(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-21
(45)【発行日】2025-03-04
(54)【発明の名称】性ホルモン非感受性GREB1陽性腫瘍の治療剤
(51)【国際特許分類】
A61K 48/00 20060101AFI20250225BHJP
A61K 31/7105 20060101ALI20250225BHJP
A61K 31/713 20060101ALI20250225BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20250225BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20250225BHJP
C12N 15/113 20100101ALI20250225BHJP
C12Q 1/68 20180101ALI20250225BHJP
C12Q 1/6886 20180101ALI20250225BHJP
G01N 33/48 20060101ALI20250225BHJP
G01N 33/53 20060101ALI20250225BHJP
G01N 33/574 20060101ALI20250225BHJP
【FI】
A61K48/00 ZNA
A61K31/7105
A61K31/713
A61P35/00
A61P43/00 111
C12N15/113 110Z
C12Q1/68
C12Q1/6886 Z
G01N33/48 M
G01N33/53 Y
G01N33/574 A
G01N33/574 D
G01N33/574 Z
(21)【出願番号】P 2021520872
(86)(22)【出願日】2020-05-22
(86)【国際出願番号】 JP2020020274
(87)【国際公開番号】W WO2020235671
(87)【国際公開日】2020-11-26
【審査請求日】2023-04-17
(31)【優先権主張番号】P 2019097051
(32)【優先日】2019-05-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(74)【代理人】
【識別番号】100124431
【氏名又は名称】田中 順也
(74)【代理人】
【識別番号】100174160
【氏名又は名称】水谷 馨也
(74)【代理人】
【識別番号】100175651
【氏名又は名称】迫田 恭子
(72)【発明者】
【氏名】菊池 章
(72)【発明者】
【氏名】松本 真司
(72)【発明者】
【氏名】山道 拓
【審査官】菊池 美香
(56)【参考文献】
【文献】特表2018-507866(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 48/00
A61K 31/7105
A61K 31/713
A61P 35/00
A61P 43/00
C12N 15/113
C12Q 1/68
C12Q 1/6886
G01N 33/48
G01N 33/53
G01N 33/574
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
性ホルモン感受性を示さないGREB1陽性腫瘍の治療剤であって、
GREB1の発現を抑制する物質を有効成分として含み、
前記物質が、GREB1に対するsiRNA、shRNA、dsRNA、アンチセンス核酸、及びリボザイムよりなる群から選択される少なくとも1種の核酸医薬であり、
前記腫瘍が、肝芽腫、肝細胞がん、悪性黒色腫、又は神経芽腫である、前記治療剤。
【請求項2】
性ホルモン感受性を示さないGREB1陽性腫瘍の罹患の有無を予測するための検査方法であって、
被験者から採取された肝臓組織、皮膚組織、又は神経組織において、GREB1の発現量を、抗GREB1抗体又はその断片、及びGREB1 mRNA又はGREB1 cDNAとハイブリダイズできるプライマーよりなる群から選択される少なくとも1種によって測定する工程を含み、
前記腫瘍が、肝芽腫、肝細胞がん、悪性黒色腫、又は神経芽腫であ
り、
前記測定が免疫染色により行われ、腫瘍が疑われる領域においてGREB1の発現が認められる領域が5%以上存在する場合に前記腫瘍に罹患している可能性が高いことを示す;或いは、前記測定が定量的PCRにより行われ、腫瘍が疑われる部位の細胞溶解液におけるGREB1量が、同一症例の非腫瘍部位の細胞溶解液におけるGREB1量よりも多い場合に前記腫瘍に罹患している可能性が高いことを示す、前記検査方法。
【請求項3】
請求項2に記載の検査方法に用いるための検査薬であって、
GREB1の検出試薬として、抗GREB1抗体又はその断片、及びGREB1 mRNA又はGREB1 cDNAとハイブリダイズできるプライマーよりなる群から選択される少なくとも1種を含む、前記検査薬。
【請求項4】
GREB1の発現を抑制する物質の、性ホルモン感受性を示さないGREB1陽性腫瘍の治療剤の製造のための使用であり、
前記物質が、GREB1に対するsiRNA、shRNA、dsRNA、アンチセンス核酸、及びリボザイムよりなる群から選択される少なくとも1種の核酸医薬であり、
前記腫瘍が、肝芽腫、肝細胞がん、悪性黒色腫、又は神経芽腫である、前記使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、性ホルモン非感受性GREB1(Growth regulation by estrogen in breast cancer)陽性腫瘍(性ホルモンに感受性を示さないGREB1陽性腫瘍)の治療剤に関する。更に、本発明は、GREB1の発現量を指標とする肝芽腫、肝細胞がん、悪性黒色腫、及び神経芽腫の検査方法に関する。
【背景技術】
【0002】
肝芽腫は、小児の肝臓に発症する悪性腫瘍で、3歳までに発症することが多く、4歳未満の小児における肝悪性腫瘍の約90%を占めている。日本国内では、肝芽腫は年間40~30名が発症し、世界的には100万人に1人程度の発症頻度であり、希少がんに位置付けられている。肝芽腫の発症病因は不明であるが、その7割近くにβ-カテニンの分解に関わるエクソン3を含む領域の欠失又は活性化変異を認め、また、β-カテニンが蓄積する家族性腺種性大腸ポリポーシス(FAP)の家系でも好発することから、Wntシグナルの活性化が病態に関与していると考えられている。
【0003】
肝芽腫では、完全切除の有無が予後に影響するため、術後病期分類により治療方針が選択されている。完全切除の病期(ステージ)Iでは予後が良好であるが、遠隔転移の病期IVでは5年無病生存率は36%にまで低下する。従来、肝芽腫の治療は、化学療法と外科的切除を組み合わせて行われている。化学療法については、シスプラチンを含むレジメンが標準的治療として確立されているが、骨髄機能抑制や腎機能障害等の重篤な副作用が問題となっている。
【0004】
一方、GREB1は、乳がん細胞においてエストロゲンによって誘導される遺伝子の1つとして発見され(非特許文献1参照)、エストロゲンレセプターα(ERα)によって直接的に発現誘導され、ERα陽性乳がん細胞で高発現されるが、ERα陰性細胞では発現されないことが報告されている。ERαは、GREB1遺伝子のプロモーター領域に結合し、GREB1を発現し、ERαと直接相互作用することにより、その転写活性を活性化することが報告されている(非特許文献2参照)。実際、GREB1 mRNAの発現量は、乳がんにおけるERα発現量と相関していることも報告されている(非特許文献2参照)。更に、GREB1のノックダウンは乳がん細胞の増殖を抑制し、GREB1の過剰発現は乳がん細胞の増殖を促進することも分かっている(非特許文献3参照)。更に、GREB1は、ERα陰性細胞では発現せず、ERα陽性卵巣がん細胞で発現し、卵巣がん細胞増殖にGREB1が重要な役割を果たしていることも報告されている(非特許文献4参照)。GREB1プロモーター領域はアンドロゲン応答配列を有するため、アンドロゲン受容体(AR)陽性前立腺がん細胞ではアンドロゲンによってGREB1が誘発されるが、AR陰性細胞では誘導されない(非特許文献5参照)。このように、GREB1は、性ホルモン感受性腫瘍の増殖に関するメディエーターになっている。
【0005】
しかしながら、GREB1の発現が性ホルモン感受性腫瘍以外の腫瘍形成に関与しているか否かは依然として解明されていない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【文献】Cancer Res. Nov 15;60(22):6367-75.
【文献】Cell Rep. 2013 Feb 21;3(2):342-9.
【文献】Breast Cancer Res Treat. 2005 Jul;92(2):141-9.
【文献】Int J Cancer. 2014 Sep 1;135(5):1072-84.
【文献】Prostate. 2006 Jun 1;66(8):886-94.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、新規の腫瘍治療剤を提供することである。また、本発明の他の目的は、肝芽腫、肝細胞がん、悪性黒色腫、及び神経芽腫の罹患の有無を予測するための検査方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者等は、前記課題を解決すべく鋭意検討を行ったところ、肝芽腫細胞、肝がん細胞、悪性黒色腫細胞、神経芽腫細胞等では、エストロゲンやアンドロゲンのような性ホルモンによって増殖が促進されないが、GREB1が発現している腫瘍細胞が存在しており、このような特性を有する腫瘍細胞(即ち、性ホルモン感受性を示さないGREB1陽性腫瘍)の増殖には、GREB1が関与していることを見出した。具体的には、性ホルモン感受性を示さないGREB1陽性腫瘍の内、肝芽腫と肝細胞がんではGREB1がWnt/β-カテニンシグナルの標的遺伝子になっており、悪性黒色腫ではGREB1が転写因子MITF(Microphthalmia-associated transcription factor)の標的遺伝子になっており、神経芽腫ではGREB1が遺伝子増幅しているることを見出した。また、性ホルモン非感受性GREB1陽性腫瘍は、GREB1に対するsiRNAやアンチセンスオリゴヌクレオチドによって増殖が抑制されることを見出した。更に、また、免疫化学的検討から、肝芽腫、肝細胞がん、悪性黒色腫、及び神経芽腫において、腫瘍組織特異的にGREB1が発現していることを見出した。本発明は、これらの知見に基づいて、更に検討を重ねることにより完成したものである。
【0009】
即ち、本発明は、下記に掲げる態様の発明を提供する。
項1. GREB1の発現を抑制する物質を有効成分とする、性ホルモン非感受性GREB1陽性腫瘍の治療剤。
項2. 前記物質が、GREB1に対するsiRNA、shRNA、dsRNA、アンチセンス核酸、及びリボザイムよりなる群から選択される少なくとも1種の核酸医薬である、項1に記載の治療剤。
項3. 前記腫瘍が、肝芽腫、肝細胞がん、悪性黒色腫、又は神経芽腫である、項1又は2に記載の治療剤。
項4. 肝芽腫、肝細胞がん、悪性黒色腫、又は神経芽腫の罹患の有無を予測するための検査方法であって、
被験者から採取された肝臓組織、皮膚組織、又は神経組織において、GREB1の発現量を測定する工程を含む、検査方法。
項5. 前記織肝臓組織、皮膚組織、又は神経組織におけるGREB1の発現量を、抗GREB1抗体を用いた組織免疫によって測定する、項4に記載の検査方法。
項6. GREB1を検出するための試薬を含む、肝芽腫の検査薬。
項7. GREB1を検出するための試薬が、抗GREB1抗体又はその断片、或はGREB1 mRNA又はGREB1 cDNAとハイブリダイズできるプライマーである、項6に記載の検査薬。
項8. 性ホルモン非感受性GREB1陽性腫瘍を罹患している患者に、GREB1の発現を抑制する物質を治療有効量投与する、性ホルモン非感受性GREB1陽性腫瘍の治療方法。
項9. 前記腫瘍が、肝芽腫、肝細胞がん、悪性黒色腫、又は神経芽腫である、項9に記載の治療方法。
項10. GREB1の発現を抑制する物質の、性ホルモン非感受性GREB1陽性腫瘍の治療剤の製造のための使用。
項11. 前記腫瘍が、肝芽腫、肝細胞がん、悪性黒色腫、又は神経芽腫である、項10に記載の使用。
項12. 性ホルモン非感受性GREB1陽性腫瘍の治療に使用される、GREB1の発現を抑制する物質。
項13. 前記腫瘍が、肝芽腫、肝細胞がん、悪性黒色腫、又は神経芽腫である、項12に記載のGREB1の発現を抑制する物質。
【発明の効果】
【0010】
本発明の治療剤は、性ホルモン非感受性GREB1陽性腫瘍において、GREB1がWnt/β-カテニンシグナルの下流標的遺伝子になっているという新たな知見に基づいて完成したものであり、GREB1を標的分子として、その発現を抑制することによって、効果的に当該腫瘍細胞の増殖を抑制することができる。性ホルモン非感受性GREB1陽性腫瘍としては、例えば、肝芽腫、肝細胞がん、悪性黒色腫、神経芽腫等がある。例えば、肝芽腫は、小児特異的疾患であって発生頻度も低い希少がんであることから、従来、化学療法薬や分子標的薬の開発は十分に進んでいなかったが、本発明の一形態によれば、肝芽腫に対する優れた分子標薬を提供することが可能になる。また、遺伝子発現データベースを用いた解析から、GREB1は他の主要正常組織では発現が極めて限局的であることが分かっているので、GREB1を分子標的にしている本発明の治療剤は、副作用の少ない点でも革新的といえる。
【0011】
また、本発明の検査方法によれば、腫瘍性疾患が疑われる生検標本や手術切除標本におけるGREB1の発現量を指標とすることにより、早期の肝芽腫、肝細胞がん、悪性黒色腫、又は神経芽腫の診断、また手術切除標本の場合にはこれらの腫瘍の組織的進展範囲の診断に応用できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】aは、肝芽腫細胞を用いて、Wnt/β-カテニンシグナル伝達の下流にある標的遺伝子のmRNA発現解析を行った図である。 bは、ヒトGREB1遺伝子上流にあるTCF4結合配列(-443~-448)を示す図、及びHepG2細胞由来のクロマチンを、所定の抗体で免疫沈降させ、TCF4結合部位(-443~-448)について領域特異的プライマーを用いてPCRにより分析した結果を示す図である。 cは、コントロールsiRNA又はβカテニンに対するsiRNAをトランスフェクトしたHepG2細胞について、リアルタイムPCR分析にてGREB1 mRNAの発現量を測定した結果を示す図(左)と、その細胞溶解液に抗GREB1抗体、抗Axin2抗体、抗β-カテニン抗体、及び抗HSP90抗体でプローブ化した結果を示す図(右)である。 dは、肝芽腫組織(n=11)を抗GREB1抗体及びヘマトキシリンで免疫染色した結果を示す図、並びに腫瘍病変部位の総面積に対してGREB1の免疫染色によって染色された面積の割合3つのカテゴリー(<5%、5-30%、及び30-95%)に分類した結果を示す図である。 eは、肝芽腫組織の標本を、抗GREB1抗体又は抗β-カテニン抗体、及びヘマトキシリンで免疫染色した結果を示す図であり、実線のボックスはβ-カテニンの染色の程度が高い領域、点線のボックスはβ-カテニンの染色の程度が低い領域である。 fは、肝芽腫(GEO ID:gse75271)のmRNAプロファイルデータセット中の55症例を用いて、50の腫瘍病変部位及び5つの非腫瘍領域についてGREB1 mRNA発現量を分析した結果を示す図である。 gは、肝芽腫(GEO ID:gse75271)のmRNAプロファイルデータセット中の55症例を用いて、Wnt/β-カテニン経路の標的遺伝子の発現量(Y軸)とGREB1遺伝子の発現量(X軸)との相関を分析した結果を示す図である。
【
図2】aは、HepG2細胞をエストロゲン受容体アンタゴニストICI-182,786で処理した後に、リアルタイムPCRにてGREB1 mRNAの発現量を測定した結果を示す図である。 bは、BMEL細胞を終濃度5μMのGSK3阻害剤CHIR99021(Wnt/β-カテニン経路活性化剤)で処理した後に、リアルタイムPCRにてGREB1 mRNAの発現量を測定した結果を示す図である。 cは、Huh6細胞にβ-カテニンに対するsiRNAを導入した後、リアルタイムPCRにてGREB1 mRNAとβ-カテニン mRNAの発現量を測定した結果を示す図である。 dは、HepG2細胞とHuh6細胞について、リアルタイムPCRにてGREB1 mRNAの発現量を測定した結果を示す図である。 eは、MCF7細胞をエストロゲン受容体アンタゴニストICI-182,786、CHIR99021、又はそれらを組み合わせて処理した後に、リアルタイムPCRにてGREB1とAxin2 mRNAの発現量を測定した結果を示す図である。 fは、肝細胞がん細胞株であるHLE、SNU387、SNU449、及びHuh7細胞を終濃度5μMのCHIR99021で処理した後に、リアルタイムPCRにてGREB1 mRNAの発現量を測定した結果を示す図である。 gは、肝芽腫組織(n=11)を抗β-カテニン抗体及びヘマトキシリンで免疫染色した結果を示す図、並びに腫瘍病変部位の総面積に対してβ-カテニンの免疫染色によって染色された面積の割合3つのカテゴリー(<5%、5-30%、及び30-95%)に分類した結果を示す図である。 hは、肝芽腫組織の標本を抗GREB1抗体及びヘマトキシリンで免疫染色した結果を示す図、実線のボックスはGREB1の染色程度が高い領域(充実性で非極性化)、点線のボックスはGREB1の染色程度が低い領域(管状で極性化)である。 iは、肝芽腫(GEO ID:gse75271)のmRNAプロファイルデータセット中の55症例を用いて、エストロゲンシグナル経路の標的遺伝子の発現量(Y軸)とGREB1遺伝子の発現量(X軸)との相関を分析した結果を示す。 jは、肝芽腫(GEO ID:gse75271)のmRNAプロファイルデータセット中の55症例を用いて、β-カテニン遺伝子のエクソン3及び4が野生型(n=3)、点変異(n=19)、または欠失(n=28)を有する症例におけるGREB1mRNA、GS mRNA、またはLGR5 mRNAの発現量を分析した結果を示す図である。
【
図3】aは、HepG2細胞又はGREB1を発現させたHepG2細胞(HepG2/GREB1)にコントロールsiRNA又はβ-カテニンに対するsiRNAをトランスフェクトし、二次元培養(プラスチックディッシュでの培養)を行い、細胞数を経時的に測定した結果を示す図である。 bは、HepG2細胞にコントロールsiRNA又は2つの異なるsiRNA(GREB1 #1 siRNA及びGREB1 #2 siRNA)をトランスフェクトし、その細胞溶解液に抗GREB1抗体、抗Axin2抗体、抗β-カテニン抗体、及び抗HSP90抗体でプローブ化した結果を示す図である。 cは、コントロールsiRNA又はsiRNA(GREB1 #2 siRNA)をトランスフェクトしたHepG2細胞におけるGREB1 mRNA量、PRLR mRNA量及びXBP1 mRNA量をリアルタイムPCRにより分析した結果を示す図である。 dは、肝芽腫(GEO ID:gse75271)のmRNAプロファイルデータセット中の55症例を用いて、肝芽腫特異的マーカー遺伝子の発現量(Y軸)とGREB1遺伝子の発現量(X軸)との相関を分析した結果を示す。 eは、GFP又はGFP-GREB1を発現するHuh6細胞を二次元培養(プラスチックディッシュで培養)し、細胞数を経時的に測定した結果を示す図である。 fは、mock又はGREB1を発現するHuh6細胞を三次元培養(マトリゲルで培養)し、形成されたスフェアのサイズを測定した結果を示す図である。 gは、HepG2細胞、GREB1をノックアウトしたHepG2細胞(GREB1 KO HepG2)、又はGFP-GREB1を発現させたGREB1 KO HepG2細胞(GREB1 KO HepG2/GREB1)の細胞溶解液に対して、抗GREB1抗体、抗GFP抗体、及び抗HistoneH3抗体でプローブ化した結果を示す図である。 hは、HepG2細胞(Control)、GREB1をノックアウトしたHepG2細胞(GREB1 KO)、又はGREB1を発現させたGREB1 KO HepG2細胞(GREB1 KO/GREB1)を二次元培養(プラスチックディッシュで培養)し、細胞数を経時的に測定した結果を示す図である。 iは、HepG2細胞、GREB1をノックアウトしたHepG2細胞(GREB1 KO)、又はGREB1を発現させたGREB1 KO HepG2細胞(GREB1 KO/GREB1)におけるDLK1 mRNA量、及びAFP mRNA量をリアルタイムPCRにより分析した結果を示す図である。 jは、HepG2細胞、GREB1をノックアウトしたHepG2細胞(GREB1 KO)、又はGREB1を発現させたGREB1 KO HepG2細胞(GREB1 KO/GREB1)の細胞溶解液に対して、抗CyclinA抗体、抗リン酸化HistoneH3(pHistoneH3)抗体、及び抗HistoneH3抗体でプローブ化した結果を示す図である。
【
