(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-20
(45)【発行日】2025-03-03
(54)【発明の名称】立毛人工皮革
(51)【国際特許分類】
D06N 3/00 20060101AFI20250221BHJP
D06N 3/14 20060101ALI20250221BHJP
【FI】
D06N3/00
D06N3/14
(21)【出願番号】P 2021545498
(86)(22)【出願日】2020-09-03
(86)【国際出願番号】 JP2020033431
(87)【国際公開番号】W WO2021049413
(87)【国際公開日】2021-03-18
【審査請求日】2023-06-27
(31)【優先権主張番号】P 2019164364
(32)【優先日】2019-09-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2020137614
(32)【優先日】2020-08-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000001085
【氏名又は名称】株式会社クラレ
(74)【代理人】
【識別番号】100133798
【氏名又は名称】江川 勝
(72)【発明者】
【氏名】岩本 明久
(72)【発明者】
【氏名】目黒 将司
(72)【発明者】
【氏名】菱田 弘行
(72)【発明者】
【氏名】榎本 清文
【審査官】伊藤 寿美
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-196080(JP,A)
【文献】特開2014-025165(JP,A)
【文献】特開2007-100249(JP,A)
【文献】特開2019-127662(JP,A)
【文献】特開2004-197232(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D06N 1/00- 7/06
D04H 1/00-18/04
D06M 15/00-15/715
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
極細繊維の絡合体である不織布と前記不織布に付与された高分子弾性体とを含み、少なくとも一面に前記極細繊維を立毛させた立毛面を有する立毛人工皮革であって、
前記極細繊維は、繊度0.15~0.5dtexで且つ引張強
力A(mN)が6.5~8mNの極細繊維であって、複数の前記極細繊維が繊維束を形成しており、
表層部を除く領域において、前記繊維束を形成する前記極細繊維が前記高分子弾性体で拘束されておらず、
前記高分子弾性体の含有割
合B(質量%)が3.125×A≦B≦40質量
%の式を満たし、
見かけ密度が0.3
8~0.48g/cm
3
であることを特徴とする立毛人工皮革。
【請求項2】
前記高分子弾性体は溶剤系ポリウレタンである請求項
1に記載の立毛人工皮革。
【請求項3】
前記高分子弾性体の発泡率が0~5質量%である請求項
1または2に記載の立毛人工皮革。
【請求項4】
前記表層部に存在する前記高分子弾性体の一部が、立毛させた前記極細繊維の根元近傍に固着している請求項1
~3の何れか1項に記載の立毛人工皮革。
【請求項5】
前記極細繊維は、海島型複合繊維から有機溶剤で海成分を溶解除去することにより形成された極細繊維である請求項1
~4の何れか1項に記載の立毛人工皮革。
【請求項6】
前記不織布は、長繊維の前記極細繊維を含むスパンボンド不織布である請求項1
~5の何れか1項に記載の立毛人工皮革。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、衣料,靴,家具,カーシート,雑貨製品等の表面素材として好ましく用いられる立毛人工皮革に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、スエード調人工皮革やヌバック調人工皮革のような立毛人工皮革が知られている。立毛人工皮革は、高分子弾性体を含浸付与された不織布の一面を立毛処理することにより形成される、立毛した繊維を含む立毛面を有する。このような立毛人工皮革には耐摩耗性が求められている。
【0003】
立毛人工皮革の耐摩耗性に関し、例えば、下記特許文献1には、極細繊維と高分子弾性体からなる皮革様シート状物において、高分子弾性体の付与後に混合繊維の一成分を抽出した後、再び高分子弾性体を付与することにより、繊維束を形成する極細繊維が高分子弾性体で拘束されて得られるスエード調人工皮革を開示する。
【0004】
また、下記特許文献2は、表面繊維層として単繊維繊度0.5デニール以下の極細繊維からなる繊維層を含む不織シート状物に、エマルジョン粒子の平均粒径が0.1~2.0μmである水系ポリウレタンエマルジョンに無機塩類を溶解、混合した処理液を付与し、加熱乾燥して得られる、柔軟で耐摩耗性の良好な人工皮革を開示する。
【0005】
また、下記特許文献3は、人工皮革基体の作成後、高分子弾性体を溶剤膨潤させ、その後、圧縮することにより極細繊維と高分子弾性体とを接着させて得られる人工皮革を開示する。
【0006】
また、下記特許文献4は、繊維を絡合させた不織布と高分子弾性体とを含む、立毛人工皮革であって、高分子弾性体の100%モジュラス(A)と高分子弾性体の含有割合(B)とが、B≧-1.8A+40,A>0、の関係式を満たす立毛人工皮革を開示する。
【0007】
また、下記特許文献5は、極細繊維を主体とする不織布と弾性重合体からなる人工皮革を用いたシート状物であって、不織布がポリエステルを主成分として含む極細長繊維からなる不織布で構成されており、ポリエステル中に1,2-プロパンジオール由来の成分が1~500ppm含有されているとともに、さらに幅方向の目付CV値が5%以下であるシート状物を開示する。
【0008】
また、立毛人工皮革においては、立毛面が摩擦されることによって極細繊維が素抜けしたり切れたりし、表面で遊離する極細繊維がさらに摩擦されることによって絡み合い、小さな球状の毛玉のような塊を生じる現象であるピリングが発生するという問題もあった。
【0009】
立毛人工皮革のピリングの発生を抑制する方法として、不織布を形成する極細繊維の絡合度を高めたり、不織布に含浸付与される高分子弾性体の含有割合を高くしたり発泡させたりして、極細繊維を拘束する、または、極細繊維の強度を弱くして切れやすくさせるような方法が知られている。しかし、不織布に含浸付与される高分子弾性体の含有割合を高くして極細繊維の拘束を高めた場合には風合が固くなり、高分子弾性体を発泡させて実質的な体積を増やすことにより、拘束力を強くする場合には製造コストが高くなるという問題があった。また、極細繊維の強度を弱くして切れやすくすると、ピリングは発生しにくくなる反面、耐摩耗性が低下するという問題があった。
【0010】
耐ピリング性に優れた立毛人工皮革に関し、下記特許文献6は、極細繊維の絡合度を高くして、立毛面を剥離させる表面剥離処理の前後における立毛面の分光光度計で測定されるL*a*b*表色系に基づくL*値の変化率が+9%以下である立毛人工皮革を開示する。
【0011】
