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特許7631822スピネル型マンガン酸リチウム及びその製造方法並びにその用途
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-10
(45)【発行日】2025-02-19
(54)【発明の名称】スピネル型マンガン酸リチウム及びその製造方法並びにその用途
(51)【国際特許分類】
   C01G 45/00 20250101AFI20250212BHJP
   H01M 4/505 20100101ALI20250212BHJP
   H01M 4/525 20100101ALI20250212BHJP
【FI】
C01G45/00
H01M4/505
H01M4/525
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2021006162
(22)【出願日】2021-01-19
(65)【公開番号】P2022110636
(43)【公開日】2022-07-29
【審査請求日】2023-12-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000003300
【氏名又は名称】東ソー株式会社
(72)【発明者】
【氏名】阪口 雄哉
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 直人
【審査官】森坂 英昭
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-031006(JP,A)
【文献】特開2013-112531(JP,A)
【文献】特開2006-156317(JP,A)
【文献】国際公開第2012/090804(WO,A1)
【文献】特表2014-524133(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2020/0321599(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01G 45/00 - 45/12
H01M 4/505
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リン酸塩を含有し、化学式Li1+XMn2-X-Y-ZMg(式中、MはAl、Ca、Ti、V、Cr、CoおよびNiから選ばれる少なくとも1種の元素であり、0.02≦X≦0.10、0.05≦Y≦0.30、0≦Z≦0.30である)で表されるスピネル型マンガン酸リチウムであって、かさ密度に対するタップ密度の比で表されるHausner比が1.85以下であることを特徴とするスピネル型マンガン酸リチウム。
【請求項2】
リン/マンガンモル比が0.0015以上0.1以下であることを特徴とする請求項1に記載のスピネル型マンガン酸リチウム。
【請求項3】
BET比表面積が0.2m/g以上1.5m/g以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載のスピネル型マンガン酸リチウム。
【請求項4】
二次粒子の平均粒子径が4μm以上20μm以下であることを特徴とする請求項1~3のいずれかの項に記載のスピネル型マンガン酸リチウム。
【請求項5】
XRD測定による(400)面の半値幅が0.005以上0.08以下であることを特徴とする請求項1~4のいずれかの項に記載のスピネル型マンガン酸リチウム。
【請求項6】
SOの含有量が0.3wt%以上1.0wt%以下であることを特徴とする請求項1~5のいずれかの項に記載のスピネル型マンガン酸リチウム。
【請求項7】
Naの含有量が3,000wtppm以下であることを特徴とする請求項1~6のいずれかの項に記載のスピネル型マンガン酸リチウム。
【請求項8】
マグネシウム-マンガン-M元素複合原料(MはAl、Ca、Ti、V、Cr、CoおよびNiから選ばれる少なくとも1種の元素である)、リチウム原料及びリン酸原料を混合し、大気中、又は、高濃度酸素雰囲気中(純粋酸素雰囲気中を含む)において830℃以上960℃以下で焼成し、解砕することを特徴とする請求項1~7のいずれかの項に記載のスピネル型マンガン酸リチウムの製造方法。