図4】aは、mock又はGREB1を導入したHepG2細胞に、コントロールsiRNA又はGREB1に対する2つの異なるsiRNA(GREB1 #1 siRNA及びGREB1 #2 siRNA)をトランスフェクトして、二次元培養(プラスチックディッシュでの培養)を行い、細胞数を経時的に測定した結果を示す図である。 bは、コントロールsiRNA又はsiRNA(GREB1 #2 siRNA)をトランスフェクトしたHepG2細胞を三次元マトリゲル中で5日間培養し、細胞をファロイジンで染色し、スフェアの面積、及び内腔を有する極性化したスフェアの割合を求めた結果を示す図である。 cは、コントロールsiRNA又はGREB1に対するsiRNA(GREB1 #2 siRNA)をトランスフェクトしたHepG2細胞について、リアルタイムPCR分析にてGREB1 mRNA、DLK1 mRNA、AFP mRNA、及びPEG3 mRNAの発現量を測定した結果を示す図である。 dは、コントロールsiRNA又はGREB1に対する2つの異なるsiRNA(GREB1 #1 siRNA及びGREB1 #2 siRNA)をトランスフェクトしたHepG2細胞を0.1% FBSを含む培地で1日間培養し、その細胞溶解液を、抗cyclinA抗体、抗cyclinB抗体、抗リン酸化ヒストンH3抗体、抗ヒストンH3抗体、抗GREB1抗体、及び抗HSP90抗体でプローブ化した結果を示す図である。 eは、肝芽腫(GEO ID:gse75271)のmRNAプロファイルデータセット中の55症例を用いて、細胞増殖のマーカー遺伝子(Y軸)とGREB1遺伝子の発現量(X軸)との相関を分析した結果を示す図である。 fは、HepG2細胞にコントロールsiRNA又はGREB1に対する2つの異なるsiRNA(GREB1 #1siRNA及びGREB1 #2 siRNA)をトランスフェクトし、0.1% FBSを含む培地(カスパーゼ阻害剤Z-VADを含む場合と含まない場合)で2日間培養し、ヨウ化プロピジウム(PI)及びHoechst33342で染色し、細胞の生存率を求めた結果を示す図である。 gは、HepG2細胞にコントロールsiRNA又はGREB1に対する2つの異なるsiRNA(GREB1 #1 siRNA及びGREB1 #2 siRNA)をトランスフェクトして2日間培養し、その細胞溶解液を、抗cleaved caspase 3抗体、抗PARP1抗体、及び抗HSP90抗体でプローブ化した結果を示す図である。
【
図5】aは、野生型GREB1、及びGREB1ΔNLS変異体の模式図、並びにHA-FLAG-GREB1ΔNLS変異体を発現するX293T細胞を抗FLAG抗体、ファロイジン、及びHoechst33342で染色した結果を示す図である。 bは、HA-FLAG-GREB1野生型又はHA-FLAG-GREB1ΔNLS変異体、及びGFP、GFP-Smad3、GFP-Smad4、又はGFP-Smad7を発現するX293Tの細胞溶解液(Input)、及び抗GFP抗体による免疫沈降物(IP)に対して、抗HA抗体又は抗GFP抗体でプローブ化した結果を示す図である。 cは、HepG2の細胞溶解液(Input)及び抗Smad2/3抗体による免疫沈降物(IP)に対して、抗Smad2/3抗体及び抗GREB1抗体でプローブ化した結果を示す図である。 dは、Smad2、及びSmad2変異体(N及びC)の模式図、並びにHA-FLAG-mGREB1及びGFP、又はGFP-Smad2(Full、変異体N、又は変異体C)を発現するX293T細胞の溶解液(Input)及び抗GFP抗体による免疫沈降物(IP)に対して、抗FLAG抗体又は抗GFP抗体でプローブ化した結果を示す図である。 eは、HepG2細胞の溶解液をリコンビナントGST、リコンビナントGST-Smad2/MH1、又はリコンビナントGST-Smad2/MH2を用いて沈降し、細胞溶解液(Input)及びglutathione-sepharoseによる沈降物(pulldown)に対して、CBB染色、又は抗GREB1抗体及び抗Smad4抗体でプローブ化した結果を示す図である。 fは、GREB1変異体(1-666:N、NLS/667-1333:M、及びNLS/1334-1954:C)の模式図、並びにGFP-GREB1変異体を発現するX293T細胞を抗GFP抗体及びHoechst33342で染色した結果を示す図である。 gは、FLAG-Smad3及びGFP、GFP-GREB1、又はGFP-GREB1変異体を発現するX293T細胞の溶解液(Input)及び抗GFP抗体による免疫沈降物(IP)に対して、抗FLAG抗体又は抗GFP抗体でプローブ化した結果を示す図である。
【
図6】aは、GFP-Smad3、GFP-Smad4、又はGFP-Smad7を発現するX293T細胞を抗GFP抗体及びHoechst33342で染色した結果を示す図である。 bは、GFP-GREB1を発現させたHuh6の細胞溶解液(Input)及び抗Smad2/3抗体による免疫沈降物(IP)に対して、抗Smad2/3抗体及び抗GFP抗体でプローブ化した結果を示す図である。 cは、GFP、GFP-Smad3、GFP-Smad4、又はGFP-Smad7を発現するX293Tの細胞溶解液(Input)、及び抗GFP抗体による免疫沈降物(IP)に対して、抗β-カテニン抗体、抗c-Myc抗体、又は抗GFP抗体でプローブ化した結果を示す図である。 dは、GFP-GREB1を発現させたHuh6細胞の溶解液をリコンビナントGST、リコンビナントGST-Smad2/MH1、又はリコンビナントGST-Smad2/MH2を用いて沈降し、細胞溶解液(Input)及びglutathione sepharoseによる沈降物(pulldown)に対して、CBB染色、又は抗GFP抗体でプローブ化した結果を示す図である。 eは、GREB1の変異体(NSL/667-195(ΔN)、Δ667-1333(ΔM)、NSL/1-133(ΔC))の模式図、並びに、FLAG-Smad3及びGFP、GFP-GREB1、又はGFP-GREB1変異体(NSL/667-195(ΔN)、Δ667-1333(ΔM)、NSL/1-1333(ΔC))を発現するX293T細胞の溶解液(Input)及びGFP抗体による免疫沈降物(IP)に対して、抗FLAG抗体又は抗GFP抗体でプローブ化した結果を示す図である。
【
図7】aは、肝芽腫(GEO ID:gse75271)のmRNAプロファイルデータセット中の55症例を用いて、50の腫瘍病変部位及び5つの非腫瘍領域についてPAI-1 mRNA及びGADD45B mRNA発現量を分析した結果を示す図である。 bは、肝芽腫(GEO ID:gse75271)のmRNAプロファイルデータセット中の55症例を用いて、TGFβシグナルの標的遺伝子の発現量(Y軸)とGREB1遺伝子の発現量(X軸)との相関を分析した結果を示す図である。 cは、GFPを発現するHepG2細胞(HepG2/GFP)、又はGFP-GREB1を発現するHepG2細胞(HepG2/GFP-GREB1)に、コントロールsiRNA又はGREB1 #2 siRNAをトランスフェクトし、細胞内のPAI-1及びSNAIL2のmRNA量を測定した結果を示す図である。 dは、HepG2細胞に、コントロールsiRNA又はGREB1 #2 siRNAをトランスフェクトし、TGFβ受容体阻害剤(ALK5 inhibitor)存在下又は非存在下で培養し、細胞内のPAI-1及びSNAIL2のmRNA量を測定した結果を示す図である。 eは、コントロールsiRNA又はGREB1 #2 siRNAをトランスフェクトしたHepG2細胞の溶解液(Input)及び抗Smad2/3抗体による免疫沈降物(IP)に対して、抗p300抗体、抗GREB1抗体、又は抗Smad2/3抗体でプローブ化した結果を示す図である。 fは、HA-FLAG-GREB1、GFP-Smad2変異体(C)、又はGFPを発現するX293T細胞の溶解液(Input)及びGFP抗体による免疫沈降物(IP)に対して、抗p300抗体、抗FLAG抗体、又は抗GFP抗体でプローブ化した結果を示す図である。 gは、コントロールsiRNA又はGREB1 #2 siRNAをトランスフェクトしたHepG2細胞を、TGFβ存在下又は非存在下で培養し、培養後の細胞の溶解液(Input)及び免疫沈降物(IP)に含まれるPAI-1のエクソン2領域について領域特異的プライマーを用いたPCRによって分析した結果を示す図である。 hは、HepG2細胞に対して図示する各プラスミドをトランスフェクションし、リアルタイムPCRにてSNAIL2 mRNA、p15 mRNA、又はAxin2 mRNAの発現量を測定した結果を示す図である。 iは、コントロールsiRNA、TGFβ1 siRNA、GREB1 siRNA(GREB1 #2 siRNA)又はTGFβ1 siRNAとGREB1 siRNA(GREB1 #2 siRNA)を組み合わせてトランスフェクトしたHepG2細胞について、二次元培養を行い、細胞数を経時的に測定した結果である。 jは、HepG2細胞及びSmad2/3をノックアウトしたHepG2細胞(HepG2/Smad2/3 KO)にコントロールsiRNA、又はGREB1 siRNA(GREB1#2 siRNA)をトランスフェクトし、二次元培養を行い、細胞数を経時的に測定した結果を示す図である。
【
図8】aは、肝芽腫(GEO ID:gse75271)のmRNAプロファイルデータセット中の55症例を用いて、50の腫瘍病変部位及び5つの非腫瘍領域についてAxin2 mRNA及びDKK1 mRNA発現量を分析した結果を示す図である。 bは、HepG2細胞(Control)、GREB1をノックアウトしたHepG2細胞(GREB1 KO)、又はGREB1を発現させたGREB1 KO HepG2細胞(GREB1 KO/GREB1)におけるPAI-1 mRNA量をリアルタイムPCRにより分析した結果を示す図である。 cは、コントロールsiRNA又はGREB1に対するsiRNA(GREB1 #2 siRNA)をトランスフェクトしたHepG2細胞を10ng/mLのTGFβ存在下又は非存在下で30分間培養後、細胞を抗Smad2/3抗体及びHoechst33342で染色した結果を示す図である。 dは、コントロールsiRNA又はGREB1に対するsiRNA(GREB1 #2 siRNA)をトランスフェクトしたHepG2細胞をTGFβ存在下又は非存在下で培養し、細胞の溶解液(Input)及び抗Smad2/3抗体による免疫沈降物(IP)に対して、抗Smad4抗体又は抗Smad2/3抗体でプローブ化した結果を示す図である。 eは、コントロールsiRNA又はGREB1に対するsiRNA(GREB1 #2 siRNA)をトランスフェクトしたHepG2細胞をTGFβ存在下又は非存在下で培養し、細胞の溶解液を抗GREB1抗体、抗リン酸化Smad2/3(pSmad2/3)抗体、又は抗Smad2/3抗体でプローブ化した結果を示す図である。 fは、HepG2細胞にTGFBR1/T204D変異体を発現し、AFP mRNA及びDLK1 mRNA量をリアルタイムPCRにより分析した結果を示す図である。 gは、HepG2細胞、及びSmad2/3をノックアウトしたHepG2細胞(HepG2/Smad2/3 KO)の溶解液を抗Smad2/3抗体、又は抗HSP90抗体でプローブ化した結果を示す図である。 hは、HepG2細胞、及びSmad2/3をノックアウトしたHepG2細胞(HepG2/Smad2/3 KO)にコントロールsiRNA又はGREB1に対するsiRNA(GREB1 #2 siRNA)をトランスフェクトし、AFP mRNA量をリアルタイムPCRにより分析した結果を示す図である。
【
図9】aは、Cancer Cell Line Encyclopedia (CCLE)のmRNAプロファイルデータセット中のHepG2のRNAシークエンスデータを用いて、TGFβ1、TGFB2、又はTGFB3の遺伝子発現量を分析した結果を示す図である。 bは、コントロールsiRNA、TGFβ1 siRNA、GREB1 siRNA(GREB1 #2 siRNA)又はTGFβ1とGREB1(GREB1 #2 siRNA)のsiRNAを組み合わせてトランスフェクトしたHepG2細胞におけるPAI-1 mRNA量、TGFB1 mRNA量及びGREB1 mRNA量をリアルタイムPCRにより分析した結果を示す図である。 cは、コントロールsiRNA、TGFβ1 siRNA、GREB1 siRNA(GREB1 #2 siRNA)、又はTGFβ1とGREB1(GREB1 #2 siRNA)のsiRNAを組み合わせてトランスフェクトしたHepG2細胞の溶解液を、抗GREB1抗体、抗TGFB1抗体、又は抗HSP90抗体でプローブ化した結果を示す図である。 dは、コントロールsiRNA、TGFβ1 siRNA、又はTGFβ1 siRNAとGREB1 siRNA(GREB1 #2 siRNA)を組み合わせてトランスフェクトしたHepG2細胞を0.01, 0.1, 又は1 ng/ml濃度のTGFβ存在下又は非存在下で4時間培養後、PAI-1 mRNA量をリアルタイムPCRにより分析した結果を示す図である。 eは、コントロールsiRNA又はGREB1に対するsiRNA(GREB1 #2 siRNA)をトランスフェクトしたHepG2細胞におけるp15 mRNA量、p21 mRNA量、及びp27 mRNA量をリアルタイムPCRにより分析した結果を示す図である。 fは、HepG2細胞及びSmad2/3をノックアウトしたHepG2細胞(HepG2/Smad2/3 KO)にコントロールsiRNA又はGREB1に対するsiRNA(GREB1 #2siRNA)をトランスフェクトし、p15 mRNA量をリアルタイムPCRにより分析した結果を示す図である。 gは、コントロールsiRNA、GREB1 siRNA(GREB1 #2 siRNA)、p15 siRNA、又はGREB1(GREB1 #2 siRNA)とp15のsiRNAを組み合わせてトランスフェクトしたHepG2細胞の二次元培養(プラスチックディッシュでの培養)を行い、細胞数を経時的に測定した結果を示す図である。 hは、コントロールsiRNA、GREB1 siRNA(GREB1 #2 siRNA)、p15 siRNA、又はGREB1(GREB1 #2 siRNA)とp15のsiRNAを組み合わせてトランスフェクトしたHepG2細胞を0.1% FBSを含む培地(カスパーゼ阻害剤Z-VADを含む場合と含まない場合)で2日間培養し、ヨウ化プロピジウム(PI)及びHoechst33342で染色し、細胞の生存率を求めた結果を示す図である。 iは、MCF7細胞をエストロゲン受容体アンタゴニストICI-182,786で処理した後に、リアルタイムPCRにてPAI-1 mRNA及びGREB1 mRNAの発現量をリアルタイムPCRにて測定した結果を示す図である。 jは、MCF7細胞にコントロールsiRNA又はGREB1に対するsiRNA(GREB1 #2 siRNA)をトランスフェクトし、PAI-1 mRNA又はGREB1 mRNA量をリアルタイムPCRにより分析した結果を示す図である。 kは、MCF7の細胞溶解液(Input)及び抗Smad2/3抗体による免疫沈降物(IP)に対して、抗Smad2/3抗体及び抗GREB1抗体でプローブ化した結果を示す図である。
【
図10】aは、GFP-GREB1を発現するHepG2細胞を固定化して、抗GFP抗体及びHoechst33342で染色した結果を示す図である。 bは、GFP-GREB1を発現するHepG2細胞を固定化して、抗GFP抗体、抗Fibrillarin抗体、抗SC35抗体、抗PML抗体又は抗Coilin抗体と、Hoechst33342で染色した結果を示す図である。 cは、GFP-GREB1及びFLAG-SMAD3を発現するHepG2細胞を固定化して、抗GFP抗体、抗FLAG抗体及びHoechst33342で染色した結果を示す図である。 dは、HepG2細胞をエチニルウリジン(EU)存在下で30分間インキュベートした後に、細胞を固定化して観察した結果を示す図である。
【
図11】aは、HepG2細胞を10ng/mLのTGFβ存在下又は非存在下で30分間培養し、培養後の細胞を固定化して抗SMAD2/3抗体、抗GREB抗体、及びHoechst33342で染色した結果を示す図である。 bは、HepG2細胞をTGFβ存在下又は非存在下で培養し、培養後の細胞を固定化して抗GREB1抗体、抗リン酸化SMAD2/3(pSMAD2/3)抗体、及びHoechst33342で染色した結果を示す図である。 cは、HepG2細胞をTGFβ存在下又は非存在下で培養し、培養後の細胞を固定化し、マウス抗GREB1抗体及びウサギ抗SMAD2/3抗体を反応させ、更に二次抗体(PLAプローブ)を結合させた結果を示す図(左)と、核に点状のPLAシグナルを有する細胞の割合を示した図(右)である。 dは、GFPを結合させたGREB1変異体(1-666:N、NLS/667-1333:M、及びNLS/1334-1954:C)を発現するX293T細胞を抗GFP抗体で染色した結果を示す図である。 eは、GFP-SMAD3を発現し、且つHA-FLAG-GREB1を発現又は非発現のHepG2細胞をエチニルウリジン(EU)存在下でインキュベートした後に、細胞を固定化して抗GFP抗体、抗GREB1抗体、及びHoechst33342で染色した結果を示す図である。
【
図12】aは、肝芽腫組織(n=11)を抗β-カテニン抗体及びヘマトキシリンで免疫染色した結果を示す図、並びに腫瘍病変部位の総面積に対してβ-カテニンの免疫染色によって染色された面積の割合3つのカテゴリー(<5%、5-30%、及び30-95%)に分類した結果を示す図である。 bは、ΔN90βカテニン及びYAPS127A(BYモデル)、ΔN90βカテニン及びc-Met(BM)モデル、又はΔN90βカテニン、YAPS127A、及びc-Met(BYMモデル)を導入したマウスから分離された肝臓の組織切片について、抗GREB1抗体又は抗DLK1抗体とヘマトキシリンで染色した結果、及び肝臓を観察した結果を示す図である。 cは、ΔN90βカテニン及びYAPS127A(BYモデル)、ΔN90βカテニン及びc-Met(BMモデル)、又はΔN90βカテニン、YAPS127A、及びc-Met(BYMモデル)を導入したマウスの肝臓腫瘍結節(BY:n=3; BM:n=7; BYM:n=11)から全RNAを抽出し、GREB1、及びTASCSTD1のmRNA量をリアルタイムPCRにて分析した結果を示す図である。
【
図13】aは、Huh6細胞又はHepG2細胞を固定化して抗YAP抗体、及びHoechst33342で染色した結果を示す図である。 bは、コントロールsiRNA又はYAP/TAZに対するsiRNAをトランスフェクトしたHepG2細胞又はHuh6細胞について、リアルタイムPCRにてGREB1 mRNA、YAP mRNA、及びTAZ mRNAの発現量を測定した結果を示す図である。 cは、Huh6細胞をCHIR99021、Mst1/2キナーゼ阻害剤(YAP活性化剤)であるXMU-MP1、又はそれらを組み合わせて処理した後に、リアルタイムPCRにてGREB1 mRNA、Axin2 mRNA、及びCyr61 mRNAの発現量を測定した結果を示す図である。 dは、コントロールsiRNA又はc-Metに対するsiRNAをトランスフェクトしたHepG2細胞について、リアルタイムPCRにてc-Met mRNA、Axin2 mRNA、GREB1 mRNA、ANKRD1 mRNA、及びCyr61 mRNAの発現量を測定した結果を示す図である。 eは、コントロールsiRNA又はc-Metに対するsiRNAをトランスフェクトしたHepG2細胞の溶解液を抗c-Met抗体、抗リン酸化β-カテニン(pY654)抗体、抗β-カテニン抗体、抗Axin2抗体、抗GREB1抗体、及び抗β-Actin抗体でプローブ化した結果を示す図である。
【
図14】aは、ΔN90βカテニン、YAPS127A、及びc-Metを導入したマウス(BYM、コントロール;C1~C7)の肝臓、GREB1 shRNAと共にΔN90βカテニン、YAPS127A、及びc-Metを投与したマウス(BYM+ GREB1 shRNA;BYM GREB1 KDマウス、K1~K6)の肝臓、及び未処理のマウス(NLマウス)の肝臓を観察した結果を示す図である。 bは、前記BYMマウス(C1~C7)から6つの腫瘍結節を取得し、肝芽腫関連遺伝子の発現量を測定した結果を示す図である。 cは、GREB1高群(C4)及びGREB1低群(C3)のBYMマウスから分離された肝臓の組織切片について、ヘマトキシリン・エオシンで染色した結果を示す図である。 dは、GREB1高群(C4)及びGREB1低群(C3)のBYMマウスから分離された肝臓の組織切片について、抗GREB1抗体又は抗DLK1抗体とヘマトキシリンで染色した結果を示す図である。 eは、前記各マウスから得られた肝臓の重量の全体重に対する比率、及び前記各マウスの血清AFP値を測定した結果を示す図である。 fは、3匹のBYMマウス(GREB1高群:C1、C4、及びC6)、4匹のBYMマウス(GREB1低群:C2、C3、C5、及びC7)、及びGREB1 shRNAが投与された2匹のBYMマウス(BYM GREB1 KDマウス;K2及びK4)の腫瘍結節から全RNAを抽出し、GREB1、DLK1及びTASCSTD1のmRNA量をリアルタイムPCRにて分析した結果を示す図である。 gは、BYMマウス(GREB1高群:C4)及びGREB1 shRNAが投与されたBYMマウス(GREB1 shRNA:K2)の肝臓の組織切片をヘマトキシリン・エオシン、又は抗GREB1抗体及びヘマトキシリンで染色した結果を示す図である。 hは、BYMマウス(GREB1高群:C4)及びGREB1 shRNAが投与されたBYMマウス(GREB1 shRNA:K2)の肝臓の組織切片を抗N-カドヘリン抗体及びHoechst33342で染色した結果(左図)、並びに非腫瘍領域のN-カドヘリン発現量に対する腫瘍病変部位のN-カドヘリン発現量の割合を求めた結果(下図)を示す図である。
