(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-12
(45)【発行日】2025-02-20
(54)【発明の名称】軟骨機能改善剤
(51)【国際特許分類】
A61K 38/01 20060101AFI20250213BHJP
A23L 2/00 20060101ALI20250213BHJP
A23L 2/52 20060101ALI20250213BHJP
A23L 2/66 20060101ALI20250213BHJP
A23L 33/17 20160101ALI20250213BHJP
A61K 38/17 20060101ALI20250213BHJP
A61K 38/44 20060101ALI20250213BHJP
A61P 19/08 20060101ALI20250213BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20250213BHJP
【FI】
A61K38/01
A23L2/00
A23L2/52
A23L2/66
A23L33/17
A61K38/17
A61K38/44
A61P19/08
A61P43/00 105
A61P43/00 107
(21)【出願番号】P 2021073455
(22)【出願日】2021-04-23
(62)【分割の表示】P 2016020281の分割
【原出願日】2016-02-04
【審査請求日】2021-05-11
【審判番号】
【審判請求日】2023-02-27
(73)【特許権者】
【識別番号】711002926
【氏名又は名称】雪印メグミルク株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000774
【氏名又は名称】弁理士法人 もえぎ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】加藤 健
(72)【発明者】
【氏名】石田 祐子
(72)【発明者】
【氏名】森田 如一
(72)【発明者】
【氏名】和田 政裕
(72)【発明者】
【氏名】中谷 祥恵
(72)【発明者】
【氏名】上田 博也
【合議体】
【審判長】冨永 みどり
【審判官】齋藤 恵
【審判官】伊藤 幸司
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2013/164992(WO,A1)
【文献】国際公開第2013/164994(WO,A1)
【文献】特開平09-227403(JP,A)
【文献】特開2000-281587(JP,A)
【文献】特開2001-346519(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K38/00-38/58
A23L33/00-33/195
A23K20/00-20/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ラクトパーオキシダーゼ、シスタチン、HMG様タンパク質、及び、それらの分解物の中から選択されるいずれか1種類以上を
有効成分とする軟骨細胞の増殖促進剤。
【請求項2】
ラクトパーオキシダーゼ、シスタチン、HMG様タンパク質、及び、それらの分解物の中から選択されるいずれか1種類以上を
有効成分とする軟骨細胞の増殖促進及び軟骨細胞の石灰化抑制のための剤。
【請求項3】
前記ラクトパーオキシダーゼ、シスタチン、HMG様タンパク質が哺乳類の乳に由来することを特徴とする請求項1に記載の
軟骨細胞の増殖促進剤又は請求項2に記載の
軟骨細胞の増殖促進及び軟骨細胞の石灰化抑制のための剤。
【請求項4】
前記ラクトパーオキシダーゼ、シスタチン、HMG様タンパク質が牛乳に由来することを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載の
軟骨細胞の増殖促進剤又は軟骨細胞の増殖促進及び軟骨細胞の石灰化抑制のための剤。
【請求項5】
前記ラクトパーオキシダーゼ、シスタチン、HMG様タンパク質の分解物が、それらをタンパク質分解酵素で分解することにより得られたものであることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれかに記載の
軟骨細胞の増殖促進剤又は軟骨細胞の増殖促進及び軟骨細胞の石灰化抑制のための剤。
【請求項6】
前記タンパク質分解酵素が、ペプシン、トリプシン、キモトリプシン、パンクレアチン及びパパインよりなる群から選択される少なくとも1種類以上であることを特徴とする請求項5に記載の
