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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-10
(45)【発行日】2025-02-19
(54)【発明の名称】導電性高分子組成物及びその用途
(51)【国際特許分類】
   C08L 65/00 20060101AFI20250212BHJP
   C08K 3/01 20180101ALI20250212BHJP
   C08G 61/12 20060101ALI20250212BHJP
   H01G 9/028 20060101ALI20250212BHJP
【FI】
C08L65/00
C08K3/01
C08G61/12
H01G9/028 G
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2021000581
(22)【出願日】2021-01-05
(65)【公開番号】P2022105937
(43)【公開日】2022-07-15
【審査請求日】2023-12-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000003300
【氏名又は名称】東ソー株式会社
(72)【発明者】
【氏名】川上 淳一
【審査官】仁科 努
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/176662(WO,A1)
【文献】特開2017-222831(JP,A)
【文献】特開2020-026490(JP,A)
【文献】特開2020-059837(JP,A)
【文献】特表2018-507268(JP,A)
【文献】特開2008-214587(JP,A)
【文献】特開2005-314671(JP,A)
【文献】特開2010-116517(JP,A)
【文献】特開2017-112051(JP,A)
【文献】国際公開第2003/048227(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 65/00
C08K 3/01
C08G 61/12
H01G 9/028
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表される構造単位及び下記一般式(2)で表される構造単位からなる群より選ばれる少なくとも一種の構造単位を含むポリチオフェン(A)を0.01~10重量%含み、粒子径(D50)が80nm以下の絶縁性無機粒子(B)を0.01~3重量%含み、水を含むことを特徴とする、電解コンデンサ製造用の導電性高分子組成物(但し、フッ素系界面活性剤を含む組成物を除く)
【化1】
[一般式(1)及び(2)において、R2は、水素原子、メチル基、エチル基、炭素数3~6の直鎖状若しくは分岐状のアルキル基、又はフッ素原子を表し、mは、1~10の整数を表し、nは、0又は1を表す。]
【請求項2】
前記の絶縁性無機粒子(B)の粒子径(D50)が、60nm以下である、請求項1に記載の導電性高分子組成物。
【請求項3】
前記の絶縁性無機粒子(B)が、酸化アルミニウム、酸化チタン、二酸化ケイ素、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、チタン酸バリウム、チタン酸ストロンチウム、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、カオリン、ヒドロキシアパタイト、ベントナイト、及びハイドロタルサイトからなる群より選ばれる1つ又は2つ以上の混合物からなるものである、請求項1又は2に記載の導電性高分子組成物。
【請求項4】
前記の(A)、(B)、及び水に加えて、更に、アルカリ金属化合物、アンモニア、有機アミン化合物、及び第4級アンモニウム化合物からなる群より選ばれる化合物(C)を含み、かつpHが、1.5~10.0の範囲である、請求項1乃至3のいずれかに記載の導電性高分子組成物。
【請求項5】
下記一般式(1)で表される構造単位及び下記一般式(2)で表される構造単位からなる群より選ばれる少なくとも一種の構造単位を含むポリチオフェン(A)と、粒子径(D50)が80nm以下の絶縁性無機粒子(B)を含むことを特徴とする電解コンデンサ用導電性高分子膜(但し、フッ素系界面活性剤を含む導電性高分子膜を除く)
【化2】

[一般式(1)及び(2)において、R2は、水素原子、メチル基、エチル基、炭素数3~6の直鎖状若しくは分岐状のアルキル基、又はフッ素原子を表し、mは、1~10の整数を表し、nは、0又は1を表す。]
【請求項6】
下記一般式(1)で表される構造単位及び下記一般式(2)で表される構造単位からなる群より選ばれる少なくとも一種の構造単位を含むポリチオフェン(A)を0.01~10重量%含み、粒子径(D50)が80nm以下の絶縁性無機粒子(B)を0.01~3重量%含み、水を含む導電性高分子組成物を塗布し、乾燥させることを特徴とする、請求項5に記載の導電性高分子膜の製造方法。
【化3】
[一般式(1)及び(2)において、R2は、水素原子、メチル基、エチル基、炭素数3~6の直鎖状若しくは分岐状のアルキル基、又はフッ素原子を表し、mは、1~10の整数を表し、nは、0又は1を表す。]
【請求項7】
前記の請求項5に記載の導電性高分子膜を備えることを特徴とする電解コンデンサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な導電性高分子組成物及びその用途に係る。
【背景技術】
【0002】
近年、ポリアセチレン、ポリチオフェン、ポリアニリン、ポリピロール等に代表されるπ共役系高分子に、電子受容性化合物をドーパントとしてドープした導電性高分子材料が開発され、例えば、帯電防止剤、電解コンデンサの固体電解質、導電性塗料、エレクトロクロミック素子、電極材料、熱電変換材料、透明導電膜、化学センサ、アクチュエータ等への応用が検討されている。電解コンデンサ分野では電子機器の高速化、高周波化に伴って、高容量で低ESRな電解コンデンサが強く要望されている。この要望を満たす導電性高分子材料として化学的安定性の面からポリチオフェン系導電性高分子材料が実用上有用である。
【0003】
ポリチオフェン系導電性高分子材料としては、(i)ドーパントとなるポリスチレンスルホン酸(PSS)の水溶液中で、3,4-エチレンジオキシチオフェン(EDOT)を重合させることで得られるPEDOT/PSS水分散体溶液や、(ii)水溶性の付与とドーピング作用を兼ね備えた置換基(スルホ基、スルホネート基等)を直接又はスペーサを介してポリマー主鎖中に有する、いわゆる自己ドープ型導電性高分子(例えば、スルホン化ポリアニリン、PEDOT-S等)等が知られている(例えば、非特許文献1、2参照)。