【
図15】aは、ΔN90βカテニン、YAPS127A、及びc-Metを導入したマウス(BYM、コントロール;C1~C7)の肝臓、及び未処理のマウス(NLマウス)の肝臓から腫瘍結節を取得し、導入したΔN90βカテニン、YAPS127A、及びc-Metの発現量を測定した結果を示す図である。 bは、未処理マウス(NL)の肝臓、ΔN90βカテニン、YAPS127A、及びc-Metを導入したマウス(BYM)の腫瘍結節(n=42)、及び当該BYMマウスの非腫瘍組織(n=8)から全RNAを抽出し、リアルタイムPCRにてGREB1のmRNA量を測定した結果を示す図である。 cは、前記BYMマウス(C1~C7)から取得した腫瘍結節を用いて、DLK 1mRNA、TACSTD1 mRNA、GPC3 mRNA、MEG3 mRNA、及びAxin2 mRNAの発現量(Y軸)とGREB1遺伝子の発現量(X軸)との相関を分析した結果を示す。 dは、GREB1高群(C4)及びGREB1低群(C3)のBYMマウスから分離された肝臓の組織切片について、ヘマトキシリン・エオシンで染色した結果を示す図である。 eは、HepG2細胞(Control)、GREB1をノックアウトしたHepG2細胞(GREB1 KO)、又はGREB1とSmad2/3を組み合わせてノックアウトしたHepG2細胞(GREB1 KO+Smad2/3 KO)の溶解液を抗GREB1抗体、抗Smad2/3抗体、及び抗HSP90抗体でプローブ化した結果を示す図である。 fは、HepG2細胞(WT)、GREB1をノックアウトしたHepG2細胞(GREB1 KO)、又はGREB1とSmad2/3を組み合わせてノックアウトしたHepG2細胞(GREB1 KO/Smad2/3 KO)を二次元培養(プラスチックディッシュで培養)し、細胞数を経時的に測定した結果を示す図である。
【
図16】aは、野生型HepG2細胞(コントロール)、GREB1をノックアウトしたHepG2細胞(GREB1 KO)、GREB1をノックアウトしたHepG2細胞にGREB1を発現させた細胞(GREB1KO/GREB1)、GREB1をノックアウトしたHepG2細胞にGREB1ΔNLSを発現させた細胞(GREB1KO/GREB1ΔNLS)、又はGREB1とSmad2/3を組み合わせてノックアウトした細胞(GREB1 KO/Smad2/3 KO)をマウスの皮下に移植し、移植28日後に異種移植腫瘍片の外観と重量を測定した結果を示す図である。 bは、GFP又はGFP-GREB1を発現するHepG2細胞にコントロールASO又は各GREB1 ASOをトランスフェクトして、三次元マトリゲル中で培養を行い、培養後の細胞をファロイジン及びHoechst33342で染色してスフェアの面積を求めた結果を示す図である。 cは、HepG2細胞を含むマトリゲルをヌードマウスの肝臓に移植し、移植から3日後からコントロールASO、GREB1 ASO-6921、又はGREB1 ASO-7724を週に2回皮下投与し、移植から27日目の肝臓の腫瘍の外観を観察し、腫瘍重量を求めた結果を示す図である。 dは、前記各肝臓の腫瘍の切片を、抗Ki-67抗体及びヘマトキシリンで染色し、ヘマトキシリン陽性細胞(全細胞)数に対するKi-67陽性細胞の割合を求めた結果を示す図である。 eは、前記各肝臓の腫瘍の切片を、抗cleaved-caspase3抗体及びヘマトキシリンで染色し、ヘマトキシリン陽性細胞(全細胞)数に対するcleaved-caspase3陽性細胞の割合を求めた結果を示す図である。 fは、前記各肝臓の腫瘍中のGREB1及びPAI-1のmRNA量をリアルタイムPCRで分析した結果を示す図である。
【
図17】aは、HepG2細胞にコントロールASO又は各GREB1 ASOをトランスフェクトし、その細胞溶解液を、抗GREB1抗体及び抗HSP90抗体でプローブ化した結果である。 bは、HepG2細胞を含むマトリゲルをヌードマウスの肝臓に移植し、移植から3日後からコントロールASO、GREB1 ASO-6921、又はGREB1 ASO-7724を週に2回皮下投与し、移植から27日目に肝臓の非腫瘍部分をサンプルとして、その切片を抗cleaved caspase3抗体及びヘマトキシリンで染色し、cleaved caspase3陽性細胞の割合を求めた結果を示す図である。 cは、ΔN90βカテニン、YAPS127A、及びc-Met(BYM)をマウスへ導入し、導入から3日後からコントロールASO、マウスGREB1を標的としたASO(mGREB1 ASO-5715)を週に2回皮下投与し、移植から6~7週間後の肝臓の腫瘍の外観を観察し、肝臓の重量の全体重に対する比率を求めた結果を示す図である。 dは、前記各肝臓の腫瘍中のGREB1 mRNA量をリアルタイムPCRで分析した結果を示す図である。
【
図18】Aは、DepMap portalを用いてThe Cancer Cell Line Encyclopedia (CCLE)から得られた、がん細胞株におけるGREB1 mRNA発現量を示す散布図である。 Bは、各がん細胞の溶解液を抗GREB1抗体及び抗GAPDH抗体でプローブ化した結果を示す図である。 Cは、神経芽腫組織の標本(n=13)を抗GREB1抗体、抗β-カテニン抗体、及びヘマトキシリンで免疫染色した結果を示す図、並びに腫瘍病変部位の総面積に対してGREB1又はβ-カテニンの免疫染色によって染色された面積の割合3つのカテゴリー(<5%、5-30%、及び30-95%)に分類した結果を示す図である。Dは、Cにおける免疫組織学的分析の結果に基づいて、GREB1とβ-カテニンのタンパク質量の関係を分析した結果を示す表である。Eは、コントロールASO又はGREB1 ASOをトランスフェクトしたCHP212細胞を二次元培養(プラスチックディッシュで培養)し、細胞数(平均値± SD)を経時的に測定した結果を示す図である。
【
図19】Aは、肝細胞がん組織の標本(n=210)を抗GREB1抗体、抗β-カテニン抗体、及びヘマトキシリンで免疫染色した結果を示す図である。 Bは、Aにおける免疫組織学的分析の結果に基づいて、GREB1とβ-カテニンのタンパク質量の関係を分析した結果を示す表である。 Cは、各がん細胞の溶解液を抗GREB1抗体及び抗GAPDH抗体でプローブ化した結果を示す図である。 Dは、コントロールsiRNA又はβ-カテニン siRNAをトランスフェクトした各細胞の溶解液を抗GREB1抗体、抗β-カテニン抗体、及び抗GAPDH抗体でプローブ化した結果を示す図である。 Eは、コントロールsiRNA又はGREB1#2 siRNAをトランスフェクトしたHep3B細胞又はJHH7細胞を二次元培養(プラスチックディッシュで培養)し、細胞数を経時的に測定した結果を示す図である。 Fは、Hep3B細胞(Control KO)及びGREB1をノックアウトしたHep3B細胞(GREB1 KO)をヌードマウス(n=6)に皮下移植した結果であり、左図は移植から45日後に摘出された異種移植腫瘍の代表的な外観、中図は腫瘍サイズの経時変化、右図は45日後の腫瘍重量を測定した結果である。 Gは、JHH7細胞(Control KO)及びGREB1をノックアウトしたJHH7細胞(GREB1 KO)をヌードマウス(n=6)に皮下移植した結果であり、左図は移植から14日後に摘出された異種移植腫瘍の代表的な外観、中図は腫瘍サイズの経時変化、右図は14日後の腫瘍重量を測定した結果である。**P < 0.01; *P < 0.05.
【
図20】Aは、各細胞の溶解液を抗GREB1抗体及び抗HSP90抗体でプローブ化した結果を示す図である。 Bの左図は、ヒトGREB1のアイソフォームの模式図(図中、aaはアミノ酸の略記)である。Bの右図は、TCGA SpliceSeq (http://projects.insilico.us.com/TCGASpliceSeq)を用いたTCGAデータセットから得られた、乳がん及び皮膚悪性黒色腫におけるヒトGREB1遺伝子の平均エクソン発現量(OPKM;Observations Per Kilobases of exon/splice per Million aligned reads)を示す図である。 Cは、'R2: genomics analysis and visualization platform (http://r2.amc.nl)'を用いたTCGAで得られた皮膚悪性黒色腫のデータセットにおいてGREB1発現と相関が認められた上位10個の遺伝子のリストを示す表である。RはPearsonの相関係数、*はMITFの既知の下流標的遺伝子を示す。 Dは、皮膚悪性黒色腫の標本を抗GREB1抗体、抗MITF抗体、及びヘマトキシリンで免疫染色した結果を示す図である。 Eは、CLO679細胞(コントロール)及びMITFをノックアウトしたCLO679細胞(MITF KO)を抗GREB1抗体、抗MITF抗体、及び抗クラスリン抗体でプローブ化した結果を示す図である。 Fは、コントロールsiRNA又はGREB1 siRNAをトランスフェクトしたSKMEL28細胞を二次元培養(プラスチックディッシュで培養)し、細胞数(平均値± SD)を経時的に測定した結果を示す図である。Gは、コントロールASO又はGREB1 ASOをトランスフェクトしたSKMEL28細胞を二次元培養(プラスチックディッシュで培養)し、細胞数(平均値± SD)を経時的に測定した結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
1.ホルモン非感受性GREB1陽性腫瘍の治療剤
本発明の治療剤は、性ホルモン非感受性GREB1陽性腫瘍の治療に使用される医薬であって、有効成分としてGREB1の発現を抑制する物質を有効成分とすることを特徴とする。以下、本発明の治療剤について詳述する。
【0014】
[有効成分]
本発明の治療剤では、有効成分として、GREB1の発現を抑制する物質を使用する。GREB1は、性ホルモン非感受性GREB1陽性腫瘍細胞においてWnt/β-カテニンシグナルやMITFの標的遺伝子になり、遺伝子増幅することもあり、当該腫瘍細胞の増殖を亢進させる作用がある。本発明の治療剤では、GREB1の発現を抑制することによって、当該腫瘍の増殖を効果的に抑制させることが可能になっている。
【0015】
GREB1のアミノ酸配列及び塩基配列についても公知である。例えば、ヒトGREB1(isoform a)のアミノ酸配列は配列番号1、ヒトGREB1(isoform a)のmRNAの塩基配列は配列番号2、ヒトGREB1(isoform a)をコードするcDNAの塩基配列は配列番号3として知られている。
【0016】
本発明において、「GREB1の発現を抑制する物質」としては、薬学的に許容され、且つGREB1をコードするDNA(GREB1遺伝子)からGREB1の発現を抑制できることを限度として特に制限されない。GREB1の発現を抑制する物質は、GREB1遺伝子の転写、転写後調節、翻訳、翻訳後修飾等のいずれの段階でGREB1の発現に対する抑制作用を発揮するものであってもよい。GREB1の発現を抑制する物質として、具体的には、デコイ核酸等のGREB1遺伝子の転写を抑制する核酸分子;siRNA、shRNA、dsRNA等のGREB1のmRNAに対してRNA干渉作用を有するRNA分子又はその前駆体;miRNA、アンチセンス核酸(アンチセンスDNA、アンチセンスRNA)、リボザイム等のGREB1のmRNAの翻訳を抑制する核酸分子等の核酸医薬が挙げられる。これらの核酸分子は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。これらの核酸分子の塩基配列は、GREB1遺伝子の塩基配列の情報に基づいて、当業者が公知の手法により適宜設計することができる。
【0017】
これらの核酸分子の中でも、臨床応用への容易性等の観点から、好ましくは、siRNA、shRNA、dsRNA、アンチセンス核酸、及びリボザイム、更に好ましくはsiRNA、shRNA及びアンチセンス核酸が挙げられる。
【0018】
また、前記核酸分子は、ヌクレアーゼ等に対する耐性を付与するために、必要に応じて、一般的に核酸に施される各種修飾がなされていてもよい。このような修飾としては、例えば、2’-フルオロ化、2’-O-メチル化等の糖鎖部分の修飾;塩基部分の修飾;アミノ化、低級アルキルアミノ化、アセチル化、ホスホロチオエート等のリン酸部分の修飾等が挙げられる。更に、前記核酸分子には、RNA分子及び/又はDNA分子の一部に人工核酸(架橋型核酸、ペプチド核酸、ロックド核酸等)が導入されているものであってもよい。
【0019】
例えば、架橋型核酸の好適な例としては、以下の一般式(1)に示す構造を有するヌクレオチドが挙げられる。
【化1】
【0020】
一般式(1)において、Baseは、塩基配列に対応する塩基であり、具体的には置換基で置換されていてもよいプリン-9-イル基又は2-オキソ-1,2-ジヒドロピリミジン-1-イル基を示す。当該置換基としては、具体的には、水酸基、炭素数1~6の直鎖アルキル基、炭素数1~6の直鎖アルコキシ基、メルカプト基、炭素数1~6の直鎖アルキルチオ基、アミノ基、炭素数1~6の直鎖アルキルアミノ基、及びハロゲン原子等が挙げられる。
【0021】
また、一般式(1)におけるBaseとして、具体的には、塩基がA(アデニン)の場合であれば、置換基で置換されていてもよい6-アミノプリン-9-イル基;塩基がG(グアニン)の場合であれば、置換基で置換されていてもよい2-アミノ-6-ヒドロキシプリン-9-イル基;塩基がC(シトシン)の場合であれば、置換基で置換されていてもよい2-オキソ-4-アミノ-1,2-ジヒドロピリミジン-1-イル基(例えば、4-アミノ-5-メチル-2-オキソ-1,2-ジヒドロピリミジン-1-イル基(5-メチルシトシン-1-イル基、2'-O-メチルシトシン-1-イル基等が含まれる);塩基がT(チミン)の場合であれば、置換基で置換されていてもよい2-オキソ-4-ヒドロキシ-5-メチル-1,2-ジヒドロピリミジン-1-イル基が挙げられる。
【0022】
一般式(1)において、Rは、水素原子、分岐又は環を形成していてもよい炭素数1~7のアルキル基、分岐股は環を形成していてもよい炭素数2~7のアルケニル基、置換基を有していてもよく、且つヘテロ原子を含んでいてもよい炭素数3~12のアリール基、置換基を有していてもよく、且つヘテロ原子を含んでいてもよい炭素数3~12のアリール部分を有するアラルキル基を表す。当該アリール基又はアラルキル基に含まれ得る置換基としては、具体的には、水酸基、炭素数1~6の直鎖アルキル基、炭素数1~6の直鎖アルコキシ基、メルカプト基、炭素数1~6の直鎖アルキルチオ基、アミノ基、炭素数1~6の直鎖アルキルアミノ基、及びハロゲン原子等が挙げられる。Rとして、好ましくは、水素原子、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、フェニル基、股はベンジル基が挙げられ、更に好ましくは水素原子又はメチル基、特に好ましくはメチル基が挙げられる。本明細書において、一般式(1)におけるRがメチル基である2',4'-架橋型ヌクレオチドは「AmNA」と表記することがある。
【0023】
また、架橋型ヌクレオチドの他の例としては、以下の一般式(2)に示す構造を有するヌクレオチドが挙げられる。当該ヌクレオチドは、グアニジン架橋型核酸とも称される公知の2',4'-架橋型ヌクレオチドである(国際公開第2014/046212号)。
【化2】
一般式(2)において、Baseは、前記一般式(1)におけるBaseと同様である。一般式(2)において、R
1、R
12、及びR
13は、同一又は異なって、水素原子、分岐又は環を形成していてもよい炭素数1~7のアルキル基を示し、R
14は、水素原子を示す。
【0024】
また、架橋型ヌクレオチドの他の例としては、以下の一般式(3)に示す構造を有するヌクレオチドが挙げられる。当該ヌクレオチドは、スピロシクロプロパン架橋型核酸とも称される公知の2',4'-架橋型ヌクレオチドである(国際公開第2015/125783号)。
【化3】
【0025】
一般式(3)において、Baseは、前記一般式(1)におけるBaseと同様である。また、一般式(3)において、R21及びR22は、同一又は異なって、水素原子;ヘテロ原子を含んでいてもよい炭素数3から12のアリール基で置換されていてもよく、かつ分岐または環を形成していてもよい炭素数1~7のアルキル基;又はヘテロ原子を含んでいてもよい炭素数3から12のアリール部分を有するアラルキル基;であるか、或はR21及びR22は一緒になって、基-(CH2)n-[式中、nは2~5の整数]である。
【0026】
また、架橋型ヌクレオチドの他の例としては、以下の一般式(4)又は(4')に示す構造を有するヌクレオチドが挙げられる。当該ヌクレオチドは、エチレンオキシ架橋型核酸とも称される公知の2',4'-架橋型ヌクレオチドである(国際公開第2016/017422号)。
【化4】
【0027】
一般式(4)及び(4')において、Baseは、前記一般式(1)におけるBaseと同様である。また、一般式(4)及び(4')において、X3は酸素原子又は硫黄原子を示す。
【0028】
一般式(4)及び(4')において、R31及びR32は、同一又は異なって、水素原子;水酸基;分岐又は環を形成していてもよい炭素数1~7のアルキル基;分岐又は環を形成していてもよい炭素数1~7のアルコキシ基;又はアミノ基を示す。また、一般式(4)の場合には、R31及びR32は一緒になって、基=C(R35)R36[式中、R35及びR36は、同一又は異なって、水素原子、水酸基、メルカプト基、アミノ基、炭素数1~6の直鎖又は分岐鎖アルコキシ基、炭素数1~6の直鎖又は分岐鎖アルキルチオ基、炭素数1~6のシアノアルコキシ基、或は炭素数1~6の直鎖又は分岐鎖アルキルアミノ基を示す]を形成していてもよい。
【0029】
一般式(4)及び(4')において、R33は、水素原子、分岐又は環を形成していてもよい炭素数1~7のアルキル基、分岐又は環を形成していてもよい炭素数1~7のアルコキシ基、又は炭素数1~6の直鎖又は分岐鎖アルキルチオ基を示す。
【0030】
一般式(4)において、R34は、水素原子、分岐又は環を形成していてもよい炭素数1~7のアルキル基、分岐又は環を形成していてもよい炭素数1~7のアルコキシ基、又は炭素数1~6の直鎖又は分岐鎖アルキルチオ基を示す。
【0031】
更に、架橋型ヌクレオチドの他の例としては、例えば、以下に示す構造が挙げられる。下記構造式中のBase及びRは、前記一般式(1)におけるBase及びRと同様である。
【化5】
【0032】
本発明で使用される核酸分子において、化学修飾は、一部のヌクレオチド及び/又はヌクレオシド間の結合部分に施されていてもよく、また全てのクレオチド及び/又はヌクレオシド間の結合部分に施されていてもよい。
【0033】
本発明で使用される核酸分子がアンチセンス核酸である場合、化学修飾の好適な例として、少なくとも1個、好ましくは1~10個、より好ましくは2~8個、更に好ましくは2~6個、特に好ましくは5個の2',4'-架橋型ヌクレオチドを含んでいることが挙げられる。また、2',4'-架橋型ヌクレオチドを含む場合の好適な例として、5'末端側から1~3番目及び3'末端側から2及び3番目のヌクレオチドが2',4'-架橋型ヌクレオチド(好ましくはAmNA)であることが挙げられる。
【0034】
また、本発明で使用される核酸分子に施される化学修飾の好適な例として、ヌクレオシド間の結合部分の少なくとも1個がホスホロチオエート結合であることが挙げられる。また、ホスホロチオエート結合を含む場合の好適な例として、ヌクレオシド間の結合部分の総数100%当たり、好ましくは50%以上、より好ましくは80%以上、更に好ましくは90%以上、特に好ましくは100%(全てのヌクレオシド間の結合部分)がホスホロチオエート結合であることが挙げられる。
【0035】
本発明で使用される核酸分子がヒトGREB1に対するsiRNAである場合、その具体例としては、配列番号4に示す塩基配列からなるセンス鎖と配列番号5に示す塩基配列からなるアンチセンス鎖を含むsiRNA;及び配列番号6に示す塩基配列からなるセンス鎖と配列番号7に示す塩基配列からなるアンチセンス鎖を含むsiRNAが挙げられる。なお、配列列番号4~6において、1~19位はRNA鎖であり、20及び21位はオーバーハング(デオキシチミジン)である。
【0036】
また、本発明で使用される核酸分子がヒトGREB1に対するアンチセンス核酸(アンチセンスDNA、ASO)である場合、その具体例としては、下記配列A~Dからなる化学修飾ASOが挙げられる。
5(Y)^G(Y)^A(Y)^a^t^g^g^c^a^g^g^a^5(Y)^A(Y)^g(配列A:実施例においてASO-6434として使用)
G(Y)^T(Y)^5(Y)^t^g^t^t^t^c^a^a^g^T(Y)^A(Y)^a(配列B:実施例においてASO-6921として使用)
T(Y)^5(Y)^T(Y)^a^g^t^t^c^t^c^a^t^5(Y)^A(Y)^a(配列C:実施例においてASO-6968として使用)
