(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-17
(45)【発行日】2025-02-26
(54)【発明の名称】ブランキングアパーチャアレイシステム、荷電粒子ビーム描画装置、及びブランキングアパーチャアレイシステムの検査方法
(51)【国際特許分類】
H01L 21/027 20060101AFI20250218BHJP
H01J 37/147 20060101ALI20250218BHJP
H01J 37/305 20060101ALI20250218BHJP
G03F 7/20 20060101ALI20250218BHJP
【FI】
H01L21/30 541B
H01L21/30 541W
H01J37/147 C
H01J37/305 B
G03F7/20 504
(21)【出願番号】P 2024520385
(86)(22)【出願日】2023-04-27
(86)【国際出願番号】 JP2023016573
(87)【国際公開番号】W WO2023218977
(87)【国際公開日】2023-11-16
【審査請求日】2024-05-02
(31)【優先権主張番号】P 2022079620
(32)【優先日】2022-05-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】504162958
【氏名又は名称】株式会社ニューフレアテクノロジー
(74)【代理人】
【識別番号】110003708
【氏名又は名称】弁理士法人鈴榮特許綜合事務所
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 啓
(72)【発明者】
【氏名】木村 隼人
【審査官】大門 清
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-56668(JP,A)
【文献】特開平11-219679(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0193341(US,A1)
【文献】特開2018-78250(JP,A)
【文献】特開2018-41920(JP,A)
【文献】特開平9-115796(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/027
H01J 37/147
H01J 37/305
G03F 7/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
マルチ荷電粒子ビーム照射装置に用いられるブランキングアパーチャアレイシステムにおいて、
直列に接続された複数のフリップフロップを含み、ビーム照射に使用される制御データを転送するシフトレジスタと、
前記複数のフリップフロップの各々と接続されるとともに基板上に形成された第1電極、及び前記第1電極とビームを通過させる複数のアパーチャの1つを挟むとともにグランドに接続された第2電極と、
を有するブランキングアパーチャアレイ基板と、
ビーム照射動作の間、ビーム照射動作時に使用する電圧である第1電圧にて前記フリップフロップが保持する値が1となる前記制御データを前記シフトレジスタに供給し、
前記ビーム照射動作の間以外に、前記第1電圧より低い第2電圧にて前記フリップフロップが保持する値が1となる前記制御データを前記シフトレジスタに供給し、前記シフトレジスタに供給された前記制御データが前記シフトレジスタの中を転送されて前記シフトレジスタのうちの1つのフリップフロップから出力された制御データと一致しているかの判断、又は前記シフトレジスタに供給された前記制御データに従って前記シフトレジスタのうちの第1フリップフロップと接続された前記第1電極によってブランキングされる場合のブランキングの状態が前記シフトレジスタに供給された前記制御データに従って前記第1フリップフロップと接続された前記第1電極によって行われたブランキングの状態と一致しているかの判断によって前記複数のフリップフロップが正常に動作しているか判断する
制御装置と、
を備えるブランキングアパーチャアレイシステム。
【請求項2】
前記第2電圧は、前記複数のフリップフロップのうちの1つに含まれるトランジスタがオンになる下限の値であり、
前記制御装置は、前記第2電圧の前記フリップフロップが保持する値が1となる前記制御データを前記シフトレジスタに供給することによって前記複数のフリップフロップの1つである第1フリップフロップが正常に動作しない場合に、
前記第1電圧と前記第2電圧の間の複数の相違する電圧の前記フリップフロップが保持する値が1となる前記制御データを前記シフトレジスタに順に供給し、
前記複数の相違する電圧のうちの前記第1フリップフロップが正常に動作するとともに前記第2電圧に最も近い第3電圧を割り出し、
前記第1フリップフロップの累積使用時間と閾値電圧の関係を用いて、前記第1電圧の前記フリップフロップが保持する値が1となる前記制御データを前記シフトレジスタに供給することで前記第1フリップフロップが正常に動作しなくなるまでの第1の時間を見積り、
前記第1の時間と基準時間とを比較する、
請求項1に記載のブランキングアパーチャアレイシステム。
【請求項3】
前記第1の時間が前記基準時間を超える場合、前記第1電圧よりも高い電圧の前記フリップフロップが保持する値が1となる前記制御データを前記シフトレジスタに供給する
請求項2に記載のブランキングアパーチャアレイシステム。
【請求項4】
マルチ荷電粒子ビーム照射装置に用いられるブランキングアパーチャアレイシステムにおいて、
直列に接続された複数のフリップフロップを含み、クロックを受け取り、ビーム照射に使用される制御データを前記クロックに基づくタイミングで転送するシフトレジスタと、
前記複数のフリップフロップの各々と接続されるとともに基板上に形成された第1電極、及び前記第1電極と複数のアパーチャの1つを挟むとともにグランドに接続された第2電極と、
を有するブランキングアパーチャアレイ基板と、
ビーム照射動作の間、第1周期を有する前記クロックを前記シフトレジスタに供給し、
前記ビーム照射動作の間以外に、前記第1周期より短い第2周期を有する前記クロックを前記シフトレジスタに供給し、前記シフトレジスタに供給された前記制御データと前記シフトレジスタに供給された前記制御データが前記シフトレジスタの中で転送されて前記シフトレジスタのうちの1つのフリップフロップから出力された制御データとが一致しているかの判断、又は前記シフトレジスタに供給された前記制御データに従って前記シフトレジスタのうちの第1フリップフロップと接続された前記第1電極によってブランキングされた場合のブランキングの状態が前記シフトレジスタに供給された前記制御データに従って前記第1フリップフロップと接続された前記第1電極によって行われたブランキングの状態と一致しているかの判断によって前記複数のフリップフロップが正常に動作しているか判断する、
制御装置と、
を備えるブランキングアパーチャアレイシステム。
【請求項5】
前記第2周期は、前記シフトレジスタが正常に動作する下限の値であり、
前記制御装置は、前記第2周期を有する前記クロックを前記シフトレジスタに供給することによって前記複数のフリップフロップの1つである第1フリップフロップが正常に動作しない場合に、
前記第1周期と前記第2周期の間の複数の相違する周期を有する前記クロックを前記シフトレジスタに順に供給し、
前記複数の相違する周期のうちの前記第1フリップフロップが正常に動作するとともに前記第2周期に最も近い第3周期を割り出し、
前記第1フリップフロップの累積使用時間と前記クロックの周期の関係を用いて、前記第1周期を有する前記クロックを前記シフトレジスタに供給することで前記第1フリップフロップが正常に動作しなくなるまでの第1の時間を見積り、
前記第1の時間と基準時間とを比較する、
請求項4に記載のブランキングアパーチャアレイシステム。
【請求項6】
前記第1の時間が前記基準時間を超える場合、前記第1周期よりも長い周期を有する前記クロックを前記シフトレジスタに供給する、
請求項5に記載のブランキングアパーチャアレイシステム。
【請求項7】
移動可能なステージと、
前記ステージの上方のビーム源と、
前記ビーム源と前記ステージとの間に位置する、請求項1乃至請求項6のいずれか1項のブランキングアパーチャアレイシステムと、
を備える荷電粒子ビーム描画装置。
【請求項8】
マルチ荷電粒子ビーム照射装置に用いられるブランキングアパーチャアレイシステムの検査方法において、
前記ブランキングアパーチャアレイシステムは、
直列に接続された複数のフリップフロップを含み、ビーム照射に使用される制御データを転送するシフトレジスタと、
前記複数のフリップフロップの各々と接続されるとともに基板上に形成された第1電極、及び前記第1電極と複数のアパーチャの1つを挟むとともにグランドに接続された第2電極と、
を有するブランキングアパーチャアレイシステムを備え、
前記検査方法は、
ビーム照射動作の間、第1電圧の前記フリップフロップが保持する値が1となる前記制御データを前記シフトレジスタに供給し、
前記ビーム照射動作の間以外に、前記第1電圧より低い第2電圧の前記フリップフロップが保持する値が1となる前記制御データを前記シフトレジスタに供給し、前記シフトレジスタに供給された前記制御データと前記シフトレジスタのうちの1つのフリップフロップから受け取った前記制御データが一致しているかの判断又は前記シフトレジスタのうちの1つのフリップフロップと接続された前記第1電極によるブランキングの状態が前記シフトレジスタに供給された前記制御データによって示されるブランキングの状態と一致しているかの判断によって前記複数のフリップフロップが正常に動作しているか判断する、
ことを備えるブランキングアパーチャアレイシステムの検査方法。
【請求項9】
マルチ荷電粒子ビーム照射装置に用いられるブランキングアパーチャアレイシステムの検査方法において、
前記ブランキングアパーチャアレイシステムは、
直列に接続された複数のフリップフロップを含み、クロックを受け取り、ビーム照射に使用される制御データを前記クロックに基づくタイミングで転送するシフトレジスタと、
前記複数のフリップフロップの各々と接続されるとともに基板上に形成された第1電極、及び前記第1電極と複数のアパーチャの1つを挟むとともにグランドに接続された第2電極と、
を有するブランキングアパーチャアレイシステムを備え、
前記検査方法は、
ビーム照射動作の間、第1周期を有する前記クロックを前記シフトレジスタに供給し、
前記ビーム照射動作の間以外に、前記第1周期より短い第2周期を有する前記クロックを前記シフトレジスタに供給し、前記シフトレジスタに供給された前記制御データと前記シフトレジスタのうちの1つのフリップフロップから受け取った前記制御データが一致しているかの判断又は前記シフトレジスタのうちの1つのフリップフロップと接続された前記第1電極によるブランキングの状態が前記シフトレジスタに供給された前記制御データによって示されるブランキングの状態と一致しているかの判断によって前記複数のフリップフロップが正常に動作しているか判断する、
