(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-17
(45)【発行日】2025-02-26
(54)【発明の名称】液晶性ポリエステルの製造方法及び液晶性ポリエステル
(51)【国際特許分類】
C08G 63/60 20060101AFI20250218BHJP
C08G 63/78 20060101ALI20250218BHJP
【FI】
C08G63/60
C08G63/78
(21)【出願番号】P 2021565486
(86)(22)【出願日】2020-12-08
(86)【国際出願番号】 JP2020045567
(87)【国際公開番号】W WO2021124966
(87)【国際公開日】2021-06-24
【審査請求日】2023-11-10
(31)【優先権主張番号】P 2019229406
(32)【優先日】2019-12-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002093
【氏名又は名称】住友化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100196058
【氏名又は名称】佐藤 彰雄
(74)【代理人】
【識別番号】100153763
【氏名又は名称】加藤 広之
(74)【代理人】
【識別番号】100214215
【氏名又は名称】▲高▼梨 航
(72)【発明者】
【氏名】大友 新治
(72)【発明者】
【氏名】山西 ひろみ
【審査官】佐藤 貴浩
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-002697(JP,A)
【文献】特開2005-213418(JP,A)
【文献】特表2008-537011(JP,A)
【文献】国際公開第97/044307(WO,A1)
【文献】特開2002-371127(JP,A)
【文献】特公昭49-037599(JP,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G63/00-64/42
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
芳香族ジオール(A)と、芳香族ヒドロキシカルボン酸(B)と、ナフタレンジカルボン酸(C)とを反応させて液晶性ポリエステルを得る、液晶性ポリエステルの製造方法であって、
前記ナフタレンジカルボン酸(C)は、JIS K 0069(1992)の乾式ふるい分け試験方法により測定される粒子径が150μm未満であるナフタレンジカルボン酸粒子(C1)を90質量%以上含むナフタレンジカルボン酸粉末である、液晶性ポリエステルの製造方法。
【請求項2】
前記ナフタレンジカルボン酸(C)の使用量が、前記芳香族ジオール(A)と前記芳香族ヒドロキシカルボン酸(B)と前記ナフタレンジカルボン酸(C)との合計の使用量(100モル%)に対して10モル%以上である、請求項1に記載の液晶性ポリエステルの製造方法。
【請求項3】
前記ナフタレンジカルボン酸(C)が、2,6-ナフタレンジカルボン酸、2,7-ナフタレンジカルボン酸及び1,4-ナフタレンジカルボン酸からなる群より選択される少なくとも一種である、請求項1又は2に記載の液晶性ポリエステルの製造方法。
【請求項4】
レーザー回折・散乱法により測定される、前記ナフタレンジカルボン酸粉末の中心粒径(D50)が、5~30μmである、請求項1~3のいずれか一項に記載の液晶性ポリエステルの製造方法。
【請求項5】
前記芳香族ジオール(A)及び前記芳香族ヒドロキシカルボン酸(B)の少なくとも一方と、脂肪酸無水物とをアシル化反応させてアシル化物を得る工程(i)、並びに、
前記アシル化物と、前記ナフタレンジカルボン酸(C)とをエステル交換反応させて液晶性ポリエステルを得る工程(ii)を有する、請求項1~4のいずれか一項に記載の液晶性ポリエステルの製造方法。
【請求項6】
前記工程(ii)におけるエステル交換反応を250~350℃で行う、請求項5に記載の液晶性ポリエステルの製造方法。
【請求項7】
前記ナフタレンジカルボン酸粒子(C1)を90質量%以上含むナフタレンジカルボン酸粉末を調製する工程(iii)を有し、
前記工程(iii)は、
JIS K 0069(1992)の乾式ふるい分け試験方法により、ナフタレンジカルボン酸(C0)を、前記ナフタレンジカルボン酸粒子(C1)と、前記粒子径が150μm以上であるナフタレンジカルボン酸粒子(C2)とに分級する操作(a)を含む、
請求項1~6のいずれか一項に記載の液晶性ポリエステルの製造方法。
【請求項8】
前記ナフタレンジカルボン酸粒子(C1)を90質量%以上含むナフタレンジカルボン酸粉末を調製する工程(iii)を有し、
前記工程(iii)は、
JIS K 0069(1992)の乾式ふるい分け試験方法により、ナフタレンジカルボン酸(C0)を、前記ナフタレンジカルボン酸粒子(C1)と、前記粒子径が150μm以上であるナフタレンジカルボン酸粒子(C2)とに分級する操作(a)、
前記ナフタレンジカルボン酸粒子(C2)を加工して、前記粒子径を150μm未満に調整したナフタレンジカルボン酸粒子(C2*)を作製する操作(b)、及び
前記操作(a)で得られたナフタレンジカルボン酸粒子(C1)と、前記操作(b)で得られたナフタレンジカルボン酸粒子(C2*)とを混合する操作(c)を含む、
請求項1~7のいずれか一項に記載の液晶性ポリエステルの製造方法。
【請求項9】
芳香族ジオール(A)と、芳香族ヒドロキシカルボン酸(B)と、ナフタレンジカルボン酸(C)とを反応させて得られる液晶性ポリエステルであって、
前記ナフタレンジカルボン酸(C)は、JIS K 0069(1992)の乾式ふるい分け試験方法により測定される粒子径が150μm未満であるナフタレンジカルボン酸粒子(C1)を90質量%以上含むナフタレンジカルボン酸粉末である、液晶性ポリエステル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶性ポリエステルの製造方法及び液晶性ポリエステルに関する。
本願は、2019年12月19日に、日本に出願された特願2019-229406号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
芳香族環骨格からなる液晶性ポリエステルは、耐熱性及び引張り強度に優れた材料として、近年、電気、電子分野で用いられている。液晶性ポリエステルは、例えば、4-ヒドロキシ安息香酸等の芳香族ヒドロキシカルボン酸及び/又は4、4’-ヒドロキシビフェニル等の芳香族ジオールに、無水酢酸を加えてフェノール性水酸基をアシル化して得られたアシル化物と、ナフタレンジカルボン酸、テレフタル酸等の芳香族ジカルボン酸とをエステル交換する方法などにより製造されている。
【0003】
例えば、特許文献1~3には、ナフタレンジカルボン酸の存在下にエステル交換する液晶性ポリエステルの製造方法が開示されている。該製造方法により得られる液晶性ポリエステルは、耐熱性及び機械的強度に優れており、品質のバラツキも少ないので、電気・電子部品の材料として好適であるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2005-272810号公報
【文献】特開2005-272819号公報
【文献】特開2002-037869号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、近年、電子部品の小型化に伴い、薄肉電子部品における機械的強度の更なる向上が求められている。これらの先行技術文献に記載された液晶性ポリエステルを材料に用いる薄肉電子部品においても、機械的強度の更なる向上が求められている。
【0006】
本発明の目的は、従来のナフタレンジカルボン酸を用いて製造した同じ組成の液晶性ポリエステルに比べて、機械的強度、特に引張物性に優れるものとすることができる、液晶性ポリエステルの製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本発明は、以下の構成を採用する。
[1] 芳香族ジオール(A)と、芳香族ヒドロキシカルボン酸(B)と、ナフタレンジカルボン酸(C)とを反応させて液晶性ポリエステルを得る、液晶性ポリエステルの製造方法であって、
前記ナフタレンジカルボン酸(C)は、JIS K 0069(1992)の乾式ふるい分け試験方法により測定される粒子径が150μm未満であるナフタレンジカルボン酸粒子(C1)を90質量%以上含むナフタレンジカルボン酸粉末である、液晶性ポリエステルの製造方法。
[2] 前記ナフタレンジカルボン酸(C)の使用量が、前記芳香族ジオール(A)と前記芳香族ヒドロキシカルボン酸(B)と前記ナフタレンジカルボン酸(C)との合計の使用量(100モル%)に対して10モル%以上である、前記[1]に記載の液晶性ポリエステルの製造方法。