【請求項9】
請求項1~7のいずれかの項に記載のスピネル型マンガン酸リチウムを含むことを特徴とする電極。
【請求項10】
請求項9に記載の電極を正極に使用したことを特徴とするリチウム二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スピネル型マンガン酸リチウム及びその製造方法並びにその用途に関するものであり、より詳しくは、リン酸塩を表面に付着させたスピネル型マンガン酸リチウム及びその製造方法、並びにこれを電極に用いたリチウム二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウム二次電池は他の蓄電池に比べてエネルギー密度が高いことから、携帯端末用の蓄電池として幅広く使用されている。また、最近では、定置用や車載用といった大型で大容量と高出力が必要とされる用途への適用等、更なる高性能化を目指した研究が進められている。
【0003】
現在のリチウム二次電池の正極材料には、携帯電話等の民生用小型電池には主にコバルト系材料(LiCoO)が使用されており、また、定置用や車載用にはニッケル系材料(LiNi0.8Co0.15Al0.05)やニッケル-コバルト-マンガン三元系材料(LiNi0.5Co0.2Mn0.3等)が主に使用されている。しかし、コバルト原料やニッケル原料が資源的に多くなく高価であり、また、出力特性があまり高くない。
【0004】
一方、マンガン系材料の一つであるスピネル型マンガン酸リチウムは、原料のマンガンが資源的に豊富で安価であり、また、出力特性と安全性に優れることから、大型電池や高出力を必要とする用途に適した材料の一つである。
【0005】
しかしながら、スピネル型マンガン酸リチウムは高温安定性、すなわち、高温における充放電特性、特にカーボン対極充放電特性や保存特性に問題があり、この課題の解決が望まれていた。例えば、特許文献1及び特許文献2では、いずれもリン酸塩を含有したスピネル型マンガン酸リチウムが提案されているが、高温における充放電特性、特にカーボン対極充放電特性に改善の余地を残している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特許第5556983号公報
【文献】特開2017-31006号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、高温における充放電特性、特にカーボン対極充放電特性に優れるスピネル型マンガン酸リチウムを提供するものであり、さらには、スピネル型マンガン酸リチウムを正極に用いるリチウム二次電池を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、スピネル型マンガン酸リチウムについて鋭意検討を重ねた。その結果、下記を要旨とする本発明が、上記した課題を達成しうることを見出した。すなわち、本発明は、リン酸塩を含有し、化学式Li1+XMn2-X-Y-ZMg(式中、MはAl、Ca、Ti、V、Cr、CoおよびNiから選ばれる少なくとも1種の元素であり、0.02≦X≦0.10、0.05≦Y≦0.30、0≦Z≦0.30である)で表されるスピネル型マンガン酸リチウムであって、かさ密度に対するタップ密度の比で表されるHausner比が1.85以下であることを特徴とするスピネル型マンガン酸リチウム及びその製造方法、並びにその用途である。
【発明の効果】
【0009】
本発明のスピネル型マンガン酸リチウムは、これをリチウム二次電池用正極材料に使用する場合、従来に比べて高温における充放電特性、特にカーボン対極充放電特性に優れるリチウム二次電池の提供が可能になる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0011】
本発明のスピネル型マンガン酸リチウムは、化学式Li1+XMn2-X-Y-ZMg(式中、MはAl、Ca、Ti、V、Cr、CoおよびNiから選ばれる少なくとも1種の元素であり、0.02≦X≦0.10、0.05≦Y≦0.30、0≦Z≦0.30である)で表される。
