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特許7630877餃子の羽根用組成物、及び羽根付き餃子の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-07
(45)【発行日】2025-02-18
(54)【発明の名称】餃子の羽根用組成物、及び羽根付き餃子の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23L 35/00 20160101AFI20250210BHJP
【FI】
A23L35/00
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020215993
(22)【出願日】2020-12-25
(65)【公開番号】P2022101743
(43)【公開日】2022-07-07
【審査請求日】2023-09-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000227009
【氏名又は名称】日清オイリオグループ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 陽
(72)【発明者】
【氏名】岡崎 敏樹
(72)【発明者】
【氏名】柑本 雅司
(72)【発明者】
【氏名】狩野 香織
【審査官】手島 理
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2020/004632(WO,A1)
【文献】特開平03-015342(JP,A)
【文献】特開平05-227897(JP,A)
【文献】国際公開第2013/031332(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
油脂を5~40質量%、酸処理澱粉を3~15質量%、脱糖レシチンを0.050.3質量%、及び水を含有する餃子の羽根用組成物(ただし、以下で使用される組成物を含む場合を除く「下記の方法によって測定される粘度が5mPa・s未満である加工デンプン、及びたん白質を含有する組成物が、凍結状態で付着している冷凍餃子。粘度の測定方法:加工デンプンを5重量%の濃度となるように水に添加して90℃に加熱し、10分間保持した後、50℃まで冷却して、当該温度における粘度を、B型粘度計を用いて測定する。」)
【請求項2】
油脂を5~40質量%、酸処理澱粉を3~15質量%、ショ糖脂肪酸エステルを0.10.3質量%、及び水を含有する餃子の羽根用組成物。
【請求項3】
前記油脂が20℃で液状の油脂である、請求項1又は2に記載の餃子の羽根用組成物。
【請求項4】
水中油型乳化物である請求項1~3のいずれか1項に記載の餃子の羽根用組成物。
【請求項5】
未加熱もしくは蒸した餃子を焼成する際に、請求項1~4のいずれか1項に記載の餃子の羽根用組成物を添加する、羽根付き餃子の製造方法。
【請求項6】
前記未加熱もしくは蒸した餃子100質量部に対し、前記餃子の羽根用組成物を10~80質量部添加する、請求項5に記載の羽根付き餃子の製造方法。
【請求項7】
未加熱もしくは蒸した餃子100質量部に対し、請求項1~4のいずれか1項に記載の餃子の羽根用組成物を10~80質量部添加した後、冷凍する、冷凍餃子の製造方法。
【請求項8】
請求項7に記載の冷凍餃子を100~300℃、1~10分間焼成する、羽根付き餃子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高温で焼成してもコゲ難い餃子の羽根用組成物、及び、該餃子の羽根用組成物を使用した羽根付き餃子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
焼き餃子は、刻んだ野菜や挽肉等を混ぜた具材を、餃子用の皮に包み、フライパン又は専用の餃子焼き器で焼成して調理される。焼き餃子の中には、羽根付き餃子と称されるものがあり、羽根部分の形成のために、焼成する際に小麦粉等を溶いた液を焼き器全体に回し、火加減を調節しながら小麦粉等でできた羽根をつけ、見栄えと食感を良くするという調理方法が知られている。そして、この羽根の部分は、こんがりと均一な焼き色がつき、サクサクとした軽く香ばしい食感が好まれている。