[3] 前記ナフタレンジカルボン酸(C)が、2,6-ナフタレンジカルボン酸、2,7-ナフタレンジカルボン酸及び1,4-ナフタレンジカルボン酸からなる群より選択される少なくとも一種である、前記[1]又は[2]に記載の液晶性ポリエステルの製造方法。
【0008】
[4] レーザー回折・散乱法により測定される、前記ナフタレンジカルボン酸粉末の中心粒径(D50)が、5~30μmである、前記[1]~[3]のいずれか一項に記載の液晶性ポリエステルの製造方法。
[5] 前記芳香族ジオール(A)及び前記芳香族ヒドロキシカルボン酸(B)の少なくとも一方と、脂肪酸無水物とをアシル化反応させてアシル化物を得る工程(i)、並びに、
前記アシル化物と、前記ナフタレンジカルボン酸(C)とをエステル交換反応させて液晶性ポリエステルを得る工程(ii)を有する、前記[1]~[4]のいずれか一項に記載の液晶性ポリエステルの製造方法。
[6] 前記工程(ii)におけるエステル交換反応を250~350℃で行う、前記[5]に記載の液晶性ポリエステルの製造方法。
[7] 前記ナフタレンジカルボン酸粒子(C1)を90質量%以上含むナフタレンジカルボン酸粉末を調製する工程(iii)を有し、
前記工程(iii)は、
JIS K 0069(1992)の乾式ふるい分け試験方法により、ナフタレンジカルボン酸(C0)を、前記ナフタレンジカルボン酸粒子(C1)と、前記粒子径が150μm以上であるナフタレンジカルボン酸粒子(C2)とに分級する操作(a)を含む、
前記[1]~[6]のいずれか一項に記載の液晶性ポリエステルの製造方法。
【0009】
[8] 前記ナフタレンジカルボン酸粒子(C1)を90質量%以上含むナフタレンジカルボン酸粉末を調製する工程(iii)を有し、
前記工程(iii)は、
JIS K 0069(1992)の乾式ふるい分け試験方法により、ナフタレンジカルボン酸(C0)を、前記ナフタレンジカルボン酸粒子(C1)と、前記粒子径が150μm以上であるナフタレンジカルボン酸粒子(C2)とに分級する操作(a)、
前記ナフタレンジカルボン酸粒子(C2)を加工して、前記粒子径を150μm未満に調整したナフタレンジカルボン酸粒子(C2*)を作製する操作(b)、及び
前記操作(a)で得られたナフタレンジカルボン酸粒子(C1)と、前記操作(b)で得られたナフタレンジカルボン酸粒子(C2*)とを混合する操作(c)を含む、
前記[1]~[7]のいずれか一項に記載の液晶性ポリエステルの製造方法。
[9] 芳香族ジオール(A)と、芳香族ヒドロキシカルボン酸(B)と、ナフタレンジカルボン酸(C)とを反応させて得られる液晶性ポリエステルであって、
前記ナフタレンジカルボン酸(C)は、JIS K 0069(1992)の乾式ふるい分け試験方法により測定される粒子径が150μm未満であるナフタレンジカルボン酸粒子(C1)を90質量%以上含むナフタレンジカルボン酸粉末である、液晶性ポリエステル。
【発明の効果】
【0010】
本発明の液晶性ポリエステルの製造方法は、従来のナフタレンジカルボン酸を用いて製造した同じ組成の液晶性ポリエステルに比べて、機械的強度、特に引張物性に優れる液晶性ポリエステルを製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
<<液晶性ポリエステルの製造方法>>
<第1実施形態>
本実施形態の液晶性ポリエステルの製造方法は、芳香族ジオール(A)と、芳香族ヒドロキシカルボン酸(B)と、ナフタレンジカルボン酸(C)とを反応させて液晶性ポリエステルを得る、液晶性ポリエステルの製造方法であって、前記ナフタレンジカルボン酸(C)は、JIS K 0069(1992)の乾式ふるい分け試験方法により測定される粒子径が150μm未満であるナフタレンジカルボン酸粒子(C1)を90質量%以上含むナフタレンジカルボン酸粉末である。
【0012】
・ナフタレンジカルボン酸(C)
前記ナフタレンジカルボン酸(C)の全質量100質量%に対して、前記粒子径が150μm未満であるナフタレンジカルボン酸粒子(C1)を90質量%以上含むことにより、本実施形態の液晶性ポリエステルの製造方法は、従来のナフタレンジカルボン酸を用いて製造した同じ組成の液晶性ポリエステルに比べて、機械的強度、特に引張物性に優れる液晶性ポリエステルを製造することができる。
【0013】
前記ナフタレンジカルボン酸(C)は、前記ナフタレンジカルボン酸(C)の全質量100質量%に対して、前記粒子径が150μm未満であるナフタレンジカルボン酸粒子(C1)を95質量%以上含むことが好ましく、98質量%以上含むことがより好ましく、99質量%以上含むことがさらに好ましく、100質量%含むものであってもよい。
【0014】
レーザー回折・散乱法により測定される、前記ナフタレンジカルボン酸粉末の中心粒径(D50)が、5~30μmであることが好ましい。
【0015】
本明細書において、ナフタレンジカルボン酸粉末の中心粒径(D50)とは、ナフタレンジカルボン酸粉末の粒子径及び体積分率をレーザー回折・散乱法により測定し、小さい粒子径のものから順次体積分率を積算し、積算体積が全粒子の合計体積に対して50%となる粒子の粒子径をいう。
【0016】
ナフタレンジカルボン酸粉末の中心粒径(D50)は、30μm以下であることが好ましく、24μm以下であることがより好ましく、14.5μm以下であることが更に好ましい。ナフタレンジカルボン酸粉末の中心粒径(D50)が、より小さいほど、ナフタレンジカルボン酸の比表面積が大きくなり、芳香族ジオール(A)、芳香族ヒドロキシカルボン酸(B)、及び反応溶媒と、ナフタレンジカルボン酸粉末との接触点が増加し、重縮合反応をより速やかに進行させることができる。前記ナフタレンジカルボン酸粉末の中心粒径(D50)の下限は限定されないが、粉砕機で粉砕し易いことから、5μm以上であってもよく、8μm以上であってもよく、10μm以上であってもよく、12μm以上であってもよい。
【0017】
本実施形態におけるナフタレンジカルボン酸(C)の使用量は、前記芳香族ジオール(A)と前記芳香族ヒドロキシカルボン酸(B)と前記ナフタレンジカルボン酸(C)との合計の使用量(100モル%)に対して10モル%以上であることが好ましく、10~35モル%であることがより好ましく、15~30モル%であることがさらに好ましく、17.5~25モル%であることが特に好ましい。
【0018】
ナフタレンジカルボン酸(C)は、下記式(C)で表される。
HOOC-Ar3-COOH・・・(C)
[式中、Ar3は、ナフチレン基を表す。]
【0019】
該ナフチレン基としては、2,6-ナフチレン基、1,5-ナフチレン基、2,7-ナフチレン基、1,4-ナフチレン基、1,6-ナフチレン基等が挙げられる。
【0020】
本実施形態におけるナフタレンジカルボン酸(C)として、具体的には、2,6-ナフタレンジカルボン酸、1,5-ナフタレンジカルボン酸、2,7-ナフタレンジカルボン酸及び1,4-ナフタレンジカルボン酸、1,6-ナフチレン基等が挙げられる。その中でも、2,6-ナフタレンジカルボン酸、2,7-ナフタレンジカルボン酸及び1,4-ナフタレンジカルボン酸が好ましく、2,6-ナフタレンジカルボン酸が最も好ましい。
【0021】
・芳香族ヒドロキシカルボン酸(B)
本明細書において、芳香族ヒドロキシカルボン酸(B)とは、少なくとも1以上の芳香環を有し、該芳香環に直接ヒドロキシ基(すなわち、フェノール性水酸基)が結合し、かつ、該芳香環に直接カルボキシ基が結合する化合物を云う。ヒドロキシ基が結合する該芳香環と、カルボキシ基が結合する該芳香環とは、分子内の同一の芳香環であってもよく、分子内の異なる芳香環であってもよい。すなわち、例えば、4-ヒドロキシ安息香酸の様に、分子内の同一の芳香環にヒドロキシ基及びカルボキシ基が結合する芳香族ヒドロキシカルボン酸であってもよく、例えば、4-ヒドロキシ-4’-ビフェニルカルボン酸の様に、分子内の一の芳香環にヒドロキシ基が結合し、分子内の他の芳香環にカルボキシ基が結合する芳香族ヒドロキシカルボン酸であってもよい。
【0022】
芳香族ヒドロキシカルボン酸(B)としては、下記式(B)で表される芳香族ヒドロキシカルボン酸(以下、芳香族ヒドロキシカルボン酸(B)ともいう)が挙げられる。
HO-Ar1-COOH ・・・(B)
[式中、Ar1は、置換されていてもよいアリーレン基を表す。]
【0023】
該アリーレン基としては、フェニレン基、ナフチレン基、ビフェニリレン基等が挙げられる。
アリーレン基は、ハロゲン原子、炭素数1~6のアルキル基等で置換されていてもよい。ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が挙げられる。
炭素数1~6のアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、t-ブチル基などが挙げられる。
【0024】
本実施形態における芳香族ヒドロキシカルボン酸(B)として、具体的には、4-ヒドロキシ安息香酸、3-ヒドロキシ安息香酸、2-ヒドロキシ-6-ナフトエ酸、2-ヒドロキシ-3-ナフトエ酸、1-ヒドロキシ-4-ナフトエ酸、2,6-ジクロロ-4-ヒドロキシ安息香酸、2-クロロ-4-ヒドロキシ安息香酸、2,6-ジフルオロ-4-ヒドロキシ安息香酸、4-ヒドロキシ-4’-ビフェニルカルボン酸等が挙げられる。