ことを備えるブランキングアパーチャアレイシステムの検査方法。
【請求項10】
前記第2電圧は、前記複数のフリップフロップのうちの1つに含まれるトランジスタがオンになる下限の値であり、
前記第2電圧の前記フリップフロップが保持する値が1となる前記制御データを前記シフトレジスタに供給することによって前記複数のフリップフロップの1つである第1フリップフロップが正常に動作しない場合に、
前記第1電圧と前記第2電圧の間の複数の相違する電圧の前記フリップフロップが保持する値が1となる前記制御データを前記シフトレジスタに順に供給し、
前記複数の相違する電圧のうちの前記第1フリップフロップが正常に動作するとともに前記第2電圧に最も近い第3電圧を割り出し、
前記第1フリップフロップの累積使用時間と閾値電圧の関係を用いて、前記第1電圧の前記フリップフロップが保持する値が1となる前記制御データを前記シフトレジスタに供給することで前記第1フリップフロップが正常に動作しなくなるまでの第1の時間を見積り、
前記第1の時間と第1閾値とを比較し、
前記第1の時間が前記第1閾値以下でない場合、前記ビーム照射動作の間、前記第1電圧の前記フリップフロップが保持する値が1となる前記制御データを前記シフトレジスタに供給し、
前記第1の時間と前記第1閾値より小さい第2閾値とを比較し、
前記第1の時間が前記第2閾値以下でない場合、前記ビーム照射動作の間、前記第1電圧より高い第4電圧の前記フリップフロップが保持する値が1となる前記制御データを前記シフトレジスタに供給し、
前記第1の時間が前記第2閾値以下である場合、前記第1の時間に基づいて、前記ブランキングアパーチャアレイシステムが交換されるべき時期を計画し、
前記時期に基づいて、新たなブランキングアパーチャアレイシステムの生産のスケジュールを立てる、
ことをさらに備える、
請求項8に記載のブランキングアパーチャアレイシステムの検査方法。
【請求項11】
前記第2周期は、前記シフトレジスタが正常に動作する下限の値であり、
前記第2周期を有する前記クロックを前記シフトレジスタに供給することによって前記複数のフリップフロップの1つである第1フリップフロップが正常に動作しない場合に、
前記第1周期と前記第2周期の間の複数の相違する周期を有する前記クロックを前記シフトレジスタに順に供給し、
前記複数の相違する周期のうちの前記第1フリップフロップが正常に動作するとともに前記第2周期に最も近い第3周期を割り出し、
前記第1フリップフロップの累積使用時間と前記クロックの周期の関係を用いて、前記第1周期を有する前記クロックを前記シフトレジスタに供給することで前記第1フリップフロップが正常に動作しなくなるまでの第1の時間を見積り、
前記第1の時間と第1閾値とを比較する第1の比較をし、第1の比較の結果前記第1の時間が前記第1閾値以下でない場合、前記ビーム照射動作の間、前記第1周期を有する前記クロックを前記シフトレジスタに供給し、第1の比較の結果前記第1の時間が前記第1閾値以下である場合、前記第1の時間と前記第1閾値より小さい第2閾値とを比較する第2の比較をし、
前記第2の比較の結果、前記第1の時間が前記第2閾値以下でない場合、前記第1の時間に基づいて、前記ブランキングアパーチャアレイシステムが交換されるべき時期を計画し、この時期に基づいて、新たなブランキングアパーチャアレイシステムの生産のスケジュールを立て、前記第1の時間が前記第2閾値以下である場合、前記ビーム照射動作の間、前記第1周期より長い第4周期を有する前記クロックを前記シフトレジスタに供給する、
ことをさらに備える、
請求項9に記載のブランキングアパーチャアレイシステムの検査方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
実施形態は、概してブランキングアパーチャアレイシステム、荷電粒子ビーム描画装置、及びブランキングアパーチャアレイシステムの検査方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体装置の製造にマスクが使用される。微細な素子を形成するために、マスクのパターンも微細であることが要求される。微細なパターンを有するマスクを形成するために、マスクの材料に対して、電子ビームを使用してパターンが描画される。マスクを効率的に形成するために、複数の電子ビームを使用する描画方式(マルチビーム描画方式)が使用され得る。
【0003】
マルチビーム描画方式では、電子ビームが、複数のアパーチャを有するマスク(成形アパーチャアレイプレート)を通過させられて、マルチビームが形成される。マルチビームは、複数のアパーチャを有するブランキングアパーチャアレイ機構に向かう。各ビームは、ブランキングアパーチャアレイ機構によって、個別に偏向され、偏向されたビームは遮蔽物にあたることにより、マスクに到達しない。
【0004】
ブランキングアパーチャアレイ機構は、各アパーチャの周囲に、当該アパーチャを通過するビームを変更させるための機構を含む。機構は電極、電極に電圧を印加するための電子回路の素子を含む。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
描画のための電子ビームの照射により、ブランキングアパーチャアレイ機構中の電子回路の素子がダメージを受け得る。ダメージの蓄積により、素子の特性は劣化し得る。特性の劣化が、或る臨界点を超えると、電子回路の素子は故障し得、この場合、ブランキングアパーチャアレイ機構は正確に動作できなくなる。これを回避するために、描画の前にブランキングアパーチャアレイ機構が診断され得る。診断の時点で故障が発見された場合、描画の前に対処することが可能である。このような故障の診断は、あくまで診断の時点で故障と判断された素子を特定できるに過ぎない。このため、劣化が進んでいて、診断の時点では故障していなくても、次の描画の間に故障する素子は特定することができない。
【0007】
一方、描画は時間を要する。描画中は、描画装置の部品を交換することができない。このため、診断により正常と判断されたものの、近い将来に故障し得る素子が描画の最中に故障した場合、ブランキングアパーチャアレイ機構の交換、描画のやり直しが必要になり得る。このことは、マスクの生産計画を大きく狂わせ得る。
【0008】
このような現状に基づいて、事前の診断で故障していなくても、近い将来に故障し得る素子を特定できるブランキングアパーチャアレイシステム、荷電粒子ビーム装置、及ブランキングアパーチャアレイシステムの検査方法が望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0009】
一実施形態による、マルチ荷電粒子ビーム照射装置に用いられるブランキングアパーチャアレイシステムは、ブランキングアパーチャアレイ基板と、制御装置と、を含む。
【0010】
ブランキングアパーチャアレイ基板は、直列に接続された複数のフリップフロップを含み、ビーム照射に使用される制御データを転送するシフトレジスタと、上記複数のフリップフロップの各々と接続されるとともに基板上に形成された第1電極、及び上記第1電極とビームを通過させる複数のアパーチャの1つを挟むとともにグランドに接続された第2電極と、を有する。制御装置は、ビーム照射動作の間、ビーム照射動作時に使用する電圧である第1電圧にて上記フリップフロップが保持する値が1となる上記制御データを上記シフトレジスタに供給し、上記ビーム照射動作の間以外に、上記第1電圧より低い第2電圧にて上記フリップフロップが保持する値が1となる上記制御データを上記シフトレジスタに供給し、上記シフトレジスタに供給された上記制御データが上記シフトレジスタの中を転送されて上記シフトレジスタのうちの1つのフリップフロップから出力された制御データと一致しているかの判断、又は上記シフトレジスタに供給された上記制御データに従って上記シフトレジスタのうちの第1フリップフロップと接続された上記第1電極によってブランキングされる場合のブランキングの状態が上記シフトレジスタに供給された上記制御データに従って上記第1フリップフロップと接続された上記第1電極によって行われたブランキングの状態と一致しているかの判断によって上記複数のフリップフロップが正常に動作しているか判断する。
【発明の効果】
【0011】
描画前に故障が対処されることを可能にし、描画中に不測にブランキングアパーチャアレイ機構が故障することを抑制できるブランキングアパーチャアレイシステム、荷電粒子ビーム装置、及びブランキングアパーチャアレイシステムの検査方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、第1実施形態に係る描画装置の要素を示す。
【
図2】
図2は、第1実施形態の制御装置のハードウェアによる構成を示す。
【
図3】
図3は、第1実施形態の成形アパーチャアレイプレートの構造をxy面に沿って示す。
【
図4】
図4は、第1実施形態のブランキングアパーチャアレイ機構の構造をxz面に沿って示す。
【
図5】
図5は、第1実施形態のブランキングアパーチャアレイ機構の構造をxy面に沿って示す。
【
図6】
図6は、第1実施形態のブランキングアパーチャアレイ機構の回路及び関連する要素を示す。
【
図7】
図7は、第1実施形態のシフトレジスタの一部の要素及び接続、並びに関連する要素を示す。
【
図8】
図8は、第1実施形態のシフトレジスタ及び関連する要素を示す。
【
図9】
図9は、第1実施形態のD型フリップフロップの要素及び接続の例を示す。
【
図10】
図10は、第1実施形態のNANDゲートの要素及び接続の例を示す。
【
図11】
図11は、第1実施形態のインバータの要素及び接続の例を示す。
【
図12】
図12は、第1実施形態の制御装置の機能ブロックを示す。
【
図13】
図13は、第1実施形態の描画装置による動作のフローを示す。
【
図14】
図14は、第1実施形態のトランジスタTNの特性を示す。
【
図15】
図15は、第1実施形態のトランジスタTNの特性と印加電圧の例を示す。
【
図16】
図16は、第1実施形態のトランジスタTNの劣化と使用時間との関係を示す。
【
図17】
図17は、第1実施形態の変形例の描画及び検査方法のフローを示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に実施形態が図面を参照して記述される。以下の記述において、略同一の機能及び構成を有する構成要素は同一の参照符号を付され、繰返しの説明は省略される場合がある。略同一の機能及び構成を有する複数の構成要素が相互に区別されるために、参照符号の末尾にさらなる数字又は文字が付される場合がある。
【0014】
