(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-10
(45)【発行日】2025-02-19
(54)【発明の名称】磁気ディスク装置および磁気ディスク装置を製造する方法
(51)【国際特許分類】
G11B 17/038 20060101AFI20250212BHJP
G11B 5/82 20060101ALI20250212BHJP
G11B 5/73 20060101ALI20250212BHJP
G11B 33/14 20060101ALI20250212BHJP
G11B 33/12 20060101ALI20250212BHJP
【FI】
G11B17/038
G11B5/82
G11B5/73
G11B33/14 501W
G11B33/12 313C
(21)【出願番号】P 2023506930
(86)(22)【出願日】2022-02-28
(86)【国際出願番号】 JP2022008147
(87)【国際公開番号】W WO2022196314
(87)【国際公開日】2022-09-22
【審査請求日】2023-08-21
(31)【優先権主張番号】P 2021046121
(32)【優先日】2021-03-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000107538
【氏名又は名称】株式会社UACJ
(73)【特許権者】
【識別番号】000005290
【氏名又は名称】古河電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100095407
【氏名又は名称】木村 満
(72)【発明者】
【氏名】北脇 高太郎
(72)【発明者】
【氏名】東藤 慎平
(72)【発明者】
【氏名】山田 涼平
(72)【発明者】
【氏名】畠山 英之
【審査官】川中 龍太
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-185035(JP,A)
【文献】特開2008-276942(JP,A)
【文献】特開2010-211909(JP,A)
【文献】国際公開第2008/139537(WO,A1)
【文献】国際公開第2020/111282(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/025769(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/188320(WO,A1)
【文献】特開2009-099251(JP,A)
【文献】国際公開第2011/096310(WO,A1)
【文献】特開2013-218752(JP,A)
【文献】特開2000-076762(JP,A)
【文献】特開2001-331995(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G11B 17/038
G11B 5/82
G11B 5/73
G11B 33/14
G11B 33/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
中央部に貫通孔を有する円盤形状の複数の磁気ディスクと、
前記磁気ディスクの間に配置され、中央部に貫通孔を有するスペーサと、
前記磁気ディスクおよび前記スペーサの貫通孔に挿入されるハブと、
前記磁気ディスクおよび前記スペーサを押し付け保持するクランプと、
前記クランプを前記ハブに締結する
複数の締結部材と、を備え、
前記クランプは、前記
複数の締結部材により5cN・m以上45cN・m以下であるトルクで前記ハブに締結されている、
ことを特徴とする磁気ディスク装置。
【請求項2】
前記クランプは、前記
複数の締結部材により20cN・m以上45cN・m以下であるトルクで前記ハブに締結されている、
ことを特徴とする請求項1に記載の磁気ディスク装置。
【請求項3】
前記クランプは、前記
複数の締結部材により20cN・m以上35cN・m以下であるトルクで前記ハブに締結されている、
ことを特徴とする請求項1に記載の磁気ディスク装置。
【請求項4】
前記磁気ディスクのサイズは、内径25mm、外径95mm以上97mm以下、板厚0.35mm以上0.635mm以下であり、前記スペーサのサイズは、内径25mm、外径32mm以上33mm以下、厚さ1.6mm以上1.8mm以下であり、前記
複数の締結部材の中心から前記クランプに設けられた突起部中心までの距離は、5mmである、
ことを特徴とする請求項1から3の何れか1項に記載の磁気ディスク装置。
【請求項5】
前記磁気ディスクと前記クランプとの径方向における第1の接触長さは、前記磁気ディスクと前記スペーサとの径方向における第2の接触長さの2分の1以上である、
ことを特徴とする請求項1から4の何れか1項に記載の磁気ディスク装置。
【請求項6】
前記磁気ディスクの間に複数枚の前記スペーサを重ねて積層する、
ことを特徴とする請求項1から5の何れか1項に記載の磁気ディスク装置。
【請求項7】
前記クランプに接触する前記磁気ディスクと、この磁気ディスクに隣接する前記磁気ディスクと、の間に複数枚の前記スペーサを重ねて積層する、
ことを特徴とする請求項1から5の何れか1項に記載の磁気ディスク装置。
【請求項8】
前記磁気ディスクの厚さが0.48mm以下である、
ことを特徴とする請求項1から7の何れか1項に記載の磁気ディスク装置。
【請求項9】
前記磁気ディスクの厚さが0.36mm以下である、
ことを特徴とする請求項1から7の何れか1項に記載の磁気ディスク装置。
【請求項10】
前記磁気ディスクは、Mg:1.0質量%以上6.5質量%以下を含有し、Cu:0.070質量%以下、Zn:0.60質量%以下、Fe:0.50質量%以下、Si:0.50質量%以下、Cr:0.20質量%以下、Mn:0.50質量%以下、Zr:0.20質量%以下の1種又は2種以上を更に含有し、残部がアルミニウムおよび不可避不純物やその他の微量元素からなるアルミニウム合金板を含む、
ことを特徴とする請求項1から9の何れか1項に記載の磁気ディスク装置。
【請求項11】
前記磁気ディスクは、必須元素であるFeと、選択元素であるMn及びNiのうち1種又は2種を含有し、これらFe、Mn及びNiの含有量の合計が1.00質量%以上7.00質量%以下であり、更に、Si:14.0質量%以下、Zn:0.7質量%以下、Cu:1.0質量%以下、Mg:3.5質量%以下、Cr:0.30質量%以下、Zr:0.20質量%以下の1種又は2種以上を更に含有し、残部がアルミニウムおよび不可避不純物やその他の微量元素からなるアルミニウム合金板を含む、
ことを特徴とする請求項1から9の何れか1項に記載の磁気ディスク装置。
