(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-07
(45)【発行日】2025-02-18
(54)【発明の名称】付加硬化型液状シリコーンゴム組成物及び電子写真式画像形成部材
(51)【国際特許分類】
C08L 83/07 20060101AFI20250210BHJP
C08L 83/05 20060101ALI20250210BHJP
C08K 3/34 20060101ALI20250210BHJP
G03G 15/20 20060101ALI20250210BHJP
G03G 15/00 20060101ALI20250210BHJP
【FI】
C08L83/07
C08L83/05
C08K3/34
G03G15/20 515
G03G15/00 551
G03G15/00 552
(21)【出願番号】P 2021206736
(22)【出願日】2021-12-21
【審査請求日】2023-11-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003063
【氏名又は名称】弁理士法人牛木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】南川 知哉
(72)【発明者】
【氏名】平林 佐太央
【審査官】中川 裕文
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/203669(WO,A1)
【文献】特開2009-263405(JP,A)
【文献】国際公開第2021/085586(WO,A1)
【文献】特開2021-187877(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08K 3/00- 13/08
C08L 1/00-101/14
G03G 13/00
13/20
15/00
15/20
21/16- 21/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)ケイ素原子に結合したアルケニル基を1分子中に2個以上含有し、ケイ素原子に結合したアルケニル基の含有量が、ケイ素原子に結合した1価炭化水素基全体に対して1.0×10
-7~1.0×10
-3mol/gである液状のオルガノポリシロキサン:100質量部、
(B)1分子中に2個以上のヒドロシリル基を含有するオルガノハイドロジェンポリシロキサン:(B)成分に含まれるヒドロシリル基の数が、(A)成分に含まれるケイ素原子に結合したアルケニル基1個に対して0.4~10個となる量、
(C)付加反応触媒としての白金族金属系触媒:(A)成分の合計質量に対し白金族金属換算で0.5~1,000ppmとなる量、
(D)平均一次粒子径が75μm以下であり、熱伝導率が10W/m・K以上の熱伝導性粉末:10~1,000質量部、及び
(E
)ケイ素原子に結合したアルケニル基の含有量が、ケイ素原子に結合した1価炭化水素基全体に対して1.1×10
-3~1.0×10
-1mol/gであるアルケニル基含有鎖状オルガノポリシロキサン
であって、下記一般式(2)
【化1】
(式中、Rは独立して炭素数1~10の1価炭化水素基であり、qは0以上、rは2以上、q+rが2~200である。)
で表されるアルケニル基含有鎖状オルガノポリシロキサン:(C)成分の白金族金属原子1モルに対し、0.1~500モルとなる量、を含む付加硬化型液状シリコーンゴム組成物。
【請求項2】
(D)成分が、金属珪素粉末である請求項1に記載の付加硬化型液状シリコーンゴム組成物。
【請求項3】
(D)成分が、金属珪素粉末及び金属珪素粉末よりモース硬度の高い熱伝導性粉末である請求項1に記載の付加硬化型液状シリコーンゴム組成物。
【請求項4】
請求項1から
3のいずれか1項に記載の付加硬化型液状シリコーンゴム組成物の硬化物からなる弾性層を有する電子写真式画像形成部材。
【請求項5】
前記電子写真式画像形成部材が、定着ロール及び定着ベルトから選ばれる部材である請求項
4に記載の電子写真式画像形成部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、付加硬化型液状シリコーンゴム組成物及び電子写真式画像形成部材に関する。
【背景技術】
【0002】
シリコーンゴムはその耐熱性を生かして複写機やレーザービームプリンターの高熱伝導性、特に、シリコーンオイルの0.16W/m・Kより熱伝導率が高いことが要求される定着ロールの被覆材として用いられてきた。
【0003】
このような要求に対して、金属珪素粉末を用いることで、熱伝導性を向上させ、なおかつ圧縮永久歪を飛躍的に向上させる方法が提案されている(特許文献1)。
【0004】
また、金属珪素粉末に対して熱処理、湿式処理によって欠陥の少ない自然酸化膜を形成した後に、シラン系カップリング剤などの有機ケイ素化合物で更に表面処理する技術も提案されている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2007-171946号公報
【文献】特開2013-216576号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、金属珪素粉末を付加硬化型液状シリコーンゴムに添加した場合、金属珪素粉末が付加硬化触媒に悪影響を及ぼす。この経時で硬化性が遅延する問題は解決しておらず、高熱伝導性を有すると共に、組成物の保存安定性に優れたシリコーンゴム組成物の開発が求められてきた。
【0007】
本発明は、熱伝導性粉末を配合した高熱伝導性付加硬化型液状シリコーンゴム組成物において、保存安定性を向上させた、特に経時の硬化性遅延を抑えた付加硬化型液状シリコーンゴム組成物と該組成物の硬化物を弾性層として有する電子写真式画像形成部材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記目的を達成するため鋭意研究を重ねた結果、後述する(A)~(E)成分を含む付加硬化型液状シリコーンゴム組成物において、(C)成分の付加反応触媒と(D)成分の熱伝導性粉末と、(E)成分の特定構造を有するアルケニル基含有オルガノポリシロキサンを配合された熱伝導性シリコーンゴム組成物が経時で硬化性が遅延することを抑えることができ、良好な保存安定性を有することを見出し、該組成物を硬化してなるシリコーンゴム層を有する熱伝導性シリコーンゴム部材(ロール、ベルト等)が、優れた熱伝導性を有し、高速複写機やプリンターのゴム部材として有効に用いられることを知見し、本発明をなすに至ったものである。
【0009】
従って、本発明は、下記に示す付加硬化型液状シリコーンゴム組成物及び電子写真式画像形成部材を提供する。