軟骨細胞の増殖促進剤又は軟骨細胞の増殖促進及び軟骨細胞の石灰化抑制のための剤。
【請求項7】
ラクトパーオキシダーゼ、シスタチン、HMG様タンパク質、及び、それらの分解物の中から選択されるいずれか1種類以上を
有効成分として含むことを特徴とする軟骨細胞の増殖促進用、あるいは、軟骨細胞の増殖促進及び軟骨細胞の石灰化抑制に用いるための、飲食品、栄養組成物又は飼料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軟骨細胞の増殖を促進する、及び/又は、軟骨細胞の石灰化を抑制する作用を有し、変形あるいは消失した軟骨を修正または再生する効果に優れ、変形性関節症、特に、変形性膝関節症などの種々の関節疾患の予防や治療に有用な軟骨機能改善剤に関する。本発明はまた、軟骨機能改善剤を配合した軟骨機能改善用飲食品、軟骨機能改善用栄養組成物、軟骨機能改善用飼料に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、日本人の平均寿命は80歳を超え、およそ4人に1人は65歳以上という、超高齢社会を迎えた。これに伴って、運動器の障害の罹患率も増加の一途を辿り、2007年に日本整形外科学会は、運動器の健康維持・増進、介護に関する国民ならびに医師の意識改革を推進するために、「ロコモティブシンドローム(運動器症候群)」という新しい言葉を提唱した。ロコモティブシンドロームは、運動器の機能不全により要介護状態および要介護リスクが高まった状態を示し、運動器には骨・関節・靱帯、脊椎・脊髄、筋肉・腱、末梢神経など、体を支え、動かす役割を有する器官が総じて含まれる。これら運動器で見られる代表的な疾患および機能障害として、骨粗鬆症やサルコペニア、変形性関節症などが挙げられる。
【0003】
変形性関節症は、50歳以上の2~3割が罹患しているとされ、患者数が最も多い関節疾患である。特に近年、その患者数は増加傾向にあり、多くの変形性関節症患者が不自由な生活を余儀なくされている。この疾患の原因は、加齢および遺伝的要因による関節構成要素の変性、あるいは肥満、労働、スポーツによる関節への負荷などと考えられており、骨端表面に存在し骨動を担う軟骨が減少して変形あるいは消失することにより、関節が滑らかに動かなくなることで発症する。
また、軟骨には血管や神経細胞がないため、それが一旦損傷を受けると自然に復元することは難しいとされている。そのため、変形性関節症の症状が軽度の場合、温熱療法やけん引といった理学療法、あるいは鎮痛薬や抗炎症薬を用いた緩和療法がとられるが、その症状が重い場合には、ヒアルロン酸の関節への注入や手術による人工関節置換が実施される。しかし、変形性関節症を根治して患者のQOL(Quality of Life、生活の質)を向上させるためには、その疾病の性質上、食品や食品に含まれる有効成分を日常的に安全に長期間摂取することにより、患者自身の変形あるいは消失した軟骨を修復または再生することが求められる。
軟骨は、間葉系幹細胞から分化した軟骨細胞と軟骨細胞が産生したコラーゲンやヒアルロン酸、プロテオグリカンなどの軟骨基質で構成されている。また、一般的に、軟骨は、軟骨細胞が増殖・成熟し、肥大化した後、石灰化するとともに、軟骨基質が変性して、骨組織に置換される。しかし、関節や椎間板では、一生涯にわたり、軟骨細胞がその性質を維持するため、軟骨が骨に置換されることなく身体に滑らかな可動性を与えている。したがって、変形あるいは消失した軟骨を修復または再生して、変形性関節症を根治するためには、軟骨に存在する軟骨細胞の増殖や軟骨細胞における軟骨基質の産生を促進すること、ならびに、軟骨細胞の石灰化を抑制して骨への置換を防止することが重要である。
軟骨に存在する軟骨細胞の増殖や軟骨細胞における軟骨基質の産生を促進する、あるいは、軟骨細胞の石灰化を抑制して骨への置換を防止する効果を有する食品成分としては、例えば、グルコサミン塩酸塩による軟骨細胞における基質産生促進と軟骨細胞の石灰化抑制(非特許文献1)やコラーゲンに由来するジペプチドであるプロリルハイドロキシプロリンによる軟骨細胞における基質産生促進と軟骨細胞の石灰化抑制(非特許文献2)等が開示されている。また、牛乳、乳製品は古来より食されてきた日常的に安全に長期間摂取することができる食品であり、それらに含まれる乳塩基性タンパク質画分やその分解物には軟骨基質の産生を促進する効果があること、ラクトフェリンには軟骨細胞の増殖を促進するとともに軟骨細胞の石灰化を抑制する効果があることが知られている(特許文献1、2、非特許文献3)。しかしながら、牛乳、乳製品に含まれるタンパク質であるラクトパーオキシダーゼやシスタチン、HMG様タンパク質(High Mobility Group-like protein)やそれらの分解物が優れた軟骨細胞の増殖を促進する、及び/又は、軟骨細胞の石灰化を抑制する作用を有し、変形あるいは消失した軟骨を修正または再生させることは知られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第2010/058679号
