組成は発明例1と同じにしている。比較例9では、表層の平均結晶粒径が1μm以上の範囲にあるが、粒径の比(Dc/Ds)が1.6と大きいし、加工変質層を除去する溶解量が少なく、かつ、表層が薄いことで曲げ試験で曲げ割れが発生し、めっき曲げ割れを「×」と評価した。比較例10では、粒径の比(Dc/Ds)が2.1と大きいし、加工変質層を除去する溶解量が少ないことで曲げ試験で曲げ割れが発生していた。比較例11では粒径の比(Dc/Ds)が2と大きいし、加工変質層を除去する溶解量が少ないことで曲げ試験で曲げ割れが発生し、めっき曲げ割れを「×」と評価した。比較例12では、粒径の比が2と大きく、加工変質層が除去されていないことで、めっきが剥離しめっき密着性を「×」と評価した。
【符号の説明】
【0074】
10 電気・電子部品用材料
11 Cu系基材
12 表層
13 下地層
14 中間層
15 被膜
図1
図2