(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-10
(45)【発行日】2025-02-19
(54)【発明の名称】真空蒸着装置用の蒸着源
(51)【国際特許分類】
C23C 14/24 20060101AFI20250212BHJP
【FI】
C23C14/24 A
(21)【出願番号】P 2021038763
(22)【出願日】2021-03-10
【審査請求日】2023-12-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000231464
【氏名又は名称】株式会社アルバック
(74)【代理人】
【識別番号】110000305
【氏名又は名称】弁理士法人青莪
(72)【発明者】
【氏名】中村 寿充
(72)【発明者】
【氏名】小野田 淳吾
【審査官】宮崎 園子
(56)【参考文献】
【文献】特開平03-075318(JP,A)
【文献】特開2014-065957(JP,A)
【文献】特開2012-160566(JP,A)
【文献】国際公開第2019/235118(WO,A1)
【文献】特開2019-001671(JP,A)
【文献】特公昭46-001246(JP,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空チャンバ内に配置され、固体の蒸着物質を蒸発させて被蒸着物に対して蒸着するための真空蒸着装置用の蒸着源であって、蒸着物質が充填される収容箱と、収容箱内の蒸着物質の加熱を可能とする第1の加熱手段とを備えるものにおいて、
一部が加熱により収容箱内で融解した蒸着物質に浸漬されると共にその残余部が収容箱内から外方へと延出された気化体を更に備え、
気化体は、有底筒状の輪郭を有してその開口面側を先頭にして収容箱の上方から収容箱内に挿入されるメッシュ部材であって、収容箱への挿入状態でメッシュ部材の外面と収容箱の内側面との間の隙間が100μm以下になるように構成したものであり、融解した蒸着物質が毛細管現象により残余部に浸透し、残余部のうち、メッシュ部材の底面をなす収容箱の上壁部と平行な部分に浸透した蒸着物質を加熱して気化させる第2の加熱手段を設けたことを特徴とする真空蒸着装置用の蒸着源。
【請求項2】
真空チャンバ内に配置され、固体の蒸着物質を蒸発させて被蒸着物に対して蒸着するための真空蒸着装置用の蒸着源であって、蒸着物質が充填される収容箱と、収容箱内の蒸着物質の加熱を可能とする第1の加熱手段とを備えるものにおいて、
一部が加熱により収容箱内で融解した蒸着物質に浸漬されると共にその残余部が収容箱内から外方へと延出された気化体を更に備え、
気化体は、シート状のメッシュ部材で構成され、メッシュ部材が、収容箱の内側面との間に100μm以下の隙間を存して対向する第1部分と、収容箱内に充填される蒸着物質より上方に位置する第1部分の先端から屈曲されて収容箱の外方に向けてのびる第2部分と、第2部分から鉛直方向下方にのびる第3部分とを有して、融解した蒸着物質が毛細管現象により残余部に浸透するように構成され、第3部分に浸透した蒸着物質を加熱して気化させる第2の加熱手段を設けたことを特徴とする真空蒸着装置用の蒸着源。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、真空チャンバ内に配置され、固体の蒸着物質を蒸発させて被蒸着物に対して蒸着するための真空蒸着装置用の蒸着源に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、有機EL素子の製造工程においては、真空雰囲気中で基板などの被蒸着物に対して、α-NPDや2-TNATAといった固体の蒸着物質(有機材料)を蒸発させて被蒸着物表面に所定の薄膜を蒸着する工程があり、蒸着工程には、一般に、真空蒸着装置が利用される。このような真空蒸着装置に用いられる蒸着源は、例えば特許文献1で知られている。このものは、鉛直方向上面を開口した坩堝(収容箱)と、坩堝を加熱する加熱手段とを備える。加熱手段としては、誘導コイルを備える誘導加熱式のものが利用される(従来技術の欄、参照)。