【文献】国際公開第2013/164992号
【非特許文献】
【0005】
【文献】Nakataniら,Biological & Pharmaceutical Bulletin,30:433-438(2007)
【文献】Nakataniら,Osteoarthritis and Cartilage,17:1620-1627(2009)
【文献】Takayamaら,Biometals,23:477-484(2010)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、日常的に安全に長期間摂取することが可能であり、軟骨細胞の増殖を促進する、及び/又は、軟骨細胞の石灰化を抑制する作用を有し、変形あるいは消失した軟骨を修正または再生する効果に優れ、変形性関節症、特に、変形性膝関節症などの種々の関節疾患の予防や治療に有用な軟骨機能改善剤並びに軟骨機能改善剤を配合した軟骨機能改善用飲食品、軟骨機能改善用栄養組成物、軟骨機能改善用飼料を提供することを課題とする。
【0007】
本発明者らは、上記の課題を解決するため鋭意検討を進めたところ、牛乳、乳製品に含まれるタンパク質であるラクトパーオキシダーゼやシスタチン、HMG様タンパク質やそれらの分解物が軟骨細胞の増殖を促進する、及び/又は、軟骨細胞の石灰化を抑制する作用を有し、変形あるいは消失した軟骨を修正または再生させることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0008】
すなわち、本発明は以下の構成によるものである。
(1)ラクトパーオキシダーゼ、シスタチン、HMG様タンパク質、及び、それらの分解物の中から選択されるいずれか1種類以上を有効成分とする軟骨機能改善剤。
(2)前記ラクトパーオキシダーゼ、シスタチン、HMG様タンパク質が哺乳類の乳に由来することを特徴とする(1)に記載の軟骨機能改善剤。
(3)前記ラクトパーオキシダーゼ、シスタチン、HMG様タンパク質が牛乳に由来することを特徴とする(1)又は(2)に記載の軟骨機能改善剤。
(4)前記ラクトパーオキシダーゼ、シスタチン、HMG様タンパク質の分解物が、それらをタンパク質分解酵素で分解することにより得られたものであることを特徴とする(1)から(3)のいずれかに記載の軟骨機能改善剤。
(5)前記タンパク質分解酵素が、ペプシン、トリプシン、キモトリプシン、パンクレアチン及びパパインよりなる群から選択される少なくとも1種類以上であることを特徴とする(4)に記載の軟骨機能改善剤。
(6)(1)から(5)のいずれかに記載の軟骨機能改善剤を含むことを特徴とする軟骨機能改善用飲食品、軟骨機能改善用栄養組成物、軟骨機能改善用飼料。
(7)(1)から(5)のいずれかに記載のラクトパーオキシダーゼ、シスタチン、HMG様タンパク質、及び/又は、それらの分解物を1日あたり1mg以上摂取することによる軟骨機能を改善する方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明の軟骨機能改善剤は、軟骨細胞の増殖を促進する、及び/又は、軟骨細胞の石灰化を抑制する作用を有し、変形あるいは消失した軟骨を修正または再生する効果に優れているため、変形性関節症、特に、変形性膝関節症などの種々の関節疾患の予防や治療に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】マウスを6群に分け、リンを標準量配合した標準食、高リン食及び、高リン食とラクトパーオキシダーゼ等を摂取させ、10週間飼育した後の右後肢の関節軟骨層の厚さを比較した。
【