近年、家庭で簡単に調理できる餃子の冷凍食品が普及してきている。通常、冷凍餃子は、油を引いたフライパン等に並べ、水を加えて中火(約200℃)で約7分以上、蒸し焼きすることにより調理されるが、より短時間で調理したいとの要望があった。しかし、餃子の焼成時間を短縮するためには、より高温で焼成しなければならず、羽根付き餃子の場合は、羽根の部分が焦げやすく、味や外観を損なう問題があった。
【0003】
これまで、食感が良く見た目も良好な羽根を有する焼き餃子として、水、油脂、穀物粉、乳化剤、及び特定量のウェランガムを含むバッターが付着した餃子が報告されている(特許文献1)。また、特定量の澱粉、ポリグリセリン脂肪酸エステルを含む油脂組成物、及び水を含む焼き餃子羽用組成物を添加する焼き餃子の製造方法も報告されている(特許文献2)。しかし、高温で焼成してもコゲ難い羽根付き餃子に関する報告は無い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2020-48437号公報
【文献】特開2019-41633号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記の問題を鑑み、羽根付き餃子を高温で焼成してもコゲ難い餃子の羽根用組成物、及び、該餃子の羽根用組成物を使用した羽根付き餃子の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、特定量の油脂、酸処理澱粉、脱糖レシチン、及び水を含有する組成物、または、特定量の油脂、酸処理澱粉、ショ糖脂肪酸エステル、及び水を含有する組成物を、餃子の羽根に用いた場合、餃子を高温で焼成しても羽根がコゲ難くなることを見出し、本発明を完成した。具体的に、本発明は以下を提供する。
【0007】
(1)油脂を5~40質量%、酸処理澱粉を3~15質量%、脱糖レシチンを0.02~0.4質量%、及び水を含有する餃子の羽根用組成物。
(2)油脂を5~40質量%、酸処理澱粉を3~15質量%、ショ糖脂肪酸エステルを0.05~0.4質量%、及び水を含有する餃子の羽根用組成物。
(3)前記油脂が20℃で液状の油脂である、(1)又は(2)に記載の餃子の羽根用組成物。
(4)水中油型乳化物である(1)~(3)のいずれか1つに記載の餃子の羽根用組成物。
(5)未加熱もしくは蒸した餃子を焼成する際に、(1)~(4)のいずれか1つに記載の餃子の羽根用組成物を添加する、羽根付き餃子の製造方法。
(6)前記未加熱もしくは蒸した餃子100質量部に対し、前記餃子の羽根用組成物を10~80質量部添加する、(5)に記載の羽根付き餃子の製造方法。
(7)未加熱もしくは蒸した餃子100質量部に対し、(1)~(4)のいずれか1つに記載の餃子の羽根用組成物を10~80質量部添加した後、冷凍する、冷凍餃子の製造方法。
(8)(7)に記載の冷凍餃子を100~300℃、1~10分間焼成する、羽根付き餃子の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、特定量の油脂、酸処理澱粉、脱糖レシチン、及び水を含有することで、餃子を高温で焼成しても羽根がコゲ難い餃子の羽根用組成物、及び該餃子の羽根用組成物を使用した羽根付き餃子の製造方法が提供される。また、本発明によれば、特定量の油脂、酸処理澱粉、ショ糖脂肪酸エステル、及び水を含有することで、餃子を高温で焼成しても羽根がコゲ難い餃子の羽根用組成物、及び該餃子の羽根用組成物を使用した羽根付き餃子の製造方法が提供される。そして、本発明の餃子の羽根用組成物を使用すると、餃子をより高温で焼成しても羽根がコゲ難くなるため、従来よりも短時間で餃子を焼成することが可能になる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の具体的な実施形態について、詳細に説明するが、本発明は、以下の実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の目的の範囲内において、適宜変更を加えて実施することができる。