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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-18
(45)【発行日】2025-02-27
(54)【発明の名称】有機発光素子、成膜方法、及び成膜装置
(51)【国際特許分類】
   H10K 50/828 20230101AFI20250219BHJP
   C23C 14/14 20060101ALI20250219BHJP
   H10K 50/15 20230101ALI20250219BHJP
   H10K 50/16 20230101ALI20250219BHJP
   H10K 50/17 20230101ALI20250219BHJP
   H10K 50/818 20230101ALI20250219BHJP
   H10K 71/16 20230101ALI20250219BHJP
   H10K 71/60 20230101ALI20250219BHJP
   H10K 102/10 20230101ALN20250219BHJP
   H10K 102/20 20230101ALN20250219BHJP
【FI】
H10K50/828
C23C14/14 G
H10K50/15
H10K50/16
H10K50/17
H10K50/17 171
H10K50/818
H10K71/16
H10K71/60
H10K102:10
H10K102:20
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021083747
(22)【出願日】2021-05-18
(65)【公開番号】P2022177474
(43)【公開日】2022-12-01
【審査請求日】2024-02-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000231464
【氏名又は名称】株式会社アルバック
(74)【代理人】
【識別番号】110003339
【氏名又は名称】弁理士法人南青山国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100104215
【弁理士】
【氏名又は名称】大森 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100196575
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 満
(74)【代理人】
【識別番号】100168181
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 哲平
(74)【代理人】
【識別番号】100144211
【弁理士】
【氏名又は名称】日比野 幸信
(72)【発明者】
【氏名】氏原 祐輔
(72)【発明者】
【氏名】松崎 淳介
(72)【発明者】
【氏名】磯部 辰徳
【審査官】岩井 好子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2009/044675(WO,A1)
【文献】特開2004-200047(JP,A)
【文献】特開2006-012428(JP,A)
【文献】特開2004-164992(JP,A)
【文献】特開2005-276755(JP,A)
【文献】特開2003-142274(JP,A)
【文献】国際公開第2011/016347(WO,A1)
【文献】特開2001-003166(JP,A)
【文献】特開平11-111467(JP,A)
【文献】特開2011-065897(JP,A)
【文献】特開2019-116662(JP,A)
【文献】特開2010-001565(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0326518(US,A1)
【文献】韓国公開特許第10-2016-0073620(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H10K 50/828
C23C 14/14
H10K 50/15
H10K 50/16
H10K 50/17
H10K 50/818
H10K 71/16
