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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-06
(45)【発行日】2025-02-17
(54)【発明の名称】伝熱部材および伝熱部材の製造方法
(51)【国際特許分類】
   F28F 13/02 20060101AFI20250207BHJP
   F28F 1/10 20060101ALI20250207BHJP
   F28F 3/04 20060101ALI20250207BHJP
   F28D 15/02 20060101ALI20250207BHJP
   F28D 15/04 20060101ALI20250207BHJP
   B23K 26/08 20140101ALI20250207BHJP
   B23K 26/082 20140101ALI20250207BHJP
   B23K 26/352 20140101ALI20250207BHJP
【FI】
F28F13/02 A
F28F1/10 A
F28F3/04 A
F28D15/02 M
F28D15/04 E
B23K26/08 D
B23K26/08 F
B23K26/352
【請求項の数】 16
(21)【出願番号】P 2021571201
(86)(22)【出願日】2021-01-13
(86)【国際出願番号】 JP2021000779
(87)【国際公開番号】W WO2021145332
(87)【国際公開日】2021-07-22
【審査請求日】2023-10-26
(31)【優先権主張番号】P 2020004435
(32)【優先日】2020-01-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005290
【氏名又は名称】古河電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松永 啓伍
(72)【発明者】
【氏名】繁松 孝
(72)【発明者】
【氏名】梅野 和行
(72)【発明者】
【氏名】高木 啓史
(72)【発明者】
【氏名】青木 博史
(72)【発明者】
【氏名】稲垣 義勝
(72)【発明者】
【氏名】金子 洋
(72)【発明者】
【氏名】大島 宏文
(72)【発明者】
【氏名】西井 諒介
【審査官】河野 俊二
(56)【参考文献】
【文献】特開昭51-137630(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第104201160(CN,A)
【文献】特開2017-015269(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第104342734(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第107979953(CN,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0225718(US,A1)
【文献】特開2019-009220(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F28F 13/02
F28F 1/10
F28F 3/04
F28D 15/02
F28D 15/04
B23K 26/08
B23K 26/352
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一方向の端部で当該第一方向の所定区間に渡って当該第一方向と交差して広がるポーラス構造を有した表層を備え、導電性の金属材料で作られたバスバーである伝熱部材。
【請求項2】
第一方向の端部で当該第一方向の所定区間に渡って当該第一方向と交差して広がる不規則な凹凸構造を有した表層と、
前記表層に対して前記端部とは反対側に位置した中実層と、
を備え、
前記表層および前記中実層は金属材料で作られた一つの部材の一部である伝熱部材。
【請求項3】
前記表層は、閉孔よりも突起が多く存在する突起層と、当該突起層に対して前記第一方向の反対側に隣接し前記突起よりも前記閉孔が多く存在する閉孔層と、を有した、請求項1または2に記載の伝熱部材。
【請求項4】
前記表層の空隙率は、50%以上90%以下である、請求項1~3のうちいずれか一つに記載の伝熱部材。
【請求項5】
前記表層の高さ方向の中央位置よりも外側の空隙率は、50%以上80%以下である、請求項1~のうちいずれか一つに記載の伝熱部材。
【請求項6】
前記伝熱部材の表面より高さ方向外側における前記表層の空隙率は、50%以上90%以下である、請求項1~のうちいずれか一つに記載の伝熱部材。
【請求項7】
前記表層の高さ方向での投影における単位面積あたりの前記表層の表面積増加率は、110%以上300%以下である、請求項1~のうちいずれか一つに記載の伝熱部材。
【請求項8】
前記表層を有し前記第一方向に突出した凸部を備えた、請求項1~のうちいずれか一つに記載の伝熱部材。
【請求項9】
前記伝熱部材は、導電性の金属材料によって作られたバスバーである、請求項に記載の伝熱部材。
【請求項10】
前記伝熱部材は、流体と熱交換する熱交換部材である、請求項に記載の伝熱部材。
【請求項11】
前記伝熱部材は、沸騰伝熱部材であり、
発熱体から前記表層を介して冷媒へ熱伝達される、請求項に記載の伝熱部材。
【請求項12】
請求項1~11のうちいずれか一つに記載の伝熱部材の製造方法であって、
金属材料で作られ表面を有した伝熱部材を準備する第一工程と、
前記表面にレーザ光を照射することにより前記表面から吹き飛ばされた粒子を再付着させることにより、前記表層を形成する第二工程と、
を備えた、伝熱部材の製造方法。
【請求項13】