また、立毛人工皮革の耐摩耗性を向上させる技術として、例えば、下記特許文献7は、立毛の根元およびその近傍には高分子弾性体の水分散体から得られた高分子弾性体が存在する立毛人工皮革を開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【文献】特開昭51-75178号公報
【文献】特開平06-316877号公報
【文献】特開2001-81677号公報
【文献】WO2019/058924号パンフレット
【文献】特開2019-26996号公報
【文献】特開2017-106127号公報
【文献】特開2011-74541号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
特許文献1に開示されたスエード調人工皮革は、耐摩耗性は向上するが、高分子弾性体が極細繊維を拘束するために風合いが硬いという問題があった。また、特許文献2に開示された人工皮革も、耐摩耗性は向上するが、風合いが硬いという問題があった。さらに、特許文献3に開示された人工皮革も、高分子弾性体が極細繊維を拘束するために、耐摩耗性を充分に向上させようとすると、風合いが硬くなるという問題があった。また、特許文献4に開示された人工皮革も、耐摩耗性は向上するが、極細繊維の脱落が影響する摩擦堅牢性は充分に向上しないという問題があった。また、特許文献5に開示された人工皮革も、海島型複合繊維から極細繊維を形成した後に、高分子弾性体を付与するために、耐摩耗性は向上するが、高分子弾性体が極細繊維を拘束するために風合いが硬いという問題があった。
【0014】
また、特許文献6に開示された極細繊維の絡合度を高くした立毛人工皮革によれば、耐ピリング性は向上するが、風合いが硬くなるという問題があった。また、特許文献7に開示された立毛人工皮革も、耐摩耗性には優れるが、高分子弾性体が極細繊維を拘束するために風合いが硬くなるという問題があった。
【0015】
本発明は、優美な立毛の外観と高い耐摩耗性と高い摩擦堅牢性と柔軟な風合いとを兼ね備えた立毛人工皮革を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明の一局面は、極細繊維の絡合体である不織布と不織布に付与された高分子弾性体とを含み、少なくとも一面に極細繊維を立毛させた立毛面を有する立毛人工皮革であって、極細繊維は、繊度0.15~0.5dtexで且つ引張強力A(mN)が6.5~8mNの極細繊維であって、複数の極細繊維が繊維束を形成しており、表層部を除く領域において、繊維束を形成する極細繊維が高分子弾性体で拘束されておらず、高分子弾性体の含有割合B(質量%)が3.125×A≦B≦40質量%の式を満たし、見かけ密度が0.38~0.48g/cm
3
である立毛人工皮革である。このような立毛人工皮革によれば、優美な立毛の外観と高い耐摩耗性と高い摩擦堅牢性と柔軟な風合いとを兼ね備えた立毛人工皮革が得られる。なお、極細繊維が高分子弾性体で拘束されていないとは、不織布を形成する極細繊維が、海島型複合繊維から海成分を除去して形成される繊維束を形成しており、海島型複合繊維から海成分を除去することにより形成された極細繊維束内で繊維同士が高分子弾性体で固着されていない状態を意味する。なお、極細繊維束内で繊維同士が高分子弾性体で固着されていない場合には、極細繊維束の外周の一部に高分子弾性体が固着していても極細繊維が高分子弾性体で拘束されていないものとする。
【0017】
また、極細繊維の引張強力が6.5~8mNの範囲にある引張強力A(mN)であり、立毛人工皮革の見かけ密度が0.38~0.48g/cm3であり、高分子弾性体の含有割合Bが、3.125×A≦B≦40の式を満たす。このような立毛人工皮革によれば、高い耐ピリング性をさらに兼ね備えた立毛人工皮革が得られる。
【0018】
また、高分子弾性体は溶剤系ポリウレタンであることが、高分子弾性体の量を増やしても、高分子弾性体と極細繊維とを適度に解離させて、柔軟な風合いの立毛人工皮革が得られやすい点から好ましい。
【0019】
また、高分子弾性体の発泡率は0~5質量%であることが好ましい。高分子弾性体を高倍率で発泡させた場合には、高分子弾性体の体積が増加して極細繊維を取り囲むことにより極細繊維が素抜けしにくくなって、耐ピリング性が向上する。しかし、高分子弾性体を高倍率で発泡させるためには、添加剤を調整したり、凝固温度を高くしたりする必要があるために、製造コストが高くなる傾向がある点から好ましくない。
【0020】
また、表層部に存在する高分子弾性体の一部が、立毛させた極細繊維の根元近傍に固着していることが、立毛面の立毛された繊維が素抜けしにくくなり、また、立毛された繊維が摩擦されることによって起こされにくくなって外観品位が向上する点から好ましい。
【0021】
また、極細繊維は、海島型複合繊維から有機溶剤で海成分を溶解除去することにより形成された極細繊維であることが、上述したような立毛人工皮革が得られやすい点から好ましい。
【0022】
また、不織布は、長繊維の極細繊維を含むスパンボンド不織布であることが、上述したような立毛人工皮革が得られやすい点から好ましい。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、優美な立毛の外観と高い耐摩耗性と高い摩擦堅牢性と柔軟な風合いとを兼ね備えた立毛人工皮革が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】
図1は極細繊維の引張強力の測定方法を説明するための説明図である。
【
図2】
図2は実施例7~20で得られた立毛人工皮革に含まれる、極細繊維の引張強力(A)に対する高分子弾性体の含有割合(B)をプロットしたグラフを示す。
【
図3】
図3は実施例21~33及び比較例8~11で得られた立毛人工皮革に含まれる、極細繊維の引張強力(A)に対する高分子弾性体の含有割合(B)をプロットしたグラフを示す。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本実施形態の立毛人工皮革は、極細繊維の絡合体である不織布と不織布に付与された高分子弾性体とを含み、少なくとも一面に極細繊維を立毛させた立毛面を有する立毛人工皮革であって、極細繊維は、繊度0.15~0.5dtexで且つ引張強力A(mN)が6.5~8mNの極細繊維であって、複数の極細繊維が繊維束を形成しており、表層部を除く領域において、繊維束を形成する極細繊維が高分子弾性体で拘束されておらず、高分子弾性体の含有割合B(質量%)が3.125×A≦B≦40質量%の式を満たし、見かけ密度が0.38~0.48g/cm
3
である。以下、本実施形態の立毛人工皮革について、その製造方法の一例を説明しながら詳しく説明する。
【0026】
極細繊維の絡合体である不織布は、複数の極細繊維が繊維束を形成した極細繊維の繊維束の不織布である。このような不織布は、海島型(マトリクス-ドメイン型)複合繊維を絡合処理し、極細繊維化処理することにより得られる。
【0027】
極細繊維の絡合体である不織布の製造方法としては、海島型複合繊維を溶融紡糸してウェブを製造し、ウェブを絡合処理した後、海島型複合繊維から海成分を選択的に除去して極細繊維を形成する方法が挙げられる。また、海島型複合繊維の海成分を除去して極細繊維を形成するまでの何れかの工程において、水蒸気あるいは熱水あるいは乾熱による熱収縮処理等の繊維収縮処理を施して海島型複合繊維を緻密化させてもよい。