A(Y)^T(Y)^T(Y)^g^a^g^g^g^t^a^g^g^5(Y)^A(Y)^a(配列D:実施例においてASO-7724として使用)
【0037】
前記配列A~Dにおいて、「G(Y)」はAmNA(前記一般式(1)においてRがメチル基である2',4'-架橋型ヌクレオチド)の構造のグアニン、「A(Y)」はAmNAの構造のアデニン、「T(Y)」はAmNAの構造のチミン、「5(Y)」はAmNAの構造の5-メチルシトシン、小文字の「a、t、c、g」はそれぞれ非修飾型DNA、及び「^」はホスホロチオエート結合を示す。
【0038】
また、本発明で使用される核酸分子がマウスGreb1に対するshRNAである場合、当該shRNAをコードしているDNAの具体例としては、配列番号8に示す塩基配列が挙げられる。
【0039】
また、本発明で使用される核酸分子がRNA分子である場合は、生体内で生成し得るようにデザインされたものであってもよい。具体的には、当該RNA分子をコードしているDNAを哺乳動物細胞用の発現ベクターに挿入したものであってもよい。このような発現ベクターとしては、例えば、レトロウイルス、レンチウイルス、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、ヘルペスウイルス、センダイウイルス等のウイルスベクターや、動物細胞発現プラスミド等が挙げられる。
【0040】
[対象疾患]
GREB1は、性ホルモン非感受性GREB1陽性腫瘍細胞において特異的に発現し、当該腫瘍細胞の増殖を亢進させているので、本発明の治療剤では、GREB1の発現を抑制することにより、当該腫瘍細胞の増殖抑制が可能になっている。従って、本発明の治療剤はホルモン非感受性GREB1陽性腫瘍の治療に使用される。
【0041】
本発明において、GREB1陽性腫瘍とは、GREB1の発現が認められる腫瘍細胞によって形成されている腫瘍を指す。GREB1陽性腫瘍であるか否かは、採取した腫瘍病変組織に対して組織免疫することによって確認することができる。具体的には、採取した腫瘍病変組織に対して、抗GREB1抗体を用いて免疫染色し、腫瘍病変部位においてGREB1の発現が認められる領域が5%以上存在する場合には、GREB1陽性と判断される。本発明の治療剤の治療対象となる腫瘍の好適な例として、好ましくは、腫瘍病変部位においてGREB1の高発現領域が20%以上存在する腫瘍、特に好ましくは、腫瘍病変部位においてGREB1の高発現領域が50%以上存在する腫瘍が挙げられる。
【0042】
また、GREB1陽性腫瘍であるか否かについては、採取した腫瘍組織からRNAを回収し、定量的PCRによって測定することもできる。この場合、GREB1の発現の有無の判定は、同一症例の腫瘍と同組織の非腫瘍部位を指標として行えばよい。具体的には、腫瘍組織の細胞溶解液におけるGREB1量が、同一症例の腫瘍と同組織の非腫瘍部位の細胞溶解液におけるGREB1量よりも多い場合には、当該腫瘍ではGREB1陽性であると判断される。
【0043】
また、本発明において、性ホルモン非感受性GREB1陽性腫瘍(ホルモン感受性を示さないGREB1陽性腫瘍)とは、「エストロゲンやアンドロゲンのような性ホルモンの刺激によってホルモン受容体を介してGREB1の発現が亢進し、増殖が促進される特性」を有さないGREB1陽性腫瘍細胞によって形成されている腫瘍を指す。性ホルモン感受性GREB1陽性腫瘍としては、例えば、エストロゲンによって増殖が促進される腫瘍として乳がん及び卵巣がん、アンドロゲンによって増殖が促進される腫瘍として前立腺がん等があり、これらの腫瘍は、本発明において治療対象からは除外される。
【0044】
本発明において、治療対象となる性ホルモン非感受性GREB1陽性腫瘍としては、具体的には、肝芽腫、肝細胞がん、悪性黒色腫(メラノーマ)、神経芽腫、小細胞肺がん等が挙げられる。
【0045】
また、本発明の治療剤は、ヒトのみならず、ウシ、ブタ、イヌ、ネコ、ヤギ、ラット、マウス、ウサギ等の哺乳動物に対して使用できるが、ヒト用の医薬品として好適に使用される。
【0046】
[投与態様]
本発明の治療剤の投与形態については、抗腫瘍効果が得られることを限度として、経口投与又は非経口投与のいずれであってもよく、使用する有効成分の種類に応じて適宜設定すればよい。具体的には、本発明の治療剤の投与形態として、注射投与(静脈注射、皮下注射、筋肉注射、腹腔注射、患部への局所注射等)、座薬投与等の非経口投与が挙げられる。
【0047】
本発明の治療剤の投与量については、使用する有効成分の種類、投与形態、適用対象となる性ホルモン非感受性GREB1陽性腫瘍の進行の程度等に応じて治療有効量を適宜設定すればよい。例えば、有効成分として核酸分子を使用する場合であれば、核酸分子の1回量として、通常0.1mg/kg体重~100mg/kg体重程度を3~7日間に1回程度の頻度で投与すればよい。
【0048】
本発明の治療剤は、単独で使用してもよいが、1種又は2種以上の抗腫瘍作用を有する他の薬剤及び/又は放射線療法と併用してもよい。
【0049】
[製剤形態]
本発明の治療剤は、有効成分の種類や投与形態に応じた製剤形態に調製される。本発明の抗腫瘍剤の製剤形態としては、例えば、液剤、懸濁剤、乳剤、注射剤等の液状製剤等が挙げられる。
【0050】
また、本発明の治療剤は、その製剤形態に応じて、薬学的に許容される担体や添加剤を加えて製剤化される。例えば、液状製剤の場合であれば、生理食塩水、緩衝液等を用いて製剤化することができる。
【0051】
また、本発明の治療剤において、有効成分として核酸分子を使用する場合であれば、当該核酸分子が腫瘍細胞内に移行され易いように、核酸導入補助剤と共に製剤化されていることが望ましい。核酸導入補助剤としては、具体的には、リポフェクタミン、オリゴフェクタミン、RNAiフェクト、リポソーム、ポリアミン、DEAEデキストラン、リン酸カルシウム、デンドリマー等が挙げられる。
【0052】
2.肝芽腫、肝細胞がん、悪性黒色腫、又は神経芽腫の検査方法
本発明の検査方法は、肝芽腫、肝細胞がん、悪性黒色腫、又は神経芽腫の罹患の有無を予測するための検査方法であって、被験者から採取された肝臓組織、皮膚組織、又は神経組織において、GREB1の発現量を測定する工程を含むことを特徴とする。本発明によれば、被験者から採取された肝臓組織、皮膚組織、又は神経組織中のGREB1の発現量を指標とすることにより、被験者が肝芽腫、肝細胞がん、悪性黒色腫、又は神経芽腫に罹患しているか否かを診断することが可能になる。
【0053】
肝芽腫又は肝細胞がんを検査対象とする場合、腫瘍性肝疾患が疑われる被験者から採取された肝臓組織におけるGREB1の発現量を測定すればよい。肝芽腫は小児の肝臓に発症する悪性腫瘍であるので、肝芽腫の検査対象となる被験者として、好ましくは腫瘍性肝疾患が疑われる小児が挙げられる。
【0054】
悪性黒色腫を検査対象とする場合、腫瘍性皮膚疾患が疑われる被験者から採取された皮膚組織におけるGREB1の発現量を測定すればよい。
【0055】
神経芽腫を検査対象とする場合、腫瘍性神経疾患が疑われる被験者から採取された神経組織におけるGREB1の発現量を測定すればよい。神経芽腫は小児に発症し易い悪性腫瘍であるので、本発明の検査方法において、神経芽腫の検査対象となる被験者として、好ましくは腫瘍性神経疾患が疑われる小児が挙げられる。
【0056】
被験者から採取された各腫瘍組織中のGREB1の発現量を測定するには、採取した組織片(病変組織片)に対して組織免疫することによって確認することができる。具体的には、採取した腫瘍組織片に対して、抗GREB1抗体を用いて免疫染色し、腫瘍が疑われる領域においてGREB1の発現が認められる領域が5%以上存在する場合には、GREB1が発現量していると判断される。また、腫瘍が疑われる領域においてGREB1の発現が認められる領域が20%以上存在する場合には、GREB1の発現量が多いと判断され、腫瘍が疑われる領域においてGREB1の発現が認められる領域が50%以上存在する場合には、GREB1の発現量が特に多いと判断される。
【0057】
また、被験者から採取された各腫瘍組織中のGREB1の発現量は、当該組織片(病変組織片)からRNAを回収し、定量的PCRによって測定することもできる。この場合、GREB1の発現量は、同一症例の腫瘍と同組織の非腫瘍部位を指標として行えばよい。具体的には、腫瘍が疑われる部位の細胞溶解液におけるGREB1量が、同一症例の非腫瘍部位の細胞溶解液におけるGREB1量よりも多い場合には、GREB1が発現していると判断される。
【0058】
本発明の検査方法において、前記各腫瘍組織中のGREB1の発現量が多い程、肝芽腫、肝細胞がん、悪性黒色腫、又は神経芽腫に罹患している可能性が高いと推測される。
【0059】
更に、本発明は、前記検査方法を行うための検査試薬として、GREB1を検出するための試薬を提供する。
【0060】
GREB1を検出するための試薬としては、例えば、抗GREB1抗体、及びその断片等が挙げられる。抗GREB1抗体には、必要に応じて、ビオチン、蛍光標識、磁気ビーズ等によって標識化されていてもよい。
【0061】
また、GREB1を検出するための試薬の他の例としては、例えば、GREB1 cDNA又はGREB1 mRNAとハイブリダイズできるプライマーが挙げられる。GREB1を検出するための試薬として当該プライマーを使用する場合、本発明の検査試薬には、当該プライマーの他に、PCRを行うために必要な試薬が含まれていてもよい。
【実施例】
【0062】
以下、実験データに基づいて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。
【0063】
なお、以下、試験に使用した細胞について「Xを発現する細胞」等の形式で表記することがあるが、「Xを発現する細胞」とは、タンパク質Xがトランスフェクトされ、人為的にタンパク質Xが発現するように形質転換された細胞を意味する。例えば、「GFP-GREB1を発現するX293T細胞」とは、タンパク質GFP-GREB1がトランスフェクトされ、GFP-GREB1が過剰発現するように形質転換されたX293T細胞を意味する。
【0064】
また、以下、タンパク質について「A-B」(例えば、GFP-GREB1等)という形式で表記することがあるが、当該タンパク質はペプチドAにペプチドBが融合しているタンパク質を意味する。
【0065】
なお、以下の試験で使用した各種タンパク質をトランスフェクションした細胞は、公知の遺伝子工学的手法に従って作製した。
【0066】
1.試験材料及び方法
1-1.細胞及び抗体
HepG2細胞、CHP212細胞、及びSKNDZ細胞は、American Type Culture Collection (ATCC, Manassas, VA, USA)より購入した。MCF7細胞、HLE細胞、Huh7細胞、HLF細胞、NBTU110細胞、SKMEL28細胞、Mewo細胞、G361細胞、及びCOLO679細胞は、Japanese Collection of Research Bioresources (JCRB, 大阪, 日本)より購入した。また、Lenti-XTM293T (X293T)細胞は、タカラバイオ株式会社(日本)から購入した。Huh6細胞は、Dr. H. Okuyama (大阪大学、日本)から提供されたものを使用した。SNU387細胞、SNU449細胞、BMEL細胞、及びHepG2細胞は、Dr. T. Kodama(大阪大学、日本)から提供されたものを使用した。
【0067】
HepG2細胞は、10%ウシ胎児血清(FBS)、非必須アミノ酸とglutamaxを含むEagle’s minimum essential medium (EMEM)培地で増殖させた。HLE細胞、Huh6細胞、X293T細胞、Huh7細胞、SNU387細胞、SNU449細胞、及びHLF細胞は、10% FBSを含むDulbecco’s modified Eagle’s medium (DMEM)で増殖させた。MCF7細胞は、10% FBS、非必須アミノ酸及び1 mMピルビン酸ナトリウムを含むDMEMで増殖させた。BMEL細胞は、10% FBS、2.5 mM L-glutamine、0.5 mM soudium pyruvate、50 ng/ml EGF、30 ng/ml IGF-II、及び10 μg/ml insuliinを含むDMEM/F12培地で増殖させた。SKMEL28細胞、Mewo細胞、及びG361細胞は、10% FBS及び非必須アミノ酸及を含むEMEMで増殖させた。CHP212細胞、及びSKNDZ細胞は、10% FBS及び非必須アミノ酸及を含むDMEMで増殖させた。OLO679細胞は、10% FBS及び2 mM L-glutamineを含むRPMI 1640 (RPMI) で増殖させた。
【0068】
抗GREB1抗体(マウスモノクローナル)、抗リン酸化ヒストンH3(ser10)抗体、及び抗アセチルヒストンH4抗体は、Merck Millipore (Billerica, MA, USA)から購入した。抗HSP90抗体、抗CyclinA抗体、抗CyclinB抗体、抗Smad2/3抗体(マウスモノクローナル)、抗β-カテニン抗体、及び抗クラスリン抗体は、BD Biosciences (San Jose, CA, USA)から購入した。抗GREB1抗体(ラビットポリクローナル)、抗Smad4抗体、抗p300抗体、抗GFP体(マウスモノクローナル)は、Santa Cruz Santa Cruz Biotechnology(Dallas, TX, USA)から購入した。抗Smad 2/3抗体(ラビットモノクローナル)、抗リン酸化SMAD2 (Ser465/467)/SMAD3 (Ser423/425)抗体、抗cleaved caspase3抗体、抗PARP1抗体、 抗HystoneH3抗体、抗YAP1抗体(ラビットモノクローナル)、抗Ki67抗体(ラビットモノクローナル)、抗c-Myc抗体(ラビットモノクローナル)、抗Smad2/3(ラビットモノクローナル ウェスタンブロッテイング用)、抗Axin2抗体、及び抗MITF抗体(ウェスタンブロッテイング用)は、Cell Signaling Technology (Beverly, MA, USA)から購入した。抗β-チューブリン抗体、抗β-アクチン抗体、抗リン酸化β-カテニン(pTyr654)抗体、及び抗MITF抗体(免疫組織染色用)は、Sigma-Aldrich (Steinheim, Germany)から購入した。抗GFP抗体(ウサギポリクローナル)は、Life Technologies/Thermo Fisher Scientific (Carlsbad, CA, USA)から購入した。抗Smad2/3抗体(ラビットモノクローナル)はAbcam (Cambridge, UK)から購入した。抗FLAG抗体、及び抗GAPDH抗体はWAKO (Tokyo, Japan)から購入した。抗マウスDLK1抗体(ラビットモノクローナル)はR&D Systems (Minneapolis, MN, USA)から購入した。
【0069】
1-2.RNA配列解析
TruSeq Stranded mRNA Sample Prep kit (Illumina, San Diego, CA)を用いて、コントロールsiRNA又はβ-カテニン siRNAをトランスフェクトしたHepG2細胞のライブラリーを作製した。Illumina HiSeq 2500 platformにて、75-base single-endモードで、配列解析を行った。ベースコールは、CASAVA 1.8.2 software (Illumina)を用いて行った。Bowtie2 ver. 2.2.3とSAMtools ver. 0.1.19を組み合わせて、TopHat v2.0.13を使用して、ヒト参照ゲノム配列(hg19)にマッピングし、配列解読を行った。Cuffnorm version 2.2.1を用いて、百万個のフラグメントがマッピングされたエクソン1キロベース当たりのフラグメント数(FPKMs)を計算した。
【0070】
全23,284の遺伝子の中で、正規化されたFPKM値で3.0よりも大きい遺伝子として8,929の遺伝子を抽出した。β-カテニンノックダウン細胞では、コントロール細胞と比較して、76遺伝子で3倍以上ダウンレギュレートされていた(P <0.001 [ウェルチのt検定])。GREB1に対する結合ピークをENCODE Transcriptio Factor Binding Site Profiles resource (http://amp.pharm.mssm.edu/Harmonizome/gene#set/TCF7L2#HepG2#hg19#1/ENCODE+Transcri tion+Factor+Binding+Site+Profiles)からTCF7L2#HepG2#hg19#1 geneset (465 genes)としてダウンロードした。最終的にダウンレギュレートされた遺伝子11個を見出した。
【0071】
1-3.オープンソース・クリニカルデータ解析
がん患者のクリニカルデータは、ウェブサイト‘depmap portal (https://depmap.org/portal/)’、TCGA SpliceSeq (http://projects.insilico.us.com/TCGASpliceSeq)、及び'R2: Genomics Analysis and Visualization Platform (http://r2.amc.nl)'から得られるThe Cancer Genome Atlas (TCGA) datasetsを用いて、分析及び取得した。全ての遺伝子発現のデータ、P値、及びr値をダウンロードした。
【0072】
1-4.患者及びがん組織
2008年1月~2015年3月の間に大阪大学医学部付属病院にて外科的処置を受けた肝芽腫患者から得られた肝芽腫組織(n=11)を本試験に使用した。患者の年齢は、0~16歳(中央値は3歳)である。
【0073】
また、大阪大学医学部付属病院にて外科的処置を受けた患者の神経芽腫組織(13名)及び皮膚悪性黒色腫組織(50名)、及び神戸学医学部付属病院にて外科的処置を受けた患者210名の肝細胞がん(HCC)組織(ステージI~IV)についても、本試験に使用した。
【0074】
切除した標本を肉眼で観察し、腫瘍の局在部位とサイズを測定し、標本を10容量%ホルマリンで固定し、パラフィン包埋ブロックを作製し組織学的分析を行った。試験に使用した標本は、4μmの厚みに切片化して、ヘマトキシリン、エオシン(H&E)、免疫ペルオキシダーゼ、免疫アルカリフォスファターゼ等で染色し、各分析に供した。
【0075】
後述する2-1~2~8の項に示す試験は、大阪大学医学部倫理審査委員会の承認(No. 13552)の下で行った。また、後述する2-9~2~11の項に示す試験は、ヘルシンキ宣言に従い、大阪大学医学部倫理審査委員会の承認(No. 13455, 19292)及び神戸大学医学部倫理審査委員会の承認(No. B190073)の下で行った。全ての患者から書面によるインフォームドコンセント得た。
【0076】
1-5.HTVi(hydrodynamic tail vein injection)による腫瘍形成の評価
Greb1 shRNA#3(配列番号8)(20 μg)又はコントロールとpLIVE-SB13 (8 μg)の存在下、pT2BH-YAPS127A (20 μg)、pT2BH-ΔN90βカテニン-mutLuc3 (20 μg)、pT3-EF1a-cMET (20 μg)、及びGFP2ALucを、生理食塩水2.5 mlに希釈し、8~9週齢のold wild-type C57BL6/N雄マウスの尾静脈に5~7秒以内で注射した。肝臓を、注射後の一定時間(又は罹患時)に採取して、腫瘍形成に関する種々のパラメーターを調べた。なお、具体的手法は、Tao, J. et al., (2014). Gastroenterology 147, 690-701.及びTward, A. D. et al, (2007). Proc Natl Acad Sci U S A 104, 14771-14776を参照した。なお、ΔN90βカテニンとはヒトβ-カテニンの1~90位のアミノ酸を欠失させたβカテニン変異体であり、YAPS127AとはYAPの127位のセリンをアラニンに置換したYAP変異体である。
【0077】
1-6.GREB1に対するアンチセンスオリゴヌクレオチドの作製
AmNAモノマーを含み、ホスホチオエート化された15-merのアンチセンスオリゴヌクレオチド(ASOs)を準備した(GeneDesign (Ibaraki, Japan)によって合成)。合成したASOsの配列は、表8及び9に示す通りである。なお、本明細書において、「hGREB1-6424-AmNA(15)」は、単に「ASO-6424」又は「GREB1 ASO-6424」と略記する。他のASOsについても同様に略記する。RNAiMAX (Invitrogen, Carlsbad, CA, USA)を使用して、HepG2又はCOLO679細胞を10 nMのASOsでトランスフェクトした。実験には、トランスフェクトから36~48時間後の細胞を使用した。
【0078】
1-7.in vivo ASO処理による異種移植肝腫瘍形成アッセイ
HepG2細胞のペレット(1×107 cells)を100μlの高濃度マトリゲル(Corning)中に懸濁させ、8週齢の雄BALB/cAJcl-nu/nu mice (nude mice; CLEA Japan)に麻酔下で肝臓に直接注射し移植した。0日目から週2回の頻度で、ASO (50 μg/body;約2.5 mg/kg)を皮下投与した。移植から27日後にマウスを安楽死させ、腫瘍を回収し、組織学的分析に供した。
