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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-18
(45)【発行日】2025-02-27
(54)【発明の名称】リチウムイオン伝導性固体材料
(51)【国際特許分類】
   H01B 1/06 20060101AFI20250219BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20250219BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20250219BHJP
   H01M 50/497 20210101ALI20250219BHJP
   H01M 50/434 20210101ALI20250219BHJP
   C01B 25/14 20060101ALI20250219BHJP
   H01M 10/0562 20100101ALI20250219BHJP
【FI】
H01B1/06 A
H01M10/052
H01M4/62 Z
H01M50/497
H01M50/434
C01B25/14
H01M10/0562
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2022504609
(86)(22)【出願日】2020-07-21
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-09-29
(86)【国際出願番号】 EP2020070526
(87)【国際公開番号】W WO2021013824
(87)【国際公開日】2021-01-28
【審査請求日】2023-07-05
(31)【優先権主張番号】19188154.9
(32)【優先日】2019-07-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】508020155
【氏名又は名称】ビーエーエスエフ ソシエタス・ヨーロピア
【氏名又は名称原語表記】BASF SE
【住所又は居所原語表記】Carl-Bosch-Strasse 38, 67056 Ludwigshafen am Rhein, Germany
(73)【特許権者】
【識別番号】510238650
【氏名又は名称】ユニバーシティ オブ ウォータールー
(74)【代理人】
【識別番号】100100354
【弁理士】
【氏名又は名称】江藤 聡明
(74)【代理人】
【識別番号】100167106
【弁理士】
【氏名又は名称】倉脇 明子
(74)【代理人】
【識別番号】100194135
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 修
(74)【代理人】
【識別番号】100206069
【弁理士】
【氏名又は名称】稲垣 謙司
(74)【代理人】
【識別番号】100185915
【弁理士】
【氏名又は名称】長山 弘典
(72)【発明者】
【氏名】ウー,シヤオハン
(72)【発明者】
【氏名】チョウ,ライトン
(72)【発明者】
【氏名】ナザール,リンダ
(72)【発明者】
【氏名】クリシュ,イェルン
【審査官】北嶋 賢二
(56)【参考文献】
【文献】ZHOU,Laidong ,Synthesis and Characterization of New Solid-State Li-Superionic Conductors,A thesis presented to the University of Waterloo in fulfillment of the thesis requirement for the degree of Master of Science in Chemistry-Nanotechology[online],University of Waterloo,2017年11月08日,pp.46,55-62,[retrieved on 2024.07.03],Retrieved from the Internet:<URL:http://uwspace.uwaterloo.ca/handle/10012/12617>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/0562
H01M 10/052
H01M 4/62
H01M 50/497
H01M 50/434
H01B 1/06
C01B 25/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(I)、
Li7+x-ySb1-x6-y (I)
(式中、
Mは、Si、Ge及びSnからなる群から選択される1つ以上であり;
MがSiの場合、0.05≦x≦0.8であり;
MがGeの場合、0.05≦x≦0.5であり;
MがSnの場合、0.05≦x≦0.3であり;
Xは、Cl、Br及びIからなる群から選択される1つ以上であり;
0.05≦y≦2である)
による組成を有し、硫銀ゲルマニウム鉱構造を有する結晶相を有している固体材料。
【請求項2】
0.5≦y≦1.5である、請求項1に記載の固体材料。
【請求項3】
MはSiであり、
0.2≦x≦0.7である、請求項2に記載の固体材料。
【請求項4】
MはGeであり;
0.2≦x≦0.4である、請求項2に記載の固体材料。
【請求項5】
MはSnであり;
0.15≦x≦0.25である、請求項2に記載の固体材料。
【請求項6】
0.8≦y≦1.2である、請求項3~5のいずれか1項に記載の固体材料。
【請求項7】
XがIである、請求項1~6のいずれか1項に記載の固体材料。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか1項で定義された固体材料を調製する方法であって、前記方法は、以下の方法工程:
a)以下の前駆体
(1)Li
(2)Sbと元素Sbの一方又は両方
(3)XがCl、Br及びIからなる群から選択される1つ以上の化合物LiX
(4)元素S