【0028】
ウェブを製造する方法としては、スパンボンド法により紡糸した海島型複合繊維をカットせずにネット上に捕集して長繊維のウェブを形成する方法が挙げられる。また、別の方法としては、溶融紡糸された海島型複合繊維を捲縮及びカットして得られた海島型複合繊維のステープルの原綿をカーディングして短繊維のウェブを形成してもよい。これらの中では、絡合状態を調整しやすく、高い充実感が得られる点から、スパンボンド法により紡糸した海島型複合繊維に由来する長繊維のウェブを用いることがとくに好ましい。また、形成されたウェブには、その形態安定性を付与するために融着処理が施されてもよい。以下では、海島型複合繊維の長繊維を用いる例について代表例として、詳しく説明する。
【0029】
なお、長繊維とは、紡糸後に意図的にカットされた短繊維ではない、連続的な繊維であることを意味する。さらに具体的には、例えば、繊維長が3~80mm程度になるように意図的に切断されたような短繊維ではないフィラメントまたは連続繊維を意味する。長繊維を形成するためには、極細繊維化する前の海島型複合繊維の繊維長は100mm以上であることが好ましく、技術的に製造可能であり、かつ、製造工程において不可避的に切断されない限り、数m、数百m、数kmあるいはそれ以上の繊維長であってもよい。なお、絡合時のニードルパンチや、表面のバフィングにより、製造工程において不可避的に長繊維の一部が切断されて短繊維になることもある。
【0030】
極細繊維となる島成分の樹脂の種類としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET),イソフタル酸変性PET,スルホイソフタル酸変性PET,カチオン染料可染性PET等の変性PETやポリブチレンテレフタレート,ポリヘキサメチレンテレフタレート等の芳香族ポリエステル;ポリ乳酸,ポリエチレンサクシネート,ポリブチレンサクシネート,ポリブチレンサクシネートアジペート,ポリヒドロキシブチレート-ポリヒドロキシバリレート樹脂等の脂肪族ポリエステル;ナイロン6,ナイロン66,ナイロン10,ナイロン11,ナイロン12,ナイロン6-12等のナイロン;ポリプロピレン,ポリエチレン,ポリブテン,ポリメチルペンテン,塩素系ポリオレフィンなどのポリオレフィン等の繊維が挙げられる。なお、変性PETは、未変性PETのエステル形成性のジカルボン酸系単量体単位、または、ジオール系単量体単位の少なくとも一部を置換可能な単量体単位で置き換えたPETである。ジカルボン酸系単量体単位を置換する変性単量体単位の具体例としては、例えば、テレフタル酸単位を置換するイソフタル酸、ナトリウムスルホイソフタル酸、ナトリウムスルホナフタレンジカルボン酸、アジピン酸、等に由来する単位が挙げられる。また、ジオール系単量体単位を置換する変性単量体単位の具体例としては、例えば、エチレングリコール単位を置換するブタンジオール,ヘキサンジオール等のジオールに由来する単位が挙げられる。
【0031】
また、海島型複合繊維中には、必要に応じて、例えば、カーボンブラック等の濃色顔料、亜鉛華,鉛白,リトポン,二酸化チタン,沈降性硫酸バリウムおよびバライト粉等の白色顔料、耐候剤、防黴剤、加水分解防止剤、滑剤、微粒子、摩擦抵抗調整剤等を本発明の効果を損なわない範囲で配合してもよい。
【0032】
繊度0.15~0.5dtexで且つ引張強力が6.5~8mNの極細繊維の繊維束を含む不織布を形成するためには、次のような方法を例示できる。極細繊維を製造するための海島型複合繊維の島成分として固有粘度や融点が比較的高い熱可塑性樹脂を選択し、海成分として島成分より遅く固化する熱可塑性樹脂を選択し、島成分に紡糸ドラフト(吐出速度/紡糸速度)を一定以上に掛けて溶融紡糸を行うような方法が挙げられる。
【0033】
極細繊維を得るための島成分の樹脂の固有粘度としては、0.55~0.8dl/g、さらには、0.55~0.75dl/g程度であることが、繊度0.15~0.5dtexで且つ引張強力が6.5~8mNの極細繊維を形成しやすい点から好ましい。島成分となる熱可塑性樹脂の固有粘度が低すぎる場合には得られる極細繊維の引張強力が低くなる傾向がある。また、島成分となる熱可塑性樹脂の固有粘度が高すぎる場合には溶融紡糸することが困難になり、繊度0.15~0.5dtexで且つ引張強力が6.5~8mNのような極細繊維を得にくくなる。
【0034】
また、後に抽出除去又は分解除去される海成分の樹脂としては、島成分の樹脂とは溶解性または分解性を異にし、且つ、相溶性の低い樹脂が用いられる。このような樹脂は、島成分の樹脂の種類や製造方法に応じて適宜選択される。具体的には、例えば、ポリエチレン,ポリプロピレン,エチレンプロピレン共重合体,エチレン酢ビ共重合体等のオレフィン系樹脂やポリスチレン,スチレンアクリル共重合体,スチレンエチレン共重合体等の有機溶剤に溶解性を有して有機溶剤で溶解除去される樹脂や、水溶性ポリビニルアルコール等の水溶性樹脂が挙げられる。これらの中では、固有粘度の高い島成分の樹脂であっても溶融紡糸できる点から、有機溶剤で溶解除去される樹脂が好ましく、とくにはポリエチレンが好ましい。
【0035】
海島型複合繊維のウェブは、多数のノズル孔が所定のパターンで配置された複合紡糸用口金を用い、海島型複合繊維の溶融ストランドを紡糸ノズルから所定の吐出速度で連続的に複合紡糸用口金から吐出させ、高速気流を用いて冷却しながら延伸させてコンベヤベルト状の移動式のネット上に堆積させるようなスパンボンド法により製造することができる。ネット上に堆積されたウェブは形態安定性を付与するために熱プレスされてもよい。
【0036】
海島型複合繊維の断面における極細繊維となる島成分の個数としては、5~200本、さらには10~50本、とくには10~30本であることが、適度な空隙を有する極細繊維の繊維束を形成しやすい点から好ましい。
【0037】
このとき、海島型複合繊維の溶融紡糸条件としては、次のような条件が好ましい。紡糸ノズル1ホールから吐出される溶融樹脂の吐出速度をA(g/min)、樹脂の溶融比重をB(g/cm3)、1ホールの面積をC(mm2)、紡糸速度をD(m/min)とした場合、以下の式により算出される紡糸ドラフトが200~500、さらには250~400の範囲になるように設定された条件が、繊度0.15~0.5dtexで且つ引張強力が6.5~8mNのような極細繊維を得やすい点から好ましい。
・紡糸ドラフト=D/(A/B/C)
【0038】
絡合処理方法としては、次のような方法が挙げられる。例えば、ウェブをクロスラッパー等を用いて厚さ方向に複数層重ね合わせた後、その両面から同時または交互に少なくとも1つ以上のバーブが貫通する条件でニードルパンチや高圧水流処理する方法が挙げられる。また、ニードルパンチ処理のパンチ密度としては、1500~5500パンチ/cm2、さらには、2000~5000パンチ/cm2程度であることが、高い耐摩耗性が得られやすい点から好ましい。パンチ密度が低すぎる場合には、耐摩耗性が低下する傾向があり、パンチ密度が高すぎる場合には繊維が切断されて絡合度が低下する傾向がある。
【0039】
