IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社ニコンの特許一覧

特許7632630視野検査方法、視野検査装置、および視野検査プログラム
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-10
(45)【発行日】2025-02-19
(54)【発明の名称】視野検査方法、視野検査装置、および視野検査プログラム
(51)【国際特許分類】
   A61B 3/024 20060101AFI20250212BHJP
【FI】
A61B3/024
【請求項の数】 24
(21)【出願番号】P 2023530361
(86)(22)【出願日】2022-06-14
(86)【国際出願番号】 JP2022023856
(87)【国際公開番号】W WO2022265023
(87)【国際公開日】2022-12-22
【審査請求日】2023-12-13
(31)【優先権主張番号】P 2021100268
(32)【優先日】2021-06-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004112
【氏名又は名称】株式会社ニコン
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中村 ちから
(72)【発明者】
【氏名】青木 大志
(72)【発明者】
【氏名】堀川 照生
(72)【発明者】
【氏名】大澤 日佐雄
【審査官】増渕 俊仁
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-36297(JP,A)
【文献】山本哲也、谷原秀信,All About 開放隅角緑内障,第1版第1刷,日本,株式会社 医学書院,2013年04月01日,第218頁-第220頁,ISBN978-4-260-01766-4
【文献】Hiroshi Murata, et al.,Validating Varational Bayes linear Regression Method With Multi-Central Datasets,Investigative Ophthalmology & Visual Science,2018年04月,Vol. 59,pp. 1897-1904,https://doi.org/10.1167/iovs.17-22907
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 3/00-3/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検者の眼である被検眼の視野範囲における視野感度を検査する視野検査方法であって、
前記視野範囲内の複数の第1検査点のそれぞれの検査点において、複数の異なる輝度値の指標光を提示するステップと、
前記指標光に対する前記被検者からの認識信号を取得することにより、前記第1検査点のそれぞれの検査点における測定輝度値を求めるステップと、
前記第1検査点以外の検査点である第2検査点において前記被検眼が認識すると推定される輝度値を、前記複数の第1検査点のそれぞれの検査点の前記測定輝度値から算出し、算出輝度値を求めるステップと、
前記複数の第1検査点のそれぞれの検査点から算出された前記算出輝度値の平均値を求めることにより、前記第2検査点において被検眼が認識すると推定される輝度値である、推定輝度値を求めるステップと、
を含む視野検査方法。
【請求項2】
前記推定輝度値を求めるステップは、前記推定輝度値の誤差範囲を算出することを含む、
請求項1に記載の視野検査方法。
【請求項3】
前記誤差範囲は、前記第1検査点と第2検査点との距離に基づいて算出される、
請求項2に記載の視野検査方法。
【請求項4】
前記誤差範囲が所定値よりも大きい場合に前記第2検査点を追加検査点とする、
請求項2に記載の視野検査方法。
【請求項5】
前記測定輝度値を求めるステップは、過去に前記第1検査点において提示された指標光の輝度値に基づいて、前記測定輝度値を求めるステップで前記第1検査点に提示する指標光の輝度範囲の上限値と下限値とを定め、前記輝度範囲内の輝度値の指標光を前記測定輝度値を求めるステップで前記第1検査点に提示する、
請求項1に記載の視野検査方法。
【請求項6】
前記輝度範囲の上限値と下限値とを定めることは、過去に前記第1検査点において提示された指標光の輝度値と検査回数との関係を示す累積関数を用いて、前記輝度範囲の上限値と下限値とを定める、
請求項5に記載の視野検査方法。
【請求項7】
前記算出輝度値は、確率過程を用いて算出される、
請求項1に記載の視野検査方法。
【請求項8】
前記確率過程は、ガウス過程である、
請求項に記載の視野検査方法。
【請求項9】
前記視野範囲において前記測定輝度値を求めるステップを行い、前記視野範囲を複数の部分領域に分割し、前記複数の部分領域それぞれにおいて、前記算出輝度値を求めるステップと前記推定輝度値を求めるステップとを行う、
請求項1に記載の視野検査方法。
【請求項10】
前記測定輝度値および前記推定輝度値の各々の輝度値に基づいて、前記視野範囲の視野感度マップを生成する
請求項に記載の視野検査方法。
【請求項11】
前記複数の部分領域に分割することは、前記視野範囲を水平経線と垂直経線とで4分割することを含み、
第1部分領域は前記水平経線の上側かつ前記垂直経線の左側の領域であり、
第2部分領域は前記水平経線の下側かつ前記垂直経線の右側の領域であり、
第3部分領域は前記水平経線の下側かつ前記垂直経線の左側の領域であり、
第4部分領域は前記水平経線の下側かつ前記垂直経線の右側の領域であり、
前記第1部分領域、前記第2部分領域、前記第3部分領域、前記第4部分領域のそれぞれにおいて、前記算出輝度値を求めるステップ、前記推定輝度値を求めるステップを行い、前記測定輝度値および前記推定輝度値の各々の輝度値に基づいて、前記視野範囲の視野感度マップを生成する、
請求項9に記載の視野検査方法。
【請求項12】
前記測定輝度値および前記推定輝度値から症例を推定することを含む、
請求項1記載の視野検査方法。
【請求項13】
前記推定された症例に基づいて、追加検査点を設定することを含む、
請求項12に記載の視野検査方法。
【請求項14】
前記症例は、鼻側穿破、鼻側階段、耳側楔状欠損、弓状暗点、傍中心暗点、水平半盲様視野、及び中心残存視野のいずれかである、
請求項12に記載の視野検査方法。
【請求項15】
プロセッサを備え、被検者の眼である被検眼の視野範囲における視野感度を検査する視野検査装置であって、
前記プロセッサは、
前記視野範囲内の複数の第1検査点のそれぞれの検査点において、複数の異なる輝度値の指標光を提示するステップと、
前記指標光に対する前記被検者からの認識信号を取得することにより、前記第1検査点のそれぞれの検査点における測定輝度値を求めるステップと、
ステップと、
前記第1検査点以外の検査点である第2検査点において前記被検眼が認識すると推定される輝度値を、前記複数の第1検査点のそれぞれの検査点の前記測定輝度値から算出し、算出輝度値を求めるステップと、
前記複数の第1検査点のそれぞれの検査点から算出された前記算出輝度値の平均値を求めることにより、前記第2検査点において被検眼が認識すると推定される輝度値である、推定輝度値を求めるステップと、
を行う視野検査装置。
【請求項16】
コンピュータに、
被検者の眼である被検眼の視野範囲において、前記視野範囲内の複数の第1検査点のそれぞれの検査点において、複数の異なる輝度値の指標光を提示するステップと、
前記指標光に対する前記被検者からの認識信号を取得することにより、前記第1検査点それぞれの検査点における測定輝度値を求めるステップと、
前記第1検査点以外の検査点である第2検査点において前記被検眼が認識すると推定される輝度値を、前記複数の第1検査点のそれぞれの検査点の前記測定輝度値から算出し、算出輝度値を求めるステップと、
前記複数の第1検査点のそれぞれの検査点から算出された前記算出輝度値の平均値を求めることにより、前記第2検査点において被検眼が認識すると推定される輝度値である、推定輝度値を求めるステップと、
を実行させる視野検査プログラム。
【請求項17】
前記推定輝度値を求めるステップは、前記推定輝度値の誤差範囲を算出することを含む、