上記の中でも、入手容易であるということから、4-ヒドロキシ安息香酸、2-ヒドロキシ-6-ナフトエ酸が好ましく、2-ヒドロキシ-6-ナフトエ酸がより好ましい。
【0025】
本実施形態における芳香族ヒドロキシカルボン酸(B)は、上記の化合物を1種単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0026】
・芳香族ジオール(A)
本明細書において、芳香族ジオール(A)とは、少なくとも1以上の芳香環を有し、該芳香環に直接ヒドロキシ基(すなわち、フェノール性水酸基)が2個結合する化合物を云う。ヒドロキシ基が結合する該芳香環は、分子内の同一の芳香環であってもよく、分子内の異なる芳香環であってもよい。すなわち、例えば、ハイドロキノンの様に、分子内の同一の芳香環に二個のヒドロキシ基が結合する芳香族ジオールであってもよく、例えば、4,4’-ジヒドロキシビフェニルの様に、分子内の一の芳香環にヒドロキシ基が結合し、分子内の他の芳香環に別のヒドロキシ基が結合する芳香族ジオールであってもよい。
【0027】
該芳香族ジオール(A)としては、下記式(A)で表される芳香族ジオール(以下、芳香族ジオール(A)ともいう)が挙げられる。
【0028】
HO-Ar2-OH ・・・(A)
[式中、Ar2は、置換されていてもよいアリーレン基、又は下記式(IV)で表される2価の連結基を表す。]
【0029】
【化1】
[式中、R
1及びR
2は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1~6のアシルオキシ基又は炭素数1~6のアルキル基を表す。Xは、-O-、-S-、-SO
2-、-CO-、-C
6H
10-又はアルキレン基を表す。]
【0030】
上記式(A)中、Ar2は、置換されていてもよいアリーレン基、又は上記式(IV)で表される2価の連結基を表す。
アリーレン基としては、フェニレン基、ナフチレン基、ビフェニリレン基等が挙げられる。
アリーレン基は、ハロゲン原子、炭素数1~6のアルキル基、炭素数1~6のアシルオキシ基、フェニル基、ニトロ基等で置換されていてもよい。
ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子及びヨウ素原子が挙げられ、炭素数1~6のアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、t-ブチル基などが挙げられる。
炭素数1~6のアシルオキシ基としては、ホルミルオキシ基、アセチルオキシ基、プロピルオキシ基等が挙げられる。
【0031】
上記式(IV)中、R1及びR2は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1~6のアシルオキシ基又は炭素数1~6のアルキル基を表す。
ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子及びヨウ素原子が挙げられ、炭素数1~6のアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、t-ブチル基などが挙げられる。
炭素数1~6のアシルオキシ基としては、ホルミルオキシ基、アセチルオキシ基、プロピオニルオキシ基等が挙げられる。
【0032】
上記式(IV)中、Xは、-O-、-S-、-SO2-、-CO-、-C6H10-又はアルキレン基を表す。該アルキレン基としては、分岐鎖状又は直鎖状のアルキレン基が挙げられる。直鎖状のアルキレン基としては、メチレン基[-CH2-]、エチレン基[-(CH2)2-]、トリメチレン基[-(CH2)3-]、テトラメチレン基[-(CH2)4-]、ペンタメチレン基[-(CH2)5-]等が挙げられる。分岐鎖状のアルキレン基としては、-CH(CH3)-、-CH(CH2CH3)-、-C(CH3)2-等のアルキルメチレン基;-CH(CH3)CH2-、-C(CH2CH3)2-CH2-等のアルキルエチレン基;-CH(CH3)CH2CH2-、-CH2CH(CH3)CH2-等のアルキルトリメチレン基;-CH(CH3)CH2CH2CH2-、-CH2CH(CH3)CH2CH2-等のアルキルテトラメチレン基などのアルキルアルキレン基等が挙げられる。
【0033】
上記式(A)中、Ar2としては、例えば、下記の基が挙げられる。
【0034】
【0035】
本実施形態における芳香族ジオール(A)として、具体的には、4,4’-ジヒドロキシビフェニル、ハイドロキノン、レゾルシン、メチルハイドロキノン、2,3,5-トリメチルヒドロキノン、クロロハイドロキノン、アセトキシハイドロキノン、ニトロハイドロキノン、2,2’,3,3’,5,5’-ヘキサメチル-4,4’-ビフェノール、1,4-ジヒドロキシナフタレン、1,5-ジヒドロキシナフタレン、1,6-ジヒドロキシナフタレン、2,6-ジヒドロキシナフタレン、2,7-ジヒドロキシナフタレン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3,5-ジメチルフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3,5-ジクロロフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-クロロフェニル)プロパン、ビス-(4-ヒドロキシフェニル)メタン、ビス-(4-ヒドロキシ-3,5-ジメチルフェニル)メタン、ビス-(4-ヒドロキシ-3,5-ジクロロフェニル)メタン、ビス-(4-ヒドロキシ-3,5-ジブロモフェニル)メタン、ビス-(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)メタン、ビス-(4-ヒドロキシ-3-クロロフェニル)メタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、ビス-(4-ヒドロキシフェニル)ケトン、ビス-(4-ヒドロキシ-3,5-ジメチルフェニル)ケトン、ビス-(4-ヒドロキシ-3,5-ジクロロフェニル)ケトン、ビス-(4-ヒドロキシフェニル)スルフィド、ビス-(4-ヒドロキシフェニル)スルホン、ビス-(4-ヒドロキシフェニル)エーテルなどが挙げられる。
【0036】
上記の中でも、入手容易であるということから、4,4’-ジヒドロキシビフェニル、ハイドロキノン、レゾルシン、2,6-ジヒドロキシナフタレン、2,7-ジヒドロキシナフタレン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン、ビス-(4-ヒドロキシフェニル)スルホンが好ましく、4,4’-ジヒドロキシビフェニル、ハイドロキノンがより好ましい。
【0037】
本実施形態における芳香族ジオール(A)は、上記の化合物を1種単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0038】
・芳香族ジカルボン酸(D)
本実施形態の液晶性ポリエステルの製造方法は、前記ナフタレンジカルボン酸(C)と共に、前記ナフタレンジカルボン酸(C)以外の、芳香族ジカルボン酸(D)を反応させてもよい。
【0039】
芳香族ジカルボン酸(D)としては、下記式(D)で表される芳香族ジカルボン酸(以下、芳香族ジカルボン酸(D)ともいう)が挙げられる。
HOOC-Ar4-COOH・・・(D)
[式中、Ar4は、置換されていてもよいアリーレン基、又は下記式(IV)で表される2価の連結基を表す。ただし、無置換のナフチレン基を除く。]
【0040】
【化3】
[式中、R
1及びR
2は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1~6のアシルオキシ基又は炭素数1~6のアルキル基を表す。Xは、-O-、-S-、-SO
2-、-CO-、-C
6H
10-又はアルキレン基を表す。]
【0041】
上記式(D)中のAr4は、置換されていてもよいアリーレン基、又は上記式(IV)で表される2価の連結基を表す。ただし、無置換のナフチレン基を除く。
該アリーレン基としては、フェニレン基、ビフェニリレン基等が挙げられる。
アリーレン基は、ハロゲン原子又は炭素数1~6のアルキル基等で置換されていてもよい。ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が挙げられる。炭素数1~6のアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、t-ブチル基などが挙げられる。
【0042】
ハロゲン原子、炭素数1~6のアシルオキシ基及び炭素数1~6のアルキル基としては、前記と同じものが挙げられる。
上記式(IV)で表される2価の連結基としては、上記式(A)中で説明した内容と同様である。
【0043】
芳香族ジカルボン酸(D)として、具体的には、テレフタル酸、イソフタル酸、4,4’-ビフェニルジカルボン酸、メチルテレフタル酸、メチルイソフタル酸、4,4‘-ジカルボキシジフェニルエーテル等が挙げられる。その中でも、テレフタル酸、イソフタル酸が好ましい。
