IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 住友大阪セメント株式会社の特許一覧

特許7631962光導波路素子、光変調器、光変調モジュール、及び光送信装置
<>
  • 特許-光導波路素子、光変調器、光変調モジュール、及び光送信装置 図1
  • 特許-光導波路素子、光変調器、光変調モジュール、及び光送信装置 図2
  • 特許-光導波路素子、光変調器、光変調モジュール、及び光送信装置 図3
  • 特許-光導波路素子、光変調器、光変調モジュール、及び光送信装置 図4
  • 特許-光導波路素子、光変調器、光変調モジュール、及び光送信装置 図5
  • 特許-光導波路素子、光変調器、光変調モジュール、及び光送信装置 図6
  • 特許-光導波路素子、光変調器、光変調モジュール、及び光送信装置 図7
  • 特許-光導波路素子、光変調器、光変調モジュール、及び光送信装置 図8
  • 特許-光導波路素子、光変調器、光変調モジュール、及び光送信装置 図9
  • 特許-光導波路素子、光変調器、光変調モジュール、及び光送信装置 図10
  • 特許-光導波路素子、光変調器、光変調モジュール、及び光送信装置 図11
  • 特許-光導波路素子、光変調器、光変調モジュール、及び光送信装置 図12
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-10
(45)【発行日】2025-02-19
(54)【発明の名称】光導波路素子、光変調器、光変調モジュール、及び光送信装置
(51)【国際特許分類】
   G02F 1/035 20060101AFI20250212BHJP
   G02B 6/122 20060101ALI20250212BHJP
【FI】
G02F1/035
G02B6/122
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2021050409
(22)【出願日】2021-03-24
(65)【公開番号】P2022148652
(43)【公開日】2022-10-06
【審査請求日】2023-08-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000183266
【氏名又は名称】住友大阪セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001081
【氏名又は名称】弁理士法人クシブチ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】片岡 優
(72)【発明者】
【氏名】岡橋 宏佑
【審査官】奥村 政人
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-018005(JP,A)
【文献】特開2021-026165(JP,A)
【文献】米国特許第10247999(US,B1)
【文献】国際公開第2004/003652(WO,A1)
【文献】特開平08-059823(JP,A)
【文献】特開2018-112593(JP,A)
【文献】特開2018-031593(JP,A)
【文献】KOOS et al.,Silicon-Organic Hybrid (SOH) and Plasmonic-Organic Hybirid (POH) Integration,JOURNAL OF LIGHTWAVE TECHNOLOGY,Vol. 34, No. 2,米国,OSA/OFC2015,2015年03月22日,p.256 - p.268
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02F 1/00- 1/125
G02F 1/21- 7/00
G02B 6/12- 6/14
IEEE Xplore
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
前記基板上に形成された光導波路と、
前記基板の面内において前記光導波路を両側方から挟む位置に配されて、前記光導波路を伝搬する光波を制御する2つの電極と、
前記光導波路の上を覆う誘電体層と、
を有し、
前記光導波路は、前記基板上に延在する凸部により構成された凸状光導波路であり、
前記誘電体層は、屈折率が1より大きい感光性永久膜であって、前記光導波路の幅方向において、前記2つの電極の前記光導波路に対向するエッジを含む範囲まで延在して、前記2つの電極のそれぞれを部分的に覆うよう配されている、
光導波路素子。
【請求項2】
前記誘電体層の屈折率は、前記光導波路のうち光が伝搬するコア部の屈折率の0.5倍以上、0.75倍以下である、
請求項1に記載の光導波路素子。
【請求項3】
前記誘電体層は、前記2つの電極間における高さが、前記電極を覆う部分の高さより低い、
請求項1又は2に記載の光導波路素子。
【請求項4】
前記2つの電極は、前記光導波路から離れるに従って階段状に厚くなる断面形状を保って前記光導波路に沿って延在し、
前記誘電体層は、前記光導波路の幅方向において、前記2つの電極のそれぞれの前記光導波路に最も近い1段目のエッジを含む範囲まで延在して、前記2つの電極のそれぞれを部分的に覆うように配されている、
請求項1ないしのいずれか一項に記載の光導波路素子。
【請求項5】
前記誘電体層は、前記2つの電極の前記1段目をそれぞれ部分的に覆うよう配されている、
請求項に記載の光導波路素子。
【請求項6】
前記2つの電極の前記エッジの間隔は、10μm未満である、
請求項1ないしのいずれか一項に記載の光導波路素子。
【請求項7】
前記光導波路は、マッハツェンダ型光導波路の2本の並行導波路を構成する、
請求項1ないしのいずれか一項に記載の光導波路素子。
【請求項8】
光の変調を行う光変調素子である請求項1ないしのいずれか一項に記載の光導波路素子と、
前記光導波路素子を収容する筐体と、
前記光導波路素子に光を入力する光ファイバと、
前記光導波路素子が出力する光を前記筐体の外部へ導く光ファイバと、
を備える光変調器。
【請求項9】
光の変調を行う光変調素子である請求項1ないしのいずれか一項に記載の光導波路素子と、
前記光導波路素子を収容する筐体と、
前記光導波路素子に光を入力する光ファイバと、
前記光導波路素子が出力する光を前記筐体の外部へ導く光ファイバと、
前記光導波路素子を駆動する駆動回路と、
を備える光変調モジュール。
【請求項10】
請求項に記載の光変調器または請求項に記載の光変調モジュールと、
前記光導波路素子に変調動作を行わせるための電気信号を生成する電子回路と、
を備える光送信装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光導波路素子、光変調器、光変調モジュール、及び光送信装置に関する。
【背景技術】
【0002】
商用の光ファイバ通信システムでは、基板上に形成された光導波路と、光導波路を伝搬する光波を制御する制御電極と、で構成される光導波路素子としての光変調素子を組み込んだ光変調器が多く用いられている。中でも、電気光学効果を有するLiNbO(以下、LNともいう)を基板に用いた光変調素子は、光の損失が少なく且つ広帯域な光変調特性を実現し得ることから、高速・大容量の基幹光伝送ネットワークやメトロネットワークの光ファイバ通信システムに広く用いられている。
【0003】