請求項16に記載の視野検査プログラム。
【請求項18】
前記誤差範囲は、前記第1検査点と第2検査点との距離に基づいて算出される、
請求項17に記載の視野検査プログラム。
【請求項19】
前記誤差範囲が所定値よりも大きい場合に前記第2検査点を追加検査点とする、
請求項17に記載の視野検査プログラム。
【請求項20】
前記測定輝度値を求めるステップは、過去に前記第1検査点において提示された指標光の輝度値に基づいて、前記測定輝度値を求めるステップにおいて前記第1検査点に提示する指標光の輝度範囲の上限値と下限値とを定め、前記輝度範囲内の輝度値の指標光を前記測定輝度値を求めるステップで前記第1検査点に提示する、
請求項16に記載の視野検査プログラム。
【請求項21】
前記算出輝度値は、確率過程を用いて算出される、
請求項16に記載の視野検査プログラム。
【請求項22】
前記確率過程は、ガウス過程である、
請求項21に記載の視野検査プログラム。
【請求項23】
前記視野範囲において前記測定輝度値を求めるステップを行い、前記視野範囲を複数の部分領域に分割し、前記複数の部分領域それぞれにおいて、算出輝度値を求めるステップおよび前記推定輝度値を求めるステップを行う、
請求項16に記載の視野検査プログラム。
【請求項24】
前記複数の部分領域に分割することは、前記視野範囲を水平経線と垂直経線とで4分割することを含み、
第1部分領域は前記水平経線の上側かつ前記垂直経線の左側の領域であり、
第2部分領域は前記水平経線の下側かつ前記垂直経線の右側の領域であり、
第3部分領域は前記水平経線の下側かつ前記垂直経線の左側の領域であり、
第4部分領域は前記水平経線の下側かつ前記垂直経線の右側の領域であり、
前記第1部分領域、前記第2部分領域、前記第3部分領域、前記第4部分領域のそれぞれにおいて、前記算出輝度値を求めるステップおよび前記推定輝度値を求めるステップを行い、前記測定輝度値および前記推定輝度値の各々の感度に基づいて、前記視野範囲の視野感度マップを生成することを特徴とする請求項23に記載の視野検査プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示の技術は、視野検査方法、視野検査装置、および視野検査プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
特許第5048284号公報には、被検眼への光刺激に対する感度を検査する視野検査装置が開示されている。被検者に負担を掛けない視野検査装置が望まれている。
【発明の概要】
【0003】
本開示の技術の第1の態様の視野検査方法は、少なくとも第1部分領域及び第2部分領域に分割された視野範囲を検査する視野検査方法であって、前記第1部分領域に含まれる、複数の第1検査点の感度を測定するステップと、前記第1部分領域に含まれる、前記第1検査点以外の検査点である複数の第2検査点の感度を、前記複数の第1検査点の感度を用いて推定する処理を行うステップと、を含む。
【0004】
本開示の技術の第2の態様の視野検査装置は、プロセッサを備え、少なくとも第1部分領域及び第2部分領域に分割された視野範囲を検査する視野検査装置であって、前記プロセッサは、前記第1部分領域に含まれる、複数の第1検査点の感度を測定するステップと、前記第1部分領域に含まれる、前記第1検査点以外の検査点である複数の第2検査点の感度を、前記複数の第1検査点の感度を用いて推定する処理を行うステップと、を行う。
【0005】
本開示の技術の第3の態様のプログラムは、コンピュータに、少なくとも第1部分領域及び第2部分領域に分割された視野範囲における、前記第1部分領域に含まれる、複数の第1検査点の感度を測定するステップと、前記第1部分領域に含まれる、前記第1検査点以外の検査点である複数の第2検査点の感度を、前記複数の第1検査点の感度を用いて推定する処理を行うステップと、を実行させる。
【図面の簡単な説明】
【0006】
図1】眼科システム100のブロック図である。
図2】視野計110の構成を示すブロック図である。
図3】視野計110のCPU22の機能ブロック図である。
図4A】被検眼12の構造を示した説明図である。
図4B】正常な眼底における検査対象領域190の画像である。
図4C】検査対象領域190において、指標光が提示される検査点の集合である検査点集合200を示した概略図である。
図4D】正常な眼底の視野検査の結果を示す視野感度マップである。
図5A】検査点集合200から初期検査点を設定したことを示す説明図である。
図5B】初期検査点を検査した結果を示した説明図である。
図5C】検査結果に基づいて追加検査点を設定した場合の一例を示した説明図である。
図5D】さらに追加検査点を設定した場合を示した説明図である。
図5E】検査結果に基づいて、視野検査領域において白丸で示した未検査の点の視野感度を推定する場合の説明図である。
図6】疾患を有する眼底の視野感度マップの例を示した概略図である。
図7】眼底の視野検査領域の全体で検査データの補間を行ったと仮定した場合の上部領域202と下部領域204とにおけるデータ補間の相関性を示した説明図である。
図8A】上部領域202を、領域220、222、224、226、228、230に細分化して、各々の領域で独立して検査データを補間する場合を示した説明図である。
図8B】視野検査領域を、中心窩を通る垂直経線240で左右に2分割した場合の概略図である。
図8C】視野検査領域を、中心窩を通る水平経線206と、中心窩を通る垂直経線240とで上下左右に4分割した場合の概略図である。
図9】視野計110のCPU22が実行する視野検査処理のフローチャートである。
図10図9のステップ136の検査点全体の視野感度を推定して補間する処理のフローチャートである。
図11A】累積関数の更新処理を示す図である。
図11B】累積関数の更新処理を示す他の図である。
図11C】累積関数の更新処理を示す他の図である。
図11D】累積関数の更新処理を示す他の図である。
図11E】累積関数の更新処理を示す他の図である。
図11F】累積関数の更新処理を示す他の図である。
図11G】累積関数の更新処理を示す他の図である。
図11H】累積関数の更新処理を示す他の図である。
図11I】累積関数の更新処理を示す他の図である。
図12】輝度値に対するその輝度値の指標光を被検者の被検眼12の視神経の検査点が認識する確率fa,b(θ)の関係を示す輝度値-正答率曲線を示した説明図である。
図13】検査点(未検査点と検査済点とを含む)と、各検査点の推定輝度値との関係を示す概略図である。
図14A】異常なしの場合の各々の検査点の検査結果の例を示した概略図である。
図14B】異常なしの場合の視野感度マップの例を示した概略図である。
図14C】異常なしの場合の追加検査点の設定を示した概略図である。
図15A】上部領域202が鼻側穿破の場合の各々の検査点の検査結果の例を示した概略図である。
図15B】上部領域202が鼻側穿破の場合の視野感度マップの例を示した概略図である。
図15C】上部領域202が鼻側穿破の場合の追加検査点の設定を示した概略図である。
図16A】上部領域202が耳側楔状欠損の場合の各々の検査点の検査結果の例を示した概略図である。
図16B】上部領域202が耳側楔状欠損の場合の視野感度マップの例を示した概略図である。
図16C】上部領域202が耳側楔状欠損の場合の追加検査点の設定の例を示した概略図である。
図17A】下部領域204が鼻側階段の場合の各々の検査点の検査結果の例を示した概略図である。
図17B】下部領域204が鼻側階段の場合の視野感度マップの例を示した概略図である。
図17C】下部領域204が鼻側階段の場合の追加検査点の設定の例を示した概略図である。
図18A】全検査点集合の各検査点の推定輝度値を示すグラフである。
図18B図18Aのグラフに信頼度が追加されたグラフである。
図19】視野感度マップ510Mを示す図である。
図20A】従来技術における、検査回数と、感度の正しい値と推定される感度との差と、の関係を示す図である。
図20B】従来技術における、検査回数と、感度の正しい値と推定される感度との差と、の関係を示す他の図である。
図20C】従来技術における、検査回数と、感度の正しい値と推定される感度との差と、の関係を示す他の図である。
図21A】本実施の形態における、検査回数と、感度の正しい値と推定される感度との差と、の関係を示す図である。
