(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-19
(45)【発行日】2025-02-28
(54)【発明の名称】二酸化炭素還元光触媒粒子
(51)【国際特許分類】
B01J 23/66 20060101AFI20250220BHJP
C01B 32/40 20170101ALI20250220BHJP
B01J 35/39 20240101ALI20250220BHJP
B01J 37/34 20060101ALI20250220BHJP
B01J 37/14 20060101ALI20250220BHJP
B01J 37/16 20060101ALI20250220BHJP
B01J 35/45 20240101ALI20250220BHJP
【FI】
B01J23/66 M
C01B32/40
B01J35/39
B01J37/34
B01J37/14
B01J37/16
B01J35/45
(21)【出願番号】P 2020174222
(22)【出願日】2020-10-15
【審査請求日】2023-07-21
(31)【優先権主張番号】P 2020032970
(32)【優先日】2020-02-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】西本 大夢
(72)【発明者】
【氏名】阿部 能之
(72)【発明者】
【氏名】田中 庸裕
(72)【発明者】
【氏名】寺村 謙太郎
【審査官】安齋 美佐子
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-192302(JP,A)
【文献】特開2010-065265(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第105060389(CN,A)
【文献】特開2006-198568(JP,A)
【文献】E-Journal of Surface Science and Nanotechnology,2014年,vol.12 , p.263 -268,DOI:10.1380/ejssnt.2014.263
【文献】Nuclear Instruments and Methods in Physics Research B,2015年,vol.359, p.64 -68,DOI:10.1016/j.nimb.2015.07.031
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 21/00-38/74
C01B 32/40
JSTPlus/JST7580/JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化ガリウム(Ga
2O
3)粒子と、前記酸化ガリウム粒子の表面に担持された金属銀(Ag)ナノ粒子と、を含み、
拡散反射スペクトルにおいて波長350~550nmの範囲内にピークを有し、
前記金属銀ナノ粒子の平均粒子径が10.0~30.0nmであり、
前記金属銀ナノ粒子の担持量が酸化ガリウム粒子に対して3.0~10.0質量%である、二酸化炭素還元光触媒粒子。
【請求項2】
CO
2還元光触媒性能評価試験において、CO選択率が60%以上である、
請求項1に記載の二酸化炭素還元光触媒粒子。
ただし、前記CO
2還元光触媒性能評価試験は、超純水(1L)、NaHCO
3(0.1M)及び前記二酸化炭素還元光触媒粒子(0.5g)を混合して作製した評価用溶液を評価装置の槽に入れ、その後、二酸化炭素(CO
2)ガスを30mL/分の流量で吹き込みながら、400W高圧HgランプでUV光を照射し、1時間照射後に発生したガスをガスクロマトグラフィーを用いて分析して、H
2、O
2及びCOガス発生速度を求める条件で行い、下記(1)式に基づき前記CO選択率を算出する。
【数1】
【請求項3】
酸化ガリウム(Ga
2O
3)粒子と銀(Ag)イオン供給源とを還元溶液中で超音波を照射することで得られた複合粒子である、
請求項1に記載の二酸化炭素還元光触媒粒子。
【請求項4】
酸化ガリウム(Ga
2O
3)粒子と銀(Ag)イオン供給源とを還元溶液中で超音波を照射して得られた複合粒子を、さらに酸素含有雰囲気中100℃以上の温度で熱処理することで得られた加熱後複合粒子である、
請求項1に記載の二酸化炭素還元光触媒粒子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二酸化炭素還元光触媒粒子に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体光触媒粒子を用いた水分解及び二酸化炭素還元技術は、エネルギー問題や環境問題を解決できる技術として注目を集めている。この光触媒粒子に助触媒として銀(Ag)などからなるナノ粒子を担持させることで、光励起によって生成した電子をトラップして電荷分離を促進する効果や二酸化炭素還元生成物を選択する効果が期待できる。例えば通常の光触媒では光照射により水が水素(H2)と酸素(O2)とに分解する。これに対して銀粒子を担持した光触媒では、二酸化炭素(CO2)の還元により一酸化炭素(CO)が水素(H2)とともに生成する。このような二酸化炭素還元光触媒として、銀ナノ粒子を助触媒として担持した酸化ガリウム粒子(銀ナノ粒子担持酸化ガリウム粒子)が知られている。
【0003】
一酸化炭素(CO)は化学工業や産業における重要な出発物質であり、これを水素と反応させて様々な燃料や化学物質を合成することが可能である。したがって二酸化炭素還元光触媒では、一酸化炭素の生成割合、すなわちCO選択率の高いことが望ましい。ここでCO選択率とは、下記(1)式に表されるように、還元反応により生じる水素(H2)ガスの発生速度(発生量)と一酸化炭素(CO)ガスの発生速度の合計に対する一酸化炭素(CO)ガスの発生速度の割合である。
