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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-19
(45)【発行日】2025-02-28
(54)【発明の名称】吸収液および分離回収方法
(51)【国際特許分類】
   B01D 53/14 20060101AFI20250220BHJP
   B01D 53/62 20060101ALI20250220BHJP
   B01D 53/78 20060101ALI20250220BHJP
   C01B 32/50 20170101ALI20250220BHJP
【FI】
B01D53/14 210
B01D53/14 220
B01D53/62 ZAB
B01D53/78
C01B32/50
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2021016856
(22)【出願日】2021-02-04
(65)【公開番号】P2022119607
(43)【公開日】2022-08-17
【審査請求日】2023-12-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000003182
【氏名又は名称】株式会社トクヤマ
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】東 正信
【審査官】小久保 勝伊
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-011309(JP,A)
【文献】特開2012-223766(JP,A)
【文献】特開2016-129877(JP,A)
【文献】特開2022-048960(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 53/14
B01D 53/62
B01D 53/78
C01B 32/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
二酸化炭素を含むガスから二酸化炭素を分離回収するための吸収液であって、
第1級アミン、第2級アミンおよび第3級アミンからなる群より選択される少なくとも1つのアミンを含むアミン成分と、
アミンオキシド型、アルカノールアミド型、エステル型およびエステル・エーテル型からなる群より選択される少なくとも1つの非イオン性界面活性剤と、を含む水溶液である、吸収液。
【請求項2】
前記非イオン性界面活性剤は、第1級アミン、第2級アミンおよび第3級アミンからなる群より選択される少なくとも1つのアミンから誘導された界面活性剤である、請求項1に記載の吸収液。
【請求項3】
前記非イオン性界面活性剤は、第3級アミンから誘導された界面活性剤である、請求項2に記載の吸収液。
【請求項4】
前記アミン成分を30質量%以上含む、請求項1から3の何れか1項に記載の吸収液。
【請求項5】
前記アミン成分は、第3級アミンと、第1級アミンおよび第2級アミンの少なくとも何れかと、を含み、第1級アミンおよび第2級アミンの合計量は、前記アミン成分の総量の10質量%以下である、請求項1から4の何れか1項に記載の吸収液。
【請求項6】
二酸化炭素を含むガスから二酸化炭素を分離回収する方法であって、
吸収液を、二酸化炭素を含むガスと接触させて二酸化炭素を前記ガスから分離する分離工程と、
前記分離工程で得られた二酸化炭素を吸収した前記吸収液を加熱して、二酸化炭素を吸収した前記吸収液から二酸化炭素を回収する回収工程と、を含み、
前記吸収液は、第1級アミン、第2級アミンおよび第3級アミンからなる群より選択される少なくとも1つのアミンを含むアミン成分と、アミンオキシド型、アルカノールアミド型、エステル型およびエステル・エーテル型からなる群より選択される少なくとも1つの非イオン性界面活性剤と、を含む水溶液である、分離回収方法。
【請求項7】
前記回収工程において、二酸化炭素を吸収した前記吸収液を80℃以上120℃以下で加熱する、請求項6に記載の分離回収方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二酸化炭素の吸収液および分離回収方法に関する。
【背景技術】
【0002】
地球温暖化を抑制するため、二酸化炭素の回収および貯留技術に対する注目が高まっている。中でも、火力発電所等から排出される二酸化炭素を含むガスから二酸化炭素を分離回収する方法として、第1級アミン、第2級アミンおよび第3級アミンからなる群より選択される少なくとも1つを含むアミン成分を含有する吸収液が精力的に研究されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、第2級アミンおよび第3級アミンの混合水溶液を用いて、大気圧下の燃焼排ガス中の二酸化炭素を分離回収する方法が開示されている。また、特許文献2には、第2級アミン化合物および界面活性剤を含む水溶液により、排ガス中の二酸化炭素を吸収および回収する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平8-252430号公報
【文献】特開2012-11309号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献2では、高濃度(例えば60重量%)の第2級アミン化合物を含む水溶液において、界面活性剤の添加が、二酸化炭素の吸収速度向上に寄与する可能性が示唆されている。しかしながら、界面活性剤には非常に多くの種類が存在しており、その種類によって物性が異なることが知られている。どのような種類の界面活性剤であれば、アミン成分を含む水溶液への添加に好適であるかは不明である。