【0012】
化学式において、MはAl、Ca、Ti、V、Cr、CoおよびNiからなる群から選ばれる少なくとも1種の元素であればよい。
【0013】
化学式においてXの値が0.02未満であると高温における充放電での容量低下が起きやすくなり、0.10を超えると十分な充放電容量が得られない。また、Yの値が0.05未満であると高温における充放電での容量低下が起きやすくなり、0.30を超えると十分な充放電容量が得られない。また、Zの値が0.30を超えると十分な充放電容量が得られない。スピネル型マンガン酸リチウムのX、Y、Zは組成分析から求めることができる。その方法としては、例えば、誘導結合プラズマ発光分析、原子吸光分析等が例示される。
【0014】
本発明のスピネル型マンガン酸リチウムは、Hausner比が1.85以下である。Hausner比が1.85以下であることで粉体の流動性が高くなり、リチウム二次電池の正極活物質として使用する際に導電助剤やバインダーとの均一性が高くなることで、充放電特性、特にカーボン対極充放電特性が向上する。Hausner比が1.85を超えると、導電助剤やバインダーと混合した際の均一性が低下し、充放電特性が低下するため、好ましくない。Hausner比は1.80以下が好ましく、1.70以下がより好ましく、1.60以下がさらに好ましい。ここに、Hausner比とは、かさ密度に対するタップ密度の比をいう。
【0015】
本発明のスピネル型マンガン酸リチウムは、リチウム二次電池の正極活物質として使用する際に、リチウム二次電池の電解液中に僅かに含まれるフッ化水素をリン酸塩で捕捉する反応が速やかに進行し、その結果、フッ化水素とスピネル型マンガン酸リチウムの反応に起因するマンガン溶出が抑制され、高温における充放電での容量低下を抑制することが可能となることから、リン/マンガンモル比が0.0015以上0.1以下であることが好ましい。リン/マンガンモル比は、0.002以上0.05以下が好ましく、0.004以上0.01以下がより好ましい。
【0016】
本発明のスピネル型マンガン酸リチウムは、リン酸塩を含有するものである。ここに、スピネル型マンガン酸リチウムに含有されるリン酸塩は、例えば、LiPO、LiPO等のリチウムのリン酸塩、NaPO4、NaHPO、NaHPO等のナトリウムのリン酸塩、KPO、KHPO、KHPO等のカリウムのリン酸塩等が例示される。好ましくはLiPO、LiPOであり、より好ましくはLiPOである。上記のリン酸塩がスピネル型マンガン酸リチウムに含有されることにより、リチウム二次電池の正極活物質として使用する際に、高温において優れた充放電特性を得ることが可能となる。含有されるリン酸塩の性状には特に制限はなく、結晶質性のもの、結晶質性で多孔性のもの、結晶質性で緻密な状態のもの、非晶質性のもの、非晶質性で多孔性のもの、非晶質性で緻密な状態のもの等が例示されるが、これらに制限されない。
【0017】
本発明のスピネル型マンガン酸リチウムは、リチウム二次電池の正極活物質として使用する際に、高温において優れた充放電特性を得ることが可能になるとともに、優れた出力特性を得ることが可能となることから、BET比表面積が0.2m/g以上1.5m/g以下であることが好ましい。BET比表面積は、0.2m/g以上1.0m/g以下が好ましく、0.2m/g以上0.6m/g以下がより好ましい。
【0018】
本発明のスピネル型マンガン酸リチウムは、リチウム二次電池の正極活物質として使用する際に、優れた出力特性を得ることが可能になるとともに、正極合剤の充填性を高くすることが可能となることから、二次粒子の平均粒子径が4μm以上20μm以下であることが好ましい。二次粒子の平均粒子径は5μm以上15μm以下が好ましく、5μm以上10μm以下がより好ましい。
【0019】
本発明のスピネル型マンガン酸リチウムは、リチウム二次電池の正極活物質として使用する際に結晶性を高くし、マンガンの溶出を抑制するとともに充放電に伴う結晶構造変化を抑制し、高温において優れた充放電特性を得るため、XRD測定による(400)面の半値幅が0.005以上0.06以下であることが好ましく、0.005以上0.05以下であることがより好ましい。半値幅の測定方法は、実施例の<XRDによる半値幅の測定>により行い、測定装置の誤差を補正するため、予め標準物質の測定を行った後、スピネル型マンガン酸リチウムの半値幅から標準物質の半値幅を差し引いて算出した。
