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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-10
(45)【発行日】2025-02-19
(54)【発明の名称】ポリマー、樹脂皮膜及びドライフィルム
(51)【国際特許分類】
   C08G 77/60 20060101AFI20250212BHJP
   C08G 59/02 20060101ALI20250212BHJP
【FI】
C08G77/60
C08G59/02
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2021170161
(22)【出願日】2021-10-18
(65)【公開番号】P2023060518
(43)【公開日】2023-04-28
【審査請求日】2023-10-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002240
【氏名又は名称】弁理士法人英明国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】丸山 仁
(72)【発明者】
【氏名】大森 裕士
【審査官】今井 督
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-016879(JP,A)
【文献】特開2019-200344(JP,A)
【文献】特開2020-090649(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 77/00- 77/62
C08G 59/00- 59/70
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
主鎖が、シルフェニレン骨格、エポキシ基含有イソシアヌル酸骨格及びノルボルネン骨格を含み、シロキサン骨格を含まないポリマーであって、
重量平均分子量が、3,000~100,000であり、
下記式(A1)で表される繰り返し単位及び下記式(A2)で表される繰り返し単位のみを含むものであるポリマー。
【化1】
(式中、a及びbは、0<a<1、0<b<1及びa+b=1を満たす正数である。X 1 は、下記式(X1)で表される2価の基である。X 2 は、下記式(X2)で表される2価の基である。)
【化2】
(式中、R 11 及びR 12 は、それぞれ独立に、水素原子又はメチル基である。
13 は、炭素数1~8のヒドロカルビレン基であり、その炭素-炭素結合間にエステル結合又はエーテル結合が介在していてもよい。n 1 及びn 2 は、それぞれ独立に、0~7の整数である。破線は、結合手である。)
【化3】
(式中、R 21 及びR 22 は、それぞれ独立に、水素原子又はヘテロ原子を含んでいてもよい炭素数1~20の飽和ヒドロカルビル基である。mは、0又は1~10の整数である。破線は、結合手である。)
【請求項2】
aが、0<a≦0.35である請求項記載のポリマー。
【請求項3】
請求項1又は2記載のポリマーから得られる樹脂皮膜。
【請求項4】
前記ポリマーからなる膜厚10μmの膜の波長405nmの光の透過率が、95%以上である請求項記載の樹脂皮膜。
【請求項5】
支持フィルムと、該支持フィルム上に請求項記載の樹脂皮膜と、該樹脂皮膜上に保護フィルムとを備える保護フィルム付きドライフィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリマー、樹脂皮膜及びドライフィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から発光ダイオード(LED)、CMOSイメージセンサー等に代表される各種光学デバイスには、封止保護材料や接着剤として透明なエポキシ樹脂が用いられてきた。
【0003】
LEDのような光学デバイスでは近年高出力化が進んでおり、発ガス、変色等の抑制のために従来よりも高い透明性や耐光性が求められる。特に高い透明性や耐光性をもつものとして、例えば、エポキシ変性シリコーン樹脂(特許文献1、2)が挙げられる。
【0004】
一方、光学デバイスの構造も複雑化しており、LEDや配線等の凹凸部を有した基板上でボイドの混入なく平坦に封止する必要があるため、ドライフィルム形態での供給が可能な樹脂が求められるが、特許文献1、2に記載されたエポキシ変性シリコーン樹脂は保護フィルム付きのドライフィルム化が困難であることが課題としてある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2020-94168号公報