【0006】
本発明の一態様は、アミン成分を含む水溶液中で安定して機能できる種類の界面活性剤を含む、二酸化炭素の吸収液等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記の課題を解決するために、本発明の一態様に係る吸収液は、二酸化炭素を含むガスから二酸化炭素を分離回収するための吸収液であって、第1級アミン、第2級アミンおよび第3級アミンからなる群より選択される少なくとも1つのアミンを含むアミン成分と、アミンオキシド型、アルカノールアミド型、エステル型およびエステル・エーテル型からなる群より選択される少なくとも1つの非イオン性界面活性剤と、を含む。
【0008】
本発明の一態様に係る吸収液は、前記非イオン性界面活性剤は、第1級アミン、第2級アミンおよび第3級アミンからなる群より選択される少なくとも1つのアミンから誘導された界面活性剤であってもよい。
【0009】
本発明の一態様に係る吸収液は、前記非イオン性界面活性剤は、第3級アミンから誘導された界面活性剤であってもよい。
【0010】
本発明の一態様に係る吸収液は、前記アミン成分を30質量%以上含んでいてもよい。
【0011】
本発明の一態様に係る吸収液は、前記アミン成分は、第3級アミンと、第1級アミンおよび第2級アミンの少なくとも何れかと、を含み、第1級アミンおよび第2級アミンの合計量は、前記アミン成分の総量の10質量%以下であってもよい。
【0012】
前記の課題を解決するために、本発明の一態様に係る分離回収方法は、二酸化炭素を含むガスから二酸化炭素を分離回収する方法であって、吸収液を、二酸化炭素を含むガスと接触させて二酸化炭素を前記ガスから分離する分離工程と、前記分離工程で得られた二酸化炭素を吸収した吸収液を加熱して、吸収液から二酸化炭素を回収する回収工程と、を含み、前記吸収液は、第1級アミン、第2級アミンおよび第3級アミンからなる群より選択される少なくとも1つのアミンを含むアミン成分と、アミンオキシド型、アルカノールアミド型、エステル型およびエステル・エーテル型からなる群より選択される少なくとも1つの非イオン性界面活性剤と、を含む。
【0013】
本発明の一態様に係る分離回収方法は、前記回収工程において、二酸化炭素を吸収した吸収液を80℃以上120℃以下で加熱してもよい。
【発明の効果】
【0014】
本発明の一態様によれば、アミン成分を含む水溶液中で安定して機能できる種類の界面活性剤を含む、二酸化炭素の吸収液等を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の一実施形態について以下に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。本発明は、以下に説明する各構成に限定されるものではなく、請求の範囲に示した範囲で種々の変更が可能である。また、異なる実施形態または実施例にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態または実施例についても、本発明の技術的範囲に含まれる。さらに、各実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を組み合わせることにより、新しい技術的特徴を形成することができる。なお、本明細書中に記載された学術文献および特許文献の全てが、本明細書中において参考文献として援用される。
【0016】
〔本発明の概略〕
従来、二酸化炭素の分離回収技術として、アミン成分を含む吸収液による化学吸収法が知られている。このような化学吸収法では、ガス中の二酸化炭素をアミン成分との化学反応によって吸収液に吸収させ、その吸収液を加熱することにより二酸化炭素を放散させることで、ガス中の二酸化炭素を回収することができる。
【0017】
吸収液におけるアミン成分の含有量が多いほど、二酸化炭素の吸収量向上が期待できる。しかしながら、吸収液におけるアミン成分の含有量が増加するにつれて、二酸化炭素の吸収速度が低下することが経験的に知られている。これは、アミン成分が高濃度になるほど吸収液の表面張力が上昇し、吸収液と二酸化炭素との間における気液接触の効率が低下することが一因であると考えられる。
【0018】
特許文献2には、例えば第2級アミンである2-イソプロピルアミノエタノールを60重量%含む水溶液に界面活性剤を添加すると、該水溶液の表面張力が低下し、二酸化炭素の吸収速度が向上することを開示している。ここでは、界面活性剤としてノニオン型または両性型のパーフルオロ化合物、または、非イオン性のエーテル型界面活性剤であるTriton Xの添加が試行されている。
【0019】
しかしながら、界面活性剤にはこれらの他にも様々な種類が存在する。二酸化炭素の吸収液に添加する界面活性剤が、吸収液の表面張力を低下させること以外の性質によって、二酸化炭素の吸収を阻害することは好ましくない。また、吸収液は二酸化炭素の吸収過程で比較的高温となるため、界面活性剤は、このような条件下でも劣化しにくく安定して機能することが求められる。どのような界面活性剤であればこのような要求を満たすかについて、従来は不明であった。
【0020】
本発明者らは、アミンオキシド型、アルカノールアミド型、エステル型およびエステル・エーテル型からなる群より選択される少なくとも1つの非イオン性界面活性剤であれば、劣化しにくく、アミン成分を含む吸収液中で安定して機能できることを見出した。以下に、本発明の一実施形態に係る吸収液について説明する。
