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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-12
(45)【発行日】2025-02-20
(54)【発明の名称】レーザ分析装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 21/65 20060101AFI20250213BHJP
【FI】
G01N21/65
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2021555120
(86)(22)【出願日】2020-11-06
(86)【国際出願番号】 JP2020041491
(87)【国際公開番号】W WO2021090908
(87)【国際公開日】2021-05-14
【審査請求日】2023-10-16
(31)【優先権主張番号】P 2019202915
(32)【優先日】2019-11-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000155023
【氏名又は名称】株式会社堀場製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100121441
【弁理士】
【氏名又は名称】西村 竜平
(74)【代理人】
【識別番号】100154704
【弁理士】
【氏名又は名称】齊藤 真大
(74)【代理人】
【識別番号】100206151
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 惇志
(74)【代理人】
【識別番号】100218187
【弁理士】
【氏名又は名称】前田 治子
(72)【発明者】
【氏名】武田 あや
(72)【発明者】
【氏名】樋口 誠司
【審査官】伊藤 裕美
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-188128(JP,A)
【文献】特開2019-190985(JP,A)
【文献】特表平08-507953(JP,A)
【文献】特開2015-198937(JP,A)
【文献】登録実用新案第3079005(JP,U)
【文献】特開平06-336266(JP,A)
【文献】特開2000-109159(JP,A)
【文献】特開2013-143811(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/00-21/958
G01Q 10/00-90/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料にレーザ光が照射されるレーザ分析部と、
前記レーザ分析部の周囲をレーザ光が外部に放出されないように覆うとともに、少なくとも一部にスリットを有し、可撓性を有するカバーと、
前記スリットを開閉可能とするように設けられたファスナと、
前記ファスナが全閉している状態を検出する検出器を具備するインターロック機構と、を備え、
前記ファスナが全閉していることを前記検出器が検出している状態において、前記レーザ分析部内に所定強度以上のレーザ光が導入されるように構成されていることを特徴とするレーザ分析装置。
【請求項2】
前記レーザ分析部が定盤の上に載置されており、前記検出器が前記定盤の上に前記レーザ分析部とは別体として載置されている請求項1記載のレーザ分析装置。
【請求項3】
前記カバーが、上下方向に延びる前記スリットを複数箇所に有しており、
各スリットに対して前記ファスナがそれぞれ設けられている請求項1又は2記載のレーザ分析装置。
【請求項4】
試料にレーザ光が照射されるレーザ分析部と、
前記レーザ分析部の近傍において周囲をレーザ光が外部に放出されないように覆うとともに、少なくとも一部にスリットを有する可撓性を有するカバーと
前記スリットを開閉可能とするように設けられたファスナとを、備えたことを特徴とするレーザ分析装置。
【請求項5】
前記レーザ分析部が、前記試料に接触又は近接するように設けられた探針を更に具備する請求項4記載のレーザ分析装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザ光が試料に対して照射されるレーザ分析装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えばラマン分光分析等の各種分析では試料に対してレーザ光が照射され、その散乱光、透過光、反射光を検出することで試料の分析が行われる。
【0003】
