(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-10
(45)【発行日】2025-02-19
(54)【発明の名称】複合粘土膜形成用塗工液、複合粘土膜及びその製造方法、並びに、複合粘土膜を有する積層体及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C09D 129/02 20060101AFI20250212BHJP
C01B 33/40 20060101ALI20250212BHJP
C09D 5/00 20060101ALI20250212BHJP
C09D 7/61 20180101ALI20250212BHJP
【FI】
C09D129/02
C01B33/40
C09D5/00 Z
C09D7/61
(21)【出願番号】P 2021008510
(22)【出願日】2021-01-22
【審査請求日】2023-07-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000104814
【氏名又は名称】クニミネ工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110002631
【氏名又は名称】弁理士法人クオリオ
(74)【代理人】
【識別番号】100076439
【氏名又は名称】飯田 敏三
(74)【代理人】
【識別番号】100161469
【氏名又は名称】赤羽 修一
(72)【発明者】
【氏名】窪田 宗弘
(72)【発明者】
【氏名】蛯名 武雄
(72)【発明者】
【氏名】相澤 崇史
【審査官】川嶋 宏毅
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-009983(JP,A)
【文献】特開2007-161795(JP,A)
【文献】特開2018-120058(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 1/00-10/00,
101/00-201/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水と粘土鉱物とブテンジオールビニルアルコールコポリマーとを含有する複合粘土膜形成用塗工液であって、
前記粘土鉱物がNa型モンモリロナイト及びLi型モンモリロナイトから選ばれ、
前記複合粘土膜形成用塗工液の固形分中の前記粘土鉱物の含有量が55~85質量%、前記ブテンジオールビニルアルコールコポリマーの含有量が15~45質量%であり、
前記複合粘土膜形成用塗工液の塗膜を乾燥して得られる複合粘土膜は、
常温で水に24時間浸漬してもタック性が上昇しない、複合粘土膜形成用塗工液。
【請求項2】
水と粘土鉱物とブテンジオールビニルアルコールコポリマーとを含有する複合粘土膜形成用塗工液であって、
前記粘土鉱物がNa型モンモリロナイト及びLi型モンモリロナイトから選ばれ、
前記複合粘土膜形成用塗工液の固形分中の前記粘土鉱物の含有量が55~85質量%、前記ブテンジオールビニルアルコールコポリマーの含有量が15~45質量%であり、
前記ブテンジオールビニルアルコールコポリマー中、3,4-ジアセトキシ-1-ブテン由来の構成成分と酢酸ビニル由来の構成成分の含有量比が、[3,4-ジアセトキシ-1-ブテン]:[酢酸ビニル]=20:80~80:20(モル比)であり、
前記ブテンジオールビニルアルコールコポリマーのけん化度が80モル%以上である、複合粘土膜形成用塗工液。
【請求項3】
粘土鉱物とブテンジオールビニルアルコールコポリマーとを複合化してなる複合粘土膜であって、
前記粘土鉱物がNa型モンモリロナイト及びLi型モンモリロナイトから選ばれ、
前記粘土鉱物の含有量が55~85質量%、前記ブテンジオールビニルアルコールコポリマーの含有量が15~45質量%であり、
常温で水に24時間浸漬してもタック性が上昇しない、複合粘土膜。
【請求項4】
粘土鉱物とブテンジオールビニルアルコールコポリマーとを複合化してなる複合粘土膜であって、
前記粘土鉱物がNa型モンモリロナイト及びLi型モンモリロナイトから選ばれ、
前記粘土鉱物の含有量が55~85質量%、前記ブテンジオールビニルアルコールコポリマーの含有量が15~45質量%であり、