【0004】
【0005】
ところで金属ナノ粒子を担持させる方法として、含浸法や光電析法(光電着法)などの手法が従来から知られている。例えば特許文献1には二酸化炭素の還元方法に関して、CO2とH2Oと光触媒とに光を照射してCO2を還元する反応によりCOを生成させる旨、光電着法又は含浸法で銀を酸化ガリウムに担持した触媒を用いる旨、光電着法では硝酸銀など銀前駆体を含むアルコール水溶液に酸化ガリウム粉末を入れて混合後、光照射を行って銀前駆体を還元処理する旨、含浸法では銀前駆体水溶液に酸化ガリウムを加えて攪拌し、水を除去した後に加熱乾燥し、更に空気中で焼成する旨が記載されている(特許文献1の請求項1、2及び[0015])。
【0006】
また二酸化炭素還元触媒に関するものではないが、特許文献2には超音波を照射して溶媒中に1種類以上の貴金属酸化物を分散させて貴金属酸化物分散液を得る工程と、前記貴金属酸化物分散液を加熱する工程とを含むことを特徴とする貴金属ナノ材料の製造方法が開示され、溶媒に貴金属担持用の担体を更に含有させる旨、担体の表面上に高度な分散性を持って担持された状態の貴金属ナノ材料を得ることが可能であるため、これを燃料電池用触媒、材料合成用触媒等に好適に利用することが可能となる旨が記載されている(特許文献2の請求項1、6及び[0014])。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2012-192302号公報
【文献】特開2008-24968号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら本発明者らが調べたところ、特許文献1で提案される含浸法や光電析法で作製された光触媒には、一定の効果があるものの改良の余地があることが分かった。すなわち助触媒である銀(Ag)の効果を十分に発揮させるためには、その担持量をある程度に多くすることが望ましい。また銀の粒径が小さく、数十nmオーダー程度であることが望まれる。粒径が大きすぎると触媒活性が失われてしまうためである。しかしながら含浸法や光電析法で作製した光触媒粒子では、銀濃度(担持量)を高くすると銀粒子が凝集して粒径が大きくなってしまう問題がある。そのため粒径の小さい銀ナノ粒子を高担持量で担持させることは困難である。
【0009】
特許文献2は貴金属ナノ材料を二酸化炭素還元光触媒に用いることを意図しておらず、ましてやナノ材料の粒径を数十nmオーダーに小さくすることを目的とするものではない。実際、引用文献2では実施例において貴金属(Pt)ナノ微粒子担持球状カーボンや貴金属(Pt)ナノチューブを作製する旨、燃料電池用触媒、材料合成用触媒、医療や食品添加剤、導電性ペーストに好適である旨を教示するに過ぎない(特許文献2の[0043]~[0062])。
【0010】
一方で金属ナノ粒子を合成する際に、原料濃度を低くするとともに多量の有機保護剤を用いて均一且つ微細な粒子を合成する手法が知られている。しかしながらこのような手法で光触媒粒子を作製すると、光触媒粒子の収率が低いとともに有機保護剤が粒子表面に付着するという問題がある。付着した有機保護剤は触媒活性を低下させてしまうため、これを分解除去するために触媒粒子を高温焼成する必要がある。このような焼成を経た触媒粒子では、金属ナノ粒子の粒径が大きくなってしまう。そのため従来の手法では微細な銀ナノ粒子を高分散且つ高担持量で担持させることは困難であり、触媒性能、特にCO選択率に優れた光触媒粒子を効率的に製造する上で限界があった。
【0011】
本発明者らは、このような従来の問題に鑑みて検討を行い、酸化ガリウム粒子と銀供給源とに超音波を照射するという簡易な手法により、助触媒たる銀ナノ粒子を高分散且つ高担持率で析出させることができ、それにより改良されたCO選択率を有する光触媒を得ることができるとの知見を得た。
【0012】
本発明は、このような知見に基づき完成されたものであり、改良されたCO選択率を有する二酸化炭素還元光触媒粒子の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、下記の態様を包含する。なお本明細書において「~」なる表現は、その両端の数値を含む。すなわち「X~Y」は「X以上Y以下」と同義である。
【0014】
酸化ガリウム(Ga2O3)粒子と、前記酸化ガリウム粒子の表面に担持された金属銀(Ag)ナノ粒子と、を含み、
拡散反射スペクトルにおいて波長350~550nmの範囲内にピークを有する、二酸化炭素還元光触媒粒子。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、改良されたCO選択率を有する二酸化炭素還元光触媒粒子が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図5】実施例及び比較例サンプルのXRDパターンを示す。
【
図6】実施例及び比較例サンプルのXRDパターン(拡大図)を示す。
【
図7】実施例及び比較例サンプルのXRDパターン(拡大図)を示す。
【
図8】実施例サンプル(実施例3)のSEM写真を示す。
【
図9】比較例サンプル(比較例2)のSEM写真を示す。
【
図10】実施例サンプル(実施例3)のSTEM写真を示す。
【
図11】実施例サンプル(実施例4)のSTEM写真を示す。
【
図12】比較例サンプル(比較例1)のSTEM写真を示す。
【
図13】比較例サンプル(比較例2)のSTEM写真を示す。
【
図14】実施例サンプル中銀ナノ粒子の粒径分布を示す。
【
図15】実施例及び比較例サンプル中銀ナノ粒子の粒径分布を示す。
【
図16】実施例及び比較例サンプルの拡散反射スペクトルを示す。
【
図18】熱処理前後の実施例サンプルのSEM写真を示す。
【
図19】熱処理前後の実施例サンプルのTG曲線を示す。
