(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-21
(45)【発行日】2025-03-04
(54)【発明の名称】アルキニルシランの製造方法
(51)【国際特許分類】
C07F 7/08 20060101AFI20250225BHJP
C07B 61/00 20060101ALN20250225BHJP
【FI】
C07F7/08 C
C07B61/00 300
(21)【出願番号】P 2021022387
(22)【出願日】2021-02-16
【審査請求日】2023-11-15
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 「有機ケイ素機能性化学品製造プロセス技術開発/有機ケイ素プロジェクト」中間成果報告会 開催日 令和2年12月16日 Organometallics 2020,39,2947-2950 発行日 令和2年8月13日
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成26年度国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「有機ケイ素機能性化学品製造プロセス技術開発」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松本 和弘
(72)【発明者】
【氏名】河津 貴大
(72)【発明者】
【氏名】崔 準哲
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 一彦
【審査官】阿久津 江梨子
(56)【参考文献】
【文献】特表2007-512296(JP,A)
【文献】特許第7497022(JP,B2)
【文献】特許第7497011(JP,B2)
【文献】ロシア国特許発明第2521168(RU,C1)
【文献】国際公開第2017/035415(WO,A1)
【文献】Chimia,1985年,Vol. 39, No. 2-3,p. 53
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07F 7/08
C07B 61/00
CAplus/REGISTRY(STN)
CASREACT(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
5配位のケイ素種を形成し得る求核剤の存在下、下記式(a)で表されるシリルアルキノエートを脱炭酸させて下記式(b)で表されるアルキニルシランを生成する反応工程を含
み、
前記シリルアルキノエートが下記式(A-1)又は(A-3)で表されるシリルアルキノエートであり、
前記5配位のケイ素種を形成し得る求核剤が、フッ化物イオン、塩化物イオン、アルコキシドイオン又はカルボキシラートイオンであり、
前記フッ化物イオン源としてアルカリ金属フッ化物、四級アンモニウムフルオリド又はフルオロシリケートが用いられ、
前記塩化物イオン源としてアルカリ金属塩化物又は四級アンモニウムクロリドが用いられ、
前記アルコキシドイオン源としてアルカリ金属アルコキシドが用いられ、
前記カルボキシラートイオン源としてアルカリ金属カルボキシラート又は四級アンモニウムカルボキシラートが用いられる、アルキニルシランの製造方法。
【化1】
【化2】
(式(A-1)及び(A-3)中、R
1
は、それぞれ独立して、水素原子、又は窒素原子
、酸素原子、ケイ素原子、及びハロゲン原子からなる群より選択される少なくとも1種の原子を含んでいてもよい炭素原子数1~20の炭化水素基を、R
2
は、それぞれ独立して炭素原子数1~20の炭化水素基を、nは1~4の整数を、mは1~5の整数を表す。)
【請求項2】
前記アルキニルシランが、下記式(B-1)又は(B-3)で表されるアルキニルシランである、請求項1に記載のアルキニルシランの製造方法。
【化3】
(式(B-1)及び(B-3)中、R
1
は、それぞれ独立して、水素原子、又は窒素原子、酸素原子、ケイ素原子、及びハロゲン原子からなる群より選択される少なくとも1種の原子を含んでいてもよい炭素原子数1~20の炭化水素基を、R
2
は、それぞれ独立して炭素原子数1~20の炭化水素基を、nは1~4の整数を、mは1~5の整数を表す。)
【請求項3】
前記アルカリ金属フッ化物が、フッ化セシウム、フッ化カリウム又はフッ化ナトリウムであり、
前記四級アンモニウムフルオリドが、テトラブチルアンモニウムフルオリド、テトラエチルアンモニウムフルオリド又はテトラメチルアンモニウムフルオリドであり、