〔1〕(A)ケイ素原子に結合したアルケニル基を1分子中に2個以上含有し、ケイ素原子に結合したアルケニル基の含有量が、ケイ素原子に結合した1価炭化水素基全体に対して1.0×10
-7~1.0×10
-3mol/gである液状のオルガノポリシロキサン:100質量部、
(B)1分子中に2個以上のヒドロシリル基を含有するオルガノハイドロジェンポリシロキサン:(B)成分に含まれるヒドロシリル基の数が、(A)成分に含まれるケイ素原子に結合したアルケニル基1個に対して0.4~10個となる量、
(C)付加反応触媒としての白金族金属系触媒:(A)成分の合計質量に対し白金族金属換算で0.5~1,000ppmとなる量、
(D)平均一次粒子径が75μm以下であり、熱伝導率が10W/m・K以上の熱伝導性粉末:10~1,000質量部、及び
(E)全てのケイ素原子に1個以上のアルケニル基を有するアルケニル基含有環状オルガノポリシロキサン、及びケイ素原子に結合したアルケニル基の含有量が、ケイ素原子に結合した1価炭化水素基全体に対して1.1×10
-3~1.0×10
-1mol/gであるアルケニル基含有鎖状オルガノポリシロキサンから選ばれる1種以上:(C)成分の白金族金属原子1モルに対し、0.1~500モルとなる量、を含む付加硬化型液状シリコーンゴム組成物。
〔2〕(D)成分が、金属珪素粉末である〔1〕に記載の付加硬化型液状シリコーンゴム組成物。
〔3〕(D)成分が、金属珪素粉末及び金属珪素粉末よりモース硬度の高い熱伝導性粉末である〔1〕に記載の付加硬化型液状シリコーンゴム組成物。
〔4〕
(E)成分中のアルケニル基含有環状オルガノポリシロキサンは下記一般式(1)
【化1】
(式中、R
1はメチル基又はビニル基であり、pは3~30である。)
で表され、(E)成分中のアルケニル基含有鎖状オルガノポリシロキサンは下記一般式(2)
【化2】
(式中、Rは独立して炭素数1~10の1価炭化水素基であり、qは0以上、rは2以上、q+rが2~200である。)
で表される〔1〕から〔3〕のいずれか1項に記載の付加硬化型液状シリコーンゴム組成物。
〔5〕〔1〕から〔4〕のいずれか1項に記載の付加硬化型液状シリコーンゴム組成物の硬化物からなる弾性層を有する電子写真式画像形成部材。
〔6〕電子写真式画像形成部材が、定着ロール及び定着ベルトから選ばれる部材である〔5〕に記載の電子写真式画像形成部材。
【0010】
付加硬化型液状シリコーンゴム組成物が上記〔1〕のようなものであると、保存安定性が良好で、経時での硬化性遅延を抑えた硬化物を得ることができる。
上記〔4〕のようなオルガノポリシロキサンを用いることで、前記(C)成分の付加反応触媒の保存安定性を保つことが可能となる。
本発明の付加硬化型液状シリコーンゴム組成物は、上記〔5〕や〔6〕のような用途に特に好適に用いることができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、良好な保存安定性、特に経時の硬化性安定性を有する硬化物を与える付加硬化型液状シリコーンゴム組成物を提供することができ、特に電子写真式画像形成部材用の付加硬化型液状シリコーンゴム組成物及び該組成物の硬化物を弾性層として有する電子写真式画像形成部材が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0013】
<付加硬化型液状シリコーンゴム組成物>
本発明の付加硬化型液状シリコーンゴム組成物(付加硬化型高熱伝導シリコーンゴム組成物)は、下記(A)~(E)成分を含むものである。
【0014】
[(A)成分]
(A)成分は、1分子中にケイ素原子に結合したアルケニル基を2個以上含有する液状(特には、25℃で液状)のオルガノポリシロキサンであり、本発明にかかる組成物のベースポリマー(主剤)である。
【0015】
(A)成分の分子構造としては、例えば、直鎖状、環状、分岐鎖状、三次元網状(樹脂状)等が挙げられるが、主鎖が基本的にジオルガノシロキサン単位の繰り返しからなり、分子鎖両末端がトリオルガノシロキシ基で封鎖された直鎖状のジオルガノポリシロキサンが好ましい。また、(A)成分のオルガノポリシロキサンの分子構造が直鎖状又は分岐鎖状である場合、該オルガノポリシロキサンの分子中においてアルケニル基が結合するケイ素原子の位置は、分子鎖末端(即ち、トリオルガノシロキシ基)及び分子鎖途中(即ち、分子鎖非末端に位置する2官能性のジオルガノシロキサン単位又は3官能性のモノオルガノシルセスキオキサン単位)のどちらか一方でも両方でもよい。(A)成分として、特に好ましくは、分子鎖両末端のケイ素原子に結合したアルケニル基を含有する直鎖状のジオルガノポリシロキサンである。
【0016】
(A)成分中のケイ素原子に結合したアルケニル基としては、例えば、通常、炭素数2~8、好ましくは炭素数2~4のものが挙げられる。その具体例としては、ビニル基、アリル基、ブテニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基、シクロヘキセニル基、ヘプテニル基等が挙げられ、特にビニル基であることが好ましい。
【0017】
(A)成分中のケイ素原子に結合したアルケニル基の含有量は、ケイ素原子に結合した1価炭化水素基全体に対して1.0×10-7~1.0×10-3mol/gであり、1.0×10-6~5.0×10-4mol/gであることが好ましい。
【0018】
(A)成分中のアルケニル基以外のケイ素原子に結合する1価炭化水素基としては、例えば、炭素数1~12、好ましくは炭素数1~10の1価炭化水素基が挙げられる。1価炭化水素基の具体例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基、ヘプチル基等のアルキル基;フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基等のアリール基;ベンジル基、フェネチル基等のアラルキル基等が挙げられる。これらの中でも、特に、メチル基であることが好ましい。
【0019】
(A)成分の25℃における粘度は、好ましくは50~500,000mPa・s、より好ましくは500~200,000mPa・sである。粘度がこの範囲内にあると、得られるシリコーンゴム組成物の取り扱い作業性が良好であり、また、得られるシリコーンゴム組成物の硬化物の機械的特性が良好である。なお、本明細書において粘度とは、25℃においてJIS K 7117-1:1999に記載の方法で回転粘度計により測定した値を指す。
【0020】