図21B】本実施の形態における、検査回数と、感度の正しい値と推定される感度との差と、の関係を示す他の図である。
図21C】本実施の形態における、検査回数と、感度の正しい値と推定される感度との差と、の関係を示す他の図である。
図22】未検査点の推定輝度値を補間する方法を説明する図である。
図23】本実施の形態において求められる推定輝度値と信頼度とを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、図面を参照して本開示の技術の実施の形態を詳細に説明する。
【0008】
図1を参照して、眼科システム100の構成を説明する。図1に示すように、眼科システム100は、静的視野検査装置(以下、「視野計」という)110と、管理サーバ装置(以下、「サーバ」という)140と、画像表示装置(以下、「ビューワ」という)150と、を備えている。
【0009】
視野計110は、本開示の技術の「視野検査装置」の一例である。
【0010】
視野計110は、詳細には後述する被検者の被検眼の視野感度(輝度値)を検査する機器であり、緑内障および網膜色素変性症等の診断に用いられる。
【0011】
ここで、視野感度とは、被検眼の網膜に存在する視神経における検査対象となる検査点に到達し、被検者により認識された指標光の強度(輝度値:luminance(dB))である。なお、dBで表される輝度値が大きいほど、検査点に到達する指標光の強度が小さい。言い換えると、dBで表される輝度値が小さいほど、検査点に到達する指標光の強度は大きい。すなわち、dBで表される輝度値が大きいほど指標光は暗く、dBで表される輝度値が小さいほど指標光は明るい。
【0012】
サーバ140は、視野計110によって被検者の被検眼の視野感度の検査結果(推定感度等)を、患者IDに対応づけて記憶する。ビューワ150は、サーバ140から取得した被検眼の視野感度の検査結果等の医療情報を表示する。
【0013】
視野計110、サーバ140、およびビューワ150は、ネットワーク130を介して、相互に接続されている。
【0014】
図2には、視野計110の構成が示されている。
【0015】
視野計110が水平面に設置された場合の水平方向を「X方向」、水平面に対する垂直方向を「Y方向」とし、被検眼12の前眼部の瞳孔の中心と眼球の中心とを結ぶ方向を「Z方向」とする。従って、X方向、Y方向、およびZ方向は互いに垂直である。
【0016】
図2に示すように、視野計110は、制御装置10、指標提示部30、外部記憶装置40、入力/表示部50、および応答部60を備えている。
【0017】
制御装置10は、CPU(Central Processing Unit(中央処理装置))22、ROM(Read-Only memory)24、RAM(Random Access Memory)26、および入出力(I/O)ポート28を有し、これらがバス20により相互に接続されている、コンピュータを備えている。ROM24には、後述する視野検査プログラムが記憶されている。
【0018】
CPU22は、本開示の技術の「プロセッサ」の一例である。プロセッサは、視野検査プログラムを実行する。
【0019】
I/Oポート28には、指標提示部30、外部記憶装置40、通信インターフェース(I/F)45、入力/表示部50、および応答部60が接続されている。
【0020】
入力/表示部50は、画像を表示したりオペレータから各種指示を受け付けたりするグラフィックオペレータインターフェースを有する。グラフィックオペレータインターフェースとしては、タッチパネル・ディスプレイが挙げられる。
【0021】
応答部60は、被検者(患者)により操作される図示しないスイッチと送信部とを備えている。後述する視野検査の際に、指標光を認識した場合に、被検者は、スイッチをオンする。送信部は、スイッチがオンされると、被検者が指標光を認識したことを示す認識信号を制御装置10に送信する。
【0022】
通信インターフェース(I/F)45は、ネットワーク130を介してサーバ140、およびビューワ150に接続されている。
【0023】
指標提示部30は、半球の内面が反射面であるドーム30Dと、ドーム30Dの内面の複数の位置のに、指標を提示する(具体的には、光を投影する)、図示しない投影装置とを備えている。後述する視野検査のための視野検査プログラムに従った制御装置10による制御に従って、投影装置は、ドーム30Dの内面の異なる複数の位置の点(指標提示点)に、時間をずらして、指標を提示する。指標提示点は、被検眼の網膜に対応している。指標提示点からの指標光は、被検眼12の網膜における検査点に到達する。上記のように、指標光を認識した被検者はスイッチをオンし、送信部は、認識信号を制御装置10に送信する。
【0024】
なお、本開示の技術では、指標提示部30の構成は、ドーム30Dと投影装置とを備える構成に限定されない。本開示の技術では、例えば、ドーム30Dの内面の点が自発光する構成や、被検眼12の網膜の検査点に指標光を直接提示する構成が、指標提示部30の構成として採用可能である。
【0025】
サーバ140およびビューワ150は、CPU、RAM、ROM等を備えたコンピュータ、入力装置、ディスプレイ、および外部記憶装置等を備えている。
【0026】
図3に、視野計110のCPU22の機能ブロック図を示す。視野計110のCPU22が視野検査プログラムを実行することで実現される各種機能について説明する。視野検査プログラムは、検査点設定機能、画像処理機能および処理機能を備えている。CPU22がこの各機能を有する視野検査プログラムを実行することで、CPU22は、図3に示すように、検査点設定部72、画像処理部74および処理部76として機能する。
【0027】
図4Aは、被検眼12の構造を示した説明図である。被検眼12を構成する眼球は、強膜170で囲まれた略球状を呈する。強膜170の内側には脈絡膜172が、さらに脈絡膜172の内側には網膜174があり、網膜174で覆われた眼球内部にはゲル状の硝子体176が満たされている。
【0028】
網膜174は視覚細胞が面状に並んでおり、視覚細胞は視覚的な映像(光情報)を神経信号(電気信号)に変換する。視覚細胞によって得られた神経信号は、視神経乳頭184から視神経182を介して脳へと伝達される。
【0029】
網膜174において視覚細胞が密に配置されている領域が黄斑178であり、黄斑178の中心に相当する中心窩180は、視覚細胞が最も密に配置されているため、視野の中で最も解像度が高い。また、視神経乳頭184は、視神経182が集束している部位であるから、視覚細胞が存在しない。その結果、視神経乳頭184が存在する網膜174上の領域は盲点186となる。
【0030】
本実施形態では、被検眼12の視野感度を測定するが、眼底の網膜174上で視覚細胞が有意に配置されている領域を検査対象領域190とする。
【0031】
図4Bは、右目の正常な眼底における検査対象領域190の画像である。画像を横切る水平線は水平経線206であり、視野検査領域における上部領域202下部領域204との境界線である。本実施形態では、後述するように、検査データの補間を眼底の上部領域202と下部領域204との各々で独立して行う。
【0032】
図4Cは、検査対象領域190において、指標光が提示される検査点の集合である検査点集合200を示した概略図である。検査点集合200に含まれる検査点は多数存在するので、本実施形態では、選択したいくつかの検査点に指標光を提示して被験者の反応を取得する間引き検査を行い、指標光を提示しない検査点の輝度値は、ガウス過程回帰等の手法によって補間する。後述するが、眼底の疾患には、上部領域202と下部領域204とで連続性が希薄な症例がある。また、ガウス過程回帰等のデータ補間は、補間対象の検査点に隣接する検査点のデータに影響されやすい。従って、上部領域202に実は疾患がなくても、上部領域202に隣接する下部領域204の検査点に疾患が認められる場合、上部領域202と下部領域204とを一緒にデータ補間を行うと、正常な検査点も疾患があるようにデータが補間されてしまうおそれがある。本実施形態では、データの補間を、例えば上部領域202と下部領域204とで独立して行うことにより、上述のような誤った補間を抑制する。