【0003】
上記蒸着源を備える真空蒸着装置により被蒸着物表面に所定の薄膜を蒸着するのに際しては、坩堝内に例えば粉末状の蒸着物質を充填し、真空雰囲気の真空チャンバ内で誘導加熱コイルに交流電流を通電する。すると、坩堝に誘導電流(渦電流)が流れるときの抵抗損失により発生するジュール熱で、坩堝が加熱され、主として坩堝からの伝熱で坩堝内の蒸着物質が加熱され、坩堝内の蒸着物質が融解(液化)する。そして、蒸気圧に応じた所定温度まで加熱されると、融解した蒸着物質が気化する。このとき、坩堝の上面開口を臨むその液面からしか蒸着物質は気化しない。このため、坩堝内に充填された蒸着物質の上層部分が気化する温度に達するように坩堝全体を加熱すると、坩堝内の下層部分に存する蒸着物質に過剰な熱負荷が加わって蒸着物質が熱劣化(有機材料の場合、熱分解や熱変性等)するといった問題を招来する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、以上の点に鑑み、収容箱内に充填した蒸着物質に過剰な熱負荷が加わることなく、効率よく蒸着物質を蒸発させることができるようにした真空蒸着装置用の蒸着源を提供することをその課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、真空チャンバ内に配置され、固体の蒸着物質を蒸発させて被蒸着物に対して蒸着するための本発明の真空蒸着装置用の蒸着源は、蒸着物質が充填される収容箱と、収容箱内の蒸着物質の加熱を可能とする第1の加熱手段とを備え、一部が加熱により収容箱内で融解した蒸着物質に浸漬されると共にその残余部が収容箱内から外方へと延出された気化体を更に備え、気化体は、融解した蒸着物質が毛細管現象により残余部に浸透するように構成され、残余部に浸透した蒸着物質を加熱して気化させる第2の加熱手段を設けたことを特徴とする。
【0007】
本発明によれば、収容箱内に、例えば、粉末状の蒸着物質を所定の充填率で充填し、真空雰囲気中で収容箱を第1の加熱手段により所定温度(融解温度)に加熱すると、主として収容箱の壁面からの伝熱で収容箱内の蒸着物質が融解(液化)する。この液化した蒸着物質の一部は、毛細管現象により気化体の残余部へと浸透する。そして、この残余部へと浸透した蒸着物質が、第2の加熱手段により蒸気圧に応じた所定温度(気化温度)まで更に加熱されることで、気化する(なお、残余部へと浸透した蒸着物質を気化させていくと、残余部には、液化した蒸着物質が毛細管現象により順次浸透していくため、連続して蒸着することができる)。このように本発明では、蒸着物質を融解させる部分と蒸着物質を気化させる部分とにわけたことで、蒸着物質を融解させる部分としての収容箱内では、第1の加熱手段が、蒸着物質を融解させるのに必要な熱量を加えて保持するだけで済む。このため、蒸着物質に過剰な熱負荷が加わることが可及的に抑制され、しかも、第2の加熱手段を設けたことで、残余部に浸透した蒸着物質を加熱して効率よく気化させることができる。
【0008】
本発明において、前記気化体はメッシュ部材で構成され、前記収容箱の上壁部または前記収容箱内に充填される蒸着物質より上方に位置する収容箱の側壁部に、前記残余部の挿通を可能とする透孔が設けられる構成を採用することができる。メッシュ部材としては、例えば、ステンレス鋼(SUS304等)、チタン、タンタル、タングステン、モリブデンやカーボンといった耐熱性を持つ材料製で且つ所定径を持つ線材またはこのような線材の複数本を撚ったものを例えば平織りし、または、線材を綾畳織りして線材間に細い空間(隙間)が形成されるようにしたものが利用できる。これにより、収容箱内で液化した蒸着物質の一部を毛細管現象により気化体の残余部へと浸透させる構成が実現できるばかりか、収容箱の加熱時に、収容箱の壁面からの輻射による加熱量が増加して、収容箱内の蒸着物質をより効率よく加熱することができる。