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特許7634381薄膜トランジスタの製造方法、および薄膜トランジスタ
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-13
(45)【発行日】2025-02-21
(54)【発明の名称】薄膜トランジスタの製造方法、および薄膜トランジスタ
(51)【国際特許分類】
   H10D 30/01 20250101AFI20250214BHJP
   H10D 30/67 20250101ALI20250214BHJP
   H10D 64/60 20250101ALI20250214BHJP
   H01L 21/288 20060101ALI20250214BHJP
   H10D 64/23 20250101ALI20250214BHJP
   H10D 64/01 20250101ALI20250214BHJP
【FI】
H01L29/78 627C
H01L29/78 618B
H01L29/78 616K
H01L21/28 301B
H01L21/288 Z
H01L29/50 M
H01L21/28 A
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2021017542
(22)【出願日】2021-02-05
(65)【公開番号】P2022120569
(43)【公開日】2022-08-18
【審査請求日】2024-01-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000004352
【氏名又は名称】日本放送協会
(74)【代理人】
【識別番号】100097984
【弁理士】
【氏名又は名称】川野 宏
(74)【代理人】
【識別番号】100125265
【弁理士】
【氏名又は名称】貝塚 亮平
(72)【発明者】
【氏名】宮川 幹司
(72)【発明者】
【氏名】中田 充
(72)【発明者】
【氏名】辻 博史
【審査官】西村 治郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-058599(JP,A)
【文献】特開2010-010549(JP,A)
【文献】特開2011-216647(JP,A)
【文献】特開2012-212747(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/28
H01L 21/336
H01L 21/44
H01L 29/40
H01L 29/786
H01L 29/872
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に、ゲート電極、ゲート絶縁膜、および酸化物半導体層を積層し、この酸化物半導体層上に、互いにチャネルギャップを挟んで対向するように、ソース電極およびドレイン電極を形成してなる薄膜トランジスタの製造方法において、
前記ソース電極および前記ドレイン電極を形成する際には、
少なくとも前記酸化物半導体層の上面および側面に有機シラン化合物を分散させた溶液を塗布して疎水性の電極パターニング膜を形成し、
この電極パターニング膜のうち、前記ソース電極および前記ドレイン電極を形成する領域には親水化処理を施して、該ソース電極および該ドレイン電極と、酸化物半導体層との間に介在する親水領域とするとともに、その余の領域は親水化処理を施さずに疎水領域とし、
この後、前記電極パターニング膜上に、導電材料を分散させた電極形成用溶液を塗布し、前記親水領域に前記ソース電極および前記ドレイン電極を形成する、
ことを特徴とする薄膜トランジスタの製造方法。
【請求項2】
前記電極パターニング膜は、前記酸化物半導体層の上面および側面の他、前記ゲート絶縁膜の露出する上表面にも形成されることを特徴とする請求項1に記載の薄膜トランジスタの製造方法。
【請求項3】
前記親水化処理は、酸素が含まれる環境下で深紫外線を、所定形状のマスクを介して照射する処理であることを特徴とする請求項1または2に記載の薄膜トランジスタの製造方法。
【請求項4】
前記親水化処理が、前記電極パターニング膜に対するエネルギー線の照射によりなされ、その照射の強さおよび時間は、前記電極パターニング膜の前記親水領域が1~2nmの厚みの単分子膜を形成し得るように構成されていることを特徴とする請求項1~3のうちいずれか1項に記載の薄膜トランジスタの製造方法。
【請求項5】
前記電極パターニング膜の形成は、少なくとも前記酸化物半導体層の上面および側面に有機シラン化合物を分散した溶液を塗布した後、塗布された該溶液を所定温度で加熱することによりなされることを特徴とする請求項1~4のうちいずれか1項に記載の薄膜トランジスタの製造方法。
【請求項6】
基板上に、
ート電極、
ート絶縁膜、
化物半導体層
ース電極とドレイン電極の形成領域に対応して、該ソース電極および該ドレイン電極と、該酸化物半導体層との間に介在する親水領域が形成されるとともに、該ソース電極と該ドレイン電極の形成領域以外の領域に対応して疎水領域が形成された電極パターニング膜、
よび、互いの先端がギャップを介して対向する塗布型の該ソース電極と該ドレイン電極を、
の順に積層してなることを特徴とする薄膜トランジスタ。
【請求項7】
前記電極パターニング膜が1~2nmの厚みの単分子膜とされていることを特徴とする請求項6に記載の薄膜トランジスタ。
【請求項8】
前記ソース電極と前記ドレイン電極、および前記酸化物半導体層の間に介在する前記電極パターニング膜は、親水基を有する有機シラン化合物を含むことを特徴とする請求項6または7に記載の薄膜トランジスタ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば有機EL(Electro-Luminescence)素子((OLED(Organic Light Emitting Diode))やLCD(Liquid Crystal Display)等を駆動するために用いられる薄膜トランジスタの製造方法、およびそれを用いて製造された薄膜トランジスタに関し、詳しくは、真空装置を用いずに作製可能な塗布電極を備えた薄膜トランジスタの製造方法、およびそれを用いて製造された薄膜トランジスタに関する。
【背景技術】
【0002】