(5)任意に、各場合において、MがSi、Ge及びSnからなる群から選択される、元素形態のM及びMの硫化物からなる群から選択される1つ以上の種
を含む反応混合物を調製又は提供する工程であって、前記反応混合物において、元素Li、M、Sb、S及びXのモル比が一般式(I)に一致する、工程と、
b)反応生成物を形成するように、前記反応混合物を400℃~600℃の温度範囲で40時間から200時間の総持続期間で熱処理する、工程と、
c)一般式(I)による組成を有する固体材料を得るように、工程b)で得られた前記反応生成物を冷却する、工程と、
を含む、方法。
【請求項9】
以下の工程
d)工程c)で得られた固体材料を、400℃~600℃の温度範囲で、40時間から200時間の持続期間でアニールする工程、
をさらに含む、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記前駆体は、
(1)LiS、(2)Sb、(3)LiI、(4)元素S
及び
(5)元素Si、元素Ge、元素Sn、SiS、GeS、及びSnSのいずれか1つ
である、請求項8又は9に記載の方法。
【請求項11】
電気化学セル用の固体電解質としての請求項1~7のいずれか1項による固体材料の使用方法。
【請求項12】
電気化学セル用の固体構造物であって、前記固体構造物はカソード、アノード、及びセパレータからなる群から選択され、前記電気化学セル用の固体構造物は請求項1~7のいずれか1項による固体材料を含む、電気化学セル用の固体構造物。
【請求項13】
請求項1~7のいずれか1項による固体材料を含む電気化学セル。
【請求項14】
前記固体材料は、請求項12に定義された固体構造物の構成要素である、請求項13に記載の電気化学セル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオンのイオン伝導性を有する固体材料、前記固体材料を調製するための方法、前記固体材料の電気化学セル用の固体電解質としての使用方法、この固体材料を含む電気化学セル用のカソード、アノード、セパレータからなる群から選択される固体構造物、及びこのような固体構造物を含む電気化学セルについて説明する。
【背景技術】
【0002】
固体状態のリチウム電池は広く使用されており、このためにリチウムイオンの伝導度が高い固体状電解質についての需要が高くなっている。このような固体電解質の重要なクラスは、リチウム硫銀ゲルマニウム鉱である。
【0003】
US8,075,865B2は、式()のリチウム硫銀ゲルマニウム鉱を開示しており、
Li(12-n-x)n+2- 6-x
式中、
Bは、P、As、Ge、Ga、Sb、Si、Sn、Al、In、Ti、V、Nb、及びTaからなる群から選択され、
Xは、S、Se、及びTeからなる群から選択され、
Yは、Cl、Br、I、F、CN、OCN、SCN、及びNからなる群から選択され、0≦x≦2である。特定の化合物LiPSIについては、約710-3S/cmのイオン伝導度がUS8,075,865B2に報告されている。
【0004】
Marvin A.Kraftら(J.Am.Chem.Soc.2018年,140,16330~16339頁)は、式
Li6+xGe1-x
のリチウム硫銀ゲルマニウム鉱を開示しており、
式中、xは、それぞれ、0、0.15、0.25、0.3、および0.6である。xとその調製方法によっては、このようなリチウム硫銀ゲルマニウム鉱の焼結ペレットは、最大5.4±0.8mS/cm、又は最大18.4±2.7mS/cmのイオン伝導度を示す場合がある。
【0005】
全固体状リチウム電池の固体電解質としての用途に適したイオン伝導性と、リチウム金属と直接接触する電気化学的安定性とを示すリチウム伝導体に対する継続的な要求がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】US8,075,865B2
【非特許文献】
【0007】
【文献】Marvin A.Kraftら(J.Am.Chem.Soc.2018年,140,16330~16339頁)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本開示の目的は、電気化学セルの固体電解質として使用されることができる固体材料を提供することである。さらに、前記固体材料を調製するための方法、電気化学セル用の固体電解質としての前記固体材料の使用方法、固体材料を含む電気化学セル用のカソード、アノード及びセパレータからなる群から選択される固体構造物、及び、前記固体構造物が前記固体材料を含むこのような固体構造物を有する電気化学セルが提供される。
【課題を解決するための手段】
【0009】
第1態様によれば、一般式(I)による組成を有する固体材料が提供される、
Li7+x-ySb1-x6-y(I)
(式中、
Mは、Si、Ge及びSnからなる群から選択される1つ以上であり;
0≦x≦1であり;
Xは、Cl、Br及びIからなる群から選択される1つ以上であり;
0.05≦y≦2である)。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、固体電解質の電圧プロファイルを示す。
図2図2は、式(I)による組成を有する固体材料のXRDパターンを示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
驚くべきことに、上記で定義された固体材料は、良好なリチウムイオン伝導性とリチウム金属との直接接触における電気化学的安定性とを示し得ることが見出された。
【0012】
上記で定義された第1態様による特定の材料は、XがI(ヨウ素)である式(I)による組成を有し、すなわち式(Ia)による組成を有し、
Li7+x-ySb1-x6-y(Ia)
式中、M、x及びyは、式(I)について上記で定義されたのと同じ意味を有する。
【0013】
上記で定義された第1態様による固体材料の第1群は、x=0である式(I)による組成を有し、すなわち、Si、Ge及びSnからなる群から選択される元素Mは存在しない。したがって、前記第1群の固体材料は、式(Ib)による組成を有し、