【0004】
PEDOT/PSSを使用した電解コンデンサは知られている(特許文献1)。しかし、PEDOT/PSSは粒子状で存在するために拡張処理を行った電解コンデンサ誘電体表面を隅々まで覆うことが出来ず電解コンデンサの容量を十分に引き出すことが困難であることが知られており、当該課題を解決する方法として、水溶性で、電解コンデンサ誘電体表面を隅々まで覆う潜在能力がある自己ドープ型導電性高分子の開発が行われている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【文献】Journal of American Chemical Society,112,2801-2803(1990)
【文献】Advanced Materials,Vol.23(38)4403-4408(2011)
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2017-147466号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
電解コンデンサの好ましい特性として、低ESRであることが求められる。電解コンデンサの極間を高い導電率の導電性高分子にて埋めることで低ESRな電解コンデンサが作製できることが知られている。PEDOT/PSSは粒子状で存在するために極間を埋め易く低ESRな電解コンデンサが作製し易いが、自己ドープ型導電性高分子は粒子状ではないために極間を埋め難いためにESRが下がり難い。従来公知の自己ドープ型導電性高分子については、このESR特性の改善が望まれている。
【0008】
そこで本発明は、高い容量を維持したまま、低ESRの優れた特性を有する電解コンデンサを製造するための自己ドープ型導電性高分子組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、下記に示す導電性高分子組成物が、低ESRの優れた特性を有する電解コンデンサを提供できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明は以下に示すとおりの導電性高分子組成物、及び導電性高分子膜並びにそれを用いた電解コンデンサに関するものである。
[1] 下記一般式(1)で表される構造単位及び下記一般式(2)で表される構造単位からなる群より選ばれる少なくとも一種の構造単位を含むポリチオフェン(A)を0.01~10重量%含み、粒子径(D50)が80nm以下の絶縁性無機粒子(B)を0.01~3重量%含み、水を含むことを特徴とする、導電性高分子組成物。
【0011】
【化1】
【0012】
[一般式(1)及び(2)において、Rは、水素原子、メチル基、エチル基、炭素数3~6の直鎖状若しくは分岐状のアルキル基、又はフッ素原子を表し、mは、1~10の整数を表し、nは、0又は1を表す。]
[2] 前記の絶縁性無機粒子(B)の粒子径(D50)が、60nm以下である、[1]に記載の導電性高分子組成物。
[3] 前記の絶縁性無機粒子(B)が、酸化アルミニウム、酸化チタン、二酸化ケイ素、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、チタン酸バリウム、チタン酸ストロンチウム、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、カオリン、ヒドロキシアパタイト、ベントナイト、及びハイドロタルサイトからなる群より選ばれる1つ又は2つ以上の混合物からなるものである、[1]又は[2]に記載の導電性高分子組成物。
[4] 前記の(A)、(B)、及び水に加えて、更に、アルカリ金属化合物、アンモニア、有機アミン化合物、及び第4級アンモニウム化合物からなる群より選ばれる化合物(C)を含み、かつpHが、1.5~10.0の範囲である、[1]乃至[3]のいずれかに記載の導電性高分子組成物。
[5] 下記一般式(1)で表される構造単位及び下記一般式(2)で表される構造単位からなる群より選ばれる少なくとも一種の構造単位を含むポリチオフェン(A)と、粒子径(D50)が80nm以下の絶縁性無機粒子(B)を含むことを特徴とする導電性高分子膜。
【0013】
【化2】
【0014】
[一般式(1)及び(2)において、Rは、水素原子、メチル基、エチル基、炭素数3~6の直鎖状若しくは分岐状のアルキル基、又はフッ素原子を表し、mは、1~10の整数を表し、nは、0又は1を表す。]
[6] 下記一般式(1)で表される構造単位及び下記一般式(2)で表される構造単位からなる群より選ばれる少なくとも一種の構造単位を含むポリチオフェン(A)を0.01~10重量%含み、粒子径(D50)が80nm以下の絶縁性無機粒子(B)を0.01~3重量%含み、水を含む導電性高分子組成物を塗布し、乾燥させることを特徴とする、[5]に記載の導電性高分子膜の製造方法。
【0015】
【化3】
【0016】
[一般式(1)及び(2)において、Rは、水素原子、メチル基、エチル基、炭素数3~6の直鎖状若しくは分岐状のアルキル基、又はフッ素原子を表し、mは、1~10の整数を表し、nは、0又は1を表す。]
[7] 前記の[5]に記載の導電性高分子膜を備えることを特徴とする電解コンデンサ。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、高い容量を維持したまま、低ESRな電解コンデンサを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0019】
本発明は、下記一般式(1)で表される構造単位及び下記一般式(2)で表される構造単位からなる群より選ばれる少なくとも一種の構造単位を含むポリチオフェン(A)を0.01~10重量%含み、粒子径(D50)が80nm以下の絶縁性無機粒子(B)を0.01~3重量%含み、水を含むことを特徴とする、導電性高分子組成物である。
【0020】
【化4】
【0021】
[一般式(1)及び(2)において、Rは、水素原子、メチル基、エチル基、炭素数3~6の直鎖状若しくは分岐状のアルキル基、又はフッ素原子を表し、mは、1~10の整数を表し、nは、0又は1を表す。]
上記一般式(1)及び(2)中、Rは、水素原子、メチル基、エチル基、炭素数3~6の直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキル基、又はフッ素原子を表す。
【0022】
