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特許7631668複合タングステン酸化物微粒子分散体および複合タングステン酸化物微粒子分散液
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  • 特許-複合タングステン酸化物微粒子分散体および複合タングステン酸化物微粒子分散液 図1
  • 特許-複合タングステン酸化物微粒子分散体および複合タングステン酸化物微粒子分散液 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-10
(45)【発行日】2025-02-19
(54)【発明の名称】複合タングステン酸化物微粒子分散体および複合タングステン酸化物微粒子分散液
(51)【国際特許分類】
   C08L 69/00 20060101AFI20250212BHJP
   C08K 3/22 20060101ALI20250212BHJP
   C01G 41/00 20060101ALI20250212BHJP
【FI】
C08L69/00
C08K3/22
C01G41/00 A
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2020052583
(22)【出願日】2020-03-24
(65)【公開番号】P2021075676
(43)【公開日】2021-05-20
【審査請求日】2022-12-13
(31)【優先権主張番号】P 2019203102
(32)【優先日】2019-11-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145872
【弁理士】
【氏名又は名称】福岡 昌浩
(74)【代理人】
【識別番号】100091362
【弁理士】
【氏名又は名称】阿仁屋 節雄
(72)【発明者】
【氏名】野下 昭也
(72)【発明者】
【氏名】長南 武
【審査官】内田 靖恵
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/093525(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/155999(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/093524(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/235833(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L
C08K
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
結晶子径が32nm以上48nm以下であるCs 0.33 WOz(2.0≦z≦3.0)微粒子と、固体媒体としてポリカーボネート樹脂を含み、
可視光透過率が80%の時の日射透過率が45%以下であり、かつ、JIS Z 8701に基づくL*a*b*表色系(D65光源/10度視野)にて評価したとき、b*の値が0以上であることを特徴とする複合タングステン酸化物微粒子分散体。
【請求項2】
ポリアクリレート系分散剤を含むトルエン中に、結晶子径が32nm以上48nm以下であるCs 0.33 WOz(2.0≦z≦3.0)微粒子が分散しており、
可視光透過率が80%の時の日射透過率が45%以下であり、かつ、JIS Z 8701に基づくL*a*b*表色系(D65光源/10度視野)にて評価したとき、b*の値が0以上であることを特徴とする複合タングステン酸化物微粒子分散液。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可視光透過率が良好で、且つ優れた赤外線吸収特性を有しながら、所定の色味を有する複合タングステン酸化物微粒子分散体および複合タングステン酸化物微粒子分散液に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、赤外線吸収体の需要が急増しており、赤外線吸収体に関する多数の特許出願が為されている。これらの出願を機能的観点から俯瞰すると、例えば、各種建築物や車両の窓材等の分野において、可視光線を十分に取り入れながら赤外領域の光を遮蔽することにより、明るさを維持しつつ室内の温度上昇を抑制することを目的としたものがある。
【0003】
本発明者等は特許文献1において、赤外線遮蔽材料微粒子が媒体中に分散してなる赤外線遮蔽材料微粒子分散体、および当該赤外線遮蔽材料微粒子分散体の優れた光学特性、導電性、製造方法について開示した。中でも、当該赤外線遮蔽材料微粒子分散体の赤外線遮蔽特性は、従来の遮蔽材料よりも卓越したものであった。
【0004】
上述した赤外線遮蔽材料微粒子は、一般式WyOz(但し、Wはタングステン、Oは酸素、2.2≦z/y≦2.999)で表記されるタングステン酸化物の微粒子、または/および、一般式MxWyOz(但し、Mは、H、He、アルカリ金属、アルカリ土類金属、希土類元素、Mg、Zr、Cr、Mn、Fe、Ru、Co、Rh、Ir、Ni、Pd、Pt、Cu、Ag、Au、Zn、Cd、Al、Ga、In、Tl、Si、Ge、Sn、Pb、Sb、B、F、P、S、Se、Br、Te、Ti、Nb、V、Mo、Ta、Re、Be、Hf、Os、Bi、Iのうちから選択される1種類以上の元素、Wはタングステン、Oは酸素、0.001≦x/y≦1、2.2≦z/y≦3.0)で表記される複合タングステン酸化物の微粒子であって、当該赤外線遮蔽材料微粒子の粒子直径が1nm以上800nm以下である。