前記ブテンジオールビニルアルコールコポリマー中、3,4-ジアセトキシ-1-ブテン由来の構成成分と酢酸ビニル由来の構成成分の含有量比が、[3,4-ジアセトキシ-1-ブテン]:[酢酸ビニル]=20:80~80:20(モル比)であり、
前記ブテンジオールビニルアルコールコポリマーのけん化度が80モル%以上である、複合粘土膜。
【請求項5】
前記複合粘土膜の厚みを2μmとしたとき、150℃において、水素透過度が30cm
3/m
2/day/atm以下である、請求項3又は4に記載の複合粘土膜。
【請求項6】
支持基材と、該支持基材上に形成された請求項3~5のいずれか1項に記載の複合粘土膜とを有する積層体。
【請求項7】
請求項1又は2に記載の複合粘土膜形成用塗工液を支持基材上に塗工して塗膜を形成し、該塗膜を乾燥することにより、支持基材上に複合粘土膜を得ることを含む、請求項3~5のいずれか1項に記載の複合粘土膜の製造方法。
【請求項8】
請求項1又は2に記載の複合粘土膜形成用塗工液を支持基材上に塗工して塗膜を形成し、該塗膜を乾燥することを含む、請求項6に記載の積層体の製造方法。
【請求項9】
前記の塗膜の乾燥後、乾燥した塗膜を130℃以上の熱処理に付す、請求項7又は8に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複合粘土膜形成用塗工液、複合粘土膜及びその製造方法、並びに、複合粘土膜を有する積層体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
食品、医薬品、化学薬品、電子デバイス用機器部品等の包装材や封止材の材料として、有機高分子を主成分とするフィルム(有機高分子フィルム)が用いられている。有機高分子フィルムは柔軟性や加工性に優れ、また種類に応じて耐水性やガスバリア性等の諸機能を発現する。
有機高分子フィルムの機能性を高めるために、異種の有機高分子フィルムを接着した複合フィルム、金属又は金属酸化物を蒸着させた有機高分子フィルムなども開発され、広く使用されている。しかし、これらのフィルムを製造するには設備コストが増加し、製造したフィルムは比較的高価なものとなる。
また、ガスバリア性についてみると、有機高分子フィルムの高分子鎖の分子運動は高温下で激しくなる。したがって、高温下では高分子鎖の隙間を気体分子が透過しやすくなる。すなわち、有機高分子フィルムのガスバリア性は高温下で著しく低下する傾向がある。それゆえ、有機高分子フィルムにおいて、特に水素、ヘリウム等の分子サイズが小さなガスに対するバリア性を、高温下でも十分に維持・発現させることは難しい。
【0003】
有機高分子以外の機能性フィルム材料として、粘土鉱物を主成分とする粘土膜が提案されている。粘土鉱物は厚さ約1nm、広がりが20~2000nm程度の2次元に広がる板状結晶(結晶層)が積層した構造をとる。粘土鉱物を水などの媒体中に混合すれば、粘土鉱物の結晶は自然に剥離して媒体中に粘土鉱物を比較的簡単に分散させることができる。そして、この分散液(スラリー)を基材に塗布し、乾燥させると、自己積層性により結晶層が積層した粘土膜を得ることができる。気体分子は粘土結晶内を透過することができず、粘土膜はガスバリア機能に優れている。しかし、粘土膜は水となじみ易く、耐水性の向上には制約がある。
粘土膜の耐水性を高める技術として、粘土鉱物と有機高分子を複合化する技術が提案されている。例えば特許文献1には、層状ケイ酸塩化合物、カルボキシ基含有樹脂、カルボキシ基に対して反応性を示す官能基を有する架橋剤、及び水を含有する粘土スラリーを用いて形成した粘土膜が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者らが検討を進めた結果、特許文献1記載の技術では、架橋反応が乾燥プロセスの中で起きるため、十分に脱溶媒されない状態で膜が形成されること、その結果、水素やヘリウムなどの分子サイズの小さなガスに対する高温下のバリア性を十分に高めることが難しいことがわかってきた。つまり、耐水性を高めながら、高度なガスバリア性をも併せ持つ粘土膜は実現できていない。