【0021】
〔吸収液〕
本発明の一実施形態に係る吸収液(以下、「本実施形態の吸収液」とする)は、二酸化炭素を含むガスから二酸化炭素を分離回収するための吸収液であって、第1級アミン、第2級アミンおよび第3級アミンからなる群より選択される少なくとも1つのアミンを含むアミン成分と、アミンオキシド型、アルカノールアミド型、エステル型およびエステル・エーテル型からなる群より選択される少なくとも1つの非イオン性界面活性剤と、を含む。
【0022】
(アミン成分)
本実施形態の吸収液は、アミン成分を含む。アミン成分は、第1級アミン、第2級アミンおよび第3級アミンからなる群より選択される少なくとも1つのアミンを含む。アミン成分に含まれるアミンは特に限定されず、あらゆる構造のアミンを用いてもよく、アミンの炭素数も特に限定されない。
【0023】
第1級アミンの例として、2-メチルピペリジン等の複素環を有する第1級アミン;モノメタノールアミン、モノエタノールアミン、モノプロパノールアミン、および、モノブタノールアミン等の第1級アルカノールアミン等が挙げられる。吸収液として用いる場合、二酸化炭素の吸収速度が速く、二酸化炭素の吸収量を大きくできる点で、第1級アミンはモノメタノールアミンが好ましい。第1級アミンは1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0024】
第2級アミンの例として、2-メチルアミノエタノール、2-エチルアミノエタノール、2-イソプロピルアミノエタノール、2-n-ブチルアミノエタノール等の第2級アルカノールアミン;ピペラジン、2-メチルピペラジン、2,5-ジメチルピペラジン、および、2-ピペリジノエタノール等の複素環を有する第2級アミン等が挙げられる。吸収液として用いる場合、これらの第2級アミンの中でも二酸化炭素の吸収量が多く吸収速度が速い点で、第2級アルカノールアミンが好ましく、2-イソプロピルアミノエタノールが特に好ましい。また、アミン成分に、第2級アミンに加えて第1級アミンおよび/または第3級アミンも含まれる場合には、第2級アミンはピペラジンが好ましい。この場合、本実施形態の吸収液におけるピペラジンの濃度は、3質量%以上7質量%以下が好ましく、5質量%がより好ましい。第2級アミンは1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0025】
第3級アミンの例として、メチルジエタノールアミン、ジエチルアミノプロパノール、ジエチルアミノエタノール、ジメチルアミノエタノール、ジメチルアミノメチルプロパノール、N-エチル-N-メチルエタノールアミン、3-(ジメチルアミノ)プロパノール、4-(ジメチルアミノ)ブタノール、4-(ジエチルアミノ)ブタノール、2-(2-ジエチルアミノエトキシ)エタノール、および、2-(2-ジメチルアミノエトキシ)エタノール等の第3級アルカノールアミン;1-メチル-2-ピペリジンメタノール、1-エチル-3-ピペリジンメタノール、1-(2-ヒドロキシエチル)ピペリジン等の複素環を有する第3級アミン等が挙げられる。吸収液として用いる場合、二酸化炭素の放散エネルギーを小さくできる点で、第3級アミンは第3級アルカノールアミンが好ましく、特にメチルジエタノールアミンが好ましい。放散エネルギーとは、吸収液から二酸化炭素を分離する際に要するエネルギーである。第3級アミンは1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0026】
吸収液のアミン成分の濃度は特に限定されない。しかし、一般的にはアミン成分の濃度は高い方が、吸収液における単位液容量あたりの二酸化炭素の吸収量、吸収速度、脱離量および脱離速度が大きい。そのため、エネルギー消費の低減、プラント設備の小規模化および二酸化炭素の処理効率等の観点から考えると、本実施形態の吸収液のアミン成分の濃度は10質量%以上が好ましい。
【0027】
ここで、吸収液が高濃度(例えば、30質量%以上)のアミン成分を含む場合、吸収液による二酸化炭素の吸収速度が低下することが知られている。これは、高濃度のアミン成分により、吸収液の表面張力が上昇することが一因と考えられている。この点、本実施形態の吸収液は、後述する界面活性剤を含む。吸収液が界面活性剤を含むことで、吸収液の表面張力が低下する。そのため、吸収液が界面活性剤を含んでいると、吸収液と二酸化炭素との気液接触効率が向上すると考えられる。
【0028】
このような構成によれば、本実施形態の吸収液は、高濃度のアミン成分を含有しながら、二酸化炭素の吸収速度の低下を防止できる。したがって、本実施形態の吸収液のアミン成分の濃度は、30質量%以上であってもよく、40質量%以上であってもよく、50質量%以上であってもよく、60質量%以上であってもよく、70質量%以上であってもよい。
【0029】
一方、吸収液のアミン成分の濃度が高すぎると、界面活性剤を含んでいても、吸収液における単位液容量あたりの二酸化炭素の吸収量の低下、アミン成分の混合性の低下、粘度の上昇等の問題が生じ得る。そのため、本実施形態の吸収液におけるアミン成分の濃度は80質量%以下が好ましい。
【0030】
アミン成分は、第3級アミンを含むことが好ましい。アミン成分が第3級アミンを含んでいれば、二酸化炭素の吸収設備の腐食が起こりにくくなる。第3級アミンは、第1級アミンおよび第2級アミンと比較して、二酸化炭素の吸収設備に対する腐食性が低いことが知られている。これは、第1級アミンおよび第2級アミンでは、二酸化炭素との吸収反応においてカーバメイト生成反応が起きるが、第3級アミンではそのような反応が起きないため、反応生成物が異なることが原因と考えられている。