前記の炭素数3~6の直鎖状若しくは分岐鎖状アルキル基としては、特に限定するものではないが、例えば、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、tert-ペンチル基、シクロペンチル基、n-へキシル基、2-エチルブチル基、又はシクロヘキシル基等が挙げられる。
【0023】
上記のRについては、成膜性の点で、水素原子、メチル基、エチル基、又はフッ素原子であることが好ましく、水素原子、又はメチル基であることがより好ましい。
【0024】
上記一般式(1)及び(2)中、mは、1~10の整数を表し、成膜性の点で、1~6の整数であることが好ましく、1~4の整数であることがより好ましく、2又は3であることがより好ましい。
【0025】
上記一般式(1)及び(2)中、nは、0又は1を表し、導電性に優れる点で、nは1であることが好ましい。
【0026】
上記一般式(2)で表される構造単位は、上記一般式(1)で表される構造単位のドーピング状態を表す。
【0027】
ドーピングにより絶縁体-金属転移を引き起こすドーパントは、アクセプタとドナーに分けられる。前者は、ドーピングにより導電性ポリマーの高分子鎖の近くに入り主鎖の共役系からπ電子を奪う。結果として、主鎖上に正電荷(正孔、ホール)が注入されるため、p型ドーパントとも呼ばれる。また、後者は、逆に主鎖の共役系に電子を与えることになり、この電子が主鎖の共役系を動くことになるため、n型ドーパントとも呼ばれる。
【0028】
本発明におけるドーパントは、ポリマー分子内に共有結合で結びついたスルホ基又はスルホナート基であり、p型ドーパントである。このように外部からドーパントを添加することなく導電性を発現するポリマーは自己ドープ型高分子と呼ばれている。
【0029】
本発明のポリチオフェン(A)は、下記一般式(3)で表されるチオフェンモノマーを、水又はアルコール溶媒中、酸化剤の存在下に重合させ、次いで必要に応じて酸処理することで製造することができる。
【0030】
【化5】
【0031】
[上記一般式(3)において、Mは、水素イオン、又は金属イオンを表す。Rは、水素原子、メチル基、エチル基、炭素数3~6の直鎖状若しくは分岐状のアルキル基、又はフッ素原子を表し、mは、1~10の整数を表し、nは、0又は1を表す。]
一般式(3)におけるMで表される金属イオンとしては、特に限定するものではないが、遷移金属イオン、貴金属イオン、非鉄金属イオン、アルカリ金属イオン(例えば、Liイオン、Naイオン、及びKイオン)、又はアルカリ土類金属イオン等が挙げられる。
【0032】
一般式(3)で表されるチオフェンモノマーの重合後に得られるポリマーが金属イオンの塩である場合(Mが金属イオンである場合)は、得られた金属塩ポリマーを酸処理することでMを水素イオンへ変換することができる。すなわち、一般式(3)におけるMが金属イオンであったとしても、上記の一般式(1)で表される構造単位及び一般式(2)で表される構造単位からなる群より選ばれる少なくとも一種の構造単位を含むポリチオフェン(A)を製造することができる。さらに当該ポリチオフェン(A)をアルカリ金属化合物やアミン化合物と混合することで、上記の一般式(1’)で表される構造単位及び一般式(2’)で表される構造単位からなる群より選ばれる少なくとも一種の構造単位を含むポリチオフェンを製造することができる。
【0033】
上記一般式(3)で表されるチオフェンモノマーとしては、特に限定するものではないが、具体的には、6-(2,3-ジヒドロ-チエノ[3,4-b][1,4]ジオキシン-2-イル)ヘキサン-1-スルホン酸、6-(2,3-ジヒドロ-チエノ[3,4-b][1,4]ジオキシン-2-イル)ヘキサン-1-スルホン酸ナトリウム、6-(2,3-ジヒドロ-チエノ[3,4-b][1,4]ジオキシン-2-イル)ヘキサン-1-スルホン酸リチウム、6-(2,3-ジヒドロ-チエノ[3,4-b][1,4]ジオキシン-2-イル)ヘキサン-1-スルホン酸カリウム、8-(2,3-ジヒドロ-チエノ[3,4-b][1,4]ジオキシン-2-イル)オクタン-1-スルホン酸、8-(2,3-ジヒドロ-チエノ[3,4-b][1,4]ジオキシン-2-イル)オクタン-1-スルホン酸ナトリウム、8-(2,3-ジヒドロ-チエノ[3,4-b][1,4]ジオキシン-2-イル)オクタン-1-スルホン酸カリウム、3-[(2,3-ジヒドロチエノ[3,4-b]-[1,4]ジオキシン-2-イル)メトキシ]-1-プロパンスルホン酸ナトリウム、3-[(2,3-ジヒドロチエノ[3,4-b]-[1,4]ジオキシン-2-イル)メトキシ]-1-プロパンスルホン酸カリウム、3-[(2,3-ジヒドロチエノ[3,4-b]-[1,4]ジオキシン-2-イル)メトキシ]-1-メチル-1-プロパンスルホン酸ナトリウム、3-[(2,3-ジヒドロチエノ[3,4-b]-[1,4]ジオキシン-2-イル)メトキシ]-1-エチル-1-プロパンスルホン酸ナトリウム、3-[(2,3-ジヒドロチエノ[3,4-b]-[1,4]ジオキシン-2-イル)メトキシ]-1-プロピル-1-プロパンスルホン酸ナトリウム、3-[(2,3-ジヒドロチエノ[3,4-b]-[1,4]ジオキシン-2-イル)メトキシ]-1-ブチル-1-プロパンスルホン酸ナトリウム、3-[(2,3-ジヒドロチエノ[3,4-b]-[1,4]ジオキシン-2-イル)メトキシ]-1-ペンチル-1-プロパンスルホン酸ナトリウム、3-[(2,3-ジヒドロチエノ[3,4-b]-[1,4]ジオキシン-2-イル)メトキシ]-1-ヘキシル-1-プロパンスルホン酸ナトリウム、3-[(2,3-ジヒドロチエノ[3,4-b]-[1,4]ジオキシン-2-イル)メトキシ]-1-イソプロピル-1-プロパンスルホン酸ナトリウム、3-[(2,3-ジヒドロチエノ[3,4-b]-[1,4]ジオキシン-2-イル)メトキシ]-1-イソブチル-1-プロパンスルホン酸ナトリウム、3-[(2,3-ジヒドロチエノ[3,4-b]-[1,4]ジオキシン-2-イル)メトキシ]-1-イソペンチル-1-プロパンスルホン酸ナトリウム、3-[(2,3-ジヒドロチエノ[3,4-b]-[1,4]ジオキシン-2-イル)メトキシ]-1-フルオロ-1-プロパンスルホン酸ナトリウム、3-[(2,3-ジヒドロチエノ[3,4-b]-[1,4]ジオキシン-2-イル)メトキシ]-1-メチル-1-プロパンスルホン酸カリウム、3-[(2,3-ジヒドロチエノ[3,4-b]-[1,4]ジオキシン-2-イル)メトキシ]-1-メチル-1-プロパンスルホン酸、3-[(2,3-ジヒドロチエノ[3,4-b]-[1,4]ジオキシン-2-イル)メトキシ]-1-メチル-1-プロパンスルホン酸アンモニウム、3-