前記第二工程において、前記レーザ光を出射する出射部と前記伝熱部材とを相対的に移動させることにより前記レーザ光を前記表面上で相対的に掃引する、請求項12に記載の伝熱部材の製造方法。
【請求項14】
金属材料で作られ表面を有した伝熱部材を準備する第一工程と、
前記表面にレーザ光を照射することにより前記表面から吹き飛ばされた粒子を再付着させることにより、ポーラス構造または不規則な凹凸構造を有した表層を形成する第二工程と、
を備え、
前記第二工程において、
前記レーザ光を出射する出射部と前記伝熱部材とを相対的に移動させることにより前記レーザ光を前記表面上で相対的に掃引するとともに、
前記レーザ光の前記表面に沿った第一方向または当該第一方向の反対方向への第一掃引が、当該第一方向と交差した第二方向に並ぶように、当該第二方向または当該第二方向の反対方向に第一間隔でずれながら複数回行われ、
前記第一間隔が、前記レーザ光のビーム径以下である、伝熱部材の製造方法。
【請求項15】
前記第二工程において、前記第一掃引が前記第二方向に並ぶように複数回行われた後、前記レーザ光の前記表面に沿った前記第一方向と交差した第三方向または当該第三方向の反対方向への第二掃引が、当該第三方向と交差した第四方向に並ぶように複数回行われ、前記第二掃引の前記第四方向における第二間隔が、前記レーザ光のビーム径以下である、請求項14に記載の伝熱部材の製造方法。
【請求項16】
前記第二工程において、前記第一掃引が前記第二方向に並ぶように複数回行われた後、前記第一掃引に対して前記第二方向に前記第一間隔未満ずれた位置における前記レーザ光の前記表面に沿った前記第一方向への第二掃引が、前記第二方向に並ぶように複数回行われる、請求項14に記載の伝熱部材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、伝熱部材および伝熱部材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、金属材料の表面にパルスレーザ光を照射することにより周期的な凹部を形成するとともに凹部の周囲に環状隆起部を形成して、表面積を増大させた伝熱部材が、知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2016-114304号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
この種の伝熱部材では、より熱伝導性を高めることが可能な、新規な構造の伝熱部材およびその製造方法が得られれば、有益である。
【0005】
そこで、本発明の課題の一つは、例えば、より熱伝導性を高めることが可能な新規な構成を有した伝熱部材、および当該伝熱部材の製造方法を得ること、である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の伝熱部材は、例えば、第一方向の端部で当該第一方向の所定区間に渡って当該第一方向と交差して広がるポーラス構造を有した表層を備え、金属材料で作られる。
【0007】
前記伝熱部材にあっては、前記表層は、閉孔よりも突起が多く存在する突起層と、当該突起層に対して前記第一方向の反対側に隣接し前記突起よりも前記閉孔が多く存在する閉孔層と、を有してもよい。
【0008】
本発明の伝熱部材は、例えば、第一方向の端部で当該第一方向の所定区間に渡って当該第一方向と交差して広がる表層を備え、前記表層は、閉孔よりも突起が多く存在する突起層と、当該突起層に対して前記第一方向の反対側に隣接し前記突起よりも前記閉孔が多く存在する閉孔層と、を有した、金属材料で作られる。
【0009】
前記伝熱部材にあっては、前記表層の空隙率は、50%以上90%以下であってもよい。
【0010】
本発明の伝熱部材は、例えば、第一方向の端部で当該第一方向と交差して広がり空隙率が50%以上90%以下である表層を備え、金属材料で作られる。
【0011】
前記伝熱部材にあっては、前記表層の高さ方向の中央位置よりも外側の空隙率は、50%以上80%以下であってもよい。
【0012】
前記伝熱部材にあっては、前記伝熱部材の表面より高さ方向外側における前記表層の空隙率は、50%以上90%以下であってもよい。
【0013】
前記伝熱部材にあっては、前記表層の高さ方向での投影における単位面積あたりの前記表層の表面積増加率は、110%以上300%以下であってもよい。
【0014】
前記伝熱部材は、前記表層を有し前記第一方向に突出した凸部を備えてもよい。
【0015】
前記伝熱部材は、導電性の金属材料によって作られたバスバーであってもよい。
【0016】
前記伝熱部材は、流体と熱交換する熱交換部材であってもよい。
【0017】
前記伝熱部材は、沸騰伝熱部材であり、発熱体から前記表層を介して冷媒へ熱伝達されてもよい。
【0018】
また、本発明の伝熱部材の製造方法は、例えば、金属材料で作られ表面を有した伝熱部材を準備する第一工程と、前記表面にレーザ光を照射することにより前記表面から吹き飛ばされた粒子を再付着させることにより、ポーラス構造を有した表層を形成する第二工程と、を備える。
【0019】
前記伝熱部材の製造方法にあっては、前記第二工程において、前記レーザ光を出射する出射部と前記伝熱部材とを相対的に移動させることにより前記レーザ光を前記表面上で相対的に掃引してもよい。
【0020】
前記伝熱部材の製造方法にあっては、前記第二工程において、前記レーザ光の前記表面に沿った第一方向または当該第一方向の反対方向への第一掃引が、当該第一方向と交差した第二方向に並ぶように、当該第二方向または当該第二方向の反対方向に第一間隔でずれながら複数回行われ、前記第一間隔が、前記レーザ光のビーム径以下であってもよい。
【0021】
前記伝熱部材の製造方法にあっては、前記第二工程において、前記第一掃引が前記第二方向に並ぶように複数回行われた後、前記レーザ光の前記表面に沿った前記第一方向と交差した第三方向または当該第三方向の反対方向への第二掃引が、当該第三方向と交差した第四方向に並ぶように複数回行われ、前記第二掃引の前記第四方向における第二間隔が、前記レーザ光のビーム径以下であってもよい。