また、海島型複合繊維の紡糸工程から絡合処理までのいずれかの段階において、ウェブに油剤や帯電防止剤を付与してもよい。さらに、必要に応じて、ウェブを70~150℃程度の温水に浸漬する収縮処理を行うことにより、ウェブの絡合状態を予め緻密にしておいてもよい。
【0040】
ウェブを絡合して得られる絡合ウェブの目付としては100~2000g/m2程度の範囲であることが好ましい。さらに、絡合ウェブを必要に応じて熱収縮させることにより繊維密度および絡合度をさらに高める処理を施してもよい。また、熱収縮処理により緻密化された絡合ウェブをさらに緻密化するとともに、絡合ウェブの形態を固定化したり、表面を平滑化したりすること等を目的として、必要に応じて、100~150℃の表面温度に設定された熱ロールしたり、繊維を構成する樹脂の軟化点以上に加熱された絡合ウェブを軟化点以下の表面温度に設定された冷却ロールでプレスを行うことにより、さらに、繊維密度を高めてもよい。とくには、軟化点より30℃以上低い表面温度に設定された冷却ロールでプレスを行った場合には、表面がより平滑になるためにとくに好ましい。
【0041】
立毛人工皮革の製造においては、形態安定性や充実感を付与するために、海成分を除去する前の海島型複合繊維を絡合した絡合ウェブに、高分子弾性体が含浸付与される。このように、海成分を除去する前の海島型複合繊維を絡合した絡合ウェブに、高分子弾性体を含浸付与することにより、海成分の除去後に繊維束を形成する極細繊維同士の間に、海成分を除去して形成される空隙が形成される。その結果、繊維束内部の極細繊維同士が高分子弾性体で拘束されないことにより、柔軟な風合いを有する立毛人工皮革が得られる。なお、海島型複合繊維から海成分を除去した後の、繊維束を形成している極細繊維の不織布に高分子弾性体を含浸付与した場合には、繊維束の空隙に高分子弾性体が侵入することにより、繊維束を形成する繊維束内部の極細繊維同士が高分子弾性体で拘束されて硬い風合いの立毛人工皮革が得られる。
【0042】
高分子弾性体の具体例としては、例えば、ポリウレタン,アクリロニトリルエラストマー,オレフィンエラストマー,ポリエステルエラストマー,ポリアミドエラストマー,アクリルエラストマー等が挙げられる。これらの中では、ポリウレタンがとくに好ましい。ポリウレタンの具体例としては、例えば、ポリカーボネートウレタン,ポリエーテルウレタン,ポリエステルウレタン,ポリエーテルエステルウレタン,ポリエーテルカーボネートウレタン,ポリエステルカーボネートウレタンなどが挙げられる。ポリウレタンは、ポリウレタンをN,N-ジメチルホルムアミド(DMF)等の溶媒に溶解させた溶液を不織布に含浸させた後、ポリウレタンを湿式凝固させて固化させたポリウレタン(溶剤系ポリウレタン)であっても、ポリウレタンを水に分散させたエマルジョンを不織布に含浸させた後、乾燥して固化させたポリウレタン(水系ポリウレタン)であってもよい。これらの中では、ポリウレタンの量を増やしてもポリウレタンと極細繊維とを適度に解離させて柔軟な風合いを有する立毛人工皮革が得られやすい点から、溶剤系ポリウレタンがとくに好ましい。
【0043】
なお、高分子弾性体には、本発明の効果を損なわない範囲で、カーボンブラック等の顔料や染料などの着色剤、凝固調節剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、蛍光剤、防黴剤、浸透剤、消泡剤、滑剤、撥水剤、撥油剤、増粘剤、増量剤、硬化促進剤、発泡剤、ポリビニルアルコールやカルボキシメチルセルロースなどの水溶性高分子化合物、無機微粒子、導電剤などが配合されてもよい。
【0044】
立毛人工皮革に含浸付与される高分子弾性体の含有割合は16~40質量%である。このような割合で高分子弾性体を含有することにより、耐摩耗性としなやかな風合いとのバランスに優れた立毛人工皮革が得られる。
【0045】
高分子弾性体は、発泡率が0~5質量%の範囲であることが好ましい。高分子弾性体を高倍率で発泡させると、極細繊維を高分子弾性体が取り囲むために、糸が素抜けしにくくなって耐ピリング性がより改善するが、添加剤を調整したり、凝固温度を高くしたりする必要があるために、製造コストが高くなる傾向がある。
【0046】
海島型複合繊維を絡合した不織布から海成分の樹脂を除去することにより、繊維束を形成する極細繊維が高分子弾性体で拘束されていない、極細繊維の絡合体である不織布と不織布に含浸付与された高分子弾性体とを含む人工皮革基体が得られる。海島型複合繊維から海成分の樹脂を除去する方法としては、海成分の樹脂のみを選択的に除去しうる溶剤または分解剤で海島型複合繊維を絡合した不織布を処理するような、従来から知られた極細繊維の形成方法が特に限定なく用いられる。
【0047】
このようにして得られる人工皮革基体は、必要に応じて、所定の厚さにスライスしてもよい。このようにして得られる人工皮革基体の目付は、140~3000g/m2、さらには200~2000g/m2であることが好ましい。
【0048】
そして、高分子弾性体を含浸付与された極細繊維の不織布である人工皮革基体の片面または両面をバフィングすることにより、表層の繊維が立毛された立毛面を有する立毛人工皮革基体が得られる。バフィングは、好ましくは、120~600番手、さらに好ましくは320~600番手程度のサンドペーパーやエメリーペーパーを用いて行われる。このようにして、片面又は両面に立毛された繊維が存在する立毛面を有する立毛人工皮革基体が得られる。
【0049】
なお、立毛人工皮革基体の立毛面には、立毛面の立毛された極細繊維を素抜けさせにくくし、また、立毛された極細繊維が摩擦されることによって起こされにくくして外観品位を向上させることを目的として、極細繊維は溶解させず高分子弾性体のみを膨潤または溶解させる溶剤を立毛人工皮革基体の立毛面にグラビアコーティングすることにより、極細繊維束を高分子弾性体で固着させてもよい。立毛人工皮革基体の立毛面に上述のような溶剤を塗布することにより、極細繊維束の周囲にある高分子弾性体が膨潤または溶解し、高分子弾性体が極細繊維束内の隙間を埋めるように侵入する。溶剤としては、ポリエステルやポリアミド等からなる極細繊維は溶解させず、高分子弾性体のみを膨潤または溶解させる溶剤が選択される。具体的には、例えば、高分子弾性体に対する良溶剤と溶解能の小さい溶剤との混合溶剤を用い、良溶剤と溶解能の小さい溶剤との比率を調整することにより、高分子弾性体と極細繊維の密着度をコントロールできる。
【0050】
例えば、高分子弾性体がポリウレタンの場合、良溶剤としてジメチルホルムアミド(以下DMF)やテトラヒドロフラン(以下THF)と溶解能の小さいアセトン、トルエン、シクロヘキサノン、酢酸エチル、酢酸ブチル等との任意の割合の混合液が用いられる。良溶剤と溶解能の小さい溶剤との混合割合としては、重量比で10:90~90:10の範囲で適宜選択される。塗布する際の、溶剤の温度としては10~60℃の範囲が好ましい。
【0051】
また、立毛された極細繊維の根元近傍を局所的に固着する高分子弾性体をさらに付与してもよい。具体的には、例えば、立毛面に高分子弾性体を含有する溶液やエマルジョンを塗布した後、乾燥することにより、高分子弾性体を固化させる。立毛面に存在する立毛された極細繊維の根元近傍を局所的に固着する高分子弾性体を付与することにより、立毛面に存在する繊維の根元近傍が高分子弾性体で拘束されて、極細繊維が素抜けしにくくなる。立毛面に付与される高分子弾性体の具体例としては、上述したものと同様のものが用いられる。立毛面に付与される高分子弾性体の量としては、1~10g/m2、さらには2~8g/m2であることが、立毛面を硬くしすぎずに極細繊維の根元近傍をしっかりと固定することができる点から好ましい。