【0079】
1-8.siRNAによるタンパク質のノックダウン
siRNAを用いた分析において、使用したsiRNAの塩基配列は、表1に示す通りである。
【0080】
【0081】
RNAiMAX(Life Technologies/Thermo Fisher Scientific)を用いてHepG2細胞、Huh6細胞、Hep3B細胞、JHH7細胞、及びSKMEL28細胞に、各siRNA (10 nm)をトランスフェクトした。実験には、トランスフェクトから48~120時間後の細胞を使用した。
【0082】
1-9.免疫組織化学的分析
組織標本の免疫組織化学的染色は、DakoRealTMEnVisionTM Detection System (Dako, Carpentaria, CA, USA)及びWarp Red? Chromogen Kit (Biocare Medical, Concord, CA, USA)を用いて、製造元の推奨する方法に従って行った。具体的には、decloaking chamber (Biocare Medical, Walnut Creek, CA, USA)を用いて、組織標本の抗原賦活化を行った。次いで、内在性ペルオキシダーゼ活性を3% H2O2-メタノールで15分間ブロックし、次いで切片をヤギ血清と共に1時間インキュベートして、非特異的抗体結合部位をブロックした。その後、組織標本にマウス抗GREB1抗体(1:100)、マウス抗β-カテニン抗体(1:100)又はラビット抗YAP1抗体(1:100)を添加して4℃で16時間インキュベートし、次いで、西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)標識ヤギ抗マウスIgG又はヤギ抗ラビットIgGで1時間インキュベートした。色素原としてジアミノベンジジン(DAB)(Dako)を用いて、組織切片に結合しているマウス抗GREB1抗体、マウス抗β-カテニン抗体、又はラビット抗YAP1抗体を可視化した。更に、組織切片を0.1%(w/v)のヘマトキシリンで対比染色した。β-カテニン、GREB1、及びYAPの染色された領域は、3段階(<5%、5-30%、及び30-95%)で分類し、腫瘍病変領域に対して染色された領域(陽性染色)が、5%以上である腫瘍は、陽性と判定した。
【0083】
1-10.免疫蛍光染色
ガラスカバースリップ上で増殖させた細胞を、4%(w/v)パラホルムアルデヒドを含有するPBS中で室温で10分間固定し、0.2%(w/v)Triton X-100及び2mg/mlのBSAを含むPBS中で10分間透過処理した。また、三次元培養にて増殖させた細胞を、4%(w / v)パラホルムアルデヒドを含有するPBS中で室温で30分間固定し、0.5%(w/v)Triton X-100及び40mg/mlのBSAを含有するPBS中で30分間ブロッキングした。固定及び透過処理した細胞を一次抗体と共に室温で3時間又は4℃で終夜インキュベートし、更に製造元のプロトコール(Molecular Probes, Carlsbad, CA)に従い、二次抗体共にインキュベートして、サンプルを作製した。サンプルの分析は、LSM880レーザー共焦点顕微鏡(Carl-Zeiss、Jena、Germany)を用いて観察することによって行った。
【0084】
1-11.遺伝子発現のヒートマップによる可視化
各遺伝子発現量の値は、GAPDH mRNAで標準化し、正常肝臓に対する比率として算出した。データをmin-max normalizationによって正規化した後に、Excel software (Microsoft, Redmond, WA, USA)を用いてカラー化したヒートマップを作製した。
【0085】
1-12.細胞増殖アッセイ
細胞をプレートに1.0×104cells/mLとなるように播種し、12時間後に10%血清を含む培地に交換した。48時間毎に細胞数を計測しながら、最長10日間培養した。細胞数の計測は、Cyquant NF assays (Life Technologies/Thermo Fisher Scientific)を用いて、製造元の推奨プロトコールに従って行った。
【0086】
1-13.定量的RT-PCR
定量的RT-PCRでは、表2に示すプライマーを使用した。
【表2】
【0087】
1-14.複合体の形成及び免疫沈降
HepG2細胞(直径100mmディッシュ)を、細胞溶解バッファー(10 mM Tris-HCl [pH 7.4], 140 mM NaCl, 5mM EDTA, 1% NP40, 25mM NaF, 20mg/ml leupeptin, 20mg/ml aprotinin, and 10 mMPMSF)400μlで溶解させた。得られた溶解液を抗Smad2/3抗体で免疫沈降させ、免疫沈降物を所定の抗体でプローブ化した。
【0088】
HA-FLAG-GREB1、GFP-GREB1変異体、GFP-Smad2変異体、HA-Smad3、GFP-Smad3、GFP-Smad4、又はGFP-Smad7をトランスフェクトしたX293T細胞(直径60mmディッシュ)を、細胞溶解バッファー400μlで溶解させ、GREB1、Smad3、Smad4、及びSmad7の複合体の状態を調べた。得られた溶解液は、抗GFP抗体で免疫沈降させ、免疫沈降物を所定の抗体でプローブ化した。
【0089】
なお、本試験で使用した融合タンパク質を構成する各アミノ酸配列は、以下の通りである:HA部分のアミノ酸配列は配列番号85;FLAG部分のアミノ酸配列は配列番号86;GFP部分のアミノ酸配列は配列番号87;GREB1変異体(mouse GREB1 Δ310-319 (ΔNLS))は、マウスGREB1の310-319位を欠失させたGREB1変異体であり、その部分のアミノ酸配列は配列番号88;GREB1変異体(mouse GREB1 1-666(N))は、マウスGREB1の1-666位のアミノ酸配列からなるGREB1変異体であり、そのアミノ酸配列は配列番号89;GREB1変異体(mouse GREB1 667-1333(I))は、マウスGREB1の667-1333位のアミノ酸配列からなるGREB1変異体であり、そのアミノ酸配列は配列番号90;GREB1変異体(mouse GREB1 1334-1954(C))は、マウスGREB1の1334-1954位のアミノ酸配列からなるGREB1変異体であり、そのアミノ酸配列は配列番号91;GREB1変異体(mouse GREB1 Δ667-1333(ΔM))は、マウスGREB1の667-1333位を欠失させたGREB1変異体であり、そのアミノ酸配列は配列番号92;human Smad2部分のアミノ酸配列は配列番号93;human Smad2変異体(human Smad2 1-265(N))は、ヒトSmad2の1-265位のアミノ酸配列からなるSmad2変異体であり、そのアミノ酸配列は配列番号94;human Smad2変異体(human Smad2 266-467(C))は、ヒトSmad2の266-467位のアミノ酸配列からなるSmad2変異体であり、そのアミノ酸配列は配列番号95;human Smad3部分のアミノ酸配列は配列番号96;human Smad4部分のアミノ酸配列は配列番号97;及びhuman Smad7部分のアミノ酸配列は配列番号98。また、他の試験でも、各融合タンパク質は、前記アミノ酸配列を組み合わせて連結したものを使用した。
【0090】
1-15.GSTプルダウンアッセイ
リコンビナントSmad2/MH1又はリコンビナントSmad2/MH2とGREB1との結合を分析するために、HepG2細胞又はGFP-GREB1を発現するHuh6細胞の全細胞溶解液をglutathione-Sepharoseビーズに結合した20μgのグルタチオン-S-トランスフェラーゼ(GST)、GST-Smad2/MH1、又はGST-Smad2/MH2と1時間インキュベーションした。沈降後のビーズを細胞溶解バッファー(10 mM Tris-HCl [pH 7.4], 140 mM NaCl, 5mM EDTA, 1% NP40, 25mM NaF, 20mg/ml leupeptin, 20mg/ml aprotinin, and 10 mMPMSF)で3回洗浄し、得られた沈降物を抗GREB1抗体又は抗GFP抗体でプローブ化した。
【0091】
なお、本試験で使用した融合タンパク質を構成する各アミノ酸配列は、以下の通りである:GST部分のアミノ酸配列は配列番号99;Smad2/MH1のアミノ酸配列は配列番号100;Smad2/MH2のアミノ酸配列は配列番号101。
【0092】
1-16.エチニルウリジン(EU)による細胞の標識
HA-FLAG-GREB1を発現又は非発現のGFP-Smad3発現細胞に対して、1 mMのEUで30分間処理した後に、固定化し、Click-iT RNA Alexa Fluor 594 Imaging Kit (Thermo Fisher Scientific,Waltham, MA, USA)を用いた検出を行った。
【0093】
1-17.異種移植腫瘍の形成分析
5週齢の雄BALB/cAnNCrj-nuヌードマウス(Charles River Laboratory Japan Inc, Osaka, Japan)をメデトミジン(0.3 mg/kg体重)及びミダゾラム(4 mg/kg体重)で麻酔を行った後に、100μlの高濃度マトリゲル(Corning, NY, USA)に懸濁したHepG2細胞(7×106 cells)を背部の皮下に注入した。次いで、移植から28日後にヌードマウスを殺して、移植細胞を含む領域を測定し、免疫組織化学的分析のための処理に供した。本試験における全ての動物実験に関する全てのプロトコールは、大阪大学動物実験委員会の承認(No. 2867)の下で行った。
【0094】
1-18.異種移植皮下腫瘍形成分析
5週齢のBALB/cAJcl-nu/nu mice (nude mice; CLEA Japan)に対してメデトミジン(0.3?mg/kg)及びミダゾラム(4?mg/kg)を組み合わせて投与して麻酔を行った。次いで、Hep3B細胞又はJHH7細胞(1×107 cells)を150 μlの高濃度マトリゲル(Corning)中に懸濁させ、マウスの皮下に移植した。移植後3日目から1週間に2回の頻度で、ASO (50 μg/body;約2.5 mg/kg)を皮下投与した。Hep3B細胞を移植したマウスは、移植から6.5週間後に安楽死させた。JHH7細胞を移植したマウスは、移植から2週間後に安楽死させた。安楽死させたマウスから腫瘍を回収し、組織学的分析に供した。本試験における全ての動物実験に関する全てのプロトコールは、大阪大学動物実験委員会の承認(No. 26-032-048)の下で行った。
【0095】
1-19.ノックアウト細胞の作製
CRISPR Genome Engineering Resources (http://www.genome-engineering.org/crispr/)を利用して、ヒトGREB1の標的配列5’-CTTCTCGGTGTTGAAGCCGA-3’(配列番号102)をデザインした。pX330(addgene#42230)のBbsIサイトに所定のオリゴヌクレオチドをライゲートすることにより、hCas9及びシングルガイドRNA(sgRNA)を発現するプラスミドを作製した。Lipofectamine LTX reagent (Life Technologies/Thermo Fisher Scientific)を用いて、製造元の推奨プロトコールに従って、GREB1又はMITFを標的とするsgRNA配列及びブラストサイジン耐性を有するプラスミドpX330を、HepG2細胞、Hep3B細胞、JHH7細胞、又はCOLO679細胞に導入し、5μg/mLのブラストサイジンSを含む培地で2日間培養することによって、GREB1ノックアウト細胞又はMITFノックアウト細胞を選択した。次いで、単一のコロニーを採取し、機械的に解離させ、24ウェルプレートの個々のウェルに再度播種した。
【0096】
また、Smad2及びSmad3(Smad2/3)の二重ノックアウト細胞を作製するために、pRP[CRISPR]にhCas9及びデュアルガイドRNAsを組み込んだプラスミドをVectorBuilder Inc. (Guangzhou, China)にて設計し、合成した。ヒトSmad2に対するgRNAの標的配列として5’-TATATTGCCGATTATGGCGC-3’(配列番号103)、及びヒトSmad3に対するgRNAの標的配列として5’-GGAATGTCTCCCCGACGCGC-3’(配列番号104)をデザインした。Smad2/3を標的とするデュアルガイドRNAs配列を有するプラスミドpRP[CRISPR]をHepG2細胞に導入し、次いで、単一のコロニーを採取し、機械的に解離させ、24ウェルプレートの個々のウェルに再度播種した。
【0097】
1-20.クロマチン免疫沈降(ChIP)アッセイ
10cmディッシュ中のコンフルエントなHepG2細胞を、5 ng/mlのTGFβ1の存在下又は非存在下で3時間刺激した。その後、細胞を1%ホルムアルデヒドで室温で10分間架橋させ、0.125 Mグリシンで架橋反応を停止させた。冷PBSで細胞を3回洗浄した後に、細胞を剥がして回収した。更に、細胞を遠心分離にて沈降させて、硫酸ドデシルナトリウム(SDS)溶解バッファー(50 mM Tris/HCl [pH 8.0], 10 mM EDTA, and 0.5% SDS)で溶解させた。細胞溶解液に超音波処理を行うことによりDNAを剪断し、DNAのサイズを200~1000bpにした。剪断したクロマチン上澄液を、プロテアーゼ阻害剤及びホスファターゼ阻害剤を含むChIPdilution buffer (16.7 mM Tris/HCl [pH 8.0], 167 mM NaCl, 1.2 mM EDTA, and 1.1% Triton X-100)で希釈し、サケ精子DNA/プロテインA-アガロースビーズ(Millipore, Billerica, MA, USA)を加えてプレクリアした。次いで、抗Tcf-4抗体、抗β-カテニン抗体、抗アセチル化ヒストンH4抗体又はネガティブコントロールIgG (Diagenode, Liege, Belgium)を加えて、4℃で12時間インキュベートした。サケ精子DNA/プロテインA-アガロースビーズに吸着した免疫複合体に対して、高塩バッファー(20 mM Tris/HCl [pH 8.0], 500 mM NaCl, 0.1% SDS, 1% TritonX-100, and 2 mM EDTA)で1回洗浄、更にLiClバッファー(10 mM Tris/HCl [pH 8.0], 0.25 M LiCl, 1 mM EDTA, 1% deoxycholic acid, and 1% Nonidet P-40)で1回洗浄、及びTEバッファー(10 mM Tris/HCl (pH 8.0), and 1 mM EDTA)で4回洗浄を行った。次いで、溶出バッファー(50 mM Tris/HCl [pH 8.0], 10 mM EDTA, 1% SDS)中で65℃で4時間インキュベートすることにより、免疫複合体をビーズから溶出させ、脱クロスリンクを行った。次いで、サンプルにRNase Aを添加して37℃で30分間処理し、更にproteinase Kを添加して55℃で1時間処理した。そして、フェノール-クロロホルム抽出によりDNAを精製し、表3に示すプライマーを用いてPCRを行った。
【表3】
【0098】
1-21.プラスミドの構築、及びcDNAを有するレンチウイルスを用いたトランスフェクション
標準的な組換えDNA技術を用いて、全長GREB1又はその各種突然変異体を有するプラスミドを設計した。NSL(nuclear localization sequence)融合GREB1変異体を作成するために、SV40 T抗原由来のNSLの3コピーをGFP-GREB1変異体のN末端に結合させた。
【0099】
Dr. H. Miyoshi (RIKEN BioResource Center, Ibaraki, Japan)から供与されたCSII-CMV-MCS-IRES2-Bsdに、GFP及びpEGFPC1-GREB1をサブクローニングすることによりレンチウイルスベクターを構築した。
【0100】
次いで、FuGENE HD transfection reagent (Roche Applied Science, Basel, Switzerland)を用いて、レンチウイルスベクターを、パッケージングベクターpCAG-HIV-gp及びpCMV-VSV-G-RSV-Revと共にX293T細胞にトランスフェクトして、レンチウイルスを作製した。また、12ウェルプレートの各ウェルに5×104 cellsのHepG2細胞を入れて、レンチウイルス及びポリブレン10μg/ mlで処理し、1200×gで30分間遠心分離した後に24時間インキュベートすることにより、GFP又はGFP-GREB1(GFPが連結しているGREB1)を安定に発現するHepG2細胞を作製した。
【0101】
pT3-EF1a-cMETは、Addgene (Cambridge, MA, USA)から購入した。pLIVE-SB13ベクターは、r. Toru Okamoto (Osaka university)から供与してもらった。pT2BH-ΔN90βカテニン-Lucは、CAGプロモーター、1-90位のアミノ酸を欠いているヒトCTNNB1配列、及びルシフェラーゼを、pT2BHベクター(Addgene)にin-fusionクローニングすることにより作製した。pT2BH-YAPS127Aは、pT2BHベクターのEcoRIサイトとNotIサイトの間に、FLAGでタグ化したヒトYAPS127Aフラグメントをインサートすることにより構築した。pT2BH-GFP2ALuc mouse Greb1 shRNAは、pT2BH-GFP2ALucのPstIサイトとHindIIIサイトの間に、U6プロモーター及び、Mission shRNA (TRCN0000216019) (Sigma-Aldrich)から増幅させたmGreb1 shRNAフラグメントをインサートすることにより構築した。
【0102】
1-22.統計分析
各試験は、少なくとも3回実施した。統計分析は、Excel (Microsoft, Redmond, WA, USA)及びGraphPad Prism 7 (GraphPad Software, La Jolla, CA, USA)を用いて行った。P値が0.05未満の場合には、統計学的に有意差があるとみなした。
【0103】
2.試験結果
2-1.ヒト肝芽腫において、GREB1はWnt/β-カテニンシグナルの下流標的遺伝子である
肝芽腫の腫瘍形成メカニズムを解明するために、エキソン3及び4でβ-カテニン遺伝子が短縮型変異(truncated mutation)を有しているHepG2肝芽腫細胞を使用して、Wnt/β-カテニンシグナルの下流新規標的遺伝子をスクリーニングした。コントロールsiRNA又はβ-カテニンに対するsiRNA(β-カテニン siRNA)をトランスフェクトしたHepG2細胞において、RNA配列解析を行った。その結果、8929遺伝子の内、発現量が高いこと(FPKM≧3)、且つβ-カテニン siRNAをトランスフェクトした細胞(β-カテニンノックダウン細胞)において、コントロールsiRNAをトランスフェクトした細胞(コントロール細胞)よりも発現量が3倍以上低下していることを基準として、候補遺伝子として76遺伝子が選択された(
図1のa参照)。更に、ENCODE Transcription Factor Binding Site Profiles (TCF7L2#HepG2#hg19#1)の遺伝子セットを用いてHepG2におけるChIP配列解析で見出されたTCF7L2 (TCF4)のDNA結合部位の存在を基準として、候補遺伝子を絞り込むと、11種の遺伝子が選択された(
図1のa、及び表4参照)。
図1のaの下図には、コントロール細胞とβ-カテニンノックダウン細胞において、発現量が変化している候補遺伝子のヒートマップを示している。
図1のaの下図の左に示す各遺伝子は、変動した76種の候補遺伝子のうち11遺伝子をランダムに示している。
【0104】
【0105】
NKD1、LGR5、SP5、ZNRF3、RNF43、Axin2、CCND1、及びDKK1を含む選択された候補遺伝子の殆どは、Wnt/β-カテニンシグナルの標的遺伝子として公知のものであった。候補遺伝子の一つであるGREB1は、エストロゲンレセプター調節経路におけるエストロゲン応答性遺伝子であり、乳がん及び前立腺がんにおけるホルモン依存性がん細胞増殖に関与することが知られているが、Wnt/β-カテニンシグナルの下流標的遺伝子となり、エストロゲン受容体が発現していないがんの腫瘍形成に関与しているか否かは従来解明されていない。そこで、GREB1に着目して更なる分析を行った。
【0106】
クロマチン免疫沈降アッセイによって、TCF4及びβ-カテニンが、ヒトのGREB1遺伝子の5'-上流領域-443~-448にあるTCF4結合部位と複合体を形成することが明らかになった(
図1のb参照)。実際、βカテニンをノックダウンしたHepG2細胞において、GREB1の発現量の低下、及びタンパク質量の低下が認められた(
