(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-18
(45)【発行日】2025-02-27
(54)【発明の名称】ポリフェノール誘導体の製造方法、ポリフェノール誘導体、及びポリフェノール誘導体含有樹脂組成材料
(51)【国際特許分類】
C08H 7/00 20110101AFI20250219BHJP
C08L 97/00 20060101ALI20250219BHJP
【FI】
C08H7/00
C08L97/00
(21)【出願番号】P 2020571310
(86)(22)【出願日】2020-02-07
(86)【国際出願番号】 JP2020004946
(87)【国際公開番号】W WO2020162621
(87)【国際公開日】2020-08-13
【審査請求日】2022-10-27
(31)【優先権主張番号】P 2019021762
(32)【優先日】2019-02-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成30年度、国立研究開発法人科学技術振興機構戦略的創造研究推進事業(先端的低炭素化技術開発)「天然多環芳香族からの単環芳香族の単離・製造技術開発」に係る委託事業、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000183646
【氏名又は名称】出光興産株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】弁理士法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小山 啓人
(72)【発明者】
【氏名】田代 裕統
【審査官】三宅 澄也
(56)【参考文献】
【文献】特開昭61-261358(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0115653(US,A1)
【文献】国際公開第2013/068092(WO,A1)
【文献】特開2010-184233(JP,A)
【文献】特開2015-048359(JP,A)
【文献】特開2016-050200(JP,A)
【文献】特開2014-037354(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G
C08H
C08L
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リグニン含有組成物と下記式(1)で表されるフェノール化合物とを、溶媒中、反応温度140℃超及び300℃以下、反応時間0.5時間以上10時間以下、反応圧力0.1MPa以上5.8MPa以下で反応させる工程を有する、リグニン誘導体の製造方法であって、
前記リグニン含有組成物が、第2世代エタノール糖化残渣及び第2世代エタノール発酵残渣のいずれか1種以上であり、
前記リグニン含有組成物中のリグニンに対する前記フェノール化合物の質量比[フェノール化合物/リグニン]が0.1~2であり、
前記溶媒が、有機溶媒及び水を含み、
前記有機溶媒が、
メタノール、エタノール、及びイソプロピルアルコールから選択される1種以上を含み、
前記有機溶媒と前記水との質量比[有機溶媒:水]が、95:5~50:50である、リグニン誘導体の製造方法。
【化1】
前記式(1)において、R
1及びR
2は、それぞれ独立して、同一でも異なっていてもよい、水素原子、水酸基又は炭素数1~15のアルキル基を示す。
【請求項2】
前記フェノール化合物及び前記溶媒の合計量に対し、前記フェノール化合物を10~50質量%用いる、請求項
1に記載のリグニン誘導体の製造方法。
【請求項3】
前記リグニン含有組成物中のリグニンに対する前記フェノール化合物の質量比[フェノール化合物/リグニン]が0.1~1.2である、請求項1
又は2に記載のリグニン誘導体の製造方法。
【請求項4】
前記反応が、無触媒、又は、前記リグニン含有組成物中のリグニン及び前記フェノール化合物の合計量に対し0超~5.0質量%の酸触媒の存在下で行われる、請求項1~
3のいずれか1項に記載のリグニン誘導体の製造方法。
【請求項5】
前記反応が、無触媒、又は、前記リグニン含有組成物中のリグニン及び前記フェノール化合物の合計量に対し0.1~3.0質量%の酸触媒の存在下で行われる、請求項1~
4のいずれか1項に記載のリグニン誘導体の製造方法。
【請求項6】
前記反応が、反応圧力0.1MPa以上2.6MPa以下で行われる、請求項1~
5のいずれか1項に記載のリグニン誘導体の製造方法。
【請求項7】
前記反応が、反応温度140℃超及び250℃以下で行われる、請求項1~
6のいずれか1項に記載のリグニン誘導体の製造方法。
【請求項8】
前記反応が、反応時間1時間以上8時間以下で行われる、請求項1~
7のいずれか1項に記載のリグニン誘導体の製造方法。
【請求項9】
さらに固液分離工程を有する、請求項1~
8のいずれか1項に記載のリグニン誘導体の製造方法。
【請求項10】
請求項1~
9のいずれか1項に記載のリグニン誘導体の製造方法によって製造される、リグニン誘導体であって、
前記リグニン誘導体が、重量平均分子量が5000未満であり、分子量LogM2.15~2.20の存在率が0.7質量%未満である、リグニン誘導体。
【請求項11】
請求項1~
9のいずれか1項に記載のリグニン誘導体の製造方法で製造されるリグニン誘導体、及び請求項
10に記載のリグニン誘導体のうちいずれか1以上のリグニン誘導体を含む、リグニン誘導体含有材料。
【請求項12】
請求項1~
9のいずれか1項に記載のリグニン誘導体の製造方法で製造されるリグニン誘導体、及び請求項
10に記載のリグニン誘導体のうちいずれか1以上のリグニン誘導体を含む、リグニン誘導体含有樹脂組成材料。
【請求項13】
熱硬化性樹脂及びアルデヒド類のいずれか1種以上をさらに含有する、請求項
12に記載のリグニン誘導体含有樹脂組成材料。
【請求項14】
請求項
12及び
13のいずれかに記載のリグニン誘導体含有樹脂組成材料のうちいずれか1以上を用いてなる、成形品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリフェノール誘導体の製造方法、ポリフェノール誘導体、及びポリフェノール誘導体含有樹脂組成材料に関する。
【背景技術】
【0002】
温室効果ガス削減の観点からカーボンニュートラルである植物由来物質のプラスチック材料への利用が期待されている。植物由来物質には、主として糖由来のセルロース、ヘミセルロース、さらにリグニン等のポリフェノールが含まれる。このうち、リグニン等のポリフェノールは、芳香環や、脂肪族水酸基及び芳香族水酸基を有していることからプラスチック材料として有用利用が望まれる。しかし、(a)簡便で経済的なリグニン等のポリフェノールの分離精製手法が確立されていないこと、及び(b)リグニン等のポリフェノールは生分解されにくく、溶剤に殆ど溶けず、また軟化点が高いため取り扱いにくいだけでなく、既存のプラスチック材料との反応性に乏しいこと、のこれら(a)及び(b)の2つの問題がありリグニン等のポリフェノールの、プラスチック材料としての用途が殆ど見出されていない。そのため、リグニン等のポリフェノールをプラスチック材料として好適なものとするため適切な分離精製を行い、改質を施し、さらにこの改質したリグニン等のポリフェノールを利用する技術の検討がなされている。
【0003】
バイオマス残渣からのリグニン等のポリフェノールの分離に関し、古くはパルプ工業の残渣である黒液からのリグニン等のポリフェノールの分離が挙げられる。しかし、黒液は無機塩等の夾雑物が多いため、燃料等の産業上価値の低いものへ利用されていた。最近は特許文献1の様にPEG(ポリエチレングリコール)等を黒液に含まれるリグニンに反応させる等の変性を行って分離し、産業上の価値を向上させる取り組みが知られている。
さらに、分離されたリグニン等の利用に関しては、例えば、特許文献2にはリグニンを低分子化することなくベンゾオキサジン骨格をリグニンへ導入して反応性を付与させた変性リグニン、及び当該変性リグニンを含有することにより成形品の機械的強度等を向上させた成形材料に関する技術が開示されている。
また、特許文献3では、リグニンとフェノール類を触媒の存在下で反応させてフェノール化した後、アルカリと共に加熱することでアルカリ化リグニンとし、さらにそこへアルデヒド類を加えることでヒドロキシメチル化リグニンとしてリグニンの反応性を上げる技術、及び当該反応性を上げたリグニンを結合剤組成物へ利用する技術が開示されている。
また、特許文献4にはリグニン、フェノール類及びアルデヒド類を酸の存在下で反応させる製法により、硬化性を向上させて樹脂強度を改良させたフェノール変性リグニン樹脂等が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特表2015-519452号公報