薄膜トランジスタ(TFT)は、ディスプレイデバイス向け駆動用薄膜トランジスタとして用いられ、それぞれ各画素における駆動等に必要な電子デバイスである。金属酸化物を半導体材料として用いたTFTは、図9に示すように、スパッタリング等の真空製膜法(フォトリソグラフィーの手法(図10を参照)を含む)を用いて、基板301上にゲート電極302、ゲート絶縁膜303、半導体層(金属酸化物半導体層)304を積層し、さらにその上にソース電極306aおよびドレイン電極306bを、互いにチャネルギャップを挟んで対向するように積層することで構成される。
【0003】
すなわち、このようなTFTの製造は、従来、処理装内の真空排気をした後、焼成処理(図10(A))からなる製膜工程を行い、続いて、感光性塗布、焼成処理(図10(B))、露光処理(図10(C))、現像処理(図10(D))、エッチング処理(図10(E))、膜除去処理(図10(F))等の多くの処理単位からなるパターン形成工程を行って、製品を完成させるようにしている。
特に材料として、In-Ga-Znを金属種とするIGZO系の金属酸化物TFTにおいては、一般的に5~10cm2/Vs以上の比較的高い移動度を示すことが知られ利用されている。
しかし、真空製膜法を用いた場合、大がかりな真空装置が必要となり、真空雰囲気を形成するための時間やコストもかかるため、また、フォトリソグラフィーの手法を用いることで、図10に示すような多くの繁雑な処理が必要とされ、効率の低下や環境に対する負荷の増大という問題があった。
【0004】
そのため、真空装置を用いることなく、空気雰囲気中で、簡便に製膜することができる液相法の塗布製膜技術が注目されている。
これまでにも、TFTを製造する際に金属酸化物(酸化物半導体)を塗布法により成膜したものが知られている(下記特許文献1を参照)。
塗布法による酸化物半導体の製造手法は、基板(ゲート電極およびゲート絶縁膜が付設されている)上に金属酸化物の前駆体溶液を塗布し、前躯体薄膜を形成し、その後前躯体薄膜に加熱焼成等の酸化処理を適用することにより、酸化物薄膜を形成する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2019-91740号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述したTFTの製造において、塗布法により金属酸化物(酸化物半導体)を形成することはできても、その金属酸化物(酸化物半導体)の上に塗布法を用いてソース電極およびドレイン電極を形成することは難しかった。すなわち、ソース電極およびドレイン電極を形成する際に用いられる塗布溶剤は、金属を溶解して分散させる特徴を有しており、これを金属酸化物(酸化物半導体)の上に塗布すると、この溶剤によって金属酸化物(酸化物半導体)が溶解してしまい、大きなダメージを受ける。
これでは、TFTの製造において、金属酸化物(酸化物半導体)は塗布法を用いて成膜することはできても、ソース電極およびドレイン電極は塗布法を用いて成膜することができない。したがって、TFTの製造時に真空法による成膜処理を排除することができず、簡便な製造手法を確立するまでには至っていなかった。
【0007】
本発明は上記問題を解決するためになされたものであり、TFTの製造時に、真空装置を用いずに、かつ積層構造の直下に配される半導体層にダメージを与えることなくソース電極およびドレイン電極を形成し得る、薄膜トランジスタの製造方法、および薄膜トランジスタを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記のような目的を達成するために、本発明の薄膜トランジスタの製造方法は、
基板上に、ゲート電極、ゲート絶縁膜、および酸化物半導体層を積層し、この酸化物半導体層上に、互いにチャネルギャップを挟んで対向するように、ソース電極およびドレイン電極を形成してなる薄膜トランジスタの製造方法において、
前記ソース電極および前記ドレイン電極を形成する際には、
少なくとも前記酸化物半導体層の上面および側面に有機シラン化合物を分散させた溶液を塗布して疎水性の電極パターニング膜を形成し、
この電極パターニング膜のうち、前記ソース電極および前記ドレイン電極を形成する領域には親水化処理を施して、該ソース電極および該ドレイン電極と、酸化物半導体層との間に介在する親水領域とするとともに、その余の領域は親水化処理を施さずに疎水領域とし、
この後、前記電極パターニング膜上に、導電材料を分散させた電極形成用溶液を塗布し、前記親水領域に前記ソース電極および前記ドレイン電極を形成する、
ことを特徴とするものである。
【0009】
また、前記電極パターニング膜は、前記酸化物半導体層の上面および側面の他、前記ゲート絶縁膜の露出する上表面にも形成されることが好ましい。
また、前記親水化処理は、酸素が含まれる環境下で深紫外線を、所定形状のマスクを介して照射する処理であることが好ましい。
【0010】
また、前記親水化処理が、前記電極パターニング膜に対するエネルギー線の照射によりなされ、その照射の強さおよび時間は、前記電極パターニング膜の前記親水領域が1~2nmの厚みの単分子膜を形成し得るように構成されていることが好ましい。
さらに、前記電極パターニング膜の形成は、少なくとも前記酸化物半導体層の上面および側面に有機シラン化合物を分散した溶液を塗布した後、塗布された該溶液を所定温度で加熱することによりなされることが好ましい。
【0011】
また、本発明の薄膜トランジスタは、
基板上に、
ート電極、
ート絶縁膜、
化物半導体層
ース電極とドレイン電極の形成領域に対応して、該ソース電極および該ドレイン電極と、該酸化物半導体層との間に介在する親水領域が形成されるとともに、該ソース電極と該ドレイン電極の形成領域以外の領域に対応して疎水領域が形成された電極パターニング膜、
よび、互いの先端がギャップを介して対向する塗布型の該ソース電極と該ドレイン電極を、
の順に積層してなることを特徴とするものである。
また、前記電極パターニング膜が1~2nmの厚みの単分子膜とされていることが好ましい。
さらに、前記ソース電極と前記ドレイン電極、および前記酸化物半導体層の間に介在する前記電極パターニング膜は、親水基を有する有機シラン化合物を含むことが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
