(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-07
(45)【発行日】2025-02-18
(54)【発明の名称】電極活物質、及び当該電極活物質の製造方法
(51)【国際特許分類】
C01G 53/00 20060101AFI20250210BHJP
H01M 4/131 20100101ALI20250210BHJP
H01M 4/505 20100101ALI20250210BHJP
H01M 4/525 20100101ALI20250210BHJP
【FI】
C01G53/00 A
H01M4/131
H01M4/505
H01M4/525
(21)【出願番号】P 2022525794
(86)(22)【出願日】2020-10-15
(86)【国際出願番号】 EP2020079103
(87)【国際公開番号】W WO2021083686
(87)【国際公開日】2021-05-06
【審査請求日】2023-09-25
(32)【優先日】2019-10-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(32)【優先日】2019-11-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】508020155
【氏名又は名称】ビーエーエスエフ ソシエタス・ヨーロピア
【氏名又は名称原語表記】BASF SE
【住所又は居所原語表記】Carl-Bosch-Strasse 38, 67056 Ludwigshafen am Rhein, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100100354
【氏名又は名称】江藤 聡明
(74)【代理人】
【識別番号】100167106
【氏名又は名称】倉脇 明子
(74)【代理人】
【識別番号】100194135
【氏名又は名称】山口 修
(74)【代理人】
【識別番号】100206069
【氏名又は名称】稲垣 謙司
(74)【代理人】
【識別番号】100185915
【氏名又は名称】長山 弘典
(72)【発明者】
【氏名】ベルグナー,ベンヤミン,ヨハネス,ヘルベルト
(72)【発明者】
【氏名】トイフル,トビアス,マクシミリアン
(72)【発明者】
【氏名】ベルク,ラファエル,ベンヤミン
【審査官】森坂 英昭
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-178701(JP,A)
【文献】国際公開第2017/135415(WO,A1)
【文献】特開平10-081521(JP,A)
【文献】国際公開第2019/117281(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01G 53/00 - 53/12
H01M 4/131
H01M 4/505
H01M 4/525
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
2~16μmの範囲の平均粒径D50を有するマンガン複合(オキシ)水酸化物を製造する方法であって、
(a)ニッケル及びマンガン、及び任意にAl及びMgのうちの少なくとも1種、又はニッケル及びマンガン以外の遷移金属の塩を含有する水溶液であって、金属の少なくも50モル%がマンガンである、水溶液を
(b)アルカリ金属水酸化物の水溶液、及び
(c)有機酸又はそのアルカリ塩若しくはアンモニウム塩であって、前記有機酸が1個の分子当たり少なくとも2個の官能基を有し、前記官能基のうちの少なくとも1つがカルボキシレート基である、有機酸又はそのアルカリ塩若しくはアンモニウム塩と
組み合わせる工程(単数又は複数)を含み、
前記マンガン複合(オキシ)水酸化物が、一般式(I)
(Ni
aCo
bMn
c)
1-dM
1
d (I)
(式中、aは、0.20~0.40の範囲であり、
bは、0~0.15の範囲であり、
cは、0.50~0.75の範囲であり、
dは、0~0.015の範囲であり、
M
1は、Al、Ti、Zr、Mo、Fe、Nb、及びMgから選択され、
a+b+c=1.0である)
による遷移金属とさらなる金属との組み合わせを含有
し、
前記組み合わせる工程が、希ガス及びN
2
から選択される不活性ガス下で行われる、
方法。
【請求項2】
有機酸又はそのアルカリ塩若しくはアンモニウム塩が、それぞれ、少なくとも2個の異なる官能基を有し、そのうち、1つの前記官能基がカルボキシレート基であり、もう1つの前記官能基がヒドロキシル基及びアミノ基から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記有機酸が、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸及びグリシンから選択される、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
2~16μmの範囲の平均粒径(D50)を有する粒子状のマンガン複合(オキシ)水酸化物であって、金属部分が以下の一般式を有し、
(Ni
aCo
bMn
c)
1-dM
1
d (I)
(式中、aは、0.20~0.40の範囲であり、
bは、0~0.15の範囲であり、
cは、0.50~0.75の範囲であり、
dは、0~0.015の範囲であり、
M
1は、Al、Ti、Zr、Mo、Fe、Nb、及びMgから選択され、
a+b+c=1.0である)
前記複合(オキシ)水酸化物が、20~300m
2/gの範囲の、DIN ISO 9277(2014)に従って決定された比表面積(BET)、及び0.06~0.5cm
3/gの範囲の、DIN 66134:1998に従って決定されたメソ孔容積を有する、複合(オキシ)水酸化物。
【請求項5】
2~7.5nmの範囲の、DIN 66134:1998に従って2~50nmの範囲で決定された平均細孔径を有する、請求項4に記載の複合(オキシ)水酸化物。
【請求項6】
少なくとも0.4の半値全幅(FWHM)を有する2θ=7.5°と9.5°の間の回折ピークを有するCuKαX線を用いたX線回折パターンを有し、前記回折ピークが、単一の回折ピーク又は少なくとも2つの回折ピークのたたみ込みから構成することができる、請求項4又は5に記載の複合(オキシ)水酸化物
。
【請求項7】
以下の工程、
(α)請求項4から6のいずれか一項に記載のマンガン複合(オキシ)水酸化物をリチウム源と混合する工程
、
(β)混合物を800~980℃の範囲の温度で焼成する工程
(γ)得られたリチウム化酸化物を鉱酸又はM
2
の化合物の水溶液又はそれらの組み合わせと接触させて、水を除去する工程であって、M
2
がAl、Ti、Zr、Mo、Fe、Nb、B及びMgから選択される工程、及び
(δ)得られた固体残留物を熱処理する工程
を含む、リチウムイオン電池用のカソード活物質を製造する方法。
【請求項8】
水の除去が固液分離工程によって行われる、請求項
7に記載の方法。
【請求項9】
2~16μmの範囲の平均粒径(D50)を有する粒子状のカソード活物質であって、このカソード活物質が組成Li
1+xTM
1-xO
2を有し、xが0.1~0.2の範囲であり、TMが一般式(II)による元素の組み合わせであり、金属部分が以下の一般式を有し、
(Ni
aCo
bMn
c)
1-d-eM
1
dM
2
e (II)
(式中、aは、0.20~0.40の範囲であり、
bは、0~0.15の範囲であり、
cは、0.50~0.75の範囲であり、
dは、0~0.015の範囲であり、
eは、0~0.015の範囲であり、
M
1は、Al、Ti、Zr、Mo、Fe、Nb、及びMgから選択され、
M
2は、Al、Ti、Zr、Mo、Fe、Nb、B、W、及びMgから選択され、
a+b+c=1.0である)
前記複合酸化物が、0.5m
2/g~10m
2/gの範囲の比表面積(BET)、及び少なくとも2.7m
2/gのプレス密度を有する、カソード活物質。
【請求項10】
Mo-Kα線を用いた対応するX線回折パターンの29.8°~30.6°の間の反射ピークについて、リートベルト法により得られた構造歪みが0.8%以下である、請求項
9に記載のカソード活物質。
【請求項11】
(1)少なくとも1つの請求項
9又は
10に記載の物質、
(2)導電状態の炭素、及び
(3)バインダー
を含有する、電極。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2~16μmの範囲の平均粒径D50を有するマンガン複合(オキシ)水酸化物を製造する方法に関し、この方法は、