【文献】特開2020-90649号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、前記事情に鑑みなされたもので、高透明性及び高耐光性に加え、保護フィルム付きのドライフィルム化が可能なポリマーを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、前記目的を達成するため検討を重ねた結果、主鎖がシルフェニレン骨格、エポキシ基含有イソシアヌル酸骨格及びノルボルネン骨格からなるポリマーが前記課題を解決できることを見出し、本発明を完成させた。
【0008】
したがって、本発明は、下記ポリマー、樹脂皮膜及びドライフィルムを提供する。
1.主鎖が、シルフェニレン骨格、エポキシ基含有イソシアヌル酸骨格及びノルボルネン骨格を含み、シロキサン骨格を含まないポリマー。
2.重量平均分子量が、3,000~100,000である1のポリマー。
3.下記式(A1)で表される繰り返し単位及び下記式(A2)で表される繰り返し単位を含む1又は2のポリマー。
【化1】
(式中、a及びbは、0<a<1、0<b<1及びa+b=1を満たす正数である。X1は、下記式(X1)で表される2価の基である。X2は、下記式(X2)で表される2価の基である。)
【化2】
(式中、R11及びR12は、それぞれ独立に、水素原子又はメチル基である。
13は、炭素数1~8のヒドロカルビレン基であり、その炭素-炭素結合間にエステル結合又はエーテル結合が介在していてもよい。n1及びn2は、それぞれ独立に、0~7の整数である。破線は、結合手である。)
【化3】
(式中、R21及びR22は、それぞれ独立に、水素原子又はヘテロ原子を含んでいてもよい炭素数1~20の飽和ヒドロカルビル基である。mは、0又は1~10の整数である。破線は、結合手である。)
4.aが、0<a≦0.35である3のポリマー。
5.1~4のいずれかのポリマーから得られる樹脂皮膜。
6.前記ポリマーからなる膜厚10μmの膜の波長405nmの光の透過率が、95%以上である5の樹脂皮膜。
7.支持フィルムと、該支持フィルム上に5の樹脂皮膜と、該樹脂皮膜上に保護フィルムとを備える保護フィルム付きドライフィルム。
【発明の効果】
【0009】
本発明のポリマーは、高透明性及び高耐光性を有し、保護フィルム付きのドライフィルム化が可能である。
【0010】
[ポリマー]
本発明のポリマーは、主鎖がシルフェニレン骨格、エポキシ基含有イソシアヌル酸骨格及びノルボルネン骨格を含み、シロキサン骨格を含まないポリマーである。
【0011】
このようなポリマーとしては、下記式(A1)で表される繰り返し単位(以下、繰り返し単位A1ともいう。)及び下記式(A2)で表される繰り返し単位(以下、繰り返し単位A2ともいう。)を含むものが好ましい。
【化4】
【0012】
式(A1)及び(A2)中、a及びbは、0<a<1、0<b<1及びa+b=1を満たす正数であるが、好ましくはaが、0<a≦0.35である。aがこの範囲内にあれば、汎用的な有機溶剤への溶解性に優れ、ハンドリングがしやすくなる。
【0013】
式(A1)中、X1は、下記式(X1)で表される2価の基である。
【化5】
(破線は、結合手である。)
【0014】
式(X1)中、R11及びR12は、それぞれ独立に、水素原子又はメチル基であるが、好ましくは水素原子である。
【0015】
式(X1)中、R13は、炭素数1~8のヒドロカルビレン基であり、その炭素-炭素結合間にエステル結合又はエーテル結合が介在していてもよいが、炭素-炭素結合間にエステル結合又はエーテル結合が介在していない方が好ましい。前記ヒドロカルビレン基は、直鎖状、分岐状、環状のいずれでもよく、その具体例としては、メチレン基、エタン-1,1-ジイル基、エタン-1,2-ジイル基、プロパン-1,2-ジイル基、プロパン-1,3-ジイル基、ブタン-1,2-ジイル基、ブタン-1,3-ジイル基、ブタン-1,4-ジイル基等のアルカンジイル基等が挙げられる。これらのうち、R13としては、メチレン基又はエチレン基が好ましく、メチレン基がより好ましい。
【0016】
式(X1)中、n1及びn2は、それぞれ独立に、0~7であるが、好ましくは0、1又は2である
【0017】
式(A2)中、X2は、下記式(X2)で表される2価の基である。
【化6】
(破線は、結合手である。)