H10K 71/60
H10K 102/10
H10K 102/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
トップエミッション型の有機発光素子であって、
陰極層と陽極層との間に設けられた発光層と、
前記陰極層と前記発光層との間に設けられた電子注入層と、
前記陽極層と前記発光層との間に設けられた正孔注入層と、
前記電子注入層と前記発光層との間に設けられた電子輸送層と、
前記正孔注入層と前記発光層との間に設けられた正孔輸送層と
を具備し、
前記陰極層は、スパッタリング層であり、Ag及びAlの少なくとも1つを含む第1成分と、Mg、Li、及びCaの少なくとも1つを含む第2成分とを含み、厚みが10nmよりも大きく20nm以下に構成され
前記第1成分と前記第2成分とは固溶し、前記第2成分は、前記第1成分中に10原子%~20原子%で含有され、
前記電子注入層の側において、前記第2成分の濃度は、前記第1成分の濃度に比べて相対的に高く、
前記電子注入層の厚みは、5nm以上10nm以下である
有機発光素子。
【請求項2】
請求項1に記載された有機発光素子であって、
前記電子注入層は、アルカリ金属、アルカリ土類金属、アルカリ金属のフッ化物、アルカリ土類金属のフッ化物、及びランタノイドの少なくとも1つを含む
有機発光素子。
【請求項3】
トップエミッション型の有機発光素子であって、
陰極層と陽極層との間に設けられた発光層と、
前記陰極層と前記発光層との間に設けられ、厚みが5nm以上10nm以下である電子注入層と、
前記陽極層と前記発光層との間に設けられた正孔注入層と、
前記電子注入層と前記発光層との間に設けられた電子輸送層と、
前記正孔注入層と前記発光層との間に設けられた正孔輸送層と
を具備する有機発光素子に含まれる前記電子注入層に対して前記陰極層を成膜する成膜方法であって、
Ag及びAlの少なくとも1つを含む第1成分と、Mg、Li、及びCaの少なくとも1つを含む第2成分とを含有し、前記第1成分と前記第2成分とは固溶し、前記第2成分が前記第1成分中に10原子%~20原子%含有され、厚みが10nmよりも大きく20nm以下に構成され、前記電子注入層の側において、前記第2成分の濃度が前記第1成分の濃度に比べて相対的に高い前記陰極層を前記電子注入層にスパッタリング成膜する
成膜方法。
【請求項4】
請求項に記載された成膜方法であって、
成膜源として、前記第1成分を含む第1成膜源と、前記第2成分を含む第2成膜源とを準備し、
前記成膜源と前記電子注入層とを第1方向に対向させて、前記第1方向と交差する第2方向に前記電子注入層と前記成膜源とを相対移動させながら前記第1成膜源の成分と前記第2成膜源の成分とを含む前記陰極層を成膜する際、前記第1方向において前記第1成膜源よりも先に前記第2成膜源と前記電子注入層とが重なるように前記第1成膜源と前記第2成膜源とを前記第2方向に並べて成膜を実行する
成膜方法。
【請求項5】
トップエミッション型の有機発光素子に含まれる電子注入層に対して陰極層を成膜する成膜装置であって、
陽極層、正孔注入層、正孔輸送層、発光層、電子輸送層、及び厚みが5nm以上10nm以下である前記電子注入層の順に積層された積層体が設けられた基板であり、前記電子注入層が成膜源に向けて露出される前記基板を支持可能な基板ホルダと、
前記基板ホルダに第1方向において対向し、Ag及びAlの少なくとも1つを含む第1スパッタリングターゲットと、Mg、Li、及びCaの少なくとも1つを含む第2スパッタリングターゲットとを有する成膜源と、
前記第1方向と交差する第2方向において、前記基板と前記成膜源とを相対移動させる移動機構とを具備し、
前記第1成分と前記第2成分とは固溶し、前記第2成分が前記第1成分中に10原子%~20原子%含有され、
前記電子注入層の側において、前記第2成分の濃度が前記第1成分の濃度に比べて相対的に高い前記陰極層を成膜する
成膜装置。
【請求項6】
請求項に記載された成膜装置であって、
前記第1スパッタリングターゲットと前記スパッタリングターゲットとの間に、前記第1方向に延在する仕切板が設けられた
成膜装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機発光素子、成膜方法、及び成膜装置に関する。
【背景技術】
【0002】