(A)成分のオルガノポリシロキサンの具体例としては、分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルビニルシロキサン共重合体、分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖メチルビニルポリシロキサン、分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルビニルシロキサン・メチルフェニルシロキサン共重合体、分子鎖両末端ジメチルビニルシロキシ基封鎖ジメチルポリシロキサン、分子鎖両末端ジメチルビニルシロキシ基封鎖メチルビニルポリシロキサン、分子鎖両末端ジメチルビニルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルビニルシロキサン共重合体、分子鎖両末端ジメチルビニルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルビニルシロキサン・メチルフェニルシロキサン共重合体、分子鎖両末端ジビニルメチルシロキシ基封鎖ジメチルポリシロキサン、分子鎖両末端ジビニルメチルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルビニルシロキサン共重合体、分子鎖両末端トリビニルシロキシ基封鎖ジメチルポリシロキサン、分子鎖両末端トリビニルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルビニルシロキサン共重合体、及びこれらのオルガノポリシロキサンの2種以上からなる混合物等が挙げられる。
【0021】
(A)成分のオルガノポリシロキサンは、1種単独で用いても2種以上を併用してもよい。中でも2種以上を併用することが、本発明の組成物を好ましい粘度範囲に調整することが容易になるので好ましい。
【0022】
[(B)成分]
(B)成分のオルガノハイドロジェンポリシロキサンは、(A)成分中のアルケニル基とヒドロシリル化付加反応し、架橋剤(硬化剤)として作用するものであり、その分子構造に特に制限はなく、従来製造されている、例えば直鎖状、環状、分岐鎖状、三次元網状(樹脂状)構造等各種のものが使用可能であるが、1分子中に2個以上のヒドロシリル基を有する必要がある。
【0023】
(B)成分のオルガノハイドロジェンポリシロキサンは、1種単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0024】
このオルガノハイドロジェンポリシロキサンとしては、下記平均組成式(3)で示されるものを用いることができる。
R2
aHbSiO(4-a-b)/2 (3)
(式中、R2は独立して、炭素数1~10のアルキル基、炭素数6~10のアリール基、及び炭素数7~10のアラルキル基から選ばれる基である。また、aは0.7~2.1、bは0.001~1.0で、かつa+bが0.8~3.0を満足する正数である。)
【0025】
上記式(3)中、R2は独立して、炭素数1~10のアルキル基、炭素数6~10のアリール基、及び炭素数7~10のアラルキル基から選ばれる基であり、このR2における1価炭化水素基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、ネオペンチル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基、オクチル基、ノニル基、デシル基等のアルキル基;フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基等のアリール基;ベンジル基、フェニルエチル基、フェニルプロピル基等のアラルキル基などが挙げられる。上記R2としては、好ましくはアルキル基、アリール基であり、より好ましくはメチル基である。また、aは0.7~2.1、bは0.001~1.0で、かつa+bが0.8~3.0を満足する正数であり、好ましくは、aは1.0~2.0、bは0.01~1.0、a+bが1.5~2.5を満足する正数である。
【0026】
1分子中に2個以上含有するヒドロシリル基は、分子鎖末端、分子鎖途中のいずれに位置していてもよく、またこの両方に位置するものであってもよい。また、このオルガノハイドロジェンポリシロキサンの分子構造は、直鎖状、環状、分岐鎖状、三次元網状構造のいずれであってもよいが、1分子中のケイ素原子の数(又は重合度)は、通常2~300個、好ましくは3~150個、より好ましくは4~100個程度のものが望ましく、25℃における粘度が、通常0.1~1,000mPa・s、好ましくは0.5~500mPa・s程度の、25℃で液状のものが使用される。なお本明細書において、重合度は、例えば、トルエンを展開溶媒としてGPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィ)分析におけるポリスチレン換算の数平均重合度(数平均分子量)又は重量平均重合度(重量平均分子量)等として求めることができる。
【0027】
このような(B)成分のオルガノハイドロジェンポリシロキサンとしては、1,1,3,3-テトラメチルジシロキサン、1,3,5,7-テトラメチルシクロテトラシロキサン、トリス(ハイドロジェンジメチルシロキシ)メチルシラン、トリス(ハイドロジェンジメチルシロキシ)フェニルシラン、メチルハイドロジェンシクロポリシロキサン、メチルハイドロジェンシロキサン・ジメチルシロキサン環状共重合体、分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖メチルハイドロジェンポリシロキサン、分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルハイドロジェンシロキサン共重合体、分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルハイドロジェンシロキサン・メチルフェニルシロキサン共重合体、分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルハイドロジェンシロキサン・ジフェニルシロキサン共重合体、分子鎖両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基封鎖メチルハイドロジェンポリシロキサン、分子鎖両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基封鎖ジメチルポリシロキサン、分子鎖両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルハイドロジェンシロキサン共重合体、分子鎖両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルフェニルシロキサン共重合体、分子鎖両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・ジフェニルシロキサン共重合体、分子鎖両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基封鎖メチルフェニルポリシロキサン、分子鎖両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基封鎖ジフェニルポリシロキサンや、これらの各例示化合物において、メチル基の一部又は全部がエチル基、プロピル基等の他のアルキル基で置換されたもの、式:R3