【0020】
本発明のスピネル型マンガン酸リチウムは、リチウム二次電池の正極活物質として使用する際の充放電容量を大きくするとともに、高温において優れた充放電特性を得るため、SOの含有量が0.3wt%以上1.0wt%以下であることが好ましく、0.4wt%以上0.7wt%未満であることがより好ましい。
【0021】
本発明のスピネル型マンガン酸リチウムは、結晶性を高くし、リチウム二次電池の正極活物質として使用する際に、高温において優れた充放電特性を得るため、Naの含有量が3,000wtppm以下であることが好ましく、1,000wtppm以下であることがより好ましい。
【0022】
次に、本発明のスピネル型マンガン酸リチウムの製造方法について説明する。
【0023】
本発明のスピネル型マンガン酸リチウムは、マグネシウム-マンガン-M元素複合原料(MはAl、Ca、Ti、V、Cr、CoおよびNiから選ばれる少なくとも1種の元素である。以下同じ)、リチウム原料及びリン酸原料を混合し、大気中、又は、高濃度酸素雰囲気中(純粋酸素雰囲気中を含む)で830℃以上960℃以下で焼成し、解砕することによって得られる。
【0024】
マグネシウム-マンガン-M元素複合原料は形態や状態が限定されるものではなく、共沈法などにより得られる複合化合物(マグネシウム-マンガン-M元素複合原料)を原料として用いることで、より金属元素の均質性に優れたスピネル型マンガン酸リチウムを得ることができる。
【0025】
マグネシウム-マンガン-M元素複合原料は、pH8.5~10.0の条件下、マグネシウム塩化合物、マンガン塩化合物及びM元素の化合物を含む水溶液、並びに酸化剤を混合することによって製造することができる。
【0026】
マグネシウム塩化合物は、例えば、硫酸マグネシウム、水酸化マグネシウム、酢酸マグネシウム等の水溶性のマグネシウム塩等が例示される。
【0027】
マンガン塩化合物は、例えば、硫酸マンガン、硝酸マンガン等の水溶性のマンガン塩等が例示される。
【0028】
M元素の化合物は、例えば、硫酸アルミニウム、硫酸ニッケル、硫酸コバルト等の水溶性のM元素の塩等が例示される。
【0029】
マグネシウム-マンガン-M元素複合原料の製造において、マグネシウムとマンガンとM元素の割合は、目的とするスピネル型マンガン酸リチウムのマグネシウム:マンガン:M元素の割合となるようにすることが好ましい。
【0030】
金属塩水溶液中のマグネシウム、マンガン及びM元素の合計濃度(金属濃度)は任意であるが、生産性に優れるという点で、1.0mol/L以上が好ましく、2.0mol/L以上がより好ましい。
【0031】
pH8.5~10.0の反応条件を維持するためには、酸や塩基を適宜添加混合することが好ましい。当該酸については、特に限定するものではないが、例えば、硫酸、塩酸、硝酸、又は酢酸などを挙げることができる。当該塩基については、特に限定するものではないが、例えば、苛性ソーダ、苛性カリ、水酸化リチウム、水酸化カルシウム、水酸化バリウム、炭酸ソーダ、重炭酸ソーダ等を挙げることができる。
【0032】
当該酸や塩基を添加する際、酸や塩基については、直接添加してもよいし、水溶液として添加してもよい。水溶液として添加する場合、その濃度については、特に限定するものではないが、例えば、1mol/L以上を例示することができる。
【0033】
pH8.5~10.0の反応条件を維持するためには、苛性ソーダ水溶液を添加することが好ましく、苛性ソーダ水溶液としては、例えば、固形状水酸化ナトリウムを水溶させたものや食塩電解から生成した水酸化ナトリウム水溶液を濃度調製したもの等を用いることができる。
【0034】
マグネシウム-マンガン-M元素複合原料の製造において、pHを制御するために酸や塩基を添加混合する方法としては、特に限定するものではなく、例えば、連続的に行ってもよく、断続的に行ってもよい。
【0035】