【0005】
特許文献2には、複合タングステン酸化物の微粒子または/および6ホウ化物の微粒子が分散された紫外線硬化樹脂が、ガラス板間に充填された合わせガラスであって、優れた赤外線吸収機能を有しながらヘイズ値が低く、可視光透明性に優れたものが提案されている。
【0006】
しかし、特許文献1、2に開示されている赤外線遮蔽材料微粒子分散体や合わせガラスは、いずれも複合タングステン酸化物を含有している影響で青味を有することから、意匠性の観点から改良が必要とされていた。
【0007】
そこで、例えば特許文献3のように、上述の複合タングステン酸化物と、波長300~500nmの領域に極大吸収を有する化合物とを含有させることで、複合タングステン酸化物特有の青味を抑制または除去した近赤外線遮蔽フィルタが提案されていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2010-168430号公報
【文献】特開2010-202495号公報
【文献】特開平11-181336号公報
【文献】特開2008-304798号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、本発明者らの検討によると、例えば特許文献3で開示されている青味を抑制または除去したとされる近赤外線遮蔽フィルタは、青味の抑制が不十分なものであった。
一方、例えば、特許文献4に開示されている赤外線吸収特性を持つ各種のフィルタにおいては、L*a*b*表色系のうちb*が負の値を示していた。ところが、当該フィルタにおいて複合タングステン酸化物と共に用いられている波長300~500nmの領域に極大吸収を有する化合物が有機系材料であるため耐候性が低く、各種建築物や車両の窓材等の分野における使用環境に耐えられるものではなかった。
【0010】
ここで本発明者らは、複合タングステン酸化物微粒子において、当該微粒子の粒径が増大する程、b*の値は負から正へ変化することを知見した。そして本発明等らは、複合タングステン酸化物微粒子の粒径を増大させることで上述の問題解決を図った。ところが、当該微粒子の粒径が増大する程、短波長領域の光散乱が増大し、複合タングステン酸化物微粒子の可視光透過性が低下して、優れた赤外線吸収特性を担保することが出来なくなることを知見した。
【0011】
本発明は、上述の状況の下で為されたものであり、その解決しようとする課題は、優れた赤外線吸収特性および耐候性を担保しながら、b*の値が正の値となる程度に青味が抑制された複合タングステン酸化物微粒子分散体および複合タングステン酸化物微粒子分散液を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上述の課題を解決する為、本発明者らは優れた赤外線吸収特性および耐候性を担保しつつ、複合タングステン酸化物微粒子が有する青味を除去する構成について研究を行った。その結果、複合タングステン酸化物微粒子分散体および複合タングステン微粒子分散液に、結晶子径が25nm以上85nm以下である複合タングステン酸化物微粒子を含有させことによって上述の課題を解決することが出来ることに想到し、本発明を完成した。
【0013】
即ち、上述の課題を解決するための第1の発明は、
結晶子径が25nm以上85nm以下である複合タングステン酸化物微粒子と、固体媒体とを含む複合タングステン酸化物微粒子分散体である。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る複合タングステン酸化物微粒子分散体および複合タングステン酸化物微粒子分散液は、優れた赤外線吸収特性および耐候性を有しながら青味が除去されており、意匠性に優れている。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】六方晶を有する複合タングステン酸化物微粒子における結晶構造の模式的な平面図である。
図2】複合タングステン酸化物微粒子分散液の透過光プロファイルである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明を実施するための形態について、[1]複合タングステン酸化物微粒子とその製造方法、[2]所定の結晶子径を有する複合タングステン酸化物微粒子分散液とその製造方法、[3]複合タングステン酸化物微粒子分散粉末とその製造方法、[4]複合タングステン酸化物微粒子分散体とその製造方法、の順に説明する。
【0017】
[1]複合タングステン酸化物微粒子とその製造方法
一般に、自由電子を含む材料は、プラズマ振動によって波長200nmから2600nmの太陽光線の領域周辺の電磁波に反射吸収応答を示すことが知られている。このような物質の粉末を、光の波長より小さい微粒子にすると、可視光領域(波長380nmから780nm)の幾何学散乱が低減されて可視光領域の透明性が得られることが知られている。尚、本発明において「透明性」とは、「可視光領域の光に対して散乱が少なく透過性が高い。」という意味で用いている。
【0018】