Li7-ySbS6-y(Ib)
式中、X及びyは、式(I)について上記で定義されたのと同じ意味を有する。
【0014】
前記第1群の特定の固体材料は、0.5≦y≦1.5、より好ましくは0.8≦y≦1.2である式(Ib)による組成を有する。
【0015】
前記第1群の特定の固体材料は、XがIである式(Ib)による組成を有する。
【0016】
前記第1群の特定の固体材料は、0.5≦y≦1.5、XがIである式(Ib)による組成を有する。前記第1群のさらなる特定の固体材料は、0.8≦y≦1.2、XがIである式(Ib)による組成を有する。
【0017】
上記で定義された第1態様による固体材料の第2群は、0<x≦1、すなわち、Si、Ge及びSnからなる群から選択される1つ以上の元素Mが存在する式(I)による組成を有する。
【0018】
前記第2群の特定の固体材料は、0.05≦x≦1である式(I)による組成を有する。
【0019】
前記第2群の特定の固体材料は、0.5≦y≦1.5、好ましくは0.8≦y≦1.2である式(I)による組成を有する。
【0020】
前記第2群の特定の固体材料は、0.05≦x≦1、0.5≦y≦1.5、好ましくは0.8≦y≦1.2である式(I)による組成を有する。
【0021】
前記第2群の特定の固体材料は、XがIである式(I)による組成を有する。
【0022】
前記第2群の特定の固体材料は、0.05≦x≦1、0.5≦y≦1.5、XがIである式(I)による組成を有する。前記第2群のさらなる特定の固体材料は、0.05≦x≦1、0.8≦y≦1.2、XがIである式(I)による組成を有する。
【0023】
MがSiである第2群の固体材料は、式(Ic)による組成を有し、
Li7+x-ySiSb1-x6-y(Ic)
式中、
0<x≦1;
X及びyは、式(I)について上記で定義されたのと同じ意味を有する。
【0024】
MがSiである前記第2群の特定の固体材料は、式(Ic)による組成を有し、式中、0.1≦x≦0.8、好ましくは0.2≦x≦0.7、さらに好ましくは0.3≦x≦0.7、より好ましくは0.4≦x≦0.7である。
【0025】
MがSiである前記第2群の特定の固体材料は、式(Ic)による組成を有し、式中、0.5≦y≦1.5、好ましくは0.8≦y≦1.2、より好ましくはyは0.9~1.1である。
【0026】
MがSiである前記第2群の特定の固体材料は、式(Ic)による組成を有し、式中、0.1≦x≦0.8、好ましくは0.2≦x≦0.7、及び、0.5≦y≦1.5、好ましくは0.8≦y≦1.2、より好ましくは0.2≦x≦0.7かつ0.8≦y≦1.2、さらに好ましくは、0.3≦x≦0.7かつ0.8≦y≦1.2、さらに好ましくは、0.3≦x≦0.7かつ0.9≦y≦1.1、最も好ましくは、0.4≦x≦0.7かつ0.9≦y≦1.1である。
【0027】
MがSiである前記第2群の特定の固体材料は、XがIである式(Ic)による組成を有する。
【0028】
MがSiであり、かつXがIである前記第2群の特定の固体材料は、0.1≦x≦0.8かつ0.5≦y≦1.5である式(Ic)による組成を有する。MがSiであり、かつXがIである前記第2群のさらなる特定固体材料は、式(Ic)による組成を有し、式中、0.2≦x≦0.7かつ0.8≦y≦1.2、さらに好ましくは、0.3≦x≦0.7かつ0.8≦y≦1.2、さらに好ましくは、0.3≦x≦0.7かつ0.9≦y≦1.1、最も好ましくは、0.4≦x≦0.7かつ0.9≦y≦1.1である。
【0029】
MがGeである第2群の固体材料は、式(Id)による組成を有し、
Li7+x-yGeSb1-x6-y(Id)
式中、
0<x≦1;
X及びyは、式(I)について上記で定義されたのと同じ意味を有する。
【0030】
MがGeである前記第2群の特定の固体材料は、0.1≦x≦0.5、好ましくは0.2≦x≦0.4である式(Id)による組成を有する。
【0031】
MがGeである前記第2群の特定の固体材料は、0.5≦y≦1.5、好ましくは0.8≦y≦1.2、より好ましくはyが0.9~1.1である式(Id)による組成を有する。
【0032】
MがGeである前記第2群の特定の固体材料は、式(Id)による組成を有し、式中、0.1≦x≦0.5、好ましくは0.2≦x≦0.4、及び、0.5≦y≦1.5、好ましくは0.8≦y≦1.2、より好ましくは0.2≦x≦0.4かつ0.8≦y≦1.2、さらに好ましくは0.2≦x≦0.4かつ0.9≦y≦1.1である。
【0033】
MがGeである前記第2群の特定の固体材料は、XがIである式(Id)による組成を有する。
【0034】
MがGeであり、かつXがIである前記第2群の特定の固体材料は、0.1≦x≦0.5かつ0.5≦y≦1.5である式(Id)による組成を有する。MがGeであり、かつXがIである前記第2群のさらなる特定の固体材料は、式(Id)による組成を有し、式中、0.2≦x≦0.4かつ0.8≦y≦1.2、さらに好ましくは、0.2≦x≦0.4かつ0.9≦y≦1.1である。
【0035】
MがSnである第2群の固体材料は、式(Ie)による組成を有し、
Li7+x-ySnSb1-x6-y(Ie)
式中、
0<x≦1;
X及びyは、式(I)について上記で定義されたのと同じ意味を有する。
【0036】
MがSnである前記第2群の特定の固体材料は、0.1≦x≦0.3、好ましくは0.15≦x≦0.25である式(Ie)による組成を有する。
【0037】
MがSnである前記第2群の特定の固体材料は、式(Ie)による組成を有し、式中、0.5≦y≦1.5、好ましくは、0.8≦y≦1.2、より好ましくは、yは0.9~1.1である。
【0038】
MがSnである前記第2群の特定の固体材料は、式(Ie)による組成を有し、式中、0.1≦x≦0.3、好ましくは、0.15≦x≦0.25、及び、0.5≦y≦1.5、好ましくは、0.8≦y≦1.2、より好ましくは、0.15≦x≦0.25かつ0.8≦y≦1.2、さらに好ましくは、0.15≦x≦0.25、かつ0.9≦y≦1.1である。
【0039】
MがSnである前記第2群の特定の固体材料は、XがIである式(Ie)による組成を有する。
【0040】