図1のc参照)。一方、HepG2細胞をエストロゲン受容体アンタゴニストICI-182,786で48時間処理した後に、GREB1 mRNAの発現量をリアルタイムPCR分析にて測定したところ、GREB1の発現量はICI-182,786による影響を受けないことが確認された(
図2のa参照)。両分化能を有するマウス胎児肝細胞(BMEL)細胞においては、β-カテニンシグナルの活性化作用を有するCHIR99021処理によってAxin2と同様にGREB1の発現が上昇した(
図2のb参照)。CTNNB1(β-カテニン)遺伝子にG34V体細胞変異を有する肝芽腫細胞株であるHuh6細胞においてはβ-カテニンのノックダウンによってGREB1の発現量が減少した(
図2のc参照)。Huh6はHepG2と比較してGREB1 mRNAの発現量は少なかった(
図2のd参照)。エストロゲン受容体陽性の乳がん細胞株であるMCF7においては、ICI-182,786処理によってGREB1の発現は劇的に減少したが、ICI-182,786の存在下又は非存在下いずれにおいても、Wnt/β-カテニンシグナルの活性化作用を有するCHIR99021の処理によってAxin2の発現が上昇するのに対してGREB1の発現は上昇しなかった(
図2のe参照)。更に、ヒト肝細胞がん細胞であるHLE、SNU-387、SNU-449、Huh7において、CHIR99021の処理によってAxin2の発現が上昇するのも対してGREB1の発現は上昇しなかった(
図2のf参照)。これらの結果から、GREB1は、肝芽腫細胞又は未成熟な肝前駆細胞における特異的なWnt/β-カテニンシグナルの下流標的遺伝子であることが示唆された。
【0107】
肝芽腫11症例で解析を行った。具体的には、11症例の肝芽腫組織を抗GREB1抗体及びヘマトキリンで染色した。その結果、11症例中、10症例(90.9%)で腫瘍病変部位においてGREB1の発現が認められたが、非腫瘍領域ではGREB1の発現は認められなかった(表5、
図1のd参照)。腫瘍病変部位の総面積に対してGREB1の免疫染色によって染色された面積の割合3つのカテゴリー(<5%(Negative)、5-30%(Low)、及び30-95%(High))に分類し、≧5%の染色を示した症例をGREB1陽性とみなした。肝芽腫組織におけるGREB1の領域特異的発現パターンは、連続切片においてβ-カテニンの蓄積と正の相関を示す傾向が認められた(
図1のe参照)。肝芽腫組織には組織学的に2つのタイプがあり、一方は充実性で非極性化した細胞で構成されるタイプであり、他方は管状で極性化した細胞で構成されるタイプであった。それらのうち、GREB1前者の組織型(充実性で非極性化した細胞)において特異的に高発現していた。また、11症例の肝芽腫組織を抗β-カテニン抗体及びヘマトキリンで染色した。その結果、腫瘍病変部位では、非腫瘍領域に比べて、β-カテニンの発現量が増大していることが確認された(
図2のg参照)。腫瘍病変部位の総面積に対してβ-カテニンの免疫染色によって染色された面積の割合3つのカテゴリー(<5%(Negative)、5-30%(Low)、及び30-95%(High))に分類し、≧5%の染色を示した症例をβ-カテニン陽性とみなした。
【0108】
【0109】
更に、R2 genomicsから得られる肝芽腫患者の公的データセットとvisualization platform database (http:// r2.amc.nl)を用いて、GREB1遺伝子の発現と、肝芽腫におけるWnt/β-カテニンシグナルの標的遺伝子の発現との相関を分析した。GREB1遺伝子の発現と標的遺伝子の発現に関する2つのパラメータは、肝芽腫の症例において50の腫瘍病変部位及び5つの非腫瘍領域について利用可能であった。分析の結果、腫瘍病変部位では、GREB1 mRNAは非腫瘍領域の領域と比較して有意にアップレギュレートされていることが分かった(
図1のf参照)。更に、Axin2、DKK1、NKD1、及びglutamine synthetase(GS)等のWnt/β-カテニンシグナルの標的遺伝子の発現量とGREB1の発現量との間に有意な正の相関が認められた(
図1のg参照)。一方で、PRLRやXBP1といったエストロゲン受容体の下流標的遺伝子の発現は有意に変動しなかった(
図2のi参照)。即ち、これらの結果から、肝芽腫において、エストロゲン受容体シグナルではなく、Wnt/β-カテニンシグナルの活性化がGREB1の発現を増大させていることが確認された。
【0110】
肝芽腫患者の公的データセットによると、肝芽腫症例のCTNNB1遺伝子のエクソン3又はエクソン4の領域に変異または欠失を有する症例は、変異を有さない症例と比較して、GREB1の発現は有意に変化していなかった(
図2のj参照)。β-カテニンの下流標的遺伝子であるAxin2及びGSについても同様にCTNNB1遺伝子の異常の有無に関わらず発現が変動していなかった。これらの結果から、肝芽腫におけるGREB1の発現はβ-カテニンシグナルの活性に相関するが、CTNNB1遺伝子のエクソン3又はエクソン4の領域の変異には必ずしも関連しないことが明らかとなった。そのため、別種のCTNNB1遺伝子変異又はCTNNB1遺伝子の変異に非依存的なβ-カテニンシグナルの活性化が起こっている可能性が示唆された。
【0111】
2-2.GREB1発現は、肝芽腫細胞の増殖に関与する
過去に報告されている通り、β-カテニンのノックダウンはHepG2細胞の細胞増殖を低下させた(
図3のa参照)。また、外来性のGREB1の発現は、β-カテニンのノックダウンの表現型を部分的に回復させた(
図3のa参照)。そこで、HepG2細胞におけるGREB1の役割を解明するために2つの異なるsiRNAを使用してGREB1をノックダウンした。GREB1をノックダウンした細胞の溶解液に、抗GREB1抗体、抗Axin2抗体、抗β-カテニン抗体、及び抗HSP90抗体でプローブ化した結果、siRNA(GREB1 #1 siRNA及びGREB1 #2 siRNA)は、GREB1をノックダウンさせるが(
図3のb参照)、GREB1のノックダウンは、ERシグナルの標的遺伝子であるPRLRやXBP1の発現には影響せず(
図3のc参照)、β-カテニン及びAxin2の発現にも影響しないことが確認された(
図3のb参照)。即ち、これらの結果は、GREB1は、ER及びWnt/β-カテニンシグナルの上流で機能する遺伝子ではないことが示唆された。
【0112】
Mock(GREB1を含まないベクターのみ)又はGREB1を導入したHepG2細胞に、コントロールsiRNA又は2つの異なるsiRNA(GREB1 #1 siRNA及びGREB1 #2 siRNA)をトランスフェクトして、二次元培養(プラスチックディッシュでの培養)を行い、Cyquantアッセイによって相対的細胞数を経時的に求めた。その結果、GREB1ノックダウンでは、HepG2細胞の二次元培養における増殖能を低減させたが、GREB1を導入したHepG2細胞にGREB1に対するsiRNAをトランスフェクトした場合(GREB1 #1 siRNA/GREB1及びGREB1 #2 siRNA/GREB1)では、HepG2細胞の増殖能に影響はなかった(
図4のa参照)。
【0113】
更に、コントロールsiRNA又はsiRNA(GREB1 #2 siRNA)をトランスフェクトしたHepG2細胞を三次マトリゲルで5日間培養して、細胞をファロイジンで染色し、スフェアの面積を計測した(n=20)。その結果、GREB1のノックダウンは、スフェア面積を半分にまで低減させた(
図4のb)。対照的に、GREB1のノックダウンした場合では、極性化した内腔を有するスフェアの割合が増加することが確認された(
図4のb)。なお、極性化した内腔を有するスフェアの割合は、全スフェアに対するF-actin陽性central microlumenを有するスフェアの割合として算出した。これらの結果は、GREB1をノックダウンしたHepG2細胞は、上皮極性化を有する分化状態に形質転換されたことが示唆された。これらの結果は、GREB1が肝芽腫組織において、充実性で非極性化した細胞において特異的に発現しているという結果(
図2のh参照)と一致していた。実際、GREB1のノックダウンは未分化な肝前駆細胞マーカー遺伝子であるDLK1、AFP及びPEG3の発現を有意に低下させた(
図4のc)。これらの結果と一致して、肝芽腫患者の公的データセットでも、DLK1やTACSTD1等の遺伝子の肝芽腫マーカー遺伝子の発現量とGREB1の発現量との間に有意な正の相関が認められた(
図3のd参照)。
【0114】
また、GREB1の発現量が低いHuh6細胞では、GFP又はGFP-GREB1をトランスフェクトすると、GFP-GREB1を導入してGREB1を過剰発現させた場合に、二次元培養及び三次元培養において増殖能の増大が認められた(
図3のe及びf参照)。即ち、これらの結果から、肝芽腫細胞におけるGREB1の発現は、増殖能を向上させる一因になっていることが明らかとなった。
【0115】
コントロールsiRNA又はGREB1 siRNA(GREB1 #1 siRNA及びGREB1 #2 siRNA)をトランスフェクトしたHepG2細胞を1% FBSを含む培地で1日間培養し、その細胞溶解液を、抗cyclinA抗体、抗cyclinB抗体、抗リン酸化ヒストンH3抗体、抗ヒストンH3抗体、抗GREB1抗体、及び抗HSP90抗体でプローブ化した。その結果、GREB1のノックダウンは、cyclinA、cyclinB、及びリン酸化ヒストンH3を含む細胞サイクル制御因子の発現を低下させることが確認された(
図4のd参照)。
【0116】
また、公的データベースを用いた解析によって、肝芽腫細胞において、GREB1の発現量と、MKI67、GMMN、及びPCNAの発現量には、正の相関があることが分かった(
図4のe参照)。
【0117】
また、HepG2細胞におけるGREB1のノックダウンによる肝芽腫マーカーの発現、細胞増殖、及び細胞周期における表現型は、CRISPR/Cas9によって作製したGREB1をノックアウトしたHepG2細胞においても同様に確認され、その表現型は外来性のGREB1の発現によって回復した(
図3のg~j参照)。
【0118】
更に、HepG2細胞にコントロールsiRNA又はsiRNA(GREB1 #1 siRNA及びGREB1 #2 siRNA)をトランスフェクトし、0.1% FBSを含む培地(カスパーゼ阻害剤Z-VADを含む場合と含まない場合)で2日間培養し、ヨウ化プロピジウム(PI、生細胞)及びHoechst33342(核)で染色し、細胞の生存率を評価した。この結果、Z-VADを含まない培地を使用した場合に、GREB1のノックダウンによって、HepG2細胞の細胞死を増加させることが確認された(
図4のf参照)。
【0119】
更に、HepG2細胞にコントロールsiRNA又はsiRNA(GREB1 #1 siRNA及びGREB1 #2 siRNA)をトランスフェクトし、0.1% FBSを含む培地で2日間培養し、その細胞溶解液を、抗cleaved caspase 3抗体、抗PARP1抗体、及び抗HSP90抗体でプローブ化した。その結果、アポトーシス細胞のマーカーである抗cleaved caspase 3及びPARP1の細胞内の量は、GREB1がノックアウトされているHepG2細胞において増加していることが確認された(
図4のg参照)。
【0120】
即ち、これらの結果から、肝芽腫細胞において、GREB1は、細胞周期制御を介した細胞増殖だけでなく、細胞生存にも不可欠になっていることが示唆された。
【0121】
2-3.GREB1は、Smad2/3と複合体を形成する
過去の乳がん細胞での報告と一致して、X293T細胞ではHA-FLAG-GREB1は主に核内に局在した(
図5のa参照)。GREB1の核局在配列(NLS)である310~319位のアミノ酸を欠失させた変異体GREB1(HA-FLAG-ΔNLS-GREB1)は細胞質に局在位した(
図5のa参照)。どのような機構でGREB1がERシグナルとは独立して肝芽腫細胞の増殖を制御しているかを解明するために、Biological General Repository for Interaction Datasets (BioGRID) (https://thebiogrid.org/)を用いて、GREB1と相互作用し得る候補タンパク質を同定した。その結果、GREB1と相互作用し得る候補タンパク質として、表6に示すタンパク質が見出された。
【0122】
【0123】
これらの候補タンパク質の中で、TGFβシグナルのセントラルメディエーターであるSmad4に着目した。Smadタンパク質は、機能に応じて、Smad3(Co-mediator Smad、Co-Smad)、Smad4(receptor-regulated Smad、R-Smad)、及びSmad7(inhibitory Smad、I-Smad)の3つのクラスがある。X293T細胞においてGFP-Smad3とGFP-Smad7は主に核内に局在し、GFP-Smad4は細胞質に局在した(
図6のa参照)。そこで、Smad3、Smad4及びSmad7について、GREB1との複合体の形成能を評価した。具体的には、先ず、HA-FLAG-GREB1及びGFP、GFP-Smad3、GFP-Smad4、又はGFP-Smad7を発現するX293Tの細胞溶解液を抗GFP抗体で免疫沈降させた。次いで、細胞の溶解液(Input)及び免疫沈降物(IP)に対して、抗HA抗体又は抗GFP抗体を反応させた。その結果、HA-FLAG-GREB1は、Smad3 (Co-Smad)及びSmad7(I-Smad)と複合体を形成するが、Smad4 (R-Smad)とは複合体を形成しないことが確認された(
図5のb参照)。一方、HA-FLAG-ΔNLS-GREB1はSmad4 (R-Smad)と複合体を形成するが、Smad3(Co-Smad)及びSmad7(I-Smad)とは複合体を形成しないことが確認された(
図5のb参照)。これらの結果から、GREB1は細胞内局在に依存して全てのSmadファミリーと結合することが示唆された。また、HepG2細胞の溶解液を抗Smad2/3抗体で免疫沈降させ、得られた免疫沈降物(IP)に対して、抗Smad2/3抗体及び抗GREB1抗体を反応させたところ、GREB1は内在するSmad2/3との結合が認められたものの(
図5のc参照)、GREB1とSmad4又はSmad7との相互作用は殆ど認められなかった(データは示さない)。GFP-GREB1を発現させたHuh6においても、細胞の溶解液を抗GFP抗体で免疫沈降させ、得られた免疫沈降物(IP)に対して、抗Smad2/3抗体及び抗GREB1抗体を反応させたところ、GREB1は内在するSmad2/3との結合が認められた(
図6のb参照)。一方、他の核タンパク質であるβ-カテニンやc-Mycは、GFP-Smad3、GFP-Smad4又はGFP-Smad7との相互作用は認められなかった(
図6のc参照)。そこで、GREB1とSmad2/3との間の機能的相互作用について更なる検討を行った。
【0124】
Smad2は、MH1ドメイン及びMH2ドメインの2つの機能領域を有していることが知られている(
図5のd参照)。そこで、Smad2について、全長Smad2(Full)、C末端側(266~467位のアミノ酸)が欠失し、MH1ドメインを含むC末端側領域のみからなるSmad2変異体(N)、及びN末端側(1~265位のアミノ酸)が欠失し、MH2ドメインを含むC末端側領域のみからなるSmad2変異体(C)を用いて、GREB1との結合性について評価した(
図5のd参照)。先ず、HA-FLAG-mGREB1及びGFP、又はGFP-Smad2(Full、変異体N、又は変異体C)を発現するX293T細胞の溶解液を抗GFP抗体で免疫沈降させた。次いで、細胞の溶解液(Input)及び免疫沈降物(IP)に対して、抗HA抗体又は抗GFP抗体を反応させた。その結果、GFP-Smad2(変異体C)はGREB1との複合体を形成したが、GFP-Smad2(変異体N)はGREB1との複合体を形成しなかった(
図5のd参照)。更に、リコンビナントのGST-Smad2/MH2ドメインはプルダウンアッセイによって、HepG2細胞の内在性のSmad4が結合する状況で、内在性のGREB1、及びHuh6細胞に発現したGFP-GREB1と結合した(
図5のe参照)。一方、同一の条件でリコンビナントのGST-Smad2/MH1ドメインは結合しなかった(
図5のe参照)。また、GFP-GREB1を発現させたHuh6細胞の場合についても、同様の傾向が認められた(
図6のd参照)。これらの結果から、肝芽腫細胞においてGREB1は直接Smad2/3と結合することが示唆された。
【0125】
更に、GREB1のどの領域でSmad2/3と相互作用しているかを分析するために、GREB1の667~1954位のアミノ酸を欠失させた変異体N(1-666)、GREB1の1~666位及び1334~1954位のアミノ酸を欠失させた変異体M(667-1333)、並びにGREB1の1~1333位のアミノ酸を欠失させた変異体C(1334-1954)を作製し、更に、NLSを有さない変異体変異体M及びCのN末端にSV40T抗原に由来するNLS配列の3コピー(配列番号109)を結合させたNLS-GREB1変異体(NLS/667-1333、及びNLS/1334-1954)を作製した(
図5のf参照)。そして、GFP-GREB1変異体を発現するX293T細胞を抗GFP抗体及びHoechst33342で染色した(
図5のf参照)。その結果、GREB1変異体(1-666、NLS/667-1333、及びNLS/1334-1954)は、核内に局在化していることが確認された。
【0126】
また、FLAG-Smad3及びGFP、GFP-GREB1、又はGFP-GREB1変異体を発現するX293T細胞の溶解液を抗GFP抗体で免疫沈降させた。次いで、更に得られた細胞の溶解液(Input)及び免疫沈降物(IP)に対して、抗FLAG抗体又は抗GFP抗体を反応させた。その結果、X293T細胞において、GREB1変異体(NLS/667-1333)はSmad3と結合するが、GREB1変異体(1-666及びNLS/1334-1954)はSmad3とは殆ど結合しないことが分かった(
図5のg参照)。
【0127】
また、GREB1の1~666位のアミノ酸を欠失させ且つN末端にSV40T抗原に由来する3コピーのNLS配列(配列番号109)を結合させた変異体(NLS/667-1954(ΔN))、GREB1の667~1333位のアミノ酸を欠失させた変異体(Δ667-1333/ΔM)、及びGREB1の667~1333位のアミノ酸を欠失させ且つN末端にSV40T抗原に由来する3コピーのNLS配列(配列番号109)を結合させた変異体(NLS/1-1333(ΔC)を作製した。これらの変異体を発現するX293T細胞の溶解液を抗GFP抗体で免疫沈降させた。次いで、更に得られた細胞の溶解液(Input)及び免疫沈降物(IP)に対して、抗FLAG抗体又は抗GFP抗体を反応させた(
図6のe参照)。その結果、野生型GREB1は、Smad3と結合することが確認されたが、GREB1の667~1333位のアミノ酸を欠失させた変異体では、Smad3との結合は認められなかった(
図6のe参照)。以上の結果から、GREB1の667~1333位のアミノ酸領域が、Smad3との結合に重要な役割を果たしていることが明らかとなった。更に、これらの結果は、肝芽腫細胞の核内において、GREB1の667~1333位を含むアミノ酸領域が、Smad2/3のNH2ドメインと相互作用して複合体を形成していることが示唆された。
【0128】
2-4.GREB1は、TGFβシグナルのネガティブレギュレーターとして機能する
TGFβシグナルにおけるGREB1の役割を解明するために、標的遺伝子の発現、Smad2の核内移行、Smad2/3とSmad4との複合体の形成、及び内在レベルでのSmad2/3のリン酸化について検討を行った。
【0129】
肝芽腫患者の公的データセットを分析した結果、β-カテニンシグナルの標的遺伝子Axin2やDKK1の発現量は非腫瘍領域と比較して、腫瘍病変部において有意に発現が上昇していた(
図8のa参照)。一方、TGFβシグナルの標的遺伝子PAI-1又はGADD45Bの発現量は非腫瘍領域と比較して、腫瘍病変部において有意に発現が減少していた(
図7のa参照)。更に、GREB1の発現量と、TGFβシグナルの標的遺伝子(PAI-1、p21/CDKN1A、TSP-1、及びCTGF)の発現量との間では、有意な逆相関が認められた(
図7のb参照)。GFPを発現するHepG2細胞(HepG2/GFP)、又はGFP-GREB1を発現するHepG2細胞(HepG2/GFP-GREB1)に、コントロールsiRNA又はGREB1 #2 siRNAをトランスフェクトした。これらの細胞について、リアルタイムPCRにてPAI-1及びSNAIL2のmRNA量を測定した(n=3)。この結果、GREB1をノックダウンしたHepG2細胞(HepG2/GFP)では、TGFβシグナルのターゲット遺伝子であるPAI-1及びSNAIL2の発現量が増大しており、これらの表現型はGFP-GREB1の発現により回復した(
図7のc参照)。
【0130】
また、HepG2細胞(Control)、GREB1をノックアウトしたHepG2細胞(GREB1 KO)、又はGREB1を発現させたGREB1 KO HepG2細胞(GREB1 KO/GREB1)におけるPAI-1 mRNA量をリアルタイムPCRにより分析した。その結果、GREB1のノックアウトによってPAI-1 mRNA量が有意に増加し、外来性のGREB1の発現によってGREB1のノックアウトによる表現型が回復することが分かった(
