(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-19
(45)【発行日】2025-02-28
(54)【発明の名称】めっき装置及びめっき方法
(51)【国際特許分類】
C25D 21/14 20060101AFI20250220BHJP
C25D 17/00 20060101ALI20250220BHJP
C25D 21/12 20060101ALI20250220BHJP
C25D 7/12 20060101ALN20250220BHJP
【FI】
C25D21/14 F
C25D17/00 H
C25D21/12 C
C25D7/12
(21)【出願番号】P 2024540579
(86)(22)【出願日】2024-04-05
(86)【国際出願番号】 JP2024014169
【審査請求日】2024-07-03
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000000239
【氏名又は名称】株式会社荏原製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100146710
【氏名又は名称】鐘ヶ江 幸男
(74)【代理人】
【識別番号】100186613
【氏名又は名称】渡邊 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100117640
【氏名又は名称】小野 達己
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 直人
【審査官】有田 恭子
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-092447(JP,A)
【文献】特開2015-081381(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第114318416(CN,A)
【文献】特開2012-126988(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22B 1/00-61/00
C25C 1/00- 7/08
C25D 1/00-21/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板をめっきするめっき装置であって、
めっき槽と、
アノード液を保持するアノード室と、カソード液を保持するカソード室とに前記めっき槽内を仕切る陽イオン交換膜と、
前記アノード室に配置されたアノードと、
前記カソード液に前記基板に析出する金属と同一の金属、又は前記金属を含む金属化合物を補給する補給装置と、
前記補給装置を制御し、前記基板への前記金属のめっき析出量から、前記陽イオン交換膜を通して前記アノード室から前記カソード室に透過した前記金属の金属イオンの透過量を差し引いた量である補給量の前記金属、又は前記補給量の金属を含む前記金属化合物を、前記補給装置から前記カソード液に補給する制御装置と、
を備え、
前記金属は、前記アノード液及び前記カソード液中で陽イオンの金属イオンとして含まれ、還元されて前記基板上にめっき皮膜として析出される金属である、めっき装置。
【請求項2】
請求項1に記載のめっき装置において、
前記めっき槽において前記アノード液及び前記カソード液を新たに調整した建浴時から、前記基板と前記アノードとの間に流しためっき電流により供給されたトータルの電荷量をトータル電荷量とした場合において、
前記補給量は、
前記陽イオン交換膜を通して前記アノード室から前記カソード室に透過する水素イオンの輸率と前記トータル電荷量との関係を示す補正曲線の面積に基づいて算出されたものであり、前記補正曲線を示すグラフにおいて縦軸及び横軸がそれぞれ前記水素イオンの輸率及び前記トータル電荷量を表すとした場合に
おいて、前記トータル電荷量が第1電荷量から第2電荷量まで変化する場合に、前記補正曲線の面積は、前記補正曲線と、前記横軸と、前記トータル電荷量が第1電荷量である直線と、前記トータル電荷量が第2電荷量であ
る直線とで囲まれた面積である、
めっき装置。
【請求項3】
請求項2に記載のめっき装置において、
前記制御装置は、複数回にわたって、前記補給量の前記金属、又は前記補給量の金属を含む前記金属化合物を、前記補給装置から前記カソード液に補給し、
前記トータル電荷量が第1電荷量から第2電荷量まで変化する場合に、前記補正曲線の面積は、前記補正曲線を前記第1電荷量から前記第2電荷量まで積分した積分値として算出される、めっき装置。
【請求項4】
請求項2に記載のめっき装置において、
前記制御装置は、複数回にわたって、前記補給量の前記金属、又は前記補給量の金属を含む前記金属化合物を、前記補給装置から前記カソード液に補給し、
前記トータル電荷量が第1電荷量から第2電荷量まで変化する場合に、前記補正曲線の面積は、前記第1電荷量から前記第2電荷量までの区間における前記補正曲線の面積を長方形の面積で近似した値として算出される、めっき装置。
【請求項5】
請求項4に記載のめっき装置において、
前記補正曲線の面積は、前記第1電荷量に対する前記水素イオンの輸率と前記第2電荷量に対する前記水素イオンの輸率との平均値と、前記第2電荷量と前記第1電荷量との差とを乗算した値として算出される、めっき装置。
【請求項6】
請求項2に記載のめっき装置において、
前記補正曲線は、前記アノード液中の前記金属イオンの初期濃度、及び前記金属イオンの初期濃度と酸の初期濃度との比を使用して、算出された近似曲線であり、
前記制御装置は、前記補正曲線の前記近似曲線を使用して、前記補正曲線の面積を算出し、前記面積に基づいて前記補給量を算出する、めっき装置。
【請求項7】
請求項2に記載のめっき装置において、
シミュレーションにより算出した前記補正曲線を保持する記憶装置を更に備え、
前記制御装置は、
前記記憶装置内の前記補正曲線を参照して、前記補正曲線の面積を算出し、前記補正曲線の面積に基づいて、前記補給量を決定する、めっき装置。
【請求項8】
請求項2に記載のめっき装置において、
シミュレーションにより算出した前記トータル電荷量と前記補給量とを対応付けたデータを保持する記憶装置を更に備え、
前記制御装置は、
前記記憶装置内の前記データを参照して前記補給量を決定する、めっき装置。
【請求項9】
請求項2に記載のめっき装置において、
前記制御装置は、前記トータル電荷量が所定の電荷量だけ変化する毎に、前記変化の間の前記補正曲線の面積に基づく前記補給量の前記金属、又は前記補給量の金属を含む前記金属化合物を、前記カソード液に補給する、めっき装置。
【請求項10】
請求項2に記載のめっき装置において、
前記アノード液中の金属イオンの濃度を検出する第1濃度センサを更に備え、
前記制御装置は、前記第1濃度センサで検出した前記金属イオンの濃度の検出値に基づいて前記補正曲線を算出し、前記補正曲線の面積に基づいて前記補給量を決定する、
めっき装置。
【請求項11】
請求項
10に記載のめっき装置において、
前記アノード液中の水素イオンの濃度を検出する第2濃度センサを更に備え、
前記制御装置は、前記第1及び第2濃度センサで検出した前記金属イオンの濃度及び前記水素イオンの濃度の検出値に基づいて前記補正曲線を算出し、前記補正曲線の面積に基づいて前記補給量を決定する、めっき装置。
【請求項12】
請求項2に記載のめっき装置において、
前記補給量は、前記補正曲線の面積を前記金属イオンの価数で除して算出されたものである、めっき装置。
【請求項13】
請求項1から12の何れかに記載のめっき装置において、
前記カソード室に接続され、前記カソード室内の前記カソード液を循環する循環回路であって、前記カソード液を圧送するポンプを有する循環回路を更に備え、
前記補給装置は、前記循環回路の流路内の前記カソード液に、前記金属又は前記金属の化合物を供給及び溶解させ、
前記制御装置は、前記ポンプを制御して、前記カソード室内の前記カソード液を、前記循環回路を介して循環させると共に、前記補給装置を制御して、前記補給装置から前記循環回路の流路内の前記カソード液に前記補給量の前記金属又は前記金属の化合物を補給する、めっき装置。
【請求項14】
請求項1から12の何れかに記載のめっき装置において、
前記制御装置は、前記アノード液の量が所定の下限値未満に低下したことを検知することに応答して、前記アノード室に純水を供給する、めっき装置。
【請求項15】
請求項1から12の何れかに記載のめっき装置において、
前記制御装置は、前記アノード液の量が所定の上限値を超えたことを検知することに応答して、前記アノード室から前記アノード液を排出する、めっき装置。
【請求項16】
請求項1から12の何れかに記載のめっき装置において、
前記アノードは、前記
陽イオン交換膜の下面に密着している、めっき装置。
【請求項17】
請求項14に記載のめっき装置において、
前記アノードの下面から所定距離離間した裏面プレートを更に備える、めっき装置。
【請求項18】
請求項1から12の何れかに記載のめっき装置において、
前記制御装置は、前記アノード液中の前記金属イオンの濃度が所定値未満に低下した以後は、前記基板への前記金属のめっき析出量に対応する量である補給量の前記金属、又は前記補給量の金属を含む前記金属化合物を、前記補給装置から前記カソード液に補給する、めっき装置。
【請求項19】
請求項1から12の何れかに記載のめっき装置において、
前記めっき槽において前記アノード液及び前記カソード液を新たに調整する建浴時において、前記めっき槽は、同一組成の前記アノード液及び前記カソード液を保持する、めっき装置。
【請求項20】
基板をめっきするめっき方法であって、
前記基板への金属のめっき析出量から、めっき槽内をアノード室とカソード室とを仕切る
陽イオン交換膜を通して前記アノード室から前記カソード室に透過した前記金属の金属イオンの透過量を差し引いた量である補給量の前記金属、又は前記補給量の金属を含む前
記金属の化合物を、カソード液に補給することを含み、
前記金属は
、アノード液及び前記カソード液中で陽イオンの金属イオンとして含まれ、還元されて前記基板上にめっき皮膜として析出される金属である、めっき方法。
【請求項21】
請求項1から12の何れかに記載のめっき装置において、
前記金属は銅である、めっき装置。
【請求項22】
請求項20に記載のめっき方法において、
前記金属は銅である、めっき方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、めっき装置及びめっき方法に関する。
【背景技術】
【0002】
基板(例えば、半導体ウェハ)をめっきするめっき装置は、アノードが配置されるアノード室と、カソードとしての基板が配置されるカソード室とを備える。一般的に、このようなめっき装置では、アノード室にはめっき液(カソード液)と同じ組成の液をアノード液として導入する。不溶解アノードを用いてめっき処理する場合、カソード(基板)では、電解量に応じた量の金属(例えば、Cu)が析出し、めっき液中のCuイオンが消費される一方、アノードでは酸が生成する為、特許第6767243号明細書(特許文献1)に記載されているように、電解量に応じた量の金属酸化物(例えば、CuO)、金属水酸化物、金属炭酸塩等をめっき液に添加、溶解させ、金属イオンの補充と酸の中和とを行っている。また、一般的に、めっき槽内をアノード室及びカソード室に仕切る隔膜としては、特許文献2に記載されたようなイオン交換膜が使用される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第6767243号明細書