(a)ニッケル及びマンガン、及び任意にAl及びMgのうちの少なくとも1種、又はニッケル及びマンガン以外の遷移金属の塩を含有する水溶液であって、金属の少なくも50モル%がマンガンである、水溶液を
(b)アルカリ金属水酸化物の水溶液、及び
(c)有機酸又はそのアルカリ塩若しくはアンモニウム塩であって、前記有機酸が1個の分子当たり少なくとも2個の官能基を有し、この官能基のうちの少なくとも1つがカルボキシレート基である、有機酸又はそのアルカリ塩若しくはアンモニウム塩と
組み合わせる工程(単数又は複数)を含む。
【0002】
さらに、本発明は、前駆体、及びこの前駆体から作られたカソード活物質に関するものである。
【背景技術】
【0003】
リチウム化した遷移金属酸化物は、現在、リチウムイオン電池の電極活物質として使用されている。充電密度、比エネルギーなどの特性だけでなく、リチウムイオン電池の寿命又は適用性に悪影響を及ぼすサイクル寿命の低下及び容量損失などの別の特性も向上させるために、過去数年間に渡って広範な研究開発が行われてきた。製造方法を改善するために、さらなる努力が行われている。
【0004】
現今議論されている多くの電極活物質は、リチウム化ニッケル-コバルト-マンガン酸化物(「NCM材料」)又はリチウム化ニッケル-コバルト-アルミニウム酸化物(「NCA材料」)のタイプのものである。
【0005】
リチウムイオン電池のためのカソード材料の典型的な製造方法において、まず、遷移金属を炭酸塩、酸化物として、又は好ましくは塩基性であってもなくてもよい水酸化物として共沈させることにより、いわゆる前駆体を形成する。次に、この前駆体を、リチウム塩、例えばLiOH、Li2O、又は特にLi2CO3(これらに限定されるものではない)と混合して、高温でか焼(焼成)する。リチウム塩(単数又は複数)は、水和物(単数又は複数)として、又は脱水形態で使用することができる。一般に前駆体の熱処理又は加熱処理とも称されるか焼又は焼成は通常、600~1,000℃の範囲の温度で行われる。熱処理中に、固相反応が起こり、電極活物質を形成する。水酸化物又は炭酸塩を前駆体として使用する場合、固相反応の後に水又は二酸化炭素を除去する。熱処理は、オーブン又はキルンの加熱ゾーンで実行される。
【0006】
エネルギー密度、容量低下などの充放電性能など、カソード活物質の様々な特性の改善について多くの研究が行われてきた。しかしながら、多くのカソード活物質は、限られたサイクル寿命及び電圧低下に悩まされる。これは、特に多くのMnリッチ(Mnの量が多い)カソード活物質に当てはまる。
【0007】
EP 3 486 980では、高いエネルギー密度保持率を有する特定の高マンガン材料が開示されている。しかしながら、開示されたカソード活物質は、それ自体、限られたエネルギー密度に悩まされる。
【0008】
高Mn含有量を有する多くの水酸化物ベース前駆体の形態は、改善の余地を残しており、例えば、Wangら、J.of Power Sources 2015,274,151を参照されたい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【非特許文献】
【0010】
【文献】Wangら、J.of Power Sources 2015,274,151
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
したがって、本発明の目的は、優れた形態に加えて、高い体積エネルギー密度及び高いエネルギー密度保持率の両方を有するカソード活物質を提供することであった。さらに、本発明の目的は、高い体積エネルギー密度及び高いエネルギー密度保持率の両方を有するカソード活物質の製造方法を提供することであった。さらに、本発明の目的は、高い体積エネルギー密度及び高いエネルギー密度保持率の両方を有するカソード活物質の用途を提供することであった。
【課題を解決するための手段】
【0012】
したがって、以下で本発明の方法、又は本発明による方法、又は本発明の共沈として定義される、冒頭で定義された方法が見出された。以下、本発明方法について、より詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】Cu-Kα線を用いたC-p-CAM.1のX線回折パターンを示す図である。
【
図2】Cu-Kα線を用いたp-CAM.2のX線回折パターンを示す図である。
【
図3】Cu-Kα線を用いたp-CAM.3のX線回折パターンを示す図である。
【
図4】Cu-Kα線を用いたp-CAM.4のX線回折パターンを示す図である。
【
図5】C-p-CAM.1の窒素物理吸着等温線を示す図である。
【
図6】p-CAM.2の窒素物理吸着等温線を示す図である。
【
図7】p-CAM.3の窒素物理吸着等温線を示す図である。
【
図8】p-CAM.4の窒素物理吸着等温線を示す図である。
【
図9】Mo-Kα線を用いたC-CAM.1のX線回折パターンを示す図である。
【
図10】Mo-Kα線を用いたCAM.2のX線回折パターンを示す図である。
【
図11】Mo-Kα線を用いたCAM.3のX線回折パターンを示す図である。
【
図12】Mo-Kα線を用いたCAM.4のX線回折パターンを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
工程(a)では、マンガン、ニッケル、及び任意にCo及びM1の少なくとも1つの元素の粒子状の水酸化物、酸化物又はオキシ水酸化物(略して:(オキシ)水酸化物)(以下「前駆体」とも称する)を製造する。前記前駆体は、マンガン、ニッケル、及び任意にCo及びM1の少なくとも1つの元素の水酸化物をアルカリ金属水酸化物と共沈させることによって得られる。前記前駆体は、Al及びMgのうちの少なくとも1つ、又はニッケル及びマンガン以外の遷移金属を含んでもよい。前記前駆体中の金属の少なくとも50モル%がマンガンである。
【0015】
好ましい実施態様において、前記マンガン複合水酸化物は、一般式(I)による遷移金属とさらなる金属との組み合わせを含有する
(NiaCobMnc)1-dM1
d (I)
(式中、aは、0.20~0.40、好ましくは0.20~0.35の範囲であり、
bは、0~0.15の範囲であり、
cは、0.50~0.75、好ましくは0.60~0.70の範囲であり、
dは、0~0.015の範囲であり、
M1は、Al、Ti、Zr、Mo、Fe、Nb、及びMgから選択され、
a+b+c=1.0である)。
【0016】
本発明の一実施態様において、前駆体は、2~16μm、好ましくは6~15μmの範囲の平均粒径D50を有する。本発明の文脈における平均粒径D50は、例えば光散乱によって決定することができる、体積に基づく粒径の平均値を指す。
【0017】
本発明の一実施態様において、前駆体の粒径分布の幅([(d90-d10)/(d50)直径]として表される)は、少なくとも0.61、例えば0.61~2、好ましくは0.65~1.5である。
【0018】
本発明の一実施態様において、M1は、前記前駆体中の金属の合計に対して、0.1~2.5モル%の範囲のMgを含む。
【0019】
本発明の一実施態様において、前記前駆体は、アニオン、例えば硫酸塩の総数に基づいて、0.01~10モル%、好ましくは0.3~5モル%の、水酸化物又は酸化物イオン以外のアニオンを有する。
【0020】
本発明の一実施態様において、前駆体は、マンガン、ニッケル、及び任意にコバルト及びM1の水溶性塩の水溶液(溶液(a))を、アルカリ金属水酸化物の水溶液(溶液(b))、及び1個の分子当たり少なくとも2個の官能基を有する有機酸又はそのアルカリ塩若しくはアンモニウム塩(c)と組み合わせることによって製造される。1個の分子当たり少なくとも2個の官能基を有する前記有機酸又はそのアルカリ塩若しくはアンモニウム塩は、それぞれ、有機酸(c)又は有機酸(c)の塩とも呼ばれ、そのまま又は水溶液で添加するか、又はプレミックスの形態で溶液(a)又は溶液(b)と組み合わせてもよい。
【0021】
マンガン及びニッケル、又はニッケル及びマンガン以外の金属の水溶性塩という用語は、25℃蒸留水で25g/l以上の溶解度を示す塩を指し、その量は結晶水及びアクオ錯体から生じる水を省略して決定される。ニッケル、コバルト及びマンガンの水溶性塩は、好ましくはNi2+及びMn2+のそれぞれの水溶性塩であってもよい。ニッケル及びマンガンの水溶性塩の例としては、硫酸塩、硝酸塩、酢酸塩及びハロゲン化物(特に塩化物)が挙げられる。硝酸塩及び硫酸塩が好ましく、中でも硫酸塩がより好ましい。