一般に、タングステン酸化物(WO)中には有効な自由電子が存在しない為、赤外線領域の吸収反射特性が少なく、赤外線吸収微粒子としては有効ではない。
一方、酸素欠損を持つWOや、WOにNa等の陽性元素を添加した複合タングステン酸化物は、導電性材料であり、自由電子を持つ材料であることが知られている。そして、これらの自由電子を持つ材料の単結晶等の分析により、赤外線領域の光に対する自由電子の応答が示唆されている。
【0019】
以下、本発明に係る所定の組成を有する複合タングステン酸化物微粒子(A)と、その製造方法について、(1)複合タングステン酸化物微粒子(A)の組成、(2)複合タングステン酸化物微粒子(A)の結晶構造、(3)複合タングステン酸化物微粒子(A)の光学特性、(4)複合タングステン酸化物微粒子(A)の製造方法、の順に説明する。
【0020】
(1)複合タングステン酸化物微粒子(A)の組成
本発明者等は、当該タングステンと酸素との組成範囲の特定部分において、赤外線吸収微粒子として特に有効な範囲があることを見出し、可視光領域においては透明で、赤外線領域においては吸収を持つ複合タングステン酸化物微粒子に想到した。
【0021】
また、上述したWOへ、後述する元素Mを添加し複合タングステン酸化物とすることで、当該WO中に自由電子が生成され、特に近赤外線領域に自由電子由来の強い吸収特性が発現し、波長1000nm付近の赤外線吸収微粒子として有効となる。
【0022】
即ち、当該WOに対し、酸素量の制御と、自由電子を生成する元素Mの添加とを併用することで、より効率の良い複合タングステン酸化物微粒子を得ることが出来る。この酸素量の制御と、自由電子を生成する元素Mの添加とを併用した複合タングステン酸化物微粒子の一般式をMxWyOz(但し、Mは、前記M元素、Wはタングステン、Oは酸素)と記載したとき、0.001≦x/y≦1、2.0≦z/y≦3の関係を満たす複合タングステン酸化物微粒子が望ましい。
【0023】
まず、元素Mの添加量を示すx/yの値について説明する。
x/yの値が0.001より大きければ、複合タングステン酸化物において十分な量の自由電子が生成され目的とする赤外線吸収効果を得ることが出来る。そして、元素Mの添加量が多いほど、自由電子の供給量が増加し、赤外線吸収効率も上昇するが、x/yの値が1程度で当該効果も飽和する。また、x/yの値が1より小さければ、当該複合タングステン酸化物微粒子中に不純物相が生成されるのを回避できるので好ましい。
【0024】
また、元素Mは、H、He、アルカリ金属、アルカリ土類金属、希土類元素、Mg、Zr、Cr、Mn、Fe、Ru、Co、Rh、Ir、Ni、Pd、Pt、Cu、Ag、Au、Zn、Cd、Al、Ga、In、Tl、Si、Ge、Sn、Pb、Sb、B、F、P、S、Se、Br、Te、Ti、Nb、V、Mo、Ta、Re、Be、Hf、Os、Bi、I、Ybのうちから選択される1種類以上であることが好ましい。
【0025】
ここで、元素Mを添加された当該MxWyOzにおける安定性の観点から、元素Mは、アルカリ金属、アルカリ土類金属、希土類元素、Mg、Zr、Cr、Mn、Fe、Ru、Co、Rh、Ir、Ni、Pd、Pt、Cu、Ag、Au、Zn、Cd、Al、Ga、In、Tl、Si、Ge、Sn、Pb、Sb、B、F、P、S、Se、Br、Te、Ti、Nb、V、Mo、Ta、Reのうちのうちから選択される1種類以上の元素であることがより好ましい。そして、赤外線吸収微粒子としての光学特性、耐候性を向上させる観点から、元素Mは、アルカリ土類金属元素、遷移金属元素、4B族元素、5B族元素に属するものであることがさらに好ましい。
【0026】
酸素量の制御を示すz/yの値については、2.0≦z/y≦3.0において、上述した元素Mの添加量による自由電子の供給がある。この為、2.0≦z/y≦3.0が好ましく、より好ましくは2.2≦z/y≦3.0、さらに好ましくは2.45≦z/y≦3.0である。
【0027】
(2)複合タングステン酸化物微粒子(A)の結晶構造
本発明に係る複合タングステン酸化物微粒子(A)が、六方晶の結晶構造を有する場合、当該微粒子の可視光領域の透過が向上し赤外領域の吸収が向上する。この六方晶の結晶構造について、模式的な平面図である図1を参照しながら説明する。
【0028】
図1において、符号11で示すWO単位にて形成される8面体が6個集合して六角形の空隙が構成され、当該空隙中に、符号12で示す元素Mが配置して1箇の単位を構成し、この1箇の単位が多数集合して六方晶の結晶構造を構成する。
そして、可視光領域における光の透過を向上させ、赤外領域における光の吸収を向上させる効果を得る為には、複合タングステン酸化物微粒子中に、図1を用いて説明した単位構造が含まれていれば良く、当該複合タングステン酸化物微粒子(A)が結晶質であっても非晶質であっても構わない。
【0029】
この六角形の空隙に元素Mの陽イオンが添加されて存在するとき、可視光領域における光の透過が向上し、赤外領域における光の吸収が向上する。ここで一般的には、イオン半径の大きな元素Mを添加したとき当該六方晶が形成され易い。具体的には、Cs、K、Rb、Tl、In、Ba、Li、Ca、Sr、Fe、Snを添加したとき六方晶が形成され易い。勿論これら以外の元素でも、WO単位で形成される六角形の空隙に上述した元素Mが存在すれば良く、上述の元素に限定される訳ではない。
【0030】