【文献】特許5671430号公報
【文献】特表2016-540058号公報
【文献】国際公開第2015/147165号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
リグニン等のポリフェノールをプラスチック材料として利用することで上記の様に温室効果ガスの低減を目指す場合、(i)安価で、(ii)大量に用意でき、(iii)容易に樹脂と混合し、(iv)容易に樹脂と反応する、これら4つの条件を満たさなければならないという課題がある。しかしながら、現行のリグニン原料と目されるパルプ産業から排出された黒液等から得られるサルファイトリグニンやクラフトリグニン、ソーダリグニンは(i)及び(ii)の条件は満足できるものの、サルファイトリグニンは含有硫黄濃度が高いことから(iv)が困難であり、水溶性であるため(iii)も思わしくない。また、クラフトリグニン、ソーダリグニンも分子量が高いため(iii)及び(iv)を達成することができない。最近、有機溶媒に可溶なオルガノソルブリグニン(特許文献1のPEGリグニンもその一例である)が報告され、上記の課題を克服できるとされているが、(i)及び(ii)の解決に問題がある。
【0006】
そこで本発明は、既存のプラスチック材料との反応性を向上し、樹脂との相容性が良好であり、さらに曲げ強度等の物性が向上した成形品を与えることができるポリフェノール誘導体を安価に製造する方法、上記成形品を与えることができるリグニン誘導体及びリグニン誘導体含有樹脂組成材料を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、本発明者らは溶媒中でオルト-パラ配向性基を有する芳香族化合物をバイオマス等のポリフェノール含有組成物に作用させることでポリフェノール誘導体としてポリフェノールを分離するとともに、ポリフェノール由来軽質成分の削減、さらには低分子量化を一つの反応で達成することで、上記課題を解決できることを見出した。
すなわち、本発明は下記のとおりである。
【0008】
[1]ポリフェノール含有組成物とオルト-パラ配向性を有する芳香族化合物を溶媒中で反応させる工程を有するポリフェノール誘導体の製造方法。
[2]重量平均分子量が5000未満であり、分子量LogM2.15~2.20の存在率が0.7質量%未満であるリグニン誘導体。
[3]前記ポリフェノール誘導体の製造方法で製造されるリグニン誘導体又は前記リグニン誘導体を含むリグニン誘導体含有樹脂組成材料。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、既存のプラスチック材料との反応性を向上し、樹脂との相容性が良好であり、さらに曲げ強度等の物性が向上した成形品を与えることができるポリフェノール誘導体を安価に製造する方法、上記成形品を与えることができるリグニン誘導体及びリグニン誘導体含有樹脂組成材料を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[ポリフェノール誘導体の製造方法]
本発明のポリフェノール誘導体の製造方法は、ポリフェノール含有組成物とオルト-パラ配向性基を有する芳香族化合物を溶媒中で反応させる工程を有する。
ここで、本発明において「ポリフェノール誘導体」とは、ポリフェノール含有組成物に含まれるポリフェノールが芳香族化合物と反応することにより得られるポリフェノール由来の反応物をいう。
本発明においてポリフェノール含有組成物におけるポリフェノールとしては、褐炭、リグニン、タンニン、カテキン、アントシアニン、ルチン、イソフラボン、リグナン、クルクミン、及びクロロゲン酸等が挙げられる。
【0011】
特に本発明のポリフェノール誘導体の製造方法において、上記ポリフェノール含有組成物中に含まれるポリフェノールは、プラスチック材料としての有用性の観点から、リグニンであることが好ましい。したがって、上記ポリフェノール誘導体は、好ましくはリグニン誘導体である。
以下本明細書において、上記ポリフェノール含有組成物中に含まれるポリフェノールがリグニンであって、ポリフェノール誘導体がリグニン誘導体である場合を例にして具体的に説明するが、本発明のポリフェノール誘導体の製造方法はこれらリグニン及びリグニン誘導体に限定されるものではない。
【0012】
ここでリグニンとは、p-ヒドロキシケイ皮アルコール類である3種類のリグニンモノマーが重合した高分子化合物であり、下記式(2)で表される基本骨格を有する。
【0013】
【0014】
上記式(2)において、置換基であるR3及びR4は水素原子又はメトキシ基を示す。R3及びR4の両方が水素原子のものはp-ヒドロキシフェニル核(H型骨格)、R3及びR4のいずれか一方が水素原子のものはグアイアシル核(G型骨格)、R3及びR4の両方が水素原子でないものはシリンギル核(S型骨格)と称される。
なお、上記式(2)中のXは炭素原子、Yは水素又は炭素原子に結合していることを示す。
【0015】
リグニンの基本骨格においてR3及びR4と結合する炭素原子が反応性の高い反応点(以下、単に「反応点」と称すことがある。)となるが、R3及びR4がメトキシ基である場合当該炭素原子の反応性が乏しくなる。そのためリグニンを反応させるためには、R3及びR4は水素原子であることが望ましい。
また、リグニンには上記芳香族部位だけではなく脂肪族部位も存在し、脂肪族部位に存在する水酸基は酸化安定性に乏しい(脂肪族水酸基は酸化によりアルデヒドやカルボン酸に変化する)。そのため、脂肪族部位に存在する水酸基は、できるだけ少ない方が既存プラスチック材料との反応性が好適である。
さらに、リグニン誘導体は、分子量を大きく降下させることなく低軟化点化させることで混合性が向上し、既存プラスチック材料との反応性が向上する。
すなわち、リグニン誘導体は、反応性に富むH型骨格、G型骨格、これら2種の骨格が多く存在するものとし、脂肪族水酸基が少なく、さらに好ましくは分子量を大きく降下させずに低軟化点化できれば、反応性に富みプラスチック材料として好適なものとなる。
そこで本発明の製造方法では、ポリフェノール含有組成物と芳香族化合物を溶媒中で混合させることで、ポリフェノール含有組成物中の上記式(2)で表されるリグニン基本骨格における置換基R3及びR4が芳香族化合物へ転移する置換反応を利用し、上記プラスチック材料に好適なリグニン誘導体を得るものである。
【0016】
≪反応工程≫
〈ポリフェノール含有組成物〉
本発明のポリフェノール誘導体の製造方法において、原料として用いられるポリフェノール含有組成物として、バイオマス及びバイオマス残渣のいずれか1種以上を使用することができる。
バイオマス残渣としては、木本系バイオマス及び草本系バイオマスの植物系バイオマス由来のものが挙げられる。
またバイオマス残渣としては、リグノセルロース系バイオマスの糖化残渣及び発酵残渣(第2世代エタノール糖化残渣及び第2世代エタノール発酵残渣)、黒液(サルファイトリグニン、クラフトリグニン、ソーダリグニン等)、及びタンニン等が挙げられ、これらのいずれか1種以上を使用することができる。これらの中でも、入手容易性、ポリフェノール誘導体の品質、及び経済性の観点から、ポリフェノール含有組成物として、第2世代エタノール糖化残渣及び第2世代エタノール発酵残渣のいずれか1種以上を使用することができる。
【0017】
(リグノセルロース系バイオマス)
非食系植物バイオマスとしては、木本系バイオマス、草本系バイオマスが挙げられる。木本系バイオマスとしては、スギ、ヒノキ、ヒバ、サクラ、ユーカリ、ブナ、タケ等の針葉樹、広葉樹が挙げられる。
草本系バイオマスとしては、パームヤシの樹幹・空房、パームヤシ果実の繊維及び種子、バガス(さとうきび及び高バイオマス量さとうきびの搾り滓)、ケーントップ(さとうきびのトップ及びリーフ)、エナジーケーン、稲わら、麦わら、トウモロコシの穂軸・茎葉・残渣(コーンストーバー、コーンコブ、コーンハル)、ソルガム(スイートソルガムを含む)残渣、ヤトロファ種の皮及び殻、カシュー殻、スイッチグラス、エリアンサス、高バイオマス収量作物、エネルギー作物等が挙げられる。
これらのなかでも、入手容易性や本発明において適用する製造方法との適合性の観点から、草本系バイオマスであることが好ましく、パームヤシの空房、麦わら、トウモロコシの穂軸・茎葉・残渣(コーンストーバー、コーンコブ、コーンハル)、バガス、ケーントップ、エナジーケーン、それら有用成分抽出後の残渣がより好ましく、トウモロコシの穂軸・茎葉・残渣(コーンストーバー、コーンコブ、コーンハル)、バガス、ケーントップ、エナジーケーンがより好ましい。なお、上記有用成分には、例えば、ヘミセルロース、糖質、ミネラル、水分等が含まれる。
バガスには、5~30質量%程度のリグニンが含まれる。また、バガス中のリグニンは基本骨格として、H核、G核及びS核の全てを含む。