【0022】
本発明の一実施態様において、溶液(a)の濃度は広い範囲内で選択することができる。好ましくは、総濃度は、合計で、1kgの溶液当たり1~1.8モルの遷移金属、より好ましくは1kgの溶液当たり1.5~1.7モルの遷移金属の範囲内にあるように選択される。本明細書で使用される「遷移金属塩」とは、ニッケル及びマンガン、及び該当する限りコバルト及びM1の水溶性塩を指し、他の金属、例えばマグネシウム又はアルミニウム、又はニッケル及びマンガン以外の遷移金属の塩を含んでもよい。
【0023】
水溶性塩の他の例は、ミョウバン、KAl(SO4)2である。
【0024】
溶液(a)は、2~6の範囲のpH値を有してもよい。より高いpH値が望まれる実施態様では、アンモニアが溶液(a)に添加されてもよい。しかしながら、アンモニアを添加しないことが好ましい。
【0025】
溶液(b)は、アルカリ金属水酸化物の水溶液である。アルカリ金属水酸化物の例としては、水酸化リチウムが挙げられ、水酸化カリウム及び水酸化ナトリウムと水酸化カリウムの組み合わせが好ましく、水酸化ナトリウムがさらにより好ましい。
【0026】
溶液(b)は、例えば、溶液又は各アルカリ金属水酸化物のエージングにより、ある程度の量の炭酸塩を含有してもよい。
【0027】
溶液(b)のpH値は、好ましくは13以上、例えば14.5である。
【0028】
さらに、有機酸(c)又は有機酸(c)のアルカリ金属塩、例えば有機酸(c)のアルカリ金属塩又はアンモニウム塩が形成される。前記有機酸は、1個の分子あたり少なくとも2個の官能基を有し、そのうちの1つはカルボン酸基である。アンモニアは、溶液(a)及び(b)を組み合わせる工程の間に使用されてもよく、使用されなくてもよい。このような実施態様では、有機酸(c)又は有機酸(c)のアンモニウム塩若しくはアルカリ金属塩を添加することが好ましい。
【0029】
有機酸(c)又は有機酸(c)のアルカリ金属塩は、1個の分子あたり少なくとも2個の官能基を有し、そのうちの1つはカルボン酸基であり、好ましくは2~5個の官能基を有し、少なくとも1つはカルボキシレート基である。
【0030】
本発明の一実施態様において、前記有機酸又はそのそれぞれの塩は、1個の分子あたりカルボキシル基、ヒドロキシル基及びアミノ基から選択される少なくとも2個の官能基を有し、少なくとも1つがカルボキシレート基である。2個の同一の官能基を有する有機酸(c)の例としては、アジピン酸、シュウ酸、コハク酸及びグルタル酸が挙げられる。
【0031】
好ましくは、第2の官能基、及び該当する場合にさらなる官能基は、カルボキシル基、ヒドロキシル基及びアミノ基から選択される。本発明の好ましい実施態様において、前記有機酸(c)又はそのアルカリ塩若しくはアンモニウム塩は、それぞれ少なくとも2個の異なる官能基を有し、そのうちの少なくとも1つはカルボキシレート基であり、少なくとも1つはヒドロキシル基及びアミノ基から選択される。
【0032】
本発明の一実施態様において、前記有機酸(c)は、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸、及びグリシンから選択される。
【0033】
本発明の一実施態様において、溶液(a)及び(b)を組み合わせる工程の終了時のpH値は、それぞれ23℃の母液で測定して、8~12、好ましくは9.5~12.0の範囲である。
【0034】
本発明の一実施態様において、酸(c)又はそのそれぞれのアルカリ金属塩若しくはアンモニウム塩のモル量は、ニッケル及びマンガン、及び該当する範囲でAl及びMg及びニッケルとマンガン以外の遷移金属の合計に対して、0.1~30モル%の範囲であり、0.5~20モル%が好ましく、0.7~16モル%がより好ましい。
【0035】
本発明の一実施態様において、本発明の共沈は、アンモニアの存在下で行われる。前記アンモニアは、溶液(d)として、又は溶液(a)及び/又は(b)のいずれかと共に、又は有機酸(c)と共に添加されてもよい。しかしながら、本発明の方法は、アンモニアの非存在下で行われることが好ましい。
【0036】
本発明の一実施態様において、本発明の共沈は、10~85℃の範囲の温度、好ましくは20~60℃の範囲の温度で行われる。
【0037】
本発明の一実施態様において、本発明の共沈は、不活性ガス、例えばアルゴンのような希ガス、又はN2下で行われる。
【0038】
本発明の一実施態様において、ニッケル及びマンガン及び任意の金属に対してわずかに過剰の、例えば0.1~10モル%のアルカリ金属水酸化物が適用される。
【0039】
本発明の一実施態様において、有機酸(c)又はそのアンモニウム塩若しくはアルカリ金属塩の添加により、本発明の共沈で形成される母液において、Mn溶解度(gのMn/gの水)は、Niの溶解度(gのNi/gの水)の少なくとも半分、より好ましくはNiの溶解度(gのNi/gの水)の少なくとも100%となるが、Niの溶解度(gのNi/gの水)の最大200%である。
【0040】
本発明の一実施態様において、有機酸(c)又はそのアンモニウム塩若しくはアルカリ金属塩の添加により、本発明の共沈で形成される母液において、沈殿容器中のMn溶解度(gのMn/gの水)は、少なくとも2ppm、好ましくは少なくとも10ppm、より好ましくは少なくとも50ppmである。好ましくは、母液中でMnの最大溶解度は3,000ppmである。
【0041】
溶液(a)及び(b)を有機酸(c)又は有機酸(c)のアルカリ金属塩と組み合わせた後、スラリーが形成される。固体は、固液分離法、例えばデカンテーション、濾過、遠心分離機によって分離されてもよく、濾過が好ましい。固体残留物の1つ以上の洗浄工程が好ましい。
【0042】
その後、残留物は、例えば空気下、100~120℃の範囲の温度で乾燥される。好ましくは、前駆体の残留水分は、1質量%未満、例えば0.01~0.5質量%である。前駆体は本発明の共沈から得られる。
【0043】
本発明のさらなる態様は、リチウムイオン電池用の電極活物質を製造するための前駆体に関するものである。具体的には、本発明は、2~16μmの範囲の平均粒径(D50)を有する粒子状のマンガン複合(オキシ)水酸化物に関し、ここで、金属部分が一般式を有し、
(NiaCobMnc)1-dM1
d (I)
(式中、aは、0.20~0.40、好ましくは0.20~0.35の範囲であり、
bは、0~0.15の範囲であり、
cは、0.50~0.75、好ましくは0.60~0.70の範囲であり、
dは、0~0.015の範囲であり、
M1は、Al、Ti、Zr、Mo、Fe、Nb、及びMgから選択され、
a+b+c=1.0である)
前記マンガン複合(オキシ)水酸化物が、20~300m2/gの範囲の、DIN ISO 9277(2014)に従って決定された比表面積(BET)、及び0.06~0.5cm3/gの範囲の、DIN 6613:19984に従って決定された細孔容積を有する。70~200m2/gの範囲の比表面積、及び0.1~0.28cm3/gの範囲の細孔容積が好ましい。
【0044】
前記マンガン複合(オキシ)水酸化物は、以下で「本発明の前駆体」又は「本発明による前駆体」とも称される。
【0045】
本発明の文脈における(オキシ)水酸化物は、等量の酸化物アニオン及び水酸化物アニオンを有する化合物だけでなく、水酸化物及びそれぞれの金属の任意の酸化物アニオン含有水酸化物も指すものである。
【0046】
一部の金属は、遍在するもの、例えばナトリウム、カルシウム又は亜鉛であり、微量のそれらは事実上どこにでも存在するが、そのような微量は本発明の明細書において考慮されない。この文脈における微量とは、本発明の前駆体の全金属含有量に対して0.05モル%以下の量を意味する。
【0047】
本発明の好ましい実施態様において、本発明の前駆体は、6~15μmの範囲の平均粒径D50を有する。
【0048】
本発明の一実施態様において、本発明の前駆体の粒径分布の幅([(d90-d10)/(d50)直径]として表される)は、少なくとも0.61、例えば0.61~2、好ましくは0.65~1.5である。
【0049】
本発明の一実施態様において、本発明の前駆体は、2~7.5nmの範囲の、DIN 66134:1998に従って2~50nmの範囲で決定された平均細孔径を有する。
【0050】