MがSnであり、かつXがIである前記第2群のある特定の固体材料は、0.1≦x≦0.3かつ0.5≦y≦1.5である式(Ie)による組成を有する。MがSnであり、かつXがIである前記第2群のさらなる特定の固体材料は、式(Ie)による組成を有し、式中、0.15≦x≦0.25かつ0.8≦y≦1.2、好ましくは、0.15≦x≦0.25かつ0.9≦y≦1.1である。
【0041】
上記で定義された第1態様による固体材料は、X線回折法で検出可能な結晶性であり得る。固体材料は、X線回折パターンに明確に定義された反射が存在することによって示される、結晶に特徴である長距離規則性を示す場合、結晶と呼ばれる。この文脈では、反射の強度がバックグラウンドよりも10%超高い場合、その反射は明確に定義されていると見なされる。
【0042】
上記で定義された第1態様による結晶性固体材料は、立方体空間群F-43mによって特徴付けられる硫銀ゲルマニウム鉱構造を有し得る。
【0043】
上記で定義された第1態様による結晶性固体材料は、上記で定義された一般式(I)によらない組成を有する二次相及び/又は不純物相を伴うことがある。その場合、一般式(I)による組成を有する結晶性固体材料から形成された相の体積分率は、上記で定義された第1態様による固体材料とすべての二次相及び不純物相の合計体積に基づいて、50%以上、場合によっては80%以上、好ましくは90%以上、最も好ましくは95%以上であり得る。
【0044】
存在する場合、二次相及び不純物相は、固体材料を調製するために使用される前駆体、例えば、LiX(式中、Xは上記で定義された通りである)と、LiSと、場合によっては、前駆体の不純物から由来し得る不純物相とから主に構成される。上記で定義された第1態様による固体材料の調製の詳細については、本開示の第2態様の文脈で以下に提供される情報を参照されたい。
【0045】
場合によっては、上記で定義された第1態様による固体材料は、多結晶粉末の形態、又は単結晶の形態である。
【0046】
上記で定義された第1態様による固体材料は、いずれの場合も25℃の温度で、0.1mS/cm以上、好ましくは1mS/cm以上、さらに好ましくは10mS/cm以上のイオン伝導度を有してよい。イオン伝導度は、電気化学インピーダンス分光法を用いて、電池材料開発の分野で知られている通常の方法で決定される(詳細については、以下の実施例のセクションを参照されたい)。
【0047】
同時に、上記で定義された第1態様による固体材料は、ほとんど無視できるほどの電子伝導度を有していてよい。より具体的には、電子伝導度は、イオン伝導度よりも少なくとも3桁小さくてよく、好ましくは、イオン伝導度よりも少なくとも5桁小さくてもよい。場合によっては、上記で定義された第1態様による固体材料は、10-9S/cm以下の電子伝導度を示す。電子伝導度は、電池材料開発の分野で知られている通常の方法で、異なる電圧での直流(DC)分極測定によって決定される。
【0048】
上記で定義された第1態様による固体材料は、少なくとも1,000時間の持続期間にわたってリチウム金属と直接接触した状態で有望な電気化学的安定性を示し、その結果、対称セルでの剥離及びめっきの条件下で、高電流及び高容量であっても安定した電圧プロファイルが得られる(詳細については、以下の実施例のセクションを参照されたい)。これは、リチウム金属と固体電解質の間の保護層を省略することができるように、リチウム金属が、上記で定義された第1態様による固体材料の形態の固体電解質と直接接触する電気化学セル構成を適用することが可能になる可能性があるため、重要な利点である。したがって、構成の複雑さと、電気活性材料としての金属リチウムを含む電気化学セルの製造方法の複雑さが軽減される。
【0049】
上記で定義された第1態様による好ましい固体材料は、上記で開示された特定の特徴のうちの1つ以上を有するものである。
【0050】
第2態様によれば、上記で定義された第1態様による固体材料を得るための方法が提供される。前記方法は、以下の方法工程:
a)以下の前駆体
(1)Li
(2)Sbと元素Sbの一方又は両方
(3)XがCl、Br及びIからなる群から選択される1つ以上の化合物LiX
(4)元素S
(5)任意に、各場合において、MはSi、Ge及びSnからなる群から選択される、元素形態のM及びMの硫化物からなる群から選択される1つ以上の種
を含む反応混合物を調製又は提供する工程であって、前記反応混合物において、元素Li、M、Sb、S及びXのモル比が一般式(I)に一致する、工程と、
b)反応生成物を形成するように、前記反応混合物を400℃~600℃の温度範囲で40時間から200時間の総持続期間で熱処理する、工程と、
c)一般式(I)による組成を有する固体材料を得るように、工程b)で形成された前記反応生成物を冷却する、工程と、
を含む。
【0051】
上記で定義された第2態様による方法の工程a)では、工程b)で形成される反応生成物の前駆体を含む反応混合物が提供される。前記前駆体は
(1)Li
(2)アンチモンの供給源としてのSbと元素Sbの一方又は両方
(3)XがCl、Br及びIからなる群から選択される1つ以上の化合物LiX
(4)元素硫黄S
(5)任意に、元素形態のSi、Ge及びSn、ならびにSi、Ge及びSnの硫化物からなる群から選択される1つ以上の種、
である。
【0052】
前記反応混合物において、元素Li、M、Sb、S及びXのモル比が一般式(I)に一致する。工程a)で提供又は調製される反応混合物は、上記で定義されたそれぞれ前駆体(1)~(4)、又は前駆体(1)~(5)からなる。
【0053】
元素形態のSb(アンチモン)又はSb(前駆体(2))の一方又は両方が、上記で定義された式(I)による組成を有する固体材料のSbの供給源として機能し得る。いずれの場合も、元素Sb(酸化数0)、Sb中のSb(Sbの酸化数:+3)をそれぞれ酸化数+5まで酸化させるために、追加の硫黄(前駆体(4))が必要である。前駆体(2)としては、Sbが好ましい。
【0054】