図8のb参照)。
【0131】
また、HepG2細胞に、コントロールsiRNA又はGREB1 #2 siRNAをトランスフェクトし、TGFβ受容体阻害剤(ALK5 inhibitor)存在下又は非存在下で培養し、細胞内のPAI-1及びSNAIL2のmRNA量を測定した。その結果、GREB1のノックダウンによるPAI-1及びSNAIL2のmRNA量増加はTGFβ受容体シグナル依存的であることが分かった(
図7のd参照)。
【0132】
また、コントロールsiRNA又はGREB1 #2 siRNAをトランスフェクトしたHepG2細胞を、10ng/mLのTGFβ存在下又は非存在下で30分間培養した。前記培養後の細胞を固定化して、抗Smad2/3抗体で免疫染色した(
図8のc参照)。また、前記培養後の細胞の溶解液を抗Smad2/3抗体で免疫沈降させた。次いで、得られた細胞の溶解液(Input)及び免疫沈降物(IP)に対して、抗Smad4抗体又は抗Smad2/3抗体を反応させた(
図8のd参照)。更に、前記培養後の細胞の溶解液に、抗GREB1抗体、抗リン酸化Smad2/3(pSmad2/3)抗体、又は抗Smad2/3抗体を反応させた(
図8のe参照)。その結果、GREB1のノックダウンは、TGFβ依存的なSmad2/3の核内移行、Smad2/3とSmad4との複合体の形成、及びSmad2/3のリン酸化には影響しないことが分かった(
図8のc~e参照)。これらの結果から、GREB1は、核内のSmad2/3の機能を阻害する作用があり、これによってTGFβ依存的な遺伝子の発現が阻害されることが明らかとなった。
【0133】
CBP及びp300等の転写活性化因子は、クロマチン構造を改変するヒストンアセチルトランスフェラーゼ(HAT)活性を有していることが知られている。また、R-Smads(Smad2/3)は、MH2ドメインを介して、CBP又はp300に直接的に相互作用することも知られている。そこで、以下、GREB1のノックダウンが、転写活性化因子とSmad2/3との結合に及ぼす影響について検討した。
【0134】
コントロールsiRNA又はGREB1 #2 siRNAをトランスフェクトしたHepG2細胞の溶解液を抗Smad2/3抗体で免疫沈降させた。次いで、得られた細胞の溶解液(Input)及び免疫沈降物(IP)に対して、抗p300抗体、抗GREB1抗体、又は抗Smad2/3抗体を反応させた(
図7のe参照)。この結果、HepG2細胞において、GREB1をノックダウンした場合にはSmad2/3のp300への結合が増大していた(
図7のe参照)。
【0135】
また、HA-FLAG-GREB1、GFP-Smad2変異体(C)、又はGFPを発現するX293T細胞の細胞溶解液を抗GFP抗体で免疫沈降させた。次いで、更に得られた細胞の溶解液(Input)及び免疫沈降物(IP)に対して、抗p300抗体、抗HA抗体、又は抗GFP抗体を反応させた。その結果、X293T細胞において、MH2ドメインを有するSmad2/C変異体(C)はp300と相互作用を示し、HA-FLAG-GREB1の過剰発現はSmad2/C変異体(C)とp300との相互作用を阻害することが分かった(
図7のf参照)。
【0136】
また、コントロールsiRNA又はGREB1 #2 siRNAをトランスフェクトしたHepG2細胞を、10ng/mLのTGFβ存在下又は非存在下で30分間培養した。培養後の細胞の溶解液を抗アセチル化ヒストン4(AcH4)抗体で免疫沈降させた。次いで、細胞溶解液(Input)及び免疫沈降物(IP)に含まれるPAI-1のエクソン2領域について領域特異的プライマーを用いたPCRによって分析した。この結果、GREB1のノックダウンは、HepG2細胞のPAI-1遺伝子座(エキソン2)においてアセチル化ヒストン4量を増大させることが確認された(
図7のg参照)。
【0137】
HepG2細胞に対して恒常的活性化型のTGFBR1変異体(T204D)をGFP、GFP-GREB1、又はGFP-GREB1変異体(Δ667-1333/ΔM)と共に過剰発現させ、SNAIL2又はp15遺伝子のmRNA発現を定量したところ、GREB1の発現によって恒常的活性化型TGFBR1依存的なSNAIL2又はp15の遺伝子発現が阻害されたが、GREB1変異体(Δ667-1333/ΔM)の発現によってはSNAIL2又はp15遺伝子発現は有意に阻害されなかった(
図7のh参照)。また、同一条件下でGREB1の過剰発現はAxin2の発現に対しては影響を与えなかった(
図7のh参照)。
【0138】
また、TGFBR1/T204D変異体(TGFBR1の204位のトレオニンをアスパラギン酸に置換した変異体)をトランスフェクトしたHepG2細胞におけるAFP mRNA及びDLK1 mRNA量をリアルタイムPCRにより分析した。その結果、恒常的活性化型のTGFBR1変異体(T204D)の過剰発現は、HepG2細胞のAFP及びDLK1の発現を減少させることが分かった(
図8のf参照)。この結果は、TGFβシグナルはラット胎児肝細胞又は肝がん細胞において、AFP及びDLK1の発現を減少させるとの過去の報告と一致している。
【0139】
また、HepG2細胞、及びSmad2/3をノックアウトしたHepG2細胞(HepG2/Smad2/3 KO) の溶解液を抗Smad2/3抗体、又は抗HSP90抗体でプローブ化した。更に、HepG2細胞、及びSmad2/3をノックアウトしたHepG2細胞(HepG2/Smad2/3 KO)にコントロールsiRNA又はGREB1に対するsiRNA(GREB1 #2 siRNA)をトランスフェクトし、AFP mRNA量をリアルタイムPCRにより分析した。その結果、Smad2/3のノックアウトは、GREB1のノックダウンによるAFPの発現低下を回復させたが、DLK1の発現低下には影響しないことが確認された(
図8のg及びh参照)。
【0140】
以上の結果から、GREB1は、Smad2/3のp300への結合を妨げており、TGFβ-Smadシグナルの標的遺伝子発現を阻害することが示唆された。
【0141】
また、Cancer Cell Line Encyclopedia (CCLE)(https://portals.broadinstitute.org/ccle)のmRNAプロファイルデータセット中のHepG2のRNAシークエンスデータを用いて、TGFβ1、TGFB2、又はTGFB3の遺伝子発現量を分析したところ、HepG2細胞はTGFβ1を高発現していた(
図9のa参照)。
【0142】
また、コントロールsiRNA、TGFβ1 siRNA、GREB1 siRNA(GREB1 #2 siRNA)、又はTGFβ1 siRNAとGREB1 siRNA(GREB1 #2 siRNA)を組み合わせてトランスフェクトしたHepG2細胞におけるPAI-1 mRNA量、TGFβ1 mRNA量及びGREB1 mRNA量をリアルタイムPCRにより分析した結果、TGFβ1とGREB1の二重ノックダウンによって、GREB1のノックダウンによるPAI-1の遺伝子発現上昇が有意に抑制されていた(
図9のb参照)。
【0143】
また、コントロールsiRNA、TGFβ1 siRNA、GREB1 siRNA(GREB1 #2 siRNA)又はTGFβ1とGREB1(GREB1 #2 siRNA)のsiRNAを組み合わせてトランスフェクトしたHepG2細胞の溶解液を抗GREB1抗体、抗TGFB1抗体、又は抗HSP90抗体でプローブ化した。その結果、TGFβ1とGREB1の二重ノックダウンによって、TGFβ1とGREB1のタンパク発現が効率よく抑制されていることが明らかとなった(
図9のc参照)
【0144】
更に、コントロールsiRNA、TGFβ1 siRNA、GREB1 siRNA(GREB1 #2 siRNA)又はTGFβ1 siRNAとGREB1 siRNA(GREB1 #2 siRNA)を組み合わせてトランスフェクトしたHepG2細胞について二次元培養(プラスチックディッシュでの培養)を行い、細胞数を経時的に測定した。その結果、GREB1のノックダウンによる細胞増殖抑制がTGFβ1との二重ノックダウンによって回復することが分かった(
図7のi参照)。
【0145】
コントロールsiRNA、TGFβ1 siRNA、GREB1 siRNA(GREB1 #2 siRNA)、又はTGFβ1 siRNAとGREB1 siRNA(GREB1 #2 siRNA)を組み合わせてトランスフェクトしたHepG2細胞を、0.01~1 ng/ml濃度のTGFB1非存在下で4時間培養後、PAI-1 mRNA量をリアルタイムPCRにより分析した。その結果、GREβ1及びTGFβ1のノックダウンによってTGFβ依存的なPAI-1mRNA発現の亢進が認められた(
図9のd参照)。
【0146】
また、HepG2細胞においてGREB1をノックダウンしたところ、TGFβシグナルの下流で細胞増殖の抑制を制御する標的遺伝子であるp15、p21、p27のうち、p15の発現が劇的に上昇した。GREB1のノックダウンによるp15の発現上昇はSmad2/3のノックアウトで抑制された(
図9のe参照)。更に、HepG2細胞においてp15をノックダウンしたところ、GREB1の発現抑制による細胞増殖抑制と細胞死亢進の表現型が回復した(
図9のf参照)。これらの結果から、GREB1の発現抑制による細胞増殖抑制と細胞死亢進の表現型においては、p15が重要であることが示唆された。この結果と一致して、HepG2細胞でのSmad2/3のノックアウトはGREB1ノックダウンによる細胞増殖抑制を阻害した(
図7のj参照)。
【0147】
更に、コントロールsiRNA、GREB1 siRNA(GREB1 #2 siRNA)、p15 siRNA、又はGREB1(GREB1 #2 siRNA)とp15のsiRNAを組み合わせてトランスフェクトしたHepG2細胞の二次元培養(プラスチックディッシュでの培養)を行い、細胞数を経時的に測定した。その結果、GREB1のノックダウンによる細胞増殖の抑制はp15のノックダウンによって回復することから、p15依存的な表現型であることが明らかとなった(
図9のg参照)。
【0148】
また、コントロールsiRNA、GREB1 siRNA(GREB1 #2 siRNA)、p15 siRNA、又はGREB1(GREB1 #2 siRNA)とp15のsiRNAを組み合わせてトランスフェクトしたHepG2細胞を0.1% FBSを含む培地(カスパーゼ阻害剤Z-VADを含む場合と含まない場合)で2日間培養し、ヨウ化プロピジウム(PI)及びHoechst33342で染色し、細胞の生存率を求めた。その結果、GREB1のノックダウンによる細胞死の亢進はp15のノックダウンによって回復することから、p15依存的な表現型であることが明らかとなった(
図9のh参照)。
【0149】
これらの結果から、GREB1ノックダウンによってTGFβに対する感受性が増強し、細胞増殖の抑制と細胞死が誘導されることが示唆された。
【0150】
また、乳がん細胞MCF7において、エストロゲン受容体アンタゴニスト(ICI.182.780)の処理、又はGREB1のノックダウンは、PAI-1のmRNA発現を抑制した(
図9のi及びj参照)。更に、MCF7細胞において、GREB1は内在性のSmad2/3と結合した(
図9のk参照)。これらの結果から、GREB1のTGFβシグナルに対するネガティブレギュレーターとしての機能は、肝芽腫細胞だけでなく、乳がん細胞でも同様であることが示唆された。
【0151】
2-5.核内の制限された領域において、GREB1及びSmad2/3の相互作用は、転写を阻害する
GFP-GREB1を発現するHepG2細胞を固定化して、抗GFP抗体及びHoechst33342で染色した結果、GFP-GREB1は、クロマチン領域ではなく、クロマチン間の区画でドットとして観察された(
図10のa参照)。また、GFP-GREB1を発現するHepG2細胞を固定化して、抗GFP抗体、抗Fibrillarin抗体、抗SC34抗体、抗PML抗体、又は抗Coilin抗体とHoechst33342で染色したところ、GREB1の染色が認められるドットは、フィブリラリン、SC35、PML、及びCoilinとは共存していないことが確認された(
図10のb参照)。これらの結果から、GREB1は、核小体、核スペックル、PML(Promyelocytic leukemia)体、及びカハール小体とは、独立して存在していることが示唆された。また、GFP-GREB1及びFLAG-SMAD3を発現するHepG2細胞を固定化して、抗GFP抗体、抗FLAG抗体及びHoechst33342で染色したところ、GFP-GREB1及びFLAG-Smad3は複合体を形成し、クロマチン間の区画に存在することが観察された(
図10のc参照)。
【0152】
また、HepG2細胞を10ng/mLのTGFβ存在下又は非存在下で30分間培養し、培養後の細胞を固定化して抗SMAD2/3抗体、抗GREB抗体、及びHoechst33342で染色した。その結果、核及び細胞質におけるGREB1蛍光強度を測定し、その結果を、細胞質のGREB1蛍光強度に対する核のGREB1蛍光強度の比率として表した。その結果、内在するGREB1及びSmad3は、細胞質及び核の双方に存在し、それらはTGFβの刺激によって核内に蓄積することが確認された(
図11のa参照)。
【0153】
また、HepG2細胞を10ng/mLのTGFβ存在下又は非存在下で30分間培養し、培養後の細胞を固定化して抗GREB1抗体、抗リン酸化SMAD2/3(pSMAD2/3)抗体、及びHoechst33342で染色した。その結果、TGFβで処理した細胞において、リン酸化SMAD2/3は核内で集積し、GREB1と共局在していることが確認された(
図11のb参照)。
【0154】
更に、HepG2細胞を10ng/mLのTGFβ存在下又は非存在下で30分間培養し、培養後の細胞を固定化し、マウス抗GREB1抗体及びウサギ抗SMAD2/3抗体を添加してインキュベートした。次いで、これらの一次抗体に対して、二次抗体(PLA(proximity ligation assay)プローブ)を結合させた。その結果、TGFβ刺激依存的に、Smad2/3は、クロマチン領域とクロマチン間領域の境界部において、GREB1と近接して存在することが分かった(
図11のc参照)。GREB1変異体(1-666及びNLS/667-1333)は、核全体に存在するが核内フォーカスを形成しておらず、GREB1変異体(NLS/1334-1954)はGREB1(全長)と同様に核内フォーカスを形成していることから、GREB1のC末端領域は、GREB1の核内の特異的領域で局在化する上で重要な役割を担っていることが示唆された(
図11のd参照)。
【0155】
核内のGREB1及びSmad2/3の特異的局在の機能的相互作用を明らかにするために、エチニルウリジン(EU)を用いてRNA合成の分析により転写活性を可視化した。具体的には、先ず、GFP-SMAD3を発現し、且つHA-FLAG-GREB1を発現又は非発現のHepG2細胞を終濃度1mMのEU存在下で30分間インキュベートした。インキュベート後の細胞を固定化し、抗GFP抗体、抗FLAG抗体、及びHoechst33342で染色した。なお、HepG2細胞をEU存在下で30分間インキュベートして細胞を固定化すると、EUで標識された核内領域を検出できることが確認されている(
図10のd参照)。前記試験の結果、GFP-SMAD3を発現するHepG2細胞において、新生RNA分子が核質全体で観察され、それらのいくつかはGFP-Smad3の核内フォーカスと共局在していることが観察された(
図11のe参照)。一方、GFP-SMAD3及びHA-FLAG-GREB1を発現するHepG2細胞では、EU標識は、GFP-Smad3の核内フォーカスと共局在しなかった(
図11のe参照)。即ち、これらの結果から、TGFβ-SMADシグナルに関連する転写活性は、クロマチン領域とクロマチン間領域の境界部においてSmad2/3とGREB1が相互作用することにより選択的に抑制されることが示唆された。
【0156】
2-6.GREB1はin vivoにおいて肝芽腫様の腫瘍の形成に関与する
がん遺伝子のゲノム操作及び/又はハイドロダイナミックトランスフェクションを用いて、肝細胞がん及び肝芽腫のマウス肝臓腫瘍モデルが、いくつか開発されている。また、ハイドロダイナミックトランスフェクションを用いた恒常的活性化型β-カテニン及びYAPの過剰発現は、肝細胞がん及び肝芽腫の特徴を伴う肝腫瘍を急速に導くことが報告されている。実際、肝芽腫組織(n=11)を抗β-カテニン抗体及びヘマトキシリンで免疫染色したところ、YAPは11例の肝芽腫組織において、9例(陽性率81.8%)で腫瘍細胞特異的に細胞質又は核内で過剰発現しており、当該9例は全例、β-カテニン及びGREB1が陽性であった(
図12のa参照)。更に、HGF-c-Met経路は肝芽腫において活性化されており、マウスにおいてβ-カテニン及びc-Metの構成的に活性な形態の同時発現は、肝腫瘍を誘導することも報告されている。
【0157】
β-カテニン、YAP及びc-Metのいずれの組み合わせがハイドロダイナミックトランスフェクション法による肝芽腫形成に効果的であるかを分析した。ヒトβ-カテニンの1-90までのアミノ酸が欠失しているΔN90βカテニンと、127番目のセリンがアラニンに置換されセリンのリン酸化を生じないようにしたYAP変異体であるYAPS127Aとを組み合わせて導入したマウス(BYモデル)では、導入後6週間で肝臓に小さな腫瘍塊が形成されたが、免疫組織学的にGREB1とDLK1はほとんど発現していなかった(
図12のb参照)。ΔN90β-カテニン及びc-Metを組み合わせて導入したマウス(BMモデル)では、導入後6週間で肝臓に形成された腫瘍塊において免疫組織学的にGREB1とDLK1が少量発現していた(
図12のb参照)。一方、ΔN90βカテニン、YAPS127A、及びc-Metを組み合わせて導入したマウス(BYMモデル)では、導入後6週間で肝臓に大きな多発性の腫瘍塊が形成され、免疫組織学的にGREB1とDLK1が高発現していた(
図12のb参照)。また、BYモデル、BMモデル、及びBYMモデルの腫瘍結節におけるGREB1とTACSTD1のmRNA量をリアルタイムPCRにて測定したところ、BYMマウスでは、BYモデル及びBMモデルに比べて、当該mRNA量が高くなっていた(
図12のc参照)。これらの結果から、BYMモデルは肝芽腫におけるGREB1の生体内機能解析を行う上で適切なモデルであるといえる。
【0158】
次に、YAPとc-Metが肝芽腫においてGREB1の発現を制御する機構を分析した。Huh6細胞又はHepG2細胞を固定化して抗YAP抗体、及びHoechst33342で染色したところ、YAPはHepG2細胞と比べてHuh6細胞において強く核に集積していることが分かった(
図13のa参照)。しかしながら、Huh6細胞及びHepG2細胞においてYAP/TAZをノックダウンしてもGREB1の発現には影響しなかった(
図13のb参照)。更に、Huh6細胞をCHIR99021で処理、又はMst1/2キナーゼの阻害作用を有し、YAPの活性化剤であるXMU-MP1で処理、又はそれらを組み合わせて処理した場合、GREB1のmRNA発現はAxin2のmRNA発現と同様に抑制された(
図13のc参照)。これらの結果から、YAP/TAZは肝芽腫の形成に必要であるが、GREB1の発現には必須ではないことが示唆された。
【0159】
また、HepG2細胞においてc-Metをノックダウンしたところ、Axin2 mRNAとGREB1 mRNAの発現が抑制され、YAPの下流標的遺伝子であるANKRD1とCyr61の発現は上昇した(
図13のd参照)。HGF-c-Metシグナル経路はβ-カテニンの654番目のチロシンのリン酸化と、β-カテニンの核移行を促進し、β-カテニンシグナルを活性化することが報告されている。実際、HepG2細胞においてc-Metをノックダウンしたところ、β-カテニンの654番目のチロシンのリン酸化が減弱し、GREB1とAxin2の発現が減少していた(
図13のe参照)。これらの結果から、c-Metはβ-カテニンのチロシンのリン酸化を誘導することでβ-カテニンシグナルを活性化し、GREB1の発現を上昇させることが示唆された。
【0160】
また、マウスにGREB1 shRNAと共に、ΔN90βカテニン、YapS127A、及びc-Metを投与し、投与から7~8週間後に肝臓を回収した。その結果、ΔN90βカテニン、YAPS127A、及びc-Metを導入したマウス(BYMマウス、コントロール)では、肝臓表面全体に複数の結節が認められた(
図14のa参照)。これに対して、ΔN90βカテニン、YAPS127A、及びc-Metと共にGREB1 shRNAを導入したマウス(BYM GREB1 KDマウス)では、肝臓における結節は抑制されていた(
図14のa参照)。更に、BYMマウス(C1~C7)の肝臓、及び未処理のマウス(NLマウス)の肝臓から腫瘍結節を取得し、ΔN90βカテニン、YAPS127A、及びc-Metの発現量をリアルタイムPCRにて測定したところ、BYMマウスでは、導入したΔN90βカテニン、YAPS127A、及びc-Metをいずれも発現していることが確認された(