【請求項12】
前記磁気ディスクは、SiO
2:55質量%以上70質量%以下を主成分として、Al
2O
3:25質量%以下、Li
2O:12質量%以下、Na
2O:12質量%以下、K
2O:8質量%以下、MgO:7質量%以下、CaO:10質量%以下、ZrO
2:10質量%以下、TiO
2:1質量%以下の1種又は2種以上を含有し、残部が不可避不純物やその他の微量元素からなるアルミノシリケートガラス板を含む、
ことを特徴とする請求項1から9の何れか1項に記載の磁気ディスク装置。
【請求項13】
中央部に貫通孔を有する円盤形状の複数の磁気ディスクと、
前記磁気ディスクの間に配置され、中央部に貫通孔を有するスペーサと、
前記磁気ディスクおよび前記スペーサの貫通孔に挿入されるハブと、
前記磁気ディスクおよび前記スペーサを押し付け保持するクランプと、
前記クランプを前記ハブに締結する
複数の締結部材と、を備える磁気ディスク装置を製造する方法であって、
5cN・m以上45cN・m以下のトルクで前記クランプを前記
複数の締結部材で前記ハブに締結する締結工程を備える、
ことを特徴とする磁気ディスク装置を製造する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気ディスク装置および磁気ディスク装置を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
スマートフォンやスマート家電の普及により、各個人の使用するデータ量が増加している。これらの膨大なデータはインターネットを通じデータセンター内の磁気ディスク装置(HDD:Hard Disk Drive)に保存される。膨大なデータ量を記録するため、磁気ディスク装置の高容量化が求められている。
【0003】
例えば、引用文献1は、磁気記録媒体を収める筐体の厚みを小さくするために、円板状で中央に貫通孔を有する樹脂性基板の少なくとも一方の面の内周端部から所定距離の部分が、所定距離の外側の部分に比べて厚くなっている形状を有することを特徴とする磁気記録媒体用基板を開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
磁気ディスク装置の高容量化を実現するための一例として、磁気ディスク装置に搭載する磁気ディスクの枚数を増やし、磁気ディスク装置1台あたりのデータ領域を拡大させるという技術動向がある。磁気ディスク装置はその寸法が規格で定められているため、搭載させる磁気ディスク枚数を増やすためには、磁気ディスクの厚さを薄くするなどの工夫が必要である。磁気ディスクの厚さを薄くすると、剛性が低下し、HDDを落下させたときなど衝撃が加わった時に、磁気ディスクが変形しやすくなるなど、耐衝撃性が低下する。すなわち、磁気ディスク装置の高容量化と、磁気ディスク装置の耐衝撃性は、ジレンマの関係にある。
【0006】
本発明は、このような実情に鑑みてなされたものであり、優れた耐衝撃性および高いデータ容量を有する磁気ディスク装置および磁気ディスク装置を製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明の第1の側面に係る磁気ディスク装置は、
中央部に貫通孔を有する円盤形状の複数の磁気ディスクと、
前記磁気ディスクの間に配置され、中央部に貫通孔を有するスペーサと、
前記磁気ディスクおよび前記スペーサの貫通孔に挿入されるハブと、
前記磁気ディスクおよび前記スペーサを押し付け保持するクランプと、
前記クランプを前記ハブに締結する複数の締結部材と、を備え、
前記クランプは、前記複数の締結部材により5cN・m以上45cN・m以下であるトルクで前記ハブに締結されている。
【0008】
前記クランプは、前記複数の締結部材により20cN・m以上45cN・m以下であるトルクで前記ハブに締結されているとよい。
【0009】
前記クランプは、前記複数の締結部材により20cN・m以上35cN・m以下であるトルクで前記ハブに締結されているとよい。
【0010】
前記磁気ディスクのサイズは、内径25mm、外径95mm以上97mm以下、板厚0.35mm以上0.635mm以下であり、前記スペーサのサイズは、内径25mm、外径32mm以上33mm以下、厚さ1.6mm以上1.8mm以下であり、前記複数の締結部材の中心から前記クランプに設けられた突起部中心までの距離は、5mmであるとよい。
【0011】
前記磁気ディスクと前記クランプとの径方向における第1の接触長さは、前記磁気ディスクと前記スペーサとの径方向における第2の接触長さの2分の1以上であるとよい。
【0012】
前記磁気ディスクの間に複数枚の前記スペーサを重ねて積層するとよい。
【0013】
前記クランプに接触する前記磁気ディスクと、この磁気ディスクに隣接する前記磁気ディスクと、の間に複数枚の前記スペーサを重ねて積層するとよい。
【0014】
前記磁気ディスクの厚さが0.48mm以下であるとよい。
【0015】
前記磁気ディスクの厚さが0.36mm以下であるとよい。
前記磁気ディスクは、Mg:1.0質量%以上6.5質量%以下を含有し、Cu:0.070質量%以下、Zn:0.60質量%以下、Fe:0.50質量%以下、Si:0.50質量%以下、Cr:0.20質量%以下、Mn:0.50質量%以下、Zr:0.20質量%以下の1種又は2種以上を更に含有し、残部がアルミニウムおよび不可避不純物やその他の微量元素からなるアルミニウム合金板を含むとよい。
前記磁気ディスクは、必須元素であるFeと、選択元素であるMn及びNiのうち1種又は2種を含有し、これらFe、Mn及びNiの含有量の合計が1.00質量%以上7.00質量%以下であり、更に、Si:14.0質量%以下、Zn:0.7質量%以下、Cu:1.0質量%以下、Mg:3.5質量%以下、Cr:0.30質量%以下、Zr:0.20質量%以下の1種又は2種以上を更に含有し、残部がアルミニウムおよび不可避不純物やその他の微量元素からなるアルミニウム合金板を含むとよい。
前記磁気ディスクは、SiO
2
:55質量%以上70質量%以下を主成分として、Al
2
O
3
:25質量%以下、Li
2
O:12質量%以下、Na
2
O:12質量%以下、K
2
O:8質量%以下、MgO:7質量%以下、CaO:10質量%以下、ZrO
2
:10質量%以下、TiO
2
:1質量%以下の1種又は2種以上を含有し、残部が不可避不純物やその他の微量元素からなるアルミノシリケートガラス板を含むとよい。
【0016】
上記目的を達成するために、本発明の第2の側面に係る磁気ディスク装置を製造する方法は、
中央部に貫通孔を有する円盤形状の複数の磁気ディスクと、
前記磁気ディスクの間に配置され、中央部に貫通孔を有するスペーサと、
前記磁気ディスクおよび前記スペーサの貫通孔に挿入されるハブと、