なお、以下で例示する好ましい態様やより好ましい態様等は、「好ましい」や「より好ましい」等の表現にかかわらず適宜相互に組み合わせて使用することができる。また、数値範囲の記載は例示であって、「好ましい」や「より好ましい」等の表現にかかわらず各範囲の上限と下限、並びに実施例の数値とを適宜組み合わせた範囲も好ましく使用することができる。さらに、「含有する」又は「含む」等の用語は、適宜「本質的になる」や「のみからなる」と読み替えてもよい。
【0010】
[餃子の羽根用組成物]
本発明の餃子の羽根用組成物は、油脂を5~40質量%、酸処理澱粉を3~15質量%、脱糖レシチンを0.02~0.4質量%、及び水を含有する、室温(1~30℃)で液体状、又は流動状の組成物である。また、本発明の餃子の羽根用組成物は、油脂を5~40質量%、酸処理澱粉を3~15質量%、ショ糖脂肪酸エステルを0.05~0.4質量%、及び水を含有する、室温(1~30℃)で液体状、又は流動状の組成物である。本発明の餃子の羽根用組成物は、餃子を焼成する際に該餃子に羽根を付与し、羽根付き餃子を製造するために使用される。
本発明の餃子の羽根用組成物は、餃子を焼成する際に該餃子に羽根が付与される限り、使用方法は特に限定されないが、例えば、焼成器に餃子を並べた後、羽根用組成物を焼成器に添加する方法、焼成前の餃子に羽根用組成物を塗布する方法、冷凍餃子用に羽根用組成物を餃子に付着して冷凍する方法等が挙げられる。
【0011】
[油脂]
本発明の餃子の羽根用組成物中に含有する油脂は、食用として使用される油脂であれば特に限定されない。前記油脂は、例えば、大豆油、高オレイン酸大豆油、菜種油、高オレイン酸菜種油、コーン油、ゴマ油、ゴマサラダ油、シソ油、亜麻仁油、落花生油、紅花油、高オレイン酸紅花油、ひまわり油、高オレイン酸ひまわり油、綿実油、ブドウ種油、マカデミアナッツ油、ヘーゼルナッツ油、カボチャ種子油、クルミ油、椿油、茶実油、エゴマ油、ボラージ油、オリーブ油、米糠油、小麦胚芽油、パーム油、パーム核油、ヤシ油、カカオ脂、牛脂、ラード、鶏脂、乳脂、魚油、アザラシ油、藻類油等である。また、これらの油脂の2種以上をエステル交換したエステル交換油脂、これら油脂の水素添加油脂、これらの油脂の分別油脂等である。上記油脂は単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
また、本発明の餃子の羽根用組成物中に含有する油脂は、20℃で液状の油脂が好ましい。20℃で液状の油脂としては、例えば、大豆油、高オレイン酸大豆油、菜種油、高オレイン酸菜種油、コーン油、ゴマ油、ゴマサラダ油、シソ油、亜麻仁油、落花生油、紅花油、高オレイン酸紅花油、ひまわり油、高オレイン酸ひまわり油、綿実油、ブドウ種油、マカデミアナッツ油、ヘーゼルナッツ油、エゴマ油、ボラージ油、オリーブ油、米糠油、小麦胚芽油等が挙げられる。
【0012】
本発明の餃子の羽根用組成物中の油脂の含有量は、好ましくは6~30質量%、より好ましくは7~20質量%、最も好ましくは8~15質量%である。油脂の含有量が上記の範囲にあると、本発明の餃子の羽根用組成物は、高温で焼成しても羽根がコゲ難くなる効果がより得られる。また、従来よりも短時間で餃子を焼成できる効果がより得られる。
また、油脂の含有量が5質量%未満であると、本発明の効果を奏し難くなる。また、油脂の含有量が40質量%より多くなると、焼成した餃子と餃子の羽根がオイリーな(油性感の強い)食感となり、また、餃子の羽根の形状が悪くなる(凹凸が目立つ等)ため、好ましくない。
【0013】
[酸処理澱粉]