ここで、上記従来例のものでは、蒸着物質の気化量を調整しようとする場合、加熱手段により坩堝(収容箱)に加える熱量を変化させて坩堝全体の温度を制御することになるが、坩堝の熱容量により蒸着物質の気化量を応答性よく調整することはできない。それに対して、本発明では、蒸着物質を気化させる部分の熱容量は、収容箱と比較して小さくできるため、応答性よく気化量を調整することができる。また、第2の加熱手段により加える熱量を低下させるだけで、蒸着物質の気化を停止できるため、例えば、真空チャンバ内で成膜済みの被成膜物と成膜前の被成膜物とを交換するような場合に、無駄に蒸着物質が消費されることを抑制でき、しかも、被成膜物に対する蒸着も速やかに再開することができる。
【0009】
また、本発明において、前記気化体の残余部は、前記収容箱の側壁部内面から隙間を存して配置される浸透部分と、収容箱外に位置して第2の加熱手段により加熱される気化部分とを含む構成を採用することができる。これによれば、収容箱内で融解した蒸着物質が毛細管現象により気化体に浸透する際に、この液化した蒸着物質が収容箱の側壁部内面と浸透部分との間の隙間に引き寄せられてせり上がることで、確実に気化部分へと液化した蒸着物質を浸透させることができる。なお、隙間の大きさは、毛細管現象を発現するものであれば、特に限定はないが、100μm以下、より好ましくは60μm以下に設定される。また、隙間は、その全体に亘って均等に設けられている必要はなく、例えば、部分的に(点)接触していてもよい。更に、被蒸着物が所定面積を持つ基板であるような場合、気化部分を平板状のものとして形成すれば、高い蒸着(成膜)レートで基板に蒸着でき、有利である。
【0010】
更に、本発明において、前記気化体の気化部分は、前記収容箱の上面より下方に向けてのびる部分を含むことが好ましい。これによれば、液化した蒸着物質を気化部分まで浸透させる際に、毛細管現象に重力が加わることで、より確実に気化部分へと液化した蒸着物質を浸透させることができ、有利である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の実施形態の蒸着源を備える真空蒸着装置を模式的に示す断面図。
【
図3】
図3(a)は、他の実施形態の蒸着源の拡大断面図であり、
図3(b)は、更に他の実施形態の蒸着源の拡大断面図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照して、被蒸着物を矩形の輪郭を持つ所定厚さのガラス基板(以下、「基板Sw」という)、蒸着物質を加熱により蒸発(液相を経て気化)する固体の有機材料Msとし、基板Swの一方の面に所定の有機膜を蒸着する場合を例に本発明の真空蒸着装置用の蒸着源の実施形態を説明する。以下において、「上」、「下」といった方向を示す用語は、真空蒸着装置の設置姿勢で示す
図1を基準にする。
【0013】
図1及び
図2を参照して、本実施形態の蒸着源DS
1を備える真空蒸着装置Dmは、真空チャンバ1を備え、真空チャンバ1には、特に図示して説明しないが、排気管を介して真空ポンプが接続され、所定圧力(真空度)に真空排気して真空雰囲気を形成することができる。また、真空チャンバ1の上部には基板搬送装置2が設けられている。基板搬送装置2は、成膜面としての下面を開放した状態で基板Swを保持するキャリア21を有し、図外の駆動装置によってキャリア21、ひいては基板Swを真空チャンバ1内の一方向に所定速度で搬送することができる。基板搬送装置2としては公知のものが利用できるため、これ以上の説明は省略する。
【0014】
基板搬送装置2によって搬送される基板Swと蒸着源DS1との間には、板状のマスクプレート3が設けられている。本実施形態では、マスクプレート3は、基板Swと一体に取り付けられて基板Swと共に基板搬送装置2によって搬送される。なお、マスクプレート3は、真空チャンバ1に予め固定配置しておくこともできる。マスクプレート3には、板厚方向に貫通する複数の開口31が形成され、これら開口31がない位置にて、蒸発した有機材料Mvの基板Swに対する蒸着範囲が制限されることで所定のパターンで基板Swに成膜(蒸着)されるようになっている。マスクプレート3としては、インバー、アルミ、アルミナやステンレス等の金属製の他、ポリイミド等の樹脂製のものが用いられる。そして、真空チャンバ1の底面には、基板Swに対向させて本実施形態の蒸着源DS1が設けられている。