前記磁気ディスクおよび前記スペーサを押し付け保持するクランプと、
前記クランプを前記ハブに締結する複数の締結部材と、を備える磁気ディスク装置を製造する方法であって、
5cN・m以上45cN・m以下のトルクで前記クランプを前記複数の締結部材で前記ハブに締結する締結工程を備える。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、優れた耐衝撃性および高いデータ容量を有する磁気ディスク装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】(A)は、実施の形態に係る磁気ディスク装置を示す上面図であり、(B)は、磁気ディスク装置を示す側面図である。
【
図2】実施の形態に係る磁気ディスク装置が備える磁気ディスクとスペーサを示す断面図である。
【
図3】実施の形態に係る磁気ディスク装置が備える磁気ディスクとスペーサを示す拡大断面図である。
【
図4】実施の形態に係る磁気ディスク装置が備える磁気ディスクに衝撃が加えられたことを示す図である。
【
図5】変形例に係る磁気ディスク装置が備える磁気ディスクとスペーサを示す拡大断面図である。
【
図6】変形例に係る磁気ディスク装置が備える磁気ディスクとスペーサを示す拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照しながら本発明の実施の形態の磁気ディスク装置(HDD:Hard Disk Drive)について説明する。
【0020】
本実施の形態の磁気ディスク装置100は、箱型の記録再生装置であり、
図1(A)および
図1(B)に示すように、筐体10と、基台20と、重ねて配置された複数の磁気ディスク30と、ヘッドスタックアッセンブリ40と、ボイスコイルモータ50と、ランプロード60と、クランプ70と、図示しないスピンドルモータおよび回路基板等の必要部材と、を備える。また、磁気ディスク装置100は、
図2および
図3に示すように、複数の磁気ディスク30の間に配置された複数のスペーサ80と、回転軸Zを中心に複数の磁気ディスク30を回転するハブ90と、を備える。
【0021】
図1に戻って、磁気ディスク装置100の寸法は共通規格で定められており、例えばデータセンター向けとして、SFF-8301という規格に準拠した寸法の3.5インチ磁気ディスク装置が好適に用いられている。この規格では、筐体10の高さHは、26.1mm、幅Wは、101.6mm、奥行Dは、147mmと定められている。
【0022】
筐体10は、一般的に金属製であり、一面が開放された立方体の箱形形状を有し、基台20と、磁気ディスク30と、ヘッドスタックアッセンブリ40と、ボイスコイルモータ50と、ランプロード60と、クランプ70と、スピンドルモータおよび回路基板等の必要部材と、を図示しないトップカバーにより密閉するものである。
【0023】
基台20は、筐体10の底に配置され、ボイスコイルモータ50、スピンドルモータおよび回路基板等が実装される部分である。基台20と筐体10は一体型の場合が多い。
【0024】
磁気ディスク30は、
図2および
図3に示すように、磁気的に情報を記録するための中央部に貫通孔を有する円盤形状の媒体であり、基板、下地層、磁性層、保護層、潤滑層から構成され、回転軸Zを中心に回転する。磁気記録方式として、垂直磁気記録方式(PMR:Perpendicular Magnetic Recording)や、瓦書き方式(SMR:Shingled Magnetic Recording)のものが好適に用いられている。さらなる高容量化の実現のため、熱アシスト磁気記録方式(HAMR:Heat Assisted Magnetic Recording)やマイクロ波アシスト磁気記録方式(MAMR:Microwave Assisted Magnetic Recording)といった技術が開発されている。基板としては、アルミニウム合金基板またはガラス基板が好適に用いられている。アルミニウム合金基板およびガラス基板の詳細については、後述する。
【0025】
磁気ディスク30の厚さTdは、好ましくは、0.2mm以上、より好ましくは、0.35mm以上である。また、磁気ディスク30の厚さTdは、1.75mm以下、より好ましくは、0.635mm以下、さらに好ましくは、0.50mm以下、特に好ましくは、0.48mm以下、より特に好ましくは、0.36mm以下である。磁気ディスク30の外径2×Rdは、好ましくは95mm以上97mm以下、内径は25mmである。また、本実施の形態の磁気ディスク装置100が備える磁気ディスク30の枚数Nは、好ましくは、8枚以上16枚以下である。磁気ディスク装置100の高容量化を実現するための一例として、搭載する磁気ディスク30の枚数を増やし、磁気ディスク装置100一台あたりのデータ領域を拡大させるという技術がある。しかしながら前述の通り、磁気ディスク装置100の寸法は規格で定められており、磁気ディスク30を搭載する空間には制限がある。そのため、搭載させる磁気ディスク30の枚数を増やすために、磁気ディスク30の厚さを薄くしている。
【0026】
図1に戻って、ヘッドスタックアッセンブリ40は、アーム41とアーム41の先端に取り付けられたヘッド部42と有する。HAMRにより記録する場合、ヘッド部42にレーザ素子を、MAMRにより記憶する場合、ヘッド部42にマイクロ波発生素子を搭載する。
【0027】
ボイスコイルモータ50は、ヘッドスタックアッセンブリ40を回動させる駆動用モータである。
【0028】
ランプロード60は、樹脂製の部品であり、磁気ディスク装置100の非動作時にヘッド部42を退避させることを目的に、磁気ディスク30外周部側で磁気ディスク30に最も接近した位置に搭載されたものである。
【0029】
クランプ70は、アルミニウム合金等の強磁性体でない金属により作成され、
図2および
図3に示すように、磁気ディスク30の上面と対向する面に、磁気ディスク30と接触する突起部71を有し、複数の磁気ディスク30およびスペーサ80をハブ90に押し付け保持し、固定するものである。クランプ70は、さらに、表面にNi-Pめっき等のコーティング等が施されてもよい。磁気ディスク30の上面にクランプ70の突起部71を押圧接触させることにより、磁気ディスク30はクランプ70により固定状態となる。磁気ディスク30の上面の内径側部分がこの突起部71によりクランプ固定されることにより、高速回転させてデータ処理する際における磁気ディスク30の離脱が防止される。クランプ70は、締結部材72によってハブ90に固定される。締結部材72は、例えば、ビスまたはヘックスローブ(六角星型)ねじなどが使用される。締結部材72のピッチは、並目で、0.4mmピッチのものなどが使用される。締結部材72の材質としては、ステンレスなどが使用される。磁気ディスク30と突起部71との径方向における第1の接触長さL1は、好ましくは、磁気ディスク30とスペーサ80との径方向における第2の接触長さL2の2分の1以上である。径方向において、クランプ70を固定する締結部材72の中心から突起部71の中心までの距離L3は、4.0~6.5mmとすることが好ましい。また、締結部材72を入れるためのクランプ70の穴径d1は、2.0~3.5mmとすることが好ましい。そして、突起部71の高さt1は、0.1~0.5mmとすることが好ましい。