有機発光素子では、発光層にカソード電極から電子を注入しアノード電極から正孔を注入し、発光層で電子と正孔とを再結合させて光を発生させる。ここで、有機発光素子のカソード電極(陰極層)として、極薄に構成された半透過性の銀層を用いる技術がある(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2007-317384号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記技術では、極薄の銀層の膜厚を10nmとしているため、銀層が半透過性であっても層がアイランド状になりやすい。このため、半透過性とはいえ、陰極層の抵抗が高くなる場合がある。
【0005】
以上のような事情に鑑み、本発明の目的は、光透過性に優れ、低抵抗の陰極層を含む有機発光素子、その陰極層を成膜する成膜方法及び成膜装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明の一形態に係る有機発光素子は、陰極層と陽極層との間に設けられた発光層と、上記陰極層と上記発光層との間に設けられた電子注入層と、
上記陽極層と上記発光層との間に設けられた正孔注入層と、上記電子注入層と上記発光層との間に設けられた電子輸送層と、上記正孔注入層と上記発光層との間に設けられた正孔輸送層とを具備する。
上記陰極層は、スパッタリング層であり、Ag及びAlの少なくとも1つを含む第1成分と、Mg、Li、及びCaの少なくとも1つを含む第2成分とを含み、厚みが10nmよりも大きく20nm以下に構成されている。
【0007】
このような有機発光素子であれば、有機発光素子の陰極層が上記の第1成分及び第2成分で構成されたとしても、有機発光素子が低抵抗で光透過性に優れた陰極層を具備することになる。
【0008】
上記有機発光素子においては、上記陰極層においては、上記電子注入層の側において上記第2成分の濃度が上記第1成分の濃度に比べて相対的に高くてもよい。
【0009】
このような有機発光素子であれば、有機発光素子の発光層へのキャリア注入がさらに促進される。
【0010】
上記有機発光素子においては、上記陰極層においては、上記電子注入層から離れるにつれ、上記第2成分の濃度に対する上記第1成分の濃度が徐々に増加してもよい。
【0011】
このような有機発光素子であれば、有機発光素子の発光層へのキャリア注入がさらに促進される。
【0012】
上記有機発光素子においては、上記陰極層においては、上記電子注入層に上記第2成分から積層されて、上記第2成分と上記第1成分とが交互に積層されてもよい。
【0013】
このような有機発光素子であれば、有機発光素子の発光層へのキャリア注入がさらに促進される。
【0014】
上記目的を達成するため、本発明の一形態に係る成膜方法は、有機発光素子に含まれる電子注入層に対して陰極層を成膜する成膜方法である。
Ag及びAlの少なくとも1つを含む第1成分を含有し、厚みが10nmよりも大きく20nm以下に構成された上記陰極層が上記電子注入層にスパッタリング成膜される。
【0015】
このような成膜方法であれば、有機発光素子の陰極層が上記の第1成分で構成されたとしても、有機発光素子が低抵抗で光透過性に優れた陰極層を具備することになる。
【0016】
上記成膜方法においては、上記第1成分と、Mg、Li、及びCaの少なくとも1つを含む第2成分とを含有する上記陰極層を上記電子注入層にスパッタリング成膜してもよい。
【0017】
このような成膜方法であれば、有機発光素子の陰極層が第1成分及び第2成分で構成されたとしても、有機発光素子が低抵抗で光透過性に優れた陰極層を具備することになる。
【0018】
上記成膜方法においては、上記電子注入層の側において上記第2成分の濃度が上記第1成分の濃度に比べて相対的に高くなるように上記陰極層を形成してもよい。
【0019】
このような成膜方法によれば、有機発光素子において、有機発光素子の発光層へのキャリア注入がさらに促進される。
【0020】
上記成膜方法においては、成膜源として、上記第1成分を含む第1成膜源と、上記第2成分を含む第2成膜源とを準備し、上記成膜源と上記電子注入層とを第1方向に対向させて、上記第1方向と交差する第2方向に上記電子注入層と上記成膜源とを相対移動させながら上記第1成膜源の成分と上記第2成膜源の成分とを含む上記陰極層を成膜する際、上記第1方向において上記第1成膜源よりも先に上記第2成膜源と上記電子注入層とが重なるように上記第1成膜源と上記第2成膜源とを上記第2方向に並べて成膜を実行してもよい。