元素形態のSi、Ge及びSn、ならびにSi、Ge及びSnの硫化物からなる群から選択される1つ以上の種(前駆体(5))が、上記で定義された式(I)による組成を有する固体材料におけるMの供給源(上記で定義された)として機能してよい。前駆体(5)中の(上記で定義された)元素Mの酸化数が+4よりも低い場合、追加の硫黄(前駆体(4))が、元素Mを酸化数+4まで酸化させるために必要である。これは、前駆体(5)として元素形態のMが用いられる場合である。Mの硫化物の中でも、Mの酸化状態が+4であるもの(MS)が好ましい。MSが前駆体(5)として用いられる場合、元素Mを酸化数+4まで酸化するために追加の硫黄は必要とされない。
【0055】
したがって、工程a)で提供又は調製される反応混合物中の元素硫黄(前駆体(4))の量は、前駆体(2)中のSbの酸化状態、及び前駆体(5)が存在する場合は前駆体(5)中のMの酸化状態に依存する。化学量論的考察に基づいて、当業者は、工程a)で提供又は調製される反応混合物に必要な元素硫黄の量を容易に計算することができる。
【0056】
上記で定義された第2態様による特定の方法では、前駆体(3)はLiIである。このような方法は、上記で定義された一般式(Ia)による組成を有する固体材料を調製するのに適している。
【0057】
このように、一般式(Ia)による組成を有する固体材料の前駆体は
(1)Li
(2)Sb及び元素Sbの1つ以上、好ましくはSb
(3)LiI
(4)元素硫黄S
(5)任意に、元素形態のSi、Ge及びSn、ならびにSi、Ge及びSnの硫化物からなる群から選択される1つ以上の種、
である。
【0058】
上記で定義された第2態様による特定の方法では、工程a)で提供又は調製される反応混合物は、元素形態のSi、Ge及びSn、ならびにSi、Ge及びSnの硫化物からなる群から選択されるいかなる前駆体(5)も含まない。工程a)で提供又は調製される前記反応混合物は、上記で定義された前駆体(1)~(4)からなることができる。このような方法は、上記で定義された一般式(Ib)による組成を有する固体材料を調製するのに適している。一般式(Ib)による組成を有する固体材料を調製するための特定の方法において、前駆体(3)はLiIである。
【0059】
このように、一般式(Ib)による組成を有する固体材料の前駆体は
(1)Li
(2)Sb及び元素Sbの1つ以上、好ましくはSb
(3)XがCl、Br及びIからなる群から選択される1つ以上の化合物LiX、好ましくはLiI
(4)元素硫黄S
である。
【0060】
上記で定義された第2態様による特定の方法では、工程a)で提供又は調製される反応混合物は、元素形態のSi、Ge及びSn、ならびにSi、Ge及びSnの硫化物からなる群から選択される1つ以上の前駆体(5)を含む。工程a)で提供又は調製される前記反応混合物は、上記で定義された前駆体(1)~(5)からなることができる。このような方法は、上記で定義された第2群の固体材料を調製するのに適している。そのような固体材料を調製するための特定の方法では、前駆体(3)はLiIである。
【0061】
したがって、上記で定義された第2態様による特定の方法において、前駆体は、
(1)LiS、(2)Sb又は元素Sb、(3)LiI、(4)元素S
及び
(5)元素Si、元素Ge、元素Sn、SiS、GeS、SnSのいずれか1つ
である。
【0062】
上記で定義された第2態様による特定の方法では、工程a)で提供又は調製される反応混合物は、元素Si及びSiの硫化物からなる群から選択される1つ以上の前駆体(5)を含む。工程a)で提供又は調製される前記反応混合物は、上記で定義された前駆体(1)~(4)ならびに元素Si及びSiの硫化物からなる群から選択される1つ以上の種の形態の前駆体(5)からなることができる。Siの硫化物の中で、SiSが好ましい。元素Si(シリコン)が前駆体(5)として好ましい。このような方法は、上記で定義された一般式(Ic)による組成を有する固体材料を調製するのに適している。一般式(Ic)による組成を有する固体材料を調製するための特定の方法では、前駆体(3)はLiIである。
【0063】
このように、一般式(Ic)による組成を有する固体材料の前駆体は
(1)Li
(2)Sb及び元素Sbの1つ以上、好ましくはSb
(3)XがCl、Br及びIからなる群から選択される1つ以上の化合物LiX、好ましくはLiI
(4)元素硫黄S
(5)Si及びSiの硫化物からなる群から選択される1つ以上の種、好ましくは元素Si
である。
【0064】
上記で定義された第2態様による特定の方法では、工程a)で提供又は調製される反応混合物は、元素Ge(ゲルマニウム)及びGeの硫化物からなる群から選択される1つ以上の前駆体(5)を含む。工程a)で提供又は調製される前記反応混合物は、上記で定義された前駆体(1)~(4)ならびに元素Ge及びGeの硫化物からなる群から選択される1つ以上の種の形態の前駆体(5)からなることができる。Geの硫化物の中で、GeSが好ましい。GeSは前駆体(5)として好ましい。このような方法は、上記で定義された一般式(Id)による組成を有する固体材料を調製するのに適している。一般式(Id)による組成を有する固体材料を調製するための特定の方法において、前駆体(3)はLiIである。
【0065】
このように、一般式(Id)による組成を有する固体材料の前駆体は、
(1)Li
(2)Sb及び元素Sbの1つ以上、好ましくはSb
(3)XがCl、Br及びIからなる群から選択される1つ以上の化合物LiX、好ましくはLiI
(4)元素硫黄S
(5)元素Ge及びGeの硫化物からなる群から選択される1つ以上の種、好ましくはGeS
である。
【0066】
上記で定義された第2態様による特定の方法では、工程a)で提供又は調製される反応混合物は、元素Sn(スズ)及びSnの硫化物からなる群から選択される1つ以上の前駆体(5)を含む。工程a)で提供又は調製される前記反応混合物は、上記で定義された前駆体(1)~(4)、並びに元素Sn及びSnの硫化物からなる群から選択される1つ以上の種の形態の前駆体(5)とからなることができる。Snの硫化物の中で、SnSが好ましい。SnSが前駆体(5)として好ましい。このような方法は、上記で定義された一般式(Ie)による組成を有する固体材料を調製するのに適している。一般式(Ie)による組成を有する固体材料を調製するための特定の方法において、前駆体(3)はLiIである。
