(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-18
(45)【発行日】2025-02-27
(54)【発明の名称】半導体装置用銅ボンディングワイヤ及び半導体装置
(51)【国際特許分類】
H01L 21/60 20060101AFI20250219BHJP
【FI】
H01L21/60 301F
(21)【出願番号】P 2021562572
(86)(22)【出願日】2020-11-20
(86)【国際出願番号】 JP2020043446
(87)【国際公開番号】W WO2021111908
(87)【国際公開日】2021-06-10
【審査請求日】2023-10-20
(31)【優先権主張番号】P 2019218023
(32)【優先日】2019-12-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】595179228
【氏名又は名称】日鉄マイクロメタル株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000006644
【氏名又は名称】日鉄ケミカル&マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大石 良
(72)【発明者】
【氏名】小田 大造
(72)【発明者】
【氏名】荒木 典俊
(72)【発明者】
【氏名】下村 光太
(72)【発明者】
【氏名】宇野 智裕
(72)【発明者】
【氏名】小山田 哲哉
【審査官】西村 治郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-149559(JP,A)
【文献】国際公開第2018/212327(WO,A1)
【文献】特開2013-026475(JP,A)
【文献】特開2009-140953(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/60
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面の結晶粒界密度が0.6(μm/μm
2)以上1.6(μm/μm
2)以下であ
り、
表面の結晶粒界密度が、EBSD法により測定点間隔0.06μm以上0.6μm以下で測定し、隣接する測定点間の方位差が15°以上である境界を結晶粒界とみなした場合の結晶粒界の総長さ(μm)を測定面積(μm
2
)で除して算出され、
表面の結晶粒界密度が、ワイヤ長手軸に垂直な方向におけるワイヤの幅の中心が測定面の幅の中心となるように位置決めし、かつ、測定面の幅がワイヤ直径の20%以上40%以下、測定面の長さが測定面の幅の5倍となる条件にて測定される、半導体装置用銅ボンディングワイヤ。
【請求項2】
純度99.9質量%以上の銅からなる、請求項
1に記載の銅ボンディングワイヤ。
【請求項3】
ワイヤ直径が15μm以上300μm以下である、請求項1
又は2に記載の銅ボンディングワイヤ。
【請求項4】
破断強度が145MPa以上である、請求項1~
3の何れか1項に記載の銅ボンディングワイヤ。
【請求項5】
請求項1~
4の何れか1項に記載の銅ボンディングワイヤを含む半導体装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体装置用銅ボンディングワイヤに関する。さらには、該銅ボンディングワイヤを含む半導体装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体装置では、半導体チップ上に形成された電極と、リードフレームや基板上の電極との間をボンディングワイヤによって接続している。これまでボンディングワイヤの材料は金(Au)が主流であったが、LSI用途を中心に銅(Cu)への代替が進んでおり(例えば、特許文献1~3)、また、パワー半導体用途においても、熱伝導率や溶断電流の高さから、高効率で信頼性も高いCuへの代替が期待されている。
【0003】
銅ボンディングワイヤは、スプールに巻き取られ巻装体とされた後、該巻装体を、酸素や水分等を遮断するバリア袋により密封して出荷される。そして、半導体装置の製造において電極間の接続に供される直前にバリア袋が開封される。銅ボンディングワイヤは、大気中の酸素や水分等の影響により表面酸化が進行し接続性が劣化し易いことから、開封後の保管期限は一般的に一週間とされている。
【0004】