以上に説明したように、本発明の薄膜トランジスタの製造方法によれば、少なくとも酸化物半導体層の上面および側面に有機シラン化合物を含有した溶液を塗布して電極パターニング膜を形成し、この電極パターニング膜のうち、ソース電極およびドレイン電極を形成する領域に対して親水化処理を施して親水領域とするとともに、その余の領域は親水化処理を施さずに疎水領域とし、この後、電極パターニング膜上に、導電材料を分散させた電極形成用溶液を塗布することで、電極形成用溶液に対して濡れ性の高い親水領域にソース電極およびドレイン電極が形成されるように、一方、電極形成用溶液に対して濡れ性の低い疎水領域には電極が形成されないようにして、ソース電極およびドレイン電極を形成しつつパターン化するようにしている。
【0013】
本発明方法によれば、酸化物半導体層の上に、有機シラン化合物を含む電極パターニング膜を介して、電極形成用溶液を塗布するようにしており、電極形成用溶液が直接、酸化物半導体層に塗布されないようにしているので、酸化物半導体層が電極形成用溶液によって溶解されダメージを受ける不測の事態を回避する製法とすることができる。また、電極パターニング膜は、ソース電極およびドレイン電極が形成される領域に対して親水化処理が施されているので、電極形成用溶液は、この親水領域についてのみ付着し、その余の領域では、はじかれて付着しない。したがって、電極パターニング膜の親水化処理により、ソース電極およびドレイン電極を、容易にパターン化することができる。
したがって、真空法やフォトリソグラフィー法を用いずに所望の形状のソース電極およびドレイン電極が形成可能であるから、TFT製造の繁雑さを回避することができ、さらに低コスト化および製造設備のコンパクト化を促進することができる。
【0014】
また、本発明の薄膜トランジスタによれば、基板上に、ゲート電極、ゲート絶縁膜、酸化物半導体層、ソース電極とドレイン電極の形成領域に対応して形成される電極パターニング膜、および、互いの先端がギャップを介して対向する該ソース電極と該ドレイン電極を、この順に積層して形成されており、電極パターニング膜を、酸化物半導体層とソース電極・ドレイン電極と、の間に介在させるように構成されている。
【0015】
これにより、薄膜トランジスタの製造時において、酸化物半導体層の上に、電極パターニング膜を介して、電極形成用溶液を塗布するようにすることができ、電極形成用溶液が直接、酸化物半導体層に塗布されず、酸化物半導体層が電極形成用溶液によって溶解されダメージを受ける不測の事態を回避することができる。また、電極パターニング膜は、ソース電極およびドレイン電極が形成される領域に対して親水化処理が施されているので、電極形成用溶液は、この領域についてのみ付着し、その余の領域では、はじかれて付着しない。したがって、電極パターニング膜の親水化処理により、ソース電極およびドレイン電極の膜形成とパターン化とを一度の処理により実施することができる。
したがって、真空法やフォトリソグラフィー法を用いずに所望の形状のソース電極およびドレイン電極が形成可能であるから、TFT製造の繁雑さを回避することができ、さらに低コスト化および製造設備のコンパクト化を促進することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の実施形態に係る薄膜トランジスタの積層構造を示す概念図((A)はソース、ドレイン各電極間に電極パターニング膜を有する態様を示し、(B)はソース、ドレイン各電極間に電極パターニング膜を有しない態様を示す)である。
図2】本発明の実施形態に係る薄膜トランジスタの製造方法の概念を示す概略図である。
図3】本発明の実施形態に係る薄膜トランジスタの製造方法の各工程を示す図である。
図4】本発明の実施形態に係る薄膜トランジスタの製造方法における表面改質処理の概念を示す概略図である。
図5】本発明の実施形態に係る薄膜トランジスタの製造方法における電極の焼成処理により水が脱離する様子を説明する図である。
図6】酸素分子存在下において、深紫外線を照射された場合におけるアルキル鎖の変化を示す概略図である。
図7】深紫外線照射時間に応じた水の接触角の変化を示すグラフ(◇はN2雰囲気中、■は空気雰囲気中)である。
図8】実施例に係るトランジスタにおいて、ゲート電圧(V)に対するドレイン電流(A)の変化特性を示すグラフである。
図9】従来技術に係る薄膜トランジスタの積層構造を示す概念図である。
図10】従来技術に係る薄膜トランジスタの製造方法を示す工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態に係る薄膜トランジスタの製造方法および薄膜トランジスタについて、図面を用いて説明する。
【0018】
<薄膜トランジスタ>
まず、本実施形態に係る薄膜トランジスタ(以下、TFTと称する)の断面構造について図1(A)、(B)を用いて簡単に説明する。
図1(A)は、第1の例に係る塗布型TFT100aの積層断面構造(電極間に電極パターニング膜あり)を示すものであり、基板101上に、ゲート電極102、ゲート絶縁膜103、塗布型酸化物半導体からなる半導体層104、Siとアルキル鎖よりなる電極パターニング膜105、およびソース電極106aとドレイン電極106bを積層して構成される。
このTFT100aは、少なくとも、ソース電極106aおよびドレイン電極106bが塗布法を用いて形成されたものであり、好ましくは、他の各膜も塗布法により形成する。
【0019】
基板101は、プラスチックフィルムやガラス等からなる。
プラスチックフィルムとしては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリイミド、ボリカーボネート(PC)、ナノセルロース等からなるフィルムを用いることができる。プラスチックフィルムを用いた場合には、ガラス基板を用いた場合に比べて軽量化を図ることができ、可搬性を高めることができるとともに、所望の形状とし得るフレキシブルな電子デバイスを実現することができる。
ガラスとしては、例えば、ディスプレイパネル用基板ガラスとして使われるようなアルカリ金属酸化物を含まない無アルカリガラスや、アルカリ金属酸化物の拡散を防止するような機能を有する太陽電池用基板ガラスを用いることができる。
【0020】
また、上記ゲート電極102としては、ITO、IZO等の導電性の酸化物や、Au、Al、Ag、Cr、Mo、Ti、Cu等の金属やこれらの合金を用いることができる。