このような光変調素子の小型化、広帯域化、省電力化の一つの策として、例えば、薄膜化したLN基板(例えば、厚さ20μm以下)の表面に形成されたリブ型光導波路またはリッジ型光導波路を用いた光変調器が実用化されつつある(例えば、特許文献1)。リブ型光導波路またはリッジ型光導波路は、上記薄膜化したLN基板上に帯状の凸部を形成することで構成される凸状光導波路である。これにより、凸状導波路を伝搬する導波光と、制御電極により基板中に発生する信号電界と、の間の相互作用が強められ(すなわち、電界効率が高められ)、光変調素子の小型化、広帯域化、省電力化が実現される。
【0004】
このような凸状光導波路における一つの課題として、LN基板上に形成された上記凸部の表面荒れに起因する導波光の散乱損失がある。例えば、凸状光導波路は、光導波路となる凸部(すなわち、光を導波するコアとなる部分)を残してLN基板表面をエッチングすることで形成される。その際、エッチング速度やエッチング温度等によっては、LN基板上に形成される凸部の側面に微小な凹凸による表面荒れが発生し得る。そして、このような凸部の表面荒れにより、その凸状光導波路を伝搬する光に散乱損失が生じ得る。
【0005】
凸状導波路の表面荒れに起因する散乱損失を低減する技術として、LN基板上の凸状光導波路を覆うように、リチウムタンタルナイオベイトからなるクラッド層をゾルゲル法により形成することが知られている(特許文献2)。この構成においては、凸状光導波路の環境雰囲気をクラッドとする場合の構成に比べて、凸状導波路の凸部(コア)とクラッドとの間の屈折率差が小さくなり、散乱損失が効果的に低減される。
【0006】
しかしながら、上記従来の構成では、LN基板上において、凸状光導波路以外の部分にも上記クラッド層が形成される。このため、その後に凸状光導波路を挟む位置に配される制御電極は、LN基板上に形成されたクラッド層の上に形成されることとなり、凸状光導波路に発生する電界の強度は、LN基板上に直接に制御電極が形成される構成に比べて弱くなる。そして、これに伴い、その光導波路素子における上記電界効率は低下することとなり得る。
【0007】
このような電界強度の低下を避けて電界効率を維持する手法として、LN基板上に形成された上記クラッドのうち凸状光導波路を覆う部分以外のエリアを、制御電極の形成前にパターンニングにより除去することも考えられる。しかしながら、この手法では、例えば幅2μmの凸状光導波路を4μmの間隔で挟んで形成される制御電極の配置部分を避けてクラッド層をパターンニングすることとなり、技術的な困難を伴うと共に、製造歩留まりにも影響を与え得る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】国際公開第2018/031916号明細書
【文献】平成11-64664号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記背景より、光導波路素子において、電界効率を高く維持しつつ、凸状光導波路における表面粗さに起因した導波光の散乱損失を効果的に防止することが望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一の態様は、基板と、前記基板上に形成された光導波路と、前記基板の面内において前記光導波路を両側方から挟む位置に配されて、前記光導波路を伝搬する光波を制御する2つの電極と、前記光導波路の上を覆う誘電体層と、を有し、前記光導波路は、前記基板上に延在する凸部により構成された凸状光導波路であり、前記誘電体層は、屈折率が1より大きい感光性永久膜であって、前記光導波路の幅方向において、前記2つの電極の前記光導波路に対向するエッジを含む範囲まで延在して、前記2つの電極のそれぞれを部分的に覆うよう配されている、光導波路素子である。
本発明の他の態様によると、前記誘電体層の屈折率は、前記光導波路のうち光が伝搬するコア部の屈折率の0.5倍以上、0.75倍以下である。
本発明の他の態様によると、前記誘電体層は、前記2つの電極間における高さが、前記電極を覆う部分の高さより低い。
本発明の他の態様によると、前記2つの電極は、前記光導波路から離れるに従って階段状に厚くなる断面形状を保って前記光導波路に沿って延在し、前記誘電体層は、前記光導波路の幅方向において、前記2つの電極のそれぞれの前記光導波路に最も近い1段目のエッジを含む範囲まで延在して、前記2つの電極のそれぞれを部分的に覆うように配されている。
本発明の他の態様によると、前記誘電体層は、前記2つの電極の前記1段目をそれぞれ部分的に覆うよう配されている。
本発明の他の態様によると、前記2つの電極の前記エッジの間隔は、10μm未満である。
本発明の他の態様によると、前記光導波路は、マッハツェンダ型光導波路の2本の並行導波路を構成する。
本発明の他の態様は、光の変調を行う光変調素子である請求項1ないし9のいずれか一項に記載の光導波路素子と、前記光導波路素子を収容する筐体と、前記光導波路素子に光を入力する光ファイバと、前記光導波路素子が出力する光を前記筐体の外部へ導く光ファイバと、を備える光変調器である。
本発明の他の態様は、光の変調を行う光変調素子である請求項1ないし9のいずれか一項に記載の光導波路素子と、前記光導波路素子を収容する筐体と、前記光導波路素子に光を入力する光ファイバと、前記光導波路素子が出力する光を前記筐体の外部へ導く光ファイバと、前記光導波路素子を駆動する駆動回路と、を備える光変調モジュールである。
本発明の更に他の態様は、上記光変調器または上記光変調モジュールと、前記光導波路素子に変調動作を行わせるための電気信号を生成する電子回路と、を備える光送信装置である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、光導波路素子において、電界効率を高く維持しつつ、凸状光導波路における表面粗さに起因した導波光の散乱損失を効果的に防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の第1の実施形態に係る光変調素子の構成を示す図である。
図2図1に示すA部の部分詳細図である。
図3図1に示すB部の部分詳細図である。
図4図2に示すA部のIV-IV断面の矢視図である。
図5図2に示すA部のV-V断面の矢視図である。
図6図3に示すB部のVI-VI断面の矢視図である。
図7図1に示す光変調素子における、誘電体層の素材の屈折率に対する、光導波路の散乱損失の変化を示す図である。
図8図1に示す光変調素子の第1の変形例である。
図9図1に示す光変調素子の第2の変形例である。
図10】本発明の第2の実施形態に係る光変調器の構成を示す図である。
図11】本発明の第3の実施形態に係る光変調モジュールの構成を示す図である。
図12】本発明の第4の実施形態に係る光送信装置の構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態を説明する。
[第1の実施形態]
図1は、本発明の第1の実施形態に係る光導波路素子である光変調素子100の構成を示す図である。また、図2は、図1に示すA部の部分詳細図、図3は、図1に示すB部の部分詳細図である。
【0014】
光変調素子100は、基板102に形成された光導波路104で構成される。基板102は、例えば、20μm以下(例えば2μm)の厚さに加工され薄板化された、電気光学効果を有するXカットのLN基板である。光導波路104は、薄板化された基板102の表面に形成された帯状に延在する凸部で構成される凸状光導波路(例えば、リブ型光導波路又はリッジ型光導波路)である。
【0015】
基板102上に延在して光導波路104を構成する凸部は、その屈折率が1より大きい誘電体層160により覆われている。誘電体層160はSiO等の無機材料をスパッタ法やCVD法で形成することができるが、特に、本実施形態に係る光変調素子100では、上記誘電体層160は、樹脂で構成されている。誘電体層160を構成する樹脂は、例えば、カップリング剤(架橋剤)を含むフォトレジストであって、熱により架橋反応が進行して硬化するいわゆる感光性永久膜であるものとすることができる。ただし、誘電体層160は、感光性永久膜に限らず、所定の屈折率を有するポリアミド系樹脂、メラミン系樹脂、フェノール系樹脂、アミノ系樹脂、エポキシ系樹脂等の任意の樹脂であるものとすることができる。