しかし、開封後一週間では使い切れずに廃棄されてしまう場合がある。また、巻装体におけるワイヤ長さ(巻き長さ)が短く制限されてしまい、その場合には、巻装体の交換頻度が増し、その都度ラインを停止する必要があるなど、生産効率の低下は避けられない。したがって、銅ボンディングワイヤについて大気中での保管寿命を向上させることが求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開昭61-48543号公報
【文献】特表2018-503743号公報
【文献】国際公開第2017/221770号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、大気中での保管寿命が向上した銅ボンディングワイヤを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題につき鋭意検討した結果、下記構成を有する銅ボンディングワイヤによって上記課題を解決できることを見出し、斯かる知見に基づいて更に検討を重ねることによって本発明を完成した。
すなわち、本発明は以下の内容を含む。
[1] 表面の結晶粒界密度が0.6(μm/μm2)以上1.6(μm/μm2)以下である、半導体装置用銅ボンディングワイヤ。
[2] 表面の結晶粒界密度が、EBSD法により測定点間隔0.06μm以上0.6μm以下で測定し、隣接する測定点間の方位差が15°以上である境界を結晶粒界とみなした場合の結晶粒界の総長さ(μm)を測定面積(μm2)で除して算出される、[1]に記載の銅ボンディングワイヤ。
[3] 表面の結晶粒界密度が、ワイヤ長手軸に垂直な方向におけるワイヤの幅の中心が測定面の幅の中心となるように位置決めし、かつ、測定面の幅がワイヤ直径の20%以上40%以下、測定面の長さが測定面の幅の5倍となる条件にて測定される、[2]に記載の銅ボンディングワイヤ。
[4] 純度99.9質量%以上の銅からなる、[1]~[3]の何れかに記載の銅ボンディングワイヤ。
[5] ワイヤ直径が15μm以上300μm以下である、[1]~[4]の何れかに記載の銅ボンディングワイヤ。
[6] 破断強度が145MPa以上である、[1]~[5]の何れかに記載の銅ボンディングワイヤ。
[7] [1]~[6]の何れかに記載の銅ボンディングワイヤを含む半導体装置。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、大気中での保管寿命が向上した銅ボンディングワイヤを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明をその好適な実施形態に即して詳細に説明する。
【0010】
[半導体装置用銅ボンディングワイヤ]
本発明の半導体装置用銅ボンディングワイヤは、表面の結晶粒界密度が0.6(μm/μm2)以上1.6(μm/μm2)以下であることを特徴とする。
【0011】
ボンディングワイヤの結晶組織を表す指標としては平均結晶粒径が知られており、所期のワイヤ性状を実現すべく、斯かる平均結晶粒径を一定範囲に調整する取り組みが従前よりなされている。例えば、ワイヤの環境耐性や接続信頼性との関連から、ドーパントを一定量添加すると共にワイヤの平均結晶粒径を一定範囲に調整する技術(例えば、特表2018-503743号公報、国際公開パンフレットWO2017/221770など)が提案されている。そこで本発明者らは、銅ボンディングワイヤの大気中での保管寿命との関連から、ワイヤの平均結晶粒径等の影響を検討した。その結果、大気中での保管寿命とワイヤの平均結晶粒径とは必ずしも相関するものでないことを確認した。
【0012】
本発明者らは、銅ボンディングワイヤの大気中での保管寿命を向上させるべく鋭意検討する過程において、ワイヤ表面の結晶粒界密度が大気中での保管寿命とよく相関することを見出し、本発明に至ったものである。なお、先述の平均結晶粒径は、Hall-petchの経験則に代表されるように、多結晶材料の強度特性や接合材料の接合強度といったバルク特性を表す指標として使われる場合があり、その際には該平均結晶粒径と結晶粒界密度は同じ意味で使われることがある。しかし、大気中での保管寿命のような、材料の表面特性を対象とする場合には、該特性と平均結晶粒径とは必ずしも相関せず、他方、該特性と結晶粒界密度とはよく相関することを見出したものである。
【0013】
本発明において、結晶粒界密度とは、単位面積(μm2)当たりに存在する結晶粒界の総長さ(μm)を意味し、単位面積当たりにどれだけの結晶粒界が存在するかを示す指標となるものである。