六方晶の結晶構造を有する複合タングステン酸化物微粒子(A)が均一な結晶構造を有するとき、添加元素Mの添加量は、x/yの値で0.2以上0.5以下が好ましく、更に好ましくは0.33である。x/yの値が0.33となることで、上述した元素Mが六角形の空隙の全てに配置されると考えられる。
【0031】
また、六方晶以外であって、正方晶、立方晶の複合タングステン酸化物も赤外線吸収微粒子として有効である。結晶構造によって、赤外線領域の吸収位置が変化する傾向があり、立方晶<正方晶<六方晶の順に、吸収位置が長波長側に移動する傾向がある。また、それに付随して可視光線領域の吸収が少ないのは、六方晶、正方晶、立方晶の順である。従って、より可視光領域の光を透過し、より赤外線領域の光を吸収する用途には、六方晶の複合タングステン酸化物を用いることが好ましい。ただし、ここで述べた光学特性の傾向は、あくまで大まかな傾向であり、添加元素の種類や、添加量、酸素量によって変化するものであり、本発明がこれに限定されるわけではない。
【0032】
(3)複合タングステン酸化物微粒子(A)の光学特性
本発明に係る複合タングステン酸化物微粒子(A)は、近赤外線領域、特に波長1000nm付近の光を大きく吸収するため、その透過色調は青色系となる物が多い。
【0033】
(4)複合タングステン酸化物微粒子(A)の製造方法
本発明に係る複合タングステン酸化物微粒子(A)は、タングステン化合物である出発原料を還元性ガス雰囲気中で熱処理して複合タングステン酸化物微粒子を得、当該微粒子の結晶子径を、上述した所定の値とすることで得ることができる。
以下、本発明に係る複合タングステン酸化物(A)について、(i)出発原料、(ii)熱処理、の順に説明する。
【0034】
(i)出発原料
本発明に係る複合タングステン酸化物の出発原料は、タングステン、元素Mそれぞれの単体もしくは化合物を含有する混合物である。タングステン原料としてはタングステン酸粉末、三酸化タングステン粉末、二酸化タングステン粉末、酸化タングステンの水和物粉末、六塩化タングステン粉末、タングステン酸アンモニウム粉末、または、六塩化タングステン粉末をアルコール中に溶解させた後乾燥して得られるタングステン酸化物の水和物粉末、または、六塩化タングステンをアルコール中に溶解させたのち水を添加して沈殿させこれを乾燥して得られるタングステン酸化物の水和物粉末、または、タングステン酸アンモニウム水溶液を乾燥して得られるタングステン化合物粉末、金属タングステン粉末、から選ばれたいずれか1種類以上であることが好ましい。元素Mの原料としては、元素M単体、元素Mの塩化物塩、硝酸塩、硫酸塩、シュウ酸塩、酸化物、炭酸塩、タングステン酸塩、水酸化物等が挙げられるが、これらには限定されない。
【0035】
上述した出発原料を秤量し、本発明に係る複合タングステン酸化物を、一般式を用いてMxWyOz(但し、Mは、前記M元素、Wはタングステン、Oは酸素)と標記したとき、0.001<x/y≦1を満たす所定量をもって配合し混合する。このとき、タングステン、元素Mに係るそれぞれの原料が出来るだけ均一に、可能ならば分子レベルで均一に混合していることが好ましい。従って、前述の各出発原料は、それぞれ原料溶液の形で混合することがもっとも好ましい。この為、各出発原料は、水や有機溶剤等の溶媒に溶解可能なものであることが好ましい。
【0036】
各出発原料が水や有機溶剤等の溶媒に可溶であれば、各出発原料と溶媒とを十分に混合した後、これらを混合し、さらに当該溶媒を揮発させることで、本発明に係るタングステン化合物の出発原料の混合物を製造することができる。
尤も、各出発原料を可溶な溶媒が準備出来ない場合、各出発原料をボールミル等の公知の手段で十分に均一に混合することによっても、タングステン化合物の出発原料の混合物を製造することが出来る。
【0037】
(ii)熱処理
次に、還元性ガス雰囲気中における熱処理について説明する。熱処理温度は、同処理に供する出発原料の量によって適宜選択すればよいが、例えば、300℃以上900℃以下で熱処理することが好ましく、500℃以上850℃以下がより好ましい。300℃以上であれば本発明にかかる六方晶構造を持つ複合タングステン酸化物の生成反応が進行し、900℃以下であれば六方晶以外の構造を持つ複合タングステン酸化物微粒子や金属タングステンといった意図しない副反応物が生成し難く好ましい。
【0038】
この時の還元性ガスは、特に限定されないが、Hが好ましい。そして、還元性ガスとしてHを用いる場合は、還元性雰囲気の組成として、熱処理に供する出発原料の量によって適宜選択すればよいが、例えば、Ar、N等の不活性ガスにHを体積%で0.1%以上5.0%以下混合したものが好ましい。
必要に応じて、還元性ガス雰囲気中にて還元処理を行った後、不活性ガス雰囲気中にて熱処理を行ってもよい。この場合の不活性ガス雰囲気中での熱処理は400℃以上1200℃以下の温度で行うことが好ましい。
【0039】
[2]所定の結晶子径を有する複合タングステン酸化物微粒子分散液とその製造方法
複合タングステン酸化物微粒子(A)、即ち赤外線吸収微粒子を液状の溶媒中に分散させることで、複合タングステン酸化物微粒子分散液を製造することが出来る。本発明においては、結晶子径が25nm以上85nm以下である複合タングステン酸化物微粒子(A)が、所定の溶媒中に分散した複合タングステン酸化物微粒子分散液(B)を製造する。
【0040】