3SiO1/2で示されるシロキサン単位と式:R3
2HSiO1/2で示されるシロキサン単位と式:SiO4/2で示されるシロキサン単位からなるオルガノシロキサン共重合体、式:R3
2HSiO1/2で示されるシロキサン単位と式:SiO4/2で示されるシロキサン単位からなるオルガノシロキサン共重合体、式:R3HSiO2/2で示されるシロキサン単位と式:R3SiO3/2で示されるシロキサン単位もしくは式:HSiO3/2で示されるシロキサン単位からなるオルガノシロキサン共重合体、及びこれらのオルガノポリシロキサンの2種以上からなる混合物等が挙げられる。なお、上記R3は炭素数1~10のアルキル基、又は炭素数6~10のアリール基、及び炭素数7~10のアラルキル基から選ばれる基であり、特にメチル基であることが好ましい。
【0028】
(B)成分の配合量は、(A)成分中のケイ素原子結合アルケニル基1個(又はモル)に対して(B)成分中のヒドロシリル基が0.4~10個(又はモル)であり、好ましくは0.5~5個(又はモル)、さらに好ましくは0.5~2.0個(又はモル)となる量である。
【0029】
(A)成分中のケイ素原子結合アルケニル基1個に対して(B)成分中のヒドロシリル基が0.4個未満であると、シリコーンゴム組成物は十分に硬化せず、目的の強度が得られないことがある。またこれが10個を超えると、シリコーンゴム組成物の硬化物の耐熱性が極端に悪化することがある。
【0030】
[(C)成分]
(C)成分の付加反応触媒としては、白金黒、塩化第2白金、塩化白金酸、塩化白金酸と1価アルコールとの反応物、塩化白金酸とオレフィン類との錯体、白金ビスアセトアセテート等の白金系触媒、パラジウム系触媒、ロジウム系触媒などの白金族金属系触媒が挙げられる。
【0031】
(C)成分の配合量は、触媒量、即ち(A)成分の合計質量に対し白金族金属換算で0.5~1,000ppmとなる量とすることができ、特に1~500ppmとすればよい。配合量が少なすぎると硬化性の低下を起こし、配合量が多すぎるとコストが高くなり、不経済となる。(C)成分の白金族金属系触媒は、1種単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0032】
[(D)成分]
(D)成分は、本発明のシリコーンゴム組成物に熱伝導性を付与するための熱伝導性粉末であり、平均一次粒子径が75μm以下であり、熱伝導率が10~5,000W/m・Kのものである。本発明のシリコーンゴム組成物は、上記(A)オルガノポリシロキサンに特定の(D)熱伝導性粉末を配合したものである。
【0033】
本発明に使用する熱伝導性粉末は、熱伝導率が10~5,000W/m・Kであり、好ましくは20~5,000W/m・Kであり、より好ましくは40~5,000W/m・Kである。熱伝導性粉末の熱伝導率が10W/m・K未満であると、シリコーンゴム組成物中に多くの熱伝導性粉末を入れる必要があり、硬化後のシリコーンゴムにおいて、弾性率の低下、硬度の上昇を起こすため、不適当である。
【0034】
本発明に使用する熱伝導性粉末の平均一次粒子径は75μm以下であり、通常、50μm以下、好ましくは0.1~30μm、より好ましくは0.5~20μm、特に好ましくは2~15μmであるものを使用する。平均一次粒子径が0.1μm以上の粒子であれば、製造が容易であると共に、シリコーンポリマー(例えば、ベースポリマーである(A)成分のアルケニル基含有オルガノポリシロキサン)への分散性がよく、一次粒子分散が容易で、また多量に配合するのも容易である。75μmを超えるとゴム硬化物の機械的強度が損なわれるだけでなく、特に現像ロールや現像ベルト等の現像ゴム部材とした場合の表面が凹凸となり、画像特性やトナー転写性等の性能に問題が生じる可能性がある。
【0035】
なお、本発明において、平均一次粒子径は、レーザー光回折法等による粒度分布測定装置を用いて、累積重量平均値D50(又はメジアン径)として求めることができる。
【0036】
熱伝導性粉末として、具体的には、金属珪素粉末、アルミナ、アルミニウム、炭化珪素、窒化珪素、酸化マグネシウム、炭酸マグネシウム、酸化亜鉛、窒化アルミニウム等の熱伝導性無機粉体が挙げられる。
【0037】
なかでも、金属珪素粉末は、本発明において最も好適に用いることができる。金属珪素は、良好な熱伝導性をもち、またモース硬度が低く、金属珪素の特性として、たたくと砕けやすく、展性が低いため、高剪断を与えても金属粉自体が凝集しにくい特性をもつ。そのため、粉砕による微粒子化が容易で、オルガノポリシロキサンヘの分散性に優れる特性をもつ。そのため、金属珪素粉末が配合された電子写真式画像形成部材を研磨する場合には研磨性が良好で、表面平滑性に優れたゴム部材を得ることが可能である。
また、金属珪素粉末と、他の熱伝導性粉末を併用することで、それぞれの熱伝導性粉末の特性を併せもつシリコーンゴム組成物を得ることが出来るため、より好ましい。
金属珪素粉末よりモース硬度の高い熱伝導性粉末としては、炭化珪素やアルミナ、窒化アルミ、窒化珪素が挙げられる。
【0038】
また、(D)成分の熱伝導性粉末は、シリコーンゴム組成物の熱安定性や熱伝導性粉末の配合性の向上を目的として、シラン系カップリング剤又はその部分加水分解物、アルキルアルコキシシラン又はその部分加水分解物、有機シラザン類、チタネート系カップリング剤、オルガノポリシロキサンオイル、加水分解性官能基含有オルガノポリシロキサン等の表面処理剤により表面処理されたものであることが好ましい。
【0039】
(D)成分の熱伝導性粉末の配合量は、(A)成分100質量部に対し10~1,000質量部、好ましくは40~600質量部、より好ましくは50~400質量部である。10質量部未満では、所望の高熱伝導性が得られず、1,000質量部を超えると、ゴム弾性の低下を招き、ゴム強度等の物性も著しく低下してしまう。
【0040】
なお、本発明のシリコーンゴム組成物から得られる高熱伝導性シリコーンゴム部材は、電子写真方式を利用した画像形成装置に使用され、良好なゴム弾性、良好な圧縮永久歪が特に必要とされるため、熱伝導性粉末の配合量は、上記特性を最適化するように調整することが望ましい。
【0041】
[(E)成分]
(E)成分は(C)成分の白金系触媒に対する保護剤として機能するものであり、前記(A)成分とは異なるものである。また、前記(E)成分は、以下のアルケニル基含有ポリシロキサンから選ばれる1種以上である。