【0014】
大気中での保管寿命が向上した銅ボンディングワイヤを実現する観点から、表面の結晶粒界密度の上限は、1.6(μm/μm2)以下であり、好ましくは1.55(μm/μm2)以下、より好ましくは1.5(μm/μm2)以下、1.45(μm/μm2)以下、又は1.4(μm/μm2)以下である。
【0015】
表面の結晶粒界密度の下限は、十分な破断強度を呈し、所望するループ形状を安定して形成することができる銅ボンディングワイヤを実現する観点から、0.6(μm/μm2)以上であり、好ましくは0.65(μm/μm2)以上、0.7(μm/μm2)以上、0.75(μm/μm2)以上、0.8(μm/μm2)以上、又は0.85(μm/μm2)以上である。
【0016】
本発明において、表面の結晶粒界密度は、ワイヤ表面を観察面として、EBSD(後方散乱電子線回折、Electron Backscattered Diffraction)法により測定・算出する。詳細には、EBSD法により測定点間隔0.06μm以上0.6μm以下で測定し、隣接する測定点間の方位差が15°以上である境界を結晶粒界とみなした場合の結晶粒界の総長さ(μm)を測定面積(μm2)で除して算出する。ここで、結晶粒界の総長さは、EBSD解析ソフトAZtec HKL(オックスフォード・インストゥルメンツ(株)製)により、得られたヒストグラム中、隣接する測定点間の方位差が15°以上である境界の度数を求め、該度数に測定点間隔を乗じて算出される。
【0017】
EBSD法により表面の結晶粒界密度を測定・算出するにあたり、測定面の位置及び寸法は、以下のとおり決定する。なお、以下において、測定面の幅とは、ワイヤ長手軸に垂直な方向における測定面の寸法をいい、測定面の長さとは、ワイヤ長手軸の方向における測定面の寸法をいう。
【0018】
まず、測定に供する銅ボンディングワイヤを試料ホルダーに直線状に固定する。次いで、ワイヤ長手軸に垂直な方向におけるワイヤの幅の中心(すなわち、ワイヤ長手軸に垂直な方向においてワイヤ表面をみた場合のワイヤの幅の中心)が測定面の幅の中心となるように位置決めし、かつ、測定面の幅がワイヤ直径の20%以上40%以下となるように測定面を決定する。測定面の位置及び寸法を上記のとおり決定することにより、ワイヤ表面の曲率の影響を抑えて精度良く表面の結晶粒界密度を測定・算出することができる。測定面の長さは、測定面の幅の5倍となるように設定する。また、ワイヤ長手方向に互いに1mm以上離間した複数箇所(n≧3)の測定面について実施し、その平均値を採用することが好適である。
【0019】
本発明の銅ボンディングワイヤは、銅又は銅合金からなる。ワイヤ中の銅の含有量は、本発明の効果をより享受し得る観点から、好ましくは99.9質量%以上、より好ましくは99.99質量%以上又は99.999質量%以上である。
【0020】
本発明の銅ボンディングワイヤには、環境耐性を付与し得ることが知られている任意のドーパントを添加してもよい。斯かるドーパントとしては、例えば、スカンジウム(Sc)やイットリウム(Y)などの希土類元素、リン(P)、スズ(Sn)、亜鉛(Zn)、ニッケル(Ni)及び珪素(Si)が挙げられる。ドーパントの含有量は、1質量ppm以上、3質量ppm以上、5質量ppm以上又は10質量ppm以上などとしてよく、該含有量の上限は、500質量ppm以下、400質量ppm以下、300質量ppm以下又は200質量ppm以下などとしてよい。したがって一実施形態において、本発明の銅ボンディングワイヤは、希土類元素、P、Sn、Zn、Ni及びSiからなる群から選択される1種以上の元素を、1~500質量ppm含有する。斯かるドーパントを添加しない場合あるいは添加量が極めて微量(例えば、100質量ppm以下、50質量ppm以下、30質量ppm以下など)の場合であっても、本発明の銅ボンディングワイヤは、大気中において良好な保管寿命を呈することができる。好適な一実施形態において、本発明の銅ボンディングワイヤは、銅と不可避不純物からなる。
【0021】
本発明の銅ボンディングワイヤの直径は、特に限定されず具体的な目的に応じて適宜決定してよいが、好ましくは15μm以上、18μm以上又は20μm以上などとし得る。該直径の上限は、特に限定されず、例えば300μm以下、250μm以下、200μm以下、150μm以下、100μm以下、80μm以下、60μm以下又は50μm以下などとし得る。したがって一実施形態において、本発明の銅ボンディングワイヤの直径は、15μm以上300μm以下である。
【0022】