【
図20】熱処理前後の実施例サンプルのDTA曲線を示す。
【
図21】熱処理前後の実施例サンプルのXRDパターンを示す。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の具体的な実施形態(以下、「本実施形態」という)について以下に説明する。ただし本発明は以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲において種々の変更が可能である。
【0018】
1.光触媒粒子
本実施形態の二酸化炭素還元光触媒粒子(以下、「光触媒粒子」と総称する場合がある)は、酸化ガリウム(Ga2O3)粒子と、この酸化ガリウム粒子の表面に担持された金属銀(Ag)ナノ粒子と、を含む。酸化ガリウム(Ga2O3)粒子は主触媒として機能するものであり、光触媒に用いられるものであれば特に限定されない。Ga2O3には、α型、β型、γ型、δ型及びε型が知られているが、いずれを用いてもよい。しかしながら安定な酸化物であるβ型(β-Ga2O3)が好ましい。粒子の大きさも特に限定されない。例えば粒子の平均粒子径は0.3~5.0μmである。さらに粒子の形状も特に限定されない。例えば球状、不定形状、異方形状(ロッド又は板状等)が挙げられる。粒子がロッド状である場合、例えば長軸径が1.0~5.0μm、短軸径が0.3~1.0μmのものを用いることができる。
【0019】
金属銀(Ag)ナノ粒子は、助触媒として機能するものであり、その平均粒子径がnmオーダーである。金属銀ナノ粒子を微細にすることで、光触媒の触媒性能が高くなる。これに対して銀ナノ粒子がnmオーダーより大きいと、触媒活性などの助触媒としての機能が失われたり、酸化ガリウム粒子の表面活性点が少なくなったりする恐れがある。
【0020】
本実施形態の光触媒粒子は、拡散反射スペクトルにおいて波長350~550nmの範囲内にピークを有する。これにより光触媒粒子の触媒性能が優れたものになる。拡散反射スペクトルは拡散反射法により得られる吸収スペクトルである。粉末などの固体試料に光を照射すると、散乱過程を経てその一部が試料外に出ていく。散乱過程では、照射した光の一部が試料表面で反射されて、残りは試料内に侵入する。侵入した入射光は試料の電子遷移状態により一部が吸収されて、残りが試料外に出ていく。紫外光や可視光の入射光強度と散乱過程後の光強度とから吸収スペクトルを得ることができる。
【0021】
本実施形態の光触媒粒子は、金属銀ナノ粒子の平均粒子径が10.0~50.0nmであることが好ましい。平均粒子径を10.0nm以上とすることで、Ag濃度(担持量)を低くしたり、有機表面保護剤を添加したりする必要は無く、銀ナノ粒子を形成することが可能になる。一方で平均粒子径を50.0nm以下とすることで、触媒活性などの助触媒としての機能が失われたり、酸化ガリウム粒子の表面活性点が少なくなったりするという問題を防ぐことが可能になる。平均粒子径は10.0~30.0nmがより好ましい。なお平均粒子径は、光触媒粒子を、透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて観察することで求めることができる。一例として、目視又は画像解析ソフトウエアにより銀ナノ粒子の粒径分布を求め、この粒径分布から平均値を算出するという手法が挙げられる。
【0022】
本実施形態の光触媒粒子は、金属銀ナノ粒子の担持量が酸化ガリウム粒子に対して0.3~10.0質量%であることが好ましい。担持量が過度に少ないと助触媒の効果を十分に発揮させることが困難になる。そのためCO2還元に光触媒を用いたときにCOガス発生速度とCO選択率が低くなってしまう。一方で担持量が過度に多いとCOガス発生速度が低下する。銀供給源の配合量や超音波処理条件を制御することで担持量を調整することができる。銀ナノ粒子の担持量は0.5質量%以上であってよく、1.0質量%以上であってよく、3.0質量%以上であってよく、5.0質量%以上であってもよい。また担持量は7.5質量%以下であってよく、5.0質量%以下であってよく、3.0質量%以下であってよく、1.0質量%以下であってもよい。
【0023】
本実施形態の光触媒粒子は、触媒性能、特にCO選択率が優れている。例えばCO2還元光触媒性能評価試験においてCO選択率が30%以上である。そのためCO2還元により発生するCOガス量の割合を高くすることが可能になる。CO選択率は40%以上であってよく、50%以上であってよく、60%以上であってよく、70%以上であってもよい。CO選択率の上限は特に限定されるものではないが、典型的には90%以下、より典型的には80%以下である。
【0024】
CO
2還元光触媒性能評価試験は公知の評価装置を用いて行えばよい。評価装置の一例を
図2に示す。評価装置(2)は槽(4)とこの槽(4)内部に設けられた高圧水銀(Hg)ランプ(6)とから構成されている。槽(4)の内部には評価用溶液(22)が入れられる。また槽(4)はガス導入管(8)、ガス排出管(10)、pH計(12)、ゴム栓(14)及びスターラー(16)を備えている。ガス導入管(8)の先端にはバブリングフィルター(18)が設けられている。水銀ランプ(6)は、その周囲に流れる冷却水(20)によって冷却される。
【0025】
評価試験は次のようにして行えばよい。純水、炭酸水素ナトリウム(NaHCO3)及びサンプル(光触媒粒子)を混合して評価用溶液(22)を作製する。この評価用溶液(22)を評価装置(2)の槽(4)に入れて、スターラー(16)で撹拌する。二酸化炭素(CO2)ガス(30)をガス導入管(8)から吹き込み、それと同時に高圧Hgランプ(6)からUV光を評価用溶液(22)に照射する。所定時間照射した後に、発生したガス(32)をガス排出管(10)を通してガスクロマトグラフィー(34)に導入し、そこで分析する。この分析により水素(H2)、酸素(O2)及び一酸化炭素(CO)の発生速度(生成量)を求める。得られた発生速度を用いて、下記(1)式に基づきCO選択率を算出する。