本発明は、粘土鉱物を主成分としながらも、優れた耐水性を示し、かつ、高度なガスバリア性も兼ね備えた機能性膜、及びその製造方法を提供することを課題とする。また本発明は、当該機能性膜の形成に好適な塗工液を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは上記課題に鑑み種々検討を重ねた。その結果、粘土鉱物を量的な主要成分とし、これにブテンジオールビニルアルコールコポリマーを複合化してなる複合粘土膜が、耐水性に優れ、かつ、高温下における水素ガス等のバリア性にも優れることを見出した。本発明はこれらの知見に基づき、更に検討を重ねて完成させるにいたったものである。
【0007】
本発明の上記の課題は以下の手段により解決された。
<1>
水と粘土鉱物とブテンジオールビニルアルコールコポリマーとを含有し、固形分中の粘土鉱物の含有量が55~85質量%、ブテンジオールビニルアルコールコポリマーの含有量が15~45質量%である、複合粘土膜形成用塗工液。
<2>
上記粘土鉱物が、モンモリロナイト、雲母、バーミキュライト、バイデライト、サポナイト、ヘクトライト、スチブンサイト、マガディアイト、アイラライト、及びカネマイトの少なくとも1種を含む、<1>に記載の複合粘土膜形成用塗工液。
<3>
上記粘土鉱物がモンモリロナイトを含む、<1>又は<2>に記載の複合粘土膜形成用塗工液。
<4>
粘土鉱物とブテンジオールビニルアルコールコポリマーとを複合化してなり、粘土鉱物の含有量が55~90質量%、ブテンジオールビニルアルコールコポリマーの含有量が10~45質量%である、複合粘土膜。
<5>
複合粘土膜の厚みを2μmとしたとき、150℃において、水素透過度が30cm3/m2/day(24時間)/atm以下である、<4>に記載の複合粘土膜。
<6>
支持基材と、該支持基材上に形成された<4>又は<5>に記載の複合粘土膜とを有する積層体。
<7>
<1>~<3>のいずれか1つに記載の複合粘土膜形成用塗工液を支持基材上に塗工して塗膜を形成し、該塗膜を乾燥することにより、支持基材上に複合粘土膜を得ることを含む、<4>又は<5>に記載の複合粘土膜の製造方法。
<8>
<1>~<3>のいずれか1つに記載の複合粘土膜形成用塗工液を支持基材上に塗工して塗膜を形成し、該塗膜を乾燥することを含む、<6>に記載の積層体の製造方法。
<9>
上記の塗膜の乾燥後、乾燥した塗膜を130℃以上の熱処理に付す、<7>又は<8>に記載の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明の複合粘土膜及び積層体は、優れた耐水性を示し、かつ、高度なガスバリア性をも示す。また本発明の複合粘土膜及び積層体の製造方法によれば、優れた耐水性を示し、かつ、高度なガスバリア性をも示す複合粘土膜ないし積層体を得ることができる。また本発明の複合粘土膜形成用塗工液は、優れた耐水性を示し、かつ、高度なガスバリア性をも示す複合粘土膜ないし積層体の形成に好適に用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の好ましい実施形態について説明する。
【0010】
[塗工液]
本発明の複合粘土膜形成用塗工液(以下、「本発明の塗工液」とも称す。)は、水と粘土鉱物とブテンジオールビニルアルコールコポリマー(以下、「BVOH」とも称す。)とを含有してなる。本発明の塗工液の固形分中(媒体(溶媒)を除いた成分中)、粘土鉱物の含有量は55~85質量%であり、当該固形分中のBVOHの含有量は15~45質量%である。本発明の塗工液は、通常は、BVOHが溶解している水又は水性媒体(水と水溶性有機溶媒との混合液)に粘土が分散した状態の分散液である。
粘土鉱物は水などの媒体と混合すると結晶層間が乖離して媒体中に分散する。ここにBVOHを共存させると、BVOHは媒体中に溶解し、粘土鉱物とBVOHとの均一混合物(スラリー、塗工液)を得ることができる。このスラリーを支持基材上に塗工し、塗膜を乾燥させると、粘土鉱物とBVOHとがナノレベルで複合化(一体化)した複合粘土膜が得られる。本発明において、粘土鉱物とBVOHとの「複合化」とは、上記のスラリー塗工~乾燥工程を経て得られる複合膜を意味する。
本発明の塗工液を構成する各成分について説明する。
【0011】
<粘土鉱物>
本発明の塗工液は粘土鉱物を特定量含有する。粘土鉱物は層状ケイ酸塩化合物で構成され、高温下でもガスバリア性が低下しにくい。また、粘土鉱物の結晶層は基本的にガスを透過させず、分子サイズの小さな水素ガスやヘリウムガスのバリア性にも優れている。