酸化剤は、特に限定するものではないが、例えば、有酸素ガス又は過酸化水素水を挙げることができる。有酸素ガスとしては、特に限定するものではないが、例えば、空気、酸素等を例示することができる。経済上、空気が最も好ましい。空気や酸素などのガスはバブラーなどを用いてバブリングさせることで添加する。一方、過酸化水素水は金属塩水溶液や苛性ソーダ水溶液と同様に混合することができる。
【0036】
マグネシウム塩化合物、マンガン塩化合物及びM元素の化合物を含む水溶液に酸化剤を添加するときの温度は、特に限定するものではないが、通常、40℃以上であることが好ましい。
【0037】
マグネシウム-マンガン-M元素複合原料の製造については、特に雰囲気制御は必要なく、通常の大気雰囲気下で行うことが可能である。
【0038】
マグネシウム-マンガン-M元素複合原料の製造については、バッチ式、連続式のどちらでも可能である。バッチ式の場合、混合時間は任意である。例えば、3~48時間が挙げられる。
【0039】
マグネシウム-マンガン-M元素複合原料の製造によって析出したマグネシウム-マンガン-M元素複合原料については、濾過などの操作によって単離することができ、さらに、取り扱い上、さらに洗浄を行って、乾燥することが好ましい。
【0040】
洗浄によって、マグネシウム-マンガン-M元素複合原料に付着、吸着した不純物を除去することができる。洗浄方法としては、特に限定するものではないが、例えば、水(例えば、純水、水道水、河川水等)にマグネシウム-マンガン-M元素複合原料を添加し、不純物を水に溶解させる方法が例示できる。
【0041】
乾燥によって、マグネシウム-マンガン-M元素複合原料の水分を除去することができる。乾燥方法としては、特に限定するものではないが、例えば、マグネシウム-マンガン-M元素複合原料を110~150℃で2~15時間で加熱乾燥する等が挙げられる。
【0042】
マグネシウム-マンガン-M元素複合原料の製造では、洗浄し、乾燥した後に、粉砕を行ってもよい。
【0043】
粉砕では、用途に適した平均粒子径の粉末とする。所望の平均粒子径となれば粉砕条件は任意であり、例えば、湿式粉砕、乾式粉砕等の方法で粉砕することが例示できる。
【0044】
以上の方法で得られたマグネシウム-マンガン-M元素複合原料は、本発明のスピネル型マンガン酸リチウムの製造方法に使用することができる。
【0045】
リチウム原料は、例えば、炭酸リチウム、水酸化リチウム、硝酸リチウム、塩化リチウム、ヨウ化リチウム、シュウ酸リチウム等が例示される。
【0046】
リン酸原料は、例えば、LiPO、LiPO等のリチウムのリン酸塩、NaPO、NaHPO、NaHPO等のナトリウムのリン酸塩、KPO、KHPO、KHPO等のカリウムのリン酸塩等、Mg(PO、MgHPO、Mg(HPO等のマグネシウムのリン酸塩、NHPO、(NHHPO等のアンモニウムのリン酸が例示される。
【0047】
マグネシウム-マンガン-M元素複合原料、リチウム原料及びリン酸原料の混合方法としては、例えば、乾式混合、湿式混合等が例示される。湿式混合の場合、水やエタノール等の溶媒にリン酸原料を溶解させ、マグネシウム-マンガン-M元素複合原料、リチウム原料に添加する方法が例示される。
【0048】
本発明のスピネル型マンガン酸リチウムを得るための焼成は、大気中、又は、高濃度酸素雰囲気中(純粋酸素雰囲気中を含む)、即ち、酸素含有量が18~100vol%の酸素雰囲気中で、830℃以上960℃以下で行う。830℃より低温ではスピネル型マンガン酸リチウムのBET比表面積が大きくなり易くなり、960℃を超えるとスピネル型マンガン酸リチウムの酸素欠損が増加し、その結果、リチウム二次電池の正極活物質として使用する際に充放電サイクル特性が低下し易くなる。焼成は850℃以上950℃以下で行うことが好ましく、900℃以上950℃以下で行うことがさらに好ましい。
【0049】
スピネル型マンガン酸リチウムは、焼成時に二次粒子同士が固結し易いため、目的の粒子径を得るために解砕を行う。解砕方法は、微粉生成、及び、BET比表面積増加を抑制するため、せん断力による解砕が好ましい。
【0050】
スピネル型マンガン酸リチウムを解砕した後、正極の厚みを超える粗大粒子を除去するため、篩を通過させることが好ましい。篩の目開きは100μm以下であることが好ましく、50μm以下であることがより好ましい。