植物系バイオマスは、粉砕されたものを用いることもできる。また、ブロック、チップ、粉末、また水が含まれた含水物のいずれの形態でもよい。
【0018】
バガスやコーンストーバー等に、オルガノソルブ法、加圧熱水法、水蒸気爆砕法、アンモニア処理法、アンモニア爆砕法、酸処理法、アルカリ処理法、酸化分解法、熱分解及びマイクロ波加熱法等の処理をして、好ましくは酸処理やアンモニア爆砕や水蒸気爆砕等の処理をして、溶液側へヘミセルロースを分離した後、酵素によってセルロースをグルコースとしてこれも溶液側へ分離する、もしくはヘミセルロースを分離しないままセルロースと共に糖化して溶液側へ分離し、残った固体が第2世代エタノール糖化残渣である。もしくは糖類を分離せずに、発酵によりエタノールとして溶液側へ分離し、残った固体が第2世代エタノール発酵残渣である。
第2世代エタノール糖化残渣は、リグニンを主成分とし、分解有機物や触媒、酵素、灰分、セルロース等が含まれている。また、第2世代エタノール発酵残渣は、リグニンを主成分とし、分解有機物や触媒、酵素、酵母、灰分、セルロース等が含まれている。
【0019】
本発明の製造方法のより具体的な実施の態様例は後述の実施例に示すが、例えば次のとおりである。第2世代エタノール糖化残渣及び第2世代エタノール発酵残渣のいずれか1種以上を原料とし、溶媒及び芳香族化合物を添加する。約2~4時間加熱を継続した後、加熱液は不溶物を含んでいるため、No.2濾紙を用いて熱時濾過する。濾過固体は未反応物と無機夾雑物である。濾過液は減圧下で蒸留し、溶媒及び未反応芳香族化合物を除去する。蒸留で除去しきれない芳香族化合物は真空乾燥、あるいは必要に応じてアセトンに溶解させ、貧溶媒である水で再沈殿等を繰り返すことで除去される。分離される固体は既に改質されたリグニン誘導体である。蒸留時に残る芳香族化合物が後反応で問題にならなければそのままプラスチック材料として使用することも可能である。
【0020】
また、原料として用いられるポリフェノール含有組成物として、非食系植物バイオマスからオルガノソルブ法、加圧熱水法、水蒸気爆砕法、アンモニア処理法、アンモニア爆砕法、酸処理法、アルカリ処理法、酸化分解法、熱分解及びマイクロ波加熱法等の処理をして、分離したリグニンを用いることもできる。具体的には、例えば、有機溶媒又は有機溶媒及び水を含む溶媒を用い、高温で処理することで非食系植物バイオマスに含まれるリグニンを溶媒に溶出させ、当該リグニン含有溶液を濾過してセルロース等を除去した後、溶液を濃縮、乾固することにより、分離したリグニンを用いることもできる。
【0021】
〈芳香族化合物〉
オルト-パラ配向性基を有する芳香族化合物(以下、単に「芳香族化合物」と称すことがある。)としては、1つ以上のオルト-パラ配向性基を有する芳香族化合物であればよい。
オルト-パラ配向性基としては、電子供与性置換基であり、水酸基、メトキシ基、脂肪族炭化水素基、アミノ基、ハロゲン基等の官能基が挙げられ、好ましくは水酸基である。すなわち、芳香族化合物は、フェノール化合物であることが好ましい。
また芳香族化合物は、オルト-パラ配向性基に対する置換基の位置である2位、4位及び6位のうち少なくとも1つが水素原子であり、好ましくは下記式(A)で表されるものが挙げられる。
【0022】
【0023】
上記式(A)において、Wはオルト-パラ配向性基であり、R1及びR2はそれぞれ独立して、水素原子、水酸基又は炭素数1~15のアルキル基を示し、R1及びR2は同一でも異なっていてもよい。
炭素数1~15のアルキル基としては、直鎖状であってもよく分岐状であってよい。炭素数1~15のアルキル基として好ましくは炭素数1~15の直鎖状又は分岐状のアルキル基であり、より好ましくは炭素数1~5の直鎖状又は分岐状のアルキル基であり、さらに好ましくは炭素数1~3の直鎖状のアルキル基である。
上記式(A)で表される芳香族化合物としては、フェノール、アニソール、トルエン、エチルベンゼン、n-プロピルベンゼン、イソプロピルベンゼン、n-ブチルベンゼン、イソブチルベンゼン、t-ブチルベンゼン、アニリン、-メチルアニリン、N,N-ジメチルアニリン、クロロベンゼン、m-クレゾール、p-クレゾール、o-クレゾール、m-メトキシフェノール、m-キシレン、1,3-ジエチルベンゼン、3-メチルアニリン,3-メチル-N-メチルアニリン、3-メチル-N,N-ジメチルアニリン、m-ジクロルベンゼン、m-クロロトルエン、3,5-ジメチルフェノール、3,5-ジメチルアニソール、メシチレン、3,5-ジメチルアニリン、3,5-ジメチル-N-メチルアニリン、3,5-ジメチル-N,N-ジメチルアニリン、3-クロロ-m-キシレン、3,5-ジクロロトルエン等が挙げられる。
【0024】
[フェノール化合物]
上記したように芳香族化合物は、オルト-パラ配向性基が水酸基であるフェノール化合物であることが好ましい。
またフェノール化合物としては、水酸基に対する置換基の位置である2位、4位及び6位のうち少なくとも1つが水素原子であるフェノール化合物であることが好ましい。
上記2位、4位及び6位の位置(即ち、オルト位及びパラ位)が水素原子であるフェノール化合物は、その配向性によりリグニンとの置換反応による置換基の受け皿として特に好適である。その理由は、ポリフェノール含有組成物とフェノール化合物を溶媒中で混合させることで、ポリフェノール含有組成物中の前述の式(2)で表されるリグニンの基本骨格におけるR3及びR4の置換基が、フェノール化合物の上記2位又は4位又は6位へ転移するからである。当該置換反応により、上記リグニンのR3又はR4又は両方が水素原子となり、前述の反応点が増加したリグニン誘導体とすることができる。
したがって、当該置換反応によりリグニン中のS型骨格が減少し、G型骨格及びH型骨格が増加して反応性が改善される。また、前述のとおり当該置換反応によりリグニンの分子鎖が改変されることで分子量の低下が起こり、かつ、リグニン誘導体の混合性が改良されることとなる。
フェノール化合物は、1種又は2種以上を併用してもよい。
【0025】
また、フェノール化合物は、上記式(A)におけるWが水酸基である、下記式(1)で表される化合物であることが好ましい。当該フェノール化合物であることにより、上記置換基の受け皿が少なくとも3箇所となるため置換反応を良好に進行させることができる。
【0026】
【0027】
上記式(1)において、R1及びR2は上記式(A)におけるR1及びR2と同義である。
上記式(1)で表されるフェノール化合物としては、フェノール、レゾルシノール、フロログルシン、m-クレゾール、3-エチルフェノール、及び3-プロピルフェノール等の3-アルキルフェノール;5-メチルレゾルシノール、5-エチルレゾルシノール、及び5-プロピルレゾルシノール等の5-アルキルレゾルシノール;3,5-ジメチルフェノール、3-メチル-5-エチル-フェノール、及び3,5-ジエチルフェノール等の3,5-ジアルキルフェノール等が挙げられる。
【0028】
また、フェノール化合物が複数の水酸基を有することにより化合物の酸性度が上がり、触媒不要で反応が進行することが期待できる観点から、R1及びR2のうち少なくとも一方が水酸基であるフェノール化合物を使用することができる。このようなフェノール化合物として具体的には、レゾルシノール、フロログルシン、5-アルキルレゾノシノール(5-メチルレゾルシノール、5-エチルレゾルシノール等)等が挙げられる。
【0029】
〈溶媒〉
ポリフェノール含有組成物と芳香族化合物の反応は、溶媒中で行われる。
ポリフェノール含有組成物中のポリフェノールは芳香族化合物と反応するが、該反応において溶媒を用いない場合反応は進行するものの、溶媒を用いる場合と比べて芳香族化合物の使用量が多くなる。また、溶媒を用いることによってポリフェノールの溶解性が高まるため上記反応が好適に進行し、芳香族化合物の使用量が比較的少なくても極端な収率低下のおそれが生じることなく、一定以上の収率を実現でき経済性の観点からも好ましい。
【0030】
溶媒としては、原料中のリグニン等のポリフェノールの溶解性を上げる観点から、極性溶媒を含むことが好ましい。また、溶媒は原料中のリグニン等のポリフェノールの溶解性及び経済性の観点から、アルコール類、ケトン類、エーテル類、芳香族類、及び水のいずれか1種以上を含むことが好ましい。これら溶媒は、具体的には、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等のアルコール類、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類、テトラヒドロフラン等のエーテル類、及び芳香族類等の有機溶媒、及び水のいずれか1種以上である。
上記有機溶媒は、軟化点が高くなり過ぎず好適な範囲にしやすく、またリグニン等のポリフェノールの溶解性及び経済性の観点から、炭素数1~6が好ましく、炭素数1~4がより好ましく、炭素数1~3がさらに好ましい。
【0031】