本発明の餃子の羽根用組成物中に含有する酸処理澱粉は、食用として使用される酸処理澱粉であれば特に限定されない。前記酸処理澱粉は、生澱粉又は加工澱粉を原料とするものが使用され、生澱粉又は加工澱粉を塩酸、硫酸などの希薄な酸溶液に浸漬し、低粘度化した澱粉が使用される。前記酸処理澱粉の原料としては、小麦澱粉、トウモロコシ澱粉、馬鈴薯澱粉、米澱粉、サゴ澱粉等が挙げられる。澱粉の酸処理は、例えば、生澱粉又は加工澱粉の35~45質量%溶液を、20~50℃の品温下で塩酸又は硫酸を用いpH1~2.5とし、1~30時間程度撹拌する。
【0014】
本発明の餃子の羽根用組成物中の酸処理澱粉の含有量は、好ましくは4~14質量%、より好ましくは5~13質量%、最も好ましくは6~12質量%である。酸処理澱粉の含有量が上記の範囲にあると、本発明の餃子の羽根用組成物は、高温で焼成しても羽根がコゲ難くなる効果がより得られる。また、従来よりも短時間で餃子を焼成できる効果がより得られる。
酸処理澱粉の含有量が3質量%未満であると、羽根のサクサクとした食感が得られにくくなる。また、酸処理澱粉の含有量が15質量%より多くなると、羽根がコゲ易くなり、餃子の焼成温度を上げることが困難になる。
なお、前記酸処理澱粉の含有量は、乾燥物としての含有量(乾燥物換算)であり、常用の乾燥減量法(105℃、4時間)から水分を求め、換算することで求めることができる。
【0015】
[脱糖レシチン]
本発明の餃子の羽根用組成物中に含有する脱糖レシチンは、卵黄レシチンあるいは植物由来のレシチンを原料として、脱糖処理したものを用いることができる。前記レシチンは、好ましくは植物由来のレシチンを用いることでき、例えば、大豆、菜種、コーン、ヒマワリ、サフラワー、ゴマ、アマニなどの油糧種子を圧搾および/または抽出して得られる原油、該原油に水または水蒸気を吹き込んで沈澱物としで得られる油滓、分離した該油滓を乾燥して得られる粗レシチン、該粗レシチンから溶剤分別等の公知の方法で中性油脂分を除去した混合レシチン、さらには該混合レシチンから特定のリン脂質を濃縮・分画した濃縮あるいは高純度レシチン等が利用できる。
かかる原料から脱糖レシチンを得るには、例えば、油滓の場合は、水分を含む油滓を必要に応じて濾過し夾雑物を除き、乾燥して粗レシチンとする。この粗レシチンは、通常トリグリセリドを主成分とする中性油脂や、前記した各種リン脂質、各種糖質成分などを含んでいる。次に上記の粗レシチンを例えばアセトンで処理し、アセトン不溶分として油脂(中性油)等を含まない混合レシチンを得る。該混合レシチンを含水(約30%以上が好ましい)エタノールで分別し、含水エタノール可溶区分(リン脂質成分をほとんど含まない糖質成分)を除去することで脱糖レシチンを得る。なお糖質成分はガラクトース、シュクロース、スタキオース、ラフィノース、マンノース、アラビノースなどの各種糖質が遊離および/またはホスファチドやその他の脂質成分と結合した状態あるいはグリコシドやステロールグリコシドとして存在する成分の混合物である。なお、前記のようにして含水アルコールで分別した際の含水アルコール不溶分、即ち大部分の糖質成分を除いたレシチンから、さらに無水アルコールにより分別して糖質成分を除去することもできる。また原油から本発明の成分を得るには、シリカゲルなどの吸着剤を用いてカラム処理などによって糖質成分を吸着除去することもできるが、無水アルコールを用いた脱糖レシチンがより好ましい。
【0016】
脱糖レシチンとして販売されているものには、中性油等と混合して製剤化したものもあり、該製剤中の脱糖レシチン含量は、アセトン不溶分(食品添加物公定法分析試験法で求められるアセトン不溶物換算値)として算出できる。アセトン不溶分は、例えば以下のように算出する。脱糖レシチン約2gの質量aを精密に量り、これを50mL共栓遠心管に入れ、石油エーテル3mLを加えて溶かし、アセトン15mLを加えてよくかき混ぜた後、氷水中に15分間放置する。これに0~5℃のアセトンを加えて50mLとし、よくかき混ぜ、氷水中に15分間放置した後、遠心分離(約3000回転/分、10分間)し、上層液をフラスコに採る。さらに共栓遠心管の沈殿物に0~5℃のアセトンを加えて50mLとし、氷水中で冷却しながらよくかき混ぜた後、同様に遠心分離する。この上層液を先のフラスコに合わせ、水浴上で蒸留し、残留物を105℃で1時間乾燥し、その質量bを精密に量る。