【0052】
なお、極細繊維が高分子弾性体で固着されていることは、走査型電子顕微鏡で立毛人工皮革の厚さ方向の断面を観察したときに、高分子弾性体が極細繊維を拘束するように固着していることを意味する。また、表層部とは、極細繊維の根元近傍に局所的に固着する高分子弾性体を付与された領域を意味し、具体的には、例えば、立毛人工皮革の全体の厚さに対して、立毛の根元から厚さ方向に10%以下、さらには5%以下の領域である。なお、立毛人工皮革の全体の厚さとは、立毛を除いた厚さである。
【0053】
立毛面を有する立毛人工皮革基体には、さらに風合いを調整するために柔軟性を付与する収縮加工処理や揉み柔軟化処理が施されたり、逆シールのブラッシング処理、防汚処理、親水化処理、滑剤処理、柔軟剤処理、酸化防止剤処理、紫外線吸収剤処理、蛍光剤処理、難燃処理等の仕上げ処理が施されたりしてもよい。
【0054】
立毛面を有する立毛人工皮革基体は染色されて、立毛人工皮革に仕上げられる。染料は極細繊維の種類により適切なものが適宜選択される。例えば、極細繊維がポリエステル系樹脂から形成されている場合には分散染料やカチオン染料で染色することが好ましい。分散染料の具体例としては、例えば、ベンゼンアゾ系染料(モノアゾ、ジスアゾなど)、複素環アゾ系染料(チアゾールアゾ、ベンゾチアゾールアゾ、キノリンアゾ、ピリジンアゾ、イミダゾールアゾ、チオフェンアゾなど)、アントラキノン系染料、縮合系染料(キノフタリン、スチリル、クマリンなど)等が挙げられる。これらは、例えば、「Disperse」の接頭辞を有する染料として市販されている。これらは、単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。また、染色方法としては、高圧液流染色法、ジッガー染色法、サーモゾル連続染色機法、昇華プリント方式等による染色方法が特に限定なく用いられる。
【0055】
このようにして、本実施形態の立毛人工皮革が得られる。立毛人工皮革に含まれる不織布を形成する極細繊維は、繊度0.15~0.5dtexで且つ引張強力が6.5~8mNである。このような極細繊維の繊維束からなる不織布を含むことにより、優美な立毛の外観と高い耐摩耗性と高い摩擦堅牢性と柔軟な風合いとを兼ね備えた立毛人工皮革が得られる。
【0056】
不織布を形成する極細繊維は、繊度0.15~0.5dtexであり、好ましくは、0.15~0.3dtexであり、特に好ましくは、0.15~0.25dtexである。極細繊維の繊度が0.5dtexを超える場合には優美な立毛の外観が得られにくくなる。また、極細繊維の繊度が低すぎる場合には、耐摩耗性が悪化する傾向がある。なお、繊度は、立毛人工皮革の厚さ方向に平行な断面を走査型電子顕微鏡(SEM)で3000倍に拡大撮影し、万遍なく選択された15本の繊維径から繊維を形成する樹脂の密度を用いて算出した平均値として求められる
【0057】
また、不織布を形成する極細繊維は、引張強力が6.5~8mNである。極細繊維の引張強力が6.5mN未満である場合には立毛面の極細繊維が切れやすくなりすぎて、立毛面が他の物品に摩擦されたときに、立毛が毛羽落ちしやすくなり、その毛羽が他の物品を汚染することにより摩擦堅牢性(クロッキング堅牢度)が低下する。また、極細繊維の引張強力が8mNを超える場合には、立毛面の極細繊維が切れにくくなりすぎて、立毛人工皮革の製造工程の立毛面を形成するためのバフィングにおいて、立毛する極細繊維が長毛化して優美な立毛の外観が得られにくくなったり、立毛面が他の物品に摩擦されたときに極細繊維が切れにくくなって耐ピリング性が低下したりする。
【0058】
なお、極細繊維の引張強力は、立毛人工皮革を形成する極細繊維1本当たりの引張強力であって、後述するようにマイクロオートグラフを用いてクロスヘッドスピード1mm/分で極細繊維1本当たりのs-sカーブを引張強力のモードで測定したときの最大応力であって、5本の極細繊維を測定したときの最大応力の平均値である。
【0059】
また、立毛人工皮革の見かけ密度は0.38~0.48g/cm
3
であり、0.4~0.48g/cm3であることが好ましい。このような見掛け密度であることにより、ボキ折れしない充実感と柔軟な風合いとのバランスに優れた立毛人工皮革になる。立毛人工皮革の見かけ密度が0.38g/cm3未満である場合には、充実感が低いためにボキ折れしやすくなり、また、立毛面を摩擦することにより繊維が引きずり出されやすくなって優美な立毛の外観が得られにくくなりやすい。また、立毛人工皮革の見かけ密度が高すぎる場合には、柔軟な風合いが得られにくくなりやすい。
【0060】
本実施形態の立毛人工皮革は、極細繊維の、引張強力が6.5~8mNの範囲にある引張強力A(mN)であり、立毛人工皮革の見かけ密度が0.38~0.48g/cm3であり、高分子弾性体の含有割合Bが、3.125×A≦Bを満たす。
【0061】
後述する実施例で示すように、極細繊維の、6.5~8mNの範囲の引張強力A(mN)との関係において、高分子弾性体の含有割合が3.125×A≦Bの関係式を満たし、立毛人工皮革の見かけ密度が0.38~0.48g/cm3であることにより、とくに高い耐ピリング性を兼ね備えた立毛人工皮革が得られる。
【実施例】
【0062】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明する。なお、本発明の範囲は実施例により何ら限定されて解釈されるものではない。
【0063】
はじめに、本実施例で用いた評価方法を以下にまとめて説明する。
【0064】
〈繊度〉
繊度は、立毛人工皮革の厚み方向の断面を走査型電子顕微鏡(SEM)で3000倍で撮影した画像に観察される極細繊維の断面をランダムに15個選んで断面積を測定し、その断面積の平均値を算出し、各樹脂の密度から繊度に換算した。
【0065】
〈引張強力〉
(株)島津テクノリサーチにおいて、以下のような手段により極細繊維1本の引張強力を測定した。はじめに、
図1(a)に示すような厚紙1の中央部に高さ1mmの矩形状の窓Wを切り抜いた型枠1を準備した。一方、切断された人工皮革から、不織布を形成している長さ3mm以上の極細繊維2を取り出した。そして、
図1(b)に示すように、極細繊維2が窓Wの中央部を垂直に通過するように、型枠1に極細繊維2を接着剤3と粘着テープ4で固定した。そして、
図1(c)に示すように、型枠1の窓Wを形成する一方の側の枠C1をハサミで切断した。そして、23℃、50%RHの雰囲気において、
図1(d)に示すように、型枠1の上下の枠をそれぞれ、マイクロオートグラフ10(MST-X HR-U 0.5Nキット((株)島津製作所製))のチャック間距離1cmの上下のチャック11,12に把持させた。そして、
図1(e)及び
図1(f)に示すように、型枠1の窓Wを形成する他方の側の枠C2もハサミSで切断した。そして、