本発明の一実施態様において、CuKαX線を用いた本発明の前駆体のX線回折パターンは、2θ=7.5°と9.5°の間に少なくとも0.4、好ましくは1.0の半値全幅(FWHM)を有する回折ピークを示し、この回折ピークは単一の回折ピーク又は少なくとも2つの回折ピークのたたみ込み(convolution)から構成することができる。
【0051】
本発明の前駆体は、単峰性又は二峰性の粒径分布を有してもよい。
【0052】
本発明の一実施態様において、M1は、本発明の前駆体中の金属の合計に対して0.1~2.5モル%の範囲のMgを含む。
【0053】
本発明の一実施態様において、本発明の前駆体は、アニオンの総数に基づいて、0.01~10モル%、好ましくは0.3~5モル%の、水酸化物イオン又は酸化物イオン以外のアニオン、例えば炭酸塩及び/又は硫酸塩を含有する。
【0054】
本発明の前駆体は、電極活物質の製造、特にリチウムイオン電池用のカソード活物質の製造のための出発物質として非常に適している。したがって、本発明のさらなる態様は、リチウムイオン電池用のカソード活物質の製造のために本発明の前駆体を使用する方法である。本発明のさらなる態様は、以下で本発明の製造方法又は本発明による製造方法とも称される、カソード活物質の製造方法である。前記本発明の製造方法は、以下の工程、
(α)本発明の前駆体をリチウム源と混合する工程(以下で工程(α)とも称される)、及び
(β)混合物を800~980℃の範囲の温度で焼成する工程(以下で工程(β)とも称される)
を含む。
【0055】
工程(α)では、リチウム源が前駆体に添加される。本発明の製造方法の工程(α)を行うために、例えば、前駆体を、Li2O、LiOH及びLi2CO3から選択される少なくとも1種のリチウム化合物と混合する手順であってもよく、本発明の文脈において結晶化水は無視される。好ましいリチウム源はLi2CO3である。
【0056】
工程(α)を行うために、前駆体及びリチウム源の量は、所望の本発明の物質の化学量論が得られるように選択される。好ましくは、前駆体及びリチウム源化合物(単数又は複数)は、リチウムと、本発明の前駆体のすべての遷移金属及び遷移金属ではない任意のM1の合計とのモル比が、1.275:1~1.42:1、好ましくは1.30:1~1.38:1、さらに好ましくは1.32:1~1.36:1の範囲にあるように選択される。
【0057】
工程(α)は、例えばプラウシェアミキサー又はタンブルミキサーで行うことができる。実験室規模の実験では、ローラーミルを適用することもできる。
【0058】
本発明の方法の工程(β)を行うために、工程(β)によれば、得られた混合物は、800~980℃、好ましくは875~950℃の範囲の温度で焼成される。
【0059】
本発明の方法の工程(β)は、炉、例えば回転管状炉、マッフル炉、振り子炉、ローラーハース炉、又はプッシュスルー炉で行うことができる。また、上記の炉の2つ以上の組み合わせも可能である。
【0060】
本発明の方法の工程(β)は、30分~24時間、好ましくは3~12時間にわたって行うことができる。工程(β)は、温度レベルで行うことができるか、又は温度プロフィールを行うことができる。
【0061】
本発明の一実施態様において、工程(β)は、酸素含有雰囲気中で行われる。酸素含有雰囲気には、空気、純酸素、酸素と空気との混合物、及び窒素などの不活性ガスで希釈された空気の雰囲気が含まれる。工程(β)において、酸素又は、空気又は窒素で希釈した酸素、及び5体積%の最低酸素含有量の雰囲気が好ましい。
【0062】
本発明の一実施態様において、工程(α)と(β)の間に、少なくとも1つの予備焼成工程(β*)が行われている。工程(β*)は、工程(α)で得られた混合物を、300~700℃の範囲の温度で2~24時間加熱することを含む。
【0063】
温度変化中、1K/分~10K/分の加熱速度を得ることができ、2~5K/分が好ましい。
【0064】
工程(β)の後、得られた物質を室温まで冷却することが好ましい。優れた形態及び非常に良好な電気化学特性、特に高い体積エネルギー密度及び高いエネルギー密度保持率を有するカソード活物質が得られる。
本発明の製造方法から得られるカソード活物質をさらに向上するために、工程(β)の後に、さらに以下の2つの工程、すなわち、
(γ)得られたリチウム化酸化物を鉱酸又はM2の化合物の水溶液又はそれらの組み合わせと接触させて、水を除去する工程であって、M2がAl、Ti、Zr、Mo、Fe、Nb、B及びMgから選択される工程、及び
(δ)得られた固体残留物を熱処理する工程
が行われてもよい。
【0065】
工程(γ)において、前記粒子材料は、鉱酸又はM2の化合物の水溶液又はそれらの組み合わせ、好ましくは無機アルミニウム化合物の水溶液で処理される。前記水溶液は、1~8、好ましくは少なくとも2、より好ましくは2~7の範囲のpH値を有してよい。工程(γ)の終了時に、水相のpH値は、好ましくは3~6の範囲であることが観察される。
【0066】
鉱酸の例は、例えば0.01M~2M、好ましくは0.1~1.5Mの濃度の、硝酸、及び特に硫酸である。
【0067】
工程(γ)で使用される前記水溶液の水硬度、特にカルシウムが少なくとも部分的に除去されることが好ましい。脱塩水を使用することが好ましい。
【0068】
このようなM1の化合物は、水に容易に溶解することができる。この文脈における「容易に溶解する」とは、25℃で、1lの水当たり少なくとも10gのM1の化合物の溶解度を意味する。
【0069】
好適なアルミニウム化合物の例は、Al2(SO4)3、KAl(SO4)2及びAl(NO3)3である。
【0070】
好適なチタン化合物の例はTi(SO4)2である。好適なジルコニウム化合物の例は、実験式Zr(NO3)4の硝酸ジルコニウムである。
【0071】
好適なモリブデン化合物の例は、MoO3、Na2MoO4及びLi2MoO4である。
【0072】
好適なタングステン化合物の例は、WO3、Na2WO4、H2WO4及びLi2WO4である。
【0073】
好適なマグネシウム化合物の例は、MgSO4、Mg2Cl2及びMg(NO3)2である。
【0074】
好適なホウ素化合物の例は、実験式H3BO3のホウ酸である。
【0075】
一実施態様において、M2の化合物の量は、TMに対して0.01~5.0モル%の範囲であり、0.1~2.0モル%が好ましい。
【0076】
本発明の一実施態様において、前記処理は、鉱酸中のM2の化合物の溶液、例えばH2SO4水溶液中のAl2(SO4)3の溶液で行われる。
【0077】
工程(γ)における処理は、工程(β)のカソード活物質に鉱酸又はM1の溶液を添加し、得られた混合物を相互作用させることによって実施されてもよい。このような相互作用は、攪拌によって促進されてもよい。
【0078】
本発明の一実施態様において、工程(γ)は、5~85℃の範囲の温度で行われ、10~60℃が好ましい。室温が特に好ましい。
【0079】
本発明の一実施態様において、工程(γ)は、常圧で行われる。しかし、高圧下で、例えば常圧より10ミリバール~10バール高い圧力で、又は吸引で、例えば常圧より50~250ミリバール低い圧力、好ましくは常圧より100~200ミリバール低い圧力で工程(γ)を行うことが好ましい。
【0080】
本発明の一実施態様において、工程(γ)は、攪拌機付きフィルター装置、例えば攪拌機付き圧力フィルター又は攪拌機付き吸引フィルターで行われる。
【0081】
工程(β)から得られた物質をM1の化合物で処理する時間は、2~60分の範囲であってよく、10~45分が好ましい。
【0082】
本発明の一実施態様において、工程(c)から得られた物質と、鉱酸又はM2の化合物の溶液との体積比は、それぞれ、1:1~1:10、好ましくは1:1~1:5の範囲にある。
【0083】
本発明の一実施態様において、工程(γ)~(δ)は、同じ容器で、例えば、攪拌機付きフィルター装置、例えば攪拌機付き圧力フィルター又は攪拌機付き吸引フィルターで行われる。
【0084】
本発明の一実施態様において、工程(γ)は、例えば1回~10回繰り返される。好ましい実施態様において、工程(γ)は1回のみ行われる。
【0085】
鉱酸又はM2の化合物で処理した後、水が除去される。前記水の除去は、蒸発によって、又は好ましくは固液分離法によって、例えばデカンテーションによって、又は任意のタイプの濾過によって、例えばバンドフィルター上又はフィルタープレスで行われてもよい。前記水の除去は、水の完全な除去又は部分的な除去を含むことができ、部分的な除去が好ましい。水とともに、鉱酸及び/又はM1及び/又はリチウム塩の非析出化合物も除去することができる。0.01~5質量%の残留水分を含有することができる残留物が得られる。
