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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-07
(45)【発行日】2025-02-18
(54)【発明の名称】高温耐性スジアオノリ及びその生産方法
(51)【国際特許分類】
   A01H 13/00 20060101AFI20250210BHJP
   C12N 1/12 20060101ALI20250210BHJP
   C12N 15/09 20060101ALN20250210BHJP
【FI】
A01H13/00 ZNA
C12N1/12 C
C12N15/09 Z
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020096064
(22)【出願日】2020-06-02
(65)【公開番号】P2021185857
(43)【公開日】2021-12-13
【審査請求日】2023-05-23
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 〔刊行物による公開〕 発行日 :令和元年(2019)年9月27日 刊行物名 :10th Asia-Pacific Conference on Algal Biotechnology Abstracts Collection,Page 159(第10回アジア太平洋藻類バイオテクノロジー会議要旨集)
(73)【特許権者】
【識別番号】504174180
【氏名又は名称】国立大学法人高知大学
(73)【特許権者】
【識別番号】518339412
【氏名又は名称】合同会社シーベジタブル
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】平岡 雅規
(72)【発明者】
【氏名】山▲崎▼ 朋人
(72)【発明者】
【氏名】蜂谷 潤
【審査官】鈴木 崇之
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-176866(JP,A)
【文献】牧野賢治、團昭紀,平成15年度スジアオノリ優良品種作出技術開発,徳島県立農林水産総合技術センター水産研究所事業報告書,2005年,Vol. 2003,pp. 74-75
【文献】牧野賢治、團昭紀、平野匠,スジアオノリ養殖の安定生産に向けた品種の開発 農林水産物の強みを生み出す新品種開発事業,徳島県立農林水産総合技術センター水産研究所事業報告書,2016年,Vol. 2015,pp. 78-79
【文献】Database GenBank,[online],Accession No. AB735405, <https://www.ncbi.nlm.nih.gov/nuccore/ab735405>,公知日: 2013.04.02,検索日: 2024.12.18,DEFINITION: Ulva sp. JY_1cL gene for 5S rRNA, spacer region, 5S rRNA, partial sequence.
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01H 1/00-17/00
C12N 1/00-7/08
A01G 33/00-33/02
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号1及び/又は4によって表される塩基配列を含むことを特徴とする、高温耐性スジアオノリ又はその部分。
【請求項2】
前記部分が、胞子、細胞又は組織であることを特徴とする、請求項1に記載の高温耐性スジアオノリ又はその部分。
【請求項3】
高温耐性スジアオノリ藻体を生産する方法であって、請求項1又は2に記載の高温耐性スジアオノリの胞子を用いて高温耐性スジアオノリ藻体に生長させるステップ、並びに、前記高温耐性スジアオノリ藻体を回収するステップを含むことを特徴とする前記方法。
【請求項4】
前記高温耐性スジアオノリ藻体を洗浄して乾燥するステップをさらに含むことを特徴とする、請求項に記載の方法。
【請求項5】
前記生長ステップを海面養殖又は陸上養殖によって行うことを特徴とする、請求項又はに記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高温耐性スジアオノリに関する。
本発明はまた、高温耐性スジアオノリの生産方法に関する。
【背景技術】
【0002】
スジアオノリ(Ulva prolifera)は、緑藻綱アオサ目アオサ科アオサ属に分類される食用海藻である。青のり類の中では最も香りが高く風味が良いことから、お好み焼き、たこ焼き、焼きそば、ふりかけからポテトチップス等の菓子類に至るまで、各種食品において高級トッピング素材として幅広く利用されている。また、ビタミン、ミネラル(カリウム、カルシウム、鉄分等)などの栄養成分及び食物繊維を豊富に含有することも知られている。
【0003】
スジアオノリは、海水と淡水が混ざり合う汽水域でよく生長し、数年前までは日本では高知県、徳島県、岡山県、和歌山県などの河口域で生産していた。スジアオノリが成熟せず生長するのに最適な水温は15~20℃であり、多くのスジアオノリは、この温度において最も藻体が大きくなるため収量が最大となり、10℃を下回るとあまり生長しなくなる(非特許文献1)。
【0004】
一般的な海藻では、成熟後に胞子葉又は生殖器床等が形成されてそこから胞子が放出されるが、スジアオノリは、その栄養細胞が生殖細胞嚢へと直接分化して「成熟」し、そこから遊走細胞(2または4本の鞭毛をもつ生殖細胞)としての胞子が放出され、藻体から分離して泳ぎ始める(非特許文献2)。スジアオノリは、20℃を超えると成熟しやすく、成熟すると胞子を放出する。