ところで、高いエネルギー密度を有しているレーザ光がレーザ分析装置のオペレータの眼に入射してしまうと、視力低下や失明に至る可能性がある。このため例えば日本工業規格ではレーザ光を放射する製品について複数の安全クラスを設けている。このうち、安全クラス1(本質的に安全)の基準を満たすには、迷走レーザを含むレーザ光による人体の被爆を予防するために、例えば保護筐体を備えていなければならない。また、保護筐体内の機器にアクセスするために保護筐体の扉が設けられる場合には、扉が閉じられていることが検出されている場合にのみ所定強度以上のレーザ光が射出されるようにインターロック機構を設ける必要がある。(非特許文献1参照)。
【0004】
具体的には特許文献1に示されるように、従来のレーザ分析装置はレーザ光の光路全体を内部に収容する樹脂や板金で形成された箱型の保護筐体を備えている。この保護筐体は、本体部と、本体部に対して開閉可能に設けられた扉と、扉が閉じられた状態でのみ扉に対して接触するように本体部の開口に設けられ、インターロック機構を構成する扉検出器と、を備えている。
【0005】
しかしながら、上記のような構成の保護筐体の扉が開閉されると、衝撃が発生し、内部の光学系にずれが生じ、分析誤差等となって現れる可能性がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2009-188128号公報
【非特許文献】
【0007】
【文献】日本工業規格、JIS C6802
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は上述したような問題に鑑みてなされたものであり、人体への被爆を防止するための保護機構について、レーザ光学系に対して大きな衝撃が発生しないように開閉可能に構成したレーザ分析装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
すなわち、本発明に係るレーザ分析装置は、試料にレーザ光が照射されるレーザ分析部と、前記レーザ分析部の周囲をレーザ光が外部に放出されないように覆うとともに、少なくとも一部にスリットを有するカバーと、前記スリットを開閉可能に設けられたファスナと、前記ファスナが全閉している状態を検出する検出器を具備するインターロック機構と、を備え、前記ファスナが全閉していることを前記検出器が検出している状態において、前記レーザ分析部内に所定強度以上のレーザ光が導入されるように構成されていることを特徴とする。
【0010】
このようなものであれば、前記ファスナのスライダを移動させることによって前記レーザ分析部を覆う前記カバーの前記スリットを全閉できるので、全閉時に衝撃が起こりにくい。したがって、前記カバーを開閉可能に構成しても前記レーザ分析部内やそれに連なるレーザ光学系にずれが発生して、試料の分析結果に誤差が発生するのを防ぐことができる。
【0011】
また、前記ファスナのスライダを全閉位置まで移動させるだけで、前記ファスナのエレメント(務歯)はすべて噛み合い、簡単に前記スリットを隙間なく閉じることができる。さらに、前記ファスナが全閉している状態を検出しているので、インターロックが解除されるのは前記カバーに開口がなく、前記レーザ分析部から外部へレーザ光が放出される可能性が無い場合に限られる。加えて、前記ファスナを閉じる動作を行うだけでエレメントの一端から他端までが連続的に閉じられていることを例えば目視で簡単に確認することもできる。
【0012】
例えば前記スリットの開閉時等に前記カバー自体が前記レーザ分析部に対して直接接触しても、衝撃が発生しないようにするには、前記カバーが可撓性を有する素材で形成されたものであればよい。また、前記カバーが可撓性を有しているので、前記ファスナを開放した場合には前記スリットの開口面積を大きくしたり、カバー自体をたくし上げたりして前記レーザ分析部に対してオペレータが容易にアクセスできる。
【0013】
例えばファスナのスライダやスライダに設けられたキーが前記検出器に接触したことで前記ファスナが全閉していることを検出する場合に、前記検出器への接触による微小な振動についても前記レーザ分析部に対して影響を与えにくくするには、前記レーザ分析部が定盤の上に載置されており、前記検出器が前記定盤の上に前記レーザ分析部とは別体として載置されていればよい。前記検出器が前記レーザ分析部に設けられていないので、当該レーザ分析部は前記ファスナを全閉してインターロックを解除する際に力を受けにくい。また、定盤上に前記レーザ分析部が載置されているので、光学系が複数の分割されたパーツで構成されている場合でも、配置のずれを生じにくくし、光学系としてのずれを低減できる。
【0014】