【0086】
本発明の一実施態様において、濾材は、セラミック、焼結ガラス、焼結金属、有機ポリマーフィルム、不織布、及び織物から選択することができる。
【0087】
工程(δ)において、前記残留物は熱処理される。
【0088】
工程(δ)は、任意のタイプのオーブン、例えばローラーハースキルン、プッシャーキルン、ロータリーキルン、振り子キルン、又は実験室規模の試験の場合にマッフルオーブンで行うことができる。
【0089】
工程(δ)による熱処理の温度は、150~290℃、又は300~500℃の範囲であり得る。
【0090】
300~500℃の温度は、工程(δ)の最高温度に対応する。
【0091】
工程(γ)から得られた物質を工程(δ)に直接に供することが可能である。しかしながら、温度を段階的に上げること、又は温度を徐々に上げること、又は工程(γ)の後に得られた物質を最初に40~80℃の範囲の温度で乾燥させてから工程(δ)に供することが好ましい。
【0092】
前記段階的な上昇又は徐々の上昇は、常圧又は減圧、例えば1~500ミリバールの圧力下で行うことができる。
【0093】
その最高温度での工程(δ)は常圧下で行われる。
【0094】
本発明の一実施態様において、工程(δ)は、酸素含有雰囲気、例えば、空気、酸素富化空気又は純酸素の下で行われる。
【0095】
工程(δ)の前に100~250℃の範囲の温度で乾燥を行う実施態様において、そのような乾燥は、10分間~12時間の持続時間で行うことができる。
【0096】
本発明の一実施態様において、工程(δ)は、低減されたCO2含有量、例えば、0.01~500質量ppmの範囲の二酸化炭素含有量を有する雰囲気下で行われ、0.1~50質量ppmが好ましい。CO2含有量は、例えば赤外光を使用する光学的方法によって決定することができる。例えば赤外光に基づく光学的方法での検出限界未満の二酸化炭素含有量を有する雰囲気下で、工程(e)を行うことがさらにより好ましい。
【0097】
本発明の一実施態様において、工程(δ)は、1~10時間、好ましくは90分間~6時間の範囲の持続時間を有する。
【0098】
本発明の一実施態様において、電極活物質のリチウム含有量は、1~5質量%、好ましくは2~4質量%還元される。前記還元は主に、いわゆる残留リチウムに影響を及ぼす。
【0099】
本発明の方法を行うことにより、優れた電気化学特性を有する電極活物質が得られる。いかなる理論にも拘束されることを望むものではないが、余分なアルミニウムは、電極活物質の表面に堆積したリチウム化合物の除去につながると仮定する。
【0100】
いかなる理論にも拘束されることを望むものではないが、本発明の方法は、本発明の物質の粒子の表面の変化をもたらすと仮定する。
【0101】
本発明の方法は、任意の追加工程、例えば工程(γ)の後のすすぎ工程、又は工程(δ)の後のふるい分け工程を含んでいてもよい。
【0102】
本発明のさらなる態様は、以下で本発明のカソード活物質とも称される、カソード活物物に関するものである。本発明のカソード活物質は、本発明の製造方法に従って得ることができる。
【0103】
以下、本発明のカソード活物質をより詳細に定義する。
【0104】
本発明のカソード活物質は、2~16μmの範囲の平均粒径(D50)、及び組成Li1+xTM1-xO2を有する粒子形態のものであり、ここで、xが0.1~0.2の範囲であり、TMが一般式(II)による元素の組み合わせであり、金属部分が一般式を有し、
(NiaCobMnc)1-d-eM1
dM2
e (II)
(式中、aは、0.20~0.40、好ましくは0.20~0.35の範囲であり、
bは、0~0.15の範囲であり、
cは、0.50~0.75、好ましくは0.60~0.70の範囲であり、
dは、0~0.015の範囲であり、
eは、0~0.15の範囲であり、
M1は、Al、Ti、Zr、Mo、Fe、Nb、及びMgから選択され、
M2は、Al、Ti、Zr、Mo、Fe、Nb、B、W、及びMgから選択され、
a+b+c=1.0である)
前記複合酸化物は、0.5m2/g~10m2/gの範囲の、以下でBET表面積とも称される比表面積(BET)、及び少なくとも2.7g/cm3、好ましくは2.72~3.1g/cm3、より好ましくは2.80~3.00g/cm3のプレス密度(pressed density)を有する。プレス密度は250MPaの圧力で決定される。BET表面積は、DIN ISO 9277:2010に従って、200℃で30分以上、及びこれを超えてサンプルをガス放出した後の窒素吸着によって決定することができる。
【0105】
好ましい実施態様において、Mo-KαX線を用いた対応するX線回折パターンの29.8~30.6°の間の反射ピークにおいて0.8%以下、好ましくは0.6%以下の構造歪みを有する。構造歪みは、対応する回折パターンからリートベルト法により決定することができる。
【0106】
少なくとも1つの本発明による電極を含むリチウムイオン電池は、非常に良好な放電挙動及びサイクル挙動を示し、良好な安全挙動を示す。
【0107】
本発明の一実施態様において、本発明のカソードは、
(A)上記の、少なくとも1種の本発明の物質、
(B)導電状態の炭素、及び
(C)バインダー、
(D)集電器
を含有する。
【0108】
本発明の好ましい実施態様において、本発明のカソードは、(A)、(B)及び(C)の合計に基づいて、
(A)80~99質量%の本発明の物質、
(B)0.5~19.5質量%の炭素、
(C)0.5~9.5質量%のバインダー物質
を含有する。
【0109】
本発明によるカソードは、略して炭素(B)とも呼ばれる、導電性修飾の炭素を含有する。炭素(B)は、すす、活性炭、カーボンナノチューブ、グラフェン、及びグラファイトから選択することができる。炭素(B)は、本発明による電極材料の調製中にそのまま添加することができる。
【0110】
本発明による電極は、さらなる構成要素を含むことができる。それらは、集電器(D)、例えばアルミホイル(これに限定していない)を含むことができる。それらは、以下でバインダー(C)とも呼ばれるバインダー材料(C)をさらに含んでいる。集電器(D)については、ここでは、これ以上説明しない。
【0111】
好適なバインダー(C)は、好ましくは、有機(コ)ポリマーから選択される。好適な(コ)ポリマー、すなわち、ホモポリマー又はコポリマーは、例えば、アニオン(共)重合、触媒(共)重合又はフリーラジカル(共)重合により得ることができる(コ)ポリマーから、特にポリエチレン、ポリアクリロニトリル、ポリブタジエン、ポリスチレン、並びに、エチレン、プロピレン、スチレン、(メタ)アクリロニトリル及び1,3-ブタジエンから選択された少なくとも2種のコモノマーのコポリマーから選択することができる。ポリプロピレンも適する。ポリイソプレン及びポリアクリレートはさらに適している。ポリアクリロニトリルが特に好ましい。
【0112】
本発明の文脈において、ポリアクリロニトリルは、ポリアクリロニトリルホモポリマーだけでなく、アクリロニトリルと1,3-ブタジエン又はスチレンとのコポリマーも意味すると理解される。ポリアクリロニトリルホモポリマーが好ましい。
【0113】
本発明の文脈において、ポリエチレンは、ホモポリエチレンだけでなく、少なくとも50モル%の共重合されたエチレン、及び50モル%以下の少なくとも1つのさらなるコモノマー、例えばα-オレフィン、例えばプロピレン、ブチレン(1-ブテン)、1-ヘキセン、1-オクテン、1-デセン、1-ドデセン、1-ペンテン、及びまたイソブテン、ビニル芳香族のもの、例えばスチレン、及びまた(メタ)アクリル酸、ビニルアセテート、ビニルプロピオネート、(メタ)アクリル酸のC1~C10-アルキルエステル、特にメチルアクリレート、メチルメタクリレート、エチルアクリレート、エチルメタクリレート、n-ブチルアクリレート、2-エチルヘキシルアクリレート、n-ブチルメタクリレート、2-エチルヘキシルメタクリレート、及びまたマレイン酸、無水マレイン酸及び無水イタコン酸を含むエチレンのコポリマーも意味すると理解される。ポリエチレンはHDPE又はLDPEであり得る。
【0114】
本発明の文脈において、ポリプロピレンは、ホモポリプロピレンだけでなく、少なくとも50モル%の共重合されたプロピレン、及び50モル%以下の少なくとも1つのさらなるコモノマー、例えばエチレン、及びα-オレフィン、例えばブチレン、1-ヘキセン、1-オクテン、1-デセン、1-ドデセン及び1-ペンテンを含むプロピレンのコポリマーも意味すると理解される。ポリプロピレンは、好ましくはイソタクチックポリプロピレン又は本質的にイソタクチックポリプロピレンである。