また、上記ゲート絶縁膜103としては、酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化タンタル、酸化チタン、酸化スズ、酸化バナジウム、チタン酸バリウムストロンチウム、ジルコニウム酸チタン酸バリウム、ジルコニウム酸チタン酸鉛、チタン酸鉛ランタン、チタン酸ストロンチウム、チタン酸バリウム、フッ化バリウムマグネシウム、チタン酸ビスマス、チタン酸ストロンチウムビスマス、タンタル酸ストロンチウムビスマス、タンタル酸ニオブ酸ビスマス、トリオキサイドイットリウム等が挙げられる。それらのうち、特に好ましいものとしては、酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化タンタル、および酸化チタン等により形成される。
さらに、窒化ケイ素や窒化アルミニウム等の無機窒化物も好適に用いることができる。
【0021】
次に、上記半導体層104は、酸化物半導体材料として知られているIn-Ga-Zn系酸化物,In-Zn系酸化物、In-Sn-Zn系酸化物、Zn-Sn系酸化物等が用いられる。
さらには、酸化物半導体への応用が可能な酸化物を形成し得る金属原子含有化合物を用いることができ、金属原子を含む、金属塩、ハロゲン化金属化合物、有機金属化合物等を用いることができる。具体的な金属元素としては、インジウム、ガリウム、亜鉛、アルミニウム、ストロンチウム、ジルコニウム、スズ、カドミウム、タンタル、イットリウム、ガドリウム等を用いることができる。
【0022】
また金属元素含有化合物として、インジウム酸化物(InO)、亜鉛酸化物(ZnO)、インジウム-亜鉛酸化物(IZO)、インジウム-ガリウム-亜鉛酸化物(IGZO)、亜鉛-スズ酸化物(ZnSnO)、チタン酸化物(TiO)等の金属酸化物を微粒子化し分散したものを混入した前駆体溶液を用いてもよい。
溶媒としては、前記各種金属源を安定に溶解又は分散する溶媒であれば、特に限定されるものではなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、水、メタノール、エタノール、プロパノール、1-ブタノール、1-プロパノール、1-ペンタノール、エチレングリコール、2-メトキシエタノール、アセトニトリル、トルエン、キシレン、メシチレン等を用いることができる。さらに、溶液を酸性または塩基性とすることにより、溶解性を改善させることもできる。
【0023】
また、上記電極パターニング膜105としては、疎水の置換基を有する有機シラン化合物を用いることができ、例えばアルキルシラン、アルキルジシラザン類からなる材料を用いることができる。疎水系の置換基としては、メチル基やエチル基等のアルキル鎖を有するアルキル基やフェニル基、フルオロアルキル基等が挙げられる。これらは、半導体層104および上記ゲート絶縁膜103の表面の水酸基等と反応性を有する基を有し、化学的に結合して、Si-O-Si結合の表面改質膜を形成する。
【0024】
アルキルシラン、アルキルジシラザン類の例としては、アルコキシシラン系の材料として、メチルトリエトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、イソプロピルトリメトキシシラン、イソプロピルトリエトキシシラン、ブチルトリメトキシシラン、オクチルトリエトキシシラン、オクタデシルトリエトキシシラン、トリメチルエトキシシラン、メチルトリメトシラン、エチルトリメトキシシラン、プロピルトリメトキシシラン、ブチルトリメトキシシラン、オクチルトリメトキシシラン、オクタデシルトリメトキシシラン等、さらにアルキルジシラザン類としてはヘキサメチルジシラザン等の化合物が挙げられる。
【0025】
また、上述したソース電極106aとドレイン電極106bは、In-Sn系酸化物(ITO),In-Zn系酸化物(IZO)、Al-Zn系酸化物(AZO)等の金属が用いられる。
【0026】
なお、図1(B)に示すように、TFT100aに替えて、ソース電極106aとドレイン電極106bの間に、電極パターニング膜105を有していない、TFT100bの構成とすることも可能である。このように半導体層104上における、ソース電極106aとドレイン電極106bの形成領域間から、Siおよびアルキル鎖からなる電極パターニング膜105を除去しておくことにより、熱酸化処理による有機シラン化合物の炭化物の影響なく、酸化物半導体上のバックチャネル側に清浄な表面を形成することができる。
【0027】
<薄膜トランジスタの製造方法>
次に、本実施形態に係る薄膜トランジスタの製造方法について図2および図3を用いて説明する。
まず、本実施形態に係る薄膜トランジスタの製造方法の特徴を、図2の概念図を用いて説明する。基板101(通常は、ゲート電極102、ゲート絶縁膜103および半導体層104を付設されている)上に疎水性の電極パターニング膜105を塗布し、この電極パターニング膜105を、所定パターンの透孔を有する金属製のマスク110を介し、深紫外線120を照射して、電極パターニング膜105上に親水領域を形成する(図2(A)光照射処理を参照)。このとき、電極パターニング膜105の深紫外線120が照射されない領域は疎水領域のままとされている。したがって、この深紫外線の電極パターニング膜105への照射により、電極パターニング膜105が、親水領域と、その余の疎水領域に区分される。
【0028】
この後、電極パターニング膜105上からマスク110を外し、水溶性の電極形成用の塗布材料130をブレードコーター140等の塗布手段を用いて、上記電極パターニング膜105上に塗布すると、電極パターニング膜105上において、親水領域へは塗布材料130が濡れて必要な電極(ソース電極106a、ドレイン電極106b)を形成することができるが、疎水領域では塗布材料130が濡れずに電極は形成されない(図2(B)塗布材料の印刷処理を参照)。
なお、この後、焼成処理が施されることにより、ソース電極106aおよびドレイン電極106bを乾燥させることができ(図2(C)焼成処理を参照)、これにより、TFTを製造することができる。
このように、本実施形態においては、疎水性を有する電極パターニング膜105の所定領域のみを親水加工(表面改質)して、水溶性の電極塗布材料が濡れる領域を形成し、この後、電極パターニング膜105上に電極塗布材料を塗布することにより、上記所定領域のみに電極を形成するようにしたものであり、従来のフォトレジスト法における、製膜工程とパターン形成工程を同時に行うことができ、簡易な印刷手法を構築することができる。
【0029】
次に、本実施形態に係る薄膜トランジスタの製造方法の具体的な工程を、図3(A)~(E)を用いて説明する。