【0044】
本実施形態における液晶性ポリエステルの製造方法は、好ましくは、前記芳香族ジオール(A)及び前記芳香族ヒドロキシカルボン酸(B)の少なくとも一方と、脂肪酸無水物とをアシル化反応させてアシル化物を得る工程(i)、並びに、
前記アシル化物と、前記ナフタレンジカルボン酸(C)とをエステル交換反応させて液晶性ポリエステルを得る工程(ii)を有する。
【0045】
<第2実施形態>
本実施形態における液晶性ポリエステルの製造方法は、好ましくは、前記芳香族ジオール(A)及び前記芳香族ヒドロキシカルボン酸(B)の少なくとも一方と、脂肪酸無水物とをアシル化反応させてアシル化物を得る工程(i)、並びに、
前記アシル化物と、前記ナフタレンジカルボン酸(C)とをエステル交換反応させて液晶性ポリエステルを得る工程(ii)を有し、
前記工程(ii)におけるエステル交換反応を250~350℃で行う。
【0046】
本実施形態の液晶性ポリエステルの製造方法は、芳香族ジオール(A)、芳香族ヒドロキシカルボン酸(B)及びナフタレンジカルボン酸(C)を一緒に反応系に加えて、前記アシル化物を得る工程(i)を経由した後、前記液晶性ポリエステルを得る工程(ii)に移ってもよく、芳香族ジオール(A)及び芳香族ヒドロキシカルボン酸(B)の存在下で前記アシル化物を得る工程(i)を経由した後、ナフタレンジカルボン酸(C)を反応系に加えて、前記液晶性ポリエステルを得る工程(ii)に移ってもよい。
【0047】
[工程(i)]
工程(i)は、前記芳香族ジオール(A)及び前記芳香族ヒドロキシカルボン酸(B)の少なくとも一方と、脂肪酸無水物とをアシル化反応させてアシル化物を得る工程である。
工程(i)は、前記芳香族ジオール(A)及び前記芳香族ヒドロキシカルボン酸(B)の両方と、脂肪酸無水物とを、一緒にアシル化反応させてアシル化物を得る工程であってもよい。
また、工程(i)は、前記芳香族ジオール(A)又は前記芳香族ヒドロキシカルボン酸(B)のいずれかの一方と、脂肪酸無水物とをアシル化反応させてアシル化物を得る工程であってもよい。この場合において、前記芳香族ジオール(A)又は前記芳香族ヒドロキシカルボン酸(B)のいずれかの他方と、脂肪酸無水物とをアシル化反応させてアシル化物を得る工程を別途設けてもよく、前記芳香族ジオール(A)又は前記芳香族ヒドロキシカルボン酸(B)のいずれかの他方と、ナフタレンジカルボン酸(C)とを直接重合する工程を別途設けてもよい。
【0048】
・脂肪酸無水物
該脂肪酸無水物としては、炭素数9以下の脂肪酸無水物が挙げられる。
本実施形態における炭素数9以下の脂肪酸無水物としては、無水酢酸、無水プロピオン酸、無水ブタン酸、無水2-メチルプロピオン酸、無水ペンタン酸、無水2,2-ジメチルプロピオン酸、無水2-エチルヘキサン酸、無水モノクロル酢酸、無水ジクロル酢酸、無水トリクロル酢酸、無水モノブロモ酢酸、無水ジブロモ酢酸、無水トリブロモ酢酸、無水モノフルオロ酢酸、無水ジフルオロ酢酸、無水トリフルオロ酢酸、無水ペンタン-1,5-ジカルボン酸、無水マレイン酸、無水コハク酸、無水β-ブロモプロピオン酸等が挙げられる。
【0049】
本実施形態における工程(i)において、芳香族ジオール(A)の使用量は、工程(i)で用いられる芳香族ジオール(A)及び芳香族ヒドロキシカルボン酸(B)の合計(100モル%)に対して、10~50モル%であることが好ましく、20~40モル%であることがより好ましく、20~30モル%であることがさらに好ましい。
【0050】
本実施形態における工程(i)において、芳香族ヒドロキシカルボン酸(B)の使用量は、工程(i)で用いられる芳香族ジオール(A)及び芳香族ヒドロキシカルボン酸(B)の合計(100モル%)に対して、50~90モル%であることが好ましく、60~80モル%であることがより好ましく、70~80モル%であることがさらに好ましい。
【0051】
本実施形態における工程(i)において、炭素数9以下の脂肪酸無水物の使用量は、フェノール性水酸基に対して1.01~1.55倍当量であることが好ましく、1.05~1.42倍当量であることがより好ましい。
脂肪酸無水物の使用量が、上記好ましい下限値以上であれば、アシル化時の平衡が脂肪酸無水物側に移動してポリエステルへの重合の進行がより早くなる。
また、脂肪酸無水物の使用量が、上記好ましい上限値以下であれば、得られる液晶性ポリエステルの着色等の劣化をより抑制することができる。
【0052】
本実施形態における工程(i)は、120~150℃で10分から5時間行うことが好ましく、130~150℃で20分から3時間行うことがより好ましく、135~150℃で20分から1時間行うことが特に好ましい。
【0053】
[工程(ii)]
工程(ii)は、上述した工程(i)によって得られるアシル化物と、前記ナフタレンジカルボン酸(C)とをエステル交換反応させて、液晶性ポリエステルを得る工程である。
【0054】
前記ナフタレンジカルボン酸(C)と共に、前記ナフタレンジカルボン酸(C)以外の、芳香族ジカルボン酸(D)をエステル交換反応させてもよく、前記ナフタレンジカルボン酸(C)と共に、芳香族ヒドロキシカルボン酸と芳香族ジオールをエステル交換反応させてもよい。
該芳香族ヒドロキシカルボン酸としては、上述した工程(i)における芳香族ヒドロキシカルボン酸(B)と同様のものが挙げられる。
【0055】
本実施形態における工程(ii)において、ナフタレンジカルボン酸(C)の使用量は、芳香族ジオール(A)と前記芳香族ヒドロキシカルボン酸(B)と前記ナフタレンジカルボン酸(C)との合計の使用量(100モル%)に対して、10モル%以上であることが好ましく、10~35モル%であることがより好ましく、15~30モル%であることがさらに好ましく、17.5~25モル%であることが特に好ましい。
【0056】
本実施形態における工程(ii)において、芳香族ジカルボン酸(D)の使用量は、芳香族ジオール(A)と前記芳香族ヒドロキシカルボン酸(B)と前記ナフタレンジカルボン酸(C)との合計の使用量(100モル%)に対して、0モル%であってもよく、0~15モル%であることが好ましく、0~10モル%であることがより好ましく、0~5モル%であることがさらに好ましく、0~3モル%であることが特に好ましい。
【0057】
本実施形態における工程(ii)は、前記工程(ii)におけるエステル交換反応を250~350℃で行う。本実施形態における工程(ii)は、120~150℃から300~350℃までを、0.1~10℃/分かけて昇温させた後、250~350℃で反応させることが好ましく、130~135℃から280~330℃までを、0.3~5℃/分の割合で昇温させた後、250~350℃で反応させることがより好ましい。
【0058】
アシル化された脂肪酸エステルと芳香族ジカルボン酸とをエステル交換反応させる際、平衡をずらすために、副生する脂肪酸と未反応の脂肪酸無水物は、蒸発させて系外へ留去することが好ましい。
【0059】
本実施形態の液晶性ポリエステルの製造方法は、前記ナフタレンジカルボン酸(C)の全質量100質量%に対して、前記粒子径が150μm未満であるナフタレンジカルボン酸粒子(C1)を90質量%以上含むことにより、従来のナフタレンジカルボン酸を用いて製造した同じ組成の液晶性ポリエステルに比べて、機械的強度、特に引張物性に優れる液晶性ポリエステルを製造することができる。
【0060】
<その他の実施形態>
本実施形態の液晶性ポリエステルの製造方法は、前記ナフタレンジカルボン酸粒子(C1)を90質量%以上含むナフタレンジカルボン酸粉末を調製する工程(iii)を有し、
前記工程(iii)は、
JIS K 0069(1992)の乾式ふるい分け試験方法により、ナフタレンジカルボン酸(C0)を、前記ナフタレンジカルボン酸粒子(C1)と、前記粒子径が150μm以上であるナフタレンジカルボン酸粒子(C2)とに分級する操作(a)を含むことが好ましい。
【0061】
本実施形態の液晶性ポリエステルの製造方法において、ナフタレンジカルボン酸(C0)としては、粒子径について未調整な市販の2,6-ナフタレンジカルボン酸粉末を用いることができる。
【0062】
本実施形態の液晶性ポリエステルの製造方法は、前記ナフタレンジカルボン酸粒子(C1)を90質量%以上含むナフタレンジカルボン酸粉末を調製する工程(iii)を有し、
前記工程(iii)は、
JIS K 0069(1992)の乾式ふるい分け試験方法により、ナフタレンジカルボン酸(C0)を、前記ナフタレンジカルボン酸粒子(C1)と、前記粒子径が150μm以上であるナフタレンジカルボン酸粒子(C2)とに分級する操作(a)、
前記ナフタレンジカルボン酸粒子(C2)を加工して、前記粒子径を150μm未満に調整したナフタレンジカルボン酸粒子(C2*)を作製する操作(b)、及び
前記操作(a)で得られたナフタレンジカルボン酸粒子(C1)と、前記操作(b)で得られたナフタレンジカルボン酸粒子(C2*)とを混合する操作(c)を含むことが好ましい。