或る実施形態についての記述は全て、明示的に又は自明的に排除されない限り、別の実施形態の記述としても当てはまる。また、各機能ブロックは、ハードウェア、コンピュータソフトウェアのいずれか又は両者を組み合わせたものとして実現されることが可能である。各機能ブロックが、以下の例のように区別されていることは必須ではない。例えば、一部の機能が例示の機能ブロックとは別の機能ブロックによって実行されてもよい。さらに、例示の機能ブロックがさらに細かい機能サブブロックに分割されていてもよい。
【0015】
また、実施形態の方法のフローにおけるいずれのステップも、例示の順序に限定されず、そうでないと示されない限り、例示の順序とは異なる順序で及び(又は)別のステップと並行して起こることが可能である。
【0016】
本明細書及び特許請求の範囲において、ある第1要素が別の第2要素に「接続されている」とは、第1要素が直接的又は常時或いは選択的に導電性となる要素を介して第2要素に接続されていることを含む。
【0017】
以下、xyz直交座標系が用いられて、実施形態が記述される。
【0018】
1.第1実施形態
1.1.構造(構成)
図1は、第1実施形態に係る描画装置の要素(構成)を示す。描画装置1は、例として、マルチ荷電粒子ビーム描画装置である。いくつかの要素は、後に詳述される。
【0019】
描画装置1は、制御回路系2及び描画機構3を含む。描画機構3は、荷電粒子ビームを生成し、この生成した荷電粒子ビームを試料6に照射することにより、試料6にパターンを描画する。試料6の例は、レジストが塗布されたマスク、又は、レチクルを含む。制御回路系2は、描画機構3の動作を制御する。描画装置1は、ブランキングアパーチャアレイシステムを含み、すなわち、制御回路系2の少なくとも一部及び描画機構3の少なくとも一部は、ブランキングアパーチャアレイシステムを構成する。
【0020】
描画機構3は、真空チャンバ31を含む。真空チャンバ31の内部は、描画装置1による試料6への描画の間、例えば真空に保たれる。真空チャンバ31は、ライティングチャンバ31a及び鏡筒31bから構成されている。
【0021】
ライティングチャンバ31aは、例えば直方体の形状を有し、内部に空間を有する。ライティングチャンバ31aは、試料6を収容する。ライティングチャンバ31aは、上面において開口を有し、開口において鏡筒31bの内部空間と接続されている。
【0022】
描画装置1は、また、ライティングチャンバ31a内において、ステージ310を含む。ステージ310の上面上には、描画の間、試料6が配置される。ステージ310は、試料6を実質的に水平に保持した状態で、x軸及びy軸に沿って移動することができる。ステージ310の上面上には、ミラー312x及びミラー312yが設けられている。ミラー312xはy軸に沿って延び、ミラー312yはx軸に沿って延びる。ミラー312x及び312yは、ステージ310の位置の検出のための基準として使用される。
【0023】
鏡筒31bは、z軸に沿って延びる円筒の形状を有し、例えばステンレスからなる。鏡筒31bの下端は、ライティングチャンバ31aの内部に位置する。また、描画装置1は、鏡筒31b内において、電子銃320、照明レンズ330、縮小レンズ331、及び対物レンズ332、成形アパーチャアレイプレート340、制限アパーチャアレイプレート341、ブランキングアパーチャアレイ機構(ブランキングアパーチャアレイ基板)350、並びに偏向器360及び361を有する。
【0024】
電子銃320は、鏡筒31bの内部の上部に位置する。電子銃320は、例えば熱陰極型の電子銃である。電子銃320は、陰極、ウェネルト電極、及び陽極等の要素を含む。ウェネルト電極は陰極を包囲する。電子銃320は、電圧を受けると、z軸に沿った下方(-z方向)へ電子ビームEBを射出する。電子ビームEBは、z軸に沿って進行するに連れてxy面に沿って広がって行く。
【0025】
照明レンズ330は、環状の電磁レンズであり、電子銃320のz軸に沿った下方に位置する。照明レンズ330は、照明レンズ330に到達した、xy面に広がりを持つ電子ビームEBを、z軸に沿って平行に進行するように整形する。
【0026】
成形アパーチャアレイプレート340は、照明レンズ330のz軸に沿った下方に位置する。成形アパーチャアレイプレート340は、複数のアパーチャを有し、成形アパーチャアレイプレート340に入射する電子ビームEBの一部を、複数のアパーチャを通過させて、複数の電子ビームEBmへと分岐させる。
【0027】
ブランキングアパーチャアレイ機構350は、成形アパーチャアレイプレート340のz軸に沿った下方(-z方向)に位置する。ブランキングアパーチャアレイ機構350は、複数の電子ビームEBmを個別にブランキングする。ブランキングアパーチャアレイ機構350は、成形アパーチャアレイプレート340の開口のz軸に沿った下方(-z方向)にそれぞれが位置する複数のアパーチャ、および各アパーチャの周囲に設けられたブランカを有する。各ブランカによって、当該ブランカが設けられた対象のアパーチャに入射した電子ビームEBmがブランキングされる。
【0028】
縮小レンズ331は、環状の電磁レンズであり、ブランキングアパーチャアレイ機構350のz軸に沿った下方(-z方向)に位置する。縮小レンズ331は、ブランキングアパーチャアレイ機構350を通過した互いに平行な複数の電子ビームEBmを、制限アパーチャアレイプレート341のアパーチャの中心へと集束させる。
【0029】
制限アパーチャアレイプレート341は、xy面に沿って広がる板状の形状を有し、xy面の中央においてアパーチャを有する。アパーチャは、縮小レンズ331を通過した複数の電子ビームEBmの集束点(クロスオーバーポイント)の近傍に位置する。ブランキングアパーチャアレイ機構350に設けられたブランカによって偏向されたビームは、この制限アパーチャアレイプレート341の中央に設けられたアパーチャを通過することができず、制限アパーチャアレイプレート341に当たり、ブランキングされる。
【0030】
また、制限アパーチャアレイプレート341は、複数の電子ビームEBmにアパーチャを通過させることによって、電子ビームEBmのxy面に沿った形状を整形する。整形された複数の電子ビームEBmは、選択された形状のショットを形成する。
【0031】
偏向器360は、制限アパーチャアレイプレート341のz軸に沿った下方(-z方向)に位置する。偏向器360には、制限アパーチャアレイプレート341から放射されるショット形状の電子ビームEBmが入射する。偏向器360は、電極の複数の対を含む。
図1では、図が不要に煩雑になることを避けるために、1対の電極のみが示されている。各対を構成する2つの電極は対向している。各電極は電圧を受け、偏向器360は、複数の電極への電圧の印加に応じて、入射した電子ビームEBmをx軸に沿って及び(又は)y軸に沿って偏向する。
【0032】
対物レンズ332は、環状の電磁レンズであり、偏向器360を囲む。対物レンズ332は、偏向器360と協働し、電子ビームEBmを試料6の特定の位置へとフォーカスする。
【0033】
偏向器361は、偏向器360のz軸に沿った下方(-z方向)に位置する。偏向器361には、偏向器360を通過した電子ビームEBmが入射する。偏向器360は、電極の複数の対を含む。
図1では、図が不要に煩雑になることを避けるために、1対の電極のみが示されている。各対を構成する2つの電極は対向している。各電極は電圧を受け、偏向器360は、複数の電極への電圧の印加に応じて、入射した電子ビームEBmをx軸に沿って及び(又は)y軸に沿って偏向する。
【0034】
制御回路系2は、制御装置21、電源装置22、レンズ駆動装置23、BAA制御ユニット24、照射量制御ユニット25、偏向器アンプ27、及びステージ駆動装置28を含む。
【0035】
制御装置21は、電源装置22、レンズ駆動装置23、BAA制御ユニット24、照射量制御ユニット25、偏向器アンプ27、及びステージ駆動装置28を制御する。制御装置21は、例えば、描画装置1のユーザからの入力を受け取り、この受け取った入力に基づいて、電源装置22、レンズ駆動装置23、BAA制御ユニット24、照射量制御ユニット25、偏向器アンプ27、及びステージ駆動装置28を制御する。
【0036】
電源装置22は、制御装置21から制御データを受け取り、この受け取った制御データに基づいて、電子銃320に電圧を印加する。
【0037】
レンズ駆動装置23は、制御装置21から制御データを受け取り、この受け取った制御データに基づいて、照明レンズ330を制御する。具体的には、レンズ駆動装置23は、電子ビームEBに対する照明レンズ330の強度、すなわち、電子ビームEBを屈折させる強度を制御する。レンズ駆動装置23は、照明レンズ330の強度を、照明レンズ330のz軸の上方から照明レンズ330に入射した、進行とともにxy面に沿って広がる電子ビームEBをz軸に実質的に平行な電子線に整形するように制御する。
【0038】
レンズ駆動装置23は、また、制御装置21から制御データを受け取り、この受け取った制御データに基づいて、縮小レンズ331の強度を制御する。レンズ駆動装置23は、縮小レンズ331の強度を、ブランキングアパーチャアレイ機構350のブランカによるブランキング偏向されることなく縮小レンズ331のz軸の上方から、縮小レンズ331に入射した電子ビームEBmが制限アパーチャアレイプレート341のアパーチャの中心へと集束するように、制御する。
【0039】
レンズ駆動装置23は、さらに、制御装置21から制御データを受け取り、この受け取った制御データに基づいて、対物レンズ332の強度を制御する。レンズ駆動装置23は、対物レンズ332の強度を、対物レンズ332のz軸の上方から対物レンズ332に入射した電子ビームBMが試料6の上面にフォーカスするように、制御する。なお、レンズ駆動装置23は、電子ビームBMを縮小しても良い。
【0040】
BAA制御ユニット24は、制御装置21からBAA制御データを受け取り、この受け取った制御データに基づいて、ブランキングアパーチャアレイ機構350を制御する。
【0041】
照射量制御ユニット25は、制御装置21から制御データを受け取り、この受け取った制御データに基づいて、照射量制御データを生成する。照射量制御ユニット25は、生成した照射量制御データをBAA制御ユニット24に供給して、BAA制御ユニット24を介して電子ビームBMの試料6に対する照射量を制御する。
【0042】
偏向器アンプ27は、制御装置21から制御データを受け取り、この受け取った制御データに基づいて、偏向器360及び361のそれぞれを制御するための制御信号を生成する。この生成された制御信号は、それぞれ、偏向器360及び361に供給される。偏向器360のための信号は、偏向器360の各対の2つの電極の電位差を指定する。同様に、偏向器361のための信号は、偏向器361の各対の2つの電極の電位差を指定する。偏向器アンプ27は、偏向器360が、電子ビームEBmを制御装置21により指定される量及び(又は)向きだけ偏向させる電圧を受けるように、偏向器360のための信号を生成する。同様に、偏向器アンプ27は、偏向器361が、電子ビームEBmを制御装置21により指定される量及び(又は)向きだけ偏向させる電圧を受けるように、偏向器361のための信号を生成する。
