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特許7630520電力変換器、電力変換器の制御方法、電力システム、電力システムの制御方法及びプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-06
(45)【発行日】2025-02-17
(54)【発明の名称】電力変換器、電力変換器の制御方法、電力システム、電力システムの制御方法及びプログラム
(51)【国際特許分類】
   H02J 1/12 20060101AFI20250207BHJP
   H02J 1/00 20060101ALI20250207BHJP
   H02J 3/32 20060101ALI20250207BHJP
   H02J 3/38 20060101ALI20250207BHJP
   H02J 7/00 20060101ALI20250207BHJP
   H02J 7/35 20060101ALI20250207BHJP
   H02M 3/00 20060101ALI20250207BHJP
【FI】
H02J1/12
H02J1/00 306B
H02J1/00 306K
H02J1/00 306L
H02J3/32
H02J3/38 110
H02J3/38 130
H02J7/00 P
H02J7/35 K
H02M3/00 H
【請求項の数】 28
(21)【出願番号】P 2022541452
(86)(22)【出願日】2021-07-27
(86)【国際出願番号】 JP2021027723
(87)【国際公開番号】W WO2022030299
(87)【国際公開日】2022-02-10
【審査請求日】2024-03-19
(31)【優先権主張番号】P 2020134040
(32)【優先日】2020-08-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2020182775
(32)【優先日】2020-10-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005290
【氏名又は名称】古河電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】力宗 真寛
(72)【発明者】
【氏名】阿部 飛鳥
【審査官】宮本 秀一
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-014370(JP,A)
【文献】特開2011-078237(JP,A)
【文献】特開平05-244717(JP,A)
【文献】国際公開第2019/103059(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02J1/00-7/12
H02J7/34-7/36
H02M3/00-3/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
送電線路に接続された電力変換器であり、
前記送電線路からの電力の入力及び/または前記送電線路への電力の出力が可能な機器に電気的に接続される入力部と、
前記入力部に接続された、電圧を変動させる電圧変動部と、
前記電圧変動部に接続された、前記送電線路への電圧を調整する電圧調整部と、
前記電圧変動部の第1目標値を定める目標設定部と、
前記送電線路に接続された、前記送電線路の電圧を観測する電圧監視部と、
前記電圧監視部と接続され、前記送電線路の電圧に応じて、前記電圧調整部の第2目標値を演算する閾値判断機構と、
を備え、
前記電力変換器が、前記電圧監視部が観測した電圧に応じて、前記目標設定部が、前記電圧変動部の出力目標として、前記第1目標値を生成し、
前記第1目標値が、前記電圧調整部の出力制御の閾値電圧を時間に応じて変化させる特性を有する電力変換器。
【請求項2】
前記電圧監視部の観測した電圧に応じて、前記機器を自端制御する際の前記第1目標値を生成する参照関数に基づいて前記機器を制御する請求項1に記載の電力変換器。
【請求項3】
前記参照関数が、所定の限時特性を有する請求項2に記載の電力変換器。
【請求項4】
前記参照関数が、閾値電圧値をVrとし、前記送電線路のキャパシタンスをCとし、前記キャパシタンスに応じて決定される時定数をTrとすると、以下の式(1)
Tr=function(Vr,C) (1)
の関係を有し、
前記電力変換器の自端の観測電圧をV0とすると、V0>Vrの状態がTr以上継続した際に、前記電圧変動部が、前記機器から前記送電線路への電力の出力抑制を行うように制御する、請求項2または3に記載の電力変換器。
【請求項5】
前記参照関数が、閾値電圧値をVrとし、前記送電線路のキャパシタンスをCとし、前記キャパシタンスに応じて決定される時定数をTrとすると、以下の式(1)
Tr=function(Vr,C) (1)
の関係を有し、
前記電力変換器の自端の観測電圧をV0とすると、V0<Vrの状態がTr以上継続した際に、前記電圧変動部が、前記機器から前記送電線路への電力の出力促進を行い、V0がVrに到達すると出力促進を停止するように制御する、請求項2から請求項4のいずれか一項に記載の電力変換器。
【請求項6】
前記機器が、発電装置である請求項4または請求項5に記載の電力変換器。
【請求項7】
前記発電装置が、再生可能エネルギーを用いて発電する発電装置または燃料を用いて発電する発電装置である請求項6に記載の電力変換器。
【請求項8】
前記参照関数が、閾値電圧値をVrとし、前記送電線路のキャパシタンスをCとし、前記キャパシタンスに応じて決定される時定数をTrとすると、以下の式(1)
Tr=function(Vr,C) (1)
の関係を有し、
前記電力変換器の自端の観測電圧をV0とすると、V0<Vrの状態がTr以上継続した際に、前記電圧変動部が、前記送電線路から前記機器への電力の入力抑制を行うように制御する、請求項2に記載の電力変換器。
【請求項9】
前記参照関数が、閾値電圧値をVrとし、前記送電線路のキャパシタンスをCとし、前記キャパシタンスに応じて決定される時定数をTrとすると、以下の式(1)
Tr=function(Vr,C) (1)
の関係を有し、
前記電力変換器の自端の観測電圧をV0とすると、V0>Vrの状態がTr以上継続した際に、前記電圧変動部が、前記送電線路から前記機器への電力の入力促進を行い、V0がVrに到達すると入力促進を停止するように制御する、請求項2または請求項8に記載の電力変換器。
【請求項10】
前記機器が、負荷である請求項8または請求項9に記載の電力変換器。
【請求項11】
前記負荷が、電気自動車に搭載された車載蓄電池を充電するためのEV充電器である請求項10に記載の電力変換器。
【請求項12】
電力変換器と前記電力変換器と電気的に接続された機器とを備えた電力要素が設けられ、
前記電力変換器が、送電線路からの電力の入力及び/または前記送電線路への電力の出力が可能な機器に電気的に接続される入力部と、
前記入力部に接続された、電圧を変動させる電圧変動部と、
前記電圧変動部に接続された、前記送電線路への電圧を調整する電圧調整部と、
前記電圧変動部の第1目標値を定める目標設定部と、
前記送電線路に接続された、前記送電線路の電圧を観測する電圧監視部と、
前記電圧監視部と接続され、前記送電線路の電圧に応じて、前記電圧調整部の第2目標値を演算する閾値判断機構と、
を備える電力システムであり、
前記電力変換器が、前記電圧監視部が観測した電圧に応じて、前記目標設定部が、前記電圧変動部の出力目標として、前記第1目標値を生成し、
前記第1目標値が、前記電圧調整部の出力制御の閾値電圧を時間に応じて変化させる特性を有する電力システム。
【請求項13】
前記電圧監視部の観測した電圧に応じて、前記機器を自端制御する際の前記第1目標値を生成する参照関数に基づいて前記機器を制御する機能を有する請求項12に記載の電力システム。
【請求項14】
前記参照関数が、所定の限時特性を有する請求項13に記載の電力システム。
【請求項15】
前記参照関数が、閾値電圧値をVrとし、前記送電線路のキャパシタンスをCとし、前記キャパシタンスに応じて決定される時定数をTrとすると、以下の式(1)
Tr=function(Vr,C) (1)
の関係を有し、
前記電力変換器の自端の観測電圧をV0とすると、V0>Vrの状態がTr以上継続した際に、前記電圧変動部が、前記機器から前記送電線路への電力の出力抑制を行うように制御する、請求項13または14に記載の電力システム。
【請求項16】
前記参照関数が、閾値電圧値をVrとし、前記送電線路のキャパシタンスをCとし、前記キャパシタンスに応じて決定される時定数をTrとすると、以下の式(1)
Tr=function(Vr,C) (1)
の関係を有し、
前記電力変換器の自端の観測電圧をV0とすると、V0<Vrの状態がTr以上継続した際に、前記電圧変動部が、前記機器から前記送電線路への電力の出力促進を行い、V0がVrに到達すると出力促進を停止するように制御する、請求項13から請求項15のいずれか一項に記載の電力システム。
【請求項17】
前記機器が、発電装置である請求項15または請求項16に記載の電力システム。
【請求項18】
前記発電装置が、再生可能エネルギーを用いて発電する発電装置または燃料を用いて発電する発電装置である請求項17に記載の電力システム。
【請求項19】
前記参照関数が、閾値電圧値をVrとし、前記送電線路のキャパシタンスをCとし、前記キャパシタンスに応じて決定される時定数をTrとすると、以下の式(1)
Tr=function(Vr,C) (1)
の関係を有し、
前記電力変換器の自端の観測電圧をV0とすると、V0<Vrの状態がTr以上継続した際に、前記電圧変動部が、前記送電線路から前記機器への電力の入力抑制を行うように制御する、請求項13に記載の電力システム。
【請求項20】
前記参照関数が、閾値電圧値をVrとし、前記送電線路のキャパシタンスをCとし、前記キャパシタンスに応じて決定される時定数をTrとすると、以下の式(1)
Tr=function(Vr,C) (1)
の関係を有し、
前記電力変換器の自端の観測電圧をV0とすると、V0>Vrの状態がTr以上継続した際に、前記電圧変動部が、前記送電線路から前記機器への電力の入力促進を行い、V0がVrに到達すると入力促進を停止するように制御する、請求項13または請求項19に記載の電力システム。
【請求項21】
前記機器が、負荷である請求項19または請求項20に記載の電力システム。
【請求項22】
前記負荷が、電気自動車に搭載された車載蓄電池を充電するためのEV充電器である請求項21に記載の電力システム。
【請求項23】
前記送電線路が、DCバスである請求項12乃至22のいずれか1項に記載の電力システム。
【請求項24】
送電線路に接続されるとともに、前記送電線路からの電力の入力及び/または前記送電線路への電力の出力が可能な機器に入力部が接続された電力変換器の制御方法であって、