まず、図3(A)に示すように、シリコン製の基板101´(ゲート電極102およびゲート絶縁膜103を積層してなる)上に塗布型の半導体層(金属酸化物半導体層とも称する)104´を形成する、半導体層形成処理(半導体層形成工程)を行う。
具体的には、基板101´の形成材料を洗浄し、表面にバリア層や平坦化層(無機薄膜や有機薄膜)を製膜形成し、ゲート電極(例えば金、チタン、クロム、アルミニウム、モリブデンもしくはそれらの合金や積層膜等)102(図1(A)を参照)を形成し、所望の形状となるようにパターニングを行う。
次に、ゲート絶縁膜103(図1(A)を参照)を形成する。ゲート絶縁膜103は、比誘電率の高い無機酸化物皮膜により構成することが好ましい。
【0030】
この後、半導体層104´を形成する。
前駆体溶液としては、無機酸塩を用いる。より具体的には硝酸塩、塩化物塩、硫酸塩、酢酸塩、炭酸塩、フッ化物塩の少なくとも1種の金属塩により構成される。金属成分の構成としては、酸化物半導体材料で知られるIn-Ga-Zn系酸化物,In-Zn系酸化物、In-Sn-Zn系酸化物、Zn-Sn系酸化物等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0031】
より具体的には、酸化物半導体への適用が可能な酸化物を形成する金属原子含有化合物が挙げられ、金属原子を含む、金属塩、ハロゲン化金属化合物、有機金属化合物等を挙げることができる。具体的な金属元素としては、インジウム、ガリウム、亜鉛、アルミニウム、ストロンチウム、ジルコニウム、スズ、カドニウム、タンタル、イットリウム、ガドリウム等を挙げることができる。
また金属元素含有化合物としては、インジウム酸化物(InO)、亜鉛酸化物(ZnO)、インジウム-亜鉛酸化物(IZO)、インジウム-ガリウム-亜鉛酸化物(IGZO)、亜鉛-スズ酸化物(ZnSnO)、チタン酸化物(TiO)等の金属酸化物を微粒子化し分散したものを混入した前駆体溶液であってもよい。
【0032】
これらの金属塩を溶媒に溶解させ、前駆体溶液を作成する。溶解させる溶媒としては、前記各種金属源を安定に溶解又は分散し得る溶媒であれば、特に限定されるものではなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、水、メタノール、エタノール、プロパノール、1-ブタノール、1-プロパノール、1-ペンタノール、エチレングリコール、2-メトキシエタノール、アセトニトリル、トルエン、キシレン、メシチレン等が挙げられる。さらに、溶液を酸性または塩基性とすることにより、溶解性を改善させることもできる。
得られた前駆体溶液を基板101´上に塗布することにより前駆体溶液の薄膜を形成する。半導体層104´の厚みは、溶液濃度によって、また、溶液を塗布する回数によっても調整することができる。
塗布する方法は、スプレーコート法、スピンコート法、ブレードコート法、ディップコート法、キャスト法、ロールコート法、バーコート法、ダイコート法等の製膜法を用いることができる。
【0033】
続いて、焼成処理を施すことによって、酸化処理を促進し、半導体層104´を得ることができる。この場合の焼成処理は、例えば、150℃から600℃にて30分間から6時間の範囲の時間とする。
このときの焼成処理においては、自然乾燥や熱風・冷風・室温風乾燥、赤外光乾燥、減圧乾燥等を用いることができる。マイクロ波による加熱装置による乾燥であってもよい。それぞれの焼成プロセスは空気中だけでなく、酸素中、窒素、アルゴン等のガス雰囲気中において行うことも可能である。酸化促進という点で、薄膜に対して、焼成前後に紫外線等のエネルギー線による照射処理を加えることも可能である。
【0034】
エネルギー線としては、例えばエキシマランプ、重水素ランプ、低圧水銀ランプ、高圧水銀ランプ、超高圧水銀ランプ、メタルハライドランプ、ヘリウムランプ、カーボンアークランプ、カドミウムランプ、無電極放電ランプ等が挙げられ、特に低圧水銀ランプを用いると容易に前駆体膜から酸化物膜への転化を促進することができる。
このようにして、半導体層104´を形成し、この半導体層104´上に、シリコンおよびアルキル鎖により構成される有機化合物の薄膜を形成する処理が行われる。
以上により、図3(A)に示す、半導体層形成処理(半導体層形成工程)が終了する。
【0035】
次に、本実施形態の特徴部分である、ソース電極106aおよびドレイン電極106bを形成する工程について、図3(B)~(E)を用いて詳しく説明する。
まず、電極パターニング膜(単分子膜)形成処理の工程について図3(B)を用いて説明する。
すなわち、まず、シリコンおよびアルキル鎖よりなる膜の表面改質を行う。
表面改質工程に関しては、疎水の置換基を有する有機シラン化合物を用いることができ、例えばアルキルシラン、アルキルジシラザン類からなる材料を用いることができる。疎水系の置換基としては、メチル基やエチル基等のアルキル鎖を有するアルキル基やフェニル基、フルオロアルキル基等が挙げられる。これらは、半導体層104´およびゲート絶縁膜103の表面の水酸基等と反応性を有する基を有し、化学的に結合して、Si-O-Si結合の表面改質膜を形成する。
【0036】
アルキルシラン、アルキルジシラザン類の例としては、アルコキシシラン系の材料として、メチルトリエトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、イソプロピルトリメトキシシラン、イソプロピルトリエトキシシラン、ブチルトリメトキシシラン、オクチルトリエトキシシラン、オクタデシルトリエトキシシラン、トリメチルエトキシシラン、メチルトリメトシラン、エチルトリメトキシシラン、プロピルトリメトキシシラン、ブチルトリメトキシシラン、オクチルトリメトキシシラン、オクタデシルトリメトキシシラン等、さらにアルキルジシラザン類としてはヘキサメチルジシラザン等の化合物が挙げられる。
【0037】
また、本実施形態における表面改質工程について、上記の有機シラン化合物が塗布された基板101´を密閉容器中に入れ、有機シラン化合物を密閉容器雰囲気中の蒸気に晒す処理を一例として以下に説明するが、表面改質の処理方法としては、これらの方法に限定されるものではない。
すなわち、半導体層104´およびゲート絶縁膜103の露出表面の表面改質処理は、窒素雰囲気とされた密閉容器内に、有機シラン化合物を入れ、半導体層104´およびゲート絶縁膜103の露出表面を蒸気に晒した後、基板101´を容器から取り出して、アルコール系有機溶剤にて洗浄した後、基板101´を加熱して、疎水化処理を行う。