【0026】
【0027】
拡散反射スペクトルにおいて特定波長域(350~550nm)にピークを有する本実施形態の光触媒粒子が、高いCO選択率を示す、そのメカニズムの詳細は不明である。しかしながら金属銀ナノ粒子の粒子サイズと電子遷移状態とが関係しているのではないかと推測している。すなわち拡散反射法により得られるスペクトル(拡散反射スペクトル)は種の価数、配位構造、配位子場といった試料の電子遷移状態を反映している。また試料が微粒子である場合には、その粒子サイズによって異なる吸収エネルギーを示す場合がある。例えば金属銀粒子が微粒子である場合には、プラズモン共鳴に対応する波長域に吸収帯を与えることが知られている。したがって特定波長域(350~550nm)にピークを有する本実施形態の光触媒粒子は、担持銀ナノ粒子が、微細で特有の電子遷移状態を有するものになっていると考えられる。
【0028】
一方で銀ナノ粒子の粒子サイズと電子遷移状態は、光触媒の触媒性能、例えばCO選択率に影響を及ぼすことが予想される。このことを金属銀ナノ粒子担持酸化ガリウム粒子(光触媒粒子)のCO
2還元のメカニズム(
図2)に基づき説明する。
図2に示されるように、エネルギーhνをもつ光が粒子に照射されると、酸化ガリウム粒子(半導体光触媒粒子)中に電子(e
-)と正孔(h
+)とが生じる。この際、金属銀ナノ粒子(助触媒)は電荷分離(電子e
-と正孔h
+の分離)を促進する。正孔(h
+)が周囲の水分(H
2O)と反応する結果、下記(2)式に示す反応が右方向に進み、酸素(O
2)とプロトン(H
+)とが生成される。一方で電子(e
-)が二酸化炭素(CO
2)及びプロトン(H
+)と反応する結果、下記(3)及び(4)式に示す反応が右方向に進み、一酸化炭素(CO)と水(H
2O)と水素(H
2)が生成する。また下記(2)から(4)式の反応を合わせると、原理的には下記(5)式に示す反応が進む。
【0029】
【0030】
上記(3)式の反応と(4)式の反応が同じ程度で起こると、上記式(5)に示されるようにCO選択率(CO発生速度/(H2発生速度+CO発生速度))は一定である。しかしながら実際には、これらの反応が同じ程度に起こるとは限らない。上記(3)式の反応が優先的に起こることで、CO選択率が高くなる。
【0031】
上記(3)式の反応では、二酸化炭素(CO2)が炭酸塩種(carbonate species)として触媒表面に吸着し、光照射により反応中間体であるギ酸塩種(formate species)に変化した後に水分子と相互作用して一酸化炭素(CO)になるとの報告がある。またこの報告では銀助触媒が反応中間体の生成を促進することが示唆されている。したがって金属銀ナノ粒子(助触媒)による電荷分離の作用及び反応中間体生成の作用を高めることで、上記(3)式の反応が優先的に起こり、CO選択率がより一層に改善されると期待される。この点、本実施形態の光触媒粒子は、担持銀ナノ粒子が微細で特有の電子遷移状態を有するものになっているが故に、これらが複合的に作用して電荷分離の作用及び反応中間体生成の作用が高くなっているのではないかと推察している。
【0032】
2.光触媒粒子の製造方法
本実施形態の光触媒は、その製造方法が限定されない。しかしながら光触媒粒子(二酸化炭素還元光触媒粒子)が、酸化ガリウム(Ga2O3)粒子と銀(Ag)イオン供給源とを還元溶液中で超音波を照射することで得られた複合粒子(金属銀担持酸化ガリウム粒子)であることが好ましい。また光触媒粒子(二酸化炭素還元光触媒粒子)が、酸化ガリウム(Ga2O3)粒子と銀(Ag)イオン供給源とを還元溶液中で超音波を照射して得られた複合粒子を、さらに酸素含有雰囲気中100℃以上の温度で熱処理することで得られた加熱後複合粒子(加熱後金属銀担持酸化ガリウム粒子)であることが好ましい。好ましい製造方法の態様について以下に具体的に説明する。
る訳ではない。
【0033】
光触媒粒子の製造方法は、好ましくは以下の工程;酸化ガリウム(Ga2O3)粒子と銀(Ag)供給源とを準備する工程(準備工程)、この酸化ガリウム粒子と銀供給源とを還元液に加えて反応液を作製する工程(混合工程)、及びこの反応液に超音波を照射して、金属銀ナノ粒子を担持した酸化ガリウム粒子を作製する工程(超音波処理工程)を含む。各工程の詳細について以下に説明する。
【0034】
<準備工程>
準備工程では、酸化ガリウム(Ga2O3)粒子と銀(Ag)供給源とを準備する。酸化ガリウム(Ga2O3)粒子は光触媒に用いられるものであれば特に限定されない。Ga2O3には、α型、β型、γ型、δ型及びε型が知られているが、いずれを用いてもよい。しかしながら安定な酸化物であるβ型(β-Ga2O3)が好ましい。粒子の大きさも特に限定されない。例えば粒子の平均粒子径は0.3~5.0μmである。さらに粒子の形状も特に限定されない。例えば球状、不定形状、異方形状(ロッド又は板状等)が挙げられる。粒子がロッド状である場合、例えば長軸径が1.0~5.0μm、短軸径が0.3~1.0μmのものを用いることができる。
【0035】
銀(Ag)供給源は、銀を供給できるものである限り限定されない。具体的には、酸化物、無機金属塩及び/又は有機金属化合物が挙げられる。無機金属塩として硝酸塩、塩化物及び/又は硫酸塩などが挙げられる。銀供給源は還元液に溶解するものであってもよいし、あるいは溶解しないものであってもよい。好ましくは銀供給源は酸化銀を含む。酸化銀は銀イオンと酸素イオンのみで構成されるため、ハンドリングが容易であり、廃棄物処理等の問題が無い。酸化銀には、銀の酸化数が異なるAg2O、AgO及びAg2O3が知られており、いずれも使用が可能である。しかしながら入手がより容易なAg2Oが好ましい。銀供給源の大きさも特に限定されない。例えば銀供給源の平均粒子径は0.3~3.0μmである。