【0021】
このような成膜方法によれば、有機発光素子において、有機発光素子の発光層へのキャリア注入がさらに促進される。
【0022】
上記目的を達成するため、本発明の一形態に係る成膜装置は、基板ホルダと、成膜源と、移動機構とを具備する。
上記基板ホルダは、有機発光素子に含まれる電子注入層が成膜源に向けて露出される基板を支持することができる。
上記成膜源は、上記基板ホルダに第1方向において対向し、Ag及びAlの少なくとも1つを含む第1スパッタリングターゲットと、Mg、Li、及びCaの少なくとも1つを含む第2スパッタリングターゲットとを有する。
上記移動機構は、上記第1方向と交差する第2方向において、上記基板と上記成膜源とを相対移動させる。
【0023】
このような成膜装置を用いれば、有機発光素子の陰極層が第1成分及び第2成分で構成されたとしても、有機発光素子が低抵抗で光透過性に優れた陰極層を具備することになる。
【0024】
上記成膜装置においては、上記第1スパッタリングターゲットと上記スパッタリングターゲットとの間に、上記第1方向に延在する仕切板が設けられてもよい。
【0025】
このような成膜装置を用いれば、第1成膜源61及び第2成膜源62のそれぞれのスパッタリング粒子が互いに干渉せず、第1成膜源61及び第2成膜源62のそれぞれの放出量が安定する。
【発明の効果】
【0026】
以上述べたように、本発明によれば、光透過性に優れ、低抵抗の陰極層を含む有機発光素子、その陰極層を成膜する成膜方法及び成膜装置が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】本実施形態の有機発光素子を示す模式的断面図である。
図2】陰極層と電子注入層との界面から陰極層の表面までの第1成分の濃度と第2成分の濃度との関係を示すグラフである。
図3】本実施形態の成膜方法が実行される成膜装置の要部の模式的断面図である。
図4】本実施形態の成膜方法を示す模式的断面図である。
図5】図(a)は、Agスパッタリング層における光透過率(%)を示すグラフである。図(b)は、AgMgスパッタリング層における光透過率(%)を示すグラフである。横軸は、透過光の波長である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態を説明する。各図面には、XYZ軸座標が導入される場合がある。また、同一の部材または同一の機能を有する部材には同一の符号を付す場合があり、その部材を説明した後には適宜説明を省略する場合がある。また、以下に示す数値は例示であり、この例に限らない。
【0029】
図1は、本実施形態の有機発光素子を示す模式的断面図である。図1には、一例として、トップエミッション方式の有機発光素子1の要部が示されている。
【0030】
有機発光素子1は、発光層(EML)10と、電子輸送層(ETL)21と、正孔輸送層(HTL)22と、電子注入層(EIL)31と、正孔注入層(HIL)32と、陰極層41と、陽極層42とを具備する。有機発光素子1においては、陽極層42から陰極層41に向かって正孔注入層32、正孔輸送層22、発光層10、電子輸送層21、及び電子注入層31の順で積層されている。
【0031】
発光層10は、陰極層41と陽極層42との間に設けられている。電子注入層31は、陰極層41と発光層10との間に設けられている。正孔注入層32は、陽極層42と発光層10との間に設けられている。電子輸送層21は、電子注入層31と発光層10との間に設けられている。正孔輸送層22は、正孔注入層32と発光層10との間に設けられている。
【0032】
有機発光素子1において、陰極層41から発光層10で発光した光が取り出される。陰極層41の反対側、すなわち、陽極層42の下には、有機発光素子1を支持する支持基板(不図示)が配置されている。基板には、薄膜トランジスタ、配線等の回路、層間絶縁層等が配置されている(いずれも不図示)。支持基板は、可撓性基板でもよく、可撓性のない板状基板でもよい。
【0033】