上記溶媒の中でも、リグニン誘導体等のポリフェノール誘導体の低軟化点、高収率及び経済性の観点から、エタノール、アセトン、水のいずれか1種以上を用いることが好ましく、エタノール、水のいずれか1種以上を用いることがより好ましく、エタノール、又は、エタノール及び水の組み合わせを用いることがさらに好ましい。特に、溶媒として水と有機溶媒を併用することにより高収率が期待できる。
有機溶媒と水を併用する場合、リグニン誘導体等のポリフェノール誘導体の低軟化点、高収率及び経済性の観点から、その質量比[有機溶媒:水]は、95:5~5:95が好ましく、95:5~20:80がより好ましく、95:5~30:70がさらに好ましく、95:5~40:60がよりさらに好ましく、95:5~50:50がよりさらに好ましく、90:10~50:50がさらに好ましい。
【0032】
また、芳香族化合物及び溶媒の合計量に対し、芳香族化合物を4~95質量%用いることができる。上記芳香族化合物の使用量が95質量%を超えると、分子量が低下し、強度が低下する方向となり、経済性が低下する。また、上記芳香族化合物の使用量が4質量%以上であれば、リグニン誘導体等のポリフェノール誘導体の軟化点が高くなり過ぎず、樹脂との相容性が良好となって、収率の低下を引き起こすおそれがない。さらに上記芳香族化合物の使用量が4質量%以上であれば、ポリフェノール含有組成物とオルト-パラ配向性基を有する芳香族化合物との溶媒中での反応が効果的に進行することが期待できる。上記芳香族化合物の使用量は、経済性の観点から、10~70質量%が好ましく、10~50質量%がより好ましく、20~40質量%がさらに好ましい。
【0033】
〈質量比[芳香族化合物/リグニン]〉
本発明の製造方法において、ポリフェノール含有組成物中のリグニン等のポリフェノールに対する芳香族化合物の質量比[芳香族化合物/リグニン等のポリフェノール]は通常0.1~15程度であればよい。上記質量比は、経済性及び上述の置換反応を良好に進行させる観点から、0.1~10が好ましく、0.1~5がより好ましく、0.1~4がさらに好ましく、0.1~3がよりさらに好ましく、0.1~2がよりさらに好ましく、0.1~1がよりさらに好ましく、0.1~0.7がよりさらに好ましく、0.1~0.5がよりさらに好ましい。
【0034】
〈酸触媒〉
本発明の製造方法において、ポリフェノール含有組成物と芳香族化合物との反応は、無触媒、又は、ポリフェノール含有組成物中のリグニン等のポリフェノール及び芳香族化合物の合計量に対し好ましくは0超~5.0質量%の酸触媒の存在下、さらには0.1~3.0質量%の酸触媒の存在下で反応が行われることが好ましい。
上述のとおり反応に用いる芳香族化合物によって無触媒で反応を進行させることができる。反応が無触媒で進行することによって、例えば反応工程後の後処理(精製工程)を省略することが可能となり、また得られたポリフェノール誘導体をプラスチック材料として用いた成形品の曲げ強度等の物性向上を期待することができる。
【0035】
また、酸触媒としては、リン酸、リン酸エステル、塩酸、硫酸、及び硫酸エステル等の無機酸、酢酸、ギ酸、シュウ酸、及びp-トルエンスルホン酸等の有機酸等が挙げられる。酸触媒は、1種又は2種以上を併用してもよい。
上記反応に酸触媒を用いる場合、ポリフェノール含有組成物中のリグニン等のポリフェノール及び芳香族化合物の合計量に対し酸触媒の使用量は通常0超であれば特に上限はないが、酸触媒を添加することによる効果を良好に発揮でき、ポリフェノール誘導体中に残存する不純物の観点から通常0.01~5.0質量%の酸触媒の存在下で反応が行われ、0.1~3.0質量%が好ましく、0.2~3.0質量%がより好ましく、0.2~2.6質量%がさらに好ましい。酸触媒の使用量が上記範囲であれば、上述の反応を良好に進行させることができる。酸触媒の使用量が上記範囲を超える場合、ポリフェノール含有組成物としてのバイオマス及びバイオマス残渣に含まれるセルロースやヘミセルロース等の加水分解が進行すると共に硫酸根の濃度が上昇し、不純物が増加することで精製のコストが上昇する恐れがある。
【0036】
〈反応温度及び時間〉
反応温度は通常100℃以上であれば特に限定されないが、通常140℃超及び350℃以下程度であるが、140℃超及び300℃以下が好ましく、140℃超及び270℃以下がより好ましく、140℃超及び250℃以下がさらに好ましく、150~230℃がよりさらに好ましく、180~230℃がよりさらに好ましい。140℃超であればリグニン誘導体を溶解して反応を進行させることができ、また300℃以下であれば逆反応の進行を防ぐことができる。
反応時間は通常0.1~15時間程度であるが、反応が十分に進行し上記ポリフェノールを改質することができる観点から0.5時間以上であることが好ましく、1時間以上であることがより好ましく、また反応時間が長すぎても反応進行が期待できない観点から上限は10時間以下であることが好ましく、1時間以上8時間以下であることがより好ましく、2時間以上8時間以下であることがさらに好ましい。
【0037】
〈反応圧力〉
反応圧力は通常0.05MPa以上であれば特に限定されないが、通常0.1MPa以上及び30MPa以下程度が望ましい。但し、反応系の圧力の好ましい範囲は、溶媒の量と温度によって影響されるため適宜設定すればよい。また、反応は、周囲雰囲気下で行うことができる。なお、反応は、酸化反応による重合を抑えるために、窒素パージを行って酸素を減らした雰囲気下で行われることが特に好ましい。
反応における反応方式に特に制限はないが、静置あるいは撹拌処理を挙げることができる。例えば、一般的な回分式反応器、半回分式反応器などを利用することができる。また、バイオマス及びバイオマス残渣と、溶媒とからなるスラリーをスクリュー又はポンプ等で押し出しながら処理する方式も適用可能である。
【0038】
≪精製工程≫
本発明のポリフェノール誘導体は、上述の反応工程を行うことにより製造される。よって、反応工程を経るポリフェノール誘導体の製造方法で製造されるリグニン誘導体をそのままプラスチック材料として用いることが可能であるが、反応工程の後に精製工程を行ってもよい。例えば、ポリフェノール誘導体の製造方法は、上記反応工程に加え、さらに固液分離工程を有することが好ましい。
〈固液分離〉
上述の反応後、ポリフェノール誘導体は溶媒及び芳香族化合物に溶解しているが、未反応物や無機残渣は固体として液中に存在している。これらは濾過(熱時)により除去することが好ましい。例えば、反応液はNO.5CあるいはNO.2等の濾紙を取り付けた加圧(熱時)濾過器に入れ、20~100℃程度、20~70℃程度、通常20~50℃程度で、0.1~0.99MPa程度、通常0.1~0.4MPa程度で加圧濾過する。濾過固体は適宜溶媒で希釈及び/又は洗浄し、濾過してもよい。当該濾過においてポリフェノール誘導体は濾液中に含まれる。また、例えば、反応生成液を水、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等のアルコール類、テトラヒドロフラン等のエーテル類等の低沸点汎用溶媒のいずれか1種以上で希釈及び/又は洗浄し、固液分離してもよい。当該固液分離においてポリフェノール誘導体は溶液中に含まれる。
固液分離を行う方法は特に限定されないが、濾過、フィルタープレス、遠心分離、脱水機等を挙げることができる。
〈蒸留〉
蒸留は、例えば、上記ポリフェノール誘導体を含有する溶液を、40~200℃程度、通常50~150℃程度の温度、3~20kPa程度、通常5~10kPa程度の減圧下、減圧蒸留して溶媒及び芳香族化合物を除去して行うことができる。当該蒸留においてポリフェノール誘導体は固体として得られる。また、例えば、その他の希釈溶媒を用いる場合は、溶媒の沸点を考慮した適当な温度で、減圧蒸留して低沸点汎用溶媒を除去し、その後、上記と同様の方法で芳香族化合物を除去して行うことができる。当該蒸留においてポリフェノール誘導体は固体として得られる。
〈減圧乾固〉
蒸留により得られたポリフェノール誘導体を、通常50~200℃に加熱して、固体あるいは溶融状態で、真空乾燥することにより、反応後の芳香族化合物を除去して精製してもよい。また、蒸留後の加熱された流動状態にあるポリフェノール誘導体を、そのまま同様の真空乾燥をすることにより、反応後の芳香族化合物を除去して精製してもよい。
〈再沈殿〉
蒸留あるいは減圧乾固により得られたポリフェノール誘導体に芳香族化合物が残留している場合は、さらに上記蒸留により得られたポリフェノール誘導体をアセトン等の溶媒に溶解させ、ポリフェノール誘導体の貧溶媒であるイオン交換水等を加えて再沈殿させることにより反応後の芳香族化合物を除去して精製してもよい。
また、精製工程において、上記濾過、蒸留、減圧乾固及び再沈殿は繰り返し行ってもよく、いずれか1つ又は2つ以上を組み合わせて行ってもよい。
なお、ポリフェノール誘導体中に残留する芳香族化合物は、特に限定されないが、通常30%未満であり、10%未満が好ましく、5%未満がより好ましく、1%未満がさらに好ましい。