【0051】
本発明のスピネル型マンガン酸リチウムをリチウム二次電池の正極に使用することで、従来では得ることができなかった、高温における充放電サイクル特性に優れ、かつ、出力特性に優れるリチウム二次電池を構成することが可能になる。
【0052】
正極以外のリチウム二次電池の構成としては、特に制限はないが、負極にはLiを吸蔵放出する材料、例えば、炭素系材料、酸化錫系材料、LiTi12、SiO、Liと合金を形成する材料等が例示される。Liと合金を形成する材料としては、例えば、シリコン系材料やアルミニウム系材料等が例示される。電解質には、例えば、有機溶媒にLi塩や各種添加剤を溶解した有機電解液や、Liイオン伝導性の固体電解質、これらを組み合わせたもの等が例示される。
【実施例
【0053】
次に、本発明を具体的な実施例で説明するが、本発明はこれらの実施例に限定して解釈されるものではない。
【0054】
<Hausner比の測定>
実施例および比較例で得られたスピネル型マンガン酸リチウムをメスシリンダーに充填した直後のタップしない状態での密度(かさ密度)と、200回タップした後の密度(タップ密度)を測定した。
【0055】
測定したかさ密度とタップ密度から、以下の式に基づきHausner比を求めた。
【0056】
Hausner比=タップ密度/かさ密度
<電池性能試験>
各実施例で得られたスピネル型マンガン酸リチウムと導電性バインダー(商品名:TAB-2,宝泉製)を重量比1/2でメノウ乳鉢を使用して混合した。得られた混合物を、直径16mmφのSUSメッシュ(SUS316)に2ton/cmで一軸プレスし、形状がディスク状であるペレット状にした後に、150℃で2時間、減圧乾燥して正極とした。
【0057】
負極として、球晶黒鉛シート(宝泉製TSG-A1、公称容量1.6mAh/cm)を直径16.156mmφに打ち抜いた後、3ton/cmで一軸プレスしたものを使用したことと、負極/正極容量比が1.2となるように正極活物質の量を調整した。
【0058】
エチレンカーボネートとジメチルカーボネートの体積比1:2の溶媒にLiPFを1mol/dm溶解したものを電解液に使用し、ポリエチレンシート(商品名:セルガード、ポリポア製)をセパレータに使用し、セルにCR2032型コインセルを使用した電池を作製した。
【0059】
作製した電池を用いて、24℃で、セル電圧が4.25Vと3.0Vの間で、電流密度0.14mA/cmにおいて定電流定電圧充電-定電流放電を1サイクル行った。次いで、24℃で、セル電圧が4.25Vと3.0Vの間で、電流密度0.28mA/cmにおいて定電流定電圧充電-定電流放電を1サイクル行い、放電容量を電池容量とした。次に、60℃で、セル電圧が4.25Vと3.0Vの間で、電池容量に対し1時間放電率の電流密度において定電流定電圧充電-定電流放電を50サイクル行い、50サイクル目と1サイクル目の放電容量の比からカーボン対極充放電サイクル特性を求めた。なお、定電圧充電の終了条件は、充電電流が定電圧充電時の1/10まで減衰した時点とした。
【0060】
<組成分析、SO含有量、Na含有量の測定>
実施例および比較例で得られたスピネル型マンガン酸リチウムの組成、SO含有量、Na含有量は、スピネル型マンガン酸リチウムを塩酸-過酸化水素混合水溶液に溶解した後、誘電結合プラズマ発光分析装置(商品名:ICP-AES、パーキンエルマージャパン製)で分析した。
【0061】
<BET比表面積の測定>
試料1.0gをBET比表面積測定用のガラス製セルに入れ、窒素気流下で150℃、30分間脱水処理を行い、粉体粒子に付着した水分の除去を行った。
【0062】
処理後の試料を、BET測定装置(商品名:MICROMERITICS DeSorbIII、島津製作所製)で、吸着ガスとして、窒素30%-ヘリウム70%の混合ガスを用いて、1点法でBET比表面積を測定した。
【0063】
<XRDによる半値幅の測定>
実施例および比較例で得られたスピネル型マンガン酸リチウムについて、XRDによる半値幅の測定を粉末XRD測定装置(商品名:Ultima IV、Rigaku製)で行った。計測条件は、以下の通りとした。
【0064】
・ターゲット:Cu
・出力:1.6kW(40mA-40kV)