陰極層41は、光透過性に優れ、低抵抗の導電層で構成される。陰極層41は、減圧雰囲気下で形成されたスパッタリング層(スパッタリング膜とも呼称される)であり、厚みが10nmよりも大きく20nm以下、好ましくは15nm以上20nm以下で構成される。陰極層41の材料は、Ag及びAlの少なくとも1つを含む。但し、陰極層41の仕事関数を低減させる観点からは、陰極層41の材料は、Ag及びAlの少なくとも1つを含む第1成分と、Mg、Li、及びCaの少なくとも1つを含む第2成分とを含有させたほうが好ましい。第2成分は、第1成分中に10原子%~20原子%含有される。
【0034】
電子注入層31は、アルカリ金属、アルカリ土類金属、アルカリ金属のフッ化物、アルカリ土類金属のフッ化物、及びランタノイドの少なくとも1つを含む。例えば、電子注入層31は、LiF、CsF、NaF、Ca、Ba、Ybの少なくとも1つを含む。電子注入層31の厚みは、光透過を高めるために、極薄に構成されており、例えば、5nm以上10nm以下である。
【0035】
陽極層42と陰極層41とに電圧が印加されると、正孔注入層32から正孔輸送層22に正孔が注入され、電子注入層31から電子輸送層21に電子が注入される。続いて、正孔輸送層22を移動した正孔と、電子輸送層21を移動した電子とが発光層10で再結合し、発光層10で光が生成される。発光層10で生成された光は、発光層10から陽極層42及び陰極層41のそれぞれの側に放出される。
【0036】
有機発光素子1は、トップエミッション型であり、正孔注入層32、正孔輸送層22、発光層10、電子輸送層21、電子注入層31、及び陰極層41は、発光光に対する光透過率が高く構成されている。また、陽極層42は、発光光を反射するように構成されている。これにより、発光層10から直接陰極層41に向かう発光光と陽極層42によって跳ね返された発光光とが合成し、有機発光素子1内の発光光が陰極層41を透過して、有機発光素子1の外部に放出される。
【0037】
陰極層41は、第1成分と第2成分とが固溶し、第1成分に第2成分が均等に分散された合金層である。あるいは、陰極層41は、電子注入層31の側において第2成分の濃度(原子%)が第1成分の濃度(原子%)に比べて相対的に高く構成されてもよい。なお、陰極層41が第1成分のみの金属層である構成も本実施形態に含まれる。
【0038】
例えば、図2(a)、(b)には、陰極層と電子注入層との界面から陰極層の表面までの第1成分の濃度と第2成分の濃度との関係が示されている。
【0039】
図2(a)に示すように、陰極層41においては、電子注入層31から離れるにつれ、第2成分の濃度(原子%)に対する第1成分の濃度(原子%)が徐々に増加してもよい。例えば、電子輸送層21の側から陰極層41の側に向かって、第2成分の濃度に対する第1成分の濃度が徐々に増加している。図2(a)には、深さと、第1成分の濃度または第2成分の濃度との関係として、一次の線形関数が示されているが、第2成分の濃度に対する第1成分の濃度は、界面から表面に向かって、n次の線形関数で増加してもよく、段階的に増加してもよい。
【0040】
または、図2(b)に示すように、陰極層41においては、電子注入層31に第2成分から積層されて、第2成分と第1成分とが交互に積層されてもよい。ここで、第2成分と第1成分とが交互に積層された場合は、図2(b)に示すように、電子注入層31から離れるにつれ、第2成分の厚みが薄くなり、第1成分の厚みが厚くなるように構成されてもよい。または、第2成分と第1成分とが交互に積層された場合は、第2成分の厚みと第1成分の厚みとが同じ厚みで交互に積層されてもよい。以下に、図2(a)に示す濃度分布を有する陰極層41の製造方法について説明する。
【0041】
図3は、本実施形態の成膜方法が実行される成膜装置の要部の模式的断面図である。図3には、有機発光素子1に含まれる電子注入層31に対して陰極層41を成膜する成膜装置100が示されている。図3においては、成膜時に、成膜源60と、基板91または基板ホルダ90とが対向する方向をZ軸方向(第1方向)としている。また、基板91と成膜源60とを相対移動する方向をY軸方向(第2方向)とする。第1方向と第2方向とは交差(例えば、直交)する。
【0042】
成膜装置100は、基板ホルダ90と、成膜源60と、移動機構70と、防着板95とを具備する。基板ホルダ90は、基板91を支持可能とする。基板91の成膜面には、有機発光素子1の発光層10、電子輸送層21、電子注入層31、正孔輸送層22、正孔注入層32、及び陽極層42が既に形成された積層体50が設けられている。