【0039】
[ポリフェノール誘導体]
本発明のポリフェノール誘導体は、本発明の効果を損なわない限りにおいてその製造方法に制限はないが、上述のポリフェノール誘導体の製造方法で製造されるポリフェノール誘導体であることが好ましい。
前述したように、リグニンにはH型骨格、G型骨格、及びS型骨格が存在し得る。本発明のポリフェノール誘導体は、31P-NMRで測定される積分値から求めたS型骨格の相対存在率S(%)に対するH型骨格の相対存在率H(%)の2倍及びG型骨格の相対存在率G(%)の合計の比[(2H+G)/S]を2.3以上とすることができ、同じく31P-NMRで測定される積分値から求めた脂肪族水酸基及び芳香族水酸基の存在率の合計に対する該脂肪族水酸基の存在率を27%未満とすることができる。上記比[(2H+G)/S]が2.3以上であれば、既存のプラスチック材料との反応性が良好となる傾向にある。同様に、上記脂肪族水酸基の存在率が27%未満であれば、既存のプラスチック材料との反応性が良好となる傾向にある。
【0040】
また、ポリフェノール誘導体の反応性をさらに向上させ、曲げ強度等の物性が向上した成形品を与えることが期待できる観点から、上記比[(2H+G)/S]は、2.4以上が好ましく、2.5以上がより好ましく、2.6以上がさらに好ましい。上記比[(2H+G)/S]の上限は、本発明の効果を損なわない限りにおいて制限されないが、生産性の観点から10.0以下が好ましく、7.0以下がより好ましく、5.0以下がさらに好ましい。また、同観点から、脂肪族水酸基の上記存在率は、25%未満が好ましく、23%未満がより好ましく、20%未満がさらに好ましく、0%に近付くほど好ましい。
【0041】
なお、S型骨格、H型骨格及びG型骨格の相対存在率と脂肪族水酸基量は、31P-NMRで測定される積分値から求めた値であり、31P-NMR測定についてより詳しくは、MAGNETIC RESONANCE IN CHEMISTRY, VOL. 33, 375-382 (1995) に記載のとおりである。本発明において、より具体的には、後述する実施例に記載する方法により測定することができる。
【0042】
〈分子量と軟化点〉
本発明のポリフェノール誘導体は、前述した置換反応により、R3及びR4の分子鎖が改変されるため分子量が低下する。このように、リグニンは低分子量化されることによって高効率にポリフェノール誘導体として取出され、同時に他の樹脂材料との混合性(混練性又は攪拌性)が向上し、さらに曲げ強度等の物性が向上した成形品を与えることが期待できる。
また、本発明のポリフェノール誘導体は置換部位に芳香族化合物が挿入されるため、低分子量化が起こってもさほど軟化点の低下は起こらない。
したがって、本発明のポリフェノール誘導体は、軟化点が好ましくは90℃以上であり、より好ましくは130℃以上であり、さらに好ましくは150℃以上となることが可能である。上記軟化点が90℃以上であればポリフェノール誘導体を含有する樹脂組成材料の成形・後硬化時に膨れ等の不具合が生じにくくなる。また、ポリフェノール誘導体の軟化点は、好ましくは210℃以下であり、より好ましくは200℃以下であり、さらに好ましくは190℃以下であり、よりさらに好ましくは180℃以下であり、よりさらに好ましくは160℃以下である。上記軟化点が210℃以下であればポリフェノール誘導体を含有する樹脂組成材料をより取扱いやすくなる。
【0043】
また、本発明のポリフェノール誘導体は、重量平均分子量が5000未満であり、分子量LogM2.15~2.20の存在率が0.7質量%未満である。
ポリフェノール誘導体の重量平均分子量が5000以上であると、成形品の曲げ強度等の物性を向上させることが困難になる。
ポリフェノール誘導体の重量平均分子量は3,000以上4,000以下であることが好ましく、重量平均分子量は2,000以上3,000未満であることが好ましく、重量平均分子量は1,000以上2,000未満であることが好ましく、重量平均分子量は600以上1,000未満であることが好ましい。
また、ポリフェノール誘導体は分子量LogM2.15~2.20の存在率が0.7質量%以上であると、該ポリフェノール誘導体含む樹脂組成材料の成形・後硬化時に膨れ等の不具合が生じるおそれがある。ポリフェノール誘導体は分子量LogM2.15~2.20の存在率は、0.5質量%以下が好ましく、0.25質量%以下がより好ましく、存在率が少なくなるほど好ましい。
【0044】
また、本発明のポリフェノール誘導体は、例えば
重量平均分子量が3,000以上4,000以下であれば軟化点は140℃以上210℃以下であることが好ましく、
重量平均分子量が2,000以上3,000未満であれば軟化点は120℃以上190℃以下であることが好ましく、
重量平均分子量が1,000以上2,000未満であれば軟化点は100℃以上170℃以下であることが好ましく、
重量平均分子量が600以上1,000未満であれば軟化点は90℃以上170℃以下であることが好ましい。
反応させる既存プラスチック材料の性質によってこれらを使い分けることが可能であり、混合性の改善によりポリフェノール誘導体の反応性を向上させ、曲げ強度等の物性が向上した成形品を与えることが期待できる。
なお、上記重量平均分子量は、後述する実施例に記載する方法により測定することができる。
【0045】
また、本発明のポリフェノール誘導体の製造方法により、第2世代エタノール発酵残渣や、第2世代エタノール糖化残渣に含まれるリグニンの含有量のうち、50質量%以上がポリフェノール誘導体として取出されることが好ましく、60質量%以上がポリフェノール誘導体として取出されることがより好ましく、70質量%以上がポリフェノール誘導体として取出されることがさらに好ましく、80質量%以上がポリフェノール誘導体として取出されることがよりさらに好ましく、90質量%以上がポリフェノール誘導体として取出されることがよりさらに好ましい。
第2世代エタノール発酵残渣中や、第2世代エタノール糖化残渣のポリフェノール含有量の算出方法については、後述の実施例において具体的に説明する。
【0046】
[ポリフェノール誘導体含有樹脂組成材料及び成形品]
本発明は、前述のポリフェノール誘導体の製造方法で製造されるポリフェノール誘導体及び前述のポリフェノール誘導体のいずれか1以上のポリフェノール誘導体を含むポリフェノール誘導体含有材料、特にポリフェノール誘導体含有樹脂組成材料、及びそれを用いた成形品をも提供する。またポリフェノール誘導体含有樹脂組成材料は、上記製造方法により得られたポリフェノール誘導体以外に、熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂等の樹脂成分やアルデヒド類等を1種以上含んでいてもよい。ポリフェノール誘導体以外の成分について、以下に説明する。
(熱硬化性樹脂)
上記ポリフェノール誘導体含有樹脂組成材料は、熱硬化性樹脂をさらに含有することができる。
熱硬化性樹脂としては、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ポリウレタン樹脂、メラミン樹脂、ユリア樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、シリコーン樹脂、アルキド樹脂等の他の一般的な熱硬化性樹脂が挙げられる。これらの中でも、ポリフェノール誘導体と同様に、フェノール性水酸基を有しており、ポリフェノール誘導体と反応することができ、ポリフェノール誘導体の希釈剤としても使用可能であることから、フェノール樹脂が好ましい。フェノール樹脂の中でもノボラック系フェノール樹脂及びレゾール系フェノール樹脂がより好ましい。これら熱硬化性樹脂は、1種又は2種以上を併用してもよい。
【0047】
前記ポリフェノール誘導体含有プラスチック材料における熱硬化性樹脂の含有量は、目的に応じて決定すればよいが、良好な物性や成形性を得る観点から、ポリフェノール誘導体100質量部に対し、好ましくは100~300質量部、より好ましくは150~250質量部である。
【0048】
(アルデヒド類)
また、上記ポリフェノール誘導体含有樹脂組成材料は、アルデヒド類をさらに含有することができる。
ポリフェノール誘導体とアルデヒド類を含むポリフェノール誘導体含有樹脂組成材料により自己硬化型の成形材料とすることができる。
アルデヒド類としては、ホルムアルデヒド、パラホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、フルフラール、ベンズアルデヒド、フェニルアセトアルデヒド、サルチルアルデヒド等が挙げられ、これらの中でもホルムアルデヒドが好ましい。
【0049】
ポリフェノール誘導体中に含まれるフェノール基とホルムアルデヒドのモル比[ホルムアルデヒド/フェノール基]は、1.0~2.5であることが好ましく、1.2~2.0であることがより好ましい。モル比が上記範囲であれば反応時の硬化速度が低下するおそれがない。