本発明に用いる粘土鉱物は、天然のものであっても、合成されたものであってもよい。本発明に用いる粘土鉱物は、モンモリロナイト、雲母、バーミキュライト、バイデライト、サポナイト、ヘクトライト、スチブンサイト、マガディアイト、アイラライト、及びカネマイトの少なくとも1種を含むことが好ましい。また、当該粘土鉱物はこれらの少なくとも1種を80質量%以上含むことが好ましく、90質量%以上含むことがより好ましい。本発明に用いる粘土鉱物は、更に好ましくは、モンモリロナイト、雲母、バーミキュライト、バイデライト、サポナイト、ヘクトライト、スチブンサイト、マガディアイト、アイラライト、及びカネマイトの少なくとも1種である。
なかでも本発明に用いる粘土鉱物は、モンモリロナイト、雲母、バイデライト、サポナイト、及びヘクトライトの少なくとも1種を含むことが好ましく、モンモリロナイトを含むことがより好ましい。本発明に用いる粘土鉱物は、モンモリロナイト、雲母、バイデライト、サポナイト、及びヘクトライトの少なくとも1種であることが好ましく、モンモリロナイトであることが特に好ましい。
【0012】
上記粘土鉱物は、水等の媒体への分散性、塗工液の塗工性の観点から、Na型粘土、Li型粘土、K型粘土、及びNH4型粘土から選ばれる1種又は2種以上が好ましく、Na型粘土又はLi型粘土がより好ましい。また、例えば、スラリーを用いて形成した粘土膜の耐水性をより高めることを考慮し、Mg型粘土、Ca型粘土、Al型粘土、及びCu型粘土から選ばれる1種又は2種以上の多価陽イオン型粘土を用いることもできる。
ここで、Na型、Li型、K型、NH4型、Mg型、Ca型、Al型、及びCu型の各粘土は、それぞれ、粘土の浸出陽イオン量(すなわち浸出陽イオンの総量、単位:meq/100g)に占めるNa+、Li+、K+、NH4
+、Mg2+、Ca2+、Al3+、及びCu2+の量(単位:meq/100g)が70%以上である粘土を意味する。
本明細書において、粘土の浸出陽イオン量は、粘土の層間陽イオンを粘土0.5gに対して100mLの1M酢酸アンモニウム水溶液(Al型粘土については1M硫酸、NH4型粘土については10質量%塩化カリウム水溶液)を用いて4時間かけて浸出させ、得られた溶液中の各種陽イオンの濃度を、ICP発光分析、原子吸光分析、アンモニア電極等により測定し、算出されるものである。
【0013】
本発明の塗工液の固形分中において、上記粘土の含有量は55~85質量%であり、好ましくは57~83質量%であり、より好ましは58~82質量%であり、更に好ましくは59~81質量%である。また、当該含有量は65質量%以上とすることも好ましく、70質量%以上とすることも好ましい。
【0014】
本発明に用いる粘土鉱物は市場から入手することもできる。例えば、Na型モンモリロナイトを主成分とする天然のベントナイトを精製したクニピア-F、Li型モンモリロナイトを主成分とする天然のベントナイトを精製したクニピア-M、合成サポナイトとしてスメクトン-SA、合成スチブンサイトとしてスメクトン-ST、合成ヘクトライトとしてスメクトン-SWN(いずれもクニミネ工業株式会社製)等が挙げられる。
【0015】
<ブテンジオールビニルアルコールコポリマー(BVOH)>
本発明の塗工液はBVOHを特定量含有する。BVOHを特定量含有することにより、粘土膜のガスバリア性を十分に発現させながら、粘土膜の耐水性も効果的に高めることができる。すなわち、BVOHは水溶性であるため粘土鉱物とナノレベルで均一混合物を形成でき、得られる膜において粘土粒子の空隙を隙間なく埋めるバインダーとして機能し、粘土鉱物とBVOHとがナノレベルで複合化(一体化)した複合粘土膜を形成することができる。こうして形成した複合粘土膜が高度なガスバリア性を発現する理由は定かではないが、粘土結晶とBVOHとの間で強固な水素結合が形成されることなどが一因と考えられる。
【0016】