【0031】
また、吸収液に第3級アミンが含まれている場合、第3級アミンと二酸化炭素との吸収反応で炭酸イオンが生成する。当該炭酸イオンは、環境中の鉄またはカルシウム等と反応して、炭酸鉄または炭酸カルシウム等の炭酸塩となり得る。高温の吸収液中に炭酸鉄または炭酸カルシウム等が存在すると、腐食に対して高い保護性を示すことが知られている。当該知見は、例えば参考文献(清水ら, 材料と環境, 65, 365-368, 2016)に開示されているものである。
【0032】
また、アミン成分は、第3級アミンに加え、第1級アミンおよび/または第2級アミンを含んでいることが好ましい。第3級アミンは、第1級アミンおよび第2級アミンと比較して、吸収した二酸化炭素の放散エネルギーが小さい一方で、二酸化炭素の吸収量は少ない傾向がある。アミン成分が、第1級アミンおよび/または第2級アミンを含んでいれば、本実施形態の吸収液において、二酸化炭素の吸収量の維持および放散エネルギーの低減を両立することが容易である。
【0033】
アミン成分を100質量%としたときの第3級アミンの割合は、90質量%以上99質量%以下が好ましく、93質量%以上99質量%以下がより好ましく、100質量%であってもよい。また、アミン成分を100質量%としたときの第1級アミンおよび/または第2級アミンの割合は、1質量%以上10質量%以下が好ましく、1質量%以上7質量%以下がより好ましい。このような割合であれば、二酸化炭素の吸収量の維持および放散エネルギーの低減の両立と、腐食性の低減と、の両方を満たす二酸化炭素の吸収液が得られる。
【0034】
ただし、アミン成分における、第1級アミン、第2級アミンおよび第3級アミンのそれぞれの割合はこれに限定されず、腐食性、二酸化炭素の吸収量および放散エネルギー量等に応じて適宜決定してよい。
【0035】
(界面活性剤)
本実施形態の吸収液は、界面活性剤を含む。この界面活性剤は、アミンオキシド型、アルカノールアミド型、エステル型およびエステル・エーテル型からなる群より選択される少なくとも1つの非イオン性界面活性剤(以下、「本実施形態の界面活性剤」とする)である。界面活性剤は、上述の通りアミン成分を含む吸収液の表面張力を低減させる。これにより、二酸化炭素と吸収液との気液接触の効率が向上し、吸収液による二酸化炭素の吸収速度を向上できる。
【0036】
界面活性剤は、水溶液中での性質から非イオン性(ノニオン性)またはイオン性に大別される。イオン性の界面活性剤はさらに、陽イオン性(カチオン性)、陰イオン性(アニオン性)および両性(双性)に分類される。本実施形態の吸収液が含有する界面活性剤は、非イオン性界面活性剤である。
【0037】
イオン性界面活性剤は、水溶液中でイオン化するため非イオン性界面活性剤と比較して反応性が高く、吸収液による二酸化炭素の吸収量および吸収速度に負の影響を与え得る。また、イオン性界面活性剤は、その反応性の高さから分解等の化学構造変化により劣化しやすい。本実施形態の吸収液は、接触する二酸化炭素を含むガスが高温である場合があり、また、二酸化炭素の分離時には加熱される。そのため、繰り返しの二酸化炭素の吸収および放散に耐えるためには、本実施形態の吸収液に添加される界面活性剤にも安定性が要求される。
【0038】
この点、非イオン性界面活性剤は、水溶液中でもイオン化しないため、イオン性界面活性剤と比較して安定である。したがって、本実施形態の吸収液が繰り返し高温となっても、非イオン性界面活性剤は安定して継続的に機能を発揮しやすい。
【0039】
また、非イオン性界面活性剤は、イオン性界面活性剤と比較して泡立ちが起こりにくい。吸収液に泡立ちが起こると、二酸化炭素と吸収液との接触が阻害され、二酸化炭素の吸収効率が低下してしまうため、好ましくない。
【0040】
非イオン性界面活性剤は、その化学構造から、さらに複数の種類に分類できる。本実施形態の界面活性剤は、アミンオキシド型、アルカノールアミド型、エステル型およびエステル・エーテル型の少なくともいずれかである。非イオン性界面活性剤としては、エーテル型が一般的に広く用いられている。しかしながら、エーテル型の非イオン性界面活性剤は、本実施形態の界面活性剤としては好ましくない。
【0041】
エーテル型の非イオン性界面活性剤は、高級アルコール等を原料としており、劣化等により分解すると有機酸が生成する。有機酸は、二酸化炭素の吸収設備の腐食原因となることがある。また、有機酸は泡立ちの原因にもなり得る。したがって、非イオン性界面活性剤の「泡立ちが起こりにくい」という有利な効果を、エーテル型では十分に発揮できない。また、泡立ち防止の観点からは、例えばパーフルオロ型のようなフッ素系界面活性剤についても、起泡剤として用いられていることから、本実施形態の界面活性剤としては好ましくない。
【0042】
アミンオキシド型、アルカノールアミド型、エステル型またはエステル・エーテル型の非イオン性界面活性剤であれば、エーテル型のような問題は起こりにくいため、吸収液への添加に好適に使用できる。このように、二酸化炭素の吸収液に添加する界面活性剤として、非イオン性界面活性剤が好ましく、さらにエーテル型ではない非イオン性界面活性剤が好ましいことは、本発明者らによる新規な知見である。
【0043】