図2】マウスを6群に分け、リンを標準量配合した標準食、高リン食及び、高リン食とラクトパーオキシダーゼ等を摂取させ、10週間飼育した後の右後肢の関節軟骨層に存在する軟骨細胞の数を比較した。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の特徴は、牛乳、乳製品に含まれるタンパク質であるラクトパーオキシダーゼやシスタチン、HMG様タンパク質、及び/又は、それらの分解物を有効成分とすることにある。本発明で用いるラクトパーオキシダーゼやシスタチン、HMG様タンパク質は、牛乳、人乳、山羊乳、羊乳など哺乳類の乳から調製したものや化学的に合成されたもの、遺伝子工学的手法により生産されたもの、血液や臓器から精製したもの等が使用可能であり、精製され、市販されているラクトパーオキシダーゼやシスタチン、HMG様タンパク質の試薬を使用することもできる。また、本発明で用いるラクトパーオキシダーゼやシスタ
チン、HMG様タンパク質の分解物は、それらをタンパク質分解酵素で処理することにより調製することが可能である。
【0012】
本発明の有効成分であるラクトパーオキシダーゼを調製する方法としては、例えば、スルホン基を導入した多糖類アフィニティ担体を用いて乳から精製する方法(特開平3-109400号公報)が知られている。また、本発明の有効成分であるラクトパーオキシダーゼの分解物は、例えば、ラトパーオキシダーゼをトリプシン、パンクレアチン、キモトリプシン、ペプシン、パパイン、カリクレイン、カテプシン、サーモライシン、V8プロテアーゼ等のタンパク質分解酵素を用いて分子量が10,000以下(好ましくは、分子量が500以上)になるように調製すればよい。
【0013】
本発明の有効成分であるシスタチンを調製する方法としては、例えば、カラムクロマトグラフィーを用いて乳から精製する方法(特開2000-281587号公報)が知られている。また、本発明の有効成分であるシスタチンの分解物は、例えば、シスタチンをトリプシン、パンクレアチン、キモトリプシン、ペプシン、パパイン、カリクレイン、カテプシン、サーモライシン、V8プロテアーゼ等のタンパク質分解酵素を用いて分子量が8,000以下(好ましくは、分子量が500以上)になるように調製すればよい。
【0014】
本発明の有効成分であるHMG様タンパク質を調製する方法としては、例えば、カラムクロマトグラフィーを用いて乳から精製する方法(特開平9-227403号公報)が知られている。また、本発明の有効成分であるHMG様タンパク質の分解物は、例えば、HMG様タンパク質をトリプシン、パンクレアチン、キモトリプシン、ペプシン、パパイン、カリクレイン、カテプシン、サーモライシン、V8プロテアーゼ等のタンパク質分解酵素を用いて分子量が6,000以下(好ましくは、分子量が500以上)になるように調製すればよい。
【0015】
本発明では、ラクトパーオキシダーゼやシスタチン、HMG様タンパク質、ならびに、それらの分解物のいずれか1種類以上を、そのまま本発明の軟骨機能改善剤に使用してもよいが、必要に応じて、常法に従い、粉末剤、顆粒剤、錠剤、カプセル剤、ドリンク剤等に製剤化することもできる。
【0016】
本発明では、有効成分であるラクトパーオキシダーゼやシスタチン、HMG様タンパク質、ならびに、それらの分解物を製剤化あるいは飲食品等へ添加する場合、添加方法、配合方法等に特に制限はなく、例えば、溶液中で添加、配合するには、ラクトパーオキシダーゼやシスタチン、HMG様タンパク質、ならびに、それらの分解物のいずれか1種類以上を脱イオン水に懸濁あるいは溶解し、撹拌混合した後、製剤化、あるいは飲食品や飼料の形態に調製して使用すればよい。撹拌混合の条件としては、ラクトパーオキシダーゼやシスタチン、HMG様タンパク質、ならびに、それらの分解物が均一に混合されればよく、ウルトラディスパーサーやTKホモミクサー等を使用して撹拌混合することも可能である。また、当該組成物の溶液は、製剤化、あるいは飲食品や飼料に使用しやすいように、必要に応じて、RO膜やUF膜等での脱塩あるいは濃縮してから、あるいは、凍結乾燥してから使用することができる。本発明では、医薬品、飲食品や飼料の製造に通常使用される殺菌処理が可能であり、粉末状では乾熱殺菌も可能である。以上により、本発明の軟骨機能改善剤は、液状、ゲル状、粉末状、顆粒状等様々な形態とすることが可能であり、また、製剤化した後に栄養剤やヨーグルト、乳飲料、ウエハース等の飲食品や栄養組成物に配合することも可能である。
【0017】