前記フルオロシリケートが、ジフルオロトリフェニルケイ酸テトラブチルアンモニウム又はジフルオロトリメチルケイ酸トリス(ジメチルアミノ)スルホニウムである、請求項1又は2に記載のアルキニルシランの製造方法。
【請求項4】
前記アルカリ金属塩化物が、塩化セシウム、塩化カリウム又は塩化ナトリウムであり、
前記四級アンモニウムクロリドが、テトラブチルアンモニウムクロリド、テトラエチルアンモニウムクロリド、テトラメチルアンモニウムクロリド、ジデシルジメチルアンモニウムクロリド又はヘキサデシルトリメチルクロリドである、請求項1又は2に記載のアルキニルシランの製造方法。
【請求項5】
前記アルカリ金属アルコキシドが、ナトリウムtert-ブトキシド、カリウムtert-ブトキシド、ナトリウムフェノキシド又はカリウムフェノキシドである、請求項1又は2に記載のアルキニルシランの製造方法。
【請求項6】
前記アルカリ金属カルボキシラートが、酢酸セシウム、酢酸カリウム、酢酸ナトリウム、ピバル酸セシウム、ピバル酸カリウム、ピバル酸ナトリウム、オクチル酸カリウム又はオクチル酸ナトリウムであり、
前記四級アンモニウムカルボキシラートが、テトラブチルアンモニウムアセテート、テトラエチルアンモニウムアセテート、テトラメチルアンモニウムアセテート、テトラブチルアンモニウムベンゾエート又は下記式で表されるテトラアルキルアンモニウムカルボキシラートである、請求項1又は2に記載のアルキニルシランの製造方法。
【化4】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はアルキニルシランの製造方法に関し、より詳しくは、シリルアルキノエートの脱炭酸反応によるアルキニルシランの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アルキニルシランは合成化学上有用なビルディングブロックである(例えば、非特許文献1参照)。通常は、(1)末端アルキンに有機リチウム試薬やグリニャール試薬を反応させて、金属アセチリドへと変換し、これにハロシランを反応させることで合成される。また、触媒的なアルキニルシランの合成法として、(2)末端アルキンを適切な触媒の存在下でハロシランと反応させる手法(例えば、非特許文献2参照)や、(3)末端アルキンとヒドロシランを脱水素縮合させる手法が知られている(例えば、非特許文献3参照)。しかしながら、(1)は不安定で危険な有機リチウム試薬やグリニャール試薬を用いなければならず、(1)および(2)は非常に加水分解されやすく取り扱いが不便なハロシランを用いなければならないという欠点を有する。また、(3)も可燃性で危険な水素ガスが副生するという欠点を有する。
一方で、シリルアルキノエートの脱炭酸反応により、アルキニルシランを合成する手法が報告されている。この反応の進行に伴って副生するのは通常は無害であり除去の容易な二酸化炭素であるため、アルキニルシランの有用な合成ルートの候補となりうる。トリエチルアミンを用いた手法が報告されているが、適用可能な基質はビス(トリメチルシリル)アセチレンジカルボキシレートの一例しか示されていない(非特許文献4参照)。また、本発明者らは触媒量の銅錯体を用い、シリルアルキノエートの脱炭酸反応によりアルキニルシランを合成する手法を開発してきた(非特許文献5参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【文献】G.Larson,Synthesis,2018,50,2433.
【文献】I.Kownacki,B.Orwat,B.Marciniec,Organometallics,2014,33,3051.
【文献】A.A.Toutov,K.N.Betz,D.P.Schuman,W.-B.Liu,A.Fedorov,B.M.Stoltz,R.H.Grubbs,J.Am.Chem.Soc.,2017,139,1668.
【文献】G.Simchen,H.H.Hergott,Chimia,1985,39,53.
【文献】T.Kawatsu,K.Aoyagi,Y.Nakajima,J.-C.Choi,K.Sato,K.Matsumoto,Organometallics,2020,39,2947.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、シリルアルキノエートの脱炭酸反応によるアルキニルシランの簡便な製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、前記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、5配位のケイ素種を形成し得る求核剤を用いることで、シリルアルキノエートの脱炭酸反応が進行し、アルキニルシランが簡便に得られることを見出し、本発明を完成させた。