【0015】
蒸着源DS
1は、有機材料Msが充填される円柱状の収容箱4を有する。収容箱4は、ステンレス鋼(SUS304等)、チタン、タンタル、タングステン、モリブデンやカーボンといった熱伝導が良く、高融点の(耐熱性を有する)材料から形成されている。この場合、収容箱4の上壁部41は、上面を開口した収容箱4の本体42に着脱自在に装着することができる。なお、収容箱4の形状はこれに限定されるものではなく、例えば、直方体状のものも利用できる。収容箱4には、気化体としてのメッシュ部材5が設けられている。メッシュ部材5は、例えば、ステンレス鋼(SUS304等)、チタン、タンタル、タングステン、モリブデンやカーボンといった耐熱性を持つ材料製で且つ所定径(例えば、Φ0.015mm~Φ0.45mmの範囲)を持つ線材51またはこのような線材51の複数本を撚って所定径としたものを綾畳織り(150~3600メッシュの範囲)することで、線材51間に細い空間52(隙間)がその全面に亘って形成されたシート状のものを有底円筒状の輪郭に成形したものである(
図1中の拡大図参照)。
【0016】
メッシュ部材5は、その開口面側を先頭にして収容箱4の上方から収容箱4内に挿入し、その先端(下端)を収容箱4の下面42aに当接させて設置される。この場合、例えば、収容箱4の下面42aに凹溝(図示せず)を形成し、凹溝にメッシュ部材5の下端部を圧入して固定するようにしてもよい。また、上壁部41には、メッシュ部材5の孔軸を中心とする仮想円周上に沿って透孔としてのスリット孔41aが設けられ、メッシュ部材5の外周面を挿通できるようにしている。メッシュ部材5の外径は、メッシュ部材5の外周面がその全面に亘って且つ所定の隙間D1を存して収容箱4の内側面42bに対向するように設定されている。隙間D1の大きさは、この隙間D1により毛細管現象を発現するものであれば、特に限定はないが、100μm以下、より好ましくは60μm以下に設定される。なお、隙間D1は、その全体に亘って均等である必要はなく、部分的に(点)接触していてもよい。例えば、メッシュ部材5を構成する線材51の径やその織り方によっては、メッシュ部材5を収容箱4に内嵌して、収容箱4の内側面42bに接触する線材相互の間に上下方向にのびる複数の隙間が形成されるようなものでもよい。
【0017】
収容箱4へのメッシュ部材5の設置状態では、所定の充填率で充填された収容箱4内の固体の有機材料Msを融解させると、
図2に示すように、メッシュ部材5の一部が、液化した有機材料Mlに浸漬され、これが浸漬部分5aとなる。そして、液化した有機材料Mlの液面より上方に位置して収容箱4内から外方へと延出するメッシュ部材5の残余部のうち、メッシュ部材5の外周面に相当する部分は、毛細管現象により、液化した有機材料Mlが浸透する浸透部分5bとなり、この浸透部分5bに連なる、収容箱4の上壁部41と平行な底面部分が、後述の第2加熱手段で加熱される気化部分5cとなる。
【0018】
また、蒸着源DS1は、収容箱4の周囲を覆うようにして設けられる第1の加熱手段6aと、収容箱4の上壁部41と気化部分5cとの間に配置される第2の加熱手段6bとを備える。第1及び第2の各加熱手段6a,6bとしては、シースヒータやランプヒータ等の公知のものが利用できる。また、誘導加熱式で収容箱4を加熱する誘導加熱コイルで各加熱手段6a,6bを構成することができる。本実施形態の蒸着源DS1での蒸着に用いられる有機材料Msとしては、α-NPDやBAHI8などが挙げられる。
【0019】
上記蒸着源DS
1を用いて基板Swに有機材料Msを蒸着する場合、大気雰囲気中にて収容箱4内に固体の有機材料Msを所定の充填率で充填する(