[(2,3-ジヒドロチエノ[3,4-b]-[1,4]ジオキシン-2-イル)メトキシ]-1-メチル-1-プロパンスルホン酸トリエチルアンモニウム、4-[(2,3-ジヒドロチエノ[3,4-b]-[1,4]ジオキシン-2-イル)メトキシ]-1-ブタンスルホン酸ナトリウム、4-[(2,3-ジヒドロチエノ[3,4-b]-[1,4]ジオキシン-2-イル)メトキシ]-1-ブタンスルホン酸カリウム、4-[(2,3-ジヒドロチエノ[3,4-b]-[1,4]ジオキシン-2-イル)メトキシ]-1-メチル-1-ブタンスルホン酸ナトリウム、4-[(2,3-ジヒドロチエノ[3,4-b]-[1,4]ジオキシン-2-イル)メトキシ]-1-メチル-1-ブタンスルホン酸カリウム、4-[(2,3-ジヒドロチエノ[3,4-b]-[1,4]ジオキシン-2-イル)メトキシ]-1-フルオロ-1-ブタンスルホン酸ナトリウム、又は4-[(2,3-ジヒドロチエノ[3,4-b]-[1,4]ジオキシン-2-イル)メトキシ]-1-フルオロ-1-ブタンスルホン酸カリウム等が例示される。
【0034】
本発明においてポリチオフェン(A)の導電率は、特に限定するものではないが、フィルム状態での導電率(電気伝導度)として、10S/cm以上であることが好ましい。
【0035】
なお、本発明におけるポリチオフェン(A)については、公知情報に基づいて合成したものを用いることもできる。
【0036】
本発明の導電性高分子組成物において、前述した一般式(1)で表される構造単位及び一般式(2)で表される構造単位からなる群より選ばれる少なくとも一種の構造単位を含むポリチオフェン(A)の濃度については、0.01~10重量%であることを特徴とする。なお、低ESRに優れる点で、本発明の導電性高分子組成物中のポリチオフェン(A)の濃度は、0.05~8重量%であることが好ましく、0.1~7重量%であることがより好ましい。
【0037】
本発明における粒子径(D50)が80nm以下の絶縁性無機粒子(B)としては、特に限定するものではないが、例えば、酸化アルミニウム、酸化チタン、二酸化ケイ素、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、チタン酸バリウム、チタン酸ストロンチウム、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、カオリン、ヒドロキシアパタイト、ベントナイト、及びハイドロタルサイトからなる群より選ばれるいずれか又はいくつかの混合物を挙げることができる。
【0038】
当該絶縁性無機粒子については、粒子径(D50)が80nm以下であることを特徴とする。なお、ESR特性や保存安定性に優れる点で、粒子径(D50)が60nm以下であることが好ましく、粒子径(D50)が50nm以下であることがより好ましい。
【0039】
前記の粒子径(D50)が80nm以下の絶縁性無機粒子(B)の形状としては特に制限はなく、フィラー、ロッド、チューブ、パーティクル等の形状のものを使用することができる。
【0040】
本発明の導電性高分子組成物において、前述した粒子径(D50)が80nm以下の絶縁性無機粒子(B)の含有量については、0.01~3重量%であることを特徴とするが、低ESRに優れる点で、0.01~2重量%であることが好ましく、0.1~2重量%であることがより好ましく、0.1~1重量%であることがより好ましい。
【0041】
本願発明の導電性高分子組成物については、低ESRに優れる点で、更に、ポリチオフェン(A)のスルホン酸基とイオン対を形成可能な化合物(C)を含有していてもよい。前記のスルホン酸基とイオン対を形成可能な化合物(C)としては、特に限定するものではないが、例えば、アルカリ金属化合物、アンモニア、有機アミン化合物、第4級アンモニウム塩を挙げることができ、これらの化合物は、それぞれ、前記のポリチオフェン(A)のスルホン酸基と作用して、ポリチオフェン(A)のアルカリ金属イオン塩、アンモニウムイオン塩、有機アンモニウムイオン塩、及び第4級アンモニウムイオン塩を形成する。
【0042】
前記のアルカリ金属化合物としては、特に限定するものではないが、例えば、アルカリ金属塩化合物(例えば、塩化リチウム、塩化カリウム、塩化ナトリウム、塩化ルビジウム、塩化セシウム、臭化リチウム、臭化カリウム、臭化ナトリウム、臭化ルビジウム、臭化セシウム等)、又はアルカリ金属水酸化物(例えば、水酸化リチウム、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化ルビジウム、水酸化セシウム等)を挙げることができる。
【0043】
前記のアルカリ金属化合物を本発明の導電性高分子組成物に含有させることによって、前記のリチオフェン(A)のアルカリ金属イオン塩を調製することができる。前記のアルカリ金属イオンとしては、特に限定するものではないが、例えば、リチウムイオン、カリウムイオン、ナトリウムイオン、ルビジウムイオン、又はセシウムイオンを例示することができる。
【0044】
前記の有機アミン化合物としては、特に限定するものではないが、例えば、総炭素数が1~30の1級、2級、若しくは3級の有機アミン化合物を例示することができ、より具体的には、例えば、メチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、エチルアミン、トリエチルアミン、ノルマル-プロピルアミン、イソプロピルアミン、ノルマルブチルアミン、ヘキシルアミン、アミノエタノール、ジメチルアミノエタノール、メチルアミノエタノール、ジエタノールアミン、N-メチルジエタノールアミン、トリエタノールアミン、3-アミノ-1,2-プロパンジオール、3-メチルアミノ-1,2-プロパンジオール、3-ジメチルアミノ-1,2-プロパンジオール、1,4-ブタンジアミン、トリイソブチルアミン、トリイソペンチルアミン、トリイソオクチルアミン、イミダゾール、N-メチルイミダゾール、1、2-ジメチルイミダゾール、ピリジン、ピコリン、又はルチジン等を例示することができる。
【0045】