即ち、本発明は以下を含む。
<1>5配位のケイ素種を形成し得る求核剤の存在下、下記式(a)で表されるシリルアルキノエートを脱炭酸させて下記式(b)で表されるアルキニルシランを生成する反応工程を含むことを特徴とするアルキニルシランの製造方法。
【化1】
<2>前記式(a)で表されるシリルアルキノエートが下記式(A-1)~(A-3)の何れかで表されるシリルアルキノエートである、<1>に記載のアルキニルシランの製造方法。
【化2】
(式(A-1)~(A-3)中、R
1およびR
2はそれぞれ独立して、水素原子、又は窒素原子、酸素原子、ケイ素原子、及びハロゲン原子からなる群より選択される少なくとも1種の原子を含んでいてもよい炭素原子数1~20の炭化水素基を、nは1~4の整数を、mは1~5の整数を表す。)
<3>前記5配位のケイ素種を形成し得る求核剤が、フッ化物イオン、塩化物イオン、アルコキシドイオン又はカルボキシラートイオンである、<1>又は<2>に記載のアルキニルシランの製造方法。
<4>前記5配位のケイ素種を形成し得る求核剤がフッ化物イオンであり、前記フッ化物イオン源としてアルカリ金属フッ化物、四級アンモニウムフルオリド又はフルオロシリケートを用いる、<3>に記載のアルキニルシランの製造方法。
<5>前記5配位のケイ素種を形成し得る求核剤が塩化物イオンであり、前記塩化物イオン源としてアルカリ金属塩化物又は四級アンモニウムクロリドを用いる、<3>に記載のアルキニルシランの製造方法。
<6>前記5配位のケイ素種を形成し得る求核剤がアルコキシドイオンであり、前記アルコキシドイオン源としてアルカリ金属アルコキシドを用いる、<3>に記載のアルキニルシランの製造方法。
<7>前記5配位のケイ素種を形成し得る求核剤がカルボキシラートイオンであり、前記カルボキシラートイオン源としてアルカリ金属カルボキシラート又は四級アンモニウムカルボキシラートを用いる、<3>に記載のアルキニルシランの製造方法。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、シリルアルキノエートの脱炭酸反応により、ビルディングブロックとして合成化学上有用なアルキニルシランを簡便に製造する方法が提供される。また、本反応の進行に伴って副生するのは通常は無害であり除去の容易な二酸化炭素であるため、ハロシランを用いる既存のアルキニルシランの合成法のように塩の副生を伴わず、得られるアルキニルシランの精製が容易である。
【発明を実施するための形態】
【0007】
本発明の詳細を説明するに当たり、具体例を挙げて説明するが、本発明の趣旨を逸脱しない限り以下の内容に限定されるものではなく、適宜変更して実施することができる。
【0008】
<アルキニルシランの製造方法>
本発明の一態様であるアルキニルシランの製造方法は、5配位のケイ素種を形成し得る求核剤の存在下、下記式(a)で表されるシリルアルキノエートを脱炭酸させて下記式(b)で表されるアルキニルシランを生成する反応工程(以下、「反応工程」と略す場合がある。)を含むことを特徴とする。式(a)及び(b)中の波線は、その先の構造が任意であることを意味する。
【化3】
【0009】
本発明者らは、シリルアルキノエートの脱炭酸反応によるアルキニルシランの製造方法について検討を重ねた結果、5配位のケイ素種を形成し得る求核剤を触媒量用いることで、様々なシリルアルキノエートの脱炭酸反応が進行し、ビルディングブロックとして合成化学上有用なアルキニルシランの簡便な合成法となり得ることを見出した。
かかる反応の詳細なメカニズムは、十分に明らかとなっていないが、フッ化物イオン(F-)のような求核剤がシリルアルキノエートのケイ素原子に配位することで5配位のケイ素種を形成し、これが脱炭酸反応を起こすことで、アルキニルシランを生成するものと推測している。本発明によれば、ケイ素原子上の置換基が比較的小さなシリルアルキノエートだけでなく、ケイ素原子上にかさ高い置換基を有するシリルアルキノエートの脱炭酸反応によるアルキニルシランの生成が可能であり、様々なシリルアルキノエートを基質としてアルキニルシランを製造することが可能である。
【0010】
(式(A-1)~(A-3)で表されるシリルアルキノエート)
反応工程に使用する式(a)で表されるシリルアルキノエートは、特に限定されず、製造目的であるアルキニルシランに応じて適宜選択すべきであるが、例えば、下記式(A-1)~(A-3)の何れかで表されるシリルアルキノエートが好ましく挙げられる。
【化4】
(式(A-1)~(A-3)中、R
1およびR