【0016】
基板102は、例えば矩形であり、図示上下方向に延在して対向する図示左右の2つの辺140a、140b、および図示左右方向に延在して対向する図示上下の辺140c、140dを有する。
【0017】
基板102の図示左側の辺140aの図示下側において光導波路104の入力導波路106に入射した入力光(図示右方を向く矢印)は、光の伝搬方向が180度折り返された後、2つの光に分岐され、2つのネスト型マッハツェンダ型光導波路108a、108bにより、それぞれQPSK変調される。QPSK変調された2つの光は、それぞれ、図示左方の出力導波路126a、126bを介して基板102の図示左側の辺140aの図示上側から出力される(図示左方を向く2つの矢印)。
【0018】
これら2つの出力光は、基板102から出射したのち、例えば、偏波合成器により偏波合成されて一つの光ビームにまとめられ、DP-QPSK変調された光信号として伝送用光ファイバへ送出される。
【0019】
ネスト型マッハツェンダ型光導波路108aは2つのマッハツェンダ型光導波路110aおよび110bを含む。また、ネスト型マッハツェンダ型光導波路108bは、2つのマッハツェンダ型光導波路110cおよび110dを含む。
【0020】
マッハツェンダ型光導波路110aおよび110bは、それぞれ、2本の並行導波路112a、112bおよび112c、112dを有する。また、マッハツェンダ型光導波路110cおよび110dは、それぞれ、2本の並行導波路112e、112fおよび112g、112hを有する。
【0021】
ネスト型マッハツェンダ型光導波路108aにおけるQPSK変調のため、マッハツェンダ型光導波路110aの2本の並行導波路112aと112bとの間、およびマッハツェンダ型光導波路110bの2本の並行導波路112cと112dとの間には、それぞれ、変調のための高周波電気信号が入力される信号電極114-1aおよび114-1bが配されている(図示白抜き矩形部分)。
【0022】
また、ネスト型マッハツェンダ型光導波路108bにおけるQPSK変調のため、マッハツェンダ型光導波路110cの2本の並行導波路112eと112fとの間、およびマッハツェンダ型光導波路110dの2本の並行導波路112gと112hとの間には、それぞれ、変調のための高周波電気信号が入力される信号電極114-1cおよび114-1dが配されている。
【0023】
信号電極114-1aは、並行導波路112aおよび112bのそれぞれを挟んで対向するグランド電極114-2a、114-2b(図示白抜き部分)と共にコプレーナ型伝送線路を構成し、信号電極114-1bは、並行導波路112cおよび112dのそれぞれを挟んで対向するグランド電極114-2b、114-2cと共にコプレーナ型伝送線路を構成する。
【0024】
信号電極114-1cは、並行導波路112eおよび112fのそれぞれを挟んで対向するグランド電極114-2c、114-2dと共にコプレーナ型伝送線路を構成し、信号電極114-1dは、並行導波路112eおよび112fのそれぞれを挟んで対向するグランド電極114-2d、114-2eと共にコプレーナ型伝送線路を構成する。
【0025】
以下、ネスト型マッハツェンダ型光導波路108a、108bを総称してネスト型マッハツェンダ型光導波路108ともいうものとする。また、マッハツェンダ型光導波路110a、110b、110c、110d、110e、110f、110g、110hを総称してマッハツェンダ型光導波路110ともいうものとする。また、並行導波路112a、112b、112c、112d、112e、112f、112g、112hを総称して並行導波路112ともいうものとする。また、信号電極114-1a、114-1b、114-1c、114-1dを総称して信号電極114-1ともいうものとする。また、グランド電極114-2a、114-2b、114-2c、114-2d、114-2eを総称してグランド電極114-2ともいうものとする。
【0026】
また、信号電極114-1およびグランド電極114-2を総称して作用電極114というものとする。作用電極114である信号電極114-1およびグランド電極114-2は、光導波路104を伝搬する光波を制御する。また、信号電極114-1とグランド電極114-2とは、光導波路104の並行導波路112を基板102の面内において挟む2つの作用電極114である。
【0027】
本実施形態では、作用電極114である信号電極114-1およびグランド電極114-2のそれぞれは2段電極であり、それらが挟む並行導波路112から離れるに従って階段状に厚くなるように構成されている(後述する図4参照)。
【0028】
信号電極114-1a、114-1b、114-1c、114-1dの図示右端部は、信号配線電極118-1a、118-1b、118-1c、118-1d(図示ハッチングされた帯状部分)にそれぞれ接続されている。また、信号電極114-1a、114-1b、114-1c、114-1dの図示左端部は、信号配線電極118-1e、118-1f、118-1g、118-1hにそれぞれ接続されている。
【0029】
グランド電極114-2a、114-2b、114-2c、114-2dの図示右端は、それぞれグランド配線電極118-2a、118-2b、118-2c、118-2dに接続されている。また、グランド電極114-2a、114-2b、114-2c、114-2dの図示左端は、それぞれグランド配線電極118-2f、118-2g、118-2h、118-2iに接続されている。
【0030】
グランド電極114-2eは、図示矩形のグランドパターンに接続し、当該矩形のグランドパターンの図示右方に延在する図示上方のエッジを含む部分がグランド配線電極118-2eを構成し、図示下方に延在する図示左方のエッジを含む部分がグランド配線電極118-2jを構成する。
【0031】
これにより、信号配線電極118-1a、118-1b、118-1c、118-1dは、これらの信号配線電極に隣接するグランド配線電極118-2a、118-2b、118-2c、118-2d、118-2eと共に、コプレーナ型伝送線路を構成する。同様に、信号配線電極118-1e、118-1f、118-1g、118-1hは、これらの信号配線電極に隣接するグランド配線電極118-2f、118-2g、118-2h、118-2i、118-2jと共に、コプレーナ型伝送線路を構成する。
【0032】
基板102の図示下側の辺140dまで延在する信号配線電極118-1e、118-1f、118-1g、118-1hは、基板102の外部において所定のインピーダンスを持つ終端抵抗により終端される。
【0033】
これにより、基板102の図示右側の辺140bまで延在する信号配線電極118-1a、118-1b、118-1c、118-1dから入力される高周波電気信号は、進行波となって信号電極114-1a、114-1b、114-1c、114-1dを伝搬し、それぞれ、マッハツェンダ型光導波路110a、110b、110c、110dを伝搬する光波を変調する。
【0034】