【0018】
式(X2)中、R21及びR22は、それぞれ独立に、水素原子又はヘテロ原子を含んでいてもよい炭素数1~20の飽和ヒドロカルビル基である。前記飽和ヒドロカルビル基は、直鎖状、分岐状、環状のいずれでもよく、その具体例としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基、n-ヘキシル基、n-へプチル基、n-オクチル基、n-ノニル基、n-デシル基等の炭素数1~20のアルキル基;シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、ノルボルニル基、アダマンチル基等の炭素数3~20の環式飽和ヒドロカルビル基が挙げられる。また、前記飽和ヒドロカルビル基にはヘテロ原子が含まれていてもよく、具体的には、前記飽和ヒドロカルビル基の水素原子の一部又は全部が、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等のハロゲン原子等で置換されていてもよく、その炭素-炭素原子間に、カルボニル基、エーテル結合、チオエーテル結合等が介在していてもよい。R21及びR22としては、水素原子又はメチル基が好ましい。
【0019】
式(X2)中、mは、0~10の整数であるが、0、1又は2が好ましい。
【0020】
本発明のポリマーは、その重量平均分子量(Mw)が3,000~100,000が好ましく、5,000~50,000がより好ましい。Mwが前記範囲であれば、タック感のない固形かつ柔軟性に優れたポリマーを得ることができ、また保護フィルム付きのドライフィルム化も可能である。なお、本発明においてMwは、テトラヒドロフランを溶出溶剤として用いたゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によるポリスチレン換算測定値である。
【0021】
本発明のポリマーは、繰り返し単位A1及びA2がランダムに結合したものでも交互に結合したものでもよく、各単位のブロックを複数含むものであってもよい。
【0022】
[ポリマーの製造方法]
前記ポリマーは、下記式(1)で表される化合物、下記式(2)で表される化合物及び下記式(3)で表される化合物を、金属触媒存在下、付加重合させることにより製造することができる。
【化7】
【0023】
【化8】
(式中、R11~R13、n1及びn2は、前記と同じ。)
【0024】
【化9】
(式中、R21、R22及びmは、前記と同じ。)
【0025】
前記金属触媒としては、白金(白金黒を含む)、ロジウム、パラジウム等の白金族金属単体;H2PtCl4・xH2O、H2PtCl6・xH2O、NaHPtCl6・xH2O、KHPtCl6・xH2O、Na2PtCl6・xH2O、K2PtCl4・xH2O、PtCl4・xH2O、PtCl2、Na2HPtCl4・xH2O(ここで、xは、0~6の整数が好ましく、特に0又は6が好ましい。)等の塩化白金、塩化白金酸及び塩化白金酸塩;アルコール変性塩化白金酸(例えば、米国特許第3,220,972号明細書に記載のもの);塩化白金酸とオレフィンとの錯体(例えば、米国特許第3,159,601号明細書、米国特許第3,159,662号明細書、及び米国特許第3,775,452号明細書に記載のもの);白金黒やパラジウム等の白金族金属をアルミナ、シリカ、カーボン等の担体に担持させたもの;ロジウム-オレフィン錯体;クロロトリス(トリフェニルホスフィン)ロジウム(いわゆるウィルキンソン触媒);塩化白金、塩化白金酸又は塩化白金酸塩とビニル基含有シロキサン(特に、ビニル基含有環状シロキサン)との錯体等を使用することができる。
【0026】
触媒の使用量は触媒量であり、通常、白金族金属として式(1)で表される化合物、式(2)で表される化合物及び式(3)で表される化合物の合計に対し、0.001~0.1質量%であることが好ましい。前記重合反応においては、必要に応じて溶剤を使用してもよい。溶剤としては、例えばトルエン、キシレン等の炭化水素系溶剤が好ましい。前記重合条件として、触媒が失活せず、かつ短時間で重合の完結が可能という観点から、重合温度は、例えば40~150℃、特に60~120℃が好ましい。重合時間は、重合物の種類及び量にもよるが、重合系中に湿気の介入を防ぐため、およそ0.5~100時間、特に0.5~30時間で終了するのが好ましい。このようにして重合反応を終了後、溶剤を使用した場合はこれを留去することにより、前記ポリマーを得ることができる。
【0027】
