IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日本ゼオン株式会社の特許一覧

特許7632305繊維状炭素ナノ構造体、および表面改質繊維状炭素ナノ構造体の製造方法
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-10
(45)【発行日】2025-02-19
(54)【発明の名称】繊維状炭素ナノ構造体、および表面改質繊維状炭素ナノ構造体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 32/159 20170101AFI20250212BHJP
   B82Y 30/00 20110101ALI20250212BHJP
   B82Y 40/00 20110101ALI20250212BHJP
   C01B 32/174 20170101ALI20250212BHJP
   G01N 21/65 20060101ALN20250212BHJP
   G01N 24/10 20060101ALN20250212BHJP
【FI】
C01B32/159
B82Y30/00
B82Y40/00
C01B32/174
G01N21/65
G01N24/10 510S
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2021567315
(86)(22)【出願日】2020-12-15
(86)【国際出願番号】 JP2020046810
(87)【国際公開番号】W WO2021131920
(87)【国際公開日】2021-07-01
【審査請求日】2023-11-22
(31)【優先権主張番号】P 2019239801
(32)【優先日】2019-12-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000229117
【氏名又は名称】日本ゼオン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100150360
【弁理士】
【氏名又は名称】寺嶋 勇太
(74)【代理人】
【識別番号】100209679
【弁理士】
【氏名又は名称】廣 昇
(72)【発明者】
【氏名】川上 修
【審査官】佐藤 慶明
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/103706(WO,A1)
【文献】特開2016-183395(JP,A)
【文献】特開2004-143652(JP,A)
【文献】特開2003-013330(JP,A)
【文献】特開2008-248219(JP,A)
【文献】国際公開第2014/132957(WO,A1)
【文献】特表2009-515813(JP,A)
【文献】RICE, W. D.,Enhancement of the Electron Spin Resonance of Single-Walled Carbon Nanotubes by Oxygen Removal,ACS Nano,2012年02月12日,Vol.6,pp.2165-2173,DOI: 10.1021/nn204094s
【文献】山口陽司 ほか,ESRによる炭素材料の評価,The TRC News,2016年07月,201607-03,pp.1-4
【文献】山科智貴,グラフェン誘導体における化学反応性の磁気的評価,法政大学大学院紀要.理工学・工学研究科編,2016年03月24日,Vol.57,pp.1-2,DOI: 10.15002/00013669
【文献】田中一義,カーボンナノチューブ-ナノデバイスへの挑戦,2001年01月30日,p.37-38, 46,ISBN: 4-7598-0732-2
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B82Y 30/00
B82Y 40/00
C01B 32/158
C01B 32/159
C01B 32/166
C01B 32/174
G01N 21/65
G01N 24/10
JSTPlus/JST7580/JSTChina(JDreamIII)
CAplus(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
温度10Kにおける電子スピン共鳴測定で得られる局在電子量が5.6×10 18 個/g以上であり、
吸着等温線から得られるt-プロットが上に凸な形状を示す、繊維状炭素ナノ構造体。
【請求項2】
温度10Kにおける電子スピン共鳴測定で得られる局在電子量が5.6×10 18 個/g以上であり、
ラマンスペクトルにおけるDバンドピーク強度に対するGバンドピーク強度の比(G/D比)が0.5以上5.0以下である、繊維状炭素ナノ構造体。
【請求項3】
前記局在電子量が1.0×1019個/g未満である、請求項1または2に記載の繊維状炭素ナノ構造体。
【請求項4】
カーボンナノチューブを含む、請求項1~のいずれかに記載の繊維状炭素ナノ構造体。
【請求項5】
前記カーボンナノチューブが単層カーボンナノチューブを含む、請求項に記載の繊維状炭素ナノ構造体。
【請求項6】
請求項1~のいずれかに記載の繊維状炭素ナノ構造体に対して表面改質処理を施し、表面改質繊維状炭素ナノ構造体を得る工程を含む、表面改質繊維状炭素ナノ構造体の製造方法。
【請求項7】
前記表面改質処理が湿式酸化処理である、請求項に記載の表面改質繊維状炭素ナノ構造体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維状炭素ナノ構造体、および表面改質繊維状炭素ナノ構造体の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、導電性、熱伝導性および機械的特性に優れる材料として、カーボンナノチューブ(以下、「CNT」と称することがある。)などの繊維状の炭素ナノ構造体が注目されている。