【0067】
このように、一般式(Ie)による組成を有する固体材料の前駆体は、
(1)Li
(2)Sb及び元素Sbの1つ以上、好ましくはSb
(3)XがCl、Br及びIからなる群から選択される1つ以上の化合物LiX、好ましくはLiI
(4)元素硫黄S
(5)元素Sn及びSnの硫化物からなる群から選択される1つ以上の種、好ましくはSnS
である。
【0068】
工程a)では、混合は、粉砕によって行われてもよい。粉砕は、任意の適切な手段を用いて行うことができる。
【0069】
工程a)では、保護ガス雰囲気下で任意の処理が行われることが有用である。
【0070】
工程a)で調製又は提供される反応混合物は、ペレットに形成されてよく、ペレットは工程b)で熱処理される。その後、ペレット又はチャンクの形態の固体材料が得られ、これはさらなる処理のために粉体に粉砕されてよい。
【0071】
上記で定義された第2態様による方法の工程b)では、方法工程a)で調製された反応混合物は、前駆体の反応を可能にするために熱処理される。前記反応は、実質的に固体反応と考えられ、すなわち、固体状態の反応混合物で起こる。
【0072】
熱処理は、密閉容器内で行うことができる。密閉容器は、密閉された石英管であってもよく、又はガラス状炭素るつぼ又はタンタルるつぼなどの、熱処理の温度に耐え、かつ前駆体のいずれとも反応しない他のいかなる種類の容器であり得る。
【0073】
工程b)は、2段階以上の熱処理を含むことができ、各段階では、400℃~600℃、好ましくは450℃~550℃の範囲内の異なる温度が適用される。一般的に、第2段階及びそれに続く各段階では、熱処理の温度は前の段階よりも低い。前記段階の持続期間は同じでも又は異なっていてもよく、400℃~600℃の温度範囲での熱処理の総持続期間は40時間~200時間の持続期間である。
【0074】
反応混合物の所望の温度までの加熱は、好ましくは1分当たり1~10℃の加熱速度を用いて行われる。工程b)の過程で温度を変更する場合、温度変更速度は好ましくは1分間に1~10℃である。
【0075】
式(Ic)による組成を有する材料を調製するための特定の方法において、熱処理は、450℃~600℃、好ましくは500℃~550℃の範囲の温度で6日から8日間の持続期間で行われる。
【0076】
式(Id)による組成を有する材料を調製するための特定の方法において、熱処理は、500℃~600℃、好ましくは500℃~550℃の範囲の温度で10~30時間の持続期間を有する第1段階と、続いて、400℃~500℃、好ましくは400℃~450℃の範囲の温度で80~120時間の持続期間を有する第2段階で行われ、第2段階の間は、温度は第1段階の間よりも低い。
【0077】
式(Ie)による組成を有する材料を調製するための特定の方法において、熱処理は、400℃~600℃、好ましくは500℃~550℃の範囲の温度で40から60時間の持続期間で行われる。
【0078】
工程b)の熱処理の持続期間が完了すると、形成された反応生成物は冷却される(工程c)。このようにして、一般式(I)による組成を有する固体材料が得られる。
【0079】
反応生成物の冷却は、1分間に1~10℃の冷却速度を用いて行われるのが好ましい。
【0080】
上記で定義された第2態様による好ましい方法は、以下の工程
d)工程c)で得られた固体材料を、400℃~600℃の温度範囲で、40時間から200時間の持続期間でアニールする工程、
をさらに含む。
【0081】
工程c)で得られた固体材料は、粉砕されてペレットに形成され、工程d)でアニールされてよい。その後、アニールされた材料は、ペレット又はチャンクの形態で得られ、これをさらに処理するために粉体に粉砕することができる。
【0082】
アニーリング(工程d))は、工程c)で得られた固体材料の構造的欠陥を修復するように、及び/又は工程c)で得られた固体材料の材料粒を融合させるように機能する。
【0083】
工程d)の好ましい温度と時間範囲、加熱速度、及び装置に関しては、方法工程b)の上記開示と同様である。
【0084】
工程d)のアニーリング時間が完了すると、アニールされた材料は冷却される。
【0085】
アニーリング処理(工程d)の結果、得られた材料のイオン伝導度が向上することが見い出された。
【0086】
上記で定義された第2態様による好ましい方法は、上記で開示された特定の特徴の1つ以上を有するものである。
【0087】
上記で定義された第2態様による方法によってそれぞれ得られる上記で定義された第1態様による固体材料は、電気化学セル用の固体電解質として使用可能である。ここで、固体電解質は、電気化学セル用の固体構造物の構成要素を形成することができ、前記固体構造物は、カソード、アノード、及びセパレータからなる群から選択される。したがって、上記で定義された第2態様による方法によってそれぞれ得られる上記で定義された第1態様による固体材料は、単独で、又は追加的な構成要素と組み合わせて、電気化学セルの固体構造物、例えばカソード、アノード、又はセパレータを製造するために使用することができる。
【0088】
したがって、本開示は、上記で定義された第2態様による方法によってそれぞれ得られる上記で定義された第1態様による固体材料の電気化学セル用の固体電解質としての使用方法をさらに提供する。より具体的には、本開示は、上記で定義された第2態様による方法によってそれぞれ得られる上記で定義された第1態様による固体材料の電気化学セル用の固体構造物の構成要素としての使用方法をさらに提供し、ここで、前記固体構造物は、カソード、アノード及びセパレータからなる群から選択される。
【0089】
本開示の文脈では、放電の間に正味の負電荷が生じる電極をアノードと称し、及び放電の間に正味の正電荷が生じる電極をカソードと称する。セパレータは、カソードとアノードを相互から、電気化学セル内で電気的に分離する。
【0090】