本発明に用いるBVOHは3,4-ジアセトキシ-1-ブテンと酢酸ビニルの反応によって得られた共重合体を加水分解して得ることができる。本発明に用いるBVOHは、ランダムコポリマーであっても、ブロックコポリマーであってもよい。BVOHの原料モノマーとして用いる3,4-ジアセトキシ-1-ブテンと酢酸ビニルの共重合比は特に限定されない。例えば、[3,4-ジアセトキシ-1-ブテン]:[酢酸ビニル]=1:99~99:1(モル比)とすることができ、[3,4-ジアセトキシ-1-ブテン]:[酢酸ビニル]=10:90~90:10(モル比)とすることも好ましく、[3,4-ジアセトキシ-1-ブテン]:[酢酸ビニル]=20:80~80:20(モル比)とすることも好ましい。
また、BVOHの重合度も特に制限はない。例えば、100~10000とすることができ、200~5000とすることも好ましく、250~3000とすることも好ましい。BVOHの重合度は小さい方が、分散液の粘土が低くなり、取り扱い性の観点で好ましい。
また、BVOHのけん化度は70モル%以上が好ましく、80モル%以上がより好ましく、90モル%以上であることも好ましい。けん化度が高い方が、得られる複合粘土膜の耐水性が高まる傾向にある。
【0017】
BVOHは市場から入手することもでき、例えば、G-polymer(三菱ケミカル社製、けん化度95.0モル%以上)を好ましい例として挙げることができる。また、常法によりモノマーを付加重合してBVOHを得ることもできる。
【0018】
本発明の塗工液の固形分中において、上記ブテンジオールビニルアルコールコポリマーの含有量は15~45質量%であり、好ましくは17~43質量%であり、より好ましくは18~42質量%であり、更に好ましくは19~41質量%である。また、当該含有量は35質量%以下とすることも好ましく、30質量%以下とすることも好ましい。
【0019】
<その他の成分>
本発明の塗工液は、本発明の効果を損なわない範囲で、シランカップリング剤、架橋剤、BVOH以外の有機高分子、シリカ、界面活性剤、無機ナノ粒子等を含んでいてもよい。これらの成分の含有量は合計で、通常は塗工液の固形分中10質量%以下である。
【0020】
[塗工液の調製]
本発明の塗工液は、例えば、粘土鉱物と、必要に応じてその他の成分とを、水又は水性媒体と混合して粘土分散液を調製し、この粘土分散液と、BVOH水溶液とを混合して調製することができる。
上記水性溶媒は、水と水溶性有機溶媒を含む。この水性媒体は50質量%以上が水であることが好ましく、70質量%以上が水であることがより好ましく、80質量%以上が水であることが更に好ましく、90質量%以上が水であることが特に好ましく、100質量%が水(有機溶媒を含まない)であってもよい。水溶性有機溶媒に特に制限はなく、目的に応じて適宜に選択される。例えば、エタノール、イソプロパノール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、1,3-ブチレングリコール、ペンタメチレングリコール、ヘキシレングリコール、ヘキシレングリコール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、グリセリン、ジグリセリン、ポリグリセリンなどのアルコール類を挙げることができ、これらの1種又は2種以上を用いることができる。
粘土分散液中の粘土鉱物の含有量は、例えば1~30質量%程度とすることができ、5~20質量%程度とすることも好ましい。
BVOHは50~90℃程度に加温することより、水への溶解性を高めることができる。BVOH水溶液中のBVOHの含有量は、1~10質量%程度とすることができ、3~7質量%とすることも好ましい。
【0021】
本発明の塗工液の固形分中、上記粘土及びBVOHの好ましい含有量は上記される通りである。また、本発明の塗工液の固形分濃度は、塗工性の観点から、好ましくは2~10質量%であり、より好ましくは3~7質量%である。
【0022】
粘土分散液とBVOH水溶液の混合方法は特に限定されず、例えば、羽根付き撹拌機、自公転ミキサー、万能混合器、ホモミキサー等の通常の撹拌機又は混合機を使用して混合することができる。
【0023】
[複合粘土膜]
本発明の複合粘土膜は、粘土鉱物とブテンジオールビニルアルコールコポリマーとを上記の通りに複合化してなり、粘土鉱物の含有量が55~90質量%、ブテンジオールビニルアルコールコポリマーの含有量が10~45質量%である。