<ワイヤの製造方法>
本発明の半導体装置用銅ボンディングワイヤの製造方法の一例について説明する。
【0023】
純度が3N~6N(99.9~99.9999質量%)である原料銅を連続鋳造により大径に加工し、次いで伸線加工により最終線径まで細線化する。
【0024】
なお、ドーパントを添加する場合、ドーパントを必要な濃度含有した銅合金を原料として用いればよい。ドーパントを添加する場合、高純度のドーパント成分を直接添加してもよく、ドーパント成分を1%程度含有する母合金を利用してもよい。あるいはまた、ワイヤ製造工程の途中で、ワイヤ表面にドーパント成分を被着させることによって含有させてもよい。この場合、ワイヤ製造工程のどこに組み込んでもよいし、複数の工程に組み込んでもよい。被着方法としては、(1)水溶液の塗布⇒乾燥⇒熱処理、(2)めっき法(湿式)、(3)蒸着法(乾式)、から選択することができる。
【0025】
伸線加工は、ダイヤモンドコーティングされたダイスを複数個セットできる連続伸線装置を用いて実施することができる。必要に応じて、伸線加工の途中段階で熱処理を施してもよい。
【0026】
伸線加工の後、表面改質熱処理を行う。表面改質熱処理は、表面の結晶粒界密度が所定範囲にある銅ボンディングワイヤを実現する観点から、高温で短時間実施することが好適である。伸線加工の加工度等にもよるが、表面改質熱処理の温度は、銅の融点をTm(K)としたとき、0.6Tm~0.8Tmの範囲にて決定することが好適である。銅の融点Tmは1358K(=1085℃)であることから、表面改質熱処理の温度は、好ましくは540℃~820℃の範囲である。また、表面改質熱処理の時間は、長くとも数秒間(例えば、7秒間以下、5秒間以下、4秒間以下など)に設定することが好適である。
【0027】
表面の結晶粒界密度が所定範囲にある銅ボンディングワイヤを実現する観点から、表面改質熱処理は、熱伝導率の高い雰囲気ガスの存在下にて実施することが好適である。これにより、ワイヤ表面の温度を上昇させるのに要する工程時間を短縮することができ、表面の結晶粒界密度を所定範囲に調整し易くなる。一般にガスの熱伝導率は分子量が小さいほど大きいことから、表面改質熱処理の雰囲気ガスとしては、水素含有不活性ガスが好適であり、例えば、水素含有ヘリウムガス、水素含有窒素ガス、水素含有アルゴンガスが挙げられる。水素含有不活性ガス中の水素濃度は、例えば1~20%の範囲としてよい。好適な一実施形態において、表面改質熱処理の雰囲気ガスは、フォーミングガス(5%H2-N2)である。あるいはまた、熱処理時の温度・時間の厳密な管理の下、雰囲気ガスとして、窒素ガス、アルゴンガス等の不活性ガスを用いてよい。
【0028】
本発明の銅ボンディングワイヤは、表面の結晶粒界密度が所定範囲にあるため、大気中での保管寿命に優れる。本発明の銅ボンディングワイヤはまた、ワイヤ内部の結晶構造に起因して、良好な強度を呈する。例えば、本発明の銅ボンディングワイヤの破断強度は、好ましくは145MPa以上、より好ましくは150MPa以上、155MPa以上、又は160MPa以上である。該破断強度の上限は、特に限定されないが、通常、250MPa以下、200MPa以下などとし得る。銅ボンディングワイヤの破断強度は、後述の[破断強度]に記載の方法により測定することができる。
【0029】
本発明の銅ボンディングワイヤは、製造後、該ワイヤをスプールに巻き取ることによりワイヤ巻装体を形成することができる。本発明の銅ボンディングワイヤは、大気中での保管寿命に優れることから、長尺巻きする場合であっても酸化劣化の問題を招来し難く、半導体装置の生産効率の向上に著しく寄与するものである。
【0030】
本発明の銅ボンディングワイヤは、半導体装置の製造において、半導体チップ上の電極と、リードフレームや回路基板上の電極とを接続するために用いることができる。半導体チップ上の電極との第1接続(1st接合)は、ボール接合であってもウェッジ接合であってもよい。ボール接合では、ワイヤ先端をアーク入熱で加熱溶融し、表面張力によりボール(FAB:Free Air Ball)を形成した後に、加熱した半導体素子の電極上にこのボール部を圧着接合する。ウェッジ接合では、ボールを形成せずに、ワイヤ部を熱、超音波、圧力を加えることにより電極上に圧着接合する。表面の結晶粒界密度が所定範囲にある本発明の銅ボンディングワイヤは、ドーパントを添加しないあるいは添加量が極めて微量であっても大気中での保管寿命に優れることから、酸化物やドーパントによるボールの硬質化を抑制することができ、ボール接合時のチップ損傷を抑えることができる。また、大気中での保管寿命に優れる本発明の銅ボンディングワイヤは、大気中で長期保管した後も酸化劣化による接続不良を抑制することができ、広いプロセスウィンドウを確保することができる。リードフレームや回路基板上の電極との第2接続(2nd接合)は、ウェッジ接合とし得、本発明の銅ボンディングワイヤを用いることにより、上記のとおり広いプロセスウィンドウを確保することができる。
