(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-14
(45)【発行日】2025-02-25
(54)【発明の名称】口腔用組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 31/185 20060101AFI20250217BHJP
A61K 31/717 20060101ALI20250217BHJP
A61K 47/38 20060101ALI20250217BHJP
A61P 1/02 20060101ALI20250217BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20250217BHJP
A61P 29/00 20060101ALI20250217BHJP
A61Q 11/00 20060101ALI20250217BHJP
A61K 8/46 20060101ALI20250217BHJP
A61K 8/73 20060101ALI20250217BHJP
【FI】
A61K31/185
A61K31/717
A61K47/38
A61P1/02
A61P43/00 121
A61P29/00
A61Q11/00
A61K8/46
A61K8/73
(21)【出願番号】P 2020182425
(22)【出願日】2020-10-30
【審査請求日】2023-09-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000186588
【氏名又は名称】小林製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100124431
【氏名又は名称】田中 順也
(74)【代理人】
【識別番号】100174160
【氏名又は名称】水谷 馨也
(74)【代理人】
【識別番号】100175651
【氏名又は名称】迫田 恭子
(72)【発明者】
【氏名】鳥井 一宏
【審査官】高橋 樹理
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-043869(JP,A)
【文献】特開2019-006736(JP,A)
【文献】特開2009-242349(JP,A)
【文献】北川哲太郎ほか,口のかわき治療外来受診患者の臨床的検討,老年歯科医学,2009年,Vol.24, No.2,p.161-162
【文献】渡邊章,口腔乾燥症,日本医事新報,2019年,No.4983,p.50
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)アズレンスルホン酸及び/又はその塩、並びに(B)ヒプロメロースを含有
し、
液状又は固形状である、口腔用組成物
(ただし、アミノ安息香酸エチルを含有するものを除く)。
【請求項2】
ドライマウスの予防又は治療に使用される、請求項1に記載の口腔用組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、口腔内を消炎でき、しかも口腔粘膜に対して保湿作用を持続的に発揮できる口腔用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ドライマウスの罹患者が増加傾向にある。ドライマウスは、口腔乾燥症とも称され、唾液の分泌量が低下し、口腔内が乾く症状である。ドライマウスは、加齢、ストレス、筋力低下、糖尿病、腎不全、更年期障害、服薬の副作用等の様々な原因が考えられ、これらの原因を完全に払拭できないことも多く、ドライマウスの治療には、口腔用スプレー、含嗽剤、マウスウォッシュ、人工唾液、トローチ等の口腔用組成物を使用して口腔内に潤いを付与する対処療法に頼らざるを得ない状況である。
【0003】
従来、ドライマウスの予防又は改善に有効な口腔用組成物について種々報告されている。例えば、特許文献1には、疎水変性ポリエーテルウレタン及び湿潤剤を含む口腔用組成物が、ドライマウスの予防又は治療に有効であることが開示されている。また、特許文献2には、ポリグルタミン酸塩0.05~5質量%、クエン酸等の有機酸及びその塩、2~6質量%、l-メントール、グリセリン10~50質量%、界面活性剤、及びモノメンチルサクシネート0.01~0.3質量%を含有する口腔スプレー用組成物が、ドライマウスの予防又は治療に有効であることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2012-153677号公報