本発明の複合粘土膜のガスバリア性は高く、粘土複合膜を厚み2μmに形成したとき、150℃において、水素透過度は30cm3/m2/day/atm以下であり、好ましくは20cm3/m2/day/atm以下であり、より好ましくは10cm3/m2/day/atm以下であり、更に好ましくは5cm3/m2/day/atm以下である。本発明のガスバリア膜の水素透過度は、後述する実施例に記載の方法で測定される。
【0024】
[複合粘土膜の製造方法]
本発明の複合粘土膜は、本発明の塗工液を支持基材上に塗工して塗膜を形成し、この塗膜を乾燥させることにより、支持基材上に本発明の複合粘土膜を得ることができる。
上記支持基材の形状は特に限定されず、板状、シート状、又はフィルム状であってよく、立体形状であってもよい。上記フィルムとしては、例えば、ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリプロピレンフィルム等が挙げられる。上記支持基材上の材料としてはフェノール樹脂、エポキシ樹脂、ポリカーボネート樹脂等の樹脂も挙げられる。
本発明の複合粘土膜と上記支持基材上の密着性を向上させるため、上記支持基材上に対し、フレーム処理、コロナ処理、あるいはシランカップリング剤処理を施したり、樹脂の水溶液、エマルジョン、あるいは市販のアンカーコート剤等を用いて上記支持基材を表面処理したりできる。
【0025】
本発明の塗工液の塗工方法は特に限定されず、スプレー法、スピンコート法、ディップ法、ロールコート法、ブレードコート法、ドクターロール法、ドクターブレード法、カーテンコート法、スリットコート法、スクリーン印刷法、インクジェット法、ディスペンス法等が挙げられる。
【0026】
上記塗膜の乾燥温度は特に制限されず、例えば、70~120℃とすることができる。乾燥時間も塗膜を十分に乾燥できればよく、例えば、1分~24時間とすることができ、15分~12時間とすることも好ましく、20分~3時間とすることも好ましい。
また、上記塗膜の乾燥後に、上記支持基材の耐熱温度の範囲内で、例えば130℃以上(好ましくは140℃以上、更に好ましくは150℃以上)の熱処理に付すことができる。この熱処理時間は、好ましくは1分~24時間であり、より好ましくは15分~12時間であり、更に好ましくは20分~3時間である。この熱処理を行わなくても、十分に高い耐水性とガスバリア性を示す複合粘土膜を得ることができるが、熱処理を行うことにより溶媒を完全に除去でき、より緻密化された、より高耐水性で、より高ガスバリア性の複合粘土膜を得ることが可能となる。すなわち、本発明の複合粘土膜は130℃以上の熱処理品であることも好ましい形態である。熱処理による緻密化の程度は、複合粘土膜の密度の測定、X線回折の001ピークの値が高角度にシフトすることによりある程度把握することができるが、複合粘土膜の構造として具体的に、正確に特定することは困難であり、本発明では粘土複合膜の状態を上記のようにその熱処理温度により特定することがある。上記熱処理温度は、通常は200℃以下である。
【0027】
[積層体及びその製造方法]
本発明の積層体は、上記支持基材と、該支持基材上に形成された本発明の複合粘土膜とを有する。本発明の積層体は、支持基材と複合粘土膜との2層構造の積層体でもよく、支持基材や複合粘土膜の表面に更に別の層を有してもよい。例えば、支持基材と複合粘土膜との間にシランカップリング剤層などのプライマー層や樹脂層を有してもよい。また、複合粘土膜の支持基材側とは反対側の面や、支持基材の複合粘土膜側とは反対側の面に、樹脂等で形成されたコーティング層などを有してもよい。本発明の積層体を構成する支持基材とその上の複合粘土膜の好ましい形態、支持基材上への複合粘土膜の形成方法の好ましい実施形態は、上述した通りである。
【実施例】
【0028】
次に、本発明を下記の実施例に基づいて更に詳細に説明するが、本発明は本発明で規定すること以外は、これらの実施例により何ら限定されるものではない。
【0029】
<塗工液の調製>
-塗工液1の調製-
蒸留水90質量部に対し、Li型モンモリロナイト(商品名:クニピア-M、クニミネ工業社製)10質量部を、万能混合機(アイコー社製)にて撹拌混合して、Li型モンモリロナイトを10質量%含有するペーストを得た。
また、蒸留水90質量部に対し、BVOH(三菱ケミカル社製G-polymer)10質量部を混合し、更に60~80℃の蒸留水を加えてBVOHを溶解し、BVOHを5質量%濃度で溶解してなるBVOH水溶液を得た。