アセトン不溶物(質量%)=(1-b/a)×100
【0017】
本発明の餃子の羽根用組成物中の脱糖レシチンの含有量は、好ましくは0.03~0.3質量%、より好ましくは0.04~0.25質量%、最も好ましくは0.05~0.15質量%である。脱糖レシチンの含有量が上記の範囲にあると、本発明の餃子の羽根用組成物は、高温で焼成しても羽根がコゲ難くなる効果がより得られる。また、従来よりも短時間で餃子を焼成できる効果がより得られる。
脱糖レシチンの含有量が0.02質量%未満であると、羽根のサクサクとした食感が得られにくくなる。また、脱糖レシチンの含有量が0.4質量%より多くなると、羽根がコゲ易くなり、餃子の焼成温度を上げることが困難になる。
なお、本発明の餃子の羽根用組成物の原材料に脱糖レシチン製剤を使用する場合は、本発明の餃子の羽根用組成物中の脱糖レシチン含有量が、所望の含有量となるように脱糖レシチン製剤の配合量を調整すればよい。
【0018】
[ショ糖脂肪酸エステル脂肪酸]
本発明の餃子の羽根用組成物中に含有するショ糖脂肪酸エステル脂肪酸は、食品に使用されるものであれば特に限定されない。前記ショ糖脂肪酸エステル脂肪酸としては、例えば、「リョートーシュガーエステルER-290」(三菱ケミカルフーズ(株)製)、「エマルジーMO(M)」(理研ビタミン(株)製)等を使用できる。また、本発明の餃子の羽根用組成物中に含有するショ糖脂肪酸エステルの構成脂肪酸としては、特に限定されないが、ステアリン酸、パルミチン酸、ミリスチン酸、オレイン酸、ラウリン酸、ベヘニン酸、エルカ酸等が挙げられる。
【0019】
本発明の餃子の羽根用組成物中に含有するショ糖脂肪酸エステルのHLB値は、0.1~3であることが好ましく、0.5~2であることがさらに好ましい。なお、HLBとは、親水性疎水性バランス(Hydrophile Lipophile Balance)の略であって、乳化剤が親水性か親油性かを知る指標となるもので、0~20の値をとり、HLB値が小さい程、親油性が強いことを示す。本発明において、HLB値の算出はアトラス法の算出法を用いる。アトラス法の算出法は、
HLB=20×(1-S/A)
S:ケン化価
A:エステル中の脂肪酸の中和価
からHLB値を算出する方法を言う。本明細書においてHLBという語は、上記アトラス法により算出されたHLBを意味するものとする。
【0020】
本発明の餃子の羽根用組成物中のショ糖脂肪酸エステルの含有量は、好ましくは0.08~0.35質量%、より好ましくは0.1~0.3質量%、最も好ましくは0.15~0.25質量%である。ショ糖脂肪酸エステルの含有量が上記の範囲にあると、本発明の餃子の羽根用組成物は、高温で焼成しても羽根がコゲ難くなる効果がより得られる。また、従来よりも短時間で餃子を焼成できる効果がより得られる。
【0021】
[水]
本発明で用いる水は、水道水、井戸水、精製水、イオン交換水など、食用として使用される水であれば、特に限定されない。
本発明の餃子の羽根用組成物中の水の含有量は、本発明で用いる油脂、酸処理澱粉、及び脱糖レシチン(またはショ糖脂肪酸エステル)が所望の含有量となるように調整できればよく、特に限定されないが、好ましくは54~89質量%、より好ましくは63~87質量%、さらにより好ましくは72~85質量%、最も好ましくは76~83質量%である。水の含有量が上記の範囲にあると、本発明の餃子の羽根用組成物は、従来よりも短時間で餃子を焼成できる効果がより得られる。
【0022】
[他の原料]
本発明の餃子の羽根用組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で、増粘多糖類、調味料、膨張剤、香辛料等を含有してもよい。また、本発明の餃子の羽根用組成物は上記酸処理澱粉以外の澱粉や穀物粉(米粉等)を含有してもよく、例えば、小麦澱粉、米澱粉、馬鈴薯澱粉、甘藷澱粉、コーンスターチ、ワキシーコーンスターチ、タピオカ澱粉、又はこれらの加工澱粉を単独、又は複数種を組み合わせて含有してもよい。