前記の有機アミン化合物を本発明の導電性高分子組成物に含有させることによって、当該有機アミン化合物は、前記のポリチオフェン(A)と作用し、有機アンモニウムイオンとなり、ポリチオフェン(A)の有機アンモニウムイオン塩が調製される。前記の有機アンモニウムイオンとしては、特に限定するものではないが、例えば、総炭素数が1~30の1級、2級、若しくは3級の有機アンモニウムイオンを例示することができ、より具体的には、例えば、メチルアンモニウム、ジメチルアンモニウム、トリメチルアンモニウム、エチルアンモニウム、トリエチルアンモニウム、ノルマル-プロピルアンモニウム、イソプロピルアンモニウム、ノルマルブチルアンモニウム、ヘキシルアンモニウム、2-ヒドロキシエチルアンモニウム、N,N-ジメチル-N-(2-ヒドロキシエチル)アンモニウム、N-メチル-N-(2-ヒドロキシエチル)アンモニウム、ジ(2-ヒドロキシエチル)アンモニウム、N-メチル-N,N-ジ(2-ヒドロキシエチル)アンモニウム、N,N,N-トリ(2-ヒドロキシエチル)アンモニウム、2,3-ジヒドロキシプロピルアンモニウム、N-メチル-N-(2,3-ジヒドロキシプロピル)アンモニウム、N,N-ジメチル-N-(2,3-ジヒドロキシプロピル)アンモニウム、1,4-ブタンジアンモニウム、トリイソブチルアンモニウム、トリイソペンチルアンモニウム、トリイソオクチルアンモニウム、イミダゾールカチオン、N-メチルイミダゾールカチオン、1、2-ジメチルイミダゾールカチオン、ピリジニウムイオン、ピコリニウムイオン、又はルチジニウムイオンを挙げることができる。
【0046】
前記の4級アンモニウム化合物としては、特に限定するものではないが、例えば、テトラメチルアンモニウムクロリド、テトラエチルアンモニウムクロリド、テトラノルマルプロピルアンモニウムクロリド、テトラノルマルブチルアンモニウムクロリド、又はテトラノルマルヘキシルアンモニウムクロリド等が挙げられる。
【0047】
前記の4級アンモニウム化合物を本発明の導電性高分子組成物に含有させることによって、当該4級アンモニウム化合物は、前記のポリチオフェン(A)と作用し、4級アンモニウムイオンとなり、ポリチオフェン(A)の4級アンモニウムイオン塩が調製される。当該4級アンモニウムイオンとしては、特に限定するものではないが、例えば、テトラメチルアンモニウムイオン、テトラエチルアンモニウムイオン、テトラノルマルプロピルアンモニウムイオン、テトラノルマルブチルアンモニウムイオン、又はテトラノルマルヘキシルアンモニウムイオン等が挙げられる。
【0048】
本発明の導電性高分子組成物において、前述した化合物(C)の含有量については、0.001~20重量%であることが好ましく、低ESRに優れる点で、0.01~15重量%であることが好ましく、0.1~10重量%であることがより好ましい。
【0049】
本願発明の導電性高分子組成物については、低ESRに優れる点で、そのpHが、1.5~10.0の範囲であることが好ましく、2.0~8.0の範囲であることがより好ましく、2.5~7.0の範囲であることがより好ましい。当該pHについては、前述した化合物(C)の種類と含有量によって制御することができる。
【0050】
本願発明の導電性高分子組成物が、前記の化合物(C)を含む場合、前記の一般式(1)で表される構造単位及び一般式(2)で表される構造単位からなる群より選ばれる少なくとも一種の構造単位を含むポリチオフェン(A)については、その一部又は全部が前記の化合物(C)と相互作用して、下記の一般式(1’)で表される構造単位及び一般式(2’)で表される構造単位からなる群より選ばれる少なくとも一種の構造単位を含むポリチオフェン(A)を形成することとなる。すなわち、前記の一般式(1)で表される構造単位及び一般式(2)で表される構造単位からなる群より選ばれる少なくとも一種の構造単位を含むポリチオフェン(A)と前記の化合物(C)の混合物と、一般式(1’)で表される構造単位及び一般式(2’)で表される構造単位からなる群より選ばれる少なくとも一種の構造単位を含むポリチオフェン(A)は同じものを表す。
【0051】
【化6】
【0052】
[上記一般式(1’)及び一般式(2’)中、R、m、及びnの定義及び好ましい範囲は、上記一般式(1)及び一般式(2)において示したR、m、及びnの定義及び好ましい範囲と同義である。Mは、水素イオン、アルカリ金属イオン、アンモニウムイオン、有機アンモニウムイオン、又は第4級アンモニウムイオンを表す。]
上記のMにおける、アルカリ金属イオン、アンモニウムイオン、有機アンモニウムイオン、及び第4級アンモニウムイオンについては、上記の通りである。
【0053】
本願発明の導電性高分子組成物については、上記以外の添加剤(D)を含んでいてもよい。
【0054】
前記の上記以外の添加剤(D)としては、特に限定するものではないが、例えば、バインダー、界面活性剤、溶媒等を挙げることができる。なお、添加剤(D)については、単独で用いられてもよいし、複数同時に組み合わせて用いられてもよい。
【0055】
前記のバインダーとしては、特に限定するものではないが、例えば、水溶性樹脂が好ましく、より詳しい例として、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、セルロース、水溶性ポリエステル樹脂化合物、水溶性ポリウレタン樹脂化合物、又は多価アルコールとカルボキシル基を2つ以上持つ有機酸の混合物等が挙げられる。
【0056】
前記の水溶性ポリエステル樹脂化合物としては、例えば、ポエチレンテレフタラートやポリトリメチレンテレフタラート等を挙げることができる。当該水溶性ポリエステル樹脂化合物については、自己乳化型であってもよいし、強化乳化型であってもよいが、耐水性、耐溶剤性の観点から自己乳化型水溶性ポリエステル樹脂化合物であることが好ましい。
【0057】
前記の水溶性ポリエステル樹脂化合物としては、例えば、東洋紡株式会社製、商品名:バイロナール、や、高松油脂株式会社製、商品名:ペスレジン、互応化学株式会社製、商品名:プラスコート、東亞合成株式会社製、商品名:アロンメルト、高松油脂株式会社製、商品名:ぺスレジンA、DIC株式会社製、商品名:ウォーターゾールなどが商業的に容易に入手することができる。
【0058】
前記の水溶性ポリエステル樹脂化合物は、1種を単独で用いることができるし、2種以上を混合して用いることもできる。
【0059】
前記の水溶性ポリウレタン樹脂化合物は、ウレタン樹脂エマルションとして主に産業用途に用いられており、自己乳化型であってもよいし、強化乳化型であってもよいが、耐水性、耐溶剤性の観点から自己乳化型水溶性ポリウレタン樹脂化合物であることが好ましい。自己乳化型としては、アニオン型、カチオン型、非イオン型特が挙げられるが、いずれであってもよい。また、当該水溶性ポリウレタン樹脂化合物については、特に限定するものではないが、ポリエーテル型、ポリエステル型、ポリカーボネート型等が挙げられる。
【0060】
水溶性ポリウレタン樹脂化合物は、例えば、三洋化成工業株式会社製、商品名:ユーコート(登録商標)、パーマリン(登録商標)、ユープレン(登録商標)や、楠本化成株式会社製、商品名:NeoRez、株式会社ADEKA製、商品名:アデカボンタイター(登録商標)、明成化学工業株式会社製、商品名:パスコール(登録商標)、DIC株式会社製、商品名:ハイドラン(登録商標)などが商業的に容易に入手することができる。