反応方法は、特に限定されないが、まず式(2)で表される化合物及び式(3)で表される化合物を混合して加熱した後、前記混合溶液に金属触媒を添加し、次いで式(1)で表される化合物を0.1~5時間かけて滴下するのがよい。
【0028】
各原料化合物は、式(2)で表される化合物及び式(3)で表される化合物で表される化合物が有するアルケニル基の合計に対し、式(1)で表される化合物が有するヒドロシリル基が、モル比で、好ましくは0.67~1.67、より好ましくは0.83~1.25となるように配合するのがよい。本発明のポリマーのMwは、o-アリルフェノールのようなモノアリル化合物、又はトリエチルヒドロシランのようなモノヒドロシランやモノヒドロシロキサンを分子量調整剤として使用することにより制御することが可能である。
【0029】
[樹脂皮膜]
本発明のポリマーは、溶剤に溶解して樹脂溶液とし、これをシリコン、ガラス、鉄、銅、ニッケル、アルミニウム等の金属や、ガラス等の基材からなる基板上に塗布し、その後、80~300℃の範囲の温度条件で加熱し、成膜することで樹脂皮膜を与える。塗布方法としては、公知の方法でよく、ディップ法、スピンコート法、ロールコート法等が挙げられる。前記樹脂溶液中のポリマー濃度は、10~70質量%が好ましく、20~60質量%がより好ましい。前記樹脂溶液の塗布量は、目的に応じて適宜選択することができるが、得られる樹脂皮膜の膜厚が好ましくは0.1~200μm、より好ましくは1~150μmとなるように塗布することが好ましい。また、得られた樹脂皮膜は、膜厚10μmにおける波長405nmの光の透過率が95%以上と高い透明性を有していることがよく、この樹脂皮膜に高温下で光を当て続けてもオイルブリード等の問題が発生しない。
【0030】
前記溶剤としては、溶解可能な溶剤であれば特に限定されないが、シクロヘキサノン、シクロペンタノン、メチル-2-n-ペンチルケトン等のケトン類;3-メトキシブタノール、3-メチル-3-メトキシブタノール、1-メトキシ-2-プロパノール、1-エトキシ-2-プロパノール等のアルコール類;プロピレングリコールモノメチルエーテル(PGME)、エチレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル等のエーテル類;プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMEA)、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、乳酸エチル、ピルビン酸エチル、酢酸ブチル、3-メトキシプロピオン酸メチル、3-エトキシプロピオン酸エチル、酢酸tert-ブチル、プロピオン酸tert-ブチル、プロピレングリコールモノ-tert-ブチルエーテルアセテート、γ-ブチロラクトン等のエステル類等が挙げられる。特に、乳酸エチル、シクロヘキサノン、シクロペンタノン、PGMEA、γ-ブチロラクトン等が好ましい。これらの有機溶剤は、1種単独で使用してもよく、2種以上を混合して使用してもよい。
【0031】
[ドライフィルム]
本発明の保護フィルム付きドライフィルムは、支持フィルムと、該支持フィルム上に前記樹脂皮膜と、更にその上に保護フィルムとを備えるものである。
【0032】
前記樹脂皮膜は溶剤を含まないため、その揮発による気泡が前記樹脂皮膜の内部及び凹凸のある基板との間に残留するおそれがない。
【0033】
前記樹脂皮膜の膜厚は、凹凸のある基板上での平坦性、段差被覆性及び基板積層間隔の観点から、5~200μmが好ましく、10~100μmがより好ましい。
【0034】
また、前記樹脂皮膜の粘度と流動性とは密接に関係しており、前記樹脂皮膜は、適切な粘度範囲において適切な流動性を発揮でき、狭い隙間の奥まで入っていったり、樹脂が軟化することにより基板との接着性を強くしたりすることができる。したがって、前記樹脂皮膜の粘度は、その流動性の観点から、80~120℃において、好ましくは10~5,000Pa・s、より好ましくは30~2,000Pa・s、更に好ましくは50~300Pa・sである。なお、本発明において粘度は、回転粘度計による測定値である。
【0035】
本発明のドライフィルムは、凹凸のある基板に密着させる際に、樹脂皮膜が前記凹凸に追随して被覆され、高い平坦性を達成できる。特に、前記樹脂皮膜は、低い粘弾性が特徴であるため、より高い平坦性を達成できる。更に、前記樹脂皮膜を真空環境下で前記基板に密着させると、それらの隙間の発生をより効果的に防止できる。
【0036】