容器としては、上記蒸気によって腐食・分解・吸着等が生じないものであればよく、具体的にはフッ素系樹脂、ステンレス容器等が挙げられる。蒸気化する温度としては、室温から150℃まで加温することにより表面改質処理を十分に行うことができる。
【0038】
より好ましくは、水の影響を除去できるという点で、100℃以上、150℃以下である。蒸気に晒す時間としては、1分から3時間までの所定の時間に調整することができ、とくにトリメトキシ系の有機シラン化合物においては、反応性という観点から例えば、110℃で2時間に亘って加温し、容器中に上記蒸気を充満させ、半導体層104´およびゲート絶縁膜103の露出表面を晒すことで十分な表面改質処理を行うことができる。加熱手段としては、ホットプレートやオーブンを用いることができる。
以上に説明した条件により、OTS(octadecyl-trimethoxy-silane)を用いて、有機シラン化合物からなる電極パターニング膜105´の表面改質処理を行った場合には、この電極パターニング膜105´への水の接触角を100度以上とする疎水化を行うことができる。
また有機シラン化合物の液体をアルコール系有機溶媒で希釈して、有機シラン化合物含有の希釈液を直接スピンコート法等で塗布製膜する手法や、希釈液に基板を浸漬させることにより塗布製膜する手法を適用することができる。
【0039】
次に、所定の領域の親水化処理(光照射処理)の工程について図3(C)を用いて説明する。
親水化処理としては、紫外線やレーザー等のエネルギー線の照射やRIE等のドライプロセスにより行うことができる。
レーザー等のエネルギー線の光源としてはエキシマランプやエキシマレーザーを用いることができる。ここで、エネルギー線の光源として、Xeのエキシマランプを用いた、出力光波長が172nmの深紫外線による照射を親水化処理の一例として説明する。
【0040】
基板101´上に形成された有機シラン化合物は、疎水性置換基が外側に形成される。酸素が含まれる環境下で深紫外線(波長300nm以下の紫外線)、特に真空紫外線(200nm以下の紫外線)を照射すると、酸素は活性酸素およびオゾン等の反応活性の高い状態に励起される。これらの活性酸素等は表面改質膜、例えば、図4に示すように、末端のアルキル基(-CH3)と反応することにより、表面が酸化し、親水化され、最表面には水酸基(-OH)、アルデヒド基(-CHO)、カルボキシル基(-COOH)等が結合される(図4(a)の状態から図4(b)の状態に転化する)。
【0041】
上記深紫外線の照射量に応じて、有機シラン化合物における疎水基は断続的に反応が進み、アルキル鎖の長さが変化する。
ただし、長時間照射した場合には、最終的に、疎水基は酸化によりエッチングされる。そのため、有機シラン化合物における疎水基がなくなり、その後に行う塗布溶液を用いた印刷プロセスにおいて、塗布溶液と有機シラン化合物の下部に位置する半導体層104´とが接触する。
すなわち、塗布溶液中に含まれる溶媒と半導体層104´が直接接触してしまうため、良好な界面が形成されず、場合によっては、半導体層104´が溶解することになる。このような事態の発生を防止するため、界面全体に有機シラン化合物が配されるように配慮することが肝要である。
【0042】
紫外線照射に関する時間としては、有機シラン化合物による表面改質の疎水性が損なわれて、親水化が進めばよく、水の接触角を30度以上小さくすることができる時間とすればよい。より好ましくは、水の接触角において10度以下とすることであり、この場合には、疎水領域と親水領域の表面状態の差を利用した印刷手法を用いることにより、電極のパターニングを十分に良好なものとすることができる(図6を参照)。
一方、紫外線照射を過度に行った場合には、有機シラン化合物に含まれる疎水性置換基がエッチングされるため好ましくない。
【0043】
次に、塗布電極の印刷処理の工程について図3(D)を用いて説明する。
印刷プロセスとしては、汎用の印刷機を用いた印刷手法が適用できる。例えば、スプレーコート法、スピンコート法、ブレードコート法、ディップコート法、キャスト法、ロールコート法、バーコート法、ダイコート法等の塗布による方法、さらにインクジェット法等を用いることができる。
本実施形態方法においては、表面の濡れ性を微細領域まで制御することができるため、従来のフォトリソグラフィー等によるパターニングプロセスを用いずとも、自己整合的に、必要な領域のみに製膜され、デバイスの適用に必要なパターン形状の作成ができる。すなわち、トランジスタに必要なソース電極とドレイン電極を簡易かつ良好に形成することができる。なお、図3(D)においては、ITO溶液160を塗布する例が示されている。
【0044】
ソース電極106aおよびドレイン電極106bを形成するための塗布溶液としては、AgやAu等の金属導電性物質のナノ粒子を分散させた溶液、ITO、IZO、AZO、ZnO等の導電性酸化物のナノ粒子を分散させた溶液、半導体層104´と同様にITO、IZO、AZO、ZnO等の金属塩を導電性が得られる組成で混合し、水や有機系溶媒に溶解させることで得られる酸化物前駆体溶液を用いることができる。またその他に、導電性高分子材料として知られる、PEDOT:PSS(poly(3,4-ethylenedioxythiophene)-poly(styrenesulfonate))等も用いることができる。さらには、導電性を示すカーボンナノチューブやグラフェン等の材料を分散させた溶液も用いることができる。
【0045】
これらの塗布溶液を塗布する塗布法としては、ブレードコート法等が用いられるが、この手法に限定されるものではない。
ここで、ITO前駆体溶液を用いた例について説明する。
すなわち、電極用材料である金属酸化物の前駆体溶液生成工程においては、前駆体溶液として無機酸塩を用いる。より具体的には、硝酸塩、塩化物塩、硫酸塩、酢酸塩、炭酸塩、フッ化物塩の少なくとも1種の金属塩により構成される。金属成分の構成としては、In-Sn系酸化物(ITO)、In-Zn系酸化物(IZO)、Al-Zn系酸化物(AZO)等が挙げられるが、これに限定されるものではない。
【0046】
より具体的には、これらの金属塩を溶媒に溶解させ、前駆体溶液を作成する。
