(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-06
(45)【発行日】2025-02-17
(54)【発明の名称】銅箔及び複合フィルム
(51)【国際特許分類】
C25D 5/16 20060101AFI20250207BHJP
B32B 15/20 20060101ALI20250207BHJP
B32B 15/08 20060101ALI20250207BHJP
C25D 7/06 20060101ALI20250207BHJP
C23C 28/00 20060101ALI20250207BHJP
C25D 5/48 20060101ALI20250207BHJP
H05K 9/00 20060101ALI20250207BHJP
【FI】
C25D5/16
B32B15/20
B32B15/08 P
C25D7/06 A
C23C28/00 A
C25D5/48
H05K9/00 W
(21)【出願番号】P 2023057266
(22)【出願日】2023-03-31
【審査請求日】2024-12-05
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000005290
【氏名又は名称】古河電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103850
【氏名又は名称】田中 秀▲てつ▼
(74)【代理人】
【識別番号】100115679
【氏名又は名称】山田 勇毅
(74)【代理人】
【識別番号】100066980
【氏名又は名称】森 哲也
(72)【発明者】
【氏名】篠崎 淳
(72)【発明者】
【氏名】佐野 惇郎
(72)【発明者】
【氏名】片平 周介
(72)【発明者】
【氏名】倉持 慧
【審査官】中西 哲也
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2022/191402(WO,A1)
【文献】特開2003-239082(JP,A)
【文献】特開2022-085378(JP,A)
【文献】国際公開第2022/209990(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/207786(WO,A1)
【文献】特開2011-219790(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25D 1/00-7/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
銅箔であって、
前記銅箔が備える2つの表面のうち少なくとも一方の表面は、凹凸を有する凹凸表面であり、
前記凹凸表面の算術平均波長Wλaが10μm以上80μm以下であり、且つ、算術平均傾斜角WΔaが0.4°以上4°以下である銅箔。
【請求項2】
前記凹凸表面の算術平均うねりWaが0.07μm以上0.45μm以下である請求項1に記載の銅箔。
【請求項3】
前記凹凸表面の展開面積比Sdrが0.007以上0.200以下である請求項1に記載の銅箔。
【請求項4】
厚さが5μm以上30μm以下である請求項1に記載の銅箔。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載の銅箔と、該銅箔が備える2つの表面のうち1つの表面又は2つの表面の上に積層された樹脂層と、を備える複合フィルム。
【請求項6】
EMI対策フィルムとして使用される請求項5に記載の複合フィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は銅箔及び複合フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、スマートフォン、医療機器、自動車等の電子機器については、高集積化、高性能化が進んでおり、それとともに電子機器の電磁干渉(EMI:Electromagnetic Interference)を抑制するEMI対策の重要性が増している。そのため、電子機器の筐体内外からの電磁波による該電子機器の誤作動、通信データ品質の劣化などの不具合を防ぐために、ノイズフィルタ、電磁波吸収シート等の部材が電子機器に用いられている。