当該所定の結晶子径を有する複合タングステン酸化物微粒子分散液(B)は、複合タングステン酸化物微粒子(A)および所望により適量の分散剤、カップリング剤、界面活性剤等を、液状の溶媒へ添加し、異なる条件下において湿式の粉砕・分散処理を行うことで得ることが出来る。
【0041】
以下、所定の結晶子径を有する複合タングステン酸化物微粒子分散液(B)について、(1)溶媒、(2)分散剤、(3)複合タングステン酸化物微粒子(A)の結晶子径、(4)複合タングステン酸化物微粒子(A)の分散粒子径、(5)所定の結晶子径を有する複合タングステン酸化物微粒子(A)の製造方法、の順に説明する。
【0042】
(1)溶媒
当該複合タングステン酸化物微粒子分散液の溶媒には、複合タングステン酸化物微粒子の分散性を保つための機能と、複合タングステン酸化物微粒子分散液を塗布する際に塗布欠陥を生じさせないための機能が要求される。
【0043】
溶媒としては水、有機溶媒、植物油、植物油由来の化合物、石油系溶媒、油脂、液状樹脂、液状のプラスチック用可塑剤あるいはこれらの混合物を選択し複合タングステン酸化物微粒子分散液を製造することができる。上記の要求を満たす有機溶媒としては、アルコール系、ケトン系、炭化水素系、グリコール系、水系など、種々のものを選択することが可能である。
【0044】
具体的には、メタノール、エタノール、1-プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、ペンタノール、ベンジルアルコール、ジアセトンアルコールなどのアルコール系溶剤;アセトン、メチルエチルケトン、メチルプロピルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、イソホロンなどのケトン系溶剤;3-メチル-メトキシ-プロピオネートなどのエステル系溶剤;エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールイソプロピルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールエチルエーテルアセテートなどのグリコール誘導体;フォルムアミド、N-メチルフォルムアミド、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N-メチル-2-ピロリドンなどのアミド類;トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素類;エチレンクロライド、クロルベンゼンなどのハロゲン化炭化水素類などを挙げることができる。これらの中でも極性の低い有機溶剤が好ましく、特に、イソプロピルアルコール、エタノール、1-メトキシ-2-プロパノール、ジメチルケトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、トルエン、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、酢酸n-ブチルなどがより好ましい。これらの溶媒は1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0045】
植物油としては、アマニ油、ヒマワリ油、桐油、ゴマ油、綿実油、菜種油、大豆油、米糠油、オリーブ油、ヤシ油、パーム油、脱水ヒマシ油などが好ましい。
【0046】
植物油由来の化合物としては、植物油の脂肪酸とモノアルコールを直接エステル反応させた脂肪酸モノエステル、エーテル類などの植物油などが好ましい。
【0047】
石油系溶剤としては、アイソパーE、エクソールHexane、エクソールHeptane、エクソールE、エクソールD30、エクソールD40、エクソールD60、エクソールD80、エクソールD95、エクソールD110、エクソールD130(以上、エクソンモービル社製)などが好ましい。
【0048】
液状の樹脂としては、メタクリル酸メチル等が好ましい。液状のプラスチック用可塑剤としては、一価アルコールと有機酸エステルとの化合物である可塑剤や、多価アルコール有機酸エステル化合物等のエステル系である可塑剤、有機リン酸系可塑剤等のリン酸系である可塑剤などが好ましい例として挙げられる。なかでもトリエチレングリコールジ-2-エチルヘキサオネート、トリエチレングリコールジ-2-エチルブチレート、テトラエチレングリコールジ-2-エチルヘキサオネートは、加水分解性が低い為、さらに好ましい。
【0049】
(2)分散剤
分散剤、カップリング剤、界面活性剤は用途に合わせて選定可能であるが、アミンを含有する基、水酸基、カルボキシル基、または、エポキシ基を官能基として有することが好ましい。これらの官能基は、複合タングステン酸化物微粒子の表面に吸着し、複合タングステン酸化物微粒子の凝集を防ぎ、赤外線吸収膜中でも本発明に係る複合タングステン酸化物微粒子を均一に分散させる効果を持つ。
【0050】
好適に用いることのできる分散剤としては、リン酸エステル化合物、高分子系分散剤、シラン系カップリング剤、チタネート系カップリング剤、アルミニウム系カップリング剤、等があるが、これらに限定されるものではない。高分子系分散剤としては、アクリル系高分子分散剤、ウレタン系高分子分散剤、アクリル・ブロックコポリマー系高分子分散剤、ポリエーテル類分散剤、ポリエステル系高分子分散剤などが挙げられる。
【0051】