【0022】
前記伝熱部材の製造方法にあっては、前記第二工程において、前記第一掃引が前記第二方向に並ぶように複数回行われた後、前記第一掃引に対して前記第二方向に前記第一間隔未満ずれた位置における前記レーザ光の前記表面に沿った前記第一方向への第二掃引が、前記第二方向に並ぶように複数回行われてもよい。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、例えば、より熱伝導性を高めることが可能な新規な構成を有した伝熱部材、および当該伝熱部材の製造方法を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1図1は、第1実施形態の伝熱部材の例示的かつ模式的な平面図である。
図2図2は、図1のII-II断面図である。
図3図3は、第1実施形態の伝熱部材の製造方法を示すフローチャートである。
図4図4は、第1実施形態の加工システムの例示的な模式図である。
図5図5は、第1実施形態の伝熱部材の製造方法におけるレーザ光の掃引方法の一例を示す例示的かつ模式的な平面図である。
図6図6は、第1実施形態の伝熱部材の製造方法におけるレーザ光の掃引方法の別の一例を示す例示的かつ模式的な平面図である。
図7図7は、第1実施形態の伝熱部材の表層における表面積増加率と熱抵抗との関係を示す例示的なグラフである。
図8図8は、図1のII-II断面図であって、表層のうち中央位置よりも端部側の領域を示す例示的かつ模式的な図である。
図9図9は、図1のII-II断面図であって、表層のうち伝熱部材の表面よりも端部側の領域を示す例示的かつ模式的な図である。
図10図10は、第2実施形態の伝熱部材としてのバスバーの例示的かつ模式的な平面図である。
図11図11は、図10のXI-XI断面図である。
図12図12は、第3実施形態の伝熱部材としての熱交換部材の一部の例示的かつ模式的な平面図である。
図13図13は、第4実施形態の伝熱部材としての熱交換部材の一部の例示的かつ模式的な平面図である。
図14図14は、第5実施形態の伝熱部材としての沸騰伝熱部材を有した沸騰冷却装置の例示的かつ模式的な断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の例示的な実施形態が開示される。以下に示される実施形態の構成、ならびに当該構成によってもたらされる作用および結果(効果)は、一例である。本発明は、以下の実施形態に開示される構成以外によっても実現可能である。また、本発明によれば、構成によって得られる種々の効果(派生的な効果も含む)のうち少なくとも一つを得ることが可能である。
【0026】
以下に示される実施形態は、同様の構成を備えている。よって、各実施形態の構成によれば、当該同様の構成に基づく同様の作用および効果が得られる。また、以下では、それら同様の構成には同様の符号が付与されるとともに、重複する説明が省略される場合がある。
【0027】
本明細書において、序数は、部品や部位等を区別するために便宜上付与されており、優先順位や順番を示すものではない。
【0028】
また、各図において、X方向を矢印Xで表し、Y方向を矢印Yで表し、Z方向を矢印Zで表す。X方向、Y方向、およびZ方向は、互いに交差するとともに互いに直交している。なお、X方向は、延び方向、あるいは掃引方向とも称され、Y方向は、延び方向、あるいは掃引方向とも称され、Z方向は、厚さ方向あるいは高さ方向とも称されうる。
【0029】
[第1実施形態]
図1は、本実施形態の伝熱部材10の平面図、図2は、図1のII-II断面図である。
【0030】
伝熱部材10は、例えば、銅や、銅合金、アルミニウム、アルミニウム合金のような、熱伝導率の高い金属材料によって作られる。
【0031】
[表層の構造]
図1に示されるように、伝熱部材10は、平面状の面10aを有しており、面10aの少なくとも一部には、ポーラス構造を有した表層20が設けられている。面10aは、表面の一例である。表層20は、レーザ光の照射によって形成される。表層20の加工については後述する。
【0032】
図2に示されるように、表層20は、伝熱部材10のZ方向の端部において、Z方向における略一定の厚さ(深さ)で、言い換えるとZ方向の所定区間に渡り、X方向およびY方向に、言い換えるとZ方向と交差しかつ直交する方向に、広がっている。Z方向は、第一方向の一例である。
【0033】
表層20は、複数の突起20pと複数の閉孔20hと含むポーラス構造を有している。表層20は、例えば、Z方向(の反対方向)に見た場合の所定範囲において、Z方向に最も高く突出している先端20tと、当該先端20tからZ方向の反対方向に最も離れた閉孔20bと、の間の、Z方向と交差しかつ直交して広がった層と定義されうる。
【0034】
表層20は、二つの層に大別することができる。一つは、閉孔20bよりも突起20pがより多く存在する第一層L1であり、もう一つは、突起20pよりも閉孔20bがより多く存在する第二層L2である。第一層L1は、所定の高さ(厚さ)でZ方向と交差しかつ直交して広がっており、第二層L2は、所定の深さ(厚さ)でZ方向と交差しかつ直交して広がっている。第一層L1および第二層L2は、互いにZ方向に隣接している。また、第一層L1は、第二層L2よりも外側に位置している。第一層L1は、突起層の一例であり、第二層L2は、閉孔層の一例である。
【0035】