【0031】
[半導体装置]
本発明の半導体装置用銅ボンディングワイヤを用いて、半導体チップ上の電極と、リードフレームや回路基板上の電極とを接続することによって、半導体装置を製造することができる。
【0032】
一実施形態において、本発明の半導体装置は、回路基板、半導体チップ、及び回路基板と半導体チップとを導通させるための銅ボンディングワイヤを含み、該銅ボンディングワイヤが本発明の銅ボンディングワイヤであることを特徴とする。
【0033】
本発明の半導体装置において、回路基板及び半導体チップは特に限定されず、半導体装置を構成するために使用し得る公知の回路基板及び半導体チップを用いてよい。あるいはまた、回路基板に代えてリードフレームを用いてもよい。例えば、特開2002-246542号公報に記載される半導体装置のように、リードフレームと、該リードフレームに実装された半導体チップとを含む半導体装置の構成としてよい。
【0034】
半導体装置としては、電気製品(例えば、コンピューター、携帯電話、デジタルカメラ、テレビ、エアコン、太陽光発電システム等)及び乗物(例えば、自動二輪車、自動車、電車、船舶及び航空機等)等に供される各種半導体装置が挙げられ、中でも電力用半導体装置(パワー半導体装置)が好適である。
【実施例】
【0035】
以下、本発明について、実施例を示して具体的に説明する。ただし、本発明は、以下に示す実施例に限定されるものではない。
【0036】
(サンプル)
まずサンプルの作製方法について説明する。ワイヤの原材料となるCuは、純度が99.9質量%(3N)以上~99.999質量%(5N)以上で残部が不可避不純物から構成されるものを用いた。斯かる所定純度の銅は、連続鋳造により数mmの線径になるように製造した。また、ドーパントSn、P、Niを添加する場合、Sn、P、Niは純度が99質量%以上で残部が不可避不純物から構成されるもの、あるいはCuにドーパントが高濃度で配合された母合金を用いた。そして、ドーパント含有量が目的の値となるように、上記所定純度の銅に添加し、連続鋳造により数mmの線径になるように製造した。得られた線材に対し、引抜加工を行って線径0.3~1.4mmのワイヤを作製した。伸線には市販の潤滑液を用い、伸線速度は20~150m/分とした。また伸線は、ワイヤ表面の酸化膜を除去するために、塩酸等による酸洗処理を行った後、減面率が10~26%の範囲にある複数のダイス(そのうち半分以上のダイスの減面率は18%以上)を用いて伸線加工を行い、最終線径まで加工した。必要に応じて、伸線加工の途中において、200~600℃、5~15秒間の熱処理を0~2回行った。ここで、最終線径は、直径20μm(実施例1~11、15~17及び比較例1~4、7)、30μm(実施例12~14及び比較例5~6)であった。加工後、実施例1~17の製造においては540~820℃で長くとも数秒間の表面改質熱処理を行った。他方、比較例1、4及び5の製造においては500~650℃で10秒間以上の調質熱処理、また、比較例2、3、6及び7の製造においては350~600℃で1~10秒間の調質熱処理を行った。熱処理は、ワイヤを連続的に掃引しながら行い、フォーミングガス(5%H2-N2)の流通下で行った。
【0037】
(試験・評価方法)
以下、試験・評価方法について説明する。
【0038】
[表面の結晶粒界密度]
ワイヤの表面を観察面として、EBSD法により、以下のとおり、結晶粒界を測定し結晶粒界密度を算出した。
測定に供するボンディングワイヤを試料ホルダーに直線状に固定した。次いで、ワイヤ長手軸に垂直な方向におけるワイヤの幅の中心が測定面の幅の中心となるように位置決めし、かつ、測定面の幅がワイヤ直径の20%以上40%以下となるように測定面を決定した。測定面の長さは測定面の幅の5倍とした。そして、EBSD測定装置(オックスフォード・インストゥルメンツ(株)製AZtec EBSDシステム)を用いて、加速電圧15kV、測定点間隔0.06から0.6μmで測定し、EBSD解析ソフト(オックスフォード・インストゥルメンツ(株)製AZtec HKL)により解析し、隣接する測定点間の方位差が15°以上である境界を結晶粒界とみなして結晶粒界の総長さ(μm)を求めた。詳細には、得られたヒストグラム中、隣接する測定点間の方位差が15°以上である境界の度数を求め、該度数に測定点間隔を乗じて結晶粒界の総長さ(μm)を算出した。得られた結晶粒界の総長さ(μm)を測定面積(μm2)で除して、表面の結晶粒界密度(μm/μm2)を算出した。