このような部材の中でも、EMI対策フィルムと呼ばれる複合フィルムが、多くの電子機器に用いられている。EMI対策フィルムは、金属等からなる電磁波遮蔽層と、導電性を有する樹脂材料からなる樹脂層とが積層された構造を有する複合フィルムである。電磁波遮蔽層としては、高い導電率、シールド性、工業生産性の観点から、銅箔が用いられることがある。
【0003】
電子機器にEMI対策フィルムを装着する際には、通常は、電磁波遮蔽層が樹脂層を介して電子機器内の金属部分に貼り付けられる。近年、スマートフォン等の電子機器における部品の実装の高密度化に伴い、EMI対策フィルムは狭い空間に実装されることが多くなっている。また、電子機器の高周波数化が進んでいるため、EMI対策フィルムによって電磁ノイズの漏洩を十分に抑制することが求められている。よって、EMI対策フィルムには、集積回路、フレキシブル基板等の貼り付け対象物に貼り付けた際に、貼り付け対象物の形状に追従して変形しやすい優れた成形性が求められる。
【0004】
EMI対策フィルムを貼り付け対象物に貼り付ける際には、張出し加工、絞り加工等の立体加工がEMI対策フィルムに対して施される場合があるが、銅箔は薄いので、減肉が生じ割れに至るおそれがある。そして、銅箔の表面に凹凸が有る場合は、凹部は特に薄く応力集中が生じやすいため、立体加工が行われた際には減肉して割れが生じやすい。よって、EMI対策フィルムには、立体加工を施しても割れが生じにくく、且つ、貼り付け対象物の形状に追従して変形しやすいという、優れた成形性が求められている。また、EMI対策フィルムには、銅箔と樹脂層との密着性が優れていることも求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第6805382号公報
【文献】特許第6379071号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1及び特許文献2には、優れた成形性を有する複合フィルムが開示されている。しかしながら、スマートフォン等の電子機器においては、部品の実装の高密度化がますます進んでいるため、EMI対策フィルム等の複合フィルムには成形性のさらなる向上が求められている。
本発明は、樹脂との優れた密着性と優れた成形性を有する銅箔及びその銅箔を使用した優れた成形性を有する複合フィルムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本発明者らは、銅箔の表面形状に着目し鋭意研究を行った。その結果、緩やかな凹凸形状を銅箔の表面に一様に設けると、立体加工が施された際に、銅箔の表面に一様に存在する凹部それぞれに対して減肉が分散して生じることとなるため、特定の凹部のみが減肉して銅箔に割れが生じるという現象を抑制することができることを見出した。
【0008】
すなわち、本発明の一態様に係る銅箔は、銅箔が備える2つの表面のうち少なくとも一方の表面は、凹凸を有する凹凸表面であり、凹凸表面の算術平均波長Wλaが10μm以上80μm以下であり、且つ、算術平均傾斜角WΔaが0.4°以上4°以下であることを要旨とする。
また、本発明の他の態様に係る複合フィルムは、上記本発明の一態様に係る銅箔と、該銅箔が備える2つの表面のうち1つの表面又は2つの表面の上に積層された樹脂層と、を備えることを要旨とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係る銅箔は、樹脂との優れた密着性と優れた成形性を有し、その銅箔を使用した複合フィルムは、優れた成形性を有する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の一実施形態に係る複合フィルムを説明する断面図である。