ポリフェノール誘導体とアルデヒド類の硬化反応を促進させる観点からアルカリを用いることが好ましい。アルカリとしては水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリム、炭酸カリウム、アンモニア、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド、アルキルアミン等を使用することができる。
ポリフェノール誘導体とアルデヒド類の硬化反応時の温度及び反応時間に制限はないが、通常60~130℃程度であり、反応時間は通常0.5時間~5時間程度である。
なお、上記ポリフェノール誘導体含有樹脂組成材料には、熱硬化性樹脂及びアルデヒド類から選ばれる1種又は2種以上を併用してさらに含有させてもよい。
【0050】
(充填剤)
上記ポリフェノール誘導体含有樹脂組成材料には、充填材をさらに含有させてもよい。充填材は、無機充填材であっても有機充填材であってもよい。
無機充填材としては、球状又は破砕状の溶融シリカ、結晶シリカ等のシリカ粉末、アルミナ粉末、ガラス粉末、ガラス繊維、ガラスフレーク、マイカ、タルク、炭酸カルシウム、アルミナ、水和アルミナ、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、窒化ケイ素、炭化ケイ素、窒化チタン、酸化亜鉛、炭化タングステン、酸化マグネシウム等が挙げられる。
また有機充填材としては炭素繊維、アラミド繊維、紙粉、木粉、セルロース繊維、セルロース粉、籾殻粉、果実殻・ナッツ粉、キチン粉、澱粉等が挙げられる。
【0051】
無機充填材及び有機充填材は1種又は2種以上を併用してもよく、その含有量は目的に応じて決定される。無機充填材及び/又は有機充填材が含有される場合には、無機充填材及び/又は有機充填材の含有量が適量であることが良好な物性や成形性を得るために望ましい。この観点から、無機充填材及び/又は有機充填材の含有量は、ポリフェノール誘導体100質量部に対し、好ましくは50~200質量部、より好ましくは80~150質量部である。
【0052】
(硬化剤)
ポリフェノール誘導体含有樹脂組成材料には硬化剤をさらに含有させてもよい。
硬化剤としては、ヘキサメチレンテトラミン、ヘキサホルムアルデヒド、及びパラホルムアルデヒド等が挙げられる。これらは、1種又は2種以上を併用してもよい。
硬化剤に加え、さらに硬化速度及び硬化度を増進するためには、水酸化カルシウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、酸化カルシウム、及び酸化マグネシウム等の無機塩基、塩化亜鉛及び酢酸亜鉛等のルイス酸、トリエチルアミン等の触媒を用いてもよい。これらは、1種又は2種以上を併用してもよい。
【0053】
(その他の添加剤)
本実施形態に係るポリフェノール誘導体含有樹脂組成材料には、該樹脂組成材料から得られる成形品の特性を損ねない範囲で各種添加剤を添加することができる。また、目的に応じてさらに、相溶化剤、界面活性剤等を添加することができる。
相溶化剤としては、熱可塑性樹脂に無水マレイン酸やエポキシ等を付加し極性基を導入した樹脂、例えば無水マレイン酸変性ポリエチレン樹脂、無水マレイン酸変性ポリプロピレン樹脂、市販の各種相溶化剤を併用してもよい。
また、界面活性剤としては、ステアリン酸、パルミチン酸、オレイン酸等の直鎖脂肪酸、またロジン類との分岐・環状脂肪酸等が挙げられるが、特にこれに限定されない。
さらに、上述したものの他に配合可能な添加剤としては、可撓化剤、熱安定剤、紫外線吸収剤、難燃剤、帯電防止剤、消泡剤、チキソトロピー性付与剤、離型剤、酸化防止剤、可塑剤、低応力化剤、カップリング剤、染料、光散乱剤、少量の熱可塑性樹脂などが挙げられる。これらは、1種又は2種以上を併用してもよい。
【0054】
(熱可塑性樹脂)
ポリフェノール誘導体含有樹脂組成材料に配合可能な熱可塑性樹脂としては、200℃以下のガラス転移温度を持つ非晶性熱可塑性樹脂、若しくは融点が200℃以下である結晶性熱可塑性樹脂であることが好ましい。熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリカーボネート系樹脂、スチレン系樹脂、ポリスチレン系エラストマー、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリアクリル系樹脂(ポリメチルメタクリレート樹脂等)、ポリ塩化ビニル樹脂、酢酸セルロース樹脂、ポリアミド樹脂、テレフタル酸とエチレングリコール、テレフタル酸と1,4-ブタンジオールの組み合わせのポリエステルに代表される低融点ポリエステル樹脂(PET、PBT等)、ポリ乳酸及び/又はポリ乳酸を含む共重合体、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン樹脂(ABS樹脂)、ポリフェニレンオキサイド樹脂(PPO)、ポリケトン樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリフェニレンスルフィド樹脂(PPS)、フッ素樹脂、ケイ素樹脂、ポリイミド樹脂、ポリベンズイミダゾール樹脂、ポリアミドエラストマー等、及びこれらと他のモノマーとの共重合体が挙げられる。
【0055】
ポリフェノール誘導体を熱可塑性樹脂の添加剤として使用する場合、例えば、特開2014-15579、国際公開第2016/104634号等に挙げられる従来公知の手法を用いることができる。当該ポリフェノール誘導体樹脂組成材料における熱可塑性樹脂の含有量は、顕著な流動性及び強度を得る観点から、当該樹脂組成材料の全体量に対して、30質量%以上99.9質量%以下であることが好ましく、40質量%以上99.9質量%以下がより好ましく、45質量%以上99.9質量%以下が更に好ましく、50質量%以上99.9質量%以下が特に好ましい。
前記ポリフェノール誘導体含有樹脂組成材料は、上述した熱可塑性樹脂のほかに、該樹脂組成材料と相溶可能な樹脂、添加剤、充填材が含まれていてもよい。
【0056】
(混練及び成形)
ポリフェノール誘導体含有樹脂組成材料に用いられる各成分の配合及び混練は、通常用いられている機器、例えば、リボンブレンダー、ドラムタンブラー等で予備混合して、ヘンシェルミキサー、バンバリーミキサー、単軸スクリュー押出機、二軸スクリュー押出機、多軸スクリュー押出機、ロール混練機、コニーダ等を用いる方法で行うことができる。混練の際の加熱温度は、通常100~300℃の範囲で適宜選択される。
ポリフェノール誘導体含有樹脂組成材料を成形する方法としては特に限定されない。例えば、プレス成形法、射出成形法、トランスファ成形法、中型成形、FRP成形法等が挙げられる。また、樹脂組成材料が熱可塑性樹脂組成材料である場合は、所定形状に成形する方法には、押出成形法、射出成形法等が挙げられる。
【0057】
ポリフェノール誘導体含有樹脂組成材料を用いた成形品の一例としては、ポリフェノール誘導体と硬化剤とが配合されてなる樹脂組成材料を硬化させたもの、また各種の充填材や工業的に得られる一般のフェノール樹脂を必要に応じてさらに配合し、所定形状に成形した後に硬化させたもの、あるいは硬化させた後に成形加工したもの、ポリフェノール誘導体を熱可塑性樹脂と混合してなる樹脂組成材料を成形加工したもの等を挙げることができる。このようなポリフェノール誘導体含有樹脂組成材料を用いた成形品として、例えば、住宅用の断熱材、電子部品、フラックサンド用樹脂、コーテッドサンド用樹脂、含浸用樹脂、積層用樹脂、FRP成型用樹脂、自動車部品、自動車タイヤの補強材、OA機器、機械、情報通信機器、産業資材等が挙げられる。
【0058】
ポリフェノール誘導体は、樹脂組成材料以外にも、ポリフェノール誘導体含有材料への利用可能性がある。ポリフェノール誘導体含有樹脂組成材料以外のポリフェノール誘導体含有材料としては、例えば、カーボンブラック・炭素繊維等の炭素材料、グリース基材等の潤滑剤、抗酸化性・抗菌性等の食品・化粧品、セメント添加剤、コンクリート添加剤、バインダ、ゴム組成物、ガスバリアフィルム等の包装資材、植物活力剤・土壌改良剤等の農業資材、インク・トナー、接着剤、界面活性剤、紫外線吸収剤、蓄電池電極材料、水産生物等の成長促進剤、食品用変色防止剤等が挙げられる。
【実施例】
【0059】
以下、本発明を実施例及び比較例により具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0060】
<第2世代エタノール糖化残渣(原料)中のリグニン含有量の算出>
実施例で用いたバイオマス残渣に含まれるリグニンの含有量の算出は、下記に示すように前処理を行った後、構成糖分析によって行った。
[前処理]
前処理として、ウィレーミルを用いて原料を粉砕し、105℃で乾燥して試料とした。
[構成糖分析]