【文献】特開2011-105651号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ドライマウスの予防又は治療には、口腔粘膜に対して一時的に保湿効果を付与するだけでなく、その効果を持続させることが重要になる。また、ドライマウスは、口腔粘膜の乾燥によって細菌に対するバリア機能が低下しているため、口腔内で細菌感染や炎症が起き易くなっている。そのため、ドライマウスの予防又は治療に有効な口腔用組成物には、口腔内に保湿効果を付与するだけでなく、消炎効果があることが望ましいといえる。
【0006】
そこで、本発明は、口腔内を消炎でき、しかも口腔粘膜に対する保湿効果が持続的に奏し得る口腔用組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、前記課題を解決すべく鋭意検討を行ったところ、口腔用組成物において、アズレンスルホン酸及び/又はその塩と、ヒプロメロースとを併用することにより、消炎効果を奏しつつ、これらの成分の相乗的作用によって口腔粘膜に対する保湿効果の持続性が飛躍的に向上することを見出した。本発明は、かかる知見に基づいて更に検討を重ねることにより完成したものである。
【0008】
即ち、本発明は、下記に掲げる態様の発明を提供する。
項1. (A)アズレンスルホン酸及び/又はその塩、並びに(B)ヒプロメロースを含有する、口腔用組成物。
項2. ドライマウスの予防又は治療に使用される、項1に記載の口腔用組成物。
【発明の効果】
【0009】
本発明の口腔用組成物は、消炎効果を奏しつつ、口腔粘膜に対する保湿効果を持続的に奏し得るので口腔ケアに有効であり、例えばドライマウスの予防又は治療等の用途で好適に使用できる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の口腔用組成物は、(A)アズレンスルホン酸及び/又はその塩、並びに(B)ヒプロメロースを含有することを特徴とする。以下、本発明の口腔用組成物について説明する。
【0011】
[(A)アズレンスルホン酸及び/又はその塩]
本発明の口腔用組成物は、アズレンスルホン酸及び/又はその塩((A)成分と表記することもある)を含有する。本発明の外用組成物において、アズレンスルホン酸及び/又はその塩を含むことにより、口腔内で消炎効果を奏することが可能になる。
【0012】
アズレンスルホン酸は、1,4-ジメチル-7-イソプロピルアズレン-3-スルホン酸とも称される公知の抗炎症成分である。
【0013】
アズレンスルホン酸の塩の種類については、薬学的に許容されることを限度として特に制限されないが、例えば、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩;カルシウム塩、マグネシウム塩等のアルカリ土類金属塩;アルミニウム塩等のその他の金属塩;アンモニウム塩;酢酸塩、トリフルオロ酢酸塩、酪酸塩、パルミチン酸塩、ステアリン酸塩、フマル酸塩、マレイン酸塩、コハク酸塩、マロン酸塩、乳酸塩、酒石酸塩、クエン酸塩等のカルボン酸塩;メタンスルホン酸塩、トルエンスルホン酸塩、トシル酸塩等の有機スルホン酸塩;メチルアミン塩、トリエチルアミン塩、トリエタノールアミン塩、モルホリン塩、ピペラジン塩、ピロリジン塩、トリピリジン塩、ピコリン塩等の有機アミン塩;塩酸塩、硫酸塩、硝酸塩、臭化水素酸塩、リン酸塩等の無機酸塩等が挙げられる。これらの塩の中でも、好ましくはアルカリ金属塩、より好ましくはナトリウム塩が挙げられる。
【0014】
(A)成分の中でも、口腔粘膜に対する保湿効果の持続性をより一層向上させるという観点から、好ましくはアズレンスルホン酸の塩、より好ましくはアズレンスルホン酸ナトリウムが挙げられる。
【0015】
(A)成分として、アズレンスルホン酸、及びその塩の中から1種の成分を単独で使用してもよく、また2種以上の成分を組み合わせて使用してもよい。
【0016】
本発明の口腔用組成物における(A)成分の含有量については、使用する(A)成分の種類、口腔用組成物の製剤形態等に応じて適宜設定すればよいが、例えば、0.0001~5重量%、好ましくは0.001~1重量%、より好ましくは0.01~0.5重量%が挙げられる。
【0017】
[(B)ヒプロメロース]
本発明の口腔用組成物は、前記(A)成分に加えて、ヒプロメロース((B)成分と表記することもある)を含有する。前記(A)成分とヒプロメロースを併用することによって、これらの相乗的作用により、口腔粘膜に対する保湿効果の持続性を飛躍的に向上させることが可能になる。
