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特許7636355窒化アルミニウム粉末の製造方法、窒化アルミニウム粉末および包装体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-17
(45)【発行日】2025-02-26
(54)【発明の名称】窒化アルミニウム粉末の製造方法、窒化アルミニウム粉末および包装体
(51)【国際特許分類】
   C01B 21/072 20060101AFI20250218BHJP
   B65D 77/00 20060101ALI20250218BHJP
【FI】
C01B21/072 B
B65D77/00 C
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2021575722
(86)(22)【出願日】2021-01-22
(86)【国際出願番号】 JP2021002242
(87)【国際公開番号】W WO2021157388
(87)【国際公開日】2021-08-12
【審査請求日】2024-01-15
(31)【優先権主張番号】P 2020018829
(32)【優先日】2020-02-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003182
【氏名又は名称】株式会社トクヤマ
(74)【代理人】
【識別番号】110001070
【氏名又は名称】弁理士法人エスエス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山本 泰幸
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 秀樹
【審査官】廣野 知子
(56)【参考文献】
【文献】特開平07-309611(JP,A)
【文献】特表平08-508460(JP,A)
【文献】特開平07-187619(JP,A)
【文献】特開2000-016805(JP,A)
【文献】特開2017-149592(JP,A)
【文献】特開平03-199168(JP,A)
【文献】特表平08-506794(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 21/072
B65D 67/00-79/02
B65D 81/18-81/30
B65D 81/38、85/88
JSTPlus(JDreamIII)
JST7580(JDreamIII)
JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
希釈剤として平均一次粒子径が3μm以下の窒化アルミニウム粉末を金属アルミニウム粉末100質量部に対して150~400質量部の割合で混合した混合粉末を窒素雰囲気下に、着火して燃焼させて平均一次粒子径が3μm以下の窒化アルミニウムを得る、燃焼合成法による窒化アルミニウムの製造方法であり、前記燃焼合成法により得られた窒化アルミニウム塊を、平均粒子径が4~20μmの大きさに解砕後、その一部を前記希釈剤として使用することを特徴とする窒化アルミニウム粉末の製造方法。
【請求項2】
金属アルミニウム粉末の平均粒子径が1μm以上、10μm未満である、請求項1記載の窒化アルミニウム粉末の製造方法。
【請求項3】
前記混合粉末の嵩密度が0.6~0.9g/cm3の範囲にある、請求項1又は2に記載の窒化アルミニウム粉末の製造方法。
【請求項4】
前記混合粉末を底面積が0.3m2以上の耐熱性素材の平箱に層状に充填し、着火して金属アルミニウム粉末を燃焼させる、請求項1~のいずれか1項に記載の窒化アルミニウム粉末の製造方法。
【請求項5】
平箱の底面に断熱層を形成する、請求項に記載の窒化アルミニウム粉末の製造方法。
【請求項6】
平均一次粒子径が3μm以下の窒化アルミニウム一次粒子よりなり、圧壊強度が300MPa以下の凝集粒子を含み、前記凝集粒子は、平均粒子径が4~20μmの大きさであることを特徴とする窒化アルミニウム粉末。
【請求項7】
カーボン濃度が300質量ppm以下である、請求項に記載の窒化アルミニウム粉末。