【0063】
粒子径が150μm以上であるナフタレンジカルボン酸粒子(C2)を加工して、前記粒子径を150μm未満に調整することで、市販のナフタレンジカルボン酸粒子の粒度分布が如何様であっても、前記ナフタレンジカルボン酸粒子(C2*)として、無駄にすることなく利用することができる。
粒子径が150μm以上であるナフタレンジカルボン酸粒子(C2)の加工方法としては、公知の粉砕方法を用いることができる。
【0064】
本発明の液晶性ポリエステルの製造方法は、以下の側面を有する。
「1」 芳香族ジオール(A)と、芳香族ヒドロキシカルボン酸(B)と、ナフタレンジカルボン酸(C)とを反応させて液晶性ポリエステルを得る、液晶性ポリエステルの製造方法であって、
前記ナフタレンジカルボン酸(C)は、JIS K 0069(1992)の乾式ふるい分け試験方法により測定される粒子径が150μm未満であるナフタレンジカルボン酸粒子(C1)を90質量%以上含むナフタレンジカルボン酸粉末である、液晶性ポリエステルの製造方法。
「2」 前記ナフタレンジカルボン酸(C)は、前記ナフタレンジカルボン酸(C)の全質量100質量%に対して、前記粒子径が150μm未満であるナフタレンジカルボン酸粒子(C1)を95質量%以上含み、好ましくは98質量%以上含み、より好ましくは99質量%以上含み、さらに好ましくは100質量%含む、前記「1」に記載の液晶性ポリエステルの製造方法。
「3」 前記ナフタレンジカルボン酸(C)の使用量が、前記芳香族ジオール(A)と前記芳香族ヒドロキシカルボン酸(B)と前記ナフタレンジカルボン酸(C)との合計の使用量(100モル%)に対して10モル%以上であり、好ましくは10~35モル%であり、より好ましくは15~30モル%であり、さらに好ましくは17.5~25モル%である、前記「1」又は「2」に記載の液晶性ポリエステルの製造方法。
「4」 前記ナフタレンジカルボン酸(C)が、2,6-ナフタレンジカルボン酸、2,7-ナフタレンジカルボン酸及び1,4-ナフタレンジカルボン酸からなる群より選択される少なくとも一種である、前記「1」~「3」のいずれか一項に記載の液晶性ポリエステルの製造方法。
【0065】
「5」 レーザー回折・散乱法により測定される、前記ナフタレンジカルボン酸粉末の中心粒径(D50)が、5~30μmであり、好ましくは24μm以下であり、より好ましくは14.5μm以下である、前記「1」~「4」のいずれか一項に記載の液晶性ポリエステルの製造方法。
「6」 前記ナフタレンジカルボン酸粉末の中心粒径(D50)が、5μm以上であり、好ましくは8μm以上であり、より好ましくは10μm以上であり、さらに好ましくは12μm以上である、前記「5」に記載の液晶性ポリエステルの製造方法。
「7」 前記芳香族ジオール(A)及び前記芳香族ヒドロキシカルボン酸(B)の少なくとも一方と、脂肪酸無水物とをアシル化反応させてアシル化物を得る工程(i)、並びに、
前記アシル化物と、前記ナフタレンジカルボン酸(C)とをエステル交換反応させて液晶性ポリエステルを得る工程(ii)を有する、前記「1」~「6」のいずれか一項に記載の液晶性ポリエステルの製造方法。
「8」 前記工程(ii)におけるエステル交換反応を250~350℃で行う、前記「7」に記載の液晶性ポリエステルの製造方法。
「9」 前記ナフタレンジカルボン酸粒子(C1)を90質量%以上含むナフタレンジカルボン酸粉末を調製する工程(iii)を有し、
前記工程(iii)は、
JIS K 0069(1992)の乾式ふるい分け試験方法により、ナフタレンジカルボン酸(C0)を、前記ナフタレンジカルボン酸粒子(C1)と、前記粒子径が150μm以上であるナフタレンジカルボン酸粒子(C2)とに分級する操作(a)を含む、
前記「1」~「8」のいずれか一項に記載の液晶性ポリエステルの製造方法。
【0066】
「10」 前記ナフタレンジカルボン酸粒子(C1)を90質量%以上含むナフタレンジカルボン酸粉末を調製する工程(iii)を有し、
前記工程(iii)は、
JIS K 0069(1992)の乾式ふるい分け試験方法により、ナフタレンジカルボン酸(C0)を、前記ナフタレンジカルボン酸粒子(C1)と、前記粒子径が150μm以上であるナフタレンジカルボン酸粒子(C2)とに分級する操作(a)、
前記ナフタレンジカルボン酸粒子(C2)を加工して、前記粒子径を150μm未満に調整したナフタレンジカルボン酸粒子(C2*)を作製する操作(b)、及び
前記操作(a)で得られたナフタレンジカルボン酸粒子(C1)と、前記操作(b)で得られたナフタレンジカルボン酸粒子(C2*)とを混合する操作(c)を含む、
前記「1」~「9」のいずれか一項に記載の液晶性ポリエステルの製造方法。
【0067】
<<液晶性ポリエステル>>
本実施形態における液晶性ポリエステルは、芳香族ジオール(A)と、芳香族ヒドロキシカルボン酸(B)と、ナフタレンジカルボン酸(C)とを反応させて得られる液晶性ポリエステルであって、
前記ナフタレンジカルボン酸(C)は、JIS K 0069(1992)の乾式ふるい分け試験方法により測定される粒子径が150μm未満であるナフタレンジカルボン酸粒子(C1)を90質量%以上含むナフタレンジカルボン酸粉末である。
【0068】
上述の通り、芳香族ジオール(A)と、芳香族ヒドロキシカルボン酸(B)と、ナフタレンジカルボン酸(C)とを反応させて得られる液晶性ポリエステルは、前記粒子径が150μm未満であるナフタレンジカルボン酸粒子(C1)を90質量%以上含むナフタレンジカルボン酸粉末を前記ナフタレンジカルボン酸(C)として用いることにより、従来のナフタレンジカルボン酸を用いて製造した同じ組成の液晶性ポリエステルに比べて、機械的強度、特に引張物性に優れるものとすることができる。
【0069】
本実施形態における液晶性ポリエステルとして、より具体的には、下記式(1)で表される構成単位(以下、構成単位(1)ともいう)、下記式(2)で表される構成単位(以下、構成単位(2)ともいう)、および下記式(3)で表される構成単位(以下、構成単位(3)ともいう)を含む液晶性ポリエステルが挙げられる。本実施形態における液晶性ポリエステルは、更に、下記式(4)で表される構成単位(以下、構成単位(4)ともいう)を含んでいてもよい。
【0070】
(1)-O-Ar1-CO-
(2)-O-Ar2-O-
(3)-CO-Ar3-CO-
[式(1)中、Ar1は、置換されていてもよいアリーレン基を表す。
式(2)中、Ar2は、置換されていてもよいアリーレン基、又は下記式(IV)で表される2価の連結基を表す。
式(3)中、Ar3は、ナフチレン基を表す。]
【0071】
(4)-CO-Ar4-CO-
[式中、Ar4は、置換されていてもよいアリーレン基、又は下記式(IV)で表される2価の連結基を表す。ただし、無置換のナフチレン基を除く。]
【0072】
【化4】
[式中、R
1及びR
2は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1~6のアシルオキシ基又は炭素数1~6のアルキル基を表す。Xは、-O-、-S-、-SO
2-、-CO-、-C
6H
10-又はアルキレン基を表す。]
【0073】
<構成単位(1)>
構成単位(1)は、上記式(1)で表される構成単位である。
上記式(1)中、Ar1は、置換されていてもよいアリーレン基を表す。Ar1は、フェニレン基、ナフチレン基又はビフェニリレン基であってもよい。Ar1で表される前記基中の1個以上の水素原子は、ハロゲン原子、炭素数1~10のアルキル基又は炭素数6~20のアリール基で置換されていてもよい。
【0074】
Ar1で表される前記基中の1個以上の水素原子と置換可能なハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子及びヨウ素原子が挙げられる。
【0075】
Ar1で表される前記基中の1個以上の水素原子と置換可能な炭素数1~10のアルキル基の例としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、n-ヘキシル基、n-へプチル基、2-エチルヘキシル基、n-オクチル基、n-ノニル基、n-デシル基等が挙げられる。
【0076】
Ar1で表される前記基中の1個以上の水素原子と置換可能な炭素数6~20のアリール基の例としては、フェニル基、o-トリル基、m-トリル基、p-トリル基等の単環式芳香族基;1-ナフチル基、2-ナフチル基等の縮環式芳香族基が挙げられる。
【0077】
Ar1で表される前記基中の1個以上の水素原子がこれらの基で置換されている場合、その置換数は、好ましくは1個又は2個であり、より好ましくは1個である。
【0078】
構成単位(1)は、所定の芳香族ヒドロキシカルボン酸(B)に由来する構成単位である。
構成単位(1)としては、Ar1が1,4-フェニレン基であるもの(4-ヒドロキシ安息香酸に由来する構成単位)、及びAr1が2,6-ナフチレン基であるもの(6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸に由来する構成単位)が好ましい。