2はそれぞれ独立して、水素原子、又は窒素原子、酸素原子、ケイ素原子、及びハロゲン原子からなる群より選択される少なくとも1種の原子を含んでいてもよい炭素原子数1~20の炭化水素基を、nは1~4の整数を、mは1~5の整数を表す。)
【0011】
(R1、R2)
R1およびR2は、それぞれ独立して「水素原子」、又は「炭素原子数1~20の炭化水素基」を表しているが、「炭化水素基」は、分岐構造及び/又は環状構造を有していてもよく、飽和炭化水素基、不飽和炭化水素基、芳香族炭化水素基等の何れであってもよい
ものとする。また、「窒素原子、酸素原子、ケイ素原子、及びハロゲン原子からなる群より選択される少なくとも1種の原子を含んでいてもよい」とは、炭化水素基の水素原子が、窒素原子、酸素原子、ケイ素原子、ハロゲン原子を含む1価の官能基で置換されていてもよいほか、炭化水素基の炭素骨格内部の炭素原子が窒素原子、酸素原子、ケイ素原子等を含む2価以上の官能基(連結基)で置換されていてもよいことを意味する。従って、エーテル基(-O-)等の酸素原子、シリルオキシ基(-O-Si-)等の酸素原子及びケイ素原子、を炭素骨格の内部に含んでいてもよいことを意味する。
【0012】
窒素原子、酸素原子、ケイ素原子、ハロゲン原子を含む1価の官能基としては、アミノ基、アンモニウム基、アミジノ基、ピロリル基、トリアジン環、トリアゾール環、ベンゾトリアゾリル基、イミダゾリル基、ベンズイミダゾリル基、キノリル基、ピリジル基、ピリミジン基、ピラジニル基、キナゾリニル基、キノキサリニル基、プリニル基、ピペリジニル基、ピペラジニル基、ピロリジニル基、ピラゾリル基、アニリン基、アゾ基、ジアゾ基、アジド基、及びシアノ基等の窒素原子を含む官能基;カルボニル基、ケトン基、エーテル基、アルコキシ基、アシルオキシ基、フラニル基等の酸素原子を含む官能基;アミド基、イミド基、ウレア基、イソシアヌル構造を含む基、ニトロ基、ニトロソ基、シアネート基、イソシアネート基、モルホリノ基、ラクタム環等の酸素原子及び窒素原子を含む官能基;トリメチルシリル基、tert-ブチルジメチルシリル基等のアルキルシリル基、トリメチルシリルオキシ等のアルキルシリルオキシ基等のケイ素原子を含む官能基;フッ素原子、塩素原子、臭素原子等のハロゲン原子;等が挙げられる。これらの中でも、好ましくは、アミノ基、アルコキシ基、アシルオキシ基、ニトロ基、ハロゲン原子であり、より好ましくは、ジメチルアミノ基、メトキシ基、アセトキシ基、ニトロ基、塩素原子である。
【0013】
R1、R2の具体例としては、水素原子、メチル基、エチル基、n-プロピル基、iso-プロピル基、n-ブチル基、sec-ブチル基、iso-ブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基、iso-ペンチル基、ネオペンチル基、n-ヘキシル基、n-ヘプチル基、n-オクチル基、n-ノニル基、n-デシル基、n-ウンデシル基、n-ドデシル基、n-トリデシル基、n-テトラデシル基、n-ペンタデシル基、n-ヘキサデシル基、n-ヘプタデシル基、n-オクタデシル基、n-ノナデシル基、n-イコシル基等のアルキル基;シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等のシクロアルキル基;フェニル基、4-メチルフェニル基、2,4-ジメチルフェニル基、1-ナフチル基、2-ナフチル基、1-フェナントリル基、2-フェナントリル基、3-フェナントリル基、4-フェナントリル基、9-フェナントリル基、1-アントリル基、2-アントリル基、9-アントリル基、1-ピレニル基、2-ピレニル基、4-ピレニル基、1-トリフェニレニル基、2-トリフェニレニル基等の芳香族炭化水素基;ベンジル基、フェネチル基、1-ナフチルメチル基、2-ナフチルメチル基等のアラルキル基;ビニル基、アリル基等のアルケニル基;4-メトキシフェニル基、4-アセトキシフェニル基、4-クロロフェニル基、4-フルオロフェニル基、4-ニトロフェニル基等の窒素原子、酸素原子、ケイ素原子、又はハロゲン原子を含む置換基を有していてもよい置換フェニル基等が挙げられる。
【0014】
R1としては、入手容易性の観点から、好ましくは窒素原子、酸素原子、ケイ素原子、及びハロゲン原子からなる群より選択される少なくとも1種の原子を含んでいてもよい炭素原子数1~20の炭化水素基であり、より好ましくは窒素原子、酸素原子、ケイ素原子、及びハロゲン原子からなる群より選択される少なくとも1種の原子を含んでいてもよい、炭素原子数1~20のアルキル基若しくはアルケニル基、又は炭素原子数6~20の芳香族炭化水素基であり;さらに好ましくは、炭素数1~10のアルキル基若しくはアルケニル基、又は窒素原子、酸素原子、ケイ素原子、又はハロゲン原子を含む置換基を有していてもよい炭素原子数6~10の芳香族炭化水素基であり;特に好ましくはメチル基、エ