【0043】
成膜時、基板91は成膜源60に対し防着板95によって遮蔽されず、防着板95がY軸方向において途切れた開口96で露出する。基板91においては、有機発光素子1に含まれる電子注入層31が成膜源60に向けて露出されている。電子注入層31は、マスクパターン(不図示)から露出されてもよい。
【0044】
成膜源60は、第1成膜源61と、第2成膜源62と、第1成膜源61に対向するシャッタ67と、第2成膜源62に対向するシャッタ68とを有する。例えば、第1成膜源61は、第1成分としてのAg及びAlの少なくとも1つを含むスパッタリングターゲットである。第2成膜源62は、第2成分としてのMg、Li、及びCaの少なくとも1つを含むスパッタリングターゲットである。
【0045】
第1成膜源61及び第2成膜源62のそれぞれのスパッタリングターゲットは、プレーナ型ターゲットである。第1成膜源61及び第2成膜源62は、Z軸方向及びY軸方向に交差(例えば、直交)するX軸方向に延在する。すなわち、スパッタリングターゲットは、X軸方向に長手方向を有している。スパッタリングターゲットにおいては、基板91と対向する面がスパッタリング面とされる。
【0046】
また、スパッタリング面とは反対側のスパッタリングターゲットのそれぞれの背後には、マグネット機構67が設けられている。これにより、成膜装置100においては、マグネトロンスパッタリング成膜が可能になる。マグネット機構67は、スパッタリングターゲットの背後においてY軸方向に揺動することもできる。第1成膜源61及び第2成膜源62のそれぞれには、図示しない電源から独立して放電電力が供給される。
【0047】
成膜装置100では、基板91に形成された電子注入層31と成膜源60とが相対移動する際、Z軸方向において第1成膜源61よりも先に第2成膜源62と基板91とが重なるように、第1成膜源61と第2成膜源62とがY軸方向に並設されている。第1成膜源61と第2成膜源62との間には、Z軸方向に延在する仕切板65が設けられている。仕切板65は、X軸方向にも延在する。仕切板65は、X軸方向に長手方向を有している。
【0048】
移動機構70は、Z軸方向と交差するY軸方向(第2方向)において、基板91と成膜源60とを相対移動させる。例えば、移動機構70は、Z軸方向と直交するY軸方向において、基板91と成膜源60とを相対移動させる。例えば、基板ホルダ90及び防着板95が固定され、成膜源60が走査方向に移動する。なお、成膜源60が開口96の下で固定されて、基板ホルダ90及び基板ホルダ90がY軸方向に移動してもよい。
【0049】
図4(a)~図4(c)は、本実施形態の成膜方法を示す模式的断面図である。図4(a)~図4(c)では、シャッタ67、68がともに開の状態であるため、シャッタ67、68が略されている。
【0050】
有機発光素子1に含まれる電子注入層31に対して陰極層41の成膜を試みる場合、例えば、2元成膜源によるスパッタリグ成膜が実行される。例えば、成膜源60として、第1成分を含む第1成膜源61と、第2成分を含む第2成膜源62とが準備される。なお、スパッタリグ成膜での成膜源60の走査は、片道1回とする。基板91は、例えば、1.5m~3.0m(Y軸方向)、1.5m~3.5m(X軸方向)の大型基板である。基板91が成膜源60と対向する最表面には、電子注入層31が形成されている。
【0051】
本実施形態の成膜方法では、成膜源60と電子注入層31とをZ軸方向に対向させて、第1成膜源61と第2成膜源62との双方に放電電力が供給される。そして、Y軸方向に電子注入層31と成膜源60とを相対移動させながら、第1成膜源61の第1成分と第2成膜源62の第2成分とが電子注入層31に成膜される。
【0052】
例えば、図4(a)に示すように、成膜源60においては、成膜源60を走査方向に移動させた場合、Z軸方向において第1成膜源61よりも先に第2成膜源62と電子注入層31とが重なるように第1成膜源61と第2成膜源62とが並べられている。
【0053】