当該分散剤の添加量は、複合タングステン酸化物微粒子100質量部に対し10質量部以上1000質量部以下の範囲であることが望ましく、より好ましくは20質量部以上200質量部以下の範囲である。分散剤添加量が上記範囲にあれば、複合タングステン酸化物微粒子が分散液中で凝集を起こすことがなく、分散安定性が保たれる。
【0052】
(3)複合タングステン酸化物微粒子(A)の結晶子径
本発明に係る複合タングステン酸化物微粒子(A)は、優れた赤外線吸収特性を担保しながら、b*の値が正の値となる程度に青味が抑制された微粒子とする観点から、結晶子径が25nm以上85nm以下、好ましくは30nm以上50nm以下であることが肝要である。
【0053】
本発明に係る複合タングステン酸化物微粒子(A)の結晶子径の測定には、粉末X線回折法(θ―2θ法)によるX線回折パターンの測定と、リートベルト法による解析を用いる。
結晶子径は、XRD(X線回折法)の分析結果に基づくリートベルト解析によって求めることができる。具体的には、スペクトリス株式会社PANalytical社製の粉末X線回折装置「X’Pert-PRO/MPD」装置を用い、Cu線源で回折角2θ=10°~120°に出現する複合タングステン酸化物微粒子の回折ピーク位置に基づいて、リートベルト解析を行うことによって結晶子径を求めることができる。
【0054】
(4)複合タングステン酸化物微粒子(A)の分散粒子径
後述する、本発明に係る複合タングステン酸化物微粒子の分散粒子径をその使用目的によって各々選定する為、分散液(B)中に分散している複合タングステン酸化物微粒子(A)の分散粒子径を各々選定することができる。
【0055】
まず、透明性を保持したい応用に使用する場合、分散粒子は800nm以下の粒子径を有していることが好ましい。これは、800nmよりも小さい粒子は、散乱により光を完全に遮蔽することが無く、可視光線領域の視認性を保持し、同時に効率良く透明性を保持することができるからである。特に可視光領域の透明性を重視する場合は、さらに粒子による散乱を考慮することが好ましい。
【0056】
この粒子による散乱の低減を重視するとき、分散粒子径は200nm以下、好ましくは150nm以下が良い。この理由は、粒子の分散粒子径が小さければ、幾何学散乱もしくはミー散乱による、波長400~780nmの可視光線領域の光の散乱が低減される結果、赤外線吸収膜が曇りガラスのようになり、鮮明な透明性が得られなくなるのを回避できる。即ち、分散粒子径が200nm以下になると、上記幾何学散乱もしくはミー散乱が低減し、レイリー散乱領域になる。レイリー散乱領域では、散乱光は粒子径の6乗に比例して低減するため、分散粒子径の減少に伴い散乱が低減し透明性が向上するからである。
さらに分散粒子径が150nm以下になると、散乱光は非常に少なくなり好ましい。光の散乱を回避する観点からは、分散粒子径が小さい方が好ましく、分散粒子径が1nm以上あれば工業的な製造は容易である。
【0057】
上記分散粒子径を800nm以下とすることにより、本発明に係る複合タングステン酸化物微粒子分散液(B)や複合タングステン酸化物微粒子分散体(B)のヘイズ値は、可視光透過率85%以下でヘイズ30%以下とすることができる。ヘイズが30%よりも大きい値であると、曇りガラスのようになり、鮮明な透明性が得られない。
尚、複合タングステン酸化物微粒子(A)の分散粒子径は、動的光散乱法を原理とした大塚電子株式会社製ELS-8000等を用いて測定することができる。
【0058】
(5)所定の結晶子径を有する複合タングステン酸化物微粒子(A)の製造方法
複合タングステン酸化物微粒子(A)、分散剤、および所望によりカップリング剤、界面活性剤等を、液状の溶媒へ添加し、湿式の粉砕・分散処理を行うことで、本発明に係る複合タングステン酸化物微粒子分散液を得ることができる。
このとき、当該湿式の粉砕・分散処理の条件を制御することにより、所定の結晶子径を有する複合タングステン酸化物微粒子(A)が液状の溶媒中に分散している、本発明に係る複合タングステン酸化物微粒子分散液(B)を製造することが出来る。
【0059】
湿式粉砕・分散処理の方法は、当該複合タングステン酸化物微粒子が均一に溶媒中へ分散する方法であれば公知の方法から任意に選択でき、たとえばビーズミル、ボールミル、サンドミル、超音波分散などの方法を用いることができる。
均一な複合タングステン酸化物微粒子分散液(B)を得るために、各種添加剤や分散剤を添加したり、pH調整したりしても良い。
【0060】
湿式粉砕・分散処理の具体的条件は、湿式粉砕装置の仕様、分散剤や溶媒の種類に拠る。そこで、所定の湿式粉砕装置、分散剤や溶媒を決め、複合タングステン酸化物微粒子分散液を試作して、結晶子径が25nm以上85nm以下である複合タングステン酸化物微粒子(A)が得られる湿式粉砕・分散処理条件を見出し、これを設定する。
【0061】
[3]複合タングステン酸化物微粒子分散粉末とその製造方法
上述した本発明に係る複合タングステン酸化物微粒子分散液(B)から、溶媒の除去を行うことにより、複合タングステン酸化物微粒子分散粉末(C)を得ることが出来る。
複合タングステン酸化物微粒子分散液(B)から、溶媒の除去を行うには、複合タングステン酸化物微粒子分散液(B)を減圧乾燥することが好ましい。具体的には、複合タングステン酸化物微粒子分散液(B)を攪拌しながら減圧乾燥し、複合タングステン酸化物微粒子含有組成物と溶媒成分とを分離すればよい。乾燥工程の減圧の際の圧力は適宜選択される。