表層20の空隙率は、当該表層20(計測対象部位)の断面における、空隙領域の材料領域に対する比率である。空隙率は、例えば、表層20の複数の断面画像に対する画像処理により、空隙領域の材料領域に対する面積比として算出することができる。例えば、図2に示されるZ方向に沿いY方向と交差する断面画像においては、計測対象部位PのX方向の長さLx、計測対象部位PのZ方向の長さLz(深さ)の矩形の2次元領域について、黒の空隙領域の面積をグレーの材料領域の面積で除した面積比を算出する。そして、計測対象部位P内の異なる複数箇所(例えば、4箇所)の断面画像において面積比を算出し、当該複数箇所の面積比の平均値を、空隙率として算出することができる。ここで、計測対象部位Pの長さLzは、例えば、計測対象部位PのZ方向に沿う複数の断面画像において、Z方向に最も高く突出している先端20tと、当該先端20tからZ方向の反対方向に最も離れた閉孔20bと、の間の、Z方向長さとすることができる。計測対象部位PのX方向の長さLxは、レーザ加工が施された範囲内で適宜に設定することができる。また、上述した第一層L1や第二層L2などの層毎の空隙率も、画像処理の対象となる矩形の2次元領域の範囲を変更することにより、同様に算出することができる。なお、断面の方向や、位置、数等は、適宜に設定することができる。また、空隙率は、法線方向が互いに異なる複数の断面における面積比の平均値として算出してもよい。また、平均をとる断面数は、少なくとも2以上であれば良いが、位置や方向による加工状態のばらつきが低ければ1でもよいし、より計測精度を高めるため3以上としてもよい。また、空隙率は、同様のレーザ加工を施した複数のサンプルについて、算出するのが好ましい。なお、本実施形態では、空隙率は、断面から二次元的に算出しているが、平均をとる断面数が多い場合や、位置による形状のばらつきが比較的少ない場合にあっては、空隙の容積の材料の体積に対する比率、すなわち三次元的な空隙率とほぼ同じであると考えることができる。
【0036】
表層20の空隙率は、例えば、4サンプルにおいて、(1)76.7%、(2)80.0%、(3)73.7%、(4)81.4%であり、平均77.9%であった。これらの調査結果を含む発明者らによる鋭意研究の結果、表層20の空隙率は、好適には、50%以上でありかつ90%以下であり、さらに好適には、60%以上でありかつ85%以下であることが判明した。図2から明らかとなるように、第一層L1の空隙率は、第二層L2の空隙率よりも大きい。
【0037】
また、図2から明らかとなるように、表層20は、不規則な凹凸を有しており、特許文献1のような周期的な凹凸は有していない。
【0038】
[レーザ光の照射による表層の加工]
図3は、伝熱部材の製造方法を示すフローチャートである。図3に示されるように、本実施形態では、まず、プレス加工や切削加工等により伝熱部材10を成形するなどして準備し(S1、第一工程)、その後、伝熱部材10の面10aにレーザ光Lを照射することにより当該面10aに表層20を加工する(S2、第二工程)。なお、第一工程S1(準備工程)は、他の場所で成形された伝熱部材10を搬入する工程であってもよい。
【0039】
図4は、表層20を加工する加工システム100の模式図である。図4に示されるように、加工システム100は、レーザ装置110と、光学ヘッド120と、レーザ装置110と光学ヘッド120とを接続する光ファイバ130と、保持部材140とを備えている。
【0040】
レーザ装置110は、例えば数kWのパワーのレーザ光を出力できるように構成されている。例えば、レーザ装置110は、内部に複数の半導体レーザ素子を備え、当該複数の半導体レーザ素子の合計の出力として数kWのパワーのマルチモードのレーザ光を出力できるように構成することとしてもよい。また、レーザ装置110は、ファイバレーザ、YAGレーザ、ディスクレーザ等様々なレーザ光源を備えていてもよい。レーザ装置110は、連続波発振により、レーザ光の連続光を出射する。すなわち、レーザ装置110は、CW(continuous wave)レーザである。
【0041】
光ファイバ130は、レーザ装置110から出力されたレーザ光を導波し、光学ヘッド120に入力させる。
【0042】
保持部材140は、加工対象Wとしての伝熱部材10を保持する。
【0043】
光学ヘッド120は、レーザ装置110から光ファイバ130を経由して入力されたレーザ光Lを、加工対象Wに向けて出射する光学装置である。光学ヘッド120は、出射部の一例である。
【0044】
光学ヘッド120は、コリメートレンズ121と集光レンズ122とを備えている。コリメートレンズ121は、入力されたレーザ光を平行光にするための光学系である。集光レンズ122は、平行光化されたレーザ光を集光し、レーザ光Lとして加工対象Wに照射するための光学系である。光学ヘッド120は、レーザ光LをZ方向の反対方向に出射する。レーザ光Lは、加工対象Wの表面に照射される。表面は、被照射面とも称されうる。
【0045】
光学ヘッド120、保持部材140、および加工対象Wは、ケース200内に収容されており、ケース200内(加工室R内)、すなわち加工対象Wの周囲の雰囲気が、管理されている。例えば、本実施形態では、レーザ光Lの照射により加工対象Wの面10aから分離した材料の粒子が、再び面10a上に付着して積層されるよう、面10aの照射位置近傍へ向けて、ガスがガスノズル等によって吹き付けられている。ガスの流量や、流速、方向、吹き付け位置などは、適宜に調整されうる。ガスは、例えば窒素ガスのような不活性ガスである。
【0046】
加工システム100は、光学ヘッド120と加工対象Wすなわち加工対象Wを保持する保持部材140との相対位置を変更可能に構成されている。これにより、加工対象Wの面10a上で、レーザ光Lの照射位置が移動する。これにより、レーザ光Lは、面10a上を掃引される。言い換えると、面10aにおけるレーザ光Lのスポット(照射位置)は、面10a上を移動する。
【0047】
面10a上におけるレーザ光Lの照射位置の移動、すなわち光学ヘッド120と加工対象Wとの相対移動は、光学ヘッド120の単独、加工対象W(保持部材140)の単独、あるいは光学ヘッド120および加工対象Wの双方を移動する移動機構(不図示)により、実現されうる。