【0043】
ステージ駆動装置28は、図示せぬレーザセンサ等の手段を用いて、ミラー312x及び312yの位置を測定し、この測定された位置に基づいてステージ310の位置を検出する。また、ステージ駆動装置28は、制御装置21から制御データを受け取り、この受け取った制御データに基づいて、ステージ310を駆動する。ステージ310の駆動により、試料6が、所望の位置へ移動する。
【0044】
図2は、第1実施形態の制御装置21の構成を示し、特に、ハードウェアによる構成を示す。
図2に示されるように、制御装置21は、プロセッサ211、ROM(read only memory)212、記憶装置213、入力装置214、出力装置215、インターフェイス216、及び通信装置217を含む。
【0045】
ROM212は、プロセッサを制御するためのプログラムを不揮発に記憶する。記憶装置213は、揮発性、不揮発性のメモリ、及び(又は)ハードディスクを含み、データを保持する。プロセッサ211は、例えば、CPU(central processing unit)であり、ROM212に記憶されていて、記憶装置213にロードされたプログラムを実行することにより、種々の動作を行う。プロセッサ211は、プログラムに従って、記憶装置213、入力装置214、出力装置215、インターフェイス216、及び通信装置217を制御する。プログラムは、制御装置21、特にプロセッサ211に、種々の機能ブロックによる動作として後述される動作を行わせることができるように構成されている。
【0046】
入力装置214は、キーボード、マウス、及びタッチパネルの1つ以上を含み、描画装置1のユーザが指示及び(又は)パラメータを入力することを可能にする。出力装置215は、ディスプレイを含み、描画装置1のユーザに種々の情報を提示する。インターフェイス216は、制御装置21による電源装置22、レンズ駆動装置23、BAA制御ユニット24、照射量制御ユニット25、偏向器アンプ27、及びステージ駆動装置28との通信を司る。
【0047】
通信装置217は、描画装置1の外部の装置と通信できるように構成されている。通信装置217は、例えば、描画装置1の外部の装置と無線及び(又は)有線で接続されており、描画装置1の外部の装置との間で、データを送受信することができる。
【0048】
図3は、第1実施形態の成形アパーチャアレイプレート340の構造をxy面に沿って概略的に示す。
図3に示されるように、成形アパーチャアレイプレート340は、xy面に沿って広がり、例えば、矩形の形状を有する。成形アパーチャアレイプレート340は、例えば、ベースとしてシリコンを有し、ベースの表面を薄膜により覆われている。薄膜は、例えば、クロムであり、めっき又はスパッタにより形成されることが可能である。成形アパーチャアレイプレート340は、複数のアパーチャ340aを有する。アパーチャ340aは、成形アパーチャアレイプレート340のz軸に沿って対向する2つの面、すなわち上面と底面を貫く。アパーチャ340aは、例えば、x軸とy軸に沿って行列状に配列されている。アパーチャ340aは、例えば正方形であり、互いに実質的に同じ形状を有する。
【0049】
電子銃320から射出した電子ビームEBは、照明レンズ330によってz軸に沿って平行になるように整形され、成形アパーチャアレイプレート340の上面に入射する。入射した電子ビームEBのうちの一部は、成形アパーチャアレイプレート340によって遮蔽され、残りはアパーチャ340aを通過する。このような電子ビームEBの選択的な遮蔽と通過により、電子ビームEBが、z軸に沿って下方へ進行する複数の電子ビームEBmに分割(マルチ化)される。
【0050】
図4は、第1実施形態のブランキングアパーチャアレイ機構350の構造をxz面に沿って示す。
図4に示されるように、ブランキングアパーチャアレイ機構350は、基部351を含む。基部351はxy面に沿って広がる。
【0051】
基部351の上面上に、基板352が設けられている。基板352は、例えば、シリコン等の半導体からなる。基板352は、底面の縁において基板352の上面上に位置しており、中央部352aにおいて縁よりも薄い。また、基板352は、中央部352aにおいて、複数のアパーチャ353を含む。各アパーチャ353は、基板352の上面と底面に亘る。アパーチャ353は、xy面において配列されている。各アパーチャ353は、成形アパーチャアレイプレート340のアパーチャ340aのz軸に沿った下方に位置し、xy面において、例えば、アパーチャ340aのxy面における形状と相似の形状を有し、アパーチャ340aのxy面における形状よりやや大きい。また、各アパーチャ353の中心は、xy面上において成形アパーチャアレイプレート340のアパーチャ340aの中心と実質的に一致する。アパーチャ353は、成形アパーチャアレイプレート340のアパーチャ340aを通過した電子ビームEBmを通過させる。
【0052】
ブランキングアパーチャアレイ機構350は、また、複数の電極対354を含む。各電極対354は、それぞれ1つのアパーチャ340aのために設けられており、電極355及び356を含み、ブランカとして機能する。電極355及び356は、例えば銅を含むか、銅からなる。各電極対354の電極355及び356は、互いに離れており、当該電極対354が設けられる対象の1つのアパーチャ353を挟む。
【0053】
基板352のうち、隣り合う電極対354の間(或る電極対354の電極355と隣接した電極対354の電極356との間)の部分に、レジスタ357が設けられている。各レジスタ357は、1つの電極対354のために設けられている。各レジスタ357は、種々の制御信号を受け取り、この受け取った制御信号を保持し、制御信号に基づいて、当該レジスタ357が設けられる対象の1つの電極対354に電圧を印加する。各レジスタ357は、基板352に形成された複数のトランジスタ及び抵抗などの素子を含む。
【0054】
基板352の中央部352aの端に、シリアル・パラレル変換回路(S/P変換回路)359が設けられている。各S/P変換回路359は、BAA制御ユニット24から制御データDLSをシリアルに受け取り、この受け取った制御データDLSを複数の部分に分割し、得られた複数の制御データDLをパラレルに出力する。S/P変換回路359は、基板352に形成された複数のトランジスタ及び抵抗などの素子を含む。
【0055】
図5は、第1実施形態のブランキングアパーチャアレイ機構350の構造をxy面に沿って示す。
図5に示されるように、各電極356は、矩形から一辺が除かれた形状を有する。電極356の3つの辺は、当該電極356によって囲まれるアパーチャ353の3つの辺に沿って延びる。
図5は、例として、各電極356が、アパーチャ353のx軸に平行な2つの辺と、y軸に平行な2つの辺のうちの左側の辺に沿う構造を示す。
【0056】
各電極355は、対応するアパーチャ353の辺のうちの、当該電極355と電極対354を構成する電極356が沿わない辺に沿って延びる。
図5は、各電極355が、y軸に平行な2つの辺のうちの右側の辺に沿う構造を示す。
【0057】
電極356は接地されている(グランドに接続されている)。各電極355は、当該電極355に対応する1つのレジスタ357と電気的に接続されている。
【0058】
各レジスタ357は、上記のように、種々の制御信号を受け取る。制御信号は、クロック信号及び制御データDLを含む。制御信号は、BAA制御ユニット24から供給される。レジスタ357は、また、内部電源電位VCC(例えば、5V)のノードと接続されている。
【0059】
各電極356は、共通(接地)電位VSS(例えば、0V)のノードと接続されている。
【0060】
図6は、第1実施形態のブランキングアパーチャアレイ機構350の回路図であり、さらに関連する要素を示す。
図6は、1つのS/P変換回路359と、関連する要素のみを代表として示す。
【0061】
図6に示されるように、S/P変換回路359は、BAA制御ユニット24と接続されており、BAA制御ユニット24から、制御データDLS及び高速クロック(高速クロック信号)を受け取る。BAA制御ユニット24からS/P変換回路359への制御データDLSの転送は、1ビットの幅の信号線を介して行われる。
【0062】
S/P変換回路359は、上記のように、受け取った制御データDLSを複数の部分に分割して、この分割された部分からなる複数の制御データDLを並列に出力するシリアル・パラレル変換回路である。
図6は、S/P変換回路359が、計4ビットの並列な制御データDLを出力する例を示す。S/P変換回路359は、例えば、制御データDLS中の連続する4ビットのうちの最初のビットを制御データDLaとして出力し、2番目のビットを制御データDLbとして出力し、3番目のビットを制御データDLcとして出力し、4番目のビットを制御データDLdとして出力する。こうして、連続する4ビットごとに、計4ビットの制御データDLa、DLbDLc、及びDLdが順に出力される。
【0063】
S/P変換回路359は、各レジスタ357に制御データDLを転送する。
【0064】
レジスタ357の1つは、入力において、S/P変換回路359から制御データDLaを受け取る。S/P変換回路359から制御データDLaを受け取るレジスタ357は、レジスタ357aと称される。レジスタ357aは、出力において、別のレジスタ357の入力と接続されている。同様にして、各レジスタ357aの出力は、別のレジスタ357aの入力と接続されている。レジスタ357aは、BAA制御ユニット24から低速クロック(低速クロック信号)SCLKを受け取る。低速クロックSCLKは、高速クロックの周期よりも長い周期を有する。低速クロックCLKと、制御データDLによって転送されるシリアルなデータの各々が持続する期間とは、同期している。制御データDLによって転送されるシリアルなデータの各々が持続する期間は、以下、データ周期と称される場合がある。レジスタ357aは、低速クロックの立上り又は立下り(以下、エッジと称される)をトリガとして、自身の入力で受け取っているデータを取り込む。また、レジスタ357aは、低速クロックSCLKのエッジをトリガとして、保持しているデータを出力する。したがって、低速クロックSCLKのエッジに同期して、S/P変換回路359により近いレジスタ357aに保持されているデータが、S/P変換回路359からより遠い隣のレジスタ357aへと転送される。このように、各レジスタ357aは、受け取ったデータを保持し、保持しているデータを、自身と直列に接続された別のレジスタ357aに出力する。すなわち、直列接続されたレジスタ357aの組は、シフトレジスタ3571aを構成する。
【0065】