ここで、症例とは、緑内障における視野欠損の症例を意味する。具体的には、鼻側穿破、鼻側階段、耳側楔状欠損、弓状暗点などの症例が存在する。
【0033】
図4Dは、右目の正常な眼底の視野検査の結果を示す視野感度マップである。視野感度マップにおいて、視野感度を示す輝度値が低い領域は暗部となって示される。図4Dにも暗部188が存在するが、この暗部188は、盲点186である視神経乳頭184に対応するものである。
【0034】
図5A~5Eは、視野検査の概略を示した説明図である。本実施形態では、視野検査が開始されると、図5Aに示したように、検査点集合200からグレーで示された初期検査点が設定される。検査点集合200は、例えば被検眼12の網膜の視神経について、指標光が被検眼12の瞳孔を介して到達する範囲に渡って各々配置された複数の検査点であり、視野感度の検査対象となる検査点の集合である。本実施形態では、検査点集合200から、いくつかの初期検査点を設定し、検査点集合200に含まれる全検査点ではなく、優先度の高い検査点の視野感度の計測を行う間引き検査を行う。
【0035】
基本的に初期検査点は、被験者の過去の診断データの有無によらず、過去の診断データがある場合もない場合も同じ初期検査点が設定されるが、被験者の過去の診断データに応じて初期検査点を設定してもよい。例えば、過去の診断データに、視野感度が低い領域が存在することが記載されている場合は、当該領域を含む領域に初期検査点を重点的に設定してもよい。また、初期検査点は図5Aのように上下対称に設定する必要はなく、非対称に設定しても良い。
【0036】
図5Bは、初期検査点を検査した結果を示した説明図である。図5Bにおいて、黒い三角形で示された検査点は、視野感度が所定の閾値以下となった視野感度不良点であり、他の四角で示された検査点は視野感度が所定の閾値を超えた視野感度適正点である。
【0037】
図5Cは、検査結果に基づいて追加検査点を設定した場合の一例を示した説明図である。図5Cでは、被検眼12の眼底における黄斑の中心に相当する中心窩を通る水平経線206で眼底を上部領域202と下部領域204とに分割している。図5Cに示したように、視野感度不良点は、上部領域に多く存在するので、五角形で示した追加検査点は、下部領域204よりも上部領域202へ優先的に設定する。
【0038】
図5Dは、さらに追加検査点を設定した場合を示した説明図である。さらに追加検査点を設定する場合、先に設定した追加検査点を、視野感度不良点が多く存在する領域に優先的に設定したのであれば、図5Dに示したように、六角形で示した追加検査点を、上部領域202と下部領域204とに同じ数を設定する。または、新たな追加検査点を、視野感度不良点が多く存在する領域へ優先的に設定してもよい。
【0039】
図5Eは、検査結果に基づいて、視野検査領域において白丸で示した未検査の点の視野感度を推定する場合の説明図である。図5Eに示したように、本実施形態では、視野検査領域を上部領域202と下部領域204とに分割し、各々の領域で独立して検査データを補間する。
【0040】
図6は、疾患を有する眼底の視野感度マップの例を示した概略図である。視野感度マップの上部領域202には上方視野欠損を示す領域208Aが、下部領域204には下方視野欠損を示す領域208Bが存在する。図6では、上方視野欠損を示す領域208Aと下方視野欠損を示す領域208Bとに顕著な連続性は認められない。かかる状況で、検査点集合200全体でデータの補間を行うと、上方視野欠損を示す領域208Aが、図6に示した状態よりも拡大されるおそれがある。
【0041】
図7は、眼底の視野検査領域の全体で検査データの補間を行ったと仮定した場合の上部領域202と下部領域204とにおけるデータ補間の相関性を示した説明図である。視野欠損症例には、上部領域202又は下部領域204において顕著な差異が生じる場合がある。かかる場合に上部領域202と下部領域204とに存在する検査点のデータ補間を行うと、当該補間の結果は、上部領域202と下部領域204との相関性を有し、特に図7に示したような、上部領域202と下部領域204とにまたがった相関領域210において、本来は視野感度適正点である検査点が、視野感度不良点として補間されてしまうおそれがある。
【0042】
本実施形態では、検査データの補間を、上部領域202と下部領域204とで独立して行うことにより、各々の領域間での相関性による不適切な補間を抑制している。
【0043】
視野検査領域は、図5Aに示したように中心窩を通る水平経線206で上下に分割されるのみならず、図8Aに示したように、例えば上部領域202を、領域220、222、224、226、228、230に細分化して、各々の領域で独立して検査データを補間してもよい。
【0044】
さらには、図8Bのように、中心窩を通る垂直経線240で左右に2分割されてもよい。又は、図8Cのように、中心窩を通る水平経線206と、中心窩を通る垂直経線240とで上下左右に4分割されてもよい。
【0045】
図9には、視野計110のCPU22が実行する視野検査処理のフローチャートが示されている。CPU22が視野検査プログラムを実行することで、図9のフローチャートに示された視野検査処理が実現される。当該視野検査処理は、入力/表示部50に表示された図示しないスタートボタンがオペレータにより操作された場合にスタートする。
【0046】
ステップ100で、画像処理部74は、入力/表示部50に、患者IDの入力画面を表示する。オペレータにより入力/表示部50に、患者IDが入力される。ステップ102で、処理部76は、患者IDを取得する。
【0047】
ステップ104で、検査点設定部72は、サーバ140に、取得した患者IDに対応して視野感度の検査結果が記憶されているのかを問い合わせる。すなわち、取得した患者IDに対応して、視野感度の検査結果が記憶されているかを問い合わせる。検査点設定部72は、サーバ140からの問い合わせ結果を取得し、取得した問い合わせ結果に基づいて、患者IDに対応して視野感度の検査結果の過去データがあるか否かを判断する。過去データは、被検者毎、および各被検者の検査点に応じたデータである。過去データは、例えば、当該患者の視野感度や、後述する各検査点の推定感度、検査回数、及び累積関数である。過去データは、過去に行われた全検査の取得データでもよく、最新の検査後に更新されたデータであってもよい。
【0048】
ステップ104で、患者IDに対応して視野感度の検査結果の過去データがあると判断された場合には、ステップ106で、処理部76は、入力された患者IDに対応する過去データから、検査点集合200の各検査点の最新の推定感度(視野感度)および検査回数を読み込む。一方、ステップ104で、患者IDに対応して視野感度の検査結果の過去データがないと判断された場合には、ステップ108で、処理部76は、検査点集合200の各検査点について予め規定された輝度値を読み込む。予め規定された輝度値は、例えば正常眼における検査点集合200の各検査点についての参考値である。
【0049】
ステップ110で、検査点設定部72は、図5Aに示したような初期検査点の集合を設定する。そして、ステップ112では、検査点設定部72は、ステップ110で設定した初期検査点に提示する指標光の輝度値を選択する。ステップ112において、輝度値は、例えばランダムに選択されてもよく、操作者により選択されてもよく、過去データに基づいて自動的に選択されてもよい。
【0050】
ステップ114では累積関数の初期化を行う。累積関数とは、指標光の輝度値と検査回数との関係を示した関数であり、より具体的には、各指標光の輝度値に対し検査で用いられた累積回数を対応させる関数である。そして、累積関数の初期化は、図11Aに示したように各輝度値に対応する検査回数をゼロにする処理である。累積関数については、図11A図11Iを用いて後述する。
【0051】
ステップ116では、ステップ110で設定した初期検査点の集合から検査点を1つ選択する。この検査点は、初期検査点の集合からランダムに選択されてもよく、操作者により選択されてもよく、過去データに基づいて自動的に選択されてもよい。
【0052】
ステップ118では、ステップ116で選択した検査点の累積検査回数を取得する。累積検査回数は、後述する累積関数から抽出できるが、累積検査回数として累積関数とは独立したデータとして保持してもよい。
【0053】