本発明の軟骨機能改善剤は、有効成分としてラクトパーオキシダーゼやシスタチン、HMG様タンパク質、ならびに、それらの分解物のいずれか1種類以上を含む他、製剤化に際して、通常使用される充填剤、増量剤、結合剤、崩壊剤、界面活性剤、滑沢剤等の希釈剤又は賦形剤を用いることができる。賦形剤としては、例えば、ショ糖、乳糖、デンプン、結晶性セルロース、マンニット、軽質無水珪酸、アルミン酸マグネシウム、合成珪酸アルミニウム、メタ珪酸アルミン酸マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸水素ナトリウム、リン酸水素カルシウム、カルボキシルメチルセルロースカルシウム等を1種又は2種以上組み合わせて用いることが可能である。
また、本発明の軟骨機能改善剤では、安定剤や糖類、脂質、フレーバー、ビタミン、ミネラル、フラボノイド、ポリフェノール等を併用することも可能であり、飲食品や飼料を調製する際に、適宜これらを配合して使用することができる。また、他の軟骨機能を改善する効果を示す成分、例えば、グルコサミン塩酸塩やラクトフェリン等とともに使用することも可能である。
【0018】
本発明の軟骨機能改善剤では、後述する試験例に示すように、マウスに、ラクトパーオキシダーゼやシスタチン、HMG様タンパク質、ならびに、それらの分解物のいずれか1種類以上を体重1kgあたり1mg以上経口摂取させることにより、軟骨細胞の増殖を促進する、及び/又は、軟骨細胞の石灰化を抑制することが可能である。実験動物における摂取量は、血中薬物濃度において、成人一人あたりの摂取量に該当することから(中島光好(1993)「第8巻 薬効評価」 廣川書店 2-18頁)、通常、成人一人一日あたり、ラクトパーオキシダーゼやシスタチン、HMG様タンパク質、ならびに、それらの分解物のいずれか1種類以上を1mg以上摂取することにより、軟骨の機能の改善、特に、変形性関節症に対する予防や治療の効果が期待できる。したがって、ラクトパーオキシダーゼやシスタチン、HMG様タンパク質、ならびに、それらの分解物のいずれか1種類以上を、この必要量を確保できるように製剤化あるいは飲食品等に配合すればよい。例えば、成人一人一日あたり、ラクトパーオキシダーゼやシスタチン、HMG様タンパク質、ならびに、それらの分解物のいずれか1種類以上を1mg以上摂取させるためには、医薬、飲食品、飼料の形態にもよるが、最終製品として、全質量に対して、ラクトパーオキシダーゼやシスタチン、HMG様タンパク質、ならびに、それらの分解物のいずれか1種類以上を0.0005%~5%(重量/重量)、好ましくは、0.05~2.5%(重量/重量)含有させればよい。
【0019】
以下に本発明の実施例及び試験例を示し、詳細に説明するが、これらは単に例示するのみであり、本発明はこれらによって何ら限定されるものではない。
【実施例1】
【0020】
陽イオン交換樹脂であるスルホン化キトパール(富士紡績社製)400gを充填したカラム(直径5cm×高さ30cm)を脱イオン水で十分に洗浄した後、このカラムに未殺菌脱脂乳40L(pH6.7)を流速25ml/minで通液した。通液後、カラムを脱イオン水で十分洗浄し、2.0M塩化ナトリウムを含む0.02M炭酸緩衝液(pH7.0) で溶出した。そしてラクトパーオキシダーゼを含有する溶出画分をS-Sepharose FFカラム(GEヘルスケア社製)に吸着させ、脱イオン水で十分洗浄し、10mMリン酸緩衝液(pH7.0) で平衡化した後、0~2.0M塩化ナトリウムのリニアグラジエントで吸着した画分を溶出し、ラクトパーオキシダーゼを含む画分を回収した。そしてその画分をHiLoad 16/60 Superdex 75 pg(GEヘルスケア社製) を用いたゲル濾過クロマトグラフィーで処理し、ラクトパーオキシダーゼ3.0gを得た。なお、このようにして得られたラクトパーオキシダーゼの純度は94%であり、そのまま軟骨機能改善剤(実施例品1)として使用可能である。
【実施例2】
【0021】
実施例1で得られたラクトパーオキシダーゼ1gを水200mlに溶解し、最終濃度が0.01重量%となるようタンパク質分解酵素であるパンクレアチン(シグマアルドリッチ社製) を加え、37℃で5時間酵素処理した。そして、90℃で5分間加熱処理して酵素を失活させた後、凍結乾燥してラクトパーオキシダーゼ分解物0.8gを得た。なお、このようにして得られたラクトパーオキシダーゼ分解物の分子量は、10,000以下であり、そのまま軟骨機能改善剤(実施例品2)として使用可能である。
【実施例3】
【0022】
実施例1で得られたラクトパーオキシダーゼ1gを水200mlに溶解し、最終濃度が0.01重量%となるようタンパク質分解酵素であるトリプシン(シグマアルドリッチ社製)を加え、37 ℃ で5時間酵素処理した。そして、90℃で5分間加熱処理して酵素を失活させた後、凍結乾燥してラクトパーオキシダーゼ分解物0.9gを得た。なお、このようにして得られたラクトパーオキシダーゼ分解物の分子量は、10,000以下であり、そのまま軟骨機能改善剤(実施例品3)として使用可能である。