以下、信号配線電極118-1a、118-1b、118-1c、118-1d、118-1e、118-1f、118-1g、118-1hを総称して信号配線電極118-1ともいうものとする。また、グランド配線電極118-2a、118-2b、118-2c、118-2d、118-2e、118-2f、118-2g、118-2h、118-2i、118-2jを総称してグランド配線電極118-2ともいうものとする。また、信号配線電極118-1およびグランド配線電極118-2を総称して、配線電極118ともいうものとする。すなわち、信号配線電極118-1およびグランド配線電極118-2は、作用電極114に接続された配線電極118である。
【0035】
図3を参照し、図1に示す基板102のB部には、マッハツェンダ型光導波路110a、110b、110c、110dのバイアス点を調整するためのバイアス電極130a、130b、130c、130d、およびネスト型マッハツェンダ型光導波路108a、108bのバイアス点を調整するためのバイアス電極130e、130fが設けられている。バイアス電極130a、130b、130eは、それぞれ、基板102の図示上側の辺140cまで延在するバイアス配線電極132a、132b、132eに接続されている。また、バイアス電極130c、130d、130fは、それぞれ、基板102の図示下側の辺140dまで延在するバイアス配線電極132c、132d、132fに接続されている。
【0036】
以下、バイアス電極130a、130b、130c、130d、130e、130fを総称してバイアス電極130ともいうものとする。バイアス配線電極132a、132b、132c、132d、132e、132fを総称してバイアス配線電極132ともいうものとする。本実施形態では、バイアス電極130も、上述した作用電極114と同様に2段電極である(後述する図6参照)。
【0037】
光変調素子100は、上述において説明したように、基板102と、基板102上に形成された光導波路104と、光導波路104が含む並行導波路112の一部を基板102の面内において両側方から挟む位置に配された2つの電極と、光導波路104の上を覆う誘電体層160と、を有する。ここで上記2つの電極とは、例えば、並行導波路112を挟む作用電極114及び又はバイアス電極130をいう。
【0038】
そして、特に、本実施形態の光変調素子100では、誘電体層160は、並行導波路112の幅方向において、それぞれ2つの作用電極114およびバイアス電極130の当該並行導波路112に対向するエッジを含む範囲まで延在して、それぞれ2つの作用電極114およびバイアス電極130のそれぞれを部分的に覆うよう配されている。
【0039】
図4は、並行導波路112hおよび112gを挟むグランド電極114-2eと信号電極114-1dとグランド電極114-2dの配置を示す、図2におけるIV-IV断面矢視図である。基板102は、その裏面(図示下側の面)が支持板142により支持され補強されている。支持板142は、例えばガラスである。基板102の図示上面には、並行導波路112gおよび112hが、それぞれ、基板102上に形成された凸部150aおよび150bにより凸状光導波路として構成されている。
【0040】
基板102上には、基板102の面内において並行導波路112gを挟む位置にグランド電極114-2dおよび信号電極114-1dが形成されている。また、基板102の面内において並行導波路112hを挟む位置に信号電極114-1dおよびグランド電極114-2eが形成されている。
【0041】
グランド電極114-2dと信号電極114-1dとの間には、並行導波路112gを覆う誘電体層160が配されている。同様に、信号電極114-1dとグランド電極114-2eとの間には、並行導波路112hを覆う誘電体層160が配されている。
【0042】
そして、グランド電極114-2dと信号電極114-1dとの間の誘電体層160は、並行導波路112gの幅方向(図示左右方向)において、グランド電極114-2dおよび信号電極114-1dのそれぞれの、並行導波路112gに対向するエッジ144aおよび144bを含む範囲まで図示左右に延在して、グランド電極114-2dおよび信号電極114-1dのそれぞれを部分的に覆うよう配されている。
【0043】
また、信号電極114-1dとグランド電極114-2eとの間の誘電体層160は、並行導波路112hの幅方向(図示左右方向)において、信号電極114-1dとグランド電極114-2eのそれぞれの、並行導波路112hに対向するエッジ144cおよび144dを含む範囲まで図示左右に延在して、信号電極114-1dおよびグランド電極114-2eのそれぞれを部分的に覆うよう配されている。
【0044】
ここで、グランド電極114-2d、信号電極114-1d、グランド電極114-2eは、それぞれ、第1段目電極146a、146b、146cと第2段目電極148a、148b、148cとで構成されている。上述のエッジ144a、144b、144c、144dは、それぞれ、対応するグランド電極114-2d、信号電極114-1d、グランド電極114-2eの第1段目電極146a、146b、146cのエッジである。
【0045】
そして、特に、本実施形態では、並行導波路112gを覆う誘電体層160は、グランド電極114-2dの第1段目電極146aおよび信号電極114-1dの第1段目電極146bを、それぞれ部分的に覆うよう配されている。同様に、並行導波路112hを覆う誘電体層160は、信号電極114-1dの第1段目電極146bおよびグランド電極114-2eの第1段目電極146cを、それぞれ部分的に覆うよう配されている。
【0046】
これにより、例えば、並行導波路112hを覆う誘電体層160の図示左右には、グランド電極114-2eの第2段目電極148cとの間、および信号電極114-1dの第2段目電極148bとの間に、幅W16およびW17のギャップが形成される。これにより、例えば、信号電極114-1dとグランド電極114-2eとの間では、第2段目電極148bと148cとの間の空間に比べて、第1段目電極146bと146cとの間の誘電体層160に電界が集中することとなり、誘電体層160が覆う並行導波路112hにおける電界効率が向上する。
【0047】
なお、誘電体層160は、他の並行導波路112a、112b、112c、112d、112e、112fにおいても、上記と同様に構成されている。ここで、並行導波路112を挟む2つの作用電極114のそれぞれの、当該並行導波路112に対向するエッジを総称してエッジ144というものとする。また、作用電極114の第1段目電極および第2段目電極のそれぞれを総称して、第1段目電極146および第2段目電極148というものとする。
【0048】
すなわち、誘電体層160は、並行導波路112の幅方向において、上記2つの作用電極114およびバイアス電極130の当該並行導波路112に対向するエッジ144を含む範囲まで延在して、上記2つの作用電極114の第1段目電極146のそれぞれを部分的に覆うよう配されている。
【0049】
ここで、並行導波路112を挟む2つの作用電極114の、互いに対向するエッジ144の間隔(例えば、図4におけるエッジ144cと144dとの間の距離W12)は、例えば、10μm未満である。
【0050】
なお、本実施形態では、配線電極118は、2段電極である作用電極114の2段目の部分(すなわち、厚さの厚い部分)が延在することにより形成されている。図5は、図2におけるV-V断面の矢視図であり、作用電極114と配線電極118との接続状態の一例として信号電極114-1dと信号配線電極118-1dとの接続状態を示す図である。信号電極114-1dは、第1段目電極146aと第2段目電極148aとで構成されており、信号電極114-1dの第2段目電極148aが図示右方へ延在して信号配線電極118-1dを構成している。
【0051】