上記試料を適量量りとり、72質量%硫酸を加え、30℃において、随時撹拌しながら1時間放置した。この反応液を純水と混釈しながら耐圧瓶に完全に移し、オートクレーブにて120℃で1時間処理した後、濾液と残渣とを、濾別した。濾液中の単糖については、高速液体クロマトグラフ法により定量を行った。なお、C6多糖類(主にグルカン)をセルロース、C5多糖類(主にキシラン)をヘミセルロースと定義した。
[リグニン]
構成糖分析の過程で濾別して得られた残渣を105℃で乾燥し、重量を計測し、分解残渣率を算定した。さらに、灰分量補正することで、リグニンの含有量を算定した。
【0061】
<リグニン誘導体及び原料中のリグニンの性状>
また、各例で得られたリグニン誘導体又は原料中のリグニンについて、下記の方法で各種測定を行った。
[分子量測定]
各例で得られたリグニン誘導体及び原料中のリグニンについて、重量平均分子量(Mw)をGPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)により標準ポリスチレン換算分子量で求めた。測定装置及び条件は、以下のとおりである。
・分離カラム :東ソー株式会社製 「TSKgel SuperMultiporeHZ-M2本」
・溶離液 :テトラヒドロフラン
・溶離液流量 :1.0mL/min
・検出器 :示唆屈折率(RI)
・測定温度 :40℃
【0062】
[分子量LogM2.15~2.20成分の存在割合]
GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)で求めたリグニンの分子量のチャート(y軸はdw/dLogM、x軸はLogMがプロットされたもの)からピークトップあるいはショルダーピークなどにはピークの存在が予想される位置(LogM)を見出し、それぞれをガウス関数の平均(A)とした。このほか、分散(S)の値とそれぞれのガウス関数に任意の数(X)を存在確立として設定した。ガウス関数は予想されたピーク又はショルダーの数(N)だけ用意し、それぞれにA、S、X3つの変数を与えた。N個のガウス関数の合成関数(線形和)とGPCチャートのy軸:dw/dLogMから相関係数R2を算出し、R2が最大になるように設定した各ガウス関数の3変数A、S、Xを操作した。具体的にはエクセルなどの表計算ソフトのソルバーを用いて行った。ここでR2は少なくとも0.9999以上になるように適宜各関数のA、S、Xを操作する必要がある。この操作を行い、分子量LogM2.15~2.20に存在する複数のガウス関数の合成関数の、全体のガウス関数の合成に対する比率を、分子量LogM2.15~2.20成分の存在割合とした。
【0063】
[軟化点(℃)]
各例で得られたリグニン誘導体又は原料(固体試料)を乳鉢で粉砕し、篩(40メッシュ)にかけて大きな粒子を取り除き、砕いた試料をアルミ製カップ(円形上部φ60、下部φ53×深さ15mm)に10~20mgに入れた。試料を入れたアルミ製カップをホットプレート(ASONE ND-2A)に置き、ガラス板(厚さ0.5mm)でふたをした。80℃まで加熱後、10℃刻みに温度を上げ、ガラス越しに目視観察を行い、目視により溶解した温度を軟化点として採用した。
【0064】
[基本骨格の相対存在率(%)及び水酸基割合(%)]
(1)重クロロホルム、ピリジン、シクロヘキサノール(内部標準)を混合した溶媒を各例で得られたリグニン誘導体又は原料(固体試料)に加え、さらに、誘導体化試薬として2-chloro-4,4,5,5-tetramethyl-1,3,2-dioxaphospholaneを添加し、50℃、1時間加熱した。その後、以下の測定条件で31P-NMR測定を実施した。
なお、比較原料リグニン2は溶媒に全溶解しないため、可溶分のみ測定した。測定装置及び条件は、以下のとおりである。
・パルス幅:30°
・繰り返し時間:2秒
・測定範囲:-60~200ppm
・積算回数:200回
内部標準であるシクロヘキサノール由来シグナルを145.2ppmとし、144.0~142.0ppmをS型骨格、141.0~136.6ppmをG型骨格と同定し、積分値から各基本骨格の相対存在率%を算出した。H型骨格の相対存在率は全芳香族水酸基量からS型骨格及びG型骨格の相対存在率を差引いて算出した。
さらに、150.0~145.5ppmを脂肪族水酸基、144.7~136.6ppmを芳香族水酸基と同定し、積分曲線より脂肪族水酸基量(mol/g)、芳香族水酸基量(mol/g)を算出してそれぞれの水酸基割合%を求めた。
(2)存在率の比及び反応点
上記各基本骨格の相対存在率%に基づき、
・S型骨格の相対存在率S(%)に対するH型骨格の相対存在率H(%)の2倍及びG型骨格の相対存在率G(%)の合計の比[(2H+G)/S]、
・H型骨格の相対存在率H(%)及びG型骨格の相対存在率G(%)に基づく反応点の合計[2H+G]、
を算出した。
【0065】
〔リグニン誘導体〕
[実施例1]
(1)反応工程
第2世代エタノール糖化残渣(リグニン含有量:55質量%)100.1質量部(100.1g、リグニンとして55.0g)、フェノール20質量部、エタノール200質量部を撹拌可能な1.0Lの耐圧容器に入れて、2.6MPa、200℃で4時間加熱・撹拌した。
(2)精製工程
(2-1)濾過
No.2濾紙を組込んだ加圧濾過器を組立て、ここに上記反応工程で得られた反応液を入れ、圧縮空気又は窒素で0.1~0.4MPaに加圧し、濾過した。
(2-2)蒸留
上記濾過した濾液を、エバポレーターを用い、減圧下(5~10kPa)、加熱(40~60℃)して減圧蒸留し、エタノール及びフェノールを除去した。
(2-3)減圧乾固
上記蒸留で残留したフェノールを除去するため、減圧下(1.0~5.0kPa)、加熱(120~150℃)して真空乾燥し、フェノールを除去し、リグニン誘導体1(52.9g)を得た。
上記仕込みリグニン量(計算値55.0g)に対する、算出したリグニン誘導体量(30.0g)を収率として下記式のとおり算出したところ54%であった。
収率(%)=[(リグニン誘導体量)/(仕込みリグニン量)]×100
【0066】
[実施例2]
フェノールを37質量部、エタノールを183質量部とした以外は実施例1と同様に行い、リグニン誘導体2(リグニン誘導体量52.9g、収率96%)を得た。
【0067】
[実施例3]
フェノールを10質量部、エタノールを210質量部とした以外は実施例1と同様に行い、リグニン誘導体3(リグニン誘導体量26.4g、収率48%)を得た。
[実施例4]
フェノールを51質量部、エタノールを169質量部とした以外は実施例1と同様に行い、リグニン誘導体4(リグニン誘導体量52.1g、収率95%)を得た。
[実施例5]
フェノールを20質量部、エタノールを100質量部、水を100質量部とした以外は実施例1と同様に行い、リグニン誘導体5(リグニン誘導体量47.6g、収率86%)を得た。
[実施例6]
エタノールを180質量部、水を20質量部とした以外は実施例3と同様に行い、リグニン誘導体6(リグニン誘導体量37.3g、収率68%)を得た。
[実施例7]
エタノールを160質量部、水を40質量部とした以外は実施例3と同様に行い、リグニン誘導体7(リグニン誘導体量39.8g、収率72%)を得た。
[実施例8]
硫酸を0.2質量部添加し、反応時間を2時間とした以外は実施例1と同様に行い、リグニン誘導体8(リグニン誘導体量37.8g、収率69%)を得た。
[実施例9]
フェノールを44質量部、エタノールを154質量部、水を22質量部、反応温度を220℃、反応時間を2時間とした以外は実施例1と同様に行い、リグニン誘導体9(リグニン誘導体量42.4g、収率77%)を得た。
[実施例10]
反応温度を200℃、反応時間を4時間とした以外は実施例9と同様に行い、リグニン誘導体10(リグニン誘導体量37.8g、収率69%)を得た。
[実施例11]
硫酸を0.2質量部添加した以外は実施例10と同様に行い、リグニン誘導体11(リグニン誘導体量43.6g、収率79%)を得た。
[実施例12]
フェノールをアニソールとした以外は実施例10と同様に行い、リグニン誘導体12(リグニン誘導体量36.8g、収率67%)を得た。
[実施例13]
フェノールをアニソールとした以外は実施例11と同様に行い、リグニン誘導体13(リグニン誘導体量39.7g、収率72%)を得た。
[実施例14]
フェノールをトルエンとした以外は実施例11と同様に行い、リグニン誘導体14(リグニン誘導体量35.1g、収率64%)を得た。
[実施例15]
フェノールを66質量部、エタノールを132質量部とした以外は実施例10と同様に行い、リグニン誘導体14(リグニン誘導体量46.3g、収率84%)を得た。
【0068】
上記実施例1~15において得られたリグニン誘導体1~15の性状について、上述の方法で測定した結果を表1及び表2に示す。
なお、分子量測定において、上記リグニン誘導体5の一部が溶離液に不溶であったため、実施例5の分子量測定(Mw)は分析不可とした。