図1(g)に示すように、マイクロオートグラフ10のクロスヘッド13を1mm/分のスピードで上昇させたときの応力を測定することにより、s-sカーブを作成した。s-s曲線が立ち上がり始める点をゼロ点とした。そして、s-sカーブにおける最大応力を求め、5本の極細繊維の最大応力の平均値を引張強力とした。
【0066】
〈高分子弾性体含有割合〉
立毛人工皮革の断片約10gの重量(W1)を測定した。そしてその断片をジメチルホルムアミドに一定時間浸漬した後、プレス処理を行う工程を繰り返し行うことによりポリウレタンである高分子弾性体を抽出した。そして、抽出後の残分である不織布の乾燥を行い、乾燥後の不織布の重量(W2)を測定した。そして、高分子弾性体含有割合(B)=(W1-W2)/W1×100 (%)の式から高分子弾性体含有割合を算出した。
【0067】
〈見掛け密度〉
JIS L 1913に準じて、厚さ(mm)および目付け(g/cm2)を測定し、これらの値から見掛け密度(g/cm3)を算出した。
【0068】
〈高分子弾性体(ポリウレタン)の発泡率〉
立毛人工皮革の厚さ方向に平行な断面の表面から300μmの部分を走査型電子顕微鏡(SEM)で倍率300倍で平均的な箇所を3枚撮影し、それぞれの画像をA4サイズの用紙に印刷した。そして、印刷された用紙をOHP(Overhead projector)シートに重ねた。そして、OHPシートに高分子弾性体であるポリウレタンの発泡部位を黒塗りして転写した。このとき、内部に繊維を含む空隙は海島型複合繊維から海成分を除去したときに形成された空隙であるとして、発泡部位として認めず、内部に繊維を含まない独立した空隙のみを発泡部位とした。そして、発泡部位を黒塗りしたOHPシートの模様をスキャナーで取り込んで画像を形成した。
また、印刷された用紙をOHPシートに重ね、OHPシートに発泡部位を含むポリウレタンの存在する全領域を黒塗りして転写した。そして、発泡部位を含むポリウレタンの存在する全領域を黒塗りしたOHPシートをスキャナーで取り込んで画像を形成した。
そして画像処理装置(image-pro plus,Media Cybernetics社製)で、得られた画像からポリウレタンの存在する全領域の黒塗り部分の総面積を求めた。また、発泡部位の黒塗り部分の総面積を測定した。
そして、ポリウレタンの存在する全領域の黒塗り部分の総面積と、黒塗り部分の発泡部位の総面積から、
式:ポリウレタンの発泡率(%)=黒塗り部分の発泡部位の総面積/ポリウレタンの存在する全領域の黒塗り部分の総面積×100、により算出した。
【0069】
〈極細繊維を形成する樹脂の固有粘度〉
極細繊維を形成する樹脂の固有粘度は、溶媒としてフェノール/テトラクロロエタン(体積比1/1)混合溶媒に樹脂を溶解して溶液を調製し、30℃でウベローデ型粘度計(林製作所製HRK-3型)を用いて溶液の粘度を測定し、固有粘度を求めた。
【0070】
〈紡糸ドラフト〉
紡糸ノズル1ホールから吐出される溶融樹脂の吐出速度A(g/min)、樹脂溶融比重B(g/cm3)、1ホールの面積C(mm2)、紡糸速度D(m/min)とし、以下の式によって算出した。
・紡糸ドラフト=D/(A/B/C)
【0071】
〈クロッキング〉
乾燥時及び湿潤時のクロッキングを、アトラスクロックメーター CM-5(ATLAS ELECTRIC DEVICES CO製)を用いて測定した。
乾燥時のクロッキング堅牢度は次のように測定された。
ガラス製の摩擦子に乾燥した綿白布を取り付け、立毛人工皮革の立毛面に摩擦子に取り付けた綿白布を荷重900gで接触させて、10往復させた。そして、綿白布を取り外して、汚染した部分の上にセロテープ(登録商標)を貼り付け、1.5ポンドの円柱型荷重を1往復転がした後、綿白布からセロテープを剥がした。
一方、湿潤時のクロッキング堅牢度は次のように測定された。
ガラス製の摩擦子に、蒸留水に浸漬後、余剰の水を除いた湿潤させた綿白布を取り付け、立毛人工皮革の立毛面に摩擦子に取り付けた綿白布を荷重900gで接触させて、10往復させた。そして、綿白布を取り外して60℃以下で乾燥させた後、汚染した部分の上にセロテープを貼り付け、1.5ポンドの円柱型荷重を1往復転がした後、綿白布からセロテープを剥がした。
そして、乾燥時及び湿潤時のクロッキング堅牢度を、綿白布の色の変化を汚染用グレースケール(5級~1級)で判定した。
【0072】
〈摩擦堅牢度〉
学振型摩擦試験機を用いて、JIS L 0803に準ずる白布を準備し、それを取りつけた摩擦子を200gの荷重下で走行距離10cmを毎分30回往復させて測定片の表面を摩擦し、100回測定を行った(JIS L 0849に準ずる)。100回測定後の白布に生じる着色汚染程度を、汚染用グレースケール(JIS L 0805に準ずる)と比較し、DRY条件として判定した。WET条件における測定は、JIS L 0849 9.1bに準じて白布を蒸留水に10分以上浸漬後取出し、ろ紙で余分な水分を取り、水が滴らなくなった程度のものを用いてDRY条件と同じ方法で測定を行い、DRY条件と同じ判定を行った。
【0073】
〈耐ピリング性〉
JIS L 1096(6.17.5E法 マーチンデール法)に準じ、押圧荷重12kPa、摩耗回数5000回でマーチンデール摩耗試験機を用いて試験を行ったものを以下の基準で級数評価した。
5 : 変化なし
4 : 最大径1mm 未満のピリングが僅かに発生した。
3 : 最大径1~3 mm のピリングが発生した。
2 : 最大径3~5 mm のピリングが発生した。
1 : 最大径5mm 超のピリングが多量に発生した。
【0074】
〈摩耗減量〉
立毛人工皮革の摩耗減量を、JIS L 1096(8 .17.5E法,マーチンデール法)に準じて、押圧荷重12kPa(gf/cm2)、摩耗回数5万回でマーチンデール摩耗試験機を用いて摩耗試験を行い、摩耗減量を測定した。
【0075】
〈ソフトネス〉
ソフトネステスター(皮革ソフトネス計測装置ST300:英国、MSAエンジニアリングシステム社製)を用いてソフトネスを測定した。具体的には、直径25mmの所定のリングを装置の下部ホルダーにセットした後、下部ホルダーに立毛人工皮革をセットした。そして、上部レバーに固定された金属製のピン(直径5mm)を立毛人工皮革に向けて押し下げた。そして、上部レバーを押し下げて上部レバーがロックしたときの数値を異なる5カ所で測定し、その平均値を読み取った。なお、数値は侵入深さを表し、数値が大きいほどしなやかであることを表す。
【0076】
〈風合い〉
得られた立毛人工皮革を折り曲げて、腰や柔軟性の感触を以下の基準で判定した。
A:充実感があり、ボキ折れすることなく、柔軟性に優れた風合いであった。
B:充実感に欠ける、ボキ折れする、硬い、のいずれか1つ以上に該当する風合いであった。
【0077】
〈外観〉
目視及び触感により、得られた立毛人工皮革の外観を以下の基準で判定した。
A:繊維が細かくばらけた均一な長さを有し、やわらかくスムースな感触の立毛面であった。
B:繊維が粗くばらけて不均一な長さを有し、粗い感触でライティングのない立毛面であった。
【0078】
[実施例1]