前記入力部に接続された電圧変動部が、電圧を変動させるステップと、
前記電圧変動部に接続された電圧調整部が、前記送電線路への電圧を調整するステップと、
前記電圧変動部の第1目標値を定めるステップと、
前記送電線路の電圧を観測するステップと、
前記観測した送電線路の電圧に応じて、前記電圧調整部の第2目標値を演算するステップと、
を備え、
前記観測した送電線路の電圧に応じて、前記電圧変動部の出力目標として、前記第1目標値を生成し、
前記第1目標値が、前記電圧調整部の出力制御の閾値電圧を時間に応じて変化させる特性を有する電力変換器の制御方法。
【請求項25】
電力変換器と前記電力変換器と電気的に接続された機器とを備えた電力要素が設けられ、
前記電力変換器が送電線路に接続されるとともに、前記電力変換器の入力部が,前記送電線路からの電力の入力及び/または前記送電線路への電力の出力が可能な前記機器に接続された電力システムの制御方法であって、
前記入力部に接続された電圧変動部が、電圧を変動させるステップと、
前記電圧変動部に接続された電圧調整部が、前記送電線路への電圧を調整するステップと、
前記電圧変動部の第1目標値を定めるステップと、
前記送電線路の電圧を観測するステップと、
前記観測した送電線路の電圧に応じて、前記電圧調整部の第2目標値を演算するステップと、
を備え、
前記観測した送電線路の電圧に応じて、前記電圧変動部の出力目標として、前記第1目標値を生成し、
前記第1目標値が、前記電圧調整部の出力制御の閾値電圧を時間に応じて変化させる特性を有する電力システムの制御方法。
【請求項26】
電力変換器と前記電力変換器と電気的に接続された機器とを備えた電力要素が設けられ、
前記電力変換器が送電線路に接続されるとともに、前記電力変換器の入力部が,前記送電線路からの電力の入力及び/または前記送電線路への電力の出力が可能な前記機器に接続され、
前記電力変換器及び電力の需要情報を保有する外部サーバと情報通信可能な中央制御装置を備える電力システムの制御方法であって、
前記入力部に接続された電圧変動部が、電圧を変動させるステップと、
前記電圧変動部に接続された電圧調整部が、前記送電線路への電圧を調整するステップと、
前記電圧変動部の第1目標値を定めるステップと、
前記送電線路の電圧を観測するステップと、
前記観測した送電線路の電圧に応じて、前記電圧調整部の第2目標値を演算するステップと、
前記外部サーバから前記需要情報を取得するステップと、
を備え、
前記観測した送電線路の電圧に応じて、前記電圧変動部の出力目標として、前記第1目標値を生成し、
前記第1目標値が、前記電圧調整部の出力制御の閾値電圧を時間に応じて変化させる特性を有する電力システムの制御方法。
【請求項27】
プロセッサに、
送電線路に接続されるとともに、前記送電線路からの電力の入力及び/または前記送電線路への電力の出力が可能な機器に入力部が接続された電力変換器の制御方法を実行させるプログラムであって、
前記入力部に接続された電圧変動部が、電圧を変動させるステップと、
前記電圧変動部に接続された電圧調整部が、前記送電線路への電圧を調整するステップと、
前記電圧変動部の第1目標値を定めるステップと、
前記送電線路の電圧を観測するステップと、
前記観測した送電線路の電圧に応じて、前記電圧調整部の第2目標値を演算するステップと、
を備え、
前記観測した送電線路の電圧に応じて、前記電圧変動部の出力目標として、前記第1目標値を生成し、
前記第1目標値が、前記電圧調整部の出力制御の閾値電圧を時間に応じて変化させる特性を有する
プログラム。
【請求項28】
プロセッサに、
電力変換器と前記電力変換器と電気的に接続された機器とを備えた電力要素が設けられ、前記電力変換器が送電線路に接続されるとともに、前記電力変換器の入力部が,前記送電線路からの電力の入力及び/または前記送電線路への電力の出力が可能な前記機器に接続された電力システムの制御方法を実行させるプログラムであって、
前記入力部に接続された電圧変動部が、電圧を変動させるステップと、
前記電圧変動部に接続された電圧調整部が、前記送電線路への電圧を調整するステップと、
前記電圧変動部の第1目標値を定めるステップと、
前記送電線路の電圧を観測するステップと、
前記観測した送電線路の電圧に応じて、前記電圧調整部の第2目標値を演算するステップと、
を備え、
前記観測した送電線路の電圧に応じて、前記電圧変動部の出力目標として、前記第1目標値を生成し、
前記第1目標値が、前記電圧調整部の出力制御の閾値電圧を時間に応じて変化させる特性を有する
プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、交流の商用電力系統に、電力を輸送する送電線路を介して電気的に接続され、前記送電線路からの電力の入力及び/または前記送電線路への電力の出力が可能な機器と電気的に接続された電力変換器であって、前記電力変換器の観測した電圧に応じて前記機器を自端制御する際の目標値を生成する参照関数に基づいて前記機器を制御する機能を有する電力変換器、及び前記電力変換器を備えた電力システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、化石エネルギーや原子力エネルギーに依存した大規模電力ネットワークの代替手段として、地産地消の電力を使用した電力ネットワークが注目されている。地産地消の電力を使用した電力ネットワークには、再生可能エネルギーを用いて発電する発電装置である太陽光発電装置(PV)、定置型蓄電装置、電気自動車(EV)を充電するためのEV充電器等、多種多様な機器が接続される。上記各機器は、直流電源であるので、電力変換器を備えた直流(DC)での電力ネットワーク(DCグリッド)を構築する検討が進められている。
【0003】
従来、DCグリッドの制御方法として、太陽光発電装置(PV)や定置型蓄電装置等に接続された電力変換器が、集中制御部の指示に基づいて、太陽光発電装置(PV)や定置型蓄電装置等を定電流制御や定電圧制御をすることで、DCグリッドのDCバスの電力量を集中制御することが行われていた。
【0004】
また、太陽光発電装置(PV)や定置型蓄電装置等に自端の電力(P)と自端の電圧(V)に基づいた参照関数を付与し、上記参照関数がDCバスに要求される電力量に応じて太陽光発電装置(PV)や定置型蓄電装置等に目標電圧値に垂下特性を持たせるドループ制御も行われている。ドループ制御とは、出力電力または出力電流と出力電圧との関係に垂下特性を有する制御を行うことによって、電力変換器に電気的に接続された機器に仮想インピーダンスを持たせ、電力変換器間で負荷分担を実施する制御である。太陽光発電装置(PV)や定置型蓄電装置等が、ドループ制御にて自律分散的に制御されることで、DCバスに要求される電力量に応じて太陽光発電装置(PV)からの出力量や定置型蓄電装置の出入力量の調整が最適化されて、DCバスの電圧を安定化できる。
【0005】
従来のドループ制御として、例えば、DCバスの電圧を安定化しつつ、定置型蓄電装置の充電状態を安定化するために、定置型蓄電装置の充電率の変化に応じて、ドループ特性を有している参照関数の切片(DCグリッド全体の電圧(V))を高電圧側または低電圧側にシフトさせる、参照関数の更新が行われることがある。上記のように更新される参照関数として、例えば、所定の電圧範囲にわたって蓄電装置の目標とする出入力が0を維持する出入力一定域を設けた参照関数が挙げられる(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】国際公開第2019/103059号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記したDCグリッドの集中制御方法では、DCグリッド全体を簡易に制御することができるものの、電力の急激な需給変動に円滑に対応することが難しいという問題があった。特許文献1では、参照関数に出入力が0である出入力一定域を設けることで、DCグリッドが定常運転している場合には、蓄電装置の充放電を実施せずに外部の商用電力系統や太陽光発電装置(PV)から供給される電力にて、DCグリッドの電力供給量をまかなうことができる。
【0008】
一方で、例えば、太陽光発電装置(PV)から供給される電力にてDCグリッドの電力供給量の少なくとも一部をまかなうにあたり、太陽光発電装置(PV)の出力を制御するための参照関数として、図6に示すように、DCバスの電圧Vが、閾値V_threshまで上昇した場合に、太陽光発電装置(PV)の出力(電力)Pを抑制する参照関数が挙げられる。図6に示す参照関数は、DCバスの電圧Vの上昇により太陽光発電装置(PV)の出力(電力)Pを抑制することで、DCバスの電圧の安定化を図っている。
【0009】
しかし、外部の商用電力系統からの電力供給を抑えるために、図6に示す参照関数の閾値V_threshを高めに設定して太陽光発電装置(PV)の電力効率向上を図ると、負荷の変動等により擾乱が発生した際に、DCバスの電圧の安定化が難しくなる恐れがある。一方で、負荷の変動等により擾乱が発生した際にもDCバスの電圧の安定化を図るために、図6に示す参照関数の閾値V_threshを低めに設定すると、太陽光発電装置(PV)の出力抑制が発生しやすくなり、太陽光発電装置(PV)の電力効率を向上させることができないという問題がある。
【0010】
上記事情から、本発明は、電力ネットワークに擾乱が発生した際にも送電線路の電圧の安定化を図ることができつつ、電力ネットワークを構成する機器の電力効率を向上させることができる電力変換器、及び前記電力変換器を備えた電力システム、並びに電力変換器の制御方法、電力システムの制御方法及びプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の構成の要旨は以下の通りである。
[1]送電線路に接続された電力変換器であり、
前記送電線路からの電力の入力及び/または前記送電線路への電力の出力が可能な機器に電気的に接続される入力部と、
前記入力部に接続された、電圧を変動させる電圧変動部と、
前記電圧変動部に接続された、前記送電線路への電圧を調整する電圧調整部と、
前記電圧変動部の目標値を定める目標設定部と、
前記送電線路に接続された、前記送電線路の電圧を観測する電圧監視部と、
前記電圧監視部と接続され、前記送電線路の電圧に応じて、前記電圧調整部の目標値を演算する閾値判断機構と、
を備え、
前記電力変換器が、前記電圧監視部が観測した電圧に応じて、前記目標設定部が、前記電圧変動部の出力目標として、目標値を生成し、
前記目標値が、前記電圧調整部の出力制御の閾値電圧を時間に応じて変化させる特性を有する電力変換器。
[2]前記電圧監視部の観測した電圧に応じて、前記機器を自端制御する際の前記目標値を生成する参照関数に基づいて前記機器を制御する[1]に記載の電力変換器。