また、本実施形態の界面活性剤は、第1級アミン、第2級アミンおよび第3級アミンからなる群より選択される少なくとも1つのアミンから誘導された界面活性剤であることが好ましい。本実施形態の界面活性剤が、このようなアミン誘導型の界面活性剤であれば、アミン成分による二酸化炭素の吸収に、界面活性剤が与え得る負の影響を最小限にできると考えられる。また、仮にアミン誘導型の界面活性剤が劣化等により分解しても、その一部はアミン成分として機能を発揮し得る。
【0044】
本実施形態の界面活性剤がアミン誘導型である場合、第3級アミンから誘導された界面活性剤であることが特に好ましい。第3級アミンは、上述の通り二酸化炭素の吸収時に生成される炭酸イオンが環境中の分子と反応して炭酸塩となり、当該炭酸塩が腐食に対して保護性を示す。本実施形態の界面活性剤が第3級アミンから誘導された界面活性剤であれば、第3級アミンと同様に腐食に対して保護性を発揮し得る。本実施形態の吸収液の腐食性を低減する観点からは、本実施形態のアミン成分が第3級アミンからなり、本実施形態の界面活性示が第3級アミンから誘導された界面活性剤であることが、最も好ましい。
【0045】
また、非イオン性界面活性剤には、消泡剤としても機能するものが知られている。本実施形態の界面活性剤が消泡剤としても機能するものであれば、吸収液の泡立ちをより確実に防止できるため好ましい。このような非イオン性界面活性剤としては、例えば、親水基にポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレン基を有するものが挙げられるが、これに限られない。なお、消泡剤による消泡作用には、複数の機構が知られている。消泡作用としては、例えば、発生した泡の弾性を低下させて破泡させる「破泡作用」、発泡自体を抑制する「抑泡作用」、発泡した泡同士を接合させることで破泡しやすくさせる「脱気作用」等が挙げられる。本実施形態の界面活性剤は、これらのうちいずれの消泡作用を有するものであってもよい。
【0046】
アミンオキシド型の非イオン性界面活性剤としては、例えば、第3級アミンから誘導された脂肪酸アミンオキシドが挙げられる。なお、アミンオキシド型の界面活性剤は、溶液のpHが酸性の場合、陽イオン性界面活性剤の性質を示すことがある。ただし、本実施形態の吸収液はアミン成分を含むことから、pHは塩基性である。アミンオキシド型の界面活性剤は、溶液のpHが塩基性の場合、非イオン性界面活性剤の性質を示す。したがって、本実施形態の吸収液に用いる場合、アミンオキシド型の界面活性剤は非イオン性界面活性剤といえるものである。
【0047】
アルカノールアミド型の非イオン性界面活性剤としては、例えば、脂肪酸ジエタノールアミド等の脂肪酸アルカノールアミドが挙げられる。エステル型の非イオン性界面活性剤としては、例えば、グリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステルおよびしょ糖脂肪酸エステルが挙げられる。エーテルエステル型の非イオン性界面活性剤としては、例えば、脂肪酸ポリエチレングリコールおよび脂肪酸ポリオキシエチレンソルビタンが挙げられる。
【0048】
本実施形態の界面活性剤が、脂肪酸アミンオキシドのような、第3級アミンから誘導された界面活性剤である場合、原料となる第3級アミンとしては、例えば、ヤシアルキルアミン、ジメチルココナッツアミン、ジメチルオクチルアミン、ジメチルデシルアミン、ジメチルラウリルアミン、ジメチルミリスチルアミン、ジメチルパルミチルアミン、ジメチルステアリルアミンおよびジメチルベヘニルアミンが挙げられる。なお、本実施形態の界面活性剤は上述の各例に限られない。
【0049】
吸収液中における本実施形態の界面活性剤の濃度は、二酸化炭素の吸収量および吸収速度の向上の点から、0.01質量%以上が好ましく、0.03質量%以上であってもよく、0.05質量%以上であってもよく、0.1質量%以上であってもよく、0.25質量%以上であってもよく、0.5質量%以上であってもよい。また、本実施形態の界面活性剤の濃度は、アミン成分による二酸化炭素の吸収を阻害しない点から、5質量%以下が好ましく、2.5質量%以下であってもよく、1質量%以下であってもよく、0.5質量%以下であってもよい。また、本実施形態の界面活性剤の濃度は、吸収液の泡立ちを防止する点から、限界ミセル濃度の10倍以下とすることが好ましい。
【0050】
本実施形態の吸収液の25℃における表面張力は、二酸化炭素と吸収液との効率的な気液接触のために、100mN/m以下であることが好ましく、70mN/m以下であることがより好ましく、50mN/m以下であることがより好ましく、30mN/m以下であることがより好ましく、25mN/m以下であることがより好ましく、20mN/m以下であることがより好ましい。本実施形態の吸収液は、上述の通り界面活性剤を含むため、30質量%以上の高濃度のアミン成分を含んでいても、このような表面張力を容易に維持できる。したがって、本実施形態の吸収液は、二酸化炭素の吸収において、高濃度のアミン成分による高い吸収量と、低い表面張力での効率的な気液接触による高い吸収速度とを両立できる。
【0051】
(溶媒)
本実施形態の吸収液の溶媒は、本発明の効果を損なわなければ特に限定されない。溶媒
の例としては、水が挙げられる。アミン成分による二酸化炭素の吸収反応のうち、重炭酸イオンの生成を伴う反応では水が必要となるため、本実施形態の吸収液が水を含むことにより、アミン成分による二酸化炭素の吸収が効率的に進行する。
【0052】