【
図2】
図1の複合フィルムの変形例を説明する断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の一実施形態について説明する。なお、以下に説明する実施形態は、本発明の一例を示したものである。また、本実施形態には種々の変更又は改良を加えることが可能であり、その様な変更又は改良を加えた形態も本発明に含まれ得る。
本実施形態に係る複合フィルム1は、
図1に示すように、電磁波遮蔽層をなす銅箔10と、導電性を有する樹脂材料からなり且つ銅箔10が備える2つの表面のうち1つの表面10a上に積層された樹脂層20と、を備える。
【0012】
銅箔10が備える2つの表面のうち樹脂層20が積層された表面10aは、凹凸を有する凹凸表面であり、この凹凸表面の算術平均波長Wλaは10μm以上80μm以下とされており、且つ、算術平均傾斜角WΔaは0.4°以上4°以下とされている。銅箔10が備える2つの表面のうち樹脂層20が積層されていない方の表面は、上記算術平均波長Wλa及び算術平均傾斜角WΔaの条件を満たしていない表面である。
【0013】
すなわち、銅箔10が備える2つの表面のうちの一方の表面10aを、上記算術平均波長Wλa及び算術平均傾斜角WΔaの条件を満たす凹凸表面とし、他方の表面を上記算術平均波長Wλa及び算術平均傾斜角WΔaの条件を満たしていない表面として、その凹凸表面上に樹脂層20を積層することにより、複合フィルム1を製造することができる。
【0014】
このような構成から、銅箔10及び複合フィルム1は、優れた成形性を有している。すなわち、複合フィルム1に立体加工を施した際に、銅箔10に割れが生じにくい。また、集積回路、フレキシブル基板等の貼り付け対象物に複合フィルム1を貼り付ける際に、複合フィルム1は貼り付け対象物の形状に追従して変形しやすい。
【0015】
また、凹凸表面が上記算術平均波長Wλa及び算術平均傾斜角WΔaの条件を満たしていれば、銅箔10の厚さの均一性が高く、且つ、樹脂層20との密着性が優れている。さらに、凹凸表面が上記算術平均波長Wλa及び算術平均傾斜角WΔaの条件を満たしていれば、凹凸表面は凹凸を有しているものの緩やかな凹凸形状であるため、平滑で高光沢な面となる。
【0016】
このような優れた性能を有しているので、本実施形態に係る複合フィルム1は、EMI対策フィルムとして好適に用いることができる。したがって、本実施形態に係る複合フィルム1は、各種電子機器に対してEMI対策フィルムとして用いることができ、優れたEMI耐性を示す。本実施形態に係る複合フィルム1は、スマートフォン、医療機器、自動車等の電子機器に対して好適に使用することができ、特にスマートフォン等のモバイル型の電子機器に対して好適に使用可能である。
【0017】
なお、
図1の複合フィルム1は、銅箔10が備える2つの表面のうち一方の表面10aのみが、上記算術平均波長Wλa及び算術平均傾斜角WΔaの条件を満たす凹凸表面となっており、その表面10aの上に樹脂層20が積層されている例であるが、本発明に係る複合フィルムは、この例に限定されるものではない。
【0018】
例えば、銅箔10が備える2つの表面のうち一方の表面10aのみが、上記算術平均波長Wλa及び算術平均傾斜角WΔaの条件を満たす凹凸表面となっていてもよいが、銅箔10が備える2つの表面の両方が、上記算術平均波長Wλa及び算術平均傾斜角WΔaの条件を満たす凹凸表面となっていてもよい。
【0019】