チル基、n-プロピル基、n-ブチル基、n-ペンチル基、n-ヘキシル基、ビニル基、アリル基、フェニル基、4-メチルフェニル基、4-メトキシフェニル基、4-アセトキシフェニル基、4-クロロフェニル基、4-フルオロフェニル基、4-ニトロフェニル基、2,4-ジメチルフェニル基であり;最も好ましくは、メチル基、エチル基、n-プロピル基、フェニル基、4-メチルフェニル基、4-メトキシフェニル基、4-アセトキシフェニル基、4-クロロフェニル基、4-フルオロフェニル基、4-ニトロフェニル基である。
R2としては、反応性の観点から、好ましくは窒素原子、酸素原子、ケイ素原子、及びハロゲン原子からなる群より選択される少なくとも1種の原子を含んでいてもよい炭素原子数1~20の炭化水素基であり、より好ましくは窒素原子、酸素原子、ケイ素原子、及びハロゲン原子からなる群より選択される少なくとも1種の原子を含んでいてもよい、炭素原子数1~20のアルキル基若しくはアルケニル基、又は炭素原子数6~20の芳香族炭化水素基であり;さらに好ましくは、炭素原子数1~10のアルキル基若しくはアルケニル基、又は窒素原子、酸素原子、ケイ素原子、又はハロゲン原子を含む置換基を有していてもよい炭素原子数6~10の芳香族炭化水素基であり;特に好ましくは、メチル基、エチル基、n-プロピル基、n-ブチル基、n-ペンチル基、n-ヘキシル基、ビニル基、アリル基、フェニル基、4-メチルフェニル基、4-メトキシフェニル基、4-アセトキシフェニル基、4-クロロフェニル基、4-フルオロフェニル基、4-ニトロフェニル基2,4-ジメチルフェニル基であり;最も好ましくは、メチル基、エチル基、ビニル基、アリル基、又はフェニル基である。
mは1~5の整数を表す。反応性の観点から、好ましくは1~3であり、より好ましくは1又は2である。
nは1~4の整数を表す。反応性の観点から、好ましくは1~3であり、より好ましくは1又は2である。
【0015】
式(A-1)~(A-3)で表されるシリルアルキノエートとしては、好ましくは、以下の化合物1a~1rが挙げられる。
【化5】
【0016】
(5配位のケイ素種を形成し得る求核剤)
反応工程は、5配位のケイ素種を形成し得る求核剤の存在下で行う。シリルアルキノエートのケイ素原子に配位することで5配位のケイ素種を形成し得る求核剤としては、ケイ素との親和性が高く立体的に小さな求核剤が好ましく、フッ化物イオン、塩化物イオン、アルコキシドイオン又はカルボキシラートイオンがより好ましい。
【0017】
・フッ化物イオン
「フッ化物イオン」の存在下で反応工程を行う場合、フッ化物イオン(F-)源となる化合物を用いる。フッ化物イオン源としては、アルカリ金属フッ化物、四級アンモニウムフルオリド、又はフルオロシリケートが好ましい。
「アルカリ金属フッ化物」は特に限定されないが、フッ化セシウム、フッ化カリウム、フッ化ナトリウムが好ましく挙げられる。
「四級アンモニウムフルオリド」は特に限定されないが、テトラブチルアンモニウムフルオリド、テトラエチルアンモニウムフルオリド、テトラメチルアンモニウムフルオリド等のテトラアルキルアンモニウムフルオリドが好ましく挙げられる。
「フルオロシリケート」は特に限定されないが、ジフルオロトリフェニルケイ酸テトラブチルアンモニウム、ジフルオロトリメチルケイ酸トリス(ジメチルアミノ)スルホニウムが好ましく挙げられる。
【0018】
・塩化物イオン
「塩化物イオン」の存在下で反応工程を行う場合、塩化物イオン(Cl-)源となる化合物を用いる。塩化物イオン源は特に限定されないが、アルカリ金属塩化物又は四級アンモニウムクロリド等が好ましく挙げられる。
「アルカリ金属塩化物」は特に限定されないが、塩化セシウム、塩化カリウム又は塩化ナトリウムが好ましく挙げられる。
「四級アンモニウムクロリド」は特に限定されないが、テトラブチルアンモニウムクロリド、テトラエチルアンモニウムクロリド、テトラメチルアンモニウムクロリド、ジデシルジメチルアンモニウムクロリド、ヘキサデシルトリメチルクロリド等のテトラアルキルアンモニウムクロリドが好ましく挙げられる。
【0019】
・アルコキシドイオン
「アルコキシドイオン」の存在下で反応工程を行う場合、アルコキシドイオン(RO-)源となる化合物を用いる。アルコキシドイオン源は特に限定されないが、金属アルコキシドが好ましく挙げられる。またアルコキシドイオン「RO-」のRは特に限定されないが、炭素数が12以下であることが好ましく、10以下であることがより好ましい。