【0079】
<構成単位(2)>
構成単位(2)は、上記式(2)で表される構成単位である。
上記式(2)中、Ar2は、置換されていてもよいアリーレン基、又は上記式(4)で表される基を表す。Ar2は、フェニレン基、ナフチレン基、ビフェニリレン基であってもよい。Ar2に含まれる1個以上の水素原子は、ハロゲン原子、炭素数1~10のアルキル基又は炭素数6~20のアリール基で置換されていてもよい。
Ar2で表される前記基中の1個以上の水素原子と置換可能なハロゲン原子、アルキル基及びアリール基は、Ar1表される上記基中の1個以上の水素原子と置換可能なハロゲン原子、炭素数1~10のアルキル基及び炭素数6~20のアリール基と同じものである。
【0080】
Ar2で表される前記基中の1個以上の水素原子がこれらの基で置換されている場合、その置換数は、Ar2で表される前記基毎に、互いに独立に、好ましくは1個又は2個であり、より好ましくは1個である。なお、Ar2は、置換されていないことがさらに好ましい。
【0081】
構成単位(2)は、所定の芳香族ジオール(A)に由来する構成単位である。
構成単位(2)としては、Ar2が1,4-フェニレン基であるもの(ヒドロキノンに由来する構成単位)、Ar2が1,3-フェニレン基であるもの(1,3-ベンゼンジオールに由来する構成単位)、Ar2が2,6-ナフチレン基であるもの(2,6-ジヒドロキシナフタレンに由来する構成単位に由来する構成単位)、Ar2が4,4’-ビフェニリレン基であるもの(4,4’-ジヒドロキシビフェニルに由来する構成単位)、又はAr2がジフェニルエーテル-4,4’-ジイル基であるもの(4,4’-ジヒドロキシジフェニルエーテルに由来する構成単位)が好ましく、Ar2が1,4-フェニレン基、1,3-フェニレン基、2,6-ナフチレン基又は4,4’-ビフェニリレン基であるものがより好ましい。
【0082】
<構成単位(3)>
構成単位(3)は、上記式(3)で表される構成単位である。
上記式(3)中、Ar3は、ナフチレン基を表す。ナフチレン基としては、2,6-ナフチレン基、1,5-ナフチレン基、2,7-ナフチレン基、1,4-ナフチレン基等が挙げられる。
【0083】
構成単位(3)は、所定のナフタレンジカルボン酸(C)に由来する構成単位である。
構成単位(3)としては、Ar3が2,6-ナフチレン基であるもの(2,6-ナフタレンジカルボン酸に由来する構成単位)、Ar3が2,7-ナフチレン基であるもの(2,7-ナフタレンジカルボン酸に由来する構成単位)、Ar3が1,4-ナフチレン基であるもの(1,4-ナフタレンジカルボン酸に由来する構成単位)、がより好ましい。
【0084】
上記式(IV)で表される2価の連結基としては、上記式(A)中で説明した内容と同様である。
【0085】
<構成単位(4)>
構成単位(4)は、上記式(4)で表される構成単位である。
上記式(4)中、Ar4は、置換されていてもよいアリーレン基、又は下記式(IV)で表される2価の連結基を表す。ただし、無置換のナフチレン基を除く。
Ar4に含まれる1個以上の水素原子は、ハロゲン原子、炭素数1~10のアルキル基又は炭素数6~20のアリール基で置換されていてもよい。
Ar4のアリーレン基としては、フェニレン基、ビフェニリレン基などが挙げられる。
Ar4で表される前記基中の1個以上の水素原子と置換可能なハロゲン原子、アルキル基及びアリール基は、Ar1表される上記基中の1個以上の水素原子と置換可能なハロゲン原子、炭素数1~10のアルキル基及び炭素数6~20のアリール基と同じものである。
【0086】
Ar4で表される前記基中の1個以上の水素原子がこれらの基で置換されている場合、その置換数は、Ar4で表される前記基毎に、互いに独立に、好ましくは1個又は2個であり、より好ましくは1個である。なお、Ar4は、置換されていないことがさらに好ましい。
【0087】
前記炭素数1~10のアルキリデン基の例としては、メチレン基、エチリデン基、イソプロピリデン基、n-ブチリデン基及び2-エチルヘキシリデン基等が挙げられ、その炭素数は1~10であることが好ましい。
【0088】
構成単位(4)は、所定の芳香族ジカルボン酸に由来する構成単位である。
構成単位(4)としては、Ar4が1,4-フェニレン基であるもの(テレフタル酸に由来する構成単位)、Ar4が1,3-フェニレン基であるもの(イソフタル酸に由来する構成単位)、Ar4が4,4’-ビフェニリレン基であるもの(4,4’-ジカルボキシビフェニルに由来する構成単位)、又はAr4がジフェニルエーテル-4,4’-ジイル基であるもの(4,4’-ジカルボキシジフェニルエーテルに由来する構成単位)が好ましく、Ar4が1,4-フェニレン基、1,3-フェニレン基又は4,4’-ビフェニリレン基であるものがより好ましい。
【0089】
本実施形態における液晶性ポリエステルは、液晶性ポリエステルを構成する上記式(1)で表される構成単位、上記式(2)で表される構成単位及び上記式(3)で表される構成単位の合計(100モル%)に対して、式(1)で表される構成単位の含有量が30~80モル%であることが好ましく、50~70モル%であることがより好ましく、55~65モル%であることがさらに好ましい。
【0090】
本実施形態における液晶性ポリエステルは、液晶性ポリエステルを構成する全構成単位の合計(100モル%)に対して、式(1)で表される構成単位の含有量が30~80モル%であることが好ましく、50~70モル%であることがより好ましく、55~65モル%であることがさらに好ましい。
【0091】
本実施形態における液晶性ポリエステルは、液晶性ポリエステルを構成する上記式(1)で表される構成単位、上記式(2)で表される構成単位及び上記式(3)で表される構成単位の合計(100モル%)に対して、式(2)で表される構成単位の含有量が10~35モル%であることが好ましく、15~30モル%であることがより好ましく、17.5~27.5モル%であることがさらに好ましく、17.5~25モル%であることが一層好ましい。
【0092】
本実施形態における液晶性ポリエステルは、液晶性ポリエステルを構成する全構成単位の合計(100モル%)に対して、式(2)で表される構成単位の含有量が10~35モル%であることが好ましく、15~30モル%であることがより好ましく、17.5~27.5モル%であることがさらに好ましく、17.5~25モル%であることが一層好ましい。
【0093】
本実施形態における液晶性ポリエステルは、液晶性ポリエステルを構成する上記式(1)で表される構成単位、上記式(2)で表される構成単位及び上記式(3)で表される構成単位の合計(100モル%)に対して、式(3)で表される構成単位の含有量が10モル%以上であることが好ましく、10~35モル%であることがより好ましく、15~30モル%であることがさらに好ましく、17.5~27.5モル%であることが特に好ましく、17.5~25モル%であることが一層好ましい。
【0094】
本実施形態における液晶性ポリエステルは、液晶性ポリエステルを構成する全構成単位の合計(100モル%)に対して、式(3)で表される構成単位の含有量が10モル%以上であることが好ましく、10~35モル%であることがより好ましく、15~30モル%であることがさらに好ましく、17.5~27.5モル%であることが特に好ましく、17.5~25モル%であることが一層好ましい。
【0095】
本実施形態における液晶性ポリエステルは、液晶性ポリエステルを構成する上記式(1)で表される構成単位、上記式(2)で表される構成単位及び上記式(3)で表される構成単位の合計(100モル%)に対して、式(4)で表される構成単位の含有量が0~10モル%であることが好ましく、0~5モル%であることがより好ましく、0~3モル%であることがさらに好ましい。
【0096】
本実施形態における液晶性ポリエステルは、液晶性ポリエステルを構成する全構成単位の合計(100モル%)に対して、式(4)で表される構成単位の含有量が0~10モル%であることが好ましく、0~5モル%であることがより好ましく、0~3モル%であることがさらに好ましい。
【0097】
本実施形態における液晶性ポリエステルは、流動開始温度が、好ましくは270℃以上、より好ましくは270℃以上400℃以下、さらに好ましくは280℃以上380℃以下、特に好ましくは300℃以上350℃以下である。
本実施形態における液晶性ポリエステルの流動開始温度が前記の範囲にあると、耐熱性や強度・剛性が良好であり、成形時に熱劣化しにくく、また、溶融時の粘度が高くなりにくいために流動性が低下しにくくなる傾向がある。
【0098】
なお、流動開始温度は、フロー温度とも呼ばれ、毛細管レオメーターを用いて、9.8MPa(100kgf/cm2)の荷重下、4℃/分の速度で昇温しながら、液晶性ポリエステルを溶融させ、内径1mm及び長さ10mmのノズルから押し出すときに、4800Pa・s(48000ポイズ)の粘度を示す温度であり、液晶性ポリエステルの分子量の目安となるものである(小出直之編、「液晶ポリマー-合成・成形・応用-」、株式会社シーエムシー、1987年6月5日、p.95参照)。