本発明のドライフィルムは、前記樹脂溶液を支持フィルム上に塗布し、乾燥させて樹脂皮膜を形成することによって製造することができる。前記ドライフィルムの製造装置としては、一般的に粘着剤製品を製造するためのフィルムコーターが使用できる。前記フィルムコーターとしては、例えば、コンマコーター、コンマリバースコーター、マルチコーター、ダイコーター、リップコーター、リップリバースコーター、ダイレクトグラビアコーター、オフセットグラビアコーター、3本ボトムリバースコーター、4本ボトムリバースコーター等が挙げられる。
【0037】
支持フィルムを前記フィルムコーターの巻出軸から巻き出し、前記フィルムコーターのコーターヘッドを通過させるとき、前記支持フィルム上に前記樹脂溶液を所定の厚みで塗布した後、所定の温度及び時間で熱風循環オーブンを通過させ、前記支持フィルム上で乾燥させて樹脂皮膜とすることで、ドライフィルムを製造することができる。また、ドライフィルムを前記フィルムコーターの別の巻出軸から巻き出された保護フィルムとともに、所定の圧力でラミネートロールを通過させて前記支持フィルム上の前記樹脂皮膜と保護フィルムとを貼り合わせた後、前記フィルムコーターの巻取軸に巻き取ることによって、保護フィルム付きドライフィルムを製造することができる。この場合、前記温度としては25~150℃が好ましく、前記時間としては1~100分間が好ましく、前記圧力としては0.01~5MPaが好ましい。
【0038】
前記支持フィルムは、単一のフィルムからなる単層フィルムであっても、複数のフィルムを積層した多層フィルムであってもよい。前記フィルムの材質としてはポリエチレン、ポリプロピレン、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート等の合成樹脂フィルムが挙げられる。これらのうち、適度な可とう性、機械的強度及び耐熱性を有する点から、ポリエチレンテレフタレートが好ましい。これらのフィルムは、コロナ処理や剥離剤塗布等の各種処理が行われたものでもよい。これらは市販品を使用することができ、例えばセラピールWZ(RX)、セラピールBX8(R)(以上、東レフィルム加工(株)製)、E7302、E7304(以上、東洋紡(株)製)、ピューレックスG31、ピューレックスG71T1(以上、帝人デュポンフィルム(株)製)、PET38×1-A3、PET38×1-V8、PET38×1-X08(以上、ニッパ(株)製)等が挙げられる。
【0039】
前記保護フィルムとしては、前述した支持フィルムと同様のものを用いることができるが、適度な可とう性を有する点から、ポリエチレンテレフタレート及びポリエチレンが好ましい。これらは市販品を使用することができ、ポリエチレンテレフタレートとしてはすでに例示したもの、ポリエチレンとしては、例えばGF-8(タマポリ(株)製)、PEフィルム0タイプ(ニッパ(株)製)等が挙げられる。
【0040】
前記支持フィルム及び保護フィルムの厚みは、ドライフィルム製造の安定性、及び巻き芯に対する巻き癖、所謂カール防止の観点から、いずれも好ましくは10~100μm、より好ましくは25~50μmである。
【0041】
本発明のドライフィルムを用いた平坦もしくは凹凸のある基板への積層方法は、特に限定されないが、例えば、ドライフィルム上に貼られた保護フィルムを剥がし、(株)タカトリ製の真空ラミネーター(製品名:TEAM-300)を用いて、真空チャンバー内を真空度50~1,000Pa、好ましくは50~500Pa、例えば100Paに設定し、80~300℃で支持フィルムが貼られた樹脂フィルムを前記基板に一括して密着させ、常圧に戻した後、前記基板を室温まで冷却して前記真空ラミネーターから取り出し、支持フィルムを剥離する方法が挙げられる。
【実施例
【0042】
以下、実施例及び比較例を示して本発明を更に説明するが、本発明は下記実施例に限定されない。なお、下記例において、Mwは、GPCカラムとしてTSKGEL Super HZM-H(東ソー(株)製)を用い、流量0.6mL/分、溶出溶剤テトラヒドロフラン、カラム温度40℃の分析条件で、単分散ポリスチレンを標準とするGPCにより測定した。
【0043】
ポリマーの合成に使用した化合物を以下に示す。
【化10】
【0044】
【化11】
【0045】
【化12】
【0046】
[実施例1]ポリマーP-1の合成