【0115】
本発明の文脈において、ポリスチレンは、スチレンのホモポリマーだけでなく、アクリロニトリル、1,3-ブタジエン、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸のC1~C10-アルキルエステル、ジビニルベンゼン、特に1,3-ジビニルベンゼン、1,2-ジフェニルエチレン及びα-メチルスチレンとのコポリマーも意味すると理解される。
【0116】
別の好ましいバインダー(C)は、ポリブタジエンである。
【0117】
他の好適なバインダー(C)は、ポリエチレンオキシド(PEO)、セルロース、カルボキシメチルセルロース、ポリイミド及びポリビニルアルコールから選択される。
【0118】
本発明の一実施態様において、バインダー(C)は、50,000g/molから、1,000,000g/molまで、好ましくは500,000g/molまでの範囲の平均分子量MWを有する(コ)ポリマーから選択される。
【0119】
バインダー(C)は、架橋された又は架橋されていない(コ)ポリマーであり得る。
【0120】
本発明の特に好ましい実施態様において、バインダー(C)は、ハロゲン化(コ)ポリマー、特にフッ素化(コ)ポリマーから選択される。ハロゲン化又はフッ素化(コ)ポリマーは、1個の分子当たり少なくとも1個のハロゲン原子又は少なくとも1個のフッ素原子、より好ましくは1個の分子当たり少なくとも2個のハロゲン原子又は少なくとも2個のフッ素原子を有する少なくとも1つの(共)重合された(コ)モノマーを含む(コ)ポリマーを意味すると理解される。例としては、ポリビニルクロリド、ポリビニリデンクロリド、ポリテトラフルオロエチレン、ポリビニリデンフルオリド(PVdF)、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレンコポリマー、ビニリデンフルオリド-ヘキサフルオロプロピレンコポリマー(PVdF-HFP)、ビニリデンフルオリド-テトラフルオロエチレンコポリマー、ペルフルオロアルキルビニルエーテルコポリマー、エチレン-テトラフルオロエチレンコポリマー、ビニリデンフルオリド-クロロトリフルオロエチレンコポリマー、及びエチレン-クロロフルオロエチレンコポリマーが挙げられる。
【0121】
好適なバインダー(C)は、特に、ポリビニルアルコール及びハロゲン化(コ)ポリマー、例えばポリビニルクロリド又はポリビニリデンクロリド、特にフッ素化(コ)ポリマー、例えばポリビニルフルオリド及び特にポリビニリデンフルオリド及びポリテトラフルオロエチレンである。
【0122】
本発明の電極は、成分(A)、炭素(B)及びバインダー(C)の合計に基づいて0.5~9.5質量%のバインダー(単数又は複数)(C)を含んでもよい。
【0123】
本発明のさらなる態様は、
(A)本発明の材料(A)、炭素(B)及びバインダー(C)を含む少なくとも1つのカソード
(B)少なくとも1つのアノード、及び
(C)少なくとも1種の電解質
を含有する電池である。
【0124】
カソード(1)の実施態様は、すでに上記で詳細に記載されている。
【0125】
アノード(2)は、少なくとも1種のアノード活物質、例えばカーボン(グラファイト)、TiO2、酸化リチウムチタン、シリコン又はスズを含有してもよい。アノード(2)は、集電器、例えば銅ホイルなどの金属ホイルをさらに含有してもよい。
【0126】
電解質(3)は、少なくとも1種の非水性溶媒、少なくとも1種の電解質塩、及び任意に添加剤を含んでもよい。
【0127】
電解質(3)のための非水性溶媒は、室温で液体又は固体であり得、好ましくは、ポリマー、環状又は非環状エーテル、環状及び非環状アセタール、及び環状又は非環状有機カーボネートから選択される。
【0128】
好適なポリマーの例は、特に、ポリアルキレングリコール、好ましくはポリ-C1~C4-アルキレングリコール、及び特にポリエチレングリコールである。ここでは、ポリエチレングリコールは、20モル%以下の1種以上のC1~C4-アルキレングリコールを含むことができる。ポリアルキレングリコールは、好ましくは、2個のメチル又はエチル末端キャップを有するポリアルキレングリコールである。
【0129】
好適なポリアルキレングリコール、特に好適なポリエチレングリコールの分子量MWは、少なくとも400g/molであり得る。
【0130】
好適なポリアルキレングリコール、特に好適なポリエチレングリコールの分子量MWは、最大5000000g/mol、好ましくは最大2000000g/molであり得る。
【0131】
好適な非環状エーテルの例は、例えば、ジイソプロピルエーテル、ジ-n-ブチルエーテル、1,2-ジメトキシエタン、1,2-ジエトキシエタンであり、1,2-ジメトキシエタンが好ましい。
【0132】
好適な環状エーテルの例は、テトラヒドロフラン及び1,4-ジオキサンである。
【0133】
好適な非環状アセタールの例は、例えば、ジメトキシメタン、ジエトキシメタン、1,1-ジメトキシエタン及び1,1-ジエトキシエタンである。
【0134】
好適な環状アセタールの例は、1,3-ジオキサン、及び特に1,3-ジオキソランである。
【0135】
好適な非環状有機カーボネートの例は、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート及びジエチルカーボネートである。
【0136】
好適な環状有機カーボネートの例は、一般式(IIIa)及び(IIIb)の化合物である
【化1】
(式中、R
1、R
2及びR
3は、同一又は異なることができ、水素及びC
1~C
4-アルキル、例えばメチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、sec-ブチル及びtert-ブチルから選択され、好ましくは、R
2及びR
3の両方ともがtert-ブチルであることはない)。
【0137】
特に好ましい実施態様において、R1はメチルであり、R2及びR3はそれぞれ水素であるか、又はR1、R2及びR3はそれぞれ水素である。
【0138】
別の好ましい環状有機カーボネートは、式(IV)のビニレンカーボネートである。
【0139】
【0140】
好ましくは、溶媒又は複数の溶媒は、水を含まない状態で、すなわち、例えば、カールフィッシャー滴定によって決定することができる1ppm~0.1質量%の範囲の含水量で使用される。
【0141】
電解質(3)は、少なくとも1種の電解質塩をさらに含む。好適な電解質塩は、特にリチウム塩である。好適なリチウム塩の例は、LiPF6、LiBF4、LiClO4、LiAsF6、LiCF3SO3、LiC(CnF2n+1SO2)3、リチウムイミド、例えばLiN(CnF2n+1SO2)2(式中、nは1~20の範囲の整数である)、LiN(SO2F)2、Li2SiF6、LiSbF6、LiAlCl4、及び一般式(CnF2n+1SO2)tYLiの塩である
(式中、Yが酸素及び硫黄から選択される場合、t=1であり、
Yが窒素及びリンから選択される場合、t=2であり、
Yが炭素及びケイ素から選択される場合、t=3である)。
【0142】
好ましい電解質塩は、LiC(CF3SO2)3、LiN(CF3SO2)2、LiPF6、LiBF4、LiClO4から選択され、LiPF6及びLiN(CF3SO2)2が特に好ましい。
【0143】
本発明の好ましい実施態様において、電解質(3)は、少なくとも1種の難燃剤を含有する。有用な難燃剤は、トリアルキルホスフェート(前記アルキルは異なるか又は同一である)、トリアリールホスフェート、アルキルジアルキルホスホネート、及びハロゲン化トリアルキルホスフェートから選択されてもよい。好ましいのは、トリ-C1~C4-アルキルホスフェート(前記C1~C4-アルキルは異なるか又は同一である)、トリベンジルホスフェート、トリフェニルホスフェート、C1~C4-アルキルジ-C1~C4-アルキルホスホネート、及びフッ素化トリ-C1~C4-アルキルホスフェートである。
【0144】
好ましい実施態様において、電解質(3)は、トリメチルホスフェート、CH3-P(O)(OCH3)2、トリフェニルホスフェート、及びトリス-(2,2,2-トリフルオロエチル)-ホスフェートから選択される少なくとも1種の難燃剤を含む。
【0145】
電解質(3)は、電解質の総量に基づいて、1~10質量%の難燃剤を含有してもよい。
【0146】