【実施例4】
【0023】
Sセファロース3,000gを充填したカラムを脱イオン水で充分洗浄し、脱脂乳10,000Lを通液し、脱イオン水で充分洗浄した後、0.1~1.0Mの塩化ナトリウムの直線濃度勾配で溶出した。得られた画分を90℃で10分間加熱処理し、遠心分離することにより沈澱を除去した。そして、シスタチンを含む溶出画分を再度MonoSイオン交換クロマトグラフィーで分画した。さらに、この画分をFPLCシステムによりMonoQイオン交換クロマトグラフィー、Superose12ゲル濾過クロマトグラフィーを行い、さらにHPLCシステムにてヒドロキシアパタイトクロマトグラフィー及びC4逆相クロマトグラフィーで順次処理し、シスタチン58mgを得た。なお、このようにして得られたシスタチンは、そのまま軟骨機能改善剤(実施例品4)として使用可能である。
【実施例5】
【0024】
5%乳清タンパク質溶液10,000Lを90℃で10分間加熱処理し、遠心分離することにより沈澱を除去した。さらに、カルボキシメチル化パパインをトレシルトヨパール(Tresyl-Toyopearl、東ソー社製) に結合させた担体をカラムに充填後、0.5M塩化ナトリウム溶液で平衡化し、先の乳清タンパク質溶液を通液した。通液後、0.5M塩化ナトリウム溶液と0.1% Tween20を含む0.5M塩化ナトリウム溶液で順次カラムを洗浄した。次いで、20mM 酢酸-0.5M塩化ナトリウム溶液でシステインプロテアーゼを溶出させた。溶出画分を直ちに1M水酸化ナトリウム溶液で中和し、MonoS陰イオン交換クロマトグラフィー、さらにHPLCシステムにてヒドロキシアパタイトクロマトグラフィー及びC4逆相クロマトグラフィーで順次処理して分画し、シスタチン48mgを得た。なお、このようにして得られたシスタチンは、そのまま軟骨機能改善剤(実施例品5)として使用可能である。
【実施例6】
【0025】
実施例4で得られたシスタチン25mgを、水100mlに溶解し、最終濃度が1%となるようにパンクレアチン(シグマアルドリッチ社製)を加えて、37℃で5時間酵素処理した。そして、90℃で5分間加熱処理して酵素を失活させた後、凍結乾燥して、シスタチン分解物(実施例品6A)23mgを得た。また、実施例5で得られたシスタチン25mgを、同様に処理し、シスタチン分解物(実施例品6B)24mgを得た。なお、このようにして得られたシスタチン分解物の分子量は、8,000以下であり、そのまま軟骨機能改善剤(実施例品6Aと実施例品6B)として使用可能である。
【実施例7】
【0026】
スルホン化キトパール3,000g(富士紡績社製)を充填したカラムを脱イオン交換水で充分に洗浄した後、脱脂乳300Lを通液した。その後、脱イオン交換水で充分洗浄した後、0.02Mの炭酸緩衝液(pH6.7)で樹脂に吸着した塩基性タンパク質を0.1M~1.0MのNaClを用いて直線濃度勾配で溶出して、回収した。次に、HMG様タンパク質を含む溶出画分を0.1Mのリン酸緩衝液(pH6.5)で平衝化させたS-Sepharose陽イオン交換クロマトグラフィーで0.1M~1.0MのNaClを用いて直線濃度勾配で溶出させて分画し、得られた画分を90℃で10分間加熱処理した後、遠心分離することにより沈澱を除去した。さらに、この画分を0.1Mのリン酸緩衝液(pH6.5)で平衝化させたMono Qイオン交換クロマトグラフィーで0.1M~1.0MのNaClを用いて直線濃度勾配で溶出させて分画し、0.1Mのリン酸緩衝液(pH6.5)平衝化させたSepharose 12ゲル濾過クロマトグラフィーでさらに分画した。最後にC4逆相クロマトグラフィーを使用した高速液体クロマトグラフィーで処理し、HMG様タンパク質135mgを得た。なお、このようにして得られたHMG様タンパク質は、そのまま軟骨機能改善剤(実施例品7)として使用可能である。
【実施例8】
【0027】
実施例7で得られたHMG様タンパク質25mgを、水100mlに溶解し、最終濃度が0.01重量%となるようタンパク質分解酵素であるトリプシン(シグマアルドリッチ社製)を加え、37 ℃ で5時間酵素処理した。そして、90℃で5分間加熱処理して酵素を失活させた後、凍結乾燥してHMG様タンパク質分解物24mgを得た。なお、このようにして得られたHMG様タンパク質分解物の分子量は、6,000以下であり、そのまま軟骨機能改善剤(実施例品8)として使用可能である。