【文献】特許第7165843号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
アノード室とカソード室を陽イオン交換膜で隔離した場合、陽イオン交換膜を水素イオンと金属イオン(銅イオン)の両方が透過するため、めっき開始後にアノード液の電解と共に徐々に、アノード液中の銅イオンがカソード液中に移動する。このため、めっきで析出した量の金属(Cu)をカソード液に補充してしまうと、カソード液に金属イオンを過剰に添加することとなり、カソード液の液組成がずれてしまうことになる。基板に接触するめっき液であるカソード液の組成がずれると、めっきの品質に悪影響を与える可能性がある。特に、カソード液量/アノード液量の比が小さいほど、その影響(カソード液の組成のずれ)が大きくなると予想される。
【0005】
本発明は、上述した問題の少なくとも一部を解決することにある。本発明の目的の1つは、めっき中にめっき液の組成を一定に維持しつつ金属イオンを供給することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一側面によれば、基板をめっきするめっき装置であって、 めっき槽と、 アノード液を保持するアノード室と、カソード液を保持するカソード室とに前記めっき槽内を仕切る陽イオン交換膜と、 前記アノード室に配置されたアノードと、 前記カソード液に前記基板に析出する金属と同一の金属、又は前記金属を含む金属化合物を補給する補給装置と、 前記補給装置を制御し、前記基板への前記金属のめっき析出量から、前記陽イオン交換膜を通して前記アノード室から前記カソード室に透過した前記金属の金属イオンの透過量を差し引いた量である補給量の前記金属、又は前記補給量の金属を含む前記金属化合物を、前記補給装置から前記カソード液に補給する制御装置と、を備えるめっき装置が提供される。
【0007】
本発明の一側面によれば、基板をめっきするめっき方法であって、 前記基板への金属のめっき析出量から、めっき槽内をアノード室とカソード室とを仕切るイオン交換膜を通して前記アノード室から前記カソード室に透過した前記金属の金属イオンの透過量を差し引いた量である補給量の前記金属、又は前記補給量の金属を含む前記金属の化合物を、カソード液に補給する、めっき方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】一実施形態に係るめっき装置の全体構成を示す斜視図である。
【
図2】一実施形態に係るめっき装置の全体構成を示す平面図である。
【
図3】一実施形態に係るめっきモジュールの模式図である。
【
図4】めっき槽におけるイオンの反応を説明する説明図である。
【
図5A】アノード液中の銅及び硫酸の濃度変化を示すグラフである。
【
図5B】アノード液中のイオンの濃度変化を示すグラフである。
【
図5C】隔膜を透過するイオンの輸率の変化を示すグラフである。
【
図5D】めっき析出量相当のCuOを補充した場合において、カソード液中の銅と硫酸濃度変化を示すグラフである。
【
図6A】CuOの補充量の算出方法を説明する説明図である。
【
図6B】CuOの補充量の算出方法を説明する説明図である。
【
図6C】CuOの補充量の算出方法を説明する説明図である。
【
図6D】CuOの補充量の算出方法を説明する説明図である。
【
図7A】イオン伝導率比αを見積もる実験に使用しためっきセルの構成例を示す。
【
図7B】実験及びシミュレーションによるアノード液中のCu濃度の変化を示すグラフである。
【
図8A】酸解離平衡定数Ka’の見積結果の例を示す表である。
【
図8B】酸解離平衡定数Ka’の見積結果の例を示すグラフである。
【
図9】CuO補給量を算出するシミュレーションに使用したパラメータの数値例を示す。
【
図10A】水素イオンの輸率のシミュレーション結果を示すグラフである。
【
図10B】建浴直後の水素イオンの輸率の変化を拡大して示すグラフである。
【
図10C】アノード液組成安定後の水素イオンの輸率の変化を拡大して示すグラフである。
【
図11】CuO補給量の簡略化された計算式を示す。
【
図12A】水素イオンの輸率の変化を示すグラフである。
【
図12B】建浴直後の水素イオンの輸率の変化を拡大して示すグラフである。
【
図12C】アノード液組成安定化後の水素イオンの輸率の変化を拡大して示すグラフである。
【
図13A】めっき析出量相当のCuOを補給した場合のカソード液中のイオン濃度の変化を示す。
【
図13B】シミュレーションで得られた水素イオンの輸率t
Hの曲線に基づいてCuOを補給した場合のカソード液中のイオン濃度の変化を示す。
【
図14A】水素イオン輸率の変化及びカソード液中のイオン濃度の変化を示す。
【
図14B】水素イオン輸率の変化及びカソード液中のイオン濃度の変化を示す。
【
図14C】水素イオン輸率の変化及びカソード液中のイオン濃度の変化を示す。
【
図14D】水素イオン輸率の変化及びカソード液中のイオン濃度の変化を示す。
【
図15A】Cu/H
2SO
4比率が一定でCu濃度が異なるめっき液における水素イオン輸率の変化を示す。
【
図15B】Cu濃度一定でCu/H
2SO
4比率が異なる水素イオン輸率の変化曲線を示す。
【
図16A】補正曲線:t
H-q曲線の近似曲線を表す数式を示す。
【
図17】任意のめっき液組成に対してCuO補給量を求める数式を示す。
【
図18A】任意のめっき液組成に適用可能な補正曲線の近似曲線、及び近似曲線を使用したカソード液中のイオン濃度調整のシミュレーション結果を示す。
【
図18B】任意のめっき液組成に適用可能な補正曲線の近似曲線、及び近似曲線を使用したカソード液中のイオン濃度調整のシミュレーション結果を示す。
【
図18C】任意のめっき液組成に適用可能な補正曲線の近似曲線、及び近似曲線を使用したカソード液中のイオン濃度調整のシミュレーション結果を示す。
【
図18D】任意のめっき液組成に適用可能な補正曲線の近似曲線、及び近似曲線を使用したカソード液中のイオン濃度調整のシミュレーション結果を示す。
【
図19A】アノード液中のイオン濃度を直接モニタする場合のCuO補給量の計算方法を説明する説明図である。
【
図19B】アノード液中のイオン濃度を直接モニタする場合のめっきモジュールの構成例を示す。
【
図20】複数のめっき槽又はセルのめっき液(カソード液)が接続され、一括に液管理する場合のCuO補給量の計算式を示す。
【
図21A】隔膜の近傍を拡大しためっきモジュールの模式図である。
【
図21B】隔膜を介した拡散によるイオンの移動を説明する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態に係るめっき装置1000について、図面を参照しつつ説明する。なお、図面は、物の特徴の理解を容易にするために模式的に図示されており、各構成要素の寸法比率等は実際のものと同じであるとは限らない。
【0010】
<第1実施形態>
図1は、本実施形態のめっき装置1000の全体構成を示す斜視図である。
図2は、本実施形態のめっき装置1000の全体構成を示す平面図である。
図1及び
図2に示すように、めっき装置1000は、ロードポート100、搬送ロボット110、アライナ120、プリウェットモジュール200、プリソークモジュール300、めっきモジュール400、洗浄モジュール500、スピンリンスドライヤ600、搬送装置700、及び、制御モジュール800を備える。
【0011】
ロードポート100は、めっき装置1000に図示していないFOUPなどのカセットに収容されたウェハ(基板)を搬入したり、めっき装置1000からカセットに基板を搬出するためのモジュールである。本実施形態では4台のロードポート100が水平方向に並べて配置されているが、ロードポート100の数及び配置は任意である。搬送ロボット110は、基板を搬送するためのロボットであり、ロードポート100、アライナ120、プリウェットモジュール200及びスピンリンスドライヤ600の間で基板を受け渡すように構成される。搬送ロボット110及び搬送装置700は、搬送ロボット110と搬送装置700との間で基板を受け渡す際には、仮置き台(図示せず)を介して基板の受け渡しを行うことができる。
【0012】
アライナ120は、基板のオリエンテーションフラットやノッチなどの位置を所定の方向に合わせるためのモジュールである。本実施形態では2台のアライナ120が水平方向に並べて配置されているが、アライナ120の数及び配置は任意である。プリウェットモジュール200は、めっき処理前の基板の被めっき面を純水または脱気水などの処理液で濡らすことで、基板表面に形成されたパターン内部の空気を処理液に置換する。プリウェットモジュール200は、めっき時にパターン内部の処理液をめっき液に置換することでパターン内部にめっき液を供給しやすくするプリウェット処理を施すように構成される。本実施形態では2台のプリウェットモジュール200が上下方向に並べて配置されているが、プリウェットモジュール200の数及び配置は任意である。
【0013】
プリソークモジュール300は、例えばめっき処理前の基板の被めっき面に形成したシード層表面等に存在する電気抵抗の大きい酸化膜を硫酸や塩酸等の処理液でエッチング除去してめっき下地表面を洗浄または活性化するプリソーク処理を施すように構成される。本実施形態では2台のプリソークモジュール300が上下方向に並べて配置されているが、プリソークモジュール300の数及び配置は任意である。めっきモジュール400は、基板にめっき処理を施す。本実施形態では、上下方向に3台かつ水平方向に4台並べて配置された12台のめっきモジュール400のセットが2つあり、合計24台のめっきモジュール400が設けられているが、めっきモジュール400の数及び配置は任意である。
【0014】
洗浄モジュール500は、めっき処理後の基板に残るめっき液等を除去するために基板に洗浄処理を施すように構成される。本実施形態では2台の洗浄モジュール500が上下方向に並べて配置されているが、洗浄モジュール500の数及び配置は任意である。スピンリンスドライヤ600は、洗浄処理後の基板を高速回転させて乾燥させるためのモジュールである。本実施形態では2台のスピンリンスドライヤ600が上下方向に並べて配置されているが、スピンリンスドライヤ600の数及び配置は任意である。搬送装置700は、めっき装置1000内の複数のモジュール間で基板を搬送するための装置である。制御モジュール800は、めっき装置1000の複数のモジュールを制御するように構成され、例えばオペレータとの間の入出力インターフェースを備える一般的なコンピュータまたは専用コンピュータから構成することができる。
【0015】