【0005】
通常は、スジアオノリを25℃及び30℃の高水温で培養した場合、藻体の広い部分で成熟が生じて胞子を放出した細胞が流出していくことにより、25℃及び30℃においては成熟部分の流出量が生長量を上回るため葉長は減少する(非特許文献1)。
【0006】
天然においては、親藻体から分離したスジアオノリの胞子は、適当な基質に付着した後で発芽して藻体を形成するが、上記のとおり高水温時には生長量よりも成熟量が大きく藻体を維持できないため、川底で微細な細胞塊状で過ごしている(非特許文献2、非特許文献3)。
【0007】
主な生産地で従来行われている海面養殖法では、水温が23℃から12℃程度へと低下していく10月~12月の極めて短い期間に養殖が行われている。水温が23℃程度になる10月半ば頃、親藻体から放出されたスジアオノリの胞子を種網に付着させる採苗が行われ、水温が20℃以下へと低下していく11月に、胞子を付着させた種網が養殖場に張り込まれて本養殖が開始する。スジアオノリは、養殖開始から約2~3週間で20~50cmに生長する(非特許文献3)。
【0008】
上記のとおり、従来のスジアオノリ及び養殖方法においては収穫期間が極めて短いため、徳島県では養殖期間の拡大を目的として、秋季あるいは春季の高水温時でも生長できるスジアオノリの選抜育種が進められている(非特許文献4)。
【0009】
近年、地球温暖化に伴う海水温の上昇により、スジアオノリの従来の主な養殖期間である10月~12月に水温が23℃から低下しにくくなってきており、養殖中のスジアオノリの生長が鈍化し、さらに収穫前に成熟が起こることより藻体の脱落が生じて生産量が大幅に低下するという問題が起こっている。2018年の高知県四万十川産の天然スジアオノリの生産量は約10kgのみであり、また徳島県吉野川産の養殖スジアオノリは、数年前に年間80t程度あった生産量が2017年は年間20t、2018年は年間28tへと低下し、これに伴いスジアオノリの市場取引価格は最高値で1kg当たり4万円超と数年前の4倍に高騰している(非特許文献5)。
【0010】
このような状況下、スジアオノリの生産量および価格を安定させるため、水温、栄養塩濃度、鳥類の食害及び付着珪藻等の生産環境をある程度制御することができる陸上養殖法が注目されている。高知県では、数年前から「胞子集塊化による海藻養殖法」(特許文献1)を利用したスジアオノリの陸上養殖法が試みられている。胞子集塊化による陸上養殖法は、スジアオノリの胞子を実験室で操作し、複数の個体が互いに連結するように発芽させて集塊を作製し、これを屋外の水槽へ移植して養殖する方法である。胞子集塊を陸上の水槽内で浮遊させて養殖すると良好に生長する(非特許文献6)。
【0011】
より具体的には、陸上に設置された水槽タンクに、上記のように作製されたスジアオノリの胞子集塊を投入し、沖合2km、深さ約350mの海底からパイプラインにより取水した水温約12℃の海洋深層水を1日数回供給してタンク内の海水を入れ替え、エアレーションで藻体を流動させながら養殖すると、一週間で藻体湿重量が約10倍に増殖する(非特許文献7)。この方法を利用し、水温約12℃の海洋深層水で1日数回冷却しながら養殖を行うことにより、従来の海面養殖法では不可能であった夏季のスジアオノリの生産ができるようになった。現在、この方法を用いて通年でスジアオノリの養殖を行うことが可能となっている。しかし、養殖用の陸上タンクの上面はスジアオノリの太陽光による光合成のために開放されていることから外気温の影響を完全には回避できず、気温の高い夏季は、スジアオノリの最大生長に好適な15℃~20℃に水温を近づけるために海水の取水量を増加させる必要がある。
【0012】
胞子集塊化によるスジアオノリの陸上養殖は、上記のように海水を汲み上げるための電気代やエアレーション等への設備投資や生長管理のエネルギーを必要とし、生産コストが高いため、採算面から単位容量当たりの生産量を高く保たなければならない。従って、生長速度が速く効率的に生産可能で、頻回の冷却を必要とせず高水温下でも生長可能な高温耐性を有する優良なスジアオノリが要望されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【文献】特許第3828359号公報
【非特許文献】
【0014】
【文献】平岡雅規ら「異なる温度条件下におけるスジアオノリのクローン藻体の成長と成熟」、Nippon Suisan Gakkaishi 65(2), 302-303(1999)
【文献】團昭紀「アオノリ類の生理、生態から見た養殖技術の検証(総説)」、徳島水研報第10号、15-24頁(2015年)
【文献】徳島県立農林水産総合技術支援センター:徳島県ブランド水産物もの知り図鑑「すじ青のり」(http://www.pref.tokushima.jp/_files/00875752/monoshiri_sujiao.pdf)
【文献】村瀬昇ら「緑藻スジアオノリの高温域における生長と光合成および呼吸特性」Journal of National Fisheries University 第53号(3):pp. 131-136(2005年)
【文献】食品新聞、2019年2月4日
【文献】大野正夫「海洋深層水による海藻の大量培養システムの開発」、産学官連携ジャーナル、2006年11月号(https://sangakukan.jst.go.jp/journal/journal_contents/2006/11/articles/0611-05/0611-05_article.html)