これにより、基板91上の任意の位置P1では、成膜当初に第2成膜源62から放出されるスパッタリング粒子62sが優先的に電子注入層31に堆積する。また、成膜の中期では、図4(b)に示すように、第2成膜源62から放出されるスパッタリング粒子62sと第1成膜源61から放出されるスパッタリング粒子61sとが電子注入層31に堆積する。そして、成膜後期では、図4(c)に示すように、第1成膜源61から放出されるスパッタリング粒子61sが電子注入層31に優先的に成膜される。この結果、図2(a)に示す濃度分布を持った陰極層41が電子注入層31上に形成される。
【0054】
放電ガスとしては、Arガスが用いられる。放電電力は、第1成膜源61:0.5W/cm~10W/cm、第2成膜源62:0.5W/cm~10W/cmである。放電電力は、DC電力でもよく、パルスDC電力でもよく、AC電力(RF、VHF等)でもよい。成膜圧力は、0.2Pa~3.0Paである。基板と成膜源との距離(T/S)は、9cm~30cmである。ターゲット長(ターゲットのX軸方向の長さ)は、180cm~350cmである。走査速度は、200cm/分~1000cm/分である。第1成膜源61または第2成膜源62による基板91上の成膜速度は、10nm/秒~100nm/秒である。成膜温度は、25℃~80℃である。成膜速度は、第1成膜源61及び第2成膜源62において同じ成膜速度に設定されてもよく、異なる成膜速度に設定されてもよい。
【0055】
また、第2成分と第1成分とが交互に積層した陰極層41を成膜する場合は、以下のように成膜源60が制御される。例えば、第1成膜源61のシャッタ67を閉状態または第1成膜源61への電力供給をせずに、第2成膜源62のシャッタ68が開状態とされ、第2成膜源62に所定の電力が供給される。そして、電子注入層31と成膜源60とを相対移動させながら、スパッタリング粒子62sを第2成膜源62から放出させて第2成分を電子注入層31に成膜する。この際、第2成分の厚みは、第2成膜源62に投入される電力または走査速度を制御することで調整される。
【0056】
次に、第2成膜源62のシャッタ68を閉状態または第2成膜源62への電力供給をせずに、第1成膜源61のシャッタ67を開状態で第1成膜源61に所定の電力が供給される。そして、電子注入層31と成膜源60とを相対移動させながら、スパッタリング粒子61sを第1成膜源61から放出させて第1成分を電子注入層31に成膜する。この際、第1成分の厚みは、第1成膜源61に投入される電力または走査速度を制御することで調整される。
【0057】
この第2成膜源62による成膜と、第1成膜源61による成膜とを交互に繰り返すことで、第2成分と第1成分とが交互に積層した陰極層41が電子注入層31に形成される。なお、第1成分で構成された陰極層41を形成する場合は、第1成膜源61のみを用いて、基板90にスパッタリング層、すなわち陰極層41を形成すればよい。
【0058】
有機発光素子1においては、電子輸送層21と電子注入層31との界面での電子に対するエネルギー障壁を下げるために、電子注入層31の材料として、アルカリ金属、アルカリ土類金属、アルカリ金属のフッ化物、アルカリ土類金属のフッ化物、及びランタノイドの少なくとも1つを含む材料が用いられる。
【0059】
また、有機発光素子1においては、陰極層41として、厚みが10nmよりも大きく20nm以下、好ましくは15nm以上20nm以下の極薄の金属層または合金層を用いる。これにより、陰極層41の光透過率が高くなり、陰極層41から放出される発光光の光透過性が向上する。
【0060】
さらに、陰極層41においては、AgまたはAlよりも仕事関数が小さい、第2成分のMg等が含まれる。この場合、Ag単体の陰極層に比べて有機発光素子1に含まれる発光層10に、より多くのキャリア(電子)を注入することできる。この結果、有機発光素子1の輝度がより増加する。例えば、電子注入層31の側において第2成分の濃度が第1成分の濃度に比べて相対的に高くなるように陰極層41を形成することにより、発光層10へのキャリアの注入効果がより促進する。
【0061】
また、本実施形態では、成膜時には、坩堝を利用する蒸着法ではなく、スパッタリング法によって陰極層41が形成される。これにより、陰極層41は、蒸着法で起き得る輻射熱によるマイグレーション効果が抑制されて、アイランド状になりにくい。このため、陰極層41は、極薄ではあっても平坦な連続層となって、低抵抗な層になる。
【0062】