【0036】
<混合工程>
混合工程では、準備した酸化ガリウム粒子と銀供給源とを還元液に加えて反応液を作製する。酸化ガリウム粒子と銀供給源の配合割合は、最終的に得られる光触媒中の銀担持量が所望の値となるように調整すればよい。銀担持量が過度に少ないと助触媒の効果を十分に発揮させることが困難になる。そのためCO2還元に光触媒を用いたときにCOガス発生速度とCO選択率が低くなる。一方で銀担持量が過度に多いとCOガス発生速度が低下する。
【0037】
還元液は、還元性を有する液体である限り限定されない。それ自体が還元性を有する液体であってもよく、あるいは還元性を有しない液体に還元剤を溶解させたものであってもよい。しかしながらそれ自体が還元性を有する液体であることが好ましい。また別個の還元剤を含まなくともよい。このような還元液として、毒性が低く入手が容易なエタノールやプロパノールなどのアルコール類が好ましい。またアルコール類と水との混合液も使用可能である。ただし混合液を用いる場合には、水の含有量が過度に多いと十分な還元作用を発揮させることが困難になる。したがって還元液中の水の含有量は、50容積%以下が好ましく、25容積%以下がより好ましい。水の含有量の下限値は特に限定されるものではなく、0容量%であってもよい。
【0038】
<超音波処理工程>
超音波処理工程では、得られた反応液に超音波を照射して、金属銀ナノ粒子を担持した酸化ガリウム粒子を作製する。この際、反応液中の銀供給源の表面部が超音波還元されて、金属銀(Ag)ナノ粒子となり、これが酸化ガリウム粒子の表面に担持される。金属銀ナノ粒子を担持した酸化ガリウム粒子が光触媒粒子になる。
【0039】
金属銀ナノ粒子担持のメカニズムを
図3を用いて説明する。超音波が照射されると反応液中に粗密波が生じ、この粗密波により正負の繰り返し圧力が生じる。負圧サイクル時には蒸発により無数の微細な気泡が反応液中に生じる。正圧サイクル時に、この気泡は圧壊して強力な衝撃力を周囲に与える。この現象を超音波キャビテーションという。キャビテーションにより反応液中の酸化ガリウム粒子と銀供給源とが均一に分散されるとともに、その表面が清浄化される。またキャビテーションにより微小かつ高温且つ高圧のホットスポットが生成する。生成したホットスポットは、銀供給源を分解還元させるとともに、反応液に作用してラジカルが発生し、このラジカルが銀供給源の分解還元を促進する。このようにして銀供給源から金属銀ナノ粒子が生成する。
【0040】
例えば固体である酸化銀(Ag2O)を銀供給源に用いた場合には、酸化銀にホットスポットやラジカルが作用し、酸化銀が表面で分解及び還元されて銀ナノ粒子が析出する。この銀ナノ粒子は徐々に成長し、ある程度にまで成長すると酸化銀と銀ナノ粒子の界面応力が限界になり脱離する。あるいは超音波の作用により酸化銀から中間生成物が生成し、この中間生成物にホットスポットやラジカルが作用して銀ナノ粒子が反応液中に生成する。脱離又は生成した銀ナノ粒子は、超音波の物理的な作用により酸化ガリウム粒子表面に移動し、そこに吸着する。このようにして銀ナノ粒子を担持した酸化ガリウム粒子が得られる。超音波還元により生成した銀ナノ粒子は微小である。また有機保護剤や高温焼成が不要であるため、銀ナノ粒子を微細な状態を担持した酸化ガリウム粒子(光触媒粒子)の作製が可能である。
【0041】
光触媒粒子が銀ナノ粒子以外の銀供給源を含むと、助触媒の効果を十分に発揮させることが困難になることがある。この点、超音波処理によれば、銀供給源(酸化銀等)を殆ど含まない光触媒粒子を得ることが可能である。例えばX線回折パターンにおいて、酸化銀(Ag2O)のピークが観察されない光触媒粒子とすることが可能である。
【0042】
超音波処理には特別な装置を用いる必要はなく、通常の超音波発振源を備えた装置を用いればよい。例えば市販の超音波洗浄機を使用してもよい。処理も通常の条件で行えばよい。例えば超音波の周波数は20~100kHzであってよく、28~45kHzであってよい。超音波処理を同一の周波数で継続して行ってもよく、あるいは周波数発振切替モードを用いて処理の途中で周波数を切り替えてもよい。周波数切り替えの回数は1回でもよく、あるいは複数回であってもよい。周波数発振切替モード(例えば28kHz/45kHzの2周波切替発振モード)で処理することで、酸化ガリウム粒子の液中での分散性をより一層に向上させることが可能になる。また超音波の出力は10~500Wであってよく、50~200Wであってよい。さらに処理時間は1~10時間であってよい。処理時間を長くすることで、銀供給源の全てを銀ナノ粒子に変換させて酸化ガリウム粒子に担持させることが可能である。一方で処理時間を短くすることで、銀ナノ粒子の担持量を調整することが可能である。
【0043】
超音波処理により得られた生成物(金属銀ナノ粒子を担持した酸化ガリウム粒子)は反応液中に分散又は沈殿した状態で存在する。したがって反応液から生成物を回収して、これを乾燥すればよい。回収では、ろ過や遠心分離等の公知の分離手段を用いればよい。また乾燥は、銀ナノ粒子が過度の粒成長を起こさない条件、例えば100℃以下で行えばよい。なお先述したように、金属銀ナノ粒子の担持量が酸化ガリウム粒子に対して0.3~10.0質量%であることが好ましい。担持量は、銀供給源の配合量や超音波処理条件を制御することで調整できる。
【0044】
<熱処理工程>
必要に応じて、金属銀ナノ粒子を担持した酸化ガリウム粒子に、酸素含有雰囲気中100℃以上の温度で熱処理を施してもよい。超音波担持法で作製した銀担持酸化ガリウム粒子に熱処理を施すと、粒子表面に残留したエタノール由来の有機物を除去でき、さらに銀(Ag)ナノ粒子の粒径を小さくすることができる。この熱処理の作用により、CO2還元光触媒として利用した際にCOをより選択的に生成させることができる。