当該減圧乾燥法を用いることで、複合タングステン酸化物微粒子分散液(B)からの溶媒の除去効率が向上するとともに、本発明にかかる混合複合タングステン酸化物微粒子粉末が長時間高温に曝されることがないので、該微粒子中に分散している混合複合タングステン酸化物微粒子の凝集が起こらず好ましい、さらに混合複合タングステン酸化物微粒子の生産性も上がり、蒸発した溶媒を回収することも容易で、環境的配慮からも好ましい。
【0062】
[4]複合タングステン酸化物微粒子分散体とその製造方法
本発明に係る複合タングステン酸化物微粒子分散液(B)、または、複合タングステン酸化物微粒子分散粉末(C)を、固体状の媒体中へ分散することで、分散粉やマスターバッチ、赤外線吸収フィルム、赤外線吸収プラスチック成形体などの複合タングステン酸化物微粒子分散体(D)を製造することができる。
【0063】
一般的な使用方法の例として、本発明に係る複合タングステン酸化物微粒子分散液(B)を用いた赤外線吸収フィルムの製造方法について述べる。前述した複合タングステン酸化物微粒子分散液(B)をプラスチックあるいはモノマーと混合して塗布液を作製し、公知の方法で基材上にコーティング膜を形成することで、赤外線吸収フィルムを作製することができる。尚、赤外線吸収フィルムは本発明に係る複合タングステン酸化物微粒子分散体(D)の一例である。
【0064】
上記コーティング膜の媒体は、例えば、UV硬化樹脂、熱硬化樹脂、電子線硬化樹脂、常温硬化樹脂、熱可塑樹脂等が目的に応じて選定可能である。具体的には、ポリエチレン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリ塩化ビニリデン樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、エチレン酢酸ビニル共重合体、ポリエステル樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ふっ素樹脂、ポリカーボネート樹脂、アクリル樹脂、ポリビニルブチラール樹脂が挙げられる。これらの樹脂は、単独使用であっても混合使用であっても良い。また、金属アルコキシドを用いたバインダーの利用も可能である。上記金属アルコキシドとしては、Si、Ti、Al、Zr等のアルコキシドが代表的である。これら金属アルコキシドを用いたバインダーは、加熱等により加水分解・縮重合させることで、酸化物膜を形成することが可能である。
【0065】
上記基材としては上述したようにフィルムでも良いが、所望によってはボードでも良く、形状は限定されない。透明基材材料としては、PET、アクリル、ウレタン、ポリカーボネート、ポリエチレン、エチレン酢酸ビニル共重合体、塩化ビニル、ふっ素樹脂等が、各種目的に応じて使用可能である。また、樹脂以外ではガラスを用いることができる。
【0066】
そして、本発明に係る複合タングステン酸化物微粒子分散体(D)は、耐候性が低い有機系材料を含有していない為、耐候性が高く、各種建築物や車両の窓材等の分野における使用環境に耐えることが出来るものである。
【実施例
【0067】
以下、実施例を参照しながら本発明を具体的に説明する。
但し、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0068】
複合タングステン酸化物微粒子の結晶子径は、X線回折パターンをリートベルト法により解析することで算出した。X線回折パターンは、粉末X線回折装置(スペクトリス株式会社PANalytical製X’Pert-PRO/MPD)を用いて粉末X線回折法(θ―2θ法)により測定した。
少なくとも1種類以上の複合タングステン酸化物微粒子から成る分散液および少なくとも1種類以上の複合タングステン酸化物微粒子から成る分散体の光学特性は、分光光度計(日立製作所株式会社製 U-4100)を用いて、波長200~2600nmの範囲において5nmの間隔で透過光プロファイルとして測定し、可視光透過率と日射透過率をJISR3106に従って算出した。表色系はJIS Z 8701に基づくL*a*b*表色系(D65光源/10度視野)を用い、b*の値を測定した。
【0069】
[実施例1]
Cs/W(モル比)=0.33の六方晶セシウムタングステンブロンズ(Cs0.33WOz、2.0≦z≦3.0)粉末((登録商標)住友金属鉱山株式会社製YM-01)8質量%と、ポリアクリレート系分散剤24質量%と、溶媒としてトルエン68質量%とを混合して混合液を得た。得られた混合液200gを0.3mmφZrOビーズ750gと共に、ペイントシェイカー(淺田鉄工株式会社製)に装填し、7時間の粉砕・分散処理を行い、実施例1に係る複合タングステン酸化物微粒子分散液を得た。
【0070】
実施例1に係る複合タングステン酸化物微粒子分散液を、溶媒であるトルエンを使って可視光透過率が80%となるように希釈した。そして、分光光度計の測定用ガラスセル(ジーエルサイエンス株式会社製、型番:S-10-SQ-1、材質:合成石英、光路長:1mm)にて透過光プロファイルを測定した。尚、当該測定前に、分散液の溶媒であるトルエンを当該ガラスセルに満たした状態で透過光プロファイルのベースラインを測定した。
当該ベースラインの測定により、分光光度計用ガラスセル表面の光反射や、溶媒の光吸収による寄与をキャンセルすることが出来、複合タングステン酸化物微粒子による光吸収のみが透過光プロファイルに反映されることとなる。