[3]前記参照関数が、所定の限時特性を有する[2]に記載の電力変換器。
[4]前記参照関数が、閾値電圧値をVrとし、前記送電線路のキャパシタンスをCとし、前記キャパシタンスに応じて決定される時定数をTrとすると、以下の式(1)
Tr=function(Vr,C) (1)
の関係を有し、
前記電力変換器の自端の観測電圧をV0とすると、V0>Vrの状態がTr以上継続した際に、前記電圧変動部が、前記機器から前記送電線路への電力の出力抑制を行うように制御する、[2]または[3]に記載の電力変換器。
[5]前記参照関数が、閾値電圧値をVrとし、前記送電線路のキャパシタンスをCとし、前記キャパシタンスに応じて決定される時定数をTrとすると、以下の式(1)
Tr=function(Vr,C) (1)
の関係を有し、
前記電力変換器の自端の観測電圧をV0とすると、V0<Vrの状態がTr以上継続した際に、前記電圧変動部が、前記機器から前記送電線路への電力の出力促進を行い、V0がVrに到達すると出力促進を停止するように制御する、[2]から[4]のいずれか一に記載の電力変換器。
[6]前記機器が、発電装置である[4]または[5]に記載の電力変換器。
[7]前記発電装置が、再生可能エネルギーを用いて発電する発電装置または燃料を用いて発電する発電装置である[6]に記載の電力変換器。
[8]前記参照関数が、閾値電圧値をVrとし、前記送電線路のキャパシタンスをCとし、前記キャパシタンスに応じて決定される時定数をTrとすると、以下の式(1)
Tr=function(Vr,C) (1)
の関係を有し、
前記電力変換器の自端の観測電圧をV0とすると、V0<Vrの状態がTr以上継続した際に、前記電圧変動部が、前記送電線路から前記機器への電力の入力抑制を行うように制御する、[2]または[3]に記載の電力変換器。
[9]前記参照関数が、閾値電圧値をVrとし、前記送電線路のキャパシタンスをCとし、前記キャパシタンスに応じて決定される時定数をTrとすると、以下の式(1)
Tr=function(Vr,C) (1)
の関係を有し、
前記電力変換器の自端の観測電圧をV0とすると、V0>Vrの状態がTr以上継続した際に、前記電圧変動部が、前記送電線路から前記機器への電力の入力促進を行い、V0がVrに到達すると入力促進を停止するように制御する、[2]、[3]または[8]に記載の電力変換器。
[10]前記機器が、負荷である[8]または[9]に記載の電力変換器。
[11]前記負荷が、電気自動車に搭載された車載蓄電池を充電するためのEV充電器である[10]に記載の電力変換器。
[12]電力変換器と前記電力変換器と電気的に接続された機器とを備えた電力要素が設けられ、
前記電力変換器が、送電線路からの電力の入力及び/または前記送電線路への電力の出力が可能な機器に電気的に接続される入力部と、
前記入力部に接続された、電圧を変動させる電圧変動部と、
前記電圧変動部に接続された、前記送電線路への電圧を調整する電圧調整部と、
前記電圧変動部の目標値を定める目標設定部と、
前記送電線路に接続された、前記送電線路の電圧を観測する電圧監視部と、
前記電圧監視部と接続され、前記送電線路の電圧に応じて、前記電圧調整部の目標値を演算する閾値判断機構と、
を備える電力システムであり、
前記電力変換器が、前記電圧監視部が観測した電圧に応じて、前記目標設定部が、前記電圧変動部の出力目標として、目標値を生成し、
前記目標値が、前記電圧調整部の出力制御の閾値電圧を時間に応じて変化させる特性を有する電力システム。
[13]前記電圧監視部の観測した電圧に応じて、前記機器を自端制御する際の目標値を生成する前記参照関数に基づいて前記機器を制御する機能を有する[12]に記載の電力システム。
[14]前記参照関数が、所定の限時特性を有する[13]に記載の電力システム。
[15]前記参照関数が、閾値電圧値をVrとし、前記送電線路のキャパシタンスをCとし、前記キャパシタンスに応じて決定される時定数をTrとすると、以下の式(1)
Tr=function(Vr,C) (1)
の関係を有し、
前記電力変換器の自端の観測電圧をV0とすると、V0>Vrの状態がTr以上継続した際に、前記電圧変動部が、前記機器から前記送電線路への電力の出力抑制を行うように制御する、[13]または[14]に記載の電力システム。
[16]前記参照関数が、閾値電圧値をVrとし、前記送電線路のキャパシタンスをCとし、前記キャパシタンスに応じて決定される時定数をTrとすると、以下の式(1)
Tr=function(Vr,C) (1)
の関係を有し、
前記電力変換器の自端の観測電圧をV0とすると、V0<Vrの状態がTr以上継続した際に、前記電圧変動部が、前記機器から前記送電線路への電力の出力促進を行い、V0がVrに到達すると出力促進を停止するように制御する、[13]から[15]のいずれか一に記載の電力システム。
[17]前記機器が、発電装置である[15]または[16]に記載の電力システム。
[18]前記発電装置が、再生可能エネルギーを用いて発電する発電装置または燃料を用いて発電する発電装置である[17]に記載の電力システム。
[19]前記参照関数が、閾値電圧値をVrとし、前記送電線路のキャパシタンスをCとし、前記キャパシタンスに応じて決定される時定数をTrとすると、以下の式(1)
Tr=function(Vr,C) (1)
の関係を有し、
前記電力変換器の自端の観測電圧をV0とすると、V0<Vrの状態がTr以上継続した際に、前記電圧変動部が、前記送電線路から前記機器への電力の入力抑制を行うように制御する、[13]または[14]に記載の電力システム。
[20]前記参照関数が、閾値電圧値をVrとし、前記送電線路のキャパシタンスをCとし、前記キャパシタンスに応じて決定される時定数をTrとすると、以下の式(1)
Tr=function(Vr,C) (1)
の関係を有し、
前記電力変換器の自端の観測電圧をV0とすると、V0>Vrの状態がTr以上継続した際に、前記電圧変動部が、前記送電線路から前記機器への電力の入力促進を行い、V0がVrに到達すると入力促進を停止するように制御する、[13]または[19]に記載の電力システム。
[21]前記機器が、負荷である[19]または[20]に記載の電力システム。
[22]前記負荷が、電気自動車に搭載された車載蓄電池を充電するためのEV充電器である[21]に記載の電力システム。
[23]前記送電線路が、DCバスである[12]乃至[22]のいずれか一に記載の電力システム。
[24]送電線路に接続されるとともに、前記送電線路からの電力の入力及び/または前記送電線路への電力の出力が可能な機器に入力部が接続された電力変換器の制御方法であって、
前記入力部に接続された電圧変動部が、電圧を変動させるステップと、
前記電圧変動部に接続された電圧調整部が、前記送電線路への電圧を調整するステップと、
前記電圧変動部の第1目標値を定めるステップと、
前記送電線路の電圧を観測するステップと、
前記観測した送電線路の電圧に応じて、前記電圧調整部の第2目標値を演算するステップと、
を備え、
前記観測した送電線路の電圧に応じて、前記電圧変動部の出力目標として、前記第1目標値を生成し、
前記目標値が、前記電圧調整部の出力制御の閾値電圧を時間に応じて変化させる特性を有する電力変換器の制御方法。
[25]電力変換器と前記電力変換器と電気的に接続された機器とを備えた電力要素が設けられ、
前記電力変換器が送電線路に接続されるとともに、前記電力変換器の入力部が,前記送電線路からの電力の入力及び/または前記送電線路への電力の出力が可能な前記機器に接続された電力システムの制御方法であって、
前記入力部に接続された電圧変動部が、電圧を変動させるステップと、
前記電圧変動部に接続された電圧調整部が、前記送電線路への電圧を調整するステップと、
前記電圧変動部の第1目標値を定めるステップと、
前記送電線路の電圧を観測するステップと、
前記観測した送電線路の電圧に応じて、前記電圧調整部の第2目標値を演算するステップと、
を備え、
前記観測した送電線路の電圧に応じて、前記電圧変動部の出力目標として、前記第1目標値を生成し、
前記目標値が、前記電圧調整部の出力制御の閾値電圧を時間に応じて変化させる特性を有する電力システムの制御方法。
[26]電力変換器と前記電力変換器と電気的に接続された機器とを備えた電力要素が設けられ、
前記電力変換器が送電線路に接続されるとともに、前記電力変換器の入力部が,前記送電線路からの電力の入力及び/または前記送電線路への電力の出力が可能な前記機器に接続され、
前記電力変換器及び電力の需要情報を保有する外部サーバと情報通信可能な中央制御装置を備える電力システムの制御方法であって、
前記入力部に接続された電圧変動部が、電圧を変動させるステップと、
前記電圧変動部に接続された電圧調整部が、前記送電線路への電圧を調整するステップと、
前記電圧変動部の第1目標値を定めるステップと、
前記送電線路の電圧を観測するステップと、
前記観測した送電線路の電圧に応じて、前記電圧調整部の第2目標値を演算するステップと、
前記外部サーバから前記需要情報を取得するステップと、
を備え、
前記観測した送電線路の電圧に応じて、前記電圧変動部の出力目標として、前記第1目標値を生成し、
前記目標値が、前記電圧調整部の出力制御の閾値電圧を時間に応じて変化させる特性を有する電力システムの制御方法。
[27]プロセッサに、
送電線路に接続されるとともに、前記送電線路からの電力の入力及び/または前記送電線路への電力の出力が可能な機器に入力部が接続された電力変換器の制御方法を実行させるプログラムであって、
前記入力部に接続された電圧変動部が、電圧を変動させるステップと、
前記電圧変動部に接続された電圧調整部が、前記送電線路への電圧を調整するステップと、
前記電圧変動部の第1目標値を定めるステップと、
前記送電線路の電圧を観測するステップと、
前記観測した送電線路の電圧に応じて、前記電圧調整部の第2目標値を演算するステップと、
を備え、
前記観測した送電線路の電圧に応じて、前記電圧変動部の出力目標として、前記第1目標値を生成し、
前記目標値が、前記電圧調整部の出力制御の閾値電圧を時間に応じて変化させる特性を有する
プログラム。
[28]プロセッサに、
電力変換器と前記電力変換器と電気的に接続された機器とを備えた電力要素が設けられ、前記電力変換器が送電線路に接続されるとともに、前記電力変換器の入力部が,前記送電線路からの電力の入力及び/または前記送電線路への電力の出力が可能な前記機器に接続された電力システムの制御方法を実行させるプログラムであって、
前記入力部に接続された電圧変動部が、電圧を変動させるステップと、
前記電圧変動部に接続された電圧調整部が、前記送電線路への電圧を調整するステップと、
前記電圧変動部の第1目標値を定めるステップと、
前記送電線路の電圧を観測するステップと、
前記観測した送電線路の電圧に応じて、前記電圧調整部の第2目標値を演算するステップと、
を備え、