【0048】
[掃引方法]
図5は、加工対象Wの面10aにおけるレーザ光Lのスポット(不図示)の掃引方法の一例を示し、図6は、加工対象Wの面10aにおけるレーザ光Lのスポットの掃引方法の別の一例を示す。なお、図5,6は、面10aの加工領域の一部を拡大して示した図である。
【0049】
図5の場合、まずは、図中に破線の矢印で示されるように、レーザ光Lの面10aに沿ったX方向およびX方向の反対方向への交互の掃引(s1)が、Y方向に並ぶように複数回実行される。X方向およびX方向の反対方向への掃引は、第一掃引s1の一例であり、X方向は、第一方向の一例であり、Y方向は、第二方向の一例である。第一掃引s1のそれぞれの掃引位置は、例えば、Y方向またはY方向の反対方向に間隔ps1でずれている。また、間隔ps1は、レーザ光Lのスポット径(ビーム径、不図示)以下となるよう、設定されている。間隔ps1は、第一間隔の一例である。なお、ここでは、X方向への第一掃引s1と、X方向の反対方向への第一掃引s1とが交互に実行される例が示されたが、これには限定されず、例えば、X方向への第一掃引s1のみが実行されてもよいし、X方向の反対方向への第一掃引s1のみが実行されてもよいし、X方向への第一掃引s1が複数回実行された後にX方向の反対方向への第一掃引s1が複数回実行されてもよい。
【0050】
次に、図中に実線の矢印で示されるように、レーザ光Lの面10aに沿ったY方向およびY方向の反対方向への交互の掃引(s2)が、X方向に並ぶように複数回実行される。Y方向およびY方向の反対方向への掃引は、第二掃引s2の一例であり、Y方向は、第三方向の一例であり、X方向は、第四方向の一例である。第二掃引s2のそれぞれの掃引位置は、例えば、X方向またはX方向の反対方向に間隔ps2でずれている。また、間隔ps2は、レーザ光Lのスポット径(ビーム径、不図示)以下となるよう、設定される。間隔ps2は、第二間隔の一例である。間隔ps2は、間隔ps1と同じであってもよいし、異なってもよい。なお、ここでは、Y方向への第二掃引s2と、Y方向の反対方向への第二掃引s2とが交互に実行される例が示されたが、これには限定されず、例えば、Y方向への第二掃引s2のみが実行されてもよいし、Y方向の反対方向への第二掃引s2のみが実行されてもよいし、Y方向への第二掃引s2が複数回実行された後にY方向の反対方向への第二掃引s2が複数回実行されてもよい。また、第三方向は、第一方向と交差していればよく、Y方向には限定されない、言い換えると、Y方向に対して傾斜した方向であってもよい。
【0051】
他方、図6の場合、まずは、図中に破線の矢印で示されるように、レーザ光Lの面10aに沿ったX方向およびX方向の反対方向への交互の掃引(s1)が、Y方向に並ぶように複数回実行される。X方向およびX方向の反対方向への掃引は、第一掃引s1の一例であり、第一掃引については、図5の場合と同様であるため、説明を割愛する。
【0052】
次に、図中に実線の矢印で示されるように、レーザ光Lの面10aに沿ったX方向およびX方向の反対方向への交互の掃引(s2)が、Y方向に並ぶように複数回実行される。ここでのX方向およびX方向の反対方向への掃引は、第二掃引s2の一例である。第一掃引s1と第二掃引s2とは、平行である。また、第二掃引s2のY方向の位置は、第一掃引s1のY方向の位置に対して、それぞれ間隔ps1未満ずれた位置において、実行される。また、第二掃引s2のそれぞれの掃引位置は、例えば、Y方向またはY方向の反対方向に間隔ps2でずれている。間隔ps2は、レーザ光Lのスポット径(ビーム径、不図示)以下となるよう、設定される。間隔ps2は、間隔ps1と同じであってもよいし、異なってもよい。なお、ここでは、X方向への第二掃引s2と、X方向の反対方向への第二掃引s2とが交互に実行される例が示されたが、これには限定されず、例えば、X方向への第二掃引s2のみが実行されてもよいし、X方向の反対方向への第二掃引s2のみが実行されてもよいし、X方向への第二掃引s2が複数回実行された後にX方向の反対方向への第二掃引s2が複数回実行されてもよい。
【0053】
本実施形態の表層20は、加工対象Wの面10aに対するCWレーザであるレーザ光Lの照射により、溶融金属が吹き飛ばされることにより凹部(空隙)が形成されるとともに、吹き飛ばされた溶融金属が再付着することにより凸部が形成されることによって、得られる。この結果、本実施形態の表層20では、互いに隣接した凹部が二次元的および三次元的に連通するとともに、凹部の外側(Z方向)の開口が比較的狭まった、複雑かつ不規則な凹凸構造(多孔質金属層)が得られるため、表層20において材料部分の表面積が大幅に増大する。このような構成によれば、例えばパルスレーザの照射によって材料の表面に凹部や凸部が規則的に配置された比較的単純な凹凸構造を有した従来構造に比べて、より大きな表面積が得られ、ひいては熱抵抗を低減でき、放熱性や熱交換性を向上できることが判明した。
【0054】
[表面積増加率と熱抵抗]
図7は、複数のサンプルにおける表層20の表面積増加率と熱抵抗との関係を示すグラフである。どの条件においても未加工銅板の熱抵抗0.26と比較して低下している。表面積増加率は、Z方向における投影面積の単位面積(例えば、1[cm])あたりの、レーザ加工により表層20の表面積が増加した比率である。レーザ加工前(未加工あるいは無加工)とレーザ加工後とで表面積が変化しない場合は、表面積増加率が100%であり、レーザ加工によりレーザ加工前に対して表面積が少しでも増加すると表面積増加率は100%よりも大きな値となる。表面積増加率が大きいほど、凹凸によって表面積がより増大していることを示す。表層20の表面積は、例えば、KEYENCE社のVR-3000などの計測装置によって計測された三次元的な表面形状から算出することができる。表面積増加率は、所定範囲(例えば、Z方向の反対方向に見た平面視で20[mm]×20[mm]の範囲)について、計測装置から得られた表面積を、当該所定範囲が平面である場合の面積(例えば、20[mm]×20[mm]の範囲の場合、400[mm])で除算することにより、得られる。