ステップ120では、累積検査回数が1以上であるか否かを判定する。ステップ120で、累積検査回数が1以上の場合は手順をステップ122に移行し、累積検査回数が1以上でない場合は手順をステップ124に移行する。
【0054】
ステップ122では、ステップ116で選択した検査点に対して累積関数に基づく輝度値で指標光を提示する。検査点設定部72は、累積関数から抽出された輝度値の範囲から、提示する指標光の輝度値を設定する。本開示の技術において、提示する指標光の輝度値は、抽出された輝度値の範囲から、ランダムに抽出して設定してもよく、任意に定められた値を抽出して設定してもよい。例えば、検査点設定部72は、当該範囲から、提示する指標光の輝度値を、当該範囲の中の中央値又は3/4の値等を抽出してもよい。次に、検査点設定部72は、抽出した輝度値で指標光がステップ116で選択した検査点に入射されるように、投影装置を制御する。
【0055】
ステップ124では、ステップ112で設定した初期輝度値の指標光が被検者に提示される。
【0056】
ステップ126では、検査点設定部72は被験者の反応を取得する。ステップ122又はステップ124で提示された指標光を被検者が認識した場合には、被検者は応答部60のスイッチをオンする。これにより認識信号が制御装置10に送信される。指標光が提示されても被検者が認識しなかった場合には、被検者は応答部60のスイッチをオンしない。検査点設定部72は、指標光を提示した時から所定時間経過する前に、認識信号が送信されたか否かで、被験者が指標光を認識したか否かを判定する。例えば、検査点設定部72は、指標光を提示した時から所定時間経過する前に、認識信号が送信された場合には、被験者が指標光を認識した、との被験者の反応を取得する。上記所定時間経過しても認識信号が送信されなかった場合には、被検者は指標を認識しなかった、との被検者の反応を取得する。検査点設定部72は、ステップ126で取得した被験者の反応を外部記憶装置40に保存する。
【0057】
ステップ128で、検査点設定部72は、累積関数を更新する。本実施形態では、ステップ116からステップ128の処理が繰り返され、ステップ128における累積関数の更新処理も繰り返される。また、累積検査数も更新される。ステップ116からステップ128の処理を繰り返すことにより、ステップ110で設定した初期検査点の集合に属する各検査点に対して異なる輝度値の指標光を複数回提示し、各々の指標光に対する被検者の応答が得られるので、各提示における被験者の応答に基づいて各検査点に対応する累積関数を更新する。以下、具体的に説明する。
【0058】
累積関数は、過去データがない場合、検査前の累積検査回数は、図11Aに示すように各輝度値について0であり、累積関数は存在しない。ステップ124の処理により、例えば、初期輝度値が28dBの指標光が被検者に提示される。被検者が当該指標光を認識しなかった場合、検査点設定部72は、図11Bに示すように、28dBを境界として定まる範囲、即ち、28dB以上の範囲の各輝度値についての検査回数を、所定量増加させる。増加させる所定量としては例えば、1である。よって、図11Bに示すように、28dB以上の範囲の各輝度値についての検査回数は1となる。
【0059】
ここで、図11Bにおいて、28dBの輝度値しか提示していないのに、28dB以上の範囲の各輝度値についての検査回数を1としたのは、次の理由からである。28dBの指標光を被検者が認識しなかった場合、当該被検者は、28dBより大きい輝度値の指標光、すなわち提示した指標光より暗い光は認識できないものと推定される。そのため、28dBの指標光を提示したこの検査点については28dBより大きい輝度値の指標についても認識できなかったという被検者の反応が得られると推定される。よって、28dBより大きい輝度値については、実際に検査をするまでもなく被検者の反応が想定されるため、検査したものとみなして検査回数を1増加させる。増加させる所定量としては、各輝度値に応じて異なる値でもよい。例えば、28dBの指標光を被検者が認識しなかった場合、28dB以上32dB未満の範囲の各輝度値について検査回数を1増加させ、32dB以上36dB未満の範囲の各輝度値について検査回数を2増加させ、36dB以上の範囲の各輝度値について検査回数を3増加させてもよい。これは、28dBの指標光に加えて、疑似的に32dBの指標光と36dBの指標光を提示した場合に、当該被検者がすべて認識できないことを想定し、疑似的な検査を含む3回の検査に対して、上記した各輝度値についての検査回数を1増加させる操作を行ったことに相当する。
【0060】
ステップ128では、検査回数が1回目の場合、図11Bに示したように累積関数が更新される。
【0061】
ステップ130では、ステップ116で選択された検査点の集合に対し視野感度が十分な精度で推定可能か否かを判定する。本実施形態では、後述するように、累積関数が図11Iのように下に凸の線形を描き、被験者が認識できた指標光の輝度が十分な精度で推定可能か否かを判定する。検査回数が1の場合、累積関数は図11Bのように下に凸の線形とはならないので、視野感度を十分な精度で推定できない。
【0062】
ステップ130で視野感度を推定するには、ステップ116で選択された検査点に対して、異なる輝度値の指標光を提示して被験者の反応を取得し、提示した指標光の輝度値及び被験者の反応に応じて累積関数を更新する。
【0063】
例えば、図11Bに示す結果が得られた場合、図11Cに示すように、ステップ116で選択した検査点について、28dBより小さい輝度値の範囲を認識できるか否かは不明なので、28dBより小さい輝度値の範囲を認識できるか否かを探索(検査)する必要がある。
【0064】
そこで、上記繰り返しにより、ステップ122で、累積関数(図11B参照)から、検査回数が1未満である輝度値の範囲から、図11Dに示すように、例えば、16dBが抽出され、16dBの輝度値の指標光が提示されたとする。そして、被検者が、16dBの輝度値の指標光を認識しなかったとする。この場合、上記理由により、検査点設定部72は、16dBを境界として定まる範囲(16dB以上の範囲)の各輝度値についての検査回数を所定量(例えば、1)増加させる。よって、図11Dに示すように、16dBから28dB未満の輝度値についての検査回数は1となり、28dB以上の範囲の輝度値についての検査回数は2となるように、累積関数が更新される。この場合、図11Eに示すように、16dBより小さい輝度値の範囲を認識できるか否かを探索(検査)する必要がある。
【0065】
このようにステップ120からステップ128の処理を繰り返して、累積関数を図11F、11G、11H、11Iのように更新することにより、探索(検査)する必要のある輝度値の範囲が狭くなっていく。その結果、探索(検査)する必要のある輝度値の範囲の上限値と下限値が定められ、下に凸の線形となる累積関数を作成することができる。
【0066】
ステップ116で選択した検査点の累積関数が図11Iのような状態になった場合、次に12dBの輝度値の指標光をステップ116で選択した検査点に提示して被験者の反応を取得する。しかしながら、ステップ116で選択した検査点の累積関数が図11Iのような状態であれば、この検査点における被験者の視野感度値は12dB付近であることが予想される。このようにして、ステップ116で選択した検査点の視野感度が推定可能であるかを判定する。
【0067】
以上、図11Aから図11Iを用いて説明した例は、上記のように過去データがない場合の例である。一方、図9のステップ104で、過去データがあると判断された場合には、当該患者IDに対応して検査点集合200の各検査点について累積関数と視野感度の推定値とが存在する。この場合、図9のステップ104の処理が実行されると、ステップ104は肯定判定となり、ステップ122では、上記過去データにおける検査点集合200の各検査点についての累積関数および視野感度の推定値のいずれか又は両方が用いられる。提示する指標の輝度値の選択方法は、例えば、累積関数の値が最も小さい輝度値が32dBであって視野感度の推定値が28dBであった場合にこれら平均値である30dBを提示する。
【0068】