(試験例1)
【0028】
(細胞実験)
実施例品1のラクトパーオキシダーゼ、実施例品2のラクトパーオキシダーゼ分解物、実施例品4のシスタチン、実施例品6Bのシスタチン分解物、実施例品7のHMG様タンパク質、実施例品8のHMG様タンパク質分解物、ならびに、実施例品1と4の混合物、実施例品5と7の混合物を用いて、軟骨細胞の増殖を促進する作用を評価した。マウス由来軟骨前駆細胞株(ATDC5)を96穴細胞培養プレートに、1ウェルあたり5×103個ずつ播種し、5%のウシ胎児血清を含むダルベッコ改変イーグル培地/ハムF-12混合培地で、37℃、5%CO2雰囲気下の培養器内で24時間培養した。その後、培地を全量交換した後、実施例品1、2、4、6B、7、8及び実施例品1と4の混合物、実施例品5と7の混合物をPBS(-)に溶解したものを、それぞれ最終濃度が1μg/mLになるように培地に添加して48時間培養した。なお、陰性対照には、溶媒として用いたPBS(-)を使用した。培地を全量除去し、細胞増殖試薬WST‐1(ロシュ・ダイアグノスティックス株式会社)を培地中に10分の1量含むように添加した後、6時間培養し、プレートリーダーを用いて440nmの吸光度を測定した。WST‐1は生細胞の代謝活性によってフォルマザン色素に還元されるため、フォルマザン色素量は代謝活性を有する細胞数に比例する。そこで、フォルマザン色素量を反映する吸光度の値を軟骨細胞増殖促進作用の指標とした。結果を表1に示す。
【0029】
【0030】
その結果、培地に実施例品1のラクトパーオキシダーゼ、実施例品2のラクトパーオキシダーゼ分解物、実施例品4のシスタチン、実施例品6Bのシスタチン分解物、実施例品7のHMG様タンパク質、実施例品8のHMG様タンパク質分解物、ならびに、実施例品1と4の混合物、実施例品5と7の混合物を添加した場合、PBS(-)を培地に添加した場合に比べ、軟骨前駆細胞の細胞数が有意に増加した。したがって、本発明のラクトパーオキシダーゼやシスタチン、HMG様タンパク質ならびに、それら分解物は、軟骨細胞の増殖を促進することがわかった。
(試験例2)
【0031】
(細胞実験)
実施例品1のラクトパーオキシダーゼ、実施例品3のラクトパーオキシダーゼ分解物、実施例品5のシスタチン、実施例品6Aのシスタチン分解物、実施例品7のHMG様タンパク質、実施例品8のHMG様タンパク質分解物、ならびに、実施例品1と7の混合物、実施例品4と8の混合物を用いて、軟骨細胞の石灰化を抑制する作用を評価した。マウス由来軟骨前駆細胞株(ATDC5)を96穴細胞培養プレートに、1ウェルあたり3×103個ずつ播種し、5%のウシ胎児血清を含むダルベッコ改変イーグル培地/ハムF-12混合培地を用い、37℃、5%CO2雰囲気下の培養器内で、24時間培養した。その後、培地を全量交換した後、実施例品1、3、5、6A、7、8及び実施例品1と7の混合物、実施例品4と8の混合物をPBS(-)に溶解したものを、それぞれ最終濃度が1μg/mLになるように培地に添加し、毎日培地を交換しながら7日間培養した。なお、陰性対照には、溶媒として用いたPBS(-)を使用した。培養終了後、細胞を、20%ホルマリン溶液で20分間固定して、水洗し、水を入れて15分間静置した後、0.05Mの2‐Amino‐2‐methyl‐1,3‐propanediol(AMP)溶液に、Naphthol AS‐BI phosphateならびにFast Red Violet LB Saltを溶解することで調製したアルカリフォスファターゼ(ALP)染色液を用いて、20分間、37℃で染色した。染色後、5回水洗し、風乾した後、スキャナーを用いて取り込んだ培養プレートの染色像から、画像処理ソフトウェアを用いて、被染色エリアの面積を算出した。なお、被染色面積は、陰性対照の値を1とした相対値として示した。また、ALP活性は、軟骨細胞における石灰化の初期マーカーとされるため、被染色エリアの面積が小さいほど石灰化が抑制されている。結果を表2に示す。
【0032】
【0033】
その結果、培地に実施例品1のラクトパーオキシダーゼ、実施例品3のラクトパーオキシダーゼ分解物、実施例品5のシスタチン、実施例品6Aのシスタチン分解物、実施例品7のHMG様タンパク質、実施例品8のHMG様タンパク質分解物、ならびに、実施例品1と7の混合物、実施例品4と8の混合物を添加した場合、PBS(-)を培地に添加した場合に比べ、ALP染色の被染色面積が有意に減少した。したがって、本発明のラクトパーオキシダーゼやシスタチン、HMG様タンパク質ならびに、それら分解物は、軟骨細胞の石灰化を抑制することがわかった。