各レジスタ357aは、当該レジスタ357aが制御する対象の1つの電極355と、レベルシフタ(図示せず)を介して接続されている。レジスタ357aとレベルシフタを介して接続された電極355は、電極355aと称される。各レジスタ357aは、保持しているデータに基づいて、当該レジスタ357aが接続された電極355aに、レベルシフタによって変換された大きさの電圧を供給する。各電極355aによって部分的に周囲を囲まれるアパーチャ353は、アパーチャ353aと称される。
【0066】
S/P変換回路359から制御データDLaを順に受け取るレジスタ357がレジスタ357aと称されるのと同様に、制御データDLb、DLc、及びDLdを受け取るレジスタ357は、それぞれ、レジスタ357b、357c、及び357dと称される。レジスタ357aからの電圧を受ける電極355が電極555aと称されるのと同様に、レジスタ357b、357c、及び357dからの電圧をそれぞれ受ける電極355は、それぞれ、電極355b、355c、及び355dと称される。さらに、各電極355aによって部分的に周囲を囲まれるアパーチャ353がアパーチャ353aと称されるのと同様に、電極354b、354c、及び354dによって部分的に周囲を囲まれるアパーチャ353は、それぞれ、アパーチャ353b、353c、及び353dと称される。
【0067】
制御データDLa、レジスタ357a、及び電極355aについての記述の表記「a」が「b」に置き換えられた記述が、制御データDLb、レジスタ357b、及び電極355bに当てはまる。同様に、制御データDLa、レジスタ357a、及び電極355aについての記述の表記「a」が「c」に置き換えられた記述が、制御データDLc、レジスタ357c、及び電極355cに当てはまる。同様に、制御データDLa、レジスタ357a、及び電極355aについての記述の表記「a」が「d」に置き換えた記述が、制御データDLd、レジスタ357d、及び電極355dに当てはまる。
【0068】
図7は、第1実施形態の1つのシフトレジスタ3571の要素及び接続を示す。
図7は、例として、制御データDLaを転送するシフトレジスタ3571aについて示す。
図7に示されるように、各レジスタ357aは、例えば、D型フリップフロップである。
【0069】
シフトレジスタは、n(nは自然数)個のD型フリップフロップ357aを含む。第1段のD型フリップフロップ357aはD入力においてS/P変換回路359から制御データDLaを受け取る。i(iはn以下の自然数)が1乃至nの全てのケースについて、第i段のフリップフロップはQ出力において第(i+1)段のフリップフロップ357のD入力と接続されている。各フリップフロップ357aは、Q出力において、1つの制御対象の電極355aと接続されている。各フリップフロップ357aは、クロック入力において、低速クロックSCLKを受け取る。
【0070】
図7は、制御データDLaを転送するシフトレジスタ3571aについて示すが、制御データDLb、DLc、及びDLdを転送するシフトレジスタについても同様である。すなわち、
図7を参照したなされた記述の表記「a」が「b」、「c」、及び「d」に置き換えられた記述が、それぞれ、制御データDLb、制御データDLc、及び制御データDLdを転送するシフトレジスタ3571b、3571c、及び3571dの記述として当てはまる。
【0071】
図8に示されるように、各フリップフロップ357は、自身が現在保持している制御データDLに基づく大きさの駆動電圧DVを、自身のQ出力と接続された電極355に印加する。すなわち、各フリップフロップ357aに保持されている制御データDLは、このフリップフロップ357aと接続された電極355aへの低電圧又は高電圧の駆動電圧DVの印加を指示する。低電圧は、例えば、共通電位VSS(例えば、0V)の大きさを有する。高電圧は、例えば、内部電源電位VCCの大きさを有する。制御データDLは、例えば、“0”データ又は“L”レベルによって、低電圧の駆動電圧DVの印加を指示する。制御データDLは、例えば、“1”データ又は“H”レベルによって、高電圧の駆動電圧DVの印加を指示する。
【0072】
フリップフロップ357中の制御データDLが低電圧の駆動電圧DVの印加を指示している場合、低電圧の駆動電圧DVがQ出力から出力される。この場合、電極355と電極356の間に電位差はなく、ひいては電界は生じない。よって、電子ビームEBmは、電極355及び356によって軌道を曲げられず(ブランキングされず)、実線で示されるように、電子ビームEBmは、電極355及び356の間の領域に進入した際の電子ビームEBmの進行方向と同じ方向に進む。
【0073】
一方、フリップフロップ357中の制御データDLが高電圧の駆動電圧DVの印加を指示している場合、高電圧の駆動電圧DVがQ出力から出力される。この場合、電極355と電極356の間に電位差が生じ、ひいては電界が生じる。よって、電子ビームEBmは、電極355及び356によって軌道を曲げられ(ブランキングされ)、破線で示されるように、電極355及び356の間の領域に進入した際の電子ビームEBmの進行方向と異なる方向に進む。
【0074】
このように、或るレジスタ357が正常であるとともに、このレジスタ357に保持されている制御データDLが高電圧の印加を指示している場合、このレジスタ357と接続された電極355への高電圧の印加によって、電子ビームEBmの軌道が曲げられる。一方、或るレジスタ357が正常でない場合、このレジスタ357に保持されている制御データDLが高電圧の印加を指示していても、このレジスタ357と接続された電極355に高電圧が印加されず、電子ビームEBmの軌道が曲がらない。レジスタ357は、後に詳述されるように複数のトランジスタTを含み、レジスタ357が正常でない状態は、レジスタ357に含まれるいずれかのトランジスタTが正常でない場合に相当する。レジスタ357に含まれるトランジスタTが正常でない場合は、トランジスタTの性能が劣化し、トランジスタTが当初(例えば、トランジスタTの製造直後)と同じ特性を示さないことを含む。
【0075】
図9は、第1実施形態のD型フリップフロップ357の要素及び接続の例を示す。各D型フリップフロップ357は、例として、
図9に示される要素及び接続を有することが可能である。
図9に示されるように、D型フリップフロップ357は、NANDゲートND1、ND2、ND3、ND4、ND5、ND6、ND7、及びND8、並びにインバータ(否定回路)IV1及びIV2を含む。
【0076】
インバータIV1の入力は、D型フリップフロップ357のクロック入力として機能する。インバータIV1の出力は、インバータIV2の入力と接続されている。
【0077】
NANDゲートND1の第1入力は、D型フリップフロップ357のD入力として機能する。NANDゲートND1の第2入力は、インバータIV1の出力と接続されている。NANDゲートND1の出力は、NANDゲートND2の第1入力と接続されている。NANDゲートND1の出力はまた、NANDゲートND3の第1入力と接続されている。NANDゲートND3の第2入力は、インバータIV1の出力と接続されている。NANDゲートND3の出力は、NANDゲートND4の第1入力と接続されている。NANDゲートND4の第2入力は、NANDゲートND2の出力と接続されている。NANDゲートND4の出力は、NANDゲートND2の第2入力と接続されている。
【0078】
NANDゲートND2の出力はまた、NANDゲートND5の第1入力と接続されている。NANDゲートND5の第2入力は、インバータIV2の出力と接続されている。NANDゲートND5の出力は、NANDゲートND6の第1入力と接続されている。NANDゲートND5の出力はまた、NANDゲートND7の第1入力と接続されている。NANDゲートND7の第2入力は、インバータIV2の出力と接続されている。NANDゲートND7の出力は、NANDゲートND8の第1入力と接続されている。NANDゲートND8の第2入力は、NANDゲートND6の出力と接続されている。NANDゲートND8の出力は、NANDゲートND6の第2入力と接続されている。
【0079】
NANDゲートND6の出力は、D型フリップフロップ357のQ出力として機能する。NANDゲートND8の出力は、D型フリップフロップ357の ̄Q出力として機能する。記号「 ̄」は、記号「 ̄」を伴わない名称の信号の反転の論理を示す。
【0080】
NANDゲートND1~ND8は、NANDゲートとして機能する限り、どのような要素及び接続を有していてもよい。以下に一例が記述される。
図10は、第1実施形態のNANDゲートND(ND1~ND8)の要素及び接続の例を示す。
【0081】
図10に示されるように、NANDゲートNDは、p型のMOSFET(metal oxide silicon field effect transistor)TP1及びTP2、並びにn型のMOSFET TN1及びTN2を含む。トランジスタTP1及びTP2は、内部電源電位VCCのノードとノードN1との間に並列に接続されている。ノードN1は、NANDゲートNDの出力Outとして機能する。トランジスタTN1及びTN2は、ノードN1と接地電位VSSのノードとの間に直列に接続されている。
【0082】
トランジスタTP1及びTN1のそれぞれのゲートは、互いに接続されており、NANDゲートNDの第1入力In1として機能する。トランジスタTP2及びTN2のそれぞれのゲートは、互いに接続されており、NANDゲートNDの第2入力In2として機能する。
【0083】
インバータIV1及びIV2は、インバータとして機能する限り、どのような要素及び接続を有していてもよい。以下に一例が記述される。
図11は、第1実施形態のインバータIV(IV1及びIV2)の要素及び接続の例を示す。
【0084】
図11に示されるように、インバータIVは、p型のMOSFET TP5及びn型のMOSFET TN5を含む。トランジスタTP5は、内部電源電位VCCのノードとノードN5との間に接続されている。ノードN5は、インバータIVの出力OUTとして機能する。トランジスタTN5は、ノードN5と接地電位VSSのノードとの間に接続されている。トランジスタTP5及びTN5のそれぞれのゲートは、互いに接続されており、インバータIVの入力INとして機能する。
【0085】
1.2.動作
図12は、第1実施形態の制御装置21の機能ブロックを示す。すなわち、制御装置21は、描画装置1の動作の間、
図12に示される機能ブロックを含むものとして動作する。各機能ブロックは、
図2を参照して記述されるように、プロセッサ211によってプログラムが実行されることによって実現されることが可能である。いくつかの機能ブロックがハードウェアによって実現されてもよい。
【0086】
図12に示されるように、制御装置21は、ラスタライズ部221、モジュレーション計算部222、高速データ転送部223、位置決め部224、及びBAA診断部225を含む。
【0087】
ラスタライズ部221は、例えば、描画装置1のユーザからの入力に基づいて、外部から、例えばベクトル形式の描画データを受け取り、描画データをラスタライズして、ビットマップ形式の描画データを生成する。