本発明の実施態様において、本発明による電池は、それによって電極が機械的に分離される1つ以上のセパレータ(4)を含む。好適なセパレータ(4)は、金属リチウムに対して反応しないポリマーフィルム、特に多孔性ポリマーフィルムである。セパレータ(4)のための特に好適な材料は、ポリオレフィン、特にフィルム形成の多孔性ポリエチレン及びフィルム形成の多孔性ポリプロピレンである。
【0147】
ポリオレフィン、特にポリエチレン又はポリプロピレンから構成されるセパレータ(4)は、35~50%の範囲の多孔率を有することができる。好適な細孔径は、例えば30~500nmの範囲である。
【0148】
本発明の他の実施態様において、セパレータ(4)は、無機粒子で充填したPET不織布から選択することができる。このようなセパレータは40~55%の範囲の多孔率を有し得る。好適な細孔径は、例えば80~750nmの範囲である。
【0149】
本発明による電池は、任意の形状、例えば、立方体、又は円筒形ディスクの形状を有することができるハウジングをさらに含む。一変形態様において、ポーチとして構成された金属ホイルをハウジングとして使用する。
【0150】
本発明による電池は、特に高温(45℃以上、例えば60℃以下)で、特に容量損失に関して、非常に良好な放電及びサイクル挙動を示す。
【0151】
本発明による電池は、互いに組み合わされている、例えば直列に接続するか、又は並列に接続することができる2つ以上の電気化学セルを含むことができる。直列接続が好ましい。本発明による電池において、少なくとも1つの電気化学セルは少なくとも1つの本発明によるカソードを含有する。好ましくは、本発明による電気化学セルにおいて、電気化学セルの大部分は本発明によるカソードを含有する。さらにより好ましくは、本発明による電池において、すべての電気化学セルは本発明によるカソードを含有する。
【0152】
本発明はさらに、本発明による電池を機器、特にモバイル機器に使用する方法を提供する。モバイル機器の例は、車両、例えば自動車、自転車、航空機、又は水上乗り物、例えばボート又は船である。モバイル機器の他の例は、手動で動くもの、例えばコンピューター、特にラップトップ、電話、又は例えば建築部門における電動手工具、特にドリル、バッテリー式ドライバー又はバッテリー式ステープラーである。
【0153】
実施例によって、本発明をさらに説明する。
【実施例】
【0154】
特に明記されていない限り、パーセンテージは質量パーセントである。
【0155】
歪みは、Bruker AXS GmbH,Karlsruheが提供するモデリングソフトウェアDIFFRAC.TOPASを用いて、リートベルト法によって得られたものである。
【0156】
比較用前駆体C-p-CAM.1の製造
工程(a.1):窒素雰囲気下50℃で容量V=2.4lの連続撹拌タンク反応器を用いて、濃度c1(Mn)=1.10mol/kg及びc1(Ni)=0.55mol/kgを有するMnSO4/NiSO4混合水溶液(溶液1とも称する)を、25質量%のNaOH水溶液(溶液2とも称する)、及び25%のアンモニア(NH3)水溶液(溶液3とも称する)と組み合わせた。反応器に添加する前に、溶液2及び溶液3を混合した。fiとして表示する(iは対応する溶液の番号を表す)個々の溶液の流速を、滞留時間tres=V/(f1+f2+f3)=5時間、11.5の反応器中のpH値、及びcR(NH3)/(cR(Ni)+cR(Mn))=0.4の比(ここで、cR(NH3)、cR(Ni)及びcR(Mn)が、反応器中のアンモニア、ニッケル及びマンガンの、mol/kgで表示する濃度である)を満たすように調整した。2枚の交差したブレードを備えた攪拌機を適用し、攪拌速度は850rpmであった。C-p-CAM.1の粒子を反応器中で沈殿させ、収集のために出口を通る連続流によって第2の容器に移した。その後、新鮮に沈殿した粒子を室温で脱イオン水で洗浄し、120℃空気下で12時間乾燥させ、ふるいにかけて、平均直径(d50):9.7μmを有する前駆体C-p-CAM.1を得た。
【0157】
比較用カソード活物質C-CAM.1の製造
工程(b.1):続いて、前駆体C-p-CAM.1をLi2CO3一水和物と1.31:1のLi:(Mn+Ni)のモル比で混合し、アルミナるつぼに注ぎ、2℃/分の加熱速度を用いて酸素雰囲気下(10回交換/h)900℃で5時間焼成した。得られた材料を10℃/分の冷却速度で室温まで冷却し、その後、メッシュサイズ32μmでふるいにかけた。ふるいにかけた後、得られた材料を80mLのH2SO4(0.1M)水溶液と共にビーカー中で20分間攪拌した。その後、濾過により液相を除去し、濾過ケーキを80mLのH2Oですすいだ。その後、濾過ケーキを再びビーカー中で80mLのH2SO4(0.1M)水溶液と共にさらに20分間撹拌した。濾過により液相を除去し、濾過ケーキを80mLのH2Oで2回洗浄した。得られた濾過ケーキを65℃真空で3時間乾燥し、その後300℃で16時間乾燥し、室温まで冷却してC-CAM.1を得た。
【0158】
前駆体p-CAM.2の製造
工程(a.2):窒素雰囲気下60℃で容量V=2.4lの連続撹拌タンク反応器を用いて、濃度c1(Mn)=1.10mol/kg及びc1(Ni)=0.55mol/kgを有するMnSO4/NiSO4混合水溶液(溶液1とも称する)を、25質量%のNaOH水溶液(溶液2とも称する)、25%のアンモニア(NH3)水溶液(溶液3とも称する)、及びc4(クエン酸塩)=1.2mol/kgの濃度を有するクエン酸三ナトリウム水溶液(溶液4とも称する)と組み合わせた。反応器に添加する前に、溶液2及び溶液3を予備混合した。fiとして表示する(iは対応する溶液の番号を表す)個々の溶液の流速を、滞留時間tres=V/(f1+f2+f3+f4)=5時間、11.1の反応器中のpH値、及びcR(NH3)/(cR(Ni)+cR(Mn))=0.03及びcR(クエン酸塩)/(cR(Ni)+cR(Mn))=0.12の比(ここで、cR(NH3)、cR(クエン酸塩)、cR(Ni)、cR(Mn)が、反応器中のアンモニア、クエン酸塩、ニッケル及びマンガンの、mol/kgで表示する濃度である)を満たすように調整した。2枚の交差したブレードを備えた攪拌機を適用し、攪拌速度は850rpmであった。p-CAM.2の粒子を反応器中で沈殿させ、収集のために出口を通る連続流によって第2の容器に移した。その後、新鮮に沈殿した粒子を室温で脱イオン水で洗浄し、120℃空気下で12時間乾燥させ、ふるいにかけて、7.1μmの平均直径(d50)を有する前駆体p-CAM.2を得た。
【0159】
カソード活物質CAM.2の製造
工程(b.2):続いて、前駆体p-CAM.2をLi2CO3一水和物と1.31:1のLi:(Mn+Ni)のモル比で混合し、アルミナるつぼに注ぎ、2℃/分の加熱速度を用いて酸素雰囲気下(10回交換/h)900℃で5時間加熱した。得られた材料を10℃/分の冷却速度で室温まで冷却し、その後、メッシュサイズ32μmでふるいにかけた。ふるいにかけた後、得られた材料を80mLのH2SO4(0.1M)水溶液と共にビーカー中で20分間攪拌した。その後、濾過により液相を除去し、濾過ケーキを80mLのH2Oですすいだ。その後、濾過ケーキを再びビーカー中で80mLのH2SO4(0.1M)水溶液と共にさらに20分間撹拌した。濾過により液相を除去し、濾過ケーキを80mLのH2Oで2回洗浄した。得られた濾過ケーキを65℃真空で3時間乾燥し、その後300℃で16時間乾燥し、室温まで冷却してCAM.2を得た。
【0160】
前駆体p-CAM.3の製造
工程(a.3):窒素雰囲気下50℃で容量V=2.4lの連続撹拌タンク反応器を用いて、濃度c1(Mn)=1.10mol/kg及びc1(Ni)=0.55mol/kgを有するMnSO4/NiSO4混合水溶液(溶液1とも称する)を、25質量%のNaOH水溶液(溶液2とも称する)、25%のアンモニア(NH3)水溶液(溶液3とも称する)、及びc5(酒石酸塩)=1.2mol/kgの濃度を有する酒石酸ナトリウム水溶液(溶液5とも称する)と組み合わせた。反応器に添加する前に、溶液2及び溶液3を予備混合した。fiとして表示する(iは対応する溶液の番号を表す)個々の溶液の流速を、滞留時間tres=V/(f1+f2+f3+f5)=5時間、11.5の反応器中のpH値、及びcR(NH3)/(cR(Ni)+cR(Mn))=0.03及びcR(酒石酸塩)/(cR(Ni)+cR(Mn))=0.12の比(ここで、cR(NH3)、cR(酒石酸塩)、cR(Ni)、cR(Mn)が、反応器中のアンモニア、クエン酸塩、ニッケル及びマンガンの、mol/kgで表示する濃度である)を満たすように調整した。2枚の交差したブレードを備えた攪拌機を適用した。攪拌速度は850rpmであった。粒子を反応器中で沈殿させ、収集のために出口を通る連続流によって第2の容器に移した。その後、新鮮に沈殿した粒子を室温で脱イオン水で洗浄し、120℃空気下で12時間乾燥させ、ふるいにかけて、4.8μmの平均直径を有する前駆体p-CAM.3を得た。