【0045】
熱処理は、酸素を含む雰囲気中100℃以上で行うことが好ましい。熱処理に特別な装置を用いる必要はなく、大気中での焼成が可能な一般的な電気炉を用いることができる。100℃未満の温度では、有機物の分解や銀(Ag)ナノ粒子の粒径へ与える影響が小さく、その効果を期待できない。
【0046】
このようにして、金属銀ナノ粒子担持酸化ガリウム粒子からなる光触媒粒子を得ることができる。
【0047】
このような製造方法を採用することで、触媒性能、特にCO選択率が優れた触媒粒子を簡易に得ることが可能である。その詳細な理由は不明であるが、超音波還元により生成した担持銀ナノ粒子が微細で特有の電子遷移状態を有するためと推測している。すなわち超音波還元処理で生成した銀ナノ粒子(助触媒)は粒子サイズが小さい。また超音波処理時に発生した高温且つ高圧のホットスポットやラジカルの作用によって特有の電子遷移状態になっていると考えられる。実際、超音波により生じたホットスポットは5000℃近くの高温であるとの報告があり、このような高温のホットスポットが瞬間的にでも作用することで、電子遷移状態が変化することは容易に予想される。そしてこの微細な粒子サイズと特有の電子遷移状態とが複合的に作用して優れたCO選択率をもたらすと推測している。
【0048】
またこのような製造方法によれば、金属銀ナノ粒子を高分散且つ高担持率で析出させることが可能になる。実際、銀ナノ粒子を5質量%もの高濃度で担持でき、それによりCO選択率に優れた光触媒粒子を得られることが確認されている。これに対して、従来から提案されている含浸法や光電析法では金属銀ナノ粒子を高分散且つ高担持率で担持させることは困難である。例えば、特許文献1には銀の担持量に関して、光電着法による場合には酸化ガリウムに対して0.2~2質量%、含浸法による場合には0.05~2%である旨、最適範囲より多い場合には銀ナノ粒子の粒子径が大きくなり触媒活性などの効果が失われたり、酸化ガリウムの表面活性点を減らしたりする旨が記載されている(特許文献1の[0014]及び[0015])。
【0049】
また特許文献2で提案される製造方法では超音波処理は貴金属酸化物を分散させるために行われるに過ぎず、超音波処理後の加熱工程で貴金属酸化物の還元を図っている(特許文献2の[0038])。したがって超音波処理により銀供給源(酸化銀等)の還元を行う本実施形態の方法とは明確に異なる。本実施形態の製造方法では、超音波処理後の加熱を行わなくとも、十分に還元された銀ナノ粒子を担持させることが可能である。
【0050】
さらにこのような製造方法によれば、限定されるものではないが、反応液に溶解しない酸化銀などの化合物を固体状態のまま銀供給源に用いることが可能である。反応液に溶解しない化合物を用いた場合には、反応液がアニオン等の有害物を含んでおらず、廃液処理が容易である。これに対して特許文献1で提案される含浸法や光電析法では、硝酸銀を溶解させた水溶液などの前駆体溶液を用いている。このような前駆体溶液に含まれる硝酸イオンなどのアニオンは大気汚染の原因となる有害物質である。したがって含浸法や光電析法では有害物質を無毒化するための廃液処理が必要である。ただし本実施形態の製造方法は、反応液に溶解する化合物を用いることを排除するものではない。そのような場合であっても、金属銀ナノ粒子を高分散且つ高担持率で析出させる効果が得られる。
【実施例】
【0051】
本実施形態を、以下の例によってさらに具体的に説明する。しかしながら本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0052】
[実験例A]
(1)光触媒粒子の作製
実施例1
超音波処理により銀ナノ粒子を還元生成させて光触媒粒子(金属銀ナノ粒子担持酸化ガリウム粒子)を作製した。酸化ガリウムに対する銀濃度(担持量)を0.5質量%にした。具体的には以下のようにしてサンプルを作製した。
【0053】
<準備工程>
酸化ガリウム粒子(株式会社高純度化学研究所、Ga2O3)と酸化銀(富士フィルム和光純薬株式会社、Ag2O)とを準備した。酸化ガリウム粒子は、純度が99.99%であり、平均粒子径は、長径が約3μm、短径が約1μmであった。また酸化銀は、純度が99%であり、1次粒子径が約2μmの凝集体であった。
【0054】
<混合工程>
準備した酸化ガリウム粒子(1g)と酸化銀(5mg)とを還元液(50mL)に添加した。還元液としてエタノール(富士フィルム和光純薬株式会社)を用いた。これにより反応液を作製した。
【0055】
<超音波処理工程>
得られた反応液を超音波装置(本多電子株式会社、WT―100―M)に入れて超音波処理を施した。超音波処理は、28kHzと45kHzの2周波切替発振とし、出力100Wの条件で行った。また処理時間を0~3時間の間で変えた。この際、反応液の温度を40℃に維持した。この処理により、反応液中の酸化銀(Ag2O)を還元して銀(Ag)に変化させた。次いで処理により生成した生成物をろ過した後、エタノール(10mL)を用いて洗浄し、大気中60℃で0.5時間の条件で乾燥して、金属銀ナノ粒子担持酸化ガリウム粒子を光触媒粒子として得た。
【0056】
実施例2
混合工程で添加する酸化銀の量を11mgに変えた以外は、実施例1と同様にして光触媒粒子を作製した。酸化ガリウムに対する銀濃度は1.0質量%であった。
【0057】
実施例3
混合工程で添加する酸化銀の量を32mgに変えた以外は、実施例1と同様にして光触媒粒子を作製した。酸化ガリウムに対する銀濃度は3.0質量%であった。
【0058】
実施例4
混合工程で添加する酸化銀の量を54mgに変えた以外は、実施例1と同様にして光触媒粒子を作製した。酸化ガリウムに対する銀濃度は5.0質量%であった。