誘電体層160は、図3に示すバイアス電極130においても、上述した作用電極114における配置と同様の配置で配されている。すなわち、隣接する2つのバイアス電極130は、並行導波路112を基板102の面内において挟むように構成されている。そして、その並行導波路112を覆う誘電体層160は、その並行導波路112の幅方向において、上記2つのバイアス電極130のそれぞれの、当該並行導波路112に対向するエッジを含む範囲まで延在して、上記2つのバイアス電極130のそれぞれを部分的に覆うよう配されている。
【0052】
図6は、図3におけるVI-VI断面の矢視図であり、バイアス電極130における誘電体層160の配置の一例としてバイアス電極130aにおける誘電体層160の配置を示す図である。基板102上には、基板102の面内において並行導波路112a、112bのそれぞれを挟むようにバイアス電極130aが形成されている。そして、並行導波路112aを覆う誘電体層160は、並行導波路112aの幅方向(図示左右方向)の両側において、2つのバイアス電極130aのそれぞれの、並行導波路112aに対向するエッジ152aおよび152bを含む範囲まで延在して、これらのバイアス電極130aのそれぞれを部分的に覆うよう配されている。また、図6では、図示左右のバイアス電極130aに、バイアス配線電極132aが接続されている。
【0053】
誘電体層160は、他のバイアス電極130b、130c、130d、130e、130fにおいても、上記と同様に構成されている。ここで、並行導波路112を挟む2つのバイアス電極130のそれぞれの、当該並行導波路112に対向するエッジを総称してエッジ152というものとする。すなわち、誘電体層160は、並行導波路112の幅方向において、上記2つのバイアス電極130のそれぞれの、当該並行導波路112に対向するエッジ152を含む範囲まで延在して、上記2つのバイアス電極130のそれぞれを部分的に覆うよう配されている。
【0054】
上記の構成を有する光変調素子100では、基板102上に延在して光導波路104を構成する凸部が、屈折率が1より大きい樹脂である誘電体層160により覆われている。これにより、光変調素子100では、凸部が空気と接する状態に比べて、凸部と当該凸部の周囲環境との屈折率差は小さくなり、凸部の形成過程において発生した凸部側面の表面荒れに起因する散乱損失が低減される。
【0055】
誘電体層160は、例えば、フォトレジストである感光性永久膜をスピナーにより基板102上にコート(スピンコート)し、紫外線を用いたパターンニングにより形成することができる。
【0056】
光変調素子100では、誘電体層160は、並行導波路112を挟む2つの作用電極114の対向するエッジを含む範囲まで延在して、これら電極のそれぞれを部分的に覆うよう配されている。このため、製造過程(例えば、上記のパターンニングの工程)において基板102の面内における誘電体層160の形成位置が並行導波路112の幅方向へずれた場合でも、当該ずれ量が所定の誤差範囲内ある限り、並行導波路112を挟む2つの作用電極114の間には誘電体層160が隙間なく充填された状態を維持できる。したがって、光変調素子100では、並行導波路112を挟む2つの作用電極114の間の静電容量の製造ばらつきを低減して、上記2つの作用電極114から並行導波路112に印加される電界を高く維持することができる(すなわち、電界効率を高く維持することができる)。バイアス電極130においても同様である。
【0057】
その結果、光変調素子100では、光導波路104(具体的には、並行導波路112の部分)における電界効率を高く維持しつつ、凸状光導波路における表面粗さに起因した導波光の散乱損失を効果的に防止することができる。
【0058】
なお、上記所定の誤差範囲は、例えば、図4において並行導波路112hを覆う誘電体層160の左右の作用電極114(グランド電極114-2e及び信号電極114-1d)への乗り上げ寸法の設計値がW14およびW15であるときは、W14、W15のうちいずれか小さい方の寸法以内の範囲である。また、誘電体層160の上面の幅W10の中心と、左右の作用電極114の間の距離W12の中心とが設計上一致する場合には、上記誤差範囲は、(W10-W12)/2である。
【0059】
また、並行導波路112を挟む作用電極114は、数GHzのマイクロ波電気信号を変調用の高周波電気信号とする光変調素子においては、一般に、基板102の面からの高さが1μm程度と厚く形成される。このため、これら2つの作用電極114間に形成される凹部の深さも1μmと深くなる。このような深さの深い凹部を二酸化ケイ素(SiO)のような無機物の誘電体で満たす場合には、技術的な困難を伴う。また、仮に、そのような厚い膜を形成できたとしても、膜形成過程において無機物誘電体層の内部に溜まった応力が、製造後に基板102等に加わることとなり、光変調素子としての電気的及び又は光学的な特性や長期信頼性に悪影響を及ぼすこととなり得る。
【0060】
上述したように、光変調素子100では、誘電体層160は樹脂で構成されるので、10μm程度の厚い層を容易に形成することができる。また、一般に、樹脂のヤング率は無機物に比べて小さいため、製造後において誘電体層160から基板102等に加わる応力は、無機物誘電体層を用いた場合に比べて大幅に軽減される。
【0061】
また、誘電体層160に用いられる感光性永久膜等の樹脂は、その組成を調整することにより粘度を調整することができる。樹脂である誘電体層160は、スピンコートの際のスピナーの回転速度の調整に加えて、このような粘度の調整により、スピンコートの際に基板102上に形成される膜厚を調整することができる。このため、光変調素子100では、並行導波路112を挟む2つの作用電極114の間に形成する誘電体層160の厚さを調整して、これら2つの作用電極114の間の静電容量を所望の値とすることができるので、これら2つの作用電極114の間のインピーダンスの調整や、光波と高周波電気信号との速度整合の調整を行うことができる。
【0062】
また、並行導波路112を挟む2つの作用電極114は2段電極である。このような作用電極114の多段構成は、一般に、並行導波路112に発生させる電界の強度を高く維持しつつ、これら作用電極114が構成する伝送線路の周波数特性を広帯域化する際に用いられる。特に、本実施形態では、並行導波路112を覆う誘電体層160は、当該並行導波路112に最も近い第1段目電極のエッジまで延在して、当該第1段目電極を部分的に覆うように配される。このため、作用電極114間に発生する電気力線は、2段目電極間の空間に比べて第1段目電極間に形成された誘電体層160においてその密度が高くなる。その結果、本実施形態では、第1段目電極間の誘電体層160に覆われた並行導波路112に電界が集中することとなり、電界効率が向上する。
【0063】
上述したように、並行導波路112を覆う誘電体層160は、光導波部分(いわゆるコア)である基板102上の凸部と、クラッドとして機能する誘電体層160と、の間の屈折率差を低減することで、凸部表面における散乱損失を低減する。図7は、誘電体層160を構成する素材の屈折率に対する、散乱損失の低減効果を示す図である。図7において、横軸は、並行導波路112を構成する凸部の屈折率ncoreに対する、誘電体層160の屈折率ncladの比(屈折率比)nclad/ncoreである。また、縦軸は、並行導波路112における光損失(dB/cm)である。
【0064】
図7において、ライン200は、並行導波路112における散乱損失を示している。図7には、さらに、ライン202及びライン204が示されている。ライン202は、並行導波路112における光閉じ込め効果に依存する導波損失を表す。また、ライン204は、ライン200が示す散乱損失とライン202が示す導波損失とを含む全損失を表している。
【0065】