【文献】江端弘樹ら、「地下海水を用いた緑藻スジアオノリ陸上養殖の可能性」水産増殖(Aquaculture Science)55(1),103-108(2007)
【文献】Ogawa et al. 「High heterozygosity and phenotypic variation of zoids in apomictic Ulva prolifera (Ulvophyceae) from brackish environments」、Aquatic Botany 120、185-192(2014)
【文献】Shimada et al. 「Phylogeography of the genus Ulva (Ulvophyceae, Chlorophyta), with special reference to the Japanese freshwater and brackish taxa」、Journal of Applied Phycology 20、979-989(2008)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
従って、本発明は、従来の海面養殖法、及び近年の胞子集塊化による陸上養殖法のいずれにも適した優良なスジアオノリとして、生長速度が速く、23℃以上の高水温域においても成熟が起こりにくく藻体が増加する、新規な高温耐性スジアオノリを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者らは、上記のような特徴を備えるスジアオノリを探索し、鋭意試験研究を行ってきたところ、天然スジアオノリの中から、従来公知の株と異なる、優れた高温耐性及び生産性を有するスジアオノリを見出すことに成功した。
【0017】
本発明は、以下の特徴を包含する。
[1]25℃~30℃の水温において8日間培養した場合、培養4日目と比較して培養8日目の藻体湿重量が6倍以上に増加することを特徴とする、高温耐性スジアオノリ又はその部分。
[2]25℃の水温、光条件100μmolphoton/m2・secにおいて6日間培養した場合に藻体の成熟率が20%以下であることを特徴とする、前記[1]に記載の高温耐性スジアオノリ又はその部分。
[3]前記スジアオノリが、配列番号1及び/又は2によって表される塩基配列を含むことを特徴とする、前記[1]又は[2]に記載の高温耐性スジアオノリ又はその部分。
[4]前記部分が、胞子、細胞又は組織であることを特徴とする、前記[1]~[3]のいずれかに記載の高温耐性スジアオノリ又はその部分。
[5]配列番号1及び/又は2によって表される塩基配列を含む高温耐性スジアオノリ高知1号株又はその後代。
[6]高温耐性スジアオノリ藻体を生産する方法であって、前記[1]~[4]のいずれかに記載の高温耐性スジアオノリ又は前記[5]に記載の高温耐性スジアオノリ高知1号株の胞子を用いて高温耐性スジアオノリ藻体に生長させるステップ、並びに、前記高温耐性スジアオノリ藻体を回収するステップを含むことを特徴とする前記方法。
[7]前記高温耐性スジアオノリ藻体を洗浄して乾燥するステップをさらに含むことを特徴とする、前記[6]に記載の方法。
[8]前記生長ステップを海面養殖又は陸上養殖によって行うことを特徴とする、前記[6]又は[7]に記載の方法。
【発明の効果】
【0018】
上記のような優れた高温耐性を有する本発明のスジアオノリを利用することにより、海面養殖法においては、従来不可能であった、高水温環境となる夏季のスジアオノリ養殖が可能となり、また胞子集塊化による陸上養殖法においては、冷却のための海水の取水量を低下させることにより、高水温環境となる夏季の養殖コストの低減を図ることができる。このような海面養殖法による養殖可能期間の拡大及び陸上養殖法のコスト低減の結果として、全体としてスジアオノリの生産量の増加及び価格の安定化を達成することが期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1図1は、窒素100μmol、リン10μmol、鉄10μmolを添加した500mlの滅菌海水中、10℃、15℃、20℃、25℃又は30℃の各温度において6日間培養したときの本発明のスジアオノリの日間生長率(%)を、他産地で採取されたスジアオノリ株(対照株1、2、3、4)の日間生長率(%)と比較して表すグラフである。
図2図2は、窒素100μmol、リン10μmol、鉄10μmolを添加した500mlの滅菌海水中、25℃において6日間培養したときの本発明のスジアオノリの成熟率(%)を、他産地で採取されたスジアオノリ株(対照株1、5、6,7、8)と比較して表すグラフである。
図3図3は、窒素100μmol、リン10μmol、鉄10μmolを添加した500mlの滅菌海水中、25℃において8日間培養したときの本発明のスジアオノリの藻体長(mm)の変化を、他産地で採取されたスジアオノリ株(対照株1、5、6)と比較して表すグラフである。
図4図4は、窒素100μmol、リン10μmol、鉄10μmolを添加した500mlの滅菌海水中、25℃において8日間培養したときの本発明のスジアオノリの藻体湿重量(g)の変化を、他産地で採取されたスジアオノリ株(対照株1、5、6)と比較して表すグラフである。
図5図5は、窒素100μmol、リン10μmol、鉄10μmolを添加した500mlの滅菌海水中、10℃、15℃、20℃、25℃又は30℃、35℃の各温度において7日間培養したときの本発明のスジアオノリの藻体湿重量(g)の変化を表すグラフである。