メルトフローレート(MFR)25(g/10min、190℃)のポリエチレン(PE)を海成分の樹脂とし、固有粘度[η]=0.67(dl/g)で融点251℃のポリエチレンテレフタレート(PET)に1.0質量%のカーボンブラック(CB)を添加した組成物を島成分の樹脂として準備した。そして、海成分/島成分が35/65(質量比)となるように285℃で溶融複合紡糸した。具体的には、単孔吐出量1.5g/minでノズル径(孔径)0.40mmの紡糸用口金より吐出し、紡糸速度が3450m/minとなるようにエジェクター圧力を調整し、長繊維をネット上に捕集した。紡糸ドラフト279で紡糸することにより、繊度4.3dtexの海島型複合繊維のウェブを得た。
【0079】
そして、得られたウェブを積層し、積層ウェブを形成した。そして、積層ウェブに対して6バーブのニードル針を用いて2020P/cm2のパンチング密度でニードルパンチ処理を行うことにより、目付け810g/m2の絡合繊維シートを形成した。
【0080】
そして、絡合繊維シートを90℃の熱水で収縮処理を行い、乾燥後、熱プレスすることにより、目付912g/m2、見掛け密度0.389g/cm3、厚さ2.35mmの熱収縮処理された絡合繊維シートを得た。
【0081】
そして、熱収縮処理された絡合繊維シートに、高分子弾性体である100%モジュラス4.5MPaのポリカーボネート系無黄変ポリウレタンのDMF溶液(固形分18.5質量%)を、立毛人工皮革に対する高分子弾性体割合が32質量%になるように含浸させた後、40℃,30%DMF水溶液へ浸漬してポリウレタンを凝固させた。
【0082】
次に、ポリウレタンが付与された絡合繊維シートを、ニップ処理しながら85℃のトルエン中に浸漬することにより海成分であるPEを溶解除去し、さらに、乾燥した。このようにして、目付837g/m2、見掛け密度0.437g/cm3、厚さ1.91mmである、ポリウレタンと極細繊維のPETの長繊維の繊維束の絡合体である不織布との複合体である人工皮革基体を得た。なお、極細繊維の不織布は、ポリウレタンを含浸付与した後、海成分を除去して形成されたために、繊維束内部の極細繊維同士はポリウレタンで固着されておらず、ポリウレタンに拘束されていない。
【0083】
そして、人工皮革基体を半裁した後、立毛面になる主面にDMF/シクロヘキサノン=30/70(重量比)の混合溶剤を塗布した後、乾燥することによりその表層部の極細繊維にポリウレタンを固着させた。その後、半裁後の裏面に♯120ペーパー、主面に♯320、♯600ペーパーを用いて、両面を研削することにより、立毛面を形成させた人工皮革基体に仕上げた。そして、立毛面を形成させた人工皮革基体を、分散染料を用いて、120℃で高圧染色を行うことによりスエード調の立毛面を有する立毛人工皮革を得た。そして、立毛人工皮革を上記評価方法に従って評価した。結果を表1に示す。
【0084】
【0085】
[実施例2~6、比較例1~5]
実施例2~5及び比較例1,2,4,5は、表1に示したように、PETの固有粘度,融点または海島型複合繊維の紡糸条件を設定することにより、極細繊維の繊度及び引張強力を変更した以外は、実施例1と同様にして立毛人工皮革を得、評価した。また、実施例6は、実施例1において立毛面になる主面にDMF/シクロヘキサノン=30/70(重量比)の混合溶剤を塗布及び乾燥する工程を省略した以外は同様にして、立毛人工皮革を製造し、評価した。また、比較例3は極細繊維を直接紡糸して極細繊維の絡合体を形成した例であり、極細繊維同士が高分子弾性体で拘束されている。なお、実施例4は、参考例である。結果を表1に示す。
【0086】
[比較例6]
水溶性ポリビニルアルコール樹脂(PVA;海成分)と、固有粘度[η]=0.59(dl/g)で融点240℃である、変性度6モル%のイソフタル酸変性ポリエチレンテレフタレ-ト(島成分)とを準備した。そして、海成分/島成分が25/75(質量比)となるように260℃で溶融複合紡糸用口金(島数:12島/繊維)より単孔吐出量1.0g/minで吐出した。そして、紡糸速度が3300m/minとなるようにエジェクター圧力を調整し、繊度3.0dtexの長繊維をネット上に捕集して海島型複合繊維のウェブを得た。
【0087】
得られたウェブをクロスラッピングして重ねて積重体を得、針折れ防止油剤をスプレーした。次に、バーブ数1個でニードル番手42番のニードル針、及びバーブ数6個でニードル番手42番のニードル針を用いて積重体をニードルパンチ処理して絡合させることにより絡合繊維シートを得た。
【0088】
次に、絡合繊維シートを110℃、23.5%RHの条件でスチーム処理した。そして、90~110℃のオーブン中で乾燥させた後、さらに、115℃で熱プレスすることにより熱収縮処理された絡合繊維シートを得た。
【0089】
次に、熱収縮処理された絡合繊維シートに、高分子弾性体である100%モジュラス4.5MPaであるポリカーボネート系無黄変ポリウレタンのエマルジョン(固形分40質量%)を、立毛人工皮革に対する高分子弾性体の含有割合が10質量%になるように含浸させた後、ポリウレタンを乾燥凝固させた。次に、ポリウレタンが付与された絡合繊維シートを、ニップ処理、及び高圧水流処理しながら95℃の熱水中に10分間浸漬することにより海成分であるPVAを溶解除去し、さらに、乾燥した。このようにして、繊度0.11dtex、見掛け密度0.435/cm3である、ポリウレタンと極細繊維の長繊維の繊維束の絡合体である不織布との複合体である人工皮革基体を得た。
【0090】
次に、人工皮革基体を半裁した後、立毛面になる主面にポリウレタンのDMF溶液(固形分5%)を塗布した後、乾燥することによりその表層部の極細繊維にポリウレタンを固着させた。その後、半裁後の裏面に♯120ペーパー、主面に♯240、♯320、♯600ペーパーを用い、速度3.0m/min、回転数650rpmの条件で両面を研削することにより、立毛面を有する人工皮革基体を得た。そして、立毛面を形成させた人工皮革基体を、分散染料を用いて、120℃で高圧染色を行うことによりスエード調の立毛面を有する立毛人工皮革を得た。そして、立毛人工皮革を上記評価方法に従って評価した。結果を表1に示す。
【0091】
[比較例7]
比較例6において、固有粘度[η]=0.59(dl/g)で融点240℃である、変性度6モル%のイソフタル酸変性ポリエチレンテレフタレ-トの代わりに、固有粘度[η]=0.67(dl/g)で融点251℃である、変性度6モル%のイソフタル酸変性ポリエチレンテレフタレ-トを用いた以外は比較例6と同様にして立毛人工皮革の製造を試みた。しかし、溶融紡糸の安定性が悪く、紡糸できなかった。
【0092】
表1を参照すれば、繊度0.5dtex以下で且つ引張強力が6~9mNの極細繊維からなる不織布を含み、高分子弾性体の含有割合が16~40質量%の範囲である実施例1~6の立毛人工皮革は何れも、外観評価がAであり、優美な立毛の外観を有するものであった。また、実施例1~6の立毛人工皮革は何れも、クロッキングがDryで4級以上、Wetで3-4級以上であり、摩擦堅牢度がDryで4-5級、Wetで3-4級以上であり、高い摩擦堅牢性を有していた。また、実施例1~6の立毛人工皮革は何れも、摩耗減量が40mg以下である高い耐摩耗性を有していた。さらに、実施例1~6の立毛人工皮革は何れも、ソフトネスが4.0mm以上であり、柔軟な風合いを有していた。このように、繊度0.5dtex以下で且つ引張強力が6~9mNの極細繊維であって、高分子弾性体の含有割合が16~40質量%であり、表層部を除く領域において繊維束を形成する極細繊維が高分子弾性体で拘束されていない、実施例1~6の立毛人工皮革は何れも、優美な立毛の外観と高い耐摩耗性と高い摩擦堅牢性と柔軟な風合いとを兼ね備えた立毛人工皮革であった。