溶媒としては、前述した各種金属塩を安定に溶解又は分散させ得る溶媒であればよく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、水、メタノール、エタノール、プロパノール、1-ブタノール、1-プロパノール、1-ペンタノール、エチレングリコール、2-メトキシエタノール、アセトニトリル、トルエン、キシレン、メシチレン等が挙げられる。溶液の種類によって電極のパターン形状が変化するため、適宜これらの使用溶剤の比率を変えることで、親液領域と疎液領域に応じた適切なパターン形状とすることができる。
【0047】
次に、塗布電極の印刷処理後における空気中焼成処理の工程について図3(E)を用いて説明する。
この空気中焼成処理の工程では、溶媒除去のためのプリアニール処理を施し、その後、焼成処理を施すことによって、ソース電極106a´およびドレイン電極106b´の酸化処理を促進し、これにより、これら電極106a´、b´を形成することができる。この場合の焼成処理は、例えば、150℃から600℃にて30分間から6時間に亘って行われる。
【0048】
このときの焼成処理においては、自然乾燥、熱風・冷風・室温風乾燥、赤外線乾燥、減圧乾燥等を用いることができる。また、マイクロ波による加熱装置による乾燥であってもよい。それぞれの焼成プロセスは空気中だけでなく、酸素、窒素、アルゴン等のガス雰囲気中において行うことも可能である。
【0049】
酸化をより促進させるために、電極106a´、b´の薄膜に対して、焼成前後に紫外線等のエネルギー線による照射を行うことも可能である。エネルギー線としては、例えばエキシマランプ、重水素ランプ、低圧水銀ランプ、高圧水銀ランプ、超高圧水銀ランプ、メタルハライドランプ、ヘリウムランプ、カーボンアークランプ、カドミウムランプ、無電極放電ランプ等が挙げられ、特に低圧水銀ランプを用いることで、容易に前駆体膜から酸化物膜への転化を促進することができる。
【0050】
このときの、電極106a´、b´の焼成処理により水が脱離する際の様子を図5に示す。すなわち、図5(a)に示すように、オリゴマーが基質のOH基と水素結合を形成した状態から、焼成処理による乾燥が進むと、図5(b)に示すように水が脱離して共有結合が形成される。
【0051】
また焼成温度が250℃以上等の高温となる場合においては、プリアニール後に、UVオゾン装置や酸素プラズマ装置等で半導体層104´表面の有機アルキル鎖を取り除くプロセスも併せて行うことができる。この有機アルキル鎖を取り除くプロセスを行うことにより、半導体層104´表面の有機材料の高温処理による炭化に伴うデバイス特性の劣化を防ぐことができる。このようにすることで、図3(E)に示すように、半導体層104´のバックチャネル側から有機シラン化合物を取り除くことができ、トランジスタ特性をより良好にすることができる。
【0052】
パターン化した酸化物薄膜に、さらなる酸化のための焼成処理を施すことによって、TFTとして必要な機能を有する金属酸化物用導電膜の塗布電極層を得ることができる。この焼成処理は、前述したように150℃から600℃にて30分から6時間に亘って行うことが好ましい。
【0053】
例えば、250~450℃の空気中あるいは酸素雰囲気中で30~60分の熱処理を行った後、200~450℃の水素含有雰囲気中で30~60分の熱処理を行う。このような熱処理を行うことにより、有機成分の除去が促進され、厚みがおよそ30~200nmの良質な導電膜を形成することができる。
【0054】
以上に説明した工程により塗布型電極を形成することで、半導体層104´上に簡易な印刷機で微細なパターンを形成することができる。これにより、スパッタ法等の真空系を備えた大がかりな成膜装置を必要としないので、安価な成膜装置でディスプレー等に必要な薄膜トランジスタを簡易、かつ迅速に作成することができる。
【実施例
【0055】
以下、本発明に係る実施例を比較例1、2と比較することによって、本発明の薄膜トランジスタの製造方法、および薄膜トランジスタについて、さらに詳細に説明する。
【0056】
(実施例)
厚みが100nmの熱酸化膜付の低抵抗シリコンウエハを用い、図1(A)に示すような、実施例に係る評価用TFTを作成した。
すなわち、本実施例においては、基板101上にゲート電極102およびゲート絶縁膜103を積層した、熱酸化膜付の低抵抗シリコンウエハを用いた。次に、塗布型の半導体層104を形成するために、スピンコート法により金属酸化物前躯体溶液をシリコンウエハ上に塗布した。
【0057】
具体的には、半導体層104の形成のための水溶性金属酸化物前躯体として、硝酸インジウム水和物(In(NO3)3・xH2O Aldrich製)と硝酸亜鉛水和物( (Zn(NO3)2・xH2O Aldrich製))を8:2のモル比にて秤量し、純水中に0.3mol/L濃度で溶解させ、塗布型半導体前駆体溶液を作成した。その後、室温にて6時間撹拌することで、前駆体溶液を完全に溶解した状態とした。
【0058】
続いて、このようにして作成された前駆体溶液をスピンコート法を用いて(スピン回転数は4000rpm)シリコンウエハ上に塗布し、150℃のホットプレート上にて1分間乾燥させた。その後、350℃の空気雰囲気オーブン中にて1時間焼成処理を行うことにより半導体層104を形成した。このときの半導体層104の膜厚は15 nmであった。
パターン化処理として、フォトリソグラフィー法を用いてパターニングを行い、所定のパターンを有する半導体層104を形成した。
【0059】
続いて、OTS(octadecyl-trimethoxy-silane)を用いて表面改質処理を行った。処理としては、フッ素系容器の中に1mlのOTS溶液と、上記半導体層104を備えた基板101を入れ、オーブンにて105℃、1時間に亘る加熱処理を行った。その後、基板101をエタノール、イソプロパノールにて洗浄し、再度80℃にて乾燥させることで表面改質を行った。
このようにして表面改質を行った基板101の表面側は、半導体層104上においても、またゲート絶縁膜103上においても、それぞれ水に対して105°以上の接触角θを示す疎水領域とした。具体的には、図6に示すように、本実施例に係る疎水領域における水の接触角θは109°となり、電極パターニング膜105上に濡れない領域が形成される。
【0060】