めっき装置1000による一連のめっき処理の一例を説明する。まず、ロードポート100にカセットに収容された基板が搬入される。続いて、搬送ロボット110は、ロードポート100のカセットから基板を取り出し、アライナ120に基板を搬送する。アライナ120は、基板のオリエンテーションフラットやノッチなどの位置を所定の方向に合わせる。搬送ロボット110は、アライナ120で方向を合わせた基板をプリウェットモジュール200へ受け渡す。
【0016】
プリウェットモジュール200は、基板にプリウェット処理を施す。搬送装置700は、プリウェット処理が施された基板をプリソークモジュール300へ搬送する。プリソークモジュール300は、基板にプリソーク処理を施す。搬送装置700は、プリソーク処理が施された基板をめっきモジュール400へ搬送する。めっきモジュール400は、基板にめっき処理を施す。
【0017】
搬送装置700は、めっき処理が施された基板を洗浄モジュール500へ搬送する。洗浄モジュール500は、基板に洗浄処理を施す。搬送装置700は、洗浄処理が施された基板をスピンリンスドライヤ600へ搬送する。スピンリンスドライヤ600は、基板に乾燥処理を施す。搬送ロボット110は、スピンリンスドライヤ600から基板を受け取り、乾燥処理を施した基板をロードポート100のカセットへ搬送する。最後に、ロードポート100から基板を収容したカセットが搬出される。
【0018】
なお、
図1や
図2で説明しためっき装置1000の構成は、一例に過ぎず、めっき装置1000の構成は、
図1や
図2の構成に限定されるものではない。
【0019】
制御モジュール800は、マシンパラメータ等の各種の設定データ及び各種のプログラムを格納したメモリ(図示略)と、メモリのプログラムを実行するCPU(図示略)と、を有する構成とすることができる。制御モジュール800は、ディスプレイ等の出力デバイス、キーボード、マウス等を含む入力デバイスを含む入出力インターフェースを備えてもよい。メモリを構成する記憶媒体は、任意の揮発性の記憶媒体、及び/又は、任意の不揮発性の記憶媒体を含むことができる。記憶媒体は、例えば、ROM、RAM、ハードディスク、CD-ROM、DVD-ROM、フレキシブルディスクなどの任意の記憶媒体の1又は複数を含むことができる。制御モジュール800の一部又は全部の機能は、ASIC等のハードウェアで構成することができる。制御モジュール800の一部又は全部の機能は、PLC、シーケンサ等で構成してもよい。制御モジュール800の一部又は全部は、めっき装置1000の筐体の内部及び/又は外部に配置することができる。制御モジュール800の一部又は全部は、有線及び/又は無線によりめっき装置の各部と通信可能に接続される。
【0020】
[めっきモジュール]
続いて、めっきモジュール400について説明する。なお、本実施形態に係るめっき装置1000が有する複数のめっきモジュール400は同様の構成を有しているので、1つのめっきモジュール400について説明する。
【0021】
図3は、一実施形態に係るめっきモジュールの模式図である。本実施形態に係るめっき装置1000(めっきモジュール400)は、
図3に示すように、基板Wfを水平に保持してめっきするフェースダウン式、カップ式、横型等と称されるタイプのめっき装置(めっきモジュール)である。本実施形態に係るめっきモジュール400は、主として、めっき槽410と、基板Wfを保持する、めっきヘッドとも称される基板ホルダ11と、基板ホルダ11を回転、傾斜及び昇降させる回転機構、傾斜機構及び昇降機構(図示略)と、基板Wfの下方において基板Wfと対向して配置されるアノード430と、めっき槽410内をカソード室Cca及びアノード室Canとに区画する隔膜440と、を備えている。但し、傾斜機構は省略されてもよい。また、めっき槽410の外側には、めっき槽410から溢れたカソード液Pcを受け入れるオーバフロー槽420が設けられている。
【0022】
本実施形態に係るめっき槽410は、上方に開口を有する有底の容器によって構成されている。めっき槽410は、めっき液(カソード液Pc、アノード液Pa)を貯留する概ね円筒形状の内部空間を形成する。なお、本明細書では、カソード液及びアノード液は、カソライト及びアノライトとも称す。また、本願明細書では、めっき液の組成を一定に維持するという文脈で使用する場合、めっき液はカソード液Pcを指すものとする。
【0023】
めっき液としては、めっき皮膜を構成する金属元素のイオンを含む溶液であればよく、その具体例は特に限定されるものではない。本実施形態においては、めっき処理の一例として、銅めっき処理を用いており、めっき液の一例として、硫酸銅溶液を用いている。めっき液には、所定の添加剤が含まれてもよい。
【0024】
めっき槽410には、アノード液Paを導入する入口としての供給口411と、カソード液Pcを導入する入口としての供給口412とが設けられている。オーバフロー槽420には、オーバフロー槽420からめっき液を排出する排出口413が設けられている。また、後述するアノード室Canの排気通路417には、排気通路417内のアノード液Paをオーバフロー槽420に排出する排出口414が設けられている。
【0025】
めっき槽410の内部において基板Wfの近傍にはパドル(図示略)が配置され得る。パドルは、基板Wfの被めっき面に対して概ね平行方向に往復運動して、基板Wf表面に強いめっき液の流れを発生させる。これにより、基板Wfの表面近傍のめっき液中のイオンを均一化し、基板Wf表面に形成されるめっき膜の面内均一性を向上させる。
【0026】
めっき槽410の内部においてパドルの下方には、多孔質の抵抗体450が配置されている。具体的には、抵抗体450は、複数の孔(細孔)を有する多孔質の板部材によって構成されている。抵抗体450よりも下方側のめっき液は、抵抗体450を通過して、抵抗体450よりも上方側に流動することができる。この抵抗体450は、アノード430と基板Wfとの間に形成される電場の均一化を図るために設けられている部材である。このような抵抗体450がめっき槽410に配置されることで、基板Wfに形成されるめっき皮膜(めっき層)の膜厚の均一化を容易に図ることができる。なお、抵抗体450は本実施形態において必須の構成ではなく、本実施形態は抵抗体450を備えていない構成とすることもできる。
【0027】
抵抗体450の下方には、アノードマスク431が配置されている。アノードマスク431は、アノード430を露出する開口を有し、この開口により、アノード430を露出する面積を調整し、アノード-基板間の電場を調整するものである。アノードマスク431は、アクチュエータ等により開口寸法を調整可能な可変アノードマスクであってもよい。アノードマスク431は、省略されてもよい。
【0028】
隔膜440は、抵抗体450の下方、本実施形態ではアノードマスク431の下方において、めっき槽410の内部をカソード室Ccaとアノード室Canとに区画する。本実施形態では、隔膜440は、陽イオンを透過可能な陽イオン交換膜を採用する。隔膜440は、複数の膜から構成されてもよい。
【0029】
本実施形態では、アノード430は、隔膜440の下面に密着して配置されている。隔膜440の上面は、図示しない隔膜押さえ(例えば、複数の孔を有する、例えば網目状部分を有する板状又はシート状部材)により上から押さえられてもよい。本実施形態では、アノード430として不溶解アノードが採用される。この不溶解アノードの具体的な種類は特に限定されるものではなく、白金、チタン、酸化イリジウム等(例えば、IrO2/Ti、Pt/Ti)を用いることができる。アノード430の表面には、めっき液中の添加剤の分解を抑制する等の目的で、さらにトップコート層を有していてもよい。
【0030】
本実施形態では、アノード430は、表面と裏面との間を連絡する多数の貫通孔(図示略)を有する板状部材(例えば、円盤状の部材)であり、複数の貫通孔を介してアノード液Paを隔膜440に接触させ、アノード液Pa中の陽イオンが隔膜440を通してカソード室Cca(カソード液Pc)に移動可能に構成されている。
【0031】
アノード430と隔膜440とを密着させることにより、アノード430と隔膜440との間にガス(例えば、アノードで発生する酸素)が蓄積し、アノードと基板との間の電場やイオン伝導パスに影響を与えないようにしている。なお、隔膜440は、アノードで発生した酸素等のガスが透過しない構成となっている。
【0032】
アノード430の下方には、アノード430の下面に所定の距離だけ離間して隣接した、気泡量調整用の裏面プレート81が配置されている。裏面プレート81は、アノード430で発生した酸素がアノード430の下面に蓄積する量を調整すると共に、アノード430の下面から大量の酸素が一度に離脱してアノード電圧の変動が大きくならないようにするものである。裏面プレート81により、アノード430の下面と裏面プレート81との間に一定量の酸素を蓄積し、アノード電圧の大きな変動を抑制可能に少量ずつの酸素が離脱し、排出されるようなる。これにより、アノード電圧の大きな変動に起因するめっき品質の低下を抑制することができる。
【0033】
なお、裏面プレート81に代えて、アノード430の下面の外周側を囲む所定高さのリング部材を設けても良い。このようなリング部材によっても、裏面プレート81と類似又は同様の作用効果を奏することができる。
【0034】
アノード室Canは、カソード室Ccaの側方を上下に延びる排気通路417を介して大気に連通しており、排気通路417を介して、アノード430で生成されるガス(酸素)を排出可能に構成されている。不溶解アノードを使用する場合、アノード430における水の電気分解により酸素が生成される。排気通路417には、アノード液の液面を検出する液面センサ415が配置されている。液面センサ415は、アノード液の液面を連続的に検出可能なアナログ式の液面センサを採用することができる。液面センサ415は、アノード液の液面の下限値を検出可能なオン/オフ式の液面センサであってもよい。また、これに追加して、アノード液の液面の上限値を検出可能なオン/オフ式の液面センサを設けても良い。アノード液の液面を下限値以上に維持するようにアノード液量を管理することにより、アノード液の枯渇を防止することができる。アノード液の液面を上限値以下に維持するようにアノード液量を管理することにより、添加剤が消費されたアノード室のアノード液Paがオーバフロー槽420に流入して、カソード室Ccaに循環されることを抑制又は防止できる。これにより、カソード室Ccaのカソード液中の添加剤の濃度低下や劣化を抑制又は防止できる。
【0035】
本実施形態では、カソード室Cca及びアノード室Canには、共通の同一組成のめっき液が、カソード液Pc及びアノード液Paとして導入される。共通のめっき液は、主に硫酸銅水溶液からなり、微量の塩酸を含んでも良い。なお、本実施形態は、他のタイプのカソード液及びアノード液に対しても適用可能である。
【0036】
図3に示すように、めっき槽410には、めっき液(カソード液、アノード液)を供給及び循環させる循環回路470が接続されている。また、めっき槽410には、カソード室Ccaに純水(例えば、DIW)を供給する純水供給ライン474が接続されている。純水供給ライン474は、循環回路470内のリザーバタンク481及びめっき液調整タンク482にも純水(例えば、DIW)を供給するように配管されている。