前記観測した送電線路の電圧に応じて、前記電圧変動部の出力目標として、前記第1目標値を生成し、
前記目標値が、前記電圧調整部の出力制御の閾値電圧を時間に応じて変化させる特性を有する
プログラム。
【発明の効果】
【0012】
本発明の電力変換器及び電力変換器を備えた電力システムの態様によれば、電力変換器が、電力変換器の電圧監視部が観測した送電線路の電圧に応じて電力変換器の電圧変動部の出力目標として目標値を生成し、前記目標値が、電力変換器の電圧調整部の出力制御の閾値電圧を時間に応じて変化させる特性を有することにより、電力ネットワークに擾乱が発生した際に、前記電力変換器を介して前記機器が電気的に接続された送電線路の電圧の安定化を図ることができつつ、電力ネットワークを構成する機器の電力効率を向上させることができる。
【0013】
本発明の電力変換器及び電力変換器を備えた電力システムの態様によれば、出力抑制の閾値電圧を時間に応じて変化させる特性を有する参照関数が、閾値電圧値をVrとし、送電線路のキャパシタンスをCとし、前記キャパシタンスに応じて決定される時定数をTrとすると、Tr=function(Vr,C)の関係を有し、電力変換器の自端の観測電圧をV0とすると、V0>Vrの状態がTr以上継続した際に、電力変換器の電圧変動部が機器から送電線路への電力の出力抑制を行うように制御することにより、電力ネットワークの電圧の安定化をより確実に図りつつ、電力を出力する機器の電力効率をより確実に向上させることができる。
【0014】
本発明の電力変換器及び電力変換器を備えた電力システムの態様によれば、入力抑制の閾値電圧を時間に応じて変化させる特性を有する参照関数が、閾値電圧値をVrとし、送電線路のキャパシタンスをCとし、キャパシタンスに応じて決定される時定数をTrとすると、Tr=function(Vr,C)の関係を有し、電力変換器の自端の観測電圧をV0とすると、V0<Vrの状態がTr以上継続した際に、電力変換器の電圧変動部が送電線路から機器への電力の入力抑制を行うように制御することにより、電力ネットワークの電圧の安定化をより確実に図りつつ、電力の供給を受ける機器の電力効率をより確実に向上させることができる。
【0015】
本発明の電力変換器の制御方法、電力システムの制御方法、及びプログラムの態様によれば、電力ネットワークに擾乱が発生した際に、電力変換器を介して機器が電気的に接続された送電線路の電圧の安定化を図ることができつつ、電力ネットワークを構成する機器の電力効率を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1図1は、本発明の実施形態である電力変換器を備えた電力システムを構成する電力ネットワーク全体の概要を示す説明図である。
図2図2は、本発明の実施形態である電力変換器を備えた電力システムを構成する電力ネットワークに用いられる機器に付与された参照関数の説明図である。
図3図3は、本発明の実施形態である電力変換器を備えた電力システムに用いられる機器に付与された参照関数が更新される様子を示す説明図である。
図4図4は、本発明の実施形態である電力変換器を備えた電力システムに用いられる太陽光発電装置(PV)に付与された限時特性を有する参照関数の例である。
図5図5は、本発明の電力変換器の構造例を示すブロック図である。
図6図6は、電力変換器を備えた電力システムに用いられる太陽光発電装置(PV)に付与された、従来の限時特性を有する参照関数である。
図7図7は、電力システムの制御方法の一例を示すシーケンス図である。
図8図8は、本発明の実施形態である電力変換器を備えた電力システムに用いられる太陽光発電装置(PV)に付与された限時特性を有する参照関数の例である。
図9図9は、本発明の実施形態である電力変換器を備えた電力システムに用いられるEV充電器に付与された限時特性を有する参照関数の例である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
<実施形態>
本発明の実施形態である電力変換器を備えた電力システムについて説明する。なお、図1は、本発明の実施形態である電力変換器を備えた電力システムを構成する電力ネットワーク全体の概要を示す説明図である。図2は、本発明の実施形態である電力変換器を備えた電力システムを構成する電力ネットワークに用いられる機器に付与された参照関数の説明図である。図3は、本発明の実施形態である電力変換器を備えた電力システムに用いられる機器に付与された参照関数が更新される様子を示す説明図である。図4は、本発明の実施形態である電力変換器を備えた電力システムに用いられる太陽光発電装置(PV)に付与された限時特性を有する参照関数の例である。図5は、本発明の電力変換器の構造例を示すブロック図である。図7は、電力システムの制御方法の一例を示すシーケンス図である。
【0018】
なお、本明細書中における、限時特性を有する参照関数の「限時特性」とは、機器が電気的に接続された送電線路の電圧安定化に対して影響度が大きい異常電圧が観測された場合には、短時間の異常電圧の継続で電力・電流の出入力を停止し、送電線路の電圧安定化に対して影響度が小さい異常電圧が観測された場合には、ある時間にわたって異常電圧が継続した場合に、電力・電流の出入力を停止する特性である。なお、本明細書では、送電線路を、単に線路と記載する場合がある。
【0019】
図1に示すように、本発明の実施形態である電力変換器を備えた電力ネットワーク10に形成された電力システム1では、交流の商用電力系統100に線路(DCバス19)を介して電気的に接続され、且つ線路(DCバス19)からの電力の入力及び/または線路(DCバス19)への電力の出力が可能な機器と電気的に接続された電力変換器を備えている。すなわち、電力システム1には、交流の商用電力系統100に線路(DCバス19)を介して電気的に接続された電力変換器と、電力変換器と電気的に接続され、電力変換器を介して線路(DCバス19)からの電力の入力及び/または線路(DCバス19)への電力の出力が可能な機器と、を備えた電力要素が設けられている。
【0020】
具体的には、交流の商用電力系統100に接続可能で、交流の商用電力系統100から入力される交流電力を直流電力に変換して出力するAC/DC変換器11と、AC/DC変換器11の出力に接続されたDCバス19と、DCバス19に接続され、DCバス19から入力される直流電力を充電対象である蓄電池の充電電圧に変換して出力する第1のDC/DC変換器13と、第1のDC/DC変換器13に接続された、充電対象である蓄電池と接続可能な充電器(電力ネットワーク10では、EV充電器17)と、DCバス19に接続され、DCバス19から入力される直流電力を定置型蓄電装置14の充電電圧に変換して出力する双方向DC/DC変換器12と、第2のDC/DC変換器16を介してDCバス19に接続された、再生可能エネルギーを用いて発電する発電装置である太陽光発電装置(PV)15と、を備えている。
【0021】
上記から、電力システム1を構成する電力ネットワーク10は、直流の電力網であるDCグリッドである。電力ネットワーク10では、蓄電池は、例えば、負荷である電気自動車(EV)18に搭載された車載蓄電池である。DCバス19の出力は、EV充電器17と接続されており、電気自動車18の車載蓄電池がEV充電器17と接続されて車載蓄電池が充電される。定置型蓄電装置14は、電力ネットワーク10の設備内蓄電装置である。
【0022】
各電力変換器は、一例として、電力変換部と、センサと、制御部と、通信部とを有する。
【0023】
電力変換部は、各電力変換器においてAC/DC変換またはDC/DC変換である電力変換機能を有する部分であり、例えばコイル、コンデンサ、ダイオード、スイッチング素子などを含む電気回路で構成されている。スイッチング素子は例えば電界効果コンデンサや絶縁ゲート型バイポーラトランジスタである。電力変換部は、例えばPWM(Pulse Width Modulation)制御によって電力変換特性を制御することができる。
【0024】
センサは、各電力変換器において、電流、電圧、電力などの電気特性を観測するために用いられる。センサは、観測した電気特性の値(電流値、電圧値、電力値など)を観測値として制御部に出力する。
【0025】
電力ネットワーク10を備えた電力システム1では、商用電力系統100からの受電量が制御部で制御されている。また、制御部は、定置型蓄電装置14の充放電、太陽光発電装置15の放電及びEV充電器17に接続された電気自動車18の車載蓄電池の充電を制御する。
【0026】
各制御部は、電力変換機能を制御するための各種演算処理を行うプロセッサと記憶部とを含んで構成される。プロセッサは、例えばCPU(Central Processing Unit)、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、FPGA(Field-Programmable Gate Array)、DSP(Digital Signal Processor)、GPU(Graphics Processing Unit)などである。記憶部は、プロセッサが演算処理を行うために使用する各種プログラムやデータなどが格納される、例えばROM(Read Only Memory)を備えている。また、記憶部は、プロセッサが演算処理を行う際の作業スペースやプロセッサの演算処理の結果などを記憶するなどのために使用される、例えばRAM(Random Access Memory)を備えている。記憶部は、HDD(Hard Disk Drive)やSSD(Solid State Drive)などの補助記憶装置を備えていてもよい。各制御部の機能は、プロセッサが記憶部から各種プログラムを読み出して実行することで、機能部として実現される。例えば、各制御部は、PWM(Pulse Width Modulation)のための操作量(例えば、デューティ比)の情報を含むPWM信号を電力変換部に出力し、各電力変換器をPWM制御する。なお、各制御部は、操作量を電力変換部に直接的に出力してもよいし、図示しない他の機能部(例えばループ制御部)を介して電力変換部に出力してもよい。
【0027】
通信部は、有線または無線により情報通信を行う通信モジュールと、通信モジュールの動作を制御する通信制御部とを含んで構成されている。通信部は、インターネット回線網や携帯電話回線網などから構成されるネットワークNWを経由して、後述する中央制御装置である中央制御部110と情報通信を行う。通信部は、例えば、中央制御部110から指令を受信し、制御部に出力する。通信部は、例えば、制御部から入力された電力状況に関する情報を中央制御部110に送信する。なお、電力状況に関する情報がセンサの計測値である場合は、通信部は、例えば、センサから入力された計測値を中央制御部110に送信してもよい。
【0028】