続いて、出力波長172nmのエキシマランプによる深紫外線照射を行った。深紫外線照射は、空気中雰囲気における照射となるように基板101をセットした。また照射時において、所望の領域のみに波長172nmの深紫外線が照射されるように、電極106a、bのパターンを有するマスク(図3(C)において110´)を、基板101上にセットし、このマスク(110)を介して1分間の紫外線照射を行った。深紫外線が照射された領域は、水の接触角θが10度以下の親水化された状態となった。具体的には、図6に示すように、本実施例に係る親水領域における水の接触角θは6°となり、電極パターニング膜105上に、パターン状に濡れる領域が形成される。
【0061】
深紫外線の照射時間に対する水の接触角の変化を示す実験結果を図7に示す。
図7に示すように、空気中雰囲気における深紫外線照射により、1分程度の照射によっても、親水領域から疎水領域への転化を行うことが可能である。なお、N雰囲気中で同様の深紫外線照射を行った場合の接触角の変化を図7に示す。
その後、ブレードコーター140(図2(B)を参照)による印刷機にて、ITO前駆体溶液を用いた印刷処理を行った。
ブレードコーター140のブレードと基板面のギャップを10~20μm程度に設定し、このブレードにてITO前駆体溶液を基板面(実際には、半導体層104上およびゲート絶縁膜103上)に塗布することにより、マスクを介して深紫外線を照射したパターン形状に、ITO前駆体溶液を塗布した。
【0062】
続いて、ITO前駆体溶液を塗布した基板101を、空気雰囲気中にて、400℃で焼成することで、ITO前駆体溶液を酸化させることができ、これにより電極106a、bの低抵抗化を図ることができた。
その時、電極106a、bのシート抵抗は、5kΩ/□であった。
【0063】
得られた上記実施例のTFTに対して、半導体特性(ゲート電圧‐ドレイン電流特性)を測定した。その結果を図8示す。図8に示す特性によれば、ゲート電圧が略0の状態から立ち上がっており、また、ヒステリシスが略生じない状態とすることができ、良好な性能を示すことが明らかである。
また、図8には示されていないが、同様の測定を繰り返しても、極めてばらつきが小さく、いずれも良好な特性が得られたため、再現性があることも確認された。
本実施例のTFTは、移動度が6.0(cm2/Vs)、Ion/Ioff 比が106以上、と良好な結果が得られた。
【0064】
(比較例1)
一方、有機シラン化合物による膜を形成しないこと以外は、上記実施例と同様にして、比較例1に係るTFTを作成した。
比較例1に係るTFTにおいては、マスクを用いて電極のパターン形状に応じた深紫外線の照射を実施例と同様に行ったが、実施例のようなパターン形状とされた電極は得られなかった。さらに、半導体層の一部に溶解が生じた。
【0065】
比較例1のTFTは、移動度が6.0(cm2/Vs)、Ion/Ioff 比が106以上と、この点では良好な結果が得られた。
続いて、ITO前駆体溶液を塗布した基板を、空気雰囲気中にて、400℃で焼成することで、ITO前駆体溶液を酸化させることができ、これにより電極の低抵抗化を図ることができた。その時、電極のシート抵抗は、5kΩ/□であった。
しかし、TFTに必要なソース・ドレイン電極の構造(パターン形状)を得ることはできず、作成されたTFTは本来の機能を有さず、TFTとしての動作は得られなかった。
【0066】
(比較例2)
また、有機シラン化合物により電極パターニング膜を形成はするが、その後、この電極パターニング膜を十分除去する処理をするようにしたこと以外は、上記実施例と同様にして、比較例2に係るTFTを作成した。その時、電極のシート抵抗は、5kΩ/□であった。
【0067】
比較例2に係るTFTにおいては、マスクを用いて電極のパターン形状に応じた深紫外線の照射を実施例と同様に行ったが、実施例のようなパターン形状とされた電極は得られなかった。
したがって、TFTに必要なソース・ドレイン電極の構造(パターン形状)を得ることはできず、作成されたTFTは本来の機能を有さず、TFTとしての動作は得られなかった。
さらに、半導体層の一部に溶解が生じた。
【0068】
なお、本実施形態による塗布電極を形成されたトランジスタにおいては、塗布電極と半導体層の界面に有機シラン化合物からなる電極パターニング膜を介在させているので、塗布溶液中に含まれる溶剤が直接半導体層に接触し、これを溶解させる、という不都合の発生を防止することができる。
すなわち、電極パターニング膜は、塗布電極溶液が、直接、半導体層と接触することを防ぐことができ、溶解性を抑止することができる点で、極めて有用な構成要素である。
また、電極パターニング膜を構成する有機シラン化合物の膜厚としては、薄い膜(5nm以下)となっていることが好ましく、さらに理想的には単分子膜(モノレイヤー)となっていることが薄膜トランジスタにおける電極と半導体層の接触抵抗を低減させるという観点から好ましい。
【0069】
本発明の薄膜トランジスタの製造方法およびその薄膜トランジスタとしては、上記実施形態に記載したものに限られるものではなく、その他の種々の態様の変更が可能である。
例えば、上述した実施形態に係る薄膜トランジスタの製造方法においては、電極パターニング膜の、ソース・ドレイン電極を形成すべき領域に深紫外線を照射して親水化処理を行い、膜の改質化を行っているが、親水化の手法としては、これに限られるものではなく他のエネルギー線を照射することにより、あるいはRIE等のドライプロセスを用いて、行ってもよい。
【0070】
また、上記実施形態においては電極パターニング膜とソース・ドレイン電極の形成の他、酸化物半導体層の形成において塗布法を用いており、さらに他の各層の形成についても塗布法を用いることが好ましいが、必要に応じて、適宜、真空法(フォトリソグラフィーの手法を含む)を用いて形成するようにしてもよい。
また、本発明の電子デバイスとしては、上記実施形態に限られるものではなく、実施形態において示す各層間に他の層を介在させる構成とすることも可能である。
【符号の説明】
【0071】
100a、b、300 TFT
101、101´、301 基板
101a´ 基板加熱部
102、302 ゲート電極
103、303 ゲート絶縁膜
104、104´、304 半導体層(金属酸化物半導体層)
105、105´、105a~d 電極パターニング膜
106a、106a´、306a ソース電極
106b、106b´、306b ドレイン電極
110、110´ マスク
120 深紫外線
130、330 塗布材料
140 ブレードコーター
160 ITO溶液
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10