【0088】
モジュレーション計算部222は、ラスタライズ部221から描画データを受け取る。モジュレーション計算部222は、描画データに基づいて、描画のための各要素の制御のための制御データを生成する。生成される制御データは、BAA制御データ、及びビーム制御データを含む。BAA制御データは、ブランキングアパーチャアレイ機構350でのブランキング制御に使用され、高速データ転送部223に供給される。BAA制御データは、高電圧の駆動電圧DVを出力すべきレジスタ357を指定するとともに、駆動電圧DVの大きさを指定する。以下、BAA制御データによる指定により駆動電圧DVを出力すべきレジスタ357は、選択レジスタ357sと称される場合がある。ビーム制御データは、ビームの位置及び照射量の制御に使用され、位置決め部224に供給される。モジュレーション計算部222は、BAA制御データの生成に、後述のBAA診断部225から供給されるデータを加味する。
【0089】
高速データ転送部223は、BAA制御データを、インターフェイス216(図示せず)を介して、BAA制御ユニット24に供給する。位置決め部224は、ビーム制御データに基づいて、種々の制御データを生成する。生成された制御データは、インターフェイス216を介して、照射量制御ユニット25、偏向器アンプ27、ステージ駆動装置28に供給される。
【0090】
BAA診断部225は、プログラム及び描画装置1のユーザからの入力に基づいて、BAAの診断のための処理を実行し、この診断の結果を示すデータをモジュレーション計算部222に供給する。モジュレーション計算部222は、診断結果データを使用して、BAA制御データを生成する。次に、BAA診断部225による動作が記述される。
【0091】
図13は、第1実施形態の描画装置1による動作のフローを示す。より具体的には、
図13は、描画及び描画の準備のための動作のフローを示す。
図13のフローは、例えば、描画装置1のユーザによる操作により開始する。いくつかのステップは後に詳述される。
【0092】
ステップST1からのいくつかのステップにおいて、BAA診断部225は、近い将来に故障すると予想されるレジスタ357を特定する。具体的には、ステップST1において、BAA診断部225は、ブランキングアパーチャアレイ機構350の制御、特に制御データDLの送信に通常使用される条件よりも悪い条件を使用することをモジュレーション計算部222に指示する。通常使用される条件は、劣化していないブランキングアパーチャアレイ機構350に対して使用される条件であり、例えば、描画装置1の製造直後の状態のブランキングアパーチャアレイ機構350に対して使用される条件である。悪い値へと変更される条件は、例えば、制御データDLの“H”レベルの電圧の大きさ、及び低速クロックSCLKの周期(以下、低速クロック周期と称される場合がある)及びデータ周期の組の出力期間を含む。制御データDLの“H”レベルについてのより悪い条件は、大きさの、より小さな“H”レベル電圧で、各レジスタ(フリップフロップ)357が受け取ることによって“H”レベル(すなわち“1”データ)を保持するものの通常使用される条件での“H”レベル電圧より低い電圧である。低速クロック周期及びデータ周期の組についてのより悪い条件は、より短い低速クロック周期及びデータ周期出力期間である。
【0093】
BAA診断部225は、ステップST1で設定される条件でのブランキングアパーチャアレイ機構350の制御によって正常に動作しないレジスタ357の特定を試みる。すなわち、BAA診断部225は、レジスタ357が正常に動作しているか否かを判断(又は確認或いは検査)する。レジスタ357、特にレジスタ357中のトランジスタTは、劣化により性能が低下し得る。性能が劣化したレジスタ357は、或る時点で、通常の条件、すなわちレジスタ357が劣化していない場合に適用される条件での制御によって動作していても、近い将来に劣化が進んで、通常の条件で正常に動作しなくなる可能性がある。このようなレジスタ357については、BAA診断部225が意図的に通常の条件よりも悪い条件を使用し、この悪い条件での正常な動作の可否によって、検出することが可能である。BAA診断部225は、条件を悪くするほど、劣化が少ないレジスタ357も検出することが可能である。使用される悪い条件は、どの程度の劣化を検出の対象とするかに依存する。使用される悪い条件は、例えば、描画装置1のユーザによる、値の選択又は入力により決定されることが可能である。例えば、最も高い感度での検出を行うために、最悪の条件が使用されることが可能である。最悪の条件は、例えば、トランジスタTが、設計上及び(又は)仕様上、オンになる条件である。例えば、最悪の条件は、トランジスタTがオンになる、設計上及び(又は)仕様上の最低の閾値電圧である。及び(又は)、最悪の条件は、シフトレジスタ3571が正常にデータを取り込むとともに保持できる、設計上及び(又は)仕様上の最短の低速クロック周期及びデータ周期である。
【0094】
ステップST2において、BAA診断部225は、使用することを決定された条件で、ブランキングアパーチャアレイ機構350、特にレジスタ357の故障診断を行う。具体的には、BAA診断部225は、使用することを決定された条件での電子ビームの照射及びブランキングを、モジュレーション計算部222に指示する。モジュレーション計算部222は、受け取った指示に基づいて、指示された条件でレジスタ357を制御することを指示するBAA制御データを生成する。生成されたBAA制御データは、BAA制御ユニット24からブランキングアパーチャアレイ機構350に送信される。BAA診断部225は、BAA制御データに基づくブランキングアパーチャアレイ機構350の動作の間、電子ビームEBmの状態を検査する。すなわち、或るレジスタ357sが正常に動作しているかを、当該選択レジスタ357sと接続された電極355及び当該電極355と対を構成する電極356の間を通過する電子ビームEBmがブランキングされているかを観察することによって、間接的に判断する。ブランキングされている場合、検査対象の選択レジスタ357sが正常に動作していると判断され、よって選択レジスタ357sは故障していない(正常に動作している)と判断される。ブランキングされていない場合、検査対象の選択レジスタ357sが正常に動作していないと判断され、よって選択レジスタ357sは、故障している(正常に動作していない)と判断される。BAA診断部225は、例えば、全てのレジスタ357について診断する。BAA診断部225は、故障していると判断されたレジスタ357を特定する情報を、例えば、記憶装置213において保持する。
【0095】
ステップST3において、BAA診断部225は、ブランキングアパーチャアレイ機構350が正常であるかどうかを判断する。判断は、例えば、ステップST2で、全てのレジスタ357が故障していないと判断されることである。正常であるとの判断の場合(ステップST3のYes)、描画の準備は完了する。この場合、描画装置1は、例えば出力装置215を使用して、故障診断が完了したこと、及び故障が検出されなかったことをユーザに通知する。この通知を受けて、ユーザは描画を行う(ステップST10)。
【0096】
ステップST3においてブランキングアパーチャアレイ機構350が正常でないと判断される場合(ステップST3のNo)、処理は、ステップST4に移行する。ステップST4以降のいくつかのステップにおいて、BAA診断部225は、全てのレジスタ357のうち、ステップST2において故障していると判断された、いくつかの又は全てのレジスタ357に対して、さらなる診断を行う。以下、ステップST4で診断されるレジスタ357は、対象レジスタ357tと称される。
【0097】
具体的には、ステップST4において、BAA診断部225は、対象レジスタ357tに入力される制御データDL、すなわち、対象レジスタ357tを含んだシフトレジスタ3571に入力される制御データDLの“H”レベル電圧の大きさをループごとに変更しながら繰り返して、対象レジスタ357tが正常に動作するかを判断する。“H”レベル電圧は、例えば、ステップST2で使用された“H”レベル電圧から、ループ数の増加の度に或る大きさの増分で増加される。ループの繰返しの過程の或るループで、対象レジスタ357tは、正常に動作する。BAA診断部225は、その時の“H”レベル電圧の大きさを、当該対象レジスタ357tと関連付けて、記憶装置213において保持する。ループの繰返しの過程の或るループで初めて対象レジスタ357tが正常に動作した時の“H”レベル電圧は、ステップST1で設定される最悪の条件、例えば、トランジスタTがオンになる、設計上及び(又は)仕様上の最低の閾値電圧に、最も近い。
【0098】
“H”レベル電圧の大きさの変更に代えて、又は、これに加えて、BAA診断部225は、低速クロックSCLKの周期及び制御データDLのデータ周期をループごとに変更しながら、対象レジスタ357tが正常に動作するかを判断することができる。上記のように、低速クロックSCLKの周期と制御データDLのデータ周期は同期している。よって、以下、低速クロックSCLKの周期及び制御データDLのデータ周期は、単に、低速クロックSCLKの周期(又は低速クロック周期)と称される場合がある。「低速クロックSCLKの周期」と「制御データDLのデータ周期」は、以下の記述において、互いに置換可能である。低速クロック周期は、例えば、ステップST2で使用された低速クロック周期から、ループ数の増加の度に或る大きさの増分で長くされる。ループの繰返しの過程の或るループで、対象レジスタ357tは、正常に動作する。BAA診断部225は、その時の低速クロック周期を、当該対象レジスタ357tと関連付けて、記憶装置213において保持する。ループの繰返しの過程の或るループで初めて対象レジスタ357tが正常に動作した時の低速クロック周期は、ステップST1で設定される最悪の条件、例えば、低速クロック周期及びデータ周期の設計上及び(又は)仕様上の最短の周期に最も近い。
【0099】
BAA診断部225は、ここまで記述された、或る対象レジスタ357tについての診断を、全ての対象レジスタ357tに対して行うことができる。BAA診断部225は、全ての対象レジスタ357tについての診断を並行して、すなわち共通のループにおいて、行うことができる。ステップST4については、後にさらに記述される。
【0100】
ステップST5において、BAA診断部225は、全ての対象レジスタ357tの各々についての故障までに要すると予想される時間を、ステップST4で得られた情報に基づいて見積もる。すなわち、対象レジスタ357tを正常に動作させる“H”レベル電圧の大きさは、当該対象レジスタ357tの劣化の程度と相関している。また、劣化の程度は、当該対象レジスタ357tが、将来使用されることに伴う劣化の進行によって、現在から通常の条件で動作しなくなるまでの時間、すなわち、故障するまでの時間と相関している。この事実が利用されて、BAA診断部225は、対象レジスタ357tを正常に動作させる“H”レベル電圧の大きさを用いて、現在から故障するまでの時間を見積もる。