【0003】
しかしながら、CNTなどの繊維状炭素ナノ構造体は、ファンデルワールス力等によりバンドル構造体を形成し易く、溶媒中で分散させ難いため、例えば、導電性等の特性を十分に発揮できない場合があった。
【0004】
そこで、CNTなどの繊維状炭素ナノ構造体に対して、種々の表面改質処理を施すことにより、分散性が改善された表面改質繊維状炭素ナノ構造体を得る技術の開発が盛んに行われている。
【0005】
例えば、特許文献1には、ラマン分光分析におけるGバンドとDバンドとの強度比(G/D比)が50以上であるCNTに対して、表面改質処理として液相酸化処理を行うことにより、当該CNTの溶媒への分散性を高める技術が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】国際公開第2018/043487号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、本発明者が検討したところ、上記従来技術の表面改質処理で用いられる繊維状炭素ナノ構造体は、表面改質処理後の分散性に改善の余地があった。
【0008】
そこで、本発明は、表面改質処理後の分散性に優れた繊維状炭素ナノ構造体を提供することを目的とする。
また、本発明は、分散性に優れた表面改質繊維状炭素ナノ構造体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記目的を達成するために鋭意検討を行った。そして、本発明者は、温度10Kにおける電子スピン共鳴測定で得られる局在電子量が所定値以上である繊維状炭素ナノ構造体が表面改質処理後に優れた分散性を発揮することを見出し、本発明を完成させた。
【0010】
即ち、この発明は、上記課題を有利に解決することを目的とするものであり、本発明の繊維状炭素ナノ構造体は、温度10Kにおける電子スピン共鳴測定で得られる局在電子量が1.0×1017個/g以上であることを特徴とする。このように、温度10Kにおける電子スピン共鳴測定で得られる局在電子量が所定値以上である繊維状炭素ナノ構造体は、表面改質処理後の分散性に優れている。
なお、本発明において、繊維状炭素ナノ構造体の温度10Kにおける電子スピン共鳴測定で得られる局在電子量は、本明細書の実施例に記載の方法により測定することができる。
【0011】
ここで、本発明の繊維状炭素ナノ構造体は、ラマンスペクトルにおけるDバンドピーク強度に対するGバンドピーク強度の比(G/D比)が0.5以上5.0以下であることが好ましい。G/D比を上記所定範囲内とすれば、繊維状炭素ナノ構造体の表面改質処理後の分散性を更に高めることができる。これにより、繊維状炭素ナノ構造体は表面改質処理後において特に優れた特性(例えば、導電性、熱伝導性、および強度などを指す。以下、単に「特性」と称することがある。)を発揮することができる。
なお、本発明において、ラマンスペクトルにおけるDバンドピーク強度に対するGバンドピーク強度の比(G/D比)は、本明細書の実施例に記載の方法により測定することができる。
【0012】
また、本発明の繊維状炭素ナノ構造体は、前記局在電子量が1.0×1019個/g未満であることが好ましい。局在電子量が上記所定値未満であれば、繊維状炭素ナノ構造体に対して表面改質処理を施した際に、表面改質処理後の繊維状炭素ナノ構造体が消失することを抑え、表面改質繊維状炭素ナノ構造体を効率良く得ることができる。
【0013】
さらに、本発明の繊維状炭素ナノ構造体は、吸着等温線から得られるt-プロットが上に凸な形状を示すことが好ましい。吸着等温線から得られるt-プロットが上に凸な形状を示していれば、繊維状炭素ナノ構造体は、表面改質処理により分散性を高めた際に、特に優れた特性を発揮することができる。
【0014】
また、本発明の繊維状炭素ナノ構造体は、カーボンナノチューブを含むことが好ましい。繊維状炭素ナノ構造体がカーボンナノチューブを含んでいれば、表面改質処理により分散性を高めた際に、優れた特性を発揮することができる。
【0015】
さらに、本発明の繊維状炭素ナノ構造体は、前記カーボンナノチューブが単層カーボンナノチューブを含むことが好ましい。繊維状炭素ナノ構造体が、カーボンナノチューブとして単層カーボンナノチューブを含んでいれば、表面改質処理により分散性を高めた際に、特に優れた特性を発揮することができる。
【0016】
また、この発明は、上記課題を有利に解決することを目的とするものであり、本発明の表面改質繊維状炭素ナノ構造体の製造方法は、上述したいずれかの繊維状炭素ナノ構造体に対して表面改質処理を施し、表面改質繊維状炭素ナノ構造体を得る工程を含むことを特徴とする。本発明の表面改質繊維状炭素ナノ構造体の製造方法によれば、分散性に優れた表面改質繊維状炭素ナノ構造体を製造することができる。
【0017】
そして、本発明の表面改質繊維状炭素ナノ構造体の製造方法は、前記表面改質処理が湿式酸化処理であることが好ましい。表面改質処理として湿式酸化処理を用いれば、製造される表面改質繊維状炭素ナノ構造体の分散性を更に高めることができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、表面改質処理後の分散性に優れた繊維状炭素ナノ構造体を提供することができる。
また、本発明によれば、分散性に優れた表面改質繊維状炭素ナノ構造体を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
【0020】
(繊維状炭素ナノ構造体)