例えば、厚みが20nmで構成されたAg蒸着膜と、厚みが20nmで構成されたAgスパッタリング膜とを比較すると、Ag蒸着膜のシート抵抗は、3.0Ω/sq、比抵抗は、6.0μΩ・cmであるのに対し、Agスパッタリング膜のシート抵抗は、2.2Ω/sqとなり、比抵抗は、4.4μΩ・cmとなることが判明している。このときの光透過率は、Ag蒸着膜及びAgスパッタリング膜においてともに34%(550nm)であった。さらに、Agスパッタリング膜の厚みを15nmとすると、光透過率が48%(550nm)にまで上昇することが判明している。
【0063】
特に、陰極層41を第1成分と第2成分とで構成する場合は、例えば、成膜時に第1成分(例えば、Ag)に第2成分(例えば、Mg)が固溶されることで、スパッタリング層が凝集される効果が抑えられる。
【0064】
また、本実施形態では、スパッタリング法を採用することにより、陰極層41の下地である有機層(電子注入層31、電子輸送層21、発光層10、正孔輸送層22、正孔注入層32)が坩堝からの熱輻射の影響を受けにくくなり、有機層の熱ダメージが抑制される。この結果、信頼性の高い有機発光素子が提供される。
【0065】
また、本実施形態では、第1成膜源61と第2成膜源62とが仕切板65によって仕切られている。このため、成膜中、第1成膜源61から放出するスパッタリング粒子61sは、第2成膜源62のターゲット表面に付着しにくく、第2成膜源62から放出するスパッタリング粒子62sは、第1成膜源61のターゲット表面に付着しにくい。
【0066】
これにより、成膜中には、第1成膜源61及び第2成膜源62のそれぞれのターゲット表面でプラズマ放電が安定し、時間毎における第1成膜源61及び第2成膜源62のそれぞれのスパッタリング粒子が互いに干渉せず、それぞれの放出量が安定する。また、スパッタリング粒子61sは、第2成膜源62に付着しにくく、スパッタリング粒子62sは、第1成膜源61に付着しにくくなることから、図2(a)、(b)に示す濃度分布を確実に形成できる。
【0067】
特に、電子注入層31に含まれるアルカリ金属等は、微量の酸素、水等によって酸化されやすい。本実施形態では、ITO等の酸素を含む透明導電層を陰極層41とせず、金属層または合金層で構成された陰極層41が電子注入層31に形成される。これにより、電子注入層31は酸化されにくく、その劣化が抑制される。
【0068】
図5(a)は、Agスパッタリング層における光透過率(%)を示すグラフである。図5(b)は、AgMgスパッタリング層における光透過率(%)を示すグラフである。横軸は、透過光の波長である。
【0069】
ここで、基材としては、石英板を用い、この石英板の上に以下のスパッタリング層が形成されたとした。
サンプル1:Ag金属層(10nm)
サンプル2:Ag金属層(15nm)
サンプル3:Ag金属層(20nm)
サンプル4:AgMg合金層(10nm、Ag中のMg含有量は10原子%相当)
サンプル5:AgMg合金層(15nm、Ag中のMg含有量は10原子%相当)
サンプル6:AgMg合金層(20nm、Ag中のMg含有量は10原子%相当)
【0070】
図5(a)、(b)に示すように、Ag金属層及びAgMg合金層を問わず、その厚みを減少させることで、Ag金属層及びAgMg合金層の光透過率が増加することが分かる。また、サンプル1、4は同じ厚みであり、サンプル2、5は同じ厚みであり、サンプル3、6は同じ厚みであることから、Ag金属層と、AgMg合金層とにおいて、同じ厚みであっても、MgをAgに混合させることで、光透過率が相対的に上昇することが分かった。
【0071】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上述の実施形態にのみ限定されるものではなく種々変更を加え得ることは勿論である。各実施形態は、独立の形態とは限らず、技術的に可能な限り複合することができる。
【符号の説明】
【0072】
1…有機発光素子
10…発光層
21…電子輸送層
22…正孔輸送層
31…電子注入層
32…正孔注入層
41…陰極層
42…陽極層
50…積層体
60…成膜源
61…第1成膜源
61s…スパッタリング粒子
62…第2成膜源
62s…スパッタリング粒子
65…仕切板
67、68…シャッタ
67…マグネット機構
70…移動機構
90…基板ホルダ
91…基板
95…防着板
96…開口
100…成膜装置
図1
図2
図3
図4
図5