【0059】
比較例1
従来法である含浸法により銀ナノ粒子を還元生成させて光触媒粒子を作製した。まず超純水(20mL)と酸化ガリウム(1g)と硝酸銀水溶液(0.1M、2.8mL)とを混合し、得られた混合溶液をウォーターバスを用いて80℃で1時間加熱した。次に、加熱した混合溶液を大気中80℃で3時間乾燥し、得られた乾燥物を450℃で2時間焼成して光触媒粒子を得た。酸化ガリウムに対する銀濃度は3.0質量%であった。
【0060】
比較例2
従来法である光電析法(光電着法)により銀ナノ粒子を還元生成させて光触媒粒子を作製した。まず超純水(1L)と酸化ガリウム(1g)と硝酸銀水溶液(0.1M、2.8mL)を混合し、得られた混合溶液にアルゴン(Ar)ガスを吹き込んでガス置換した。次にアルゴンガスを30mL/分の流量で吹き込みながら、400W高圧HgランプでUV光を5時間照射して銀(Ag)イオンを還元させた。光照射後の溶液をろ過し、粉末を回収した。回収した粉末を室温で乾燥して光触媒粒子を得た。酸化ガリウムに対する銀濃度は3.0質量%であった。
【0061】
比較例3
混合工程で還元液(エタノール)の代わりに純水(50mL)を用いた以外は、実施例2と同様にして光触媒粒子を作製した。しかしながら超音波処理を3時間行っても、粒子の色に変化が見られなかった。水のみでは還元力が低く、酸化銀から銀への還元反応が進まないと考えられる。
【0062】
比較例4
銀ナノ粒子の担持を行わず、酸化ガリウム粒子を単独で光触媒粒子とした。
【0063】
(2)光触媒粒子の評価
実施例1~4、比較例1、2及び4で得られたサンプルについて、各種特性の評価を以下のとおり行った。なお実施例1~4では超音波処理を3時間行ったサンプルについて目視観察以外の評価を行った。また比較例3のサンプルは、酸化銀から銀への還元反応が進んでいないことから、評価を行わなかった。
【0064】
<目視観察>
サンプルを目視で観察してその色調を調べた。
【0065】
<X線回折(XRD)>
サンプルをX線回折法により分析して、その結晶相を調べた。分析条件は以下のとおりにした。
【0066】
‐X線回折装置:スペクトリス株式会社、X’Pert PRO MRD
‐線源:CuKα線
‐管電圧:45kV
‐管電流:40mA
‐スキャン速度:5.5°/分
‐スキャン範囲(2θ):20~60°
【0067】
<SEM観察>
サンプルを走査型電子顕微鏡(SEM;Carl ZEISS社、ULTRA55)を用いて観察した。観察は加速電圧1kVの条件で行った。
【0068】
<STEM観察>
サンプルを走査透過型電子顕微鏡(STEM;株式会社日立ハイテクノロジーズ、HD2700)を用いて観察し、銀ナノ粒子の平均粒子径を求めた。観察は、透過電子像で加速電圧200kVの条件で行った。また平均粒子径は次のようにして求めた。STEM像から70点以上の粒子径を測定し、その平均値を平均粒子径とした。
【0069】
<拡散反射スペクトル>
サンプルの固体状態での拡散反射スペクトルは、紫外可視分光光度計(日本分光株式会社、V―650)を用いて、波長200~800nmの範囲の測定を行った。
【0070】
<CO
2還元光触媒性能>
サンプルのCO
2還元光触媒性能を
図2に示す評価装置を用いて評価した。まず超純水(1L)、NaHCO
3(0.1M)及び光触媒粒子(0.5g)を混合して評価用溶液を作製した。次にこの評価用溶液を評価装置の槽に入れ、二酸化炭素(CO
2)ガスを30mL/分の流量で吹き込みながら、400W高圧HgランプでUV光を照射した。1時間照射後に発生したガスをガスクロマトグラフィー(島津製作所、GC-8A)を用いて分析して、H
2、O
2及びCO発生速度を求めた。そして下記(1)式に基づきCO選択率を算出した。
【0071】
【0072】
(3)評価結果
<目視観察>
図4に超音波照射時間及び銀担持量を変えて作製したサンプル(実施例1~4及び比較例4)の光学写真を示す。超音波照射時間が長くなるにつれて色調が白色から茶色に変化した。また銀担持量が多いほど濃い色調に変化した。
【0073】
<X線回折(XRD)>
実施例1~4及び比較例4について得られたX線回折(XRD)パターンを、銀(Ag)及び酸化銀(Ag
2O)のパターンと併せて
図5~
図7に示す。ここで
図6及び
図7は
図5の拡大図である。超音波還元法で作製したサンプル(実施例1~4)では酸化銀(Ag
2O)と一致するパターンは見られなかった。特に
図6の拡大図に示されるように、銀担持量を5質量%と多くしたサンプル(実施例4)であっても2θ=32.7°近傍に見られる酸化銀(Ag
2O)特有のピークは観察されなかった。このことから実施例1~4は酸化銀を含まないことが分かった。一方でこれらのサンプル(実施例1~4)では銀(Ag)と一致するパターンが観察された。特に
図7の拡大図にて示されるように、銀担持量を3質量%又は5質量%としたサンプル(実施例3及び4)では2θ=44.5°近傍に見られる銀(Ag)特有のピークが観察され、その強度は担持量が多いほど高かった。このことから超音波還元法で作製したサンプルでは、原料たる銀供給源(酸化銀)の全てが銀に還元されていることが分かった。
【0074】
<SEM観察>
実施例3及び比較例2のサンプルについて得られたSEM写真のそれぞれを
図8及び
図9に示す。図中に存在する明るい(白い)粒子は銀ナノ粒子である。いずれのサンプルでも酸化ガリウム粒子の表面に銀ナノ粒子が担持していた。しかしながら超音波還元法で作製したサンプル(実施例3)では銀ナノ粒子の粒径が小さいのに対し、光電析法で作製したサンプル(比較例2)では粒径が大きかった。なお図では示さないが、超音波還元法で作製したサンプル(実施例1~4)では銀ナノ粒子が均一に生成しており凝集粒子は殆ど見られなかった。また担持量を多くすると、銀ナノ粒子の粒子数が増大するものの、その粒径には殆ど変化が見られなかった。