図6A-1】図6A-1は、本発明のスジアオノリ高知1号株のヒートショックプロテイン(HSP)90遺伝子(「HSP90」と称する。)の塩基配列(高知1号及び高知1号#3(後述))を、従来公知の株(DDBJ(DNA Data Bank of Japan)からの配列であり、表示のアクセッション番号で示している。)の塩基配列と比較して示した図である。図中、ボックスは、本発明の高知1号株の上記配列について、従来公知の株の配列と異なる塩基を示している。
図6A-2】図6A-1に示される配列の続きの図である。
図6A-3】図6A-2に示される配列の続きの図である。
図6B-1】図6B-1は、本発明のスジアオノリ高知1号株の5SリボソームDNA介在領域(「S5S」と称する。)の塩基配列(高知1号及び高知1号#11(後述))を、従来公知の株(DDBJ(DNA Data Bank of Japan)からの配列であり、表示のアクセッション番号で示している。)の塩基配列と比較して示した図である。図中、ボックスは、本発明の高知1号株の上記配列について、従来公知の株の配列と異なる塩基を示している。
図6B-2】図6B-1に示される配列の続きの図である。
図6B-3】図6B-2に示される配列の続きの図である。
図6B-4】図6B-3に示される配列の続きの図である。
図6B-5】図6B-4に示される配列の続きの図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下において、本発明をさらに詳細に説明する。
【0021】
1.高温耐性スジアオノリ
本発明の高温耐性スジアオノリは、前述したように、25℃~30℃の水温において8日間培養したとき、培養4日目と比較して培養8日目の藻体湿重量が6倍以上、好ましくは7倍以上、8倍以上又は9倍以上、さらに好ましくは10倍以上に増加する特徴を有する(「特徴1」;図4及び図5)。この特徴は、本発明のスジアオノリが優れた高温耐性を有することを示している。
【0022】
本発明の一の実施態様において、本発明のスジアオノリはさらに、水温25℃における6日間の平均の日間生長率は約120%を上回り、また水温30℃における6日間の平均の日間生長率は約110%であり、25℃~30℃の水温においてさえ極めて優れた生長率を示す(「特徴2」;図1)。
【0023】
本発明の別の実施態様において、本発明のスジアオノリはさらに、25℃の水温において6日間培養したとき、藻体の成熟率が20%以下であることを示す(「特徴3」;図2)。
【0024】
25℃~30℃の高温域で上記特徴1を示すスジアオノリ、或いは、上記特徴1と、特徴2及び特徴3の少なくとも1つを示すスジアオノリ、好ましくは上記特徴1、2及び3を示すスジアオノリは、これまで報告されたことがなかった。
【0025】
上記の背景技術に記載されるように、従来のスジアオノリ株は、20℃~23℃の水温において藻体が成熟して胞子を放出し、成熟部分の細胞が流出して藻体の長さ及び重量が低下してしまうため、スジアオノリの収量が大幅に減少する。このため従来のスジアオノリ株は、20℃以上、とりわけ25℃以上の高水温となる環境下では、海面養殖法及び陸上養殖法のいずれによっても大量生産することが難しい。
【0026】
非特許文献4では、養殖可能期間の拡大を目的として高水温時でも生長できるスジアオノリ株の選抜育種が進められ、その結果、高温耐性スジアオノリ株としてNH株を記載しているが、NH株は、同文献中の図3に示されるとおり温度20、25及び30℃における培養6日目のスジアオノリの生長率(測定日の長さ/開始日の長さ)は、20℃で約5.5倍であるが、25℃及び30℃の高水温域で、それぞれ約3.3倍及び2.4倍となり、温度が高くなるにつれて低下する。また、この文献では、6日目以降の生長率及び藻体湿重量について記載されていない。
【0027】
一方、本発明のスジアオノリは、上記のとおり、25℃~30℃の水温において8日間培養したとき、培養4日目と比較して培養8日目の藻体湿重量が6倍以上、好ましくは7倍以上、8倍以上又は9倍以上、さらに好ましくは10倍以上に増加する(図4及び図5)という特徴を有しており、このような特徴からみても非特許文献4に記載されるNH株と異なるし、かつ生産性の点で優れている。
【0028】
また、本発明のスジアオノリは、水温25℃において6日間培養したとき、藻体の成熟率は20%以下であるが、非特許文献4のNH株では25℃で実験されたすべての個体で成熟部分(すなわち、成熟率100%)が認められていることからも明らかな違いがある。
【0029】
このように、本発明のスジアオノリは、例えば約15℃~約20℃の水温だけでなく20℃以上、例えば約25℃~約30℃の高温域で高生産養殖を可能とする。
【0030】
本発明のような高温耐性スジアオノリは、従来知られていないことから、このスジアオノリを用いて広い温度範囲において海面養殖や陸上養殖などの養殖法によってスジアオノリの生産量の増加及び価格の安定化を達成することができる。
【0031】
本発明の高温耐性スジアオノリの一例は、高知県で採取された高温耐性スジアオノリ高知1号株(上記特徴1、2及び3を有する)又はその後代である。高知1号株の後代は、少なくとも上記特徴1を有するスジアオノリ株であり、特徴1の他に上記特徴2及び特徴3の少なくとも1つを有するスジアオノリ株であってもよいが、好ましくは上記特徴1、2及び3を有するものである。
【0032】