【請求項8】
請求項6又は7に記載の窒化アルミニウム粉末が、樹脂製包装袋に充填されてなる包装体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、焼結体用途に有用な窒化アルミニウム粉末の工業的な製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
窒化アルミニウムは、高電気絶縁性、高耐プラズマ性、高熱伝導性などの優れた特性を有していることから、絶縁放熱基板、半導体製造装置材料などに広く使用されている。これらは、窒化アルミニウム粉末に必要により焼結助剤を添加し、有機バインダーを使用して成形後、常圧あるいは加圧下で、脱脂、焼結することによって製造されている。代表的な焼結助剤である酸化イットリウムを用いた場合、それが窒化アルミニウム中の不純物酸素をトラップすることにより、高熱伝導化が達成される。
【0003】
ところで、一般的な窒化アルミニウム粉末の工業的な製法として、酸化アルミニウム粉末とカーボン粉末の混合粉末を窒素中で高温に加熱する還元窒化法、金属アルミニウムと窒素を高温で反応させる直接窒化法が知られている。
【0004】
そのうち、直接窒化法として工業的に実施されている方法は外部加熱により金属アルミニウムの窒化反応を行う方法であり、得られる窒化アルミニウム粉末は、反応時の熱により融着した粗大粒子を含むため、通常、粉砕処理が行われていた。そのため、粉砕処理によって金属不純物や表面酸素の増大を招きやすく、焼結体としたときにはそれらの不純物に起因する格子欠陥の生成が、熱伝導率低下の原因となる。また、粉砕により得られる粒子の形状は不定形であり、成形性が劣ることが懸念される。
【0005】
一方、還元窒化法により得られる窒化アルミニウム粉末は、直接窒化法により得られる窒化アルミニウム粉末と比較して、平均粒子径が1μm程度で粗大粒子が少ない上に粒子形状も球に近く高純度であるため、成形性、焼結性に優れており、焼結体としたときには高い熱伝導率を得やすい特徴がある。
【0006】
しかしながら、還元窒化法は、カーボンと酸化アルミニウムと混合処理や残ったカーボンの脱炭処理が必要となるため、原料コスト及びエネルギーコストの点で直接窒化法の方が有利であり、工業的に連続生産も可能であることから、直接窒化法であっても、還元窒化法と同等な窒化アルミニウムを製造できることが望まれていた。
【0007】
直接窒化法の一法として燃焼合成法が知られている。この方法は、窒素雰囲気中で金属アルミニウムよりなる原料粉体層の一部に着火し、以下の反応によって生じる反応熱を上記粉体層に伝播させ、これによって窒化反応を進行させて窒化アルミニウムを合成する方法である。
【0008】
Al+1/2N2 → AlN-ΔH0
反応式中〔-ΔH0〕=320KJ/molであり、この発熱が燃焼合成反応の駆動力となる。
【0009】
上記金属アルミニウムの燃焼合成法による窒化アルミニウムの製造方法としては、たとえば、特開平7-309611号公報(特許文献1)、特開2000-16805号公報(特許文献2)が知られている。これらの特許文献には、金属アルミニウムとともに、窒化アルミニウム粉末を希釈剤と添加して、燃焼合成法を行うことが開示されている。
【0010】
なお、特開平7-81909号公報(特許文献3)には、燃焼合成法による窒化ケイ素の製造方法が開示されており、これには、合成される窒化ケイ素が強固な塊状物として得られるのを防止するため、希釈剤(骨材)である窒化ケイ素粉末と金属シリコン粉末とよりなる混合粉末の嵩密度が小さくなるように調整することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】特開平7-309611号公報
【文献】特開2000-016805号公報