中央制御部110の一例を説明する。中央制御部110は、制御部と、記憶部と、通信部とを備えている。制御部、記憶部、及び通信部のそれぞれの構成は、電力変換器の制御部、記憶部、通信部のそれぞれの構成として例示したものを用いることができる。
【0029】
制御部の機能は、制御部が記憶部から各種プログラムを読み出して実行することで、機能部として実現される。
【0030】
通信部は、ネットワークNWを経由して、各電力変換器や外部サーバ200と情報通信を行う。
【0031】
なお、外部サーバ200は、電力システム1の外部に設けられたサーバである。外部サーバ200は、例えば、他の電力システムにおいてエネルギーマネジメントシステム(EMS)として機能するように構成された情報処理装置や、データベースを備え、中央制御部110に対してデータサーバとして機能する情報処理装置である。外部サーバ200は、電力システム1の運用に影響を及ぼす可能性のある各種情報を記憶している。
【0032】
電力システム1では、第2のDC/DC変換器16は、第2のDC/DC変換器16の観測した自端の電圧(V)に応じて太陽光発電装置(PV)15を自端制御する際の目標値を生成する、制御目標関数である参照関数に追随するように制御する機能、すなわち、太陽光発電装置(PV)15の出力を参照関数に基づいて制御する機能を有している。
【0033】
太陽光発電装置(PV)15と接続されている第2のDC/DC変換器16は、自端の電圧(V)と自端の電力(P)、すなわち、自端の電圧(V)と太陽光発電装置(PV)15から出力される電力(P)との関係が所定の参照関数に追随するように、太陽光発電装置(PV)15の動作を制御する機能を備えている。すなわち、第2のDC/DC変換器16は、所定の制御周期にて、自端の電圧(V)と自端の電力(P)との関係が、所定の参照関数を維持するように制御している。
【0034】
具体例としては、図2に示すように、太陽光発電装置(PV)15と接続されている第2のDC/DC変換器16は、電力ネットワーク10が電力需要の少ない過渡運転ゾーン(図2では、電圧(V)の値が高い上側の過渡運転ゾーン)である場合には、太陽光発電装置(PV)15の出力制御を実施し(図2では、太陽光発電装置(PV)15の出力がない、すなわち、電力(P)=0)、それ以外の運転ゾーンでは、太陽光発電装置(PV)15に対して最大電力点追従制御(MPPT)を実施する。従って、図2では、太陽光発電装置(PV)15の出力制御は、ドループ制御ではない。
【0035】
また、電力システム1では、第2のDC/DC変換器16以外の他の電力変換器も、他の電力変換器の観測した自端の電圧に応じて他の電力変換器に接続された機器を自端制御する際の目標値を生成する参照関数に追随するように、機器の動作を制御する機能を有している。
【0036】
電力システム1では、交流の商用電力系統100から入力される交流電力を直流電力に変換して出力するAC/DC変換器11は、自端の電圧(V)と自端の電力(P)、すなわち、自端の電圧(V)とDCバス19へ出力する電力(P)との関係が所定のドループ(垂下)特性を有するようにドループ制御する機能を備えている。すなわち、AC/DC変換器11は、所定の制御周期にて、自端の電圧(V)とDCバス19へ出入力する電力(P)との関係が、所定のドループ特性を有する参照関数に追随するように、商用電力系統100からの出入力をドループ制御する機能を有している。なお、「ドループ特性」とは、垂下特性を意味し、自端の電圧と自端の電力の出入力量との関係が、所定の電圧範囲にわたって電力の出入力量一定である関係または所定の電力の出入力量の範囲にわたって電圧一定である関係以外の関係を備えている特性である。
【0037】
具体例としては、図2に示すように、商用電力系統100と接続されたAC/DC変換器11は、電力ネットワーク10の平常運転時には、商用電力系統100からの電力供給を中心にして電力ネットワーク10へ電力を安定供給できるように、平常運転ゾーンでドループ特性を最大とする参照関数にて、商用電力系統100からの入力をドループ制御する。一方で、電力ネットワーク10が電力需要の少ない準平常運転ゾーンまたは過渡運転ゾーン(図2では、電圧(V)の値が高い上側の準平常運転ゾーンと過渡運転ゾーン)である場合には、商用電力系統100からの電力供給を遮断し、また、電力ネットワーク10が電力需要の多い準平常運転ゾーンまたは過渡運転ゾーン(図2では、電圧(V)の値が低い下側の準平常運転ゾーンと過渡運転ゾーン)である場合には、商用電力系統100からの電力供給が契約電力を超えないように、それぞれ、電力の出入力が一定値を維持する出入力一定域(図2の垂直となっているゾーン)を設けている。
【0038】
DCバス19から入力される直流電力を充電対象である電気自動車18の車載蓄電池の充電電圧に変換して出力する第1のDC/DC変換器13は、自端の電圧(V)と自端の電力(P)、すなわち、自端の電圧(V)とDCバス19から入力される電力(P)との関係が所定の特性を有するように制御する機能を備えている。すなわち、第1のDC/DC変換器13は、所定の制御周期にて、自端の電圧(V)とDCバス19から入力される電力(P)との関係が、所定の特性を備えた参照関数に追従するようにEV充電器17の出力を制御する機能を有している。
【0039】
具体例としては、図2に示すように、EV充電器17と接続されている第1のDC/DC変換器13は、電力ネットワーク10が電力需要の多い過渡運転ゾーンである場合には、段階的にEV充電器17の出力の制御を実施する。一方で、電力ネットワーク10が電力需要の多い準平常運転ゾーン、平常運転ゾーン、電力需要の少ない準平常運転ゾーンまたは電力需要の少ない過渡運転ゾーンである場合には、EV充電器17の出力の制御を実施しない。図2では、EV充電器17の制御目標関数である参照関数は、ドループ特性を有する参照関数ではなく、EV充電器17の出力制御は、ドループ制御ではない。
【0040】
定置型蓄電装置14と接続されている双方向DC/DC変換器12は、自端の電圧(V)と自端の電力(P)、すなわち、自端の電圧(V)と定置型蓄電装置14から充放電される電力(P)との関係が所定のドループ特性を有する参照関数に追随するように、定置型蓄電装置14の動作をドループ制御する機能を備えている。すなわち、双方向DC/DC変換器12は、所定の制御周期にて、自端の電圧(V)と自端の電力(P)との関係が、所定のドループ特性を有する参照関数を維持するように制御している。
【0041】
具体的には、図2に示すように、定置型蓄電装置14と接続されている双方向DC/DC変換器12は、平常運転ゾーンでは、充放電がないように出入力一定域としてデッドゾーンを設け、電力需要の多い準平常運転ゾーンでドループ特性を有する参照関数にて放電を実施するようにドループ制御する。また、双方向DC/DC変換器12は、電力需要の少ない準平常運転ゾーンでドループ特性を有する参照関数にて充電を実施するようにドループ制御する。
【0042】
上記から、電力システム1では、電力システム1全体の電圧の変化に応じて、太陽光発電装置(PV)15やEV充電器17の出力を変化させるように、所定の参照関数に追随するように構成されている。また、電力システム1では、それぞれの電力要素(それぞれの機器とそれぞれの前記機器に接続されたそれぞれの電力変換器)は、自端の電圧と自端の電力に基づいて、分散して一次制御を実施している。すなわち、参照関数に基づいた機器の動作の制御は一次制御であり、一次制御は、電力変換器に接続されたそれぞれの機器の自端電圧に基づいて実施されている。
【0043】
また、電力システム1では、さらに、複数の電力要素の電力状況に応じて参照関数を更新する二次制御の機能を有している。二次制御は、複数の電力要素が電気的に接続されるDCバス19から出力される放電量とDCバス19が受電する受電量との関係に基づいた制御である。すなわち、二次制御は、所定の電力変換器の備えた一次制御の関数が、自端の電力状況だけでなく、電力システム1を構成する他の電力変換器の電力状況も反映させて更新される制御である。
【0044】
図3に示すように、電力システム1では、二次制御にて、AC/DC変換器11、双方向DC/DC変換器12、第1のDC/DC変換器13及び第2のDC/DC変換器16の各電力変換器が備える参照関数について、総合的に判断して、AC/DC変換器11、双方向DC/DC変換器12、第1のDC/DC変換器13及び第2のDC/DC変換器16の各電力変換器が備える参照関数を最適に更新する。各電力変換器が備える参照関数の更新には、例えば、AI(人工知能)等のコンピュータを使用することができる。
【0045】
参照関数を更新する二次制御は、例えば、中央制御部110の指令に基づいて実施される。従って、電力システム1は、AC/DC変換器11、双方向DC/DC変換器12、第1のDC/DC変換器13及び第2のDC/DC変換器16の各電力変換器を制御する中央制御部110をさらに有している。電力システム1では、中央制御部110は、AC/DC変換器11、双方向DC/DC変換器12、第1のDC/DC変換器13及び第2のDC/DC変換器16を二次制御している。中央制御部110とAC/DC変換器11、双方向DC/DC変換器12、第1のDC/DC変換器13及び第2のDC/DC変換器16の各電力変換器とは、例えば、通信手段を介して接続されている。従って、中央制御部110による二次制御は、集中制御の方式である。中央制御部110は、エネルギーマネジメントシステム(EMS)である。なお、一次制御及び二次制御は、例えば、各電力変換器または中央制御部110において、プログラムがプロセッサに実行させる。
【0046】
例えば、二次制御において、中央制御部110と各電力変換器との情報通信がTCP/IPプロトコルに従う場合、関数の更新を行う指令信号のIPパケットのデータ部分に、参照関数の関数情報が含まれる。関数情報は、例えば、参照関数がドループ特性を有する場合は、ドループ特性を表す関数(ドループ関数)の境界の座標情報、ドループ関数の切片情報、傾き(すなわち垂下係数)の情報、形状(直線、曲線など)の情報である。関数情報には、出入力一定域の情報も含まれる。また、参照関数がドループ特性を有しない場合の関数情報は、たとえば電圧一定制御であれば、電圧一定制御であることを示す情報、制御値としての制御目標電圧値、電力上限値としての最大電力、電力下限値としての最少電力などの情報であり、たとえば電力一定制御であれば、電力一定制御であることを示す情報、制御値としての制御目標電力値などの情報である。これらの情報は、例えば、P-V座標において規定された情報である。IPパケットのデータ部分には、これらの情報のうち更新する対象となる情報がデータ列として含まれる。更新に使用される関数情報は中央制御部110の記憶部に記憶されており、制御部が適宜読み出して用いる。
【0047】
これに対し、参照関数に太陽光発電装置(PV)15やEV充電器17等の動作を追随させる一次制御は、中央制御部110の指令を介さずに、上記の通り、それぞれ、太陽光発電装置(PV)15やEV充電器17等の自端の電圧に基づいて実施される。