【0061】
前記の水溶性ポリウレタン樹脂化合物は、1種を単独で用いることができるし、2種以上を混合して用いることもできる。
【0062】
前記の多価アルコールとしては、特に限定するものではないが、例えば、エリスリトールやペンタエリトリトール等を挙げることができる。
【0063】
前記のカルボキシル基を2つ以上持つ有機酸としては、特に限定するものではないが、例えば、アジピン酸やフタル酸等を挙げることができる。
【0064】
前記の界面活性剤としては、特に限定するものではないが、例えば、アニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤、非イオン界面活性剤、両性界面活性剤、フッ素系界面活性剤、又はシリコーン系界面活性剤等が使用できるが、より好ましくは非イオン界面活性剤及び両性界面活性剤からなる群より選ばれる少なくとも一種である。
【0065】
前記のアニオン界面活性剤としては、特に限定するものではないが、例えば、ラウリルアルコール硫酸エステルナトリウムやドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム等が挙げられる。
【0066】
前記のカチオン界面活性剤としては、特に限定するものではないが、市販品を用いることもできるし、一般公知のものを別途製造して用いることもできる。
【0067】
前記の非イオン界面活性剤としては、特に限定するものではないが、例えば、ポリエチレングリコール型界面活性剤、アセチレングリコール型界面活性剤、多価アルコール型界面活性剤、高分子型非イオン界面活性剤等が挙げられる。
【0068】
前記のポリエチレングリコール型界面活性剤としては、特に限定するものではないが、例えば、高級アルコールエチレンオキサイド付加物、アルキルフェノールエチレンオキサイド付加物、脂肪酸エチレンオキサイド付加物、多価アルコール脂肪酸エステルエチレンオキサイド付加物、高級アルキルアミンエチレンオキサイド付加物、油脂のエチレンオキサイド付加物、又はポリプロピレングリコールエチレンオキサイド付加物等が挙げられる。
【0069】
前記のアセチレングリコール型界面活性剤としては、特に限定するものではないが、例えば、2,4,7,9-テトラメチル-5-デシン-4,7-ジオール、サーフィノール(エアプロダクツ社製、登録商標)、オルフィン(日信化学工業社製、登録商標)等が挙げられる。
【0070】
前記の多価アルコール型界面活性剤としては、特に限定するものではないが、例えば、グリセロールの脂肪酸エステル、ペンタエリスリトールの脂肪酸エステル、ソルビトール及びソルビタンの脂肪酸エステル、ショ糖の脂肪酸エステル、高アルコールのアルキルエーテル、アルカノールアミン類の脂肪酸アミド等が挙げられる。
【0071】
前記の両性界面活性剤としては、特に限定するものではないが、例えば、ベタイン型両性界面活性剤が挙げられる。ベタイン型両性界面活性剤としては、特に限定するものではないが、例えば、アルキルジメチルベタイン、ラウリルジメチルベタイン、ステアリルジメチルベタイン、ラウリルジヒドロキシエチルベタイン等が挙げられる。
【0072】
前記のフッ素系界面活性剤としては、パーフルオロアルキル基を有するものであれば特に限定されないが、例えば、プラスコート(登録商標) RY-2、パーフルオロアルカン、パーフルオロアルキルカルボン酸、パーフルオロアルキルスルホン酸、又はパーフルオロアルキルエチレンオキサイド付加物などが挙げられる。
【0073】
前記のシリコーン系界面活性剤としては、特に限定されないが、例えば、ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサン、ポリエーテルエステル変性ポリジメチルシロキサン、ヒドロキシル基含有ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサン、アクリル基含有ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサン、アクリル基含有ポリエステル変性ポリジメチルシロキサン、パーフルオロポリエーテル変性ポリジメチルシロキサン、パーフルオロポリエステル変性ポリジメチルシロキサン、又はシリコーン変性アクリル化合物などが挙げられる。
【0074】
なお、フッ素系界面活性剤やシリコーン系界面活性剤はレベリング剤として塗膜の平坦性を改善するのに有効である。
【0075】
前記の溶媒としては、特に限定するものではないが、例えば、アルコールを挙げることができ、より詳しい例として、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、メトキシエタノール、エトキシエタノール、ブトキシエタノール、エチレングリコール等を挙げることができる。
【0076】
本発明の導電性高分子組成物において、前述した添加剤(D)の含有量については、0.001~20重量%であることを特徴とするが、操作性に優れる点で、0.01~15重量%であることが好ましく、0.1~10重量%であることがより好ましい。
【0077】
本発明の導電性高分子組成物は、下記一般式(1)で表される構造単位及び下記一般式(2)で表される構造単位からなる群より選ばれる少なくとも一種の構造単位を含むポリチオフェン(A)を0.01~10重量%含み、水分散性金属(B)を0.01~0.5重量%含み、水を含むことを特徴とする。
【0078】
当該水の濃度(含有量)としては、特に限定するものではないが、施工性に優れる点で、80~99.5重量%の範囲であることが好ましく、85~99.5重量%であることがより好ましい。
【0079】
本発明の導電性高分子組成物を調製する方法としては、特に限定するものではないが、例えば、上記のポリチオフェン(A)の水溶液又は固体と、粒子径(D50)が80nm以下の絶縁性無機粒子(B)と、必要に応じて水を混合し、撹拌などによって均一化する方法を挙げることができる。その際、必要に応じて、前記の化合物(C)や、添加剤(D)等を添加して混合することもできるし、一旦上記のポリチオフェン(A)と粒子径(D50)が80nm以下の絶縁性無機粒子(B)を含む導電性高分子組成物を調整したうえで、前記の化合物(C)や、添加剤(D)等を添加混合して調整してもよい。なお、各材料は水に添加して混合することが好ましいが、材料を添加混合する順番については、特に限定されるものはなく、これらの材料を任意の順で混合することにより本発明の導電性高分子組成物を調製することができる。