【0069】
[比較例1]
比較例1として原料の第2世代エタノール糖化残渣中のリグニンの性状について分析したが、第2世代エタノール糖化残渣中のリグニンが各種有機溶媒にわずかしか溶解しないため、上述の方法により分析することは不可能であった。
[比較例2]
比較例2としてクラフトリグニン(SIGMA-ALDRICH社製のLignin,alkali(製品番号370959))を用いた。クラフトリグニンの性状について分析したが、クラフトリグニンは各種有機溶媒に不溶な成分を多く含むため、上述の方法による分析は一部に留まった。
[比較例3]
フェノールを添加せず、エタノールを220質量部とした以外は実施例8と同様に行い、比較リグニン1(リグニン誘導体量25.9g、収率47%)を得た。
[比較例4]
フェノールを添加せず、エタノールを110質量部、水を110質量部とした以外は実施例1と同様に行い、比較リグニン2(リグニン誘導体量43.3g、収率79%)を得た。
【0070】
【0071】
【0072】
前述したように、リグニン誘導体の軟化点は低くなるほど、樹脂との混合が容易となる傾向にある。さらに、リグニン誘導体は脂肪族水酸基量が少なくなるほど、また反応性の指標となる比[(2H+G)/S]が大きくなるほど、樹脂との反応性が容易となる傾向にある。さらに、リグニン誘導体の分子量は小さくなり過ぎずある程度の大きさを有することで、成形品とした場合に曲げ強度等の物性が良好となる傾向にある。
上記観点から表1及び2を考察すると、実施例1~15と比較例3及び4との比較から、本発明の製造方法によれば、分子量が小さくなり過ぎずに軟化点が210℃以下のため樹脂との良好な相溶性を示し、また良好な反応性を示すリグニン誘導体を一定の収率で得られることが分かる。特に、芳香族化合物の使用割合や用いる溶媒の選択及び使用割合を調整することにより、より優れた低軟化点化及び高収率の両立が可能であることが分かる。また、芳香族化合物を用いない比較例3及び4では、分子量50~300成分の存在割合がそれぞれ0.70質量%,0.26質量%となり、樹脂組成材料として使用した場合に膨れ等の不具合が生じるおそれを有することが分かる。
よって、表1及び2より実施例のリグニン誘導体は、分子量及び組成が改質されたことにより、リグニン誘導体含有材料、特に樹脂組成材料としての利用可能性が示された。
また、原料である比較例1の第2世代エタノール糖化残渣及び比較例2のクラフトリグニンは、樹脂組成材料としてそのまま使用することができないのに対し、本発明の製造方法によれば実際に樹脂組成材料として使用することのできるリグニン誘導体が得られる。
【0073】
〔硬化物〕
次に、実施例2,6,8のリグニン誘導体2,6,8、比較例1の原料の第2世代エタノール糖化残渣(比較原料リグニン1)、比較例2のクラフトリグニン(比較原料リグニン2)、比較例3の比較リグニン1、及び比較例4の比較リグニン2を用い、次の各例において樹脂組成材料及びこれを用いてなる成形体を製造した。
また、当該樹脂組成材料及び成形体について下記の方法で評価を行った。
(混練容易性)
実施例16~18、比較例5~8において、混練時の容易性を次の指標に基づき評価した。
A:混練容易
B:困難だが混練可能
C:混練不可能
【0074】
(攪拌性)
実施例19~21、比較例9~12において、反応時の攪拌容易性を次の指標に基づき評価した。
A:攪拌容易
B:困難だが攪拌可能
C:攪拌不可能
【0075】
(曲げ強度)
各例において得られた成形体から、5mm×50mm×1mmの試料を切り出し、インストロンジャパン社製、インストロン5566型を用いて3点曲げモード、スパン30mm、速度2mm/分の条件で曲げ強度を測定し、指標に基づき評価した。
A:試料が割れにくかった
B:試料が割れた
C:試料がすぐに割れた
-:成形不良
【0076】
[実施例16~18]
35質量部のノボラック型フェノール樹脂(住友ベークライト株式会社製、PR-53195)、50質量部の木粉、15質量部の上記実施例2,6,8のリグニン誘導体2,6,8の各々、硬化剤としてヘキサメチレンテトラミンを7質量部、及び内部離型剤としてステアリン酸亜鉛を1質量部混合し、2本ロール混練機にて110~120℃で3分間混練して、リグニン誘導体含有樹脂組成材料を得た。
上記得られたリグニン誘導体含有樹脂組成材料を、加熱した金型キャビティ内に圧入してトランスファ成形法により175℃、3分の成形条件にて成形後、オーブンで180℃、8時間硬化し、成形体を得た。
上記樹脂組成材料及び成形体の上記評価の結果を表3に示す。
【0077】
[比較例5]
リグニン誘導体の代わりに原料の第2世代エタノール糖化残渣(比較原料リグニン1)を用いた以外は実施16と同様に行い樹脂組成材料及び成形体を得た。
上記樹脂組成材料及び成形体の上記評価の結果を表3に示す。
[比較例6]
リグニン誘導体の代わりにクラフトリグニン(比較原料リグニン2)を用いた以外は、実施例16と同様に行い樹脂組成材料及び成形体を得た。
上記樹脂組成材料及び成形体の上記評価の結果を表3に示す。
[比較例7]
リグニン誘導体の代わりに比較リグニン1を用いた以外は、実施例16と同様に行い樹脂組成材料及び成形体を得た。
[比較例8]
リグニン誘導体の代わりに比較リグニン2を用いた以外は、実施例16と同様に行い樹脂組成材料及び成形体を得た。
上記樹脂組成材料及び成形体の上記評価の結果を表3に示す。
【0078】
【0079】
[実施例19~21]
還流装置と攪拌羽根を備えた0.5Lのセパラブルフラスコに、上記実施例2,6,8のリグニン誘導体2,6,8の各々を50質量部(50.0g)、40質量%ホルムアルデヒド水溶液30質量部を加え攪拌した。ホルムアルデヒドとリグニン誘導体中のフェノールのモル比は1.5であった。50質量%炭酸ナトリウム水溶液35質量部を徐々に滴下しながら、100℃で2時間加熱し、液状の組成物を得た。
さらに、木粉54質量部を加え均一になるまで攪拌し、リグニン誘導体含有樹脂組成材料を得た。
上記得られたリグニン誘導体含有樹脂組成材料を、減圧して水分を除去し、面圧0.2MPa、180℃、10分でプレス成形した後、オーブンで200℃、4時間硬化し、成形体を得た。
上記樹脂組成材料及び成形体の上記評価の結果を表4に示す。
【0080】
[比較例9]
リグニン誘導体の代わりに原料の第2世代エタノール糖化残渣(比較原料リグニン1)を用いた以外は実施例19と同様に行い樹脂組成材料及び成形体を得た。
上記樹脂組成材料及び成形体の上記評価の結果を表4に示す。
[比較例10]
リグニン誘導体の代わりにクラフトリグニン(比較原料リグニン2)を用いた以外は、実施例19と同様に行い成形体を得た。
上記樹脂組成材料及び成形体の上記評価の結果を表4に示す。
[比較例11]
リグニン誘導体の代わりに比較リグニン1を用いた以外は、実施例19と同様に行い成形体を得た。
[比較例12]
リグニン誘導体の代わりに比較リグニン2を用いた以外は、実施例19と同様に行い成形体を得た。
上記樹脂組成材料及び成形体の上記評価の結果を表4に示す。
【0081】
【0082】
芳香族化合物を反応させずに得られた比較リグニン1又は2を用いた比較例7,8,11,12では混練性、攪拌性、及び曲げ強度の全てに優れることができない結果となった。これに対し、表3及び4に示すとおり、本発明で得られるリグニン誘導体は、優れた混練性、反応時の撹拌性が得られていることから、混合性について改良されていることが分かる。また、実施例で得られた成形体の曲げ物性からも、良好な物性を有する成形体が得られていることが分かる。なお、比較例5,6,9,10から、原料の第2世代エタノール糖化残渣及びクラフトリグニンは樹脂組成材料としてそのまま使用することが困難なことが分かる。
【0083】
したがって、本発明の製造方法により得られるポリフェノール誘導体は、表1~4から、低軟化点化されており混練性及び攪拌性に優れることから容易に樹脂と混合でき、また反応性の高い反応点を有しかつ曲げ強度に優れることから容易に樹脂と反応でき、また芳香族化合物の使用割合や用いる溶媒の選択及び使用割合を調整することにより、より優れた低軟化点化、高収率及び良好な経済性の両立を達成できることが分かる。
すなわち、本発明の製造方法により得られるポリフェノール誘導体は、(i)安価で、(ii)大量に用意でき、(iii)容易に樹脂と混合し、(iv)容易に樹脂と反応する、これら4つの条件を満たすプラスチック材料として有用である。
【産業上の利用可能性】
【0084】
本発明のポリフェノール誘導体は、低分子量化されて他のプラスチック材料との混合性が向上し、反応点が増加したものである。混合性の向上と反応点の増加により成形品の物性向上が期待でき、さらに混合が容易になることで硬化部材を製造するときにコストがかかる大掛かりな装置を不要とすることも可能である。また、これまでほとんど廃棄処分されていたリグニン等が有効利用できるため、環境保全にも効果的である。