銅箔10が備える2つの表面のうち一方の表面10aのみが、上記算術平均波長Wλa及び算術平均傾斜角WΔaの条件を満たす凹凸表面となっている場合は、上記算術平均波長Wλa及び算術平均傾斜角WΔaの条件を満たす凹凸表面である表面10a上に樹脂層20が積層されていてもよいが、上記算術平均波長Wλa及び算術平均傾斜角WΔaの条件を満たしていない表面(表面10aとは反対側の面)の上に樹脂層20が積層されていてもよい。
また、
図1の複合フィルム1は、銅箔10が備える2つの表面のうち1つの表面10aのみに樹脂層20が積層された例であるが、銅箔10が備える2つの表面の両方に樹脂層20が積層されていてもよい。
【0020】
本実施形態に係る複合フィルム1は、離型フィルム30、絶縁層40、及びキャリアフィルム50のうち少なくとも1つをさらに備えていてもよい。すなわち、本実施形態に係る複合フィルム1の変形例は、
図2に示すように、樹脂層20の上に離型フィルム30がさらに積層された構造を有していてもよい。また、本実施形態に係る複合フィルム1の変形例は、
図2に示すように、銅箔10が有する2つの表面のうち樹脂層20が積層された表面10aとは反対側の表面10bに、銅箔10を電気的に保護する絶縁層40がさらに積層された構造を有していてもよい。さらに、本実施形態に係る複合フィルム1の変形例は、
図2に示すように、支持体であるキャリアフィルム50が絶縁層40の上にさらに積層された構造を有していてもよい。
【0021】
図2には、離型フィルム30、絶縁層40、キャリアフィルム50を全て備える複合フィルム1の例を示したが、本実施形態に係る複合フィルム1の変形例は、これに限定されるものではない。ただし、銅箔10が有する2つの表面10a、10bの両方に樹脂層20が積層されている場合には、複合フィルム1は絶縁層40とキャリアフィルム50を備えることはない。
【0022】
以下に、本実施形態に係る複合フィルム1について、さらに詳細に説明する。
(1)銅箔について
本実施形態に係る複合フィルム1の銅箔10として、電解銅箔、圧延銅箔のいずれも用いることができるし、蒸着、スパッタリング等の既知の方法にて形成された銅箔も用いることができる。また、エッチング、電解研磨等の既知の方法にて表面形状及び厚さを調整した銅箔を、本実施形態に係る複合フィルム1の銅箔10として用いてもよい。
【0023】
本実施形態に係る複合フィルム1の銅箔10の厚さは、5μm以上30μm以下であることが好ましい。銅箔10の厚さが30μm以下であれば、立体加工の際にスプリングバックが生じにくい。また、銅箔10の厚さが30μm以下であれば、複合フィルム1が薄く軽量となりやすいので、スマートフォン等のモバイルタイプの電子機器への実装に好適である。銅箔10の厚さが5μm以上であれば、銅箔10の製造時にピンホールが発生しにくいので、立体加工時に銅箔10に割れが生じにくい。銅箔10の厚さは、5μm以上20μm以下であることがより好ましい。
【0024】
(2)凹凸表面について
銅箔10の凹凸表面の算術平均波長Wλaは10μm以上80μm以下である必要があるが、20μm以上70μm以下であることが好ましい。算術平均波長Wλaが10μm未満であると、銅箔の表面の凹凸頻度が高く、粘着剤の充填性が悪くなり樹脂との密着を損ないやすい。算術平均波長Wλaが80μm超過であると、銅箔の表面の凹凸頻度が低くなり、樹脂との密着性が得られにくく且つ立体加工時の割れ防止効果が得られにくい。
【0025】
また、銅箔10の凹凸表面の算術平均傾斜角WΔaは0.4°以上4°以下である必要があるが、0.6°以上3°以下であることが好ましい。算術平均傾斜角WΔaが0.4°未満であると、銅箔の表面の凹凸が緩やかすぎることで、立体加工時の割れ防止効果が得られにくい。算術平均傾斜角WΔaが4°超過であると、銅箔の表面の凹凸が急峻すぎることで、かえって立体加工時の割れが発生しやすい。
【0026】