本発明の繊維状炭素ナノ構造体は、温度10Kにおける電子スピン共鳴測定で得られる局在電子量が所定値以上であることを特徴とする。本発明の繊維状炭素ナノ構造体は、上記局在電子量が所定値以上であるため、表面改質処理後の分散性に優れている。よって、本発明の繊維状炭素ナノ構造体に対して表面改質処理を施して得られる表面改質繊維状炭素ナノ構造体は、水などの溶媒中で優れた分散性を発揮することができる。したがって、得られた表面改質繊維状炭素ナノ構造体の分散液を用いて各種成形品(例えば、帯電防止膜や導電膜などの膜)を形成した場合、当該成形品中における凝集塊の量を低減することができる。よって、形成された表面改質繊維状炭素ナノ構造体からなる成形品は、導電性、熱導電性および強度などの特性に優れている。即ち、本発明の繊維状炭素ナノ構造体に対して表面改質処理を施して得られる表面改質炭素ナノ構造体は、上述した特性に優れるといえる。
【0021】
ここで、繊維状炭素ナノ構造体としては、特に限定されることなく、例えば、CNT等の円筒形状の炭素ナノ構造体や、炭素の六員環ネットワークが扁平筒状に形成されてなる炭素ナノ構造体等の非円筒形状の炭素ナノ構造体が挙げられる。なお、本発明の繊維状炭素ナノ構造体は、上述した炭素ナノ構造体を1種単独で含んでいてもよいし、2種以上含んでいてもよい。
【0022】
そして、繊維状炭素ナノ構造体は、CNTを含むことが好ましい。CNTは、表面改質処理により分散性を高めた際に優れた特性(例えば、導電性、熱伝導性、および強度など)を発揮し得るからである。なお、CNTを含む繊維状炭素ナノ構造体は、CNTのみからなるものであってもよいし、CNTと、CNT以外の繊維状炭素ナノ構造体との混合物であってもよい。
【0023】
CNTとしては、特に限定されることなく、単層カーボンナノチューブおよび/または多層カーボンナノチューブを用いることができる。また、CNTは、単層から5層までのカーボンナノチューブであることが好ましく、単層カーボンナノチューブであることがより好ましい。CNTは、その層数が少ないほど、表面改質処理により分散性を高めた際に特に優れた特性を発揮し得るからである。
【0024】
ここで、本発明の繊維状炭素ナノ構造体は、温度10Kにおける電子スピン共鳴測定で得られる局在電子量が、1.0×1017個/g以上であることが必要であり、3.0×1017個/g以上であることが好ましく、5.0×1017個/g以上であることがより好ましく、1.0×1018個/g以上であることが更に好ましく、5.6×1018個/g以上であることが一層好ましく、1.0×1019個/g未満であることが好ましく、8.0×1018個/g未満であることがより好ましい。温度10Kにおける電子スピン共鳴測定で得られる局在電子量が上記下限以上であることにより、繊維状炭素ナノ構造体の表面改質処理後の分散性を十分に高めることができる。一方、温度10Kにおける電子スピン共鳴測定で得られる局在電子量が上記上限以下であることにより、繊維状炭素ナノ構造体に対して表面改質処理を施した際に、表面改質処理後の繊維状炭素ナノ構造体が消失することを抑え、表面改質繊維状炭素ナノ構造体を効率良く得ることができる。
【0025】
なお、繊維状炭素ナノ構造体の温度10Kにおける電子スピン共鳴測定で得られる局在電子量は、繊維状炭素ナノ構造体の製造方法で使用する触媒基材における鉄薄膜(触媒層)の膜厚などによって調整することができる。
【0026】
繊維状炭素ナノ構造体の平均直径は、1nm以上であることが好ましく、60nm以下であることが好ましい。また、繊維状炭素ナノ構造体の平均直径は、2nm以上であってもよいし、3nm以上であってもよいし、30nm以下であってもよいし、10nm以下であってもよいし、5nm以下であってもよい。平均直径が上記所定の範囲内の繊維状炭素ナノ構造体は、表面改質処理によって分散性を高めた際に特に優れた特性を発揮し得る。
なお、「繊維状炭素ナノ構造体の平均直径」は、透過型電子顕微鏡(TEM)画像上で、例えば、20本の繊維状炭素ナノ構造体について直径(外径)を測定し、個数平均値を算出することで求めることができる。
【0027】
また、繊維状炭素ナノ構造体としては、平均直径(Av)に対する、直径の標準偏差(σ:標本標準偏差)に3を乗じた値(3σ)の比(3σ/Av)が0.20超0.80未満の繊維状炭素ナノ構造体を用いることが好ましく、3σ/Avが0.25超の繊維状炭素ナノ構造体を用いることがより好ましく、3σ/Avが0.50超の繊維状炭素ナノ構造体を用いることが更に好ましい。3σ/Avが0.20超0.80未満の繊維状炭素ナノ構造体は、表面改質処理により分散性を高めた際に特に優れた特性を発揮し得る。
なお、繊維状炭素ナノ構造体の平均直径(Av)および標準偏差(σ)は、繊維状炭素ナノ構造体の製造方法や製造条件を変更することにより調整してもよいし、異なる製法で得られた繊維状炭素ナノ構造体を複数種類組み合わせることにより調整してもよい。
【0028】
さらに、繊維状炭素ナノ構造体は、平均長さが、10μm以上であることが好ましく、50μm以上であることがより好ましく、80μm以上であることが更に好ましく、600μm以下であることが好ましく、550μm以下であることがより好ましく、500μm以下であることが更に好ましい。平均長さが上記所定範囲内の繊維状炭素ナノ構造体は、表面改質処理により分散性を高めた際に特に優れた特性を発揮し得る。
なお、本発明において、「繊維状炭素ナノ構造体の平均長さ」は、走査型電子顕微鏡(SEM)画像上で、例えば、20本の繊維状炭素ナノ構造体について長さを測定し、個数平均値を算出することで求めることができる。
【0029】
ここで、繊維状炭素ナノ構造体は、通常、アスペクト比が10超である。なお、繊維状炭素ナノ構造体のアスペクト比は、走査型電子顕微鏡または透過型電子顕微鏡を用いて、無作為に選択した繊維状炭素ナノ構造体20本の直径および長さを測定し、直径と長さとの比(長さ/直径)の平均値を算出することにより求めることができる。
【0030】