攪拌機、温度計、窒素置換装置及び還流冷却器を具備した10Lフラスコに、化合物(S-4)92.8g(0.35モル)及び化合物(S-3b)105.3g(0.65モル)を加えた後、トルエン2,000gを加え、70℃に加熱した。その後、塩化白金酸トルエン溶液(白金濃度0.5質量%)1.0gを投入し、化合物(S-1)194.0g(1.00モル)を1時間かけて滴下した(ヒドロシリル基の合計/炭素-炭素二重結合の合計=1/1(モル比))。滴下終了後、100℃まで加熱して2時間熟成した後、反応溶液からトルエンを減圧留去して、ポリマーP-1を得た。なお、ポリマーP-1は、1H-NMR(Bruker社製)により、SiH基の存在を示す4.5ppm付近のピークが検出されず、また、FT-IR(島津製作所製)により、SiH基の存在を示す2200cm-1付近のピークが検出されず、また、GPC測定によりMwは、4,000であったことから、繰り返し単位A1及びA2を含むポリマーであることを確認した。
【0047】
[実施例2]ポリマーP-2の合成
攪拌機、温度計、窒素置換装置及び還流冷却器を具備した10Lフラスコに、化合物(S-4)53.0g(0.20モル)及び化合物(S-3a)96.8g(0.80モル)を加えた後、トルエン2,000gを加え、70℃に加熱した。その後、塩化白金酸トルエン溶液(白金濃度0.5質量%)1.5gを投入し、化合物(S-1)194.0g(1.00モル)を1時間かけて滴下した(ヒドロシリル基の合計/炭素-炭素二重結合の合計=1/1(モル比))。滴下終了後、100℃まで加熱して8時間熟成した後、反応溶液からトルエンを減圧留去して、ポリマーP-2を得た。なお、ポリマーP-2は、1H-NMR(Bruker社製)により、SiH基の存在を示す4.5ppm付近のピークが検出されず、また、FT-IR(島津製作所製)により、SiH基の存在を示す2200cm-1付近のピークが検出されず、また、GPC測定によりMwは、41,000であったことから、繰り返し単位A1及びA2を含むポリマーであることを確認した。
【0048】
[実施例3]ポリマーP-3の合成
攪拌機、温度計、窒素置換装置及び還流冷却器を具備した10Lフラスコに、化合物(S-4)13.3g(0.05モル)及び化合物(S-3a)115.0g(0.95モル)を加えた後、トルエン2,000gを加え、70℃に加熱した。その後、塩化白金酸トルエン溶液(白金濃度0.5質量%)2.0gを投入し、化合物(S-1)194.0g (1 .00モル)を1時間かけて滴下した(ヒドロシリル基の合計/炭素-炭素二重結合の合計=1/1(モル比))。滴下終了後、100℃まで加熱して20時間熟成した後、反応溶液からトルエンを減圧留去して、ポリマーP-3を得た。なお、ポリマーP-3は、1H-NMR(Bruker社製)により、SiH基の存在を示す4.5ppm付近のピークが検出されず、また、FT-IR(島津製作所製)により、SiH基の存在を示す2200cm-1付近のピークが検出されず、また、GPC測定によりMwは、83,000であったことから、繰り返し単位A1及びA2を含むポリマーであることを確認した。
【0049】
[比較例1]比較ポリマーCP-1の合成
攪拌機、温度計、窒素置換装置及び還流冷却器を具備した10Lフラスコに、化合物(S-4)26.5g(0.10モル)及び化合物(S-3a)108.9g(0.90モル)を加えた後、トルエン2,000gを加え、70℃に加熱した。その後、塩化白金酸トルエン溶液(白金濃度0.5質量%)1.0gを投入し、化合物(S-1)184.3g(0.95モル)及び化合物(S-2b)9.3g(0.05モル)を1時間かけて滴下した(ヒドロシリル基の合計/炭素-炭素二重結合の合計=1/1(モル比))。滴下終了後、100℃まで加熱して6時間熟成した後、反応溶液からトルエンを減圧留去して、比較ポリマーCP-1を得た(シロキサン単位含有率19.9質量%)。比較ポリマーCP-1のMwは、15,000であった。
【0050】
[比較例2]比較ポリマーCP-2の合成
攪拌機、温度計、窒素置換装置及び還流冷却器を具備した10Lフラスコに、化合物(S-4)238.5g(0.90モル)及び化合物(S-3b)16.2g(0.10モル)を加えた後、トルエン2,000gを加え、70℃に加熱した。その後、塩化白金酸トルエン溶液(白金濃度0.5質量%)1.0gを投入し、化合物(S-1)184.3g(0.95モル)及び化合物(S-2b)79.3g(0.05モル)を1時間かけて滴下した(ヒドロシリル基の合計/炭素-炭素二重結合の合計=1/1(モル比))。滴下終了後、100℃まで加熱して6時間熟成した後、反応溶液からトルエンを減圧留去して、比較ポリマーCP-2を得た(シロキサン単位含有率15.3質量%)。比較ポリマーCP-2のMwは、7,000であった。