【0030】
スペーサ80は、リング状の薄板であり、複数の磁気ディスク30の間に配置される。複数の磁気ディスク30の間にスペーサ80が配置されることで、磁気ディスク30は、スピンドルモータのハブ90にクランプ70で強固に固定される。スペーサ80の役割は、複数の磁気ディスク30同士の間隔を確保すること、および、磁気ディスク30と接触・密着することで、ハブ90またはクランプ70と直接接触していない磁気ディスク30へハブ90の回転駆動力を伝えることである。
【0031】
スペーサ80の厚さTsに関して、磁気ディスク30同士の間隔は狭いほど、限られた空間内に多くの磁気ディスク30を搭載することができ好ましいが、磁気ディスク30表面にはヘッドスタックアッセンブリ40を稼働させる空間が必要である。特に、先述したHAMRおよびMAMRの高容量化技術において、HAMRにより記録する場合、ヘッド部42にレーザ素子を、MAMRにより記憶する場合、ヘッド部42にマイクロ波発生素子を搭載する必要があり、ヘッドスタックアッセンブリ40の小型化は容易ではない。磁気ディスク30同士の間隔、すなわちスペーサの厚さTsは、少なくとも1mm以上、好ましくは1.5mm、より好ましくは1.6mm以上が必要である。また、磁気ディスク装置100内に磁気ディスク30をなるべく多く搭載できるように、スペーサの厚さTsは、好ましくは、1.8mm以下である。
【0032】
スペーサ80の形状は、スペーサ80両表面の平坦度が小さいものが望まれる。さらに、スペーサ80の表面と内外周端面の境界(以下、スペーサ内外周部)にはバリ取りなどを目的に面取りが施されていることが望ましい。磁気ディスク30とスペーサ80を積層する際に、スペーサ80内外周部のバリが磁気ディスク30に接触してキズを発生させる懸念があるからである。
【0033】
スペーサ80の材質は、スペーサ80と磁気ディスク30の熱膨張係数差が小さくなる材料から選択されることが望ましい。両者の熱膨張係数差が大きいと、磁気ディスク装置100の動作時の環境温度が変化した場合に、スペーサ80と磁気ディスク30表面の位置ズレが発生し、読み書きエラーの原因となる。磁気ディスク30がアルミニウム合金基板からなる場合、スペーサ80はアルミニウムが好適に用いられる。磁気ディスク30がガラス基板からなる場合、スペーサ80はガラス、ステンレス、チタンなどが好適に用いられる。さらに、磁気ディスク30やスペーサ80への帯電防止を目的に、スペーサ80は導電性を有することが望ましい。スペーサ80にガラスを採用する場合は、ガラス製のスペーサ80の表面と側面にNi-Pめっき等の金属膜を備えることが望ましい。
【0034】
磁気ディスク装置100内に磁気ディスク30を複数枚搭載する場合について説明する。
図2および
図3に示すように、磁気ディスクの外半径をRdと、磁気ディスクの厚さをTdと、スペーサの外半径をRsoと、スペーサ80の厚さをTsと、磁気ディスクとスペーサの積層高さをTとする。磁気ディスク30の内径とスペーサ80の内径は等しく、磁気ディスクの内半径=スペーサの内半径Rsiである。磁気ディスク30の内径とスペーサ80の内径2Rsiは、例えば25mmである。また、スペーサ80の外径2Rsoは、好ましくは、32mm以上33mm以下である。
【0035】
ここで、SFF-8301に準拠した筐体10の高さHが26.1mmの磁気ディスク装置100について考える。磁気ディスク装置100に厚さTdの磁気ディスク30をN枚と、厚さTsのスペーサ80を(N-1)枚交互に積層した場合、その積層高さT=N×Td+(N-1)×Tsは26.1mmよりも低い必要がある。しかし、磁気ディスク装置100は、磁気ディスク30とスペーサ80以外にも、基台20、回路基板、スピンドルモータ、クランプ70、ハブ90、トップカバー等の部品が装置内の空間に搭載されるため、磁気ディスク30とスペーサ80の積層高さTは20mm以下であることが好ましく、より好ましくは19mm以下である。先述した通り、磁気ディスク30の厚さTdの下限値は0.3mm、スペーサ80の厚さTsの下限値は1mm、磁気ディスク30とスペーサ80の積層高さTの上限値は20mmであることから、磁気ディスク30の枚数Nの上限値は16枚となる。また、磁気ディスク装置100の高容量化を実現するため、磁気ディスク30の枚数Nは、好ましくは、8枚以上である。
【0036】
ハブ90は、アルミニウム合金等の強磁性体でない金属で作成され、円筒状の形状を有する小径部91と大径部92が回転軸Zの方向に接続された形状を有し、回転軸Zを中心軸としてスピンドルモータにより回転する。小径部91の直径は、磁気ディスク30の内径およびスペーサ80の内径2Rsiと同一である。大径部92は、クランプ70と共に、磁気ディスク30およびスペーサ80を挟んで固定する。
【0037】
磁気ディスク30は、上述したように、磁気的に情報を記録するための円盤状の媒体であり、基板、下地層、磁性層、保護層、潤滑層から構成される。基板は、アルミニウム合金基板またはガラス基板が好適に用いられている。
【0038】
(アルミニウム合金基板)
アルミニウム合金基板は、従来から使用されているJIS5086合金等のAl-Mg系合金が、強度が強く好適に用いられる。あるいは、Al-Fe系合金が、剛性が高く好適に用いられる。
【0039】
具体的には、Al-Mg系合金は、Mg:1.0~6.5質量%を含有し、Cu:0.070質量%以下、Zn:0.60質量%以下、Fe:0.50質量%以下、Si:0.50質量%以下、Cr:0.20質量%以下、Mn:0.50質量%以下、Zr:0.20質量%以下の1種又は2種以上を更に含有し、残部がアルミニウムと不可避不純物やその他の微量元素からなるアルミニウム合金である。その他の微量元素としては、Be、Sr等が挙げられ各々で0.1質量%以下であれば本開示の効果を阻害しない。
【0040】