【0037】
図3の例では、循環回路470は、リザーバタンク481と、めっき液調整タンク482とを有する。リザーバタンク481は、めっき液調整タンク482から供給されるめっき液、オーバフロー槽420から排出されるめっき液、及びDIWを受け入れ、濃度を調整した後のめっき液を、カソード液Pc及びアノード液Paとしてカソード室Cca及びアノード室Canに供給すると共に、めっき液調整タンク482に還流する。リザーバタンク481の出力には、流体ライン471が接続されており、流体ライン471上のポンプ475により、リザーバタンク481からカソード室Cca、アノード室Can、及びめっき液調整タンク482にめっき液が供給される。ポンプ475の出力側において、流体ライン471は、めっき槽410側とめっき液調整タンク482側とに分岐しており、めっき槽410側の流体ライン471は、更にカソード室Cca側とアノード室Can側とに分岐している。カソード室Cca側及びアノード室Can側の流体ライン471上には、それぞれ、バルブ477及び478が設けられている。バルブ477、478は、開閉バルブ、又は流量制御バルブの何れでもよい。バルブ477、478の開閉を制御することで、カソード室Cca及びアノード室Canにめっき液を供給する。
【0038】
めっき液調整タンク482は、リザーバタンク481からめっき液を受け取り、適宜、1又は複数種類の添加剤をめっき液、粉末状の酸化銅CuOをめっき液に添加・補給し、DIWによりめっき液の濃度を調整した後、濃度調整後のめっき液をポンプ476により流体ライン473を介してリザーバタンク481に供給する。めっき液調整タンク482には、攪拌装置483が設けられており、攪拌装置483によりめっき液を攪拌して、添加剤及び酸化銅CuOがめっき液に溶かし込むように構成されている。
【0039】
アノード室Canには、純水供給ライン474及びバルブ479を介してDIWが供給されるようになっている。また、リザーバタンク481には、純水供給ライン474及びバルブ480を介してDIWが供給されるようになっている。めっき液調整タンク482にも、純水供給ライン474、及び図示しないバルブを介してDIWが供給されるようになっている。
【0040】
なお、他の実施形態では、リザーバタンク481とめっき液調整タンク482とを一体化してもよい。即ち、リザーバタンク481において、添加剤の供給、CuOの補給を実施し、めっき液調整タンク482を省略してもよい。
【0041】
本実施形態では、循環回路470によりカソード室Cca内のカソード液Pcを循環させる一方、アノード室Canでは、アノード液Paの循環を行わず、液面センサ415によりアノード液Paの液位管理のみ行う。具体的には、めっき槽410内にめっき液を新たに調整する建浴時において、アノード室Can及びカソード室Ccaにめっき液(アノード液Pa、カソード液Pc)を導入後、アノード室Canにはめっき液を供給せず、アノード液の液位が所定の下限値未満に低下したときにDIWを補給して液位を下限値以上に保つことのみ実施する。
【0042】
図4は、めっき槽におけるイオンの反応を説明する説明図である。同図に示すように、アノード430では、水が電気分解され、水素イオンH
+と酸素O
2とが発生する。また、アノード室Can(アノード液Pa)中の銅イオン(Cuイオン)Cu
2+及び水素イオンH
+が隔膜440を介して、カソード室Cca(カソード液Pc)内に移動する。カソード室Ccaでは、カソード液Pc中の銅イオンCu
2+が基板Wf上で還元され、基板Wf上に銅(Cu)として析出する。また、カソード室Ccaから排出されたカソード液Pcに対して、循環回路470内でCuOが溶解され、銅イオンCu
2+がカソード液Pcに補給される。なお、電解をおこなうと、アノード室Canとカソード室Cca間で陽イオンの濃度差が生じる為、拡散によるアノード室Canからカソード室Ccaへの水素イオンH
+の移動、並びに、カソード室Ccaからアノード室Canへの銅イオンCu
2+の移動が起こるが、電解によるイオンの移動に比較して、遅い速度で行われる。
【0043】
図5Aは、アノード液中の銅(Cu)及び硫酸(H
2SO
4)の濃度変化を示すグラフである。
図5Bは、アノード液中のイオンの濃度変化を示すグラフである。
図5Cは、隔膜を透過するイオンの輸率の変化を示すグラフである。
図5Dは、めっき析出量相当のCuOを補充した場合において、カソード液中の銅と硫酸濃度変化を示すグラフである。
【0044】
通常、めっき装置では、めっき槽内にめっき液を新たに調整する建浴時において、アノード室Canには、カソード液Pc(めっき液)と同じ組成の液をアノード液Paとして導入する。不溶解アノードを用いてめっき処理する場合、カソード(基板Wf)では、電解量(めっき電流により流れる電荷量)に応じた量の銅が析出し、カソード液Pc中の銅イオンが消費される一方、アノード430では酸が生成する。このため、電解量(電荷量)に応じた量の金属又は金属化合物をカソード液に添加・溶解し、金属イオンの補充と酸の中和を行う。金属化合物は、金属酸化物(CuO)、金属水酸化物(Cu(OH)2、金属炭酸塩(CuCO3)等とすることができる。
【0045】
アノード室Canとカソード室Ccaを陽イオン交換膜の隔膜440で隔離した場合、陽イオン交換膜を水素イオンと金属イオン(Cuイオン)の両方が透過するため、アノード液中の銅と硫酸の濃度は、
図5Aのように変化し、アノード液中のイオンの濃度も
図5Bのように変化し、電解ともに徐々にCuイオン濃度が低下し、水素イオン濃度が上昇する。
【0046】
めっき時に陽イオン交換膜を透過するイオンの輸率は、
図5Cのように変化する。即ち、めっき中(特に、めっき初期)において、Cuイオンが陽イオン交換膜を通じてアノード室Canからカソード室Ccaに移動するため、めっきで析出した量のCuをカソード液に補充すると、カソード液にCuイオンを過剰に添加することとなり、
図5Dに示すようにカソード液の組成がずれてしまう。特に、カソード液量/アノード液量の比が小さいほどその影響が大きくなる。したがって、カソード液組成を安定させるためには、Cuイオンの隔膜透過量を考慮して銅を補給する必要がある。具体的には、めっき析出量(電解量)から、Cuイオンの隔膜透過量を差し引いた量の銅を補給する。
【0047】
図6A~Dは、CuOの補充量の算出方法を説明する説明図である。ここでは、銅めっきにおいて、金属の補充、及び酸の中和のために、酸化銅CuOをカソード液に補充する場合を例に挙げて説明する。
【0048】
図6A~Cにおいて、t
H(q)は水素イオンH
+の輸率、t
Cu(q)はCuイオンCu
2+の輸率とする。以下の説明では、t
H、t
Cuとも表記することもある。輸率とは、電解質の溶液に電流を流した際に、ある特定のイオンが担う電流の全電流に示す割合であり、1F(ファラデー)当たりのイオンのモル数(mol)×イオンの価数として定義される。1Fは、ファラデー定数、又は電荷の単位を表すファラデーFdを意味するものとする。ファラデー定数は、電子(又は正孔)1mol当たりの電荷量であり、アボガドロ定数N
A(6.02×10
23[mol
-1])と電気素量e(1.60217663×10
-19[C])との乗算に対応する。
【0049】
めっき槽内にめっき液を新たに調整する建浴時から、基板-アノード間に流れためっき電流によりトータルでq[F]の電荷が投入されたとすると、基板Wfには、(1/2)・q[mol]のCuが析出する。ここで、Cu2+は、二価のイオンであり、1molの銅が析出することに対応して、2mol分の電子が投入されるので、電荷量[F]に(1/2)を乗算してCuのモル数を算出する。以下、めっき槽にめっき液を新たに調整する建浴時から流れた電荷の総量をトータル電荷量と称す。
【0050】
めっき中、トータル電荷量q[F]がq1[F]からq2[F]まで変化したとすると、その間に基板に析出するCuのモル数は、トータル電荷量の変化分q2-q1に(1/2)を乗算して、(1/2)(q2-q1)となる。
【0051】
このとき、アノード室Canからカソード室Ccaに移動するCuイオンが担う電荷量(mol)は、Cuイオンの輸率tCu(q)をq=q1からq=q2まで積分したものになる。前述したようにCuイオンは二価のイオンであるので、アノード室Canからカソード室Ccaに移動するCuイオンの量(mol)は、輸率tCu(q)をq1からq2まで積分した積分値に(1/2)を乗算したものになる。
【0052】
従って、カソード液で正味消費されるCuイオンの量(mol)、即ち補給すべき銅の量(mol)は、
図6Aの式(1)の中辺のようになる。
【0053】
陽イオン交換膜(隔膜440)を介した陰イオンの移動は無視できることから、アノード液からカソード液へ向かって隔膜440を通過する電流の流れを担うイオンは、水素イオンH
+とCuイオンCu
2+であるため、t
H(q)+t
Cu(q)=1となる(
図6Aの式(2)参照)。よって、式(1)は、t
H(q)を用いても表すことができる(
図6Aの式(1)の右辺)。即ち、カソード液で正味消費されるCuイオンの量(mol)は、水素イオンH
+の輸率t
H(q)をq1からq2まで積分した積分値に(1/2)を乗算して算出することができる。
【0054】
水素イオン輸率tH(q)は、トータル電荷量qの関数で表すことができ、以下の説明では、tH-q曲線を補正曲線とも称す。補正曲線とは、カソード液中のCuイオン濃度を補正するための曲線を意味する。CuO補給量(mol)は、補正曲線:tH-q曲線の面積に(1/イオン価数)を乗算したものということができる。
【0055】
アノード液の液量をV[L]、アノード液中の硫酸濃度をCa[mol/L]とすると、V、Ca、tH(q)、tCu(q)の間に、式(3)の関係が成り立つ。式(3)は、式(4)のように表すことができる。
【0056】
水素イオンH+、CuイオンCu2+のイオン伝導率をそれぞれΛH、ΛCu、アノード液中の水素イオンH+、CuイオンCu2+の濃度をそれぞれ[H+]、[Cu2+]とするとそれぞれの輸率tH(q)、tCu(q)は、式(5)、(6)の中辺のように表すことができる。ここで、式(5)、(6)の中辺において、分母及び分子をΛCuで除し、イオン伝導率比α=ΛH/ΛCuとすると、輸率tH(q)、tCu(q)は、式(5)、(6)の右辺のように表すことができる。
【0057】
アノード液中のCu濃度をCCu(mol/L)とすると、陰イオンの膜透過は無視できるので、式(7)の関係が成り立つ。即ち、めっき処理中、アノード液中の硫酸(H2SO4)濃度CaとCu濃度CCuとの合計は、一定値Cに保たれる。
【0058】
図6C、
図6Dを参照して、式(8)~(12)の導出方法を説明する。
図6Dに示すように、硫酸H
2SO
4は二段階に電離し、一段階目の電離(解離)では一価の硫酸水素イオンHSO
4
-にはほぼ完全に電離し(酸解離平衡定数Ka=1000)、二段階目の電離における二価の硫酸イオンSO
4