【0048】
参照関数を更新する二次制御が、中央制御部110の指令に基づいて実施され、参照関数に基づいて機器の出入力を制御する一次制御が、中央制御部110の指令を介さずに、太陽光発電装置(PV)15やEV充電器17等の自端の電圧に基づいて実施されることにより、電力ネットワーク10全体の、時間とともに変動する必要電力量を、太陽光発電装置(PV)15やEV充電器17の出力制御に正確に反映させることができる。従って、太陽光発電装置(PV)15やEV充電器17等の各種機器を備えた電力ネットワーク10全体の制御が最適化され、また、電力ネットワーク10全体に効率よく必要な電力を供給することができる。
【0049】
電力システム1では、太陽光発電装置(PV)15やEV充電器17等の各種機器を備えた電力ネットワーク10全体の制御が最適化されるにあたり、太陽光発電装置(PV)15の動作を制御する参照関数は、太陽光発電装置(PV)15の出力制御の一形態である出力抑制の閾値電圧を時間に応じて変化させる特性を有している。具体的には、太陽光発電装置(PV)15の動作を制御する参照関数は、所定の限時特性を有している。
【0050】
太陽光発電装置(PV)15の動作を制御するための参照関数は、所定の限時特性として、反限時特性を有している。具体的には、例えば、所定の限時特性を有する参照関数が、閾値電圧値をVrとし、線路(電力システム1では、DCバス19)のキャパシタンスをCとし、キャパシタンスに応じて決定される時定数をTrとすると、以下の式(1)の関係を有している。
Tr=function(Vr,C) (1)
ここで、function(Vr,C)は、VrとCとの関数である。たとえばDCバス19の電圧上昇に対する太陽光発電装置(PV)15の出力抑制の場合であれば、出力抑制の実施を判定する閾値電圧値Vrが高いほど、Trは短くなるように、function(Vr,C)が設定される。またDCバス19のキャパシタンスCが大きいほど、Q=CVの関係からDCバス19への入出力電流量(電荷量)の変化に対して電圧が変化しにくいため、Trはある程度長くてもよいように、function(Vr,C)が設定される。
【0051】
また、第2のDC/DC変換器16の自端の観測電圧をV0とすると、V0>Vrの状態が時間Tr(時定数Tr)以上継続した際に、第2のDC/DC変換器16のスイッチング素子が、太陽光発電装置(PV)15からDCバス19への電力の出力抑制を行うように制御する。
【0052】
例えば、第2のDC/DC変換器16の自端の観測電圧V0が閾値電圧値Vrよりも所定値超えた電圧V1である場合には、電圧V1がキャパシタンスCに応じて決定される時定数Trとして時間T1以上継続した際に、第2のDC/DC変換器16のスイッチング素子が、太陽光発電装置(PV)15からDCバス19への電力Pの出力が0となるように抑制する。また、第2のDC/DC変換器16の自端の観測電圧V0が電圧V1よりも所定値超えた電圧V2である場合には、電圧V2が時定数TrとしてT1よりも短い時間T2以上継続した際に、第2のDC/DC変換器16のスイッチング素子が、太陽光発電装置(PV)15からDCバス19への電力Pの出力が0となるように抑制する。また、第2のDC/DC変換器16の自端の観測電圧V0が電圧V2よりも所定値超えた電圧V3である場合には、電圧V3が時定数TrとしてT2よりも短い時間T3以上継続した際に、第2のDC/DC変換器16のスイッチング素子が、太陽光発電装置(PV)15からDCバス19への電力Pの出力が0となるように抑制する。すなわち、観測電圧V0が高い程、V0>Vrの状態を観測したときから電力の出力抑制を行うまでの時間は短くなる。
【0053】
具体例としては、図4に示すように、第2のDC/DC変換器16の自端の観測電圧V0が閾値電圧値Vr(説明の便宜上、例えば、400V)よりも20V高い420Vである場合には、420Vが時定数Trとして時間T1(説明の便宜上、例えば、1.0秒)以上継続した際に、第2のDC/DC変換器16のスイッチング素子が、太陽光発電装置(PV)15からDCバス19への電力Pの出力が0となるように抑制する。また、第2のDC/DC変換器16の自端の観測電圧V0が閾値電圧値Vr(例えば、400V)よりも40V高い440Vである場合には、440Vが時定数Trとして時間T2(説明の便宜上、例えば、0.1秒)以上継続した際に、第2のDC/DC変換器16のスイッチング素子が、太陽光発電装置(PV)15からDCバス19への電力Pの出力が0となるように抑制する。また、第2のDC/DC変換器16の自端の観測電圧V0が閾値電圧値Vr(例えば、400V)よりも60V高い460Vである場合には、460Vが時定数Trとして時間T3(説明の便宜上、例えば、0.01秒)以上継続した際に、第2のDC/DC変換器16のスイッチング素子が、太陽光発電装置(PV)15からDCバス19への電力Pの出力が0となるように抑制する。なお、図4では、太陽光発電装置(PV)15の動作を制御するための参照関数は、ドループ特性を有していないので、太陽光発電装置(PV)15の出力の制御は、ドループ制御ではない。
【0054】
また、太陽光発電装置(PV)15の動作を制御する参照関数は、太陽光発電装置(PV)15の出力制御の一形態である出力促進の閾値電圧を時間に応じて変化させる特性を有している。具体的には、太陽光発電装置(PV)15の出力促進動作を制御する参照関数は、所定の限時特性を有している。
【0055】
例えば、太陽光発電装置(PV)15の出力促進動作を制御するための所定の限時特性を有する参照関数は、閾値電圧値をVr2とし、線路(電力システム1では、DCバス19)のキャパシタンスをCとし、キャパシタンスに応じて決定される時定数をTr2とすると、以下の式(2)の関係を有している。
Tr2=function(Vr2,C) (2)
ここで、function(Vr2,C)は、Vr2とCとの関数である。たとえばDCバス19の電圧下降に対する太陽光発電装置(PV)15の出力促進の場合であれば、出力促進の実施を判定する閾値電圧値Vr2が低いほど、Tr2は短くなるように、function(Vr2,C)が設定される。またDCバス19のキャパシタンスCが大きいほど、Q=CVの関係からDCバス19への入出力電流量(電荷量)の変化に対して電圧が変化しにくいため、Tr2はある程度長くてもよいように、function(Vr2,C)が設定される。
【0056】
また、第2のDC/DC変換器16の自端の観測電圧をV0とすると、V0<Vr2の状態が時間Tr2(時定数Tr2)以上継続した際に、第2のDC/DC変換器16のスイッチング素子が、太陽光発電装置(PV)15からDCバス19への電力の出力促進を行うように制御する。
【0057】
例えば、第2のDC/DC変換器16の自端の観測電圧V0が閾値電圧値Vr2よりも所定値下回る電圧である電圧V11である場合には、この範囲の電圧がキャパシタンスCに応じて決定される時定数Tr2として時間T11以上継続した際に、第2のDC/DC変換器16のスイッチング素子が、太陽光発電装置(PV)15からDCバス19への電力Pの出力を上昇させる。また、第2のDC/DC変換器16の自端の観測電圧V0が、電圧V11よりも所定値下回る電圧である電圧V12である場合には、この範囲の電圧が時定数Tr2としてT11よりも短い時間T12以上継続した際に、第2のDC/DC変換器16のスイッチング素子が、太陽光発電装置(PV)15からDCバス19への電力Pの出力を上昇させる。また、第2のDC/DC変換器16の自端の観測電圧V0が、電圧V12よりも所定値下回る電圧である電圧V13である場合には、この範囲の電圧が時定数Tr2としてT12よりも短い時間T13以上継続した際に、第2のDC/DC変換器16のスイッチング素子が、太陽光発電装置(PV)15からDCバス19への電力Pの出力を上昇させる。また、第2のDC/DC変換器16の自端の観測電圧V0が、電圧V13より所定値下回る電圧である電圧V14以下である場合には、第2のDC/DC変換器16のスイッチング素子が、太陽光発電装置(PV)15からDCバス19への電力Pの出力を瞬時に上昇させる。すなわち、観測電圧V0が低い程、V0<Vr2の状態を観測したときから電力Pの出力促進を行うまでの時間は短くなる。なお、第2のDC/DC変換器16のスイッチング素子は、電力Pの出力を上昇させたことにより、V0=Vr2となった場合、電力Pの出力上昇を停止させる。
【0058】
具体例としては、図8に示すように、第2のDC/DC変換器16の自端の観測電圧V0が閾値電圧値Vr2(説明の便宜上、例えば、405V)よりも5V低い400Vである場合には、400V以下を時定数Tr2として時間T11(説明の便宜上、例えば、1.0秒)以上継続した際に、第2のDC/DC変換器16のスイッチング素子が、太陽光発電装置(PV)15からDCバス19への電力Pの出力を上昇させる。また、第2のDC/DC変換器16の自端の観測電圧V0が閾値電圧値Vr2よりも25V低い380Vである場合には、380V以下を時定数Tr2として時間T12(説明の便宜上、例えば、0.5秒)以上継続した際に、第2のDC/DC変換器16のスイッチング素子が、太陽光発電装置(PV)15からDCバス19への電力Pの出力を上昇させる。また、第2のDC/DC変換器16の自端の観測電圧V0が閾値電圧値Vr2よりも45V低い360Vである場合には、360V以下を時定数Tr2として時間T13(説明の便宜上、例えば、0.1秒)以上継続した際に、第2のDC/DC変換器16のスイッチング素子が、太陽光発電装置(PV)15からDCバス19への電力Pの出力を上昇させる。また、第2のDC/DC変換器16の自端の観測電圧V0が350V以下である場合には、第2のDC/DC変換器16のスイッチング素子が、太陽光発電装置(PV)15からDCバス19への電力Pの出力を瞬時に上昇させる。具体的には、例えば、観測電圧V0が400V以下となった時点で時間のカウントを開始し、観測電圧V0が380V~400Vで0.4秒経過し、その後に観測電圧V0が360V~380Vで0.1秒経過すると、カウントした時間の合計が0.5秒であるため、太陽光発電装置(PV)15からDCバス19への電力Pの出力を上昇させる。また、例えば、観測電圧V0が400V以下となった時点で時間のカウントを開始し、観測電圧V0が380V~400Vで0.8秒経過し、その後に観測電圧V0が380V以下になった場合でも、カウントした時間の合計が0.5秒を超えているため、太陽光発電装置(PV)15からDCバス19への電力Pの出力を直ぐに上昇させる。なお、図8では、太陽光発電装置(PV)15の動作を制御するための参照関数は、ドループ特性を有していないので、太陽光発電装置(PV)15の出力の制御は、ドループ制御ではない。
【0059】