【文献】特開平7-081909号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、前記金属アルミニウムを使用した燃焼合成法によって得られる窒化アルミニウムは、希釈剤を使用し、嵩密度を小さくしても、製造条件によって強固に融着した塊状の状態で得られるという問題を有することが確認された。そのため、得られた窒化アルミニウムを焼結体用原料として用いるためには粉砕が不可欠であり、粉砕により生じる、酸化され易い破砕面の生成により、窒化アルミニウム粒子表面に酸化層が形成される結果、窒化アルミニウム粉末の酸素含有量を増加させる要因となり、これを原料として焼成した場合、要求される優れた熱特性や電気特性を有する窒化アルミニウム焼結体を得ることは困難となるという問題を有していた。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者は、従来技術の問題に鑑みて鋭意研究を重ねた結果、所定の窒化アルミニウム粒子を特定条件下で希釈剤として使用して燃焼合成反応を実施することにより、得られる窒化アルミニウムは、粒子径が数μmの一次粒子が緩やかに凝集した塊状物として得られ、これを、例えば粉砕用のメディアを使用しないで行う、軽度な粉砕(以下、この操作を「解砕」ともいう)により、適度な大きさの粒子に加工することができ、上記の課題を全て解決し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0014】
すなわち、本発明に係る窒化アルミニウム粉末の製造方法は、金属アルミニウム粉末を使用した燃焼合成法による窒化アルミニウムの製造方法において、希釈剤として平均一次粒子径が3μm以下の窒化アルミニウム粉末を金属アルミニウム粉末100質量部に対して150~400質量部の割合で混合した混合粉末を窒素雰囲気下に、着火して燃焼させることを特徴とする。
【0015】
前記製造方法では、金属アルミニウム粉末の平均粒子径が1μm以上、10μm未満であることが好ましい。
さらに前記混合粉末の嵩密度が0.6~0.9g/cm3の範囲にあることが好ましい。
【0016】
燃焼させて得られた窒化アルミニウム塊を、平均粒子径が、これを構成する窒化アルミニウム粒子の平均一次粒子径を超え、20μm以下の大きさに解砕後、一部を前記希釈剤として使用することが好ましい。
【0017】
さらにまた、前記混合粉末を底面積が0.3m2以上の耐熱性素材の平箱に層状に充填し、着火して金属アルミニウム粉末を燃焼させることが好ましい。
平箱の底面に断熱層を形成することが好ましい。
【0018】
本発明に係る窒化アルミニウム粉末は、平均一次粒子径が3μm以下の窒化アルミニウム一次粒子よりなり、圧壊強度が300MPa以下の凝集粒子を含み、平均粒子径が、上記平均一次粒子径を超え、20μm以下であることを特徴とする。
【0019】
前記窒化アルミニウ粉末は、カーボン濃度が300質量ppm以下であることが好ましい。
これらの窒化アルミニウム粉末は、前記製造方法で得ることが可能である。また、本発明に係る窒化アルミニウム粉末は、樹脂製包装袋に充填された包装形態が好ましい。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、従来の燃焼合成法によって得ることができなかった、軽い粉砕(すなわち解砕)により容易に細分化することが可能な塊状物の状態で窒化アルミニウムを得ることが可能である。
【0021】
そして、上記窒化アルミニウム塊を、平均粒子径が、これを構成する窒化アルミニウム粒子の平均一次粒子径を超え、20μm以下に解砕して得られる窒化アルミニウム粉末は、平均一次粒子径が3μm以下の一次粒子の凝集体であり、かかる凝集体は凝集力が小さく(圧壊強度小)、また、粉砕により生成する活性面が少ないため酸素濃度が極めて低いという特徴を有する。
【0022】
このような凝集体の状態を成す本発明の窒化アルミニウム粉末は、粉立ちが少なく、取り扱いが容易であると共に、焼結体用原料として使用する際、粉砕せずにそのまま使用しても、有機バインダーとの混合時のシェアにより容易に解れるため、処理効率および生産効率が高い焼成を行うことが可能である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施形態について説明する。
窒化アルミニウム粉末の製造方法