2-への電離は非常に小さい(酸解離平衡定数Ka=0.0102)。従って、水素イオン濃度[H
+]の算出に当たっては、二段階目の平衡反応のみ考慮すればよい。
【0059】
図6Cにおいて、酸解離平衡定数Ka、活量係数γとすると、式(21)の関係が成り立つ。式(21)の第一右辺におけるa
H
+、a
SO4
2-、a
HSO4
-は、それぞれ、水素イオン、硫酸イオン、硫化水素イオンの活量を示す。第二右辺におけるγ
H
+、γ
SO4
2-、γ
HSO4
-は、それぞれ、水素イオン、硫酸イオン、硫化水素イオンの活量係数を示す。[H
+]、[SO
4
2-]、[HSO
4
-]は、それぞれ、水素イオン、硫酸イオン、硫酸水素イオンの濃度を示す。式(21)の第二右辺の第1項をKγとすると、第三右辺のように表現することができる。ここで、式(21)の左辺と第三右辺とから、式(22)の関係が導かれ、Ka/Kγ=Ka’とする。
【0060】
アノード液中の全CuSO4濃度をCCu、全H2SO4濃度をCaとすると、CCu=[Cu2+]となり、式(23)が成り立つ。
【0061】
式(22)、(23)より、式(24)、(25)のように、[SO4
2-]、[HSO4-]を記述することができる。
【0062】
ここで、電気的中性が成り立つため、式(26)の関係が成り立つ。
【0063】
式(26)に式(24)、(25)を代入して整理すると、式(27)のように、[H
+]の二次方程式が導き出される。式(27)の二次方程式を解の公式を用いて表現すると、
図6Bの式(8)のように[H
+]が表現される。式(8)中、パラメータb、cは、式(9)、(10)で表される。式(9)では、式(7)の関係を使用して、C
CuをC-Caで置き換えている。[Cu
2+]は、式(23)、(7)から、式(12)のように表現できる。
【0064】
Ka’は、アノード液中の酸電離平行定数であり、式(22)から式(11)のように表すことができる。
【0065】
(イオン伝導率比αの見積)
図7A及び
図7Bを参照してイオン伝導率比α(
図6Aの式(5)、(6)を参照)の見積について説明する。
図7Aは、イオン伝導率比αを見積もる実験に使用しためっきセル(めっき槽)の構成例を示す。
図7Bは、実験及びシミュレーションによるアノード液中のCu濃度の変化を示すグラフである。
【0066】
図7Aでは、基板Wf’とアノード430’とが対向して配置され、基板Wf’とアノード430’との間には、カソード室及びアノード室を仕切る隔膜(イオン交換膜)440’が配置されている。アノード室には、Cu濃度計416’が配置されている。また、
図7Aでは、カソード液を攪拌するパドル装置460’も図示されている。
【0067】
図7Aに示すようなめっきセル(めっき槽)を用いて、既知のCu濃度、硫酸濃度のアノード液Paを用い、定電流で基板Wfのめっき処理をおこない、アノード液Pa中のCu濃度(または、硫酸濃度)をモニタした。ここで、カソード液Pcには、めっき析出分のCuOを定期的に補給した。アノード液Paには、電気浸透や蒸発による減少分のDIWを定期的に補給し、アノード液面を一定にした。また、イオン伝導率比αの値を変えてシミュレーションを行い、得られたCu濃度変化曲線と、実験で実際に得られたCu濃度変化とを比較し、最も実験結果を再現するαの値を求めた。その結果、
イオン伝導率比α≒4を得た。尚、シミュレーションは、後述するシミュレーション例と同様の方法により、硫酸の酸解離平衡定数Ka’≒0.25とし、実験で用いたアノード液Pa中のCu濃度、硫酸濃度、アノード液量を初期値とし、αの値を変えておこなった。
【0068】
(酸解離平衡定数Ka’の見積)
次に、硫酸の酸解離平衡定数Ka’を実験により求める方法について説明する。高濃度(高イオン強度)では活量係数は1とはならないため、硫酸濃度の異なる液を調整し、pHを測定することで、実験的にKa’を見積もる方法を採用した。この結果を
図8A及び
図8Bに示す。
【0069】
図8Aは、酸解離平衡定数Ka’の見積結果を示す表である。
図8Bは、酸解離平衡定数Ka’の見積結果を示すグラフである。これらの図から分かるように、Ka’=0.249のとき、pHが測定値と計算値で概ね一致する結果が得られた。この結果に基づいて、本実施形態では、硫酸の酸解離平衡定数
Ka’≒0.25とする。
【0070】
(シミュレーション例)
図9は、CuO補給量を算出するシミュレーションに使用したパラメータの数値例を示す。同図に示すように、実験的に求めたイオン伝導率比α=Λ
H/Λ
cu≒4、硫酸の酸解離平衡定数Ka’≒0.25を使用し、アノード液の初期Cu濃度:50g/L(0.787mol/L)、アノード液の初期硫酸濃度:100g/L(1.02mol/L)とすると、式(7)の一定値CをC=1.807(mol/L)と設定することができる。ここで、初期の濃度とは、建浴時の濃度を指すものとする。また、アノード液の液量V[L]は、4.25Lで一定とする。これらの前提条件(数値)を式(8)~(10)に適用すれば、水素イオン濃度[H
+]をCaの関数として表現できる。ここでは、説明の便宜上、[H
+]=f
1(Ca)と表現する。f
1は、Caと[H
+]との関係を示す関数とする。また、[Cu
2+]は、式(12)より[Cu
2+]=C-Caであり、Caの関数として表現できる。
【0071】
次に、式(5)において、[H+]=f1(Ca)、[Cu2+]=C-Ca、α=4を代入すると、輸率tHをCaの関数として表現することができる。ここでは、便宜上、tH=f2(Ca)と表現する。f2は、CaとtHとの関係を示す関数とする。
【0072】
この輸率tH=f2(Ca)を式(3)に代入すれば、dCa/dqをCaの関数として、dCa/dq=f3(Ca)と表現することができ、Caに関する微分方程式となる。f2は、CaとdCa/dqとの関係を示す関数とする。この微分方程式dCa/dq=f3(Ca)を数値解析して、各トータル電荷量qに対するCaの値を計算する。これにより、Caとqの関係を示す曲線(Ca-q曲線)を得ることができる。
【0073】
次に、Ca-q曲線を用いて、式(4)より、各トータル電荷量qに対する輸率tHを算出し、tHとqとの関係を示す曲線(補正曲線:tH-q曲線)を得ることができる。
【0074】
この補正曲線(tH-q曲線)を用いて、式(1)において、トータル電荷量qの任意の変化区間(q1からq2)までtHをqで積分することにより、補給すべきCuの量(本実施形態では、CuO)のモル数を求めることができる。
【0075】
(シミュレーション結果)
図10Aは、水素イオンの輸率のシミュレーション結果を示すグラフである。
図10Bは、建浴直後の水素イオンの輸率の変化を拡大して示すグラフである。
図10Cは、アノード液組成安定後の水素イオンの輸率の変化を拡大して示すグラフである。
【0076】
図10Aに示すように、トータル電荷量が0から5000[Ah]まで変化する間に、水素イオンの輸率t
Hは、0.8近傍の値(0.8未満)から1に近い値まで変化する。
図10B、
図10Cは、
図10Aのグラフにおいて、建浴直後の一部、及び、アノード液組成安定化後の一部を抜粋したものである。
図10B、
図10Cに示すように、得られた曲線から、CuO補給量(mol)を決定できる。ここでは、50Ah毎にCuOを補給する際の添加量をグラフより決定している。
図10A~Cでは、水素イオン輸率の積分値を[Ah]で示しているため、水素イオン輸率の積分値(t
H-q曲線の面積)を[F]に換算し、1/2を乗算することにより、CuO補給量[mol]を求めることができる(
図6Aの式(1)を参照)。
【0077】
図10A~Cでは、仮にトータル電荷量q=50Ah毎に補給する際のCuO添加量を補正曲線:t
H-q曲線より決定している。建浴後からのトータル電荷量q(
図10A~Cの横軸)により、水素イオンの輸率t
Hが異なる為、CuO補給量は各区間(50Ahの幅の区間の各区間)で変化する。特に、アノード液の組成が安定するまでの間(Cu濃度が十分低くなるまでの間)では、トータル電荷量により水素イオンの輸率t
Hが実質的に変化すると考えられ、トータル電荷量qによりCuO補給量も変化していることが分かる(
図10B)。一方、アノード液の組成が安定した後(Cu濃度が十分低くなった後)は、アノードからカソードへの正味のCuイオンの移動が実質的にゼロになると考えられるので、CuO補給量(水素イオン輸率t
Hの積分値×1/2)は、銅析出量に対応する量になると考えられる。このため、
図10Cに示すように、水素イオン輸率t
Hはトータル電荷量q(横軸,Ah)により変化せず一定となり、水素イオン輸率t
Hの積分値は一定の傾きでの増加となり、CuO補給量は一定になる。
【0078】
(簡略化した計算式)
補正曲線tH-qの面積を上記のように積分計算する代わりに、長方形の面積で近似することによる簡略化したCuO補給量の計算式について説明する。
【0079】
図11は、CuO補給量の簡略化された計算式を示す。
図12Aは、水素イオンの輸率の変化を示すグラフである。
図12Bは、建浴直後の水素イオンの輸率の変化を拡大して示すグラフである。
図12Cは、アノード液組成安定化後の水素イオンの輸率の変化を拡大して示すグラフである。
図12A~Cにおいて、グラフの横軸は、建浴直後からのトータル電荷量(Ah)、縦軸は水素イオンの輸率を示す。
【0080】
前述したように、カソード液へのCuOの補給では、電解によりアノード室→カソード室に移動した水素イオンの量に相当する量のCuOをカソード液に添加すればよい。前述と同様にして、予め、電解量(トータル電荷量)と、移動する水素イオン量の関係をシミュレーションから求めて、
図12Aに示すような補正曲線(t
H-q曲線)を得る。この補正曲線を用いて、
図11の式(1A)を用いて、建浴時から補給時のトータル電荷量qc、建浴時から前回補給時のトータル電荷量q
pから、CuO補給量(mol)を決定する。
図11の式(1A)では、式(1)のq
1、q
2をそれぞれq
c、q
pとしている。q
1、q
2とq
c、q
pとは互いに入れ替えてもよい。
【0081】
CuOの補給間隔がt
Hの変化に対して十分に短い場合(
図12B、
図12Cに示すように、50[Ah]毎にCuOを補給する場合)、補給間隔において水素イオン輸率t
Hをトータル電荷量qで積分してCuO補給量を計算する代わりに、補正曲線:t
H-q曲線の補給間隔における長方形の面積で積分値を近似計算することができる。
図12Bにおいて、トータル電荷量q[F]がq
p[F]=50[Ah]からq
c[F]=100[Ah]の区間を考えると、この区間におけるt
Hの面積/積分値は、q=q
pからq=q
cにおけるt
Hの平均値(縦軸方向の長さ)、即ち、(1/2)(t
H(q
p)+t
H(q
c))に、この区間のqの変化量q
c-q
p(横軸方向の長さ)を乗算した長方形の面積となる。従って、式(1)の積分値の部分に、(1/2)(t
H(q
p)+t
H(q
c))×(q
c-q
p)を代入することにより、CuO補給量(mol)を式(1A)のように算出することができる。但し、式(1A)中の電荷量の単位はFであるので、電荷量[Ah]を[F]に換算した値を用いる。式(1A)は、(1/2)×(長方形の面積)を示す。