(E-1)全てのケイ素原子に1個以上のアルケニル基を有するアルケニル基含有環状オルガノポリシロキサン
(E-2)ケイ素原子に結合したアルケニル基の含有量が、1.1×10
-3~1.0×10
-1mol/gであるアルケニル基含有鎖状オルガノポリシロキサン
前記(E)成分は、同じ組成物中に添加しても触媒毒にならず、保存安定性が良いことが特徴である。
一般的に付加硬化型のオルガノポリシロキサン組成物で用いられる反応制御剤は、付加反応触媒の触媒活性を抑え、ヒドロシリル化反応が進行しないようにして保存安定性を高めるためのものである。
これに対して、本発明の(E)成分である保護剤は、前記(D)成分による硬化遅延作用から(C)付加反応触媒を保護し、本発明のシリコーンゴム組成物の硬化特性が、経時で遅くならないようにするためのものである。具体的には前記(D)成分が、前記(C)成分を吸着してしまうのを(E)成分が防ぐことによるものと推測される。また、この硬化遅延抑制効果は、本発明者らが初めて見出したものである。前記(D)成分のうち金属珪素粉末はモース硬度が低いため、他の熱伝導粉末を併用する場合、モース硬度の高い熱伝導性粉末であることが多い。金属珪素粉末よりモース硬度の高い熱伝導性粉末と金属珪素を併用すると、金属珪素表面が削れ、砕ける。そのため、新規金属珪素表面が現れ、付加硬化触媒を吸着しやすいおそれがある。そのような場合においても本発明の(E)成分である保護剤は、前記(D)成分による硬化遅延作用から(C)付加反応触媒を保護する。
前記(E-1)成分のアルケニル基含有環状オルガノポリシロキサンは全てのケイ素原子に1個以上のアルケニル基を有する環状オルガノポリシロキサンである。特に、下記一般式(1)で示されるものが好ましい。
【化3】
(式中、R
1はメチル基またはビニル基であり、pは3~30である。)
pは3~30であり、好ましくは、pは4~20であり、より好ましくは、pは4~10である。上記範囲内である構造によって、(C)成分と、(D)成分と、(E)成分とが混合され、(D)成分が(C)成分に悪影響を及ぼす状態でも(C)成分が失活することなく経時での保存安定性を得ることができる。具体例として、下記のものが挙げられる。
【0042】
【0043】
前記(E-2)成分のアルケニル基含有鎖状オルガノポリシロキサンは、ケイ素原子に結合したアルケニル基の含有量が、ケイ素原子に結合した1価炭化水素基全体に対して1.1×10-3~1.0×10-1mol/gであるアルケニル基含有鎖状オルガノポリシロキサンであり、例えば、下記平均組成式(a)で表され、特に、下記一般式(2)で示される構造が好ましい。
RcVidSiO(4-c-d)/2 (a)
(式中、Rは独立して炭素数1~10、好ましくは1~8の芳香族基を含まない1価炭化水素基であり、Viはビニル基である。また、cは0.7~2.1、dは0.001~1.0で、かつc+dは0.8~3.0を満足する正数である。)
【0044】
【化5】
(式中、Rは独立して炭素数1~10の1価炭化水素基であり、qは0以上、rは2以上、q+rが2~200である。)
【0045】
Rで示される炭素数1~10の1価炭化水素基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、ネオペンチル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基、オクチル基、ノニル基、及びデシル基等のアルキル基、ビニル基、アリル基、プロペニル基、イソプロペニル基、ブテニル基、ヘキセニル基、シクロヘキセニル基、及びオクテニル基等のアルケニル基等が挙げられる。また、これらの基の水素原子の一部又は全部をフッ素、塩素等のハロゲン原子で置換したもの、例えばクロロメチル基、クロロプロピル基、及びトリフロロプロピル基等を用いてもよい。
【0046】
また、上記一般式(2)で示した場合、式中、qは0以上、rは2以上、q+rが2~200であり、好ましくは、qは0以上、rは4以上、q+rが4~100であり、さらに好ましくは、qは0以上、rは4以上、q+rが4~50である。また、ケイ素原子に結合したアルケニル基の含有量は、ケイ素原子に結合した1価炭化水素基全体に対して1.1×10-3~1.0×10-1mol/gであり、2.0×10-3~1.0×10-1mol/gであることが好ましい。
。上記範囲内である構造によって、(C)成分と、(D)成分と、(E)成分とが混合され、(D)成分が(C)成分に悪影響を及ぼす状態でも(C)成分が失活することなく経時での保存安定性を得ることができる。具体例として、下記のものが挙げられる。
【0047】
【0048】
(E)成分の配合量は、(C)成分の白金族金属系触媒に対して、(E)成分/白金族金属原子(Pt、Pd、Rh等)=0.1~500モル/モルであり、好ましくは0.1~300モル/モル、より好ましくは0.1~200モル/モルである。配合量が0.1~500モル/モルであれば、(C)成分と、(D)成分と、(E)成分とが混合され、(D)成分が(C)成分に悪影響を及ぼす状態でも(C)成分が失活することなく経時での保存安定性を得ることができる。1モル/モル未満であると(C)成分が失活してしまい、経時での保存安定性を得ることができない。500モル/モルより多いとシリコーンゴム硬化物が脆くなってしまう。(E)成分は、1種単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0049】
[補強性シリカ微粉末]
本発明にかかるシリコーンゴム組成物への上述した(A)~(E)成分以外の無機質充填剤の添加は任意であり、補強性シリカ微粉末を添加することが可能である。
【0050】
補強性シリカ微粉末は、機械的強度の優れたシリコーンゴム組成物を得るために、BET吸着法により測定した比表面積が10m2/g以上、特に50~400m2/gであることが好ましい。補強性シリカ微粉末としては、煙霧質(ヒュームド)シリカ(乾式シリカ)、沈殿シリカ(湿式シリカ)が例示され、中でも煙霧質シリカ(乾式シリカ)が好ましい。
【0051】
これらの使用可能な補強性シリカ微粉末を市販品で例示すると、アエロジル130,200,300(日本アエロジル社製商品名)、Cab-O-sil MS-5,MS-7,HS-5,HS-7(キャボット社製商品名)、SantocelFRC,CS(モンサント社製商品名)、ニップシルVN-3(日本シリカ工業社製商品名)などが挙げられる。また、これらの表面をオルガノポリシロキサン、オルガノポリシラザン、クロロシラン、アルコキシシラン等で疎水化処理してもよい。これらのシリカは単独でも2種以上併用してもよい。
【0052】