得られた透過光プロファイルから、実施例1に係る複合タングステン酸化物微粒子分散液の可視光透過率、日射透過率、b*を算出した。当該評価結果を表1に示す。
【0071】
次いで、実施例1に係る複合タングステン酸化物微粒子分散液から真空流動乾燥により溶媒を蒸発させ、実施例1に係る複合タングステン酸化物微粒子分散粉末を得た。真空流動乾燥は、真空擂潰機(株式会社石川工場製24P)を用いて行った。回転数は45rpm/min、ヒーター温度設定は70℃とした。
得られた実施例1に係る複合タングステン酸化物微粒子分散粉末に含まれる、実施例1に係る複合タングステン酸化物微粒子の結晶子径を測定したところ、48nmであった。
【0072】
実施例1に係る複合タングステン酸化物微粒子分散粉末とポリカーボネート樹脂とを、後に得られる実施例1に係る合タングステン酸化物微粒子分散体である赤外線吸収シートの可視光透過率が80%前後になるようにドライブレンドした(この例では、複合タングステン酸化物微粒子の濃度が0.045質量%となるようにブレンドした。)。得られたブレンド物を、二軸押出機を用いて290℃で混練し、Tダイより押出して、カレンダーロール法により0.75mm厚のシート材とし、実施例1に係る合タングステン酸化物微粒子分散体である赤外線吸収シートを得た。
【0073】
得られた赤外線吸収シートの透過光プロファイルを測定した。得られた透過光プロファイルから、実施例1に係る合タングステン酸化物微粒子分散体の可視光透過率、日射透過率、b*を算出した。評価結果を表1に示す。また、実施例1に係る複合タングステン酸化物微粒子分散液の透過光プロファイルを図2に実線で示す。
【0074】
[実施例2]
実施例1にて説明した、湿式粉砕・分散処理の処理時間を13時間に変更したこと以外は、実施例1と同様の操作をすることで、実施例2に係る複合タングステン酸化物微粒子分散液を得た。得られた分散液の溶媒除去を行い、得られた実施例2に係る複合タングステン酸化物微粒子分散粉末に含まれる、実施例2に係る複合タングステン酸化物微粒子の結晶子径を測定したところ、32nmであった。
【0075】
実施例1に係る複合タングステン酸化物微粒子分散液の代わりに、実施例2に係る複合タングステン酸化物微粒子分散液を用いたこと以外は、実施例1と同様の操作をすることで、実施例2に係る複合タングステン酸化物微粒子分散液、実施例2に係る複合タングステン酸化物微粒子分散粉末を得て、実施例1と同様の評価を実施した。評価結果を表1に示す。また、実施例2に係る複合タングステン酸化物微粒子分散液の透過光プロファイルを図2に長破線で示す。
【0076】
[比較例1]
実施例1にて説明した、湿式粉砕・分散処理の処理時間を2時間に変更したこと以外は、実施例1と同様の操作をすることで、比較例1に係る複合タングステン酸化物微粒子分散液を得た。得られた分散液の溶媒除去を行い、得られた比較例1に係る複合タングステン酸化物微粒子分散粉末に含まれる、比較例1に係る複合タングステン酸化物微粒子の結晶子径を測定したところ、88nmであった。
【0077】
実施例1に係る複合タングステン酸化物微粒子分散液の代わりに、比較例1に係る複合タングステン酸化物微粒子分散液を用いたこと以外は、実施例1と同様の操作をすることで、比較例1に係る複合タングステン酸化物微粒子分散液、および、比較例1に係る複合タングステン酸化物微粒子分散粉末を得て、実施例1と同様の評価を実施した。評価結果を表1に示す。
【0078】
[比較例2]
実施例1にて説明した、湿式粉砕・分散処理の処理時間を30時間に変更したこと以外は、実施例1と同様の操作をすることで、比較例2に係る複合タングステン酸化物微粒子分散液を得た。得られた分散液の溶媒除去を行い、得られた比較例2に係る複合タングステン酸化物微粒子分散粉末に含まれる、比較例2に係る複合タングステン酸化物微粒子の結晶子径を測定したところ、22nmであった。
【0079】
実施例1に係る複合タングステン酸化物微粒子分散液の代わりに、比較例2に係る複合タングステン酸化物微粒子分散液を用いたこと以外は、実施例1と同様の操作をすることで、比較例2に係る複合タングステン酸化物微粒子分散液、および、比較例2に係る複合タングステン酸化物微粒子分散粉末を得て、実施例1と同様の評価を実施した。評価結果を表1に示す。また、比較例2に係る複合タングステン酸化物微粒子分散液の透過光プロファイルを図2に短破線で示す。
【0080】
【表1】
【0081】
[まとめ]
表1から明らかなように、実施例1または2に係る複合タングステン酸化物微粒子分散液(複合タングステン微粒子成分のみで測定)と、実施例1に係る複合タングステン酸化物微粒子分散体とは、いずれも可視光透過率が80%の時の日射透過率が45%以下で、かつb*が0以上であった。この結果より、光学的特性に優れ、且つ、青味の抑制されたものとなっていることが判明した。
さらに、実施例1または2に係る複合タングステン酸化物微粒子分散液は、比較例1に係る複合タングステン酸化物微粒子分散液と比較して、いずれも可視光透過率が80%の時の日射透過率が明らかに低く、優れた赤外線吸収特性を有していることが確認された。一方、比較例2に係る複合タングステン酸化物微粒子分散液は、b*値が0未満である。
また、図2のグラフより、実施例1または2に係る複合タングステン酸化物微粒子分散液は、比較例2に係る複合タングステン酸化物微粒子分散液と比較して、プロファイルが長波長側へピークシフトしていることが判明した。
図1
図2