Al-Fe系合金は、必須元素であるFeと、選択元素であるMn及びNiのうち1種又は2種を含有し、これらFe、Mn及びNiの含有量の合計が1.00~7.00質量%の関係を有し、更に、Si:14.0質量%以下、Zn:0.7質量%以下、Cu:1.0質量%以下、Mg:3.5質量%以下、Cr:0.30質量%以下、Zr:0.20質量%以下の1種又は2種以上を更に含有し、残部がアルミニウムと不可避不純物やその他の微量元素からなるアルミニウム合金である。その他の微量元素としては、Be、Sr等が挙げられ各々で0.1質量%以下であれば本開示の効果を阻害しない。
【0041】
つぎに、アルミニウム合金基板の製造方法について説明する。
【0042】
まず、半連続鋳造法により鋳塊を作製し、それを熱間圧延および冷間圧延加工し、所望の厚さの板材を作製する。または、連続鋳造により板材を作製し、それを冷間圧延加工し、所望の厚さの板材を作製する。組織を均質化する目的で、鋳塊に熱処理を施してもよい。加工性を向上させる等の目的で、冷間圧延前、冷間圧延の途中、冷間圧延後の板材に熱処理を施してもよい。
【0043】
つぎに、前記の通り作製された板材を、プレス機で打抜き加工し、所望の内径寸法、外径寸法を有する円盤状のブランクを作製する。その後、ブランクの平坦度を小さくする目的で、ブランク同士を積層し、積層ブランクに荷重をかけ、加熱処理を行う。
【0044】
つぎに、ブランクの内径部、外径部を旋盤加工機で切削加工し、所望の内径寸法、外径寸法、および所望の長さの面取り部を有するTサブを作製する。さらにブランク両面の表面を切削加工し、所望の厚さの板厚を有するTサブとしてもよい。さらに切削加工により材料内部に発生した加工歪を取り除く目的で、Tサブに加熱処理を施してもよい。
【0045】
つぎに、Tサブ両面の表面を研削加工機で研削し、所望の厚さのGサブを作製する。さらに研削加工により材料内部に発生した加工歪を取り除く目的で、Gサブに加熱処理を施してもよい。
【0046】
つぎに、Gサブの表面、側面、面取り面を含む全ての面に所望の厚さのめっきを成膜したMサブを作製する。まずGサブにめっき密着性向上を目的に、前処理を行う。次いでめっき処理を行う。めっきはNi-P無電解めっきが好適に用いられる。さらにNi-P無電解めっきの内部応力を取り除く目的で、Mサブに加熱処理を施してもよい。
【0047】
つぎに、Mサブ両面の表面を研磨加工機で研磨し、所望の厚さの基板、すなわちアルミニウム合金基板を作製する。この方法で作製されるアルミニウム合金基板の厚さの下限値は0.3mmである。それは研磨加工機で研磨する際に、アルミニウム合金基板を保持するキャリアと呼ばれる部品の厚さに起因する。キャリアの厚さは被加工物であるアルミニウム合金基板の厚さ以上であれば任意に選択可能であるが、キャリアは薄すぎると強度が不足し研磨加工中に破損してしまう。キャリア強度の観点において、キャリアの厚さは0.3mm以上が好ましい。よって被加工物であるアルミニウム合金基板の厚さの下限値は0.3mmとなる。なお、キャリアはアラミド樹脂やエポキシ樹脂等の樹脂製のものが好適に用いられる。強度向上を目的に、炭素繊維やガラス繊維等の繊維状補強材を含有させることもある。
【0048】
つぎに、アルミニウム合金基板の表面に、下地層、磁性層、保護層、潤滑層を成膜する。これにより、磁気ディスク30が得られる。
【0049】
(ガラス基板)
ガラス基板は、アルミノシリケートガラスが、硬度が強く好適に用いられる。具体的には、アルミノシリケートガラスは、SiO2:55~70質量%を主成分として、Al2O3:25質量%以下、Li2O:12質量%以下、Na2O:12質量%以下、K2O:8質量%以下、MgO:7質量%以下、CaO:10質量%以下、ZrO2:10質量%以下、TiO2:1質量%以下の1種又は2種以上を含有し、残部が不可避不純物やその他の微量元素からなる。
【0050】
つぎに、ガラス基板の製造方法について説明する。
【0051】
まず、所定の化学成分に調製したガラス素材を溶解し、ダイレクトプレス法で、その溶融塊を両面からプレス成形して、所望の厚さを有するガラス元板を作製する。ガラス元板の作製は前記ダイレクトプレス法に限定されず、フロート法、フュージョン法、リドロー法などでも良い。
【0052】
つぎに、このガラス元板を円環状にコアリングし、さらに内径部と外径部を研磨加工し、所望の内径寸法、外径寸法、面取り長さを有する円環状ガラス板とする。
【0053】
つぎに、この円環状ガラス板両面の表面を、研削加工機で研削し、所望の板厚、平坦度を有する円環状ガラス基板とする。
【0054】
さらに、この円環状ガラス基板両面の表面を、研磨加工機で研磨し、所望の厚さの基板、すなわちガラス基板を作製する。研磨加工の途中に、硝酸ナトリウム溶液や硝酸カリウム溶液等による化学強化処理を行ってもよい。
【0055】
この方法で作製されるガラス基板の厚さの下限値は0.3mmである。それは研磨加工機で研磨する際に、ガラス基板を保持するキャリアと呼ばれる部品の厚さに起因する。キャリアの厚さは被加工物であるガラス基板の厚さ以上であれば任意に選択可能であるが、キャリアは薄すぎると強度が不足し研磨加工中に破損してしまう。キャリア強度の観点において、キャリアの厚さは0.3mm以上が好ましい。よって被加工物であるガラス基板の厚さの下限値は0.3mmとなる。なお、キャリアはアラミド樹脂やエポキシ樹脂等の樹脂製のものが好適に用いられる。強度向上を目的に、炭素繊維やガラス繊維等の繊維状補強材を含有させることもある。
【0056】
(耐衝撃性)
磁気ディスク装置100が外部から衝撃を受けた場合、
図4に示すように、磁気ディスク30にたわみが生じ、磁気ディスク30と例えばランプロード60が衝突する。ランプロード60は、上述したように、磁気ディスク装置100の非動作時にヘッド部42を退避させることを目的に、磁気ディスク30外周部側で磁気ディスク30に最も接近した位置に搭載される樹脂製の部品である。磁気ディスク30とランプロード60が衝突すると、ランプロード60の一部が欠けて異物が発生したり、磁気ディスク30にキズがついたりし、故障の原因となる。磁気ディスク30の剛性が高いほど、たわみ量は小さくなり、故障の発生確率は低減する。すなわち、磁気ディスク30の剛性が高いほど、耐衝撃性が向上する。
【0057】
(耐フラッタリング性)
磁気ディスク装置100の動作中に、磁気ディスク30は高速回転する。その回転数は例えば7200rpmである。磁気ディスク30が高速回転すると磁気ディスク30装置内の気体に乱流が生じ、磁気ディスク30が振動する。この振動現象をフラッタリングと呼ぶ。磁気ディスク30が振動すると、ヘッド部42の位置精度が低下し、読み取りエラーの原因となる。磁気ディスク30の剛性が高いほど、振動量は小さくなり、読み取りエラーの確率は低減する。すなわち、磁気ディスク30の剛性が高いほど、耐フラッタリング性が向上する。なお、磁気ディスク装置100内の気体の乱流を低減させる目的で、磁気ディスク装置100内に空気に代わりヘリウムを充填する技術が知られている。