また、放散エネルギーを低減させることができる点で、溶媒は、水に加えて、有機溶媒を含むことが好ましい。有機溶媒は、二酸化炭素を吸収液から分離する際の加熱温度を低減し、放散エネルギーを低減させることができる点で、親水性有機溶媒であることがより好ましい。また、吸収液が親水性有機溶媒を含むことにより、吸収液による二酸化炭素の吸収量を増加させることができる。さらに、吸収液が親水性有機溶媒を含むことにより、吸収液の表面張力をより小さくできる。そのため、吸収液と二酸化炭素を含むガスとの気液接触の効率が向上し、吸収液による二酸化炭素の吸収速度を向上させることができる。
【0053】
有機溶媒としては特に限定されず、例えばアルコール類、エーテル類、ケトン類およびニトリル類等が挙げられる。アルコール類としては、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロピルアルコールおよびターシャリーブチルアルコール等が挙げられる。エーテル類としては、ジメトキシエタンおよびテトラヒドロフラン等が挙げられる。ケトン類としては、アセトン等が挙げられる。また、ニトリル類としては、アセトニトリル等が挙げられる。有機溶媒は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0054】
吸収液に含まれる有機溶媒の濃度は、5質量%以上であってもよく、10質量%以上であってもよく、15質量%以上であってもよく、20質量%以上であってもよく、25質量%以上であってもよく、30質量%以上であってもよい。また、吸収液に含まれる有機溶媒の濃度は、60質量%以下であってもよく、50質量%以下であってもよく、40質量%以下であってもよい。
【0055】
吸収液に用いる有機溶媒の沸点は、特に限定されないが、40℃以上100℃未満が好ましい。一般的に二酸化炭素を含むガス中の二酸化炭素を吸収液に吸収させるときの温度は、例えば20℃以上40℃以下である。そのため、有機溶媒の沸点が40℃未満である場合、吸収液と二酸化炭素とを反応させる際に有機溶媒が気体となってしまい、有機溶媒が吸収液の溶媒として機能しない場合がある。また、有機溶媒の沸点が100℃未満であれば、有機溶媒の沸点は水の沸点よりも低くなる。吸収液が水よりも沸点の低い有機溶媒を含むことによって、吸収液から二酸化炭素を分離する際の加熱温度を低減することができる。そのため、放散エネルギーを低減させることができる。
【0056】
本実施形態の吸収液は、上述以外の成分についても、必要に応じて、本発明の効果を阻害しない範囲で含んでいてもよい。このような成分としては、例えば、本実施形態の界面活性剤とは異なる種類の腐食防止剤、劣化防止剤および消泡剤等が挙げられる。これらの成分の濃度は、本発明の効果を阻害しない範囲であれば特に限定されない。
【0057】
本実施形態の吸収液は、溶媒に本実施形態のアミン成分および本実施形態の界面活性剤を添加することによって調製できる。アミン成分中のアミンおよび界面活性剤はそれぞれ、市販のものを使用してもよいし、公知の方法によって合成したものを使用してもよい。
【0058】
〔二酸化炭素を分離回収する方法〕
本発明の一実施形態に係る分離回収方法(以下、「本実施形態の分離回収方法」とする)は、二酸化炭素を含むガスから二酸化炭素を分離回収する分離回収方法であって、吸収液を、二酸化炭素を含むガスと接触させて二酸化炭素を前記ガスから分離する分離工程と、前記分離工程で得られた二酸化炭素を吸収した吸収液を加熱して、吸収液から二酸化炭素を回収する回収工程と、を含み、前記吸収液は、第1級アミン、第2級アミンおよび第3級アミンからなる群より選択される少なくとも1つのアミンを含むアミン成分と、アミンオキシド型、アルカノールアミド型、エステル型およびエステル・エーテル型からなる群より選択される少なくとも1つの非イオン性界面活性剤と、を含む。
【0059】
(分離工程)
分離工程において、二酸化炭素を含むガスと接触させる吸収液は、上述した〔吸収液〕の欄にて説明した本実施形態の吸収液である。吸収液を、二酸化炭素を含むガスと接触させて、二酸化炭素が吸収液に吸収されることによって、二酸化炭素が当該ガスから分離する。
【0060】
吸収液を二酸化炭素と接触させる方法として、二酸化炭素を含むガスの吸収液中でのバブリング、二酸化炭素を含むガスの気流中への吸収液の噴霧またはスプレー、および、吸収液と二酸化炭素を含むガスとの気液向流接触等が挙げられる。吸収液による二酸化炭素の吸収は、例えば、火力発電所のボイラーおよび発電所等に備えられる吸収塔で行うことができる。
【0061】
吸収液を、二酸化炭素を含むガスと接触させるときの吸収液の温度は、吸収液の組成等に応じて適宜選択することができ、例えば20℃以上40℃以下であってよい。吸収液と二酸化炭素を含むガスとの接触は、大気圧下で行ってもよいし、加圧下で行ってもよい。
【0062】
(回収工程)
回収工程において、分離工程で得られた二酸化炭素を吸収した吸収液を加熱して、吸収液から二酸化炭素を回収する。本実施形態の分離回収方法は、親水性有機溶媒を含む吸収液を用いることによって、回収工程における放散エネルギーを低減させることができる。さらに、親水性有機溶媒によっても二酸化炭素を吸収できるため、吸収液が親水性有機溶媒を含むことで、分離工程における二酸化炭素の吸収量を増加させることができる。
【0063】
分離工程後の吸収液から二酸化炭素を回収する方法として、分離工程後の吸収液の加熱およびバブリング、ならびに、充填材等による二酸化炭素の吸収、等が挙げられる。分離工程後の吸収液からの二酸化炭素の回収は、例えば、火力発電所のボイラーおよび発電所等に備えられる放散塔(再生塔)で行うことができる。
【0064】