【0018】
ヒプロメロースとは、ヒドロキシプロピルメチルセルロースとも称される公知のセルロース誘導体である。
【0019】
本発明の口腔用組成物における(B)成分の含有量については、口腔用組成物の製剤形態等に応じて適宜設定すればよいが、例えば、0.01~1.5重量%、好ましくは0.1~1.5重量%、より好ましくは0.2~1.5重量%、更に好ましくは0.5~1.5重量%が挙げられる。(B)成分の含有量が前記範囲を充足することにより、粘度の増加による使用感の低下を招くことなく、口腔粘膜に対する保湿効果の持続性を飛躍的に向上させることができる。
【0020】
本発明の口腔用組成物において、(A)成分と(B)成分の比率については、これらの両成分の各含有量に応じて定まるが、例えば、(A)成分1重量部当たり、(B)成分が1~300重量部、好ましくは5~80重量部、より好ましくは10~80重量部、更に好ましくは30~80重量部が挙げられる。
【0021】
[(C)1価低級アルコール]
本発明の口腔用組成物は、前述する(A)及び(B)成分に加えて、1価低級アルコール((C)成分と表記することもある)を含んでいてもよい。本発明において、1価低級アルコールとは炭素数1~5の1価アルコールを指す。
【0022】
1価低級アルコールの種類については、薬学的に許容されることを限度として特に制限されないが、例えば、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノール、n-ブタノール、sec-ブタノール、tert-ブタノール、n-アミルアルコール、sec-アミルアルコール、イソアミルアルコール、tert-アミルアルコール、ネオペンチルアルコール等が挙げられる。これらの1価低級アルコールは、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0023】
これらの1価低級アルコールの中でも、好ましくはエタノールが挙げられる。
【0024】
本発明の口腔用組成物に(C)成分を含有させる場合、その含有量については、特に制限されないが、例えば、0.01~10重量%、好ましくは0.1~5重量%、より好ましくは0.5~3重量%が挙げられる。
【0025】
[(D)多価アルコール]
本発明の口腔用組成物は、前述する(A)及び(B)成分に加えて、多価アルコール((D)成分と表記することもある)を含んでいてもよい。
【0026】
多価アルコールの種類については、薬学的に許容されることを限度として特に制限されないが、例えば、1,3-ブチレングリコール、エチレングリコール、プロピレングリコール、イソプレングリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリエチレングリコール等の2価アルコール;グリセリン等が挙げられる。これらの多価アルコールは、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0027】
これらの多価アルコールの中でも、好ましくは2価アルコール、より好ましくはプロピレングリコールが挙げられる。
【0028】
本発明の口腔用組成物に(D)成分を含有させる場合、その含有量については、特に制限されないが、例えば、1~80重量%、好ましくは10~75重量%、より好ましくは30~70重量%が挙げられる。
【0029】
[水]
本発明の口腔用組成物には、基剤の一部として水が含まれていてもよい。本発明の口腔用組成物が水を含む場合、その含有量については、その製剤形態等に応じて適宜設定すればよいが、例えば、1~90重量%、好ましくは10~70重量%、より好ましくは25~60重量%が挙げられる。
【0030】
[その他の成分]
本発明の口腔用組成物は、前述する成分以外に、必要に応じて他の薬効成分が含まれていてもよい。このような薬効成分としては、医薬品、口腔ケア製品等に配合可能なものであることを限度として特に制限されないが、例えば、ヨウ素系殺菌成分(例えば、ヨウ素、ポビドンヨード、ノノキシノールヨード及びフェノキシヨード等)、気管支拡張薬、鎮咳薬、去痰薬、抗炎症剤(アズレンスルホン酸及びその塩以外)、グルコシルトランスフェラーゼ阻害剤、プラーク抑制剤、知覚過敏抑制剤、歯石予防剤、解熱鎮痛薬、抗ヒスタミン薬、殺菌剤(第四級アンモニウム塩以外)、胃粘膜保護薬、カフェイン類、ビタミン薬、漢方薬、生薬成分等が挙げられる。