原料として用いる金属アルミニウム粉末自体は、公知のもの又は市販品をそのまま用いることができる。また、その製法も特に制限されず、いずれの製造方法によって得られたものも使用することができる。金属アルミニウム粉末の純度は、特に制限されないが、生成物の熱伝導率等を考慮すると通常99.9質量%以上(但し、含有酸素量は、純度の計算に入れない)であることが好ましい。
【0024】
金属アルミニウム粉末の平均粒子径は、通常1μm以上、10μm未満であり、好ましくは1.5~10μm未満であるものが望ましい。平均粒子径の大きな金属アルミニウム粉末を使用すると、解れにくい大粒子径の窒化アルミニウム粉末が多く残存することがあり、平均粒子径が小さいものは、ハンドリング性が低く、金属が酸化されやすい。
【0025】
また、金属アルミニウム粉末中に含まれる酸素量(含有酸素量)は、最終製品の用途、反応条件等により適宜設定すれば良いが、通常0.05~1質量%程度、特に0.1~0.6質量%とすることが好ましい。上記含有酸素量が0.05質量%未満では反応時に金属アルミニウム粉末同士が融着し易くなる傾向があり、粉末中への窒素ガスの供給が不十分になる結果、窒化率が低下するおそれがある。また、上記含有酸素量が1質量%を超えると金属アルミニウム粉末の粒子表面の酸化皮膜が窒化反応の進行を阻害することがある。
【0026】
本発明では、前記金属アルミニウム粉末と共に、希釈剤として窒化アルミニウム粉末を配合する。
窒化アルミニウム粉末の平均一次粒子径は、3μm以下、好ましくは2μm以下のものが望ましい。希釈剤として使用する窒化アルミニウム粉末の平均一次粒子径が上記範囲より大きい場合、反応時において金属アルミニウム粒子或いは生成した窒化アルミニウム粒子の融着が顕著となり、その結果、得られる窒化アルミニウムが強固な塊状物となり、本発明の目的を達成することができない。
【0027】
本発明において、前記希釈剤として使用する窒化アルミニウム粉末は、平均一次粒子径が前記範囲内のものであれば、その状態は特に制限されない。例えば、一次粒子が分散した状態のもの、一次粒子が凝集した凝集粒子の状態のもの、或いは、これらの混合物が特に制限無く使用される。
【0028】
具体的には、還元窒化法で得られた窒化アルミニウム粉末が挙げられる。上記還元窒化法によって得られる窒化アルミニウム粉末は、一般に平均一次粒子径1μm程度の粒子が分散した状態で存在するため好ましい。また、希釈剤として、本発明の方法によって得られる窒化アルミニウム粉末の一部を使用することも好ましい態様である。上記窒化アルミニウム粉末は、後述するように、平均一次粒子径が3μm以下の一次粒子の凝集粒子として得ることができ、これをそのまま、希釈剤として使用することができる。
【0029】
本発明において最も好ましい態様は、反応開始時には、還元窒化法で得られた窒化アルミニウム粉末を使用し、その後、本発明の製造方法で得られた窒化アルミニウム粉末の一部を希釈剤として使用する態様である。
【0030】
金属アルミニウム粉末と窒化アルミニウム粉末との混合比は、反応の制御が可能であり、その比率は金属アルミニウム粉末100質量部に対して窒化アルミニウム粉末が150~400質量部、好ましくは200~350質量部の割合で混合することが望ましい。この比率で混合すると、前記平均一次粒子径の特定と相まって反応の制御が十分行われ、解砕が容易な窒化アルミニウム塊を得ることができ、また生産効率を高くすることができる。
【0031】
本発明において、金属アルミニウム粉末と窒化アルミニウム粉末との混合方法としては公知の混合方法が特に制限されず採用されるが、ボールミル、Vブレンダー、リボンミキサー等を使用した混合方法が一般的である。
【0032】
さらに、混合粉末の嵩密度は、粉末の粒度、反応条件等により適宜設定すれば良いが、通常0.6~0.9g/cm3、好ましくは0.7~0.9g/cm3とすることが望ましい。この範囲にあると、混合粉末への窒素ガスの供給が十分にいきわたり、燃焼が十分に進行して、未反応の金属アルミニウムが少なくなり、また、解砕し易い窒化アルミニウム塊を得ることができる。
【0033】