回収工程における、二酸化炭素を回収するときの吸収液の温度は、水を溶媒とする従来の吸収液の場合、溶媒を蒸発させるため130℃程度まで上昇させる必要があった。一方、本実施形態の分離回収方法では、回収工程での、二酸化炭素を回収するときの吸収液の温度は、130℃よりも低くてよく、例えば、80℃以上120℃以下であってよい。本実施形態の分離回収方法は、吸収液が親水性有機溶媒を含むため、従来の回収工程の加熱温度より低い温度条件で、二酸化炭素を吸収液から放散させることができる。したがって、回収工程における放散エネルギーを低減させることができる。
【0065】
(他の工程)
本実施形態の分離回収方法は、本実施形態の効果が得られる範囲において、上述した工程以外の他の工程をさらに含んでいてもよい。他の工程の例として、回収工程で回収した二酸化炭素を貯蔵する貯蔵工程、等が挙げられる。
【0066】
回収した二酸化炭素は、化学品の原料および食品冷凍用の冷剤等として用いることができる。
【0067】
以下に実施例を示し、本発明の実施の形態についてさらに詳しく説明する。もちろん、本発明の以下の実施例に限定されるものではなく、細部については様々な態様が可能である。
【実施例
【0068】
本発明の一実施例に係る吸収液および比較例に係る吸収液を用いて、それぞれ二酸化炭素の吸収および放散量を検討した。吸収液の安定性を確認するために、吸収と放散とを複数回繰り返し行った。繰り返しについては、吸収液の白濁または起泡を確認した時点で終了とし、最高10回まで繰り返した。二酸化炭素の吸収量および放散量の測定は初回時と終了時に行った。
【0069】
〔吸収液によるCO吸収量の測定〕
各実施例または比較例に係る吸収液100gを入れたガラス容器を恒温水槽に入れ、40℃になるように温度調整した。二酸化炭素が15体積%、窒素が85体積%となるように、それぞれ流量調整器を通して混合した模擬ガスを調整後、当該模擬ガスを、0.9リットル/分の流量で60分間、吸収液が入ったガラス容器に導いた。
【0070】
ガラス容器の入口および出口における二酸化炭素濃度を、島津製作所製全有機炭素計(TOC)で測定した。60分間に流した二酸化炭素量と、ガラス容器の入口および出口の二酸化炭素の濃度差から、吸収液による二酸化炭素の吸収量を見積もった。
【0071】
〔CO吸収後の吸収液からのCO放散量の測定〕
二酸化炭素を吸収後の吸収液が入ったガラス容器を入れた恒温槽温度を100℃に設定し、60分間での二酸化炭素の放散量を、キーエンス製気体流力計により測定し積算した。
【0072】
以下に、各実施例および比較例に係る吸収液の調整方法について説明する。なお、下記表1に、各実施例および比較例に係る吸収液の組成をまとめて示している。また、界面活性剤の割合は、アミン成分および水の合計量を100質量%とした場合の、外数として示している。
【0073】
〔実施例1〕
30質量%のモノエタノールアミン、70質量%の水および0.005質量%の非イオン性界面活性剤(日油株式会社製ユニセーフ(登録商標)A-LM:アミンオキシド型)を混合して混合液を調整した。次いで、15体積%の二酸化炭素および85体積%の窒素を含むガスを、圧力101kPaで当該混合液に吹き込み、吸収液を得た。
【0074】
〔実施例2〕
30質量%のモノエタノールアミン、70質量%の水および0.05質量%の非イオン性界面活性剤(日油株式会社製ユニセーフA-LM:アミンオキシド型)を混合して混合液を調整した。次いで、15体積%の二酸化炭素および85体積%の窒素を含むガスを、圧力101kPaで当該混合液に吹き込み、吸収液を得た。
【0075】
〔実施例3〕
30質量%の2-イソプロピルアミノエタノール、70質量%の水および0.05質量%の非イオン性界面活性剤(日油株式会社製ユニセーフA-LM:アミンオキシド型)を混合して混合液を調整した。次いで、15体積%の二酸化炭素および85体積%の窒素を含むガスを、圧力101kPaで当該混合液に吹き込み、吸収液を得た。
【0076】
〔実施例4〕
30質量%のモノエタノールアミン、70質量%の水および1.0質量%の非イオン性界面活性剤(日油株式会社製ユニセーフA-LM:アミンオキシド型)を混合して混合液を調整した。次いで、15体積%の二酸化炭素および85体積%の窒素を含むガスを、圧力101kPaで当該混合液に吹き込み、吸収液を得た。
【0077】
〔実施例5〕
30質量%のモノエタノールアミン、5質量%のピペラジン、65質量%の水および0.005質量%の非イオン性界面活性剤(日油株式会社製ユニセーフA-LM:アミンオキシド型)を混合して混合液を調整した。次いで、15体積%の二酸化炭素および85体積%の窒素を含むガスを、圧力101kPaで当該混合液に吹き込み、吸収液を得た。
【0078】
〔実施例6〕
60質量%のモノエタノールアミン、40質量%の水および0.1質量%の非イオン性界面活性剤(日油株式会社製ユニセーフA-LM:アミンオキシド型)を混合して混合液を調整した。次いで、15体積%の二酸化炭素および85体積%の窒素を含むガスを、圧力101kPaで当該混合液に吹き込み、吸収液を得た。
【0079】
〔実施例7〕
30質量%のモノエタノールアミン、70質量%の水および0.005質量%の非イオン性界面活性剤(日油株式会社製スタホーム(登録商標)F:アルカノールアミド型)を混合して混合液を調整した。次いで、15体積%の二酸化炭素および85体積%の窒素を含むガスを、圧力101kPaで当該混合液に吹き込み、吸収液を得た。
【0080】
〔実施例8〕