上記補強性シリカ微粉末は、圧縮永久歪をより良好にし、体積抵抗率の経時上昇変化をさらに抑制する観点から、シリコーンゴム組成物への添加量は少ない方が望ましい。
【0053】
より良好な体積抵抗率や圧縮永久歪を得つつ、上記補強性シリカ微粉末を配合するには、シリコーンゴム組成物中の(A)成分のオルガノポリシロキサン100質量部に対して0~5質量部、特に0~3質量部の配合量とすることが好ましい。なお、配合量の下限値は、0.1質量部以上とすることができる。
【0054】
[その他の無機質充填材など]
また、補強性シリカ微粉末以外の無機質充填材としては、珪藻土、パーライト、マイカ、炭酸カルシウム、ガラスフレーク、中空フィラーなどが挙げられる。
【0055】
これら無機質充填材は、シラン系カップリング剤又はその部分加水分解物、アルキルアルコキシシラン又はその部分加水分解物、有機シラザン類、チタネート系カップリング剤、オルガノポリシロキサンオイル、加水分解性官能基含有オルガノポリシロキサン等により表面処理されたものであってもよい。これらの処理は、無機質充填材自体を予め処理しても、あるいはオイルとの混合時に処理を行ってもよい。
【0056】
配合量は、シリコーンゴム組成物中の(A)成分のオルガノポリシロキサン100質量部に対して0~400質量部程度とすることが好ましい。
【0057】
また、必要に応じて、アミン化合物のような窒素含有化合物や、エチニル基を有するアセチレンアルコール類のようなアセチレン化合物、ホスフィンなどの有機リン化合物、スルフィドなどの有機硫黄化合物等のヒドロシリル化反応制御剤、各種添加剤、難燃剤、耐熱剤等を配合することも任意である。
【0058】
[付加硬化型液状シリコーンゴム組成物の調製及びその成形]
本発明の付加硬化型液状シリコーンゴム組成物は、ニーダー、プラネタリーミキサー等の通常の混合攪拌器、混練器等を用いて、上記(A)~(E)成分の他、必要に応じてその他の成分(補強性シリカ微粉末及びその他の無機質充填材)を均一に混合することにより調製することができる。
【0059】
本発明のシリコーンゴム組成物の成形方法は、注型成形、射出成形、コーティングなどの方法があり、硬化条件としては100~300℃の温度で10秒~1時間の範囲のプレスキュアーが好適に採用される。また、圧縮永久歪を低下させる原因となる低分子シロキサン成分を低減させる等の目的で、成形後、更に120~250℃のオーブン内で30分~70時間程度のポストキュアー(2次キュアー)を行ってもよい。
【0060】
<電子写真式画像形成部材>
また本発明では、上述の付加硬化型液状シリコーンゴム組成物の硬化物からなる弾性層を有するものである電子写真式画像形成部材を提供する。このような電子写真式画像形成部材は、定着ロール及び定着ベルトから選ばれる部材であることが好ましい。
【0061】
例えば、芯金の外周面に本発明のシリコーンゴム組成物の硬化物であるシリコーンゴム層を被覆した単層のロールや、耐熱性樹脂又は金属からなる基材の表裏面上に本発明のシリコーンゴム組成物の硬化物であるシリコーンゴム層を被覆した単層のベルトとして使用してもよいし、あるいはポリイミド樹脂、ウレタン樹脂、フッ素系樹脂などの樹脂を更にシリコーンゴム層の上に被覆したロールやベルトとして使用してもよい。その場合のシリコーンゴム層は表面(外周面)に1層のみの被覆でもよいし、2層以上の複層コーティングであってもよい。中でもロールやベルトの最表面にウレタン樹脂やフッ素系樹脂などを被覆したものが、耐摩耗性などの耐久性の点から好ましい。
【0062】
ここで、芯金又は基材の材質としては、鉄、ステンレススチール、アルミニウム、ポリアミド/ポリイミド樹脂、PEEK(ポリエーテルエーテルケトン)から選ばれるものであることが好ましい。
【0063】
また、フッ素系樹脂としては、フッ素系樹脂コーティング材やフッ素系樹脂チューブなどを用いることができ、フッ素系樹脂コーティング材としては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン樹脂(PTFE)のラテックスや、ダイエルラテックス(ダイキン工業社製、フッ素系ラテックス)等が挙げられ、またフッ素系樹脂チューブとしては、市販品を使用し得、例えばポリテトラフルオロエチレン樹脂(PTFE)、テトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体樹脂(PFA)、フッ化エチレン-ポリプロピレン共重合体樹脂(FEP)、ポリフッ化ビニリデン樹脂(PVDF)、ポリフッ化ビニル樹脂などが挙げられるが、これらのうちで特にPFA、PTFEラテックスが好ましい。
【実施例】
【0064】
以下、実施例と比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。なお、以下に記載の粘度とはJIS K 7117-1:1999に記載の回転粘度計によって測定された25℃における数値である。
【0065】
〔実施例1〕
分子鎖両末端がビニルジメチルシロキシ基で封鎖され、アルケニル基量が1.5×10-4mol/g、粘度が500mPa・sのジメチルポリシロキサン(A1)83質量部、分子鎖両末端がトリメチルシロキシ基で封鎖され、アルケニル基量が1.0×10-4mol/g、粘度が15,000mPa・sの側鎖にビニル基を持つジメチルポリシロキサン(A2)20質量部、1-エチニルシクロヘキサノール0.16質量部、塩化白金酸/1,3-ジビニルテトラメチルジシロキサン錯体を白金原子含有量として1質量%含有するジメチルポリシロキサン溶液(C)0.3質量部、BET比表面積が110m2/gである疎水化処理されたヒュームドシリカ(日本アエロジル(株)製R-972)1質量部、粉砕金属珪素粉末(D1)(平均一次粒子径5μm、熱伝導率168W/m・K)200質量部、粉砕炭化珪素粉末(D2)(平均一次粒子径9μm、熱伝導率270W/m・K)60質量部、1,3,5,7-テトラビニルテトラメチルシクロテトラシロキサン(E1)0.01質量部(Pt原子に対し、2モル)、分子鎖両末端がトリメチルシロキシ基で封鎖され、側鎖にケイ素原子結合水素原子を有するジメチルシロキサン・メチルハイドロジェンシロキサン共重合体(B)(ケイ素原子結合水素原子含有量=3.2×10-3mol/g)4.02質量部をこの順序で配合、室温(25℃)にてプラネタリーミキサーで30分間混合して、組成物Aを調製した。次に、調製した組成物Aを120℃で10分のプレスキュアーによってシリコーンゴムシートにした後、200℃で4時間のポストキュアーを行い、JIS K 6249:2003に従って硬さを測定した。結果を表2に示す。
【0066】
次に、保存安定性を確認するため、以下の様に組成物A1と組成物A2を調製した。前記組成物A1とA2は、触媒と架橋剤を別々にして、(E)成分と(C)成分を同じにして、質量比1対1で混合すると前記組成物Aとなるよう下記の配合量で調製した。