なお、EBSD法による測定は、ワイヤ長手方向に互いに1mm以上離間した3箇所の測定面について実施し、その平均値を採用した。
【0039】
[破断強度]
ワイヤの破断強度は、Instron製引張試験機を用いて、標点間距離100mm、引張速度10mm/分、ロードセル定格荷重5Nの条件で引っ張り、測定した。本試験においては、ワイヤの破断した荷重を初期(試験前)のワイヤ断面積で除した値を破断荷重とした。測定は5回実施し、その平均値をそのサンプルの破断強度として採用した。
【0040】
[2nd接合ウィンドウ]
2nd接合ウィンドウ試験は、線径20μmでは表1に示すように、横軸に2nd接合時の超音波電流を50mAから100mAまで10mAごとに6段階設け、縦軸に2nd接合時の荷重を40gfから90gfまで10gfごとに6段階設け、線径30μmでは表2に示すように、横軸に130mAから180mAまで10mAごとに6段階設け、縦軸に90gfから140gfまで10gfごとに6段階設け、全36の2nd接合条件につき接合可能な条件の数を求める試験である。
【0041】
【0042】
【0043】
本試験は、実施例及び比較例の各ワイヤについて、(i)ワイヤの製造当日と、ワイヤ製造後に(ii)大気中で1週間保管後、(iii)大気中で2週間保管後、(iv)大気中で3週間保管後、(v)大気中で4週間保管後の、異なる5つの時期に実施した。詳細には、市販のワイヤボンダを用いて、リードフレームのリード部分に、各条件につき200本ずつボンディングを行った。リードフレームには、Agめっきを施したリードフレームを用い、ステージ温度200℃、フォーミングガス(5%H2-N2)0.5l/分流通下にボンディングを行った。そして、不着やボンダの停止の問題なしに連続ボンディングできた条件の数を求め、以下の基準に従って、評価した。
【0044】
評価基準:
◎:33条件以上
○:30~32条件
△:26~29条件
×:25条件以下
【0045】
[ループ形状安定性]
ループ形状安定性(ループプロファイルの再現性)は、ワイヤ長が3mm、ループ高さが250μmとなるように台形ループを40本接続し、高さの標準偏差より評価した。高さ測定には光学顕微鏡を使用し、位置はループの最頂点の近傍と、ループの中央部の2箇所で測定した。ループ高さの標準偏差がワイヤ径の1/2以上であれば、バラツキが大きいと判断し、1/2未満であればバラツキは小さく良好であると判断した。そして、表3に示す基準に従って、評価した。
【0046】
【0047】
実施例及び比較例の評価結果を表4に示す。
【0048】
【0049】
実施例No.1~17はいずれも、ワイヤの表面の結晶粒界密度が本発明範囲内にあり、大気中で保管した後も酸化劣化による接続不良を抑制することができ、広いプロセスウィンドウを確保することができることを確認した。さらに、実施例No.1~17はいずれも、ループプロファイルの再現性に優れ、良好なループ形状安定性を呈することを確認した。なお、ワイヤの表面をSEM観察(倍率10,000倍;二次電子像)したところ、実施例No.1~6、9~13、15~17に関しては表面欠陥は観察されず、また、実施例No.7、8及び14に関しては表面欠陥が若干観察された。なお、表面欠陥とは、光学顕微鏡で見えるようなキズ、削れではなく、電子顕微鏡で観察できる微小な欠陥である。表面欠陥は、主に伸線時にダイスとの接触によって形成されるものと考えられる。
他方、比較例No.1~7は、ワイヤの表面の結晶粒界密度が本発明範囲外であり、酸化劣化による接続不良が生じ、狭いプロセスウィンドウに帰着したり、ループ形状安定性に劣ったりすることを確認した。なお、ワイヤの表面をSEM観察(倍率10,000倍;二次電子像)したところ、比較例No.1、4、5に関しては表面欠陥は観察されず、比較例No.2、7に関しては表面欠陥が若干観察され、比較例No.3、6に関しては表面欠陥が多く観察された。
また、線径100μm、200μmなどのワイヤに関しても、ワイヤの表面の結晶粒界密度が本発明範囲内にあると、上記実施例と同様の挙動を示すことを確認した。