例えばカバーを巻き上げて、前記レーザ分析部に対してアクセスするための大きな開口を形成するといったことをしやすくするには、前記カバーが、上下方向に延びる前記スリットを複数箇所に有しており、各スリットに対して前記ファスナがそれぞれ設けられたものであればよい。
【0015】
本発明に好適な前記レーザ分析部の具体的な構成例としては、前記レーザ分析部が、試料に対してレーザ光が照射される点から外部に連通する開口を少なくとも1つ備えたものが挙げられる。
【0016】
レーザを用いた分析等では試料を所定の場所に設置した後、周囲の空気流や光が分析に与えないように試料の周囲を遮蔽物で囲みたい場合がある。しかしながら、従来のように遮蔽物が金属板等で形成された扉付きの筐体であると、扉が閉じられたときに生じる振動で光学系等の測定系にずれが生じたり、その振動で試料自体が影響を受けてしまったりして、分析に誤差が生じる可能性がある。このような問題を解決するには、試料にレーザ光が照射されるレーザ分析部と、前記レーザ分析部の近傍において周囲をレーザ光が外部に放出されないように覆うとともに、少なくとも一部にスリットを有する可撓性を有するカバーと、を備えたことを特徴とするレーザ分析装置を用いれば良い。
【0017】
このようなものであれば、レーザ分析部の近傍にある可撓性のあるカバーを閉じるだけで外部からレーザ分析部内に光や空気流が入射しないようにしたり、レーザ光が外部にもれないようにしたりできる。さらに可撓性を有するカバーが閉じられるだけなので、分析に問題を起こすような振動がそもそも生じにくい。これらのことから振動対策のために大掛かりに機構を設ける必要がなく、コンパクトな装置構成で使い勝手の良いレーザ分析装置を実現できる。
【0018】
本発明に係るレーザ分析装置の好適な実施態様の一つとしては、前記レーザ分析部が、前記試料に接触又は近接するように設けられた探針をさらに具備するものが挙げられる。
【発明の効果】
【0019】
このように本発明のレーザ分析装置によれば、前記カバーのスリットに対して前記ファスナが設けられているので、スライダを全閉位置に移動させることでレーザ光学系に対して大きな衝撃を発生させることなく、前記カバーの隙間を完全に塞ぐことができる。したがって、各種安全基準を満たしつつ、衝撃によるレーザ光学系の狂いに起因する分析誤差を従来よりも低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の一実施形態におけるレーザ分析装置を示す模式図。
図2】同実施形態におけるレーザ分析部の構造を示す模式的断面図。
図3】同実施形態におけるカバーを取り外した状態のレーザ分析装置を示す模式図。
図4】同実施形態におけるカバーの一部を捲くりあげた状態のレーザ分析装置を示す模式図。
図5】同実施形態におけるカバーの別の一部を捲くりあげた状態のレーザ分析装置を示す模式図。
図6】本発明の別の実施形態におけるレーザ分析装置を示す模式図。
図7】別の実施形態におけるレーザ分析部の詳細を示す模式図。
【符号の説明】
【0021】
100・・・レーザ分析装置
1 ・・・レーザ分析部
12 ・・・探針
2 ・・・光学系収容部
3 ・・・カバー
31 ・・・帯状遮蔽部
32 ・・・前面遮蔽部
33 ・・・側面遮蔽部
34 ・・・固定端部
35 ・・・ねじ
4 ・・・ファスナ
41 ・・・スライダ
5 ・・・インターロック機構
51 ・・・キー
52 ・・・検出器
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明の一実施形態について図1乃至図5を参照しながら説明する。
【0023】
本実施形態のレーザ分析装置100は、AFM(原子間力顕微鏡)測定とラマン分光測定を同時に高速マッピング可能なナノイメージング分光装置である。
【0024】
このレーザ分析装置100は、図示しないグローブボックス内に収容されており、グローブボックスの外側からオペレータが各部に対して操作を行うように構成されている。
【0025】
具体的にこのレーザ分析装置100は図1に示すようにレーザ光が試料Wに対して照射され、その散乱光、反射光等が検出されるレーザ分析部1と、レーザ分析部1に対してレーザ光を導光する、あるいは、レーザ分析部1で検出された光を外部へ導光するレーザ光学系が内部に密閉した状態で収容された光学系収容部2と、レーザ分析部1の開口11から外部へ放出される可能性のあるレーザ光を遮蔽するためにレーザ分析部1の周囲を覆うカバー3と、を備えている。
【0026】
各部について詳述する。
【0027】