ライン200より、屈折率比nclad/ncoreが1に近づくほど、すなわち、並行導波路112を構成する凸部の屈折率ncoreと誘電体層160の屈折率ncladがとの屈折率差が小さくなるほど、並行導波路112における散乱損失は低減されることが判る。
【0066】
一方で、ライン202を見ると、屈折率比nclad/ncoreが1に近づくにつれ並行導波路112の導波損失は増加することが判る。この導波損失の増加は、上記屈折率差の低下に伴って並行導波路112における光閉じ込め効果が低下していくことに起因し、屈折率比nclad/ncoreが0.75を越えると急激に増加する。その結果、並行導波路112の全損失は、ライン204に示すように、屈折率比nclad/ncoreに対してU字形に変化し、屈折率比nclad/ncore=0.65において極小値(約2dB/cm)を示す。
【0067】
ライン204より、上記極小値からの光損失の許容増加量を0.5dBとすれば、屈折率比nclad/ncoreは、0.5以上、0.75以下が望ましいことが判る。すなわち、誘電体層160の屈折率ncladは、並行導波路112を構成する凸部の屈折率ncoreの、0.5倍以上、0.75以下であることが望ましい。
【0068】
次に、光変調素子100の変形例について説明する。
[第1変形例]
図8は、光変調素子100の第1の変形例に係る光変調素子100-1の構成を示す図であり、上述した実施形態における図4に相当する図である。図8に示す誘電体層160-1は、図1ないし図6に示す光変調素子100において、誘電体層160に代えて用いられる。なお、図8において、図4に示す構成要素と同じ構成要素については、図4における符号と同一の符号を用いるものとし、上述した図4についての説明を援用する。また、誘電体層160-1が用いられる光変調素子100-1の平面構成は、図1ないし図3に示す光変調素子100と同様であるので、上述した図1ないし図3についての説明を援用する。
【0069】
図8において、誘電体層160-1は、図4に示す誘電体層160と同様の構成を有するが、その上面が平坦ではなく、凹凸を有している点が異なる。具体的には、並行導波路112gを覆う誘電体層160-1は、グランド電極114-2dおよび信号電極114-1dの並行導波路112gに隣接するそれぞれのエッジ144aとエッジ144bとの間における高さが、これらのグランド電極114-2dおよび信号電極114-1dを武運出来に覆う部分の高さより低い。
【0070】
なお、他の並行導波路112を覆う誘電体層160-1も、上記と同様に構成され得る。すなわち、並行導波路112を覆う誘電体層160-1は、当該並行導波路112を挟む信号電極114-1とグランド電極114-2との間における高さが、これらの電極を覆う部分の高さより低い。
【0071】
このような誘電体層160-1の上面形状は、例えば、誘電体層160-1を構成する樹脂の組成により当該樹脂のスピンコート時の粘度を調整することで実現され得る。
【0072】
一般に、感光性永久膜等の樹脂は、硬化前は粘性を持つため、光導波路104を構成する凸部や電極等により基板102上に凹凸があっても、スピンコート後の樹脂の表面は、ほぼ平坦となる。また、スピンコートされた樹脂のパターンニング工程において、乾燥等のための高温処理を行う場合には、処理温度に依存して、樹脂の高温軟化によりその表面は更に平坦化され得る。このため、一般的には、並行導波路112を挟む電極間の誘電体層160の上面は、図4に示すようにほぼ平坦となる。
【0073】
これに対し、図8に示す構成では、誘電体層160-1は、上述したように、並行導波路112gに隣接するグランド電極114-2dおよび信号電極114-1dのエッジ144aとエッジ144bとの間における高さが、これらのグランド電極114-2dおよび信号電極114-1dを覆う部分の高さより低い。すなわち、誘電体層160-1は、並行導波路112を覆う部分の厚さが、図4に示す構成において並行導波路112が誘電体層160を覆う厚さよりも薄く構成されている。図8に示す構成は、図4の構成に使用される硬化前の樹脂の粘度を調整することよりに形成することできる。更に、誘電体層160の形成をスパッタ法やCVD法を使用することにより、光導波路104を構成する凸部や電極等による基板102上の凹凸の影響を受ける為、形成することができる。
【0074】
これにより、本変形例においては、信号電極114-1dとグランド電極114-2dとの間の電気力線は、薄く形成された誘電体層160-1内に集中して通過することとなり、図4の構成に比べて並行導波路112に印加される電界が更に強められて電界効率が更に向上する。
【0075】
[第2変形例]
図9は、光変調素子100の第2の変形例に係る光変調素子100-2の構成を示す図であり、上述した実施形態における図4に相当する図である。図9に示す信号電極114-3dおよびグランド電極114-4d、114-4eは、図1ないし図4に示す光変調素子100における信号電極114-1dおよびグランド電極114-2d、114-2eに代えて用いられる。なお、図9において、図4に示す構成要素と同じ構成要素については、図4における符号と同一の符号を用いるものとし、上述した図4についての説明を援用する。
【0076】
また、図9に示す信号電極114-3dおよびグランド電極114-4d、114-4eが用いられる光変調素子100-2の平面構成は、図1ないし図3に示す光変調素子100と同様であるので、上述した図1ないし図3についての説明を援用する。
【0077】
図4および図8に示す作用電極114である信号電極114-1及びグランド電極114-2は、一例として2段電極として構成されているが、これらの作用電極は1段で構成されていてもよい。図9に示す信号電極114-3dおよびグランド電極114-4d、114-4eは、そのような1段の電極として構成されている。そして、並行導波路112gを覆う誘電体層160は、図4に示す構成と同様に、並行導波路112gの幅方向(図示左右方向)において、並行導波路112gを挟むグランド電極114-4dおよび信号電極114-3dのそれぞれの、並行導波路112gに対向するエッジを含む範囲まで延在して、これらのグランド電極114-4dおよび信号電極114-3dのそれぞれを部分的に覆うよう配されている。
【0078】
[第2実施形態]
次に、本発明の第2の実施形態について説明する。本実施形態は、上述したいずれかの光変調素子を用いた光変調器である。図10は、第2の実施形態に係る光変調器400の構成を示す図である。光変調器400は、筐体402と、当該筐体402内に収容された光変調素子404と、中継基板406と、を有する。光変調素子404は、上述した光変調素子100、100-1、100-2のいずれかである。筐体402は、最終的にはその開口部に板体であるカバー(不図示)が固定されて、その内部が気密封止される。
【0079】
光変調器400は、また、光変調素子404の変調に用いる高周波電気信号を入力するための信号ピン408と、光変調素子404の動作点の調整に用いる電気信号を入力するための信号ピン410と、を有する。
【0080】
さらに、光変調器400は、筐体402内に光を入力するための入力光ファイバ414と、光変調素子404により変調された光を筐体402の外部へ導く出力光ファイバ420と、を筐体402の同一面(本実施形態では、図示左側の面)に有する。
【0081】