【0099】
本発明の液晶性ポリエステルは、以下の側面を有する。
「11」 芳香族ジオール(A)と、芳香族ヒドロキシカルボン酸(B)と、ナフタレンジカルボン酸(C)とを反応させて得られる液晶性ポリエステルであって、
前記ナフタレンジカルボン酸(C)は、JIS K 0069(1992)の乾式ふるい分け試験方法により測定される粒子径が150μm未満であるナフタレンジカルボン酸粒子(C1)を90質量%以上含むナフタレンジカルボン酸粉末である、液晶性ポリエステル。
「12」 前記「1」~「10」のいずれか一項に記載の液晶性ポリエステルの製造方法により得られる液晶性ポリエステル。
【0100】
以上説明した本実施形態の液晶性ポリエステルは、上述した液晶性ポリエステルの製造方法において、前記ナフタレンジカルボン酸(C)の全質量100質量%に対して、前記粒子径が150μm未満であるナフタレンジカルボン酸粒子(C1)を90質量%以上含むことにより、機械的強度、特に引張物性に優れる。
【実施例】
【0101】
以下、具体的実施例により、本発明についてさらに詳しく説明する。ただし、本発明は、以下に示す実施例に何ら限定されるものではない。
【0102】
<ナフタレンジカルボン酸粉末の粒子径の測定方法>
ナフタレンジカルボン酸粉末の粒子径は、東京スクリーン株式会社製の網篩いを用い、JIS K 0069(1992)の乾式ふるい分け試験方法により測定した。
【0103】
<ナフタレンジカルボン酸粉末の中心粒径(D50)の測定方法>
対象のナフタレンジカルボン酸粉末0.1gを界面活性剤としてTritonX-100を加えた水溶液50mLに投入し、超音波洗浄装置で10分間分散して、分散液を調製した。
次に、日機装株式会社製マイクロトラック粒度分析計(MT-3300EXII)を用いて、この分散液にレーザー光線を照射し、レーザー回折法により、ナフタレンジカルボン酸粉末の粒度分布を測定し、体積基準の累積粒度分布曲線を得た。
そして、得られた累積粒度分布曲線において、全体を100%としたときに、微小粒子側からの累積体積が50%となる点の粒子径の値を中心粒径(D50)として求めた。
【0104】
<ナフタレンジカルボン酸粉末>
市販の2,6-ナフタレンジカルボン酸粉末を比較例1~3の芳香族液晶性ポリエステルの合成に供した。
この市販の2,6-ナフタレンジカルボン酸粉末の粒子径を、乾式ふるい分け試験方法により測定したところ、2,6-ナフタレンジカルボン酸粉末の全質量100質量%に対して、粒子径が150μm未満であるナフタレンジカルボン酸粒子(C1)を84.9質量%含むものであり、150μm以上の粒子の割合が15.1質量%であった。この市販の2,6-ナフタレンジカルボン酸粉末の粒子径を、レーザー回折・散乱法により測定したところ、中心粒径(D50)が、15μmであった。
【0105】
また、市販の前記ナフタレンジカルボン酸粉末を目開き150μmの篩に通して得られた2,6-ナフタレンジカルボン酸粉末を実施例1,3及び5の芳香族液晶性ポリエステルの合成に供した。
市販の前記ナフタレンジカルボン酸粉末を目開き150μmの篩に通して得られた2,6-ナフタレンジカルボン酸粉末の粒子径を、乾式ふるい分け試験方法により測定したところ、2,6-ナフタレンジカルボン酸粉末の全質量100質量%に対して、粒子径が150μm未満であるナフタレンジカルボン酸粒子(C1)を100質量%含むものであった。目開き150μmの篩に通し、粒子径150μm未満に調整した前記2,6-ナフタレンジカルボン酸粉末の粒子径を、レーザー回折・散乱法により測定したところ、中心粒径(D50)が、14μmであった。
また、市販の前記ナフタレンジカルボン酸粉末を目開き150μmの篩に通して得られた2,6-ナフタレンジカルボン酸粉末と、目開き150μmの篩上に残った2,6-ナフタレンジカルボン酸粉末とを、95:5の質量比で混合して得られた2,6-ナフタレンジカルボン酸粉末を実施例2,4及び6の芳香族液晶性ポリエステルの合成に供した。
この2,6-ナフタレンジカルボン酸粉末の粒子径を、レーザー回折・散乱法により測定したところ、中心粒径(D50)が、14μmであった。
【0106】
<流動開始温度の測定>
各例の液晶性ポリエステルについて、フローテスター(島津製作所社製、CFT-500型)を用いて、流動開始温度を測定した。具体的には、各例の液晶性ポリエステル約2gを内径1mm、長さ10mmのダイスを取付けた毛細管型レオメーターに充填した。次いで、充填された各例の液晶性ポリエステルについて、昇温速度4℃/分で、9.8MPa(100kgf/cm2)の荷重下で、該レオメーターのノズルから押出すときに、溶融粘度が4800Pa・s(48000ポイズ)を示す温度を流動開始温度とした。
【0107】
[実施例1]
攪拌装置、トルクメータ、窒素ガス導入管、温度計及び還流冷却器を備えた反応器に、2-ヒドロキシ-6-ナフトエ酸1129.1g(6.00モル)、ハイドロキノン226.8g(2.06モル)、目開き150μmの篩に通し、粒子径150μm未満に調整した2,6-ナフタレンジカルボン酸粉末432.4g(2.00モル)、無水酢酸1136.5(11.13モル)および触媒として1-メチルイミダゾール0.054gを添加し、室温で15分間攪拌した後、攪拌しながら昇温した。内温が140℃となったところで、140℃を保持したまま1時間攪拌した。
次に、留出する副生酢酸、未反応の無水酢酸を留去しながら、140℃から310℃まで5時間かけて昇温した。310℃で1時間30分保温して芳香族ポリエステルを得た。得られた芳香族ポリエステルを室温に冷却し、粉砕機で粉砕して、芳香族ポリエステルの粉末(粒子径は約0.1mm~約2mm)を得た。
この粉末(芳香族ポリエステル)の流動開始温度を測定したところ、279℃であった。
得られた粉末を25℃から270℃まで1時間かけて昇温したのち、270℃から320℃まで5時間2分かけて昇温し、次いで320℃で5時間保温して固相重合させた。その後、固相重合した後の粉末を冷却し、冷却後の粉末(芳香族液晶性ポリエステル)の流動開始温度を測定したところ、333℃であった。
【0108】
[実施例2]
原料の2,6-ナフタレンジカルボン酸として、粒子径150μm未満の粒子の割合が95.0質量%であり、粒子径150μm以上の粒子の割合が5.0質量%である2,6-ナフタレンジカルボン酸粉末432.4g(2.00モル)を用いたこと以外は実施例1と同様の操作にて芳香族ポリエステルの粉末を得た(粒子径は約0.1mm~約2mm)。
この粉末(芳香族ポリエステル)の流動開始温度を測定したところ、279℃であった。
得られた粉末を25℃から270℃まで1時間かけて昇温したのち、270℃から320℃まで5時間2分かけて昇温し、次いで320℃で5時間保温して固相重合させた。その後、固相重合した後の粉末を冷却し、冷却後の粉末(芳香族液晶性ポリエステル)の流動開始温度を測定したところ、333℃であった。
【0109】
[比較例1]
原料の2,6-ナフタレンジカルボン酸として、粒子径150μm未満の粒子の割合が84.9質量%であり、粒子径150μm以上の粒子の割合が15.1質量%である2,6-ナフタレンジカルボン酸粉末432.4g(2.00モル)を用いたこと以外は実施例1と同様の操作にて芳香族ポリエステルの粉末を得た(粒子径は約0.1mm~約2mm)。
この粉末(芳香族ポリエステル)の流動開始温度を測定したところ、277℃であった。
得られた粉末を25℃から270℃まで1時間かけて昇温したのち、270℃から320℃まで5時間2分かけて昇温し、次いで320℃で5時間保温して固相重合させた。その後、固相重合した後の粉末を冷却し、冷却後の粉末(芳香族液晶性ポリエステル)の流動開始温度を測定したところ、331℃であった。
【0110】
[実施例3]
攪拌装置、トルクメータ、窒素ガス導入管、温度計及び還流冷却器を備えた反応器に、2-ヒドロキシ-6-ナフトエ酸1091.4g(5.80モル)、ハイドロキノン238.2g(2.16モル)、テレフタル酸33.2g(0.20モル)、目開き150μmの篩に通し、粒子径150μm未満に調整した2,6-ナフタレンジカルボン酸粉末410.8g(1.90モル)、無水酢酸1137.1(11.14モル)および触媒として1-メチルイミダゾール0.053gを添加し、室温で15分間攪拌した後、攪拌しながら昇温した。内温が140℃となったところで、140℃を保持したまま1時間攪拌した。
次に、留出する副生酢酸、未反応の無水酢酸を留去しながら、140℃から310℃まで4時間20分かけて昇温した。310℃で1時間30分保温して芳香族ポリエステルを得た。得られた芳香族ポリエステルを室温に冷却し、粉砕機で粉砕して、芳香族ポリエステルの粉末(粒子径は約0.1mm~約2mm)を得た。
この粉末(芳香族ポリエステル)の流動開始温度を測定したところ、242℃であった。