全固体状態の電気化学セルのカソードは通常、活性カソード材料の他に、さらなる構成要素として固体電解質を含む。また、全固体状態の電気化学セルのアノードは通常、さらなる構成要素として固体電解質を、活性アノード材料の他に含む。
【0091】
電気化学セル、特に全固体リチウム電池の固体構造物の形態は、特に製造される電気化学セル自体の形態に依存する。
【0092】
本開示は、電気化学セル用の固体構造物をさらに提供し、該固体構造物は、カソード、アノード及びセパレータからなる群から選択され、該電気化学セル用の固体構造物は、上記で定義された第2態様による方法によってそれぞれ得られる上記で定義された第1態様による固体材料を含む。より具体的には、上記で定義された第2態様による方法によってそれぞれ得られる上記で定義された第1態様による固体材料が、リチウム金属と直接接触する、上記で定義さでれた固体構造物が提供される。
【0093】
本開示はさらに、上記で定義された第2態様による方法によってそれぞれ得られる上記で定義された第1態様による固体材料を含む電気化学セルを提供する。前記電気化学セルにおいて、上記で定義された第2態様による方法によってそれぞれ得られる上記で定義された第1態様による固体材料は、カソード、アノード及びセパレータからなる群から選択される1つ以上の固体構造物の構成要素を形成し得る。より具体的には、特定の好ましい態様では、上記で定義された第2態様による方法によってそれぞれ得られる上記で定義された第1態様による固体材料が、リチウム金属と直接接触し得る、上記で定義された電気化学セルが提供される。
【0094】
上記で定義された電気化学セルは、以下の構成要素、
α)少なくとも1つのアノード、
β)少なくとも1つのカソード、
γ)少なくとも1つのセパレータ、
を含む再充電可能な電気化学セルであり、上記3つの構成要素の少なくとも1つは、上記で定義された第2態様による方法によってそれぞれ得られる上記で定義された第1態様による固体材料を含むカソード、アノード、及びセパレータからなる群から選択される固体構造物である。
【0095】
適切な電気化学的に活性なカソード材料、及び適切な電気化学的に活性なアノード材料は、当技術分野で知られている。上述の電気化学セルにおいて、アノードα)は、黒鉛カーボン、金属リチウム、又はリチウムを含む金属合金を、アノード活材料として含んでよい。リチウム金属との直接接触における優れた電気化学的安定性により、所定の好ましい場合では、上記で定義された固体構造において、上記で定義された第2態様による方法によってそれぞれ得られる上記で定義された第1態様による固体材料は、リチウム金属を含むアノードと直接接触してもよく、そのため、それらの間に保護層が必要とされない。
【0096】
上述の電気化学セルは、アルカリ金属含有セル、特にリチウムイオン含有セルであり得る。リチウムイオン含有セルでは、電荷の輸送は、Liイオンによって行われる。
【0097】
電気化学セルは、ディスク状又はプリズム状の形状を有することができる。電気化学セルは、スチール製、又はアルミニウム製であることが可能なハウジングを含むことができる。
【0098】
複数の上述の電気化学セルは、全固体状態電池と組み合わされてよく、該全固体状態電池は固体電極と固体電解質の両方を有する。本開示のさらなる態様は、電池、より具体的にはアルカリ金属イオ電池、特に上述の少なくとも1つの電気化学セル、例えば上述のような2つ以上の電気化学セルを含むリチウムイオン電池に関する。上述の電気化学セルは、アルカリ金属イオン電池中で、例えば直列接続で、又は並列接続で相互に接続されることが可能である。直列接続が好ましい。
【0099】
本明細書に記載される電気化学セル、それぞれ電池は、自動車、コンピュータ、携帯情報端末、携帯電話、時計、ビデオカメラ、デジタルカメラ、温度計、電卓、ラップトップBIOS、通信装置、又は遠隔カーロックなどを作るため又は操作するために使用することができ、ならびに、例えば発電所のエネルギー貯蔵装置などの固定用途に使用することができる。本開示のさらなる態様は、少なくとも1つの本発明の電池又は少なくとも1つの本発明の電気化学セルを採用することにより、自動車、コンピュータ、携帯情報端末、携帯電話、時計、ビデオカメラ、デジタルカメラ、温度計、電卓、ラップトップBIOS、通信装置、遠隔カーロックなどを作るため又は操作するための方法、ならびに、例えば発電所のエネルギー貯蔵装置などの固定用途のための方法である。
【0100】
本開示のさらなる態様は、自動車、電気モーターによって操作される自転車、ロボット、航空機(例えば、ドローンを含む無人航空車両)、船舶又は固定エネルギー貯蔵における上述の電気化学セルの使用方法である。
【0101】
本開示は、上述の少なくとも1つの本発明の電気化学セルを含む装置をさらに提供する。好ましくは、車両などのモバイル装置、例えば自動車、自転車、航空機、又はボート又は船などの水上車両である。モバイル装置の他の例としては、持ち運びが可能なものであって、例えば、コンピュータ、特にラップトップ、電話機、又は、例えば建設分野からの電動工具、特にドリル、バッテリー駆動のスクリュードライバー、又はバッテリー駆動のタッカーなどである。
【0102】
本発明を以下の実施例を使用して更に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例
【0103】
1.材料の調製
工程a)
式(I)による組成を有する比較用材料の調製のために、前駆体(それぞれ粉末状)
(1)Li
(2)Sb
(3)LiI
(4)元素硫黄S
(5)任意に、元素Si、GeS及びSnSの1つ
を含む反応混合物を、保護ガス雰囲気下、乳鉢中で粉砕することにより、目標の化学量論比に従って、それぞれ前駆体(1)~(4)、又は(1)~(5)を混合することによって調製した。
【0104】
比較用材料の調製のために、前駆体(それぞれ粉末状)
(1)Li
(2)P及び任意でSb
(3)LiI
(4)元素硫黄S(反応混合物がSbを含む場合)
を含む反応混合物を、保護ガス雰囲気下、乳鉢中で、目標の化学量論比に従って、前駆体(1)~(4)を混合することによって調製した。
工程b)とc)