得られたペーストとBVOH水溶液と蒸留水とを混合し、固形分含有量が5質量%、該固形分中のLi型モンモリロナイトの含有量が80質量%、該固形分中のBVOHの含有量が20質量%となるように、スリーワンモータ(アズワン社製)のディスパー羽根にて撹拌混合し、塗工液1を得た。
【0030】
-塗工液2の調製-
塗工液1の調製において、Li型モンモリロナイトに代えて、Na型モンモリロナイト(クニミネ工業社製クニピア-F)を用いたこと以外は、塗工液1と同様にして塗工液2を得た。
【0031】
-塗工液3の調製-
塗工液1の調製において、得られる塗工液固形分中のLi型モンモリロナイトの含有量が60質量%、当該固形分中のBVOHの含有量が40質量%になるように上記ペーストと上記BVOH水溶液と蒸留水とを撹拌混合したこと以外は、塗工液1と同様にして塗工液3を得た。塗工液3の固形分含有量は5質量%とした。
【0032】
-比較塗工液1の調製-
塗工液1の調製における5質量%BVOH水溶液を比較塗工液1とした。
【0033】
-比較塗工液2の調製-
蒸留水95質量部に対し、Li型モンモリロナイト(商品名:クニピア-M、クニミネ工業社製)5質量部を、万能混合機(アイコー社製)にて撹拌混合し、Li型モンモリロナイトを5質量%含有する比較塗工液2を得た。
【0034】
-比較塗工液3の調製-
蒸留水95質量部に対し、Na型モンモリロナイト(商品名:クニピア-F、クニミネ工業社製)5質量部を、万能混合機(アイコー社製)にて撹拌混合し、Na型モンモリロナイトを5質量%含有する比較塗工液3を得た。
【0035】
-比較塗工液4の調製-
塗工液1の調製において、得られる塗工液固形分中のLi型モンモリロナイトの含有量が20質量%、当該固形分中のBVOHの含有量が80質量%になるように上記ペーストと上記BVOH水溶液と蒸留水とを撹拌混合したこと以外は、塗工液1と同様にして比較塗工液4を得た。比較塗工液4の固形分含有量は5質量%とした。
【0036】
-比較塗工液5の調製-
塗工液1の調製において、得られる塗工液固形分中のLi型モンモリロナイトの含有量が40質量%、当該固形分中のBVOHの含有量が60質量%になるように上記ペーストと上記BVOH水溶液と蒸留水とを撹拌混合したこと以外は、塗工液1と同様にして比較塗工液5を得た。比較塗工液5の固形分含有量は5質量%とした。
【0037】
-比較塗工液6の調製-
塗工液1の調製において、得られる塗工液固形分中のLi型モンモリロナイトの含有量が90質量%、当該固形分中のBVOHの含有量が10質量%になるように上記ペーストと上記BVOH水溶液と蒸留水とを撹拌混合したこと以外は、塗工液1と同様にして比較塗工液6を得た。比較塗工液6の固形分含有量は5質量%とした。
【0038】
-比較塗工液7の調製-
塗工液1の調製において、5質量%BVOH水溶液に代えて、5質量%水溶性ナイロン(商品名:AQポリマー、東レ社製)水溶液を用いたこと以外は、塗工液1と同様にして比較塗工液7を調製した。比較塗工液7の固形分含有量は5質量%とした。
【0039】
-比較塗工液8の調製-
塗工液1の調製において、5質量%BVOH水溶液に代えて、エチレンアクリル酸共重合体(商品名:ザイクセンA、住友精化社製)とポリカルボジイミド(日清紡ケミカル社製カルボジライトV-02)とを質量基準で等量含有する水溶液を用いて、固形分中のエチレンアクリル酸共重合体及びポリカルボジイミドの各含有量がいずれも15質量%(固形分中の粘土鉱物濃度は70質量%)である比較塗工液8を調製した。比較塗工液8の固形分含有量は5質量%とした。
【0040】
[実施例1~3、比較例1~6]
塗工液1~3、比較塗工液1~6のそれぞれを、PETフィルム上にキャスティングナイフを用いて塗布し、80℃にて2時間、次いで150℃で1時間処理した。こうして、PETフィルム上に複合粘土膜、粘土膜、又はBVOH膜を有する積層体を得た。
各積層体を5cm角に切り出し、切り出した積層体を蒸留水に浸漬し、常温で24時間静置した。この24時間浸漬後の膜(PETフィルム上の膜)の状態を観察し、下記基準に当てはめ耐水性を評価した。塗工液1~3がそれぞれ実施例1~3に対応し、比較塗工液1~6がそれぞれ比較例1~6に対応する。結果を表1に示す。
【0041】