本発明のスジアオノリ高知1号株は、従来公知の株(DDBJ(DNA Data Bank of Japan)からの配列(表1中、配列番号5~33)であり、アクセッション番号で示している。)と比較して、ヒートショックプロテイン(HSP)90遺伝子(「HSP90」と称する。)及び5SリボソームDNA介在領域(「S5S」と称する。)の各塩基配列と異なる塩基(もしくは、ヌクレオチド)を有している(図6A及び図6Bのボックス)。図6A中の塩基配列は、高知1号のHSP90(重複塩基を含む)について配列番号1、高知1号のHSP90(重複塩基を含まない#3)について配列番号3にそれぞれ示されている。また、図6B中の塩基配列は、高知1号のS5S(重複塩基を含む)について配列番号2、高知1号のS5S(重複塩基を含まない#11)について配列番号4にそれぞれ示されている。スジアオノリ高知1号株は、複相生物であるため、HSP90及びS5Sのそれぞれの配列を2種類以上有しており、配列決定するとHSP90配列では23か所の重複塩基が認められ、一方、S5S配列では5か所の重複塩基が認められた。さらにHSP90及びS5Sのそれぞれについて、複数ある配列のうち少なくとも2種類の配列をクローニングし、重複塩基を含まない#3、#11の各配列も決定した。本明細書中、配列番号1及び2の塩基配列では、重複塩基をR(G又はA)、Y(T又はC)、K(G又はT)、S(G又はC)、M(A又はC)の記号で示している。
【0033】
したがって、本発明のスジアオノリ及びその後代は、配列番号1及び/又は配列番号2によって表される塩基配列を含むことを特徴としていてもよい(「特徴4」)。
【0034】
或いは、本発明のスジアオノリ及びその後代は、配列番号3及び/又は配列番号4によって表される塩基配列を含むことを特徴としていてもよい(「特徴5」)。
【0035】
本発明のスジアオノリ高知1号株の配列番号1~4及び従来公知の株の配列番号5~33の説明は、以下の表1に示される。
【0036】
【表1】
【0037】
本発明はさらに、本発明の高温耐性スジアオノリの部分を包含する。
【0038】
ここで「部分」なる用語は、少なくとも上記特徴1を付与する遺伝形質を含むスジアオノリの部分を指すことを意味する。この「部分」にはさらに、上記特徴2及び特徴3の少なくとも1つの遺伝形質を含むことができる。
【0039】
上記スジアオノリの部分は、例えば胞子(もしくは生殖細胞)、(生殖細胞以外の)細胞、及び組織(例えば葉状部、仮根部、枝部など)からなる群から選択される。
【0040】
2.高温耐性スジアオノリ藻体の生産方法
本発明はさらに、高温耐性スジアオノリ藻体を生産する方法であって、上記1.に記載の本発明の高温耐性スジアオノリ又は高温耐性スジアオノリ高知1号株の胞子を用いて高温耐性スジアオノリ藻体に生長させるステップ、並びに、前記高温耐性スジアオノリ藻体を回収するステップを含むことを特徴とする方法を提供する。
【0041】
本発明の一実施態様において、上記方法はさらに、上記高温耐性スジアオノリ藻体を洗浄して乾燥するステップを含むことができる。この乾燥によって製品となる乾燥スジアオノリが得られる。
【0042】
本発明の別の実施態様において、上記生長ステップを海面養殖又は陸上養殖によって行うことができる。
【0043】
以下、海面養殖及び陸上養殖の各方法例を説明する。
【0044】
2.1海面養殖法
上記1.に記載の高温耐性スジアオノリ藻体を生産するための海面養殖法の例を以下に説明する。
【0045】
本明細書において、「海面養殖」とは、河口に近い海上で、海水と淡水が混ざり合う汽水域において養殖を行うことを意味する。
【0046】
この方法は、例えば以下のステップ:
(a)上記1.に記載のスジアオノリ藻体から胞子を得るステップ、
(b)ステップ(a)において得られた胞子を支持体(例えば網)に付着させるステップ、
(c)ステップ(b)において作成された胞子を付着した支持体(例えば種網)を用いて海面養殖によってスジアオノリ藻体に生長させるステップ、及び
(d)ステップ(c)で生長させたスジアオノリ藻体を回収するステップ、
を含む。
【0047】
上記方法の各ステップについて説明する。
【0048】
<ステップ(a)>
ステップ(a)では、親個体としての本発明のスジアオノリの藻体から、再生産を目的として胞子を放出させる。
【0049】
本明細書において「藻体」とは、スジアオノリの葉状体のうち、成熟して分化し生殖細胞となった部分を含まない、栄養細胞のみで構成される部分を意味する。
【0050】
本明細書において、「胞子」とは、生殖細胞のことであり、遊走子、配偶子、接合子、四分胞子、果胞子、単子嚢遊走子、中性遊走子等であり、複数個が互いに付着して連結可能な種類の生殖細胞を指す。
【0051】
スジアオノリの藻体から胞子を放出させるためには、以下の操作を行う。胞子が走光性(光に向かって遠ざかる若しくは集まる性質)を有する場合、光を利用して集合させ高濃度の胞子懸濁液を得る。走光性がない場合、遠心分離機などを使って胞子を集め、高濃度胞子液を得る。
【0052】
<ステップ(b)>
ステップ(b)では、上記のステップ(a)で得られた胞子を支持体(例えば網)に付着させる。
【0053】
本明細書において「支持体」は、胞子が付着しやすい材質からなる例えば約20cm四方の網目状に編まれた「網(あみ)」などを含む。
【0054】
本明細書において、「種網」とは、ステップ(a)において得られた、本発明のスジアオノリの胞子が網糸に付着した網状の支持体を意味する。
【0055】
<ステップ(c)>
ステップ(c)では、ステップ(b)で作成した種網等の支持体を、海面養殖場へ移動させて設置し、本発明のスジアオノリの種苗を藻体となるまで生長させる。水温は、例えば約10℃~約35℃、好ましくは約15℃~約30℃である。
【0056】
本明細書において、「海面養殖場」とは、海水と淡水が混ざり合う沿海の汽水域の海中に一定の範囲の広さで設けられ、胞子を付着させた種網等の支持体を固定して種苗が藻体となるまで生長させるための領域を意味する。
【0057】
<ステップ(d)>