図1及び図2に示すようにレーザ分析部1は、概略円筒形状をなすものであり、内部において試料Wに対してレーザ光が照射され、そこで発生する散乱光や反射光等の二次光が検出される。このレーザ分析部1は試料Wをレーザ照射位置に配置するため等の開口11を備えている。この開口11は、迷光となったレーザが内部から外部へと到達する可能性がある。本実施形態ではレーザ分析部1は図1における背面側は光学系収容部2の筐体で覆われており、この部分は迷光となったレーザ光が外部へ放射されないように構成されている。
【0028】
カバー3は、図1及び図3に示すよう本実施形態ではレーザ分析部1において光学系収容部2により覆われていない部分の周囲を覆うものである。具体的にはカバー3は、複数の長方形状部分を有する黒色遮蔽布を上下方法に吊り下げて構成されている。この黒色遮蔽部は布であるので可撓性を有しており、自由な形状に変形させることができる。
【0029】
本実施形態では、カバー3は、背面側の一部を覆う帯状遮蔽部31と、レーザ分析装置100の前面側を覆う前面遮蔽部32と、レーザ分析装置100の側面側を覆う側面遮蔽部33と、それぞれの根本部分を共通させ、光学系収容部2の筐体から水平方向に突出させた鍔Eに固定される固定端部34と、からなる。
【0030】
帯状遮蔽部31と前面遮蔽部32は概略直交するように配置して角部が形成される。また前面遮蔽部32と側面遮蔽部33も概略直交するように配置して角部が形成される。各角部には上下方向の延びるスリットSが形成されており、各スリットSには上下方向に延びるファスナ4が設けてある。また、固定端部34は鍔Eに対してねじ35によって固定されており、工具を使用しないと鍔Eから取り外すことができないように固定されている。このようにカバー3が固定されていることにより、例えばJISにおけるレーザ装置の安全クラス1の要件の1つを満たすことができる。
【0031】
ファスナ4のスライダ41を下側に移動させることで、ファスナ4のエレメントが噛み合いスリットSを隙間なく閉じることができる。本実施形態では各ファスナ4のスライダ41を下端まで移動させることで、図1に示すように全てのスリットSを隙間なく完全に閉じることができ、レーザ分析部1から迷光となったレーザ光等が外部へと射出されない密閉状態を実現できる。
【0032】
また、ファスナ4のスライダ41を上側に移動させ、ファスナ4を開放することで帯状遮蔽部31、前面遮蔽部32、側面遮蔽部33の連結状態を解除できる。図4に示すように前面遮蔽部32と側面遮蔽部33との間のスリットSに設けられたファスナ4を開放することで、側面遮蔽部33だけを巻き上げて、レーザ分析部1の側面側だけを開放することができる。図5に示すように各スリットSにそれぞれ設けられた各ファスナ4を開放することで、前面遮蔽部32だけを巻き上げて、レーザ分析部1の前面側だけを開放することができる。なお、図示しないがすべての遮蔽部を巻き上げてレーザ分析部1の全体が外部へ露出させることもできる。このようにカバー3の一部又はほぼ全体を開放してレーザ分析部1の操作を行ったり、試料Wの入れ替えを行ったりすることができる。
【0033】
さらに本実施形態のレーザ分析装置100は、図1に示すように各ファスナ4のスライダ41を利用したインターロック機構5が構成されている。このインターロック機構5は、各ファスナ4が完全に閉じられており、レーザ分析部1の周囲が黒色遮蔽布により密閉されている場合のみレーザ分析部1内に所定強度以上のレーザ光が導入させる。逆に言うと1つのファスナ4でも完全に閉じられていない場合には、インターロック機構5はレーザ分析部1内に所定強度以上のレーザ光を導入させない。インターロック機構5は、1つのファスナ4でも完全に閉じられていない場合には、例えばレーザ光源自体をオフにする、光学系収容部2内のレーザの光軸上に遮蔽板を配置し、レーザ分析部1内にレーザ光が導入されないようにする、あるいは、光学系収容部2内のレーザの光軸上にNDフィルタ(減光フィルタ)が配置され、レーザ分析部1内に所定強度よりも小さいレーザ光が導入されるようにする。
【0034】
具体的にはインターロック機構5は、ファスナ4のスライダ41に設けられたキー51と、ファスナ4が全閉している状態を検出するものであり、ファスナ4が全閉している状態においてキーが接触可能な位置に設けられた検出器52と、検出器52の出力に基づいてレーザ分析部1内へのレーザの導入のインターロック状態を切り替える図示しない判定器と、を備えている。
【0035】
キーは例えばスライダ41の引き手に取り付けられたものであり、検出器52に設けられているキー穴に対して差し込まれるものである。
【0036】