工程a)で調製された各反応混合物は、工程b)で熱処理されるペレットに形成した。熱処理のために、ペレット化された反応混合物のそれそれを、真空下で密閉された石英管内のガラス状炭素るつぼに入れた。
【0105】
前駆体(5)がSiである反応混合物を、それぞれ500℃で7日間(0<x<0.5、xは式(I)について上記で定義されたのと同じ意味を有する)、550℃で7日間(0.5≦x≦0.7、xは式(I)について上記で定義されたのと同じ意味を有する)熱処理した。
【0106】
前駆体(5)がGeSである反応混合物を、第1段階で550℃で20時間熱処理した後、5℃/分の温度変速度で450℃まで温度をシフトさせ、第2段階で450℃で100時間熱処理した。
【0107】
前駆体(5)がSnSである反応混合物を500℃で50時間熱処理した。
【0108】
前駆体(5)を含まない反応混合物を500℃で100時間熱処理した。
【0109】
いずれの場合も毎分5℃の加熱速度を使用して、反応混合物を所望の温度まで加熱した。
【0110】
工程b)の上記所定の熱処理期間が終了したとき、形成された反応生成物を5℃/分の温度変化速度で室温まで冷却した(工程c))。このようにして、それぞれ一般式(I)による組成を有する固体材料が得られた。
工程d)
工程c)で得られたM=Siである固体材料のいくつか(詳細は以下を参照)を粉砕し、それぞれをペレット状にして、工程d)のアニーリングを行った。
【0111】
材料を500℃で7日間アニールした。いずれの場合も毎分5℃の加熱速度を使用して、所望の温度まで材料の加熱を行った。
【0112】
得られた材料の組成の詳細については、以下の表1を参照されたい。
【0113】
得られた材料は、ペレット又はチャンクの形態であり、その後、さらなる処理のために粉末に粉砕した。
【0114】
2.イオン伝導度
イオン伝導度は電気化学インピーダンス分光法(EIS)によって測定した。通常、材料の粉末150~200mgを2本のステンレス鋼棒の間に置き、アルゴンで充填したグローブボックス内で、3メートルトンの水圧プレスにより3分間、直径10mmのペレットにプレスした。VMP3ポテンショスタット/ガルバノスタット(Bio-Logic)を用いて、1MHz~10mHzの周波数範囲内で100mVの振幅で、EIS実験を行った。
【0115】
すべてのサンプルの25℃で測定されたリチウムイオン伝導度を以下の表1に示す。
【0116】
組成がLiPSI、LiSb0.10.9I、LiSb0.30.7I、LiSb0.50.5I、LiSb0.80.2Iの材料は、比較用材料である。興味深いことに、アンチモンによるリンの部分的な置換は、Sb:Pのモル比が1:1以下の場合にイオン伝導度の低下をもたらす。確かに、この発見は、実際にはアンチモンによるリンの置換を否定するものである。驚くべきことに、モル比Sb:Pをさらに増加させると、この傾向は逆転し、PをSb(組成LiSbSI)で完全に置換した場合は、組成LiPSIを有する材料と比較して、イオン伝導度がほぼ1桁増加する。SbをSi,Ge又はSnで部分的に置換すると、イオン伝導度がさらに増加するが、Siが最も大きい効果を有し、Snは最も小さい。さらに、表1から明らかなように、アニーリング処理(上述の工程d))を行うと、アニーリング工程d)を行わずに調製した同一組成を有する対応する材料と比較して、イオン伝導度が増加した。
【0117】
【表1】
【0118】
3.リチウムに対する安定性
Li6.7Si0.7Sb0.3I粉末80mgをポリ(エーテルエーテルケトン)シリンダーに充填し、3メートルトンで1分間コールドプレスして、直径10mmのペレットを得た。ペレットの両面に、直径10mmのLi箔(99.9%、Sigma-Aldrich)を貼り付けて、固体状態のLi|Li6.7Si0.7Sb0.3I|Liの対称セルを得た。次に、ステンレス鋼フレームワークのスクリューを用いて、4Nmのトルクでセルを一定の一軸圧力で加圧した。
【0119】
固体電解質Li6.7Si0.7Sb0.3Iの安定性を評価するために、固体状態のLi|Li6.7Si0.7Sb0.3I|Li対称セルを異なる電流と容量(0.3mA/cmと0.3mAh/cmで600時間;その後0.6mA/cm、0.6mAh/cmでさらに430時間)で循環させた。図1から明らかなように、実質的に安定した電圧プロファイルが得られた。これは、上述したような対称セル内での剥離及びメッキの条件下で、少なくとも約1,000時間の持続期間にわたってリチウム金属と直接接触している研究対象の固体電解質の電気化学的安定性を示す。
【0120】
4.構造解析
PIXcel二次元検出器を装備した、Cu-Kα線を有するPANalytical Empyrean回折計を用いて、室温で粉末X線回折(XRD)測定を行った。アルゴン下で0.3mmのガラス毛細管に封入した試料により、相同定のためのXRDパターンが、Debye-Scherrerジオメトリー内に得られた。
【0121】
それぞれM=Si、Ge又はSnである式(I)による組成を有する、いくつかの固体材料のXRDパターンを、図2a及び図2bに示す。いずれの場合も、他のほとんどの硫銀ゲルマニウム鉱で適応されている立方体空間群F-43mを指標とした。
【0122】
図2aのXRDパターンは、M=Siである式(I)による組成を有する固体材料が多結晶粉末であり、式(I)による組成を有する材料の他に、非常にわずかな割合のLiI及びLiSが存在することを示している。Si(パラメータx)の量を増加させると、前記二次相(主に前駆体であるLiI及びLiSに由来する)の割合が増加する。
【0123】
M=Siの固体材料のXRDパターンでは、Si4+の含有量の増加と共に、硫銀ゲルマニウム鉱のピークがより小さいd間隔(結晶面間の距離)にシフトしている(図2aの拡大図参照)。これは、Sb5+がより小さなSi4+イオンで正常に置換されたことを示している。
【0124】
図2bのXRDパターンは、M=Geである式(I)による組成を有する材料は、相純度の高い多結晶粉末であり、M=Snである式(I)による組成を有する材料はXRDパターンに微量の未知の不純物とLiIを伴っていることを示している。
図1
図2