さらに、銅箔10の凹凸表面の算術平均うねりWaは、0.07μm以上0.45μm以下であることが好ましく、0.10μm以上0.40μm以下であることがより好ましい。算術平均うねりWaが0.07μm未満であると、銅箔の表面が平滑すぎることで、立体加工時の割れ防止効果が得られにくい。算術平均うねりWaが0.45μm超過であると、銅箔の表面が粗すぎることで、粘着剤の充填性が悪くなり、樹脂との密着性を損ないやすい。銅箔10の凹凸表面が上記算術平均うねりWaの条件を満たしていれば、銅箔10及び複合フィルム1は優れた成形性を有しているとともに、銅箔10は樹脂層20との密着性が優れている。
【0027】
さらに、銅箔10の凹凸表面の展開面積比Sdrは、0.007以上0.200以下であることが好ましく、0.007以上0.100以下であることがより好ましい。展開面積比Sdrが0.007未満であると、銅箔の表面が平滑すぎることで、立体加工時の割れ防止効果が得られにくい。展開面積比Sdrが0.200超過であると、銅箔の表面が粗すぎることで、かえって立体加工時の割れが発生しやすい。銅箔10の凹凸表面が上記展開面積比Sdrの条件を満たしていれば、銅箔10及び複合フィルム1は優れた成形性を有している。
【0028】
(3)樹脂層について
本実施形態に係る複合フィルム1の樹脂層20は、導電性を有する樹脂材料からなる。導電性を有する樹脂材料の例としては、導電性フィラーを含有する導電性粘着剤又は導電性フィラーを含有する導電性接着剤が挙げられる。導電性粘着剤及び導電性接着剤は、樹脂層20に導電性を付与する導電性フィラーと樹脂を含有する。
【0029】
導電性粘着剤は、常温での粘着性を有してもよい。導電性接着剤に含有される樹脂は、熱硬化性樹脂でもよいし、熱可塑性樹脂でもよい。熱硬化性樹脂を含有する導電性接着剤は、複合フィルム1において、未硬化、Bステージ、硬化済みのいずれの状態であってもよい。
【0030】
導電性粘着剤、導電性接着剤に含有される樹脂の例としては、エポキシ系、フェノール系、アミノ系、アルキッド系、ウレタン系、合成ゴム系、アクリレート系、アクリル系、シリコーン系、イミド系、イソシアネート系、塩化ビニル系、酢酸ビニル系、スチレン系、ハイドロカーボン系の樹脂及び粘着剤が挙げられる。これらの樹脂の中では、耐熱性に優れる点からエポキシ樹脂が好ましい。
【0031】
導電性フィラーの例としては、金属の粒子や、炭素の粒子が挙げられる。金属の種類は、例えば、銀(Ag)、白金(Pt)、金(Au)、銅(Cu)、ニッケル(Ni)、パラジウム(Pd)、アルミニウム(Al)、ハンダ、又はこれらの合金が挙げられる。炭素の粒子の例としては、黒鉛粒子、焼成カーボン粒子、めっきされた焼成カーボン粒子が挙げられる。これらの粒子の中では、樹脂層20を作製する際の成形性、工業生産性の観点から、銅粒子、黒鉛粒子が好ましい。
【0032】
樹脂層20の厚さは、5μm以上50μm以下であることが好ましい。樹脂層20の厚さが5μm以上であれば、プリント配線板や電子機器の金属筐体のグランド(GND)開口部の形状や段差に対して、樹脂層20が追従しやすくなるので、目的箇所を樹脂層20で十分に充填できる。一方、樹脂層20の厚さが50μm以下であれば、複合フィルム1の可撓性が優れたものとなるので、より薄いスペースへの複合フィルム1の実装が可能になる。
【0033】
(4)銅箔の製造方法について
上記算術平均波長Wλa及び算術平均傾斜角WΔaの条件を満たす凹凸表面を有する銅箔は、公知の銅箔製造方法によって製造することができる。銅箔製造方法の例としては、サンドブラスト法、エンボス法、エッチング法、めっき法等が挙げられる。これらの方法の中でも、浅く緩やかな凹凸を有する表面形状を実現するためには、めっき法が適している。めっき法について、詳細に説明する。
【0034】
両面が平滑な一般的な銅箔に対してめっきを施して、銅箔の表面を上記算術平均波長Wλa及び算術平均傾斜角WΔaの条件を満たす凹凸表面に変換すれば、本実施形態に係る銅箔10を得ることができる。