・フィルタ:Kβフィルター
・発散スリット:1°
・発散縦制限スリット:10mm
・散乱スリット:解放
・受光スリット;解放
・走査モード:連続
・スキャンスピード:4.000°/分
・サンプリング幅:0.04°(2θ/θ)
・積算回数:1回
・測定範囲:10-90°(2θ/θ)
得られたスピネル型マンガン酸リチウムのXRDデータを、粉末X線回折測定装置に付属の解析ソフト(PDXL2)を用いて解析し、2θ=44°付近の(400)面の積分幅を求めた。
【0065】
また、測定装置の誤差を補正するため、予めXRD用標準物質(NIST製α型石英粉末)の測定を行い、スピネル型マンガン酸リチウムの積分幅から標準物質の積分幅を差し引いて半値幅を求めた。
【0066】
実施例1
硫酸マグネシウム、硫酸アルミニウム及び硫酸マンガンを純水に溶解し、0.15mol/L(リットル)の硫酸マグネシウム、0.03mol/Lの硫酸アルミニウム及び2.0mol/Lの硫酸マンガンを含む水溶液(金属塩水溶液)を得た。また、内容積10Lの反応容器に純水8Lを入れた後、これを60℃まで昇温し、維持した。
【0067】
得られた金属塩水溶液を供給速度12g/minで反応容器に連続供給した。また、酸化剤として、空気を供給速度0.5L/minで反応容器中にバブリングした。さらに、金属塩水溶液及び空気供給の際、pHが8.7となるように、5mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液(苛性ソーダ水溶液)を連続的に添加しながら連続的に反応を進行させた(反応時の酸化還元電位は0.08Vであった)。前記反応により、かかる反応容器中で、マグネシウム-マンガン-アルミニウム複合原料物が析出し、スラリーが得られた。反応容器内のスラリーをろ過し、純水で洗浄することによって、ウェットケーキを得た。当該ウェットケーキを110℃で15時間乾燥することで、マグネシウム-マンガン-アルミニウム複合原料を得た。
【0068】
得られたマグネシウム-マンガン-アルミニウム複合原料20gに、純水2gにMg(HPO0.07gを溶解させた溶液を添加し、60℃で1時間乾燥させて得たものの内3gと、炭酸リチウム0.8gを混合し、箱型炉にて空気を5L/minの速度で流通させながら930℃で6時間焼成を行い、室温まで冷却した。昇温速度は100℃/hrとし、降温速度は850℃から600℃までは20℃/hr、600℃から室温までは100℃/hrとした。得られたリン酸塩含有スピネル型マンガン酸リチウムを、強力小型粉砕機(商品名:フォースミル、大阪ケミカル製)で解砕した後、目開き32μmの篩を通過させてリン酸塩含有スピネル型マンガン酸リチウムを得た。
【0069】
得られたリン酸塩含有スピネル型マンガン酸リチウムの組成はLi1.04Mn1.85Mg0.09Al0.02であった。また、XRD測定から、得られたリン酸塩含有スピネル型マンガン酸リチウムはJCPDSのNo.35-782(LiMn)とNo.25-1030(LiPO)の混合相であった。リン/マンガンモル比、Hausner比、BET比表面積、マンガン酸リチウム二次粒子の平均粒子径、XRD測定による(400)面の半値幅の測定結果(以下、測定結果という)を表1に示し、電池性能を表2に示す。
【0070】
【表1】
【0071】
【表2】
【0072】
実施例2
0.08mol/L(リットル)の硫酸マグネシウム、0.03mol/Lの硫酸アルミニウム及び2.0mol/Lの硫酸マンガンを含む金属塩水溶液から得たマグネシウム―マンガン-アルミニウム複合酸化物を用いたことと、焼成温度を950℃に変更したこと以外は、実施例1と同様の方法でリン酸塩含有スピネル型マンガン酸リチウムを得た。
【0073】
得られたリン酸塩含有スピネル型マンガン酸リチウムの組成はLi1.05Mn1.85Mg0.08Al0.02であった。また、XRD測定から、得られたリン酸塩含有スピネル型マンガン酸リチウムはJCPDSのNo.35-782(LiMn)とNo.25-1030(LiPO)の混合相であった。測定結果を表1に示し、電池性能を表2に示す。
【0074】
実施例3