図1参照)。そして、真空チャンバ1内を真空排気し、第1の加熱手段6aにより収容箱4を加熱すると、主として収容箱4の壁面からの伝熱で固体の有機材料Msが融解して液化する。この場合、収容箱4が上壁部41を備えることで、第1の加熱手段6aにより収容箱4を加熱すると、収容箱4の上壁部41も加熱され、ここからの輻射熱でも固体の有機材料Msが加熱される。
【0020】
液化した有機材料Mlの一部は、毛細管現象により収容箱4の内側面42bと、メッシュ部材5の浸透部分5bとの間の隙間D1に引き寄せられて上方にせり上がる。これに加えて、液化した有機材料Mlは、メッシュ部材5の残余部5b,5cにも毛細管現象により浸透し、このとき、液化した有機材料Mlの一部が隙間D1を上方にせり上がるのに伴ってより強い毛細管現象が発現することで、液化した有機材料Mlは、気化部分5cまで確実に浸透する。そして、液化した有機材料Mlが浸透した気化部分5cが第2の加熱手段6bにより蒸気圧に応じて所定温度に加熱されることで、気化部分5cの有機材料Mlが気化する。これにより、気化部分5cから気化した有機材料Mvが基板Swに向けて飛散されて付着、堆積することで、基板Sw表面に所定の薄膜が成膜される(なお、気化部分5cへと浸透した有機材料Mlを気化させていくと、気化部分5cには、液化した有機材料Mlが毛細管現象により順次浸透していくため、連続して蒸着することができる)。
【0021】
以上の実施形態によれば、収容箱4内で固体の有機材料Msを融解させる部分と、収容箱4外で、液化した有機材料Mlを気化させる部分とにわけたことで、有機材料Msを融解させる部分としての収容箱4内では、第1の加熱手段6aが、有機材料Msを融解させるのに必要な熱量を加えて保持するだけで済む。このため、有機材料Msに過剰な熱負荷が加わることが可及的に抑制され、しかも、第2の加熱手段6bを設けたことで、残余部としての気化部分5cに浸透した有機材料Mlを加熱して効率よく気化させることができる。また、有機材料Mlを気化させる気化部分5cの熱容量は、収容箱4と比較して小さいため、応答性よく気化量を調整することができ、しかも、第2の加熱手段6bにより加える熱量を低下させるだけで、有機材料Mlの気化を停止できるため、例えば、真空チャンバ1内で成膜済みの基板Swと成膜前の基板Swとを交換するような場合に、無駄に有機材料Mlが消費されることを抑制できる一方で、第2の加熱手段6bにより気化部分5cに加える熱量を増加させるだけで、基板Swに対する蒸着も速やかに再開することができる。
【0022】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明の技術思想の範囲を逸脱しない限り、種々の変形が可能である。上記実施形態では、気化体として、線材51を綾畳織りしてなるメッシュ部材5を例に説明したが、液化した有機材料Mlから収容箱4内の空間に露出した残余部5b,5cにこの液化した有機材料Mlを毛細管現象により浸透させることができるものであれば、これに限定されるものではない。例えば、上記線材51を平織りしたものや、平織りしたものを2枚以上重ねて構成することもできる。また、上記実施形態では、収容箱4の内側面42bを利用し、この内側面42bに対応させて円筒状に成形したメッシュ部材5を設けるものを例に説明したが、これに限定されるものではなく、例えば、収容箱4の下面42aにステンレス製の平板を立設し、この立設した平板を収容箱4の内面にみたて、平板に所定の隙間D1を介してシート状のメッシュ部材を設けるようにしてもよい。また、上記実施形態では、メッシュ部材5を収容箱4の内側面42bに対応させて成形し、収容箱4の内側面42b全面に亘ってメッシュ部材5の外表面が対向するようにしているが、これに限定されるものではない。例えば、シート状のものを円弧状に湾曲させて、収容箱4の内側面42bに部分的に対向させ、または、このように湾曲させたものを複数枚設置するようにしてもよい。
【0023】