【0093】
一方、繊度0.5dtex以下であっても引張強力が6mN未満の極細繊維からなる不織布を含む比較例1の立毛人工皮革は、摩耗減量が65.2mgであり、耐摩耗性が低く、クロッキングがWetで3級であり、摩擦堅牢度がWetで2-3級である低い摩擦堅牢性を有していた。また、繊度0.5dtex以下であっても引張強力が9mNを超える極細繊維からなる不織布を含む比較例2の立毛人工皮革は、外観評価がBであり、優美な立毛の外観を有しなかった。また、繊度0.5dtexを超えて、且つ、引張強力が21mNの極細繊維からなる不織布を含み、また、極細繊維が高分子弾性体で拘束されている比較例3の立毛人工皮革も、外観評価がBであり、優美な立毛の外観を有しなかった。また、繊度0.5dtex以下で且つ引張強力が6.5mNの極細繊維からなる不織布を含むが、高分子弾性体の割合が15質量%である比較例4の立毛人工皮革は、摩耗減量が53.3mgで、ある程度の耐摩耗性を有するが、外観評価もBであり、優美な立毛の外観も有しなかった。また、繊度0.5dtex以下で且つ引張強力が6.4mNの極細繊維からなる不織布を含むが、高分子弾性体の割合が43質量%である比較例5の立毛人工皮革は、外観評価がBであり、優美な立毛の外観も有しなかった。また、繊度0.5dtex以下であるが、引張強力が5.3mNの極細繊維からなる不織布を含み、高分子弾性体の割合が10質量%である比較例6の立毛人工皮革は、摩耗減量が76mgであり、耐摩耗性が低く、クロッキングがWetで1-2級であり、摩擦堅牢度がWetで1級である低い摩擦堅牢性を有していた。
【0094】
[実施例7]
メルトフローレート(MFR)25(g/10min、190℃)のポリエチレン(PE)を海成分とし、固有粘度[η]=0.67(dl/g)で融点251℃のポリエチレンテレフタレート(PET)に1.0質量%のカーボンブラック(CB)を添加した組成物を島成分として準備した。そして、海成分/島成分が35/65(質量比)となるように260℃で溶融複合紡糸した。具体的には、単孔吐出量1.5g/minで孔径0.40mmの紡糸用口金(島数:12島/繊維)より吐出し、紡糸速度が3450m/minとなるようにエジェクター圧力を調整し、長繊維をネット上に捕集した。紡糸ドラフト279で紡糸することにより、繊度4.5dtexの海島型複合繊維のウェブを得た。
【0095】
そして、得られたウェブを総目付が600g/m2になるようにクロスラッピングにより重ねて積層ウェブを形成した。そして、バーブ数1個でニードル番手42番のニードル針、及びバーブ数6個でニードル番手42番のニードル針を用いて積重体を4189パンチ/cm2でニードルパンチ処理して絡合させることにより目付840g/m2の絡合繊維シートを形成した。
【0096】
そして、絡合繊維シートを90℃の熱水で収縮処理し、90~110℃のオーブン中で乾燥させた後、ロールでプレスすることにより、目付940g/m2、見掛け密度0.40g/cm3、厚さ2.35mmの熱収縮処理されたウェブ絡合シートを得た。
【0097】
そして、熱収縮処理された絡合繊維シートに、高分子弾性体である100%モジュラス3.2MPaのポリカーボネート系無黄変ポリウレタンのDMF溶液(固形分18.5%)を、立毛人工皮革に対するポリウレタンの含有割合が32質量%になるように含浸させた後、40℃、DMF30%水溶液へ浸漬してポリウレタンを凝固させた。
【0098】
次に、ポリウレタンが付与された絡合繊維シートを、ニップ処理しながら90℃のトルエン中に浸漬することにより海成分であるPEを溶解除去し、さらに、乾燥した。このようにして、目付810g/m2、見掛け密度0.458g/cm3、厚さ1.77mmである、ポリウレタンと極細繊維のPETの長繊維の繊維束の絡合体である不織布との複合体である人工皮革基体を得た。なお、極細繊維の不織布は、ポリウレタンを含浸付与した後、海成分を除去して形成されたために、繊維束内部の極細繊維同士はポリウレタンで固着されておらず、極細繊維は拘束されていない。
【0099】
そして、人工皮革基体を半裁した後、立毛面になる主面にDMF/シクロヘキサノン=30/70(重量比)の混合溶剤を塗布、乾燥することによりその表層部の極細繊維にポリウレタンを固着させた。その後、半裁後の裏面に♯120ペーパーで、主面に♯240、♯320、♯600を用いて、両面を研削することにより、立毛面を形成させた人工皮革基体に仕上げた。そして、立毛面を形成させた人工皮革基体を、分散染料を用いて、120℃で高圧染色を行うことによりスエード調の立毛面を有する立毛人工皮革を得た。そして、立毛人工皮革を上記評価方法に従って評価した。結果を表2に示す。
【0100】
【0101】
[実施例8~22,24~33,比較例8~10]
実施例8~19,21~22,24~33、比較例8~10は、PETの固有粘度,融点,CBの含有割合,または海島型複合繊維の紡糸条件、高分子弾性体含有割合、DMF/シクロヘキサノンの混合溶剤の塗布及び乾燥の有無等を表2又は下記表3に示したように設定した以外は、実施例7と同様にして立毛人工皮革を得、評価した。また、実施例20は、溶融紡糸された海島型複合繊維を捲縮及びカットして得られた海島型複合繊維のステープルの原綿をカーディングして短繊維のウェブを形成した以外は、実施例7と同様にして立毛人工皮革を得、評価した。なお、実施例21,22,24~27,28~33は、参考例である。評価結果を表2または下記表3に示す。
【0102】
【0103】
[実施例23(参考例),比較例11]
実施例23,比較例11は、PETの固有粘度,海島型複合繊維の紡糸条件、高分子弾性体含有割合、DMF/シクロヘキサノンの混合溶剤の塗布及び乾燥の有無等を表3に示したように設定した以外は、比較例6と同様にして立毛人工皮革を得、評価した。評価結果を表3に示す。
【0104】
図2に、表2に記載された立毛人工皮革に含まれる、極細繊維の引張強力(A)に対する高分子弾性体の含有割合(B)をプロットしたグラフを示す。また、
図3に表3に記載された立毛人工皮革に含まれる、極細繊維の引張強力(A)に対する高分子弾性体の含有割合(B)をプロットしたグラフを示す。
【0105】
表2を参照すれば、実施例7~20で得られた立毛人工皮革は、
図2に示すように、6.5~8mNの範囲にある引張強力(A)を有し、高分子弾性体の含有割合(B)%が、3.125×(A)≦(B)を満たす。表2を参照すれば、これらの立毛人工皮革は、4級以上の高い耐ピリング性と、摩耗減量40mg以下である高い耐摩耗性と、3.7mm以上のソフトネスを示す柔軟な風合いと、繊維が細かくばらけた均一な長さを有し、やわらかくスムースな感触の立毛面を有する優美な立毛の外観とを兼ね備えた立毛人工皮革であった。
【0106】
また、表3を参照すれば、実施例21,22,24~27,28~33は、
図3に示すように、6.5~8mNの範囲にある引張強力(A)を有し、高分子弾性体の含有割合(B)%が、3.125×(A)≦(B)を満たさない。表3を参照すれば、これらの立毛人工皮革は、耐ピリング性又は耐摩耗性がやや低かった。また、見かけ密度が高い実施例23は、風合いが固かった。