【0101】
ステップST4と同様に、“H”レベル電圧の大きさに基づく故障までの時間の見積もりに代えて、又は、これに加えて、BAA診断部225は、低速クロック周期に基づいて、対象レジスタ357tの故障までの時間を見積もることができる。すなわち、対象レジスタ357tを正常に動作させる低速クロック周期は、当該レジスタ357tの劣化の程度と相関している。また、劣化の程度は、当該レジスタ357tが、将来使用されることに伴う劣化の進行によって、現在から故障するまでの時間と相関している。この事実が利用されて、BAA診断部225は、対象レジスタ357tを正常に動作させる低速クロック周期を用いて、現在から故障するまでの時間を見積もる。
【0102】
ステップST5については、後にさらに記述される。
【0103】
ステップST6において、BAA診断部225は、全ての対象レジスタ357tのそれぞれについて見積もられた故障時間(以下、見積故障時間と称される場合がある)が、或る閾値(基準時間)以下であるかを判断する。描画の間は、描画装置1中の部品に故障が生じても、故障した部品は交換されることができず、一方で、1回の描画は時間を要する。このため、描画の最中に部品が故障しないことが求められる。全ての対象レジスタ357tの見積故障時間が1回の描画に要する時間より長ければ、次の描画の間に対象レジスタ357tが故障することは避けられる。このことに基づいて、閾値は、例えば、1回の描画に要する時間とすることが可能である。見積故障時間の予測が外れ、実際に描画した際に1回の描画に要する時間内に対象レジスタ357tに故障が発生してしまう可能性がある。これを考慮し、閾値は、少し見積故障時間に余裕を持たせ、1回の描画に要する時間よりも長い時間、例えば2回の描画に要する時間としても良い。又は、閾値は、描画の計画に基づいて定まる、ユーザが少なくともこの間には故障が発生することを避けたいと望む期間に設定されることが可能である。閾値は、例えば、予め、特に
図13のフローの開始前に、ユーザによって入力されることが可能である。
【0104】
全ての対象レジスタ357tの見積故障時間が閾値以下でない(閾値を超える)場合(ステップST6のNo)、処理はステップST10に移行する。
【0105】
いずれか1つの対象レジスタ357tの見積故障時間が閾値以下の場合(ステップST6のYes)、処理はステップST8に移行する。ステップST8において、BAA診断部225は、ブランキングアパーチャアレイ機構350の故障までに要すると見積もられる時間が閾値以下である旨を、例えば出力装置215を使用してユーザに通知する。通知は、例えば、見積故障時間が閾値を超えるレジスタ357を特定する情報を含むことが可能である。
【0106】
ステップST9において、ユーザは、見積故障時間が閾値以下であるレジスタ357を欠陥として、欠陥に対する補正を行う。この補正は、例えば制御データDLの“H”レベル電圧を大きくする、もしくは低速クロック周期(及び制御データDLのデータ周期)を長くする(周波数を下げる)ことを含む。これによりレジスタ357の動作を保障する。又は、ブランキングアパーチャアレイ機構350を交換することを含む。交換することによりレジスタ357の動作を保障する。又は、レジスタ357のみの交換が可能である場合、閾値以下である見積故障時間を有するレジスタ357を交換する。交換することによりレジスタ357の動作を保障する。
【0107】
ステップST9として、以下の補正も可能である。すなわち、故障が生じると故障したレジスタ357のQ出力は、制御データDLによらずに、故障に応じたレベルに固定される。よって、故障したレジスタ357のQ出力によってブランキングを制御されるビームに対するブランキングの有無は固定される。このため、このビームが常時ブランキングされる、又は常時ブランキングされないビームとして使用された上で、他の正常に動作しているレジスタ357によって制御されるビームによって、ブランキングの有無が固定されているビームによる動作が補正される。
【0108】
図13のステップST9における故障が起こり得ることに対する対策としては、故障したシフトレジスタ出力の偏向は固定化されるので、例えば従来から知られている常時オン/オフビームとして、他の正常なビームにより補正されるよう描画するようにしても良い。
【0109】
次に、
図14を参照して、ステップST1がさらに記述される。
図14は、第1実施形態のトランジスタTの特性の劣化の前後の特性の例を示す。
図14は、例として、レジスタ357のn型のMOSFET TN(例えば、トランジスタTN1、TN2、又はTN5)のゲート・ソース間電圧とドレイン電流との関係を示す。トランジスタTNは、
図14(a)に示されるように、ゲート・ソース間電圧Vgsの大きさに基づいて異なるドレイン電流Idを流す。
【0110】
図14(b)は、トランジスタTNの特性の劣化の前後の特性を示す。
図14(b)の左側の部分に示されるように、トランジスタTNの特性の劣化の前は、トランジスタTNの閾値電圧は或る大きさのVthである。このトランジスタTNに対して電圧VI(>Vth)がトランジスタTNのゲート・ソース間に印加されると、トランジスタTNはオンになる。電圧VIは、通常条件でトランジスタTNに印加される電圧であり、以下、標準電圧VIと称される。トランジスタTNの特性が劣化して、
図14(b)の右側において実線で示される特性を有するようになったとする。このトランジスタTNは、特性の劣化によって劣化前の閾値電圧Vthより高い閾値電圧Vthdを有し、閾値電圧Vthdは標準電圧VIより高い。このため、このように劣化したトランジスタTNは、標準電圧VIの印加によっても、オンにならない。
【0111】
一方、
図15に示されるように、トランジスタTNは、ある時点で、劣化により閾値電圧Vthd1を有する。閾値電圧Vthd1は、閾値電圧Vthより高いが、標準電圧VIより低い。このため、トランジスタTNは、標準電圧VIの印加によってオンになる。しかしながら、トランジスタTNは、次の描画の間に劣化が進んで、描画の間に標準電圧VIより高い閾値電圧(例えば、
図14(b)の右側の部分に記載のVthd)を有するに至り得る。この場合、トランジスタTNは、描画の途中から、標準電圧VIの印加によってもオンにならなくなる。これが起きることを避けるために、
図13のステップST1において記述されるように、トランジスタTNに、通常印加される標準電圧VIより低い電圧、例えば、電圧VIWを印加することにより、トランジスタTNが劣化していることが特定されることが可能である。
図15の右側の部分に示されるように、劣化前のトランジスタTN(破線の特性)は、或る時間TRに亘る標準電圧VIより低い電圧VIWの印加によってもオンになるが、他方、劣化により閾値電圧Vthd1を有するトランジスタTN(実線の特性)は、時間TRに亘る電圧VIWの印加によってオンにならない。よって、このような電圧の印加によって、トランジスタTNが劣化していることを特定することが可能である。
【0112】
この現象が利用されることにより、以下に記述されるように、劣化したトランジスタTNを含んだレジスタ357が特定されることが可能である。すなわち、標準の大きさの“H”レベル電圧を有する或る制御データDL(例えば、制御データDLa)を受け取る各レジスタ357は、このレジスタ357中のいずれのトランジスタTNも劣化していなければ、正常に動作する。すなわち、制御データDLに基づいて、レジスタ357と接続された電極355に“H”レベルに基づく駆動電圧VDを印加する。しかしながら、いずれかのトランジスタTNが劣化している場合、このトランジスタTNは、標準の大きさの “H”レベル電圧より低い“H”レベル電圧を受け取ってもオンにならない。よって、劣化しているトランジスタTNを含んだレジスタ357は、より低い“H”レベル電圧の制御データDLを受け取っても、正常に動作しない。この結果、この電極355と面するアパーチャ353を通過する電子ビームEBmはブランキングされない。このことに基づいて、制御データDLの“H”レベル電圧が標準の大きさより低くされることにより、劣化しているトランジスタTNを含んだレジスタ357が見つけられることが可能である。
【0113】
制御データDLの“H”レベル電圧が小さくされることにより、例えば、レジスタ357の初段のトランジスタTN(すなわち、NANDゲートND1及びND3のトランジスタTN1)が正常であっても、このトランジスタTNの出力は、標準の大きさの“H”レベル電圧の制御データDLが印加された場合の“H”レベルの出力より小さい。よって、2段目以降のトランジスタTN1のゲートにも、より小さい出力の“H”レベルの電圧が印加される。すなわち、制御データDLの“H”レベル電圧を小さくすることによって、レジスタ357の各ノードでの“H”レベル電圧は、制御データDLの標準の大きさの“H”レベル電圧が印加される場合よりも小さい。よって、或るレジスタ357中に1つでも標準の大きさの“H”レベル電圧の制御データDLの入力によってオンにならないトランジスタTNが存在する場合、レジスタ357は正常に動作しない。このため、結果として、制御データDLの“H”レベル電圧を小さくすることによって、或るレジスタ357中の全てのトランジスタTNが正常か、又は少なくとも1つのトランジスタTNが劣化しているかが判断されることが可能である。
【0114】
図14及び
図15を参照して、閾値電圧に基づいて、劣化したトランジスタTNを特定する方法が記述されたが、ゲート・ソース間電圧Vgsの印加時間についても同様の現象が起こる。すなわち、特性の劣化したトランジスタTNは、劣化前と同じ電圧印加時間TIに亘る標準電圧VIの印加によっても、オンにならなくなり得る。或るトランジスタTNは、現状では、オンになるためにゲート・ソース間電圧Vgsを印加されている時間(以下、必要電圧印加時間と称される場合がある)がTOであっても、次の描画の間に劣化が進んで、必要電圧印加時間TOd(>TI)を有するに至り得る。このことに基づいて、
図13のステップST1において記述されるように、低速クロック周期が短くされる。低速クロック周期は、レジスタ357からの電圧の出力の時間に影響する。よって、トランジスタTNに、通常の条件に含まれる電圧印加時間TIより短い時間、例えば、時間TOWに亘ってゲート・ソース間電圧Vgs、例えば、標準電圧VIを印加することにより、トランジスタTNが劣化していることが特定されることが可能である。劣化前のトランジスタTNは、必要電圧印加時間TOより短い電圧印加時間TOWに亘ってしか標準電圧VIを印加されなくてもオンになる。一方、劣化により必要電圧印加時間TOd1(>TOW)を有するトランジスタTNは、電圧印加時間TOWに亘って標準電圧VIを印加されてもオンにならない。よって、このような時間に亘る標準電圧VIの印加によって、トランジスタTNが劣化していることが特定されることが可能である。