2質量%のピペラジン、60質量%のメチルジエタノールアミン、38質量%の水および0.1質量%の非イオン性界面活性剤(ライオン・スペシャリティー・ケミカルズ株式会社製カデナックス(登録商標)DM12D-W(C):3級アミン誘導アミンオキサイド型)を混合して混合液を調整した。次いで、15体積%の二酸化炭素および85体積%の窒素を含むガスを、圧力101kPaで当該混合液に吹き込み、吸収液を得た。
【0081】
〔実施例9〕
30質量%のモノエタノールアミン、70質量%の水および10質量%の非イオン性界面活性剤(日油株式会社製ユニセーフA-LM:アミンオキシド型)を混合して混合液を調整した。次いで、15体積%の二酸化炭素および85体積%の窒素を含むガスを、圧力101kPaで当該混合液に吹き込み、吸収液を得た。
【0082】
〔比較例1〕
30質量%のモノエタノールアミンおよび70質量%の水を混合して混合液を調整した。次いで、15体積%の二酸化炭素および85体積%の窒素を含むガスを、圧力101kPaで当該混合液に吹き込み、吸収液を得た。
【0083】
〔比較例2〕
30質量%のモノエタノールアミン、70質量%の水および0.05質量%の非イオン性界面活性剤(日油株式会社製ノニオンE-202:エーテル型)を混合して混合液を調整した。次いで、15体積%の二酸化炭素および85体積%の窒素を含むガスを、圧力101kPaで当該混合液に吹き込み、吸収液を得た。
【0084】
〔比較例3〕
30質量%のモノエタノールアミン、70質量%の水および0.05質量%のアニオン型界面活性剤(三洋化成工業株式会社製ビューライト(登録商標)SHAA)を混合して混合液を調整した。次いで、15体積%の二酸化炭素および85体積%の窒素を含むガスを、圧力101kPaで当該混合液に吹き込み、吸収液を得た。
【0085】
〔比較例4〕
30質量%のモノエタノールアミン、70質量%の水および0.05質量%の両性型界面活性剤(三洋化成工業株式会社製レボン(登録商標)101H)を混合して混合液を調整した。次いで、15体積%の二酸化炭素および85体積%の窒素を含むガスを、圧力101kPaで当該混合液に吹き込み、吸収液を得た。
【0086】
〔比較例5〕
30質量%のモノエタノールアミン、70質量%の水および0.05質量%のカチオン型界面活性剤(三洋化成工業株式会社製カチオンG-50)を混合して混合液を調整した。次いで、15体積%の二酸化炭素および85体積%の窒素を含むガスを、圧力101kPaで当該混合液に吹き込み、吸収液を得た。
【0087】
〔比較例6〕
30質量%のモノエタノールアミン、70質量%の水および0.05質量%のフッ素系界面活性剤(AGCセイケミカル株式会社製S-241:アミンオキシド型)を混合して混合液を調整した。次いで、15体積%の二酸化炭素および85体積%の窒素を含むガスを、圧力101kPaで当該混合液に吹き込み、吸収液を得た。
【0088】
【表1】
【0089】
表1中の略称または界面活性剤は、それぞれ以下を示す;
MEA:モノエタノールアミン、
IPAE:2-イソプロピルアミノエタノール、
PZ:ピペラジン、
MDEA:メチルジエタノールアミン、
ユニセーフA-LM:ジメチルラウリル-アミンオキシド水溶液(日油株式会社)、
スタホームF:ヤシ脂肪酸ジエタノールアミド(日油株式会社)、
ノニオンE-202:エーテル型界面活性剤(日油株式会社)、
ビューライトSHAA:アニオン型界面活性剤(三洋化成工業株式会社)、
レボン101H:両性型界面活性剤(三洋化成工業株式会社)、
カチオンG-50:カチオン型界面活性剤(三洋化成工業株式会社)、
S-241:アミンオキシド型界面活性剤(AGCセイケミカル株式会社)、
カデナックスDM12D-W(C):3級アミン誘導界面活性剤(ライオン・スペシャリティー・ケミカルズ株式会社)。
【0090】
下記表2に、各実施例および比較例に係る吸収液による二酸化炭素の吸収量および放散量を示す。表2において、「CO吸収量」は、40℃の吸収液における、吸収液1kg当たりの二酸化炭素の吸収量(g)である。また、「CO放散量」は、100℃の吸収液における、吸収液1kg当たりの二酸化炭素の放散量(g)である。「放散率」は、CO吸収量に対するCO放散量の割合(CO放散量/CO吸収量)である。「繰り返し回数」は、同じ吸収液による二酸化炭素の吸収および放散を繰り返した回数である。
【0091】
【表2】
【0092】
表2に示すように、各実施例に係る吸収液では、界面活性剤を含まない比較例1よりも、二酸化炭素の吸収量および放散量が優れていた。この傾向は、アミン成分の濃度が高い場合(実施例6および比較例1)に、特に顕著だった。また、各実施例に係る吸収液では、吸収液による二酸化炭素の吸収および放散を10回繰り返した後も、二酸化炭素の吸収量および放散量に低下は見られなかった。
【0093】
一方、本実施形態の範囲に含まれない、エーテル型の非イオン性界面活性剤(比較例2)、イオン性界面活性剤(比較例3~5)およびフッ素系界面活性剤(比較例6)では、吸収液による二酸化炭素の吸収および放散を5~8回繰り返したところで、吸収液の白濁または起泡が見られた。また、繰り返し終了時の吸収液では、初回時と比較して、二酸化炭素の吸収量、放散量および放散率が明らかに低下していた。
【0094】
以上の結果から、本実施形態の界面活性剤は、吸収液における二酸化炭素の吸収量および放散量の向上に有効であることが示された。また、本実施形態の界面活性剤は、吸収液中での安定性に優れていることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0095】
本発明は、二酸化炭素を含むガスから二酸化炭素を分離回収するための吸収液に利用することができる。