種々のめっき法の中でも、アノードとしてメッシュアノードを用いた低電流密度電解法が好ましい。アノードとしてメッシュアノードを用いれば、銅箔の表面の電流分布が不均一になるので、浅く緩やかな凹凸を有する表面形状が形成されやすい。メッシュアノードの例としては、メッシュ100、線径0.07mmの白金メッシュが挙げられる。
【0035】
めっきの際の極間距離は、20mm以上80mm以下とすることが好ましい。極間距離が20mm以上であれば、電解液の流れによって銅箔が動いても短絡が生じにくい。また、極間距離が80mm以下であれば、銅箔の表面の電流分布が不均一になりやすいので、浅く緩やかな凹凸を有する表面形状が形成されやすい。
【0036】
めっきの際の電流密度は、例えば、1A/dm2以上10A/dm2以下とすることが好ましい。電流密度が10A/dm2以下であれば、浅く緩やかな凹凸を有する表面形状が形成されやすい。また、電流密度が1A/dm2以上であれば、浅く緩やかな凹凸を有する表面形状が形成されやすいことに加えて、本実施形態に係る銅箔10を高い生産性で製造することができる。
【0037】
めっきの際の電流密度は、上記のように低電流密度とすることが好ましい。高電流密度にすると、いわゆる粗化めっきになってしまうため、銅箔の厚さが均一になったり、立体加工時に銅箔の破断や粗化粒子の脱落が生じたりするため、本発明の目的を達成できないおそれがある。
ただし、適切な電流密度は、電解液の組成(銅濃度、硫酸濃度等)、温度、流速、めっき時間等によっても大きく左右される。
【0038】
なお、電解液の流速とは、極間を流れる電解液の平均流速のことである。例えば、電解液中を銅箔が搬送される系であれば、固定されたアノードに対する相対速度、すなわち銅箔の搬送速度を電解液の流速とする。銅箔が固定されて電解液をポンプ等で流動させる系であれば、ポンプで極間に搬送される電解液の時間当たりの体積を、極間を流れる電解液の流路の断面積(電解液が流れる方向に直交する平面で電解液の流路を切断した場合に現れる電解液の流路の断面の面積)で除した値を、電解液の流速とする。
【0039】
めっき法以外の銅箔10の製造方法としては、以下の方法が挙げられる。例えば、電解銅箔の製造時に使用する例えばチタン製のドラムの表面に、機械加工等の方法によって予め凹凸形状を形成しておき、そのドラムを用いて電解銅箔を製造する方法が挙げられる。この方法によれば、ドラムの表面に形成した凹凸形状のレプリカ形状を表面に有する電解銅箔が得られる。
【0040】
また、例えば、平滑な表面を有する銅箔に対して電析を行って、銅箔の表面を上記算術平均波長Wλa及び算術平均傾斜角WΔaの条件を満たす凹凸表面に変換する方法が挙げられる。電析において銅箔の表面の形状を制御する方法としては、にかわ、チオ尿素等の既知の有機添加剤を用いて電析形状を制御する方法、パルス電解やPR電解を用いて電析形状を制御する方法が挙げられる。これらの方法は、1種類を単独で行ってもよいし、複数種類を組み合わせて行ってもよい。
【0041】
さらに、上記のめっき法によって本実施形態に係る銅箔10を製造した後に、銅箔10の凹凸表面に対して防錆処理を施してもよい。防錆処理の例としては、ニッケル、亜鉛(Zn)、クロム(Cr)、モリブデン(Mo)、コバルト(Co)、ケイ素(Si)、及びタングステン(W)のうちの少なくとも1種の金属を含有する皮膜を被覆するめっき処理が挙げられる。
【0042】
〔実施例〕
以下に実施例及び比較例を示して、本発明をさらに具体的に説明する。
(実施例1)
古河電気工業株式会社製の無防錆電解銅箔DR-WS箔のマット面にめっき処理を施して、マット面の表面形状を調整し、マット面の算術平均波長Wλa、算術平均傾斜角WΔa、算術平均うねりWa、及び展開面積比Sdrを表1に示すとおりとした。なお、銅箔の厚さは10μmである。
【0043】
【0044】
<めっき処理>
めっき処理に使用した電解液は銅及び硫酸を含有し、その銅濃度は40g/Lであり、硫酸濃度は80g/Lである。また、電解液の温度は25℃である。アノードには、メッシュ100、線径0.07mmの白金メッシュを用いた。