太陽光発電装置(PV)15の動作を制御するための参照関数が、上記した太陽光発電装置(PV)15の出力抑制/出力促進の閾値電圧を時間に応じて変化させる特性を有する、具体的には、限時特性を有することにより、電力ネットワーク10に擾乱が発生した際にも、電圧の変動の程度に応じて太陽光発電装置(PV)15の出力制御が調整されるので、第2のDC/DC変換器16を介して太陽光発電装置(PV)15が電気的に接続されたDCバス19の電圧が、安定化される。また、上記した限時特性を有することにより、太陽光発電装置(PV)15の出力抑制/出力促進の発生頻度を抑えることができるので、太陽光発電装置(PV)15の電力効率を向上させることができる。
【0060】
特に、太陽光発電装置(PV)15の動作を制御するための参照関数に、太陽光発電装置(PV)15の自端の閾値電圧値と、DCバス19のキャパシタンスと、DCバス19のキャパシタンスに応じて決定される時定数とを用いて、限時特性を付加することで、電力ネットワーク10の電圧の安定化をより確実に図りつつ、太陽光発電装置(PV)15の電力効率をより確実に向上させることができる。
【0061】
また、太陽光発電装置(PV)15やEV充電器17等の各種機器を備えた電力ネットワーク10全体の制御が最適化されるにあたり、負荷であるEV充電器17の動作を制御する参照関数は、EV充電器17の出力抑制の閾値電圧を時間に応じて変化させる特性を有している。具体的には、EV充電器17の動作を制御する参照関数は、所定の限時特性を有している。
【0062】
具体的には、例えば、所定の限時特性を有する参照関数が、閾値電圧値をVrとし、前記線路(電力システム1では、DCバス19)のキャパシタンスをCとし、前記キャパシタンスに応じて決定される時定数をTrとすると、以下の式(1)の関係を有している。
Tr=function(Vr,C) (1)
ここで、function(Vr,C)は、VrとCとの関数であるが、Vrやfunction(Vr,C)は、太陽光発電装置(PV)15に対するVrやfunction(Vr,C)と同じでなくてよく、Trについても同じでなくてよい。たとえばDCバス19の電圧低下に対するEV充電器17の出力抑制の場合であれば、出力抑制の実施を判定する閾値電圧値Vrが低いほど、Trは短くなるように、function(Vr,C)が設定される。またDCバス19のキャパシタンスCが大きいほど、DCバス19への入出力電流量(電荷量)の変化に対して電圧が変化しにくいため、Trはある程度長くてもよいように、function(Vr,C)が設定される。
【0063】
また、第1のDC/DC変換器13の自端の観測電圧をV0とすると、V0<Vrの状態がTr以上継続した際に、第1のDC/DC変換器13のスイッチング素子が、DCバス19からEV充電器17への電力の入力抑制、すなわち、EV充電器17から電気自動車18への出力抑制を行うように制御する。
【0064】
例えば、第1のDC/DC変換器13の自端の観測電圧V0が閾値電圧値Vrよりも所定値低下した電圧V4である場合には、電圧V4がキャパシタンスCに応じて決定される時定数Trとして時間T4以上継続した際に、第1のDC/DC変換器13のスイッチング素子が、DCバス19からEV充電器17への電力Pの入力(つまり、EV充電器17から電気自動車18への電力Pの出力)を抑制する。すなわち、第1のDC/DC変換器13のスイッチング素子が、DCバス19からEV充電器17への充電電流の供給量を抑制する。また、第1のDC/DC変換器13の自端の観測電圧V0が電圧V4をよりも所定値低下した電圧V5である場合には、電圧V5が時定数TrとしてT4よりも短い時間T5以上継続した際に、第1のDC/DC変換器13のスイッチング素子が、DCバス19からEV充電器17への電力Pの入力を抑制する。また、第1のDC/DC変換器13の自端の観測電圧V0が電圧V5をよりも所定値低下した電圧V6である場合には、電圧V6が時定数TrとしてT5よりも短い時間T6以上継続した際に、第1のDC/DC変換器13のスイッチング素子が、DCバス19からEV充電器17への電力Pの入力を抑制する。すなわち、観測電圧V0が高い程、V0>Vrの状態を観測したときから電力の入力抑制を行うまでの時間は短くなる。
【0065】
具体例としては、第1のDC/DC変換器13の自端の観測電圧V0が閾値電圧値Vr(説明の便宜上、例えば、360V)よりも20V低い340Vである場合には、340Vが時定数Trとして時間T4(説明の便宜上、例えば、1.0秒)以上継続した際に、第1のDC/DC変換器13のスイッチング素子が、DCバス19からEV充電器17への電力Pの入力、すなわち、充電電流の供給量を抑制する。また、第1のDC/DC変換器13の自端の観測電圧V0が閾値電圧値Vr(例えば、360V)よりも40V低い320Vである場合には、320Vが時定数Trとして時間T5(説明の便宜上、例えば、0.1秒)以上継続した際に、第1のDC/DC変換器13のスイッチング素子が、DCバス19からEV充電器17への電力Pの入力を抑制する。また、第1のDC/DC変換器13の自端の観測電圧V0が閾値電圧値Vr(例えば、360V)よりも60V低い300Vである場合には、300Vが時定数Trとして時間T6(説明の便宜上、例えば、0.01秒)以上継続した際に、第1のDC/DC変換器13のスイッチング素子が、DCバス19からEV充電器17への電力Pの入力を抑制する。EV充電器17の動作を制御するための参照関数は、ドループ特性を有していないので、EV充電器17への入力の制御は、ドループ制御ではない。
【0066】
また、EV充電器17の動作を制御する参照関数は、EV充電器17の出力促進の閾値電圧を時間に応じて変化させる特性を有している。具体的には、EV充電器17の動作を制御する参照関数は、所定の限時特性を有している。
【0067】
具体的には、例えば、所定の限時特性を有する参照関数が、閾値電圧値をVr3とし、前記線路(電力システム1では、DCバス19)のキャパシタンスをCとし、前記キャパシタンスに応じて決定される時定数をTr3とすると、以下の式(3)の関係を有している。
Tr3=function(Vr3,C) (3)
ここで、function(Vr3,C)は、Vr3とCとの関数である。たとえばDCバス19の電圧上昇に対するEV充電器17の出力促進の場合であれば、出力促進の実施を判定する閾値電圧値Vr3が大きいほど、Tr3は短くなるように、function(Vr3,C)が設定される。またDCバス19のキャパシタンスCが大きいほど、DCバス19への入出力電流量(電荷量)の変化に対して電圧が変化しにくいため、Tr3はある程度長くてもよいように、function(Vr3,C)が設定される。
【0068】
また、第1のDC/DC変換器13の自端の観測電圧をV0とすると、V0>Vr3の状態がTr3以上継続した際に、第1のDC/DC変換器13のスイッチング素子が、DCバス19からEV充電器17への入力促進、すなわち、EV充電器17から電気自動車18への出力促進を行うように制御する。
【0069】
例えば、第1のDC/DC変換器13の自端の観測電圧V0が閾値電圧値Vr3よりも所定値超えた電圧V15である場合には、この範囲の電圧がキャパシタンスCに応じて決定される時定数Tr3として時間T14以上継続した際に、第1のDC/DC変換器13のスイッチング素子が、DCバス19からEV充電器17への電力Pの出力(つまり、EV充電器17から電気自動車18への電力Pの出力)を上昇させる。すなわち、第1のDC/DC変換器13のスイッチング素子が、DCバス19からEV充電器17への充電電流の供給量を上昇させる。また、第1のDC/DC変換器13の自端の観測電圧V0が電圧V15よりも所定値超えた電圧V16である場合には、この範囲の電圧がキャパシタンスCに応じて決定される時定数Tr3としてT14よりも短い時間T15以上継続した際に、第1のDC/DC変換器13のスイッチング素子が、DCバス19からEV充電器17への電力Pの出力を上昇させる。また、第1のDC/DC変換器13の自端の観測電圧V0が電圧V16よりも所定値超えた電圧V17である場合には、この範囲の電圧がキャパシタンスCに応じて決定される時定数Tr3としてT15よりも短い時間T16以上継続した際に、第1のDC/DC変換器13のスイッチング素子が、DCバス19からEV充電器17への電力Pの出力を上昇させる。また、第1のDC/DC変換器13の自端の観測電圧V0が電圧V17より所定値超えた電圧V18以上である場合には、第1のDC/DC変換器13のスイッチング素子が、DCバス19からEV充電器17への電力Pの出力を瞬時に上昇させる。すなわち、観測電圧V0が高い程、V0>Vr3の状態を観測したときから電力の出力促進を行うまでの時間は短くなる。
【0070】
具体例としては、図9に示すように、第1のDC/DC変換器13の自端の観測電圧V0が閾値電圧値Vr3(説明の便宜上、例えば、345V)よりも5V高い350Vである場合には、350V以上を時定数Tr3として時間T14(説明の便宜上、例えば、1.0秒)以上継続した際に、第1のDC/DC変換器13のスイッチング素子が、DCバス19からEV充電器17への電力Pの入力、すなわち、充電電流の供給量を上昇させる。また、第1のDC/DC変換器13の自端の観測電圧V0が閾値電圧値Vr3よりも15V高い360Vである場合には、360V以上を時定数Tr3として時間T15(説明の便宜上、例えば、0.5秒)以上継続した際に、第1のDC/DC変換器13のスイッチング素子が、DCバス19からEV充電器17への電力Pの入力を上昇させる。また、第1のDC/DC変換器13の自端の観測電圧V0が閾値電圧値Vr3よりも25V高い370Vである場合には、370V以上を時定数Tr3として時間T16(説明の便宜上、例えば、0.1秒)以上継続した際に、第1のDC/DC変換器13のスイッチング素子が、DCバス19からEV充電器17への電力Pの入力を上昇させる。また、第1のDC/DC変換器13の自端の観測電圧V0が閾値電圧値Vr3よりも35V高い380V以上である場合には、第1のDC/DC変換器13のスイッチング素子が、DCバス19からEV充電器17への電力Pの入力を瞬時に上昇させる。EV充電器17の動作を制御するための参照関数は、ドループ特性を有していないので、EV充電器17の出力の制御は、ドループ制御ではない。
【0071】
なお、限時特性を有する参照関数が、EV充電器17への入力を制限する方法としては、例えば、EV充電器17への充電電流量を抑制する方法が挙げられ、EV充電器17が複数設けられている場合には、一部のEV充電器17への充電電流量を定常状態に維持しつつ、他の一部のEV充電器17では、充電電流の供給を遮断する方法が挙げられる。
【0072】