【0082】
補給間隔が短い場合には、式(1A)を使用することにより、補正曲線:tH-q曲線において、建浴時から前回補給時のトータル電荷量qp(F)と、建浴時から今回補給時のトータル電荷量qc(F)との間の長方形の面積を計算することで、CuO補給量(mol)を簡易に精度良く算出することができる。
【0083】
図10A~Cの例と同様に、
図12A~Cでは、仮に50Ah毎に補給する際のCuO添加量を補正曲線より決定している。前述同様に、建浴後からのトータル電荷量q(
図12A~Cの横軸)により、水素イオンの輸率t
Hが異なる為、CuO補給量は各区間(50Ahの幅の区間の各区間)で変化する。特に、アノード液の組成が安定するまでの間では、
図12Bに示すように、トータル電荷量qにより水素イオンの輸率t
Hが変化し、トータル電荷量qによりCuO補給量(長方形の面積×1/2)も変化する。一方、アノード液の組成が安定した後は、
図12Cに示すように、トータル電荷量により水素イオン輸率t
Hは変化せず一定となり、トータル電荷量qによりCuO補給量(長方形の面積×1/2)も変化せず一定となる。
【0084】
図13Aは、めっき析出量相当のCuOを補給した場合のカソード液中のイオン濃度の変化を示す。
図13Bは、シミュレーションで得られた水素イオンの輸率t
Hの曲線に基づいてCuOを補給した場合のカソード液中のイオン濃度の変化を示す。これらのグラフの比較から分かるように、めっき析出量相当のCuOを補給した場合にカソード液の組成がずれるのとは対照的に、輸率t
H曲線に基づいてCuOを補給すれば、カソード液の組成が一定に維持されるのが分かる。
【0085】
(制御例)
CuOの補給は、制御モジュール800により補給装置485を制御することで実施される。
(1)シミュレーションで算出した補正曲線t
H-q(
図10A、
図12A)を記憶装置に記憶させておき、トータル電荷量q(めっき電流、めっき時間から算出)に応じて、式(1)又は(1A)からCuO補給量(mol)を算出し、カソード液にCuOを補給することができる。数式(1)を使用する場合には、
図10B及び
図10Cで示すように所定のトータル電荷量qの間隔で、所定の間隔毎に補正曲線t
H-qを積分した値×(1/2)のCuOを補給することができる。数式(1A)を使用する場合には、
図12B及び
図12Cで示すように、所定のトータル電荷量qの間隔で、補正曲線t
H-qの面積を長方形の面積に近似した値×(1/2)のCuOを補給することができる。
トータル電荷量qは、めっき電流及びめっき時間から算出することができる(めっき電流の時間積分、又はめっき電流とめっき時間の乗算)。
(2)シミュレーションで算出した補正曲線t
H-qの面積又は補給量(=補正曲線t
H-qの面積×(1/2))をトータル電荷量qの区間毎に、記憶装置に記憶させてもよい。この場合、トータル電荷量q(めっき電流、めっき時間から算出)に応じて、記憶装置から、補正曲線t
H-qの面積、又は補給量を読み出して、CuOを補給することができる。補正曲線t
H-qの面積を記憶する場合には、1/2を乗算することで、補給量を算出することができる。
【0086】
<第2実施形態>
(異なるめっき液組成でのCuO補給量の補正)
第2実施形態について、第1実施形態と異なる点について説明する。第1実施形態と同様の点については、説明を省略する。
【0087】
図14A~Dは、異なるめっき液組成における、水素イオン輸率の変化及びカソード液中のイオン濃度の変化を示す。Cu濃度、及び濃度比Cu/H
2SO
4は、アノード液における初期(建浴時)のCu濃度、及び濃度比Cu/H
2SO
4を示す。これらのグラフから分かるように、めっき液の組成が異なると、異なる補正曲線(水素イオンの輸率の変化曲線)を用いて、CuOの補給量を決定し、カソード液中のイオン濃度を補正する必要がある。
【0088】
図15Aは、Cu/H
2SO
4比率が一定でCu濃度が異なるめっき液における水素イオン輸率t
Hの変化曲線を示す。
図15Bは、Cu濃度一定でCu/H
2SO
4比率が異なる水素イオン輸率t
Hの変化曲線を示す。
【0089】
図15Aに示すように、Cu/H
2SO
4比率が一定の場合、初期の水素イオンの輸率t
Hは、ほぼ同じであり、Cu濃度が濃いほど電解量(トータル電荷量)の増加にともない水素イオンの輸率t
Hがゆっくりと変化する。また、Cu濃度一定の場合、
図15Bに示すように、Cu/H
2SO
4比率が高いほど、初期の水素イオンの輸率t
Hが小さくなり、電解量(トータル電荷量)の増加にともない、水素イオンの輸率t
Hが急激に変化する。以上の検討を踏まえて、シミュレーションに依らず任意の液組成のめっき液に対する補正曲線(t
H-q曲線)を得る為、シミュレーションで得たt
H-q曲線の近似曲線を求め、めっき液組成に応じて近似曲線の係数を自動で決定することを検討した。
【0090】
図16Aは、補正曲線:t
H-q曲線の近似曲線を表す数式を示す。式(31)は、任意の初期Cu濃度C
Cuにおける、t
H-q曲線の近似曲線を表す数式である。式(31A)は、初期Cu濃度C
Cu=50g/Lとした場合における、t
H-q曲線の近似曲線を表す数式である。これらの式において、a
1、a
2、a
3は、係数である。以下の説明では、係数a
1、a
2、a
3の任意の係数をanと称す場合がある。
【0091】
図16B及び
図16Cは、t
H-q曲線の近似曲線を表す数式の係数a
1、a
2、a
3の算出例を示す表及びグラフである。
図16Bに示すように、初期Cu濃度C
Cu=50g/L(固定)とし、初期濃度比Cu/H
2SO
4を変えて、前述同様のシミュレーションよりt
H-q曲線を算出し、シミュレーションより得たt
H-q曲線用いて最小二乗法により、係数a
1、a
2、a
3を求めた。この結果を、
図16Bに示す。また、
図16Bの結果をグラフに表したものを
図16Cに示す。グラフの横軸は、アノード液中の初期濃度比Cu/H
2SO
4であり、縦軸は係数a
1、a
2、a
3である。
【0092】
図16Cの係数a
1、a
2、a
3と濃度比Cu/H
2SO
4との関係を、
図16Dの式(32)に示すような3次多項式(近似式、近似曲線)で近似し、式(32)中の係数k
n1~k
n4を求めた。係数k
n1~k
n4は、例えば、最小二乗法により求めることができる。この結果を
図16Eに示す。
図16Eでは、k
n1~k
n4をk
1~k
4として示している。例えば、
図16Eにおいて、a1に対するk
1は、式(32)中のk
11に対応する。
【0093】
図17は、任意のめっき液組成に対してCuO補給量を求める数式を示す。先ず、アノード液中の初期濃度比Cu/H
2SO
4:xに基づいて、
図16Dの式(32)及び
図16Eの係数k
n1~k
n4の値から、係数a
1、a
2、a
3を算出する。初期Cu濃度C
Cu[g/L]に基づいて、式(31)及び係数a
1、a
2、a
3から、補正曲線:t
H-qを算出する。補正曲線:t
H-qを用いて、式(1A)からCuOの補給量(mol)を算出することができる。このとき、式(1A)の中辺のように、積分計算によりCuO補給量(mol)を算出しても良いし、補給間隔が短い場合には、式(1A)の右辺のように、長方形の面積計算によりCuO補給量(mol)を算出しても良い。この計算方法によれば、めっき組成毎にシミュレーションを実行することなく、任意のめっき液組成のめっき液に対して、補正曲線:t
H-qを得ることができる。
【0094】
図18A~Dは、任意のめっき液組成に適用可能な補正曲線の近似曲線、及び近似曲線を使用したカソード液中のイオン濃度調整のシミュレーション結果を示す。これらの図から、
図17の近似曲線を使用した計算方法により、任意の組成のめっき液おいて、適切な量のCuO補給量を補給し、カソード液中のイオン濃度を安定化できることが分かる。
【0095】
(制御例)
CuOの補給は、制御モジュール800により補給装置485を制御することで実施される。
(1)シミュレーションで算出した補正曲線t
H-q(
図17の式(31))を記憶装置に記憶させておき、第1実施形態と同様に、トータル電荷量q(めっき電流、めっき時間から算出)に応じて、式(1)又は(1A)からCuO補給量(mol)を算出し、カソード液にCuOを補給することができる。なお、式(31)で計算したデータセット(q,t
H)を記憶装置に記憶させてもよい。
トータル電荷量qは、めっき電流及びめっき時間から算出することができる(めっき電流の時間積分、又はめっき電流とめっき時間の乗算)。
(2)第1実施形態と同様に、シミュレーションで算出した補正曲線t
H-qの面積、又は、補給量(=補正曲線t
H-qの面積×(1/2))をトータル電荷量qの区間毎に、記憶装置に記憶させてもよい。この場合、トータル電荷量q(めっき電流、めっき時間から算出)に応じて、記憶装置から、補正曲線t
H-qの面積、又は補給量(=補正曲線t
H-qの面積×(1/2))を読み出して、CuOを補給することができる。補正曲線t
H-qの面積を記憶する場合には、1/2を乗算することで、補給量を算出することができる。
【0096】
<第3実施形態>
(イオン濃度を直接モニタする場合のCuO補給量の計算)
第3実施形態について、第1及び第2実施形態と異なる点について説明する。第1及び第2実施形態と同様の点については、説明を省略する。
【0097】
図19Aは、アノード液中のイオン濃度を直接モニタする場合のCuO補給量の計算方法を説明する説明図である。
図19Bは、アノード液中のイオン濃度を直接モニタする場合のめっきモジュールの構成例を示す。
【0098】
図19Bでは、
図3の構成において、めっきモジュール400に接続される循環回路、供給口及び排出口等の一部の構成を省略して示している。
図19Bの構成では、アノード室CanにおいてCu濃度計416が配置されている点が
図3の構成と異なる。他の構成については、
図3の構成と同様とすることができる。
【0099】
水素イオンの輸率t
Hは、
図6Aに示した式(5)で表すことができる。水素イオン濃度[H
+]、Cuイオン濃度[Cu
2+]は、
図6Bの式(8)~(10)で表すことができる。但し、
図19Aでは、
図6Bの式(9)(10)において、式(7)を使用して、式(9’)、(10’)に示すように、b、cをCu濃度C
Cuで表す式に変形している。前述したα=4、Ka’=0.25、C=1.807(mol/L)、V=4.25L(
図9)を使用すれば、Cuイオン濃度[Cu
2+]=C
Cuを検出することにより、式(8)、(9’)、(10’)より水素イオン濃度[H
+]を算出することができ、水素イオン濃度[H
+]及びCuイオン濃度[Cu
2+]を式(5)に適用することにより、水素イオン輸率t
Hを求めることができる。そして、水素イオン輸率t
Hから、式(1A)によりCuO補給量(mol)を算出することができる。
【0100】
実際の制御では、
図19Aに示す各数式を記憶装置に記憶しておき、めっき中、Cu濃度計416によりCuイオン濃度[Cu