ステップ132では、判定条件を充足するか否かを判定する。ステップ132での判定条件は、ステップ110で設定した初期検査点を全て検査したか否かである。ステップ132で、初期検査点を全て検査した場合は手順をステップ134に移行し、初期検査点を全て検査していない場合は手順をステップ116に移行して、ステップ116からステップ130の手順を行う。
【0069】
ステップ134では、ステップ132までの手順で得た検査データを読み込む。そして、ステップ136では、検査点設定部72は、検査点集合200の中の各検査点について得られた累積関数に基づいて、全体の視野感度、即ち、検査点集合200の各検査点について視野感度(推定輝度値)を推定するデータ補間を行う。前述のように、本実施形態では、データ補間を、上部領域202と下部領域204とで独立して行う。また、視野検査領域を図8Cのように4分割した場合は、4分割した領域の各々における検査結果に基づいて、4分割した領域の各々で独立してデータ補間を行う。
【0070】
本実施形態では、検査点設定部72は、初期検査点を含む検査点集合200の各検査点について視野感度(推定輝度値)を推定する。検査点設定部72は、確率過程を用いて、各検査済点の推定輝度値から、未検査点の推定輝度値を推定すると共に、推定した未検査点の推定輝度値の確からしさを表す信頼度を推定する。
【0071】
本実施形態では、検査点設定部72は、未検査点の推定輝度値を数値的に求めている。この場合の確率過程を、「確率場」と称する。本実施形態では、検査点設定部72は、確率過程または確率場を用いて、各検査済点の推定輝度値から、未検査点の推定輝度値を推定し、確率過程または確率場を用いて、推定した未検査点の推定輝度値の信頼度を推定する。
【0072】
本実施形態では、確率過程として、ガウス過程回帰(GPR: Gaussian Process Regression)が用いる。なお、本開示の技術では、確率過程として、ガウス過程回帰に限定されない。確率過程のその他の例として、t過程回帰などがあげられる。前述のように、本実施形態では、確率過程を用いたデータ補間は、例えば、上部領域202と下部領域204とで独立して行う。
【0073】
上記のように信頼度は、推定した未検査点の推定輝度値の確からしさを表す数値データである。具体的には、信頼度は、推定した未検査点の推定輝度値の値を中心とした、未検査点の視野感度の取り得る範囲を示した数値データである。
【0074】
図10には、図9のステップ136の検査点全体の視野感度を推定して補間する処理のフローチャートが示されている。図10に示すように、ステップ301で、検査点設定部72は、各検査済点の推定輝度値を算出する。具体的には、まず、検査点設定部72は、各検査済点の推定輝度値(視野感度)を算出するため、図12に示す、輝度値に対するその輝度値の指標光を被検者の被検眼12の視神経の検査点が認識する確率fa,b(θ)の関係を示す輝度値-正答率曲線を用いる。輝度値-正答率曲線は以下の式により規定される。下記の式において、θは、検査点における各検査で用いた輝度値である。
【0075】
【数1】

【0076】
下記のように、aは0より大きい定数であり、bは、R(Rは実数全体の集合である)に含まれる値である。
【0077】
【数2】

【0078】
検査点設定部72は、上記曲線を示す式を用いて、各検査済点の尤度L(a,b)を以下の式から求める。より具体的に説明すると、例えば、ある検査済点において1回目の検査では、輝度値が20dBであり、被検者の反応が認識した(Yes)の場合には、検査点設定部72は、確率fa,b(20)を用いる。2回目の検査では、輝度値が24dBであり、被検者の反応が認識しなかった(No)の場合には、検査点設定部72は、(1-fa,b(24))を用いる。3回目の検査では、輝度値が16dBであり、被検者の反応が認識した(Yes)の場合には、検査点設定部72は、確率fa,b(16)を用いる。検査点設定部72は、検査済点毎に、以上のように全ての検査の結果に応じた値の積を用い、尤度(a,b)が最大となる b を求める。
【0079】
【数3】

【0080】
各検査済み点に対して求めたbを、各検査済点の推定輝度値とする。例えば、検査済点(x)では、推定輝度値として、21dBが算出され、検査済点(x)では、推定輝度値として、19.6dBが算出され、検査済点(x)では、推定輝度値として、31.5dBが算出される。
【0081】
ステップ303で、検査点設定部72は、ガウス過程回帰を用いて、検査されなかった各未検査点の推定輝度値を算出する。具体的には、検査点設定部72は、各未検査点について、各検査済点の推定輝度値を用いて、以下の式から、推定輝度値E[X(x*)|D]を算出する。
【0082】
【数4】

【0083】
【数5】

【0084】
【数6】

【0085】
【数7】

【0086】
数4のk*および数5のKのK(x,x’)は、以下のGaussian RBFカーネル(Radial basis function kernel)である。下記の式において、θ1、θ2は実数である。
【0087】
【数8】

【0088】
K(x、x')のxは、各x、x、...Xを示し、x、x、...Xの各々は、検査済点の位置のXY座標である。
【0089】
K(x、x')のx’は、各未検査点x*のXY座標である。
【0090】
のy1、y2、...Yは、各検査済点の推定輝度値である。
【0091】
以上のように求められる各未検査点の推定輝度値E[X(x*)|D]は、各未検査点の、各検査済点の推定輝度値から推定される輝度値の平均的な値である。
【0092】
ステップ305で、検査点設定部72は、ガウス過程回帰を用いて、検査されなかった各未検査点の推定輝度値の信頼度として、以下の式から分散V[X(x*)|D]を算出する。
【0093】
【数9】

【0094】
**は、下記の通りである。
【0095】
【数10】

【0096】
ステップ305の処理が終了すると、図9のステップ136の処理が終了する。
【0097】
図13には、検査点(未検査点と検査済点とを含む)と、各検査点の推定輝度値との関係を示す図である。図9のステップ136の処理が終了すると、例えば、図13に示すように、各検査済点(x、x、x、...)の推定輝度値が求められ、未検査点(x、x、x、x、x、...)の推定輝度値およびその信頼度が求められる。図13において、曲線の周囲に存在する着色領域は、誤差の範囲を示し、着色領域の幅が小さいと推定輝度値の信頼度は高く、着色領域の幅が大きいと推定輝度値の信頼度が低い。
【0098】
図13に示すように、例えば、未検査点(x)は、検査済点(x、x)に隣接し、検査済点(x、x)に比較的近い。しかし、未検査点(x)は、検査済点(x)から比較的遠い。よって、未検査点(x)の推定輝度値の誤差の範囲は比較的小さく信頼度の値は高く、未検査点(x)の推定輝度値の誤差の範囲は比較的大きく信頼度は低い。
【0099】
ステップ138では、検査点設定部72は、追加検査が必要か否かを判定する。追加検査の要否は、推定輝度値の誤差の範囲に基づいて行う。ステップ138では、推定輝度値を算出した検査点の中に、誤差の範囲が所定範囲を超える検査点が存在する場合、追加検査が必要と判定する。ステップ138における所定範囲は、推定輝度値算出の試験を通じて具体的に決定する。
【0100】
ステップ138で、追加検査を要しないと判定した場合は処理を終了し、追加検査を要する場合は手順をステップ140に移行する。
【0101】
ステップ140では、検査点設定部72は、追加検査点の集合を設定する。本実施形態では、初期検査点の検査結果に基づいて被験者の症例を推定し、推定した症例に応じて追加検査点を設定する。症例の推定と、追加検査点の設定は、例えば、RNN(回帰型ニューラルネットワーク)等による機械学習済みの制御装置10を用いて行ってもよい。RNN等による機械学習においては、各々の症例に係る検査結果を教師データに用い、制御装置10を学習させる。
【0102】
図14Aは、異常なしの場合の各々の検査点の検査結果の例を示した概略図である。図14Aに四角形で示した初期検査点のいずれもが正常な場合は、図14Bに示した視野感度マップにおいて盲点186である視神経乳頭184に対応する暗部188が存在するのみであると推定する。そして、図14Cに示したように、上部領域202の初期検査点が疎な領域と下部領域204の初期検査点が疎な領域とに同数の五角形で示した追加検査点を設定する。
【0103】