負荷であるEV充電器17の動作を制御するための参照関数が、上記したEV充電器17への入力抑制/入力促進の閾値電圧を時間に応じて変化させる特性を有する、具体的には、限時特性を有することにより、電力ネットワーク10に擾乱が発生した際にも、電圧の変動の程度に応じてEV充電器17への入力制御が調整されるので、第1のDC/DC変換器13を介してEV充電器17が電気的に接続されたDCバス19の電圧が、安定化される。また、上記した限時特性を有することにより、EV充電器17への入力抑制/入力促進(すなわち、EV充電器17から電気自動車18への出力抑制/出力促進)の発生頻度を抑えることができるので、EV充電器17の電力効率を向上させることができる。
【0073】
特に、EV充電器17の動作を制御するための参照関数に、EV充電器17の自端の閾値電圧値と、DCバス19のキャパシタンスと、DCバス19のキャパシタンスに応じて決定される時定数とを用いて、限時特性を付加することで、電力ネットワーク10の電圧の安定化をより確実に図りつつ、電力の供給を受けるEV充電器17の電力効率をより確実に向上させることができる。
【0074】
次に、第1のDC/DC変換器13、第2のDC/DC変換器16等の電力変換器の具体的な構成例について説明する。ここでは、第2のDC/DC変換器16を例にとって説明する。
【0075】
図5に示すように、電力変換器(第2のDC/DC変換器16)は、線路(DCバス19)からの電力の入力及び/または線路への電力の出力が可能な機器(図5では、太陽光発電装置(PV)15)に電気的に接続される入力部16aと、入力部16aに接続された、電圧を変動させるスイッチング素子である電圧変動部16bと、電圧変動部16bと線路に接続された、線路への電圧を調整する電圧調整部16cと、電圧変動部16bの第1目標値を定める目標設定部16dと、線路に接続された、線路の電圧を観測する電圧監視部16gと、電圧監視部16gと目標設定部16dに接続され、線路の電圧に応じて、電圧調整部16cの第2目標値を演算する閾値判断機構16eと、を備えている。閾値判断機構16eは、電圧監視部16gの観測した電圧値の異常の有無などを判断する判定部として機能する。また、閾値判断機構16eには、メモリ16fが接続されている。メモリ16fは、前述の閾値電圧値を所定値超えるまたは所定値下回る電圧(電圧の大きさ、電圧の継続時間)と電圧の時定数Trとの関係を示すテーブルが記憶されている記憶手段である。
【0076】
第2のDC/DC変換器16は、電圧監視部16gが観測したDCバス19線路の電圧に応じて、目標設定部16dが、電圧変動部16bの出力目標として第1目標値を生成し、この第1目標値が、電圧調整部16cの出力抑制の閾値電圧を時間に応じて変化させる特性を有する。
【0077】
すなわち、制御目標関数である参照関数は、電圧監視部16gの観測した線路(DCバス19)の電圧に応じて、機器(太陽光発電装置15)を自端制御する際の第1目標値を生成しており、第2のDC/DC変換器16は、参照関数に基づいて太陽光発電装置15を制御する。
【0078】
なお、入力部16aはたとえば電気端子を備えている。電圧変動部16bと電圧調整部16cとは、電力変換機能を有する電力変換部に対応している。目標設定部16dと閾値判断機構16eとメモリ16fとは、電力変換機能を制御するための制御部に対応している。電圧監視部16gは、電気特性を観測するために用いられるセンサに対応している。
【0079】
(電力システムの制御方法)
次に、集中制御として電力システムの制御方法の一例について、図7のシーケンス図を参照して説明する。
【0080】
はじめに、ステップS201において、中央制御部110は、自装置のタイマーを発呼し、計時を開始する。つづいて、ステップS202において、中央制御部110は、各電力変換器に、自端計測情報を要求する。自端計測情報とは、電力システム1の電力状況に関する情報の一例であって、各電力変換器のセンサによって計測された計測値や、計測時刻を含む。
【0081】
つづいて、ステップS203において、各電力変換器は、自端計測情報を中央制御部110に送信する。中央制御部110はそれぞれの自端計測情報を記憶部に記憶する。
【0082】
つづいて、ステップS204において、中央制御部110は、電力システム1の電力状況に関する情報の一例として、外部サーバ200に、電力システム1の運用に影響を及ぼす可能性のある各種情報を要求する。本例では、中央制御部110は外部サーバ200に発電量・需要予測情報を要求する。発電量・需要予測情報は、電力システム1における発電量の予測情報や電力の需要予測情報を含み、例えば電力システム1が設置されている地域の季節や現在の天気、今後の天気予報などの情報を含んでもよい。また、外部サーバ200が他の電力システムのEMSとして機能する場合、当該他の電力システムの運用状態が、電力システム1の運用に影響を及ぼす可能性がある場合は、発電量・需要予測情報は、当該他の電力システムにおける発電量の予測情報や電力の需要予測情報を含むものでもよい。
【0083】
つづいて、ステップS205において、外部サーバ200は、中央制御部110に、発電量・需要予測情報を送信する。中央制御部110は発電量・需要予測情報を記憶部に記憶する。
【0084】
つづいて、ステップS206において、中央制御部110の制御部は、送信されてきた各情報、すなわち電力システム1の電力状況に関する情報等を記憶部から読み出して、これに基づいて、電力システム1の運用最適化計算を実行する。
【0085】
運用最適化計算は、様々な条件に適用するよう実行される。例えば、電力システム1が、DCバス19が所定の電圧の動作点となるように制御されているとする。この状態において、中央制御部110が、発電量・需要予測情報により、太陽光発電装置15が設置された地域の今後の天気が晴天であって発電量が増加すると予想され、かつ太陽光発電装置15に接続された第2のDC/DC変換器16から取得した自端計測情報から、太陽光発電装置15に電力供給の点で余裕があると判定したとする。この場合、中央制御部110は、当該動作点にて定置型蓄電装置14が充電されるように、定置型蓄電装置14に接続された双方向DC/DC変換器12の参照関数を更新すると判定する。また、中央制御部110は、当該更新と同時に、商用電力系統100から電力供給されないように、AC/DC変換器11の参照関数を更新すると判定する。なお、参照関数は更新ではなく切替でもよい。
【0086】
また、運用最適化計算は、ピークカットや夜間電力の活用等、商用電力系統100の契約電力を超えないようにする観点や電気料金の適正化の観点からも条件設定され、実行することもできる。
【0087】
また、中央制御部110の記憶部は、学習済モデルを格納しており、中央制御部110は、運用最適化計算を学習済モデルを用いて実行してもよい。学習済モデルは、例えば、電力システム1の電力状況に関する情報とそれに対応する各電力変換器に対する参照関数の更新の結果とを教師データとして、ニューラルネットワークを用いた深層学習によって生成された学習済モデルを用いることができる。
【0088】
つづいて、ステップS207において、中央制御部110は、各電力変換器のうち更新対象の電力変換器に、参照関数の更新指令を出力し、更新するステップを実行する。つづいて、ステップS208において、中央制御部110は、タイマーをリセットする。つづいて、各電力変換器は、ステップS209において、それぞれ自端制御を実行する。これらの自端制御は、電力システム1の電力状況を反映した自端制御であり、全ての電力変換器が協調制御されることとなる。
【0089】
次に、本発明の電力変換器及び電力システムの他の実施形態について説明する。上記実施形態の電力変換器及び電力システムでは、限時特性を付加した参照関数を用いた発電装置として太陽光発電装置(PV)15を備えていたが、これに代えて、燃料を用いて発電する発電装置を用いてもよい。また、上記実施形態の電力変換器及び電力システムでは、負荷としてEV充電器17が設けられていたが、EV充電器17に代えてまたはEV充電器17とともに、住宅等の他の負荷(たとえば、図5に示す負荷L)を備えていてもよく、上記他の負荷は、AC/DC変換器11に接続されていてもよい。
【0090】
上記実施形態の電力変換器及び電力システムでは、限時特性を付加した参照関数が、自端の電圧の変化に応じて自端の電力の出入量を変化させるように構成されていたが、これに代えて、自端の電圧の変化に応じて自端の電流の出入量を変化させるように構成されていてもよい。
【0091】
また、自端の電圧と自端の電力との関係を、限時特性を付加した参照関数に追従させる方式としては、例えば、電力変換器が自端の電圧を観測して参照関数から目標値の電力を設定し、電力を目標値の電力へ追従させていく方式でもよく、電力変換器が自端の電力を観測して参照関数から目標値の電圧を設定し、電圧を目標値の電圧へ追従させていく方式でもよい。
【0092】
また、上記実施形態の電力システムでは、発電装置である太陽光発電装置(PV)15が接続された第2のDC/DC変換器16及び/または負荷であるEV充電器17が接続された第1のDC/DC変換器13以外の他の電力変換器も、他の電力変換器の観測した電圧に応じて他の電力変換器に接続された機器を自端制御する際の目標値を生成する参照関数に追随するように、機器の動作を制御していたが、これに代えて、第2のDC/DC変換器16及び/または第1のDC/DC変換器13以外の他の電力変換器による制御は、参照関数に基づいた制御でなくてもよい。
【0093】
また、上記実施形態の電力システムでは、中央制御部110を、別途、設け、中央制御部110が二次制御である参照関数の更新を集中して実施していたが、これに代えて、中央制御部による二次制御は実施しなくてもよい。また、上記実施形態の電力システムでは、中央制御部が二次制御を集中して実施していたが、これに代えて、複数の電力変換器のうちの少なくとも1つが、複数の電力変換器を制御する中央制御部としての機能を備えるように構成されていてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0094】
本発明の電力変換器及び電力システムは、電力ネットワークに擾乱が発生した際にも電圧の安定化を図りつつ、電力ネットワークを構成する機器の電力効率を向上させることができるので、特に、地産地消の電力ネットワークを有するDCグリッドの分野で利用価値が高い。
【符号の説明】
【0095】
1 電力システム
10 電力ネットワーク
11 AC/DC変換器
12 双方向DC/DC変換器
13 第1のDC/DC変換器
14 定置型蓄電装置
15 太陽光発電装置
16 第2のDC/DC変換器
16a 入力部
16b 電圧変動部
16c 電圧調整部
16d 目標設定部
16e 閾値判断機構
16f メモリ
16g 電圧監視部
17 EV充電器
19 DCバス
図1
図2
図3
図4
図5
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図7
図8
図9