本発明の製造方法において、金属アルミニウム粉末の連鎖的反応を進行させるためには、反応が進行する部分にある粉末の表面に反応に必要な十分の窒素源が存在する必要があり、このため窒素含有雰囲気を1.0~10気圧、好ましくは1~8気圧の窒素を含む雰囲気とすることが好ましい。窒素含有雰囲気としては窒素又はアンモニアあるいは、それらを含有する非酸化性ガスが工業的に使用できる。
【0034】
本発明の製造方法では、上記混合粉末を用い、上記窒素雰囲気条件下であれば燃焼合成反応の条件・方法自体は特に制限されない。例えば、窒素圧を適宜調整された加圧式の反応容器内で、耐熱性素材の平箱の形状を成した容器に収容した金属アルミニウム粉末の一部から着火させることにより、窒化反応を進行させることができる。この場合、窒素圧を一定に保持するため又は窒素圧が所定の圧力を下回らないようにするために、雰囲気内に窒素を反応容器に新たに供給し続けながら反応させることが望ましい。また、着火方法は、特に制限されず、燃焼合成反応を開始できる方法のいずれも採用でき、例えば、カーボン等の抵抗体を金属アルミニウム粉末に埋設し、上記抵抗体を加熱する態様、公知の着火剤を金属アルミニウム粉末に埋め込み、着火剤に点火する態様、電子ビーム、レーザーを金属アルミニウム粉末に照射する態様等を挙げることができる。
【0035】
反応容器付近には、反応温度が過度に上昇することを防止するために冷却手段を設けることも可能である。冷却手段は空冷又は水冷のいずれであっても良い。
本発明を工業的に実施するためには、反応容器として前記混合粉末を底面積が0.3m2以上の面積を有する容器、具体的には、カーボンの如き耐熱性素材の平箱を用いる態様が好ましい。また、上記平箱は、窒素の供給空間を確保して層状に重ねることが好ましい。そして、上記平箱内に前記混合粉末を充填し、着火して金属アルミニウム粉末を燃焼反応させる。
【0036】
また、上記平箱内に充填する混合粉末は厚さ10~80mmの粉体層とすることが好ましい。かかる混合粉末の厚さがこの範囲にあると、発熱量が放熱量に比べて十分に高いので、燃焼温度が低下して窒化率が低下することがない。また、粉体層表面からの窒素供給が粉体層最下部まで十分に到達するため、最下部での窒化率を高くできる。
【0037】
本発明の方法を工業的に実施する場合、前記反応容器としては、底面積が0.3m2以上、好ましくは、0.5~3m2のものを使用することが好ましい。このような大面積の反応容器を使用する場合、容器の周壁、特に底面からの熱の損失を防止し、前記混合粉末における反応熱の伝播を効率的に行えるように、底面に断熱層を形成することが好ましい。
【0038】
上記断熱層を構成する材質は、反応に関与しなければいずれの材質を採用することが可能であり、具体的には、窒化アルミニウム、窒化ホウ素などが挙げられ、特に窒化アルミニウムが好ましい。
【0039】
断熱層の態様としては、粉状で敷粉層として存在させる態様、板状に成形して底面部に設ける態様などが挙げられる。尚、板状に成形したものとしては、緻密な板状体に限らず、多孔板、穿孔板も使用することができる。尚、粉状で断熱層を形成する場合、本発明の方法により得られる窒化アルミニウム粉末を使用すれば、製品中に混入しても不純物とならず好ましい。また、板状に成形したものは、反応容器の側面にも存在させることができる。更に、窒化アルミニウム粉末を使用する場合は、反応容器に充填した混合粉末の表層に存在させて断熱層を形成することも好ましい態様である。
【0040】
上記断熱層の厚みとしては、5~10mm程度が適当である。
本発明により得られる窒化アルミニウムは、ブロック状の塊として回収されるが、凝集が弱いために、解砕により容易に窒化アルミニウム粉末を得ることができる。
【0041】
上記解砕方法としては特に制限されないが、ボールミルや振動ミル、アトライターミルなどのメディアを使用する解砕手段も採用できるが、凝集が強くないのでメディアを使用しない解砕手段を採用することが好ましい。具体的には、ジェットミル、マスコロイダー、ボールを使用しない振動ミルなどの粉砕装置を使用する方法が挙げられる。
【0042】