また、繊維状炭素ナノ構造体のBET比表面積は、600m/g以上であることが好ましく、800m/g以上であることがより好ましく、2000m/g以下であることが好ましく、1800m/g以下であることがより好ましく、1600m/g以下であることが更に好ましく、1100m/g以下や、1000m/g以下であってもよい。BET比表面積が600m/g以上である繊維状炭素ナノ構造体は、表面改質処理により分散性を高めた際に特に優れた特性を発揮し得る。また、BET比表面積が2000m/g以下である繊維状炭素ナノ構造体は、表面改質処理後に更に優れた分散性を発揮することができる。
【0031】
また、繊維状炭素ナノ構造体は、吸着等温線から得られるt-プロットが上に凸な形状を示すことが好ましい。t-プロットが上に凸な形状を示す繊維状炭素ナノ構造体は、表面改質処理により分散性を高めた際に特に優れた特性を発揮し得る。さらに、繊維状炭素ナノ構造体は、開口処理が施されておらず、t-プロットが上に凸な形状を示すことがより好ましい。
なお、「t-プロット」は、窒素ガス吸着法により測定された繊維状炭素ナノ構造体の吸着等温線において、相対圧を窒素ガス吸着層の平均厚みt(nm)に変換することにより得ることができる。即ち、窒素ガス吸着層の平均厚みtを相対圧P/P0に対してプロットした、既知の標準等温線から、相対圧に対応する窒素ガス吸着層の平均厚みtを求めて上記変換を行うことにより、繊維状炭素ナノ構造体のt-プロットが得られる(de Boerらによるt-プロット法)。
ここで、表面に細孔を有する物質では、窒素ガス吸着層の成長は、次の(1)~(3)の過程に分類される。そして、下記の(1)~(3)の過程によって、t-プロットの傾きに変化が生じる。
(1)全表面への窒素分子の単分子吸着層形成過程
(2)多分子吸着層形成とそれに伴う細孔内での毛管凝縮充填過程
(3)細孔が窒素によって満たされた見かけ上の非多孔性表面への多分子吸着層形成過程
【0032】
そして、上に凸な形状を示すt-プロットは、窒素ガス吸着層の平均厚みtが小さい領域では、原点を通る直線上にプロットが位置するのに対し、tが大きくなると、プロットが当該直線から下にずれた位置となる。かかるt-プロットの形状を有する繊維状炭素ナノ構造体は、繊維状炭素ナノ構造体の全比表面積に対する内部比表面積の割合が大きく、繊維状炭素ナノ構造体を構成する炭素ナノ構造体に多数の開口が形成されていることを示している。
【0033】
なお、繊維状炭素ナノ構造体のt-プロットの屈曲点は、0.2≦t(nm)≦1.5を満たす範囲にあることが好ましく、0.45≦t(nm)≦1.5の範囲にあることがより好ましく、0.55≦t(nm)≦1.0の範囲にあることが更に好ましい。t-プロットの屈曲点が上記所定範囲内にある繊維状炭素ナノ構造体は、表面改質処理により分散性を高めた際に特に優れた特性を発揮し得る。
【0034】
ここで、「屈曲点の位置」は、前述した(1)の過程の近似直線Aと、前述した(3)の過程の近似直線Bとの交点である。
【0035】
さらに、繊維状炭素ナノ構造体は、t-プロットから得られる全比表面積S1に対する内部比表面積S2の比(S2/S1)が0.05以上であることが好ましく、0.07以上であることがより好ましく、0.10以上であることが更に好ましく、0.30以下であることが好ましい。S2/S1の値が上記所定範囲内にある繊維状炭素ナノ構造体は、表面改質処理により分散性を高めた際に特に優れた特性を発揮し得る。
【0036】
ここで、繊維状炭素ナノ構造体の全比表面積S1および内部比表面積S2は、そのt-プロットから求めることができる。具体的には、まず、(1)の過程の近似直線の傾きから全比表面積S1を、(3)の過程の近似直線の傾きから外部比表面積S3を、それぞれ求めることができる。そして、全比表面積S1から外部比表面積S3を差し引くことにより、内部比表面積S2を算出することができる。
【0037】
因みに、繊維状炭素ナノ構造体の吸着等温線の測定、t-プロットの作成、および、t-プロットの解析に基づく全比表面積S1と内部比表面積S2との算出は、例えば、市販の測定装置である「BELSORP(登録商標)-mini」(日本ベル(株)製)を用いて行うことができる。
【0038】
さらに、繊維状炭素ナノ構造体として好適なCNTを含む繊維状炭素ナノ構造体は、ラマン分光法を用いて評価した際に、Radial Breathing Mode(RBM)のピークを有することが好ましい。なお、三層以上の多層カーボンナノチューブのみからなる繊維状炭素ナノ構造体のラマンスペクトルには、RBMが存在しない。
【0039】
また、繊維状炭素ナノ構造体は、ラマンスペクトルにおけるDバンドピーク強度に対するGバンドピーク強度の比(G/D比)が0.5以上5.0以下であることが好ましい。また、G/D比は、1.5以上、2.0以上、2.5以上、3.0以上であってもよく、また、4.5以下、4.0以下、3.4以下であってもよい。G/D比が0.5以上5.0以下である繊維状炭素ナノ構造体は、表面改質処理により分散性を高めた際に特に優れた特性を発揮し得る。
【0040】
そして、繊維状炭素ナノ構造体の炭素純度は、好ましくは98質量%以上、より好ましくは99質量%以上、さらに好ましくは99.9質量%以上である。
なお、「炭素純度」は、本明細書の実施例に記載の方法を用いて求めることができる。
【0041】
(繊維状炭素ナノ構造体の製造方法)
上述した本発明の繊維状炭素ナノ構造体は、例えば、触媒層を表面に有する基材(触媒基材)上に、原料化合物およびキャリアガスを供給して、CVD法により繊維状炭素ナノ構造体を合成する際に、系内に微量の酸化剤(触媒賦活物質)を存在させることで、触媒層の触媒活性を飛躍的に向上させるという方法(例えば、国際公開第2006/011655号参照)において、基材表面への触媒層の形成をウェットプロセスにより行い、原料化合物としてのエチレンを含む原料ガス(例えば、エチレンを10体積%超含むガス)を用いることにより、効率的に製造することができる。
【0042】