【0055】
発明者らは、図7に示されるように、本実施形態の表層20では、表面積増加率と熱抵抗との相関関係が、表面積増加率の値Rbを境に、変化していることを見出した。すなわち、本実施形態の表層20においては、表面積増加率が値Rbよりも小さい範囲では、表面積増加率が大きいほど熱抵抗が小さいが、表面積増加率が値Rbよりも大きい範囲では、表面積増加率が大きいほど熱抵抗が大きいことが判明した。これは、上述したように、本実施形態の表層20においては、面10aから分離して再付着した粒子により図2に示されるような閉孔20hが形成されるが、表面積増加率が大きい表層20ほど、当該表層20における閉孔20hの体積比率、すなわち熱伝導率のより低い気体の体積比率が大きくなるためであると、推察される。
【0056】
このような知見に基づき、表層20は、熱抵抗が閾値Th以下となる表面積増加率の範囲、すなわち下限値Rmin以上、上限値Rmax以下となる形状を有するのが好適であり、具体的には、110%以上でありかつ300%以下であるのが好適であり、200%以上でありかつ230%以下であるのがさらに好適であることが判明した。
【0057】
[空隙率(図2とは異なる範囲)]
空隙率は、当該空隙率の算出対象となる範囲が異なる場合についても、上述した断面画像の画像処理において、対象となる矩形の2次元領域を変更することにより、同様に算出することができる。
【0058】
図8は、図2と同位置での伝熱部材10の断面を示す。ただし、図8には、表層20のうちZ方向の中央位置CFよりもZ方向の端部側(表面側、外側)の領域Luが示されている。中央位置CFは、Z方向(の反対方向)に見た場合の所定範囲において、表層20の先端20tと最深の閉孔20bとの間のZ方向の中央に位置した、Z方向と交差しかつ直交する面の位置である。
【0059】
中間位置CFよりも外側(Z方向の前方)における表層20の空隙率は、例えば、4サンプルにおいて、(1)67.5%、(2)66.0%、(3)65.6%、(4)68.1%であり、平均66.8%であった。これらの調査結果を含む発明者らによる鋭意研究の結果、表層20の空隙率は、好適には、50%以上でありかつ80%以下であり、さらに好適には、60%以上でありかつ70%以下であることが判明した。
【0060】
また、図9は、図2と同位置での伝熱部材10の断面を示す。ただし、図9には、表層20のうち、当該表層20を加工していない領域の面10a(あるいは加工する前の面10a)よりもZ方向の端部側(表面側、外側)の領域Lpが示されている。
【0061】
面10aよりも外側(Z方向の前方)における表層20の空隙率は、例えば、4サンプルにおいて、(1)76.0%、(2)73.0%、(3)71.9%、(4)76.8%であり、平均74.5%であった。これらの調査結果を含む発明者らによる鋭意研究の結果、表層20の空隙率は、好適には、50%以上でありかつ90%以下であり、さらに好適には、60%以上でありかつ80%以下であることが判明した。面10aよりも外側(Z方向の前方)における表層20の体積材料比率は(1-空隙率)となる。この場合の体積材料比率は、再堆積した材料の比率であると言うことができる。
【0062】
以上、説明したように、本実施形態では、伝熱部材10は、金属材料で作られており、表層20を備えている。表層20は、Z方向(第一方向)の端部で当該Z方向の所定区間に渡って当該Z方向と交差して広がるポーラス構造を有している。
【0063】
このような構成によれば、例えば、単に表面にポーラス状の凹凸が設けられたに過ぎない伝熱部材よりも表面積が大きくなりやすく、熱伝導性をより高めやすい。
【0064】
また、本実施形態では、例えば、表層20は、閉孔20hよりも突起20pが多く存在する第一層L1(突起層)と、当該第一層L1に対してZ方向(第一方向)の反対側に隣接し突起20pよりも閉孔20hが多く存在する第二層L2(閉孔層)と、を有している。
【0065】
本実施形態のように、レーザ光Lの照射によって面10aから分離した材料の粒子が当該面10a上に再付着して堆積する場合に、このような構成が得られる。当該構成によれば、例えば、単に表面にポーラス状の凹凸が設けられたに過ぎない伝熱部材よりも表面積が大きくなりやすく、熱伝導性をより高めやすい。
【0066】
また、本実施形態では、例えば、表層20の空隙率は、50%以上90%以下である。
【0067】
また、本実施形態では、例えば、表層20のZ方向(高さ方向)の中央位置CFよりも外側の空隙率は、50%以上80%以下である。
【0068】
さらに、本実施形態では、例えば、伝熱部材10の面10aよりZ方向(高さ方向)の外側における表層20の空隙率は、50%以上90%以下である。
【0069】
発明者らの研究により、空隙率がこのような範囲内であれば、熱伝導性をより高めやすいことが判明した。
【0070】
また、本実施形態では、例えば、表面積増加率、すなわち、表層20のZ方向(高さ方向)での投影における単位面積あたりの当該表層20の比率は、110%以上300%以下である。
【0071】
発明者らの研究により、表面積増加率がこのような範囲内であれば、熱伝導性をより高めやすいことが判明した。
【0072】
また、本実施形態の伝熱部材10の製造方法は、例えば、伝熱部材10を準備する工程S1(第一工程)と、伝熱部材10の面10aにレーザ光Lを照射することにより面10aから吹き飛ばされた粒子を再付着させることにより、ポーラス構造を有した表層20を形成する工程S2(第二工程)と、を備えている。
【0073】
上記第二工程により、ポーラス構造を有し熱伝導性の高い表層20を形成することができ、これにより、伝熱部材10の面10aに、より熱伝導性の高い表層20を構成することができる。