【0058】
(磁気ディスクの剛性)
磁気ディスク30の耐衝撃性は、磁気ディスク30が衝撃による加速度を受けた際の磁気ディスク30のたわみ量の大小で示される。磁気ディスク30の耐フラッタリング性は、磁気ディスク30が高速回転することにより発生した気体の乱流を受けた際の磁気ディスク30のたわみ量の大小で示される。すなわち、磁気ディスク30の耐衝撃性と耐フラッタリング性は、磁気ディスク30がたわみ易いか否かで決まる。
【0059】
(クランプを締結する際のトルク)
クランプ70は、締結部材72により5cN・m以上45cN・m以下であるトルクでハブ90に締結されている。締結部材72としては、好ましくはT6~T8サイズのヘックスローブねじなどが使用される。なお、ボルト径はM2のものなどが使用される。締結する際のトルクの上限値は、45cN・m、好ましくは、40cN・m、より好ましくは、35cN・mである。締結する際のトルクの上限値がこれらの値であることで、磁気ディスク装置100の耐衝撃性を向上することができる。詳細には、締結する際のトルクの上限値がこれらの値であることで、磁気ディスク30とスペーサ80の接触部の一部において隙間が生じることを防ぐことができる為である。磁気ディスク30とスペーサ80の接触部の一部において隙間ができないことで、磁気ディスク装置100に外部から衝撃が加わったとしても、磁気ディスク30が変形することを防止し、磁気ディスク装置100が耐衝撃性に優れる。一方、締結する際のトルクの下限値は、5cN・m、好ましくは、20cN・m、より好ましくは、25cN・mである。締結する際のトルクがこれらの値であることで、磁気ディスク30とスペーサ80を十分締結することができる。また、締結する際のトルクの下限値が5cN・m未満であると、締結部材72が緩む虞がある。
【0060】
(第1の接触長さL1と第2の接触長さL2との比率)
磁気ディスク30とクランプ70との径方向における第1の接触長さL1は、磁気ディスク30とスペーサ80との径方向における第2の接触長さL2の2分の1以上であることが好ましい。第1の接触長さL1/第2の接触長さL2を2分の1以上とすることで、耐衝撃性を向上させることができる。第1の接触長さL1/第2の接触長さL2が2分の1以上であることで、磁気ディスク30とクランプ70との接触部が大きく、磁気ディスク30とクランプ70との隙間を少なくできる。隙間が少ないことで、磁気ディスク装置100に外部から衝撃が加わったとしても、磁気ディスク30が変形することを防ぐことができ、磁気ディスク装置100は耐衝撃性に優れる。よって、第1の接触長さL1/第2の接触長さL2は、2分の1以上であることが好ましく、より好ましくは、0.9以上である。なお、耐衝撃性の観点では、第1の接触長さL1/第2の接触長さL2は1.0に近い方が好ましいが、1.0に近くなるほどクランプの重量が重くなるので、0.95程度を上限とするのが好ましい。
【0061】
(磁気ディスク装置を製造する方法)
磁気ディスク装置を製造する方法は、
図2に示すように、配置工程では、磁気ディスク30およびスペーサ80をハブ90に配置し、締結工程では、5cN・m以上45cN・m以下のトルクでクランプ70を締結部材72でハブ90に締結する。詳細には、配置工程では、磁気ディスク30とスペーサ80とを交互に重ねてハブ90に配置する。締結工程では、磁気ディスク30およびスペーサ80が配置されたハブ90にクランプ70を裁置し、締結部材72としてヘックスローブねじを用いクランプ70をハブ90に締結する。これにより、磁気ディスク30およびスペーサ80はハブ90に固定される。締結工程において、締結部材72でクランプ70を締結する際のトルクの上限値は、上述したように、45cN・m、好ましくは、40cN・m、より好ましくは、35cN・mである。また、トルクの下限値は、5cN・m、好ましくは、20cN・m、より好ましくは、25cN・mである。なお、
図1では6本の締結部材72で締結しているが、締結する際のトルクは全て同じにすることが好ましい。締結トルクは、例えば、中村製作所社製のカノン空転式トルクドライバーにて調整することができる。また、締結トルクの測定は、例えば、東日製作所社製のトルクドライバーにて実施することができる。
【0062】
以上のように、本実施の形態の磁気ディスク装置100によれば、クランプ70を締結する際のトルクを適切に調整することで、記録領域を少なくすることなく、耐衝撃性を向上させることができるため、優れた耐衝撃性および高いデータ容量を有するアルミニウム合金基板およびガラス基板からなる磁気ディスクを搭載した3.5インチ磁気ディスク装置を提供することができる。また、磁気ディスク30とクランプ70との径方向における第1の接触長さL1が、磁気ディスク30とスペーサ80との径方向における第2の接触長さL2の2分の1以上であることで、磁気ディスク装置100は、記録領域を少なくすることなく、耐衝撃性を向上させることができる。磁気ディスク装置100をデータセンターに搭載することで、データセンターの高容量化に寄与することができる。また、クランプ70を締結する際のトルクを適切に調整することで、または第1の接触長さL1が第2の接触長さL2の2分の1以上であることで、記録領域を少なくすることなく、耐衝撃性を向上させることができるという本実施の形態の考え方は、3.5インチ磁気ディスク装置100に限らず、あらゆるサイズの磁気ディスク装置100に応用することができる。磁気ディスク30の種類はアルミニウム合金基板およびガラス基板からなる磁気ディスク30に限らず、あらゆる種類の磁気ディスク30に応用することができる。
【0063】
(変形例)
上述の実施の形態では、磁気ディスク30の間にスペーサ80を重ねずに配置する例について説明した。スペーサ80は、
図5に示すように、複数枚重ねて積層してもよい。通常は、磁気ディスク30の間にスペーサ80を1枚入れるが、2枚以上重ねて積層することで耐衝撃性を向上させることができる。なお、スペーサ80の枚数は多い方が良いが、多すぎると磁気ディスク30の搭載枚数が少なくなってしまうため、3枚を上限とする。また、
図6に示すように、全てのスペーサ80の枚数を2枚以上にすると磁気ディスク30の搭載枚数が少なくなってしまうため、スペーサ80を2枚以上にするのは変形が大きくなりやすい1番上の磁気ディスク30(クランプ70に接触する磁気ディスク30)に接するスペーサ80だけにすることが好ましい。なお、スペーサ80の厚さTsを大きくすることも効果的だが、その場合、スペーサ80の設計を変更する必要があり、現実的でないため、スペーサ80を複数枚重ねて積層することが好ましい。
【0064】