ここで、入力光ファイバ414及び出力光ファイバ420は、固定部材であるサポート422及び424を介して筐体402にそれぞれ固定されている。入力光ファイバ414から入力された光は、サポート422内に配されたレンズ430によりコリメートされた後、レンズ434を介して光変調素子404へ入力される。ただし、これは一例であって、光変調素子404への光の入力は、従来技術に従い、例えば、入力光ファイバ414を、サポート422を介して筐体402内に導入し、当該導入した入力光ファイバ414の端面を光変調素子404の基板102の端面に接続することで行うものとすることもできる。
【0082】
光変調素子404から出力される光は、光学ユニット416と、サポート424に配されたレンズ418と、を介して出力光ファイバ420に結合される。光学ユニット416は、光変調素子404から出力される2つの変調光を一つのビームに結合する偏波合成器を含み得る。
【0083】
中継基板406は、当該中継基板406に形成された導体パターン(不図示)により、信号ピン408から入力される高周波電気信号および信号ピン410から入力される動作点(バイアス点)調整用等の電気信号を、光変調素子404へ中継する。中継基板406上の上記導体パターンは、例えばワイヤボンディング等により、光変調素子404の電極の一端を構成するパッドにそれぞれ接続される。また、光変調器400は、所定のインピーダンスを有する終端器412を筐体402内に備える。
【0084】
上記の構成を有する光変調器400は、凸状光導波路における表面粗さに起因した導波光の散乱損失を効果的に防止し得る構成を有した光変調素子100、100-1、100-2のいずれかである光変調素子404を用いて構成されるので、光損失が少なく且つ低駆動電圧の変調動作を提供し得る。
【0085】
[第3実施形態]
次に、本発明の第3の実施形態について説明する。本実施形態は、上述したいずれかの実施形態または変形例に係る光変調素子を用いた光変調モジュール500である。図11は、本実施形態に係る光変調モジュール500の構成を示す図である。図11において、図10に示す第2の実施形態に係る光変調器400と同一の構成要素については、図10に示す符号と同じ符号を用いて示すものとし、上述した図10についての説明を援用する。
【0086】
光変調モジュール500は、図8に示す光変調器400と同様の構成を有するが、中継基板406に代えて、回路基板506を備える点が、光変調器400と異なる。回路基板506は、駆動回路508を備える。駆動回路508は、信号ピン408を介して外部から供給される例えば変調信号に基づいて、光変調素子404を駆動する高周波電気信号を生成し、当該生成した高周波電気信号を光変調素子404へ出力する。
【0087】
上記の構成を有する光変調モジュール500は、凸状光導波路における表面粗さに起因した導波光の散乱損失を効果的に防止し得る構成を有した光変調素子100、100-1、100-2のいずれかである光変調素子404を用いて構成されるので、上述した第2の実施形態に係る光変調器400と同様に、光損失が少なく且つ低駆動電圧の変調動作を提供し得る。
【0088】
[第4実施形態]
次に、本発明の第4の実施形態について説明する。本実施形態は、第2の実施形態に係る光変調器400を搭載した光送信装置600である。図12は、本実施形態に係る光送信装置600の構成を示す図である。この光送信装置600は、光変調器400と、光変調器400に光を入射する光源604と、変調器駆動部606と、変調信号生成部608と、を有する。なお、光変調器400及び変調器駆動部606に代えて、上述した光変調モジュール500を用いることもできる。
【0089】
変調信号生成部608は、光変調器400に変調動作を行わせるための電気信号を生成する電子回路であり、外部から与えられる送信データに基づき、光変調器400に当該変調データに従った光変調動作を行わせるための高周波信号である変調信号を生成して、変調器駆動部606へ出力する。
【0090】
変調器駆動部606は、変調信号生成部608から入力される変調信号を増幅して、光変調器400が備える光変調素子100等の信号電極を駆動するための高周波電気信号を出力する。尚、上述したように、光変調器400および変調器駆動部606に代えて、例えば変調器駆動部606に相当する回路を含む駆動回路508を筐体402の内部に備えた、光変調モジュール500を用いることもできる。
【0091】
上記高周波電気信号は、光変調器400の信号ピン408に入力されて、光変調素子100等を駆動する。これにより、光源604から出力された光は、光変調器400により変調され、変調光となって光送信装置600から出力される。
【0092】
上記の構成を有する光送信装置600は、凸状光導波路における表面粗さに起因した導波光の散乱損失を効果的に防止し得る構成を有した光変調素子100、100-1、100-2のいずれかである光変調素子404を用いて構成されるので、上述した第2の実施形態に係る光変調器400および第3の実施形態に係る光変調モジュール500と同様の低光損失且つ低駆動電圧の変調動作により、良好な光伝送を実現し得る。
【0093】
なお、本発明は上記実施形態の構成およびその代替構成に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の態様において実施することが可能である。
【0094】
例えば、光導波路104は、上述した実施形態においては凸状導波路であるものとしたが、例えばTi拡散導波路のような、基板102の表面に形成される平面導波路であってもよい。この場合にも、基板102の表面の荒れに伴う散乱損失を誘電体層160により低減することができる。
【0095】
また、光変調素子100の作用電極114は、上述の実施形態においては2段で構成されているが、3段以上の段数を持つ階段状に構成されていてもよい。
【0096】
また、図4に示す構成において、誘電体層160は、信号電極114-1dおよびグランド電極114-2d、114-2eの第1段目電極146a、146b、146cを部分的に覆うように配されているが、誘電体層160がこれらの作用電極114を覆う範囲は、第1段目電極146には限られない。誘電体層160は、作用電極114のうち並行導波路112に対向する(または、隣接する)エッジ144まで延在する限り、これら作用電極114の第2段目電極148まで延在して(あるいは、これらの電極が3段以上に構成されている場合には、2段目以上の階段部まで延在して)もよい。
【0097】
ただし、並行導波路112に電界を集中させる観点からは、誘電体層160は、作用電極114の第1段目電極146のみを部分的に覆い、第2段目電極148との間には間隔(例えば、図4の間隔W16及びW17)が空いているほうが好ましい。
【0098】
また、光変調素子100では、作用電極114だけでなく、バイアス電極130についても、並行導波路112を覆う誘電体層160は、当該並行導波路112を挟む2つのバイアス電極130のエッジ152まで延在してバイアス電極130を部分的に覆うものとした。ただし、このような誘電体層160の構成は、作用電極114又はバイアス電極130のいずれかについて実現されていればよい。これにより、作用電極114又はバイアス電極130において、電界効率を高く維持しつつ、光導波路における表面粗さに起因した導波光の散乱損失を効果的に防止することができる。
【0099】
なお、本発明は上記実施形態の構成に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の態様において実施することが可能である。
【0100】
例えば、図1に示す光変調素子100では、基板102のうち電極および光導波路104が何も形成されていない部分が存在するが、そのような部分の全部または一部は、従来技術に従い、グランドパターンで覆ってもよい。
【0101】