【0080】
ここで、混合する際の温度は、特に限定するものではないが、例えば、室温~加温下で行うことができる。0℃以上100℃以下が好ましい。
【0081】
混合する際の雰囲気は、特に限定するものではないが、大気中でも、不活性ガス中でもよい。
【0082】
また、混合する際には、スターラーチップや攪拌羽根等による一般的な混合溶解操作に加えて、超音波照射、ホモジナイズ処理(例えば、メカニカルホモジナイザー、超音波ホモジナイザー、高圧ホモジナイザー等の使用)を行ってもよい。ホモジナイズ処理する場合には、ポリマーの熱劣化を防ぐため、冷温しながら行うことが好ましい。
【0083】
本発明の導電性高分子組成物における各成分の濃度は、配合比で調整してもよいし、配合後に濃縮により調整してもよい。濃縮の方法は、減圧下に溶媒を留去する方法であっても、限外ろ過膜を利用する方法であってもよい。
【0084】
本発明の導電性高分子組成物については、水以外の全成分の濃度が、0.5~20重量%の範囲であることが好ましく、0.5~15重量%の範囲であることがより好ましい。
【0085】
本願発明の導電性高分子組成物は、塗布後、乾燥・脱水されるため、前記の濃度範囲で良好な均一膜を得ることができる。
【0086】
本発明の導電性高分子組成物の粘度(20℃)は、200mPa・s以下であることが好ましく、より好ましくは100mPa・s以下であり、さらに好ましくは50mPa・s以下である。
【0087】
本発明の導電性高分子膜については、本発明の導電性高分子組成物を用いて形成することができる。本発明の導電性高分子膜を形成する方法としては、特に限定するものではないが、例えば、本発明の導電性高分子組成物を、基材に塗布し、又は浸漬させ、乾燥する方法を挙げることができる。
【0088】
乾燥雰囲気は大気中、不活性ガス中、真空中、又は減圧下のいずれであってもよい。高分子膜の劣化抑制の観点からは、窒素、アルゴン等の不活性ガス中が好ましい。
【0089】
上記の基材としては、特に限定するものではないが、例えば、ガラス、プラスチック、ポリエステル、ポリアクリレート、ポリカーボネート、金属酸化物、セラミックス、又はレジスト基板等が挙げられる。
【0090】
上記の塗布する方法としては、特に限定するものではないが、例えば、キャスティング法、ディッピング法、バーコート法、ロールコート法、グラビアコート法、フレキソ印刷法、スプレーコート法、スピンコート法、インクジェット印刷法等が挙げられる。
【0091】
塗膜の乾燥温度は、均一な導電膜が得られる温度であれば特に限定されないが、室温~300℃の範囲であることが好ましく、より好ましくは室温~250℃の範囲であり、さらに好ましくは室温~200℃の範囲である。
【0092】
塗膜の膜厚としては、特に限定するものではないが、10-2~10μmの範囲が好ましい。得られる塗膜の表面抵抗値としては、特に限定するものではないが、1~10Ω/の範囲のものが好ましい。
【0093】
本発明で得られる導電性高分子膜の導電率としては、特に限定するものではないが、フィルム状態での導電率(電気伝導度)が10S/cm以上であることが好ましい。
【0094】
本発明の導電性高分子膜は、例えば、帯電防止剤、電解コンデンサの固体電解質、導電性塗料、エレクトロクロミック素子、電極材料、熱電変換材料、透明導電膜、化学センサ、アクチュエータ等に使用できる。特に、電解コンデンサの固体電解質として極めて有用である。電解コンデンサに用いた場合、高い容量を維持したまま、低ESRの優れた特性を有する電解コンデンサを提供することができる。
【0095】
前記の導電性高分子膜は、前記の一般式(1’)で表される構造単位及び前記の一般式(2’)で表される構造単位からなる群より選ばれる少なくとも一種の構造単位を含むポリチオフェン(A)と粒子径(D50)が80nm以下の絶縁性無機粒子(B)を含むことを特徴とする。
【実施例
【0096】
以下、本発明を実施例によって具体的に記述する。しかし、これらによって本発明は何ら限定して解釈されるものではない。
【0097】
なお、本実施例で用いた分析機器及び測定方法を以下に列記する。
【0098】
[NMR測定]
装置:VARIAN製、Gemini-200
[導電性高分子膜の作製方法]
具体的には後述する本発明の組成物 0.5mLを25mm角の無アルカリガラス板に塗布し、大気下、ホットプレート上で60℃にて30分加熱し、さらに200℃で60分加熱して導電性高分子膜を得た。
【0099】
[導電性高分子膜の膜厚測定]
装置:BRUKER社製 DEKTAK XT。
【0100】
上記の作製方法で作製した導電性高分子膜をx方向に6.25mm、y方向に6.25mmピッチの間隔で、切れ目を入れガラス部を露出させ、測定箇所9点の膜厚を25℃50%RH雰囲気で測定した。
【0101】
[導電性高分子膜の表面抵抗率測定]
装置:三菱化学社製ロレスタGP MCP-T600。
表面抵抗測定器ロレスタGP MCP-T600を用い、測定プローブをASPとして、x方向に6.25mm、y方向に6.25mmピッチの間隔で、測定箇所9点の表面抵抗を25℃50%RH雰囲気で測定した。
【0102】
[導電性高分子膜の導電率測定]
上記の測定方法で測定した導電性高分子膜の膜厚及び表面抵抗率から、以下の式に基づき導電率を算出した。
【0103】
導電率[S/cm]=10/(表面抵抗率[Ω/□]×膜厚[μm])
[固体電解コンデンサの作製]
厚み100μmのアルミニウム箔を用い、アルミニウム箔の表面にエッチング処理を施した。エッチング処理を施した厚み100μmのアルミニウム箔の一部にアルミ箔を溶接し取り出し線を取り付けた。液温が80℃で、濃度が0.2wt%のリン酸2水素アンモニウム水溶液中に、前記のエッチング処理を施したアルミニウム箔を浸漬して、130Vの直流電圧を20分間印加して、酸化アルミニウムの誘電体層を形成した(陽極)。別途、取り出し線が取り付けられたエッチング処理を施した厚み50μmのアルミニウム箔を陰極とし、前記の陽極と当該陰極の間に絶縁紙からなるセパレータを介在させて巻回した巻回素子を作製した。次に、当該巻回素子を導電性高分子組成物に浸漬させて取出し、次いで、150℃、30分間乾燥を行い固体電解コンデンサを得た。
【0104】
[固体電解コンデンサの特性測定]
前記の方法で作製した固体電解コンデンサの特性については、下記装置を用い、初期120Hzの初期容量[μF]、初期100kHzのESR[mΩ]、及び63V印加したときの2分後の漏れ電流[μA]を評価した。
【0105】
装置:日置電機社製 LCRメーター IM3536
合成例1.