上述の実施の形態では、磁気ディスク装置100が3.5インチ磁気ディスク装置である例について説明したが、磁気ディスク装置100は、3.5インチ以外の装置であってもよく、例えば、2.5インチ磁気ディスク装置であってもよい。
【実施例】
【0065】
以下に、本発明を実施例に基づいて更に詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0066】
(クランプを締結する際の締結トルクと磁気ディスクのたわみ量)
磁気ディスク用基板31として、表1に示す組成のめっき付きアルミニウム合金基板と、表2に示す組成のガラス基板を作製した。基板サイズは、内径:25mm、外径:97mm、板厚:0.50mmとした。スペーサ80は、内径25mm、外径32mm、厚さ1.7mmのアルミニウム製のものを使用した。クランプ70は、
図3に示す締結部材72の中心から突起部71中心までの距離L3を5mmと、
図3に示す締結部材72を入れるためのクランプ70の穴径d1を2mmと、
図3に示す突起部71の高さt1を0.2mmとしたクランプを用いた。締結部材72として、ボルト径がM2であるT6サイズのヘックスローブねじを使用した。
【0067】
【0068】
【0069】
つぎに、
図4に示すように、磁気ディスク用基板31をスペーサ80とクランプ70でハブ90に固定し、それらを衝撃試験装置に設置した。実施例1~9および比較例1~5の磁気ディスク用基板31を固定する際の締結トルクを表1、実施例10~11および比較例6の磁気ディスク用基板31を固定する際の締結トルクを表2に示す。締結トルクは、中村製作所社製のカノン空転式トルクドライバーにて調整した。また、トルクの測定は、東日製作所社製のトルクドライバーにて実施した。また、磁気ディスク用基板31の外周位置(基板中心からの距離r1:44.2mm)と、磁気ディスク用基板31の内周位置(基板中心からの距離r2:23mm)と、の衝撃によるたわみ量を静電容量式距離センサにより、加速度55~60G、作用時間2.7~3.0msの衝撃を付与して実測した。
【0070】
外周位置と内周位置のたわみ量の差(「外周位置のたわみ量」-「内周位置のたわみ量」)を計算し、絶対値の最大値を加速度で除したもの(「たわみ量の差の絶対値の最大値」/「加速度」、以降、最大たわみ量と呼ぶ)を算出した。測定は各サンプル1回実施した。その後、締結トルク50cN・mである比較例1~4、6の最大たわみ量を100%として組成が同じ実施例1~11の各締結トルクの最大たわみ量の相対値を求めた。実施例1~2は比較例1、実施例3~4は比較例2、実施例5~6は比較例3、実施例7~9は比較例4、実施例10~11は比較例6に基づいて最大たわみ量の相対値を求めた。比較例5の最大たわみ量の相対値は、比較例4の最大たわみ量を100%として求めた。比較例5では、締結トルク60cN・mであるため、締結トルク50cN・mである比較例4より最大たわみ量の相対値は大きかった。以上のように求めた最大たわみ量の相対値を、表1および表2に示す。表1および表2を参照すると、実施例1~11の締結トルクが10~40cN・mであり、実施例1~11の最大たわみ量の相対値は、対応する比較例1~4、6に対して100%より小さい。以上のように、締結トルク10~40cN・mである場合、締結トルク50cN・mである場合に比較して、最大たわみ量の相対値が小さいことがわかった。
【0071】
つぎに、磁気ディスク用基板31として、表3に示す組成のアルミニウム合金基板を作製した。基板サイズは、内径:25mm、外径:97mm、板厚:0.35mmとし、表1のアルミニウム合金基板とは板厚が異なる基板を準備した。実施例12、13および比較例7のスペーサ80は、内径25mm、外径32mm、厚さ1.7mmのアルミニウム製のものを、実施例14、15および比較例8のスペーサ80は、内径25mm、外径32mm、厚さ1.6mmのアルミニウム製のものを、実施例16~18および比較例9、10のスペーサ80は、内径25mm、外径33mm、厚さ1.8mmのアルミニウム製のものを使用した。クランプ70は、
図3に示すように、締結部材72の中心から突起部71中心までの距離L3は、5mm、締結部材72を入れるためのクランプ70の穴径d1は、2mm、突起部71の高さt1は、0.2mmであるものを用いた。締結部材72は、ボルト径、M2であり、T6サイズのヘックスローブねじを使用した。
【0072】
【0073】
つぎに、
図4に示すように、磁気ディスク用基板31をスペーサ80とクランプ70でハブ90に固定し、それらを衝撃試験装置に設置した。実施例12~18および比較例7~10の磁気ディスク用基板31を固定する際の締結トルクを表3に示す。締結トルクは、中村製作所社製のカノン空転式トルクドライバーにて調整した。また、トルクを測定する際は、東日製作所社製のトルクドライバーにて実施した。また、磁気ディスク用基板31の外周位置(基板中心からの距離r1:44.2mm)と、磁気ディスク用基板31の内周位置(基板中心からの距離r2:23mm)と、の衝撃によるたわみ量を静電容量式距離センサにより、加速度31~33G、作用時間3.6~3.85msの衝撃を付与して実測した。
【0074】
外周位置と内周位置のたわみ量の差(「外周位置のたわみ量」-「内周位置のたわみ量」)を計算し、絶対値の最大値を加速度で除したもの(「たわみ量の差の絶対値の最大値」/「加速度」、以降、最大たわみ量と呼ぶ)を算出した。測定は各サンプル1回実施した。その後、締結トルク50cN・mである比較例7~9の最大たわみ量を100%として実施例12~18の各締結トルクの最大たわみ量の相対値を求めた。実施例12、13は比較例7、実施例14、15は比較例8、実施例16~18は比較例9に基づいて最大たわみ量の相対値を求めた。比較例10の最大たわみ量の相対値は、比較例9の最大たわみ量を100%として求めた。比較例10では、締結トルク60cN・mであるため、締結トルク50cN・mである比較例9より最大たわみ量の相対値は大きかった。以上のように、締結トルク10~40cN・mである場合、締結トルク50cN・mである場合に比較して、最大たわみ量の相対値が小さいことがわかった。
【0075】
つぎに、磁気ディスク用基板31として、表4に示す組成のアルミニウム合金基板と、表5に示す組成のガラス基板を作製した。基板サイズは、アルミニウム合金基板は内径:25mm、外径:95mm、板厚:0.635mmとし、ガラス基板は内径:25mm、外径:97mm、板厚:0.5mmとした。スペーサ80は、内径25mm、外径32mm、厚さ1.6mmのアルミニウム製のものを使用した。クランプ70は、
図3に示すように、締結部材72の中心から突起部71中心までの距離L3は、5mm、締結部材72を入れるためのクランプ70の穴径d1は、2mm、突起部71の高さt1は、0.2mmであるものを用いた。締結部材72は、ボルト径、M2であり、T6サイズのヘックスローブねじを使用した。