【0161】
カソード活物質CAM.3の製造
工程(b.3):続いて、前駆体p-CAM.3をLi2CO3一水和物と1.31:1のLi:(Mn+Ni)のモル比で混合し、アルミナるつぼに注ぎ、2℃/分の加熱速度を用いて酸素雰囲気下(10回交換/h)900℃で5時間加熱した。得られた材料を10℃/分の冷却速度で室温まで冷却し、その後、メッシュサイズ32μmでふるいにかけた。ふるいにかけた後、得られた材料を80mLのH2SO4(0.1M)水溶液と共にビーカー中で20分間攪拌した。その後、濾過により液相を除去し、濾過ケーキを80mLのH2Oですすいだ。その後、濾過ケーキを再びビーカー中で80mLのH2SO4(0.1M)水溶液と共にさらに20分間撹拌した。濾過により液相を除去し、濾過ケーキを80mLのH2Oで2回洗浄した。得られた濾過ケーキを65℃真空で3時間乾燥し、その後300℃で16時間乾燥し、室温まで冷却してCAM.3を得た。
【0162】
前駆体p-CAM.4の製造
工程(a.4):窒素雰囲気下50℃で容量V=2.4lの連続撹拌タンク反応器を用いて、濃度c1(Mn)=1.10mol/kg及びc1(Ni)=0.55mol/kgを有するMnSO4/NiSO4混合水溶液(溶液1とも称する)を、25質量%のNaOH水溶液(溶液2とも称する)、25%のアンモニア(NH3)水溶液(溶液3とも称する)、及びc6(シュウ酸)=0.7mol/kgの濃度を有するシュウ酸水溶液(溶液6とも称する)と組み合わせた。反応器に添加する前に、溶液2及び溶液3を予備混合した。fiとして表示する(iは対応する溶液の番号を表す)個々の溶液の流速を、滞留時間tres=V/(f1+f2+f3+f6)=5時間、11.3の反応器中のpH値、及びcR(NH3)/(cR(Ni)+cR(Mn))=0.03及びcR(シュウ酸塩)/(cR(Ni)+cR(Mn))=0.12の比(ここで、cR(NH3)、cR(酒石酸塩)、cR(Ni)、cR(Mn)が、反応器中のアンモニア、クエン酸塩、ニッケル及びマンガンの、mol/kgで表示する濃度である)を満たすように調整した。2枚の交差したブレードを備えた攪拌機を適用し、攪拌速度は850rpmであった。所定のサイズを有する粒子を反応器中で沈殿させ、収集のために出口を通る連続流によって第2の容器に移した。その後、新鮮に沈殿した粒子を室温で脱イオン水で洗浄し、120℃空気下で12時間乾燥させ、ふるいにかけて、前駆体p-CAM.4を得た。
【0163】
カソード活物質CAM.4の製造
工程(b.4):前駆体p-CAM.4をLi2CO3一水和物と1.31:1のLi:(Mn+Ni)のモル比で混合し、アルミナるつぼに注ぎ、2℃/分の加熱速度を用いて酸素雰囲気下(10回交換/h)900℃で5時間焼成した。得られた材料を10℃/分の冷却速度で室温まで冷却し、その後、メッシュサイズ32μmでふるいにかけた。ふるいにかけた後、得られた材料を80mLのH2SO4(0.1M)水溶液と共にビーカー中で20分間攪拌した。その後、濾過により液相を除去し、濾過ケーキを80mLのH2Oですすいだ。その後、濾過ケーキを再びビーカー中で80mLのH2SO4(0.1M)水溶液と共にさらに20分間撹拌した。濾過により液相を除去し、濾過ケーキを80mLのH2Oで2回洗浄した。得られた濾過ケーキを65℃真空で3時間乾燥し、その後300℃で16時間乾燥し、室温まで冷却して、20.0μmの平均直径(d50)を有するCAM.4を得た。
【0164】
前駆体の特性を表1に、カソード活物質の特性を表2にまとめている。
【0165】
【0166】
FWHMは、Cu-Kα線を用いて測定した対応する回折パターンの2θ=7.5°と9.5°の間の回折ピークの半値全幅を表す。この回折ピークは、単一の回折ピーク、又は少なくとも2つの回折ピークのたたみ込みから構成することができる。異なる前駆体の窒素物理吸着測定に基づいて、DIN ISO 9277に従ってBET表面積を決定し、DIN 66134に従ってメソ孔容積を決定し、DIN 66134に従って決定した平均細孔径は2~50nmの範囲であった。
【0167】
前駆体p-CAM.5の製造
工程(a.5):窒素雰囲気下60℃で容量V=2.4lの連続撹拌タンク反応器を用いて、濃度c1(Mn)=1.10mol/kg、c1(Ni)=0.55mol/kg及びc1(Al)=0.008mol/kgを有するMnSO4/NiSO4/Al2(SO4)3混合水溶液(溶液1とも称する)を、25質量%のNaOH水溶液(溶液2とも称する)、25%のアンモニア(NH3)水溶液(溶液3とも称する)、及びc4(クエン酸塩)=1.2mol/kgの濃度を有するクエン酸三ナトリウム水溶液(溶液4とも称する)と組み合わせた。反応器に添加する前に、溶液2及び溶液3を予備混合した。fiとして表示する(iは対応する溶液の番号を表す)個々の溶液の流速を、滞留時間tres=V/(f1+f2+f3+f4)=5時間、11.3の反応器中のpH値、及びcR(NH3)/(cR(Ni)+cR(Mn))=0.03及びcR(クエン酸塩)/(cR(Ni)+cR(Mn))=0.12の比(ここで、cR(NH3)、cR(クエン酸塩)、cR(Ni)、cR(Mn)が、反応器中のアンモニア、クエン酸塩、ニッケル及びマンガンの、mol/kgで表示する濃度である)を満たすように調整した。2枚の交差したブレードを備えた攪拌機を適用し、攪拌速度は850rpmであった。p-CAM.5の粒子を反応器中で沈殿させ、収集のために出口を通る連続流によって第2の容器に移した。その後、新鮮に沈殿した粒子を室温で脱イオン水で洗浄し、120℃空気下で12時間乾燥させ、ふるいにかけて、約5μmの平均直径(d50)を有する前駆体p-CAM.5を得た。
【0168】
カソード活物質CAM.5の製造
工程(b.5):続いて、前駆体p-CAM.5をLi2CO3一水和物と1.31:1のLi:(Mn+Ni+Al)のモル比で混合し、アルミナるつぼに注ぎ、2℃/分の加熱速度を用いて酸素雰囲気下(10回交換/h)900℃で5時間加熱した。得られた材料を10℃/分の冷却速度で室温まで冷却し、その後、メッシュサイズ32μmでふるいにかけた。ふるいにかけた後、材料を80mLのH2SO4(0.1M)水溶液と共にビーカー中で20分間攪拌した。その後、濾過により液相を除去し、濾過ケーキを80mLのH2Oですすいだ。その後、濾過ケーキを再びビーカー中で80mLのH2SO4(0.1M)水溶液と共にさらに20分間撹拌した。濾過により液相を除去し、濾過ケーキを80mLのH2Oで2回洗浄した。得られた濾過ケーキを65℃真空で3時間乾燥し、その後300℃で16時間乾燥し、室温まで冷却して、CAM.5を得た。CAM.5で作られた電極は、CAM.2~CAM.4で作られた電極と同様に、優れた特性を示す。
【0169】
【0170】
Mo-KαX線を用いた対応するX線回折パターンの29.8~30.6°の間の反射ピークにおいて、リートベルト法により構造歪みを決定した。
【0171】
電極の製造:電極は、92.5%のCAM、2%のカーボンブラック(Super C65)、2%のグラファイト(SFG6L)、及び3.5%のバインダー(ポリビニリデンフルオリド、Solef 5130)を含有した。スラリーをN-メチル-2-ピロリドン中で混合し、ドクターブレードでアルミホイル上にキャストした。電極を105℃真空で6時間乾燥させた後、円形電極を打ち抜き、秤量し、120℃真空下で12時間乾燥させた後、Ar充填したグローブボックス中に入れた。
【0172】
ハーフセル電気化学測定:コイン型電気化学セルをアルゴン充填したグローブボックス中で組み立てた。直径14mmの正極(増量8.0±0.5mg cm-2)をガラス繊維セパレータ(Whatman GF/D)で厚さ0.58のLiホイルから分離した。電解質として、質量比2:8のフルオロエチレンカーボネート(FEC):ジエチルカーボネート(DEC)中で95μlの量の1M LiPF6を使用した。0.067CのCレートを適用することにより、室温で2.0~4.8Vの間に、Maccor 4000バッテリーサイクラーで、セルに定電流サイクルを行った。