検出器52は、ファスナ4のスライダ41が下端まで移動し、完全にファスナ4が閉じられている状態でのみキー51がキー穴の最深部まで嵌まり込むように構成されている。さらに検出器52は、図1及び図3に示すように本実施形態ではレーザ分析部1及び光学系収容部2が載置されている定盤6に対してこれらとは別体となるように設けられている。したがって、オペレータによってファスナ4が完全に閉じられ、キーをキー穴に差し込まれる際に発生する力や振動はレーザ分析部1及び光学系収容部2に対してほとんど作用しないようにできる。
【0037】
このように本実施形態のレーザ分析装置100によれば、カバー3に設けられたファスナ4を開閉することにより、レーザ分析部1を黒色遮蔽布で周囲を完全に覆った状態と、レーザ分析部1の少なくとも一部を開放した状態に切り替えることができる。また、ファスナ4を全閉することでカバー3のスリットSを閉じているので、例えばボタンなどで閉じた場合のように布がよれて隙間ができ、迷光となったレーザがカバー3から外部へ出てしまうといった自体を防ぐことができる。すなわち、従来のように樹脂や板金で形成された硬い筐体でレーザ分析部1を完全に収容しなくても、可撓性を有する布で形成されたカバー3により安全クラス1で要求されるレーザの遮蔽状態を実現できる。
【0038】
さらに、インターロックを解除するためにファスナ4全体を完全に閉じてキーを検出器52に差し込むように構成されているので、従来のように扉の開閉を検知するために扉を検出部に接触させた場合に発生するような大きさの衝撃は発生しにくい。また、カバー3がレーザ分析部1に当たったとしても、布で形成されているため大きな力はレーザ分析部1に対して作用しにくい。したがって、カバー3の内部に配置されているレーザ分析部1やそれに連なる光学系収容部2に対して大きな衝撃や力は伝導されず、光学系が衝撃によりずれてしまうのを防ぐことができる。この結果、従来のようにインターロックの解除に起因して分析誤差が発生してしまうのを防ぐことができる。
【0039】
また、カバー3のスリットSに設けられたファスナ4を開放することによってカバー3の少なくとも一部を開放し、オペレータがレーザ分析に対してアクセスすることができる。この際、図4及び図5に示すようにカバー3の一部を巻き上げることが可能なので、カバー3に対してオペレータがレーザ分析部1にアクセスするための開口11を大きく形成できる。したがって、オペレータはグローブボックス越しであってもレーザ分析部1に容易にアクセスできる。
【0040】
その他の実施形態について説明する。
【0041】
本発明に係るレーザ分析装置100は、図6に示すようにインターロック機構が省略されるとともに、可撓性を有するカバー3がレーザ分析部1の近傍に設けられたものであってもよい。ここで、近傍とは例えばレーザ分析部1とカバー3との間にユーザが入ったままでは分析を行うことが困難となる程度に所定距離離間している状態を言う。
【0042】
図7に示すようにレーザ分析部1はラマン分光分析を行うための光学系RLの一部を構成する光学機器が設けられているとともに、試料Wに対して近接又は接触して設けられる探針12を備えている。
【0043】
光学系RLは、レーザ光源R1、ハーフミラーR2、対物レンズR3、集光レンズR4、光検出器R5からなり、対物レンズR3のみがレーザ分析部1内に設けられており、レーザ光源R1から射出され、ハーフミラーR2で反射されたレーザ光は、対物レンズR3で集光されてステージ上に載置されている試料Wに対して照射される。このレーザ光が試料Wで散乱される等してレーザ分析部1の開口11から外部へ漏出するのを防ぐためにカバー3が閉じられる。また、対物レンズR3以外の光学機器は光学系収容部2内に収容されている。
【0044】
ステージ上に設けられている探針12は例えば試料Wとの間の原子間力を検出し、その値に基づいて試料Wの表面形状等をマッピングするために用いられる。探針12の変位を光学的に検出するための別の光学系の一部がレーザ分析部1内にさらに設けられていても良い。
【0045】
このように構成されたレーザ分析装置100であれば、カバー3のスリットSに設けられたファスナ4を開いた状態で、レーザ分析部1の開口11を介して試料Wを探針12が近接又は接触する位置に配置した後は、カバー3を閉じるだけで外部からの光や空気流が探針12に対して影響を与えないようにできる。また、カバー3を閉じる際にはほとんど振動が発生せず、レーザ分析部1が揺れること等による分析誤差を抑制できる。なお、国によってレーザの安全基準は異なるので、インターロック機構がなかったとしても、強度の低いレーザ光しかレーザ分析部1で用いられていない場合には、レーザ分析装置100としての販売や使用は可能である。
【0046】