「金属アルコキシド」は特に限定されないが、ナトリウムtert-ブトキシド(NaOtBu)、カリウムtert-ブトキシド(KOtBu)、ナトリウムフェノキシド(NaOPh)、カリウムフェノキシド(KOPh)等のアルカリ金属アルコキシドが好ましく挙げられる。
【0020】
・カルボキシラートイオン
「カルボキシラートイオン」の存在下で反応工程を行う場合、カルボキシラートイオン(R’COO
-)源となる化合物を用いる。カルボキシラートイオン源は特に限定されないが、アルカリ金属カルボキシラート又は四級アンモニウムカルボキシラートが好ましく挙げられる。また、カルボキシラートイオン「R’COO
-」のR’は特に限定されないが、炭素数が20以下であることが好ましく、12以下であることがより好ましい。
「アルカリ金属カルボキシラート」は特に限定されないが、酢酸セシウム、酢酸カリウム、酢酸ナトリウム、ピバル酸セシウム、ピバル酸カリウム、ピバル酸ナトリウム、オクチル酸カリウム、オクチル酸ナトリウム等が挙げられ、酢酸カリウムが特に好ましい。
「四級アンモニウムカルボキシラート」は特に限定されないが、テトラブチルアンモニウムアセテート、テトラエチルアンモニウムアセテート、テトラメチルアンモニウムアセテート、テトラブチルアンモニウムベンゾエート、下記式で表される化合物等のテトラアルキルアンモニウムカルボキシラート等が挙げられ、テトラブチルアンモニウムアセテート又は下記式で表される化合物が特に好ましい。
【化6】
【0021】
反応工程における5配位のケイ素種を形成し得る求核剤の使用量(仕込量)は、式(a)で表される構造を有するシリルアルキノエートに対して物質量換算で、通常1mol%以上、好ましくは2mol%以上、より好ましくは5mol%以上であり、通常50mol%以下、好ましくは20mol%以下、より好ましくは10mol%以下である。前記範囲内であると、より効率良くアルキニルシランを生成することができる。なお、5配位のケイ素種を形成し得る求核剤は1種を用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。2種以上を併用する場合は、上記の使用量(仕込量)は合計量とする。
【0022】
(溶媒)
反応工程は、通常、溶媒中で行う。反応工程に用いられる溶媒の種類は特に限定されないが、ヘキサン、オクタン、トルエン、トリフルオロメチルベンゼン等の炭化水素系溶媒;1,2-ジクロロエタン、o-ジクロロベンゼン等のハロゲン化炭化水素系溶媒;ジエチルエーテル、ジプロピルエーテル、ジブチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル(diglym)、テトラヒドロフラン(THF)、ジオキサン等のエーテル系溶媒;アセトニトリル、プロピオニトリル、スクシノニトリル、ブチロニトリル、イソブチロニトリル、バレロニトリル、ベンゾニトリル等のニトリル系溶媒;N-メチルホルムアミド、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N-ジエチルホルムアミド、N,N-ジエチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)、ヘキサメチルリン酸トリアミド(HMPA)等のアミド系溶媒;等が挙げられる。反応性の観点から、溶媒は極性溶媒を含むことが好ましく、中でも、テトラヒドロフラン、ジエチレングリコールジメチルエーテル、アセトニトリル、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、ヘキサメチルリン酸トリアミドからなる群より選択される少なくとも1種を含むことが好ましく、アセトニトリル、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、及びヘキサメチルリン酸トリアミドからなる群より選択される少なくとも1種を含むことがより好ましい。溶媒は1種を用いてもよいし、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。また、溶媒全量に対し極性溶媒を5体積%以上含むことが好ましく、10体積%以上含むことがより好ましく、12体積%以上含むことがさらに好ましい。溶媒が極性溶媒をこの範囲で含むことにより、反応がより進行しやすくなる。
【0023】
(反応条件)
反応工程の反応温度及び反応時間は、基質に応じ適宜決定すればよい。
反応工程の反応温度は、通常20℃以上、好ましくは40℃以上、より好ましくは60℃以上であり、通常200℃以下、好ましくは180℃以下、より好ましくは150℃以下である。前記範囲内であると、より効率良くアルキニルシランを生成することができる。