ここで、触媒基材上に、原料化合物およびキャリアガスを供給して、CVD法により繊維状炭素ナノ構造体を合成する合成工程の前に、触媒層の周囲環境(例えば、触媒層からの距離が5cm以下の範囲)を還元ガス環境とすると共に、触媒層および/または還元ガスを加熱するフォーメーション工程を任意に実施してもよい。フォーメーション工程の実施により、触媒層における触媒の還元、触媒の微粒子化(炭素構造体の成長に適合した状態化)の促進、および、触媒の活性向上のうち少なくとも一つの効果が得られる。
また、上記合成工程の後に、合成された繊維状炭素ナノ構造体および触媒層を不活性ガス下において冷却する冷却工程を任意に実施してもよい。冷却工程の実施により、繊維状炭素ナノ構造体や触媒層における触媒が酸化するのを防止することができる。
そして、フォーメーション工程および冷却工程は、例えば国際公開第2014/208097号や特開2011-219316号公報の記載等に従って行うことができる。
【0043】
上述の繊維状炭素ナノ構造体の製造方法で用いる触媒基材は、基材上に、例えば、触媒層と、触媒層を担持する触媒担持層とを有する。そして、触媒層は、鉄薄膜であることが好ましく、触媒担持層は、アルミニウム薄膜であることが好ましい。ここで、「鉄薄膜」は、金属鉄および/または鉄化合物を含む薄膜を指し、「アルミニウム薄膜」は、金属アルミニウムおよび/またはアルミニウム化合物を含む薄膜を指す。
【0044】
そして、上記触媒層を備える触媒基材の製造において、ウェットプロセスによる基材表面への触媒層の形成は、例えば、アルミニウム化合物を含む塗工液Aを基材上に塗布した後、塗工液Aの塗膜を乾燥して、基材上にアルミニウム薄膜(触媒担持層)を形成し、更に、アルミニウム薄膜の上に、鉄化合物を含む塗工液Bを塗布した後、塗工液Bの塗膜を乾燥してアルミニウム薄膜上に鉄薄膜(触媒層)を形成することにより、行うことができる。
【0045】
ここで、基材としては、例えば、鉄、ニッケル、クロム、モリブデン、タングステン、チタン、アルミニウム、マンガン、コバルト、銅、銀、金、白金、ニオブ、タンタル、鉛、亜鉛、ガリウム、インジウム、ゲルマニウムおよびアンチモンなどの金属からなる基材、これらの金属の合金または酸化物からなる基材、シリコン、石英、ガラス、マイカ、グラファイトおよびダイヤモンドなどの非金属からなる基材、或いは、セラミックからなる基材を用いることができる。
【0046】
また、塗工液Aとしては、アルミニウム薄膜としてのアルミナ薄膜を形成し得る有機アルミニウム化合物および/またはアルミニウム塩などのアルミニウム化合物を有機溶剤に溶解または分散させたものを用いることができる。なお、塗工液A中におけるアルミニウム化合物の濃度は、本発明の所望の効果が得られる範囲内で適宜調整することができる。
【0047】
ここで、アルミナ薄膜を形成し得る有機アルミニウム化合物としては、例えば、アルミニウムトリメトキシド、アルミニウムトリエトキシド、アルミニウムトリ-n-プロポキシド、アルミニウムトリ-i-プロポキシド、アルミニウムトリ-n-ブトキシド、アルミニウムトリ-sec-ブトキシド、アルミニウムトリ-tert-ブトキシド等のアルミニウムアルコキシドが挙げられる。アルミナ薄膜を形成し得る有機アルミニウム化合物としては他に、トリス(アセチルアセトナト)アルミニウム(III)などのアルミニウム錯体が挙げられる。また、アルミナ薄膜を形成し得るアルミニウム塩としては、例えば、硫酸アルミニウム、塩化アルミニウム、硝酸アルミニウム、臭化アルミニウム、ヨウ化アルミニウム、乳酸アルミニウム、塩基性塩化アルミニウム、塩基性硝酸アルミニウム等が挙げられる。
なお、これらのアルミニウム化合物は、1種類を単独で使用してもよいし、複数種類を混合して使用してもよい。
【0048】
なお、有機溶剤としては、例えば、アルコール類、グリコール類、ケトン類、エーテル類、エステル類、炭化水素類等の有機溶剤が使用できる。なお、これらの有機溶剤は、1種類を単独で使用してもよいし、複数種類を混合して使用してもよい。
【0049】
さらに、塗工液Bとしては、鉄薄膜を形成し得る有機鉄化合物および/または鉄塩などの鉄化合物を有機溶剤に溶解または分散させたものを用いることができる。なお、塗工液B中における鉄化合物の濃度は、本発明の所望の効果が得られる範囲内で適宜調整することができる。
【0050】
ここで、鉄薄膜を形成し得る有機鉄化合物としては、例えば、鉄ペンタカルボニル、フェロセン、アセチルアセトン鉄(II)、アセチルアセトン鉄(III)、トリフルオロアセチルアセトン鉄(II)、トリフルオロアセチルアセトン鉄(III)等が挙げられる。また、鉄薄膜を形成し得る鉄塩としては、例えば、硫酸鉄、硝酸鉄、リン酸鉄、塩化鉄、臭化鉄等の無機酸鉄、酢酸鉄、シュウ酸鉄、クエン酸鉄、乳酸鉄等の有機酸鉄等が挙げられる。なお、これらの鉄化合物は、1種類を単独で使用してもよいし、複数種類を混合して使用してもよい。
【0051】
なお、塗工液Bに含まれる有機溶剤は、特に限定されず、例えば、塗工液Aに使用し得る有機溶剤として上述したものを用いることができる。
【0052】
そして、上述した塗工液Aおよび塗工液Bの塗布並びに乾燥は、既知の手法を用いて行うことができる。
【0053】
例えば、基材上への塗工液Aの塗布は、ディップ法により行うことができる。具体的には、塗工液Aに基材を浸漬後、保持して、引き上げることにより行うことができる。ここで、塗工液A中で基材を保持する時間、および、塗工液A中から基材を引き上げる際の引き上げ速度などの条件は、本発明の所望の効果が得られる範囲内で適宜設定することができる。なお、上記ディップ法における塗工液Aへの基材の浸漬、保持、および引き上げの操作において、塗工液Aの液面の面方向と基材の面方向とがなす角度は、特に限定されず、例えば、90°(直角)とすることができる。
【0054】
また、基材上に形成された塗工液Aの塗膜を乾燥する際の温度および乾燥時間などの条件も、本発明の所望の効果が得られる範囲内で適宜設定することができる。