【0051】
[比較例3]比較ポリマーCP-3の合成
攪拌機、温度計、窒素置換装置及び還流冷却器を具備した10Lフラスコに、化合物(S-4)79.5g(0.30モル)及び化合物(S-3c)377.3g(0.70モル)を加えた後、トルエン2,000gを加え、70℃に加熱した。その後、塩化白金酸トルエン溶液(白金濃度0.5質量%)1.0gを投入し、化合物(S-1)174.6g(0.90モル)及び化合物(S-2b)158.5g(0.10モル)を1時間かけて滴下した(ヒドロシリル基の合計/アルケニル基の合計=1/1(モル比))。滴下終了後、100℃まで加熱して6時間熟成した後、反応溶液からトルエンを減圧留去して、比較ポリマーCP-3を得た(シロキサン単位含有率20.1質量%)。比較ポリマーCP-3のMwは、83,000であった。
【0052】
[比較例4]比較ポリマーCP-4の合成
攪拌機、温度計、窒素置換装置及び還流冷却器を具備した10Lフラスコに、化合物(S-4)132.5g(0.50モル)及び化合物(S-3d)409.0g(0.50モル)を加えた後、トルエン2,000gを加え、70℃に加熱した。その後、塩化白金酸トルエン溶液(白金濃度0.5質量%)1.0gを投入し、化合物(S-1)174.6g(0.90モル)及び化合物(S-2a)302.0g(0.10モル)を1時間かけて滴下した(ヒドロシリル基の合計/アルケニル基の合計=1/1(モル比))。滴下終了後、100℃まで加熱して6時間熟成した後、反応溶液からトルエンを減圧留去して、比較ポリマーCP-4を得た(シロキサン単位含有率29.7質量%)。比較ポリマーCP-4のMwは、103,000であった。
【0053】
[光透過性試験]
ポリマーP-1~P-3及び比較ポリマーCP-1~CP-4をそれぞれシクロペンタノンに濃度が50質量%になるように溶解し、樹脂溶液を調製した。各樹脂溶液を、それぞれガラス基板上に塗布し、100℃で5分間、更に窒素雰囲気下、190℃で2時間加熱し、樹脂皮膜(厚さ10μm)を作製した。波長400nmの光の透過率を測定した。結果を表1に示す。
【0054】
【表1】
【0055】
[耐光性試験]
前記方法で得られたガラスウエハー上の皮膜からなるサンプルに100℃のオーブン中で、400nm、1Wのレーザーを1,000時間当て続けて、サンプル表面の状態を確認した。このときオイルブリードが発生していたものを×、初期と比べて変化のなかったものを○とし、結果を表2に示す。
【0056】
【表2】
【0057】
[保護フィルム付きドライフィルムの作製]
フィルムコーターとしてダイコーター、支持フィルムとしてポリエチレンテレフタレートフィルム(厚さ38μm)を用いて、ポリマーP-1~P-3及び比較ポリマーCP-1~CP-4をそれぞれシクロペンタノンに濃度が55質量%になるように溶解したものをそれぞれ前記支持フィルム上に塗布した。次いで、100℃に設定された熱風循環オーブン(長さ4m)を5分間で通過させることによって乾燥し、支持フィルム上に樹脂皮膜を形成し、ドライフィルムを得た。前記樹脂皮膜の上から、保護フィルムとしてのポリエチレンフィルム(厚さ50μm)をラミネートロールで圧力1MPaにて貼り合わせ、前記樹脂皮膜と保護フィルムとを貼り合わせた後、前記フィルムコーターの巻取軸に巻き取ることによって、保護フィルム付きドライフィルムを製造した。このとき各樹脂皮膜の膜厚は100μmになるようにした。
巻き取り軸から取り出したそれぞれの保護フィルム付きドライフィルムを確認し、樹脂皮膜にすでにクラックが発生してしまっているものや、保護フィルムを剥がす際に保護フィルム側に樹脂皮膜が粘着してしまい支持フィルムから樹脂皮膜が剥がれてしまったもの、保護フィルムを剥がす際にクラックが発生してしまったものは基板等に貼り付けることができないため、保護フィルム付きドライフィルム化困難と判断し×と表記し、異常が発生しなかったものは良好な保護フィルム付きドライフィルム作製可能と判断し○と表記し、結果を表3に示す。
【0058】
【表3】
【0059】
以上の結果より、本発明によれば、ポリマーP-1~P-3のような主鎖がシルフェニレン骨格、エポキシ基含有イソシアヌル酸骨格及びノルボルネン骨格からなるポリマーを合成でき、提供が可能となる。また、前記ポリマーから得られる樹脂皮膜は、高透明性、オイルブリード等が起こらない高耐光性の皮膜である。さらに、その樹脂皮膜を用いることで、良好な保護フィルム付きのドライフィルムの提供も可能である。