【0067】
[組成物A1の調製]
分子鎖両末端がビニルジメチルシロキシ基で封鎖されたジメチルポリシロキサン(A1)44質量部、分子鎖両末端がトリメチルシロキシ基で封鎖され、側鎖にビニル基を持つジメチルポリシロキサン(A2)10質量部、塩化白金酸/1,3-ジビニルテトラメチルジシロキサン錯体を白金原子含有量として1質量%含有するジメチルポリシロキサン溶液(C)0.3質量部、粉砕金属珪素粉末(D1)100質量部、粉砕炭化珪素粉末(D2)30質量部、1,3,5,7-テトラビニルテトラメチルシクロテトラシロキサン(E1)0.01質量部(Pt原子1モルに対し、2モル、BET比表面積が110m2/gである疎水化処理されたヒュームドシリカ(日本アエロジル(株)製R-972)0.5質量部、を室温(25℃)にてプラネタリーミキサーで30分間混合して、組成物A1を調製した。
【0068】
[組成物A2の調製]
次に、分子鎖両末端がビニルジメチルシロキシ基で封鎖されたジメチルポリシロキサン(A1)39質量部、分子鎖両末端がトリメチルシロキシ基で封鎖され、側鎖にビニル基を持つジメチルポリシロキサン(A2)10質量部、分子鎖両末端がトリメチルシロキシ基で封鎖され、側鎖にケイ素原子結合水素原子を有するジメチルシロキサン・メチルハイドロジェンシロキサン共重合体(B)4.02質量部、粉砕金属珪素粉末(D1)100質量部、粉砕炭化珪素粉末(D2)30質量部、1-エチニルシクロヘキサノール0.16質量部、BET比表面積が110m2/gである疎水化処理されたヒュームドシリカ(日本アエロジル(株)製R-972)0.5質量部を室温(25℃)にてプラネタリーミキサーで30分間混合して、組成物A2を調製した。
【0069】
[保存安定性の評価]
次に、組成物A1と組成物A2をそれぞれ密閉し、25℃で12ヵ月、又は80℃で3日保管した。調製初期(25℃で3日)又は保管後に組成物A1と組成物A2を質量比1:1で混合して組成物Aとした後、130℃での硬化性T10、T90を、レオメーターMDR2000(アルファテクノロジーズ社製)により測定し、その結果を表1に記した。硬化性T10、T90とはレオメーターで測定された最大トルク値を100とした場合にその10%のトルク値に到達する時間がT10、最大トルク値の90%のトルク値に到達する時間がT90である。
【0070】
〔実施例2〕
実施例1において、ジメチルシロキサン・メチルハイドロジェンシロキサン共重合体(B)4.02質量部を4.3質量部、1,3,5,7-テトラビニルテトラメチルシクロテトラシロキサン(E1)0.01質量部を0.1質量部(Pt原子に対し、19モル)に置き換えたこと以外は全て同一の処方で組成物Bを調製し、実施例1と同様の評価を行った。保存安定性については80℃3日の条件のみを確認した結果を表2に示す。
【0071】
〔実施例3〕
実施例1において、ジメチルシロキサン・メチルハイドロジェンシロキサン共重合体(B)4.02質量部を4.14質量部、1,3,5,7-テトラビニルテトラメチルシクロテトラシロキサン(E1)0.01質量部を0.05質量部(Pt原子に対し、9モル)に置き換えたこと以外は全て同一の処方で組成物Cを調製し、実施例1と同様の評価を行った。保存安定性については80℃3日の条件のみを確認した結果を表2に示す。
【0072】
〔実施例4〕
実施例1において、ジメチルシロキサン・メチルハイドロジェンシロキサン共重合体(B)4.02質量部を3.99質量部、1,3,5,7-テトラビニルテトラメチルシクロテトラシロキサン(E1)0.01質量部を0.005質量部(Pt原子に対し、1モル)に置き換えたこと以外は全て同一の処方で組成物Dを調製し、実施例1と同様の評価を行った。保存安定性については80℃3日の条件のみを確認した結果を表2に示す。
【0073】
〔実施例5〕
実施例1において、ジメチルシロキサン・メチルハイドロジェンシロキサン共重合体(B)4.02質量部を4.14質量部、1,3,5,7-テトラビニルテトラメチルシクロテトラシロキサン(E1)0.01質量部を下記一般式(I)
【化7】
で示されるアルケニル基含有鎖状オルガノポリシロキサン(E2)0.3質量部(Pt原子に対し、13モル)に置き換えたこと以外は全て同一の処方で組成物Eを調製し、実施例1と同様の評価を行った。保存安定性については80℃3日の条件のみを確認した結果を表2に示す。
【0074】
〔実施例6〕
実施例1において、ジメチルシロキサン・メチルハイドロジェンシロキサン共重合体(B)4.02質量部を3.99質量部、1,3,5,7-テトラビニルテトラメチルシクロテトラシロキサン(E1)0.01質量部を上記一般式(I)で示されるアルケニル基
含有鎖状オルガノポリシロキサン(E2)0.03質量部(Pt原子に対し、1モル)に置き換えたこと以外は全て同一の処方で組成物Fを調製し、実施例1と同様の評価を行った。保存安定性については80℃3日の条件のみを確認した結果を表2に示す。
【0075】
〔実施例7〕
実施例1において、分子鎖両末端がビニルジメチルシロキシ基で封鎖されたジメチルポリシロキサン(A1)83質量部を62質量部、分子鎖両末端がトリメチルシロキシ基で封鎖され、側鎖にビニル基を持つジメチルポリシロキサン(A2)20質量部を38質量部、1-エチニルシクロヘキサノール0.16質量部を0.17質量部、BET比表面積が110m2/gである疎水化処理されたヒュームドシリカ(日本アエロジル(株)製R-972)1質量部を添加しないこと、粉砕金属珪素粉末(D1)(平均一次粒子径5μm)200質量部を105質量部、粉砕炭化珪素粉末(D2)(平均一次粒子径9μm)60質量部を添加しないこと、1,3,5,7-テトラビニルテトラメチルシクロテトラシロキサン(E1)0.01質量部を0.005質量部(Pt原子に対し、1モル)、分子鎖両末端がトリメチルシロキシ基で封鎖され、側鎖にケイ素原子結合水素原子を有するジメチルシロキサン・メチルハイドロジェンシロキサン共重合体(B)4.02質量部を3.25質量部に置き換えたこと以外は全て同一の処方で組成物Gを調製し、実施例1と同様の評価を行った。保存安定性については80℃3日の条件のみを確認した結果を表2に示す。
【0076】
〔実施例8〕
実施例1において、分子鎖両末端がビニルジメチルシロキシ基で封鎖されたジメチルポリシロキサン(A1)83質量部を62質量部、分子鎖両末端がトリメチルシロキシ基で封鎖され、側鎖にビニル基を持つジメチルポリシロキサン(A2)20質量部を38質量部、1-エチニルシクロヘキサノール0.16質量部を0.17質量部、BET比表面積が110m2/gである疎水化処理されたヒュームドシリカ(日本アエロジル(株)製R-972)1質量部を添加しないこと、粉砕金属珪素粉末(D1)(平均一次粒子径5μm)200質量部を105質量部、粉砕炭化珪素粉末(D2)(平均一次粒子径9μm)60質量部を添加しないこと、1,3,5,7-テトラビニルテトラメチルシクロテトラシロキサン(E1)0.01質量部を上記一般式(I)で示されるアルケニル基含有鎖状