【0075】
<STEM観察>
実施例3、実施例4、比較例1及び比較例2のサンプルについて得られたSTEM写真のそれぞれを
図10~
図13に示す。図中に存在する黒い粒子は銀ナノ粒子である。SEM写真の結果と同様に、いずれのサンプルでも酸化ガリウム粒子の表面に銀ナノ粒子が担持していた。また超音波還元法で作製したサンプル(実施例3及び実施例4)では銀ナノ粒子の粒径が小さいのに対し、含浸法又は光電析法で作製したサンプル(比較例1及び比較例2)では粒径が大きかった。
【0076】
STEM写真に基づき求めた銀ナノ粒子の粒径分布を
図14及び
図15に示す。また粒径分布より算出した平均粒子径を表1に示す。超音波還元法で作製したサンプル(実施例1~4)は、いずれも平均粒子径が20.0±2.0nmの範囲内であり、銀担持量を変化させても平均粒子径は殆ど変化していなかった。また粒径分布は比較的シャープであった。これに対して含浸法や光電析法で作製したサンプル(比較例1及び比較例2)では平均粒子径が241nm又は276nmと大きく、また粒径分布がブロードであった。
【0077】
【0078】
<拡散反射スペクトル>
実施例1~4、比較例1、比較例2及び比較例4について得られた拡散反射スペクトルを
図16に示す。超音波還元法で作製したサンプル(実施例1~4)では波長350~550nmにピークが見られた。またこのピーク強度は銀担持量が多くなるほど高かった。これに対して含浸法又は光電析法で作製したサンプル(比較例1及び比較例2)及び銀担持無しのサンプル(比較例4)には波長350~550nmに明瞭なピークが見られなかった。このことから、波長350nm~550nmに観測されるピークは、超音波還元で生成した銀ナノ粒子に起因することが分かった。
【0079】
<CO
2還元光触媒性能>
実施例1~4、比較例1、比較例2及び比較例4について得られたCO
2還元光触媒性能(ガス発生速度及びCO選択率)を表2及び
図17に示す。超音波還元法で銀ナノ粒子を担持したサンプル(実施例1~4)は、銀担持無しのサンプル(比較例4)に比べてCO選択率が顕著に高かった。また銀担持量が多いほどCO選択率が高かった。銀ナノ粒子の担持により電荷分離が促進されたものと推察される。特に担持量0.5質量%のサンプル(実施例1)ではCOガス発生速度も高く維持されていた。一方で含浸法や光電析法で作製したサンプル(比較例1及び比較例2)は、超音波還元法で作製した担持量が同じサンプル(実施例3)に比べてCO選択率が劣っていた。
【0080】
【0081】
[実験例B]
実験例Bでは、超音波処理により銀ナノ粒子を還元生成させて得た金属銀ナノ粒子担持酸化ガリウム粒子に、さらに熱処理を施して光触媒粒子を作製した。
【0082】
(1)光触媒粒子の作製
【0083】
実施例5
実施例3で得た金属銀ナノ粒子担持酸化ガリウム粒子を大気中100℃で5分間熱処理して、光触媒粒子を作製した。
【0084】
実施例6
実施例3で得た金属銀ナノ粒子担持酸化ガリウム粒子を大気中200℃で5分間熱処理して、光触媒粒子を作製した。
【0085】
実施例7
実施例3で得た金属銀ナノ粒子担持酸化ガリウム粒子を大気中300℃で5分間熱処理して、光触媒粒子を作製した。
【0086】
実施例8
実施例3で得た金属銀ナノ粒子担持酸化ガリウム粒子を大気中500℃で5分間熱処理して、光触媒粒子を作製した。
【0087】
(2)光触媒粒子の評価
得られた光触媒粒子について、各種特性の評価を以下のとおり行った。
【0088】
<SEM観察>
サンプルのSEM観察を実験例Aと同様にして行った。
【0089】
<TG-MS分析>
サンプルの熱天秤-質量(TG-MS)分析を行った。分析は、TG-DTA(Bruker―AXS、2020SA/MS9600)を用いて、N2-21%O2雰囲気下で10℃/分の昇温速度で行った。
【0090】
<X線回折(XRD)>
X線回折装置(Bruker、D8 DISCOVER Vario-1)を用いて、サンプルを分析した。
【0091】
<CO2還元光触媒性能>
サンプルのCO2還元光触媒性能を実験例Aと同様にして行った。
【0092】
(3)評価結果
<熱処理後のSEM像>
光触媒粒子のSEM像を
図18に示す。熱処理温度が200℃以下のサンプルではAgナノ粒子の粒径に大きな変化はなかった。一方で、300℃以上で熱処理したサンプルでは、やや粒径の小さい粒子が増加している。
【0093】
<熱処理による残留有機物の変化>
光触媒粒子のTG曲線及びDTA曲線のそれぞれを
図19及び
図20に示す。熱処理(加熱)前のサンプルでは180℃付近でCO
2が発生していた。このことから、この温度で有機物の分解が起きていると考えられる。一方で200℃以上の温度で熱処理(加熱)したサンプルでは180℃付近の急激なCO
2生成が見られなかった。熱処理により有機物が分解されたと考えられる。
【0094】
<熱処理によるAg化合物の変化>
光触媒粒子のX線回折パターンを
図21に示す。200℃以上の温度で熱処理したサンプルではAgGaO
2の生成が確認された。先述したように、SEM観察では、300℃以上の温度で熱処理したサンプルでAgナノ粒子の粒径が小さくなっていた。Agナノ粒子の一部がAgGaO
2へ変化したことが、この原因と考えられる。
【0095】
<熱処理による触媒活性の変化>
光触媒粒子のCO2還元光触媒性能(ガス発生速度及びCO選択率)を表3に示す。熱処理によりCO選択率が向上することが確認された。
【0096】
【符号の説明】
【0097】
2 評価装置
4 槽
6 水銀(Hg)ランプ
8 ガス導入管
10 ガス排出管
12 pH計
14 ゴム栓
16 スターラー
18 バブリングフィルター
20 冷却水
22 評価用溶液
30 CO2ガス
32 発生ガス
34 ガスクロマトグラフィー