【0055】
そして、基材上に形成されたアルミニウム薄膜の膜厚は、例えば、10nm以上100nm以下とすることができる。
なお、アルミニウム薄膜の膜厚は、塗工液A中から基材を引き上げる際の引き上げ速度などによって調整することができる。
【0056】
また、例えば、基材上に形成されたアルミニウム薄膜への塗工液Bの塗布は、ディップ法により行うことができる。具体的には、塗工液Bにアルミニウム薄膜が形成された基材を浸漬後、保持して、引き上げることにより行うことができる。なお、上記ディップ法における塗工液Bへの基材の浸漬、保持、および引き上げの操作において、塗工液Bの液面の面方向と基材の面方向とがなす角度は、特に限定されず、例えば、90°(直角)とすることができる。
【0057】
ここで、塗工液B中でアルミニウム薄膜が形成された基材を保持する時間は、例えば、5秒間以上60秒間以下とすることができる。
【0058】
そして、塗工液B中からアルミニウム薄膜が形成された基材を引き上げる際の引き上げ速度は、1mm/秒以上であることが好ましく、2mm/秒以上であることがより好ましく、3mm/秒以上であることが更に好ましく、18mm/秒以下であることが好ましく、12mm/秒以下であることがより好ましく、8mm/秒以下であることが更に好ましい。塗工液B中からの引き上げ速度が上記下限以上であれば、形成される鉄薄膜の膜厚を適度に大きくすることができるため、製造される繊維状炭素ナノ構造体の所定の局在電子量を適度に小さくすることができる。一方、塗工液B中からの引き上げ速度が上記上限以下であれば、形成される鉄薄膜の膜厚が適度に小さくすることができるため、製造される繊維状炭素ナノ構造体の所定の局在電子量を適度に大きくすることができる。したがって、塗工液B中からアルミニウム薄膜が形成された基材を引き上げる際の引き上げ速度を上記所定範囲内とすれば、形成される鉄薄膜を適度な膜厚にすることができるため、製造される繊維状炭素ナノ構造体の局在電子量を上述した所定範囲内に容易に収めることができる。
【0059】
なお、アルミニウム薄膜上に形成された塗工液Bの塗膜を乾燥する際の温度および乾燥時間などの条件は、本発明の所望の効果が得られる範囲内で適宜設定することができる。
【0060】
そして、アルミニウム薄膜上に形成された鉄薄膜の膜厚は、0.5nm以上であることが好ましく、1nm以上であることがより好ましく、2nm以上であることが更に好ましく、4.5nm以下であることが好ましく、4nm以下であることがより好ましく、3.5nm以下であることが更に好ましい。鉄薄膜の膜厚が上記下限以上であれば、製造される繊維状炭素ナノ構造体の所定の局在電子量を適度に小さくすることができる。一方、鉄薄膜の膜厚が上記上限以下であれば、製造される繊維状炭素ナノ構造体の所定の局在電子量を適度に大きくすることができる。したがって、鉄薄膜の膜厚が上記所定範囲内であれば、製造される繊維状炭素ナノ構造体の所定の局在電子量を上述した所定範囲内に容易に収めることができる。
なお、薄膜の膜厚は、塗工液B中からアルミニウム薄膜が形成された基材を引き上げる際の引き上げ速度などによって調整することができる。
【0061】
(表面改質繊維状炭素ナノ構造体の製造方法)
本発明の表面改質繊維状炭素ナノ構造体の製造方法は、上述した本発明の繊維状炭素ナノ構造体に対して表面改質処理を施し、表面改質繊維状炭素ナノ構造体を得る工程(表面改質処理工程)を含むことを特徴とする。本発明の表面改質繊維状炭素ナノ構造体の製造方法によれば、分散性に優れた表面改質繊維状炭素ナノ構造体を製造することができる。
なお、本発明の表面改質繊維状炭素ナノ構造体の製造方法は、任意で、上記表面改質処理工程以外の工程を更に含んでいてもよいものとする。
【0062】
<表面改質処理工程>
表面改質処理工程では、繊維状炭素ナノ構造体に対して表面改質処理を施し、表面改質繊維状炭素ナノ構造体を得る。
ここで、表面改質処理としては、特に限定されることなく、例えば、湿式処理および乾式処理などを用いることができる。
湿式処理は、例えば、硝酸、硫酸、硝酸と硫酸との混酸、過酸化水素などの表面改質処理剤を用いて行うことができる。また、乾式処理は、例えば、酸素、オゾン、フッ素ガスなどの表面改質処理剤を用いて行うことができる。
中でも、分散性に更に優れる表面改質繊維状炭素ナノ構造体を得る観点からは、表面改質処理は、硝酸、硫酸、または硝酸と硫酸との混酸を用いて行う湿式酸化処理であることが好ましい。
なお、表面改質処理の条件は、使用する表面改質処理剤の種類および所望の表面改質繊維状炭素ナノ構造体の性状に応じて設定することができる。
【0063】
<表面改質繊維状炭素ナノ構造体>
本発明の繊維状炭素ナノ構造体に表面改質処理を施して得られる表面改質繊維状炭素ナノ構造体は、例えば水などの溶媒中で、分散剤を使用しなくても良好に分散させることができる。そして、得られた表面改質繊維状炭素ナノ構造体の分散液は、各種成形品(例えば、帯電防止膜や導電膜などの膜)の製造に用いることができる。
ここで、上記表面改質繊維状炭素ナノ構造体の分散液中では、表面改質繊維状炭素ナノ構造体が溶媒中に良好に分散しているため、当該分散液を用いて製造された成形品中において、凝集塊の量を低減することができる。よって、製造された表面改質繊維状炭素ナノ構造体からなる成形品は、導電性、熱導電性および強度などの特性に優れている。即ち、表面改質炭素ナノ構造体は、上述した特性に優れるといえる。
【実施例
【0064】
以下、本発明について実施例に基づき具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、以下において、量を表す「%」は、特に断らない限り、質量基準である。
【0065】