【0074】
また、本実施形態では、例えば、工程S2(第二工程)において、レーザ光Lを出射する光学ヘッド120(出射部)と加工対象W(伝熱部材10)とを相対的に移動させることによりレーザ光Lを面10a上で相対的に掃引する。
【0075】
このような構成によれば、例えば、パルスレーザ光を照射する場合に比べて、表層20をより迅速に形成することができる。また、レーザ光Lの連続光を照射することにより、パルスレーザ光を照射した場合に比べて、規則的な凹凸が形成され難くなり、その分、表面積が大きくなりやすく、熱伝導性をより高めやすい。
【0076】
また、本実施形態では、例えば、工程S2(第二工程)において、レーザ光Lの面10aに沿ったX方向(第一方向)または当該X方向の反対方向(第一方向の反対方向)への第一掃引s1が、当該X方向と交差したY方向(第二方向)に並ぶように、当該Y方向または当該Y方向の反対方向に間隔ps1(第一間隔)でずれながら複数回行われ、間隔ps1が、レーザ光Lのビーム径以下である。
【0077】
このような構成によれば、例えば、面10a上に、平面的に隙間無く広がった表層20を形成することができる。また、第一掃引s1の境界部分に比較的広い間隔で規則的な凸条が形成され、これにより表面積が増大し難くなるのを回避することができる。
【0078】
また、本実施形態では、例えば、工程S2(第二工程)において、第一掃引s1がY方向に並ぶように複数回行われた後、レーザ光Lの面10aに沿ったX方向と交差したY方向(第三方向)または当該Y方向の反対方向への第二掃引s2が、当該Y方向と交差したX方向(第四方向)に並ぶように複数回行われ、第二掃引s2のX方向における間隔ps2(第二間隔)が、レーザ光Lのビーム径以下である。
【0079】
このような構成によれば、例えば、面10a上に、平面的に隙間無く広がった表層20を形成することができる。また、第一掃引s1の境界部分および第二掃引s2の境界部分に比較的広い間隔で規則的な凸条が形成され、これにより表面積が増大し難くなるのを回避することができる。
【0080】
また、本実施形態では、工程S2(第二工程)において、第一掃引s1がY方向に並ぶように複数回行われた後、第一掃引s1に対してY方向(第二方向)に間隔ps1未満ずれた位置におけるレーザ光Lの面10aに沿ったX方向(第一方向)の第二掃引s2が、Y方向(第二方向)に並ぶように複数回行われる。
【0081】
このような構成によれば、例えば、面10a上に、平面的に隙間無く広がった表層20を形成することができる。また、第一掃引s1の境界部分に比較的広い間隔で規則的な凸条が形成され、これにより表面積が増大し難くなるのを回避することができる。
【0082】
本実施形態の伝熱部材10は、ポーラス構造による表面積の大きな表層を有しており、真空中であっても、当該表層からの放射による高い放熱性を得ることができる。このため、例えば、宇宙基地や、宇宙ステーション、ロケット、宇宙探査機、人工衛星のような、真空であるとともに温度変化の大きい宇宙環境で使用される宇宙構造物への適用に好適である。宇宙構造物の材料としては、例えば、ステンレススチールや、チタン、チタン合金、モリブデン、タンタル等があげられる。また、従来の宇宙構造物の表面に塗布されていた放熱性を高めるための塗料等が不要となる分、例えば、宇宙構造物の製造の手間やコストを抑制できるという利点も得られる。
【0083】
[第2実施形態]
図10は、第2実施形態の伝熱部材としてのバスバー10Aの平面図であり、図11は、図10のXI-XI断面図である。
【0084】
バスバー10Aは、導電性の金属材料で作られている。長手方向の端部10bには、それぞれ、他の電気部品の端子と機械的かつ電気的に接続するための貫通穴10cが設けられている。
【0085】
バスバー10Aは、例えば、銅、銅合金、アルミニウム、アルミニウム合金のような、電気抵抗率の小さい金属材料によって作られるのが好適である。電気抵抗率が小さいという観点からは、バスバー10Aは、銅によって作られるのが好適である。
【0086】
バスバー10Aは、扁平な帯状かつ板状の形状を有している。バスバー10Aは、Y方向に略一定の幅およびZ方向に略一定の厚さ(高さ)で、X方向に延びている。
【0087】
バスバー10Aは、Z方向およびZ方向の反対方向の端部において、二つの面10a,10dを有している。面10a,10dは、Z方向と交差しかつ直交して広がっている。本実施形態では、面10a,10dは、Z方向と直交し、X方向およびY方向に延びている。面10a,10dは、表面の一例である。
【0088】
バスバー10Aの面10aの、貫通穴10cの近傍には、第一実施形態と同様の構成を有した表層20が設けられている。貫通穴10cは、他の導体との接続部分であるため、通電により導体自体の抵抗により発熱する。さらに、貫通穴10cの近傍において、他の導体との間の接触抵抗等により発熱することがある。すなわち、貫通穴10cの近傍は、発熱部位とも称されうる。この点、本実施形態によれば、貫通穴10cの近傍領域において、当該貫通穴10cから隙間をあけて離れた位置に、表層20が設けられているため、接触抵抗に基づくバスバー10Aあるいは当該バスバー10Aと接続される導体の温度の過度な上昇を、抑制することができる。すなわち、本実施形態によれば、表層20により、伝熱部材としてのバスバー10Aの温度上昇を抑制することができる。
【0089】
また、図11に示されるように、表層20は、面10aから突出した突出部10eに設けられている。突出部10eは、凸部の一例である。このような構成によれば、例えば、表層20の凹部あるいは閉孔20hによりバスバー10Aの断面積が小さくなり電気抵抗が増大するのを、抑制することができる。
【0090】
[第3実施形態および第4実施形態]
図12は、第3実施形態の伝熱部材としての熱交換部材10Bの平面図であり、図13は、第4実施形態の伝熱部材としての熱交換部材10Cの平面図である。