図15Aは、上部領域202が鼻側穿破の場合の各々の検査点の検査結果の例を示した概略図である。図15Aに示したように、上部領域202の鼻側領域202Nに三角形で示した視野感度不良点が顕著な場合は、上部領域202の鼻側穿破の可能性がある。
【0104】
図15Bは、上部領域202が鼻側穿破の場合の視野感度マップの例を示した概略図である。ステップ140で上部領域202の鼻側穿破の可能性がある場合には、視野感度不良点が図15Bに示したように分布していると推定する。そして、図15Cに示したように、上部領域202の初期検査点が疎な領域と下部領域204の初期検査点が疎な領域とに五角形で示した同数の追加検査点を設定する。
【0105】
図16Aは、上部領域202が耳側楔状欠損の場合の各々の検査点の検査結果の例を示した概略図である。図16Aに示したように、上部領域202の耳側領域202Eに三角形で示した視野感度不良点が顕著な場合は、上部領域202の耳側楔状欠損の可能性がある。
【0106】
図16Bは、上部領域202が耳側楔状欠損の場合の視野感度マップの例を示した概略図である。ステップ140で上部領域202の耳側楔状欠損の可能性がある場合には、視野感度不良点が図16Bに示したように分布していると推定する。そして、図16Cに示したように、上部領域202の初期検査点が疎な領域と下部領域204の初期検査点が疎な領域とに追加検査点を各々設定するが、検査点設定部72は、疾患が疑われる上部領域202の耳側領域20Eへ優先的に五角形で示した追加検査点を設定する。
【0107】
図17Aは、鼻側階段の場合の各々の検査点の検査結果の例を示した概略図である。図17Aに示したように、下部領域204の鼻側領域204Nに三角形で示した視野感度不良点が顕著な場合は、下部領域204の鼻側階段の可能性がある。
【0108】
図17Bは、下部領域204が鼻側階段の場合の視野感度マップの例を示した概略図である。ステップ140で下部領域204の鼻側階段の可能性がある場合には、視野感度不良点が図17Bに示したように分布していると推定する。そして、図17Cに示したように、上部領域202の初期検査点が疎な領域と下部領域204の初期検査点が疎な領域とに五角形で示した追加検査点を各々設定する。また、以上説明した、鼻側穿破、耳側楔状欠損、及び鼻側階段に加えて、弓状暗点、傍中心暗点、水平半盲様視野、及び中心残存視野等の疾患についても判定し、判定した疾患に応じて追加検査点を設定してもよい。
【0109】
ステップ142では、検査点設定部72は、ステップ140で設定した追加検査点に提示する指標光の輝度値を選択する。ステップ142において、輝度値は、例えばランダムに選択されてもよく、操作者により選択されてもよく、過去データに基づいて自動的に選択されてもよい。
【0110】
ステップ144では、ステップ140で設定した追加検査点の集合から検査点を1つ選択する。選択する検査点は、追加検査点の集合からランダムに選択されてもよく、操作者により選択されてもよく、過去データに基づいて自動的に選択されてもよい。
【0111】
ステップ146では、ステップ144で選択した検査点の累積検査回数を取得する。累積検査回数は、前述の累積関数から抽出できるが、累積検査回数として累積関数とは独立したデータとして保持してもよい。
【0112】
ステップ148では、累積検査回数が1以上であるか否かを判定する。ステップ148で、累積検査回数が1以上の場合は手順をステップ150に移行し、累積検査回数が1以上でない場合は手順をステップ152に移行する。
【0113】
ステップ150では、ステップ144で選択した検査点に対して累積関数に基づく輝度値で指標光を提示する。検査点設定部72は、累積関数から抽出された輝度値の範囲から、提示する指標光の輝度値を設定する。本開示の技術において、提示する指標光の輝度値は、抽出された輝度値の範囲から、ランダムに抽出して設定してもよく、任意に定められた値を抽出して設定してもよい。例えば、検査点設定部72は、当該範囲から、提示する指標光の輝度値を、当該範囲の中の中央値又は3/4の値等を抽出してもよい。次に、検査点設定部72は、抽出した輝度値で指標光がステップ144で選択した検査点に入射されるように、投影装置を制御する。
【0114】
ステップ152では、ステップ142で設定した初期輝度値の指標光が被検者に提示される。
【0115】
ステップ154では、検査点設定部72は被験者の反応を取得する。ステップ150又はステップ152で提示された指標光を被検者が認識した場合には、被検者は応答部60のスイッチをオンする。これにより認識信号が制御装置10に送信される。指標光が提示されても被検者が認識しなかった場合には、被検者は応答部60のスイッチをオンしない。検査点設定部72は、指標光を提示した時から所定時間経過する前に、認識信号が送信されたか否かで、被験者が指標光を認識したか否かを判定する。例えば、検査点設定部72は、指標光を提示した時から所定時間経過する前に、認識信号が送信された場合には、被験者が指標光を認識した、との被験者の反応を取得する。上記所定時間経過しても認識信号が送信されなかった場合には、被検者は指標を認識しなかった、との被検者の反応を取得する。検査点設定部72は、ステップ154で取得した被験者の反応を外部記憶装置40に保存する。
【0116】
ステップ156で、検査点設定部72は、累積関数を更新する。本実施形態では、ステップ144からステップ156の処理が繰り返され、ステップ156における累積関数の更新処理も繰り返される。また、累積検査数も更新される。ステップ144からステップ156の処理を繰り返すことにより、ステップ140で設定した追加検査点の集合に属する各検査点に対して異なる輝度値の指標光を複数回提示し、各々の指標光に対する被検者の応答が得られるので、各提示における被験者の応答に基づいて各検査点に対応する累積関数を前述のステップ128と同様に更新する。
【0117】
ステップ158では、検査点設定部72は、ステップ144で選択した検査点の視野感度が十分な精度で推定可能か否かを判定する。本実施形態では、ステップ130と同様に、累積関数が図11Iのように下に凸の線形を描き、被験者が認識できた指標光の輝度が推定可能か否かを判定する。
【0118】
ステップ160では、判定条件を充足するか否かを判定する。ステップ160での判定条件は、ステップ140で設定した追加検査点を全て検査したか否かである。ステップ160で、追加検査点を全て検査した場合は手順をステップ162に移行し、追加検査点を全て検査していない場合は手順をステップ144に移行して、ステップ144からステップ158の手順を行う。
【0119】
ステップ162では、ステップ160までの手順で得た検査データを読み込む。そして、ステップ164では、検査点設定部72は、検査点集合200の中の各検査点について得られた累積関数に基づいて、全体の視野感度、即ち、検査点集合200の各検査点について視野感度(推定輝度値)を推定するデータ補間を前述のステップ136と同様に行う。
【0120】
ステップ166で、画像処理部74は、各検査済点と実行されていれば各追加検査点との各々の累積関数、全検査点集合の各検査点の推定輝度値、および未検査点の推定輝度値の信頼度を可視化するための画面データを作成する。
【0121】
具体的には、画面データとしては、第1に、図18Aに示すように、全検査点集合の各検査点の推定輝度値を示すグラフがある。
【0122】
第2に、図18Bに示すように、全検査点集合の各検査点の推定輝度値を示すグラフに、未検査点における推定輝度値の信頼度を、当該視野感度を中心として、追加したグラフである。
【0123】
第3に、図19に示すように、視野感度マップである。視野感度マップは、視野感度分布の表示方法の一例である。視野感度マップは、検査点集合に含まれる複数の検査点の視野感度データの分布を表示したものである。視野感度マップは検査点集合全体について生成してもよく、検査点集合の一部について生成してもよい。なお、視野感度マップには、信頼度のデータも含まれる。具体的には、図19に示すように、視野感度マップ510Mは、被検眼12の眼底を模擬した画像に、視野感度が所定値(dB)未満の検査点に、※が付されたマップの画面のデータである。また、視野感度マップ510Mは、信頼度が所定値以上の検査点の範囲510を点線で表示可能な画面データである。また、例えば、全検査点集合の各検査点の中で、未検査点については、検査済点および追加検査点の色とは異なる色で表示し、例えば、未検査点にカーソルが位置した場合、未検査点の推定輝度値の信頼度を表示可能な画面のデータでもよい。