【0115】
この現象が利用されることにより、制御データDLの“H”レベル電圧が小さくされる場合と同じ原理により、劣化したトランジスタTNを含んだレジスタ357は、正常に動作しない。よって、劣化したレジスタ357が特定されることが可能である。
【0116】
ここまで、
図14及び
図15を参照して、n型のMOSFET TNについて記述された。この記述は、p型のMOSFET TPについても同様である。すなわち、より劣化しているp型トランジスタTPは、より低い閾値電圧を有する。p型のトランジスタTP1についての電圧印加時間については、n型トランジスタTNと同じであり、トランジスタTP1がより劣化しているほど、必要電圧印加時間はより長い。よって、或るレジスタ357が少なくとも1つの劣化したn型トランジスタTN又は少なくとも1つの劣化したp型トランジスタTPを含んでいると、このレジスタ357は正常に動作しない。
【0117】
次に、
図16を参照して、
図13のステップST5をさらに詳細に記述する。
図16は、例として、第1実施形態のレジスタ357のトランジスタTNの劣化と使用時間との関係を示す。レジスタ357(特に、その中のトランジスタTN及びTP)の特性の劣化は、トランジスタTN及びTPがこれまでに使用された時間の累積に相関する。
図16及び以下の記述は、或るレジスタ357中で劣化したことにより、このレジスタ357中のトランジスタTNのうちのこのレジスタ357が正常に動作することを妨げている或るトランジスタTNaに関する。また、
図16及び以下の記述は、或る劣化したトランジスタTPについても同様の記述が当てはまる。
【0118】
トランジスタTNの劣化は、トランジスタTN自体の使用のみに起因せず、トランジスタTNが劣化する環境に晒された時間に依存する。トランジスタTNは、描画による電子ビームEBmの照射によって生じるX線に対する被曝などの、描画のために生じる環境によって劣化するからである。よって、トランジスタTNは、描画の時間、厳密には電子ビームEBmの照射の時間に少なくとも部分的に依存する。この関係が、
図13のステップST4での故障時間の見積もりに利用される。
【0119】
例として、劣化に起因する、トランジスタTNの閾値電圧の上昇が、描画が行われた時間の累積の時間t1の経過後に生じたものとする。この場合、劣化前の閾値電圧Vthと劣化後のVthd1の差は、時間t1に相関する。このような累積時間と劣化前後の閾値電圧の差の関係が、様々なケースについて、実験及び(又は)シミュレーションによって予め取得される。例えば、複数のトランジスタTNについての関係の平均、又は複数のトランジスタTNのうちの1つについての関係が代表として用いられる。こうして得られた複数の離散的な関係が補間され、又は数式によって近似される。この結果、
図16の下部に示されるように、トランジスタTNの未使用時からの累積使用時間と、現在の閾値電圧との関係が得られる。
図16は、例として、線形の関係を示す。例えば、このような関係が、描画装置1の使用の開始の段階で、記憶装置213に格納されている。BAA診断部225は、この関係を使用して、見積故障時間を割り出す。
【0120】
例えば、トランジスタTNaは、累積使用時間Tc1に亘って使用され、その時点で閾値電圧Vthd1(<標準電圧VI)を有しているとする。そして、トランジスタTNaの閾値電圧が標準電圧VIと等しくなるまでの累積使用時間がTc2であるとする。この場合、トランジスタTNaの閾値電圧が標準電圧VIに達するまでに要する時間は、Tc2-Tc1である。こうして算出された時間が、トランジスタTNaの見積故障時間であり、すなわち、トランジスタTNaを含んだレジスタ357の見積故障時間である。
【0121】
必要電圧印加時間についても同様である。すなわち、劣化に起因する必要電圧印加時間の増大が、累積時間t1の経過後に生じた場合、劣化前の必要電圧印加時間TOと劣化後の必要電圧印加時間TOdの差は、時間t1に相関する。このような累積時間と閾値電圧の劣化前後の差の関係が、様々なケースについて、実験及び(又は)シミュレーションによって予め取得される。こうして得られた複数の離散的な関係が補間され、又は数式によって近似される。こうして、累積時間と劣化前後の必要電圧印加時間の差の関係が使用されて、必要電圧印加時間TOd1(<TI)を有すると見積もられたトランジスタTN1が必要電圧印加時間TIを超えるまでに要する時間が見積もられる。見積もられた時間が、見積故障時間である。
【0122】
上記のように、見積故障時間が、閾値電圧Vthと必要電圧印加時間TOの両方に基づいてもよい。さらに、トランジスタTN及(又は)TPの劣化の指標として、別の特性の値が使用されてもよい。
【0123】
ここまでの記述では、例として、レジスタ357(シフトレジスタ3571)の故障(正常に動作しているか)の判断が、このレジスタ357のための制御データDLに従った駆動電圧DVがこのレジスタ357と接続された電極355に印加されることによって電子ビームEBmがブランキングされた場合のブランキングの状態と、制御データDLに従った駆動電圧DVがこのレジスタと接続された電極355に印加されることによって形成される電子ビームEBmのブランキングの状態が一致しているか否かの判断に基づく。実施形態はこの例に限られない。故障の判断は、シフトレジスタ3571の第1段(初段)のレジスタ357に供給された制御データDLが、この第1段のレジスタ357に供給された制御データDLがシフトレジスタ3571の中を転送されてレジスタ357のいずれか1つから出力された制御データDLと一致しているかの判断に基づいてもよい。
【0124】
1.3.利点(効果)
第1実施形態によれば、BAA診断部225は、レジスタ357に通常の描画の間に使用される条件よりも悪い条件で電圧及び(又は)低速クロック信号SCLKを印加し、正常に動作しないレジスタ357が正常に動作するときの条件を割り出し、この割り出された条件に基づいて、レジスタ357が故障するまでの時間を見積もる。こうすることにより、BAA診断部225は、見積故障時間に基づいて、次の描画の間に故障し得るレジスタ357を特定することが可能である。このことは、描画前に故障が対処されることを可能にし、描画中に不測にレジスタ357が故障することを抑制できる。
【0125】
1.4.変形例
見積故障時間を使用する判断が、さらに、ブランキングアパーチャアレイ機構の交換及び生産の計画に使用されてもよい。
図17は、そのような処理のフローを示し、第1実施形態の変形例の描画及び検査方法のフローを示す。
図17については、第1実施形態の基本の形態で説明した、
図13からの変更点についてのみ説明する。
【0126】
図17に示されるように、ステップST5は、ステップST11に継続する。ステップST11において、BAA診断部225は、全ての対象レジスタ357tのそれぞれについての見積故障時間が第1閾値Th1以下であるかを判断する。第1閾値Th1は、第1実施形態の基本の形態(
図13)のステップST6において見積故障時間が比較される対象である閾値より長い。第1閾値Th1は、例えば、描画の計画に基づいて定まる、ユーザが少なくともこの間にはブランキングアパーチャアレイ機構350が正常であることを望む期間に設定されることが可能である。又は、第1閾値Th1は、例えば、現在の時刻から、交換用のブランキングアパーチャアレイ機構350の製造が完了し、製造されたブランキングアパーチャアレイ機構350が交換されるまでに要する時間より長い期間に設定されることが可能である。第1閾値Th1は、例えば、予め、特に
図17のフローの開始前に、ユーザによって入力されることが可能である。
【0127】
全ての対象レジスタ357tの見積故障時間が第1閾値Th1以下でない場合(ステップST11のNo)、しばらくの間、ブランキングアパーチャアレイ機構350の部品に故障が生じることはないと考えられる。よって、処理はステップST10に移行する。
【0128】
全ての対象レジスタ357tの見積故障時間が第1閾値Th1以下である場合(ステップST11のYes)、処理はステップST12に移行する。ステップST12において、BAA診断部225は、全ての対象レジスタ357tのそれぞれについての見積故障時間が、第2閾値Th2以下であるかを判断する。第2閾値Th2は、第1閾値Th1より短く、例えば、第1実施形態の基本の形態のステップST6において見積故障時間が比較される対象である閾値と同じである。
【0129】
いずれか1つの対象レジスタ357tの見積故障時間が第2閾値Th2以下でない(第2閾値Th2を超える)場合(ステップST12のNo)、これは、今後、第2閾値Th2に基づく回数に亘ってこれから行われる描画の間にブランキングアパーチャアレイ機構350の部品の故障は起こらないが、近い将来に故障が起こり得ることを意味する。このことに基づいて、ステップST15において、BAA診断部225は、ユーザに、故障が近い将来に起こり得ることを、例えば、出力装置215を使用してユーザに通知する。
【0130】
全ての対象レジスタ357tの見積故障時間が第2閾値Th2以下である場合(ステップST12のYes)、処理はステップST8に移行する。ステップST8は、ステップST9に継続し、ステップST9は、ステップST10に継続する。
【0131】
ステップST16において、BAA診断部225は、近い将来に故障が起こり得るとの判断に基づいて、ブランキングアパーチャアレイ機構350の交換時期(日時)を計画する。交換時期は、見積故障時間に基づく。例えば、交換時期は、ユーザがこれから描画を行うと想定される(例えば、平均的な)回数に基づいて、描画が行われる予定の総時間が見積故障時間を超える前の時期に設定される。交換時期は、描画装置1のメーカーに通知される。例えば、交換時期を示すデータが、描画装置1のメーカーに通信装置217を介して送信され、描画装置1のメーカーによって受け取られる。
【0132】
ステップST17において、描画装置1のメーカーは、受け取った交換時期を示すデータから交換時期を知り、交換時期に基づいて、新たなブランキングアパーチャアレイ機構350の生産のスケジュールを立てる。ステップST17は、ステップST10に継続する。
【0133】
ステップST15、ST16、及びST17は、
図17に示される順序と異なる順序で行われてもよいし、並行して行われてもよい。
【0134】
本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で種々に変形することが可能である。また、各実施形態は適宜組み合わせて実施してもよく、その場合組み合わせた効果が得られる。更に、上記実施形態には種々の発明が含まれており、開示される複数の構成要件から選択された組み合わせにより種々の発明が抽出され得る。例えば、実施形態に示される全構成要件からいくつかの構成要件が削除されても、課題が解決でき、効果が得られる場合には、この構成要件が削除された構成が発明として抽出され得る。