ステップ(d)では、海面養殖場に設置された網等の支持体から、ステップ(c)で生長させたスジアオノリの藻体が外され回収される。
【0058】
必要に応じて、ステップ(d)で回収されたスジアオノリ藻体を淡水で洗浄し乾燥する。乾燥は、乾燥機による乾燥、又は自然乾燥を含む。
【0059】
2.2陸上養殖法
上記1.に記載の高温耐性スジアオノリ藻体を生産するための陸上養殖法の例を以下に説明する。
【0060】
本明細書において「陸上養殖」とは、陸上に設置された水槽などの大容器のなかで藻類培養用の養分を含む(天然もしくは人工の)海水を用いて養殖することを指す。
【0061】
この方法は、例えば以下のステップ:
(a)上記1.に記載のスジアオノリ藻体から胞子を得るステップ、
(b)ステップ(a)において得られた胞子を適当な容器に播種して培養し、複数の胞子が連結した胞子集塊又はそれらの胞子が発芽した発芽体が絡み合った発芽体集塊を形成させるステップ、
(c)ステップ(b)において得られた胞子集塊又は発芽体集塊を培養して種苗とするステップ、
(d)ステップ(c)において得られた種苗を陸上水槽に移植するステップ、
(e)ステップ(d)の陸上水槽内に海水を供給して種苗を浮遊させ、供給された海水を例えばエアレーション等の混合手段で混合することにより、種苗からスジアオノリ藻体を生長させるステップ;及び
(f)ステップ(e)で生長させたスジアオノリ藻体を回収するステップ、
を含む。
【0062】
上記方法の各ステップについて説明する。
【0063】
<ステップ(a)>
ステップ(a)では、前述の海面養殖法のステップ(a)に記載されるのと同様の方法で、親個体としての本発明のスジアオノリ藻体から、再生産を目的として胞子を放出させる。
【0064】
<ステップ(b)>
ステップ(b)では、ステップ(a)で得られた胞子から胞子集塊又は発芽体集塊を形成する。
【0065】
本明細書において、「胞子集塊」とは、2つ以上の複数の胞子が連結した塊のことであり、複数の胞子が発芽して絡まりあった発芽体集塊も含む。
【0066】
より具体的には、上記の<海面養殖法>のステップ(a)と同様の方法で得られたスジアオノリ藻体の高濃度胞子懸濁液の胞子濃度を測定し、濃度を調整したのち、適当な容器に播種する。数日培養し、胞子同士が付着しあっていることを顕微鏡で確認する。その後、胞子集塊が形成されていることを確認し、胞子集塊を回収する。必要であれば、胞子集塊は例えば直径約5mm度以下の小集塊に粉砕する。
【0067】
<ステップ(c)>
ステップ(c)では、ステップ(b)で得られた胞子集塊又は発芽体集塊から、陸上養殖のための種苗を作製する。胞子の小集塊をフラスコに移して例えばエアレーションを行いながら培養すると、小集塊から放射状に発芽体が生長してくる。5mm程度に伸長した発芽体を種苗とする。
【0068】
<ステップ(d)>
ステップ(d)では、ステップ(c)で作製した種苗を、スジアオノリ藻体を本養殖するための陸上水槽に移動させる。
【0069】
「陸上水槽」という用語は、海岸近くの陸上に設置された、スジアオノリ藻体を生長させるための上面が開放された大型水槽を意味する。好適には、直径1m~30m、水深30cm~60cmの水槽に対して、本発明のスジアオノリ株の種苗が投入される。
【0070】
<ステップ(e)>
ステップ(e)では、ステップ(d)で陸上水槽に移植された本発明のスジアオノリの種苗を、収穫可能な大きさの藻体になるまで生長させる。水温は、例えば約10℃~約35℃、好ましくは約15℃~約30℃である。
【0071】
「海水」という用語は、天然海水(例えば海洋深層水や地下海水を含む)又は人工海水の両方を含む。海洋深層水は深度200m以深の深海から取水される海水であり、清浄で栄養塩が豊富、且つ低温で水質が安定しているという表層海水とは異なる特徴を有する。地下海水は海岸近くの浜辺から深度数mで掘ることが可能であり、海洋深層水と類似の特徴を有する。
【0072】
<ステップ(f)>
ステップ(f)では、ステップ(e)で収穫可能な大きさの藻体となったスジアオノリを、水槽内から取り出し回収する。
【0073】
必要に応じて、ステップ(f)で回収されたスジアオノリ藻体を淡水で洗浄し乾燥する。乾燥は、乾燥機による乾燥、又は自然乾燥を含む。
【実施例
【0074】
本発明は以下の実施例によりさらに詳細に説明されるが、これらは例示に過ぎず、本発明を限定するものではない。
【0075】
以下の実施例で記載する「本発明のスジアオノリ」は、高温耐性スジアオノリ高知1号株である。
【0076】
<実施例1> 10℃、15℃、20℃、25℃、30℃の各水温におけるスジアオノリ株の平均日間生長率の比較
本発明のスジアオノリ高知1号株の日間生長率(%)を、他産地で採取されたスジアオノリ株の日間生長率(%)と比較するため、10℃、15℃、20℃、25℃又は30℃の各温度において6日間培養した(図1)。日間生長率(%)は、試験日前日の藻体湿重量を100%とした場合の、1日後の試験日の藻体湿重量の増減率の%を6日分平均した値である。図1において、対照株1は岡山県の吉井川、対照株2は兵庫県、対照株3は徳島県、対照株4は香川県でそれぞれ採取されたスジアオノリ株である。各株について4つの試験区を設けた。
【0077】
各スジアオノリ株の集塊化した胞子5集塊(開始藻体湿重量0.002g/5集塊)を供試藻体とし、海水500mlに対し窒素100μmol、リン10μmol、鉄10μmolを添加した滅菌海水を培地として含む500mlの三角フラスコに入れ、明期/暗期=12時間/12時間、光量100μmolphoton/m2/s、24時間毎に水替えという培養条件下で、2日間の前培養後、10℃、15℃、20℃、25℃又は30℃の各温度において6日間通気培養した。