【0031】
また、本発明の口腔用組成物には、所望の製剤形態にするために、基剤や添加剤が含まれていてもよい。このような基剤や添加剤としては、医薬品、口腔ケア製品等に配合可能でものであることを限度として特に制限されないが、例えば、油性成分、界面活性剤、防腐剤、増粘剤(ヒプロメロース以外)、香料、矯味剤、清涼化剤、色素、消臭剤、顔料、緩衝剤、pH調整剤等が挙げられる。
【0032】
[形状・製剤形態]
本発明の口腔用組成物の形状については、特に制限されず、液状、固形状、半固形状(ゲル状、軟膏状、ペースト状)等のいずれであってもよいが、好ましくは液状が挙げられる。
【0033】
本発明の口腔用組成物の製剤形態は、口腔内に適用されて口腔内で一定時間滞留し得るものである限り制限されないが、例えば、口腔用スプレー(喉用のスプレー剤を含む)、マウスウォッシュ、含嗽剤、液状歯磨剤、練歯磨剤、口中清涼剤、口腔用パスタ剤、歯肉マッサージクリーム等の口腔ケア製品が挙げられる。これらの中でも、好ましくは口腔用スプレー、マウスウォッシュ、含嗽剤、より好ましくは口腔用スプレーが挙げられる。
【0034】
[使用方法]
本発明の口腔用組成物は、口腔内に適用することにより、口腔内を消炎及び/又は殺菌でき、更に口腔粘膜に対して保湿作用を持続的に発揮できるので、例えば、ドライマウスの予防又は治療用途に好適に使用される。
【0035】
本発明の口腔用組成物の用法及び容量については、各配合成分の含有量、口腔用組成物の製剤形態、期待される効果等に応じて適宜設定されるが、例えば、1日に1~6回の頻度で適量を口腔内に適用すればよい。
【実施例】
【0036】
以下に実施例を示して本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0037】
試験例1
表1に示す組成の口腔用組成物(口腔用スプレー)を調製した。得られた口腔用組成物について、以下の方法で口腔粘膜に対する保湿効果の持続性を評価した。先ず、疑似粘膜として切除した食用の豚舌(スライスしていない状態)を流水で軽く濡らした後に軽く拭き取り、30℃、相対湿度30%RHの環境下で、口腔水分計(口腔水分計ムーカス、株式会社ヨシダ)での測定値が乾燥指標値(25以下)になるまで静置した。次いで、得られた口腔用組成物をスプレー容器に収容して、約0.3mlの口腔用組成物を前記豚舌の中心からやや先端よりの部位に噴霧塗布し、30℃、相対湿度30%RHの雰囲気で6時間静置した。口腔用組成物の塗布直後と塗布6時間後に、口腔水分計(口腔水分計ムーカス、株式会社ヨシダ))を用いて、口腔用組成物を塗布した豚舌部位の水分値を測定し、下記算出式に従って、塗布6時間後の水分保持率(%)を算出し、小数点第一位の値を四捨五入した値を塗布6時間後の水分保持率(%)とした。
【数1】
【0038】
結果を表1に示す。アズレンスルホン酸ナトリウム単独では、塗布6時間後の水分保持率が低く、保湿効果を持続できなかった(比較例1)。また、ヒプロメロース、ヒドロキシエチルセルロース、及びカルボキシビニルポリマーでも、それぞれ単独では、塗布6時間後の水分保持率は幾分高くなっていたが、依然として不十分であった(比較例6~8)。更に、アズレンスルホン酸ナトリウムと共に、ヒドロキシエチルセルロース又はカルボキシビニルポリマーを併用しても、塗布6時間後の水分保持率は相加的な向上程度しか認められなかった(比較例2~5)。これに対して、アズレンスルホン酸ナトリウムとヒプロメロースを併用した場合には、塗布6時間後の水分保持率が相乗的に向上しており、保湿効果の持続性が格段に高まっていた(実施例1~3)。なお、実施例1~3の口腔用組成物は、アズレンスルホン酸ナトリウムを含んでいるので、消炎効果を奏することが可能な組成になっている。
【0039】
【0040】
処方例
表2に示す組成の口腔用組成物(口腔用スプレー)を調製した。また比較のために、処方例5及び6のヒプロメロースを精製水に変更した比較用口腔用組成物も調製した。これらの口腔用組成物を試験例1と同じ方法で保湿効果の持続性を評価した。処方例1~4は、いずれも、塗布6時間後の水分保持率は比較例1~8と比較して保湿効果の持続性が格段に高まっていた。また、塩化セチルピリジニウムを塩化ベンザルコニウム又は塩化ベンゼトニウムに置換した処方例5及び6でも、塗布6時間後の水分保持率は処方例5及び6の比較用口腔組成物、並びに比較例1~18と比較して保湿効果の持続性が格段に高まっていた。
【0041】