実施例および比較例において、CNTを含む繊維状炭素ナノ構造体のG/D比、平均直径、BET比表面積、t-プロット、全比表面積、内部比表面積、炭素純度、および局在電子量、並びに、表面改質処理後の分散性は、それぞれ以下の方法によって、測定または評価した。
【0066】
<G/D比>
顕微レーザラマンシステム(サーモフィッシャーサイエンティフィック(株)製、NicoletAlmega XR)を用い、基材中心部付近の繊維状炭素ナノ構造体について測定した。
【0067】
<平均直径>
透過型電子顕微鏡を用いて得られた画像から無作為に選択された20本の繊維状炭素ナノ構造体の直径(外径)を測定し、個数平均値として求めた。
【0068】
<BET比表面積、t-プロット、全比表面積および内部比表面積>
BET比表面積測定装置(日本ベル(株)製、BELSORP(登録商標)-mini)を用いて測定した。
【0069】
<炭素純度>
熱重量分析装置(TG)を使用し、繊維状炭素ナノ構造体を空気中で800℃まで昇温した際の減少質量から炭素純度(=(800℃に到達するまでに燃焼して減少した質量/初期質量)×100(%))を求めた。
【0070】
<局在電子量>
電子スピン共鳴装置(BRUKER製 Elexsys E580)を用いて、硫酸銅5水和物を標準試料として、温度10Kにおける信号強度とサンプル重量との比率から繊維状炭素ナノ構造体の局在電子量を定量した。
【0071】
<表面改質処理後の分散性>
<<分散液の評価>>
表面改質繊維状炭素ナノ構造体の分散液に対し、遠心分離機(ベックマンコールター製、製品名「OPTIMA XL100K」)を使用し、20,000Gで40分間遠心分離して上澄み液を回収するサイクルを3回繰り返して、遠心分離処理後の表面改質繊維状炭素ナノ構造体の分散液20mLを得た。この分散液について、目視観察で凝集塊の有無を確認した。目視にて凝集塊が観察されなければ、繊維状炭素ナノ構造体は表面改質処理後の分散性に優れていることを示す。
【0072】
また、上記遠心分離処理後の分散液中に存在する粒子について、動的光散乱法(DLS)粒度分布計(Malvern製、製品名「Zetasizer Nano ZS」)を用いて、粒子径を測定し、表面改質繊維状炭素ナノ構造体の分散性を評価した。なお、粒子径が小さいほど、繊維状炭素ナノ構造体が良好に表面改質されており、表面改質処理後の分散性に優れていることを示す。
【0073】
<<成形品(膜)の評価>>
また、表面改質繊維状炭素ナノ構造体の分散液を、ガラス基板にバーコーター♯2にて塗布した後、130℃で10分間乾燥し、表面改質繊維状炭素ナノ構造体からなる膜をガラス基板上に形成した。そして、得られた膜を光学顕微鏡(倍率100倍)で観察し、顕微鏡の視野中に視認される表面改質繊維状炭素ナノ構造体の凝集塊(直径30μm以上)の有無を確認することで、表面改質繊維状炭素ナノ構造体の分散性を評価した。顕微鏡の視野中に表面改質繊維状炭素ナノ構造体の凝集塊が観察されなければ、繊維状炭素ナノ構造体が良好に表面改質されており、表面改質処理後の分散性に優れていることを示す。
【0074】
<<総合評価>>
表面改質繊維状炭素ナノ構造体の分散液中に凝集塊が無く、動的光散乱法(DLS)粒度分布計を用いて測定した粒子径が180nm以下であり、且つ、膜中の凝集塊が無い場合を「優」とし、それ以外の場合を「不可」とした。
【0075】
(実施例1)
<触媒基材の製造>
アルミニウムトリ-sec-ブトキシドを2-プロパノールに溶解させて、塗工液Aを調製した。また、酢酸鉄を2-プロパノールに溶解させて、塗工液Bを調製した。
【0076】
平板状の基材としてのステンレス鋼基板の表面に上述の塗工液Aを塗布し、膜厚40nmのアルミナ薄膜(触媒担持層)を形成した。次いで、基材に設けられたアルミナ薄膜の上に上述の塗工液Bを、ディップ法により、引き上げ速度5mm/秒で塗布し、触媒層として膜厚2nmの鉄薄膜を有する基材(触媒基材)を得た。
【0077】
<繊維状炭素ナノ構造体の合成>
上述した触媒基材に対してフォーメーション工程(還元工程)、合成工程および冷却工程を連続的に行なうことで、繊維状炭素ナノ構造体の配向集合体(CNTを含む繊維状炭素ナノ構造体)を合成した。なお、フォーメーション工程では、触媒基材に対して水素ガスを供給して還元処理を行った。また、合成工程では、触媒基材に対して原料ガス(エチレンガス、キャリアガスとしての窒素ガス、および賦活剤としての水を含む)を供給して実施した。
【0078】
得られたCNTを含む繊維状炭素ナノ構造体は、G/D比が3.8、平均直径が4nm、BET比表面積が1446cm/gであり、炭素純度が99.9%であり、ラマン分光光度計での測定において、単層カーボンナノチューブに特長的な100~300cm-1の低波数領域にラジアルブリージングモード(RBM)のピークが観察された。また、吸着等温線から得られる繊維状炭素ナノ構造体のt-プロットは、上に凸な形状で屈曲していた。そして、屈曲点の位置はt=0.7nmであり、全比表面積S1は970m/gであり、内部比表面積S2は170m/gであり、S2/S1は0.18であった。さらに、得られたCNTを含む繊維状炭素ナノ構造体の温度10Kにおける局在電子量は、5.6×1018個/gであった。
【0079】
<表面改質繊維状炭素ナノ構造体の分散液の作製>
冷却管と撹拌翼を備えた300mLフラスコに、上記で得られたCNTを含む繊維状炭素ナノ構造体0.80g、イオン交換水54.8g、および、硫酸(和光純薬社製、濃度96~98%)と硝酸(和光純薬社製、濃度69~70%)とを1:3(体積比)の割合で含有する混酸液83mLを加えた後、撹拌しながら内温110℃で8時間加熱することで、湿式酸化処理としての混酸処理を行った。
【0080】
得られた混酸処理後の繊維状炭素ナノ構造体/混酸の液3.0gを、50mLサンプル瓶に測り取り、イオン交換水を27.0g添加して希釈した。上澄みを除去した後、イオン交換水を加えて液量を30mLとした。濃度0.1%のアンモニア水を加えて、pHを7.0に調整した後、超音波照射装置(ブランソン製、製品名「BRANSON5510」)を用いて周波数42Hzで50分間、超音波照射して、表面改質繊維状炭素ナノ構造体の分散液を得た。