(試験例3)
【0034】
(動物実験)
実施例品1のラクトパーオキシダーゼ、実施例品3のラクトパーオキシダーゼ分解物、実施例品4のシスタチン、ならびに実施例品7のHMG様タンパク質を用いて、関節軟骨層の初期変性に対する効果を検証した。10週齢のC57BL/6J系の雄性マウスを体重にばらつきのないように各群10匹ずつ6群に分けた。実施例品を摂取させずにリンを標準量(0.2g/100g-飼料)配合した飼料(標準食)を摂取させる群をA群、実施例品を摂取させずにリンを高用量(1.2g/100g-飼料)配合した飼料(高リン食)を摂取させる群をB群とした。また、実施例品1を摂取させる群をC群、実施例品4を摂取させる群をD群、実施例品7を摂取させる群をE群、実施例品3を摂取させる群をF群とし、1日あたりの実施例品の摂取量がマウス体重1kgあたり1mgとなるよう高リン食に配合した。10週間飼育した後、右後肢を摘出して10%中性緩衝ホルマリン液に浸漬して固定し、膝関節のパラフィン包埋切片を作成して、ヘマトキシリン・エオジン染色を施した。それらを用いて、関節軟骨層の厚さと関節軟骨層に存在する軟骨細胞の数を測定することで、関節軟骨層の初期変性に対する効果を評価した。結果を
図1と
図2に示す。
【0035】
その結果、実施例品を摂取させずに高リン食を摂取させたB群では、実施例品を摂取させずに標準食を摂取させたA群に比較して、リンの過剰摂取により関節軟骨層の厚さと関節軟骨層に存在する軟骨細胞数が有意に減少した。一方、実施例品1、3、4、7を摂取させたC群~F群では、関節軟骨層の厚さや軟骨細胞の数の減少がB群に比べ有意に抑制された。したがって、本発明のラクトパーオキシダーゼやシスタチン、HMG様タンパク質ならびに、それら分解物は、関節軟骨の初期変性を抑制することがわかった。
【実施例9】
【0036】
(軟骨機能改善用錠剤の調製)
表3に示す配合で原材料を混合後、常法により1gに成型、打錠して軟骨機能改善用錠剤を製造した。なお、この錠剤1gには、実施例品1のラクトパーオキシダーゼが1mg含まれていた。
【0037】
【実施例10】
【0038】
(軟骨機能改善用栄養組成物の調製)
実施例品3のラクトパーオキシダーゼ分解物0.5gを4,999.5gの脱イオン水に溶解し、45℃まで加熱後、TKホモミクサー(TK ROBO MICS;特殊機化工業社製)にて、6,000rpmで30分間撹拌混合して、実施例品3のラクトパーオキシダーゼ分解物を0.5g/5.0kg含有する溶液を得た。この溶液5.0kgに、表4の原材料を添加して、さらに10分間撹拌混合した後、200mlのレトルトパウチに充填し、レトルト殺菌機(第1種圧力容器、TYPE:RCS-4CRTGN、日阪製作所製)で121℃、20分間殺菌して、本発明の軟骨機能改善用液状栄養組成物50kgを製造した。なお、この軟骨機能改善用液状栄養組成物には、100gあたり、実施例品3のラクトパーオキシダーゼ分解物が1mg含まれていた。
【0039】
【実施例11】
【0040】
(軟骨機能改善用飲料の調製)
脱脂粉乳140gを569.95gの脱イオン水に溶解した後、実施例品4のシスタチン0.05gを溶解し、45℃まで加熱後、ウルトラディスパーサー(ULTRA-TURRAX T-25;IKAジャパン社製)にて、9,500rpmで30分間撹拌混合した。表5の原材料を添加し、さらに15分間撹拌混合した後、100mlのガラス瓶に充填して、95℃、15秒間殺菌後、密栓し、本発明の軟骨機能改善用飲料10本(100ml入り)を調製した。なお、この軟骨機能改善用飲料には、100mlあたり実施例品4のシスタチンが5mg含まれていた。
【0041】
【実施例12】
【0042】
(イヌ用軟骨機能改善用飼料の調製)
実施例品7のHMG様タンパク質0.1gを99.9gの脱イオン水に溶解し、45℃まで加熱後、ウルトラディスパーサー(ULTRA-TURRAX T-25;IKAジャパン社製)にて、9,500rpmで40分間撹拌混合して、実施例品7のHMG様タンパク質を0.1g/100g含有する溶液を得た。この溶液100gに表6の原材料を添加して、さらに40分間撹拌混合した後、120℃、4分間殺菌して、本発明のイヌ用軟骨機能改善用飼料1kgを製造した。なお、このイヌ用軟骨機能改善用飼料には、100gあたり、実施例品7のHMG様タンパク質が10mg含まれていた。
【0043】