【0124】
以上のように、本実施形態では、検査点集合200の中の各検査点について、累積関数を更新することで、探索(検査)する必要のある輝度値の範囲を徐々に絞り込んでいくことにより、ランダムに指標光の輝度値を設定する場合よりも視野検査を短時間で完了することが可能となっている。以下、累積関数を用いた本実施形態が効果的であることを、図20Aから図21Cを参照して説明する。図20Aから図21Cの各々では、横軸は、検査回数、縦軸は、感度の正しい値と、推定される感度との差を示している。縦軸における0は、正しい値と推定値との差がなく、推定値の精度が良いことを意味している。
【0125】
図20Aから図20Cには、被検眼の眼底の視神経の異なる3点における、ランダムに光強度を選択した際に、視野検査の結果に十分な精度を担保するための必要な検査回数を示している。図21Aから図21Cには、被検眼の眼底の視神経の異なる3点における、本実施形態の方法を適用した際の、十分な精度を担保するための必要な検査回数が示されている。
【0126】
ランダムに輝度値を選択する場合(図20Aから図20C)では、70から80回の検査が必要であるのに対し、本実施形態(図21Aから図21C)の方法で輝度値を選択すると3から15回の検査で十分である。よって、本実施形態の方法によれば、検査回数削減に寄与することが理解できる。
【0127】
図22に示すような、未検査点の推定輝度値を線形補間する方法である場合には、補間値の信頼度は考慮されていない。例えば、2つの未検査点の推定輝度値を直線で結ぶことで補間したり、スプライン法(多項式を用いて補間)したりする方法である場合には、補間値の信頼度は考慮されない。
【0128】
これに対し、本実施形態では、未検査点の推定輝度値と共に、推定輝度値の信頼度も推定している。具体的には、図23には、横軸に、各検査点、縦軸に、各検査点の対応する推定輝度値が示されている。点線が正しい値の線であり、実線は推定輝度値の線であり、信頼度が、推定輝度値を中心に幅として示されている。図23に示すように、信頼度が示されているので、本実施形態によれば、推定輝度値の確からしさをオペレータに認識させることができる。
【0129】
以上説明した実施の形態では、確率過程として、ガウス過程回帰が用いられ、Gaussian RBFカーネルが用いられている。本開示の技術では、確率過程として、ガウス過程回帰に限定されず、例えば、以下の多項式カーネルを用いてもよい。下記の式において、cは、実数であり、pは、正の整数である。
【0130】
【数11】

【0131】
また、以下のMaternカーネルを用いてもよい。下記の式において、Kvは、第二種変形ベッセル関数であり、vは、実数であり、Γ(v)は、ガンマ関数である。
【0132】
【数12】

【0133】
本実施形態の図9のステップ136では、検査点設定部72は、未検査点の推定輝度値を推定し、推定した未検査点の推定輝度値の信頼度を推定する。本開示の技術はこれに限定されない。検査点設定部72は、各検査済点の推定輝度値から、各未検査点の推定輝度値の取り得る値の範囲を計算し、計算した範囲の中の値(例えば、中央の値)を、各未検査点の推定輝度値として計算してもよい。
【0134】
上記の各確率過程は、全検査点集合の各検査点について同じであるが、本開示の技術はこれに限定されない。例えば、眼底の中心を含む所定範囲の中心領域と、中心領域の周辺の周辺領域とで、異なる確率過程を用いるようにしてもよい。
【0135】
また、推定輝度値が補間される未検査点は、指標光が被検眼12の瞳孔を介して到達する範囲に位置するが、当該到達する範囲に隣接する範囲、即ち、指標光が到達しない、つまり、視野検査できない位置の点についても、推定輝度値を推定してもよい。
【0136】
以上説明した各例では、コンピュータを利用したソフトウェア構成により視野検査処理が実現される場合を例示したが、本開示の技術はこれに限定されるものではない。例えば、コンピュータを利用したソフトウェア構成に代えて、FPGA(Field-Programmable Gate Array)またはASIC(Application Specific Integrated Circuit)等のハードウェア構成のみによって、画像処理が実行されるようにしてもよい。画像処理のうちの一部の処理がソフトウェア構成により実行され、残りの処理がハードウェア構成によって実行されるようにしてもよい。
【0137】
このように本開示の技術は、コンピュータを利用したソフトウェア構成により視野検査処理が実現される場合とされない場合とを含むので、以下の技術を含む。
【0138】
(第1の技術)
少なくとも第1部分領域及び第2部分領域に分割された視野範囲における、前記第1部分領域に含まれる、複数の第1検査点の感度を測定する処理部と、
前記第1部分領域に含まれる、前記第1検査点以外の検査点である複数の第2検査点の感度を、前記複数の第1検査点の感度を用いて推定する処理を行う検査点設定部と、
を備える視野検査装置。
【0139】
(第2の技術)
処理部が、少なくとも第1部分領域及び第2部分領域に分割された視野範囲における、前記第1部分領域に含まれる、複数の第1検査点の感度を測定する処理工程と、
検査点設定部が、前記第1部分領域に含まれる、前記第1検査点以外の検査点である複数の第2検査点の感度を、前記複数の第1検査点の感度を用いて推定する処理を行う推定工程と、
を備える視野検査方法。
【0140】
以上の開示内容から以下の技術が提案される。
(第3の技術)
視野検査するためのコンピュータープログラム製品であって、
前記コンピュータープログラム製品は、それ自体が一時的な信号ではないコンピュータ可読記憶媒体を備え、
前記コンピュータ可読記憶媒体には、プログラムが格納されており、
前記プログラムは、
コンピュータに、
少なくとも第1部分領域及び第2部分領域に分割された視野範囲における、前記第1部分領域に含まれる、複数の第1検査点の感度を測定するステップと、
前記第1部分領域に含まれる、前記第1検査点以外の検査点である複数の第2検査点の感度を、前記複数の第1検査点の感度を用いて推定する処理を行うステップと、
を実行させる、コンピュータープログラム製品。
【0141】
なお、制御装置10は、本開示の技術の「コンピュータープログラム製品」の一例である。
【0142】
以上説明した視野検査処理はあくまでも一例である。従って、主旨を逸脱しない範囲内において不要なステップを削除したり、新たなステップを追加したり、処理順序を入れ替えたりしてもよいことは言うまでもない。また、本明細書で開示された技術は、被検眼を検査する方法であって、前記被検眼の網膜上に設定された検査点に対して複数の光強度で光を提示して、前記網膜の前記検査点における感度を検出するステップと、検出された前記検査点における感度に基づいて、前記検査点以外の部位における感度を推定するステップと、前記推定された感度の信頼性を評価するステップと、を含む方法を含む。
【0143】
本明細書に記載された全ての文献、特許出願、および技術規格は、個々の文献、特許出願、および技術規格が参照により取り込まれることが具体的にかつ個々に記載された場合と同様に、本明細書中に参照により取り込まれる。
【0144】
なお、日本国特許出願第2021-100268号の開示は、その全体が参照により本明細書に取り込まれる。また、本明細書に記載された全ての文献、特許出願、及び技術規格は、個々の文献、特許出願、及び技術規格が参照により取り込まれることが具体的かつ個々に記された場合と同程度に、本明細書中に参照により取り込まれる。
図1
図2
図3
図4A
図4B
図4C
図4D
図5A
図5B
図5C
図5D
図5E
図6
図7
図8A
図8B
図8C
図9
図10
図11A
図11B
図11C
図11D
図11E
図11F
図11G
図11H
図11I
図12
図13
図14A
図14B
図14C
図15A
図15B
図15C
図16A
図16B
図16C
図17A
図17B
図17C
図18A
図18B
図19
図20A
図20B
図20C
図21A
図21B
図21C
図22
図23