本発明の餃子の羽根用組成物が酸処理澱粉以外の澱粉や穀物粉を含有する場合、これらの含有量は、好ましくは2~7質量%、より好ましくは2.5~6.5質量%、最も好ましくは3~6質量%である。
【0023】
[水中油型乳化物]
本発明の餃子の羽根用組成物は、羽根に焼きムラができにくい観点から水中油型乳化物の態様が好ましい。また、本発明の餃子の羽根用組成物を餃子に付着させて冷凍する場合も、水中油型乳化物の態様が好ましい。前記水中油型乳化物は、定法の乳化方法によって乳化することができるが、具体的には、プロペラ、ホモミキサー、ブレンダー、ディスパー、パドルミキサー、コロイドミル、連続ミキサー、スタティックミキサー、超音波等の撹拌機または方法を用いることができ、回転数、攪拌時間は特に制限されない。
【0024】
[羽根付き餃子の製造方法]
一般に、焼き餃子の製造は、加熱した鉄板等に、未加熱もしくは蒸した餃子を並べ、焼き水を添加し、蒸しながら焼成する。本発明の羽根付き餃子の製造方法は、焼き水の一部又は全部の代わりに、本発明の餃子の羽根用組成物を使用してもよい。本発明の餃子の羽根用組成物は、未加熱もしくは蒸した餃子を焼成する際に同時に添加してもよく、また、ある程度、餃子が焼成されたのち、本発明の餃子の羽用組成物を添加してもよい。また、本発明の羽根付き餃子の製造方法は、餃子に、前もって本発明の餃子の羽根用組成物を塗布した後、焼成する方法、餃子に本発明の羽根用組成物が付着した状態で冷凍された冷凍餃子を焼成する方法等も挙げられる。
【0025】
本発明の羽根付き餃子の製造方法は、餃子100質量部に対する本発明の餃子の羽根用組成物の添加量、又は付着量が、10~80質量部であり、好ましくは15~70質量部、より好ましくは20~60質量部、最も好ましくは25~45質量部である。羽根用組成物の添加量、又は付着量が前記の範囲にあると、均一な焼き色がつき見栄え良く、サクサクとした軽い食感がより優れたものになる。
また、本発明の羽根付き餃子の製造方法は、焼成温度が好ましくは100~300℃、より好ましくは150~280℃、最も好ましくは220~260℃であり、焼成時間が好ましくは1~10分、より好ましくは2~7分、最も好ましくは3~5分である。さらに、本発明の羽根付き餃子の製造方法は、本発明の餃子の羽根用組成物が付着した冷凍餃子の場合は、焼成温度が好ましくは150~300℃、より好ましくは220~280℃であり、焼成時間が好ましくは2~7分、より好ましくは3~5分である。なお、上記の焼成温度は、焼成機の焼成面の表面温度を指し、上記の焼成時間は、所望の焼成温度に到達してからの時間を指す。焼成機としては、フライパン、鉄板鍋、餃子焼き器、ホットプレート等が挙げられる。
【実施例
【0026】
以下、実施例を示して本発明をさらに具体的に説明するが、本発明の範囲はこれら実施例の記載に何ら限定されるものではない。
【0027】
〔餃子の羽根用組成物の製造〕
表1~3に示した配合に従い、まず、菜種油、レシチン製剤、脱糖レシチン製剤、乳化剤1、及び乳化剤2以外の原料を水に溶解した。次に、それ以外の原料を菜種油に溶解し、前記で調製した溶液と合わせ、ホモミキサーで撹拌して水中油型の餃子の羽根用組成物(対象例、実施例1~8、比較例1~6)を製造した。製造した全ての餃子の羽根用組成物は、外観(色)に差が認められなかった。なお、表中の各種原料は下記のものを使用した。
菜種油(商品名:日清キャノーラ油、日清オイリオグループ(株)製)
澱粉(商品名:コーンスターチ、日本食品化工(株)製、乾燥品)
酸処理澱粉(商品名:フードスターチG、松谷化学工業(株)製、乾燥品)
酸化澱粉(商品名:スタビローズBM、松谷化学工業(株)製、乾燥品)
レシチン製剤(日清オイリオグループ(株)製造品、レシチン含量(アセトン不溶物として)50質量%)
脱糖レシチン製剤(日清オイリオグループ(株)製造品、脱糖レシチン含量(アセトン不溶物として)50質量%)
乳化剤1(ショ糖脂肪酸エステル、商品名:リョートーシュガーエステル ER-290、三菱ケミカルフーズ(株)製(ショ糖エルカ酸エステル、HLB2))
乳化剤2(デカグリセリンオレイン酸エステル、商品名:リョートーポリグリエステル O-50D、三菱ケミカルフーズ(株)製)