反応工程の反応時間は、通常10分以上、好ましくは30分以上、より好ましくは1時間以上であり、通常48時間以下、好ましくは24時間以下、より好ましくは12時間以下である。前記範囲内であると、より効率良くアルキニルシランを生成することができる。
反応工程は、通常窒素、アルゴン等の不活性雰囲気下で行う。
反応容器はシリルアルキノエートに対して安定な材質から形成されていれば特に限定されず、例えば、ガラス製、ステンレス製、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等のフッ素樹脂製等の反応容器を用いることができる。生成したアルキニルシランの加水分解を抑制する観点から、PTFE製の反応容器が好ましい。
【0024】
(その他の工程)
本実施形態に係るアルキニルシランの製造方法においては、上記反応工程の他、任意の工程を含んでいてもよい。任意の工程としては、アルキニルシランの純度を高めるための精製工程が挙げられる。精製工程においては、ろ過、吸着、カラムクロマトグラフィー、蒸留等の有機合成分野で通常行われる精製方法を採用することができる。具体的には、反応工程後、例えば、反応混合物をシリカゲルカラムクロマトグラフィーにより精製することができる。
【0025】
(式(B-1)~(B-3)で表されるアルキニルシラン)
反応工程によって生成する式(b)で表されるアルキニルシランは、特に限定されず、製造目的に応じて適宜選択することができるが、下記式(B-1)~(B-3)の何れかで表されるアルキニルシランが好ましく挙げられる。
【化7】
【0026】
式(B-1)~(B-3)中、R1およびR2はそれぞれ独立して、水素原子、又は窒素原子、酸素原子、ケイ素原子、及びハロゲン原子からなる群より選択される少なくとも1種の原子を含んでいてもよい炭素原子数1~20の炭化水素基を、nは1~4の整数を、mは1~5の整数を表す。
R1、R2は、「式(A-1)~(A-3)のいずれかで表されるシリルアルキノエート」のものと同義である。
【0027】
式(B-1)~(B-3)で表されるアルキニルシランとしては、以下の化合物2a~2rが挙げられる。
【化8】
【実施例】
【0028】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。従って、本発明の範囲は以下に示す具体例により限定的に解釈されるべきものではない。
【0029】
【0030】
窒素雰囲気のグローブボックス内にて、表1に記載のフッ化物(5mol%)にDMF(1.0mL)を加えた。3-フェニルプロピオール酸トリイソプロピルシリル(151.2mg,0.50mmol)を加えたのち、150℃で加熱攪拌した。1時間後、反応生成物の一部を1H-NMR(600MHz)で分析した。シリルアルキノエートの転化率、アルキニルシランの収率を表1に示す。
【0031】
【表1】
*PTFE製反応容器を使用。その他はガラスバイアルを使用。
【0032】
<実施例2-1~2-6、3-1~3-8>
【化10】
【0033】
窒素雰囲気のグローブボックス内にて、ジフルオロトリフェニルケイ酸テトラブチルアンモニウム(13.5mg,5mol%)にDMF(1.0mL)を加えた。表2及び3に記載のシリルアルキノエート(0.50mmol)を加えたのち、表2及び3に記載の温度で加熱攪拌した。表2及び3に示す時間の経過後、反応混合物をジクロロメタン(0.5mL)で希釈し、ショートシリカゲルカラム(溶離液:n-ヘキサン)で精製した。エバポレーターで濃縮後、アルキニルシランが得られた。得られたアルキニルシランを1H-NMR(600MHz)で分析したところ、目的化合物が生成していることが確認された。アルキニルシランの単離収率を表2及び3に示す。
【0034】
トリメチル(フェニルエチニル)シラン
【化11】
1H NMR (600 MHz, CDCl
3): δ7.48-7.45 (m, 2H), 7.32-7.28 (m, 3H), 0.25 ppm (s, 9H)
【0035】
トリイソプロピル(フェニルエチニル)シラン
【化12】
1H NMR (600 MHz, CDCl
3): δ7.49-7.47 (m, 2H), 7.32-7.29 (m, 3H), 1.14 ppm (s, 21H)
【0036】
tert-ブチルジメチル(フェニルエチニル)シラン
【化13】
1H NMR (600 MHz, CDCl
3): δ7.51-7.48 (m, 2H), 7.34-7.28 (m, 3H), 1.02 (s, 9H), 0.20 ppm (s, 6H)
【0037】
tert-ブチルジフェニル(フェニルエチニル)シラン
【化14】