【0045】
めっき処理の際の極間距離は50mmであり、電流密度、めっき時間、及び電解液の流速は表1に示すとおりである。なお、実施例1においては、静止している電解液中で銅箔を搬送したので、銅箔の搬送速度を電解液の流速とした。また、遮蔽板を用いてアノードの長さを調整することによって、めっき時間を調整した。
【0046】
<表面形状の測定>
マット面(めっき処理を施した面)の算術平均波長Wλa、算術平均傾斜角WΔa、及び算術平均うねりWaの測定方法は、以下のとおりである。ISO25178の規定に従い、株式会社キーエンス製のレーザー顕微鏡VK-X3000を用いて銅箔のマット面を分析し、該レーザー顕微鏡に付属のソフトウエアを用いてデータ解析を行った。
レーザー顕微鏡の対物レンズ倍率は50倍、スキャンモードはレーザーコンフォーカル、測定サイズは2048×1536、測定品質は「High Precision」、ピッチは0.1μmである。
【0047】
銅箔のマット面(めっき処理を施した面)の分析においては、複数線粗さ計測モードにて銅箔の幅方向と平行な方向の線粗さを測定した。その際には、視野内で任意の9本の線粗さを測定した。そして、得られた断面曲線に対してλc:0.008mmのフィルター処理を行ってうねり曲線を得て、そのうねり曲線から算術平均波長Wλa、算術平均傾斜角WΔa、及び算術平均うねりWaを得た。このような測定を任意の3視野で行い、その平均値を実施例1の算術平均波長Wλa、算術平均傾斜角WΔa、及び算術平均うねりWaとした。
【0048】
なお、算術平均波長Wλa及び算術平均傾斜角WΔaについては、ISO25178には記載の無いパラメータであるが、株式会社キーエンス製のレーザー顕微鏡VK-X3000シリーズ・マルチファイル解析アプリケーションリファレンスマニュアルに記載のあるパラメータであり、上記レーザー顕微鏡に付属のソフトウエアを用いて算出することができる。
【0049】
マット面(めっき処理を施した面)の展開面積比Sdrの測定方法は、以下のとおりである。ISO25178の規定に従い、株式会社キーエンス製のレーザー顕微鏡VK-X3000を用いて銅箔のマット面を分析し、該レーザー顕微鏡に付属のソフトウエアを用いてデータ解析を行った。
レーザー顕微鏡の対物レンズ倍率は100倍、スキャンモードはレーザーコンフォーカル、測定サイズは2048×1536、測定品質は「High Precision」、ピッチは0.06μmである。
【0050】
また、展開面積比Sdrは、付属の解析ソフトウエアを用いて、測定データに対して下記に示す基準面補正、平滑化画像処理、及びフィルター処理を行った後に、100μm×100μmの任意の視野で演算を行うことによって算出した。このような測定を任意の3視野で行い、その平均値を実施例1の展開面積比Sdrとした。
基準面補正:全面
平滑化:3×3、ガウシアン
フィルター処理:Lフィルター0.025mm
【0051】
<成形性の評価>
実施例1の銅箔について、エリクセン試験を行った。銅箔を切断して、一辺100mmの正方形状の試験片を作製した。そして、作製した試験片を用いて、JIS B7729(2005)に規定された標準試験に従って、エリクセン試験を行った。なお、めっき処理を施した面が、押し込まれて凸になる側になるように試験を行った。押し込み深さが1mmとなった時点と2mmとなった時点で、それぞれ試験(押し込み)を一時中断し、試験片の表面を目視で観察して、銅箔に割れが生じているか否かを確認した。結果を表1に示す。
【0052】
なお、表1に示したエリクセン試験の結果は、下記の評価基準に基づいて評価した結果を示してある。
A(合格):押し込み深さが2mmとなった時点で割れが生じていなかった
B(合格):押し込み深さが2mmとなった時点で割れが生じていた