【0078】
図1に示されるとおり、本発明のスジアオノリ高知1号株は、水温25℃における6日間の平均の日間生長率(%)は約120%を上回り、また水温30℃における6日間の平均の日間生長率(%)は約110%であり、25℃及び30℃の水温において極めて優れた高温耐性を示した。これとは対照的に、他の対照株1~対照株4の試験区は全て、水温25℃において激しく成熟を起こして藻体が白化したり、激しく千切れたりと、明らかに悪い状態を示したため、水温25℃及び30℃における日間生長率(%)のデータを得ることができなかった。
【0079】
実施例1の結果から、本発明のスジアオノリ高知1号株は、岡山県、兵庫県、徳島県、香川県のそれぞれの産地で採取されたスジアオノリ株と比較して、25℃及び30℃の高水温に対して有意に耐性を有することが示された。
【0080】
<実施例2> 水温25℃における6日間の培養後の、スジアオノリ株の成熟率の比較
水温25℃における6日間の培養後の本発明のスジアオノリ高知1号株の成熟率(%)を、他産地で採取されたスジアオノリ株の成熟率(%)と比較した(図2)。図2において、対照株1は岡山県の吉井川、対照株5は徳島県の吉野川、対照株6は静岡県松崎町、対照株7は徳島県海陽町、対照株8は淡路島でそれぞれ採取されたスジアオノリ株である。各株について4つの試験区を設けた。各試験区について4回以上試験を行った。成熟率(%)については、フラスコ内のスジアオノリ藻体を成熟の有無について毎日確認し、成熟した藻体が一藻体以上確認された場合にそのフラスコ試験区が成熟したとし、各試験区の値を平均した。
【0081】
各スジアオノリ株の集塊化した胞子5集塊を供試藻体として、海水500mlに対し窒素100μmol、リン10μmol、鉄10μmolを添加した滅菌海水を培地として含む500mlの三角フラスコに入れ、明期/暗期=12時間/12時間、光量100μmolphoton/m2/s、24時間毎に水替えという培養条件下で、2日間の前培養後、25℃の水温において6日間通気培養し、24時間毎に成熟率(%)を計測した。
【0082】
図2に示されるとおり、本発明のスジアオノリ高知1号株は、水温25℃において6日間培養した後でも、4つの試験区の平均成熟率(%)が16.6%に過ぎず、ほぼ成熟が生じない結果が得られた。これとは対照的に、対照株1、5~8は全て、水温25℃における6日間の培養後100%成熟し、藻体が先端部分から胞子を放出し、放出後は放出部分が白化した。
【0083】
実施例2の結果から、本発明のスジアオノリ高知1号株は、岡山県の吉井川、徳島県の吉野川、静岡県松崎町、徳島県海陽町及び淡路島のそれぞれの産地で採取されたスジアオノリ株と比較して、25℃、6日間の高水温環境下で培養しても成熟を起こし難いことが示された。
【0084】
<実施例3> 水温25℃における8日間の培養後の、スジアオノリ株の藻体長の比較
水温25℃における8日間の培養後の本発明のスジアオノリ高知1号株の藻体長(mm)を、他産地で採取されたスジアオノリ株の藻体長(mm)と比較した(図3)。図3において、対照株1は岡山県の吉井川、対照株5は徳島県の吉野川、対照株6は静岡県松崎町でそれぞれ採取されたスジアオノリ株である。各株について4つの試験区を設けた。各試験区について3回試験を行った。藻体長(mm)については、24時間毎にフラスコ内の藻体を取り出し、根の部分から先端までが最も長くなる部分を藻体長さとして計測し、各試験区の値を平均した。
【0085】
各スジアオノリ株の集塊化した胞子1集塊(開始藻体長:10mm±3mm)を供試藻体として、海水500mlに対し窒素100μmol、リン10μmol、鉄10μmolを添加した滅菌海水を培地として含む500mlの三角フラスコに入れ、明期/暗期=12時間/12時間、光量300μmolphoton/m2/s、24時間毎に水替えという培養条件下で、2日間の前培養後、25℃の水温において8日間通気培養し、24時間毎に藻体長(mm)を計測した。藻体長は、集塊化した藻体の最も長いものを毎回計測した。
【0086】
図3に示されるとおり、本発明のスジアオノリ高知1号株は、水温25℃において8日間培養した後の平均藻体長が68mmとなり、培養1日目の開始藻体長と比較して、藻体長が約7倍に増加した。これとは対照的に、他の対照株1、5及び6はいずれも、水温25℃において8日間培養した後の藻体長が50mmを下回り、培養1日目の開始藻体長の約5倍以下となった。
【0087】
その結果、本発明のスジアオノリ高知1号株は、岡山県の吉井川、徳島県の吉野川、静岡県松崎町のそれぞれの産地で採取されたスジアオノリ株と比較して、25℃の高水温環境下で8日間培養した場合に有意に長い藻体長に生長することが示された。
【0088】
<実施例4> 水温25℃における8日間の培養後の、スジアオノリ株の藻体湿重量の比較
水温25℃における8日間の培養後の本発明のスジアオノリ高知1号株の藻体湿重量(g)を、他産地で採取されたスジアオノリ株の藻体湿重量(g)と比較した(図4)。図4において、対照株1は岡山県の吉井川、対照株5は徳島県の吉野川、対照株6は静岡県松崎町でそれぞれ採取されたスジアオノリ株である。各株について4つの試験区を設けた。各試験区について3回試験を行った。藻体湿重量(g)については、24時間毎にフラスコ内の藻体を取り出し、表面の水分をふき取った後、測りで計測した。
【0089】