以上説明したように、上述した実施形態に係る光導波路素子である光変調素子100は、基板102と、基板102上に形成された光導波路104と、を有する。ここで、光導波路104は、その一部として、例えば並行導波路112を含む。光変調素子100は、基板102の面内において並行導波路112を両側方から挟む位置に配された2つの電極(2つの作用電極114又は2つのバイアス電極130)と、光導波路の上を覆う誘電体層160と、を有する。そして、光変調素子100では、誘電体層160は、並行導波路112の幅方向において、上記2つの電極のそれぞれの、並行導波路112に対向するエッジを含む範囲まで延在して、上記2つの電極のそれぞれを部分的に覆うように構成されている。
【0102】
この構成によれば、光導波路104を覆う誘電体層160の形成位置がずれた場合でも、並行導波路112を挟む上記2つの電極(すなわち、2つの作用電極114または2つのバイアス電極130)の間に隙間なく誘電体層160を形成することができる。このため。上記の構成によれば、電界効率を高く維持しつつ、光導波路104の表面粗さに起因した導波光の散乱損失を効果的に防止することができる。
【0103】
また、光変調素子100では、光導波路104は、基板102上に延在する凸部により構成された凸状光導波路である。この構成によれば、側部表面に荒れの発生しやすい凸状光導波路において、電界効率を高く維持しつつ、光導波路104の表面粗さに起因した導波光の散乱損失を効果的に防止することができる。
【0104】
また、誘電体層160の屈折率は、光導波路104のうち光が伝搬するコア部の屈折率の0.5倍以上、0.75倍以下である。この構成によれば、光導波路104における散乱損失の低減と導波損失の増加とのトレードオフをバランスして、光導波路104の光伝搬損失を低く保つことができる。
【0105】
また、誘電体層160は、例えば樹脂である。この構成によれば、光導波路104上に誘電体層160を10μm程度まで厚く形成することができるので、例えば光導波路104の一部である並行導波路112を挟む2つの電極間に誘電体層160を容易に形成することができる。
【0106】
また、誘電体層160は、光導波路104である並行導波路112を挟む上記2つの電極間における高さが、これらの電極を覆う部分の高さより低い。この構成によれば、上記2つの電極により発生する電界を、誘電体層160に覆われた光導波路104に集中させることができるので、電界効率を高めて光変調素子100としての動作電圧を低減することができる。
【0107】
また、光導波路104である並行導波路112を挟む上記2つの作用電極114は、並行導波路112から離れるに従って階段状に厚くなるように、例えば2段電極として構成される。そして、誘電体層160は、並行導波路112の幅方向において、上記2つの作用電極のそれぞれの当該並行導波路112に最も近い第1段目電極146のエッジを含む範囲まで延在して、上記2つの電極のそれぞれを部分的に覆うように配されている。この構成によれば、第1段目電極146間の誘電体層160に覆われた並行導波路112に電界が集中することとなり、電界効率が向上する結果、光変調素子100としての動作電圧が低減される。
【0108】
また、誘電体層160は、並行導波路112を挟む2つの作用電極114の第1段目電極146のそれぞれを、部分的に覆うよう配されている。この構成によれば、並行導波路112への電界集中を更に高めて、光変調素子100としての動作電圧を更に低減することができる。
【0109】
また、並行導波路112を挟む2つの作用電極114のエッジ144の間隔は、10μm未満である。この構成によれば、作用電極114が10μm未満の間隔で配される構成において、隣接する作用電極114の間に配された並行導波路112に、誘電体層160をずれなく適切に配することができる。その結果、並行導波路112における散乱損失を低減して、低損失な光変調素子100を実現することができる。
【0110】
また、光導波路104は、マッハツェンダ型光導波路110のそれぞれの2本の並行導波路112を構成する。この構成によれば、2本の並行導波路112における光損失の差が光学特性に影響されやすいマッハツェンダ型光導波路110において、これら2本の並行導波路112における表面粗さに起因する散乱損失を共に低減して、良好な光学特性を実現することができる。
【0111】
また、上述した第2の実施形態に係る光変調器400は、光の変調を行う光変調素子100、100-1、又は100-2である光変調素子404と、光変調素子404を収容する筐体402と、光変調素子404に光を入力する入力光ファイバ414と、光変調素子100が出力する光を筐体402の外部へ導く出力光ファイバ420と、を備える。
【0112】
また、上述した第3の実施形態に係る光変調モジュール500は、光変調素子404と、光変調素子404を収容する筐体402と、光変調素子404に光を入力する入力光ファイバ414と、光変調素子404が出力する光を筐体402の外部へ導く出力光ファイバ420と、光変調素子を駆動する駆動回路508と、を備える。
【0113】
また、上述した第4の実施形態に係る光送信装置600は、第2の実施形態に係る光変調器400または第3の実施形態に係る光変調モジュール500と、光変調素子404に変調動作を行わせるための電気信号を生成する電子回路である変調信号生成部608と、を備える。
【0114】
これらの構成によれば、消費電力が小さく低損失の光変調器400、光変調モジュール500、又は光送信装置600を実現することができる。
【符号の説明】
【0115】
100、100-1、100-2、404…光変調素子、102…基板、104…光導波路、106…入力導波路、108a、108b…ネスト型マッハツェンダ型光導波路、110、110a、110b、110c、110d…マッハツェンダ型光導波路、112、112a、112b、112c、112d、112e、112f、112g、112h…並行導波路、114…作用電極、114-1、114-1a、114-1b、114-1c、114-1d、114-3d…信号電極、114-2、114-2a、114-2b、114-2c、114-2d、114-2e、114-4d、114-4e…グランド電極、118…配線電極、118-1、118-1a、118-1b、118-1c、118-1d、118-1e、118-1f、118-1g、118-1h…信号配線電極、118-2、118-2a、118-2b、118-2c、118-2d、118-2e、118-2f、118-2g、118-2h、118-2i、118-2j…グランド配線電極、126a、126b…出力導波路、130、130a、130b、130c、130d、130e、130f…バイアス電極、132、132a、132b、132c、132d、132e、132f…バイアス配線電極、140a、140b、140c、140d…辺、142…支持板、144、144a、144b、144c、144、152、152a、152b、152c、152d…エッジ、146、146a、146b、146c…第1段目電極、148、148a、148b、148c…第2段目電極、150、150a、150b…凸部、160、160-1…誘電体層、200、202、204…ライン、400…光変調器、402…筐体、406…中継基板、408、410…信号ピン、412…終端器、414…入力光ファイバ、416…光学ユニット、418、430、434…レンズ、420…出力光ファイバ、422、424…サポート、500…光変調モジュール、506…回路基板、508…駆動回路、600…光送信装置、604…光源、606…変調器駆動部、608…変調信号生成部。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12