公知文献(特開2019-196443)の合成例1及び合成例2に準拠して、ポリ(3-[(2,3-ジヒドロチエノ[3,4-b]-[1,4]ジオキシン-2-イル)メトキシ]-1-メチル-1-プロパンスルホン酸[下記式(4)で表される構造単位、及び式(5)で表される構造単位を含む重合物](以下、「PEDOT-MPS」という)の水溶液(導電性高分子水溶液)を作製した。当該水溶液に含まれるポリマー量は0.74重量%であった。又、鉄イオン、及びナトリウムイオンを、各々44ppm、及び12ppm(対ポリマー)含有していた。本ポリマーの導電率は、導電率342S/cmであった。
【0106】
【化7】
【0107】
実施例1
(導電性高分子溶液の作製)
合成例1で得られた導電性高分子水溶液を減圧脱水し、PEDOT-MPSを2.0重量%含む水溶液を調整した。前記のPEDOT-MPSを2.0重量%含む水溶液 100gに、粒子径(D50)が50nm未満の酸化アルミニウム(シグマアルドリッチ社製、製品番号544833) 0.5gを加えてよく撹拌混合を行った。次に、エタノールアミン 0.4gを加えてよく撹拌混合を行い、pH=3の導電性高分子組成物を得た。前記導電性高分子組成物を用いて前述の方法に従って固体電解コンデンサを作製し、特性評価を行った。評価結果を表1に示した。
【0108】
実施例2
実施例1において、粒子径(D50)が50nm未満の酸化アルミニウム 0.5gの代わりに、粒子径(D50)が10~20nmの二酸化ケイ素(ADEKA社製、アデライトAT-20Q) 0.1gを用いた以外は、実施例1と同様の操作を行い、コンデンサ特性評価を行った。なお、pH=3とするために、実施例1と同様にエタノールアミン添加量を0.4gとしている。評価結果を表1に示した。
【0109】
比較例1
実施例1において、粒子径(D50)が50nm未満の酸化アルミニウム 0.5gの代わりに、粒子径(D50)が100nmの二酸化ケイ素(日本触媒社製、シーホスターKE-P10) 0.1gを用いた以外は、実施例1と同様の操作を行い、導電性高分子組成物を調整したが、均一分散液が得られず、コンデンサ特性評価を行うことができなかった。なお、pH=3とするために、実施例1と同様にエタノールアミン添加量を0.4gとしている。評価結果を表1に示した。
【0110】
実施例3
実施例1において、粒子径(D50)が50nm未満の酸化アルミニウム 0.5gの代わりに、粒子径(D50)が50nm未満のヒドロキシアパタイト(シグマアルドリッチ製 製品番号900194) 0.1gを用いた以外は、実施例1と同様の操作を行い、コンデンサ特性評価を行った。なお、pH=3とするために、実施例1と同様にエタノールアミン添加量を0.4gとしている。評価結果を表1に示した。
【0111】
実施例4
実施例1において、粒子径(D50)が50nm未満の酸化アルミニウム 0.5gの代わりに、粒子径(D50)が50nm未満のヒドロキシアパタイト(シグマアルドリッチ社製、製品番号900194) 0.01gを用いた以外は、実施例1と同様の操作を行い、コンデンサ特性評価を行った。なお、pH=3とするために、実施例1と同様にエタノールアミン添加量を0.4gとしている。評価結果を表1に示した。
【0112】
実施例5
実施例1において、粒子径(D50)が50nm未満の酸化アルミニウム 0.5gの代わりに、粒子径(D50)が50nm未満のヒドロキシアパタイト(シグマアルドリッチ社製、製品番号900194) 1gを用いた以外は、実施例1と同様の操作を行い、コンデンサ特性評価を行った。なお、pH=3とするために、実施例1と同様にエタノールアミン添加量を0.4gとしている。評価結果を表1に示した。
【0113】
比較例2
実施例1において、粒子径(D50)が50nm未満の酸化アルミニウム 0.5gの代わりに、粒子径(D50)が50nm未満のヒドロキシアパタイト(シグマアルドリッチ社製、製品番号900194) 5gを用いた以外は、実施例1と同様の操作を行い、コンデンサ特性評価を行った。なお、pH=3とするために、実施例1と同様にエタノールアミン添加量を0.4gとしている。評価結果を表1に示した。
【0114】
参考例1
合成例1で得られた導電性高分子水溶液を減圧脱水し、PEDOT-MPSを2.0重量%含む水溶液を調整した。前記のPEDOT-MPSを2.0重量%含む水溶液 100gに、エタノールアミン 0.4gを加えてよく撹拌混合を行い、pH=3の導電性高分子水溶液を得た。前記導電性高分子水溶液を用いて前述の方法に従って固体電解コンデンサを作製し、特性評価を行った。評価結果を表1に示した。
【0115】
参考例2
ポリスチレンスルホン酸が外部ドープされたポリ3,4-エチレンジオキシチオフェンの分散液(Heraeus社製、Clevios PH500を使用) 100gに、エタノールアミン 0.3gを加えてよく撹拌混合を行い、pH=3の導電性高分子分散液を得た。前記導電性高分子分散液を用いて前述の方法に従って固体電解コンデンサを作製し、特性評価を行った。評価結果を表1に示した。
【0116】
比較例3
ポリスチレンスルホン酸が外部ドープされたポリ3,4-エチレンジオキシチオフェンの分散液(Heraeus社製、Clevios PH500を使用) 100gに、粒子径(D50)が50nm未満の酸化アルミニウム 0.5gを加えてよく撹拌混合を行った。次に、エタノールアミン 0.3gを加えてよく撹拌混合を行い、pH=3の導電性高分子分散液を得た。前記導電性高分子分散液を用いて前述の方法に従って固体電解コンデンサを作製し、特性評価を行った。評価結果を表1に示した。
【0117】
比較例4
比較例2において、粒子径(D50)が50nm未満の酸化アルミニウム 0.5gの代わりに、粒子径(D50)が10~20nmの二酸化ケイ素 0.1g(ADEKA社製、アデライトAT-20Q)を用いた以外は、比較例2と同様の操作を行い、コンデンサ特性評価を行った。なお、pH=3とするために、エタノールアミン添加量を0.3gとした。評価結果を表1に示した。
【0118】
【表1】
【0119】
表1に示した結果より、本発明の導電性高分子組成物を用いた実施例1乃至実施例5は、高い容量を維持したまま、低ESRを達成できるという効果を奏するものであった。これは、本発明の導電性高分子組成物が、陽極箔と陰極箔の極間を埋めた結果であると推測される。更に、本発明の導電性高分子組成物を用いた場合、漏れ電流が低い電解コンデンサが得られることが分かった。当該効果は、本発明の導電性高分子組成物が、電解コンデンサを作製する過程で生じる酸化被膜欠損を修復する高い能力があるためであると推測される。PEDOT/PSSを代用した場合、容量の低下及びESRの増加が確認出来た。
【産業上の利用可能性】
【0120】
上記したとおり、本発明の導電性高分子組成物を使用すれば、高い容量を維持したまま、低ESRの優れた特性を有する電解コンデンサを提供することができる。