上記解砕の程度は特に制限されないが、反応によって得られた窒化アルミニウム塊を平均粒子径が、これを構成する窒化アルミニウム粒子の平均一次粒子径を超え、20μm以下の大きさ、好ましくは平均粒子径4~20μm、さらに好ましくは、5~15μmの大きさとなるように行うことが好ましい。即ち、かかる大きさに解砕することにより、粉立ちが無く、取り扱い性に優れた窒化アルミニウム粉末となる。
【0043】
そして、このようにして得られた窒化アルミニウム粉末は、後述するように、一次粒子径が3μm以下の窒化アルミニウム粉末であるため、焼結用原料として好適に使用することができる。
【0044】
また、上記一次粒子径を有する上記窒化アルミニウム粉末は、その一部を本発明の製造方法における希釈剤として問題無く使用することができる。
本発明の製造方法によれば、燃焼合成反応を利用するため外部からの加熱(強制加熱)が不要となり、しかも、所定の希釈剤を使用することで、凝集が弱く、簡単な解砕処理で高品質の窒化アルミニウムが製造でき、これらの効果により、従来の製法に比べて大幅な低コスト化及び高効率化を図ることができる。
【0045】
このように、本発明の窒化アルミニウムの製造方法は、工業的規模での生産に適しており、低価格で窒化アルミニウムを提供することが可能となる。
[窒化アルミニウム粉末]
本発明の前記方法によって得られる窒化アルミニウム粉末は、平均一次粒子径が3μm以下と小さく、また、弱い凝集体として得られる窒化アルミニウム塊を適度に解砕して得られるものであるため、従来の還元窒化法によって得られる窒化アルミニウム粉末と同等の平均一次粒子径を維持しながら、適度な凝集状態を維持した凝集粒子として得られる。
【0046】
従って、上記窒化アルミニウム粉末は、一次粒子径に由来する高い焼結性を有しながら、適度な強度で凝集した凝集粒子として扱うことができ、粉立ちが少なく、作業環境的にも有利なものである。
【0047】
即ち、本発明によれば、平均一次粒子径が3μm以下の窒化アルミニウム一次粒子の凝集粒子を含み、上記凝集粒子は、平均粒子径が、上記平均一次粒子径を超え、20μm以下、好ましくは、4~20μm、さらに好ましくは5~15μmの大きさであり、圧壊強度が300MPa以下であることを特徴とする窒化アルミニウム粉末が提供される。
【0048】
本発明の窒化アルミニウム粉末は、カーボン濃度が300質量ppm以下、好ましくは、200質量ppm以下であることが好ましい。
また、本発明の窒化アルミニウム粉末は、酸素含有量が1.3質量%以下、好ましくは1.0質量%以下である。 本発明において、前記平均一次粒子径は走査型電子顕微鏡で、そして、凝集粒子の平均粒子径は、粒度分布計(マイクロトラックベル社製 MT3000IIEX)で測定される。
【0049】
本発明のような窒化アルミニウム一次粒子の凝集粒子は焼結体用途に供給することで、取り扱い易く、溶媒への分散性も良好な窒化アルミニウム粉末となる。またこの窒化アルミニウム粉末は、凝集粒子が弱い凝集をしており、圧壊強度の弱さに起因して、粒子の崩壊による新面の生成が少なく、溶媒に分散させてのち粉末の酸素濃度が低いので、焼結体の熱伝導率が高い。
【0050】
このような窒化アルミニウム粉末は、たとえば、前記の製造方法で製造することが可能である。
燃焼合成反応で製造されているので、もともと粉末中のカーボン濃度は低く、また、スタートアップ時の希釈剤として還元窒化法による窒化アルミニウム粉末を使用したとしても、生成窒化アルミニウムを希釈剤として循環使用するに連れてカーボン濃度は順次低下する。そして、このように低カーボンの本発明の窒化アルミニウム粉末は、極めて白色度が高いものとなる。
【0051】
またこのような、本発明の窒化アルミニウム粉末は、前記平均粒子径を有する凝集体として出荷できるので、樹脂や溶媒と混合作業をする際に、粉の飛散もないためハンドリング性が高く、また、圧壊強度が低いために、解れやすく、分散が容易である。
【0052】
このため、本発明の窒化アルミニウム粉末を、ドラム缶やPET缶、コンテナバック、紙袋などの樹脂製包装袋に充填して移送することも可能である、本発明では、このような包装体も提供することができる。
【実施例
【0053】