各スジアオノリ株の集塊化した胞子1集塊(開始藻体湿重量:平均0.001g)を供試藻体として、海水500mlに対し窒素100μmol、リン10μmol、鉄10μmolを添加した滅菌海水を培地として含む500mlの三角フラスコに入れ、明期/暗期=12時間/12時間、光量300μmolphoton/m2/s、24時間毎に水替えという培養条件下で、2日間の前培養後、25℃の水温において8日間通気培養し、24時間毎に藻体湿重量(g)を計測した。
結果を図4及び表2に示す。
【0090】
【表2】
【0091】
図4及び表2に示されるとおり、本発明のスジアオノリ高知1号株は、水温25℃において8日間培養した後、平均藻体湿重量(g)が約0.276gとなり、培養4日目の平均藻体湿重量(g)と比較して、培養8日目の平均藻体湿重量が12.6倍に増加した。これとは対照的に、他の対照株1、5及び6は全て、水温25℃において8日間培養した後、平均藻体湿重量(g)が約0.152g以下であり、培養4日目の平均藻体湿重量の4.74倍以下となった。
【0092】
実施例4の結果から、本発明のスジアオノリ高知1号株は、岡山県の吉井川、徳島県の吉野川、静岡県松崎町のそれぞれの産地で採取されたスジアオノリ株と比較して、25℃の高水温環境下で8日間培養した場合に、有意に高い藻体湿重量の藻体に生長することが示された。
【0093】
<実施例5> 10℃、15℃、20℃、25℃、30℃、35℃の各水温におけるスジアオノリ株の藻体湿重量の変化
10℃、15℃、20℃、25℃、30℃、35℃の各水温における7日間の培養後の本発明のスジアオノリ高知1号株の藻体湿重量(g)の変化を比較した(図5)。各温度について4つの試験区を設けた。各試験区について3回試験を行った。
【0094】
各スジアオノリ株の集塊化した胞子1集塊(開始藻体湿重量:平均0.002g)を供試藻体として、海水500mlに対し窒素100μmol、リン10μmol、鉄10μmolを添加した滅菌海水を培地として含む500mlの三角フラスコに入れ、明期/暗期=12時間/12時間、光量100μmolphoton/m2/s、24時間毎に水替えという培養条件下で、2日間の前培養後、10℃、15℃、20℃、25℃、30℃、35℃の各水温の水温において7日間通気培養し、24時間毎に藻体湿重量(g)を計測した。
【0095】
図5に示されるとおり、本発明のスジアオノリ高知1号株は、上記の各温度において6日間培養した後、水温25℃においては平均藻体湿重量(g)が0.102g、水温30℃においては平均藻体湿重量(g)が0.116gとなり、また7日間培養後は、水温25℃においては平均藻体湿重量(g)が0.2092g、水温30℃においては平均藻体湿重量(g)が0.2318gとなり、水温25℃及び30℃で同レベルに顕著に増加した。この結果は、本発明のスジアオノリ株は、水温25℃~30℃の高水温に対して有意に高温耐性を有することを示している。
【0096】
<実施例6> スジアオノリ高知1号株の特徴的塩基配列の決定
Ogawaら(「High heterozygosity and phenotypic variation of zoids in apomictic Ulva prolifera (Ulvophyceae) from brackish environments」、Aquatic Botany 120、185-192(2014))に記載のフォワードプライマー・hsp90-6F(5′-GCAGACCCAGAAAGTGATCTATTAYATCA -3′)(配列番号34)と、リバースプライマー・hsp90-6R(5′-GCAGGYTCATCCAGACTAAATCC -3′)(配列番号35)を使用して、スジアオノリ高知1号株の遺伝子を鋳型としてPCR増幅し、そのPCR産物のHSP90の塩基配列を決定した。HSP90には重複塩基が見つかり、複数の塩基配列が含まれていることが判明し、重複塩基を含む配列を決定して配列番号1として示した。さらに、上記複数の塩基配列のうち1つの塩基配列を選び出して増幅させるクローニングを行い、HSP90#3の塩基配列を決定し、配列番号3として示した。
【0097】
Shimadaら(「Phylogeography of the genus Ulva (Ulvophyceae, Chlorophyta), with special reference to the Japanese freshwater and brackish taxa」、Journal of Applied Phycology 20、979-989(2008))に記載のフォワードプライマー・5S-F(5′- GGTTGGGCAGGATTAGTA -3′)(配列番号36)と、リバースプライマー・5S-R (5′- AGGCTTAAGTTGCGAGTT -3′)(配列番号37)を使用して、スジアオノリ高知1号株の遺伝子を鋳型としてPCR増幅し、そのPCR産物の塩基配列S5Sを決定した。S5Sには重複塩基が見つかり、複数の塩基配列が含まれていることが判明し、重複塩基を含む配列を決定して配列番号2として示した。さらに、上記複数の塩基配列のうち1つの塩基配列を選び出して増幅させるクローニングを行い、S5S#11の塩基配列を決定し、配列番号4として示した。
【産業上の利用可能性】
【0098】
上記のような優れた高温耐性を有する本発明のスジアオノリは、海面養殖法又は陸上タンク養殖法によるスジアオノリの生産量の増加及びスジアオノリの価格の安定化のために有用である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6A-1】
図6A-2】
図6A-3】
図6B-1】
図6B-2】
図6B-3】
図6B-4】
図6B-5】
【配列表】
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