【0076】
【0077】
【0078】
つぎに、
図4に示すように、磁気ディスク用基板31をスペーサ80とクランプ70でハブ90に固定し、それらを衝撃試験装置に設置した。実施例19、20および比較例11の磁気ディスク用基板31を固定する際の締結トルクを表4、実施例21、22および比較例12の磁気ディスク用基板31を固定する際の締結トルクを表5に示す。締結トルクは、中村製作所社製のカノン空転式トルクドライバーにて調整した。また、トルクを測定する際は、東日製作所社製のトルクドライバーにて実施した。また、磁気ディスク用基板31の外周位置(基板中心からの距離r1:44.2mm)と、磁気ディスク用基板31の内周位置(基板中心からの距離r2:23mm)と、の衝撃によるたわみ量を静電容量式距離センサにより、加速度51~56G、作用時間2.7~3.0msの衝撃を付与して実測した。
【0079】
外周位置と内周位置のたわみ量の差(「外周位置のたわみ量」-「内周位置のたわみ量」)を計算し、絶対値の最大値を加速度で除したもの(「たわみ量の差の絶対値の最大値」/「加速度」、以降、最大たわみ量と呼ぶ)を算出した。測定は各サンプル1回実施した。その後、締結トルク50cN・mである比較例11、12の最大たわみ量を100%として実施例19~22の各締結トルクの最大たわみ量の相対値を求めた。実施例19、20は比較例11、実施例21、22は比較例12に基づいて最大たわみ量の相対値を求めた。以上のように、締結トルク30~40cN・mである場合、締結トルク50cN・mである場合に比較して、最大たわみ量の相対値が小さいことがわかった。
【0080】
なお、衝撃による磁気ディスク用基板31の最大たわみ量が大きいと、磁気ディスク装置内の部品、例えばランプロードに強く衝突し、ランプロードの一部が欠けて異物が発生したり、磁気ディスクにキズがついたりし、故障の原因となる。磁気ディスク用基板31の最大たわみ量が小さいほど、耐衝撃性は良い。
【0081】
(第1の接触長さL1と第2の接触長さL2の比率)
締結トルクを40cN・mにして、表6および表7に示すように、L1/L2を変えて磁気ディスク用基板31をスペーサ80とクランプ70でハブ90に固定し、それらを上記と同じ衝撃試験装置に設置し、同様の試験を実施した。その後、L1/L2が0.06の比較例13~15の最大たわみ量を100%として、L1/L2が1.00の実施例23~25の最大たわみ量の相対値を求めた。実施例23は比較例13、実施例24は比較例14、実施例25は比較例15に基づいて最大たわみ量の相対値を求めた。実施例23~25は、対応する比較例13~15と組成が同じである。以上のように求めた最大たわみ量の相対値を、表6および表7に示す。表6および表7を参照すると、実施例23~25の最大たわみ量の相対値は、対応する比較例13~15に対して100%より小さい。L1/L2が1.00である実施例23~25の最大たわみ量の相対値は、L1/L2が0.06である比較例13~15の最大たわみ量の相対値より小さく、実施例23~25の耐衝撃性は良いことがわかった。
【0082】
【0083】
【0084】
(スペーサの枚数)
表8および表9に示すように、締結トルクを40cN・m、L1/L2を1.00にして、スペーサ80の枚数を変えて磁気ディスク用基板31をスペーサ80とクランプ70でハブ90に固定し、それらを上記と同じ衝撃試験装置に設置し、同様の試験を実施した。その後、スペーサ80が1枚の比較例16~18の最大たわみ量を100%としてスペーサ80が2枚の実施例26~28の最大たわみ量の相対値を求めた。実施例26は比較例16、実施例27は比較例17、実施例28は比較例18に基づいて最大たわみ量の相対値を求めた。実施例26~28は、対応する比較例16~18と組成が同じである。以上のように求めた最大たわみ量の相対値を、表8および表9に示す。表8および表9を参照すると、スペーサ80が2枚である実施例26~28の最大たわみ量の相対値は、スペーサ80が1枚である対応する比較例16~18に対して100%より小さく、実施例26~28の耐衝撃性は良いことがわかった。
【0085】
【0086】
【0087】
以上のように、クランプ70を締結する際の締結トルクを上述した値に設定することで、磁気ディスク用基板31の厚みをそのままにして、耐衝撃性を向上させることができる。これは、板厚:0.35mm、0.50mmおよび0.635mm、外径:95mmおよび97mmのアルミニウム合金基板およびガラス基板、並びに、厚さ:1.6mm、1.7mmおよび1.8mm、外径:32mmおよび33mmのスペーサを用いた上記の実施例により示された。また、第1の接触長さL1と第2の接触長さL2の比率を上述した値に設定することで、締結トルク、磁気ディスク用基板31の厚みをそのままにして、耐衝撃性を向上させることができる。また、スペーサ80の枚数を2枚にすることで、締結トルク、L1/L2および磁気ディスク用基板31の厚みをそのままにして、耐衝撃性を向上させることができる。なお、磁気ディスク用基板31は、磁気ディスク30と比較して、磁性層等を備えない点で異なるが、耐衝撃性等に関しては磁気ディスク30と同等であると考えられる。従って、締結トルク、L1/L2を上述した値にする、またはスペーサ80の枚数を2枚にすることで、優れた耐衝撃性および高いデータ容量を有する磁気ディスク装置を提供することができることがわかった。
【0088】
本発明は、本発明の広義の精神と範囲を逸脱することなく、様々な実施の形態及び変形が可能とされるものである。また、上述した実施の形態は、この発明を説明するためのものであり、本発明の範囲を限定するものではない。すなわち、本発明の範囲は、実施の形態ではなく、特許請求の範囲によって示される。そして、特許請求の範囲内及びそれと同等の発明の意義の範囲内で施される様々な変形が、この発明の範囲内とみなされる。
【0089】
本出願は、2021年3月19日に出願された、日本国特許出願特願2021-046121号に基づく。本明細書中に日本国特許出願特願2021-046121号の明細書、特許請求の範囲、図面全体を参照として取り込むものとする。
【符号の説明】
【0090】
10 筐体
20 基台
30 磁気ディスク
31 磁気ディスク用基板
40 ヘッドスタックアッセンブリ
41 アーム
42 ヘッド部
50 ボイスコイルモータ
60 ランプロード
70 クランプ
71 突起部
72 締結部材
80 スペーサ
90 ハブ
91 小径部
92 大径部
100 磁気ディスク装置
D 奥行
W 幅
H 高さ
N 枚数
Z 回転軸
Rd 外半径
Td、Ts 厚さ
T 積層高さ
Rsi 内半径
Rso 外半径