以下、実施例を示し、本発明の特徴を具体的に説明するが本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
[実施例1]
平均粒子径8μm、酸素含有量0.05質量%、酸素を除く不純物量0.1質量%の金属アルミニウム粉末と平均一次粒子径1μm、酸素含有量0.8質量%、酸素を除く不純物量0.1質量%の還元窒化法で製造した窒化アルミニウム粉末を、金属アルミニウム粉末100質量部に対して350質量部の割合で混合して混合粉末を調製し、平型の底面積が、0.4m2のカーボン製反応容器に均一な層となるように充填し、圧力容器内に装填した。圧力容器内に窒素を導入して6気圧の圧力とし、リボンヒーターに700Wの電力を約5秒間通電して着火を行い、窒化反応を開始させた。反応終了後、得られた窒化アルミニウム塊を、ボールを使用しない振動ミルにより解砕し、D50は8.2μm、平均一次粒子径は1μmであり、圧壊強度は250MPaの窒化アルミニウム粉末を得た。また、得られた窒化アルミニウム粉末の酸素濃度は、0.7質量%であった。
【0054】
上記方法により得られた窒化アルミニウム粉末を希釈剤として使用し、前記と同様にして燃焼合成反応を5回繰り返し、同様に解砕して窒化アルミニウム粉末を得た。その結果、平均粒子径、平均一次粒子径、圧壊強度、酸素濃度は、ほぼ同等のものが得られた。また、生成した窒化アルミニウム粉末を希釈剤として5回循環使用して得られた窒化アルミニウム粉末において、カーボン濃度は180ppmまで低下していた。
【0055】
上記窒化アルミニウム粉末100質量部に対し、酸化イットリウム粉末を5質量部、バインダー10質量部添加し、溶媒を加えて混合し、得られたスラリーをシート成形した。
シート成形体を、所定の大きさに切り出し、1800℃で焼結を行い、焼結体を作製した。得られた焼結体について、密度および熱伝導率を測定すると、3.321g/cm3、181W/mkであった。
【0056】
[実施例2]
実施例1において、窒化反応後の解砕を、振動ミルの代わりに、ジェットミルを用いて行ったこと以外は同様にして解砕し、窒化アルミニウム粉末を得た。また、得られた窒化アルミニウム粉末を実施例1と同様な方法によりシート成形したのち焼結体を作製し、評価した。得られた粉末は、D50が6.4μm、平均一次粒子径は1μmであり、酸素濃度は、0.8質量%、圧壊強度は240MPaの窒化アルミニウム粉末を得た。さらに焼結体について、密度および熱伝導率を測定すると、3.34g/cm3、180W/mkであった。
【0057】
[実施例3]
実施例2において、窒化反応後のジェットミルを用いた解砕エネルギーを小さくした以外は同様にして解砕し、窒化アルミニウム粉末を得た。得られた窒化アルミニウム粉末を実施例1と同様な方法によりシート成型したのち焼結体を作製し、評価した。得られた粉末は、D50が10.4μm、平均一次粒子径は1μmであり、酸素濃度は、0.8質量%、圧壊強度は240MPaの窒化アルミニウム粉末を得た。さらに焼結体について、密度および熱伝導率を測定すると、3.34g/cm3、179W/mkであった。
【0058】
[比較例1]
実施例1において、希釈用の窒化アルミニウム粉末を、金属アルミニウム粉末100質量部に対して100質量部の割合で混合して混合粉末を調製したこと以外は、同様にして窒化アルミニウム粉末を得た。得られた窒化アルミニウム粉末を実施例1と同様な方法によりシート成型したのち焼結体を作製し、評価した。得られた粉末は、D50が26μm、平均一次粒子径は5μmであり、酸素濃度は、0.6質量%、圧壊強度は340MPaの窒化アルミニウム粉末を得た。さらに焼結体について、密度および熱伝導率を測定すると、2.79g/cm3、95W/mkであった。
【0059】
上記得られた窒化アルミニウム粉末を希釈剤として使用して、同様に窒化反応を試みたが、着火剤から炎が伝播せず、反応が進まなかった。
[比較例2]
実施例1において、希釈用の窒化アルミニウム粉末として平均粒子径15μmの粉末を用いて、金属アルミニウム粉末100質量部に対して300質量部の割合で混合して混合粉末を調製したこと以外は同様にして窒化反応を行ったが、着火剤から炎が伝播せず、反応が進まなかった。