オルガノポリシロキサン(E2)0.03質量部(Pt原子に対し、1モル)、分子鎖両末端がトリメチルシロキシ基で封鎖され、側鎖にケイ素原子結合水素原子を有するジメチルシロキサン・メチルハイドロジェンシロキサン共重合体(B)4.02質量部を3.25質量部に置き換えたこと以外は全て同一の処方で組成物Hを調製し、実施例1と同様の評価を行った。保存安定性については80℃3日の条件のみを確認した結果を表2に示す。
【0077】
〔比較例1〕
分子鎖両末端がビニルジメチルシロキシ基で封鎖されたジメチルポリシロキサン(A1)83質量部、分子鎖両末端がトリメチルシロキシ基で封鎖され、側鎖にビニル基を持つジメチルポリシロキサン(A2)20質量部、1-エチニルシクロヘキサノール0.16質量部、塩化白金酸/1,3-ジビニルテトラメチルジシロキサン錯体を白金原子含有量として1質量%含有するジメチルポリシロキサン溶液(C)0.3質量部、BET比表面積が110m2/gである疎水化処理されたヒュームドシリカ(日本アエロジル(株)製R-972)1質量部、粉砕金属珪素粉末(D1)200質量部、粉砕炭化珪素粉末(D2)60質量部、側鎖にケイ素原子結合水素原子を有するジメチルシロキサン・メチルハイドロジェンシロキサン共重合体(B)3.99質量部を室温にてプラネタリーミキサーで30分間混合して、組成物Iを調製し、実施例1と同様の評価を行った。結果を表2に示す。
【0078】
次に、保存安定性を確認するため、以下の様に組成物I1と組成物I2を調製した。前記組成物I1とI2は、触媒と架橋剤を別々にして、質量比1対1で混合すると前記組成物Iとなるよう下記の配合量で調製した。
【0079】
[組成物I1の調製]
分子鎖両末端がビニルジメチルシロキシ基で封鎖されたジメチルポリシロキサン(A1)44質量部、分子鎖両末端がトリメチルシロキシ基で封鎖され、側鎖にビニル基を持つジメチルポリシロキサン(A2)10質量部、塩化白金酸/1,3-ジビニルテトラメチルジシロキサン錯体を白金原子含有量として1質量%含有するジメチルポリシロキサン溶液(C)0.3質量部、粉砕金属珪素粉末(D1)100質量部、粉砕炭化珪素粉末(D2)30質量部、BET比表面積が110m2/gである疎水化処理されたヒュームドシリカ(日本アエロジル(株)製R-972)0.5質量部をこの順序で配合、室温にてプラネタリーミキサーで30分間混合して、組成物I1を調製した。
【0080】
[組成物I2の調製]
次に、分子鎖両末端がビニルジメチルシロキシ基で封鎖されたジメチルポリシロキサン(A1)39質量部、分子鎖両末端がトリメチルシロキシ基で封鎖され、側鎖にビニル基を持つジメチルポリシロキサン(A2)10質量部、分子鎖両末端がトリメチルシロキシ基で封鎖され、側鎖にケイ素原子結合水素原子を有するジメチルシロキサン・メチルハイドロジェンシロキサン共重合体(B)3.99質量部、粉砕金属珪素粉末(D1)100質量部、粉砕炭化珪素粉末(D2)30質量部、1-エチニルシクロヘキサノール0.16質量部、BET比表面積が110m2/gである疎水化処理されたヒュームドシリカ(日本アエロジル(株)製R-972)0.5質量部を室温にてプラネタリーミキサーで30分間混合して、組成物I2を調製した。
【0081】
[保存安定性の評価]
次に、組成物I1と組成物I2をそれぞれ密閉し、80℃で3日保管した。調製初期(25℃で3日)又は保管後に組成物I1と組成物I2を1:1で混合して組成物Iとした後、130℃での硬化性T10、T90を、レオメーターMDR2000(アルファテクノロジーズ社製)により測定した。結果を表1に示す。
【0082】
〔比較例2〕
比較例1において、1-エチニルシクロヘキサノール0.16質量部を0.32質量部、塩化白金酸/1,3-ジビニルテトラメチルジシロキサン錯体を白金原子含有量として1質量%含有するジメチルポリシロキサン溶液(C)0.3質量部を0.75質量部に置き換えたこと以外は全て同一の処方で組成物Jを調製し、実施例1と同様の評価を行った。保存安定性については80℃3日の条件のみを確認した結果を表2に示す。
【0083】
〔比較例3〕
比較例1において下記一般式(II)
【化8】
で示されるアルコキシ基含有シロキサン化合物8質量部、を添加したこと以外は全て同一の処方で組成物Kを調製し、実施例1と同様の評価を行った。保存安定性については80℃3日の条件のみを確認した結果を表2に示す。
【0084】
〔比較例4〕
比較例1において、粉砕炭化珪素粉末(D2)60質量部を粉砕アルミナ(D3)(平均一次粒子径3μm、熱伝導率36W/m・K)75質量部に置き換えたこと以外は全て同一の処方で組成物Lを調製し、実施例1と同様の評価を行った。保存安定性については80℃3日の条件のみを確認した結果を表2に示す。
【0085】
〔比較例5〕
比較例1において、粉砕炭化珪素粉末(D2)60質量部を真球状アルミナ(D4)(平均一次粒子径3μm、熱伝導率36W/m・K)75質量部に置き換えたこと以外は全て同一の処方で組成物Mを調製し、実施例1と同様の評価を行った。保存安定性については80℃3日の条件のみを確認した結果を表2に示す。
【0086】
〔比較例6〕
比較例1において、分子鎖両末端がビニルジメチルシロキシ基で封鎖されたジメチルポリシロキサン(A1)83質量部を62質量部、分子鎖両末端がトリメチルシロキシ基で封鎖され、側鎖にビニル基を持つジメチルポリシロキサン(A2)20質量部を38質量部、1-エチニルシクロヘキサノール0.16質量部を0.17質量部、BET比表面積が110m2/gである疎水化処理されたヒュームドシリカ(日本アエロジル(株)製R-972)1質量部を添加しないこと、粉砕金属珪素粉末(D1)200質量部を105質量部、粉砕炭化珪素粉末(D2)60質量部を添加しないこと、側鎖にケイ素原子結合水素原子を有するジメチルシロキサン・メチルハイドロジェンシロキサン共重合体(B)3.99質量部を3.25質量部に置き換えたこと以外は全て同一の処方で組成物Nを調製し、実施例1と同様の評価を行った。保存安定性については80℃3日の条件のみを確認した結果を表2に示す。
【0087】
【0088】
【0089】
実施例1~8では、いずれも十分な量の(E)成分が含まれているため(D)成分の(C)成分への悪影響を防ぐことで保存安定性が良く、良好な熱伝導率を有しながらも、保存後に硬化性が悪化しなかった。それと比べて(E)成分を含まない比較例1~6は保存後に硬化性遅延が顕著に発生した。