2+]を検出し、式(8)、(9’)、(10’)から水素イオン濃度[H
+]を算出し、Cuイオン濃度[Cu
2+]及び水素イオン濃度[H
+]を式(5)に代入して水素イオン輸率t
Hを算出し、式(1A)からCuO補給量(mol)を算出する。
Cuイオン濃度[Cu
2+]を連続的に検出し、水素イオン輸率t
Hを連続的に算出して、補正曲線t
H-qを求め、式(1A)の中辺のように、トータル電荷量qの区間毎に積分計算によりCuO補給量(mol)を算出することができる。また、補給間隔が短い場合には、トータル電荷量qの区間両端部のq
p、q
cにおいて水素イオン輸率t
Hを算出し、それらを式(1A)の右辺に代入してCuO補給量(mol)を算出することができる。トータル電荷量qは、めっき電流及びめっき時間から算出することができる(めっき電流の時間積分、又はめっき電流とめっき時間の乗算)。
【0101】
この計算方法によれば、めっき中にCuイオン濃度[Cu2+]=Cu濃度CCuを直接検出することにより、CuO補給量(mol)をより精度良く算出することができる。
【0102】
また、Cuイオン濃度の検出に加えて、アノード液中に水素イオン濃度計を設け、水素イオン濃度[H+]を検出してもよい。Cuイオン濃度及び水素イオン濃度の検出値を使用して式(5)から水素イオン輸率tHを求めることができる。そして、水素イオン輸率tHから、式(1A)によりCuO補給量(mol)を算出することができる。この計算方法によれば、めっき中に、Cuイオン濃度及び水素イオン濃度の両方を直接検出することにより、CuO補給量(mol)を更に精度良く算出することができる。
【0103】
実際の制御では、
図19Aに示す式(5)を記憶装置に記憶しておき、めっき中、Cuイオン濃度[Cu
2+]、水素イオン濃度[H
+]を検出し、Cuイオン濃度[Cu
2+]及び水素イオン濃度[H
+]を式(5)に代入して水素イオン輸率t
Hを算出し、式(1A)からCuO補給量(mol)を算出する。式(1A)による積分計算又は長方形面積近似計算は、前記同様に行うことができる。
【0104】
なお、アノード液中のCuイオンの濃度が所定値未満に低下した以後(アノード液組成安定以後)は、水素イオン輸率tHを算出することなく、基板Wfへの銅のめっき析出量に対応する補給量のCuOを補給するようにしても良い。このようにすれば、アノード液中のCuイオンの濃度が所定値未満に低下した以後は、アノード液からカソード液に移動するCuイオンの透過量を考慮することなく、トータル電荷量の変化のみに基づいて補給量を決定できるので、補給量の計算が簡略化される。アノード液組成安定以後は、式(1)、(1A)において、CuO(mol)=(1/2)×(qc-qp)、又は(1/2)×(q2-q1)となる。
第1~第2実施形態においても、アノード液中のCuイオンの濃度が所定値未満に低下するトータル電荷量qを予め算出しておき、当該トータル電荷量以後は、上記同様に水素イオン輸率tHを算出することなく、基板Wfへの銅のめっき析出量に対応する補給量のCuOを補給するようにしても良い。
【0105】
<第4実施形態>
図20は、複数のめっき槽又はセルのめっき液(カソード液)が接続され、一括に液管理する場合のCuO補給量の計算式を示す。セルの番号をx(x=1~m)、建浴後にn回目の補給をおこなった時点での各セルのトータル電荷量をq
x,n(F)とすると、n回目のCuO補給量(mol)は、式(1B)のように表すことができる。即ち、一括液管理のCuO補給量(mol)は、式(1)又は(1A)を用いてセル毎に計算したCuO補給量(mol)を加算した合計のCuO補給量(mol)として、計算することができる。本実施形態は、上述した何れの実施形態に対しても適用可能である。
【0106】
<拡散による陽イオンの移動の影響>
図21Aは、隔膜440の近傍を拡大しためっきモジュールの模式図である。
図21Bは、隔膜440を介した拡散によるイオンの移動を説明する説明図である。
【0107】
めっき中においては、(電解によるイオンの移動量)>>(拡散によるイオンの移動量)であるため、拡散の影響はほぼ無視できるが、めっきをしていない時には、アノード液-カソード液間で、陽イオンの移動(交換)が起こり、組成が変化し得る。但し、本実施形態のアノード-隔膜密着構造(
図3、
図21A)においては、アノード430の下面と裏面プレート432の上面との間のギャップには、酸素の層433が形成され、更にアノード液Paは循環されずに静止した状態となるため、拡散による隔膜440を通したイオンの移動は制限され、拡散による濃度変化はほとんど無視できる。従って、拡散によるイオンの移動の影響を考慮せず、上述したシミュレーションにより、CuOの補充量を精度よく計算することができる。
【0108】
(他の実施形態)
(1)上記では、金属酸化物(銅の場合、例えばCuO)を補給する例を挙げたが、金属酸化物に代えて、金属水酸化物(銅の場合、例えばCu(OH)2)、金属炭酸塩(銅の場合、例えばCuCO3)等を使用してもよい。
(2)上記では、銅めっきを例に挙げて説明したが、めっきする金属に応じて、適宜、補充する金属又は金属化合物(酸化物、水酸化物、炭酸塩等)を選択すればよい。
【0109】
上述した実施形態から少なくとも以下の形態が把握される。
[1]一形態によれば、基板をめっきするめっき装置であって、 めっき槽と、 アノード液を保持するアノード室と、カソード液を保持するカソード室とに前記めっき槽内を仕切る陽イオン交換膜と、 前記アノード室に配置されたアノードと、 前記カソード液に前記基板に析出する金属と同一の金属、又は前記金属を含む金属化合物を補給する補給装置と、 前記補給装置を制御し、前記基板への前記金属のめっき析出量から、前記陽イオン交換膜を通して前記アノード室から前記カソード室に透過した前記金属の金属イオンの透過量を差し引いた量である補給量の前記金属、又は前記補給量の金属を含む前記金属化合物を、前記補給装置から前記カソード液に補給する制御装置と、を備えるめっき装置が提供される。
【0110】
この形態によれば、陽イオン交換膜を通してアノード液からカソード液に移動する陽イオン(金属イオン)の量を考慮して、カソード液に金属を補給するため、カソード液に過剰に金属イオンがされることによるカソード液の組成のずれを抑制ないし防止することができる。これにより、めっき品質が劣化することを抑制ないし防止することができる。
めっき液(カソード液、アノード液)を新たに調整する建浴直後においては、アノード液中の金属イオンの濃度が高く、陽イオン交換膜を通してアノード液からカソード液に移動する金属イオンの量も多いため、めっきで析出した量の金属をカソード液に補充してしまうと、カソード液に金属イオンを過剰に添加することとなり、カソード液の液組成がずれてしまうことになる。従って、少なくともアノード液中の金属イオンの濃度が所定値未満に低下するまでの間は、陽イオン交換膜を通して移動する金属イオンの量を考慮して、カソード液に金属を補給することが好ましい。
【0111】
[2]一形態によれば、前記めっき槽において前記アノード液及び前記カソード液を新たに調整した建浴時から、前記基板と前記アノードとの間に流しためっき電流により供給されたトータルの電荷量をトータル電荷量とした場合において、 前記補給量は、 前記陽イオン交換膜を通して前記アノード室から前記カソード室に透過する水素イオンの輸率と前記トータル電荷量との関係を示す補正曲線の面積に基づいて算出されたものである。
【0112】
補正曲線は、水素イオンの輸率とトータル電荷量とを対応付けたデータであってもよく、水素イオンの輸率とトータル電荷量との関係を示す数式であってもよい。補正曲線の面積に基づいて算出することは、補正曲線の面積を積分計算すること、補正曲線の面積を長方形で近似した場合の面積算出のための数式を使用して面積を算出すること、その他任意の方法で補正曲線の面積を算出することを含む。
【0113】
この形態によれば、電解質の溶液に電流を流した際に、ある特定のイオンが担う電流の全電流に示す割合であり、1F(ファラデー)当たりのイオンのモル数(mol)×イオンの価数として定義される輸率を用いて、陽イオン交換膜を透過した水素イオンの量(mol)を算出することができる。陽イオン交換膜を介した陰イオンの移動は無視できることから、アノード液からカソード液へ向かって陽イオン交換膜を通過する電流の流れを担うイオンは、水素イオンと銅イオンであるため、水素イオンの輸率と銅イオンの輸率の合計が1となり、(水素イオンの輸率)=1-(銅イオンの輸率)となる。(1-銅イオンの輸率)は、1F当たり、前記基板への前記金属のめっき析出量から、前記陽イオン交換膜を通して前記アノード室から前記カソード室に透過した前記金属の金属イオンの透過量を差し引いた量の銅/銅イオンのモル数の2倍に対応するため、1-銅イオンの輸率(=水素イオンの輸率)をトータル電荷量毎に加算した値に対応する、補正曲線の面積に基づいて、補給量(mol)を算出することができる。例えば、銅の場合、二価のイオンであるため、前記補正曲線の面積に1/(イオンの価数)=1/2を乗算したものが、銅の補給量(mol)となる。
【0114】
[3]一形態によれば、前記制御装置は、複数回にわたって、前記補給量の前記金属、又は前記補給量の金属を含む前記金属化合物を、前記補給装置から前記カソード液に補給し、 前記トータル電荷量が第1電荷量から第2電荷量まで変化する場合に、前記補正曲線の面積は、前記補正曲線を前記第1電荷量から前記第2電荷量まで積分した積分値として算出される。
【0115】
この形態によれば、補正曲線を積分することにより、補正曲線の面積を精度良く算出することができる。
【0116】
[4]一形態によれば、前記制御装置は、複数回にわたって、前記補給量の前記金属、又は前記補給量の金属を含む前記金属化合物を、前記補給装置から前記カソード液に補給し、 前記トータル電荷量が第1電荷量から第2電荷量まで変化する場合に、前記補正曲線の面積は、前記第1電荷量から前記第2電荷量までの区間における前記補正曲線の面積を長方形の面積で近似した値として算出される。
【0117】
この形態によれば、補正曲線の面積を長方形の面積で近似して簡易な計算で補正曲線の面積を算出することができる。補正曲線は、水素イオンの輸率とトータル電荷量の関係であり、水素イオンの輸率はトータル電荷量により変化するが、トータル電荷量の小さい変化の間隔で金属又は金属化合物を補給する場合には、水素イオンの輸率はトータル電荷量に概ね比例して直線的に変化する(なお、アノード液の組成安定後は、水素イオンの輸率がトータル電荷量に対して変化しない)。そのため、補正曲線の面積を長方形で近似することで、トータル電荷量の変化に対応する区間の補正曲線の面積を精度良く算出することができる。
【0118】
[5]一形態によれば、前記補正曲線の面積は、前記第1電荷量に対する前記水素イオンの輸率と前記第2電荷量に対する前記水素イオンの輸率との平均値と、前記第2電荷量と前記第1電荷量との差とを乗算した値として算出される。
【0119】
この形態によれば、補正曲線が直線的に変化する場合又は補正曲線が変化しない区間において、当該区間の補正曲線の面積を、当該区間両端における水素イオンの輸率の平均値を一辺の寸法とし、トータル電荷量の変化分を隣接辺の寸法とする長方形の面積として、精度よく近似することができる。