-耐水性の評価基準-
A:形状変化なし、タック性なし
B:形状変化なし、タック性あり
C:水を含んで崩壊あるいは溶解している
【0042】
【0043】
BVOHを含まない比較塗工液2及び3から形成された複合粘土膜は、水中へ浸漬後、すぐに膨潤が進み、崩壊してしまった。また、比較塗工液6から形成された複合粘土膜の結果から、BVOHを含有しても、その量が本発明で規定するよりも少ないと、水中へ浸漬すると水がなじみ易くタック性(粘着性)を示す性状となった。また、固形分中のBVOHの含有量が本発明で規定するよりも多い比較塗工液4及び5から形成された各複合粘土膜もまた、水中へ浸漬後、膜が崩壊ないし溶解したり、膜表面が水になじんでタック性を示したりした。また、BVOH水溶液である比較塗工液1を用いて膜を形成した場合にも、膜表面は水になじみ易くタック性を示す性状となった。
一方、塗工液1~3から形成された複合粘土膜は、水中へ浸漬しても長時間形状を維持し、タック性も示さず、優れた耐水性を示した。
【0044】
[実施例4]
フェノール樹脂(厚さ約1.8mm)の支持基材をアルコール洗浄後、洗浄面に、シランカップリング剤としてN-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン(KBM-603、信越化学社製)をイソプロピルアルコールに1質量%濃度で溶解した溶液を塗布して乾燥し、支持基材表面をシランカップリング剤で処理した。その後、塗工液1を乾燥後の厚みが2μmとなるようにシランカップリング剤処理面にスプレー塗工し、80℃にて30分間乾燥した。次いで、30分間かけて160℃まで昇温し、160℃で30分間の熱処理に付した。こうして、支持基材上に複合粘土膜が形成された積層体を得た。下記に示す方法により、この積層体の水素ガス透過度、複合粘土膜の高温耐水性、複合粘土膜の耐候性をそれぞれ評価した。結果を表2に示す。
【0045】
[実施例5]
実施例4において、シランカップリング剤に代えてBVOH(1質量%水溶液)を使用したこと以外は、実施例4と同様にして積層体を得て、各評価試験に付した。
【0046】
[比較例7]
実施例4において、塗工液1に代えて比較塗工液7を使用し、乾燥後の熱処理温度を150℃にしたこと以外は、実施例4と同様にして積層体を得て、各評価試験に付した。
【0047】
[比較例8]
実施例4において、塗工液1に代えて比較塗工液8を使用したこと以外は、実施例4と同様にして積層体を得て、各評価試験に付した。
【0048】
[比較例9]
フェノール樹脂の支持基材そのものを各評価試験に付した。
【0049】
<水素ガス透過度の測定>
各試験片の水素ガス透過度を差圧式ガス透過率測定装置(装置名:GTR-30XAD2、G2700、それぞれGTRテック社、ヤナコテクニカルサイエンス社製)を用い、150℃で測定した。
【0050】
ビーカー中の蒸留水に各積層体(比較例9はフェノール樹脂基材のみ、以下同様。)を浸漬した状態で蒸留水を1時間沸騰させ、下記基準にあてはめ積層体の高温耐水性を評価した。
-高温耐水性の評価基準-
A:形状変化なし、タック性なし
B:形状変化なし、タック性あり
C:水を含んで崩壊あるいは溶解している
【0051】
各積層体を、オートクレーブ(サイエンスオートクレーブNCC-1701B、アズワン社製)を用いて121℃で1時間処理し、下記基準に従って試験片の耐候性(高温高湿耐性)を評価した。
-耐候性の評価基準-
A:粘土複合膜が支持基材から剥離せず、オートクレーブ処理前の形状を維持していた。
C:粘土複合膜が支持基材から剥離し、膜が崩壊していた。
【0052】
【0053】
フェノール樹脂の支持基材の水素ガス透過度は非常に大きく、フェノール樹脂の支持基材は水素ガスバリア性をほとんど示さない(比較例9)。したがって、実施例4及び5、比較例7及び8の各積層体の水素ガス透過度は、各積層体が備える各複合粘土膜の水素ガス透過度とみなすことができる。
上記表2に示される通り、粘土鉱物と複合化する樹脂としてBVOH以外の樹脂を用いた比較例7及び8の積層体は、水素ガスバリア性、高温耐水性及び耐候性に劣る結果となった。
これに対し、本発明の複合粘土膜を有する実施例4及び5の積層体は、高温においても優れたガスバリア性を示し、また、高温耐水性と耐候性にも優れていた。