図15のa参照)。
【0161】
更に、未処理マウス(NL)の肝臓、BYMマウスの腫瘍結節(n=42)、及びBYMマウスの非腫瘍組織(n=8)から全RNAを抽出し、リアルタイムPCRにてGREB1のmRNA量を測定した。その結果、各腫瘍結節におけるGREB1のmRNA量は、非腫瘍組織及び正常肝組織に比べて高くなっていた(
図15のb参照)。
【0162】
また、各BYMマウス(C1~C7)から6つの腫瘍結節を取得し、肝芽腫関連遺伝子の発現及び組織学的外観を調べた。その結果、ヒートマップの可視化により、個々のマウスの腫瘍結節に応じて、GREB1のmRNA量が異なっていることが分かった(
図14のb参照)。そして、GREB1のmRNA量が高い群(GREB1高群:C1、C4、及びC6)と低い群(GREB1低群:C2、C3、C5、及びC7)に分類した。GREB1高群では、TACSD1、DLK1(肝芽腫マーカー遺伝子)、AFP、GFP3(未分化肝芽細胞マーカー遺伝子)、PEG3、MEG3、BEX1(インプリンティング遺伝子)及びAxin2が、GREB1低群よりも高い傾向があった(
図14のb参照)。また、前記BYMマウス(C1~C7)から取得した腫瘍結節を用いて、REB1の発現量と肝芽腫関連遺伝子(DLK 1、TACSTD1、GPC3、MEG3、及びAxin2)のmRNAの発現量を測定した結果、GREB1の発現量と肝芽腫関連遺伝子の発現量との間には、強い正の相関が認められた(
図15のc、表7参照)。
【0163】
【0164】
また、GREB1高群(C4)及びGREB1低群(C3)のBYMマウスから分離された肝臓の組織切片について、ヘマトキシリン・エオシンで染色した。その結果、GREB1高群の腫瘍の大部分が、高い核/細胞質比を有し、増殖能が高いことが分かった(
図14のc、
図15のd参照)。また、GREB1低群の腫瘍は、主に、明確な細胞質、均一な丸い核、及び小さな核小体を有しており、分化した大きな細胞を含んでいた(
図14のc、
図15のd参照)。
【0165】
また、GREB1高群(C4)及びGREB1低群(C3)のBYMマウスから分離された肝臓の組織切片について、抗GREB1抗体又は抗DLK1抗体とヘマトキシリンで染色した。その結果、腫瘍病変部位におけるGREB1及びDLK1の発現は、非腫瘍領域よりも高いことが免疫組織化学的に確認され、その染色レベルは分化の程度と相関していた(
図14のd参照)。
【0166】
BYMマウスにおいてGREBをノックダウンした場合(BYM GREB1 KDマウス;K1~K6)、腫瘍形成の発生率は低下し、6匹中4匹のマウスで腫瘍は観察されなかった(
図14のa参照)。また、BYM+ GREB1 shRNAマウスでは、GREBをノックダウンしなかったBYMマウスと比較して、肝臓重量及び血清AFP値が劇的に減少していた(
図15のe参照)。
【0167】
また、3匹のBYMマウス(C1、C4、及びC6)、4匹のBYMマウス(C2、C3、C5、及びC7)、及びGREB1 shRNAが投与された2匹のBYMマウス(BYM GREB1 KDマウス;K2及びK4)の腫瘍結節から全RNAを抽出し、GREB1、DLK1及びTASCSTD1のmRNA量をリアルタイムPCRにて分析した。その結果、BYM GREB1 KDマウス(K2及びK4)の腫瘍は、GREB1 mRNAの発現量が低く、DLK1及びTACSTD1の発現量は、BYMマウスのGREB1低群と同等であった(
図14のf参照)。更に、BYMマウス(C4)及びBYM GREB1 KDマウス(K2)の肝臓の組織切片をヘマトキシリン・エオシン、又は抗GREB1抗体及びヘマトキシリンで染色した。その結果、これらの腫瘍細胞は、明確な細胞質を有するよく分化した肝芽腫様細胞を有していることが確認された(
図14のg参照)。
【0168】
また、N-カドヘリンは、TGFβシグナル伝達の標的遺伝子であり、腫瘍組織内の間葉系細胞よりも、むしろ肝芽腫細胞において発現量が多いことが知られている。そこで、BYMマウス(C4)及びBYM GREB1 KDマウス(K2)の肝臓の組織切片を抗N-カドヘリン抗体及びHoechst33342で染色した。その結果、BYMマウスでは、N-カドヘリン発現は、非腫瘍領域よりも、腫瘍病変部位において低かった。一方、BYM GREB1 KDマウスでは、腫瘍病変部位でN-カドヘリンはアップレギュレートされ、その発現量は非腫瘍領域と同程度であることが明らかになった(
図14のh参照)。即ち、本結果から、TGFβシグナル伝達がGREB1の発現抑制によって活性化されることが示唆された。
【0169】
これらの結果から、GREB1が、本マウスモデルにおいて、肝芽腫様の組織学的パターン、マーカー遺伝子発現、及び腫瘍形成に関与していることが明らかとなった。
【0170】
2-7.GREB1が肝芽腫の標的分子になり得る
GREB1が肝芽腫治療の標的分子になり得るかを調べるために、CRISPR/Cas9系を用いて、GREB1をノックアウトしたHepG2細胞(GREB1 KO細胞)、GREB1をノックアウトしたHepG2細胞にGGREB1を発現させた細胞(GREB1 KO/GREB1細胞)、GREB1をノックアウトしたHepG2細胞にGREB1ΔNLSを導入した細胞(GREB1 KO/GREB1ΔNLS細胞)、及びGREB1とSmad2/3をノックアウトした細胞(GREB1 KO/Smad2/3 KO細胞)を作製した。
【0171】
野生型HepG2細胞(Control)、GREB1 KO細胞、GREB1 KO/GREB1細胞、GREB1 KO/GREB1ΔNLS細胞、又はGREB1 KO/Smad2/3 KO細胞(7×10
6 cells)を5週齢の雄BALB/cAnNCrj-nuヌードマウスの皮下に移植した。移植から28日後にマウスを殺し、異種移植腫瘍片を摘出した。異種移植腫瘍片の外観と重量を測定した。その結果、野生型HepG2細胞では皮下異種移植腫瘍を形成したが、GREB1ノックアウトHepG2細胞は腫瘍の大きさ及び重量が減少していた(
図16のa参照)。また、GREB1の発現は、GREB1ノックアウトによって誘導された表現型を回復させたが、GREB1ΔNLSの発現では当該回復は認められなかった(
図16のa参照)。更に、Smad2/3のノックアウトはGREB1ノックアウトによって誘導された表現型を回復させたことから、GREB1は生体内でTGFβシグナル依存的な細胞増殖の抑制を阻害することが確認された。
【0172】
また、HepG2細胞(Control)、GREB1をノックアウトしたHepG2細胞(GREB1 KO)、又はGREB1とSmad2/3を組み合わせてノックアウトしたHepG2細胞(GREB1 KO+Smad2/3 KO)の溶解液を抗GREB1抗体、抗Smad2/3抗体、及び抗HSP90抗体でプローブ化した。その結果、GREB1又はSmad2/3のタンパク質発現が消失していることが明らかになった(
図15のe参照)。更に、HepG2細胞(WT)、GREB1をノックアウトしたHepG2細胞(GREB1 KO)、又はGREB1とSmad2/3を組み合わせてノックアウトしたHepG2細胞(GREB1 KO/Smad2/3 KO)を二次元培養(プラスチックディッシュで培養)し、細胞数を経時的に測定した。その結果、GREB1のノックアウトによる細胞増殖の抑制はSmad2/3のノックアウトによって回復することから、Smad2/3依存的な表現型であることが明らかとなった(
図15のf参照)。これらの結果からも、GREB1は生体内でTGFβシグナル依存的な細胞増殖の抑制を阻害し得ることが確認された。
【0173】
2-8. GREB1に対するアンチセンスオリゴヌクレオチドは、肝芽腫細胞の増殖と腫瘍形成を低下させる
ヒトGREB1に対するアンチセンスオリゴヌクレオチド(GREB1 ASO)の腫瘍の増殖に対する効果を検証するために、GREB1 mRNAの二次構造に基づいて、GREB1 ASOの標的となるヒトGREB1の塩基配列(15ヌクレオチド)を設計した。具体的には、先ず、数千個のGREB1 ASOの候補の中から、細胞毒性を示す可能性があるものを排除し、高次元構造予測によって20個のGREB1 ASO配列を選択した。それらの配列に基づいて、各種修飾を施したGREB1 ASOを設計して合成した(表8)。
【表8】
【0174】
次いで、コントロールASO又は前記各GREB1 ASOをHepG2細胞にトランスフェクトし、10%FBSを含む培地で2日間培養し、その細胞溶解液を、抗GREB1抗体及び抗HSP90抗体でプローブ化した。その結果、20個のGREB1 ASOの内、ASO-6434、ASO-6921、ASO-6968、及びASO-7724は、細胞毒性がなく、HepG2細胞におけるGREB1発現を強く抑制することが分かった(
図17のa参照)。
【0175】
また、GFP又はGFP-GREB1を発現するHepG2細胞にコントロールASO又は前記各GREB1 ASOをトランスフェクトし、三次元マトリゲル中で4日間培養を行った。培養後の細胞をファロイジン及びHoechst33342で染色し、スフェアの面積を計算した(n=50)。その結果、ASO-6434、ASO-6921、ASO-6968、及びASO-7724は、HepG2細胞のスフェア形成活性を抑制できており、ASO耐性のGREB1を発現するHepG2細胞(GFP-GREB1を発現するHepG2細胞)では、ASO-6921、ASO-6968、及びASO-7724によるスフェア形成活性の阻害効果が消失した(
図16のb参照)。この結果から、少なくともASO-6921、ASO-6968、及びASO-7724はオンターゲット効果によって(オフターゲット効果ではない)、HepG2細胞のスフェア形成を抑制することが明らかになった。
【0176】
0日目に、HepG2細胞(1.0 × 10
7 cells)を含むマトリゲルをヌードマウスの肝臓に移植した。3日目から、コントロールASO(n=9)、GREB1 ASO-6921(n=5)、又はGREB1 ASO-7724(n=6)50μgを週に2回皮下投与した。移植から29日目にマウスを安楽死させ、腫瘍を観察した。その結果、GREB1 ASO-6921及びGREB1 ASO-7724の双方において、コントロールASOと比較してHepG2細胞による腫瘍形成が抑制され、腫瘍重量が減少していた(
図16のc参照)。また、各肝臓の腫瘍におけるGREB1及びPAI-1のmRNA量をリアルタイムPCRで分析した。更に、各肝臓の腫瘍の切片を、抗Ki-67抗体及びヘマトキシリンで染色し、ヘマトキシリン陽性細胞(全細胞)数に対するKi-67陽性細胞の割合を求めた。その結果、GREB1ASOs-6921及び-7724は、肝臓の腫瘍におけるGREB1発現を阻害し、Ki-67陽性細胞の数を減少させていることが分かった(
図16のd参照)。また、各肝臓の腫瘍の切片を、抗cleaved caspase3抗体及びヘマトキシリンで染色し、ヘマトキシリン陽性細胞(全細胞)数に対するcleaved caspase3陽性細胞の割合を求めた。その結果、GREB1 ASO-6921及び-7724によって、腫瘍細胞のアポトーシスが誘導されていることが分かった(
図16のe参照)。更に、前記各肝臓の腫瘍中のGREB1及びPAI-1のmRNA量をリアルタイムPCRで分析したところ、肝芽腫の腫瘍においてPAI-1遺伝子発現は、GREB1 ASO-6921及び-7724によって増加する傾向が認められ(
図16のf参照)、TGFβシグナル伝達の活性化によって、腫瘍細胞の増殖及び生存が抑制されることが示唆された。また、各肝臓の非腫瘍部分の切片を、抗cleaved caspase3抗体及びヘマトキシリンで染色した。その結果、GREB1 ASO-6921及び-7724は、肝臓の非腫瘍領域において組織学的損傷または細胞死を誘導しないことが確認された(
図17のb参照)。以上の結果から、GREB1に対するASOは、肝芽腫の新規な治療薬であり得ることが明らかとなった。
【0177】
更に、マウスGREB1を標的としたmGREB1 ASO-5715及びコントロールASO(表9参照)を作製し、BYMモデルにおける肝腫瘍形成に与える影響を分析した。ΔN90βカテニン、YAPS127A、及びc-Met(BYM)をヌードマウスへ導入し、導入から3日後からコントロールASO、マウスGREB1を標的としたASO(mGREB1 ASO-5715)50μgを週に2回皮下投与した。移植から6~7週間後の肝臓の腫瘍の外観を観察し、肝臓の重量の全体重に対する比率を分析した。その結果、mGREB1 ASO-5715の投与によって、肝腫瘍の形成が抑制される傾向が認められた(
図17のc参照)。また、前記各肝臓の腫瘍中のGREB1 mRNA量をリアルタイムPCRで分析したところ、mGREB1 ASO-5715を投与したBMYマウスでは、腫瘍組織におけるGREB1の発現が抑制されていることが確認された(
図17のd)。
【0178】
【0179】
2-9. GREB1は神経芽腫において過剰発現する
各種ヒトがん細胞株におけるGREB1のmRNA発現について、The Cancer Cell Line Encyclopedia 1 (CCLE)のデータセットをもとに解析した。GREB1は、これまでに報告されている乳がん細胞株に加えて、皮膚がん(メラノーマ)細胞株、神経芽腫細胞株、及び一部の肝細胞がん細胞株において高発現していた(
図18のA参照)。神経芽腫細胞株SKNDZ細胞、CHP212細胞、及びNBTU110細胞におけるGREB1の発現をタンパク質レベルで解析したところ、GREB1を高発現する肝芽腫細胞株HepG2細胞と同程度、且つGREB1高発現の肝細胞がん細胞株Hep3B細胞及びJHH7細胞より高い発現を認めた(
図18のB参照)。13症例の神経芽腫組織におけるGREB1とβ-カテニンの発現を免疫組織学的に検討した。前記の通り、小児肝がんである肝芽腫においては、GREB1はβ-カテニンの下流標的遺伝子として発現する。GREB1は、神経芽腫4例(30.7%)で腫瘍細胞の核に検出され、β-カテニンは11例(84.6%)で細胞質又は核に検出された(
図18のC参照)。GREB1とβ-カテニンの発現の間に有意な発現相関は認められなかった(
図18のD参照)。これらの結果から、GREB1は神経芽腫細胞においてβ-カテニン非依存的に過剰発現することが示唆された。
【0180】
神経芽腫細胞において、GREB1が細胞増殖に与える影響を検討した。CHP212細胞において、GREB1をアンチセンスオリゴヌクレオチド(ASO)を用いて発現抑制したところ、平面培養条件下での細胞増殖が抑制された(
図18のE参照)。この結果から、神経芽腫においてGREB1は、細胞増殖に重要であることが明らかになった。
【0181】
2-10. GREB1は一部の肝細胞がんにおいて過剰発現し、細胞増殖と腫瘍形成に関与する
前記の通り、GREB1は小児肝がんである肝芽腫において、β-カテニンの下流標的遺伝子として発現する。一方、CCLEデータセットからGREB1は一部の成人肝細胞がんにおいても高発現することが示唆された(
図18のA参照)。そこで、210症例の肝細胞がん組織におけるGREB1とβ-カテニンの発現を免疫組織学的に検討した。その結果、GREB1のみが核に高発現する症例、β-カテニンのみが核または細胞質に高発現する症例、GREB1とβ-カテニンがともに高発現する症例、又は共に染色が認められない陰性症例が認められた(
図19のA参照)。GREB1は、肝細胞がん73例(34.7%)で腫瘍細胞の核に検出され、β-カテニンは93例(44.2%)で細胞質または核に検出された(
図19のB参照)。また、GREB1とβ-カテニンの発現の間には有意な正の発現相関(ファイ相関係数: 0.41、P値<0.0001)が認められた(
図19のB参照)。更に、CCLEデータセットからGREB1が高発現していたHep3B細胞、JHH7細胞、Huh7細胞、及びGREB1が低発現であったHLE細胞、HLF細胞におけるGREB1の発現をウエスタンブロット法で解析した。その結果、肝細胞がん細胞Hep3B細胞、JHH7細胞、及びHuh7細胞において、GREB1はGREB1陽性乳がん細胞株MCF7細胞と肝芽腫細胞株HepG2細胞と比較するとやや低い発現量で、GREB1弱発現肝芽腫細胞株Huh6細胞と比較すると高い発現を認めた。一方、HLE細胞及びHLF細胞においてはGREB1の発現は認められなかった(
図19のC参照)。GREB1高発現肝細胞がん細胞株におけるGREB1のβ-カテニン依存性を検討した。Hep3B細胞、JHH7細胞、及びHuh7細胞においてβ-カテニンを、siRNAを用いて発現抑制したところ、いずれもGREB1の発現が抑制された(
図19のD参照)。これらの結果から、GREB1は一部の肝細胞がん細胞において、β-カテニン依存的に過剰発現することが示された。
【0182】
次に、肝細胞がん細胞において、GREB1が細胞増殖に与える影響を検討した。Hep3BおよびJHH7細胞において、GREB1をsiRNAにて発現抑制したところ、平面培養条件下での細胞増殖が抑制された(
図19のE参照)。更に、肝細胞がんのin vivo腫瘍形成におけるGREB1の関与を明らかにする目的で、GREB1をノックアウトしたHep3BおよびJHH7細胞を作製し、異種移植皮下腫瘍形成分析を行った。その結果、GREB1をノックアウトしたHep3B細胞及びJHH7細胞は、コントロール細胞と比較して、移植6.5週後(Hep3B細胞)、移植2週後(JHH7細胞)において、腫瘍重量が有意に抑制された(
図19のF及びG参照)。これらの結果から、GREB1は、肝細胞がんの細胞増殖とin vivoでの腫瘍形成において重要な役割を担っていることが判明した。
【0183】
2-11. GREB1は皮膚メラノーマにおいて過剰発現し、細胞増殖に関与する
CCLEデータセットからGREB1は皮膚メラノーマ細胞において高頻度に高発現することが示唆された(
図18のA参照)。そこで、CCLEデータセットからGREB1が高発現していたメラノーマ細胞株であるMewo細胞、SKMEL28細胞、及びG361細胞におけるGREB1の発現をウエスタンブロット法で解析した。その結果、肝芽腫細胞HepG2細胞においてGREB1は野生型である216 kDa付近に検出されるのに対して、メラノーマ細胞ではいずれも100 kDa付近に検出された(
図20のA参照)。そこで、GREB1の転写バリアントの発現を明らかにするために、TCGAデータセットをもとに、TCGA SpliceSeq (http://projects.insilico.us.com/TCGASpliceSeq)を用いて、乳がんと皮膚メラノーマにおけるGREB1のエクソン発現を検討した。GREB1には、The Universal Protein Resource (UniProt)上に4つのアイソフォーム(isoform; IS)(転写バリアント)が登録されている。IS1はGREB1aとも呼ばれ、1949アミノ酸(216kDa)の全長型;IS2はGREB1bとも呼ばれ、C末端側458-1949アミノ酸を欠失した457アミノ酸(49 kDa)の転写物;IS3はGREB1cとも呼ばれ、C末端側410-1949アミノ酸を欠失した409アミノ酸(43 kDa)の転写物;IS4はN末端側1-1002アミノ酸を欠失した947アミノ酸(107 kDa)の転写物である(
図20のB参照)。GREB1は38のエクソンから構成され、乳がん組織においてはタンパクをコードするエクソン(エクソン4-38)全体にわたって発現を認めた。一方で、皮膚メラノーマにおいてGREB1は、エクソン24以降が発現しており、IS4が特異的に発現することが明らかになった(
図20のB参照)。TCGA上では、IS4を発現するがんは皮膚及び眼内メラノーマのみであった(データ示さない)。
【0184】
皮膚メラノーマにおけるGREB1の発現制御機構を明らかにするために、TCGAデータセットを用いて、メラノーマにおいてGREB1と正の発現相関する遺伝子群を同定した。それらの遺伝子群のうち、相関係数が高い上位10の遺伝子にはMITFと、MITFの既知の下流標的遺伝子が8つ含まれていた(
図20のC参照)。MITFはメラニン生合成系酵素遺伝子の発現を制御している転写因子であり、メラノサイトや網膜色素上皮細胞(RPE)等の分化を制御する。ヒトメラノーマ組織におけるGREB1とMITFの発現を免疫組織学的に検討したところ、連続標本においてGREB1とMITFは同一腫瘍領域で共発現していた(
図20のD参照)。この結果から、GREB1がメラノーマにおいてMITFの標的遺伝子である可能性が示唆された。そこで、GREB1高発現メラノーマ細胞株COLO679細胞において、MITFのノックアウト細胞を作製したところ、コントロール細胞と比較してGREB1の発現が抑制されていた(
図20のE参照)。
【0185】
皮膚メラノーマ細胞において、GREB1が細胞増殖に与える影響を検討した。SKMEL28細胞及びCOLO679細胞において、GREB1をsiRNA(SKMEL28細胞)またはantisense oligonucleotide (ASO) (COLO679細胞)を用いて発現抑制したところ、平面培養条件下での細胞増殖がいずれも抑制された(
図20のF及びG参照)。これらの結果から、皮膚メラノーマにおいて特異的に発現するGREB1 IS4は、メラノーマの細胞増殖に重要であることが明らかになった。
【配列表】