更に、上記実施形態では、気化体5の気化部分5cを収容箱4の上壁部41より上方に位置させ、所謂デポアップ式で蒸着するものを例に説明したが、これに限定されるものではない。同一の部材、要素に同一の符号を付した
図3(a)を参照して、他の実施形態の蒸着源DS
2は、箱状の収容箱40を備え、その側壁部40aには、メッシュ部材50の挿通を可能とする透孔40bが形成されている。メッシュ部材50は、上記実施形態と同様、線材51間に細い空間52(隙間)がその全面に亘って形成されたシート状のもので構成され、収容箱40の側壁部40aに所定の隙間D1を存して対向する第1部分50aと、第1部分50aの先端から略直角に屈曲されて透孔40bを挿通する、収容箱40の上壁部(図示せず)に平行にのびる第2部分50bと、第2部分50bから鉛直方向斜め下方にのびる第3部分50cとで構成される。第3部分50cと収容箱40の側壁部40aとの間には、第2の加熱手段6bが配置され、気化部分としての第3部分50cを加熱できるようにしている。この場合、第2の加熱手段6bは、収容箱40を加熱する第1の加熱手段6aで兼用することもできる。また、基板Swは、起立させた姿勢で搬送され、第3部分50cに対向する面が蒸着面となる。
【0024】
以上の実施形態によれば、上記実施形態と同様に、液化した有機材料Mlの一部が毛細管現象により第2部分50bを経て第3部分50cへと浸透し、液化した有機材料Mlが浸透した第3部分50cが第2の加熱手段6bにより蒸気圧に応じて所定温度に加熱されることで、有機材料Mlが気化する。このとき、第3部分50cは、収容箱40の上面より下方に向けてのびる部分(言い換えると、水平線より下方に向けてのびる部分)を含むことで、液化した有機材料Mlを第3部分50cまで浸透させる際に、毛細管現象に重力が加わることで、より確実に第3部分50cへと液化した有機材料Mlを浸透させることができ、有利である。
【0025】
また、
図3(b)を参照して、更に他の実施形態の蒸着源DS
3は、2個の箱状の収容箱400a,400bを備え、各収容箱400a,400bの側壁部401a,401bには、メッシュ部材500
1,500
2の挿通を可能とする透孔402a,402bが形成されている。各メッシュ部材500
1,500
2は、上記実施形態と同様、線材51間に細い空間52(隙間)がその全面に亘って形成されたシート状のもので構成され、各収容箱400a,400bの側壁部401a,401bに所定の隙間D1を存して対向する第1部分500aと、第1部分500aの先端から略直角に屈曲されて透孔402a,402bを挿通する、収容箱400a,400bの上壁部(図示せず)に平行にのびる第2部分500bと、第2部分500bから鉛直方向斜め下方にのびて互いに連結された、収容箱400a,400bの底壁部403a,403bに平行な第3部分500cとで構成される。底壁部403a,403bに平行な第3部分500cの上方には、第2の加熱手段6bが配置され、気化部分としての第3部分500cを加熱できるようにしている。この場合、基板Swは、その蒸着面を上方に向けた姿勢で、収容箱400a,400bの下方を搬送される。
【符号の説明】
【0026】
DS1,DS2,DS3…真空蒸着装置用の蒸着源、Dm…真空蒸着装置、Ms…固体の有機材料(蒸着物質)、Ml…融解した有機材料(蒸着物質)、Sw…基板(被蒸着物)、1…真空チャンバ、4,40,400a,400b…収容箱、40a,401a,401b…収容箱の側壁部、40b,402a,402b…透孔、41…収容箱の上壁部、41a…スリット孔(透孔)、5,50,5001,5002…メッシュ部材(気化体)、D1…隙間、5a…浸漬部分(気化体の一部分),5b…浸透部分(気化体の残余部の一部分)、5c…気化部分(気化体の残余部の一部分)、50a,500a…第1部分(気化体の浸漬部分)、50b,500b…第2部分(気化体の浸透部分)、50c,500c…第3部分(気化体の気化部分)、6a…第1の加熱手段、6b…第2の加熱手段。