0.05mol/L(リットル)の硫酸マグネシウム、0.05mol/Lの硫酸アルミニウム及び2.0mol/Lの硫酸マンガンを含む金属塩水溶液から得たマグネシウム―マンガン-アルミニウム複合酸化物を用いたことと、Mg(HPO0.07gを0.035gに変更したこと以外は、実施例1と同様の方法でリン酸塩含有スピネル型マンガン酸リチウムを得た。
【0075】
得られたリン酸塩含有スピネル型マンガン酸リチウムの組成はLi1.03Mn1.85Mg0.05Al0.05であった。また、XRD測定から、得られたリン酸塩含有スピネル型マンガン酸リチウムはJCPDSのNo.35-782(LiMn)とNo.25-1030(LiPO)の混合相であった。測定結果を表1に示し、電池性能を表2に示す。
【0076】
実施例4
0.08mol/L(リットル)の硫酸マグネシウム、0.03mol/Lの硫酸ニッケル及び2.0mol/Lの硫酸マンガンを含む金属塩水溶液から得たマグネシウム―マンガン-ニッケル複合酸化物を用いたことと、焼成温度を900℃に変更したこと以外は、実施例1と同様の方法でリン酸塩含有スピネル型マンガン酸リチウムを得た。
【0077】
得られたリン酸塩含有スピネル型マンガン酸リチウムの組成はLi1.04Mn1.86Mg0.08Ni0.02であった。また、XRD測定から、得られたリン酸塩含有スピネル型マンガン酸リチウムはJCPDSのNo.35-782(LiMn)とNo.25-1030(LiPO)の混合相であった。測定結果を表1に示し、電池性能を表2に示す。
【0078】
実施例5
0.08mol/L(リットル)の硫酸マグネシウム、0.03mol/Lの硫酸コバルト及び2.0mol/Lの硫酸マンガンを含む金属塩水溶液から得たマグネシウム―マンガン-コバルト複合酸化物を用いたことと、焼成温度を900℃に変更したこと以外は、実施例1と同様の方法でリン酸塩含有スピネル型マンガン酸リチウムを得た。
【0079】
得られたリン酸塩含有スピネル型マンガン酸リチウムの組成はLi1.05Mn1.85Mg0.08Co0.02であった。また、XRD測定から、得られたリン酸塩含有スピネル型マンガン酸リチウムはJCPDSのNo.35-782(LiMn)とNo.25-1030(LiPO)の混合相であった。測定結果を表1に示し、電池性能を表2に示す。
【0080】
比較例1
硫酸マンガンを純水に溶解し、2.0mol/Lの硫酸マンガン水溶液を得た。また、内容積10Lの反応容器に純水8Lを入れた後、これを60℃まで昇温し、維持した。
【0081】
得られた硫酸マンガン水溶液を供給速度12g/minで反応容器に連続供給した。また、酸化剤として、空気を供給速度0.5L/minで反応容器中にバブリングした。さらに、硫酸マンガン水溶液及び空気供給の際、pHが7.5となるように、5mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液(苛性ソーダ水溶液)を連続的に添加しながら連続的に反応を進行させた(反応時の酸化還元電位は0.08Vであった)。前記反応により、かかる反応容器中で、Mnが析出し、スラリーが得られた。反応容器内のスラリーをろ過し、純水で洗浄することによって、ウェットケーキを得た。当該ウェットケーキを110℃で15時間乾燥することで、Mnを得た。
【0082】
Mn3gと、LiCO0.8gと、Mg(OH)(和光純薬工業製、平均粒子径0.07μm)0.12gを乾式で混合した後は、実施例1と同様の方法にて焼成・解砕・分級を行った。得られたスピネル型マンガン酸リチウムの組成はLi1.04Mn1.86Mg0.10であった。また、XRD測定から、得られたスピネル型マンガン酸リチウムはJCPDSのNo.35-782(LiMn)単相であった。測定結果を表1に示し、電池性能を表2に示す。表2から、比較例1は、カーボン対極サイクル特性が実施例に対して劣ることが明らかとなった。
【産業上の利用可能性】
【0083】
本発明のスピネル型マンガン酸リチウムは、Mg原子とM元素が均一に分散され、特異的なHausner比、BET比表面積及び二次粒子径を有するため、高温における充放電特性、特にカーボン対極充放電特性に優れるとともに、出力特性に優れたリチウム二次電池の正極活物質として使用することができる。