1H NMR (600 MHz, CDCl
3): δ7.90-7.86 (m, 4H), 7.64-7.59 (m, 2H), 7.45-7.33 (m, 9H), 1.16 ppm (s, 9H)
【0038】
ジメチル(フェニルエチニル)(ビニル)シラン
【化15】
1H NMR (600 MHz, CDCl
3): δ7.51-7.45 (m, 2H), 7.35-7.27 (m, 3H), 6.20 (dd, J = 20.1, 14.7 Hz, 1H), 6.06 (dd, J = 14.7, 3.8 Hz, 1H), 5.91 (dd, J = 20.1, 3.8 Hz, 1H), 0.32 ppm (s, 6H)
【0039】
アリルジメチル(フェニルエチニル)シラン
【化16】
1H NMR (600 MHz, CDCl
3): δ7.50-7.45 (m, 2H), 7.35-7.28 (m, 3H), 5.94-5.84 (m, 1H), 5.02-4.89 (m, 2H), 1.76-1.69 (m, 2H), 0.25 ppm (s, 6H)
【0040】
トリメチル(p-トリルエチニル)シラン
【化17】
1H NMR (600 MHz, CDCl
3): δ 7.40-7.34 (m, 2H), 7.13-7.08 (m, 2H), 2.35 (s, 3H), 0.26 ppm (s, 9H)
【0041】
((4-メトキシフェニル)エチニル)トリメチルシラン
【化18】
1H NMR (600 MHz, CDCl
3): δ 7.46-7.35 (m, 2H), 6.85-6.78 (m, 2H), 3.80 (s, 3H), 0.24 ppm (s, 9H)
【0042】
((4-クロロフェニル)エチニル)トリメチルシラン
【化19】
1H NMR (600 MHz, CDCl
3): δ 7.41-7.37 (m, 2H), 7.29-7.25 (m, 2H), 0.26 ppm (s, 9H)
【0043】
((4―ブロモフェニル)エチニル)トリメチルシラン
【化20】
1H NMR (600 MHz, CDCl
3): δ7.46-7.40 (m, 2H), 7.34-7.29 (m, 2H), 0.25 ppm (s, 9H)
【0044】
トリメチル((4-ニトロフェニル)エチニル)シラン
【化21】
1H NMR (600 MHz, CDCl
3): δ8.24-8.08 (m, 2H), 7.66-7.50 (m, 2H), 0.27 ppm (s, 9H)
【0045】
4-((トリメチルシリル)エチニル)フェニルアセテート
【化22】
1H NMR (600 MHz, CDCl
3): δ7.50-7.43 (m, 2H), 7.08-6.99 (m, 2H), 2.29 (s, 3H), 0.24 ppm (s, 9H)
【0046】
ジイソプロピルビス(フェニルエチニル)シラン
【化23】
1H NMR (600 MHz, CDCl
3): δ7.58-7.49 (m, 4H), 7.38-7.29 (m, 6H), 1.26-1.15 ppm (m, 14H)
【0047】
1,4―ビス((トリイソプロピルシリル)エチニル)ベンゼン
【化24】
1H NMR (600 MHz, CDCl
3): δ7.39 (s, 4H), 1.14-1.11 ppm (s, 42H)
【0048】
【0049】
【0050】
【0051】
窒素雰囲気のグローブボックス内にて、求核剤として表4に記載の金属塩もしくはテトラブチルアンモニウム塩(5mol%)にDMF(1.0mL)を加えた。3-フェニルプロピオール酸トリイソプロピルシリル(151.2mg,0.50mmol)を加えたのち、150℃で加熱攪拌した。表4に示す時間の経過後、反応生成物の一部を1H NMR(600MHz)で分析した。アルキニルシランの収率を表4に示す。
【0052】
【0053】
上記実施例1―1~1-6、実施例4-1~4-7に示されるように、様々な求核剤を用いて、シリルアルキノエートからアルキニルシランを簡便に製造できる。また、上記実施例2-1~2-6、3-1~3-8に示されるように、様々なシリルアルキノエートからアルキニルシランを簡便に製造できる。また、実施例1-5、実施例2-2に示されるように、反応時間を長くすることにより収率が向上する。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明の製造方法によって、アルキニルシランを簡便に製造することができる。製造されるアルキニルシランは、合成化学上有用なビルディングブロックであり、各種機能性材料やその原料として有用である。