【0120】
[6]一形態によれば、 前記補正曲線は、前記アノード液中の前記金属イオンの初期濃度、及び前記金属イオンの初期濃度と酸の初期濃度との比を使用して、算出された近似曲線であり、 前記制御装置は、前記補正曲線の前記近似曲線を使用して、前記補正曲線の面積を算出し、前記面積に基づいて前記補給量を算出する。
【0121】
この形態によれば、めっき液の組成毎に補正曲線を算出するシミュレーションを実施することなく、めっき液の組成に応じて簡易な計算で補正曲線の近似曲線を求めることができる。なお、初期濃度とは、めっき槽でめっき液を新たに調整する建浴時の濃度を意味する。
【0122】
[7]一形態によれば、シミュレーションにより算出した前記補正曲線を保持する記憶装置を更に備え、 前記制御装置は、 前記記憶装置内の前記補正曲線を参照して、前記補正曲線の面積を算出し、前記補正曲線の面積に基づいて、前記補給量を決定する。
【0123】
この形態によれば、シミュレーションにより算出した補正曲線を記憶装置に保持しておくことにより、めっき中に簡易な計算で補給量を算出し、金属又は金属化合物を補給することができる。
【0124】
[8]一形態によれば、シミュレーションにより算出した前記トータル電荷量と前記補給量とを対応付けたデータを保持する記憶装置を更に備え、 前記制御装置は、 前記記憶装置内の前記データを参照して前記補給量を決定する。
【0125】
この形態によれば、めっき中に簡易な制御で金属又は金属化合物を補給することができる。
【0126】
[9]一形態によれば、前記制御装置は、前記トータル電荷量が所定の電荷量だけ変化する毎に、前記変化の間の前記補正曲線の面積に基づく前記補給量の前記金属、又は前記補給量の金属を含む前記金属化合物を、前記カソード液に補給する。
【0127】
この形態によれば、予め設定したトータル電荷量の変化毎に、金属又は金属化合物を補給するため、めっき処理前に補給タイミングの電荷量に対応した補給量を予め算出し、記憶装置に記憶させておくことができる。このため、めっき中は、トータル電荷量をモニタし、記憶装置を参照して、トータル電荷量に対応する補給量を決定し、金属又は金属化合物を補給することができる。
【0128】
[10]一形態によれば、前記アノード液中の金属イオンの濃度を検出する第1濃度センサを更に備え、 前記制御装置は、前記第1濃度センサで検出した前記金属イオンの濃度の検出値に基づいて前記補正曲線を算出し、前記補正曲線の面積に基づいて前記補給量を決定する。
【0129】
この形態によれば、めっき中のアノード液中の金属イオン濃度に基づいて、補正曲線をより精度良く算出することができる。
【0130】
[11]一形態によれば、前記アノード液中の水素イオンの濃度を検出する第2濃度センサを更に備え、 前記制御装置は、前記第1及び第2濃度センサで検出した前記金属イオンの濃度及び前記水素イオンの濃度の検出値に基づいて前記補正曲線を算出し、前記補正曲線の面積に基づいて前記補給量を決定する。
【0131】
この形態によれば、めっき中のアノード液中の金属イオン濃度及び水素イオン濃度に基づいて、補正曲線を更に精度良く算出することができる。
【0132】
[12]一形態によれば、前記補給量は、前記補正曲線の面積を前記金属イオンの価数で除して算出されたものである。
【0133】
この形態によれば、金属イオンの価数を考慮して、金属又は金属化合物の補給量を水素イオンの輸率から正確に算出することができる。
【0134】
[13]一形態によれば、前記カソード室に接続され、前記カソード室内の前記カソード液を循環する循環回路であって、前記カソード液を圧送するポンプを有する循環回路を更に備え、 前記補給装置は、前記循環回路の流路内の前記カソード液に、前記金属又は前記金属の化合物を供給及び溶解させ、 前記制御装置は、前記ポンプを制御して、前記カソード室内の前記カソード液を、前記循環回路を介して循環させると共に、前記補給装置を制御して、前記補給装置から前記循環回路の流路内の前記カソード液に前記補給量の前記金属又は前記金属の化合物を補給する。
【0135】
この形態によれば、カソード液の循環回路の流路に補給装置を配置するため、めっき槽の構成を複雑化させることを回避できる。循環回路にリザーバタンク及び/又はめっき液調整タンクを設ける場合、例えば、リザーバタンク及び/又はめっき液調整タンクに補給装置を設け、リザーバタンク及び/又はめっき液調整タンク内のカソード液に金属又は金属イオンを供給・溶解するようにしてもよい。
【0136】
[14]一形態によれば、前記制御装置は、前記アノード液の量が所定の下限値未満に低下したことを検知することに応答して、前記アノード室に前記純水を供給する。
【0137】
この形態によれば、アノード液を循環することなく、アノード液の量を下限値以上に管理することができ、アノード液の管理が容易になる。アノード液の量は、例えば、アノード室に通じるガスの排気通路内で、アノード液の液面の高さを液面センサで検出することにより実施することができる。
また、アノード液量を下限値以上に維持することにより、アノード液が枯渇することを防止できる。
なお、アノードをイオン交換膜の下面に密着させる構成を採用する場合、アノード液の液面の高さをカソード液の液面の高さより高い下限値以上に管理すれば、アノード液の液圧がカソード液の液圧より高くなり、アノード液側からアノードをイオン交換膜に押し付け、アノードとイオン交換膜との間の密着性を向上させることができる。
【0138】
[15]一形態によれば、前記制御装置は、前記アノード液の量が所定の上限値を超えたことを検知することに応答して、前記アノード室から前記アノード液を排出する。
【0139】
この形態によれば、アノード液がめっき槽から溢れて外部(例えば、オーバフロー槽)に排出されるのを抑制することができる。これにより、オーバフロー槽からカソード室に循環する構成において、カソード液中の添加剤の濃度低下や劣化を抑制又は防止できる。
【0140】
[16]一形態によれば、前記アノードは、前記イオン交換膜の下面に密着している。
【0141】
この形態によれば、アノードで発生するガス(例えば、酸素)が、イオン交換膜とアノードとの間に蓄積してめっき電流に悪影響を及ぼすことを抑制ないし防止することができる。
【0142】
[17]一形態によれば、前記アノードの下面から所定距離離間した裏面プレートを更に備える。
【0143】
この形態によれば、アノードで発生しアノード下面に蓄積するガス(酸素)の量を裏面プレートにより調整することができる。これにより、アノード下面のガスが一度に大量に離脱し、アノード電圧が変動してめっき品質が低下することを抑制ないし防止できる。また、アノード下面全体をガスの層で安定して覆うことができるので、アノード液から隔膜を通してカソード液に拡散するイオンの量を抑制することができ、水素イオン輸率の計算において、拡散によるイオンの移動を考慮する必要をなくすことができる。
【0144】
[18]一形態によれば、前記制御装置は、前記アノード液中の前記金属イオンの濃度が所定値未満に低下した以後は、前記基板への前記金属のめっき析出量に対応する量である補給量の前記金属、又は前記補給量の金属を含む前記金属化合物を、前記補給装置から前記カソード液に補給する。
【0145】
この形態によれば、アノード液中の金属イオンの濃度が所定値未満に低下した以後は、アノード液からカソード液に移動する金属イオンの透過量を考慮することなく、トータル電荷量の変化のみに基づいて補給量を決定できるので、補給量の計算が簡略化される。
【0146】
[19]一形態によれば、前記めっき槽において前記アノード液及び前記カソード液を新たに調整する建浴時において、前記めっき槽は、同一組成の前記アノード液及び前記カソード液を保持する。
【0147】
この形態によれば、アノード室及びカソード室に共通のめっき液を供給するため、アノード液とカソード液とで別々の供給源(リザーバ)、ポンプ等を設ける必要がなく、アノード液及びカソード液の供給源(例えば、リザーバ)、ポンプ等を共通化することができる。
【0148】
[20]一形態によれば、基板をめっきするめっき方法であって、 前記基板への金属のめっき析出量から、めっき槽内をアノード室とカソード室とを仕切るイオン交換膜を通して前記アノード室から前記カソード室に透過した前記金属の金属イオンの透過量を差し引いた量である補給量の前記金属、又は前記補給量の金属を含む前記金属の化合物を、カソード液に補給する、めっき方法が提供される。
【0149】
以上、本発明の実施の形態について説明してきたが、上記した発明の実施の形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定するものではない。本発明は、その趣旨を逸脱することなく、変更、改良され得るとともに、本発明にはその均等物が含まれることはもちろんである。また、上述した課題の少なくとも一部を解決できる範囲、または、効果の少なくとも一部を奏する範囲において、実施形態および変形例の任意の組み合わせが可能であり、特許請求の範囲および明細書に記載された各構成要素の任意の組み合わせ、または、省略が可能である。
特許第6767243号明細書(特許文献1)、特許文献2(特許第7165843号明細書)の明細書、図面、及び要約書は、参照により、全体として、本願明細書に組み込まれる。
【符号の説明】
【0150】
11 基板ホルダ
400 めっきモジュール
410 めっき槽
411、412 供給口
413、414 排出口
415 液面センサ
416 Cu濃度計
417 排気通路
420 オーバフロー槽
430 アノード
431 アノードマスク
432 裏面プレート
433 酸素の層
440 隔膜
450 抵抗体
470 循環回路
471、472、473 流体ライン
474 純水供給ライン
475、476 ポンプ
477、478、479、480 バルブ
481 リザーバタンク
482 めっき液調整タンク
483 攪拌装置
485 補給装置
100 ロードポート
110 搬送ロボット
120 アライナ
200 プリウェットモジュール
300 プリソークモジュール
400 めっきモジュール
500 洗浄モジュール
600 スピンリンスドライヤ
700 搬送装置
800 制御モジュール
1000 めっき装置
【要約】
めっき中にめっき液の組成を一定に維持しつつ金属イオンを供給することにある。
基板をめっきするめっき装置であって、 めっき槽と、 アノード液を保持するアノード室と、カソード液を保持するカソード室とに前記めっき槽内を仕切る陽イオン交換膜と、 前記アノード室に配置されたアノードと、 前記カソード液に前記基板に析出する金属と同一の金属、又は前記金属を含む金属化合物を補給する補給装置と、 前記補給装置を制御し、前記基板への前記金属のめっき析出量から、前記陽イオン交換膜を通して前記アノード室から前記カソード室に透過した前記金属の金属イオンの透過量を差し引いた量である補給量の前記金属、又は前記補給量の金属を含む前記金属化合物を、前記補給装置から前記カソード液に補給する制御装置と、を備えるめっき装置。