得られた粉末を25℃から240℃まで1時間かけて昇温したのち、240℃から310℃まで11時間40分かけて昇温し、次いで310℃で5時間保温して固相重合させた。その後、固相重合した後の粉末を冷却し、冷却後の粉末(芳香族液晶性ポリエステル)の流動開始温度を測定したところ、325℃であった。
【0111】
[実施例4]
原料の2,6-ナフタレンジカルボン酸として、粒子径150μm未満の粒子の割合が95.0質量%であり、粒子径150μm以上の粒子の割合が5.0質量%である2,6-ナフタレンジカルボン酸粉末410.8g(1.90モル)を用いたこと以外は実施例3と同様の操作にて芳香族ポリエステルの粉末を得た(粒子径は約0.1mm~約2mm)。
この粉末(芳香族ポリエステル)の流動開始温度を測定したところ、241℃であった。
得られた粉末を25℃から240℃まで1時間かけて昇温したのち、240℃から310℃まで11時間40分かけて昇温し、次いで310℃で5時間保温して固相重合させた。その後、固相重合した後の粉末を冷却し、冷却後の粉末(芳香族液晶性ポリエステル)の流動開始温度を測定したところ、324℃であった。
【0112】
[比較例2]
原料の2,6-ナフタレンジカルボン酸として、粒子径150μm未満の粒子の割合が84.9質量%であり、粒子径150μm以上の粒子の割合が15.1質量%である2,6-ナフタレンジカルボン酸粉末410.8g(1.90モル)を用いたこと以外は実施例3と同様の操作にて芳香族ポリエステルの粉末を得た(粒子径は約0.1mm~約2mm)。
この粉末(芳香族ポリエステル)の流動開始温度を測定したところ、242℃であった。
得られた粉末を25℃から240℃まで1時間かけて昇温したのち、240℃から310℃まで11時間40分かけて昇温し、次いで310℃で5時間保温して固相重合させた。その後、固相重合した後の粉末を冷却し、冷却後の粉末(芳香族液晶性ポリエステル)の流動開始温度を測定したところ、325℃であった。
【0113】
[実施例5]
攪拌装置、トルクメータ、窒素ガス導入管、温度計及び還流冷却器を備えた反応器に、4-ヒドロキシ安息香酸828.7g(6.00モル)、ハイドロキノン226.8g(2.06モル)、目開き150μmの篩に通し、粒子径150μm未満に調整した2,6-ナフタレンジカルボン酸粉末432.4g(2.00モル)、無水酢酸1136.5(11.13モル)および触媒として1-メチルイミダゾール0.045gを添加し、室温で15分間攪拌した後、攪拌しながら昇温した。内温が140℃となったところで、140℃を保持したまま1時間攪拌した。
次に、留出する副生酢酸、未反応の無水酢酸を留去しながら、140℃から300℃まで5時間かけて昇温した。300℃で1時間30分保温して芳香族ポリエステルを得た。得られた芳香族ポリエステルを室温に冷却し、粉砕機で粉砕して、芳香族ポリエステルの粉末(粒子径は約0.1mm~約2mm)を得た。
この粉末(芳香族ポリエステル)の流動開始温度を測定したところ、253℃であった。
得られた粉末を25℃から240℃まで1時間かけて昇温したのち、240℃から300℃まで10時間かけて昇温し、次いで300℃で5時間保温して固相重合させた。その後、固相重合した後の粉末を冷却し、冷却後の粉末(芳香族液晶性ポリエステル)の流動開始温度を測定したところ、308℃であった。
【0114】
[実施例6]
原料の2,6-ナフタレンジカルボン酸として、粒子径150μm未満の粒子の割合が95.0質量%であり、粒子径150μm以上の粒子の割合が5.0質量%である2,6-ナフタレンジカルボン酸粉末432.4g(2.00モル)を用いたこと以外は実施例5と同様の操作にて芳香族ポリエステルの粉末を得た。
この粉末(芳香族ポリエステル)の流動開始温度を測定したところ、257℃であった。
得られた粉末を25℃から240℃まで1時間かけて昇温したのち、240℃から300℃まで10時間かけて昇温し、次いで300℃で5時間保温して固相重合させた。その後、固相重合した後の粉末を冷却し、冷却後の粉末(芳香族液晶性ポリエステル)の流動開始温度を測定したところ、309℃であった。
【0115】
[比較例3]
原料の2,6-ナフタレンジカルボン酸として、粒子径150μm未満の粒子の割合が84.9質量%であり、粒子径150μm以上の粒子の割合が15.1質量%である2,6-ナフタレンジカルボン酸粉末432.4g(2.00モル)を用いたこと以外は実施例5と同様の操作にて芳香族ポリエステルの粉末を得た。
この粉末(芳香族ポリエステル)の流動開始温度を測定したところ、257℃であった。
得られた粉末を25℃から240℃まで1時間かけて昇温したのち、240℃から300℃まで10時間かけて昇温し、次いで300℃で5時間保温して固相重合させた。その後、固相重合した後の粉末を冷却し、冷却後の粉末(芳香族液晶性ポリエステル)の流動開始温度を測定したところ、310℃であった。
【0116】
<成形体の機械的強度(引張強度、伸び)の評価>
各実施例および比較例により得られた芳香族液晶性ポリエステルを120℃で5時間真空乾燥し、射出成形機(日精樹脂工業株式会社製「PNX-40-5A」)を用いて、シリンダー温度:350℃の成形条件によりダンベル試験片(厚さ0.5mm、長さ76mm)を射出成形した。
【0117】
この試験片各20サンプルについて、ASTM D638に従い、引張試験機(テンシロンRTG-1250、エー・アンド・デイ社製)を用いて、チャック間距離:50mm、クロスヘッド速度:10mm/min、試験温度:25℃で引張試験を行い、引張強度及びその時の伸びを測定し、破断時の引張強度(MPa)、及び破断時の引張伸び(%)の平均値及び標準偏差を求めた。結果を表1に示した。表1において、各実施例および比較例の芳香族液晶性ポリエステルのポリマー組成は、全構成単位の合計(100モル%)に対する各構成単位の含有量(モル%)を示した。
【0118】
【0119】
表1中の略号の説明
BON:2-ヒドロキシ-6-ナフトエ酸
POB:4-ヒドロキシ安息香酸
HQ:ハイドロキノン
NDCA:2,6-ナフタレンジカルボン酸
TPA:テレフタル酸
【0120】
表1の結果からも明らかなとおり、実施例1、2の芳香族液晶性ポリエステル及び比較例1の芳香族液晶性ポリエステルは同じ組成であり、同程度の流動開始温度、すなわち同程度の分子量を有している。それにもかかわらず、実施例1、2の芳香族液晶性ポリエステルの引張強度及びその時の伸びは、比較例1の芳香族液晶性ポリエステルの引張強度及びその時の伸びに比べて明らかに優れている。
【0121】
同様に、実施例3、4の芳香族液晶性ポリエステル及び比較例2の芳香族液晶性ポリエステルは同じ組成であり、同程度の流動開始温度及び同程度の分子量を有している。それにもかかわらず、実施例3、4の芳香族液晶性ポリエステルの引張強度及びその時の伸びは、比較例2の芳香族液晶性ポリエステルの引張強度及びその時の伸びに比べて明らかに優れている。
【0122】
同様に、実施例5、6の芳香族液晶性ポリエステル及び比較例3の芳香族液晶性ポリエステルは同じ組成であり、同程度の流動開始温度及び同程度の分子量を有している。それにもかかわらず、実施例5、6の芳香族液晶性ポリエステルの引張強度及びその時の伸びは、比較例3の芳香族液晶性ポリエステルの引張強度及びその時の伸びに比べて明らかに優れている。
【0123】
実施例1~6の芳香族液晶性ポリエステルは、芳香族ジオール(A)と、芳香族ヒドロキシカルボン酸(B)と、ナフタレンジカルボン酸(C)とを反応させて得られた液晶性ポリエステルであって、前記ナフタレンジカルボン酸(C)は、JIS K 0069(1992)の乾式ふるい分け試験方法により測定される粒子径が、前記ナフタレンジカルボン酸(C)の全質量100質量%に対して150μm未満であるナフタレンジカルボン酸粒子(C1)を90質量%以上含むナフタレンジカルボン酸粉末である。これに対して、比較例1~3の芳香族液晶性ポリエステルは、前記粒子径150μm未満の粒子の割合が84.9質量%であり、粒子径150μm以上の粒子の割合が15.1質量%である2,6-ナフタレンジカルボン酸粉末を反応させて得られた液晶性ポリエステルである。
【0124】
実施例に係る芳香族液晶性ポリエステルと、比較例に係る芳香族液晶性ポリエステルとを区別するにあたって、その構造又は特性により直接特定することを検討したが、通常の化合物特定の際に利用される各種スペクトルのデータからは、区別することができなかった。実施例に係る芳香族液晶性ポリエステルをその構造又は特性により直接特定することについては、不可能・非実際的事情が存在し、製造方法をもってしか特定することができないものと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0125】
本発明の液晶性ポリエステルの製造方法は、従来のナフタレンジカルボン酸を用いて製造した同じ組成の液晶性ポリエステルに比べて、機械的強度、特に引張物性に優れる液晶性ポリエステルを製造することができるので有用である。本発明の製造方法から得られる液晶性ポリエステルは、引張物性等の機械的強度、耐熱性や耐薬品性に優れることから、電子部品の小型化に伴う、薄肉電子部品用等の材料として各種用途の利用が期待できる。