C(不合格):押し込み深さが1mmとなった時点で割れが生じていた
【0053】
<密着性試験>
実施例1の銅箔について、樹脂との密着性を評価する密着性試験を行った。銅箔のマット面(めっき処理を施した面)に粘着剤を膜状に塗工した後に、80℃で3分間加熱して粘着剤中の溶剤を揮発させ、厚さ30μmの粘着剤層を形成した。22℃の環境下で、銅箔の粘着剤層の上にポリイミドフィルムを貼り付け、株式会社イマダ製の剥離試験用圧着ローラーAPR-97を用いて圧着させた後に、30分間静置した。これにより、粘着剤層を介して銅箔とポリイミドフィルムが接着された。
【0054】
粘着剤としては、DIC株式会社製のアクリル系粘着剤ファインタックCT-5030を用いた。ポリイミドフィルムとしては、UBE株式会社製ユーピレックス(登録商標)-Sの品番25Sを用いた。
銅箔とポリイミドフィルムが接着されたものを切断して、一辺20mmの正方形状の試験片を作製した。そして、この試験片を、温度85℃、相対湿度85%RHの恒温恒湿槽に入れ、48時間経過時点と96時間経過時点のそれぞれで試験片の表面を目視で観察し、銅箔とポリイミドフィルムとの間に剥離が生じているか否か(すなわち、膨れの有無)を確認した。結果を表1に示す。
【0055】
なお、表1に示した密着性試験の結果は、下記の評価基準に基づいて評価した結果を示してある。
A(合格):96時間経過時点で剥離が生じていなかった
B(合格):96時間経過時点で剥離が生じていた
C(不合格):48時間経過時点で剥離が生じていた
【0056】
(実施例2~13)
めっき処理の条件を表1に示すとおりに変更して、銅箔の表面の表面形状を表1に示すとおりに調整した点を除いては、実施例1と同様にして、銅箔の評価を行った。結果を表1に示す。
【0057】
(比較例1)
めっき処理を施していない点を除いては、実施例1と同様にして、銅箔の評価を行った。結果を表1に示す。なお、密着性試験においては、銅箔のマット面にポリイミドフィルムを接着した。
【0058】
(比較例2)
めっき処理を施していない点を除いては、実施例1と同様にして、銅箔の評価を行った。結果を表1に示す。なお、密着性試験においては、銅箔のシャイニー面にポリイミドフィルムを接着した。
【0059】
(比較例3)
無防錆電解銅箔DR-WS箔の代わりに市販の無粗化圧延銅箔(タフピッチ銅)を用い、且つ、めっき処理を施さない点を除いては、実施例1と同様にして、銅箔の評価を行った。結果を表1に示す。なお、無粗化圧延銅箔の厚さは10μmである。
【0060】
(比較例4)
無防錆電解銅箔DR-WS箔の代わりに古河電気工業株式会社製の粗化処理銅箔FV-WSを用い、且つ、めっき処理を施さない点を除いては、実施例1と同様にして、銅箔の評価を行った。結果を表1に示す。なお、粗化処理銅箔FV-WSの厚さは10μmである。
【0061】
(比較例5)
特許第6910381号公報の実施例1に記載の方法に従って、厚さ10μmの銅箔を製造した。得られた銅箔を無防錆電解銅箔DR-WS箔の代わりに用い、且つ、めっき処理を施さない点を除いては、実施例1と同様にして、銅箔の評価を行った。結果を表1に示す。
【0062】
(比較例6~9)
めっき処理の条件を表1に示すとおりに変更して、銅箔の表面の表面形状を表1に示すとおりに調整した点を除いては、実施例1と同様にして、銅箔の評価を行った。結果を表1に示す。
【0063】
表1から分かるように、実施例1~13の銅箔は、割れが生じにくく成形性が優れていることに加えて、密着性も優れていた。それに対して、比較例1~7、9の銅箔は、銅箔の表面形状(算術平均波長Wλa及び算術平均傾斜角WΔa)が本発明の要件を満たしていないため、割れが生じやすく成形性が不十分であった。また、比較例8は、成形性は良好であるものの密着性が不十分であった。
【符号の説明】
【0064】
1・・・複合フィルム
10・・・銅箔
10a・・・銅箔の表面
20・・・樹脂層