【0091】
伝熱部材としての熱交換部材10B,10Cは、いずれも、流体Fとの間で熱交換する部材である。流体Fは、気体でもよいし、液体でもよいし、例えば、混相流のような、他の流体であってもよい。熱交換部材10B,10CのZ方向の端部に位置する面10a上には、それぞれ、複数の表層20が設けられている。表層20は、それぞれ、第1実施形態または第2実施形態と同様の構成を有している。すなわち、表層20は、第1実施形態のように、面10a上に、面10aからの突出高さが比較的低い状態で設けられてもよいし、第2実施形態のように、面10aからZ方向に突出した状態に設けられてもよい。流体Fは表層20を通過するときに乱流となり、効果的に熱交換される。表層20の間の平坦部では層流となり、流路の抵抗を下げることに寄与する。
【0092】
熱交換部材10Bにおいて、表層20は、流体Fの流れる方向に沿って延びている。この例において、表層20は、平面視において、流体Fの流れの向き(X方向)に沿って延びる長方形状あるいは長円形状の形状を有しているが、発熱量と流量に応じて好適に設計されうるため、これには限定されず、例えば、翼型形状のような他の形状を有してもよい。
【0093】
また、熱交換部材10Cにおいて、表層20は、例えば平面視で格子点状に離散的に配置されており、流体Fは、表層20の間を通過する。この例において、熱交換部材10Cの表層20は、平面視において、流体Fの流れの向き(X方向)およびその反対方向(X方向の反対方向)に突出した角部を有した菱形状の形状を有しているが、発熱量と流量に応じて好適に設計されうるため、これには限定されず、例えば、円形状のような他の形状を有してもよい。
【0094】
このように、伝熱部材としての熱交換部材10B,10Cにおいて、表層20が設けられることにより、表層20が無い場合に比べて、熱交換部材10B,10Cと流体Fとの間での熱交換における熱流束が増大する。その結果、例えば、水冷ヒートシンクのような、発熱体の温度を下げる用途に用いることができ、放熱フィンや放熱ピンを用いた場合と比較して、小型化や製造コストの面で効果が得られる。
【0095】
[第5実施形態]
図14は、伝熱部材としての沸騰伝熱部材10Dを有した沸騰冷却装置30の断面図である。
【0096】
図14において、沸騰冷却装置30は、受熱部32と放熱部33とを有したチャンバ31を備えている。チャンバ31は、中空状の形状を有し、チャンバ31内には、液相状態の冷媒34が収容されている。受熱部32は、放熱部33の鉛直下方に位置され、受熱部32と放熱部33とは中間開口35を介して連通している。冷媒34は、略真空状態のチャンバ31内に封入されている。また、放熱部33内には、冷却流体配管36が設けられている。
【0097】
受熱部32の底部には、開口32aが設けられており、当該開口32aは、伝熱部材としての沸騰伝熱部材10Dによって、気密および液密状態で塞がれている。沸騰伝熱部材10Dは、ヒートスプレッダ37を介して発熱体Hと熱的に接続されている。
【0098】
沸騰伝熱部材10Dの面10aには、第1実施形態と同様の表層20が設けられている。表層20は、チャンバ31内に露出されており、冷媒34と接触している。
【0099】
上述した沸騰冷却装置30において、発熱体Hからの熱が、ヒートスプレッダ37および沸騰伝熱部材10Dの表層20を介して冷媒34に伝達される。冷媒34は、沸騰伝熱部材10Dの表層20に触れている部分において、沸騰して気泡となり、液相の冷媒34中に放出される。気泡は、液相の冷媒34中を上昇して放熱部33に至り、放熱部33において冷却流体配管36内を流れる冷却流体に放熱して再液化し、受熱部32に戻る。このような動作を繰り返すことによって、発熱体Hからの熱が、冷媒34を介して放熱部33に輸送され、放熱部33から放熱される。本実施形態によれば、表層20により、沸騰伝熱部材10Dから冷媒34への伝熱における熱流束が増大し、ひいては、沸騰冷却装置30の効率が向上する。
【0100】
以上、本発明の実施形態が例示されたが、上記実施形態は一例であって、発明の範囲を限定することは意図していない。上記実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、組み合わせ、変更を行うことができる。また、各構成や、形状、等のスペック(構造や、種類、方向、型式、大きさ、長さ、幅、厚さ、高さ、数、配置、位置、材質等)は、適宜に変更して実施することができる。
【産業上の利用可能性】
【0101】
本発明は、伝熱部材および伝熱部材の製造方法に適用することができる。
【符号の説明】
【0102】
10…伝熱部材
10A…バスバー(伝熱部材)
10B…熱交換部材(伝熱部材)
10C…熱交換部材(伝熱部材)
10D…沸騰伝熱部材(伝熱部材)
10a…面(表面)
10b…端部
10c…貫通穴
10d…面
10e…突出部
20…表層
20b…閉孔
20h…閉孔
20p…突起
20t…先端
30…沸騰冷却装置
31…チャンバ
32…受熱部
32a…開口
33…放熱部
34…冷媒
35…中間開口
36…冷却流体配管
37…ヒートスプレッダ
100…加工システム
110…レーザ装置
120…光学ヘッド
121…コリメートレンズ
122…集光レンズ
130…光ファイバ
140…保持部材
200…ケース
L…レーザ光
L1…第一層(突起層)
L2…第二層(閉孔層)
Lx,Lz…長さ
P…計測対象部位
ps1…間隔
ps2…間隔
S1…工程
S2…工程
s1…第一掃引
s2…第二掃引
R…加工室
W…加工対象
X…方向(延び方向、掃引方向、第一方向、第四方向)
Y…方向(延び方向、掃引方向、第二方向、第三方向)
Z…方向(厚さ方向、高さ方向)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14