【0028】
〔餃子の羽根用組成物のコゲの評価-1〕
上記で製造した餃子の羽根用組成物について、加熱処理をしたときのコゲの発生と程度とを、目視、及び色差(ΔL値、Δb値)で評価した。なお、対照例は公知の餃子の羽根用組成物であり、対照例よりもコゲの発生を抑えることが出来れば、より高温・短時間で羽根付き餃子を焼成することが可能になると考えた。
【0029】
〈目視によるコゲの評価〉
直径約8cmの試料皿に餃子の羽根用組成物5gを載せ、加熱乾燥式水分計(MS-70、(株)エー・アンド・デイ製)を用いて、200℃、12分間の加熱処理を行った。次に、シャーレに残った餃子の羽根用組成物の焼成物について、5名の専門パネルが目視によりコゲの発生の程度を下記の評価基準に従って評価した。なお、評価は5人の専門パネルの総意である。結果を表1~3に示した。
(評価基準)
◎:コゲが認められない
○:若干のコゲ、又は褐変が認められるが、対照例よりも明らかに程度が低い
×:対照例と同等以上のコゲが認められる
【0030】
〈色差(ΔL、Δb)によるコゲの評価〉
上記のシャーレに残った餃子の羽根用組成物の焼成物について、色差計(カラーリーダーCR-20、コニカミノルタ(株)製)を用いて、L値とb値を測定した。次に、対照例のL値(L1)と、実施例、又は比較例のL値(L2)との差(ΔL:L2-L1)を求めた。同様にしてb値の差(Δb:b2-b1)も求め、下記の基準に従って評価した。なお、対照例のL値は67.8、b値は7.4であった。結果を表1~3に示した。
(評価基準)
○:ΔL値が3.0以上、かつ、Δb値が-2.0以下
×:ΔL値が3.0未満、及び/又は、Δb値が-2.0よりも大きい
【0031】
色差(Lab表色系)の指標は、明度(L値)、色度(a値、b値)であり、L値は色味の情報を持たないが、L値が低い程、暗くなる。したがって、本発明においては、加熱処理によるコゲの程度が進むとL値が低くなる。また、b値は黄色の彩度を表し、b値が高い程、黄色の彩度が高くなる。したがって、本発明においては、加熱処理によるコゲの程度(褐変)が進むとb値が高くなる。以上から本発明の餃子の羽根用組成物の焼成物は、対照例と比べて、上記L値の差(ΔL:L2-L1)が大きくなるほどゴゲの発生が抑制され、同様に、上記b値の差(Δb:b2-b1)が小さくなるほどゴゲの発生が抑制されると考えられた。
【0032】
表1~3中の「ΔL,Δb」欄のカッコ内は、対照例との差の数値である。また、「レシチン含量」は、餃子の羽根用組成物中のレシチン、又は脱糖レシチンの含有量(質量%)である。
【0033】
【表1】

【0034】
【表2】

【0035】
【表3】

【0036】
〔餃子の羽根用組成物のコゲの評価-2〕
蒸した餃子を4個(約20g/個)トレイに並べ、上記で製造した餃子の羽根用組成物(対照例、実施例3、及び比較例6)をトレイに22.4g添加し、該餃子と該餃子の羽根用組成物とが接触した状態で冷凍した。なお、実施例3の餃子の羽根用組成物を、トレイに33.6g添加した冷凍餃子も同様に製造した。
【0037】
表面温度が約200℃になるまで熱したフライパン(直径26cm)に、上記で製造した冷凍餃子4個をそのまま置き、蓋をせずに強火で5分間加熱して羽根付き餃子を製造した。なお、冷凍餃子の焼き上がり時のフライパンの表面温度は約300℃であった。
【0038】
上記で製造した羽根付き餃子について、羽根部分のコゲの発生を目視で評価した。評価方法は、上記「餃子の羽根用組成物のコゲの評価-1」の評価方法に準じた。また、色差(L値、b値)も測定した。評価結果を表4に示した。
【0039】
【表4】

【0040】
上記の結果から、特定量の油脂、酸処理澱粉、脱糖レシチン、及び水を含有する餃子の羽根用組成物(実施例1~7)、及び、特定量の油脂、酸処理澱粉、ショ糖脂肪酸エステル、及び水を含有する餃子の羽根用組成物(実施例8)は、公知の餃子の羽根用組成物(対照例)と比べて、コゲ難いため、羽根付き餃子を高温・短時間で製造できるものであった。