【0081】
得られた表面改質繊維状炭素ナノ構造体の分散液を用いて、繊維状炭素ナノ構造体の表面改質処理後の分散性を評価した。結果を表1に示す。
【0082】
(実施例2)
基材に設けられたアルミナ薄膜の上に塗工液Bを塗布する際の引き上げ速度を5mm/秒から10mm/秒に変えることで、形成される鉄薄膜の膜厚を2nmから3nmに変更したこと以外は実施例1と同じ条件で繊維状炭素ナノ構造体の合成、および表面改質繊維状炭素ナノ構造体の分散液の作製を行った。そして、実施例1と同様にして各種測定および評価を行った。
得られたCNTを含む繊維状炭素ナノ構造体は、G/D比が2.9、平均直径が4nm、BET比表面積が1191cm/gであり、炭素純度が99.9%であり、ラマン分光光度計での測定において、単層カーボンナノチューブに特長的な100~300cm-1の低波数領域にラジアルブリージングモード(RBM)のピークが観察された。また、吸着等温線から得られる繊維状炭素ナノ構造体のt-プロットは、上に凸な形状で屈曲していた。そして、屈曲点の位置はt=0.7nmであり、全比表面積S1は840m/gであり、内部比表面積S2は70m/gであり、S2/S1は0.08であった。さらに、得られたCNTを含む繊維状炭素ナノ構造体の温度10Kにおける局在電子量は、9.9×1017個/gであった。
また、得られた表面改質繊維状炭素ナノ構造体の分散液を用いて、繊維状炭素ナノ構造体の表面改質処理後の分散性を評価した結果を表1に示す。
【0083】
(実施例3)
基材に設けられたアルミナ薄膜の上に塗工液Bを塗布する際の引き上げ速度を5mm/秒から15mm/秒に変えることで、形成される鉄薄膜の膜厚を2nmから4nmに変更したこと以外は実施例1と同じ条件で、繊維状炭素ナノ構造体の合成、および表面改質繊維状炭素ナノ構造体の分散液の作製を行った。そして、実施例1と同様にして各種測定および評価を行った。
得られたCNTを含む繊維状炭素ナノ構造体は、G/D比が1.9、平均直径が4nm、BET比表面積が1104cm/gであり、炭素純度が99.9%であり、ラマン分光光度計での測定において、単層カーボンナノチューブに特長的な100~300cm-1の低波数領域にラジアルブリージングモード(RBM)のピークが観察された。また、吸着等温線から得られる繊維状炭素ナノ構造体のt-プロットは、上に凸な形状で屈曲していた。そして、屈曲点の位置はt=0.7nmであり、全比表面積S1は800m/gであり、内部比表面積S2は40m/gであり、S2/S1は0.05であった。さらに、得られたCNTを含む繊維状炭素ナノ構造体の温度10Kにおける局在電子量は、4.9×1017個/gであった。
また、得られた表面改質繊維状炭素ナノ構造体の分散液を用いて、繊維状炭素ナノ構造体の表面改質処理後の分散性を評価した結果を表1に示す。
【0084】
(比較例1)
基材に設けられたアルミナ薄膜の上に塗工液Bを塗布する際の引き上げ速度を5mm/秒から20mm/秒に変えることで、形成される鉄薄膜の膜厚を2nmから5nmに変更したこと以外は実施例1と同じ条件で、繊維状炭素ナノ構造体の合成、および表面改質繊維状炭素ナノ構造体の分散液の作製を行った。そして、実施例1と同様にして各種測定および評価を行った。
得られたCNTを含む繊維状炭素ナノ構造体は、G/D比が3.5、平均直径が4nm、BET比表面積が1113cm/gであり、炭素純度が99.9%であり、ラマン分光光度計での測定において、単層カーボンナノチューブに特長的な100~300cm-1の低波数領域にラジアルブリージングモード(RBM)のピークが観察された。また、吸着等温線から得られる繊維状炭素ナノ構造体のt-プロットは、上に凸な形状で屈曲していた。そして、屈曲点の位置はt=0.7nmであり、全比表面積S1は1120m/gであり、内部比表面積S2は120m/gであり、S2/S1は0.11であった。さらに、得られたCNTを含む繊維状炭素ナノ構造体の温度10Kにおける局在電子量は、8.4×1016個/gであった。
また、得られた表面改質繊維状炭素ナノ構造体の分散液を用いて、繊維状炭素ナノ構造体の表面改質処理後の分散性を評価した結果を表1に示す。
【0085】
(比較例2)
繊維状炭素ナノ構造体の配向集合体(CNTを含む繊維状炭素ナノ構造体)として、単層カーボンナノチューブである、名城ナノカーボン社製「e-DIPS」を用いて、表面改質繊維状炭素ナノ構造体の分散液の作製を行い、表面改質処理後の分散性の評価を行った。結果を表1に示す。
なお、得られた表面改質繊維状炭素ナノ構造体の分散液では、表面改質繊維状炭素ナノ構造体が極端に大きな凝集塊を形成していたため、粒子径を測定することができず、また、膜を形成することができなかった。
また、上記で使用した名城ナノカーボン社製「e-DIPS」は、BET比表面積が900cm/gであり、温度10Kにおける局在電子量は、4.0×1016個/g未満(検出下限未満)であった。
【0086】
【表1】
【0087】
表1より、温度10Kにおける電子スピン共鳴測定で得られる局在電子量が所定値以上である実施例1~3の繊維状炭素ナノ構造体は、表面改質処理後の分散性に優れていることがわかる。
一方、温度10Kにおける電子スピン共鳴測定で得られる局在電子量が所定値未満である比較例1および2の繊維状炭素ナノ構造体は、表面改質処理後の分散性に劣ることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0088】
本発明によれば、表面改質処理後の分散性に優れた繊維状炭素ナノ構造体を提供することができる。
また、本発明によれば、分散性に優れた表面改質繊維状炭素ナノ構造体を提供することができる。