本発明に係るレーザ分析装置は、AFM-ラマンに限られるものではない。例えばレーザ分析装置は、ラマン分光分析のみを行うものであってもよいし、レーザ誘起蛍光分析や、レーザの試料に対する透過光を用いる吸光分析等を行うものであってもよい。試料に対してレーザ光が照射されるレーザ分析部を備えたレーザ分析装置であれば本発明を適用することができる。また、レーザ分析装置は例えば探針以外の測定系を別途備えたものであってもよい。例えば顕微鏡やその他の測定系を備えているものであってもよい。
【0047】
カバーについては可撓性を有する素材を用いることができ、布以外に可撓性を有する樹脂等も用いることができる。また、カバーを構成する素材については必ずしも可撓性を有していなくてもよい。すなわち、前記実施形態において各遮蔽部が硬質の樹脂板や金属板で形成されており、各遮蔽部間のスリットを開閉するようにファスナが設けられたものであってもよい。また、ファスナ(線ファスナ)についても前記実施形態に示した物に限られず、例えばスライダを動かすことにより凹溝に対して凸条が連続的に嵌め込まれるタイプのものであっても構わない。
【0048】
インターロック機構を構成する検出器の取り付け位置は定盤上に限られるものではなく、その他の場所であってもよい。例えばレーザ分析部の一部に対して検出器が取り付けられていてもよいし、光学系収容部の筐体に対して検出器が取り付けられていても良い。要するにファスナが全閉され、カバーが完全に閉じている状態でのみファスナのスライダに設けられたキーが検出器に対して接触できるように構成されていればよい。
【0049】
また、検出器がキーを検出する方式についても前記実施形態のようにキーが差し込まれるものに限られない。単純にキーが接触したことをもってファスナの全閉状態を検出するように検出器を構成してもよい。加えて、キーについてはファスナのスライダに取り付けられたものであってもよいし、スライダ自体をキーとしてもよい。
【0050】
また、ファスナの全閉状態の検出方式については、キーが検出器に直接接触するものに限られない。すなわち、検出器が間接的にキーを検出したり、非接触でキーを接触したりするように構成してもよい。例えばキーと検出器との間に介在体が存在し、介在体にキーが接触したことをもって検出器がファスナの全閉状態を検出するようにしてもよい。
【0051】
また、ファスナのスライダに光源を設けておき、光源から射出される光を検出器で検出することで全閉状態を検出するようにしてもよい。例えば、光源から射出される光の強度をファスナが全閉状態にある場合にのみ検出器で検出されるように強度設定すればよい。あるいは、検出器における全閉状態であると判定する閾値を全閉状態のみを検出するように設定すればよい。なお、光源から射出される光はレーザ光や赤外光等様々なものを使用できる。
【0052】
加えて、ファスナのスライダに光源を設けるのではなく、例えば定盤上等に光源と検出器を設けておき、光源の光軸上に全閉状態のファスナのスライダが配置されるようにして、検出器への光の入射の有無で全閉状態が検出されるようにしてもよい。
【0053】
カバーに設けられるスリットについては角部に設けられる物に限らない。例えばカバーの各遮蔽部において中央等にスリットを形成し、ファスナを設けておき、ファスナを開放した場合には遮蔽部に孔を形成できるようにしてもよい。また、カバーの固定端については、レーザ分析部又は光学系収容部に設けられた鍔に固定されるものに限られない。例えば定盤からカバーが固定される支持部材を別途設けておき、レーザ分析部がカバーにより全方向から包まれるように構成してもよい。
【0054】
レーザ分析装置は、試料にレーザ光が照射されるレーザ分析部と、前記レーザ分析部の周囲をレーザ光が外部に放出されないように覆うとともに、少なくとも一部にスリットを有する可撓性を有したカバーと、前記スリットを開閉可能に設けられた開閉機構と、前記開閉機構が全閉している状態を検出する検出器を具備するインターロック機構と、を備え、前記開閉機構が全閉していることを前記検出器が検出している状態において、前記レーザ分析部内に所定強度以上のレーザ光が導入されるように構成されていることを特徴とするとものであってもよい。開閉機構の具体例としてはファスナに限られるものではなく、例えば面ファスナやマグネット、ボタン等が挙げられる。
【0055】
その他、本発明の趣旨に反しない限りにおいて様々な実施形態の変形や、各実施形態の一部同士を組み合わせても構わない。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明であれば、人体への被爆を防止するための保護機構について、レーザ光学系に対して大きな衝撃が発生しないように開閉可能に構成したレーザ分析装置を提供できる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7